説明

1,7−オクタジエンの製造方法及びその使用

本発明は、シクロヘキセンをエチレンとメタセシス反応することによる1,7−オクタジエンの製造方法に関する。本発明は、この方法に従って製造した1,7−オクタジエンのヒドロホルミル化による1,10−デカンジオールの製造方法にも関する。更に、本発明は、こうして得ることができる1,10−デカンジオールを用いたムスコンまたはそのオレフィン不飽和性アナログの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキセンのエチレンとのメタセシスによる1,7−オクタジエンの製造方法に関する。本発明は更に、このように製造された1,7−オクタジエンを用いる1,10−デカンジアール、或いはムスコンまたはそのオレフィン不飽和性アナログの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,ω−ジオレフィン類は多くの化学合成のための有用な出発物質である。よって、これらのジオレフィン類は、例えば特定の特性を有するポリマーを得るための単独重合または共重合プロセスにおいて使用され得る。加えて、α,ω−ジオレフィン類はα,ω−ジオール類を製造するための出発物質として機能し、α,ω−ジオール類もやはりポリエステル合成において使用され得る。更に、α,ω−ジオレフィン類の末端二重結合は別の各種機能を生じさせるのにも適している。従って、例えば末端二重結合の二重ヒドロホルミル化によりジアルデヒドを生ずる。
【0003】
α,ω−ジオレフィンの有用な合成ルートは、エタンの存在下での環状オレフィンの開環メタセシス(“エテノリシス”)である。このタイプの反応では、1,7−オクタジエンを形成するためのシクロヘキセンのエテノリシスは幾分例外的な位置を占める。この場合には平衡の望ましくない位置により、今まで上記反応は不満足な収率で、且つ経済的な観点から余り魅力的でない条件下でしか実施せざるを得なかった。
【0004】
よって、D.L.Crainら(Am.Chem.Soc.Div.Petrol.Chem.Prepr.1972,17(4),E80−E85)は、シクロヘキセンのエテノリシスを約690バールの圧力、125℃の温度及び9倍モル過剰量のエチレンの存在下で進行させて、6.8%の転化率を得ることを記載している。
【0005】
ドイツ特許出願公開第1618760号は、適当な遷移金属触媒の存在下での環状オレフィンのエテノリシスを一般論として記載している。シクロヘキセンをCoO及びMoOを含む触媒の存在下、52気圧及び125℃で3時間エテノリシスすると、理論の約23%の選択率で1,7−オクタジエンが得られる。
【0006】
米国特許第3,424,811号は、MoまたはReとアルカリ金属とを含む担持触媒の存在下での環状オレフィンと非環状オレフィンの“不均化反応”を記載している。
【0007】
ドイツ特許出願公開第4009910号は、オレフィン化合物のエテノリシスメタセシスのための触媒として酸化物担体上の有機レニウム酸化物を使用することを記載している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、工業規模で実行可能な条件下でのシクロヘキセンのエテノリシスにより1,7−オクタジエンを経済的に満足できるように得ることができる方法が依然として緊急に要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
今回、本発明者らは、未反応出発物質及び得られる比較的高沸点の副生成物を精製した形態で反応混合物に再循環することを特徴とする、シクロヘキセンのエチレンとのメタセシスによる1,7−オクタジエンの製造方法を見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法は、大量の1,7−オクタジエンを特に経済的に製造するのに適している。出発物質のシクロヘキセン及びエチレンは安価であり、容易に入手することができる化合物である。未反応の精製した出発物質及び比較的高沸点の副生成物を再循環させると、シクロヘキセンを1,7−オクタジエンに高収率で転化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法のための適切な出発物質はシクロヘキセン含有炭化水素混合物であり、特に大部分がシクロヘキセンからなるものである。純度が約90〜約99.9%、好ましくは約95〜約99.9%、特に好ましくは約98〜約99.9%のシクロヘキセンが特に有用である。極性不純物、特に酸素化合物(例えば、シクロヘキサノール及び/またはシクロヘキサノン、或いは過酸化物)を最高約1%しか含まないシクロヘキセンを使用することが好ましい。極性不純物を本質的に含まないシクロヘキセンを使用することが特に好ましい。加えて、当業者に公知の方法により予め精製することが有利である。従って例えば、前記混合物を高表面積の酸化アルミニウム、シリカゲル、アルミノシリケートまたはモレキュラーシーブからなるガードベッドに通してもよい。このガードベッドは、使用する出発物質を乾燥させ、その後のメタセシスステップにおいて触媒毒として作用する恐れがある物質を除去するのに役立つ。好ましい吸着材料は、例えばSelexsorb(登録商標)CD(Alcoa Inc.製)及びCDO、3Å及びNaXモレキュラーシーブ(13X)である。精製を乾燥タワーにおいて、すべての成分が液相中に存在するように選択した温度及び圧力下で実施することが有利である。
【0012】
使用する別の出発物質は、通常約95〜約99.99%、好ましくは約98〜約99.99%またはそれ以上の純度を有するエチレンである。必要ならば、この出発物質も同様に、シクロヘキセンの精製に関して上記したような適切な手段によって精製することができる。
【0013】
通常、これらの反応物質は、約1:1〜約10:1のエチレン:シクロヘキセンのモル比で使用される。好ましくは、約2:1〜約6:1、特に好ましくは約2:1〜約4:1のモル比である。
【0014】
出発物質は、未希釈形態で、または選択した反応条件下で不活性な、例えば炭素数5〜12の直鎖、分枝鎖または環状炭化水素(例:シクロヘキサン、シクロオクタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンまたはドデカン)またはそれ以上の高級炭化水素或いはその混合物から選択される希釈剤で希釈した形態で、選択した温度及び圧力条件に適した反応器(例えば、圧力ガス容器、流動管、管型反応器、撹拌型容器、トリクルベッド反応器、気泡塔、撹拌型容器のカスケード、ループ反応器または反応蒸留用カラム)に導入する。本発明の方法は、メタセシス反応を加速させる触媒が固定形態で存在している管型反応器が特に好ましい。
【0015】
反応を2個以上の反応器を用いて並行してまたは交互に実施することもできる。この手順により、各反応器中で使用した触媒系を再生する場合に中断することなくプロセスを継続させることができる。
【0016】
適切な触媒は選択した条件下で本発明の反応を加速させるものである。特に適切な触媒は望ましくない異性化を触媒しないかまたは少ししか触媒しないものである。通常、触媒は1つ以上のVIb、VIIbまたはVIII族の遷移金属(例えば、Re、W、Mo、Ru、Os、TaまたはNb)をそのまま或いはその化合物または塩の形態で含む。触媒は原則として均一形態でも不均一形態でも使用され得るが、不均一形態で使用することが好ましい。均一触媒の例は、例えば国際公開第03/011455号、国際公開第00/71554号、欧州特許出願公開第0921129号及び国際公開第97/06185号に記載されているようなアルケンメタセシスを触媒するRu含有アルキリデン錯体である。適切な不均一触媒の例は、最終触媒の全重量に基づいて約0.1〜約20重量%、好ましくは約1〜約15重量%の量の触媒活性物質または化合物を担体、好ましくは酸化物担体(例えば、SiO、AlまたはTiO)または混合担体(例えば、SiO/Al、B/SiO/AlまたはFe/Al)、好ましくはAlに担持させたものである。
【0017】
本発明の方法の目的にとって特に好ましい触媒は、最終触媒の全重量に基づいて約6〜約12重量%のReを担体材料としてのAlに担持させたものを含む。
【0018】
担体材料は各種形態で使用され得るが、有利には球体、押出物、スパイラル、リングまたは三葉の形態で使用する。これらの中で、直径または長さが約0.5〜約5mm、好ましくは約1〜約2mmの球体または押出物が好ましい。特に好ましい実施形態では、長さが約1.5mmの押出物を担体材料として使用する。
【0019】
触媒活性化合物は、選択した担体に対し当業者に公知の各種方法で、例えば浸漬、乾式含浸または蒸着により担持させ得る。好ましいレニウム触媒を作製するためには、担体に過レニウム酸アンモニウム水溶液、好ましくは過レニウム酸を含浸させる。水溶液とは別に、有機溶媒(例えば、ジオキサン、低級アルコール、ケトン及び/またはエーテル)を含む溶液を使用することもできる。含浸は通常約1〜約10時間後に完了するが、この含浸後、触媒を約100〜約150℃の温度で乾燥させ、次いで500℃以上、好ましくは550℃以上の温度で約1〜約5時間焼成し、窒素雰囲気下で冷却する。
【0020】
担体を英国特許出願公開第1,216,587号に記載されているように無機酸で予め処理することもできる。活性を高めるために、担体に欧州特許出願公開第0639549号に記載されているような別の金属化合物(例えば、Nb、Ta、SiO、B、WO、MoO、TiOまたはGeO)をドーピングさせることもできる。担体を欧州特許出願公開第1350779号に記載されているように予め熱処理することもできる。
【0021】
触媒を作製直後に本発明の方法の目的に使用しないならば、反応前に触媒を上記したように再び焼成することが望ましい。
【0022】
使用した触媒を再生する適切な方法は、原則として例えば米国特許第3,365,513号、欧州特許出願公開第933344号、米国特許第6,281,402号、米国特許第3,725,496号、ドイツ特許出願公開第3229419号、英国特許出願公開第1144085号、米国特許第3,726,810号、ベルギー特許出願公開第746,924号、米国特許第4,072,629号、ドイツ特許出願公開第1955640号及びドイツ特許出願公開第3427630号に記載されているような当業者に公知の方法である。
【0023】
更に、失活触媒の再生も例えば2段階で実施され得る。
【0024】
第1段階では、失活触媒を400〜800℃の温度で再生ガス(再生ガス1)で処理する。
【0025】
通常、再生ガス1は窒素、希ガス及び窒素と希ガスのガス混合物からなる群から選択されるガスであり、最高10%のCOまたは最高40%の飽和C1−8炭化水素を含んでいてもよい。
【0026】
第1段階終了後、再生の第2段階を始める。この段階では、再生ガス1で予め処理した失活触媒を酸素含有ガスからなるガス混合物(再生ガス2)で処理する。
