説明

2−オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質により触媒される反応の生成物を生産する細菌および該生成物の製造方法

2-オキソグルタル酸依存性酵素活性、例えばL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA断片で形質転換した細菌を使用して、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質により触媒される反応の生成物、例えば(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン、またはその塩を製造する方法であって、前記細菌が前記生成物、例えば(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの生産能を有するものである前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物工業に関し、具体的には、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性のような2-オキソグルタル酸(oxoglutarate)依存性酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA断片で形質転換された細菌を使用する、4-ヒドロキシ-L-イソロイシンまたはその塩のような、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質によって触媒される反応の生成物を製造する方法に関する。該細菌はまた、L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子の発現が増強されるように改変されており、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン生産能を有する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシ-L-イソロイシンは、コロハ(フェヌグリーク、Trigonella foenum-graecum L. leguminosae)種子から抽出、精製できるアミノ酸である。4-ヒドロキシ-L-イソロイシンはインスリン分泌性(insulinotropic)活性を示すが、その促進効果が培地中の血漿グルコース濃度に明らかに依存することから非常に興味深い活性である。この効果は、単離潅流ラット膵臓およびヒト膵島の両者で示されている(Sauvaire, Y. et al., Diabetes, 47: 206-210, (1998))。そのようなグルコース依存性は、2型糖尿病[非インスリン依存性糖尿病(non-insulin-dependent diabetes (NIDD) mellitus (NIDDM))]の治療に現在使用されている唯一のインスリン分泌活性薬であるスルホニル尿素(Drucker, D. J., Diabetes 47: 159-169, (1998))では確認されていないことから、低血糖症は依然としてスルホニル尿素治療に通常見られる望ましくない副作用である(Jackson, J., and Bessler, R. Drugs, 22: 211-245; 295-320 (1981); Jennings, A. et al., Diabetes Care, 12: 203-208, (1989))。またグルコース耐性を改善する方法も知られている(Am. J. Physiol. Endocrinol., Vol. 287, E463-E471, 2004)。この糖代謝増強活性とその医薬品や健康食品への応用の可能性が報告されている(特開平6-157302号公報、US2007-000463A1)。
【0003】
4-ヒドロキシ-L-イソロイシンは植物においてのみ見出され、その特別なインスリン分泌性作用により、2型糖尿病の治療への応用の可能性を秘めた新規な分泌促進剤と見なしてもよいであろう。これはこの疾患が、様々な程度のインスリン耐性を伴うインスリン分泌不全を特徴とする疾病であるからである(Broca, C. et al., Am. J. Physiol. 277 (Endocrinol. Metab. 40): E617-E623, (1999))。
【0004】
コロハ抽出物中のジオキシゲナーゼ活性を利用する鉄、アスコルビン酸、2−オキシグルタル酸、酸素に依存するイソロイシンの酸化が、4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの製造法として報告されている(Phytochemistry, Vol. 44, No. 4, pp. 563-566, 1997)。しかしこの方法は、20 mM以上のイソロイシン濃度で酵素活性が基質により阻害されることから、4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの製造法としては満足なものではない。またこの酵素は同定されておらず、植物抽出物から得られるものであって、容易に大量に得られるものではなく、また不安定である。
【0005】
光学的に純粋な(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンが全収率39%で得られる効率的な8工程の合成が開示されている。この合成の重要な工程は、ジオトリカム・カンディダム(Geotrichum candidum)によるエチル2-メチルアセトアセテートのエチル(2S,3S)-2-メチル-3-ヒドロキシブタノエートへの生物変換、および不斉Strecker合成を含む(Wang, Q. et al., Eur. J. Org. Chem., 834-839 (2002))。
【0006】
立体化学を完全に制御した短い6工程の(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシイソロイシンの化学酵
素的合成も開示されており、最終工程は市販のEupergit C(E-PAC)上に固定化されたペニシリンアシラーゼGを使用したN-フェニルアセチルラクトン誘導体の加水分解による酵素的分割である(Rolland-Fulcrand, V. et al., J. Org. Chem., 873-877 (2004))。
【0007】
しかし、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA断片で形質転換された細菌を使用することによる(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの製造であって、さらに細菌がL-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子の発現が増強されるように改変され、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン生産能を有するものについてはこれまで報告されていない。
【0008】
(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの他にも、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質によって触媒される反応によって生産される産業上重要な生成物が知られている。しかしながら、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質を使用することによりそのような生成物を効率的に生産するためのシステムは報告されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質による、2-オキソグルタル酸からのコハク酸の形成と共役する反応の生成物の生産を増強することである。生成物は遊離の形態および塩の形態の化合物の両方を含む。本発明の別の目的は、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有する細菌を使用する、2-オキソグルタル酸からのコハク酸の形成と共役する反応による生成物を製造する方法を提供することである。該細菌はオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されており、好ましくは、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼおよびイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されており、より好ましくは、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、遊離の形態および塩の形態の両方を含む、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの生産を増強することである。該化合物は「(2S,3R,4S)-4HIL」とも記載する。本発明の別の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有する細菌を使用した、L-イソロイシンの直接の酵素的ヒドロキシル化による(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンまたはその塩の製造方法を提供することである。該細菌は、好ましくはL-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子を過剰発現し、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン生産能を有する。
【0011】
高いレベルのL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有する細菌がこれまでに自然界から分離されており、L-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子がクローニングされている。L-イソロイシンジオキシゲナーゼが(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの合成に使用し得ることが判明した。
【0012】
本発明の別の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有する細菌を使用した、(2S,3R,4S)- 4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの増強された生産の方法を提供することである。上記の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有する細菌を、L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子を過剰発現するように改変すると、該細菌はより多くの(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンを生成することが判明したことにより達成された。
【0013】
本発明の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA断片で形質転換された細菌であって、L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子を過剰発現するように改変され、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン生産能を有する細菌を提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、
(a) 配列番号1の塩基配列を含むDNA、
(b) 配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c) 配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA、
(d) 配列番号2のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列を含み、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA、および
(e) 配列番号2のアミノ酸配列に対し少なくとも98%の相同性を示すアミノ酸配列を含み、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA
からなる群から選択される、前記(2S,3R,4S)-4HIL生産菌を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性が増強されるように改変された、前記(2S,3R,4S)-4HIL生産菌を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼの活性が、L-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子の発現を増加させることにより増強された、前記(2S,3R,4S)-4HIL生産菌を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、L-イソロイシンジオキシゲナーゼの発現が、L-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子の発現制御配列を改変することにより、またはL-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子のコピー数を増加させることにより増加された、前記(2S,3R,4S)-4HIL生産菌を提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)のbrnQ遺伝子である、前記(2S,3R,4S)-4HIL生産菌を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子の発現が弱化するようにさらに改変された、前記細菌を提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、前記発現が前記遺伝子の不活性化により弱化された、前記細菌を提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するようにさらに改変された、前記細菌を提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、前記発現が前記遺伝子の不活性化により弱化された、前記細菌を提供することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、エシェリヒア(Escherichia)、シュードモナス(Pseudomona
