説明

3−ヒドロキシグルタロニトリルの合成方法

水およびイオン液体の存在下でエピハロヒドリンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルもしくは異なる脱離基を含有する類似化合物をシアン化物(CN−)と反応させることによる3−ヒドロキシグルタロニトリルを調製するための高収率で高生産性の方法。水との共溶媒としてのイオン液体の使用は、生産性および選択性の向上をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年12月12日出願の米国仮特許出願第60/874,401号明細書の利益を主張するものである。この特許出願は、その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される。
【0002】
本発明は化学合成における有用な中間体である3−ヒドロキシグルタロニトリルの製造に関する。
【背景技術】
【0003】
化合物3−ヒドロキシグルタロニトリル(「3−HGN」)は、薬学的に活性な化合物、毛髪染めにおいて用いられるジアミンおよび高強度繊維用のモノマーなどの種々の有用な材料のための前駆物質である。例えば、非特許文献1によって示されたように、3−ヒドロキシグルタロニトリルは、中間体として4−クロロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリル(「クロロヒドリン」としても知られている)を製造する、水中無機シアン化物でのエピクロロヒドリン(「ECH」)処理によって従来から合成されてきた。
【化1】

【0004】
この方法には低い生産性および副生物の生成の問題がある。例えば、Johnsonらは、10〜11℃で約54時間の反応時間および酢酸エチルによる48時間の連続抽出後に収率60%を報告した。かなりの副生物(18%)は、中間体4−クロロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルおよび4−ヒドロキシクロトノニトリルを含んでいた。
【0005】
従って、生産性および選択性の向上した3−ヒドロキシグルタロニトリルを合成する方法が必要とされ続けている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.Johnsonら、J.Org.Chem.(1962),27,2241〜2243
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示された本発明は、3−ヒドロキシグルタロニトリルの調製方法、3−ヒドロキシグルタロニトリルを転化できる生成物の調製方法およびかかる方法によって得られた生成物および得ることができる生成物を含む。
【0008】
従って、本発明は、水およびイオン液体の存在下で、脱離基がハロゲン以外であるそれぞれエピハロヒドリンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルもしくはこれらの出発材料に類似している化合物をシアン化物(CN−)と反応させることによる3−ヒドロキシグルタロニトリルを調製するための高収率で高生産性の方法を提供する。水との共溶媒としてのイオン液体の使用は、生産性および選択性の向上をもたらす。
【0009】
本明細書の方法の一実施形態は、(a)CN−源の水溶液を提供する工程と、(b)溶液のpHを約8〜10に調節する工程と、(c)式(I)
【化2】

(式中、Xは脱離基である)
によって一般に表される化合物を溶液に添加する工程と、(d)イオン液体および任意に相間移動触媒を溶液に添加する工程と、(e)溶液のpHを約12未満で維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、追加のCN−を添加する工程とによって3−ヒドロキシグルタロニトリルを調製する方法を提供する。
【0010】
本明細書の方法の別の実施形態は、
a.水とイオン液体の二相混合物を提供する工程と、
b.式(II)
【化3】

(式中、Xは脱離基である)
によって一般に表される化合物を混合物に添加する工程と、
c.CN−源および任意に相間移動触媒を前記混合物に添加する工程と、
d.溶液のpHを約12未満で維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、追加のCN−を添加する工程とによって3−ヒドロキシグルタロニトリルを調製する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、
a.CN−源の水溶液を提供する工程と、
b.溶液のpHを約8〜約10に調節する工程と、
c.(i)エピハロヒドリン(I)
【化4】

(式中、Xは、Cl、BrまたはIなどの脱離基である)または
(ii)Xがハロゲン以外の脱離基であるエピハロヒドリンに類似している化合物を溶液に添加する工程と、
d.イオン液体および任意に相間移動触媒を前記溶液に添加する工程と、
e.反応混合物のpHを約12未満で維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、追加のCN−を添加する工程とを含む、3−ヒドロキシグルタロニトリル(「3−HGN」)を調製する方法を提供する。
【0012】
3−HGN生成物を必要に応じて分離し回収してもよいか、または更なる工程に直接供して、3−HGN生成物から生成されるもう1つの化合物またはモノマーもしくはオリゴマーまたはポリマーなどの別の生成物に3−HGN生成物を転化させてもよい。
【0013】
本方法は概略的に以下で表される。
【化5】

【0014】
収率において有害な影響なしに反応時間を短縮することにより、イオン液体共溶媒の使用はプロセス生産性を高める。反応混合物のpHを約12未満または約11未満もしくは約9.5〜約10.5の範囲内のpHで維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、シアン化物は導入される。高いpHは、3−ヒドロキシ−ブタンニトリル中間体を劣化させるか、または3−ヒドロキシ−ブタンニトリル中間体の反応混合物中の含有率を減少させる。高いpHを避けるための便利な方法は、分割してシアン化物を添加することである。高いpHを避ける以外では、反応中の厳しいpH制御はシアン化物が分割して添加される時には従って必要ではない。10分の1、8分の1または6分の1などの分量が適することが見出されたが、分量のサイズが同じである必要はない。様々な分量を添加する間隔は、約10〜約80分、または約15〜約60分、もしくは約15〜約30分の範囲内の時間であってもよいが、同じ長さの時間である必要はない。
【0015】
工程(a)において提供された水溶液は、工程(c)において添加されるべきエピハロヒドリン(または類似化合物)のモルごとに約1〜約1.5モル、好ましくは約1.1〜約1.3モルのCN−を含有する。適するCN−源には、限定はされないが、KCN、NaCNおよびLiCNなどのアルカリシアン化物;およびトリメチルシリルシアン化物が挙げられる。アセトンシアノヒドリンを用いてもよい。この場合、塩基モル当たり1モルを超えるアセトンシアノヒドリンまたは塩基モル当たり約3〜約4モルのアセトンシアノヒドリンを添加するような相対量でトリエチルアミンなどの塩基をアセトンシアノヒドリンと共に添加する。
