説明

3次元探査装置

【課題】スキャニングソナーと同等の送信強度で探信波を送信しても、遠方の標的の位置及び量(魚量等)を、精度よく算出することができる3次元探査装置を提供する。
【解決手段】探信波を送信して当該探信波の反射波を受信する送受波部200から当該反射波の強度に応じた信号を取得し、探信波により探査される探査範囲における強度分布を含むボリュームデータを生成する3次元探査装置100において、3次元探査装置100が、設定された探査距離と、送受波部200が検出可能な反射波の最小値と、によって定まる値を超えないように、送受波部200が送信する探信波の立体角を制御する送受波制御部103を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚群等を追尾する3次元探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋調査や漁場での操業において、ソナー装置に代表される3次元探査装置により、魚群の魚量を精度よく算出することが求められている。水中の魚群の位置、移動方向、及び速度等を正確に捉えるために、3次元探査装置は、広い立体角の探信波(音波)を送受波部(トランスデューサ)から送信する。そして、非特許文献1に開示されたマルチビーム計量科学魚探システム(3次元探査装置)は、探信波により1回で探査される探査範囲に分布する魚群から、反射波(エコー)を受信して、その魚群の位置や3次元の分布等を算出する。
【0003】
また、特許文献1には、面状の探信波(音波)の送受信方向の俯角を制御しながら、魚群を追尾することを試みたスキャニングソナー(3次元探査装置)が開示されている。また、特許文献2には、探査毎の反射波(エコー)の2次元強度分布を、所定の3次元方向に積分することで、3次元に分布する魚群の魚量を精度よく算出することを試みたスキャニングソナー(3次元探査装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−327855号公報
【特許文献2】特開2006−105701号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“マルチビーム計量科学魚探システム ME70””、[online]、日本海洋株式会社、[平成22年2月22日検索]、インターネット<URL:http://www.nipponkaiyo.co.jp/measuring/item.php?cid=1&id=30&itid=82>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、水中を俊敏で複雑に3次元移動する魚群を、船底に取り付けられたトランスデューサで捕捉し続けるには、探査範囲を広くする必要がある。このため、3次元探査装置は、トランスデューサから送信する探信波の立体角(以下、「探信波立体角」と称する)を、広くしておく必要があった。しかしながら、探信波立体角を広くすると、スキャニングソナーと同等の探信波の送信強度では、単位立体角あたりの探信波の送信強度が小さくなってしまい、探査距離(探査レンジ)が短くなってしまう、という問題があった。
【0007】
一方、スキャニングソナーは、厚み方向の角度が送受波器で形成可能なビーム幅のうち最も狭いビーム幅程度であり、かつ厚み方向に直交する方向にはビーム幅が広い面状ビームにより、等価的に立体角が狭い探信波(音波)を、3次元に分布している魚群に対して送信する。これにより、スキャニングソナーは、魚群の2次元断面の反射波(エコー)強度分布を得ている。そして、2次元断面のエコー強度分布に基づく、標的像の寸法と形状の情報では、3次元に分布している魚群を精度よく算出するには情報量が不足してしまい、魚群の位置や量等を精度よく算出することができない、という問題があった。
【0008】
さらに、スキャニングソナーは、俊敏で複雑な魚群の運動に対し、数秒間隔の探査(サンプリング)を実行するため、これらの探査結果を積算しても、その間の魚群の運動や自船の移動により魚群の正確な分布を捉えることができず、魚群の位置や魚量を算出する精度が劣化する、という問題があった。
【0009】
本発明は前記の諸点に鑑みてなされたものであり、スキャニングソナーと同等の送信強度で探信波を送信しても、遠方の標的の位置及び量(魚量等)を、精度よく算出することができる3次元探査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、探信波を送信して当該探信波の反射波を受信する送受波部から当該反射波の強度に応じた信号を取得し、前記探信波により探査される探査範囲における強度分布を含むボリュームデータを生成する3次元探査装置において、設定された探査距離と、前記送受波部が検出可能な前記反射波の最小値と、によって定まる値を超えないように、前記送受波部が送信する前記探信波の立体角を制御する送受波制御部を備えることを特徴とする3次元探査装置である。
【0011】
また、本発明は、前記強度分布に基づいて、前記ボリュームデータから標的像を抽出し、当該標的像の前記送受波部に対する位置である標的相対位置を算出する標的像抽出部と、前記標的像と、前記標的相対位置と、前記標的像を探査した際の送信強度及び送信立体角と、前記送受波部の受波有効面積と、に基づいて、前記標的の反射断面積を算出する反射断面積算出部と、を備えることを特徴とする3次元探査装置である。
【0012】
