説明

2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物、その製造方法及びその用途

【課題】本発明は、デンドリティック(樹状)なポリフェニレン構造を有し、配位子として有効で、かつ種々の反応において、有用な触媒作用を有する新規化合物を見出すことを目的とする。
【解決手段】次の一般式(1)
【化1】


(式中、Bは窒素原子又はリン原子を示し、Rは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基(以下、TPBPという。)を示し、mは1又は2の整数を示し、mが1のときはRは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はTPBPを示し、mが2のときはRは、2価の炭素数1〜30の炭化水素残基を示す。)
で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基を有する新規な化合物、より詳細には、2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基を有する新規なホスフィン類又はアミン類、当該化合物の製造方法、並びにこれを用いた遷移金属触媒、及び当該触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフェニルフェニル基などを有するポリフェニレン化合物は、デンドリマー構造又はそれに類する構造を有するために、その光学的、電気的特徴等から、ナノマテリアルとして注目されている(非特許文献1および非特許文献2)。例えば、有機EL素子として、テトラフェニルキノジメタン、テトラフェニルナフトキノジメタン、テトラフェニルアントラキノジメタン、テトラフェニルビフェニル キノジメタンなどの芳香族炭化水素化合物を用いることが報告されている(特許文献1参照)。
一方、本発明者らは最近、2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基を有するピリジン配位子が、パラジウム触媒によるアルコール類の空気酸化において優れた配位子となることを報告してきた(非特許文献3)。テトラフェニルフェニル構造を有するこの触媒は、1000以上の触媒回転数を達成することができ、この構造により、パラジウムブラックの形成が抑制され、触媒の不活性化を防止できることを報告してきた。
このように、テトラフェニルフェニル構造を有する分子は、デンドリマー構造に起因するナノスケールの触媒反応を提供する場という観点のみならず、触媒活性の点からも注目されるものであり、テトラフェニルフェニル構造を有する新たな触媒種の開発が望まれている。
【0003】
一方、ハロゲン化アリール化合物とホウ素化アリール化合物のカップリング反応によるジアリール化合物の合成反応は、スズキ反応として知られており(非特許文献4参照)、アリール基とアリール基が直接結合したジアリール化合物を合成する方法である。この反応における触媒として各種の遷移金属触媒が開発されてきており、例えば、大規模な工業的な実施に適し、ジアリール化合物を高純度で高収量で製造できる触媒として、有機リン単座配位子を有するニッケル錯体、パラジウム錯体、又は白金錯体が報告されている(特許文献2参照)。
また、キラルな遷移金属錯体を触媒として用いた、不斉合成法、特に不斉水素化法が開発されてきており、各種のキラル触媒の開発も望まれてきている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−178549号
【特許文献2】特開2002−193845号
【非特許文献1】Berresheim, A.J.ら著、「Polyphenylene Nanostructures」、Chemical Reviews、1999年、第99巻、第7号、p.1747−1786
【非特許文献2】Watson, M.D.ら著、「Big Is Beautiful-"Aromaticity" Revisited from the Viewpoint of Macromolecular and Supramolecular Benzene Chemistry」、Chemical Reviews、2001年、第101巻、第1号、p.1267−1300
【非特許文献3】Iwasawaら著、「Homogeneous Palladium Catalyst Suppressing Pd Black Formation in Air Oxidation of Alcohols」、Journal of the American Chemical Society、2004年、第126巻、第21号、p.6554−6555
【非特許文献4】N.Miyaura及びA.Suzuki著、「Palladium-Catalyzed Cross-Coupling Reactions of Organoboron Compounds」、Chemical Reviews、1995年、第95巻、p.2457−2483
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、このポリフェニレン構造を持ち、遷移金属触媒における配位子として有効で、かつ種々の反応において、有用な触媒作用を有する新規な2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基を有する化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、デンドリマー様の特殊な化学構造をしている2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニル構造に着目し、この化学構造により形成されるナノ空間における触媒反応について検討してきたところ、2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニル基を有するアミン又はホスフィンが遷移金属における配位子として、優れた触媒作用を奏することを見出した。また、当該アミン誘導体は、キラリティーを有することが可能であり、キラル触媒としても有用である。
すなわち、本発明は、次の一般式(1)
【0007】
【化7】

【0008】
(式中、Bは窒素原子又はリン原子を示し、Rは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基(以下、TPBPという。)を示し、mは1又は2の整数を示し、mが1のときはRは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基(以下、TPBPという。)を示し、mが2のときはRは、2価の炭素数1〜30の炭化水素残基を示す。)
で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物又はその塩、及びこれらの化合物の遷移金属用の配位子、並びにこれらの化合物や配位子の使用に関する。
また、本発明は、遷移金属化合物に、前記した一般式(1)で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物が配位子として配位してなる遷移金属錯体に関する。
さらに、本発明は、前記した本発明の遷移金属錯体を含有してなる有機化合物合成用触媒、又は遷移金属化合物、及び前記した一般式(1)で表される化合物を含有してなる有機化合物合成用触媒、より詳細にはカップリング反応、ヒドロシリル化反応、又は不斉合成反応用の触媒に関する。
また、本発明は、前記した本発明の触媒の存在下に、置換基を有してもよいハロゲノアリールと、置換基を有してもよいアリールホウ酸とをカップリング反応させて置換基を有してもよいジアリール化合物の製造法に関する。
さらに、本発明は、前記した一般式(1)で表される化合物を製造する際の中間体として有用な、次の一般式(3)
【0009】
【化8】

【0010】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物、及び、次の一般式(4)
【0011】
【化9】

【0012】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリール基を示す。)
で表される化合物に関する。
さらに、本発明は、前記した一般式(3)で表されるハロゲン化物と、アミン又はハロゲン化リン化合物とを反応させて前記した一般式(1)で表される化合物を製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、前記した一般式(3)で表されるハロゲン化物を、アルカリ金属化合物の存在下に、ハロゲン化リン化合物と反応させて、前記した一般式(1)で表される化合物のうちのBがリン原子である化合物を製造する方法、及び前記した一般式(3)で表されるハロゲン化物を、パラジウム触媒の存在下に、アミン化合物と反応させて、前記した一般式(1)で表される化合物のうちのBが窒素原子である化合物を製造する方法に関する。
また、本発明は、前記した一般式(4)で表されるイミン誘導体を加水分解して次の式(5)
N−TPBP (5)
(式中、TPBPは前記と同じものを示す。)
で表される2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニルアミンの製造方法に関する。
【0013】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基(以下、TPBPという。)を有するアミン類またはホスフィン類であることを特徴とするものであり、TPBPがアミンの窒素原子又はホスフィンのリン原子に直接結合していることを特徴とするものである。このようなアミン類としてはモノアミンでもジアミンでもよく、またホスフィン類としてもモノホスフィンでもジホスフィンであってもよい。
本発明の好ましいホスフィン類としては、次の一般式(6)
【0014】
【化10】

【0015】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はTPBPを示す。)
で表されるモノホスフィン化合物や、次の一般式(7)
【0016】
【化11】

【0017】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はTPBPを示し、Rは2価の炭素数1〜30の炭化水素残基を示す。)
で表されるジホスフィン化合物が挙げられる。
また、本発明の好ましいアミン類としては、次の一般式(8)
【0018】
【化12】

【0019】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はTPBPを示す。)
で表されるモノアミン化合物や、次の一般式(9)
【0020】
【化13】

