説明

2次元アレイ型超音波プローブ

【課題】積層圧電素子を有するチャンネルを微細ピッチで精度良く配列し、優れた超音波指向特性を有する2次元アレイ超音波プローブを提供する。
【解決手段】スペースをあけて2次元方向に配列され、圧電体に複数の第1、第2の電極をその圧電体の厚さ方向に交互にかつ各第1電極、各第2電極が前記圧電体の一方の配列方向に沿う対向する2つの側面にそれぞれ露出するように配置して構成した積層圧電素子と、この積層圧電素子上に形成した音響整合層とを有する複数のチャンネル;各チャンネルの積層圧電素子が設置されたバッキング部材;各チャンネルの積層圧電素子における圧電体の両面からバッキング部材まで延出して形成された信号側電極、アース側電極;信号側電極、アース側電極に前記バッキング部材に位置する部分でそれぞれ接続された信号側印刷配線板、アース側印刷配線板;前記各チャンネル間のスペースにそれぞれ埋め込まれた充填部材を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元アレイ型超音波プローブに関し、特に超音波診断装置や超音波探傷装置等に用いられる圧電素子を有するチャンネルをマトリックス状に配列した2次元アレイ型超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波プローブは、圧電素子で発生させた超音波を対象物に向けて照射し、その対象物における音響インピーダンスの異なる界面からの反射波を受信することにより、対象物の内部状態を画像化することが可能である。このような超音波プローブが組み込まれた超音波画像装置には、例えば人体内部を検査するための超音波診断装置および金属溶接内部の探傷を目的とする検査装置などが知られている。
【0003】
中でも、超音波診断装置はX線と比較して人体に悪影響を与えずに体内部を観察できるため、超音波診断用医療機器として広く普及している。この超音波診断装置には、圧電セラミック(圧電体)を有する圧電素子を備えた超音波プローブが超音波送受信器として用いられている。この超音波プローブとしては、人体内部を断層的に画像形成して診断するため、超小型の圧電素子を多数配置した構造の走査型の超音波プローブが用いられている。
【0004】
例えば圧電素子を1次元的に配列した構造の走査型の超音波プローブは、圧電素子の配列数を選択することによって、焦点位置を超音波プローブヘッドの近傍から遠くまで任意に設定することが可能になる。しかしながら、超音波送受信面内で圧電素子の配列方向と直交する方向では、焦点位置の調整は音響レンズによるフォーカスのみである。したがって、ダイナミックに焦点位置を変更することは困難である。また、超音波ビームの走査方法としても、圧電素子の配列が1次元配列となっているため、超音波走査は2次元的(同一平面内)に制限される。
【0005】
近年、圧電素子を2次元マトリックス状に配列した2次元アレイ型超音波プローブを用いて、超音波ビームの焦点位置を全方位的にダイナミックフォーカスし、更に超音波ビームの走査も3次元的に高速に行うことによって、3次元の超音波画像情報の収集、表示を行うシステムの検討が進められている。2次元アレイ型超音波プローブは、一般的に圧電素子の配列をm×nの行列(マトリックス)状の形態をとっている。前述した3次元的なダイナミックフォーカスや3次元的なビーム走査を十分に行うためには、m、nそれぞれ約30以上の圧電素子を400μm程度以下の微細ピッチで配列することが好ましい。特に、2次元アレイ型超音波プローブを心臓の観察に適用する場合には例えば肋骨の間から超音波ビームを入射するため、超音波プローブヘッドの大きさは20mm角程度以下にすることが好ましい。このヘッドを持つ2次元アレイ型超音波プローブは、引き出す配線が900以上となる。
【0006】
前記2次元アレイ型超音波プローブは、圧電素子を小型化して限られた面積内に高密度に配列することが高性能化の上で重要である。しかしながら、2次元アレイ型超音波プローブはこの性能要求から1つの圧電素子当りの面積を小さくする必要があるため、圧電素子の容量が1次元アレイ型超音波プローブに比べて著しく低下してしまうため、感度低下を招く。
【0007】