【0027】
好ましくは、再生ガス2は純粋酸素、または本質的に0.1〜100%の酸素、50〜99.9%の、窒素、希ガス及び窒素と希ガスのガス混合物からなる群から選択されるガス、適当ならば最高10%のCOまたは最高40%の飽和C1−8炭化水素から構成される混合物である。
【0028】
再生ガス2を、再生ガスで予め処理した失活触媒を含む触媒床に50〜500L/kg/時のガス時空間速度で流すことが好都合である。再生ガスK2の温度は通常350〜850℃、好ましくは500〜700℃、特に好ましくは550℃である。
【0029】
触媒は床の形態で、好ましくは固定床触媒として管型反応器に導入する。触媒上の空間速度が約0.2〜約20kg/kgh、好ましくは約1〜約5kg/kghになるように反応物質を計量する。
【0030】
反応器中の圧力は約20〜約200バール、好ましくは約30〜約120バール、特に好ましくは約50〜約80バールの範囲で選択される。反応温度は通常約20〜約250℃、好ましくは約20〜約130℃、特に好ましくは約30〜約110℃である。この場合、反応物質は通常液体形態で存在する。
【0031】
触媒の通常の連続的な失活に対抗するために、温度を場合により上記範囲内で連続的にまたは段階的に上昇させることができる。こうすると、反応器出口で測定される転化率を経時的に常に概ね一定に維持することができる。この場合、仕上げのセクションにおいて一定の生成物の流れが通常確保される。
【0032】
反応生成物を含む外部への流れは、本発明に従って反応器から第1蒸留装置D1に移される。この第1蒸留装置D1では、低沸点成分(A)を比較的高沸点の成分(B)から適切な方法で分離する。本発明の方法では、第1蒸留段階における比較的低沸点の成分(A)は主に、他の化合物を少量含み得る余分な未反応エチレンであり、できるだけ完全に分離される。分離しようとする成分(A)及び(B)の沸点の差が比較的に大きいと、この第1蒸留段階を減圧またはフラッシュ蒸留の形態で実施するのが有利である。約5〜約30バール、好ましくは約5〜約20バールの範囲の圧力及び約10〜約50℃、好ましくは約20〜約40℃の範囲の温度を選択するのが有利である。こうして分離された比較的低沸点の画分(A)は通常約90〜約99.5重量%、しばしば約95〜約99重量%のエチレンを含む。加えて、比較的低沸点の画分(A)は通常約0.5〜約10重量%、しばしば約1〜約5重量%の未反応シクロヘキセンを含み、場合により少量(例えば、約0.05〜約0.5重量%)の1,7−オクタジエンも含む。反応条件下で不活性な希釈剤を用いると、これらもその沸点に応じて完全にまたは部分的に分離され得る。この場合、画分(A)の組成の変化を考慮しなければならない。
【0033】
このようにして分離された比較的低沸点の画分(A)は完全にまたは部分的に反応器Rに再循環され得る。できるだけ完全に再循環させることが好ましく、適当ならば蓄積を避けるために少量を排出できる。
【0034】
第1蒸留装置D1で得られた反応混合物の比較的高沸点の成分(B)は、通常約75〜約80重量%、しばしば約80〜約90重量%の未反応シクロヘキセン、約5〜約20重量%、好ましくは約5〜約15重量%の1,7−オクタジエン、更に約1〜約10重量%のエチレンを含む。更に、メタセシスに使用される量の、例えば後続の反応の結果として形成される高沸点副生成物をも含み、使用される不活性希釈剤の大部分をも通常含む。上記した組成物は希釈剤を使用せずに得られる混合物をベースとする。
【0035】
比較的高沸点の画分(B)は本発明に従って別の蒸留装置D2に移す。以下中間沸点画分と称され、本質的に未反応シクロヘキセン、反応混合物を希釈するために使用した不活性溶媒及び第1蒸留ステップで分離されなかったエチレンからなる比較的低沸点の成分(C)は、比較的高沸点の画分(D)から分離される。例えば当業者に公知の蒸留カラムがこの目的に適している。分離を大気圧下または僅かに過圧下(例えば、約1〜約10バール)で約10〜約50理論段を用いて実施することが有利である。有利な還流比は1.5〜6である。
【0036】
間接分離された中間沸点画分(C)も同様に、完全にまたは部分的に反応器Rに再循環され得る。再循環は、適当ならば不活性希釈剤を完全または部分的に除去した後に実施される。できるだけ完全に再循環することが好ましく、通常蓄積を避けるために少量を排出する。
【0037】
通常、蒸留装置D2の底部に残存する比較的高沸点の画分(D)は非常に大量、すなわち通常95重量%以上の1,7−オクタジエンと共に(通常、約0.05〜約0.5重量%の量の)シクロヘキセン及び上記の高沸点副生成物の残渣を含む。
【0038】
こうして得られた比較的高沸点の画分(D)は、本発明に従って別の蒸留装置D3に移され、ここで比較的低沸点の生成物画分(P)及び高沸点の副生成物画分(N)に分離され得る。例えば、当業者に公知の蒸留または精留カラムがこの目的に適している。分離は、通常大気圧下、または操作温度を下げるためには減圧下で実施する。約10〜50理論段及び約1.5〜6の還流比を用いて大気圧下で実施するのが有利である。
【0039】
このようにして、通常約98〜約99.9重量%の1,7−オクタジエンを含む生成物画分(P)を得ることができる。好ましくは、生成物画分(P)は約98.5〜約99.5重量%の1,7−オクタジエンを含む。
【0040】
底部で分離された副生成物画分(N)は、特徴的にはメタセシス反応の高沸点生成物、例えば(通常、約60〜70重量%の)1,7,13−テトラデカトリエン、ドデカトリエン類並びに少量の二環式及び三環式副生成物を含む。経済的な観点から、この画分の全部または一部もまた反応器R、すなわち製造回路に再循環させることが特に有利である。なぜならば、例えば1,7,13−テトラデカトリエンはメタセシスにより1,7−オクタジエンに逆転化され得るからである。望ましくなく、場合により厄介な副生成物の蓄積を避けるために、副生成物の流れ(N)の一部を出口Eを介して排出することが有利である。
【0041】
上記方法は半連続的または完全に連続的に実施することができる。完全に連続的に実施する場合には経済的利点が特に明らかとなる。
【0042】
本発明の方法の好ましい実施形態では、図1に概略的に図示した装置を連続的に操作する。よって、反応物質のエチレン及びシクロヘキセンを更に希釈することなく約1:1〜約6:1のモル比で管型反応器Rに導入し、ここで長さが1.5mmの押出物の形態のAl上に10重量%のReを含む固定床触媒と接触させる。反応器Rにおける温度は約25〜約130℃、好ましくは約30〜約100℃の範囲であるように選択される。反応器Rにおける圧力は有利には約30〜約120バール、好ましくは約30〜約80バールである。
【0043】
その後、生成物の流れをフラッシュ蒸留装置D1に移し、約5〜約20バールの圧力及び約20〜約40℃の温度で低沸点画分(A)と比較的高沸点の画分(B)に分離する。
【0044】
低沸点画分(A)をできるだけ完全に供給の流れ、すなわち反応器Rに再循環し、蓄積を避けるために少量だけを排出させる。
【0045】
その後、約80〜約90重量%の未反応シクロヘキセン、約7〜約15重量%の1,7−オクタジエン及び約1〜約10重量%のエチレンを含む反応混合物の比較的高沸点の成分(B)を蒸留カラムD2に移す。ここで、本質的に未反応シクロヘキセン及びまだ分離されていないエチレンからなる中間沸点画分(C)を比較的高沸点の画分(D)から分離する。この分離を大気圧下または僅かに過圧(例えば、約1〜約10バール)下で約10〜約50理論段を用いて実施するのが有利である。還流比を1.5〜6の範囲で選択するのが有利である。
【0046】
間接分離した中間沸点画分(C)をできるだけ完全に供給物の流れ、すなわち反応器Rに再循環させる。通常、蓄積を避けるために少量だけを排出させる。
【0047】
高純度を望むならば、蒸留カラムD2の底部に残存し、通常95重量%以上の1,7−オクタジエンと共に(通常、約0.05〜約0.5重量%の)シクロヘキセンの残渣からなる画分(D)を蒸留または精留カラムD3に移し、ここで比較的低沸点の生成物画分(P)を高沸点の副生成物画分(N)から分離する。この分離は通常大気圧下、または操作温度を下げるためには減圧下で実施する。大気圧下、約10〜50理論段で約1.5〜6の還流比に設定することが有利である。
【0048】
カラムD3の底部で分離された副生成物画分(N)も同様に、完全にまたは部分的に反応器R、すなわち製造回路に再循環させる。望ましくなく、場合により厄介な副生成物の蓄積を避けるために、副生成物の流れ(N)の一部を出口Eを介して排出させることが有利である。
【0049】
こうすると、非常に純粋な、すなわち約98.5〜約99.9%濃度の1,7−オクタジエンを工業規模で且つ経済的に魅力的な方法で製造することができる。こうして得た所望の物質は多数の高付加価値製品の合成のための出発物質または中間体として適している。特に、あらゆる種類のファインケミカルの製造のために、例えば医薬品または薬物、任意のタイプの化粧品、食品または興奮剤のための活性化合物または添加剤の製造に適している。このようにして製造した1,7−オクタジエンは2個の末端二重結合を二重ヒドロホルミル化してデカンジアールを製造するのに特に適している。デカンジアールは、貴重なフレグランスまたはフレーバーである多数の大環状ケトン、例えばムスコンの合成用出発物質として特に役立ち得る。
【0050】
ヒドロホルミル化によるジアルデヒドの製造は、当業者に公知の様々な系、例えばRh/有機リン系またはRh/有機ポリリン系(Appl.Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds,B.Cornielis,W.A.Hermann,VCH,1996)を用いて実施され得る。Rh触媒ヒドロホルミル化において高いリニアリティを達成するために、共触媒として例えばホスファン、有機ポリリン化合物(例えば、キレート化ホスファン、キレート化ホスファイトまたはキレート化ホスホロアミダイト)を使用することが好ましい。例として、Rh/トリフェニルホスフィン系(例えば、Falbe,New Synthesis with Carbon Monoxide,Springer−Verlag 1980)、Rh/キレート化ホスファン系(例えば、国際公開第01/58589号)、Rh/キレート化ビホスファイト(例えば、国際公開第97/20801号)、またはRh/キレート化ホスホロアミダイト(例えば、国際公開第03/018192、国際公開第02/83695号及び国際公開第04/026803号)が挙げられ得る。国際公開第04/26803号には、エチレン性不飽和化合物のヒドロホルミル化によるジアルデヒド及び/またはエチレン性不飽和モノアルデヒドの製造方法が記載されている。
【0051】
本発明の方法に使用するのに適したヒドロホルミル化触媒は、例えば一般式I:
【化1】