【0016】
その後、約8〜約10の範囲にpHを下げるのに十分な酸を添加することにより、水性シアン化物溶液のpHを工程(b)において調節する。約8のpHが好ましい。工程(b)において用いられる特定の酸は重要ではない。例には、HSOおよびHClが挙げられるが、それらに限定されない。
【0017】
工程(c)において、エピハロヒドリンをシアン化物水溶液に添加し、中間体として[XがCl、BrまたはIなどのハロゲン脱離基である時に式(II)によって一般に表される]4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルを製造するのに十分な時間にわたりCN−源と反応させる。十分な時間は、例えば、約10〜約12時間である。
【化6】

【0018】
あるいは、工程(c)において、エピハロヒドリンに類似している化合物を添加することができよう。類似化合物は、エピハロヒドリンと同じ構造を有するが、ハロゲンでなく、その代わりにアセテート、トシレートまたはメシレートなどの基である脱離基を有する化合物である。この文脈における脱離基は、CN−イオンによって容易に置換される基である。こうした場合、式Iおよび式IIのXはハロゲンでなく他の脱離基を表す。エピハロヒドリンおよび4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルへの本明細書における言及は、Xがハロゲン以外の脱離基である時にもたらされる関連化合物への言及を含むことが理解されるべきである。
【0019】
エピクロロヒドロンは好ましいエピハロヒドリンであり、商業的に容易に入手できる。エピブロモヒドリンは、純粋または混合されたジブロモプロパノール異性体のエポキシ化によって合成することが可能である[例えば、J.ManafおよびR.Audinos、Bull.Soc.Chim.Fr.(1997)134,93−100;およびG.Braun、J.Amer.Chem.Soc.(1930),52,3167−76を参照すること]。エピブロモヒドリン(純度98%)は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin,USA)から市販もされている。エピヨードヒドリンは、例えば、エピクロロヒドリンと水性ヨウ化カリウムの反応によって合成することが可能である[D.Liuら、Harbin Ligong Daxue Xuebao(1996),1(3),96−99]。エピヨードヒドリン(X=I)およびエピブロモヒドリン(X=Br)は、触媒量のクラウンエーテル18−クラウン−6の存在下でエピクロロヒドリンとKXの反応によって合成することが可能である[Y.KawakamiおよびY.Yamashita、J.Org.Chem.(1980),45(19),3930−2]。
【0020】
他の脱離基を有する例示的な化合物も既知の方法により入手できる。アセトキシエポキシドを調製するために適する方法には、例えば、以下の資料において開示された方法が挙げられる。
【0021】
「Catalyst−free gas−phase epoxidation of alkenes」;Berndt,TorstenおよびBoege,Olaf;Leibniz−Institut fuer Troposphaerenforschung e.V.,Leipzig,Germany;Chemistry Letters(2005),34(4),584−585;出版元:日本化学会。
【0022】
「Regioselective opening of an oxirane system with trifluoroacetic anhydride,A general method for the synthesis of 2−monoacyl− and 1,3−symmetrical triacylglycerols」、Stamatov,Stephan D.およびStawinski,Jacek;Department of Chemical Technology,University of Plovdiv,Plovdiv,Bulgaria;Tetrahedron(2005),61(15),3659−3669;出版元:Elsevier B.V.。
【0023】
「Novel synthesis and enzymatic resolution of(±)−2,3−epoxy propyl esters」;Nair,Ranjeet V.、Patil,Prashant N.およびSalunkhe,Manikrao M.;Department of Chemistry,The Institute of Science,Mumbai,India;Synthetic Communications(1999),29(15),2559−2566;出版元:Marcel Dekker,Inc.。
【0024】
「Organotin templates in organic reactions;7.A convenient synthesis of glycidyl esters (2,3−epoxypropyl alkanoates)」、Otera,JunzoおよびMatsuzaki,Shinjiro;岡山理科大学(日本の岡山県);Synthesis(1986),(12),1019−20。
【0025】
トシルオキシエポキシドを調製するために適する方法には、例えば、以下の資料において開示された方法が挙げられる。
【0026】
「Palladium−catalyzed synthesis of tetrahydrofurans from g −hydroxy terminal alkenes: Scope, limitations, and stereoselectivity」;Hay,Michael B.、Hardin,Alison R.およびWolfe,John P.、Department of Chemistry,University of Michigan,Ann Arbor,MI,USA;Jounal of Organic Chemistry(2005),70(8),3099−3107;出版元:American Chemical Society。
【0027】
「Poly(per)fluoroalkanesulfonyl fluoride−Promoted olefin epoxidation with 30% aqueous hydrogen peroxide」;Yan,ZhaohuaおよびTian,Weisheng;Shanghai Institute of Organic Chemistry,Laboratory of Organofluorine Chemistry,Chinese Academy of Sciences,Shanghai,Peop.Rep.China;Tetrahedron Letters(2004),45(10),2211−2213;出版元:Elsevier Science B.V.。
【0028】
「Process for producing glycidyl sulfonate derivatives by cyclization and sulfonation」;Sakata,Midori、Furukawa,Yoshiro、TakenakaおよびKeishi;Daiso Co.,Ltd.,Japan;国際公開第97/26254A1号パンフレット、19970724。