s)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、アースロバクター(Arthrobacter)、アスペルギルス(Aspergillus)およびバチルス(Bacillus)属からなる群から選択された属に属する、前記細菌を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、エシェリヒア・コリ、アースロバクター・シンプレックス(Arthrobacter simplex)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、アースロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)、アースロバクター・スルフレウス(Arthrobacter sulfureus)、アースロバクター・ビスコサス(Arthrobacter viscosus)およびバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)からなる群から選択される、前記細菌を提供することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、
前記(2S,3R,4S)-4HIL生産菌をL-イソロイシンを含む培養培地で培養し、
(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンを単離すること
を含む、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンまたはその塩の製造方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、前記培養培地が、炭水化物およびアルコールからなる群から選択された炭素源を含む、前記方法を提供することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、前記炭水化物がグルコースであり、前記アルコールがグリセロールである前記方法を提供することである。
【0028】
本発明の目的は、遊離の形態および塩の形態の両方を含む、4-ヒドロキシ-L-プロリンの生産を増強することである。本発明の別の目的は、L-プロリンヒドロキシラーゼ活性を有する細菌を使用した、L-プロリンの直接の酵素的ヒドロキシル化による4-ヒドロキシ-L-プロリンまたはその塩の製造方法を提供することである。
【0029】
以下、本発明を詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、イソロイシンとα-ケトグルタル酸(α-ketoglutarate)(2-オキソグルタル酸(2-oxoglutarate))の同時の酸化による、MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株におけるTCA回路の「短絡(shunting)」を示す。
【図2】図2は、組換プラスミドpET-IlvAの構造を示す。
【図3】図3は、組換プラスミドpELAC-IDO(Lys, 23)の構造を示す。
【図4】図4は、エシェリヒア・コリMG1655(PL-brnQ)株の構築を示す。
【図5】図5は、リジン、メチオニンおよびジアミノピメレート(DAP)を添加した、または添加していない、グルコースまたはグリセロールを含むM9塩培地におけるMG1655およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株の増殖を示す。これらの株は、グルコースまたはグリセロールを補充し、任意にリジン、メチオニンおよびジアミノピメレート(DAP)を補充したM9塩培地において増殖させた。略号 株: WT = MG1655、2d = MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ); 培地: A = M9塩+グルコース、B = M9塩+グルコース+(Lys, Met, DAP)、C = M9塩+グリセロール、D = M9塩+グリセロール+(Lys, Met, DAP)。
【図6】図6は、L-イソロイシンを添加した、または添加しないM9塩培地におけるMG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の増殖を示す。略号 株: 1 = MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]、2 = MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]; 培地: G = M9塩+グルコース(137 mM)、GI = M9塩+グルコース(137 mM)+L-イソロイシン(137 mM)、Y = M9塩+グリセロール(136 mM)、YI = M9塩+グリセロール(136 mM)+L-イソロイシン(137 mM)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1. 本発明の細菌
本明細書において使用する用語「細菌」は、酵素を生産する細菌、目的の酵素活性が存在するか増強されているそのような細菌の突然変異体、遺伝子組換体などを含む。
【0032】
本明細書において使用する用語「2-オキソグルタル酸依存性酵素活性」は、2-オキソグルタル酸(oxoglutarate)からのコハク酸(succinate)の形成と共役する反応を触媒する酵素活性を意味する。
【0033】
2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼのような2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有する多くのタンパク質が報告されている。その例としては、L-Proをヒドロキシ-Proに変換するProヒドロキシラーゼ(APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Sept. 1999, p. 4028-4031)、γ-ブチロベタインをL-カルニチンに変換するγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ(WO2005/083089)のような、有用生成物の生産に利用可能なジオキシゲナーゼが挙げられる。これらのジオキシゲナーゼの他にも、多くのジオキシゲナーゼが報告されている。例えば、Critical Reviews in Biochemistry and Molecular Biology, 39:21-68, 2004およびNATURE CHEMICAL BIOLOGY, 4 NUMBER 3 MARCH:152-156, 2008を参照されたい。これらの研究に記載された2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼに関しては、細菌はオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(例えばΔsucAB、ΔsucA、(sucB)の発現が弱化するように改変されており、好ましくはオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼおよびイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子(例えば(ΔsucAB、ΔsucAまたは(sucB)およびΔaceA)の発現が弱化するように改変されており、より好ましくは、後述の実施例に記載されるエシェリヒア・コリMG1655株(ΔsucAB、ΔaceAK)に代表されるように、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子(例えば(ΔsucAB、ΔsucAまたは(sucB)およびΔaceAK)の発現が弱化するよう改変されており、該細菌は、D-グルコースのような炭素源から生成された2-オキソグルタル酸を2-オキソグルタル酸依存性酵素反応において効率的に使用するための一般的な宿主であると考えられる。
【0034】
2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質がL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質であり、該タンパク質によって触媒される反応の生成物が(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンである態様を例として本発明を説明するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
【0035】
本発明において、用語「(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン」または「(2S,3R,4S)-4HIL」または「4HIL」は、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシイソロイシンの単一の化学的化合物またはそれを含む化合物の混合物を示す。
【0036】
本明細書において使用する用語「細菌」は、酵素を生産する細菌、目的の酵素活性が存在するか増強されているそのような細菌の突然変異体、遺伝子組換体などを含む。
【0037】
微生物細胞から得たL-イソロイシンジオキシゲナーゼはIDOと略記する場合がある。
【0038】
環境中の微生物のスクリーニングにより、遊離および塩の両方の形態において、L-イソロイシンから(2S,3R,4S)-4HILを直接形成する反応を触媒する活性を有するユニークな微生物、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)2-e-2株が見出された。新規なL-イソロイシンジオキシゲナーゼがその培養微生物細胞から精製され、これはIDO(Lys,23)と略記する場合がある。
【0039】
さらに、IDO(Lys,23)のN-末端アミノ酸配列は、バチルス・チューリンゲンシス2-e-2株に由来するジオキシゲナーゼを精製することにより決定された。バチルス・チューリンゲンシス2-e-2株は、バチルス・チューリンゲンシスAJ110584と命名され、ブタペスト条約に基づいて2006年9月27日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(郵便番号305-8566 日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託され、受託番号FERM BP-10688が付与されている。
【0040】
IDO(Lys,23)をコードするDNAを配列番号1に示す。さらに、配列番号1の塩基配列によってコードされるIDO(Lys,23)のアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2は、配列番号1の塩基配列によってコードされるIDO(Lys,23)のアミノ酸配列である。配列番号2のIDO(Lys,23)はL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有し、L-イソロイシンの1つの分子から下記式(I)で示す(2S,3R,4S)-4HILが直接合成される反応を触媒する。
【0041】
【化1】

【0042】
L-イソロイシンから(2S,3R,4S)-4HILを形成する反応を触媒するIDOをコードするDNAは、配列番号1に示すDNAのみに限定されない。これは、L-イソロイシンから(2S,3R,4S)-4HILを生成する反応を触媒するIDOを形成するバチルス属細菌の種および株により塩基配列が相違し得るためである。
【0043】
本発明のDNAは、単離されたIDOをコードするDNAのみならず、IDOをコードするDNAに人為的に変異を加えたDNAを含む。このDNAはIDOを生産する微生物の染色体から単離されたものであってもよい。本発明のDNAは、上記反応を触媒することができるIDOをコードするものでなければならない。人為的に変異を加える方法としては、Method. in Enzymol., 154 (1987)に記載される、部位特異的突然変異を導入する通常用いられている方法が挙げられる。
【0044】
配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、IDO活性を有するタンパク質をコードするDNAも、本発明のDNAに含まれる。ここで使用する「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。これらの条件を明確に数値で示すことは難しいが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNA分子同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA分子同士がハイブリダイズしない条件、あるいはサザンハイブリダイゼーションの通常の洗いの条件である37℃、0.1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイゼーションが起こる条件が挙げられる。プローブの長さは、ハイブリダイゼーションの条件により適宜選択されるが、通常には、100 bp〜1 kbpである。さらに、「L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性」は、L-イソロイシンから(2S,3R,4S)-4HILを合成する活性と記載する場合がある。ただし、配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合には、37℃、pH8の条件で、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質の10%以上、好ましく30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を保持することが好ましい。
【0045】
さらに配列番号1のDNAによりコードされるIDOに実質的に同一なタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAに含まれる。すなわち、以下のDNAも本発明のDNAに含まれる。
(a) 配列番号1の塩基配列のDNA、
(b) 配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c) 配列番号2のアミノ酸配列のタンパク質をコードするDNA、
(d) 配列番号2のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列を有し、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、および
(e) 配列番号2のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の相同性を示すアミノ酸配列を有し、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0046】
