説明

(メタ)アクリル樹脂の分解方法

【課題】アクリル酸メチル、アクリル酸エチルの内、少なくともいずれか一つを含む(メタ)アクリル樹脂の分解を促進する方法を提供する。
【解決手段】窒素などの不活性ガス中で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルの内、少なくともいずれか一つを含む(メタ)アクリル樹脂を金属酸化物、あるいは硫酸金属塩の中から選ばれる少なくとも一つの化合物の存在下で加熱して分解する(メタ)アクリル樹脂を分解する方法であり、前記金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化マグネシウムの内の少なくとも一つであることが好ましく、前記硫酸金属塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムの内の少なくとも一つであることが好ましい。分解生成物は回収して、再利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス中における、(メタ)アクリル樹脂を分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の有効利用として、樹脂を加熱分解することで、分解生成物を得て、再利用する方法が知られている。この方法は、ケミカルリサイクル法と呼ばれる方法である。樹脂を加熱分解する際に、それに要する時間を短縮することは、分解生成物の生産性向上の観点から好ましい。樹脂が多量に生産され消費される今日の状況下において、樹脂の有効利用の観点から樹脂を短時間で分解することが望まれている。
【0003】
(メタ)アクリル樹脂の分解を促進する方法として、非特許文献1は、空気中でポリメチルメタクリレートを、硫酸塩を用いて分解促進する方法を示している。しかしながら、この文献が示す方法では、対象とする樹脂はメチルメタクリレート単位のみからなるものである。
【0004】
また、特許文献1は、不活性ガス中で分解触媒として、第2a族アルカリ土類金属、第1b族銅族金属、第1a族アルカリ金属から選ばれる金属水酸化物、金属酸化物、炭酸塩、燐酸塩等の金属化合物を使用したスチレン系樹脂の分解を促進する方法を開示している。しかしながら、アクリル系モノマー単位を含む(メタ)アクリル樹脂の好適な組成や、分解温度条件等については開示されていない。
【0005】
また、特許文献2は、解重合性プラスチック廃棄物の分解を促進する方法を開示している。解重合性プラスチックとして、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレートが例示されている。また、分解促進剤として、酸触媒、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の酸化物および水酸化物、遷移金属酸化物等が例示されている。しかしながら、この方法は、アクリル酸エステルを含む(メタ)アクリル樹脂については記載されていない。
【0006】
特許文献3では、硫酸塩を用いて、ポリスチレン樹脂の分解を促進する方法を開示している。この方法では、樹脂はポリスチレン樹脂に限定され、それ以外の、例えば(メタ)アクリル樹脂等については全く開示されていない。
【非特許文献1】Thermochemica Acta、Vol.433、63〜66頁、2005年
【特許文献1】特開平8−283745号公報
【特許文献2】特開2000−327831号公報
【特許文献3】特開2001−316303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明の目的は、不活性ガス中で、特定の(メタ)アクリル樹脂を効率よく分解する方法である。また、本発明の目的は、分解が促進される(メタ)アクリル樹脂の種類、及び好適な分解促進剤を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、不活性ガス中で、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位の内、少なくともいずれか一つを含む(メタ)アクリル樹脂を金属酸化物、あるいは硫酸金属塩の中から選ばれる少なくとも一つの化合物の存在下で加熱して分解する、(メタ)アクリル樹脂の分解方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、(メタ)アクリル樹脂の分解を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、不活性ガス中で、(メタ)アクリル樹脂を分解促進剤の存在下で加熱して分解する(メタ)アクリル樹脂の分解方法である。
【0011】
本発明において分解促進とは、初期の樹脂の質量、分解の温度が同じ条件で、所定量の樹脂の質量減少に達するまでの時間を短縮することである。
【0012】
具体的には、20%の質量減少に要する時間、50%の質量減少に要する時間、80%の質量減少に要する時間を測定した時に、その3つの時間全てが、分解促進剤を使った場合の方が、それを使わない場合よりも短いことをいう。
【0013】
不活性ガスとして、窒素、アルゴン、ヘリウム等が例示される。
【0014】
本発明で分解促進の対象となる(メタ)アクリル樹脂としては、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位の内、少なくともいずれか一つを含むものである。分解効率の観点から、アクリル酸メチル単位を含むものの方が好ましい。
【0015】
(メタ)アクリル樹脂を構成するモノマー単位において、アクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位の比率は(メタ)アクリル樹脂の全体を100質量%として、0.5〜100質量%であることが好ましい。アクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位の比率が0.5質量%以上であると、分解促進剤による樹脂の分解促進の効果が顕著である。アクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位の比率が1質量%以上であることが、より好ましい。ここで、(メタ)アクリルとは、「アクリル」または「メタクリル」のことをいう。
【0016】
(メタ)アクリル樹脂を構成するアクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位以外の主要モノマー単位として、(メタ)アクリル酸単位、およびそれらのエステル単位が挙げられる。アクリル酸エステル単位としては、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル等に由来する単位が挙げられる。メタクリル酸エステル単位としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等に由来する単位が挙げられる。
【0017】