【0021】
(式中、Rは2価の炭素数1〜30の炭化水素残基を示し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はTPBPを示す。)
で表されるジアミン化合物が挙げられる。
【0022】
これらのアミン類は、塩酸塩や硫酸塩などの塩であってもよいが、遷移金属の配位子として使用する場合には遊離のものが好ましい。
また、本発明のこれらのアミン類やホスフィン類は、TPBPのビフェニル基のオルト位、メタ位又はパラ位のいずれの位置で結合していてもよい。
本発明におけるアルキル基は、炭素数1〜30、好ましくは1〜20の直鎖状又は分枝状の飽和炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−オクチル基などが挙げられる。
本発明におけるアリール基は、炭素数6〜30、好ましくは6〜20の単環式、多環式、又は縮合環式の芳香族炭化水素基を有する基であり、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビナフチル基などが挙げられる。
これらのアルキル基やアリール基は、置換基を有していてもよく、このような置換基としては、メチル基やエチル基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜10の低級アルキル基、前記した低級アルキル基から誘導されるメトキシ基やエトキシ基などの低級アルコキシ基、前記した低級アルキル基から誘導されるメチルチオ基やエチルチオ基などの低級アルキルチオ基、前記した低級アルキル基から誘導されるアセチル基やエチルカルボニル基などの低級アルキルカルボニル基、前記した低級アルキル基から誘導されるアセトキシ基などのアルキルカルボニルオキシ基、前記した低級アルキル基から誘導されるメトキシカルボニル基やt−ブトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、ニトロ基などが挙げられる。
【0023】
本発明のTPBPは、必要に応じてそれぞれのフェニル環上に置換基を有してもよく、このような置換基としては、前記した置換基を挙げることができる。
また、本発明の「2価の炭素数1〜30の炭化水素残基」としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20程度の直鎖状又は分枝状の飽和脂肪族基、炭素数2〜30、好ましくは炭素数2〜20程度の直鎖状又は分枝状の不飽和脂肪族基、炭素数3〜30、好ましくは炭素数5〜20程度の単環式、多環式、又は縮合環式の飽和又は不飽和環式脂肪族基、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜20程度の単環式、多環式、又は縮合環式の芳香族基、炭素数7〜30、好ましくは炭素数7〜20程度の単環式、多環式、又は縮合環式の芳香脂肪族基が挙げられる。
本発明の「2価の炭素数1〜30の炭化水素残基」は、前記した炭化水素基のどの位置で2価の基を形成してもよいが、これらの2価の炭化水素基により、本発明のジアミン類やジホスフィン類が形成されることになり、これらのジアミン類やジホスフィン類は、好ましくは遷移金属の2配座の配位子として使用されることから、本発明のジアミン類やジホスフィン類の窒素原子と窒素原子の間、又はリン原子とリン原子の間が、炭素数で1〜8個、好ましくは2〜4個の位置で2価の基を形成することが望ましい。
本発明の好ましい「2価の炭素数1〜30の炭化水素残基」としては、シクロアルキル基若しくはアリール基で置換されていてもよい直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキレン基、炭素数3〜30、好ましくは5〜20の単環式、多環式、又は縮合環式のシクロアルキレン基、炭素数6〜30、好ましくは6〜20の単環式、多環式、又は縮合環式のアリーレン基が挙げられる。
アルキレン基の置換基としてのシクロアルキル基としては、炭素数3〜30、好ましくは5〜20の単環式、多環式、又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。また、アリール基としては、前記したアリール基が挙げられる。
【0024】
より好ましい「2価の炭素数1〜30の炭化水素残基」としては、例えば置換基を有してもよい炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖状又は分枝状のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数3〜10、好ましくは5〜8のシクロアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6〜30の単環式、多環式、又は縮合環式のアリーレン基等が挙げられる。置換基を有してもよいアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、1,2−ブチレン基等が挙げられる。これらの置換基としてはシクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数3〜10、好ましくは5〜8のシクロアルキル基、フェニル基やナフチル基などの炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。置換基を有してもよいシクロアルキレン基としては、1,2−シクロヘキシレン基、1,2−シクロペンチレン基などが挙げられる。これらの置換基としては、メチル基やエチル基などの前記した低級アルキル基が挙げられる。置換基を有してもよいアリーレン基としては、例えば、1,2−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、2,2’−ビフェニレン基、2,2’−ビナフチレン基などが挙げられる。これらの置換基としては、メチル基やエチル基などの前記した低級アルキル基が挙げられる。
【0025】
さらに好ましい「2価の炭素数1〜30の炭化水素残基」としては、例えば次式(10)
−(R10)CH−CH(R11)− (10)
(式中、R10及びR11は、れぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基を示し、又はR10及びR11が一緒になって隣接する炭素原子と共に3〜8員環、好ましくは5〜6員環を形成していてもよい。)
で表されるエチレン基が挙げられる。
本発明の一般式(1)で表される化合物の好ましい例としては、次の式(2)
【0026】
【化14】

【0027】
(式中、Phはフェニル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)
で示される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物が挙げられる。
前記した一般式(2)で表される化合物の中の好ましい例としては、nが1であり、ビフェニル基の2位でリン原子が結合している化合物が挙げられる。
【0028】
本発明の一般式(1)で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物が配位子として配位してなる遷移金属錯体としては、遷移金属に前記した本発明の一般式(1)で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物が配位子として配位結合しているものであれば特に制限はないが、パラジウム化合物、ロジウム化合物、ニッケル化合物、又は白金化合物などの遷移金属化合物に一般式(1)の化合物が配位している遷移金属錯体が好ましい。
好ましい遷移金属化合物における遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム 、ニッケル、銅等が挙げられ、好ましい遷移金属化合物としては、これらの塩化物などの無機塩、酢酸塩などの有機酸塩、ジベンジリデンアセトン錯体、ホスフィン錯体などが挙げられる。より好ましい遷移金属化合物としては、ジベンジリデンアセトン錯体、ホスフィン錯体などの遷移金属錯体が挙げられる。
さらに好ましい遷移金属化合物としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、トリス(トリエチルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。
【0029】
本発明の一般式(1)で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物が配位子として配位してなる遷移金属錯体は、前記してきた遷移金属化合物と本発明の一般式(1)で表される化合物を混合することにより製造することができる。このようにして製造された本発明の遷移金属錯体は、これを触媒として使用する場合には、反応混合物中から本発明の遷移金属錯体を単離することなく、反応混合物のままで使用することができる。
一般的には、触媒反応をする反応系中で、本発明の遷移金属錯体を生成させ、単離することなくそのまま使用するのが、処理手順の点及び触媒活性の点からも好ましいことが多い。
本発明の好ましい遷移金属錯体としては、一般式(1)で表される化合物の配位子として、前記した一般式(2)で示される化合物からなる配位子を有する遷移金属錯体が挙げられる。
次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の製造方法について説明する。本発明の一般式(1)で表される化合物は、次の一般式(3)
【0030】
【化15】

【0031】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を原料として製造することができる。一般式(3)におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよいが、通常は臭素原子が好ましい。
より詳細には、一般式(3)で表されるハロゲン化物を、ハロゲン化リン化合物と反応させることにより、本発明の一般式(1)で表される化合物のうちのBがリン原子である化合物を製造することができ、また、一般式(3)で表される化合物を、アミン化合物と反応させることにより、本発明の一般式(1)で表される化合物のうちのBが窒素原子である化合物を製造することができる。
【0032】
一般式(3)で表されるハロゲン化物を、ハロゲン化リン化合物と反応させる方法としては、一般式(3)で表されるハロゲン化物をアルカリ金属化合物の存在下に、ハロゲン化リン化合物と反応させる方法が好ましい。
例えば、前記一般式(3)のハロゲン化TPBPを、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属又は金属化合物と反応させて金属化して、TPBP−金属化合物とし、これにハロゲン化リン化合物又はアミンを反応させることにより製造することができる。
金属化に使用する金属としては、ナトリウムやリチウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属が挙げられ、より具体的には、ナトリウムエトキサイド、ナトリウム−t−ブトキサイド、n−ブチルリチウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
また、上記式のハロゲン化リンとしてはフッ化リン、塩化リン、臭化リン、ヨウ化リンなどが挙げられるが、塩化リンが好ましい。ハロゲン化リンにおけるリン−ハロゲン結合の数に応じてTPBPを導入することができる。例えば、ハロゲン化リンとして、モノハロゲン化リンを使用した場合には、TPBPが1個導入された化合物を製造することができ、ジハロゲン化リンを使用した場合には、TPBPが2個導入された化合物を製造することができる。また、ハロゲン化リンとしてモノホスフィン誘導体を使用した場合には、TPBPを有するモノホスフィン体を製造することができ、ジホスフィン誘導体を使用した場合には、対応するジホスフィン体を製造することができる。
【0033】
また、一般式(3)で表されるハロゲン化物を、アミン化合物と反応させる方法としては、一般式(3)で表されるハロゲン化物を塩基の存在下に、パラジウム触媒を用いて、アミン化合物と反応させる方法が好ましい。
例えば、酢酸パラジウム/BINAP(2、2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル)を触媒として、ナトリウム−t−ブトキサイドを用いて、1,2−ジフェニルエチレンジアミン及び2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(4−ブロモ体,3a)のクロスカップリングを行うと、目的とするジアミン(N,N’−ジ{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン;8a)が93%と良好な収率で得ることが出来る。Pd触媒の前駆体として0価のPd(dba)(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)を用いても89%収率と同程度の収率で得ることができる。また、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3−ブロモ体)の場合に関しても目的のジアミン(N,N’−ジ{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン;8b)を83%と良好な収率で得ることが出来る。
この方法における塩基としては、ナトリウム−t−ブトキサイドなどのナトリウムアルコキサイドを使用することができる。また、パラジウム触媒としては酢酸パラジウムなどの2価のパラジウム化合物や、Pd(dba)などの0価のパラジウム化合物など各種のパラジウム化合物を使用することができる。
【0034】
アミンとしては、モノアミン又はジアミンを使用することができ、それぞれ対応するモノアミン体及びジアミン体を製造することができる。当該アミンとしては、1級アミン又は2級アミンのいずれも使用することができるが、通常は1級アミンが好ましい。
具体的なジアミンを例示すれば、1,2−ジフェニルエタンジアミン等のエチレンジアミンの誘導体、1,2−ジアミノエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタン等のアルキルジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン等のシクロアルキルジアミン、2,2’−ジアミノ−1,1’−ビスナフチル、ビフェニル−2、2’−ジアミン等のビスアリールジアミンが、好ましいジアミンとして挙げられる。
原料のアミンとしてキラルなアミンを使用することにより、キラルな一般式(1)で表される化合物を製造することができる。このようにして製造されたキラルな化合物は、キラルな配位子として不斉合成、例えば、不斉還元触媒として使用することも考えられる。
【0035】
本発明の2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニル基を有するジアミン類は、金属原子に配位した場合に、従来のアミン配位子と比べて、より大きな立体的環境を金属周りに作り出すことができ、優れた配位子として種々の反応において高い触媒活性を奏することが期待される。特に原料ジアミン(NH−Y−NH)として、キラリティーを有するジアミンを使用した場合、キラリティーを有するジアミン類を得ることができ、このようなキラリティーを有するジアミン類はキラルな配位子として有用であり、不斉合成等において、遷移金属錯体などと一緒に用いることにより有用な触媒を得ることができる。
例えば、ラセミ体のシクロヘキサン−1,2−ジアミンと光学活性体のシクロヘキサン−1,2−ジアミンをそれぞれ用いて、一般式(1)で表される化合物として次式
【0036】
【化16】