【0029】
メシルオキシエポキシドを調製するために適する方法には、例えば、「Process and catalysts for the manufacture of epoxy sulfonates」;Schroeder,Georg,Arlt,DieterおよびJautelat,Manfred;Bayer A.−G.,Germany;欧州特許出願公開第412,359A1号明細書、19910213において開示された方法が挙げられる。
【0030】
工程(a)、(b)および(c)における水溶液の適する温度は、例えば、約0〜約25℃の範囲内であってもよい。工程(d)に関して、工程(d)の前に溶液が既に周囲温度でない場合、典型的に、溶液を放置して周囲温度にさせるか、あるいは、溶液を穏やかに加熱することにより周囲温度にしてもよい。約25℃より高い温度は、より速い反応をもたらすが、3−HGNのより低い収率をもたらす場合がある。
【0031】
工程(d)において、イオン液体共溶媒またはイオン液体の混合物および任意に相間移動触媒(「PTC」)を周囲温度で添加し、得られた混合物を追加の時間にわたり加熱する。最大で約1時間にわたる約40〜約65℃への加熱は適することが見出された。
【0032】
イオン液体は、Science(2003)302:792−793により詳しく記載されたように100℃付近または100℃未満で流体である、イオンから全体的になる液体である。イオン液体は典型的に有機塩である。本発明の方法において、イオン液体が水に可溶性でないことが好ましいが、必須ではない。適するイオン液体の例には、限定はされないが、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(「[BMIM]PF」)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム2−H−パーフルオロプロパンスルホネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(「[BMIM]BF」)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム1,1,2−トリフルオロ−2−(ペンタフルオロエトキシ)−エタンスルホネートおよび1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。[BMIM]PFが好ましい。本明細書において用いるために適する他のイオン液体は、米国特許出願公開第2006/0197053号明細書およびこの特許出願の中で引用された参考文献において開示されている。この特許出願は、その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される。添加されるイオン液体の体積は、工程(a)における水の体積とおよそ同じである。
【0033】
本明細書において用いるために適する相間移動触媒は、反応が進行できるように、他の相への界面を横切って反応剤の1つ、最も一般にはアニオンを抽出することにより異なる相(例えば、不混和性液体)にある化学種間の反応の速度を高める既知の物質の類の1つ以上のメンバーを含む。相間移動触媒は、典型的には、「オニウムイオン」の塩(例えば、テトラアルキルアンモニウム塩)または無機カチオンを錯化できる薬剤(例えば、クラウンエーテル)である。適する相間移動触媒の例には、限定はされないが、テトラブチルアンモニウムヨージド(「TBAI」)などのテトラアルキルアンモニウム塩およびCN−源がアルカリシアン化物である場合、カチオンのサイズによって指示されるような特定のクラウンエーテル(例えば、KCNがシアン化物源である時、K+のための18−クラウン−6)が挙げられる。TBAIが好ましい。相間移動触媒の存在しない状態で、3−HGNをより低い収率で製造してもよい。従って、相間移動触媒の使用は任意であるが、好ましい。相間移動触媒を用いる時、相間移動触媒の量は、エピハロヒドリンのモル当たり約0.01〜約0.10モル、好ましくは約0.05〜0.1モルである。
【0034】
工程(e)において、CN−は、典型的には、組み合わされた工程(a)および(e)において添加されたCN−の合計量が、工程(c)において添加されたエピハロヒドリンのモル当たり少なくとも約2.05モルのCN−であるように添加される。例えば、工程(a)における水溶液が約1.25モルのCN−により作製され、工程(c)において約1モルのエピハロヒドリンが添加される場合、少なくとも追加の0.80モルのCN−が典型的には工程(e)において添加される。反応混合物のpHを約12未満または約11未満、もしくは約9.5〜約10.5の範囲内のpHで維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、シアン化物も導入される。高いpHを避けるための便利な方法は、分割してシアン化物を添加することである。高いpHを避ける以外では、反応中の厳しいpH制御はシアン化物が分割して添加される時には従って必要ではない。10分の1、8分の1または6分の1などの分量が適することが見出されたが、分量のサイズが同じである必要はない。様々な分量を添加する間隔は、約10〜約80分、または約15〜約60分、もしくは約15〜約30分の範囲内の時間であってもよいが、同じ長さの時間である必要はない。上述した場合、例えば、0.80モルを例えば8回分に分割することができよう。各分量は0.10モルのCN−を含有し、8回分すべてを添加するまで1回分を15〜30分ごとに添加できよう。
【0035】
CN−の最後の添加後に、加熱しつつ混合物を追加の時間にわたり攪拌する。約45分〜約2時間の期間にわたる約45〜約65℃の範囲内の温度は適することが見出された。その後、反応混合物を冷却して、有機相と水相とを分離させる。一般に、3−HGN生成物は水相に主として存在し、従って、例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(「THF」)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンまたはメチルエチルケトン(「MEK」)で水相を抽出してもよい。有機抽出物を濃縮し、当該技術分野において知られている好適な任意の手段(例えば、カラムクロマトグラフィー)によって残留物を精製して、黄色油として生成物3−HGNを得る。
【0036】
3−HGN生成物を必要に応じて分離し回収してもよいか、または更なる工程に直接供して、別の化合物またはオリゴマーもしくはポリマーなどの別の生成物に3−HGN生成物を転化させてもよい。
【0037】
本発明の第2の実施形態は、逐次工程
a.水とイオン液体の二相混合物を提供する工程と、
b.(i)4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリル
【化7】

(式中、Xは、Cl、BrまたはIなどの脱離基である)または
(ii)4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルに類似しているXがハロゲン以外の脱離基である化合物を混合物に添加する工程と、
c.CN−源および任意に相間移動触媒を混合物に添加する工程と、