【0052】
[式中、
Qは式:
【化2】

【0053】
{式中、
及びAはそれぞれ相互に独立して、O、S、SiR、NRまたはCR(ここで、R、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであるか、またはこれらが結合している炭素原子と一緒になって炭素数4〜12のシクロアルキリデン基を形成し、または基Rと別の基Rまたは基Rと別の基Rは一緒になって分子内架橋基Dを形成する)であり、
Dは基
【化3】

【0054】
(式中、
及びR10はそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、トリフルオロメチル、カルボキシ、カルボキシレートまたはシアノであるか、または相互に結合してC3−4アルキレン架橋を形成し、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、トリフルオロメチル、COOH、カルボキシレート、シアノ、アルコキシ、SOH、スルホネート、NE、アルキレン−NE3+、アシルまたはニトロである)
から選択される2価架橋基であり、
cは0または1であり、
Yは化学結合であり、
、R、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、COOR、COO、SO、SO、NE、NE3+、アルキレン−NE3+、OR、SR、(CHRCHO)、(CHN(E))、(CHCHN(E))(ここで、R、E、E及びEは水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一または異なる基であり、Rは水素、メチルまたはエチルであり、Mはカチオンであり、Xはアニオンであり、xは1〜120の整数である)、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アシルまたはシアノであり、または
及び/またはRはこれらが結合しているベンゼン環の2個の隣接する炭素原子と一緒になって1、2または3個の別の環を有する縮合環を形成する}
を有する架橋基であり;
a及びbはそれぞれ相互に独立して、0または1であり;
Pはリンであり;
、R、R及びRはそれぞれ相互に独立して、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、シクロアルキル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルコキシまたはNE基であり、ただしR及びRは窒素原子を介してリンPに結合しているピロール基であり、或いはRとR及び/またはRとRはピロール窒素原子を介してリン原子Pに結合している少なくとも1つのピロール基を含み、式I:
Py−I−W
{式中、Pyはピロール基であり、Iは化学結合、或いはO、S、SiR、NRまたはCR(ここで、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールである)であり、Wはシクロアルキル、シクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリールまたはヘテロアリールオキシである}
を有する二価基Eを形成し、または窒素原子を介してリン原子Pに結合しており、式:
Py−I−Py
を有するビスピロール基を形成する]
を有するリンリガンドを有するロジウム錯体である。
【0055】
好ましいホスホロアミダイトリガンドは、式Ia:
【化4】

【0056】
[式中、
15、R16、R17及びR18はそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、W’COOR、W’COO、W’(SO)R、W’(SO、W’PO(R)(R)、W’(PO(M、W’NE、W’(NE、W’OR、W’SR、(CHRCHO)、(CHNE、(CHCHNE(ここで、Wは単結合、ヘテロ原子または1〜20個の架橋原子を有する二価架橋基であり、R、E、E及びEは水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一または異なる基であり、Rは水素、メチルまたはエチルであり、Mはカチオン同等物であり、Xはアニオン同等物であり、yは1〜240の整数である)、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アシルまたはシアノであり、
2つの隣接する基R15、R16、R17及びR18はこれらが結合しているピロール環の炭素原子と一緒になって1、2または3個の別の環を有する縮合環系を形成してもよく、
ただしR15、R16、R17またはR18の少なくとも1つは水素でなく、R19及びR20は相互に結合せず;
19及びR20はそれぞれ相互に独立して、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
a及びbはそれぞれ相互に独立して、0または1であり;
Pはリン原子であり;
Qは式:
【化5】

【0057】
{式中、
及びAはそれぞれ相互に独立して、O、S、SiR、NRまたはCR
(ここで、R、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであるか、またはこれらが結合している炭素原子と一緒になって4〜12個の炭素原子を有するシクロアルキリデン基を形成し、或いは基Rと別の基Rまたは基Rと別の基Rは一緒になって分子内架橋基Dを形成する)
であり、
Dは基:
【化6】