ここで、「1または数個」とは、タンパク質の3D構造に有意な変化を起こさない、またはL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性が有意に減少しない変化の数であり、具体的には1から78個、好ましくは1から52個、より好ましくは1から26個、さらに好ましくは1から13個である。
【0047】
上記の1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位は、上記活性が維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換の例としては、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからAsn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、MetからIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、および、ValからMet、IleまたはLeuへの置換が挙げられる。
【0048】
さらに、「L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性」とは、上述のようにL-イソロイシンから(2S,3R,4S)-4HILを合成することをいう。しかし、配列番号2のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH6.0の条件で、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質の10%以上、好ましく30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を保持することが好ましい。本発明のIDOのL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いるL-イソロイシンからの(2S,3R,4S)-4HIL形成の分析により測定することができる。
【0049】
さらに、配列番号1のホモログDNAも、本発明のL-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子として用いることができる。ホモログDNAがL-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードするか否かは、微生物の細胞溶解物、または、ホモログDNAを過剰発現させた細胞溶解物のL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を測定することにより確認できる。
【0050】
配列番号1のホモログDNAは、他のバチルス種、例えばバチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・ウェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)のゲノ
ムから調製することもできる。
【0051】
「エシェリヒア属に属する細菌」とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、エシェリヒア属に分類されていることを意味する。本発明において使用されるエシェリヒア属に属する細菌の例としては、エシェリヒア・コリが挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
本発明において使用することができるエシェリヒア属に属する細菌は、特に制限されないが、例えば、Neidhardt, F.C.らの著書(Escherichia coli and Salmonella typhimurium, American Society for Microbiology, Washington D.C., 1208, Table 1)に記載されている細菌が本発明に含まれる。
【0053】
「シュードモナス属に属する細菌」とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、シュードモナス属に分類されていることを意味する。
【0054】
「コリネバクテリウム属に属する細菌」とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、コリネバクテリウム属に分類されていることを意味する。本発明において使用されるコリネバクテリウム属に属する細菌の例としては、限定するものではないが、コリネバクテリウム・グルタミカムが挙げられる。
【0055】
「アースロバクター属に属する細菌」とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、アースロバクター属に分類されていることを意味する。本発明において使用されるアースロバクター属に属する細菌の例としては、限定するものではないが、アースロバクター・シンプレックス、アースロバクター・グロビフォルミス、アースロバクター・スルフレウスおよびアースロバクター・ビスコサスが挙げられる。
【0056】
「アスペルギルス属に属する細菌」とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、アスペルギルス属に分類されていることを意味する。
【0057】
「バチルス属に属する細菌」とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、バチルス属に分類されていることを意味する。本発明において使用されるバチルス属に属する細菌の例としては、限定するものではないが、バチルス・ズブチリスが挙げられる。
【0058】
エシェリヒア・コリからのbrnQ遺伝子(同意語: ECK0395、b0401、hrbA)は、分岐鎖アミノ酸LIVCSトランスポーターBrnQ(同意語: B0401、HrbA、LIV-II)をコードする。brnQ遺伝子(ヌクレオチド418815〜420134、GenBank accession no. NC_000913.2; gi:16128105)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上、遺伝子phoRと遺伝子proYの間に位置する。brnQ遺伝子の塩基配列およびbrnQ遺伝子によってコードされるBrnQタンパク質のアミノ酸配列を配列番号3および4にそれぞれ示す。
【0059】
エシェリヒア・コリからのsucA遺伝子(同意語: ECK0714、lys、b0726、lys+met)は、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体-SucA(同意語: B0726, Lys)のE1(0)コンポーネントのサブユニットをコードする。sucA遺伝子(ヌクレオチド757,929〜760,730、GenBank accession no. NC_000913.2; gi:16128105)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上、遺伝子G6388と遺伝子sucBとの間に位置し、前者と部分的にオーバーラップしている。sucA遺伝子の塩基配列およびsucA遺伝子によってコードされるSucAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号5および6にそれぞれ示す。
【0060】
エシェリヒア・コリからのsucB遺伝子(同意語: ECK0715、b0727)は、オキソグルタル酸
デヒドロゲナーゼ複合体-SucB (同意語: B0727)のE2(0)コンポーネントのサブユニットをコードする。sucB遺伝子(ヌクレオチド760,745〜761,962、GenBank accession no. NC_000913.2; gi:16128105)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上、遺伝子sucAと遺伝子sucCとの間に位置する。sucB遺伝子の塩基配列およびsucB遺伝子によってコードされるSucBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号7および8にそれぞれ示す。
【0061】
エシェリヒア・コリからのaceA遺伝子(同意語: ECK4007、b4015、icI)は、イソクエン酸リアーゼ-AceA(同意語: B4015、IcI)のサブユニットをコードする。aceA遺伝子(ヌクレオチド4,215,132〜4,216,436、GenBank accession no. NC_000913.2; gi:16128105)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上、遺伝子aceBと遺伝子aceKとの間に位置する。aceA遺伝子の塩基配列およびaceA遺伝子によってコードされるAceAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号9および10にそれぞれ示す。
【0062】
エシェリヒア・コリからのaceK遺伝子(同意語: ECK4008、b4016)は、イソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼ-AceK(同意語B4016)のサブユニットをコードする。aceK遺伝子(ヌクレオチド4,216,619〜4,218,355、GenBank accession no. NC_000913.2; gi:16128105)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上、遺伝子aceAと、逆方向を向いている遺伝子arpAとの間に位置し、後者と部分的にオーバーラップしている。aceK遺伝子の塩基配列およびaceK遺伝子によってコードされるAceKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号11および12にそれぞれ示す。
【0063】
エシェリヒア・コリからのilvE遺伝子(同意語: ECK3762、b3770)は、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ-IlvE(同意語: B3770)のサブユニットをコードする。ilvE遺伝子(ヌクレオチド3,950,507〜3,951,436、GenBank accession no. NC_000913.2; gi:16128105)は、エシェリヒア・コリ K-12の染色体上、遺伝子ilvMと遺伝子ilvDとの間に位置する。ilvE遺伝子の塩基配列およびilvE遺伝子によってコードされるIlvEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号13および14にそれぞれ示す。
【0064】
属間あるいはエシェリヒア属の株間でDNA配列に差異があり得るので、発現が増強されたbrnQ遺伝子または発現が弱化されたsucA、sucB、aceA、aceK、ilvE遺伝子は、配列番号3、5、7、9、11および13に示す遺伝子に限定されるものではなく、配列番号3、5、7、9、11および13に相同であり、BrnQ、SucA、SucB、AceA、AceKおよびIlvEタンパク質の変異体タンパク質をそれぞれコードする遺伝子を包含し得る。本発明において使用する「変異体タンパク質」の語は、アミノ酸残基の欠失、挿入、付加、置換などの配列の変化を有するが、BrnQ/SucA/SucB/AceA/AceK/IlvEタンパク質としての活性が維持されているタンパク質を意味する。変異体タンパク質中の変化の数は、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが、配列番号4、6、8、10、12および14中、1〜30、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜5であり得る。変異体中のこれらの変化は、タンパク質の機能に必須ではないタンパク質の領域で生じるものとし得る。これは、ある種のアミノ酸が互い高い相同性を有し、従って立体構造または活性はそのような変化により影響されないからである。brnQ/sucA/sucB/aceA/aceK/ilvE遺伝子によってコードされるタンパク質変異体は、BrnQ、SucA、SucB、AceA、AceKおよびIlvEタンパク質の活性がそれぞれ維持される限り(sucA/sucB/aceA/aceK/ilvE遺伝子の不活性化の前に)、配列番号4、6、8、10、12および14に示すアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するものであり得る。
【0065】
2つのアミノ酸配列間の相同性は、周知の方法、例えば、スコア、同一性および類似性の3つのパラメーターを計算するコンピュータプログラムBLAST 2.0を使用して決定することができる。
【0066】
さらに、brnQ/sucA/sucB/aceA/aceK/ilvEは、不活性化の前には機能的なBrnQ/SucA/SucB/AceA/AceK/IlvEタンパク質をコードする限り、配列番号3、5、7、9、11または13に示す塩基配列とストリンジェントな条件下で、あるいは該塩基配列から調製し得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする変異体であってもよい。「ストリンジェントな条件」としては、特異的なハイブリッド、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッド、例えば、上記より低い相同性を有するハイブリッドが形成されない条件が挙げられる。例えば、ストリンジェントな条件としては、60℃において1×SSC、0.1%SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%SDSで1回以上、好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。洗浄時間は、プロッティングに使用される膜の種類によるが、一般的には製造者により推奨されるものとすべきである。例えば、ストリンジェントな条件下でのHybondTM
N+ナイロンメンブレン(Amersham)の推奨洗浄時間は15分である。洗浄は好ましくは2〜3回行う。プローブの長さはハイブリダイゼ−ション条件に応じて適切に選択され、通常100 bp〜1 kbpである。
【0067】
「遺伝子の増強された発現」または「遺伝子の過剰発現」とは、当該遺伝子の発現が非改変株、例えば野生型株より高いことを意味する。そのような改変の例としては、発現した遺伝子の細胞あたりのコピー数を増加させること、遺伝子の発現レベルを増加させることなどが挙げられる。発現した遺伝子のコピー数の量は、例えば、染色体DNAを限定した後、遺伝子配列に基づくプローブを使用したサザンブロッティング、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)などを行うことにより測定される。遺伝子発現のレベルは、ノーザンブロッティング、定量的RT-PCRなどの種々の公知の方法によって測定することができる。遺伝子によってコードされるタンパク質の量は、SDS-PAGEの後、免疫プロッティング(ウェスタンブロット分析)を行うなどの公知の方法によって測定することができる。また、対照となり得る野生型株としては、例えば、エシェリヒア・コリK-12が挙げられる。