d.反応混合物のpHを約12未満で維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、追加のCN−を添加する工程とを含む、3−ヒドロキシグルタロニトリルを調製する方法を提供する。
【0038】
上述したように、水に可溶性でないイオン液体は工程(a)で用いるために好ましいが、必須ではない。[BMIM]PFがイオン液体として適する選択肢である。二相混合物中のイオン液体の体積は水の体積とおよそ同じである。
【0039】
工程(b)における添加のための4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリル(II)は、Bajwaら、Tetrahedron Letters(1991),32(26),3021−4に記載されたように対応するエポキシドとLiX(X=Cl、BrまたはI)の反応によって、または特開2002/241,357号公報に記載されたように水中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のスルフェート、ニトレートおよび/またはホスフェートの存在下で対応するエポキシドとHCNの反応によって製造することが可能である。4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリルが好ましく、市販されている。
【0040】
あるいは、工程(b)において、4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルに類似している化合物を添加することができよう。類似化合物は、4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルと同じ構造を有するが、ハロゲンでなく、その代わりにアセテート、トシレートまたはメシレートなどの基である脱離基を有する化合物である。この文脈における脱離基は、CN−イオンによって容易に置換される基である。こうした場合、式IIのXはハロゲンでなく代替脱離基を表す。4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリルへの本明細書における言及は、Xがハロゲン以外の脱離基である時にもたらされる関連化合物への言及を含むことが理解されるべきである。
【0041】
工程(c)における添加のために適するCN−源、および任意の相間移動触媒は上述した通りである。KCNが好ましく、相間移動触媒としてのTBAIの使用が好ましい。工程(c)において製造された混合物は加熱され、約40〜約65℃の範囲内の温度への加熱はこの目的のために適することが見出された。
【0042】
工程(d)において、CN−は、組み合わされた工程(c)および(d)において添加されたCN−の合計量が工程(b)において添加された4−ハロ−3−ヒドロキシ−ブタンニトリル(または非ハロゲン脱離基を有する類似化合物)のモル当たり少なくとも約2.05モルのCN−であるような量で添加される。反応混合物のpHを約12未満または約11未満、もしくは約9.5〜約10.5の範囲内のpHで維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、シアン化物は導入される。10分の1、8分の1または6分の1などの分量が適することが見出されたが、分量のサイズが同じである必要はない。これらの分量を添加する間隔は、約10〜約80分、または約15〜約60分、もしくは約15〜約30分の範囲内の時間であってもよいが、同じ長さの時間である必要はない。
【0043】
CN−の最後の添加後に、加熱しつつ混合物を追加の時間にわたり攪拌する。約45分〜約2時間の期間にわたる約45〜約65℃の範囲内の温度は適することが見出された。その後、反応混合物を冷却して、有機相と水相が分離とを分離させる。一般に、3−HGN生成物は水相に主として存在し、従って、例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(「THF」)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンまたはメチルエチルケトン(「MEK」)で水相を抽出してもよい。有機抽出物を濃縮し、当該技術分野において知られている好適な任意の手段(例えば、カラムクロマトグラフィー)によって残留物を精製して、黄色油として生成物3−HGNを得る。
【0044】
3−HGN生成物を上述したように必要に応じて分離し回収してもよい。反応混合物からの回収を伴って、または伴わずに3−HGN生成物を更なる工程に供して、別の化合物(例えば、モノマー)またはオリゴマーもしくはポリマーなどの別の生成物に3−HGN生成物を転化させてもよい。従って、本明細書の方法の別の実施形態は、1つ以上の反応を通して、3−HGNを別の化合物、オリゴマーまたはポリマーに転化させる方法を提供する。3−HGNを上述したような方法によって製造してもよく、その後、例えば、ジアミノピリジンなどの化合物に転化させてもよい。多工程法において、ジアミノピリジンを次に重合反応に供して、アミド官能基、イミド官能基またはウレア官能基を有するオリゴマーまたはポリマーなどのジアミノピリジンからのオリゴマーまたはポリマー、もしくはピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーを調製してもよい。
【0045】
アンモニア、またはn−ブチルアミン、ベンジルアミン、ピペラジンおよびアニリンなどのアミンを含む脂肪族アミン、環式アミンまたは芳香族アミンなどのアンモニウムドナーと3−HGNを反応させる方法によって3−HGNをジアミノピリジンに転化させてもよい。この反応は、銅塩、コバルト塩、マンガン塩または亜鉛塩などの遷移金属触媒の好ましい使用を伴って、100〜200℃の温度でアルコールなどの溶媒中で行われる。前述の方法に類似の方法は米国特許第5,939,553号明細書に記載されている。
【0046】
ジアミノピリジン(従ってその前駆体として結局は3−HGN)は、例えば、反応の条件下で液体であり、二酸(ハロゲン化物)とジアミノピリジンの両方のための溶媒であるとともに、高分子生成物に関して膨潤作用または部分保護作用を有する有機化合物中の溶液中で重合が起きる方法において二酸(または二酸ハロゲン化物)との反応によってポリアミドオリゴマーまたはポリマーに転化させてもよい。この反応は、中程度の温度、例えば、100℃未満で行ってもよく、好ましくは、選択された溶媒に可溶性でもある酸受容体の存在下で行われる。適する溶媒には、メチルエチルケトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、5%塩化リチウムを含有するジメチルホルムアミド、およびメチルトリ−n−ブチルアンモニウムクロリドまたはメチル−トリ−n−プロピルアンモニウムクロリドなどの第四アンモニウムクロリドを含有するN−メチルピロリドンが挙げられる。反応剤成分の組み合わせはかなりの熱の発生を引き起こし、攪拌も熱エネルギーの発生をもたらす。その理由で、所望の温度を維持するために冷却が必要である時、溶媒系および他の材料をプロセス中に常に冷却する。前述の方法に類似の方法は、米国特許第3,554,966号明細書、米国特許第4,737,571号明細書およびCA第2,355,316号明細書に記載されている。
【0047】
