説明

1,1’−ビス(2−ヒドロキシナフチル)類の製造方法

【課題】 副生物の少ない高純度の1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類を工業的に容易に、選択的に高収率で製造する方法の提供。
【解決手段】2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類を溶媒中、塩基性触媒の存在下に反応させることによって、目的の1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類の製造方法に関する。
1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類は、高分子改質、エポキシ樹脂原料、電子材料、医薬、農薬中間体等の機能性化学品原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類は、ヒドロキシナフタレン類とアルデヒド類を、塩基性触媒又は酸性触媒の存在下に反応させることによって得られる事が知られている。例えば、2,7-ジヒドロキシナフタレンとホルムアルデヒド水溶液を水酸化ナトリウム水溶液の存在下に反応させて1,1-ビス(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)メタンを得、同様に、2-ヒドロキシナフタレンとの反応により、1,1-ビス(2,-ヒドロキシ-1-ナフチル)メタンを得ている(特許文献1:特開平4−217675号公報)。
【0003】
また、2-ヒドロキシナフタレンとベンズアルデヒド及びパラヒドロキシベンズアルデヒドを酸触媒の存在下に反応して、1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)フェニルメタン及び1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)-p-ヒドロキシ-フェニルメタンを得ており、或いは、2-ヒドロキシナフタレンとホルムアルデヒドを塩基触媒の存在下に反応させて、1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)メタンを得ている(特許文献2:特開平6−135871号公報)。
【0004】
従来の製造方法において、ヒドロキシナフタレン類とベンズアルデヒドのような芳香族3級アルデヒド類との反応の場合には、通常、反応性の面から、酸触媒が用いられる。この場合、上記のような従来の製造方法では、反応工程においてビス類化合物と同時に、10数%〜数%程度の多量の副生物の生成が避けられず、これらの副生物は、反応後の精製工程においても容易に除去できない為、色相のよい、高純度製品を得ることが困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平04−217675号公報
【特許文献2】特開平06−135871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、副生物の少ない高純度の1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類を工業的に容易に、選択的に高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類から1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類を得る反応を鋭意検討した結果、酸性触媒を用いた反応の際には、その副生物とし、例えば、2-ヒドロキシナフタレンとR1-CHOで表される芳香族3級アルデヒドとの反応の場合、下記一般式2で例示されるピラン環化合物が主として副生していること、また、これらの副生物は、目的化合物の精製を困難にしていることを見出した。更に、これらの副生物を抑制するためには、芳香族3級アルデヒド類を、塩基性触媒の存在下に、好ましくは非プロトン極性溶媒中において、反応させることにより達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
【化1】

(一般式2)
(式中、R1は一般式1のそれと同じであり、原料の芳香族3級アルデヒドの芳香族基に由来するものである。)
【0009】
従って、本発明は2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類を溶媒中、塩基性触媒の存在下に反応させることによって、副生物の少ない、高純度の、下記一般式1で表される1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類の製造方法を提供するものである。
【0010】
【化2】

(一般式1)
(式中、R1は芳香族基を表し、R2、R3は各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基を表し、R4はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基を表し、nは0〜3の整数を示す。)
【0011】
上記一般式1において、R1は芳香族基を表し、R2、R3は各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基を表し、R4はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基を表し、nは0〜3の整数を示している。
【0012】
従って、R1において表される芳香族基としては、具体的にはフェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、2-ヒドロキシフェニル基、4-ヒドロキシフェニル基、4,4’-ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0013】
また、R2、R3、R4において表されるアルキル基としては、具体的には、メチル基、イソプロピル基等の炭素原子数1〜6の直鎖状、分岐鎖状脂肪族アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数3〜6の脂環状アルキル基が挙げられ、アルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素原子数1〜6の直鎖状、分岐鎖状脂肪族アルコキシ基が挙げられ、これらにはフェニル基等の置換基が付いていてもよい。また、 ハロゲン基としては、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0014】
従って、上記一般式1で表される1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類としては、具体的には、例えば、
1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)フェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)2-メチルフェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)4-メチルフェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)2-ヒドロキシフェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)-ビフェニルメタン、1,1’-ビス(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)フェニルメタン、1,1’-ビス(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)2-メチルフェニルメタン、1,1’-ビス(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)4-メチルフェニルメタン、1,1’-ビス(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)2-ヒドロキシフェニルメタン、1,1’-ビス(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)ビフェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-7-メチル-1-ナフチル)フェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-7-メチル-1-ナフチル)2-ヒドロキシフェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-7-メチル-1-ナフチル)4-ヒドロキシフェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-7-メチル-1-ナフチル)4-メチル-フェニルメタン、1,1’-ビス(2-ヒドロキシ-7-メチル-1-ナフチル)ビフェニルメタン等が挙げられる。
【0015】
本発明において、原料として用いられる2-ヒドロキシナフタレン類は、置換基が付いていてもよい2-ヒドロキシナフタレン類であり、これらは、下記一般式3で表される。
【0016】
【化3】