【0068】
「タンパク質をコードするDNAでの細菌の形質転換」とは、例えば、慣用の方法による、細菌中へのDNAの導入を意味する。このDNAの形質転換により、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現が増加し、細菌細胞中の該タンパク質の活性が増強される。形質転換の方法としては、これまでに報告されている任意の公知方法が挙げられる。例えば、エシェリヒア・コリK-12について報告されている、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理して細胞のDNAに対する透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A.,J. Mol. Biol., 53, 159
(1970))を使用することができる。
【0069】
遺伝子を過剰発現させる、または遺伝子の発現を増強する方法としては、遺伝子コピー数を増加させることが挙げられる。エシェリヒア属の細菌中で機能することができるベクターへ遺伝子を導入することにより、遺伝子のコピー数が増加する。好ましくは、低コピーベクターを使用する。低コピーベクターの例としては、限定するものではないが、pSC101、pMW118、pMW119などが挙げられる。「低コピーベクター」の用語は、細胞あたりのコピー数が5までのベクターに使用される。
【0070】
遺伝子発現の増強は、例えば、相同組換え、Muインテグレーション等により、複数コピーの遺伝子を細菌染色体に導入することによっても達成できる。例えば、1回のMuインテグレーションで、細菌染色体に3コピーまでの遺伝子を導入することができる。
【0071】
遺伝子のコピー数の増加は、複数のコピー数の該遺伝子を細菌の染色体DNAに導入することによっても達成できる。複数のコピー数の遺伝子を細菌の染色体DNAに導入するには、染色体DNAに複数のコピー数で存在する配列を利用して相同組換えを行う。染色体DNA上
に複数のコピー数で存在する配列としては、限定するものではないが、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。
【0072】
遺伝子発現の増強は、本発明のDNAを強力なプロモーターの制御下に置くことによっても達成できる。例えば、Ptacプロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、λファージのPRまたはPLプロモーターはいずれも強力なプロモーターであることが知られている。強力なプロモーターの使用は遺伝子コピー数の増加と組合せてもよい。
【0073】
あるいは、プロモーターの効果は、例えば、プロモーターに変異を導入して該プロモーターの下流に位置する遺伝子の転写レベルを増加させることにより増強することができる。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサー、特に開始コドンのすぐ上流の配列における数個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に大きく影響を及ぼすことが知られている。
【0074】
さらに、細菌染色体上の遺伝子のプロモーター領域へヌクレオチド置換を導入することができ、これによりより強いプロモーター機能が得られる。発現制御配列の改変は、例えば、国際公開WO 00/18935および特開平1-215280号に記載されたように、温度感受性プラスミドを使用して、遺伝子置換と同様の方法で行なうことができる。
【0075】
本発明者らは、遺伝子sucA、sucB、aceAおよびaceKの発現の弱化が、イソロイシンおよびα-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)の同時の酸化による変異細胞中のTCA回路の「短絡」を起こすと考えた。これにより4HILの生産が増強され得る。同時に、イソロイシンおよびα-ケトグルタル酸のIDO活性による同時の酸化は、細菌の増殖、およびIDOをコードする遺伝子を搭載するプラスミドの安定化の両方に必要な要因となる。言いかえれば、イソロイシンヒドロキシル化のプロセスは細胞増殖に必要なものとなる。この場合、イソロイシンの4-HILへの生体内変化は、なんら抗生物質を補充することなく、細菌細胞増殖中に達成され得る。この戦略は、sucABおよびaceAK遺伝子を欠失するためにスクシニルCoAを欠失する株を構築することにより達成された(図1、実施例3〜5)。2-オキソグルタル酸からのコハク酸の形成と共役する任意の反応にこの原理を適用することができることは明らかである。さらに、最小の必要条件がオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現の弱化(例えばΔsucAB、ΔsucA、ΔsucB)であることも明らかである。好ましくは、細菌はさらにイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変される(例えばΔaceA)。より好ましくは、細菌はさらに、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変される(例えばΔaceAK)。
【0076】
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現を弱化することによって、細胞中の2-オキソグルタル酸の代謝が抑制され、2-オキソグルタル酸依存性酵素への2-オキソグルタル酸の供給が増強される。このように構築された細菌は、2-オキソグルタル酸依存性酵素反応を行うのに適した宿主である。オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を弱化させることにより、細胞中の2-オキソグルタル酸レベルを増加させ、2-オキソグルタル酸依存性酵素へのその供給を効率的にする。オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼは、TCA回路において2-オキソグルタル酸をスクシニル-CoAに変換する酵素である。さらにグリオキシル酸回路においてイソクエン酸(isocitrate)のコハク酸への転化を触媒するイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子を併せて弱化することが好ましく、これにより2-オキソグルタル酸の供給がさらに増加する。この組合せにより、TCAおよびグリオキシル酸回路中の2-オキソグルタル酸からコハク酸への経路がブロックされ、これにより2-オキソグルタル酸の2-オキソグルタル酸依存性酵素への供給がさらに増加する。イソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子の弱化をさらに組合せ
ることがより好ましく、これによりイソクエン酸から2-オキソグルタル酸を生成するイソクエン酸デヒドロゲナーゼの不活性化が抑制される。分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼが4HILを脱アミノ化することから(Smirnov S.V. et al, FEMS Microbiol Lett.;273(1):70-7(2007))、本発明者らは、ilvE遺伝子の発現を弱化させると、4HILの脱アミノ化が防止されることにより、4HILのより高い収率が得られると考えた。
【0077】
「遺伝子の発現を弱化するように細菌が改変された」との表現は、該細菌が、改変されていない細菌と比較して、該遺伝子によってコードされるタンパク質をより少ない量で含むように改変されているか、改変された細菌が該タンパク質を合成することができないことを意味する。「遺伝子の発現を弱化するように細菌が改変された」との表現は、改変された遺伝子がより低い活性の変異体タンパク質をコードするように細菌が改変されたことも意味し得る。
【0078】
細菌の染色体中の遺伝子の有無は、PCR、サザンブロッティングなどの周知の方法によって検出することができる。
【0079】
「遺伝子の不活性化」とは、改変された遺伝子が完全に不活性なタンパク質をコードすることを意味する。さらに、遺伝子の一部分あるいは全体の削除、遺伝子のリーディングフレームのシフト、ミスセンス/ナンセンス変異の導入、あるいはプロモーター、エンハンサー、アテニュエーター、リボソーム結合部位などの遺伝子発現を制御する配列を含む遺伝子の隣接領域の改変により、改変されたDNA領域が該遺伝子を本来のように発現させることができないものとすることもできる。
【0080】
遺伝子の発現は、染色体上の該遺伝子へ変異を導入することにより弱化させ、該遺伝子によってコードされるタンパク質の細胞内の活性が非改変株と比較して減少するようにすることができる。遺伝子上のそのような変異は、該遺伝子によりコードされるタンパク質中のアミノ酸置換を引き起こす1以上の塩基の置換(ミスセンス変異)、終止コドンの導入(ナンセンス変異)、フレームシフトを引き起こす1または2の塩基の削除、薬剤耐性遺伝子の挿入、または遺伝子の一部または全部の削除であり得る(Qiu, Z. and Goodman, M.F., J. Biol. Chem., 272, 8611-8617 (1997); Kwon, D. H. et al, J. Antimicrob. Chemother., 46, 793-796 (2000))。遺伝子の発現は、プロモーター、シャイン-ダルガルノ(SD)配列などの発現制御配列を改変することによっても弱化することができる(WO95/34672、Carrier, T.A. and Keasling, J.D., Biotechnol Prog 15, 58-64 (1999))。
【0081】
例えば、下記の方法を使用して、遺伝子組換えにより変異を導入することができる。活性が低下した変異体タンパク質をコードする変異遺伝子を調製し、該変異遺伝子を含むDNA断片で細菌を形質転換する。その後、染色体上の在来遺伝子を相同組換えにより変異遺伝子で置換し、得られた株を選択する。このような相同組換えを使用した遺伝子組換えは、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」として知られる、直鎖状DNAを用いる方法(Datsenko, K.A. and Wanner, B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 12, p 6640-6645 (2000))、あるいは温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法(米国特許第6,303,383号、または特開平05-007491号)により行うことができる。さらに、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による部位特異的変異導入は、宿主中で複製能力を持たないプラスミドを用いて行うこともできる。
【0082】
遺伝子の発現は、遺伝子のコード領域中へトランスポゾンまたはISファクターを挿入すること(米国特許5,175,107)、あるいはUV照射もしくはニトロソグアニジン(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)による変異処理のような慣用の方法によっても弱化することができる。
【0083】
遺伝子の不活性化は、UV照射もしくはニトロソグアニジン(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)を使用する変異処理、部位特異的突然変異誘発、相同組換えを使用した遺伝子破壊、または/および「Redドリブンインテグレーション」とも呼ばれる挿入欠失変異誘発(Yu, D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:12: 5978-83 and Datsenko, K.A. and Wanner, B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:12: 6640-45)のような慣用の方法によっても行うことができる。
【0084】
プラスミドDNAの調製、DNAの切断および結合、形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択などのための方法は、当業者に周知の通常の方法であってよい。そのような方法は、例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T., "Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されている。
【0085】
2. 本発明の方法
本発明の方法は、2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質によって触媒される反応の生成物を製造する方法であって、本発明の細菌を該反応の基質を含む培地中で培養し、生成した生成物を培地から単離することによる方法である。
【0086】
生成物および使用した2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質の特異性に応じて基質を適切に選択する。例えば、生成物が(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンであって、タンパク質がL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有する場合、基質はL-ロイシンである。
【0087】
従って、本発明の方法は、本発明の細菌をL-イソロイシンを含む培地中で培養し、生成した(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンを培地から単離することによる、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの製造方法であり得る。
【0088】
培養に使用する培地は、炭素源、窒素源および無機物を含み、必要な場合、細菌の増殖のために必要な栄養素を適当な量含む限り、合成あるいは天然の培地のいずれでもよい。炭素源は、グルコースおよびスクロースのような様々な炭水化物および様々な有機酸を含むことができる。使用された微生物の同化の形式によっては、エタノール、グリセロールなどのアルコールを使用してもよい。窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウムなどのような様々なアンモニウム塩、アミンのような他の窒素化合物、ペプトン、大豆加水解物、消化された発酵微生物などのような天然窒素源を使用することができる。無機物としては、モノリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸鉄(II)、硫酸マンガン、塩化カルシウムなどを使用することができる。ビタミンとしては、チアミン、酵母エキスなどを使用することができる。本発明の培地はL-イソロイシンを含む(20〜40 g/l)。
