説明

2極磁気エンコーダ及びその製造方法

【課題】磁束密度の変化が略完全な正弦曲線を描き、検出精度の信頼性を高めることができる2極磁気エンコーダとその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性粉末を含む円環状磁性体2における第1半円部分の外周面部をS極の着磁域1a、残りの第2半円部分の外周面部をN極の着磁域1bとした2極磁気エンコーダ1であって、磁性粉末が異方性の磁性粉末4からなり、これら磁性粉末は、円環状磁性体においてその磁化容易化軸4aが上記第1半円部分及び第2半円部分の中央部を結ぶ線1dに平行な状態で配向され、且つ上記着磁がこの磁化容易化軸に平行な磁界を円環状磁性体に作用させることによってなされ、周方向に沿った外周面部の磁束密度の変化が、S極の着磁域及びN極の着磁域の境界部1cをゼロとする正弦曲線を描くものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンの制御の為のクランク角やカムシャフト角等の絶対位置検出、その他の産業機械の絶対位置検出に用いられる2極磁気エンコーダ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、自動車用エンジンを制御するため、エンジンのクランク角やカムシャフト角の絶対位置検出がなされるようになった。この絶対位置検出の為の装置として、円環状磁性体の第1半円部分をS極に着磁し、残りの第2半円部分をN極に着磁した2極磁気エンコーダを用いることが試みられている。即ち、回転側に、この2極磁気エンコーダを装着し、固定側にこの円環状2極磁気エンコーダに対峙するよう互いに位相をずらせて2個(複数個)の磁気センサを配置して構成されたものが挙げられる。このような絶対位置検出装置では、回転側の回転に伴う上記2極磁気エンコーダによる磁気変化を2個(複数個)の磁気センサによってそれぞれアナログ的に検出し、その検出した2つ(複数)のアナログ値を演算等の処理をすることによって、上記クランク角やカムシャフト角の絶対位置を検出するものである。
【0003】
特許文献1乃至特許文献3は、2極の円環状磁石の例を示す。これら特許文献に示された2極の円環状磁石は、異方性磁性粉末をその磁化容易化軸を径方向(放射状)に配向させた状態で含有する樹脂等の成型体からなる円環状磁性体に、その径方向に沿う1方向(円環状磁石の軸心に直交する方向)の磁界を作用させることによって着磁がなされる。この着磁によって、半円部分がN極、他の半円部分がS極に夫々着磁された2極の円環状磁石が形成される。このような2極の円環状磁石の周方向に沿った磁束密度の変化は、N極及びS極の境界部分で略ゼロ、中央部分で互いに逆向きのピークとなる曲線を描く。特許文献3には、磁束密度の周方向に沿った波形図が示されている。また、図8は、本発明者等が後記する方法によって外周面部を着磁した円環状磁石の同様の磁束密度の波形図を示している。
【特許文献1】実開昭61−125023号公報
【特許文献2】特開平10−248216号公報
【特許文献3】特開2003−115408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献3や図8に示すような磁束密度の波形特性を有する円環状磁石を、上記のように絶対位置検出用の2極磁気エンコーダとして用いた場合、これらの上記磁束密度の波形図は完全な正弦曲線でない為、回転側に装着された2極磁気エンコーダの磁気変化を互いに位相をずらせて配置された2個(複数個)の磁気センサよってアナログ的に検出する際、その検出値が安定せず、絶対位置検出に誤差が生じることがある。図9及び図10は、図8のような磁束密度の波形特性を示す円環状磁石の着磁方法及び着磁の原理を模式的に示している。以下これについて説明する。
【0005】
図9に示す円環状磁性体100は、ゴム原料、樹脂原料又は焼結体原料に異方性磁性粉末101を混練して円環状に成型したもので、全ての異方性磁性粉末101は、その磁化容易化軸101a(図10参照)が径方向(放射状)に向くよう配向されている。この配向は、上記混練及び成型時の機械的作用や、成型時の配向用磁場の印加によってなされる。このように磁性粉末101の磁化容易化軸101aが放射状に配向された円環状磁性体100を、白抜矢印で示す磁界mが形成された着磁装置の磁場内に、軸心が磁界方向mに直交するよう静置させることによって、その外周面部の着磁がなされる。図10(a)は、このように着磁されて得られる2極円環状磁石103を模式的に示すもので、該2極円環状磁石103は、紙面上側半円部分のS極の着磁域103a、同下側半円部分のN極の着磁域103bによって構成される。