【0037】
で表されるN,N’−ジ{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−シクロヘキサン−1,2−ジアミンのキラル体(7b,キラル)及びラセミ体(7b,ラセミ)をそれぞれ製造した。この両者のキラリティーを、HPLC(カラム:ダイセル(株)製、キラルセル OD(商品名)、展開溶媒:ヘキサン/イソプロパノール=12/1、流速0.125ml/分)を用いて測定した。その結果を図1に示す。図1のラセミ体と記載されているもの(図1の左側)は、ラセミ体の原料を用いて製造された7b体の測定結果であり、(S,S)−異性体と記載されているもの(図1の右側)は光学活性体の原料を用いて製造された7b体の測定結果である。この結果、ラセミ体の7bでは2本のピーク(retention time = 53.802及び58.378)があったのに対し、キラル体の7bでは一本のピーク(retention time = 52.458)しか現れないことから、本発明の方法による製造過程でキラル体のラセミ化は起こっていないことが明らかになった。
【0038】
本発明の一般式(1)で表される化合物を製造する際に使用される前記一般式(3)で表されるハロゲン化物は、ハロゲン化ベンゼンをアセチレン化してハロゲン化フェニルアセチレンとし、これを2’、3’、4’、5’−テトラフェニルシクロペンタジエノンとを反応(Diels−Alder反応)させることにより製造することができる。
例えば、ハロゲンとして臭素の場合を例として説明すれば、本発明の一般式(3)で表される化合物は、次に示す反応経路により製造することができる。
【0039】
【化17】

【0040】
(式中、TIPSはイソプロピルシリルを示す。)
即ち、ブロム化ヨードベンゼンと1端がイソプロピルシリル(TIPS)基などで保護されたアセチレン、例えばイソプロピルシリル(TIPS)アセチレンとを、Sonogashiraカップリング反応によりカップリングさせて、保護化ブロム化フェニルアセチレン誘導体とし、次いでアセチレン基の末端の保護基を除去してブロム化フェニルアセチレン誘導体とし、これを2’、3’、4’、5’−テトラフェニルシクロペンタジエノンとを反応(Diels−Alder反応)させることにより、目的の一般式(3)で表される化合物を製造することができる。
前記のディールスアルダー反応(Diels−Alder反応)における、反応温度は溶媒、例えばキシレンの還流温度が好ましく、反応時間は1〜30時間程度である。
上記のようにして得られた、本発明の一般式(3)で表されるハロゲノ(2’、3’、4’、5’−テトラフェニル)ビフェニルは、本発明の一般式(1)で表される化合物の製造用の中間体として有用なものであり、新規な化合物である。
なお、一般式(3)におけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等の原子が挙げられる。
【0041】
本発明の一般式(1)で表される化合物のうちで、Bが窒素原子で、mが1で、R及びRが同時に水素原子である化合物、即ち、次の式(5)
N−TPBP (5)
(式中、TPBPは前記と同じものを示す。)
で表される2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニルアミンは、前記した方法によって製造しようとする場合には、気体又は液体アンモニアを原料として使用することが、これを効率よく製造する方法として、次の一般式(4)
【0042】
【化18】

【0043】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリール基を示す。)
で表される化合物を加水分解する方法がある。
なお、一般式(4)におけるアリール基、その置換基については前記したものと同じである。
即ち、一般式(4)で表されるN−ジアリールメチリデン(2’、3’、4’、5’−テトラフェニル)ビフェニルアミンを、塩酸等の無機酸を用いて加水分解することにより、式(5)
N−TPBP (5)
(式中、TPBPは前記と同じものを示す。)
で表される2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニルアミンを製造することができる。
【0044】
この反応の原料となる一般式(4)で表される化合物は、ジアリールケトンのイミノ体と一般式(3)で表される化合物とを、例えばパラジウム/BINAP系触媒等のパラジウム触媒の存在下に、脱ハロゲン化水素反応させてカップリングさせることにより製造することができる。
この反応は、例えばトルエンなどの炭化水素系有機溶媒中において、好ましくはパラジウム錯体等の触媒の存在下に、40℃〜160℃程度の反応温度で行うのが好ましい。
上記のようにして得られた、本発明の一般式(4)で表されるN−ジアリールメチリデン(2’、3’、4’、5’−テトラフェニル)ビフェニルアミンは、本発明の一般式(1)で表される化合物の製造用の中間体として有用なものであり、新規な化合物である。前記一般式(4)で表される化合物における、好ましいR及びRとしては、フェニル基が挙げられる。
【0045】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機合成における各種の金属触媒、特に遷移金属触媒における遷移金属の配位子として有用である。ホスフィン錯体やアミン錯体を形成し得る遷移金属における配位子として本発明の一般式(1)で表される化合物を使用することができる。例えば、当該化合物をパラジウム触媒における配位子として使用した場合、鈴木カップリング反応等において高い触媒活性を示す。
したがって、本発明は、前記してきた本発明の一般式(1)で表される化合物を遷移金属の配位子として使用する有機合成用の触媒を提供するものである。
本発明の触媒は、遷移金属触媒系において、本発明の一般式(1)で表される化合物を配位子として添加することにより行うこともできるし、また遷移金属化合物と本発明の一般式(1)で表される化合物とから本発明の遷移金属錯体を製造し、当該遷移金属錯体を触媒として使用することもできる。
したがって、本発明は、本発明の前記した遷移金属錯体を含有してなる有機化合物合成用触媒、並びに遷移金属化合物、及び本発明の一般式(1)で表される化合物を含有してなる有機化合物合成用触媒を提供する。
【0046】
本発明の触媒における遷移金属化合物の遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム 、ニッケル、銅等が挙げられ、好ましい遷移金属化合物としては、これらの塩化物などの無機塩、酢酸塩などの有機酸塩、ジベンジリデンアセトン錯体、ホスフィン錯体などが挙げられる。より好ましい遷移金属化合物としては、ジベンジリデンアセトン錯体、ホスフィン錯体などの遷移金属錯体が挙げられる。
さらに好ましい遷移金属化合物としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、トリス(トリエチルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。また、遷移金属触媒系としては、例えば、パラジウム/BINAP(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル)系触媒(例えばPd(dba)/BINAP及び酢酸パラジウム/BINAP等)、パラジウム/PYBOX(ビスオキサゾニルピリジン)系触媒等が挙げられる。
【0047】
本発明の触媒における有機合成反応としては、遷移金属触媒系を使用することができる合成反応であればよいが、好ましい合成反応としては、カップリング反応、好ましくはアリールクロスカップリング反応、ヒドロシリル化反応、水素化反応、不斉合成反応などが挙げられる。とりわけ、スズキ反応として知られているアリールクロスカップリング反応や、本発明の一般式(1)で表される化合物のうちで、キラルなジアミン類を使用した不斉合成用触媒として、本発明の触媒は有用である。
【0048】
例えば、2−ジフェニルホスフィノ−2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニルを遷移金属触媒、特にパラジウム触媒の配位子として使用して、置換基を有してもよいハロゲノアリールと置換基を有してもよいアリールホウ酸とのカップリング反応を行うとき、非常に高収率で置換基を有してもよいジアリール化合物を製造することができる。
Ar−Z + (HO)B−Ar → Ar−Ar
(式中、Arは置換基を有してもよいアリール基、Zはハロゲン原子を表す。)
上記反応は通常適当な有機溶媒、例えばテトロヒドロフラン(THF)中において、原料化合物の両者を適当な量、例えばほぼ等モル若しくはいずれか一方を過剰に使用して、ハロゲノアルカリ金属化合物、好ましくはフッ化カリウム、パラジウム触媒好ましくはトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム及び2−ジフェニルホスフィノ−2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニルの存在下において、0℃から150℃、好ましくは20〜100℃において反応させることにより、目的のジアリール化合物を得ることができる。
アリールとしてはフェニル基、ナフチル基等を挙げることができ、置換基としては炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等を挙げることができる。
【0049】
したがって、本発明は、本発明の触媒の存在下に、置換基を有してもよいハロゲノアリールと、置換基を有してもよいアリールホウ酸とをカップリング反応させて置換基を有してもよいジアリール化合物の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0050】
本発明の一般式(1)で表される新規な2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニル化合物は、配位子、例えば金属触媒特に遷移金属触媒等の配位子として有用である。例えば、遷移金属等に配位した場合に、金属周りにナノスケールの立体的環境を作り出すものであり、鈴木カップリング反応等のカップリング反応その他の反応において優れた触媒作用を奏するものである。また、本発明の一般式(3)で表されるハロゲノ(2’、3’、4’、5’−テトラフェニル)ビフェニルは、テトラフェニルビフェニル基を有する化合物の合成のための中間体として有用であり、特に本発明の新規化合物を合成するための中間体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
下記の実施例において、試薬及び分析機器は以下のものを用いた。
【0052】
(試薬)
トリイソプロピルシリルアセチレン(Aldrich)、2,3,4,5−テトラフェニルシクロペンタジエノン(Aldrich)、BINAP(2、2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル)(Aldrich)などの試薬は、試薬会社から購入後、精製せずに使用した。
カラムクロマトグラフィー用のシリカゲルはワコーゲルC−200(商品名;和光純薬工業)を用いた。TLCプレートはMerckシリカゲル60F254 (商品名)20 cm×20 cmを用いた。
【0053】
(分析機器)
キラルガスクロマトグラフィーのキラルカラムはJ&W CYCLODEX B (length 30 m, 0.25 mm I.D;商品名)を用い、HPLCでのキラルカラムはDaicel, CHIRALCEL OD(商品名)を用いた。
【実施例1】
【0054】
2’、3’、4’、5’−テトラフェニルブロモビフェニル類の製造
次に示す合成スキーム1にしたがって目的のブロム化物を製造した。
【0055】
【化19】