このようなことから圧電体に複数の電極をその圧電体の厚さ方向に交互に配置した構造の積層圧電素子を用いることによって、圧電素子の容量を増大させて超音波プローブの性能を向上させることが行われている。このような積層圧電素子を有する2次元アレイ型超音波プローブに関する発明が種々提案されている。例えば特許文献1には、積層圧電素子の1つの側面に各電極を選択的にパターン化して露出させて信号線とアース線の両者を取り出し可能にし、この側面にフレキシブル印刷配線板に形成された信号線とアース線とをそれぞれを接続して1列分のアレイ群を形成することが開示されている。特許文献2には、1列分の積層圧電素子を配列したフレキシブル印刷配線板をさらに行方向に積層することによって、2次元アレイ型超音波プローブを実現することが開示されている。
【0008】
積層圧電素子は、一般に圧電体に複数の電極をその圧電体の厚さ方向に交互に配置し、かつ前記圧電体の対向する2つの側面のうち、一方の側面に前記各第1電極を露出させ、他方の側面に各第2電極を露出させて構成され、第1、第2の電極間に電圧を印加することから、前記特許文献2の実装方法は多数の微細な積層圧電素子を扱う上で有用である。
【特許文献1】特開2000−138400
【特許文献2】特開2005−210245
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記積層圧電素子を組み込んだ2次元アレイ型超音波プローブでは積層圧電素子の一方の側面は印刷配線板と接続するため、対称性の優れた超音波指向特性を得ることが困難になる。すなわち、音響的負荷の大きな印刷配線板が積層圧電素子の側面に接続されるため、積層圧電素子の振動が不均一となり非対称性を生じる。超音波指向特性が非対称性になると、対象物からの反射エコー強度が対象物の位置によって異なるために画像化の際に画質が低下する。
【0010】
前記問題の対策の一つとしては、例えば印刷配線板を積層圧電素子の両側の側面に接続することによって、対称な超音波指向特性を得ることが可能になる。しかしながら、印刷配線板は前述したように音響的負荷が大きいため、指向角が狭くなり、超音波の送受信領域が制限され、表示される画像領域も制限される。また、印刷配線板を薄層化することによって、この影響を低減することは可能である。しかしながら、印刷配線板の薄層化に伴ってその反りが大きくなるため、積層圧電素子を精度よく配列することが困難となる。その結果、画像の解像度が低下する。
【0011】
したがって、従来、積層圧電素子を微細ピッチで精度よく配列し、優れた超音波指向特性を有する2次元アレイ超音波プローブを得ることが困難であった。
【0012】
本発明は、積層圧電素子を有するチャンネルを微細ピッチで精度良く配列し、優れた超音波指向特性を有する2次元アレイ超音波プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、スペースをあけて2次元方向に配列され、圧電体に複数の第1、第2の電極をその圧電体の厚さ方向に交互にかつ前記圧電体の対向する2つの側面のうち、一方の側面に前記各第1電極が露出し、他方の側面に各第2電極が露出するように配置して構成した積層圧電素子と、この積層圧電素子上に形成した音響整合層とを有する複数のチャンネル;
前記各チャンネルの積層圧電素子が設置されたバッキング部材;
前記各チャンネルの積層圧電素子における圧電体の一方の側面から前記バッキング部材まで延出して形成され、その側面に露出する複数の前記第1電極と接続された信号側電極;
前記各チャンネルの積層圧電素子における圧電体の他方の側面から前記バッキング部材まで延出して形成され、その側面に露出する複数の前記第2電極と接続されたアース側電極;
前記信号側電極に前記バッキング部材に位置する部分で接続された信号側印刷配線板;
前記アース側電極に前記バッキング部材に位置する部分で接続されたアース側印刷配線板;および
前記各チャンネル間のスペースにそれぞれ埋め込まれた充填部材;
を具備したことを特徴とする2次元アレイ型超音波プローブが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、積層圧電素子を有するチャンネルを微細ピッチに精度よく配列し、優れた超音波指向特性を有し、高解像度の画像を得ることが可能な2次元アレイ型超音波プローブを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る2次元型アレイ超音波プローブを図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、実施形態に係る2次元型アレイ超音波プローブを示す斜視図、図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は図1のIII−III線に沿う断面図である。
