説明

2位にアシル基を有するポルフィリン化合物、アルブミン−ポルフィリン複合体および人工酸素運搬体

【課題】より簡便な方法で人工酸素運搬体として有効に作用し得るポルフィリン化合物を提供すること。
【解決手段】2位にアシル基を有するポルフィリン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を可逆的に結合解離できる人工酸素運搬体の活性中心として利用できるポルフィリン化合物に係り、特に、2位にアシル基を有するポルフィリン化合物、これを含むアルブミン−ポルフィリン複合体、および人工酸素運搬体に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で肺から末梢組織へと効率よく酸素を輸送するヘモグロビンや、筋組織に多く分布し、酸素貯蔵の役割を担うミオグロビンの酸素配位活性中心は、ヘムすなわちポルフィリン鉄(II)錯体であり、酸素分子はその中心鉄(II)にエンド−オン(end-on)型で可逆的に結合解離する。このヘムと類似の酸素吸脱着機能を備えたポルフィリン鉄(II)錯体を合成化学的に再現しようとする試みは、1970年代後半から活発になり、これまでに多くの誘導体が報告されてきている(例えば、初期の例を挙げると、非特許文献1、2等)。本出願の発明者らの研究グループは、ヘモグロビン内部におけるヘムの周辺分子環境(いわゆるヘムポケット)に着目し、ポルフィリン鉄(II)錯体が安定な酸素錯体を形成するためには、(i)ポルフィリン平面の酸素配位座側に4つの疎水的置換基を配置し、μ−オキソ二量体の形成を阻止するとともに、(ii)酸素結合能を有効に発揮させるために必要な塩基性軸配位子、例えばイミダゾリルアルキル基をポルフィリン環の2位置に共有結合で導入することが不可欠であると考え、一群の2−イミダゾリルアルキル−5,10,15,20テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミド)フェニルポルフィリン鉄(II)錯体を精密合成した(特許文献1、2、非特許文献3、4)。これらのポルフィリン鉄(II)錯体は、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドなどの溶媒中、室温下、きわめて安定な酸素錯体を形成できる。しかし、人工酸素運搬体として利用するためには、溶媒(分散媒)として水を用いなければならない。一般に、水中では、配位酸素にプロトンが付加して中心鉄(II)が不可逆酸化を受けるため、安定な酸素配位ポルフィリン金属錯体を得ることは難しい。本発明者らの研究グループは、上記ポルフィリン鉄(II)錯体をリン脂質からなるリポソームの二分子膜中、リピドマイクロスフェアの疎水性液滴中、あるいはヒト血清アルブミンの疎水性ドメインに包接させることにより、生理条件下(水中、pH7.4、37℃)でも酸素を可逆的に吸脱着できる人工酸素運搬体の開発に成功した(特許文献2、3、4)。
【0003】
他方、これらポルフィリン鉄(II)錯体を人工酸素運搬体の活性中心として、医療、医薬、工業分野で広く実用化するためには、簡便な方法で大量生産できる体制の確立が必要であることはいうまでもない。しかし、本化合物の最も重要な合成工程、すなわちポルフィリン環の2−位置にイミダゾリルアルキル基を共有結合で導入する過程は、(i)まずポルフィリンに銅を挿入し、(ii)ビルスマイヤー反応で2位置にホルミル基を1つ構築後、(iii)中心銅を脱離し、(iv)ホルミル基をヒドロキシメチル基に還元し、(v)最後にイミダゾリルアルキルカルボン酸を結合させるという計5段階の煩雑な操作からなる。
【特許文献1】特開平6−271577号公報
【特許文献2】特開2003−40893号公報
【特許文献3】特開平8−201873号公報
【特許文献4】特開2006−45173号公報
【非特許文献1】J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10, 265 (1977)
【非特許文献2】F. Basolo, B. M. Hoffman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8, 384 (1975)
【非特許文献3】E. Tsuchida, T. Komatsu, S. Kumamoto, K. Ando, H. Nishide, J. Chem. Soc. Perkin. Trans. 2, 747 (1995)
【非特許文献4】T. Komatsu, Y. Matsukawa, E. Tsuchida, Bioconjugate Chem., 13, 397 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、より簡便な方法で人工酸素運搬体として有効に作用し得るポルフィリン化合物を提供することを課題とする。つまり、より少ない合成工程数で、ポルフィリン環2位置を活性化し、軸塩基として作用するイミダゾリルアルキル基やヒスチジル基を共有結合で導入する方法の確立を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、置換ポルフィリン化合物の分子設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、ω−カルボキシルアルカノイル基を5,10,15,20−テトラキス(o−置換アミドフェニル)ポルフィリン化合物の2−位置に一段階で直接導入し、その末端カルボニル基とヒスチジル基またはイミダゾリルアルキル基を結合させることにより、従来と同等な化学構造および機能を有し、しかも最小の工程数で合成可能なポルフィリン化合物が提供できることを見いだし、本発明を完成するに至った。従来、ポルフィリン環2位置に軸塩基配位子を導入するためには、計5段階の反応が必要であったが、本発明の方法によれば、計2段階で達成できることになる。
【0006】
すなわち、本発明によると、2位にアシル基を有するポルフィリン化合物が提供される。
【0007】
本発明の第1のより具体的な側面によると、一般式[I]:
【化4】

【0008】
(ここで、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2は、アルキレン基、R3はα−アミノ酸、または2つのα−アミノ酸により構成されるジペプチド、R4は、水酸基、アルキルオキシ基、t−ブチルオキシ基またはベンジルオキシ基、R5は、水素原子またはメチル基、Mは、ポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは第4〜5周期の遷移金属イオン、X-は、ハロゲン化物イオンを表し、X-の個数を表すnは金属イオンMの価数から2を差し引いた数を示す)で示されるポルフィリン化合物が提供される。
【0009】
また、本発明の第2のより具体的な側面によると、一般式[II]:
【化5】