【0056】
(1)1−トリイソプロピルシリル−2−ブロモフェニルアセチレン類(1a,1b及び1c)の製造
1−トリイソプロピルシリル−2−(4−ブロモフェニル)アセチレン(1a)の製造:
アルゴンガスで置換した100mLの二口ナスフラスコにトリイソプロピルシリルアセチレン(3.55 g, 19.4 mmol)及びp-ブロモヨードベンゼン(5.00g, 17.7 mmol)を入れ、アルゴンガスで脱気したピペリジン(20 mL)を加えた。0℃まで冷却し、20分攪拌した。0 ℃に保持したままPdCl(PPh(124 mg, 0.177 mmol)、CuI(67.2 mg, 0.353 mmol)を加え、0℃で1時間攪拌した後、さらに室温で5時間攪拌した後、反応混合物をセライトろ過し、ジエチルエーテルで洗浄した。ろ液を濃縮した後、濃縮したろ液をHCl(1M)で中和し、水洗し、沈殿物をセライトでろ過し、ジエチルエーテルで洗浄した。ろ液を集め濃縮し、水洗し、NaSOで乾燥し、濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)により精製して、標題の化合物を黄色油状物質として得た(5.43g、91%)。
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.42-7.44 (m, 2H), 7.32-7.34 (m, 2H), 1.10-1.13 (m, 21H).
【0057】
原料のブロム体としてp−ブロモヨードベンゼンに代えて、m−ブロモヨードベンゼン又はo−ブロモヨードベンゼンを用いて、同様にして、目的のm−体及びo−体を得た。
m−体 1−トリイソプロピルシリル−2−(3−ブロモフェニル)アセチレン(1b):97%、
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.62 (t, J = 1.6Hz, 1H), 7.39-7.49 (m, 2H), 7.17 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 1.18-1.05 (m, 21H).
o-体 1-トリイソプロピルシリル-2-(2-ブロモフェニル)アセチレン(1c) : 80%、
H NMR (400 MHz,CDCl) δ;
7.57-7.59 (m, 1H), 7.50-7.53 (m, 1H), 7.23-7.24 (m, 1H),
7.13-7.18 (m, 1H), 1.10-1.55 (m, 21H).
【0058】
(2)ブロモフェニルアセチレン類(2a,2b及び2c)の製造
4−ブロモフェニルアセチレン(2a)の製造:
100mLのフラスコに、前記(1)で得られた1−トリイソプロピルシリル−2−(4−ブロモフェニル)アセチレン(1a)(2.60 g、7.71 mmol)の水(46.2 mmol)とTHF(7.7 mL)の混合溶媒の溶液をとり、これにテトラ−n−ブチルアンモニウムフルオライド(1M THF溶液、9.25 mL、9.25 mmol)を5分間かけて滴下した。その後、10分間室温下で攪拌した後、飽和NHCl水溶液(25 mL)で中和した。反応混合物をペンタン (25 mL×3)で抽出し、抽出液をNaSOで乾燥し、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ペンタン)で精製して、標題の化合物を無色固体物質として得た(1.20g、86%)。
H NMR (400 MHz,CDCl) δ;
7.46-7.48 (m, 2H), 7.37-7.35 (m, 2H), 3.12 (s, 1H).
【0059】
原料物質として1−トリイソプロピルシリル−2−(4−ブロモフェニル)アセチレン(1a)に代えて、そのm−体(1b)又はo−体(1c)を用いて、同様にして、目的のm−体及びo−体を得た。
m−体 3−ブロモフェニルアセチレン(2b):75%、
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.64 (t, J = 1.7 Hz, 1H), 7.48-7.50 (m, 1H), 7.41-7.43 (m, 1H),
7.20 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 3.12 (s, 1H).
o-体 2-ブロモフェニルアセチレン(2c) : 93%、
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.89 (dd, J = 8.0, 1.2 Hz, 1H), 7.54 (dd, J = 7.6, 1.8 Hz, 1H),
7.28 (dt, J = 7.3, 1.2 Hz, 1H), 7.21 (dt, J = 7.7, 1.8 Hz, 1H),
3.38 (s, 1H).
【0060】
(3)2’,3’,4’,5’−テトラフェニルブロモビフェニル類(3a,3b及び3c)の製造
2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)の製造:
アルゴンガスで置換した200mL二口ナスフラスコに、前記(2)で得られた4−ブロモフェニルアセチレン(2a)(1.23 g, 6.79 mmol)、及びテトラフェニルシクロペンタジエノン(2.18 g, 5.66 mmol)のo−キシレン(37 mL)溶液を入れ、その後、19時間加熱還流した。室温まで冷却した後、濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物をプロピオニトリルで再結晶して、標題の化合物を無色固体として得た(2.6g、70%)。
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.52 (s, 1H), 7.28-7.32 (m, 2H), 7.17 (m, 5H), 7.09-7.14 (m, 2H),
6.94-6.97 (m, 6H), 6.84-6.88 (m, 7H), 6.78-6.79 (m, 2H).
【0061】
原料物質として、4−ブロモフェニルアセチレン(2a)に代えて、そのm−体又はo−体を用いて、同様にして、目的のm−体(3b)及びo−体(3c)をそれぞれ得た。
m−体 2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3b):92%
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.56 (s, 1H), 7.42-7.43 (m, 1H), 7.29 (d, J = 7.2 Hz, 1H),
7.19 (brs, 5H), 7.03-6.80 (m, 17H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
122.2, 125.87, 126.1, 126.3, 126.8, 127.1, 127.1, 127.5, 128.1,
129.1, 129.4, 129.7, 130.3, 131.6, 131.8, 131.9, 133.3, 139.6,
139.7, 139.9, 140.19, 140.25, 140.5, 141.4, 141.9, 142.3, 144.2.
FD-MS m/z = 537 [M].
元素分析 計算値; C, 80.45; H, 4.69.
実測値; C, 80.20; H, 4.88.
【0062】
o−体 2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−2−ブロモビフェニル(3c):70%
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.53 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 7.49 (s, 1H), 7.21-6.84 (m, 23H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
124.3, 125.8, 126.07, 126.14, 126.7, 126.8, 126.9, 127.0, 127.1,
127.4, 128.0, 128.7, 130.5, 131.1, 131.5, 131.7, 131.9, 132.0,
132.1, 132.7, 140.1, 140.2, 140.3, 140.4, 140.6,142.0, 142.1, 142.9.
FD-MS m/z = 537 [M].
元素分析 計算値; C, 80.45; H, 4.69.
実測値; C, 80.40; H, 4.54.
【実施例2】
【0063】
ジフェニル(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)ホスフィン類の製造
次に示す合成スキーム2にしたがって目的のジフェニル(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)ホスフィン類(4a〜4c)を製造した。
【0064】
【化20】

【0065】
(1)4−(ジフェニルホスフィノ)−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル(4a)の製造
【0066】
【化21】