【0058】
(式中、R及びR10はそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、トリフルオロメチル、カルボキシ、カルボキシレートまたはシアノで
あるか、相互に結合してC3−4アルキレン架橋を形成し、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、トリフルオロメチル、COOH、カルボキシレート、シアノ、アルコキシ、SOH、スルホネート、NE、アルキレン−NE3+、アシルまたはニトロである)
から選択される二価架橋基であり、
cは0または1であり、
、R、R及びRはそれぞれ相互に独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、COOR、COO、SO、SO、NE、NE3+、アルキレン−NE3+、OR、SR、(CHRCHO)、(CHN(E))、(CHCHN(E))(ここで、R、E、E及びEは水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同一または異なる基であり、Rは水素、メチルまたはエチルであり、Mはカチオンであり、Xはアニオンであり、xは1〜120の整数である)、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アシルまたはシアノであるか、または
及び/またはRはこれらが結合しているベンゼン環の2個の隣接炭素原子と一緒になって1、2または3個の別の環を有する縮合環系を形成する}
を有する架橋基である]
を有するリガンドである。
【0059】
前記リガンドは、国際公開第02/083695号の対象物であり、参照により本明細書に組み入れる。これらのリガンドの製造方法もここに記載されている。このクラスからの好ましいリガンドの例は以下の化合物である。このリストは単に例示にすぎず、使用可能なリガンドを限定するものではない。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【0060】
Et:エチル
Me:メチル
【0061】
更に適当なリンリガンドは、例えば国際特記出願公開第01/58589号に記載されているジホスファン類及びジホスフィナイト類である。以下のジホスファン類及びジホスフィナイト類を例として挙げることができる。
【化23】

【化24】

【0062】
Oct:オクチル
【0063】
本発明の方法の目的に適した別のリガンドは、国際公開第95/30680号に記載されているリガンド、例えば
【化25】

【0064】
である。
【0065】
触媒としてロジウム錯体を用いるヒドロホルミル化のための別の適切なホスホロアミダイトリガンドは、国際公開第98/19985号及び国際公開第99/52632号に記載されている、窒素原子を介してリン原子に結合しているヘテロアリール基(例えば、ピロリル基またはインドリル基)を持つ2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニレンまたは2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチレン架橋基を有するホスホロアミダイトリガンドである。例えば、以下のリガンドである:
【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【化31】

【化32】

【0066】
これらのリガンドの1,1’−ビフェニレンまたは1,1’−ビナフチレン架橋基は、更に1,1’位置を介してメチレン(CH−)、1,1’−エチレン(CH−CH<)または1,1’−プロピレン(CH−CH−HC<)基により架橋され得る。
【0067】
触媒としてロジウム錯体を用いるヒドロホルミル化のための別の適切なホスフィナイトリガンドは、特に国際公開第98/19985号に記載されているリガンドである。例えば、以下のリガンドである:
【化33】

【化34】

【0068】
触媒としてロジウム錯体を用いるヒドロホルミル化のための別の適切なリガンドは、例えば国際公開第01/58589号に記載されているようなホスファイト及びホスホナイトリガンドである。単なる例示の目的で、以下のリガンドを例として挙げることができる。
【化35】

【化36】

【0069】
触媒としてロジウム錯体を用いるヒドロホルミル化のための他の適切なリガンドは、例えば国際公開第02/068371号及び欧州特許出願公開第982314号に記載されているようなキサンテニル−ビス−ホスホキサンテニル骨格を有するホスフィンリガンドである。単なる例示の目的で、これらのリガンドの幾つかを例として以下に示す。
【化37】

【化38】

【化39】

【0070】
触媒として前記リガンドのロジウム錯体を用いるヒドロホルミル化のための適切なキレート化ホスファイトリガンドは、例えば一般式II、III及びIV:
【化40】

【化41】

【0071】
[式中、
Gは置換または未置換の2〜40個の炭素原子を有する二価有機架橋基であり;
Mは−C(R−、−O−、−S−、NR、Si(R−及び−CO−
(ここで、基Rは同一または異なり、各々水素、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル、トリルまたはアニシル基であり、基Rは各々水素、または置換もしくは未置換の1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基であり、基Rは同一または異なり、各々水素またはメチル基である)
から選択される二価架橋基であり;
mは0または1であり、基は同一または異なり、各々は未置換または置換アリール基であり;
指数kは0または1であり;
基Rは同一または異なり、未置換または置換の1価アルキルまたはアリール基であり;
は未置換または置換アルキレン、アリレン、アリレン−アルキレン−アリレン及びビスアリレン基から選択される二価有機基である]
を有するものである。非限定的に単に例示する目的で、本発明の方法で使用され得るキレート化ホスフェートリガンドを以下に例として挙げることができる。
【化42】

【化43】

【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

【化48】

【化49】

【化50】

【化51】

【化52】

【化53】

【0072】
前記した及び他のビスホスファイトキレート化リガンドは欧州特許出願公開第213369号及び米国特許第4769498号の対象物であり、その製造方法もこれらに記載されている。
【0073】
上記ビスホスファイトキレート化リガンドの代わりに、一般式V:
P(OR)(OR)(OR) V
を有する単座モノホスファイトリガンドを本発明の方法においてロジウム−ヒドロホルミル化触媒を錯化するため及び遊離リガンドとして使用することもできる。前記リガンド及びそのロジウムとの錯体についてのヒドロホルミル化用触媒としての適性は公知である。一般式Vを有するモノホスファイトリガンドにおいて、基R、R及びRは相互に独立して、同一でも異なっており、通常1〜30個、好ましくは5〜30個の炭素原子を有する有機基、例えば置換または未置換のアルキル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル及び/またはヘテロアリール基である。加水分解及び分解に対する安定性が高いので、例えば欧州特許出願公開第155508号に記載されているような立体障害モノホスファイトリガンドが特に好ましい。単なる例示の目的で、以下のモノホスファイトリガンド構造を例として挙げることができる。
【化54】

【化55】

【化56】

【0074】
触媒としてロジウム錯体を用いるヒドロホルミル化のための公知のリガンドには、リガンド分子中にホスファイト基だけでなくホスフィナイトまたはホスフィン基をも有する二座リガンドも含まれる。前記リガンドは特に国際公開第99/50214号に記載されている。単なる例示の目的で、このタイプの幾つかのリガンドを以下に例として挙げる。
【化57】