【0017】
バッキング部材1上には、複数のチャンネル10がスペース5をあけてXYの2次元方向(マトリクス状)に配列されている。このバッキング部材1は、後述するチャンネル10の積層圧電素子を機械的に支持し、かつ積層圧電素子を制動して超音波パルスを短くする機能を有する。バッキング部材1は、図2に示すようにY方向で分離されている。すなわち、複数のチャンネル10は、図3に示すようにX方向において共通のバッキング部材1上に配列され、図2に示すようにY方向において分離されたバッキング部材1上に配列されている。また、バッキング部材1は、図3に示すようにX方向に配列された各チャンネル10間のスペース5に対応して溝2が形成されている。
【0018】
各チャンネル10は、積層圧電素子20とこの積層圧電素子20上に配置された例えば1層の音響整合層30とから構成されている。なお、音響整合層30は、2層以上重ねた積層体であってもよい。
【0019】
積層圧電素子20は、前記バッキング部材1上に配置され、図2、図3に示すように例えばジルコンチタン酸鉛(PZT)系圧電セラミック材料やリラクサ系単結晶材料からなる四角柱状の圧電体21内に例えばPd−Ag合金からなる複数(例えば6つの)の第1、第2の電極22,23をその積層圧電素子20の厚さ方向に交互に積層して配置した構造を有する。この積層圧電素子20において、チャンネル10の配列方向(前記2次元方向に垂直する方向)の側面に対向して位置する2つの側面21a,21bのうち、一方の側面21aには各第1電極22が露出し、他方の側面21bには各第2電極23が露出している。具体的には、各第2電極23の一方の側面21aに位置する部分には、例えば、エポキシ樹脂からなる絶縁部材24が配置されている。また、各第1電極22の他方の側面21bに位置する部分には、例えば、エポキシ樹脂からなる絶縁部材25が配置されている。絶縁部材24は、一方の側面21aに位置する各第2電極23の側端を含む圧電体21部分をそれぞれ切欠し、これらの切欠部に例えばエポキシ樹脂を埋め込むことによって形成することができる。また、絶縁部材25は、他方の側面21bに位置する各第1電極22の側端を含む圧電体21部分をそれぞれ切欠し、これらの切欠部に例えばエポキシ樹脂を埋め込むことによって形成することができる。このような構成とすることで、各第1電極22のみを一方の側面21aに、各第2電極23のみを他方の側面21bにそれぞれ露出させることができる。
【0020】
信号側電極41は、図2に示すように積層圧電素子20の一方の側面21aからバッキング部材1まで延出して設けられ、その一方の側面21aに露出する複数の第1電極22と接続されている。アース側電極42は、積層圧電素子20の他方の側面21bからバッキング部材1まで延出して設けられ、その他方の側面21bに露出する複数の第2電極23と接続されている。
【0021】
信号側印刷配線板(例えば信号用フレキシブル印刷配線板)43は、表面にチャンネル10の配列ピッチでパターン化された信号線44を有し、それらの信号線44が前記信号側電極41のバッキング部材1に位置する部分で電気的に接続されている。アース側印刷配線板(例えばアース用フレキシブル印刷配線板)45は、表面にチャンネル10の配列ピッチでパターン化されたアース線46を有し、そのアース線46がアース側電極42のバッキング部材1に位置する部分で電気的に接続されている。なお、パターン化されていないアース電極板を用いてアース線を共通化してもよい。なお、信号側印刷配線板43およびアース側印刷配線板45と、信号側電極41およびアース側電極42との接続は、図2に示すY方向のバッキング部材1に位置するスペース間で行われている。
【0022】
充填部材47は、X方向に配列されたチャンネル10間のスペース5およびこのスペース5に連通するバッキング部材1の溝2とY方向に配列されるチャンネル10間のスペース5およびバッキング部材1間に設けられている。
【0023】
図示しない音響レンズは、複数のチャンネル10の音響整合層30上に形成されている。
【0024】
バッキング部材1、複数のチャンネル10および音響レンズ(図示せず)は、図示しないケース(筐体)内に収納されている。このケース内には、各チャンネル10の積層圧電素子20の駆動タイミングを制御する制御回路および積層圧電素子20に受信された受信信号を増幅するためのアンプ回路を含む信号処理回路(図示せず)が内蔵されている。これら回路には、フレキシブル印刷配線板43,45の信号線44、アース線46が電気的に接続される。