【0006】
図8の磁束密度の波形特性は、図10(a)に示すように、上記2極円環状磁石103の着磁面に対峙するよう磁気センサ104を配置し、2極円環状磁石103をその軸心周りに矢印a方向に回転させながら磁気センサ104によってその磁気変化を検出することにより得たものである。このように磁束密度の波形が完全な正弦曲線でないと、前述のように絶対位置検出用の磁気エンコーダとして用いようとした場合、アナログ的磁気変化が安定せず、その検出精度の信頼性を得られない要因となり、上記2極磁気エンコーダへの応用のネックとなっていた。
【0007】
上記円環状磁性体100に対して、白抜矢印のように磁界mを作用させた場合、各磁性粉末101に印加される磁力Aの方向と各磁性粉末101の磁化容易化軸101aの方向とのずれ量(角度)は、各磁性粉末101の位置(角度θ)に依存しており、磁化後の各位置での径方向(磁化容易化軸101a方向)の検出磁束密度Xは、この角度θに依存した関数:X=B(θ)となるが、この関数Bは正弦曲線とはならず、その為、磁束密度の検出波形は完全な正弦曲線とならないと考えられる。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたもので、磁束密度の変化が略完全な正弦曲線を描き、検出精度の信頼性を高めることができる2極磁気エンコーダとその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の2極磁気エンコーダは、磁性粉末を含む円環状磁性体における第1半円部分の外周面部をS極の着磁域、残りの第2半円部分の外周面部をN極の着磁域としたものであって、上記磁性粉末が異方性の磁性粉末からなり、これら磁性粉末は、円環状磁性体においてその磁化容易化軸が上記第1半円部分及び第2半円部分の中央部を結ぶ線に平行な状態で配向され、且つ上記着磁がこの磁化容易化軸に平行な磁界を円環状磁性体に作用させることによってなされ、周方向に沿った外周面部の磁束密度の変化が、S極の着磁域及びN極の着磁域の境界部をゼロとする正弦曲線を描くものであることを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記円環状磁性体を、金属補強環と一体とされたものとすることができる。また、前記円環状磁性体が、異方性磁性粉末を含むゴム若しくは樹脂の成型体又は焼結体からなるものとすることができる。更に、本発明の2極磁気エンコーダは、軸受の一構成部材として組み込まれるものとすることができる。
【0011】
本発明の2極磁気エンコーダの製造方法は、未配向の異方性磁性粉末を含む磁性体原料と、磁場発生装置と、円環状のキャビティを備えた成型装置とを準備し、該成型装置を、その円環状キャビティの軸心が上記磁場発生装置の磁界方向と直交するよう上記磁場発生装置の中空内筒部内に静置した上で、円環状キャビティ内に上記磁性体原料を装填し、上記磁界を作用させ、磁性体原料を円環状に成型すると共に異方性磁性粉末の配向及び着磁を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る2極磁気エンコーダ及びその製造方法においては、円環状磁性体に含まれる磁性粉末の磁化容易化軸が第1半円部分及び第2半円部分の中央部を結ぶ線に平行な状態で配向され、且つこの磁化容易化軸に平行な磁界を円環状磁性体に作用させるようになっているため、各磁性粉末に印加される磁力の方向と各磁性粉末の磁化容易化軸の方向との間にずれが生じることがない。そして、これを円環状磁性体の径方向で見た場合、着磁された各磁性粉末の径方向磁力はその磁界方向に対する角度成分として発現されることになる。しかも、上記着磁は、第1半円部分及び第2半円部分の中央部を結ぶ線に平行な磁界を円環状磁性体に作用させることによってなされ、これにより第1半円部分がS極に着磁され、第2半円部分がN極に着磁されるから、各磁性粉末の磁力の径方向成分は、その位置(角度)のみに依存し、着磁された円環状磁性体の周方向に沿った外周面部の磁束密度の変化は、S極の着磁域及びN極の着磁域の境界部をゼロとし、且つS極の着磁域及びN極の着磁域の各中央部を互いに逆向きのピークとする理想的な正弦曲線を描くことになる。従って、このような磁束密度の変化特性を有する2極の円環状磁性体を、前述のような絶対位置検出用の磁気エンコーダに用いれば、その検出精度の信頼性が高められ、絶対位置検出用2極磁気エンコーダとしての適性が増大する。