【化58】

【化59】

【化60】

【化61】

【化62】

【化63】

【0075】
Bu:tert−ブチル
Ph:フェニル
【0076】
通常、一般式H(CO)[式中、Zは遷移族VIIIの金属であり、Gはリン−、ヒ素−またはアンチモン−含有リガンド(例えば、上記リン含有リガンドの1つ)であり、d、e、f、gは金属の原子価及び種類、リガンドGが占める配位部位の数に応じた自然数である]を有する触媒活性種、それぞれの場合に使用される触媒または触媒前駆体からヒドロホルミル化条件下で形成される。好ましくは、e及びfは相互に独立して、少なくとも1、例えば1、2または3である。e及びfの合計は好ましくは2〜5である。所望により、本発明に従って使用される金属ZとリガンドGの錯体は更に少なくとも1つの本発明で使用される以外の別のリガンド、例えばトリアリールホスフィン類、特にトリフェニルホスフィン、トリアリールホスファイト類、トリアリールホスフィナイト類、トリアリールホスホナイト類、ホスファベンゼン類、トリアルキルホスフィン類及びホスファメタロセン類を含み得る。金属Zと本発明に従って使用されるリガンド及び本発明に従って使用される以外のリガンドとの錯体は、例えば一般式H(CO)を有する錯体にリガンドを添加後、平衡反応において形成される。
【0077】
好ましい実施形態において、ヒドロホルミル化触媒はヒドロホルミル化反応のために使用される反応器においてその場で作製される。しかしながら、所望により本発明の方法の触媒を別々に作製し、慣用方法により単離することができる。触媒のin−situ作製のためには、少なくとも1つの一般式I〜Vを有する化合物、遷移族VIIIの金属の化合物または錯体、所望により1つ以上の別の追加リガンド、及び適当ならば活性化剤をヒドロホルミル化条件下の不活性溶媒中で反応させることができる。
【0078】
適当なロジウム化合物または錯体の例は、ロジウム(II)及びロジウム(III)塩、例えば塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、硫酸ロジウムカリウム、カルボン酸ロジウム(II)、カルボン酸ロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(III)、酸化ロジウム(III)、ロジウム酸(rhodic acid)(III)の塩、トリスアンモニウムヘキサクロロローデート(III)等である。ロジウム錯体、例えばビスカルボニルロジウムアセチルアセトネート、アセチルアセトナトビスエチレンロジウム(I)等も適切である。ビスカルボニルロジウムアセチルアセトネートまたは酢酸ロジウムを用いることが好ましい。
【0079】
ルテニウム塩または化合物も同様に適切である。適切なルテニウム塩の例は、塩化ルテニウム(III)、酸化ルテニウム(IV)、酸化ルテニウム(VI)、酸化ルテニウム(VIII)、ルテニウムオキソ酸のアルカリ金属塩(例えば、KRuOまたはKRuO)または錯体(例えば、RuHCl(CO)(PPh)である。ルテニウムの金属カルボニル(例えば、ドデカカルボニルトリスルテニウムまたはオクタデカカルボニルヘキサルテニウム)、またはCOが式PRを有するリガンドで部分的に置換されている混合形態(例えば、Ru(CO)(PPh)を本発明の方法において使用することも可能である。
【0080】
適切なコバルト化合物は、例えば塩化コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、炭酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、そのアミンまたは水和物錯体、カルボン酸コバルト(例えば、酢酸コバルト、エチルヘキサン酸コバルト及びナフテン酸コバルト)である。コバルトのカルボニル錯体(例えば、オクタカルボニルジコバルト、デカカルボニルテトラコバルト及びヘキサデカカルボニルヘキサコバルト)も使用され得る。
【0081】
上記したような、及び別の適切なコバルト、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムの化合物は公知であり、市販されているか、或いはその製造は文献中に詳しく記載されているかまたは当業者であれば公知化合物の製造と類似の方法を用いて製造することができる。
【0082】
遷移族VIIIの適切な金属は特にコバルト及びロジウムであり、ロジウムが特に好ましい。
【0083】
溶媒として、それぞれのオレフィンのヒドロホルミル化で形成されるアルデヒド及びその後続反応による高沸点生成物(例えば、アルドール縮合の生成物)を使用することが好ましい。同様に適切な溶媒は、上記アルデヒド及びアルデヒドの後続反応生成物の希釈用を含み、芳香族、例えばトルエン及びキシレン、炭化水素または炭化水素混合物である。別の溶媒は、脂肪族カルボン酸とアルカノールのエステル、例えば酢酸エチルまたはTexanol(登録商標);エーテル、例えばtert−ブチルメチルエーテル及びテトラヒドロフランである。十分に親水化されているリガンドの場合、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ケトン類、例えばアセトン及びメチルエチルケトン等を使用することも可能である。“イオン性液体”を溶媒として使用することも可能である。これらは液体塩、例えばN,N’−ジアルキルイミダゾリウム塩(例:N−ブチル−N’−メチルイミダゾリウム塩)、テトラアルキルアンモニウム塩(例:テトラ−n−ブチルアンモニウム塩)、N−アルキルピリジニウム塩(例:n−ブチルピリジニウム塩)、テトラアルキルホスホニウム塩(例:トリスヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム塩)、例えばテトラフルオロボレート、アセテート、テトラクロロアルミネート、ヘキサフルオロホスフェート、クロリド及びトシレートである。
【0084】
更に、反応は水、または水と水混和性溶媒、例えばアルコール(例:メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール)、ケトン(例:アセトンまたはメチルエチルケトン)または他の溶媒を含む水性溶媒中で実施することもできる。この目的で、極性基、例えばSOM、COM(ここで、M=Na、KまたはNH)またはN(CHのようなイオン性基で修飾された式IまたはIIを有するリガンドを使用する。この場合、反応は、触媒は水性相中に存在し、出発物質及び生成物が有機相を形成する2相触媒反応として起こる。“イオン性液体”中での反応は2相触媒反応としても実施され得る。
【0085】
少なくとも1つの上記リガンド、遷移族VIIIの金属の化合物または錯体、適当ならば活性化剤をヒドロホルミル化条件下不活性溶媒中で反応させることによりヒドロホルミル化触媒をin−situ作製する方法が好ましい。しかしながら、所望により、リガンド−金属錯体を別々に製造し、慣用方法により単離することもできる。
【0086】
ヒドロホルミル化反応は連続的、半連続的またはバッチ式に実施され得る。
【0087】
連続反応に適した反応器は当業者に公知であり、例えばUllmanns Encyklopadie der technischen Chemie,Vol.1,3rd edition,1951,p.743ffに記載されている。
【0088】
適切な圧力定格反応器も当業者に公知であり、例えばUllmanns Encyklopadie der technischen Chemie,Vol.1,3rd edition,1951,p.769ffに記載されている。通常、本発明の方法を連続的に実施するときには所望により攪拌機及内部ライニングを備えたオートクレーブを使用する。
【0089】
本発明の方法で使用される一酸化炭素及び水素からなる合成ガスの組成は広範囲で変更可能である。一酸化炭素/水素のモル比は通常約5:95〜70:30、好ましくは約40:60〜60:40である。
【0090】
ヒドロホルミル化反応における温度は、通常約20〜180℃、好ましくは約40〜140℃、特に約50〜120℃の範囲である。通常、反応は選択した反応温度での反応ガスの分圧下で実施される。圧力は、通常約1〜700バール、好ましくは1〜600バール、特に1〜300バールの範囲である。反応圧力は使用するヒドロホルミル化触媒の活性に依存して変化し得る。通常、リン−、ヒ素−またはアンチモン−含有キレート化プニコゲン化合物をベースとする触媒により、反応を比較的低圧、例えば1〜100バール、好ましくは5〜50バールの範囲で実施できる。
【0091】
ヒドロホルミル化媒体における選択したリガンド/遷移族VIIIの金属のモル比は、通常約1:1〜1000:1、好ましくは1:1〜100:1、特に1:1〜50:1、非常に好ましくは1:1〜20:1の範囲である。
【0092】
遷移族VIIIの金属/基質のモル比は、通常1モル%未満、好ましくは0.5モル%未満、特に0.1モル%未満、特に好ましくは0.05モル%未満である。
【0093】
ヒドロホルミル化触媒はヒドロホルミル化反応の生成物から当業者に公知の慣用方法により分離され得、通常ヒドロホルミル化のために再使用され得る。
【0094】
上記触媒は(例えば、ガラス、シリカゲル、合成樹脂製の)適切な担体上に適当な方法により、例えばアンカー基として適切な官能基を介する結合、吸着、グラフト化等により固定化され得る。その後、この触媒は固相触媒として使用するのにも適している。
【0095】
本発明の1実施形態はジアルデヒドの製造に関する。好ましい実施形態では、ジアルデヒドの製造はバッチ式で実施される。バッチヒドロホルミル化方法は原則として当業者に公知である。反応終了後、反応器を通常まず減圧する。放出された合成ガス及び未反応の不飽和化合物は、適当ならば後処理した後、完全にまたは部分的に再使用される。反応器に残存している内容物は、本質的にジアルデヒド、高沸点副生成物(以下、高沸点物と呼ぶ)及び触媒からなる。反応器の内容物を後処理するためにその内容物を1段階または多段階分別にかけると、ジアルデヒドに富む少なくとも1つの画分が得られる。ジアルデヒドに富む画分を与えるための分別は各種方法で、例えば蒸留、結晶化または膜濾過により、好ましくは蒸留により実施され得る。バッチプロセスの特に好ましい実施態様では、反応器から直接蒸留を行い得るように蒸留カラムを重置した反応器を使用する。適当ならば、蒸留カラムに非常に良好な分離性能を達成するために精留トレーを設ける。蒸留は大気圧下または減圧下で実施され得る。ジアルデヒドに富む画分はカラムの頂部または上部域で単離され得、ジアルデヒドが少ない少なくとも1つの画分はカラムの底部または下部域で単離され得る。適切なカラム、温度パラメーター及び圧力パラメーターは当業者に公知である。適当ならば、ジアルデヒドに富む画分を更に精製ステップにかけてもよい。ジアルデヒドが少ない画分は本質的に高沸点物及び触媒からなる。触媒は当業者に公知の慣用方法により分離され得、適当ならば後処理後、通常別のヒドロホルミル化に再使用され得る。
【0096】
更に好ましい実施形態では、ジアルデヒドは連続的に製造される。連続方法では、不飽和化合物を1つ以上の反応ゾーンにおいてヒドロホルミル化する。反応ゾーンから生産物を取り出し、これを通常まず減圧化する。ここで、未反応合成ガス及び不飽和化合物は遊離され、これらは適当ならば後処理後、通常反応ゾーンに再循環させる。ジアルデヒドに富む画分を与えるための残りの生成物の分別は従来技術から公知の慣用手段により、例えば蒸留、結晶化または膜濾過により実施され得る。適切な蒸留プラントは当業者に公知である。薄膜蒸発器も適切である。分別蒸留の場合、本質的に高沸点物及び触媒からなる画分はカラムの底部または下部域から取り出され、これは反応ゾーンに直接再循環され得る。しかしながら、高沸点物の全部または一部を再循環前に排出させることが好ましく、触媒は、適当ならば後処理後反応ゾーンに再循環させる。ジアルデヒドに富み、不飽和モノアルデヒドをも含み得る少なくとも1つの画分はカラムの頂部または上部域から取り出す。不飽和モノアルデヒドに富む少なくとも1つの画分及びジアルデヒドに富む画分を与えるように、ジアルデヒドに富み、更に不飽和モノアルデヒドを含む画分を更に少なくとも1回分別にかけることが有利である。不飽和モノアルデヒドに富む相を反応ゾーンに再循環させ、ジアルデヒドに富む相は後処理する。
【0097】
好ましい実施形態では、内部二重結合を含むジオレフィンまたは内部二重結合を有するジオレフィンを含むジオレフィンの混合物を反応させ得る。この反応は、例えば次のように実施され得る。
【0098】
末端及び内部二重結合を含むジオレフィンの場合、末端二重結合をまず優先的に高n選択率でヒドロホルミル化し、その後内部二重結合を異性化ヒドロホルミル化条件下で反応して高率でn−生成物を有するアルデヒドを得るような条件下で反応を実施することが有利である。このようにして、例えば1,7−オクタジエンとそれぞれ少なくとも1つの別の内部二重結合を有する少なくとも1つの別のジオレフィンとの混合物をうまくヒドロホルミル化して、対応する末端ジアルデヒドを得る。例えば本発明の上記メタセシス反応において適切な条件を選択したときに得ることができるような1,6−オクタジエンを含む1,7−オクタジエンの反応を例として挙げることができる。そのようなヒドロホルミル化方法は全て未公開のドイツ特許出願第10349482.0号に記載されており、これを参照により組み入れる。好ましくは、オレフィン組成物を、第1反応ゾーンにおいて10〜40バールの全圧で4:1〜1:2の一酸化炭素:水素のモル比を有する合成ガスと、末端二重結合を有するオレフィンに基づいて40〜95%まで反応させ、ヒドロホルミル化からの生成物を1つ以上の下流反応ゾーンにおいて5〜30バールの全圧で1:1〜1:1000の一酸化炭素:水素のモル比を有する合成ガスと反応させるが、1つ以上の下流反応ゾーン中の全圧はそれぞれその前の反応ゾーンの全圧よりも低いことが好ましい。
【0099】
これは、末端二重結合を所望通り転化した後反応条件を変化させることによりバッチ操作でも達成され得る。
【0100】
本発明は更に、上記ルートにより製造した1,10−デカンジアールの、場合によりオレフィン不飽和性の2,15−ヘキサデカンジオンを製造するための使用、及び場合によりオレフィン不飽和性の2,15−ヘキサデカンジオンの分子内アルドール反応と、適当ならばその後の水素化によって3−メチルシクロペンタデカノン(ムスコン)及び/またはその部分水素化アナログを製造するための使用に関する。
【0101】
別の方法で製造した1,7−オクタジエン(例えばブタジエンから二量体化により直接、または熱分解によりオクタジエノール及びその誘導体を介しまたシクロオクテンを介するルートにより製造した1,7−オクタジエン)をヒドロホルミル化及びムスコンの合成のために使用できることは公知である。しかしながら、本発明に従って製造されていない出発物質は不純物(例えば、共役ジエン及び酸素含有不純物)を除去するために複雑な精製にかけなければならない。
【0102】
2,15−ヘキサデカンジオン及びそのオレフィン不飽和性アナログは大環状ケトンの合成、特に最も重要なムスクフレグランスの1つである式VI:
【化64】