(メタ)アクリル樹脂は、上記以外の他のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、無水マレイン酸、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル等に由来する単位が挙げられる。
【0018】
アクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位を含む(メタ)アクリル樹脂の分解促進剤として、金属酸化物、あるいは硫酸金属塩を使用する。金属酸化物や硫酸金属塩がアクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位を含む(メタ)アクリル樹脂の分解を促進する理由は明確ではないが、分解反応の際、金属酸化物や硫酸金属塩の金属原子がアクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位のカルボニル基に配位するためと推定される。
【0019】
分解促進剤として使用する金属酸化物として、酸化バリウム、酸化マグネシウムが特に効果がある。
【0020】
分解促進剤として使用する硫酸金属塩として、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムが特に効果がある。
【0021】
分解促進剤は、前記金属酸化物あるいは硫酸金属塩の中から選ばれる1種類の化合物を使用しても良いし、2種類以上の化合物を併用しても良い。
【0022】
分解促進剤の使用量は、アクリル酸メチル単位あるいはアクリル酸エチル単位を含む(メタ)アクリル樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましい。分解促進剤の使用量を1質量部以上とすることで、分解促進の効果が顕著となる。分解促進剤の使用量の上限は特に制限は無いが、経済性の観点から、10000質量部以下とするのが好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル樹脂を加熱分解する装置は、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル樹脂を単独で加熱する方法や、液体あるいは砂などを媒体として加熱する方法等が実施できる加熱炉、ロータリーキルン、押出機、流動層等が挙げられる。加熱の際、伝熱効率の観点から、加熱系内を攪拌翼やスクリュー等で攪拌してもよい。
【0024】
(メタ)アクリル樹脂を加熱分解装置へ供給する方法は特に限定されないが、固体で供給する場合、取り扱い性、安定供給性、装置内での分散性の観点から、破砕物、ペレット状物等の小片として供給することが好ましい。また(メタ)アクリル樹脂を予め加熱溶融して供給してもよい。
【0025】
系内に不活性ガスを流通させると、分解生成物の酸化、燃焼を防止できるとともに、分解生成物の系外への排出が促進される。
【0026】
分解促進剤の供給方法は特に限定されないが、例えば、予め加熱分解装置内に投入しておく方法、(メタ)アクリル樹脂と共に供給する方法、別途系内へ添加する方法が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル樹脂を、分解促進剤を使用して加熱分解する温度は、250〜500℃が好ましい。この温度範囲で分解が好適に促進される。
【0028】
(メタ)アクリル樹脂の加熱分解による分解生成物は、冷却機に導かれて液化後、回収容器に捕集して回収することができる。冷却機としては特に制限はないが、例えば、管式熱交換器、プレート式熱交換器、スクラバー、スプレー塔等が挙げられる。
【0029】
前記のように(メタ)アクリル樹脂を分解促進剤を用いて分解すると、分解が促進され、短時間で分解生成物すなわち当該樹脂を構成する単量体を回収することができ、これを再度(メタ)アクリル樹脂を製造するための原料として使用できる。このように本発明の方法は、(メタ)アクリル樹脂のケミカルリサイクルに有用である。
【実施例】
【0030】
(メタ)アクリル樹脂として、以下に示す樹脂を用いた。
【0031】
樹脂A:メタクリル酸メチル(以下、MMAと称す。)単位95質量%、アクリル酸メチル単位5質量%からなる樹脂で、質量平均分子量は8.7万である。凍結粉砕機(SPEX製、機種6700)で平均粒子径30μmの粉末状にした。
【0032】
樹脂B:MMA単位87質量%、アクリル酸メチル単位13質量%からなる樹脂で、質量平均分子量は9.2万である。凍結粉砕機(SPEX製、機種6700)で平均粒子径30μmの粉末状にした。
【0033】
樹脂C:アクリル酸メチル単位100質量%からなるポリ(アクリル酸メチル)であり、アルドリッチ製、品番182214を使用した。これは、樹脂Cすなわちポリ(アクリル酸メチル)がトルエン中に溶解した形態で供給される物で、ポリ(アクリル酸メチル)とトルエンの質量比は40:60である。ポリ(アクリル酸メチル)の質量平均分子量は4.0万である。
【0034】
樹脂D:MMA単位100質量%からなる樹脂で、アルドリッチ製、品番182230を使用した。質量平均分子量は12万である。凍結粉砕機(SPEX製、機種6700)で平均粒子径30μmの粉末状にした。
【0035】
分解促進剤として、以下に示す物を使用した。
【0036】
酸化バリウム:和光純薬製、品番022−13012であり、粉末状である。
【0037】
酸化マグネシウム:アルドリッチ製、品番342793であり、粉末状である。
【0038】
硫酸リチウム(無水):アルドリッチ製、品番L6375であり、粉末状である。
【0039】
硫酸ナトリウム(無水):和光純薬製、品番197−03345であり、粉末状である。
【0040】
硫酸カリウム(無水):石津製薬製、品番19290であり、粉末状である。
【0041】
硫酸マグネシウム(無水):和光純薬製、品番137−12335であり、粉末状である。
【0042】
以下、実施例を示すが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
加熱分解装置として、実機ではなく熱質量分析装置を代用して、樹脂の分解挙動を測定した。熱質量分析装置による測定の簡便性、信頼性の観点から、測定のスタート温度は30℃とし、また、所定の温度までの昇温速度は、30℃/分とした。
【0044】
樹脂A5mgと酸化バリウム5mgを良く混合させた。この混合物を熱質量分析装置(セイコー社製、TG6300)で質量減少を測定した。測定中は窒素を200mL/分で流した。スタート温度は30℃で、昇温速度30℃/分で350℃まで温度を上げて、その後、そのまま350℃で一定とした。樹脂Aの質量の20%が減少した時間、樹脂Aの質量の50%が減少した時間、樹脂Aの質量の80%が減少した時間をそれぞれ測定したところ、12.9分、15.8分、21.3分であった。それぞれの時間はスタート温度30℃の時を0とし、所定の質量が減少するのに要した時間である。
【0045】
[実施例2〜6]
分解促進剤として、表1に示す物を使用したこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。結果を表1に示す。
【表1】