【0089】
培養は、20〜40℃、好ましくは30〜38℃の温度で、好気的条件下、例えば振盪培養や通気を伴う攪拌培養により行うのが好ましい。培養物のpHは通常5〜9、好ましくは6.5〜7.2である。培養物のpHは、アンモニア、炭酸カルシウム、種々の酸、種々の塩基およびバッファーにより調整することができる。
【0090】
分離および精製方法の例としては、(2S,3R,4S)-4HILを塩基性アミノ酸を吸着するイオン交換樹脂と接触させ、その後溶出と結晶化を行う方法、溶出により得られた生成物を活性炭で脱色および濾過し、その後結晶化して(2S,3R,4S)-4HILを得る方法などが挙げられる。
【0091】
(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシン以外の生成物に関しては、培養条件、分離精
製方法などは、使用された細菌および目的生成物の性質に応じて同様に選択される。
【実施例】
【0092】
本発明を下記に示す実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0093】
実施例1
MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の構築
1.1. pMW119-IDO(Lys, 23)プラスミドの構築
【0094】
バチルス・チューリンゲンシス2-e-2株染色体の0.8 kb DNA断片を、オリゴヌクレオチドSVS 170 (配列番号15)およびSVS 169(配列番号16)をプライマーとして、精製染色体DNAを鋳型として用いて増幅した。PCRプロトコルは以下の通りであった:94℃で30秒の最初のサイクル、94℃で40秒、49℃で30秒および72℃で40秒を4サイクル、94℃で30秒、54℃で30秒および72℃で30秒を35サイクル。PCRフラグメントをBamHIおよびSacIエンドヌクレアーゼで切断し、次いで同じ制限酵素で予め処理したpMW119ベクターに連結した。
【0095】
1.2. pELAC-IDO(Lys, 23)プラスミドの構築
pMW119-IDO(Lys, 23)プラスミドから0.76 kbのDNA断片をXbaI、SacIエンドヌクレアーゼで切り出し、pELAC-ilvA/XbaI-SacIベクター(参考例1を参照)にクローニングし、組換プラスミドpELAC-IDO(Lys, 23)を得た(図3)。
【0096】
1.3. MG1655(PL-brnQ)株の構築
MG1655株においてIleトランスポーターBrnQの発現を増加させてIle流入を改善した。CmマーカーおよびPLプロモーターを保持する1.9 kbp DNA断片を、オリゴヌクレオチドSVS 179(配列番号17)およびSVS 180(配列番号18)をプライマーとして、BW25113 cat-PL-yddG株(EP1449918A1、ロシア特許RU2222596)の染色体DNAをテンプレートとして使用してPCR増幅した。PCR条件は以下の通りであった:変性ステップとして95℃で3分、最初の2サイクルのプロフィールとして、95℃で1分、50℃で30秒、および72℃で40秒、最後の25サイクルのプロフィールとして、95℃で30秒、54℃で30秒、および72℃で40秒、最終ステップとして72℃で5分。
【0097】
1.9 kbpのPCR生成物を得、アガロースゲルで精製し、エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC 700926)のエレクトロポレーションに使用した。該株は、温度感受性複製開始点を有するプラスミドpKD46を含む。プラスミドpKD46(Datsenko, K.A. and Wanner, B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:12:6640-45)は、ラムダファージの2,154ヌクレオチドDNA断片(ヌクレオチド位置31088〜33241、GenBank accession no. J02459)を含み、アラビノース誘導性ParaBプロモーターの制御下のλレッド相同組換えシステムの遺伝子(γ、β、exo遺伝子)を含む。プラスミドpKD46は、MG1655株の染色体中へPCR生成物をインテグレーションするのに必要である。
【0098】
エレクトロポレーション用のコンピテントセルは次のようにして調製した。エシェリヒア・コリMG1655/pKD46株をアンピシリン(100 mg/L)を含むLB培地中30℃で一晩培養し、培養物をアンピシリンとL-アラビノース(1 mM)を含む5 mLのSOB培地(Sambrook et al, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)で100倍希釈した。30℃で通気しながらOD600が約0.6になるまで細胞を増殖させた後、100倍に濃縮し、氷冷した脱イオン水で3回洗浄することによってエレクトロポレーションに使用できるようにした。エレクトロポレーションは70μLのコンピテントセルと約100 ngのPCR産物を用いて行った。エレクトロポレーション後の細胞は1 mLのSOC培地(Sambrook et al, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition",
Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)を用いて37℃で2.5時間インキュベートした後、クロラムフェニコール(30 μg/mL)を含むL寒天培地上にプレートし、37℃で増殖させ、Cm耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Cmを含むL-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性を試験した。
【0099】
このようにしてエシェリヒア・コリMG1655(PL-brnQ)株を構築した(図4)。
【0100】
1.4. MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の構築
MG1655およびMG1655(PL-brnQ)株の細胞をそれぞれプラスミドpELAC-IDO(Lys, 23)で形質転換した。得られたクローンは、X-gal/IPTG寒天平板(ブルー/ホワイトテスト)で選択した。このようにしてMG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株をそれぞれ得た。
【0101】
実施例2
エシェリヒア・コリMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株による4HILの生産
L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子の発現の増強の4HIL生産に対する効果を試験するため、MG1655[pELAC-IDO](Lys, 23)およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の細胞を、アンピシリン(200 μg/ml)およびIPTG(1 mM)を添加したLB培地において37℃で約4〜5時間増殖させた。増殖したそれぞれの組換えエシェリヒア・コリ株の粗タンパク質抽出物中の特異的IDO活性を以下のようにして測定した。5 mlの培養物から4℃で遠心分離することにより細胞を回収し、0.5 mlのバッファーA*(50 mM TRIZMA、5%グリセロール、1 mM EDTA、1 mM DTT、HClによりpH 7に調整)中に再懸濁し、4℃で超音波処理することにより破砕した。反応混合物(50μl)は50 mM HEPES、pH 7.0、5 mM Ile、0.5 mM α-ケトグルタル酸、5 mMアスコルビン酸、5 mM FeSO4およびタンパク質調製物のサンプルを含むものとした。反応物を振盪しながら34℃で1時間インキュベートした。4HILは以下のようにしてTLCまたはHPLC分析を使用して検出した。TLC分析:薄層シリカゲルプレート(10x15 cm)に、反応液の試料(1〜2μl)をスポットし、展開溶媒(2-プロパノール:アセトン:アンモニア:水 = 100:100:25:16)で展開し、4HILをニンヒドリン試薬で検出した。HPCL分析:分光螢光計1100シリーズ(Agilent、USA)を備えた高圧クロマトグラフィー装置(Waters、USA)を用いた。選択した検出波長範囲は、励起波長を250 nm、発光波長範囲を320〜560 nmとした。accq-タグ法による分離をカラムNova-PakTM C18 150 × 3.9 mm, 4 μm (Waters、USA)を用いて+40℃で行った。試料の注入容量は5μlとした。アミノ酸誘導体の生成およびその分離は、製造者Watersの推奨に従って行った(Liu, H. et al, J. Chromatogr. A, 828, 383-395 (1998); Waters accq-tag chemistry package. Instruction manual. Millipore Corporation, pp.1-9 (1993))。6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートでアミノ酸誘導体を得るために、キットAccq-FluorTM (Waters, USA)を用いた。accq-タグ法による分析は、濃Accq-tag Eluent A(Waters、USA)を用いて行った。全ての溶液は、Milli-Q水を用いて調製し、標準溶液は+4℃で保存した。IDO生産株の粗抽出物中のIDO活性の測定結果を表1に示す。
【0102】
MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の細胞を遠心分離によって回収し、L-イソロイシンおよびケトグルタレード、グルコースまたはグリセロールを種々の組合せで添加したMI30ch培地(50 mM KH2PO4(NaOHでpH7に調整)、20 mM NH4Cl、2 mM MgSO4、チョーク 1.25 g/100 ml、30 g/l Ile、2 mM FeSO4、2 mM アスコルビン酸、200 mg/lアンピシリン)(表2、3参照)に2 mlの最終容量で再懸濁した(約0.03〜0.04のOD540まで)。細胞を激しく攪拌しながら32℃で約15時間培養した。その後、4HILの蓄積を上記のようにしてHPLC分析によって調べた。α-ケトグルタル酸、グルコースおよびグリセロールに依存してMG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株により生産された4HILの測定結果を表2に示す(少なくとも3本の試験管)。異なるグリセロール濃度でMG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(PL-brnQ)[pELAC
-IDO(Lys, 23)]株により生産された4HILの測定結果を表3に示す(少なくとも3本の試験管)。以下の表2および表3から判るように、MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]と比較して、MG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]はより高い量の4HILを生産した。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
実施例3
MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の構築
3.1. MG1655(ΔsucAB)株の構築
【0107】
sucAB遺伝子を削除するために次の操作を行った。CmR-マーカーおよびPtacプロモーターを含む1.8 kbのDNA断片を、オリゴヌクレオチドSVS-192(配列番号19)およびSVS-193(配列番号20)をプライマーとして、MG1655(attR-Cm-attL-Ptac)株(Katashkina J.I. et al.,
Molekularnaya biologiya(RU), v.39, No.5,1-10 (2005))の染色体DNAをテンプレートとして、PCRにより増幅した。PCR条件は以下のとおりとした: 変性ステップとして95℃で3分、最初の2サイクルのプロフィールとして、95℃で1分、50℃で30秒、および72℃で40秒、最後の25サイクルのプロフィールとして、95℃で30秒、54℃で30秒、および72℃で40秒、最終ステップとして72℃で5分。
【0108】
1.8 kbpのPCR生成物を得、アガロースゲルで精製し、エシェリヒア・コリMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。該株は、温度感受性複製開始点を有するプラスミドpKD46を含む。
【0109】
エレクトロポレーションは上記と同様に行った。エレクトロポレーション後の細胞は1 mLのSOC培地と37℃で2.5時間インキュベートした後、クロラムフェニコール(30 μg/mL)を含むL寒天培地上でプレートし、37℃で増殖させ、Cm耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Cmを含むL-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性を試験した。
【0110】
このようにしてエシェリヒア・コリMG1655(ΔsucAB)株を構築した。
【0111】
3.2. MG1655(ΔaceAK)株の構築
aceAK遺伝子を削除するために次の操作を行った。KmR-マーカーおよびPtacプロモータ
ーを含む1.8 kbのDNA断片を、オリゴヌクレオチドSVS-199(配列番号21)およびSVS-200(配列番号22)をプライマーとして、pMW118-((attL-Kmr-(attR)(参考例2参照)プラスミドDNAをテンプレートとして、PCRにより増幅した。
【0112】
PCR条件は以下の通りとした:変性ステップとして95℃で3分、最初の2サイクルのプロフィールとして、95℃で1分、50℃で30秒、および72℃で40秒、最後の25サイクルのプロフィールとして、95℃で30秒、54℃で30秒、および72℃で40秒、最終ステップとして72℃で5分。
【0113】
1.8 kbpのPCR生成物を得、アガロースゲルで精製し、エシェリヒア・コリMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。該株は、温度感受性複製開始点を有するプラスミドpKD46を含む。