【0010】
(ここで、R6は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R7は、アルキレン基、R8は、α−アミノ酸、または2つのα−アミノ酸により構成されるジペプチド、R9は、水酸基、アルキルオキシ基、t−ブチルオキシ基またはベンジルオキシ基、Mは、ポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは第4〜5周期の遷移金属イオン、X-はハロゲン化物イオンを表し、X-の個数を表すnは金属イオンの価数から2を差し引いた数を示す)で示されるポルフィリン化合物が提供される。
【0011】
さらに、本発明の第3のより具体的な側面によると、一般式[III]:
【化6】

【0012】
(ここで、R10は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R11はアルキレン基、R12は、アルキレンアミノ基またはアルキレンオキシ基、R13は、水素原子、メチル基またはアルキレン基であり、Mは、ポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは第4〜5周期の遷移金属イオン、X-はハロゲン化物イオンを表し、X-の個数を表すnは金属イオンの価数から2を差し引いた数を示す)で示されるポルフィリン化合物が提供される。
【0013】
さらに本発明は、本発明のポルフィリン化合物をアルブミンに包接させてなるアルブミン−ポルフィリン複合体を提供する。
【0014】
さらにまた、本発明は、本発明のアルブミン−ポルフィリン複合体に、アルブミン1分子当りの平均結合分子数が1〜15となるようにポリ(エチレングリコール)鎖を共有結合させた表面修飾アルブミン−ポルフィリン複合体を提供する。
【0015】
加えて、本発明は、本発明のアルブミン−ポルフィリン複合体を含有する人工酸素運搬体を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、簡便に合成可能で、しかも安定な酸素錯体を形成できるポルフィリン化合物が提供される。この化合物は、2位置に塩基性軸配位子として機能するヒスチジル基またはイミダゾリルアルキル基を、アシル結合を介して有し、優れた酸素結合性を示すとともに、人工酸素運搬体のほか、ガス吸着剤、酸素吸脱着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒などとしても有効に作用するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポルフィリン化合物は、2位にアシル基を有するものであるが、より具体的には、上記式[I]、[II]または[III]で示されるものが好ましい。
【0018】
一般式[I]において、R1は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R1は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基などである。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0019】
一般式[I]において、R2はアルキレン基であり、好ましくはC2〜C4アルキレン基である。
【0020】
一般式[I]において、R3はα−アミノ酸、または2つのα−アミノ酸により構成されるジペプチドであり、好ましくは疎水性残基を有するα−アミノ酸、または疎水性残基を有するα−アミノ酸2個により構成されるジペプチドである。そのようなα−アミノ酸の例を挙げると、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、バリン、アラニン、グリシン等である。
【0021】
一般式[I]において、R4は水酸基、アルキルオキシ基、t−ブチルオキシ基またはベンジルオキシ基である。アルキルオキシ基のアルキル鎖長は、C1〜C10が好適である。
【0022】
一般式[I]において、R5は水素原子またはメチル基である。
【0023】
一般式[I]において、Mはポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)である。X-は塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0024】
一般式[II]において、R6は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R6は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基などである。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0025】
一般式[II]において、R7はアルキレン基であり、好ましくはC2〜C4アルキレン基である。
【0026】
一般式[II]において、R8はα−アミノ酸、または2つのα−アミノ酸により構成されるジペプチドであり、好ましくは疎水性残基を有するα−アミノ酸、または疎水性残基を有するα−アミノ酸2個により構成されるジペプチドである。そのようなα−アミノ酸の例を挙げると、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、バリン、アラニン、グリシン等である。
【0027】
一般式[II]において、R9は水酸基、アルキルオキシ基、t−ブチルオキシ基またはベンジルオキシ基である。アルキルオキシ基のアルキル鎖長は、C1〜C10が好適である。
【0028】
一般式[II]において、Mはポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)である。X-は塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0029】
一般式[III]において、R10は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R10は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルキル基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基などである。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0030】
一般式[III]において、R11はアルキレン基であり、好ましくはC2〜C4アルキレン基である。
【0031】
一般式[III]において、R12はアルキレンアミノ基、またはアルキレンオキシ基であり、好ましくはC4〜C10アルキレンアミド基、またはC4〜C10アルキレンオキシカルボニル基である。
【0032】