【0067】
−78℃下、2'、3'、4'、5'、-テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)(1.1g、2.1 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10mL)にn−ブチルリチウム(1.33 mL、2.1 mmol)を2分かけて加え、30分攪拌した後、ジクロロフェニルホスフィン(1 mmol)を加え、室温下で0.5時間攪拌した。除媒後トルエン(20 mL)を加え、水(10 mL)で洗い、芒硝で乾燥後、真空乾燥を行った。クロロホルム、トルエン、メタノールの混合溶液を用いて再結晶操作を行い、標題の化合物を白色粉末として901 mg(88%収率)得た。
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.61 (s, 1H), 7.36-7.34 (m, 5H), 7.28-7.24 (m, 4H),
7.19-7.13 (m, 9H), 6.99-6.95 (m, 6H), 6.91-6.81 (m, 10H).
13C NMR (100 MHz, CDCl) δ;
142.9, 142.1, 142.0, 141.2, 140.9, 140.6, 140.31, 140.26, 139.9,
139.8, 137.7, 137.6, 135.1, 135.0, 134.2, 134.0, 133.5, 133.3,
132.01, 131.95, 131.89, 131.5, 130.53, 130.46, 130.38, 129.1,
128.9, 128.8, 128.1, 127.4, 127.3, 127.1, 126.7, 126.1, 125.8.
31P NMR (162 MHz, CDCl) δ; -5.90.
FD-MS m/z (%) 642 (100%, M+). 計算値; 642.25
【0068】
(2)3−(ジフェニルホスフィノ)−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル(4b)の製造
原料物質として、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体である、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3b)を用いて、前記(1)と同様にして、次の化学式で示される目的のm−体(4b)を得た。
【0069】
【化22】

【0070】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.45 (s, 1H), 7.33-7.08 (m, 18H), 6.92-6.89 (m, 6H),
6.86-6.81 (m, 6H), 6.77-6.73 (m, 4H).
13C NMR (100 MHz, CDCl) δ;
142.5, 142.4, 142.1, 142.0, 141.1, 140.9, 140.6, 140.3, 140.1,
139.78, 139.72, 137.3 (d, Jcp = 11 Hz), 136.7 (d, Jcp = 11 Hz),
135.4 (d, Jcp = 17 Hz), 134.4 (d, Jcp = 20 Hz),
132.2 (d, Jcp = 22 Hz), 131.93-131.87 (broad m), 131.78, 131.6,
130.6, 130.3, 129.4, 129.0, 128.8, 128.7, 128.6, 128.4, 128.3,
128.0, 127.4, 127.3, 127.0, 126.7, 126.1, 126.0, 125.7.
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ; -5.08.
FD-MS m/z (%) 642 (100%, M+). 計算値; 642.25
【0071】
(3)2−(ジフェニルホスフィノ)−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル(4c)の製造
原料物質として、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのo−体である、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−2−ブロモビフェニル(3c)を用いて、前記(1)と同様にして、次の化学式で示される目的のo−体(4c)を得た。
【0072】
【化23】

【0073】
H NMR (400 MHz, CDCl3) δ;
7.34-7.23 (m, 9H), 7.20-6.81 (m, 24H), 6.66-6.64 (m, 2H).
13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ;
147.6 (d, Jcp = 32 Hz), 141.6, 141.3, 140.4, 140.11, 140.08,
140.0 (d, Jcp = 6.3 Hz), 139.4, 139.23, 139.21,
138.5 (d, Jcp = 14 Hz), 137.2 (d, Jcp = 13 Hz),
136.4 (d, Jcp = 12 Hz), 134.3 (d, Jcp = 21 Hz),
133.6 (d, Jcp = 1.7 Hz), 133.0 (d, Jcp = 18 Hz),
132.3 (d, Jcp = 3.0 Hz), 131.7, 131.5, 131.4,
130.9 (d, Jcp = 5.6 Hz), 129.8, 128.5, 128.4 (d, Jcp = 7.4 Hz),
128.2 (d, Jcp = 5.6 Hz), 127.9, 127.8, 127.2, 127.0, 126.9,
126.8, 126.6, 126.4, 125.58, 125.54, 125.48, 125.2.
31P NMR (243 MHz, CDCl3) δ; -12.4.
FD-MS m/z (%) 642 (100%, M+). 計算値; 642.25
元素分析 C4835Pとして:
計算値; C, 89.69; H, 5.49.
実測値; C, 89.40; H, 5.49.
【実施例3】
【0074】
フェニル−ビス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)ホスフィン類の製造
次に示す合成スキーム3にしたがって目的のフェニル−ビス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)ホスフィン類(5a〜5b)を製造した。
【0075】
【化24】

【0076】
(1)ビス−{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}フェニルホスフィン(5a)の製造
【0077】
【化25】

【0078】
−78度下、2'、3'、4'、5'、-テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)(1.2g、2.2mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10mL)にn−ブチルリチウム(1.38 mL、2.2 mmol)を2分かけて加え、30分攪拌した後、クロロジフェニルホスフィン(2.4mmol)を加えて、室温下に0.5時間攪拌した。除媒後トルエン(20mL)を加え、水(7mL)で洗い、芒硝で乾燥後、真空乾燥を行った。クロロホルムとメタノールから再沈殿操作を行い、標題の化合物を白色粉末として1.0g(81%収率)得た。
13H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.57 (s, 2H), 7.33-7.28 (m, 2H), 7.19-7.08 (m, 15H),
6.99-6.77 (m, 36H).
13C NMR (100 MHz, CDCl) δ;
142.72, 142.09, 142.01, 141.18, 140.83, 140.60, 140.28, 140.22,
139.89, 139.79, 137.7 (d, Jcp = 11 Hz), 135.1 (d, Jcp = 10 Hz),
133.9 (d, Jcp = 19 Hz), 133.3 (d, Jcp = 19 Hz), 131.96,
131.91 (br), 131.86, 131.41, 130.40, 130.34 (br), 129.45,
128.77, 128.70, 128.64, 128.01, 127.34, 127.27, 127.06, 126.69,
126.05, 125.79.
31P NMR (162 MHz, CDCl) δ; -6.78.
FD-MS m/z (%) 1022 (100%, M+). 計算値; 1022.40
【0079】
(2)ビス−{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}フェニルホスフィン(5b)の製造
原料物質として、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体である、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3b)を用いて、前記(1)と同様にして、次の化学式で示される目的のm−体(5b)を得た。
【0080】
【化26】

【0081】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.51 (broad s, 2H), 7.29-7.24 (m, 2H), 7.19-7.11 (m, 15H),
6.96-6.71 (m, 36H).
13C NMR (100 MHz, CDCl) δ;
142.35, 142.30, 142.22, 142.07, 141.98, 141.75, 141.37, 141.12,
140.99, 140.62, 140.44, 140.28, 140.17, 140.13, 140.10, 139.95,
139.78, 139.75, 139.67, 139.62, 137.0 (d, Jcp = 11 Hz),
136.7 (d, Jcp = 11 Hz), 134.6 (d, Jcp = 21 Hz),
134.5 (d, Jcp = 20 Hz), 132.6 (d, Jcp = 10 Hz),
132.2 (d, Jcp = 19 Hz), 131.93-131.71 (br), 131.60, 131.53,
130.56, 130.33 (br), 130.29, 129.44, 128.72, 128.64, 128.19,
128.12, 128.01, 127.97 (br), 127.39, 127.35, 127.31 (br),
127.06, 127.00, 126.78, 126.67, 126.09, 126.03, 126.00, 125.7.
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ; -5.21.
FD-MS m/z (%) 1022 (100%, M+). 計算値; 1022.40
【実施例4】
【0082】
トリス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)ホスフィン類の製造
次に示す合成スキーム4にしたがって目的のトリス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)ホスフィン類(6a〜6b)を製造した。
【0083】
【化27】

【0084】
(1)トリス−{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}ホスフィン(6a)の製造
【0085】
【化28】

【0086】
−78度下、n−ブチルリチウムのテトラヒドロフラン溶液(1mL)に2'、3'、4'、5'-テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)のテトラヒドロフラン溶液(3.3 mL)を5分かけて加え、30分攪拌した後、トリクロロホスフィン(0.33 mmol)を加え、室温下で1時間攪拌した。除媒後クロロホルム(10 mL)を加え、水(3 mL)で洗い、芒硝で乾燥後、真空乾燥を行った。クロロホルム、トルエン、メタノールの混合溶液を用いて再結晶操作を行い標題の化合物を白色粉末として272 mg(58%収率)得た。
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.58 (s, 3H), 7.16-7.07 (m, 21H), 6.95-6.78 (m, 51H).
13C NMR (100 MHz, CDCl) δ;
142.7, 142.14, 142.05, 141.2, 140.9, 140.6, 140.32, 140.25,
139.9, 139.8, 135.2 (d, Jcp = 10 Hz), 133.2 (d, Jcp = 19 Hz),
132.0-131.9, 131.5, 130.4, 128.1, 127.4, 127.3, 127.1, 126.8,
126.1, 125.9.
31P NMR (162 MHz, CDCl) δ; -7.74.
FD-MS m/z (%) 1403 (100%, M+). 計算値; 1402.56
元素分析 C10875Pとして:
計算値; C, 92.41; H, 5.39.
実測値; C, 92.33; H, 5.55.
【0087】
(2)トリス−{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}ホスフィン(6b)の製造
原料物質として、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体である、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3b)を用いて、前記(1)と同様にして、次の化学式で示される目的のm−体(6b)を得た。
【0088】
【化29】