【0013】
本発明の2極磁気エンコーダにおいて、円環状磁性体が、金属補強環と一体とされたものとすれば、その強化がなされ、取扱い時等での毀損の懸念がなく、特に、異方性磁性粉末を含むゴム若しくは樹脂の成型体又は焼結体からなるものとすれば、この補強効果は有効であり、ゴム若しくは樹脂の成型体でなる場合は、形状保持効果も付加される。また、本発明の2極磁気エンコーダを軸受の一構成部材として組み込まれるものとすれば、回転部分の軸受機能と前記絶対位置検出或いは回転検出等の機能とをコンパクトに構成することができる。
【0014】
また本発明の2極磁気エンコーダの製造方法において、成型装置を磁場発生装置内に静置した後、磁性体原料を円環状キャビティ内に充填し、磁界を作用させながら、磁性体原料を円環状に成型すると共に異方性磁性粉末の配向及び着磁を行うこととしているので、異方性磁性粉末の配向方向と異方性磁性粉末に印加される磁力の方向とに位置ずれを生じさせることなく、効率よく精度の高い2極磁気エンコーダを製造することが可能である。よって、本発明の製造方法によって得られた2極磁気エンコーダによれば、異方性磁性粉末の配向方向と異方性磁性粉末に印加される磁力の方向とを一致させるための精度の高い位置決めを行う必要がないものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の最良の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は本発明の2極磁気エンコーダの一実施形態を示す部分切欠斜視図、図2は同2極磁気エンコーダが組み込まれた軸受と絶対位置検出装置が構成された状態を示す要部の断面図、図3は磁場発生装置(着磁ポット)による着磁要領を示す概念的断面図、図4(a)(b)は同磁場発生装置(着磁ポット)による着磁方法及び着磁の原理を模式的に示す図、図5は同2極磁気エンコーダの磁束密度の波形図、図6は、磁場発生装置の別の実施形態を示す縦断面図、図7は他の実施形態の図2と同様図である。
【0016】
図1に示す2極磁気エンコーダ1は、円環状磁性体2の第1半円部分の外周面部をS極の着磁域1a、残りの第2半円部分の外周面部をN極の着磁域1bとしたもので、円環状磁性体2は、円筒状部3aと内向鍔状部3bとよりなる断面L形の金属製補強環3に、その外周部分を囲むように一体とされている。図例の円環状磁性体2は、未加硫のゴム材に異方性磁性粉末4を混練し、所定形状の金型(不図示)内に充填して金属製補強環3と共に加硫成型一体に形成されたものを示しているが、これに限らず樹脂の成型体或いは焼結体であっても良い。異方性磁性粉末4としては、フェライト粉末、希土類の磁性粉末等を望ましく採用される。
【0017】
上記の2極磁気エンコーダ1は、例えば、図2に示すように、絶対位置検出が求められる回転部分に装着される軸受5に組み込まれる。図2は軸受5の一部を示し、図例の軸受5は、アンギュラ玉軸受であって、回転側の内輪5aと、固定側の外輪5bと、内外輪5a,5b間に保持器5dによって保持させた状態で介在される転動体(ボール)5cと、内外輪5a,5bの端部間に装着されるシール部材(シールリング)5eとによって構成される。内輪5aは、回転側部材(不図示)に外嵌一体とされ、2極磁気エンコーダ1は、この内輪5aの端部外径面に補強環3の円筒状部3aをして外嵌一体とされている。2極磁気エンコーダ1の外周面部に対峙するよう2個の磁気センサ6が互いに位相をずらせて設置され、この2個の磁気センサ6と2極磁気エンコーダ1とにより回転側部材の絶対位置検出装置7が構成される。
【0018】
図3は、上記円環状磁性体2の外周面部に、S極の着磁域1a及びN極の着磁域1bを形成する為の磁場発生装置及びこの磁場発生装置による着磁要領を示している。ここでは磁場発生装置8内に成型装置10を配した構造とする場合の一例として磁場発生装置8として着磁ポット8を用いて着磁する例を示しており、図例の着磁ポット8はコイル8bを渦巻状に巻回して構成される着磁ヨーク8aからなり、着磁ヨーク8aに巻回されたコイル8bに図のように矢印方向の電流を流すと、着磁ヨーク8aの中空内筒部8cにはその軸心方向に沿った白抜矢印方向の磁界Mが発生する。着磁ポット8の中空内筒部8c内には、円環状のキャビティ10aを備えた成型装置10が静置されている。このとき、成型装置10は円環状のキャビティ10aの軸心が磁界方向と直交するよう着磁ポット8の中空内筒部8c内に静置される。