同様に、ジアミノピリジン(従ってその前駆体として結局は3−HGN)は、2つの相の界面で重合を引き起こすために第1の溶媒に不混和性である第2の溶媒中で、例えば、溶媒中のジアミノピリジンの溶液を酸受容体の存在下で二酸または二酸クロリドなどの二酸ハロゲン化物の溶液に接触させてもよい方法において二酸(または二酸ハロゲン化物)との反応によってポリアミドオリゴマーまたはポリマーに転化させてもよい。ジアミノピリジンは、例えば、塩基を含有する水に溶解または分散させてもよい。塩基は、重合中に発生した酸を中和させるのに十分な量で用いられる。水酸化ナトリウムを酸受容体として用いてもよい。二酸(ハロゲン化物)のために好ましい溶媒は、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、ナフサおよびクロロホルムである。二酸(ハロゲン化物)のための溶媒は、アミド反応生成物のために相対的に非溶媒であるとともにアミン溶媒に相対的に不混和性であるべきである。不混和性の好ましい限界は次の通りである。有機溶媒は、0.01重量%〜1.0重量%以下でアミン溶媒に可溶性であるべきである。ジアミノピリジン、塩基および水を一緒に添加し、激しく攪拌する。スターラーの高い剪断作用は重要である。酸塩化物の溶液を水性スラリーに添加する。接触は、例えば、室温で約1秒〜10分、好ましくは5秒〜5分にわたって0℃〜60℃で一般に行われる。重合は迅速に行われる。前述の方法に類似の方法は、米国特許第3,554,966号明細書および米国特許第5,693,227号明細書に記載されている。
【0048】
同様に、ジアミノピリジン(従ってその前駆体として結局は3−HGN)は、(典型的には、等モル量における)各試薬を共通溶媒に溶解させ、生成物が0.1〜2dL/gの範囲内の粘度を有するまで混合物を100〜250℃の範囲内の温度に加熱する方法において四酸(またはそのハロゲン化物誘導体)または二酸無水物との反応によってポリイミドオリゴマーまたはポリマーに転化させてもよい。適する酸または酸無水物には、ベンズヒドロール3,3,’,4,4’−テトラカルボン酸、1,4−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二酸無水物、および3,3,’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二酸無水物が挙げられる。適する溶媒には、クレゾール、キシロール、ジエチレングリコールジエーテル、ガンマ−ブチロラクトンおよびテトラメチレンスルホンが挙げられる。あるいは、ポリアミド−酸生成物を反応混合物から回収してもよく、無水酢酸とベータピコリンの混合物などの脱水剤と共に加熱することによりポリイミドに進めてもよい。前述の方法に類似の方法は、米国特許第4,153,783号明細書、米国特許第4,736,015号明細書および米国特許第5,061,784号明細書に記載されている。
【0049】
同様に、ジアミノピリジン(従ってその前駆体として結局は3−HGN)は、ポリイソシアネートとの反応によってポリウレアオリゴマーまたはポリマーに転化させてもよい。ポリイソシアネートの代表的な例には、トルエンジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネートが挙げられる。反応は、周囲温度で激しく攪拌しつつテトラメチレンスルホンとクロロホルムの混合物に両方の試薬を溶解させるなどにより溶液中で行ってもよい。水との分離またはアセトンおよび水との分離によって生成物を生じさせることが可能であり、その後、真空炉内で乾燥させることが可能である。前述の方法に類似の方法は、米国特許第4,451,642号明細書およびKumar,Macromolecules 17,2463(1984)に記載されている。ポリウレア生成反応は、酸受容体または緩衝剤を通常伴う水性液体にジアミノピリジンを溶解させるなどにより界面条件下で行ってもよい。ポリイソシアネートは、ベンゼン、トルエンまたはシクロヘキサンなどの有機液体に溶解させる。ポリマー生成物は、激しく攪拌すると2つの相の界面で生成する。前述の方法に類似の方法は、米国特許第4,110,412号明細書ならびにMillichおよびCarraher,Interfacial Syntheses,Vol.2,Dekker,New York,1977に記載されている。同様に、ジアミノピリジンは、米国特許第2,816,879号明細書に記載された界面プロセスにおけるようにホスゲンとの反応によってポリウレアに転化させてもよい。
【0050】
同様に、ジアミノピリジン(従ってその前駆体として結局は3−HGN)は、(i)ジアミノピリジンをジアミノジニトロピリジンに転化させ、(ii)ジアミノジニトロピリジンをテトラアミノピリジンに転化させ、(iii)テトラアミノピリジンをピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーに転化させることにより、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーに転化させてもよい。
【0051】
同様に、ジアミノピリジン(従って結局はその前駆物質として3−HGN)は、国際公開第97/11058号パンフレットに記載されるように、ジアミノピリジンを硝酸およびオレウム中の三酸化硫黄の溶液に接触させることによりジアミノジニトロピリジンに転化させてもよい。ジアミノジニトロピリジンは、米国特許第3,943,125号明細書に記載されるように、強酸の存在下で水素添加触媒を用い、そしてより低級のアルコール、アルコキシアルコール、酢酸またはプロピオン酸などの共溶媒を用いる水素添加によってテトラアミノピリジンに転化させてもよい。
【0052】
テトラアミノピリジン(従って結局はその前駆物質として3−HGN)は、米国特許第5,674,969号明細書(その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される)において記載されているように、強ポリリン酸中2,5−ジヒドロキシテレフタル酸をテトラアミノピリジン三塩酸塩−一水和物と減圧下100℃を越え最高約180℃でゆっくりと加熱して重合させ、その後水で沈殿させることによって;または国際公開第2006/104974号として公開された2005年3月28日出願の米国仮出願第60/665,737号(その全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される)において記載されたように、約50℃〜約110℃、およびその後145℃の温度でそれらのモノマーを混合して、オリゴマーを生成させ、その後、約160℃〜約250℃の温度でそのオリゴマーを反応させることによって;ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーに変換させることができる。こうして製造されるピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーは、例えば、ポリ(1,4−(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン−2,6−ピリド[2,3−d:5,6−d’]ビスイミダゾール)ポリマーまたはポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]ポリマーであってよい。しかし、そのピリドビスイミダゾール部分は、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾールおよびピリドビスオキサゾールのいずれかまたはより多くによって置換されていてもよい。その2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン部分は、イソフタル酸、テレフタル酸,2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−キノリンジカルボン酸および2,6−ビス(4−カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールの1つ以上の誘導体によって置換されていてもよい。