【0025】
バッキング部材1は、エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料で構成されていることが好ましい。このような材料からなるバッキング部材は、この上に支持する複数のチャンネル10の位置精度を向上できる。また、複数のチャンネル10を形成するためのダイシング加工に際し、チャンネル10を構成する積層圧電素子20のチッピングやクラックの発生を抑止することができる。バッキング部材1の厚さは、2次元アレイ型超音波プローブの音響的特性を良好に保つため、使用する超音波周波数の波長に対して十分な厚さ(十分減衰される厚さ)を有することが好ましい。
【0026】
チャンネル10を構成する積層圧電素子20は、それぞれ3つ(合計6つ)の第1、第2の電極22、23を圧電体21内にその厚さ方向に交互に配置した例で説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、圧電体21内に第1、第2の電極22、23をそれぞれ2つまたは4つ以上配置してもよい。
【0027】
積層圧電素子20の第1、第2の電極22、23の配置形態および第1、第2の電極22、23のそれぞれの対向する側面への露出形態は前述した図2に限定されない。
【0028】
第1、第2の電極22、23の配置形態は、例えば図4の(A)に示すように最上層の第1電極22を圧電体21の上面に配置し、最下層の第2電極23を圧電体21の下面に配置して第1の電極22と第2の電極23を交互に複数積層して配置させる積層圧電素子20で構成してもよい。このような積層圧電素子20において最上層の第1電極22を圧電体21の一方の側面21aにのみ露出させる場合には、圧電体21の他方の側面21bに位置する最上層の第1電極22の側端を含む圧電体21およびその上の音響整合層30部分を切欠し、この切欠部に例えばエポキシ樹脂からなる絶縁部材25を埋め込む。また、最下層の第2電極23を圧電体21の他方の側面21bにのみ露出させる場合には、圧電体21の一方の側面21aに位置する最下層の第2電極23の側端を含む圧電体21およびその下のバッキング部材1の部分を切欠し、この切欠部に例えばエポキシ樹脂からなる絶縁部材24を埋め込む。
【0029】
第1、第2の電極22、23のそれぞれの対向する側面への露出形態は、例えば、図4の(B)に示すように圧電体21の一方の側面21aに位置する各第2電極23の側端に例えばエポキシ樹脂からなる絶縁層26をそれぞれ形成することによって、各第1電極22のみを一方の側面21aに露出させ、圧電体21の他方の側面21bに位置する各第1電極22の側端に例えばエポキシ樹脂からなる絶縁層27をそれぞれ形成することによって、各第2電極23のみを他方の側面21bに露出させてもよい。
【0030】
音響整合層30の音響インピーダンスは、超音波の対象物への伝播がスムーズに行えるように、圧電体21の音響インピーダンスと対象物の音響インピーダンスとの間の値に設定することが好ましい。複数層を有する音響整合層30を形成する場合には、積層圧電素子20側から図示しない音響レンズに向かって音響インピーダンスが徐々に小さく、かつ対象物の音響インピーダンスに近似させることが好ましい。
【0031】
信号側電極41およびアース側電極42は、例えばCr/Au(表面側)の金属積層膜が用いられる。これらの電極は、100nm〜2μmの厚さを有することが好ましい。前記厚さが100nm未満にすると、積層圧電素子20の振動により信号側電極41およびアース側電極42が断絶する恐れがあり好ましくない。一方、前記厚さが2μmを超えると、信号側電極41およびアース側電極42での音響的負荷が大きいため、指向角が狭くなり、超音波の送受信領域が制限され、表示される画像領域も制限されるという問題が生じる。
【0032】
信号用、アース用の印刷配線板43、45は、フレキシブル印刷配線板に限らず、エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料からなる基板表面にAu、Cr、Cu及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる導電層(信号線、アース線)を形成したリジッド印刷配線板でもよい。
【0033】
充填部材47は、例えばシリコーン樹脂で構成されている。
【0034】