【0114】
エレクトロポレーションは上記と同様に行った。エレクトロポレーション後の細胞は1 mLのSOC培地を用いて37℃で2.5時間培養した後、カナマイシン(20 μg/mL)を含むL寒天培地上にプレートして37℃で増殖させ、Km耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Kmを含むL-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性を試験した。
【0115】
このようにしてエシェリヒア・コリMG1655(ΔaceAK)株を構築した。
【0116】
3.3. MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株の構築
MG1655(PL-brnQ)株からクロラムフェニコール耐性マーカーを除去するために、細胞をプラスミドpMW118-int-xis(ApR)(WO2005/010175)で形質転換した。ApRクローンを150 mg/lのアンピシリンを含むLB寒天平板上で30℃で増殖させた。数十個のApRクローンをピックアップし、クロラムフェニコール感受性について試験した。プラスミドpMW118-int-xisは、LB寒天平板上で42℃でインキュベートすることによりCmS細胞から除去した。得られた株を以降の構築に使用した。
【0117】
エシェリヒア・コリMG1655(ΔsucAB)株の染色体からのDNA断片を、MG1655(PL-brnQ)株からP1形質導入(Miller, J.H. Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1972, Plainview, NY)によってクロラムフェニコール耐性マーカーを除去して得られた株に導入した。このようにしてMG1655(ΔsucAB, PL-brnQ)株を構築した。エシェリヒア・コリMG1655(ΔaceAK)株の染色体からのDNA断片をMG1655(ΔsucAB, PL-brnQ)株に導入した。このようにしてMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株を構築した。
【0118】
MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株の細胞をプラスミドpELAC-IDO(Lys, 23)で形質転換した。得られたクローンは、X-gal/IPTG寒天-平板(ブルー/ホワイトテスト)で選択した。このようにしてMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株を得た。
【0119】
3.4. MG1655、MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)、MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の増殖の研究
MG1655およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株を以下の培養培地で増殖させた。
A - M9塩+グルコース(0.4%)
B - M9塩+グルコース(0.4%)+DAP、Met、Lys(各40 mg/l)
C - M9塩+グリセロール(0.4%)
D - M9塩+グリセロール(0.4%)+DAP、Met、Lys(各40 mg/l)
【0120】
各株を試験管中37℃で培養し、細胞培養物の光学濃度(A555)を毎時間測定した。図5か
ら判るように、MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株はスクシニル-CoAを欠き、培地AまたはCで増殖することができない。リジン、メチオニンおよびジアミノピメレート(DAP)の添加のみによって該株の増殖が回復した。
【0121】
さらに、MG1655[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株を下記の培地において増殖させた。
G - M9塩+グルコース(137 mM)
GI - M9塩+グルコース(137 mM)+L-イソロイシン(137 mM)
Y - M9塩+グリセロール(136 mM)
YI - M9塩+グリセロール(136 mM)+L-イソロイシン(137 mM)
【0122】
各培地はアンピシリン(100 mg/l)を含むものとした。各株を試験管中37℃で培養し、細胞培養物の光学濃度(A555)を毎時間測定した。
【0123】
IDO遺伝子の発現は、L-イソロイシンを添加したM9塩培地でのMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株の増殖を回復する(図6)。この結果は、イソロイシンヒドロキシル化が該株の増殖をもたらすという本発明者らの考えを証明するものである。
【0124】
実施例4
エシェリヒア・コリMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株による4HILの生産
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子の発現の弱化の効果を試験するため、MG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO](Lys, 23)およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株の細胞をそれぞれグルコース(300 mM)またはグリセロール(500 mM)を添加した培地A[(NH4)2SO4 1.5 g/100 ml、KH2PO4 0.15 g/100 ml、MgSO4 0.1 g/100 ml (MgSO4(7H2O 0.205 g/100 ml)、220 mM Ile、2 mM FeCl2, 1 mM IPTG, チョーク 2 g/100 ml]で、激しく攪拌しながら32℃で72時間増殖させた。その後、上記のようにして、HPLC分析によって4HILの蓄積を測定した。MG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]株によって生産された4HILの測定結果を表4に示す(少なくとも3本の試験管)。表4から判るように、MG1655(PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]と比較して、MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)[pELAC-IDO(Lys, 23)]はより高い量の4HILを生産した。
【0125】
【表4】

【0126】
実施例5
エシェリヒア・コリMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pEL-IDO(Lys, 23)]株による4HILの生産
5.1. pEL-IDO(Lys, 23)プラスミドの構築
pELAC-IDO(Lys, 23)プラスミド中のlacI遺伝子の存在により、IPTGの添加は4-HIL生産の生体内変化プロセスの間にIDO発現を誘導するのに必要である。そのようなIPTG依存性を回避するために、pELAC-IDO(Lys, 23)プラスミド(図1)からSphI-EcoRV DNA断片を対応する制限酵素を使用して切り出し、プラスミドの残存部を連結することにより、該プラスミドからlacI遺伝子の大部分を削除した。このようにしてpEL-IDO(Lys, 23)プラスミドを構築した。
【0127】
5.2. 4HILの生産
MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*株は、上記のようにプラスミドpMW118-int-xis(ApR)(WO2005/010175)を使用して、CmおよびKnマーカーをMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)株から順次削除することによって得られた。プラスミドpELAC-IDO(Lys, 23)およびpEL-IDO(Lys, 23)を得られた株に導入し、MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pELAC-IDO(Lys, 23)]およびMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pEL-IDO(Lys, 23)]株を得た。
【0128】
新たに調製されたLB寒天平板からのMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pELAC-IDO(Lys, 23)]またはMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pEL-IDO(Lys, 23)]株の1片のバイオマスをそれぞれAp(100 mg/l)を添加した50 mlのLB液体培地に接種し、750 mlフラスコ中で37℃で約4時間培養した。得られた細胞培養物を、「Marubischi」発酵槽において実行した生体内変換の接種物として使用した。以下の培養パラメーターを使用した:初発培養容量 500 ml、攪拌 1200回転/分、空気 1:1、培養温度 34℃。2.5 M NH4OHを使用してpH 7.0に安定させた。
【0129】
MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pELAC-IDO]株の接種物を5 g/l (NH4)2SO4、1.5 g/l KH2PO4、1 g/l MgSO4 7H2O、0.01 g/l FeSO4 7H2O、22〜23 g/l イソロイシン(約170
mM)、50 g/l グルコース、1mM IPTGを含む450 mlの培地(KOHでpH 7 に調整、最終容量=
500 ml)に加え、約20時間培養した。
【0130】
MG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*[pEL-IDO]株の接種物を450 mlのIPTGを含まない上記培地に加え、約20時間培養した。4HILおよびL-イソロイシンの濃度を上記のようにHPLC分析を使用して測定した。表5から判るように、pEL-IDOプラスミドを使用することによりIPTG-依存性を回避できる。
【0131】
【表5】

【0132】
参考例1
pELAC-ilvAプラスミドの構築
プラスミドpET-ilvAは以下のように構築した。エシェリヒア・コリMG1655株染色体DNAの1.5 kbの断片を、プライマーとしてオリゴヌクレオチドilvA-5(配列番号23)およびilvA-3(配列番号24)を使用したPCRにより増幅した。LB寒天平板からのエシェリヒア・コリMG1655株の1片の細胞培養物を、鋳型DNA源としてPCRに使用した。その結果、DNA断片はilvA遺伝子を含んでおり、NdeIとBamHI制限部位が隣接していた。これをpET22(b+)ベクター(Novagen、ドイツ)のNdeI-BamHI部位にクローニングした。このようにして組換プラスミドpET-ilvAを構築した(図2)。
【0133】
pELAC-ilvAプラスミドは、T7プロモーターを含むBglII-XbaI断片を、Placプロモーターを含むBglII-XbaI断片(配列番号25)で置換することにより、pET-ilvAから構築した。
【0134】
参考例2
pMW118-(λattL-Kmr-λattR)プラスミドの構築
pMW118-(λattL-Kmr-λattR)プラスミドは、pMW118-attL-Tc-attR(WO2005/010175)プラスミドから、テトラサイクリン耐性マーカー遺伝子をpUC4Kプラスミドのカナマイシン耐性遺伝子で置換することによって構築した(Vieira, J. and Messing, J., Gene, 19(3): 259-68 (1982))。
【0135】
そのために、pMW118-attL-Tc-attRプラスミドのEcoRI-HindIII大断片を、pUC4KプラスミドのHindIII-PstI(676 bp)およびEcoRI-HindIII(585 bp)の2つの断片に連結した。
基本となるpMW118-attL-Tc-attRは、以下の4つの断片を連結することによって得た。
【0136】
1)エシェリヒア・コリW3350(λプロファージを含む)の染色体の対応する領域から、オリゴヌクレオチドP3およびP4(配列番号27および28)をプライマーとして用いたPCR増幅によ
り得たattL(配列番号26)を有するBglII-EcoRI断片(114 bp)。これらのプライマーは、BglIIおよびEcoRIのための副次的な認識部位を含んでいる。
【0137】
2)エシェリヒア・コリW3350(λプロファージを含む)の染色体の対応する領域から、オリゴヌクレオチドP5およびP6(配列番号30および31)をプライマーとして用いたPCR増幅により得たattR(配列番号29)を有するPstI-HindIII断片(182 bp)。これらのプライマーは、PstIおよびHindIIIのための副次的な認識部位を含んでいる。
【0138】
3)pMW118-ter_rrnBのBglII-HindIII大断片(3916 bp)。プラスミドpMW118-ter_rrnBは、次の3つのDNA断片を連結することによって得た。
a) pMW118のAatII-EcoRI断片を有する大断片(2359 bp)。この断片は、pMW118をEcoRI制限エンドヌクレアーゼで切断し、DNAポリメラーゼIクレノーフラグメントで処理し、次いでAatII制限エンドヌクレアーゼで消化することによって得た。
b) アンピシリン耐性(ApR)の遺伝子blaを有するpUC19のAatII-BglII小断片(1194 bp)。この断片は、pUC19プラスミドの相当する領域をオリゴヌクレオチドP7およびP8(配列番号32および33)をプライマーとして用いたPCRで増幅することにより得た。これらのプライマーは、AatIIおよびBglIIエンドヌクレアーゼのための副次的な認識部位を含んでいる。
c) 転写ターミネーターter_rrnBのBglII-PstIpol小断片(363 bp)。この断片は、エシェリヒア・コリMG1655染色体の対応する領域をオリゴヌクレオチドP9およびP10(配列番号34および35)をプライマーとして用いたPCRで増幅することにより得た。これらのプライマーは、BglIIおよびPstIエンドヌクレアーゼのための副次的な認識部位を含んでいる。
【0139】
4)テトラサイクリン耐性遺伝子およびter_thrL転写ターミネーターを有するpML-Tc-ter_thrLのEcoRI-PstI小断片(1388 bp)(配列番号36)。pML-Tc-ter_thrLプラスミドは、次の2工程で得た。
・pML-MCSプラスミド(Mashko, S.V. et al., Biotekhnologiya (in Russian), 2001, no.