一般式[III]において、R13は水素原子、メチル基またはアルキレン基であり、アルキレン基のアルキル鎖長は、C1〜C10が好適である。
【0033】
一般式[III]において、Mはポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)である。X-は塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0034】
一般式[III]において、MがCo、Feなどの第4〜5周期の遷移金属イオンである場合には、ポルフィリン2位置に導入したヒスチジル基あるいはイミダゾリル基が分子内軸配位できる状態となる。このようなポルフィリン化合物は、当該分子のみで酸素結合能を発揮できるものである。
【0035】
以上より、本発明のポルフィリン化合物は、酸素配位に必要な軸塩基配位子をポルフィリン環2位置にアシル結合を介して導入され、人工酸素運搬体の活性中心として有効に作用する。
【0036】
ポルフィリン化合物は、酸化還元反応、酸素酸化反応、酸素添加反応の触媒としても作用するものである。したがって、本発明のポルフィリン化合物は、人工酸素運搬体として利用できるだけでなく、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としても利用可能なものである。
【0037】
以上のとおりのポルフィリン化合物は、どのような方法で製造されてもよいが、例えば、次の一般式[IV]:
【化7】

【0038】
に示される5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−アミノフェニル)ポルフィリンを出発物質として合成できる。
【0039】
具体的には、まず、T. Komatsu et al., Bioconjugate Chem., 13, 397 (2002)に記載の方法に従って得た5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリン銅(II)にω−カルボキシルアルカノイル基を導入する。その導入は、例えば以下の方法により達成できる。
【0040】
5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリン銅(II)を適当な乾燥有機溶剤(例えばジクロロメタン、クロロホルムなど)に溶解し、ジカルボン酸の環状無水物(例えば、グルタル酸無水物など)、塩化アルミニウムを加え、窒素雰囲気下で、10〜24時間沸点環流させる。これを酸性水溶液に滴下し、クロロホルムなどの有機溶媒で抽出、乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画精製する。こうして、2−(カルボキシアルカノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリン銅(II)を得る。
【0041】
この2−(カルボキシアルカノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリン銅(II)を適当な有機溶媒(例えばジクロロメタン)に溶解、濃硫酸を加え、室温で10分間激しく攪拌させると、溶液の色は緑色に変化する。この溶液を、クロロホルムと氷水の二層溶液中へ滴下し、炭酸ナトリウムで中和、クロロホルム層を純水で数回洗浄した後、抽出し、水で洗浄、脱水、乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画精製する。こうして、2−(カルボキシアルカノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンが得られる。
【0042】
この2−(カルボキシアルカノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリン、トリエチルアミンを無水ジメチルホルムアミドに溶解させ、10〜30分間窒素置換する。カップリング試薬であるベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム ヘキサフルオロリン酸(BOP)を加え、さらに窒素雰囲気下で10〜30分間攪拌する。その後、水酸基やアミノ基を有するイミダゾールまたはヒスチジン誘導体を加え、窒素雰囲気下、遮光しながら室温で10〜18時間攪拌する。反応の進行をTLCで確認後、これを純水中に滴下し、ポルフィリンを沈殿回収し、適当な有機溶媒(例えばクロロホルム)に溶解して採取する。これを無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画精製する。こうして目的物2−(置換イミダゾリル)アルカノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンが得られる。
【0043】
なお、この生成物においては、一重項酸素によりイミダゾール環部位が分解してしまうので、精製操作は暗所にて行うことが好ましい。
【0044】
こうして得られたポルフィリンへの中心金属の導入は、例えばD. Dolphin 編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社などに記載の一般法により達成され、相当のポルフィリン化合物として得られる。一般に、鉄錯体の場合にはポルフィリン鉄(III)錯体が、コバルト錯体の場合にはポルフィリンコバルト(II)錯体が得られる。
【0045】
なお、上記ポルフィリン化合物の内、鉄(III)錯体の形を有する場合は、適当な還元剤(亜二チオン酸ナトリウム、アスコルビン酸など)を用い、常法により中心金属を3価から2価へ還元すれば、酸素結合活性が付与できる。
【0046】
本発明のポルフィリン化合物の鉄(II)錯体は、リン脂質リポソームの二分子膜層間、リピッドマイクロスフェアの油滴小球内、またはヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、あるいはアルブミン多量体の疎水性ドメインに包接するなどしてもよい。これらの包埋物、複合体においても、ポルフィリン鉄(II)錯体は、酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。つまり、このような酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができるものであり、本発明のポルフィリン化合物は、酸素吸脱着剤や人工酸素運搬体として有効に作用するのである。
【0047】
また、以上のとおりのポルフィリン化合物は、金属に配位できる気体であれば、酸素に限らず、例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素などを結合することもできる。したがって、本発明のポルフィリン化合物は、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒やガス吸着剤としても応用できるものである。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0049】