以上、実施形態によれば信号側電極41を各チャンネル10の積層圧電素子20の一方の側面21aからバッキング部材1まで延出し、その側面21aに露出する複数の第1電極22と接続し、かつアース側電極42を前記積層圧電素子20の他方の側面21bから前記バッキング部材1まで延出し、その側面21bに露出する複数の第2電極23と接続し、信号側印刷配線板43およびアース側印刷配線板45をバッキング部材1に位置する部分で信号側電極41およびアース側電極42と接続する、つまり従来のように積層圧電素子20に信号側印刷配線板、アース側印刷配線板を直接接続するのを回避することによって、印刷配線板43,45による前記積層圧電素子20の音響的負荷を抑止できる。その結果、前記積層圧電素子20による対称な超音波指向特性を有し、さらに広角領域への超音波の伝播が可能で高解像度の画像を得ることが可能な2次元アレイ型超音波プローブを提供することができる。
【0035】
さらに、信号側印刷配線板43およびアース側印刷配線板45を前記バッキング部材1に位置する部分で信号側電極41およびアース側電極42と接続することによって、積層圧電素子20の圧電振動に不要振動を与えることを回避できるため、各印刷配線板43,45の基板を機械的強度の高い材料で形成できる。その結果、印刷配線板43,45を薄層化した場合でも、その反りを抑止できるためチャンネル10を精度よく配列することが可能になる。
【0036】
次に、実施形態の2次元型アレイ超音波プローブの製造方法を図5および図6を参照して詳細に説明する。
【0037】
実施形態に係る2次元アレイ型超音波プローブの製造方法は、1)バッキング部材、積層圧電素子および音響整合層からなる短冊状積層体を作製する工程と、2)短冊状積層体と印刷配線板を接続して1列配置のチャンネルアレイユニットを作製する工程と、3)1列配置のチャンネルアレイユニットを行方向に積層する工程を含む。以下、工程毎に説明を行う。
【0038】
1)短冊状積層体の作製
まず、例えばジルコンチタン酸鉛を含む材料からなる厚さ20μmの圧電グリーンシート(圧電体)とPd−Ag合金からなる厚さ2μmの電極層を交互に積層した後、一体焼成して圧電体21内部に6層の内部電極51を有する平板状焼結体52を得る。得られた平板状焼結体52を平板状バッキング部材53上にエポキシ接着剤で接着する。この平板状バッキング部材53は、例えば樹脂材料またはゴム材料に酸化物粉末を混合させたものを用いることができる。特に、平板状バッキング部材53は前述したようにエポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料から作ることが好ましい。つづいて、前記平板状焼結体52上面には予め所定の音響インピーダンス、厚さに加工された例えばエポキシ樹脂からなる平板状音響整合層54をエポキシ接着剤によって接着することにより平板状バッキング部材53、平板状焼結体52、平板状音響整合層54からなる平板状積層体55を作製する。その後、平板状積層体55をダイシングにより例えば400μm程度の幅で切断することにより短冊状バッキング部材1上に圧電体21に例えば6層の内部電極51が交互に配置された短冊状焼結体56と短冊状音響整合層57がこの順序で形成された複数個の短冊状積層体58を作製する(図5の(a)図示)。切り出す短冊状積層体58の幅は、最終的に必要なチャンネル幅より広めに設定する。
【0039】
次いで、図5の(b)に示すように短冊状積層体58の短冊状焼結体56の長手方向に沿い対向する一方の側面に露出する電極51の側端を含む圧電体部分をその側端に沿ってダイシングにより一層おきに溝を形成する。他方の側面に露出する電極51の側端を含む圧電体部分をその側端に沿ってダイシングにより一方の側面で形成した溝と一つずらし、一層置きに溝を形成する。つづいて、短冊状焼結体56の対向する側面にそれぞれ形成した溝にエポキシ接着剤を充填した後、さらに溝を形成した2つの側面を研磨する。これによって、圧電体内に配置され、一方の側面で側端が露出し、他方の側面で側端が絶縁部材24で絶縁された第1電極22と、圧電体内に配置され、他方の側面で側端が露出し、一方の側面で側端が絶縁部材(図示せず)で絶縁された第2電極23とが形成される。これにより、バッキング部材1上に短冊状積層圧電素子59が形成される。
【0040】