【0019】
この着磁ポット8による2極磁気エンコーダ1の製造方法は以下の通りである。
まず着磁ポット8の中空内筒部8c内に上記要領で成型装置10を静置した上で、成型装置10内の所定の位置に金属製補強環3を配置し、キャビティ10a内に異方性の磁性粉末4を混練した磁性体原料を充填していく。そしてコイル8bに電流を流して磁界Mを発生させながら、磁性体原料を円環状に成型し、金属補強環3に一体形成されるよう加硫成型すると共に、異方性の磁性粉末4の配向を行うと同時に着磁を行う。このとき、磁性体原料は、加硫して円環状磁性体2となり、円環状磁性体2の上側半円部分の外周面部はS極に着磁され、下側半円部分の外周面部はN極に着磁される。
こうして、図1に示すような円環状磁性体2の第1半円部分の外周面部がS極の着磁域1a、残りの第2半円部分の外周面部がN極の着磁域1bとなる2極磁気エンコーダ1が形成される。
【0020】
これによれば、磁性体原料を円環状に成型し、金属補強環3へ円環状磁性体2を一体成型する共に磁性粉末4の配向及び着磁が同時に行なわれるので、磁性粉末4の配向方向と磁性粉末4に印加される磁力の方向とに位置ずれを生じさせることなく、製造することが可能である。例えば、金属補強環3へ円環状磁性体2を一体成型すると同時に磁場配向がなされるような従来の製造方法では、フェライトのように磁場の配向時に一部着磁してしまうような磁性粉末を用いると、配向後、一旦脱磁を行った上で着磁がなされていた。また、希土類であれば、その磁気特性上、キュリー点(300℃〜400℃)まで製品を昇温し、磁気を消滅させることが一般的だが、ゴム、樹脂を含むボンド磁石の場合、バインダー自身がその温度に耐えることができず、磁場成形後に脱磁を行うことは困難である。しかし、この製造方法によれば、円環状磁性体2を成型すると共に磁性粉末4の配向及び着磁が行なわれるので、磁場の配向時に一部着磁してしまうような磁性粉末4を用いた場合でも、脱磁を行うことがなく、効率よく精度の高い2極磁気エンコーダ1を製造することができる。また磁性粉末4の配向方向と磁性粉末4に印加される磁力の方向とを一致させるための精度の高い位置決めを行う必要もない。
【0021】
図4(a)は、このように着磁されて得られる2極磁気エンコーダ1を模式的に示すもので、図示の2極磁気エンコーダ1は、紙面上側半円部分がS極の着磁域1a、同下側半円部分がN極の着磁域1bとされている。この2極磁気エンコーダ1は、図3のような着磁ポット8によって着磁形成され、図4(a)(b)に示すように、各磁性粉末4の磁化容易化軸4aが上側半円部分(第1半円部分)及び下側半円部分(第2半円部分)の中央部を結ぶ中央線1dに平行な状態で配向され、且つ着磁が上記磁化容易化軸4aに平行な磁界Mを円環状磁性体2に作用させることによってなされている。そして磁化容易化軸4aに平行な、即ち白抜矢印方向の磁界Mの作用により、各磁性粉末4に印加される磁力MAの径方向成分MXは、磁界Mに直交する径線に対する各磁性粉末4の径方向の角度をθとした場合、理論的にはMX=MAsinθとなる。このとき、各磁性粉末4に印加される磁力Mの方向と各磁性粉末4の磁化容易化軸4aの方向との間にずれが生じることがないので、各磁性粉末4に印加される磁力MAは、磁化容易化要素(磁化容易化軸の磁界方向に対する角度に依存する関数)が加味されず、磁力MAの径方向成分MXはsinθのみを変数とすることになる。
【0022】
ここで、図4(a)に示すように、2極磁気エンコーダ1の外周面部である着磁面に対峙するよう磁気センサ9を配置し、2極磁気エンコーダ1をその軸心周りに矢印b方向に回転させながら磁気センサ9によってその磁気変化を検出した結果、図5の磁束密度の波形特性を得た。このように2極磁気エンコーダ1における着磁面の周方向に沿った磁束密度の波形は、S極の着磁域1a及びN極の着磁域1bの境界部1cをゼロとし、S極の着磁域1a及びN極の着磁域1bの各中央部が互いに逆向きのピークとなる略完全な正弦曲線を示す。これは、上記のように着磁によって各磁性粉末4が保有する磁力MAの径方向成分MXは、sinθのみを変数とすることと符合する。