<例1>
無水グルタル酸(554mg;4.9mmol)のクロロホルム溶液(40mL)に5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)(300mg;0.24mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温で30分撹拌した。ここに塩化アルミニウム(646mg;4.9mmol)を加え、室温で15分撹拌後、35℃で24時間撹拌した。得られた溶液を、氷冷下、2N HCl水溶液300mLに滴下し、30分撹拌した。これをクロロホルムで抽出、純水で数回洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量))で分画精製し、目的物を集め、真空乾燥した。こうして、赤茶色の2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1-メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)を収量33mg(収率10%)で得た。
【0050】
得られた2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)の分析結果は、以下のとおりであった。
【0051】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量):Rf:0.62(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1686(νC=O(アミド、ケトン))、1728(νC=O(カルボン酸))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:421, 543, 581, 649, 688 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1347([M+H]+)。
【0052】
<例2>
例1で得られた2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)(30mg;22μmol)のジクロロメタン溶液(2mL)に硫酸1mLを加え、室温で15分間撹拌した。これを20mLの氷水に滴下し、炭酸水素ナトリウムを用いて溶液のpHを7に調整し、クロロホルムで抽出した。シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量))で分画精製し、目的物を集め、真空乾燥した。こうして、赤褐色の2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを収量22mg(収率75%)で得た。
【0053】
2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの分析結果は、以下のとおりであった。
【0054】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.54(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1682(νC=O(アミド、ケトン))、1728(νC=O(カルボン酸))、3428(νNH
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:425, 520, 555, 595, 653 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1286([M+H]+)。
【0055】
1H−NMRスペクトル(CD2Cl2;δ(ppm)):δ = -2.6 (s, 2H, inner H), 0.1-1.0 (m, 52H, 1−メチルシクロヘキサノイルアミノ), 1.6-1.8 (m, 2H, -CH2CH2COOH), 2.3 (m, 2H, -CH2COOH), 2.8-3.2 (m, 2H, -CH2(CH2)2COOH), 7.0 (s, 1H, アミド), 7.3-8.0 (m, 15H, アミドおよびフェニル), 8.2 (d, 1H, フェニル), 8.5-8.7 (d, 3H, フェニル), 8.7-8.9 (m, 7H, ピロール-β)。
【0056】
<例3>
例2で得られた2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン(22mg;17μmol)、グリシル−L−ヒスチジンメチルエステル(16mg;68μmol)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム ヘキサフルオロリン酸(113mg;68μmol)、ジメチルホルムアミド(3mL)、トリエチルアミン(10μL)を加え、室温で12時間撹拌した。溶媒を減圧除去後、純水洗浄、クロロホルム抽出した。これをシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量))で分画精製し、目的物を集め、真空乾燥した。こうして、赤褐色の2−(4−((o−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを収量11mg(収率43%)で得た。
【0057】
2−(4−((o−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの分析結果は、以下のとおりであった。
【0058】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.47(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1682(νC=O(アミド、ケトン))、1741(νC=O(エステル))、3426 (νNH
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:426, 520, 555, 595, 653 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1494 ([M+H]+)。
【0059】