次いで、図5の(c)に示すようにスパッタ等によって絶縁部材24が形成された一方の側面を含むバッキング部材1上に信号側電極41を、他方の側面を含むバッキング部材1上にアース側電極(図示せず)を形成する。このとき、第1電極22は信号側電極41にのみ接続され、アース側電極と絶縁され、第2電極23はアース側電極にのみ接続され、信号側電極41と絶縁される。これにより、短冊状積層圧電素子59の側面からバッキング部材1に延在された信号側電極41およびアース側電極(図示せず)が形成される。バッキング部材1に延出される信号側電極41の領域は、後述するチャンネル分割作業においてバッキング部材1を切り込む距離(長さ)より短く設定する。また、バッキング部材1に延出されるアース側電極の領域は、チャンネル分割作業においてバッキング部材1を切り込む距離(長さ)より長く設定する。このようにバッキング部材1に延出される信号側電極41およびアース側電極の長さを設定することによって、信号側電極41ではチャンネル分割作業によってチャンネル毎に分割され、一方アース側電極ではチャンネル分割作業後も共通化されることになる。なお、アース側電極も信号側電極41と同じような方法で形成することでチャンネル毎に分割された電極郡を設けることも可能である。バッキング部材1にはマスキングによって短冊状積層圧電素子59に近接した領域を露出させて電極が形成されるようにする。
【0041】
なお、前述した短冊状積層体の作製工程において平板状焼結体52を平板状バッキング部材53上に接着し、さらに前記平板状焼結体52上面に平板状音響整合層54を接着して平板状積層体55とし、これをダイシングして短冊状積層体58を切り出した後、短冊状焼結体56の内部電極を交互に接続する処理を実施したが、これに限定されない。例えば、内部電極を有する短冊状焼結体56を先に完成させた後、その上下面に短冊状に加工した短冊状音響整合層57と短冊状バッキング部材1を接着して短冊状積層体58を形成してもよい。また、短冊状積層圧電素子59の形成方法は圧電体に絶縁溝を形成する方法に限らず、前述した図4の(B)に示すように圧電体の対向する2つの側面の電極上にエポキシ系接着剤をスクリーン印刷することで圧電体の外部に絶縁層を設ける方法を採用してもよい。
【0042】
2)短冊状積層体と印刷配線板とが接続された1列配置のアレイユニットの作製
図5の(d)に示すように短冊状積層体58を例えばダイシングソーによりその短冊状音響整合層57側から短冊状バッキング部材1に向けて切断加工を施すことによって短冊状音響整合層57および短冊状積層圧電素子59を分割し、積層圧電素子20および音響整合層30を有する複数のチャンネル10を形成する。各チャンネル10は、通常、幅が100〜300μmとする。また、バッキング部材1には100〜300μm程度の深さで切り込んで溝2を形成することによって、バッキング部材1の一方の側面まで延出された信号側電極41をチャンネル毎に分割する。ただし、他方の側面まで延出されたアース側電極(図示せず)はチャンネル分割作業後も共通化される。
【0043】
次いで、図5の(e)に示すように積層圧電素子20の配列ピッチでパターン化された例えば厚さ20μm以下の信号線(図示せず)を有する信号側フレキシブル印刷配線板43をバッキング部材1の一方の側面に接着し、分割された信号側電極41に接続する。このフレキシブル印刷配線板43の接着は、エポキシ系接着剤を使用してもよいし、エポキシ系接着剤に金属フィラーを混合させたものを使用してもよい。エポキシ系接着剤を使用した場合でも、これらの電極表面には微細な凹凸が存在するため、圧着することによって余剰接着剤は押し出されて部分的に印刷配線板43の信号線と信号側電極41同士が接して接続される。また、信号側電極41に印刷配線板43の信号線を半田を用いて直接接続してもよい。つづいて、共通化された例えば厚さ20μm以下のアース線(図示せず)を有するアース側フレキシブル印刷配線板45をバッキング部材1の他方の側面に接着し、アース側電極(図示せず)に接続する。この短冊状バッキング部材27の反対側の共通化された側面電極5に接着接続する。このアース側フレキシブル印刷配線板45の接着は、前記信号側フレキシブル印刷配線板43と同様な方法でなされる。
【0044】
このような工程によって、1列分の積層圧電素子20および音響整合層30からなるチャンネル10がバッキング部材1上に所定のピッチで配置され、バッキング部材1の各々の側面において信号側電極41、アース側電極(図示せず)がフレキシブル印刷配線板43、45上の信号線とアース線(いずれも図示せず)にそれぞれ電気的に接続された1列配置のチャンネルアレイユニット60が作製される。
【0045】