【実施例】
【0053】
本明細書の方法の有利な特性および効果は、以下に記載する一連の実施例(実施例1〜7)において見られる。これらの実施例の基になっているこれらの方法の実施形態はあくまで例示であり、本発明を例示するための実施形態の選択は、これらの実施例に記載されていない条件、装置、アプローチ、レジーム、技術、プロトコルおよび反応剤がこれらの方法を実施するために適切でないか、またはこれらの実施例に記載されていない主題が添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲から除外されることを示すものではない。実施例の意義は、実施例から得られた結果を対照実験(対照A)として機能するために設計された反応から得られた結果と比較することによってより良く理解され、イオン液体を反応中に用いなかったので、こうした比較のための基礎を提供する。
【0054】
以下の材料を実施例において用いた。すべての商用試薬を入手したままの状態で用いた。
【0055】
テトラブチルアンモニウムヨージド(純度98%)、アセトンシアノヒドリン(純度99%)、トリエチルアミン(純度99.5%)およびエピクロロヒドリン(純度99%)は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin,USA)から得た。
【0056】
シアン化カリウム(純度97%)は、Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri,USA)から得た。
【0057】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(純度は指定されていない)および1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(純度は指定されていない)は、Acros Organic(Geel,Belgium)から得た。
【0058】
4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリルはエピクロロヒドリンと1当量のシアン化物から次の通り合成した。シアン化ナトリウム(9.93g)を水60mLに溶解させ、溶液を0℃に冷却した。溶液のpHが8.5になるまで、この溶液に濃硫酸を滴下した。その後、エピクロロヒドリン(15g)を滴下し、混合物を放置して一晩で室温に到達させた。その後、反応混合物を酢酸エチルで3回抽出し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、真空で濃縮した。18.5g(分離収率96%)の4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリルを得た。純度は少なくとも95%であった。これはNMR測定の限界である。
【0059】
米国仮特許出願第60/719,370号明細書の実施例10に記載されたように1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドをアセトン中のカリウム−1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンスルホネートと反応させることにより、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム2−H−パーフルオロプロパンスルホネートを合成した。この特許出願はその全体がすべての目的のために本明細書の一部として援用される。同様に、米国仮特許出願第60/719,370号明細書にも記載された方法に従って、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドをアセトン中のカリウム−1,1,2−トリフルオロ−2−(ペンタフルオロエトキシ)エタンスルホネートと反応させることにより、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム1,1,2−トリフルオロ−2−(ペンタフルオロエトキシ)−エタンスルホネートを合成した。
【0060】
略語の意味は次の通りである。「TBAI」は、テトラブチルアンモニウムヨージドを意味し、「THF」はテトラヒドロフランを意味し、「EtOAc」は酢酸エチルを意味し、「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「g」はグラムを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「NMR」は核磁気共鳴分光分析法を意味する。本明細書で用いられる「ブライン」という用語は水中の塩化ナトリウムの飽和溶液を表す。
【0061】
実施例1
水(7.00mL)中のシアン化カリウム(0.224g、3.587ミリモル)の溶液に濃HSOを溶液のpHが8に達するまで添加した。その後、溶液を氷浴内で冷却し、その後、エピクロロヒドリン(0.22mL、0.281ミリモル)を滴下した。5分後、浴を取り除き、混合物を放置して12時間にわたって室温に到達させた。その後、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(6.00mL)を添加し、続いて、テトラブチルアンモニウムヨージド(0.097g、0.262ミリモル)を添加した。二相混合物を1時間にわたり45℃に加熱した。その時間後、シアン化カリウムを8回に分けて添加し、それぞれは0.016g(0.248ミリモル)であり、1回分を30分ごとに添加した。最後のシアン化物添加後、反応混合物を2時間にわたって65℃に加熱した。その後、混合物を室温に冷却し、層を分離した。イオン液体層をブライン(3.0mL)で一度抽出した。混合された水層をTHF(4回分、それぞれ5mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物をNaSO上で乾燥させ、真空で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=3:2〜ヘキサン:EtOAc=1:1)による精製は、純粋の3−ヒドロキシグルタロニトリル(0.247g、分離収率80%)を生成させた。
【0062】
実施例2