【0089】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ;
7.51 (s, 3H), 7.19-7.13 (m, 12H), 7.07-7.01 (m, 9H),
6.93-6.71 (m, 48H), 6.60 (br, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl) δ;
142.13, 142.03, 142.00, 141.15, 141.05, 140.6, 140.3, 140.1,
139.8 (二つのピークが重なっている), 136.6 (d, Jcp = 11 Hz),
135.7 (d, Jcp = 24 Hz), 132.2 (d, Jcp = 15 Hz),
131.9-131.8 (広い、3つのピークが重なっている), 131.5, 130.5,
130.3, 129.4, 128.6,
128.07-127.97 (広い、3つのピークが重なっている), 127.3, 127.2,
127.0, 126.7, 126.0, 125.7.
31P NMR (162 MHz, CDCl) δ; -5.24.
FD-MS m/z (%) 1403 (100%, M+). 計算値; 1402.56
【実施例5】
【0090】
N,N’−ビス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン類(7a及び7b)の製造
【0091】
【化30】

【0092】
(1)N,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−シクロヘキサン−1,2−ジアミン(7a)の製造:
アルゴンガスで置換した20mL二口ナスフラスコに酢酸パラジウム(1.6 mg, 7.1 mmol)及びBINAP(18.2 mg, 28.4 mmol)を入れ、アルゴンガスで脱気したトルエン(3 mL)を加えて30分間室温下で攪拌した。次に、ナトリウム-tert-ブトキシド (43.1 mg, 426 mmol)を加えて30分間室温下で攪拌した。そこに、1,2−ジアミノシクロヘキサン(16.2 mg, 142 mmol)及び2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)(152.5mg,284mmol)を加え、100℃に加熱し、20時間攪拌した。室温まで冷却し、濃縮した後、反応粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/エーテル 9/1)で精製し、標題の化合物を無色固体物質として得た(102mg、70%)。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.97 (s, 2H), 7.40 (d, J = 7.4 Hz), 6.83-7.28 (m, 40H),
6.35 (d, J = 8.5 Hz), 3.35 (s, 2H), 2.82 (brs, 2H),
2.12 (brd, J = 12.3 Hz), 1.46-1.50 (m, 3H), 0.87-1.10 (m, 3H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
24.9, 32.6, 57.3, 113.5, 125.9, 126.2, 126.7, 127.3, 127.7, 127.8
128.2, 130.6, 131.4, 131.6, 132.1, 132.2, 132.3, 132.5, 139.3,
139.8, 141.1, 141.4, 141.5, 141.7, 141.8, 142.6, 142.8, 146.9.
FD-MS m/z = 1026 [M+]. 計算値; 1026.49
元素分析 計算値; C, 91.19; H, 6.08; N, 2.73.
実測値; C, 91.09; H, 6.33; N, 2.72.
旋光度 [a]27 +204.2°(c 1.07, C6H6).
【0093】
(2)N,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−シクロヘキサン−1,2−ジアミン(7b,キラル体)(光学活性体)の製造:
アルゴンガスで置換した20mL二口ナスフラスコに酢酸パラジウム(1.6 mg, 7.1 mmol)、BINAP(18.2 mg, 28.4 mmol)を入れた。アルゴンガスでバブリングしたトルエン(3 mL)を加え、30分間室温下で攪拌した。次に、ナトリウム-tert-ブトキシド (43.1 mg, 426 mmol)を加え、30分間室温下で攪拌した。そこに、光学活性1,2−ジアミノシクロヘキサン(16.2 mg, 142 mmol)、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3b)(152.5 mg, 284 mmol)を加えた。そして、100 ℃に加熱し、20時間攪拌した。室温まで冷却し、濃縮した後、反応粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒:ヘキサン/エーテル9/1)で精製し、無色固体物質(107mg,73%)を得た。
【0094】
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.97 (s, 2H), 7.37 (d, J = 7.4 Hz, 4H), 7.04-7.18 (m, 20H),
6.81-6.94 (m, 20H), 6.56 (s, 2H), 6.30-6.32 (d, J = 7.8 Hz, 2H),
3.33 (s, 2H), 2.69 (brs, 2H), 1.99 (brd, J = 12.4 Hz),
1.48-1.50 (m, 2H), 0.88-1.09 (m, 4H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
25.3, 33.3, 58.0, 113.1, 115.6, 119.9, 126.0, 126.1, 126.2, 126.8,
127.4, 127.7, 127.8, 128.3, 129.4, 130.6, 132.1, 132.2, 132.5,
139.8,139.9, 140.9, 141.3, 141.7, 142.3, 142.5, 142.6, 143.4,
148.0.
FD-MS m/z = 1026 [M]. 計算値; 1026.49
元素分析 計算値; C, 91.19; H, 6.08; N, 2.73.
実測値; C, 91.34; H, 6.34; N, 2.70.
旋光度 [a]27 +137.2°(c 1.03, CD).
【0095】
(3)N,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−シクロヘキサン−1,2−ジアミン(7b,ラセミ体)(ラセミ体)の製造:
アルゴンガスで置換した20mL二口ナスフラスコに酢酸パラジウム(3.1 mg, 14.0 mmol)、BINAP(35.8 mg, 55.8 mmol)を入れた。アルゴンガスでバブリングしたトルエン(3 mL)を加え、30分間室温下で攪拌した。次に、ナトリウム-tert-ブトキシド (27.6 mg, 279 mmol)を加え、30分間室温下で攪拌した。そこに、ラセミ体の1,2−ジアミノシクロヘキサン(10.6 mg, 93.0 mmol)、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−3−ブロモビフェニル(3b)(100 mg, 186 mmol)を加えた。そして、100℃に加熱し、20時間攪拌した。室温まで冷却し、濃縮した後、反応粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/エーテル=9/1)で精製し、無色固体物質(67.9mg、71%)を得た。TLCでのR値が、前記(2)で合成したジアミン7b(光学活性体)と同じことで7bのラセミ体であることを確認した。
【0096】
(4)7b体の光学純度の確認
前記の(2)で製造したN,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−シクロヘキサン−1,2−ジアミンのキラル体(7b,キラル)及びラセミ体(7b,ラセミ)につき、HPLC(カラム:ダイセル(株)製、キラルセル OD(商品名)、展開溶媒:ヘキサン/イソプロパノール=12/1、流速0.125ml/分)にて光学純度の確認したところ、ラセミ体では2本のピーク(retention time = 53.802及び58.378)があったのに対し、キラル体では一本のピーク(retention time = 52.458)しか現れないことから、製造の過程でキラル体のラセミ化は起こっていなかった(図1参照)。
【実施例6】
【0097】
N,N’−ビス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン類(8a及び8b)の製造
【0098】
【化31】

【0099】
原料物質のジアミンとして、実施例5に記載の1,2−ジアミノシクロヘキサンに代えて、1,2−ジフェニルエタンジアミンを使用し、前記実施例5と同様の方法により、目的のN,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン(8a)を無色固体物質として得た(91.0mg,93%)。また、原料物質のジアミンとして1,2−ジフェニルエタンジアミンを使用するとともに、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体(3b)を使用することにより、同様の方法で、目的のN,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン(8b)を無色固体物質として得た(81.8mg、83%)。
【0100】
(1)N,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン(8a):93%、
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.75 (s, 2H), 7.32 (d, J = 7.2 Hz), 6.81-7.13 (m, 54H),
6.40 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 4.32-4.28 (m, 4H).
13C NMR (100 MHz, C6D6) δ;
64.5, 114.3, 125.9, 126.1, 126.7, 127.3, 127.6, 127.8, 128.1,
130.6, 131.4, 132.1, 132.2, 132.5, 139.3, 139.7, 140.5, 141.0,
141.3, 141.4, 141.6, 142.4, 142.7, 146.1.
FD-MS m/z = 1125 [M+]. 計算値; 1124.51
元素分析 計算値; C, 91.78; H, 5.73; N, 2.49.
実測値; C, 91.82; H, 5.76; N2.47.
旋光度 [a]27 +47.4°(c 1.03, CD).
【0101】
(2)N,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン(8b):83%、
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.76 (s, 2H), 7.28 (d, J = 8.1 Hz, 5H), 7.03-7.14 (m, 17H),
6.82-6.97 (m, 30H), 6.76 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 6.67 (s, 2H),
6.39 (d, J = 9.8 Hz, 2H), 4.38 (s, 2H), 4.26 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
64.7, 113.1, 116.7, 120.9, 125.9, 126.1, 126.2, 126.8, 127.1,
127.4, 127.6, 127.7, 128.1, 128.8, 129.0, 130.6, 132.1, 132.5,
139.8, 140.7, 140.9, 141.1, 141.3, 141.6, 142.0, 142.4, 142.6,
143.3, 147.4.
FD-MS m/z = 1125 [M+]. 計算値; 1124.51
元素分析 計算値; C, 91.78; H, 5.73; N, 2.49.
実測値; C, 91.79; H, 5.78; N, 2.44.
旋光度 [a]27 +188.8°(c 1.03, CD).
【実施例7】
【0102】
N,N’−ビス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)−エタン−1,2−ジアミン(9a及び9b)の製造
【0103】
【化32】