(一般式3)
(式中、R2、R3、R4及びnは、一般式1のそれと同じである)
【0017】
従って、上記一般式3で表される2-ヒドロキシナフタレン類としては、具体的には、例えば、
2-ヒドロキシナフタレン、7-メチル-2-ヒドロキシナフタレン、8-メチル-2-ヒドロキシナフタレン、3-メチル-2-ヒドロキシナフタレン、3,7-ジメチル-2-ヒドロキシナフタレン、6,7,8-トリフルオロ-2-ヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法において、もう一方の原料である芳香族3級アルデヒド類としては、芳香核の3級炭素原子に結合したアルデヒド基を有する、芳香族3級モノアルデヒド類であり、これらは、下記一般式4で表される。
【0019】
【化4】

(一般式4)
(式中、R1は一般式1のそれと同じである。)
【0020】
従って、上記一般式4で表される芳香族3級アルデヒド類としては、具体的には、例えば、
ベンズアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、4-メトキシベンズアルデヒド、2-ヒドロキシベンズアルデヒド、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、バニリン、1-ホルミル-4,4’-ビフェニル、2-ホルミルナフタレン等の芳香族モノアルデヒド類が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法において、2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類の反応モル比は、芳香族3級アルデヒド類1モルに対し、2-ヒドロキシナフタレン類1.5〜5.0モルの範囲、好ましくは1.8〜4.0モルの範囲、より好ましくは2.1〜3.5の範囲である。
【0022】
本発明の製造方法では、反応に際し、触媒として塩基性触媒を用いる。塩基性触媒としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムなどの有機酸アルカリ金属塩などが挙げられる。
塩基性触媒の使用量は、2-ヒドロキシナフタレン類1モルに対して、0.1〜3.0モルの範囲、好ましくは0.3〜1.5モルの範囲である。
【0023】
上記反応に際しては、通常、溶媒を使用する。溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール、1,4-ジオキサン等のエーテル等を用いることができる。しかしながら、反応速度、反応選択性等が向上する理由で、本発明においては好ましくは、非プロトン極性溶媒を使用する。
非プロトン極性溶媒としては、具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等があげられる。
非プロトン極性溶媒は単独で、又は、他の溶媒と組み合わせて用いることができる。他の溶媒としては、上記反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、例えば、前記した溶媒等が挙げられる。
溶媒の使用量としては、特に制限はないが、通常2-ヒドロキシナフタレン類に対して、10〜200重量%の範囲で用いられる。
【0024】
本発明の製造方法においては、溶媒中、好ましくは、非プロトン極性溶媒中において、塩基性触媒の存在下で、反応を行うことにより、副生物の生成が抑制され、しかも工業的に実施可能な範囲の反応速度を達成することができるのである。
また、反応温度は、使用する原料、反応溶媒、使用する触媒等により、適宜に温度設定することができるが、副生物の生成が抑制され、また工業的に実施可能な温度範囲としては、通常、80℃以上、180℃以下、好ましくは80〜120℃の範囲である。
また、反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことが、副生物の生成が抑制される理由により好ましい。
【0025】
本発明の製造方法においては、原料、触媒、溶媒の添加順序、添加方法等の反応操作方法については、特に制限はないが、反応操作方法として、例示を挙げると、反応容器に2-ヒドロキシナフタレン類、芳香族3級アルデヒド及び溶媒を仕込み、不活性ガス気流下で、攪拌下に、温度80〜120℃まで昇温した後、これに塩基触媒を添加し、同温度において反応を完結させる。