【0103】
を有する3−メチルシクロペンタデカノン(ムスコン)の合成のための重要な中間体である。
【0104】
従って、2,15−ヘキサデカンジオンまたはそのオレフィン不飽和性アナログを合成するための良好なルートは、工業規模で実施可能なムスコンまたはそのアナログを経済的に満足に合成するための要件の1つである。
【0105】
ドイツ特許出願公開第3918015号には、ムスコンの製造方法、並びにこの方法のための中間体としての開環で場合によりオレフィン不飽和性の2,15−ジケトン及びその製造が記載されている。2つの反応シーケンスが場合によりオレフィン不飽和性の2,15−ヘキサデカンジオンの製造方法として開示されている。1つの方法は、1,10−デカンジオールを酸化的に脱水素して1,10−デカンジアールを形成した後、これを適当なウィッティッヒ試薬と反応させることである。或いは、1,6−ヘキサンジオールを同様に酸化的に脱水素して対応するジアルデヒドを形成し、その後これを2当量のビニルグリニヤール試薬と反応させると、1,9−デカジエン−3,8−ジオールを生ずる。所望の中間体はアセト酢酸アルキルとのキャロル(Caroll)反応により得られる。
【0106】
その後、場合によりオレフィン不飽和性の2,15−ヘキサデカンジオンを気相中で分子内アルドール縮合により環化し、その後接触水素化すると、ムスコンが生ずる。
【0107】
場合により不飽和の2,15−ヘキサデカンジオン及び同等中間体、並びにムスコンを製造するための別のルートは同一文献中に見つけることができる。
【0108】
日本国特開2000−001452号には、水素化条件下でのアセトンとの塩基触媒アルドール反応によるジアルデヒドからのジケトン(2,15−ヘキサデカンジオンを含む)の製造方法が記載されている。
【0109】
加えて、Tetrahedron Lett.,1976,3585において、M.Baumannらは、3−ブチノールを用いるナザロフ環化によるシクロドデセノンからのムスコンの製造を記載している。
【0110】
S.Ellwood及びT.Hainesは、Current Topics in Flavours and Fragrances,1999,Kluwer Academic Publishers,Amsterdam,p.79−95において、2,15−ヘキサデカジオンを形成するために酸クロリドをメチル化し、その後アルドール環化し、水素化することによってテトラデカン二酸からムスコンを合成することを記載している。
【0111】
R.Bakerらは、J.Chem.Soc.,Chem.Comm.1972,802において、ブタジエン、アレン及び一酸化炭素のニッケル触媒カップリングとそれに続く水素化による、ムスコンの製造を教示している。
【0112】
S.Warwelらは、Seifen−Ole−Fette−Wachse,1989,115,538−545において、シクロヘプテンから8−ヘキサデセン−2,15−ジオンを製造し、その後アルドール縮合とそれに続く水素化によりムスコンを形成することを記載している。
【0113】
従って、本発明の別の目的は、2,15−ヘキサデカンジオンまたはそのオレフィン不飽和性アナログを工業規模で容易に実施可能な経済的方法で製造できる代替方法を提供することであった。
【0114】
本発明に従って得られる1,10−デカンジアールは、式VIIを有する2,15−ヘキサデカンジオン及び式VIIIを有する3,13−ヘキサデカジエン−2,15−ジオンを製造するのに特に適しており、後者はC−C二重結合のコンフィギュレーションに関してトランス/シス混合物の形態で存在し得る。この方法では、デカンジアールを塩基の存在下でアセトンと反応させ、適当ならば接触水素化させることが好ましい。或いは、デカンジアールを塩基の存在下でアセト酢酸エチルと反応させ、その後生成物を加水分解し、脱カルボキシル化し、適当ならば最終的に接触水素化させる。
【化65】

