説明

3−メチレン−2,3−ジヒドロチオフェン誘導体及びその製造方法

【課題】比較的少ない段階で合成でき、有機溶媒への溶解性が良好であり、青色発光強度が強い、発光性有機化合物および、この発光性有機化合物を用いる発光生成方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。


(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換若しくは置換基を有するアルキル基であるか、2つのCOORが共同で酸無水物[C(O)-O-C(O)]を形成する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い蛍光性を示す3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子の発光層に用いられる有機発光材料の開発が盛んに行われており、低分子発光材料としてスチレンやクマリンなどの芳香族化合物の誘導体や芳香族化合物とアルミニウムやイリジウムとの金属錯体、高分子発光材料としても共役系の導電性高分子がよく知られている(特許文献1〜3)。
発光性化合物が水溶性の場合は、生体中での特定物質の移動を追跡するトレーサーとして(化学トレーサー)(非特許文献1)、また、特定の物質との相互作用する機能を持たせることによりその物質のセンサー(化学センサー)(非特許文献2)として利用される。薄膜有機太陽電池では、電子供与体としてポルフィリンやフタロシアニン誘導体の金属錯体、電子受容体としてフラーレン誘導体が用いられている(特許文献4、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−267378号公報
【特許文献2】特開2007−318063号公報
【特許文献3】WO2005/115950パンフレット
【特許文献4】特開2009−206470号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Yoshino, A. Furuta, T. Kambe, H. Itoi, N. Kano, T. Kawashima, Y. Ito, M. Asashima, CHEM. EUR. J. 2010, 16, 5026-5035.
【非特許文献2】T. Agou, M. Sekine, J. Kobayashi, T. Kawashima, CHEM. EUR. J. 2009, 15, 5056-5062.
【非特許文献3】Y. Matsuo, Y. Sato, T. Niinomi, I. Soga, H. Tanaka, E. Nakamura, J. AM. CHEM. SOC. 2009, 131, 16048-16050.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機化合物が発光性をもつためには、π結合が連なった平面性の高い共役系が必要であり、そのような化合物の合成には多段階を要し、さらには往々にして有機溶媒への溶解性が低下する。同時に、疎水性部が大きくなるため、親水性置換基を導入しても、水溶性が低い、水中で凝集する、などの問題が生じる。
【0006】
また、リン光色素としてよく用いられる金属錯体や薄膜有機太陽電池の有機色素にはイリジウムやルテニウムのようなレアメタルが用いられており、元素戦略の上での課題である。
【0007】
一方、発光材料のうち、特に青色発光素子は、低駆動電圧と長寿命の両立が困難であり(特許文献1参照)、現在でも盛んに研究開発が行われている。
【0008】
本発明は、比較的少ない段階で合成でき、有機溶媒への溶解性が良好であり、青色発光強度が強い、発光性有機化合物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、この発光性有機化合物を用いる発光生成方法も提供することを目的とする。加えて本発明は、発光性有機化合物の新規な合成中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1]
下記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換若しくは置換基を有するアルキル基であるか、2つのCOORが共同で酸無水物[C(O)-O-C(O)]を形成する。)
[2]
一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体が、下記のいずれかの化合物である[1]に記載の誘導体。
【化2】

[3]
ビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)とジアルキルアセチレンジカルボキシラート(DAAD)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを反応させて、下記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体を得る、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体の製造方法。
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。)
[4]
[3]で合成された3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体を加水分解して下記に示すジカルボン酸を得る、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェンジカルボン酸誘導体の製造方法。
【化4】

[5]
[4]で合成された3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェンジカルボン酸誘導体を脱水して下記に示す酸無水物を得る、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン酸無水物誘導体の製造方法。
【化5】

[6]
[1]または[2]に記載3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体に励起光を照射して、蛍光発光を得る、蛍光発光生成方法。
[7]
有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料である[1]または[2]に記載の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。
[8]
有機エレクトロルミネッセンス素子用ホスト材料またはゲスト材料である[1]または[2]に記載の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。
[9]
下記式で示される化合物。
【化6】

【発明の効果】
【0010】
本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体は、これまでに例のない3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン部位による光発光(フォトルミネッセンス)を示し、以下のような特徴を持つ。
1. 本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体の代表例である以下の式で示される化合物は、溶液中において0.91、固体状態において0.30という高い絶対蛍光量子収率で青色(488nm)の発光を示す。
【化7】