なお、前述したアレイユニットの作製工程において短冊状積層体58をチャンネル分割後にフレキシブル印刷配線板43、45を接着する工程を説明したが、フレキシブル印刷配線板43、45を短冊状積層体58に接着した後にチャンネル分割を行なってもよい。この場合、信号側フレキシブル印刷配線板43の信号線(図示せず)の終端部、つまり信号側電極41と接続される端子部分は、積層圧電素子20の配列ピッチで分割された信号側電極群から形成されてもよく、または共通電極からなっていてもよく、短冊状積層体58をチャンネル分割する工程で一緒に分割してもよい。
【0046】
前記印刷配線板は、フレキシブル印刷配線板に限らず、エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料からなる基板表面にAu、Cr、Cu及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる導電層(信号線、アース線)を形成したリジッド印刷配線板を用いてもよい。
【0047】
3)1列配置のチャンネルアレイユニットの行方向に積層する工程
図6の(f)に示すように複数の1列配置のチャンネルアレイユニット60をバッキング部材1側面の信号側フレキシブル印刷配線板43とアース側フレキシブル印刷配線板45とが互いに当接するように行方向に積み重ねて2次元アレイ化する。このとき、チャンネル10の超音波放射面である音響整合層30との接続面が概同一面となるよう、かつチャンネル10の行、列がマトリックス状に配置されるよう位置合わせして積み重ね、接着により固定する。
【0048】
この後、図示しないが複数のチャンネル間のスペースに例えばシリコーン樹脂からなる充填部材を埋め込み、複数のチャンネル上に音響レンズを接着し、各チャンネルの積層圧電素子の駆動タイミングを制御する制御回路および積層圧電素子に受信された受信信号を増幅するためのアンプ回路を含む信号処理回路が内蔵されたケース(筐体)に収納して2次元型アレイ超音波プローブを製造する。
【0049】
このような実施形態の方法によれば、バッキング部材1上に積層圧電素子20を有する複数のチャンネル10を微細ピッチで精度よく配列できるため、優れた超音波指向特性を有する2次元アレイ型超音波プローブを製造することができる。
【0050】
また、実施形態に係る2次元型アレイ超音波プローブの製造において信号線を有する信号側フレキシブル印刷配線板43とアース線を有するアース側フレキシブル印刷配線板45をそれぞれ用意して1列配置のチャンネルアレイユニット60を作製し、このアレイユニット60を行方向に積層したが、例えばアレイユニット60間に位置するフレキシブル印刷配線板として両面に信号線とアース線を有する1枚のフレキシブル印刷配線板を用いてもよい。このようなフレキシブル印刷配線板を用いることによって、2つのアレイユニット60間でのスペース長さをフレキシブル印刷配線板の絶縁材料からなる基板の厚さ分、短くできる。つまり、2つのアレイユニット60当たりのフレキシブル印刷配線板の絶縁材料からなる基板の厚さ分、狭ピッチ化することが可能になる。その結果、チャンネル10の配列ピッチを狭くすることができ、2次元アレイ超音波プローブの分解能を向上させることが可能になる。
【0051】
さらに、バッキング部材をエポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材から作ることによって、このバッキング部材を有する平板状積層体から短冊状積層体を加工する際に圧電体に内部電極を形成した平板状焼結体(後加工で積層圧電素子になる)にクラックやチッピングの発生を防止できる。その結果、超音波の送受信感度のチャンネル間ばらつきを低減することが可能となる。また、平板状積層体からより薄い短冊状積層体を加工することが可能となるため、チャンネル間のスペース幅を小さくすることができ、超音波画像の解像度を上げることが可能となる。さらに、バッキング部材による積層圧電素子を有するチャンネルの保持性を向上できるため、反りなどに起因するチャンネルの位置ずれを防ぐことができる。
【0052】