【0115】
上記中間体が容易に製造されるので、本発明方法は公知のプロセスステップと組み合わせて式VIの3−メチルシクロペンタデカノン(ムスコン)を製造するのにも適している。場合によりオレフィン不飽和性の2,15−ヘキサデカンジオンを製造するための本発明の方法をムスコンまたはそのオレフィン不飽和性アナログへの合成ルートに組み込むことが本発明の別の態様である。
【0116】
出発化合物として機能する1,10−デカンジアールは各種方法で得ることができる。例えば、ドイツ特許出願公開第3918015号に記載されているように、1,10−デカンジオールを酸化脱水することにより、または1,10−ジカルボン酸を還元することによりジアルデヒドを得ることができる。本発明の方法の目的にとって好ましい製造方法は、上記のように実施される1,7−オクタジエンまたは1,6−及び1,7−オクタジエンの混合物、好ましくは1,7−オクタジエンをロジウム触媒を用いた二重ヒドロホルミル化である。1,7−オクタジエンまたは1,6−及び1,7−オクタジエンの混合物は、エチレンの存在下でのシクロヘキセンのメタセシスにより好ましく製造することができる。
【0117】
2,15−ヘキサンデカジオンを製造するため、またはそれを更にムスコンに転化するために、1,10−デカンジアールを塩基の存在下でアセトンまたはアセト酢酸エチルと反応させ、適当ならば生成物をその後接触水素化させる。
【0118】
アセトンとの反応は、アルドール縮合を触媒する適切な塩基、例えばNaOH、KOH、LiOH、Ba(OH)、Ca(OH)、CsOH、RbOH、アミン(例:ジアザビシクロ−1,5−[5.4.0]ウンデカン(DBU)、ピペリジンまたはトリエチルアミン)または他には塩基性酸化アルミニウム(Al)の存在下で実施される。この反応は均一または不均一相で連続的、半連続的またはバッチ式で実施され得る。反応させる1,10−デカンジアール1モルあたり、通常約2〜約30モル、好ましくは約6〜約14モルのアセトン及び約2〜約60モル、好ましくは約6〜約30モルの触媒活性塩基を使用する。
【0119】
反応は当業者に公知の条件下で実施し得る。例えば、アセトンまたは反応条件下で不活性な溶媒(例えば、トルエン、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン)が溶媒として機能する。通常、選択した塩基をまず溶媒と一緒に充填し、そこにジアルデヒドを添加する。通常、段階的または連続的に添加するとより高い選択率が達成される。約100℃の温度で、反応は通常数時間後に完了する。
【0120】
こうして得られた反応生成物は、続いて当業者に公知の方法(例えば、結晶化、クロマトグラフィーまたは蒸留)により精製され得る。オレフィン不飽和性反応生成物は、その後同様に公知の方法で接触水素化され得る。このために好ましい触媒は、カルボニル基の存在下でオレフィン性二重結合を優先的に水素化できる触媒である。特にパラジウム含有触媒が例示される。
【0121】
好ましい実施形態では、1,10−デカンジアールのアセトンとのアルドール縮合は水素化条件下で、すなわち1段階プロセスで実施する。このためには、反応物質を水素化活性触媒の存在下、水素雰囲気下で反応させる。適切な触媒は、例えば水素化活性成分を担体(例えば、Al、TiOまたはZrO、好ましくはAl)に担持させたものである。適切な水素化活性成分は遷移金属、例えばRu、Rh、Ir、Pt、Co及びPdであり、Pdが特に好ましい。適当ならば、上記の水素化活性成分は別の金属、好ましくはランタニドまたはその化合物を含んでいてもよい。これらの中で、ランタニドPr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er及びYbが特に好ましい。担体としてのAlに対し、水素化活性成分としてPrドープPdを担持させた触媒を用いることが非常に好ましい。
【0122】
水素化条件下でのアルドール縮合はバッチ式、半連続的または完全に連続的に実施され得る。操作モードに応じて、反応は適切な反応器(例えば、撹拌型容器、管型反応器、流動反応器、ループ反応器または撹拌型容器のカスケード)において実施され得る。反応は通常約10〜約280℃の温度及び約1〜約100バールの水素圧下で実施される。反応は通常その数時間後に完了する。転化は約2時間後に多くの場合定量的となる。
【0123】
オレフィン性二重結合に関してトランス/シス混合物形態で得られる式VIIIを有するオレフィン不飽和性化合物を製造するためには、デカンジアールのアセトンとのアルドール反応を通常の条件下、すなわち非水素化条件下で実施する。水素化活性成分を含まない塩基性触媒がこの目的に適している。加えて、水素雰囲気なしで済ませる。
【0124】
このようにして得ることができる式VII及びVIIIを有する化合物も同様に、例えばドイツ特許出願公開第3918015号に包括的に記載されているように分子内アルドール縮合による環化に適している。
【0125】
上記手順により、フレグランスとして有用なムスコン、その部分水素化アナログ、及び原則として多くの別の大環状ケトンを、工業規模で容易に実施可能なシンプル且つ経済的に有利なルートにより得ることができる。
【0126】
第1級アルドール縮合生成物の最終水素化を例えばキラル非ラセミ体エナンチオ選択的触媒を用いて不斉条件下で実施すれば、ムスコンを光学活性形態で得ることができる。
【実施例】
【0127】
下記実施例は、本発明を決して限定することなく説明するためのものである。
【0128】
(実施例1)
メタセシスによる1,7−オクタジエンの製造
10重量%のReをAl(4mm押出物)に担持させた触媒(40g)をオートクレーブに入れ、オートクレーブをエチレンで40バールの圧力まで加圧し、シクロヘキセン(180ml)を導入した。反応混合物を40℃に加熱し、エチレン圧を200バールまで上昇させた。その後、反応混合物を24時間撹拌した。89%の1,7−オクタジエンへの選択率で1.3%の転化率を得た。触媒に基づく空時収率は0.002kg/kghであった。
【0129】
(実施例2a)
メタセシスによる1,7−オクタジエンの連続製造
10重量%のReをAl(1.5mm押出物)に担持させた触媒(40g)を管状反応器に入れた。60℃で、60g/hのシクロヘキセン及び80g/hのエチレンを80バールの圧力下で連続供給した。15時間後、反応生成物のサンプルをガスクロマトグラフィーにより分析した。7.9%の転化率で、97.3%の1,7−オクタジエン及び2.0%の1,7,13−テトラデカトリエンを得た。30時間後、得られた反応生成物から122gの1,7−オクタジエンを蒸留により単離した。触媒に基づく空時収率は0.1kg/kghであった。
【0130】
(実施例2b)
温度を上昇させ、出発物質を再循環させながらのメタセシスによる1,7−オクタジエンの連続製造
10重量%のReをAl(1.5mm押出物)に担持させた触媒(30g)をモレキュラーシーブ13X(30ml)と混合し、管状反応器に入れた。25℃で、60g/hのシクロヘキセン及び41g/hのエチレンを80バールの圧力下で連続供給した。このために、ストリッピングカラム中の生成物の流れから回収したエチレン及び蒸留カラムから回収したシクロヘキセンに新鮮な出発物質を補充した。25℃で30分間反応させた後、反応器の温度を1.5℃/hの速度で80℃まで連続的に上昇させた。この温度で反応をその後継続させた。8.0%の平均転化率で、98.3%の1,7−オクタジエンを得た。42時間かけて全部で265gの1,7−オクタジエンを単離した。触媒に基づく時空収率は0.21kg/kghであった。
【0131】
(実施例3)
Rh/リガンドAを用いる1,7−オクタジエン(純度85%)のヒドロホルミル化
リガンドAの合成:
【化66】