【0011】
2. 9-ブロモアントラセンを出発とする数段階の工程により合成される。
3. 本発明化合物のエステル基の官能基変換により、発光波長や吸収波長を調整した誘導体の合成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1-3で合成した3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体(蛍光性化合物)のジクロロメタン溶液中の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)である。
【図2】実施例1-3で合成した3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体(蛍光性化合物)粉末の紫外可視吸収スペクトル(- -)および蛍光スペクトル(- - - -)である。
【図3】実施例1-4で合成した5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボン酸のジクロロメタン溶液中の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)である。
【図4】実施例1-5で合成した5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボン酸無水物のジクロロメタン溶液中の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体]
本発明は、下記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体に関する。
【化8】

【0014】
上記一般式(1)中、Rは、水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル(C3以上のアルキル基は、直鎖状または分岐状である)を挙げることができる。また、一般式(1)中の2つの隣接するCOORは共同で酸無水物[C(O)-O-C(O)]を形成したものであることもできる。
【0015】
一般式(1)で示される本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体は、具体的には、下記のいずれかの化合物であることができる。
【化9】

【0016】
[3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体の製造方法]
一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体の内、Rがアルキル基である誘導体は、ビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)とジアルキルアセチレンジカルボキシラート(DAAD)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを反応させて合成することができる。
【0017】
原料となるビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)は、実施例1-1及び1-2に示すように、9-ブロモジベンゾバレレン(DbbBr)(参考文献A)を原料として3段階の工程で合成できる。
参考文献A: M. Brynda, M. Geoffroy, G. Bernardinelli, CHEM. COMMUN. 1999, 961-962.
【0018】
原料となるジアルキルアセチレンジカルボキシラート(DAAD)は、公知の方法(例えば、アセチレンジカルボン酸のエステル化:参考文献B)で合成できる。実施例1-2では、ジメチルアセチレンジカルボキシラート(DMAD)を用いているが、DMADは市販品として入手可能である(例えば、東京化成工業株式会社)。DMAD以外に、ジエチルアセチレンジカルボキシラート(DEAD)及びジ-t-ブチルアセチレンジカルボキシラート(DBAD)も市販品として入手可能である(例えば、Aldrich)。
参考文献B: E. H. Huntress, T. E. Lesslie, J. Bornstein, ORG. SYNTH. Coll. Vol. 4, 329.
【0019】
原料となるテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムは、例えば、東京化成工業株式会社から市販されており、容易に入手できる。
【0020】
上記反応は、例えば、上記3つの原料を溶解できる有機溶媒中で加熱することで実施できる。有機溶媒は、特に制限はないが、例えば、トルエン等を挙げることができる。加熱温度は、使用する溶媒の還流温度であることができるが100℃程度が望ましい。反応時間は、反応の進行状況を考慮して適宜決定でき、例えば、20〜72時間の間で適宜設定できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0021】
反応生成物には、実施例1-3で示すように副生成物((9-ジベンゾバレレニルチオ)マレイン酸ジアルキル)が含まれることがあり、反応終了後、常法(例えば、カラムクロマトグラフィー等)により分離精製することができる。
【0022】
さらに、得られた上記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体(式中、Rはアルキル基、例えば、メチル基) (1) (R = Alk、例えば、Me)を加水分解して、上記に示すジカルボン酸(式中、Rが水素原子である3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェンジカルボン酸誘導体(1) (R = H))を製造することができる。
【0023】
上記加水分解は、例えば、アルカリの存在下で加熱することにより実施できる。アルカリとしては、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を用いることができる。加熱温度は、例えば、50〜100℃の範囲とし、10〜20時間行うことができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。加水分解後は、常法により精製することができる。
【0024】
さらに、上記で合成された3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェンジカルボン酸誘導体を脱水して酸無水物を得ることで、上記に示す3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン酸無水物誘導体(1) (R-R = O)を製造することができる。
【0025】
上記脱水は、例えば、無水酢酸中で加熱することで実施できる。無水酢酸以外にも、例えば、 無水トリフルオロ酢酸等を用いることもできる。加熱温度は、例えば、還流温度とし、10〜20時間行うことができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。脱水後は、常法により精製することができる。
【0026】
本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体(1) (R = Me)は、励起光を照射すると蛍光を発光する。励起光は、例えば、300〜450nmの範囲であり、蛍光は、励起光より長波長側であって、例えば、400〜600nmの範囲である。例えば、下記式で示される化合物は、溶液中において0.91(励起光359 nm、発光488 nm)、固体状態において0.30(励起光404 nm、発光443 nm)という高い絶対蛍光量子収率で青色の発光を示す。
【0027】
本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体は、有機発光素子(有機EL)の発光層(短波長発光素子)、水溶性化学トレーサー、化学センサー、薄膜有機太陽電池の色素、酸化チタン系太陽電池の色素としての利用や光触媒への応用が可能である。また、一般の蛍光顔料、蛍光色素としても利用可能である。
【0028】
特に、本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料、有機エレクトロルミネッセンス素子用ホスト材料またはゲスト材料として有用である。
【0029】
本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子であることができる。そして、前記有機薄膜層を構成する発光層が本発明の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体から選ばれる少なくとも1種類を単独もしくは混合物の成分として含有するものである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0031】
以下の実施例における物性の測定に用いた装置は、以下のとおりである。
1H-NMR Bruker DRX-400またはBruker AVANCE500
13C-NMR Bruker DRX-400またはBruker AVANCE500
IR Perkin-Elmer System 2000 FTIR
融点 Laboratory Devices MEL-TEMP(直熱式毛細管融点測定装置)
紫外可視吸収スペクトル JASCO V-560 Spectrophotometer
蛍光スペクトル JASCO FP-6300 Spectrofluorometer
絶対蛍光量子収率 Hamamatsu Photonics PMA-12
質量分析装置 JEOL JMS700AM
元素分析 Thermo Electron Co. FlashEA 1112
【0032】
[実施例1-1]
9-ジベンゾバレレンチオール(DbbSH)の合成
【化10】