反応終了後、反応液を、硫酸水溶液等の酸で中和した後、或いは、反応終了混合物を繰り返し水洗する等の方法により塩基を除去した後、必要に応じて目的生成物を単離、精製する。単離、精製の方法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、中和後の反応混合液に、適宜に選択された芳香族炭化水素、脂肪族ケトン等の有機溶媒と水を添加混合し、その後、水層を分離して、目的物を含む油層を得る。得られた油層を水洗し、油層から晶析等により、目的物を濾過分離し、粗製品を得る。さらに必要に応じて、粗製品をメタノール、トルエン、ヘキサン等の適宜に選択された有機溶媒を用いて再結晶、濾過、乾燥して精製品を得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類から1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類を得る反応を鋭意検討した結果、酸性触媒を用いた反応の際には、その副生物とし、前記一般式2で例示されるピラン環化合物が主として副生していることに着目し、これらの副生物を抑制するためには、2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類を塩基性触媒の存在下に、好ましくは非プロトン極性溶媒中において、反応させることにより達成できることを見出し、副生物の少ない高純度の1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類を工業的に容易に、選択的に高収率で製造する方法を提供することができた。
【実施例1】
【0027】
300mlの4つ口フラスコに、2-ナフトール54g、ビフェニル-4-アルデヒド27.3g及びジメチルスルホキシド45gを仕込み、反応容器内を窒素ガスで置換した後、攪拌下に、温度を90℃まで昇温した。その後、これに炭酸カリウム20.7gを加え、温度約95℃に保ち、攪拌下に13時間反応させた。反応の終了は高速液体クロマトグラフィーで確認した。反応終了時点における、副生物であるピラン環化合物の生成量は0.1モル%未満であった。
反応終了後、得られた反応終了混合物に硫酸水溶液を添加して中和した後、メチルイソブチルケトンとメタノールの混合溶媒を添加し、目的物を晶析、濾過を行った。次いで、同様の晶析操作を再度行い、白色の1,1-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)-ビフェニルメタン45.7gを得た。原料のビフェニルアルデヒドに対する収率は72モル%であった。
融点 197℃(示差熱分析法による)
純度 99.7%(液体クロマトグラフィー分析による)
プロトンNMRスペクトル(DMSO溶媒、400MHz);図1
【実施例2】
【0028】
300mlの4つ口フラスコに、2-ナフトール36g、サリチルアルデヒド12g及びジメチルスルホキシド18gを仕込み、反応容器内を窒素ガスで置換した後、攪拌下に、温度を80℃まで昇温した。その後、これに炭酸カリウム20.7gを加え、温度約90℃に保ち、攪拌下に18時間反応させた。反応の終了は高速液体クロマトグラフィーで確認した。反応終了時点における、副生物であるピラン環化合物の生成量は0.1モル%未満であった。
反応終了後、得られた反応終了混合物に硫酸水溶液を添加して中和した後、メチルイソブチルケトンとキシレンの混合溶媒を添加し、目的物を晶析、濾過を行った。次いで、溶媒をメタノールに代えて同様の晶析操作を行い、白色の1,1-ビス(2-ヒドロキシ-1-ナフチル)-2-ヒドロキシフェニルメタン12.6gを得た。原料のサリチルアルデヒドに対する収率は31モル%であった。
融点 122℃(示差熱分析法による)
純度 99.3%(液体クロマトグラフィー分析による)
プロトンNMRスペクトル(DMSO溶媒、400MHz);図2
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で得られた化合物のプロトンNMRスペクトル
【図2】実施例2で得られた化合物のプロトンNMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ヒドロキシナフタレン類と芳香族3級アルデヒド類を溶媒中、塩基性触媒の存在下に反応させることを特徴とする一般式1で表される1,1’-ビス(2-ヒドロキシナフチル)類の製造方法。
【化1】

(一般式1)
(式中、R1は芳香族基を表し、R2、R3は各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基を表し、R4はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基を表し、nは0〜3の整数を示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−160663(P2006−160663A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354257(P2004−354257)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000243272)本州化学工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】