説明

2つのクラッチと2つの2次軸を有するギヤボックス

本発明は、同心の中実の主軸及び中空の主軸(20、30)、並びに同心でない2つの2次軸(50、60)を含んでなる、平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス(10)において、第1−2次軸(50)が、デファレンシャルのリングギヤ(70)と直接係合する減速ピニオン(51)を支持し、第2−2次軸(60)が、第1−2次軸(50)に対する中間軸(75)と減速ピニオン(51)を介して上記リングギヤ(70)を駆動することを特徴とする、平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のギヤボックスに関する。
【0002】
特に本発明は、同心の中実の主軸及び中空の主軸、並びに同心でない2つの2次軸を含んでなる、平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックスに関する。
【背景技術】
【0003】
文献FR 2 802 600に記載された上述のタイプのギヤボックスは、軸方向の必要空間が大きいという問題を提起する。また、その変速段の様々な自動車への適合化の可能性は限定されている。最後に、ギヤボックスの下部は、2次軸の1つによって占められるので、その結果、それらのピニオンがオイルの中をくぐりながら乳濁液を生じ、この乳濁液は、オイルポンプと、湿式入力クラッチを使用する場合における油圧分配器の機能を、深刻に混乱させるリスクを有する。
【0004】
【特許文献1】FR 2 802 600
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来のギヤボックスの問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、第1−2次軸が、デファレンシャルのリングギヤと直接係合する減速ピニオンを支持し、第2−2次軸が、上記第1−2次軸に対する中間軸と上記減速ピニオンを介して上記リングギヤを駆動することを特徴とする、平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックスを提供する。
【0007】
本発明のその他の特徴によれば、上記主軸は、上記2次軸のどちらか一方のアイドルピニオンと係合する複数の固定ピニオンを支持し、上記固定ピニオンのうちの少なくとも2つの固定ピニオンは、各上記2次軸のアイドルピニオンと同時に係合し、上記固定ピニオンのうちの1つの固定ピニオンは、前進用のアイドルピニオン及び後進用の中間ピニオンと同時に係合する。
【0008】
最後に、上記主軸と、上記2次軸は、上記主軸を頂点とし、頂点の角度が上向きに開かれた鈍角である3角形を定義するという事実によって、従来のギヤボックスの必要空間が大きいという問題が解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のその他の特徴及び利点は、本発明に特有の実施の形態の、添付図面を参照しながら行う以下の説明を読むことによって明確になるであろう。これらの図において:
−図1は、図4の主軸及び2次軸を通る線に沿って折り曲げられた面の模式断面図であり、
−図2は、図4の第2−2次軸と、中間軸と、第1−2次軸を通る線に沿って折り曲げられた面の模式断面図であり、
−図3は、図4の第2−2次軸と、中間軸と、第2主軸を通る線に沿って折り曲げられた面の模式断面図であり、
−図4は、後進ギヤ比によるトルクの経路を表す、図2に対応する図である。
【0010】
図1に、本発明に従って作られたギヤボックス10の模式図を示す。
【0011】
既知のように、ギヤボックス10は、中空の第2主軸30に同心に設けられた中実の第1主次軸20を有する。これらの2つの軸は、ケース(図示しない)の中に回転可能に取り付けられ、それぞれ第1クラッチ40と第2クラッチ41を介してエンジンによって駆動される。これらのクラッチは、例えば、非限定的に、湿式多板クラッチである。
【0012】
ギヤボックスは、同じくケースの中に回転可能に取り付けられた、第1−2次軸50と第2−2次軸60を有する。本発明によれば、第1主軸20、第2主軸30と、第1−2次軸50、第2−2次軸60は、第1主軸20、第2主軸30を頂点として、頂点の角度が上向きに開かれた鈍角である、3角形を定義する。このようにして、図4に示すように、これらの2次軸は、主軸と共に、頂点が主軸によって占められた、大きく開いたV字を形成する。
【0013】