5, 3-20)をXbaIおよびBamHI制限エンドヌクレアーゼで切断し、次いで大断片(3342 bp)を、ter_thrLターミネーターを含むXbaI-BamHI断片(68 bp)と連結した。このter_thrLターミネーターを含む断片は、エシェリヒア・コリMG1655染色体の対応する領域を、オリゴヌクレオチドP11およびP12(配列番号37および38)をプライマーとして用いたPCRで増幅することにより得た。これらのプライマーは、XbaIおよびBamHIエンドヌクレアーゼのための副次的な認識部位を含んでいる。
【0140】
・pML-ter_thrLプラスミドをKpnIおよびXbaI制限エンドヌクレアーゼで切断し、次いでDNAポリメラーゼIクレノーフラグメントで処理し、テトラサイクリン耐性遺伝子を有するpBR322のEcoRI-Van91I小断片(1317 bp)と連結して、pML-Tc-ter_thrLプラスミドを得た。pBR322は、EcoRIおよびVan91I制限エンドヌクレアーゼで切断し、次いでDNAポリメラーゼIクレノーフラグメントで処理した。
【0141】
実施例6
エシェリヒア・コリMG1655(ΔsucAB, ΔaceAK, PL-brnQ)*株によるヒドロキシル-Proの生産
配列番号39のDNAの合成は委託し(Invitrogen)、またダクチロスポランギウム・エスピー(Dactylosporangium sp.)からのL-プロリル4-ヒドロキシラーゼのアミノ酸配列(配列番号40)をコードするDNAは、当該DNAがBlueHeron pUCminusMCSに結合されたプラスミドのの形態で得た。このプラスミドに、NdeIによって認識される配列およびHindIIIによって認識される配列が、DNAの5'および3'末端側にそれぞれ位置するように配列を挿入し、プラスミドをNdeI/HindIIIで切断した。また、ptrp4ベクター(Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic 32 (2005)205-211)をNdeI/HindIIIで切断した。NdeI/HindIIIで切断した2つの断片を結合し、エシェリヒア・コリ株JM109へ導入して形質転換体JM109/ptrp4_PD
Oを得た。
【0142】
得られた形質転換体からプラスミドDNAを抽出し、エシェリヒア・コリ株MG1655およびエシェリヒア・コリMG1655 ((sucAB, (aceAK, PL-brnQ)* 株へ導入し、形質転換体MG1655/ ptrp4_PDOおよびMG1655 ((sucAB, (aceAK, PL-brnQ)*/ ptrp4_PDOをそれぞれ得た。
【0143】
MG1655/ ptrp4_PDOおよびMG1655 ((sucAB, (aceAK, PL-brnQ)*/ ptrp4_PDO株を30℃で24時間、100 mg/lのアンピシリンを含むLB培地で培養し、300 μlの培養物を100 mg/lのアンピシリンを含むLB培地3 mlに接種し、37℃で6時間培養した。L-Proおよび炭酸カルシウムを終濃度でそれぞれ10 g/lおよび20 g/l含む試験管に、得られた培養物(0.3 ml)および下記の培養培地(2.7 ml)を加えた。
【0144】
<培地組成>
培地A (300 ml): D-グルコース(20 g/l)、MgSO4・7H2O(1 g/l))
培地B (700ml): 硫酸アンモニウム(5 g/l)、KH2PO4(1.5 g/l)、アスコルビン酸ナトリウム(0.01 g/l)、FeSO4・7H2O(0.1g/l)、KOHでpH 7.0に調整
培地AおよびBを120℃で20分間別々にオートクレーブ滅菌し、冷却後に混合した。
【0145】
D-グルコース濃度(g/l)および4-ヒドロキシ-プロリン濃度(mM)を表6に示す。D-グルコースはグルコース分析器(SAKURA SI、日本)で分析した。4-ヒドロキシ-プロリンは、Sumichiral OA-5000(住化分析センター、日本)を使用するHPLCで分析した(移動相:2 mM硫酸銅水溶液、カラム温度:30℃、流速: 1 ml/分、検出: UV 254 nm)。
【0146】
その結果、MG1655 ((sucAB, (aceAK, PL-brnQ)*/ ptrp4_PDOは、MG1655/ ptrp4_PDOと比較して、ヒドロキシプロリンの生産反応のためにD-グルコースをより効率的に利用することができることが確認された。
【0147】
【表6】

【0148】
実施例7-1
エシェリヒア・コリMG1655((sucA, (aceAK)株およびエシェリヒア・コリMG1655((sucB, (aceAK)株の構築
PL-brnQ変異がD-グルコースの効率的な利用に必須であるか否かを確認するために以下
の実験を行った。
【0149】
PL-brnQに変異がなく、2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucAおよびsucB)、イソクエン酸リアーゼ(aceA)およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼ・キナーゼ/ホスファターゼ(aceK)を欠損した株を構築するために、(aceAKをE. coli Keio Knockout Collection(エシェリヒア・コリ遺伝子欠失株コレクション、http://ecoli.naist.jp)のMG1655 (sucA
株(JW0715)およびエシェリヒア・コリ株MG1655 (sucB (JW0716)に導入し、エシェリヒア・コリMG1655((sucA, (aceAK)株およびエシェリヒア・コリMG1655((sucB, (aceAK)株を得た。sucAおよびsucBのうちのいずれかの欠損は2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性の欠損をもたらす。
【0150】
aceAK遺伝子を削除するために、以下の操作を行った。CmRマーカーを含む1.6 kbのDNA断片を、オリゴヌクレオチドSVS-199(配列番号21)およびおよびSVS-200(配列番号22)をプライマーとし、pMW118-((attL-Cmr-(attR) (WO2005/010175)プラスミドDNAを鋳型とするPCRにより増幅した。
PCRの条件は以下の通りとした:94℃で3分の変性ステップ、94℃で30秒、50℃で30秒、および72℃で2分のプロファイルを30サイクル。
【0151】
1.6 kbp PCR産物が得られ、これをアガロースゲルにおいて精製し、温度感受性複製開始点を有するプラスミドpKD46(WO2005/010175)を含むエシェリヒア・コリMG1655((sucA)株、エシェリヒア・コリMG1655((sucB)株のエレクトロポレーションに使用した。
エレクトロポレーションは上記のように行なった。エレクトロポレーション後の細胞を1 mlのSOC培地を用いて37℃で1時間インキュベートし、Cm(25 μg/mL)を含むL寒天培地にプレートし、37℃で増殖させてCmR組換体を選択した。その後、pKD46プラスミドを除去するために、Cmを含むL寒天培地で2回継代し、得られたコロニーをアンピシリンに対する感受性について試験した。
【0152】
その後、上記のようにしてプラスミドpMW118-int-xis-ts(ApR)(WO2005/010175)を使用してCmRマーカーを削除した。
【0153】
このようにしてエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucA, ΔaceAK)株およびエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucB, ΔaceAK)株を構築した。
【0154】
実施例7-2
エシェリヒア・コリMG1655[pEL-IDO(Lys, 23)]株、エシェリヒア・コリMG1655(ΔsucA, ΔaceAK)[pEL-IDO(Lys, 23)]株およびエシェリヒア・コリMG1655(ΔsucB, ΔaceAK)[pEL-IDO(Lys, 23)]株による4HILの生産
【0155】
pEL-IDO(Lys, 23)プラスミドを、エシェリヒア・コリMG1655株、ならびに上記方法により得られたエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucA, ΔaceAK)およびエシェリヒア・コリ MG1655 (ΔsucB, ΔaceAK)株のそれぞれに導入し、形質転換体エシェリヒア・コリMG1655[pEL-IDO(Lys, 23)]株、エシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucA, ΔaceAK)[pEL-IDO(Lys, 23)]株およびエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucB, ΔaceAK)[pEL-IDO(Lys, 23)]株を得た。
【0156】
これらの株を、100 mg/lのアンピシリンを含むLB培地で30℃で24時間培養し、300 μlの培養物を100 mg/lのアンピシリンを含むLB培地3 mlに接種し、37℃で6時間培養した。L-Ileおよび炭酸カルシウムを終濃度でそれぞれ10 g/lおよび20 g/l含む試験管に、得られた培養物(0.3 ml)および下記の培養培地(2.7 ml)を加えた。
【0157】
<培地組成>
培地A (300 ml): D-グルコース(20 g/l)、MgSO4・7H2O(1 g/l))
培地B (700ml): 硫酸アンモニウム(5 g/l)、KH2PO4(1.5 g/l)、アスコルビン酸ナトリウム(0.01 g/l)、FeSO4・7H2O(0.1 g/l)、KOHでpH 7.0に調整
培地AおよびBを120℃で20分間別々にオートクレーブ滅菌し、冷却後に混合した。
【0158】
培地中の残存D-グルコースおよび生成した4-ヒドロキシ-イソロイシンを表7に示す。D-グルコースはグルコース分析器(SAKURA SI、日本)で分析した。4-ヒドロキシ-イソロイシンは、MCI GEL CRS10W(三菱化学、日本)を使用したHPLC(移動相: 1 mM CuSO4、5% MeOH、カラム温度:30℃、流速: 1 ml/分、検出: UV 254 nm)で分析した。
【0159】
その結果、PL-brnQ変異を有しないエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucA, ΔaceAK)[pEL-IDO(Lys, 23)]株およびエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucB, ΔaceAK)[pEL-IDO(Lys, 23)]株を使用した反応では、MG1655[pEL-IDO(Lys, 23)]と比較して、D-グルコースはIleジオキシゲナーゼによる変換反応により効率的に利用され得ることが確認された。
