説明

(−)−Δ9−トランス−テトラヒドロカンナビノールを含んでなる組成物

テトラヒドロカンナビノール化合物、溶媒、及び酸を含んでなる組成物が提供される。前記テトラヒドロカンナビノール化合物は、Δ−テトラヒドロカンナビノール、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール、又はいずれかの化合物の側鎖アルキル誘導体類から選択され得る。前記溶媒は、油又はC−Cアルコール(例えば、ゴマ油又はエタノール)であり得る。前記酸は、有機酸又は鉱酸であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールを含んでなる組成物、又はこれに関連する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール化合物は、マリファナに含まれる活性物質である。(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールは、AIDSや癌の化学療法を受ける患者達の間で、食欲を刺激する吸入剤又は経口薬として、治療的に用いられている。テトラヒドロカンナビノール類(THCs)は、マリファナ(大麻植物の葉と頭花の混合物)から分離可能である。或いは、THCsは、WO02/096899号に記載のような合成方法により得ることが可能である。
【0003】
合成的に生産され、精製された、純粋な(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールは、不安定で、カンナビノール(これは不活性である)及びΔ−テトラヒドロカンナビノール(これは効力が低い)等の生成物に分解しやすい。Δ−テトラヒドロカンナビノールは、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールと同様の活性を有するが、効力は約75%しかなく、しかもカンナビノールを含む他の化合物に分解しやすい。(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールを溶媒や担体に溶解させることにより安定性は向上するが、このような溶液は分解を防ぐために例えば5℃の冷蔵状態で保存することが普通である。本発明者等は、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール及びΔ−テトラヒドロカンナビノール溶液の安定性を改善するべく鋭意研究を行った。
【0004】
WO2006/063109号(Insys Therapeutics Inc)は、油に分散させた(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール等のカンナビノイドを含んでなるゲルカプセルを開示しており、このゲルカプセルは出願人によれば少なくとも1年は安定である。この出願は、ゲルカプセルに含まれる抗酸化剤として使用し得る種々のタイプの化合物を列挙している。この出願は、弱酸類と弱塩基類を含む種種の好適な抗酸化剤を例示している。WO2006/063109においては、その組成物の安定性が、簡易(USP)HPLC法により評価されている(段落
【0005】
参照)。すなわち、これらの組成物は純粋物質について評価されたのではなく、純度100%未満と思われる、まさしく使用済みの製品(branded products)について評価されたものである。
【発明の概要】
【0006】
従って、本発明は、
(a)Δ−テトラヒドロカンナビノール、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール、及びいずれかの化合物の側鎖アルキル誘導体類から選択されたテトラヒドロカンナビノール化合物と、
(b)油類及びC−Cアルコール類から選択されてなる溶媒と、
(c)酸とを含んでなる組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ここで、いずれかの化合物の側鎖アルキル誘導体類とは、図に示すいずれかの化合物の構造を備えた化合物を意味している。図において、Rはアルキル側鎖を表す。特に、Rが1,1ジメチルヘプチルである化合物である。
【0008】
図は、アルキル置換された、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール誘導体類、及び(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール誘導体類の化学的構造を示している。
【0009】
本件発明者等は、酸の添加により組成物の安定性が改善すること、すなわち、このようなテトラヒドロカンナビノール化合物が、その組成物の長期に亘る保存においても分解しにくいこと、を見出した。
【0010】
本組成物は溶媒を含むものである。この溶媒は油類及びC−Cアルコール類から選択することができる。好適な油類の例には、ゴマ油、オリーブ油、キャノーラ油、及びこれらの組み合わせが含まれる。好適なC−Cアルコール類の例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソ−プロパノール、及びブタノールが含まれる。
【0011】
一実施形態によれば、溶媒はゴマ油である。ゴマ油は、精製、非精製のものであってよいが、好ましくは精製されているものである(米国食品医薬局(US Food and Drug Administration)の規格では、医薬品においては精製ゴマ油を使用することが求められている)。本組成物は他の溶媒を更に含んでいてもよいが、好ましくは溶媒としてはゴマ油のみを含んでなる。他の実施形態によれば、溶媒はエタノールである。
【0012】
一実施形態において、本組成物は、油とC−Cアルコールを含んでなる。
【0013】
本組成物において使用される酸は、有機酸であってよい。有機酸が使用される場合、有機酸は、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、及び酒石酸から適宜選択されるが、好ましくはクエン酸である。
【0014】
本組成物において使用される酸は、鉱酸であってよい。鉱酸が使用される場合、鉱酸は、リン酸、塩酸、硝酸、及び硫酸から適宜選択されるが、好ましくはリン酸である。
【0015】
一実施形態において、本組成物は、他の酸の組み合わせ、選択的には少なくとも一種の有機酸と少なくとも一種の鉱酸の組み合わせを含んでなる。
【0016】
弱酸類は、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール及びその誘導体類に対して特に積極的な安定効果をもたらし、これにより安定化された組成物を形成する。強酸の量又は濃度が多すぎる又は高すぎると、Δ−異性体がΔ−異性体に分解する。