第1主軸20、第2主軸30と、第1−2次軸50、第2−2次軸60の間に、エンジンのトルクを、車両の車輪を駆動するデファレンシャル(図示しない)のリングギヤ70(図4に示す)へ伝達するように、歯車装置が配置される。このために、第1−2次軸50のみが、デファレンシャルのリングギヤ70と係合する減速ピニオン51を有し、第2−2次軸60は、第1−2次軸50、第2−2次軸60によってそれぞれ支持された固定ピニオン52、62と係合する固定ピニオン76、77を支持する中間軸75を介して、第1−2次軸50へ回転状態に連結される。
【0014】
これらの係合は、第1、第2主軸20、30によって支持され、第1、第2−2次軸50、60によって支持されたアイドルピニオンと係合する、固定ピニオンによって構成される。これらのアイドルピニオンは、少なくとも2つの前進ギヤ比と1つの後進ギヤ比に選択的に対応する独立な係合を実行するための、独立な噛み合いクラッチ手段によって、第1−2次軸50、第2−2次軸60へ、選択的に回転状態で連結することが可能である。また、第1主軸20の第1クラッチ40と、第2主軸30の第2クラッチ41は、車輪へのトルク伝達を不連続にすることなく、少なくとも1つのギヤ比の変更を可能にするために、2つのクラッチのうちの1つを滑動させることによって、2つクラッチが共にトルクを伝達する状態から移行させて、交互に操作することが可能である。
【0015】
これらの図に示された、本発明の非限定的な実施の形態によれば、第1主軸20は、左から右へ向けて、固定ピニオン21と固定ピニオン22を有する。固定ピニオン21は、第1ギヤ比を構成するために、第1−2次軸50によって支持された唯一のアイドルピニオン81と係合する。固定ピニオン22は、第5ギヤ比を構成するために、第1−2次軸50によって支持されたアイドルピニオン82と係合し、第3ギヤ比を構成するために、第2−2次軸60によって支持されたアイドルピニオン83と係合する。
【0016】
第2主軸30も、左から右へ向けて、固定ピニオン31と固定ピニオン32を有する。固定ピニオン31は、第6ギヤ比を構成するために、第1−2次軸50によって支持された唯一のアイドルピニオン84と係合し、第4ギヤ比を構成するために、第2−2次軸60によって支持されたアイドルピニオン85と係合する。固定ピニオン32は、第2ギヤ比を構成するために、第1−2次軸50によって支持されたアイドルピニオン86と係合する。後進ギヤ比は、第2−2次軸60によって支持された固有のアイドルピニオン87を有する。アイドルピニオン87は、中間軸75に支持され、第2中間ピニオン91に回転状態に連結された、中間ピニオン90と係合する。第2中間ピニオン91は、第2主軸30の固定ピニオン32と係合する。本発明によれば、中間ピニオン90と第2中間ピニオン91は、中間軸75上を空転する。
【0017】
要約すれば、第1、第2主軸20、30は、第1、第2−2次軸50、60の一方または他方のアイドルピニオン(81、82、83、84、85、86)と係合する複数の固定ピニオン21、22、31、32を有し、固定ピニオンのうちの少なくとも2つの固定ピニオン22、31は、各第1、第2−2次軸50、60のアイドルピニオン82、83、84、85と同時に係合し、固定ピニオンのうちの1つの固定ピニオン32は、前進のアイドルピニオン86と、中間軸の第2中間ピニオン91とに、同時に係合する。
【0018】
この配置は、奇数のギヤ比を得るために、中実の第1主軸20上の2つの固定ピニオン21、22のみを、また偶数のギヤ比と後進のギヤ比を得るために中空の第2主軸30上の2つの固定ピニオン31、32のみを用いて、6前進ギヤ比と、1後進ギヤ比を得ることを可能にする。固定ピニオン22、31、32は、それぞれ2つのピニオンと係合する。すなわち、固定ピニオン22は、アイドルピニオン82、83と、固定ピニオン31は、アイドルピニオン84、85と、固定ピニオン32は、アイドルピニオン86及び中間軸の第2中間ピニオン91と係合する。
【0019】
図2、4から、後進用のアイドルピニオン87と、後進用の中間ピニオン90と、後進用の固定ピニオン62、76は、減速ピニオン51と軸方向の同じ部分に配置されていることが分かる。このように、本発明によって提供される、6前進ギヤ比と1後進ギヤ比を得るためのギヤボックスの軸方向の必要空間は、4ギヤ比を得るためのギヤボックスの軸方向の必要空間と同じである。従って、本発明によって提供されるギヤボックスは、特にコンパクトである。
【0020】
第1、第2主軸20、30と第1−2次軸50との間の距離と、第1、第2主軸20、30と第2−2次軸60との間の距離は、異なってもよいが、同一であることが望ましい。実際、同一の噛み合いクラッチを選択するという条件で、同一のアイドルピニオンを使用することも可能である。本発明によれば、第5ギヤ比用のアイドルピニオン82と、第3ギヤ比用のアイドルピニオン83は同一にすることができ、同じく第6ギヤ比用のアイドルピニオン84と、第4ギヤ比用のアイドルピニオン85は同一にすることができる。