水中のKCN(2.04g、31.3ミリモル)の冷却(0℃)溶液に硫酸を溶液のpHが8になるまで添加した。その後、エピクロロヒドリン(2.31g、25.0ミリモル)を添加し、混合物を放置して11時間にわたって室温に到達させた。その後、テトラブチルアンモニウムヨージド(0.920g、2.5ミリモル)およびイオン液体[BMIM]PF(10.0mL)を反応混合物に添加し、得られた二相混合物を45℃に加熱した。1時間後、KCNを8回に分けて添加し、それぞれは0.130g(20ミリモル)であり、1回分を30分ごとに添加した。最後のシアン化物添加後、混合物を45分にわたって45℃で攪拌したままにした。その後、混合物を室温に冷却し、層を分離した。水層を酢酸エチルで抽出した。有機抽出物を濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィーによって精製して、黄色油として3−HGN(分離収率80%)を得た。
【0063】
実施例3
水(2.00mL)と1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(2.00mL)の二相混合物に4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリル(0.079g、0.660ミリモル)を添加し、続いて、TBAI(0.025g、0.067ミリモル)およびシアン化カリウム(0.007g、0.104ミリモル)を添加した。混合物を45℃に加熱した。30分ごとに、シアン化カリウム(約0.004g、0.061ミリモル)を添加し、シアン化カリウムの合計量は0.046g(0.706ミリモル)であった。その後、混合物を2時間にわたり65℃に加熱した。その後、混合物を室温に冷却し、層を分離した。水層をブライン(5.0mL)で希釈し、その後、THF(3回分、それぞれ5mL)で抽出した。その後、有機抽出物をNaSO上で乾燥させ、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)による精製は、純粋の3−HGN(0.060g、分離収率82%)を生成させた。
【0064】
実施例4
水(4.00mL)と1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム2−H−パーフルオロプロパンスルホネート(4.00mL)の二相混合物に4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリル(0.109g、0.912ミリモル)を添加し、続いて、TBAI(0.047g、0.126ミリモル)およびシアン化カリウム(0.007g、0.104ミリモル)を添加した。混合物を45℃に加熱した。30分ごとに、シアン化カリウム(約0.006g、0.096ミリモル)を添加し、シアン化カリウムの合計量は0.062g(0.957ミリモル)であった。その後、混合物を2時間にわたり65℃に加熱した。その後、混合物を室温に冷却し、層を分離した。水層をブライン(5.0mL)で希釈し、その後、THF(3回分、それぞれ5mL)で抽出した。その後、有機抽出物をNaSO上で乾燥させ、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)による精製は、純粋の3−HGN(0.045g、分離収率47%)を生成させた。
【0065】
実施例5
水(3.00mL)と1−エチル−3−メチルイミダゾリウム1,1,2−トリフルオロ−2−(ペンタフルオロエトキシ)−エタンスルホネート(3.00mL)の二相混合物に4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリル(0.299g、2.500ミリモル)を添加し、続いて、TBAI(0.090g、0.250ミリモル)およびシアン化カリウム(0.018g、0.275ミリモル)を添加した。混合物を45℃に加熱した。30分ごとに、シアン化カリウム(約0.018g、0.275ミリモル)を添加し、シアン化カリウムの合計量は0.180g(2.750ミリモル)であった。その後、混合物を2時間にわたり65℃に加熱した。その後、混合物を室温に冷却し、層を分離した。水層をブライン(5.0mL)で希釈し、その後、THF(3回分、それぞれ5mL)で抽出した。その後、有機抽出物をNaSO上で乾燥させ、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)による精製は、純粋の3−HGN(0.220g、分離収率80%)を生成させた。
【0066】
実施例6
水(3.00mL)と1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(3.00mL)の二相混合物に4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリル(0.299g、2.500ミリモル)を添加し、続いて、TBAI(0.090g、0.250ミリモル)およびシアン化カリウム(0.018g、0.275ミリモル)を添加した。混合物を45℃に加熱した。30分ごとに、シアン化カリウム(約0.018g、0.275ミリモル)を添加し、シアン化カリウムの合計量は0.180g(2.750ミリモル)であった。その後、混合物を2時間にわたり65℃に加熱した。その後、混合物を室温に冷却し、層を分離した。水層をブライン(5.0mL)で希釈し、その後、THF(3回分、それぞれ5mL)で抽出した。その後、有機抽出物をNaSO上で乾燥させ、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)による精製は、純粋の3−HGN(0.228g、分離収率81%)を生成させた。
【0067】
実施例7
水(1.50mL)および1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(1.50mL)を含有するフラスコに3−ヒドロキシ−4−クロロブタンニトリル(0.359g、3.000ミリモル)およびテトラブチルアンモニウムヨージド(0.111g、0.300ミリモル)を添加した。二相混合物を攪拌し、トリエチルアミン(0.042mL、0.300ミリモル)およびアセトンシアノヒドリン(0.091mL、0.990ミリモル)を添加した。混合物を45℃に暖めた。30分ごとに、約0.042mL(0.300ミリモル)のトリエチルアミンの1回分および約0.091mL(0.990ミリモル)のアセトンシアノヒドリンの1回分を反応混合物に9回分を添加するまで添加し、添加されたトリエチルアミンの合計量が0.418mL(3.000ミリモル)であり、添加されたアセトンシアノヒドリンの合計量が0.906mL(9.900ミリモル)であるようにした。その後、混合物を1時間にわたり65℃に加熱した。反応混合物の薄層クロマトグラフィは、反応混合物の約50%が所望の生成物、3−HGNであったことを明らかにした。
【0068】
対照A
水(1.00mL)と酢酸エチル(1.00mL)の二相混合物に4−クロロ−3−ヒドロキシブタンニトリル(0.177g、1.481ミリモル)、TBAI(0.054g、0.145ミリモル)およびシアン化カリウム(0.011g、0.170ミリモル)を添加し、混合物を65℃に加熱した。30分ごとに、シアン化カリウム(約0.011g、0.170ミリモル)を添加し、シアン化カリウムの合計量は0.110g(1.700ミリモル)であった。添加後に混合物を冷却し、層を分離した。水層を酢酸エチルで10回抽出した。組み合わせた有機抽出物を飽和水性NHClおよびブラインで洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空で乾燥させた。残留物のNMR分析は、0.057gの3−ヒドロキシグルタリンニトリル(分離収率35%)を明らかにした。