1H−NMRスペクトル(CD2Cl2;δ(ppm)): -2.6 (s, 2H, inner H), 0.1-1.0 (m, 52H, 1−メチルシクロヘキサンアミド), 1.8-2.0 (m, 2H, -CH2CH2CONH-), 2.2 (m, 2H, -CH2CONH-), 2.8-3.2 (m, 2H, -CH2(CH2)2CONH-), 3.2 (m, 2H, -CH2-イミダゾール)), 3.6 (m, 3H, -OCH3), 3.9 (m, 2H, -NHCH2CO-), 4.8 (br, 1H, -NHCH(CH2Im)CO-), 6.7-6.9 (m, 2H, アミドおよびイミダゾール(以下、Im)), 7.3 (m, 1H, フェニル), 7.4 (m, 2H, アミドおよびIm), 7.5 -8.0 (m, 11H, フェニル), 8.1 (s, 1H, アミド), 8.3-8.4 (m, 3H, フェニル), 8.6 (d, 1H, フェニル), 8.7-8.9 (m, 7H, ピロール-β)。
【0060】
<例4>
ポルフィリンへの鉄導入反応は、例えば D. Dolphin 編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社などに記載の一般法により達成できる。
【0061】
47%臭化水素酸水溶液2mLを十分に脱気し、脱酸素を行った後、素早く電解鉄21mgを加え、80℃まで昇温、1時間撹拌した。溶液の色は無色透明から薄緑色へと変化した。電解鉄が完全に溶けたら130℃まで昇温し、臭化水素酸、及び水を蒸発させ、白色固体の臭化第一鉄を得た。次に、例3で得た2−(4−((O-メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン(11mg;7.4μmol)、2,6−ルチジン(13μL;110μmol)のテトラヒドラフラン溶液10mLを調製した臭化第一鉄に窒素雰囲気で滴下し、2時間沸点還流する。溶媒を減圧除去後、これをクロロホルムで抽出し、水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後、また溶媒を減圧除去した。シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール(8/1)(容量/容量))で分画精製、目的物を集め、真空乾燥した。こうして、2−(4−((o−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物を収量10mg(収率88%)で得た。
【0062】
得られた2−(4−((o−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物の分析結果は、以下のとおりであった。
【0063】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.38(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1690(νC=O(アミド、ケトン))、1741(νC=O(エステル))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:344, 423, 583 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1547([M−Br]+)。
【0064】
<例5>
例1において、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)の代わりに、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)、無水グルタル酸の代わりに無水コハク酸を用いて、2−(3−カルボキシプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)を合成した。
【0065】
得られた2−(3−カルボキシプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)の分析結果は、以下のとおりであった。
【0066】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.3(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1687(νC=O(アミド、ケトン))、1728(νC=O(カルボン酸))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:416, 537, 575, 642, 682 nm)。
【0067】
FAB−MSスペクトル(m/z):1172([M+H]+)。
【0068】
<例6>
例2において、2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)の代わりに、例5で得た2−(3−カルボキシプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)を用いて、2−(3−カルボキシプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを合成した。
【0069】
得られた2−(3−カルボキシプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの分析結果は、以下のとおりであった。
【0070】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.26(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1683(νC=O(アミド、ケトン))、1728(νC=O(カルボン酸))、3427(νNH
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:418, 513, 548, 588, 647 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1112([M+H]+)。
【0071】
1H−NMRスペクトル(CD2Cl2;δ(ppm)):δ = -2.6 (s, 2H, inner H), 0.0-0.3 (m, 36H, ピバロイルアミノ), 2.3 (m, 2H, -CH2COOH), 2.9-3.1 (m, 2H, -CH2CH2COOH), 7.2-7.4 (m, 8H, フェニル, アミド), 7.8-8.0 (m, 8H, フェニル), 8.6-8.8 (m, 6H, ピロール-β), 8.8 (m, 4H, フェニル), 9.1 (s, 1H, ピロール-β)。
【0072】
<例7>
例3において、2−(4−カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの代わりに、例6で得た2−(3−カルボキシプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを、グリシル−L−ヒスチジンメチルエステルの代わりに、L−アラニル−グリシル−L−(1−メチル)ヒスチジンメチルエステルを用いて、2−(3−((o−メチル)(1−メチル)ヒスチジルグリシルアラニル)カルボニルプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを合成した。