【0021】
従って、第1−2次軸50の固定ピニオン52、第2−2次軸60の固定ピニオン62、中間軸の固定ピニオン76、77は、同一の2つのアイドルピニオンと係合する固定ピニオンから、異なるギヤ比を得るのに適した歯数比を有する。
【0022】
唯一の固定ピニオン22と同一のアイドルピニオン82、83から、第5ギヤ比と第3ギヤ比を得るために、一方では固定ピニオン62の歯数と固定ピニオン76の歯数との組み合わせと、他方では固定ピニオン77の歯数と固定ピニオン52の歯数との組み合わせは、例えば約1.4〜1.7の有効減速比を与える。唯一の固定ピニオン31と同一のアイドルピニオン84、85から、第6ギヤ比と第3ギヤ比を得ることについても同じである。
【0023】
最後に、第3〜第6ギヤ比を満足させる変速段を得るために、固定ピニオン22と固定ピニオン31との間の歯数の比を、第3ギヤ比の第4ギヤ比に対する減速比と、第4ギヤ比の第5ギヤ比に対する減速比と、第5ギヤ比の第6ギヤ比に対する減速比の間の比率が、同一または概ね同一であるように選定すると有利である。
【0024】
第1クラッチ40と第2クラッチ41は、奇数ギヤ比用の固定ピニオン21、22を有する中実の第1主軸20と、偶数ギヤ比用の固定ピニオン31、32を有する中空の第2主軸30を、エンジンへ選択的に接続することを可能にする。また、全てのアイドルピニオンは、それらを支持する2次軸へ、単または複噛み合いクラッチ装置によって、選択的に接続することが可能である。このようにして、アイドルピニオン81、82、84、86は、これらを支持する第1−2次軸50へ選択的に接続することができ、アイドルピニオン83、85、87は、これらを支持する第2−2次軸60へ選択的に接続することができる。
【0025】
第1複噛み合いクラッチ装置100は、第1ギヤ比を得るためにアイドルピニオン81を、あるいは第5ギヤ比を得るためにアイドルピニオン82を、第1−2次軸50へ回転状態で選択的に接続することを可能にする。第2複噛み合いクラッチ装置101は、第6ギヤ比を得るためにアイドルピニオン84を、あるいは第2ギヤ比を得るためにアイドルピニオン86を、第1−2次軸50へ回転状態で選択的に接続することを可能にする。第3複噛み合いクラッチ装置102は、第4ギヤ比を得るためにアイドルピニオン85を、あるいは後進ギヤ比を得るためにアイドルピニオン87を、第2−2次軸60へ回転状態で選択的に接続することを可能にする。最後に、単噛み合いクラッチ装置103は、第3ギヤ比を得るためにアイドルピニオン83を第2−2次軸60へ回転状態で選択的に接続することを可能にする。
【0026】
図4は、後進ギヤ比における、デファレンシャルのリングギヤまでの、エンジンのトルクの経路を表す。トルクは、エンジンから、閉じた第2クラッチ41を介して第2主軸30へ、次いで固定ピニオン32から、第1中間ピニオン90と連結された後進の第2中間ピニオン91へ、次いで第1中間ピニオン90から後進のアイドルピニオン87へ伝達される。アイドルピニオン87は、トルクを、アイドルピニオン87上の噛み合い位置にある第3複噛み合いクラッチ装置102を介して第2−2次軸60へ伝達する。次いで、トルクは、第2−2次軸60から固定ピニオン62へ、次いで固定ピニオン62から中間軸75の固定ピニオン76へ、次いで中間軸75から固定ピニオン77へ伝達される。固定ピニオン77は、その運動を第1−2次軸50の固定ピニオン52へ、第1−2次軸50は、減速ピニオン51を介して、リングギヤ70へ伝達する。
【0027】
第3及び第4ギヤ比におけるトルクの経路は、アイドルピニオン83、85が第2−2次軸60によって支持されているので、上記に類似である。
【0028】
第1ギヤ比におけるエンジンからデファレンシャルのリングギヤへのトルクの経路は以下のとおりである。トルクは、エンジンから、閉じた第1クラッチ40を介して第1主軸20へ、次いで固定ピニオン21からアイドルピニオン81へ、次いでアイドルピニオン81から、アイドルピニオン81上の噛み合い位置にある第1複噛み合いクラッチ装置100を介して、第1−2次軸50へ、次いで第1−2次軸50から固定の減速ピニオン51へ伝達される。減速ピニオン51はトルクをリングギヤ70へ伝達する。
【0029】
第5、第6及び第2ギヤ比についてのトルクの経路は、アイドルピニオン82、84、86が第1−2次軸50によって支持されているので、上記に類似である。
【0030】