【0069】
数値の範囲を本明細書で挙げる場合、その範囲は、その終点およびその範囲内のすべての個々の整数および端数を含み、より狭い範囲の各々が明示的に挙げられるならば、同じ程度に指定範囲内の値のより大きい群の下位群を形成するために終点、内部の整数および端数の種々の可能なすべての組み合わせによって形成されるより狭い範囲の各々も含む。
【0070】
指定値より大きいとして数値の範囲を本明細書で指定する場合、その範囲は、それにもかかわらず有限であり、本明細書に記載された本発明の文脈内で使用できる値によってその上限について制限される。指定値より小さいとして数値の範囲を本明細書で指定する場合、その範囲は、それにもかかわらず非零値によってその下限について制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−ヒドロキシグルタロニトリルを製造する方法であって、(a)CN- 源の水溶液を備えること;(b)溶液のpHを約8〜10に調整すること;(c)一般式(I)
【化1】

(式中、Xは脱離基である)
で表される化合物を溶液に添加すること;(d)イオン液体、および場合により相間移動触媒を溶液に添加すること;および(e)溶液のpHを約12未満で維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、追加のCN- を添加すること;
の工程を含む方法。
【請求項2】
CN- 源がシアン化アルカリ、シアン化トリメチルシリルまたはアセトンシアノヒドリンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Xが、Cl、Br、I、アセテート、トシレートおよびメシレートからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
イオン液体が、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム2−H−パーフルオロプロパンスルホネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム1,1,2−トリフルオロ−2−(ペンタフルオロエトキシ)−エタンスルホネートおよび1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶液が相間移動触媒を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(e)において、追加のCN- を8〜10回に分けて添加する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
CN- の1回分を15〜30分ごとに添加する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
3−ヒドロキシグルタロニトリルを、反応混合物から回収せずに、化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーへの変換に供する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
3−ヒドロキシグルタロニトリルから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを製造する反応に、3−ヒドロキシグルタロニトリルを供する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
製造されるポリマーが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーまたはポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]ポリマーを含む請求項25に記載の方法。
【請求項11】
3−ヒドロキシグルタロニトリルを製造する方法であって、
a.水およびイオン液体の二相混合物を備えること;
b.一般式(II)
【化2】

(式中、Xは脱離基である)
で表される化合物を混合物に添加すること;
c.CN- 源、および場合により相間移動触媒を混合物に添加すること;および
d.溶液のpHを約12未満で維持する速度で連続的に、または2回以上に分けて不連続的に、追加のCN- を添加すること;
の工程を含む方法。
【請求項12】
CN- 源が、シアン化アルカリ、シアン化トリメチルシリルまたはアセトンシアノヒドリンを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Xが、Cl、Br、I、アセテート、トシレートおよびメシレートからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
イオン液体が、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム2−H−パーフルオロプロパンスルホネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム1,1,2−トリフルオロ−2−(ペンタフルオロエトキシ)−エタンスルホネートおよび1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項15】
溶液が相間移動触媒を含む請求項11に記載の方法。
【請求項16】
工程(e)において、追加のCN- を8〜10回に分けて添加する請求項11に記載の方法。
【請求項17】
CN- の1回分を15〜30分ごとに添加する請求項11に記載の方法。
【請求項18】
3−ヒドロキシグルタロニトリルを、反応混合物から回収せずに、化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーへの変換に供する請求項11に記載の方法。
【請求項19】
3−ヒドロキシグルタロニトリルから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを製造する反応に、3−ヒドロキシグルタロニトリルを供する工程を更に含む請求項11に記載の方法。
【請求項20】
製造されるポリマーが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーまたはポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]ポリマーを含む請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2010−512396(P2010−512396A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541344(P2009−541344)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/025298
【国際公開番号】WO2008/073411
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】