【0160】
これらの結果から、ΔsucAB、ΔsucA、ΔsucB、またはΔaceAKの遺伝子を欠損する株、例えばエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucAB, ΔaceAK)株、エシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucA, ΔaceAK)株およびエシェリヒア・コリMG1655 (ΔsucB, ΔaceAK)株は、2-オキソグルタル酸依存性酵素に広く使用することができる。
【0161】
【表7】

【配列の説明】
【0162】
1: バチルス・チューリンゲンシス2-e-2株からのL-イソロイシンジオキシゲナーゼ遺伝子2: バチルス・チューリンゲンシス2-e-2株からのL-イソロイシンジオキシゲナーゼ
3: エシェリヒア・コリからのbrnQ遺伝子
4: エシェリヒア・コリからのBrnQ
5: エシェリヒア・コリからのsucA遺伝子
6: エシェリヒア・コリからのSucA
7: エシェリヒア・コリからのsucB遺伝子
8: エシェリヒア・コリからのSucB
9: エシェリヒア・コリからのaceA遺伝子
10: エシェリヒア・コリからのAceA
11: エシェリヒア・コリからのaceK遺伝子
12: エシェリヒア・コリからのAceK
13: エシェリヒア・コリからのilvE遺伝子
14: エシェリヒア・コリからのIlvE
15: プライマーSVS 170
16: プライマーSVS 169
17: プライマーSVS 179
18: プライマーSVS 180
19: プライマーSVS 192
20: プライマーSVS 193
21: プライマーSVS 199
22: プライマーSVS 200
23: プライマーIlvA-5
24: プライマーilvA-3
25: Placプロモーターを含むBglII-XbaI断片
26: 断片attL
27: プライマーP3
28: プライマーP4
29: 断片attR
30: プライマーP5
31: プライマーP6
32: プライマーP7
33: プライマーP8
34: プライマーP9
35: プライマーP10
36: pML-Tc-ter_thrLの断片
37: プライマーP11
38: プライマーP12
39: ダクチロスポランギウム・エスピーからのL-プロリン4-ヒドロキシラーゼ遺伝子
40: ダクチロスポランギウム・エスピーからのL-プロリン4-ヒドロキシラーゼ
【0163】
本発明をその好ましい態様を参照して詳細に記載したが、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であり、また等価物を使用することが可能であることは当業者に自明であろう。本明細書中に引用したすべての参考文献は引用により本出願の一部とする。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明によれば、(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの生産を増強することができる。この化合物はインスリン分泌性活性を有する医薬組成物の成分として有用である。L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA断片で形質転換した細菌を使用することにより(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンの生産が増強される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA断片で形質転換した細菌であって、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変され、前記タンパク質によって触媒される反応の生成物の生産能を有する前記細菌。
【請求項2】
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子を不活性化することにより前記発現が弱化されている、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼおよびイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、請求項1に記載の細菌。
【請求項4】
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼおよびイソクエン酸リアーゼをコードする前記遺伝子を不活性化することにより前記発現が弱化されている、請求項3に記載の細菌。
【請求項5】
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、請求項1に記載の細菌。
【請求項6】
オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼをコードする前記遺伝子を不活性化することにより前記発現が弱化されている、請求項5に記載の細菌。
【請求項7】
細菌が、エシェリヒア、シュードモナス、コリネバクテリウム、アースロバクター、アスペルギルスおよびバチルスからなる群から選択される属に属する、請求項1〜6のいずれかに記載の細菌。
【請求項8】
エシェリヒア・コリ、アースロバクター・シンプレックス、コリネバクテリウム・グルタミカム、アースロバクター・グロビフォルミス、アースロバクター・スルフレウス、アースロバクター・ビスコサスおよびバチルス・ズブチリスからなる群から選択される、請求項7に記載の細菌。
【請求項9】
2-オキソグルタル酸依存性酵素活性を有するタンパク質によって触媒される反応の生成物を製造する方法であって、
請求項1〜8のいずれかに記載の細菌を前記反応の基質を含む培養培地中で培養し、
生成物を単離することを含む前記方法。
【請求項10】
前記タンパク質がL-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有し、生成物が(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンである、請求項1に記載の細菌。
【請求項11】
L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子を過剰発現するように改変されている、請求項6に記載の細菌。
【請求項12】
L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、
(a) 配列番号1の塩基配列を含むDNA、
(b) 配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c) 配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA、
(d) 配列番号2のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を含むアミノ酸配列を含み、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA、および
(e) 配列番号2のアミノ酸配列に対し少なくとも98%の相同性を示すアミノ酸配列を含み、L-イソロイシンジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA
からなる群から選択される、請求項10に記載の細菌。
【請求項13】
L-イソロイシンジオキシゲナーゼの活性が増強されるように改変されている、請求項10に記載の細菌。
【請求項14】
L-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子の発現を増加させ
ることによりL-イソロイシンジオキシゲナーゼの活性が増強されている、請求項13に記載の細菌。
【請求項15】
L-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子の発現制御配列を改変することにより、またはL-イソロイシンジオキシゲナーゼをコードする遺伝子のコピー数を増加させることによりL-イソロイシンジオキシゲナーゼの発現が増加されている、請求項14に記載の細菌。
【請求項16】
L-イソロイシントランスポーターをコードする遺伝子がエシェリヒア・コリからのbrnQ遺伝子である、請求項11に記載の細菌。
【請求項17】
分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が弱化するようにさらに改変されている、請求項10に記載の細菌。
【請求項18】
前記遺伝子を不活性化することにより前記発現が弱化されている、請求項17に記載の細菌。
【請求項19】
(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンまたはその塩を製造する方法であって、
請求項10〜18のいずれかに記載の細菌をL-イソロイシンを含む培養培地中で培養し、
(2S,3R,4S)-4-ヒドロキシ-L-イソロイシンを単離することを含む前記方法。
【請求項20】
培養培地が、炭水化物およびアルコールからなる群から選択される炭素源を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記炭水化物がグルコースであり、前記アルコールがグリセロールである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記タンパク質がL-プロリンヒドロキシラーゼ活性を有し、生成物が4-ヒドロキシ-L-プロリンである請求項1に記載の細菌。
【請求項23】
4-ヒドロキシ-L-プロリンまたはその塩を製造する方法であって、
L-プロリンを含む培養培地中で請求項22に記載の細菌を培養し、
4-ヒドロキシ-L-プロリンを単離することを含む前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−507486(P2011−507486A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524285(P2010−524285)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/JP2008/073914
【国際公開番号】WO2009/082029
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】