【0023】
上記で得た2極磁気エンコーダ1を、例えば、図2に示すような軸受5の一構成部材として組み込み、絶対位置検出対象の回転側となる内輪5aに装着し、固定側にこの円環状2極磁気エンコーダ1に対峙するよう2個の磁気センサ6を互いに位相をずらせて配置して絶対位置検出装置7を構成することができる。即ち、この絶対位置検出装置7では、回転側の回転に伴う上記2極磁気エンコーダ1による磁気変化を2個の磁気センサ6によってアナログ的に検出し、その検出した2つのアナログ値を演算等の処理をすることによって、回転側の絶対位置を検出することができる。この場合、2極磁気エンコーダ1は、図5に示すような略完全な正弦曲線を描くので、アナログ値が安定し、その為絶対位置検出精度7の信頼性が高められる。従って、自動車用エンジンの制御の為のクランク角やカムシャフト角等の絶対位置検出、その他の産業機械の絶対位置検出用の2極磁気エンコーダとして、その有用性は極めて大となる。
【0024】
ここで、本発明の2極磁気エンコーダの製造方法は、上述のように磁性粉末4の配向及び着磁を行うと同時に成型をする方法に限定されず、成型と磁性粉末4の配向を行い、脱型後に、着磁を行うものとしてもよい。
図6は、磁場発生装置の別の実施形態を示す縦断面図である。ここに示す実施形態は、図3のように磁場発生装置8内に成型装置10を配したものではなく、成型装置10自体に非磁性型部材と磁性型部材とを複合一体に形成し、磁場発生機構を備えたものである。上述と共通部分には同一の符号を付し、その説明は割愛する。磁場発生装置8は、加圧・加硫成型装置を示すが射出成型装置を除外するものではない。
【0025】
磁場発生装置8は、上型11と下型12とからなり、磁界Mを発生させるため、上型11及び下型12のうち、キャビティ10aが形成されている下型12aは非磁性部材で構成され、磁場発生用のコイル8bが配された下型12bは炭素鋼等からなる磁性部材で構成されている。その他、成型装置10の加熱装置やコイル8bの駆動手段等が周辺に配備されるが図示は省略する。
このとき磁場発生装置8として構成された成型装置10は、円環状のキャビティ10aの軸心が磁界方向と直交するように構成される。
【0026】
この磁場発生装置8による2極磁気エンコーダ1の製造方法は以下の通りである。
まずキャビティ10a内の所定の位置に金属補強環3を配置し、事前に異方性の磁性粉末4を混練した磁性体原料をキャビティ10a内に充填する。そしてコイル8bに電流を流して磁界Mを発生させながら加熱し、加圧成型し、加硫磁場成型がなされる。このとき磁性体原料は加硫して円環状磁性体2となり、磁性体原料中に混練配合された異方性の磁性粉末4は、加硫過程での磁場作用を受けて、その磁化容易化軸4aが第1半円部分及び第2半円部分の中央部を結ぶ線に平行な状態で配向され、加硫と共にその状態で加硫ゴム層内に固定化される。
【0027】
上記磁場成型が完了後、脱型し、円環状の加硫ゴム成型体を得、公知の着磁装置により、円環状磁性体2の第1半円部分の外周面部がS極の着磁域1a、残りの第2半円部分の外周面部がN極の着磁域1bとなる2極磁気エンコーダ1が形成される。
【0028】
図7は、他の実施形態を示す。図における2極磁気エンコーダ1を構成する円環状磁性体2は、円筒状部3aと外向鍔状部3cとよりなる断面L形の金属製補強環3に、その外周部分を囲むように一体とされ、上記同様その外周面部に夫々半円部分のS極及びN極の着磁域が形成されている。そして、2極磁気エンコーダ1は、外向鍔状部3cがシール部材5e側となるよう円筒状部3aをして軸受5の内輪5aの外径面に外嵌一体とされている。この2極磁気エンコーダ1の外周面部に対峙するよう2個のICチップ(感受素子)タイプの磁気センサ6aが互いに位相をずらせて設置され、この2個の磁気センサ6aと2極磁気エンコーダ1とにより回転側部材の絶対位置検出装置7が構成される。この例でも上記同様の精度の高い絶対位置検出が可能とされる。その他の構成は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0029】