【0033】
(1)9-ブロモジベンゾバレレン(DbbBr)1.20 g(4.3 mmol)を三口フラスコに入れ、一つの口に単体硫黄(S8)353 mg(11.0 mmol)の入ったL字管を装着し、アルゴン置換する。9-ブロモジベンゾバレレンをテトラヒドロフラン(THF)20 mL に溶かし-78℃に冷却する。そこにtert-ブチルリチウムペンタン溶液(濃度 1.58 M)5.4 mL(8.5 mmol)をゆっくり加え、1時間撹拌する。そこにL字管内の単体硫黄を加え、室温まで昇温し、18時間加熱還流する。室温まで放冷し、4時間空気にさらし、さらに飽和塩化アンモニム水溶液を加え反応を停止する。ジクロロメタンで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下に留去し、ジベンゾバレレンチオール(DbbSH)とポリスルフィド(DbbSnDbb)の混合物を淡黄色固体として1.33 g得た。
【0034】
(2)アルゴン雰囲気下、水素化アルミニウムリチウム 350 mgにTHFを20 mL加え0℃に冷却する。そこへ、(1)で得られた混合物の0℃に冷却したTHF溶液(30 mL)を加え、温まで昇温し3時間撹拌する。再び0℃に冷却し1.2 M塩酸をゆっくり加え反応を停止し、ジクロロメタンで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下に溶媒を留去する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン-ジクロロメタン 3:1)で精製し無色結晶として9-ジベンゾバレレンチオール(DbbSH)744 mg(収率74%)を得た。
【0035】
9-ジベンゾバレレンチオール(DbbSH)
無色結晶, 融点:135-136℃(ジクロロメタンより再結晶).
1H-NMR (400 MHz, δ, ppm, CDCl3)
2.38 (s, 1H), 5.11 (dd, J = 6.0, 1.2 Hz, 1H), 6.72 (dd, J = 7.2, 1.6 Hz, 1H), 6.97-7.08 (m, 5H), 7.27-7.30 (m, 2H), 7.62-7.64 (m, 2H).
13C-NMR (100.7 MHz, δ, ppm, CDCl3)
50.9, 57.0, 121.0, 122.7, 124.0, 124.9, 140.2, 144.4, 145.5, 146.6.
IR (KBr) ν 2556 cm-1 (S-H).
【0036】
[実施例1-2]
ビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)の合成
【化11】

9-ジベンゾバレレンチオール(DbbSH)250 mg(1.06 mmol)をナスフラスコに入れ、ジメチルホルムアミド(DMF)5 mLに溶かす。そこへトリエチルアミン0.25 mL(182 mg, 1.79 mmol)を加え、100℃で17時間撹拌する。室温まで放冷し、ジエチルエーテルで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下に溶媒を留去する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン-ジクロロメタン 3:1)で精製し無色結晶としてビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)158 mg(収率63%)を得た。
【0037】
この酸化反応の参考文献:J. L. Garcia Ruano, A. Parra, J. Aleman, GREEN CHEM. 2008, 10, 706.
【0038】
ビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)
無色結晶
1H-NMR (500 MHz, δ, ppm, CDCl3)
5.11 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 6.96-7.00 (m, 8H), 7.06-7.08 (m, 2H), 7.28-7.30 (m, 4H), 7.35 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.65-7.66 (m, 4H).
13C-NMR (126 MHz, δ, ppm, CDCl3)
51.1, 63.6, 121.8, 122.9, 124.3, 124.9, 139.4, 139.9, 146.0, 146.2.
【0039】
[実施例1-3]
ジメチル5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボキシラート(蛍光性化合物)(1)(R = Me)の合成
【化12】