最後に、与えられたギヤ比の直近上位のギヤ比への移行は、全ての場合に、クラッチと主軸の変更によってなされることを強調する。実際、このことが、2つのクラッチを同時に操作することによって、エンジンのトルクの車輪への伝達を不連続にすることなく、ギヤ比の変更を実行するための条件である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心の中実の主軸及び中空の主軸(20、30)、並びに同心でない2つの2次軸(50、60)を含んでなる、平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス(10)において、第1−2次軸(50)が、デファレンシャルのリングギヤ(70)と直接係合する減速ピニオン(51)を支持し、第2−2次軸(60)が、上記第1−2次軸(50)に対する中間軸(75)と上記減速ピニオン(51)を介して上記リングギヤ(70)を駆動することを特徴とする、平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項2】
上記中間軸(75)は、それぞれ上記第1−2次軸(50)の固定ピニオン(52)と上記第2−2次軸(60)の固定ピニオン(62)に係合する2つの固定ピニオン(77、76)を支持することを特徴とする、請求項1に記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項3】
上記中間軸(75)は、上記中空の主軸(30)の固定ピニオン(32)と、上記第2−2次軸(60)に噛み合いクラッチによって連結可能な後進用のアイドルピニオン(87)に係合する、後進用の中間ピニオン(91、90)を支持することを特徴とする、請求項1または2に記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項4】
上記中間ピニオン(91、90)は、上記中間軸(75)上を空転することを特徴とする、請求項3に記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項5】
上記主軸(20、30)は、上記2次軸(50、60)のどちらか一方のアイドルピニオン(81、82、83、84、85、86)と係合する複数の固定ピニオン(21、22、31、32)を支持し、上記固定ピニオン(21、22、31、32)のうちの少なくとも2つの固定ピニオン(22、31)は、各上記2次軸(50、60)のアイドルピニオン(82、83、84、85)と同時に係合し、上記固定ピニオン(21、22、31、32)のうちの1つの固定ピニオン(32)は、前進用のアイドルピニオン(86)及び後進用の中間ピニオン(91)と同時に係合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項6】
6前進ギヤ比を有し、2つの上記2次軸(50、60)の間の運動の伝達を可能にする固定ピニオン(62、76、77、52)の減速ギヤ比は、第6ギヤ比に対する第4ギヤ比の比率、または第5ギヤ比に対する第3ギヤ比の比率を与えることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1つに記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項7】
上記主軸(20、30)と、上記2次軸(50、60)は、上記主軸(20、30)を頂点とし、頂点の角度が上向きに開かれた鈍角である3角形を定義することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項8】
上記中間軸(75)と上記2次軸(50、60)との間を連結する固定ピニオン(62、76)は、上記減速ピニオン(51)と同じ軸方向の空間内に位置することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項9】
2つの上記2次軸(50、60)は、上記主軸(20、30)から等距離にあることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。
【請求項10】
第4及び第6ギヤ比用のアイドルピニオン(85、86)の歯は同一であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1つに記載の平行な軸と2つのクラッチを有するギヤボックス。

【公表番号】特表2007−500832(P2007−500832A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530362(P2006−530362)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001214
【国際公開番号】WO2004/106774
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】