【0073】
得られた2−(3−((o−メチル)(1−メチル)ヒスチジルグリシルアラニル)カルボニルプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの分析結果は以下の通りであった。
【0074】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.24(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1679(νC=O(アミド、ケトン))、1728(νC=O(エステル))、3426 (νNH
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:418, 513, 548, 588, 646 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1405([M+H]+)。
【0075】
1H−NMRスペクトル(CD2Cl2;δ(ppm)):δ = -2.6 (s, 2H, inner H), 0.0-0.3 (m, 36H, ピバロイルアミノ), 1.5 (m, 3H, -CH(CH3)-), 2.3 (m, 2H, -CH2CH2CONH-), 3.3-3.5 (m, 4H, -CH2-Im, -CH2CH2CONH-), 3.6 (3H, s, -OCH3), 3.7 (3H, s, -N(CH3)-), 4.2 (m, 2H, -COCH2NH-), 4.7 (m, 2H, -COCHNH-), 6.9 (s, 1H, Im), 7.2-7.4 (m, 8H, フェニル, アミド), 7.8-8.0 (m, 9H, Im, フェニル), 8.6-8.8 (m, 6H, ピロール-β), 8.8 (m, 4H, フェニル), 9.1 (s, 1H, ピロール-β)。
【0076】
<例8>
例4において、2−(4−((O-メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの代わりに、2−(3−((O-メチル)(1−メチル)ヒスチジルグリシルアラニル)カルボニルプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを用いて、2−(3−((O-メチル)(1−メチル)ヒスチジルグリシルアラニル)カルボニルプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物を合成した。
【0077】
得られた2−(3−((o−メチル)(1−メチル)ヒスチジルグリシルアラニル)カルボニルプロパノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバロイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物の分析結果は以下の通りであった。
【0078】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.22(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1689(νC=O(アミド、ケトン))、1741(νC=O(エステル))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:339, 419, 578 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1457([M−Br]+)。
【0079】
<例9>
例3において、グリシル−L−ヒスチジンメチルエステルの代わりに、H. Nishide et al., Maclomolecules, 20, 1913 (1986)に従って合成したN−(5−(2−メチルイミダゾリル−1−イル)ペンチル)アミンを用いて、2−(N−(5−(2−メチルイミダゾリル−1−イル)ペンチル)アミノ)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンを合成した。
【0080】
得られた2−((N−(5−(2−メチルイミダゾリル−1−イル)ペンチル)アミノ)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンの分析結果は以下の通りであった。
【0081】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量):Rf:0.6(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1679(νC=O(アミド、ケトン))、3426 (νNH
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:427, 520, 556, 595, 653 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1435([M+H]+)。
【0082】
1H−NMRスペクトル(CD2Cl2;δ(ppm)): -2.6 (s, 2H, inner H), 0.1-1.0 (m, 52H, 1−メチルシクロヘキサンアミド), 1.3 (m, 2H, -NH(CH2)2CH2-), 1.5-1.7 (m, 4H, -NHCH2CH2CH2CH2-), 1.8-2.0 (m, 2H, -CH2CH2CONH-), 2.5 (s, 3H, Im(CH3)), 2.6-2.8 (m, 4H, -COCH2CH2CH2CO-), 3.0 (m, 2H, -NHCH2), 4.0 (m, 2H, -CH2Im), 6.7-6.9 (m, 2H, Im), 7.3-7.6 (m, 5H, アミドおよびフェニル), 7.7-8.0 (m, 8H, フェニル), 8.1 (s, 1H, アミド), 8.3-8.4 (m, 3H, フェニル), 8.6 (d, 1H, フェニル), 8.7-8.9 (m, 7H, ピロール-β)。
【0083】
<例10>
例9で得た2−(4−(1−((2−メチル)イミダゾリル−1−イル)ペンチルアミノ)カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンに2,6−ルチジンを含む乾燥テトラヒドロフラン中で、塩化コバルトと反応させ、コバルト錯体である2−(4−(1−((2−メチル)イミダゾリル−1−イル)ペンチルアミノ)カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンコバルト(II)を定量的に合成した。
【0084】