さらに、信号線側、アース側の印刷配線板としてエポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料からなる基板表面にAu、Cr、Cu及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる導電層(信号線、アース線)を形成したリジッド印刷配線板を用いることによって、基板表面の導体層を薄く形成しても十分な強度が保持できるため、前述した短冊状積層体に接続した後にその短冊状積層体を安定的に支持できる。その結果、短冊状積層体の反り発生を防止してチャンネルの位置ずれを防止する、つまりチャンネルを精度よく配列する、ことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る2次元アレイ型超音波プローブを示す斜視図。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図。
【図4】バッキング部材上のチャンネルの積層圧電素子における第1、第2の電極の別の形態を示す図。
【図5】本発明の実施形態に係る2次元アレイ超音波プローブの製造方法工程を示す斜視図。
【図6】本発明の実施形態に係る2次元アレイ超音波プローブの製造方法工程を示す斜視図。
【符号の説明】
【0054】
1…バッキング部材、10…チャンネル、20…積層圧電素子、21…圧電体、21a,21b…圧電体の側面、22…第1電極、23…第2電極、30…音響整合層、41…信号側電極、42…アース側電極、43…信号側印刷配線板、45…アース側印刷配線板、46…充填部材、52…平板状焼結体、53…平板状バッキング部材、55…平板状積層体、58…短冊状積層体、59…短冊状積層圧電素子、60…チャンネルアレイユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペースをあけて2次元方向に配列され、圧電体に複数の第1、第2の電極をその圧電体の厚さ方向に交互にかつ前記圧電体の対向する2つの側面のうち、一方の側面に前記各第1電極が露出し、他方の側面に各第2電極が露出するように配置して構成した積層圧電素子と、この積層圧電素子上に形成した音響整合層とを有する複数のチャンネル;
前記各チャンネルの積層圧電素子が設置されたバッキング部材;
前記各チャンネルの積層圧電素子における圧電体の一方の側面から前記バッキング部材まで延出して設けられ、その側面に露出する複数の前記第1電極と接続された信号側電極;
前記各チャンネルの積層圧電素子における圧電体の他方の側面から前記バッキング部材まで延出して設けられ、その側面に露出する複数の前記第2電極と接続されたアース側電極;
前記信号側電極に前記バッキング部材に位置する部分で接続された信号側印刷配線板;
前記アース側電極に前記バッキング部材に位置する部分で接続されたアース側印刷配線板;および
前記各チャンネル間のスペースに設けられた充填部材;
を具備したことを特徴とする2次元アレイ型超音波プローブ。
【請求項2】
前記信号側印刷配線は、エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料で構成された絶縁基板と、前記絶縁基板上にAu、Cr、CuおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1つの導電層を形成したリジッド印刷配線板であることを特徴とする請求項1記載の2次元アレイ型超音波プローブ。
【請求項3】
前記アース側印刷配線板は、エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料で構成されたと、前記絶縁基板上にAu、Cr、CuおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1つの導電層を形成したリジッド印刷配線板であることを特徴とする請求項1記載の2次元アレイ型超音波プローブ。
【請求項4】
前記バッキング部材がエポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んだ複合材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の2次元アレイ型超音波プローブ。
【請求項5】
前記充填部材は、シリコーン樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の2次元アレイ型超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−22266(P2008−22266A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192020(P2006−192020)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】