【0104】
原料物質のジアミンとして、実施例5に記載の1,2−ジアミノシクロヘキサンに代えて、エチレンジアミンを使用し、前記実施例5と同様の方法により、目的のN,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−エタン−1,2−ジアミン(9a)を無色固体物質として得た(109.4mg,73%)。また、原料物質のジアミンとしてエチレンジアミンを使用するとともに、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体(3b)を使用することにより、同様の方法で、目的のN,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−エタン−1,2−ジアミン(9b)を無色固体物質として得た(116.9mg,78%)。
【0105】
(1)N,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−エタン−1,2−ジアミン(9a):73%、
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.96 (s, 2H), 7.38 (d, J = 7.5 Hz, 4H), 7.28-6.83 (m, 40H),
6.32 (d, 6.31, J = 8.4 Hz, 4H), 3.09 (brs, 2H), 2.71 (s, 4H).
FD-MS m/z = 973 [M+]. 計算値; 972.44
元素分析 計算値; C, 91.78; H, 5.73; N, 2.49.
実測値; C, 90.63; H, 6.51; N, 2.78.
【0106】
(2)N,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−エタン−1,2−ジアミン(9b):78%
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.98 (s, 2H), 7.38 (d, J = 1.4 Hz, 4H), 7.21 (d, J = 8.5 Hz, 4H),
7.08-7.15 (m, 16H), 6.85-6.94 (m, 20H), 6.58 (s, 2H),
6.30 (d, J = 10.0 Hz), 3.17 (s, 2H), 2.72 (s, 4H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
43.1, 112.0, 115.2, 117.0, 120.2, 126.0, 126.2, 126.3, 126.8,
127.4, 127.7, 128.0, 128.1, 128.3, 128.5, 129.2, 130.6, 132.1,
132.1, 132.2,132.5, 139.9, 140.0, 140.9, 141.2, 141.3, 141.6,
142.3, 142.5, 142.6, 143.5, 148.2.
FD-MS m/z = 973 [M+]. 計算値; 972.44
元素分析 計算値; C, 91.32; H, 6.05; N, 2.88.
実測値; C, 91.39; H, 6.05; N, 2.79.
【実施例8】
【0107】
(3)N,N’−ビス(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)−1−1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン類(10a及び10b)の製造
原料物質のジアミンとして、1,2−ジアミノシクロヘキサンに代えて、(R)−ビナフチル−1,1’ジアミンを使用し、前記(2−1)と同様の方法により、目的のN,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1−1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(10a)を無色固体物質として得た(1.20g,100%)。また、原料物質のジアミンとして(R)−ビナフチル−1,1’ジアミンを使用するとともに、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体(3b)を使用することにより、同様の方法で、目的のN,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1−1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(10b)を無色固体物質として得た(1.20g,100%)。
(1)N,N’−ビス{4−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1−1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(10a):100%
【0108】
【化33】

【0109】
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.86 (s, 2H), 7.76 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.71 (s, 4H),
7.38-7.40 (m, 4H), 7.22-7.25 (m, 4H), 7..07-7.14 (m, 22H),
6.82-6.95. (m, 18H), 6.57 (d, J = 8.2 Hz, 4H), 5.69 (s, 2H).
13C NMR (600 MHz, CD) δ;
117.2, 118.4, 119.5, 123.9, 124.9, 125.6, 125.8, 126.03, 126.06,
126.6, 127.2, 127.5, 127.6, 127.9, 128.1, 128.3, 128.5, 128.6,
129.3, 129.8, 130.0, 130.4, 131.2, 131.9, 131.95, 131.99, 132.3,
134.6, 136.0, 139.6, 139.7, 140.7, 140.8, 141.1, 141.3, 141.5,
142.3, 142.4.
FD-MS m/z = 1196 [M+]. 計算値; 1196.51
元素分析 計算値; C, 92.27; H, 5.39; N, 2.34.
実測値; C, 92.37; H, 5.72; N, 2.09.
旋光度 [a]27 -4.2°(c 1.11, CH).
(2)N,N’−ビス{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル)}−1−1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン(10b):100%
【0110】
【化34】

【0111】
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.73-7.77 (m, 6H), 7.35-7.37 (m 6H), 7.25-6.88 (m, 48H),
6.16 (d, J = 7.9 Hz, 2H), 5.64 (s, 2H).
13C NMR (600 MHz, CD) δ;
117.2, 118.5, 118.8, 120.7, 123.8, 123.9, 125.0, 125.8, 126.1,
126.7, 127.20, 127.22, 127.57, 127.54, 127.9, 128.1, 128.3,
128.6, 129.2, 129.9, 130.0, 130.4, 131.87, 131.93, 131.98,
134.6, 139.7, 139.9, 140.47, 140.52, 140.6, 141.0, 141.3, 141.6,
142.17, 142.19, 142.3, 143.2.
FD-MS m/z = 1196 [M+]. 計算値; 1196.51
元素分析 計算値; C, 92.27; H, 5.39; N, 2.34.
実測値; C, 92.27; H, 5.40; N, 2.33.
旋光度 [a]27 +40.1°(c 1.10, CD).
【実施例9】
【0112】
2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基を有する一級アミン類の製造
次に示す合成スキーム4にしたがって目的の一級アミン類(12a、12b、及び12c)を製造した。
スキーム4; 一級アミンの合成
【0113】
【化35】

【0114】
(スキーム4中、Pd(dba)は、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを表し、BINAPは、2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチルを表し、1.5 equiv NaOtBuは、1.5当量のナトリウム-tert-ブトキシドを表し、tolueneはトルエンを表し、THFはテトラヒドロフランを表す)。
【0115】
(1)イミン類(11a,11b、及び11c)の製造
(1−1)N−ジフェニルメチリデン−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−4−アミン(11a)の製造:
【0116】
【化36】

【0117】
アルゴンガスで置換した20mL二口ナスフラスコにPd(dba)(1.4 mg, 1.49 mmol)、BINAP(2.8 mg, 4.47 mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド(22.6 mg, 224 mmol)、ベンゾフェノンイミン(32.4 mg, 179 mmol)及び2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)(80.0 mg, 149 mmol)を入れ、そこにアルゴンガスで脱気したトルエン(0.8 mL)を加えた。80℃に加熱し、20時間攪拌した。室温まで冷却し、濃縮した後、反応粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン1/2)で精製し、標題の化合物を黄色固体物質として得た(67.3mg,70%)。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.743 (d, J = 7.5 Hz), 7.52 (s, 1H), 7.25-7.47 (m, 6H),
7.16 (brs, 5H), 7.08 (d, J = 7.1 Hz), 6.56-6.95 (m, 17H),
6.56 (m, 2H).
FD-MS m/z = 638 [M+]. 計算値; 637.28
元素分析 計算値; C, 92.27; H, 5.53; N, 2.20.
実測値; C, 91.81; H, 5.43; N, 2.04.
【0118】
(1−2)N−ジフェニルメチリデン−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−3−アミン(11b)の製造:
【0119】
【化37】

【0120】
原料物質として、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのm−体(3b)を用いて、同様にして、目的のm−体(11b)を黄色固体物質として得た(67.3mg,88%)。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.75 (d, J = 7.4, 2H), 7.39-7.49 (m, 3H), 7.11-7.25 (m, 9H),
6.74-7.02 (m, 19H), 6.58 (brd, 2H).
FD-MS m/z = 638 [M+]. 計算値; 637.28
元素分析 計算値; C, 92.27; H, 5.53; N, 2.20.
実測値; C, 92.31; H, 5.36; N, 2.21.
【0121】
(1−3)N−ジフェニルメチリデン−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−2−アミン(11c)の製造:
【0122】
【化38】

【0123】
原料物質として、2’,3’,4’,5’−テトラフェニル−4−ブロモビフェニル(3a)に代えて、そのo−体(3c)を用いて、前記(1−1)と同様にして、目的のo−体(11c)を黄色固体物質として得た(176mg、73%)。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.743 (d, J = 7.5 Hz), 7.52 (s, 1H), 7.25-7.47 (m, 6H),
7.16 (brs, 5H), 7.08 (d, J = 7.1 Hz), 6.56-6.95 (m, 17H),
6.56 (m, 2H).
13C NMR (600 MHz, CD) δ;
121.3, 123.1, 125.6, 125.9, 126.0, 126.3, 127.1, 127.2, 127.3,
127.9, 128.3, 128.8, 129.8, 129.9, 130.3, 131.97, 132.00, 132.1,
133.1, 133.2, 137.2, 139.3, 139.5, 140.4, 140.5, 140.6, 140.7,
140.9, 141.2, 142.0, 142.5, 149.3, 166.4.
FD-MS m/z = 638 [M+]. 計算値; 637.28
元素分析 計算値; C, 92.27; H, 5.53; N, 2.20.
実測値; C, 91.97; H, 5.75; N, 2.20.
【0124】
(2)一級アミン類(12a,12b及び12c)の製造
(2−1)2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−4−アミン(12a)の製造:
【0125】
【化39】