得られた2−(4−(1−((2−メチル)イミダゾリル−1−イル)ペンチルアミノ)カルボキシブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリンコバルト(II)の分析結果は、以下のとおりであった。
【0085】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量):Rf:0.55(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1688(νC=O(アミド、ケトン))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3;λmax:407, 524, 559nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1491([M]+)。
【0086】
<例11>
例3において、グリシル−L−ヒスチジンメチルエステルの代わりに、L−フェニルアラニル−L−ヒスチジンメチルエステルを用いた以外は、例3、例4と同様な方法で、2−(4−((O−メチル)ヒスチジルフェニルアラニル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物を得た。
【0087】
得られた2−(4−((O−メチル)フェニルアラニルヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物の分析結果は、以下のとおりであった。
【0088】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.31(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1692(νc=o(アミド、ケトン))、1741(υc=o(エステル))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3、λmax:349, 423, 585 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1637([M−Br]+)。
【0089】
<例12>
例3において、グリシル−L−ヒスチジンメチルエステルの代わりに、グリシル−L−(3−メチル)ヒスチジンメチルエステルを用いた以外は、例3、例4と同様な方法で、2−(4−((O−メチル)(3−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物を得た。
【0090】
得られた2−(4−((O−メチル)(3−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物の分析結果は、以下のとおりであった。
【0091】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.31(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1690(νc=o(アミド、ケトン))、1740(νc=o(エステル))
紫外可視吸取スペクトル(CHCl3、λmax:346, 421, 581 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):1561([M−Br]+)。
【0092】
<例13>
例1において、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)の代わりに、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−アダマンタノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン銅(II)を用い、例3においてグリシル−L−ヒスチジンメチルエステルの代わりに、L−ロイシル−L−ヒスチジンメチルエステルを用いた以外は、例1〜4と同様な方法で、2−(4−((O−メチル)ヒスチジルロイシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(アダマンタノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(II)臭化物を得た。
【0093】
得られた2−(4−((O−メチル)ヒスチジルロイシル)カルボニルプタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(アダマンタノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物の分析結果は、以下のとおりであった。
【0094】
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.51(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1692(νc=o(アミド、ケトン))、1739(νc=o(エステル))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3、λmax=345, 420, 579 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z)=1755([M−Br]+)。
【0095】
<応用例1>
例4で合成した2−(4−((O-メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物0.1μmolを10mLの無水トルエン溶液とし、窒素置換後、亜二チオン酸水溶液と不均一系で約2時間混合攪拌し、鉄(II)へ還元した。窒素雰囲気下、トルエン層だけを抽出し、無水硫酸ナトリウムで脱水乾燥後、濾別し、得られたトルエン溶液を測定セルに移し密閉した。こうして、2−(4−((o−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体のトルエン溶液を得た。
【0096】
この溶液の可視吸収スペクトルはλmaxが440nm、520nm、544nmであり、当該錯体はヒスチジンが1つ配位した5配位デオキシ型に相当するものであった。この溶液に、酸素ガスを吹き込むと直ちにスペクトルが変化し、λmax=429nm、551nmのスペクトルが得られた。これより、錯体が酸素化錯体になっていることがわかった。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することを確認した。さらに、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返したところ、酸素吸脱着が連続して行えることも明らかとなった。
【0097】
<応用例2>