【0017】
酸を別個の成分として他の構成成分に添加してもよいし、或いは酸を他の構成成分からなる溶液内で形成してもよい。後者の一例は、エタノールに溶解したCOの使用である。エタノールに溶解したCOはΔ−異性体を安定させるが、これはおそらく炭酸が形成されるためである。
【0018】
酸の量は、組成物に対する重量パーセントとして、0.001〜2%、更に好ましくは0.02〜1%、最も好ましくは0.05〜0.5%である。
【0019】
組成物中の(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの量は、組成物に対する重量パーセントとして、好適には0.1〜15%、好ましくは1〜10%である。
【0020】
本組成物は、メチルパラベン又はプロピルパラベン等の抗微生物剤を更に含んでもよい。本組成物は、アルファ−トコフェロール又はブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)等の防腐剤を更に含んでもよい。本組成物は、抗酸化剤を更に含んでもよい。これらの抗微生物剤、防腐剤、抗酸化剤は、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
【0021】
好適な実施形態において、本発明の組成物は、本質的に、テトラヒドロカンナビノール化合物、油又はC−Cアルコール、及びクエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リン酸、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択され、その添加量としては0.01〜2wt%である。添加成分(例えば、抗微生物剤、防腐剤、抗酸化剤)は、溶液の1wt%までを占めてもよい。特に好適な実施形態において、本発明の組成物は、本質的に(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール、ゴマ油、及び0.05〜0.5wt%のクエン酸又はリン酸からなり、添加成分は溶液の1wt%までを占める。
【0022】
本発明による組成物は、酸を、ゴマ油又はC−Cアルコールに溶解したテトラヒドロカンナビノールの溶液に添加して混合することにより調製できる。ゴマ油に溶解した(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの溶液は、ゴマ油に純(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールを溶解させることにより、又はエタノールに溶解した(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの溶液にゴマ油を混合し、その後エタノールを蒸留除去することにより調製できる。
【0023】
以下の例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
【0024】
組成物の調製:ゴマ油溶媒
真空蒸留下でゴマ油を脱気した後、窒素で覆った。このゴマ油は、Jeen International(組成物1〜2、7〜17)又はDipasa(組成物3〜6)から入手した精製ゴマ油であった。エタノールに溶解した(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの溶液をこのゴマ油に添加し、そして酸を添加した。この溶液を混合した後、エタノールを回転蒸発器により除去した。
【0025】
各組成物は、組成物の重量に基づく6.65wt%の(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールを含有していた。各組成物中の添加成分を以下の表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
組成物の調製:エタノール溶媒
エタノールに溶解した(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの溶液((−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの濃度は66.6mg/mlであった)のサンプル2mlごとに、クエン酸を添加した。これらの溶液は混合された。各溶液中のクエン酸量を以下の表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
安定性:ゴマ油溶媒
ゴマ油組成物(組成物1〜18)の安定性を、3つの異なる条件、すなわち、5℃条件[標準保存(冷蔵)条件]と、25℃60%相対湿度条件(促進条件)と、40℃/75%相対湿度条件(高温/多湿条件)の下で評価した。(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの分解は、228nmの紫外線検出による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によってモニターした。各検出された不純物ピークが、各クロマトグラムにつき(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールのピーク面積総数に対して、パーセントピーク面積(% PA)を用いて測定した。すなわち、組成物の分解が、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールを含有する使用済みの製品(branded products)についてではなく、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールについて評価した。各不純物ピークは、各クロマトグラムからの(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールのピーク溶出時間に対する相対保持時間(RRT)により識別した。0.05%PAより大きい不純物ピークを記録した。
【0030】
(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの分解の原因とされる不純物は、0.56〜0.95のRRTウインドウと1.06のRRTで、HPLCカラムから溶出する。カンナビノール及びΔ−テトラヒドロカンナビノール不純物は、それぞれ、0.95と1.06のRRTで、カラムから溶出する。
【0031】
表3は、組成物1〜18についての安定性テストの結果を示す。組成物の分解が評価された後の経過時間が、各表の横に表示されている。
【0032】
【表3】







【0033】