【0040】
アルゴン雰囲気下、ジスルフィド(DbbSSDbb)107 mg(0.23 mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム527 mg(0.46 mmol)の混合物にトルエン15 mLを加える。そこへジメチルアセチレンジカルボキシラート(DMAD)107 mg(0.73 mmol)のトルエン溶液(5 mL)を加え、24時間加熱還流する。室温まで放冷し、真空ポンプを用いて溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製し、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体(1)(R = Me)を無色結晶として43 mg(収率50%)得た。また、副生成物として(9-ジベンゾバレレニルチオ)マレイン酸ジメチル36 mg(収率42%)を無色結晶として得た。
【0041】
ジメチル5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボキシラート(1)(R = Me)
融点:152-153℃(ヘキサン-ジクロロメタンより再結晶)
1H NMR (400 MHz, δ, ppm, CDCl3)
3.75 (s, 3H), 3.91 (s, 3H), 5.36 (d, J = 6.0 Hz, 1H), 7.02-7.08 (m, 4H), 7.26 (d, J = 6.0 Hz, 1H), 7.34-7.36 (m, 2H), 7.42-7.44 (m, 2H).
13C NMR (100.7 MHz, δ, ppm, CDCl3)
51.8, 52.4, 53.1, 71.4, 123.6 (2C), 125.4, 126.4, 127.8, 133.5, 141.6, 142.4, 145.6, 156.0, 162.6, 163.1.
IR (KBr) ν 1731, 1715 cm-1 (C=O).
紫外可視吸収スペクトル(CH2Cl2,c = 6.4×10-5 M)λmax 359 nm(モル吸光係数7400)
蛍光スペクトル ジクロロメタン溶液 (c = 6.4×10-5 M,励起光359 nm)λem 488 nm
粉末(励起光404 nm)λem 443 nm
絶対蛍光量子収率 ジクロロメタン溶液(c = 5.3×10-6 M,励起光359 nm)0.91
粉末(励起光404 nm)0.30
元素分析:計算値(C22H16O4S) C, 70.20%; H, 4.28%.
実測値:C, 70.09%; H, 4.31%.
【0042】
図1に、ジメチル5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボキシラート(1)(R = Me)のジクロロメタン溶液中の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)を示す。図2にジメチル5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボキシラート(1)(R = Me)の粉末の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)を示す。
【0043】
(9-ジベンゾバレレニルチオ)マレイン酸ジメチル
1H-NMR (400 MHz, δ, ppm, CDCl3)
3.64 (s, 3H), 3.97 (s, 3H), 5.16 (d, J = 5.6 Hz, 1H), 5.40 (s, 1H), 6.90 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.00-7.04 (m, 4H), 7.17 (t, J = 6.6 Hz, 1H), 7.31-7.33 (m, 2H), 7.43-7.46 (m, 2H).
13C NMR (100.7 MHz, δ, ppm, CDCl3)
50.8, 51.8, 53.5, 60.9, 116.9, 121.6, 123.2, 124.7, 125.4, 139.5, 140.6, 143.0, 145.2, 145.3, 164.0, 166.1.
【0044】
[実施例1-4]
5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボン酸(蛍光性化合物)(1)(R = H)の合成
【化13】