【0126】
10mLのナスフラスコに前記(1−1)で製造したN−ジフェニルメチリデン−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−4−アミン(11a)(30.9 mg, 48.4 mmol)のTHF(1.5 mL)溶液を入れ、塩酸(2 M, 0.1 mL)を加えて20分間室温下で攪拌した。飽和NaHCO(2 mL)で中和し、エーテル(5 mL×3)で抽出し、NaSOで脱水して、ろ液を濃縮した。反応粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒:ヘキサン/エーテル 3/1,1/1)で精製し、標題の化合物を無色固体物質として得た(20.0mg,87%)。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.91 (s, 1H), 7.36 (d, J = 7.1 Hz), 7.07-7.20 (m, 11H),
6.82-6.96 (m, 9H), 6.28 (d, J = 8.5 Hz), 2.76 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
114.7, 125.9, 126.07, 126.14, 126.7, 127.3, 127.6, 127.7, 130.6,
131.4, 132.0, 132.17, 132.24, 132.3, 132.4, 139.3, 139.9, 141.1,
141.4, 141.5, 141.7, 141.9, 142.4, 142.8, 145.8,
FD-MS m/z = 474 [M+]. 計算値; 473.21
元素分析 計算値; C, 91.30; H, 5.75; N, 2.96.
実測値; C, 91.44; H, 5.62; N, 2.95.
【0127】
(2−2)2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−3−アミン(12b)の製造:
【0128】
【化40】

【0129】
原料物質として、N−ジフェニルメチリデン−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−4−アミン(11a)に代えて、そのm−体(11b)を用いて、前記(2−1)と同様にして、目的のm−体(12b)を無色固体物質として得た(39.4mg,92%)得た。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.89 (s, 1H), 7.35 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.20 (d, J = 8.2 Hz, 2H),
7.06-7.14 (m, 7H), 6.79-6.98 (m, 11H), 6.57 (s, 1H),
6.26 (d, J = 9.9 Hz, 1H), 2.81 (s, 2H).
13C NMR (100 MHz, CD) δ;
113.4, 117.0, 120.8, 126.0, 126.2, 126.8, 127.4, 127.6, 127.7,
128.0, 128.3, 129.0, 130.6, 132.09, 132.18, 132.2, 132.5, 139.8,
139.9, 140.9, 141.0, 141.1, 141.5, 142.2, 142.4, 142.6, 143.5,
147.0.
FD-MS m/z = 474 [M+]. 計算値; 473.21
元素分析 計算値; C, 91.30; H, 5.75; N, 2.96.
実測値; C, 91.39; H, 5.76; N, 2.90.
【0130】
(2−3)2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−2−アミン(12c)の製造:
【0131】
【化41】

【0132】
原料物質として、N−ジフェニルメチリデン−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル−4−アミン(11a)に代えて、o−体(11c)を用いて、前記(2−1)と同様にして、目的のo−体(12c)を無色固体物質として得た(155.8mg,91%)。
H NMR (400 MHz, CD) δ;
7.81 (s, 1H), 7.31-7.33 (m, 3H), 6.84-7.18 (m, 19H),
6.85 (t, J = 7.3 Hz 9H), 6.39 (d, J = 8.0 Hz).
13C NMR (600 MHz, CD) δ;
115.3, 118.0, 125.9, 126.1, 126.2, 126.6,127.2, 127.45, 127.53,
127.9, 128.1, 128.3, 128.4, 130.4, 131.7, 131.9, 132.0, 132.4,
139.2, 140.0, 140.3, 140.6, 140.9, 141.3, 141.6, 142.0, 142.6,
144.4.
FD-MS m/z = 474 [M+]. 計算値; 473.21
元素分析 計算値; C, 91.30; H, 5.75; N, 2.96.
実測値; C, 90.92; H, 5.93; N, 2.80.
【実施例10】
【0133】
2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基を有するホスフィンを用いた、塩化アリールの鈴木カップリング反応:
次の反応式
【0134】
【化42】

【0135】
で示される4−クロロトルエンとフェニルホウ酸とのクロスカップリング(スズキカップリング反応)を、種々の配位子の存在下で行った。このカップリング反応は、3当量のフッ化カリウム、0.5mol%のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、2mol%の配位子を加え、テトロヒドロフラン中にて50℃で行った。
配位子として、前記実施例2の(3)で製造した2−(ジフェニルホスフィノ)−2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル(4c)を用いた。
比較のために、配位子として、2−(ジフェニルホスフィノ)−1’1−ビフェニル、トリフェニルホスフィン(PPh)、トリス(o−トリル)ホスフィンを、それぞれ用いた。
それぞれの実験において、生成した4−メチル−ビフェニルをガスクロマトグラフィーで定量して収率を比較した。
その結果、本発明の配位子(4c)を用いた場合には4−メチル−ビフェニルの収率は94%であった。一方、比較として使用した次ぎの3種のホスフィン化合物では、その収率は2−(ジフェニルホスフィノ)−1’1−ビフェニルでは1%、トリフェニルホスフィン(PPh)では0%、トリ(o−トリル)ホスフィンでは2%であった。
このことから、本発明の一般式(1)で表される化合物が、優れた触媒活性を発揮することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の一般式(1)で表される新規な2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニル基を有するホスフィン類及びアミン類は、繊維金属、特に触媒活性を有する繊維金属の配位子として極めて活性が高く有用である。例えば、遷移金属等に配位した場合に、金属の周りに選択的なナノスケールの立体的環境を作り出すものであり、鈴木カップリング反応等のカップリング反応その他の有機合成反応において優れた触媒作用を奏するものである。また、本発明の一般式(1)で表される化合物は、キラルな配位子として使用することもでき、不斉合成反応、例えば不斉還元反応用の配位子としても極めて有用なものである。したがって、本発明の一般式(1)で表される化合物は産業上の利用性を有するものである。
また、本発明の一般式(3)又は(4)で表される化合物は、本発明のテトラフェニルビフェニル基を有する化合物の合成のための中間体として有用であり、同様に産業上の利用性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、本発明のテトラフェニルビフェニル基を有するジアミン(7b)の光学純度をHPLCを用いて測定した結果を示すものである。図1の左側はラセミ体のものであり、右側は光学活性体のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中、Bは窒素原子又はリン原子を示し、Rは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル基(以下、TPBPという。)を示し、mは1又は2の整数を示し、mが1のときはRは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はTPBPを示し、mが2のときはRは、2価の炭素数1〜30の炭化水素残基を示す。)
で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物又はその塩。
【請求項2】
2価の炭素数1〜30の炭化水素残基が、シクロアルキル基若しくはアリール基で置換されていてもよい直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数3〜30のシクロアルキレン基、又は炭素数6〜30のアリーレン基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
一般式(1)の化合物が、次の一般式(2)
【化2】

(式中、Phはフェニル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)
で示される化合物である請求項1に記載の2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物。
【請求項4】
一般式(2)中のnが1であり、ビフェニル基の2位でリン原子が結合しているものである請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
遷移金属化合物に、請求項1〜4のいずれかに記載の一般式(1)で表される2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル化合物が配位子として配位してなる遷移金属錯体。
【請求項6】
遷移金属化合物が、パラジウム化合物、ロジウム化合物、ニッケル化合物、又は白金化合物である請求項5に記載の遷移金属錯体。
【請求項7】
遷移金属化合物が、遷移金属錯体である請求項5又は6に記載の遷移金属錯体。
【請求項8】
配位子が、請求項3に記載の式(2)で示される化合物からなる配位子である請求項5〜7のいずれかに記載の遷移金属錯体。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の一般式(1)で表される化合物からなる遷移金属用の配位子。
【請求項10】
遷移金属がパラジウムであり、式(2)におけるnが1であり、かつリン原子がオルト位に結合しているホスフィンである請求項9に記載の配位子。
【請求項11】
請求項5〜8のいずれかに記載の遷移金属錯体を含有してなる有機化合物合成用触媒。
【請求項12】
遷移金属化合物、及び請求項1〜4のいずれかに記載の一般式(1)で表される化合物を含有してなる有機化合物合成用触媒。
【請求項13】
遷移金属化合物が、遷移金属錯体である請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
遷移金属錯体が、ジベンジリデンアセトン錯体である請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
有機化合物合成用触媒が、カップリング反応、ヒドロシリル化反応、又は不斉合成反応用触媒である請求項11〜14のいずれかに記載の触媒。
【請求項16】
カップリング反応が、アリールクロスカップリング反応である請求項15に記載の触媒。
【請求項17】
不斉合成反応が、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物のキラルな化合物を使用するものである請求項15に記載の触媒。
【請求項18】
請求項11〜13のいずれかに記載の触媒の存在下に、置換基を有してもよいハロゲノアリールと、置換基を有してもよいアリールホウ酸とをカップリング反応させて置換基を有してもよいジアリール化合物の製造法。
【請求項19】
次の一般式(3)
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物。
【請求項20】
次の一般式(4)
【化4】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリール基を示す。)
で表される化合物。
【請求項21】
次の一般式(3)
【化5】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物と、アミン又はハロゲン化リン化合物と反応させて、請求項1〜4のいずれかに記載の一般式(1)で表される化合物を製造する方法。
【請求項22】
次の一般式(4)
【化6】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して置換基を有してもよいアリール基を示す。)
で表される化合物を加水分解して次の式(5)
N−TPBP (5)
(式中、TPBPは前記と同じものを示す。)
で表される2’、3’、4’、5’−テトラフェニルビフェニルアミンの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−69931(P2006−69931A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253005(P2004−253005)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】