尚、上記実施形態では、円環状磁性体2を金属補強環3と一体としたものについて述べたが、上記のようにその外周面部にS極の着磁域1a及びN極の着磁域1bを形成した円環状磁性体2を単独で磁気エンコーダ1とすることも可能である。また、磁気エンコーダ1の形状も図例のものに限定されず、適用される部位に応じて他の形状のものが採用し得ることは言うまでもない。更に、図2では、本発明の2極磁気エンコーダ1を、内輪が回転側である軸受の一構成部材として組み込んだ例を示したが、外輪が回転側の軸受や、軸受以外の回転部材に組み込んで、絶対位置検出装置を構成することも可能である。更にまた、本発明の2極磁気エンコーダは、回転側の絶対位置検出だけでなく、回転数や回転速度等の回転検出装置にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の2極磁気エンコーダの一実施形態を示す部分切欠斜視図である。
【図2】同2極磁気エンコーダが組み込まれた軸受の一部と絶対位置検出装置が構成された状態を示す要部の断面図である。
【図3】着磁ポットによる着磁要領を示す概念的断面図である。
【図4】(a)は同着磁ポットによる着磁方法を模式的に示す図、(b)はその着磁の原理を模式的に示す図である。
【図5】同2極磁気エンコーダの磁束密度の変化を測定した結果を示す波形図である。
【図6】磁場発生装置の別の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】他の実施形態の図2と同様図である。
【図8】従来の2極磁気エンコーダの磁束密度の変化を測定した結果を示す波形図である。
【図9】同2極磁気エンコーダを着磁形成する要領を示す模式図である。
【図10】(a)は同要領を模式的に示す図、(b)はその着磁の原理を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 2極磁気エンコーダ
1a S極の着磁域(第1半円部分)
1b N極の着磁域(第2半円部分)
1c 境界部
1d 中央線(線)
2 円環状磁性体
3 金属補強環
4 異方性磁性粉末
4a 磁化容易化軸
8 磁場発生装置(着磁ポット)
8a 着磁ヨーク
8b コイル
8c 中空内筒部
10 成型装置
10a キャビティ
M 磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末を含む円環状磁性体における第1半円部分の外周面部をS極の着磁域、残りの第2半円部分の外周面部をN極の着磁域とした2極磁気エンコーダであって、
上記磁性粉末が異方性の磁性粉末からなり、これら磁性粉末は、円環状磁性体においてその磁化容易化軸が上記第1半円部分及び第2半円部分の中央部を結ぶ線に平行な状態で配向され、且つ上記着磁がこの磁化容易化軸に平行な磁界を円環状磁性体に作用させることによってなされ、周方向に沿った外周面部の磁束密度の変化が、S極の着磁域及びN極の着磁域の境界部をゼロとする正弦曲線を描くものであることを特徴とする2極磁気エンコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載の2極磁気エンコーダにおいて、
前記円環状磁性体が、金属補強環と一体とされたものであることを特徴とする2極磁気エンコーダ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の2極磁気エンコーダにおいて、
前記円環状磁性体が、異方性磁性粉末を含むゴム若しくは樹脂の成型体又は焼結体からなることを特徴とする2極磁気エンコーダ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の2極磁気エンコーダにおいて、
軸受の一構成部材として組み込まれるものであることを特徴とする2極磁気エンコーダ。
【請求項5】
未配向の異方性磁性粉末を含む磁性体原料と、磁場発生装置と、円環状のキャビティを備えた成型装置とを準備し、該成型装置を、その円環状キャビティの軸心が上記磁場発生装置の磁界方向と直交するよう上記磁場発生装置内に静置した上で、円環状キャビティ内に上記磁性体原料を装填し、上記磁界を作用させ、磁性体原料を円環状に成型すると共に異方性磁性粉末の配向及び着磁を行うことを特徴とする2極磁気エンコーダの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−145284(P2008−145284A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333124(P2006−333124)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】