例4で合成した2−(4−((o−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物(20μM)を特開平8−201873号に記載の手法に従ってヒト血清アルブミン(2.5μM)に包接し、調製したアルブミン−ヘム複合体(ポルフィリン/アルブミン:8(モル/モル))のリン酸緩衝水溶液(pH7.4;1/30mM)3mLを石英製分光測定用セルに移し、窒素雰囲気下で密封した。その可視吸収スペクトルはλmaxが445nm、541nm、568nmであり、包接されたポルフィリン鉄(II)錯体は分子内軸塩基が1つ配位したFe(II)高スピン5配位錯体を形成していることが確認された。
【0098】
この分散液に酸素を通気したところ、その可視吸収スペクトルのλmaxは432nm、553nmへ移行し、酸素化錯体の形成が示された。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへと可逆的に変化したことから、酸素の吸脱着が可逆的に生起することがわかった。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返したところ、酸素吸脱着を連続して行えることが明らかとなった。酸素親和性(P50値)は、2Torr(37℃、pH7.4)であった。また、酸素錯体の半減期は、37℃、空気中において、12〜14時間であった。
【0099】
<応用例3>
例12で合成した2−(4−((O−メチル)(3−メチル)ヒスチジルグリシル)カルボニルブタノイル)−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル)ポルフィリン鉄(III)臭化物(20μm)を特願平07−106314号に記載の手法に従ってヒト血清アルブミン(2.5μM)に包接し、調製したアルブミン−ヘム複合体(ポルフィリン/アルブミン:8(mol/mol))のリン酸緩衝水溶液(pH7.4、1/30mM)3mLを石英製分光測定用セルに移し、窒素雰囲気下で密封した。その可視吸収スペクトルはλmaxが444nm,540nm,568nmであり、包接されたポルフィリン鉄(II)錯体は分子内軸塩基が1つ配位したFe(II)高スピン5配位錯体を形成していることが確認された。
【0100】
この分散液に酸素を通気したところ、その可視吸収スペクトルのλmaxは435nm,550nmへ移行し、酸素化錯体の形成が示された。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スベクトルヘと可逆的に変化したことから、酸素の吸脱着が可逆的に生起すことがわかった。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返したところ、酸素吸脱着を連続して行えることが明らかとなった。酸素親和性(P50値)は、1.8Torr(37℃,pH7.4)であった。また、酸素錯体の半減期は、37℃、空気中において12〜14時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2位にアシル基を有するポルフィリン化合物。
【請求項2】
一般式[I]:
【化1】

(ここで、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2は、アルキレン基、R3はα−アミノ酸、または2つのα−アミノ酸により構成されるジペプチド、R4は、水酸基、アルキルオキシ基、t−ブチルオキシ基またはベンジルオキシ基、R5は、水素原子またはメチル基、Mは、ポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは第4〜5周期の遷移金属イオン、X-は、ハロゲン化物イオンを表し、X-の個数を表すnは金属イオンMの価数から2を差し引いた数を示す)で示されるポルフィリン化合物。
【請求項3】
一般式[II]:
【化2】

(ここで、R6は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R7は、アルキレン基、R8は、α−アミノ酸、または2つのα−アミノ酸により構成されるジペプチド、R9は、水酸基、アルキルオキシ基、t−ブチルオキシ基またはベンジルオキシ基、Mは、ポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは第4〜5周期の遷移金属イオン、X-はハロゲン化物イオンを表し、X-の個数を表すnは金属イオンの価数から2を差し引いた数を示す)で示されるポルフィリン化合物。
【請求項4】
一般式[III]:
【化3】

(ここで、R10は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R11はアルキレン基、R12は、アルキレンアミノ基またはアルキレンオキシ基、R13は、水素原子、メチル基またはアルキレン基であり、Mは、ポルフィリン環における4つのピロール窒素のうち2つのピロール窒素に結合する2つの水素原子、もしくは第4〜5周期の遷移金属イオン、X-はハロゲン化物イオンを表し、X-の個数を表すnは金属イオンの価数から2を差し引いた数を示す)で示されるポルフィリン化合物。
【請求項5】
Mが、FeまたはCoであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のポルフィリン化合物
【請求項6】
Feの価数が+2価または+3価である請求項5記載のポルフィリン化合物
【請求項7】
Coの価数が+2価である請求項5記載のポルフィリン化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポルフィリン化合物をアルブミンに包接させてなるアルブミン−ポルフィリン複合体。
【請求項9】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体である請求項8に記載のアルブミン−ポルフィリン複合体。
【請求項10】
請求項8または9に記載のアルブミン−ポルフィリン複合体に、アルブミン1分子当りの平均結合分子数が1〜15個となるようにポリ(エチレングリコール)鎖を共有結合させた表面修飾アルブミン−ポルフィリン複合体。
【請求項11】
前記ポリ(エチレングリコール)の数平均分子量が1,000〜20,000である請求項10に記載の表面修飾アルブミン−ポルフィリン複合体。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載のアルブミン−ポルフィリン複合体を含有する人工酸素運搬体。

【公開番号】特開2008−222626(P2008−222626A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62309(P2007−62309)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】