【0132】
室温で3−メチルインドール(skatole)(28.5g,218mmol)を乾燥トルエン(約50ml)と共に反応容器に入れ、溶媒を減圧下で留去させた(微量の水の除去)。この手順をもう一度繰り返した。その後、残渣をアルゴン下で乾燥トルエン(700ml)中に取り出し、混合物を−65℃に冷却した。−65℃で、まずPCl(14.9g,109mmol)を添加し、トリエチルアミン(40g,396mmol)をゆっくり添加した。混合物を16時間かけて室温まで加温した後、16時間還流した。次いで、乾燥トルエン(300ml)中の4,5−ジヒドロキシ−2,7−ジ−tert−ブチル−9,9−ジメチルキサンテン(19.3g,58mmol)を室温で添加し、混合物を16時間還流させた。形成されたトリエチルアミン塩酸塩を濾別し、トルエンで1回洗浄した。有機相を蒸発させた後、残渣を熱エタノールから2回結晶化した。減圧下で乾燥すると、36.3g(理論の71%)の無色固体を得た。31P−NMR(298K)d:105ppm。
【0133】
Rh(CO)acac(acac=アセチルアセトネート)(5.1mg)及びリガンドA(187mg)をそれぞれトルエン(5g)中に溶解し、合成ガス(CO:H=1:1)で不活性とされ散布攪拌機を備えている100mlのスチール製オートクレーブに導入した。その後、オートクレーブを10バールの合成ガス(CO:H=1:1)で加圧し、内容物を80℃でガスで処理した。1時間後、オートクレーブを減圧した。その後、1,7−オクタジエン(純度85%,更に他のオレフィン及びジオレフィン、特に1,6−オクタジエンを含む)(10g)をシリンジによって導入した。次いで、混合物を80℃で6時間ヒドロホルミル化し(10ppmのRh;リガンドA:Rh=10:1)、その後サンプルをガスクロマトグラフィーにより分析した。98%のリニアリティ(リニアリティ=1,10−デカンジアール/ジアールの合計)を有する90%のジアールを99%の転化率(1,7−オクタジエンに基づく)で得た。
【0134】
(実施例4)
ムスコンの製造
4.1: 1,7−オクタジエンのヒドロホルミル化
Rh(CO)acac(acac=アセチルアセトネート)(5mg)及び(以下のように作製した)リガンドA(181mg)をそれぞれトルエン(5g)中に溶解した。2つの溶液を混合し、60℃に加熱した。その後、反応容器を10バールのCOとHの1:1混合物(合成ガス)で加圧した。30分後、反応容器を減圧し、1,7−オクタジエン(10g)を添加し、容器を20バールの合成ガスで加圧し、ヒドロホルミル化を60℃で6時間実施した。デカンジアールが84%のジアルデヒド選択率及び98%のリニアリティ(リニアリティ=1,10−デカンジアール/ジアールの合計)、98%の転化率で得られた。
【0135】
4.2: 水素化条件下でのデカンジアールとアセトンとのアルドール縮合
デカンジアール(10g)及びアセトン(40g)を、0.5重量%のPd及び5重量%のPrO(それぞれ、最終触媒に基づく)をAl(4mmの押出物)に担持させた触媒(1.6g)と混合した。その後、反応容器を10バールの水素で加圧し、180℃に加熱し、40バールの圧力に設定した。24時間後、反応を中止した。粗生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。2.8%のドデカノン、20.8%のトリデカナール−12−オン及び69.5%の2,15−ヘキサデカンジオンと共に6.9%(いずれも、GCの面積%)の他の副生成物が定量的な転化率で得られた。他の条件を変化させずにアセトン(45g)及び触媒(3.2g)を使用すると、2.6%のドデカノン、9.3%のトリデカナール−12−オン及び73.8%の2,15−ヘキサデカンジオンと共に14.3%(いずれも、GCの面積%)の他の副生成物が、同様に定量的な転化率で得られた。
【0136】
4.3: 2,15−ヘキサデカンジオンの分子内アルドール縮合
2,15−ヘキサデカンジオン(3g)、水(10ml)及びトルエン(60ml)の混合物を管型反応器において蒸発させた。混合物を2重量%のKO(最終触媒に基づく)をTiO(4mmの押出物)に担持させた触媒のベッド上で窒素流(10L/h)中に370℃で2時間通した。反応器からの生成物を凝縮し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。86%(GCの面積%)のデヒドロムスコン異性体の混合物が60%の転化率で得られた。
【0137】
4.4: デヒドロムスコン異性体の水素化
上記のようにして得たデヒドロムスコン異性体の混合物(2g)及びシクロヘキサン(40ml)を反応容器に入れ、10重量%のPdを炭素に担持させた触媒(Pd/C 10%)(1g)を添加した。反応容器を10バールの水素で加圧し、内容物を70℃で1時間撹拌した。得られた粗生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。ムスコンが98.5%(GCの面積%)の収率及び定量的な転化率で得られた。
【0138】
10重量%のPdをAlに担持させた触媒(Pd/Al 10%)を使用したときには、ムスコンは93.1%(GCの面積%)の収率及び98%の転化率で得られた。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の方法の好ましい実施形態において操作される装置を概略的に示す。
【符号の説明】
【0140】
A 比較的低沸点の画分
B 比較的高沸点の画分
C 中間沸点画分
D 比較的高沸点の画分
D1 第1蒸留装置
D2 別の蒸留装置
D3 別の蒸留装置
E 出口
N 副生成物画分
P 生成物画分
R 反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキセンのエチレンとのメタセシスによる1,7−オクタジエンの製造方法であって、未反応の出発物質及び得られた比較的高沸点の副生成物を精製した形態で反応混合物に再循環させる前記方法。
【請求項2】
a.エチレン及びシクロヘキセンを反応器Rにおいて適切な触媒と接触させ、
b.反応生成物を蒸留装置D1に移し、反応生成物を未反応エチレンを含む比較的低沸点の画分と比較的高沸点の画分に分離し、
c.こうして得られた比較的高沸点の画分を別の蒸留装置D2に移し、未反応シクロヘキセンを含む比較的低沸点の画分と1,7−オクタジエンを含む比較的高沸点の画分に分離し、
d.蒸留装置D1及びD2において分離された比較的低沸点の画分の各々を完全にまたは部分的に反応器Rに再循環させる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸留装置D2からの比較的高沸点の反応生成物の混合物を別の蒸留装置D3に移し、1,7−オクタジエンを比較的高沸点の副生成物から分離する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
蒸留装置D3において分離された比較的高沸点の副生成物を完全にまたは部分的に反応器Rに再循環させる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
連続的に実施する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
本質的にシクロヘキサノール及び/またはシクロヘキサノンを含まないシクロヘキセンを用いる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
使用するエチレン/使用するシクロヘキセンのモル比が1〜10である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
使用するエチレン/使用するシクロヘキセンのモル比が2〜4である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
Re、W、Mo、Ru、Os、Ta及び/またはNbを含む触媒を使用する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
担体としてのAlに対し担持させたRe含有化合物を含む触媒を使用する請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
担体としてのAlに対し担持させた、最終触媒の全重量に基づいて6〜12重量%のReを含む触媒を使用する請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
触媒を固定床触媒の形態で使用する請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
反応を管型反応器中で30〜110℃の温度で実施する請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
温度を反応の間上昇させる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
反応を管型反応器中で30〜120バールの圧力下で実施する請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
触媒上の空間速度が1〜5kg/kg/hである請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
1,7−オクタジエン及び少なくとも1つの内部二重結合を有する少なくとも1つの別のジオレフィンを含む混合物の異性化ヒドロホルミル化による1,10−デカンジアールの製造方法。
【請求項18】
1,7−オクタジエンを請求項1〜16のいずれかに記載の方法により製造し、ヒドロホルミル化する1,10−デカンジアールの製造方法。
【請求項19】
少なくとも1つの内部二重結合を有する別のジオレフィンを含む1,7−オクタジエンを用いる請求項18に記載の方法。
【請求項20】
1,6−オクタジエンを含む1,7−オクタジエンを用いる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ヒドロホルミル化を異性化条件下で実施する請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
デカンジアールを請求項1〜21のいずれかに記載の方法により製造し、
a.デカンジアールをアルドール反応に適した塩基または触媒の存在下でアセトンと反応させ、適当ならば接触水素化させるか、或いは塩基の存在下でアセト酢酸エチルと反応させ、その後加水分解し、脱カルボキシル化し、適当ならば接触水素化させ、
b.反応生成物を分子内アルドール縮合により環化し、適当ならば水素化する、
ムスコン及び/またはその部分水素化アナログの製造方法。
【請求項23】
デカンジアールとアセトンのアルドール縮合を水素化条件下で実施する請求項22に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−506691(P2007−506691A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527323(P2006−527323)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010435
【国際公開番号】WO2005/030681
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】