組成物1、3、5、7は全く有機酸を含有していない。そして、表は考慮すべき分解が観察期間中にあったことを示している。これに対し、組成物2,4、6(いずれも0.1wt%のクエン酸を含有)について観察された分解は非常に少ない。組成物5と6はいずれも抗微生物剤と保存剤を含有していたが、組成物6(0.1wt%のクエン酸を含有)の方が組成物5よりも安定していた。
【0034】
組成物8〜18は様々な酸類を含んでなり、組成物8、10、11、12、13、14、15、17、18(それぞれ、0.1wt%のアスコルビン酸、0.1wt%のクエン酸、0.1wt%の乳酸、0.1wt%のフマル酸、0.1wt%のリンゴ酸、0.1wt%のシュウ酸、0.1wt%のコハク酸、0.1wt%の酒石酸、及び0.1wt%のリン酸を含有)の全ては、組成物7(有機酸を含有せず)に比較して、改善された安定性を示した。組成物9と16(0.1wt%の酢酸と0.1wt%のサリチル酸を含有)は、組成物7に比較して目立った改善は示さなかったため、これらの酸は安定性の改善に関する効力が小さいと思われる(しかしながら、これらの酸であっても、他の濃度で使用された場合には、改善を提供し得るものと本件発明者等は確信している)。
【0035】
安定性:エタノール溶媒
エタノール組成物(組成物19〜23)の安定性が、一種類のみの条件(40℃)下で評価され、60時間後と1ヶ月後に組成物が分析された他は、ゴマ油組成物に対する評価方法とほぼ同じ方法で評価した。
【0036】
表4は、クエン酸を含有しなかった組成物(組成物19)が最も分解したことを示す。クエン酸の含有量を増加させることと安定性が高まることとの間には、ある種の相関関係があると思われる。
【0037】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】アルキル代替(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール誘導体類、及びアルキル代替(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール誘導体類の化学的構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Δ−テトラヒドロカンナビノール、(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノール、及びいずれかの化合物の側鎖アルキル誘導体類から選択されたテトラヒドロカンナビノール化合物と、
(b)油類及びC−Cアルコール類から選択されてなる溶媒と、
(c)酸とを含んでなる組成物。
【請求項2】
前記Δ−テトラヒドロカンナビノール又は前記(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの誘導体が、1,1ジメチルヘプチル側鎖を有してなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶媒がゴマ油である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記溶媒がエタノールである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
1超過の溶媒を含んでなる、請求項1〜4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
油とC−Cアルコールを含んでなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記酸が有機酸である、請求項1〜6の何れか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記有機酸が、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、及び酒石酸からなる群から選択されてなる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記酸がクエン酸である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
前記酸が鉱酸である、請求項1〜6の何れか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記鉱酸が、リン酸、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択されてなる、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記鉱酸がリン酸である、請求項10又は11に記載の組成物。
【請求項13】
前記酸の量が、組成物に対する重量パーセントとして0.01〜2%である、請求項1〜12の何れか一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物中の(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールの量が、組成物に対する重量パーセントとして0.15〜15%である、請求項1〜13の何れか一項に記載の組成物。
【請求項15】
抗微生物剤、防腐剤、及び抗酸化剤のうち、少なくとも一つを更に含んでなる、請求項1〜14の何れか一項に記載の組成物。
【請求項16】
テトラヒドロカンナビノール化合物と、
油又はC−Cアルコールと、及び
クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リン酸、塩酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択されてなる、0.01〜2wt%の酸から実質的になり、
添加成分が溶液の1wt%までで含有してよい、請求項1〜15の何れか一項に記載の組成物。
【請求項17】
(−)−Δ−トランス−テトラヒドロカンナビノールと、
ゴマ油と、及び
0.05〜0.5wt%のクエン酸又はリン酸から実質的になり、
添加成分が溶液の1wt%までで含んでなるものであってよい、請求項15に記載の組成物。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−509292(P2010−509292A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535748(P2009−535748)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062174
【国際公開番号】WO2008/055992
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】