【0045】
ジメチルエステル(1)(R = Me)82 mg (0.22 mmol)のTHF溶液(5 mL)を水酸化ナトリウム水溶液(1 M, 5 mL)に加え、70℃で15時間加熱する。反応混合物にジクロロメタンと水を加え、分離した水層に希塩酸(1.2 M)20 mLを加えると黄色沈殿物が析出する。そこにジクロロメタンを加えて黄色沈殿物を溶かし、有機層を水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下に留去し、黄色結晶としてジカルボン酸(1)(R = H)74 mg(収率90%)を得た。ジカルボン酸(1)(R = H)のジクロロメタン溶液中の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)を図3に示す。
【0046】
5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボン酸(1)(R = H)
1H-NMR (400 MHz, δ, ppm, CDCl3)
4.01 (br s), 5.41 (d, J = 6.4 Hz, 1H), 7.05-7.07 (m, 4H), 7.36-7.38 (m, 2H), 7.43-7.45 (m, 2H), 7.79 (d, J = 6.4 Hz, 1H).
13C-NMR (100.7 Hz, δ, ppm, CDCl3)
52.2, 67.3, 123.5, 123.7, 124.6, 125.6, 126.5, 139.3, 141.1, 145.7, 154.3, 156.5, 163.1, 166.6.
MS (EI) m/z 348 (M+).
IR (KBr) ν 2576 cm-1 (br, O-H), 1715, 1698 cm-1 (C=O).
紫外可視吸収スペクトル(CH2Cl2, c = 6.9×10-5 M) λmax 410 nm(モル吸光係数4100).
蛍光スペクトル ジクロロメタン溶液(c = 6.9×10-5 M, 励起光410 nm) λem 503 nm.
絶対蛍光量子収率 ジクロロメタン溶液(c = 6.2×10-5 M, 励起光410 nm) 0.647
[実施例1-5]
5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボン酸無水物(1)(R-R = O)の合成
【化14】

【0047】
アルゴン雰囲気下、ジカルボン酸(1)(R = H)46.9 mg (0.135 mmol)に無水トリフルオロ酢酸3 mLを加え、室温で14時間かきまぜる。溶媒を減圧下に留去し、得られた黄色の残渣をヘキサンで洗浄し、黄色結晶として酸無水物(1)(R-R = O)12.6 mg (収率28%)を得た。酸無水物(1)(R-R = O)のジクロロメタン溶液中の紫外可視吸収スペクトル(-)および蛍光スペクトル(- - - -)を図4に示す。
【0048】
5,9b-ジヒドロ-5,9b-ベンゾナフト[1,2-b]チオフェン-2,3-ジカルボン酸無水物(1)(R-R = O)
1H NMR (400 MHz, δ, ppm, CDCl3)
5.49 (d, J = 6.4 Hz, 1H), 7.09-7.14 (m, 4H), 7.41-7.43 (m, 4H), 7.53 (d, J = 6.4 Hz, 1H).
13C NMR (400 MHz, δ, ppm, CDCl3)
51.9, 83.9, 123.4, 124.1, 126.0, 127.1, 135.9, 137.3, 139.9, 144.6, 146.3, 153.3, 156.7, 157.6.
IR (KBr) ν1841, 1770 cm-1 (C=O).
紫外可視吸収スペクトル(CH2Cl2, c = 8.4×10-5 M) λmax 421 nm (モル吸光係数2600).
蛍光スペクトル ジクロロメタン溶液(c = 8.4×10-5 M, 励起光421 nm)λem 514 nm.
絶対蛍光量子収率 ジクロロメタン溶液(c = 6.0×10-5 M, 励起光421 nm) 0.732
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は蛍光性物質が関連する種々の技術分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換若しくは置換基を有するアルキル基であるか、2つのCOORが共同で酸無水物[C(O)-O-C(O)]を形成する。)
【請求項2】
一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体が、下記のいずれかの化合物である請求項1に記載の誘導体。
【化2】

【請求項3】
ビス(9-ジベンゾバレレニル)ジスルフィド(DbbSSDbb)とジアルキルアセチレンジカルボキシラート(DAAD)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを反応させて、下記一般式(1)で示される3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体を得る、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体の製造方法。
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状の無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。)
【請求項4】
請求項3で合成された3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体を加水分解して下記に示すジカルボン酸を得る、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェンジカルボン酸誘導体の製造方法。
【化4】

【請求項5】
請求項4で合成された3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェンジカルボン酸誘導体を脱水して下記に示す酸無水物を得る、3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン酸無水物誘導体の製造方法。
【化5】

【請求項6】
請求項1または2に記載3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体に励起光を照射して、蛍光発光を得る、蛍光発光生成方法。
【請求項7】
有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料である請求項1または2に記載の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。
【請求項8】
有機エレクトロルミネッセンス素子用ホスト材料またはゲスト材料である請求項1または2に記載の3-メチレン-2,3-ジヒドロチオフェン誘導体。
【請求項9】
下記式で示される化合物。
【化6】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12304(P2012−12304A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147203(P2010−147203)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年3月26日〜3月29日 社団法人日本化学会主催の「第90春季年会」(プログラム発行日2010年3月12日)において文書をもって発表
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】