【0046】
[比較例1]
分解促進剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様な操作を実施した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例7]
(メタ)アクリル樹脂として、樹脂Aの替わりに樹脂Bを使用したこと以外は、実施例1と同様な操作を実施した。結果を表2に示す。
【表2】

【0048】
[実施例8〜12]
分解促進剤として、表2に示す物を使用したこと以外は実施例7と同様な操作を実施した。結果を表2に示す。
【0049】
[比較例2]
分解促進剤を使用しなかったこと以外は、実施例7と同様な操作を実施した。結果を表2に示す。
【0050】
[実施例13]
ポリ(アクリル酸メチル)とトルエンからなる溶液12.5mg(内、樹脂Cが5mg)と酸化バリウム5mgを良く混合させた。この混合物を120℃で2時間真空乾燥によりトルエンを十分に除去し、ポリ(アクリル酸メチル)5mgと酸化バリウム5mgからなる混合物を得た。その後、実施例1と同様な操作を実施した。但し、温度条件は、スタート温度は30℃で、昇温速度30℃/分で380℃まで温度を上げて、その後、380℃で一定とした。結果を表3に示す。
【表3】

【0051】
[実施例14〜18]
分解促進剤として、表3に示す物を使用したこと以外は実施例13と同様な操作を実施した。結果を表3に示す。
【0052】
[比較例3]
分解促進剤を使用しなかったこと以外は、実施例13と同様な操作を実施した。結果を表3に示す。
【0053】
[比較例4〜10]
(メタ)アクリル樹脂として、樹脂Aの替わりに樹脂Dを使用し、分解促進剤として以下のものを使用したこと以外は、実施例1と同様な操作を実施した。分解促進剤として、比較例4、5、6、7、8、9では、それぞれ、酸化バリウム、酸化マグネシウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムを使用した。比較例10では、分解促進剤を使用しなかった。結果を表4に示す。
【表4】

【0054】
前記結果から明らかなように、分解促進剤を使用しない場合、MMA単位のみからなる樹脂Dに比べ、アクリル酸メチル単位を含む樹脂A、B、Cは分解速度が遅い(比較例1、2、3、10)が、本発明にある分解促進剤を使用すると加熱分解が促進された(各実施例)。尚、MMA単位のみからなる樹脂Dでは、前記分解促進剤を使用しても、分解促進の効果は見られなかった(比較例4〜10)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法は(メタ)アクリル樹脂のケミカルリサイクルにおいて、樹脂の分解を促進しようとする場合に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス中で、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位の内、少なくともいずれか一つを含む(メタ)アクリル樹脂を金属酸化物、あるいは硫酸金属塩の中から選ばれる少なくとも一つの化合物の存在下で加熱して分解する、(メタ)アクリル樹脂の分解方法。
【請求項2】
金属酸化物が、酸化バリウム、酸化マグネシウムの内の少なくとも一つである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硫酸金属塩が、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムの内の少なくとも一つである請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2007−119621(P2007−119621A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314399(P2005−314399)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】