また、本発明は、前記送受波部の絶対位置データを取得し、該絶対位置データと、前記算出された標的相対位置と、に基づいて、前記標的の絶対位置を算出する標的位置算出部と、前記抽出された標的像と、前記算出された絶対位置と、に基づいて、前記標的の次回の探査における前記送受波部に対する予測相対位置及び予測標的像を予測する標的位置予測部と、前記算出された予測相対位置及び予測標的像に基づいて、前記予測相対位置、前記予測標的像の前記強度分布の中心、前記強度分布の重心、又は前記予測標的像の強度分布が最も強い領域に向けて、前記探信波を送信する探査方向を算出する探査パラメータ算出部と、を備え、前記送受波制御部において、前記算出された探査方向に基づき、前記送受波部が前記標的に送信する次回の前記探信波の送信方向を制御して標的を追尾することを特徴とする3次元探査装置である。
【0013】
また、本発明は、指定された複数の標的を所定順に探査し、2巡目以降、同じ標的の前回の探査結果に基づいて、探査パラメータを設定して探査することを繰り返して、複数の標的を追尾する制御部を備えることを特徴とする3次元探査装置である。
【0014】
また、本発明は、前記標的像の前記強度分布の総和に基づく標的量を算出し、さらに同じ標的を複数探査して複数の前記標的量を得て、当該総和に基づく標的量と複数の前記標的量との変動を緩和した量を算出する標的量算出部を備えることを特徴とする3次元探査装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、3次元探査装置は、設定された探査距離と、送受波部が検出可能な反射波の最小値とによって定まる値を超えないように、探信波の立体角を制御する。これにより、3次元探査装置は、スキャニングソナーと同等の送信強度で探信波を送信しても、最大の立体角で探査した場合の探査距離より遠方の標的の位置及び量(魚量等)を、精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の一形態によるソナー装置(3次元探査装置)のブロック図である。
【図2】探信波による探査範囲を説明する図である。
【図3】本実施の一形態によるソナー装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】探信波の単位面積当たりの強度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の一形態によるソナー装置(3次元探査装置)のブロック図である。ソナー装置100は、操作部101と、制御部102と、送受波制御部103と、ボリュームデータ変換部104と、表示変換部105と、標的量算出部106と、探査パラメータ算出部107と、標的位置予測部108と、抽出領域設定部109と、標的像抽出部110と、標的位置算出部111と、反射断面積算出部112とを備える。また、標的像追尾装置100は、送受波部(送受波器)200と、表示部300と、自位置検出部400とに接続される。
【0018】
操作部101は、例えば、トラックボール、スティックレバー、マウス、タッチパネル、スイッチ等であって、探信波である音波により探査される探査範囲を指定するデータの入力を受け付ける。ここで、探査範囲を指定するデータとは、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、前回の探査で表示された標的像を指定する標的像指定データとである。
【0019】
標的像指定データは、例えば、その指定位置が点として、又は矩形状の枠として、表示部300に表示されてもよい。また、標的像指定データは、抽出領域としてユーザが任意の1点を指定したデータであっても良いし、抽出領域としてユーザが2点以上を指定した寸法を示すデータであってもよい。
【0020】
操作部101は、処理を指示する処理指示操作の入力を検出する。操作部101は、処理指示操作の入力を検出した場合、その処理指示を制御部102に出力する。ここで、処理指示には、指定の標的像を追尾するか否かを指示する標的追尾指示と、指定の標的像の量を算出するか否かを指示する標的量算出指示とがある。
【0021】
操作部101は、設定反射断面積データの入力を検出する。ここで、設定反射断面積データとは、標的の反射断面積を示すデータのユーザ設定値である。そして、操作部101は、設定反射断面積データを制御部102に出力する。
【0022】
送受波部200は、例えば、トランスデューサやセンサであって、ソナー装置100等を搭載した船舶(不図示)の船底に取り付けられている。そして、送受波部200には、探信波の立体角データと、探信波の送信方向データとが、送受波制御部103から入力される。
【0023】
送受波部200は、これらのデータに基づいて、探信波(音波)を送波し、魚群などの標的(図2の標的600)からの反射波を受波する。そして、送受波部200は、反射波に必要に応じてゲイン補正等を施して、その反射波の強度に応じた信号を、ボリュームデータ変換部104に出力する。さらに、送受波部200は、送受波部200の実際の駆動状態を示す駆動データを、制御部102へ出力する。なお、探信波の送信方向は、鉛直方向に限らなくてもよい。
【0024】
図2には、鉛直方向に送信した探信波による探査範囲が示されている。図2において、最大立体角で送信された探信波により形成される錐体の錐面500と、最大強度で送信された探信波502の照射面503の縁の探査距離504に応じた軌跡501と、によって囲まれる内部空間が、ソナー装置100の探査可能範囲である。ここで、最大立体角は、例えば、送受波部200の構造等によって定まる。
【0025】
また、探査範囲は、探査可能範囲に含まれる空間であって、探信波502が通過する範囲となる。そして、ソナー装置100は、探信波502で標的600の全体を捉え、標的600からの反射波の強度に応じた信号を集積(積算)することで、標的600の量(例えば、魚量)を算出する。
【0026】
図1に戻り説明を続ける。ボリュームデータ変換部104には、反射波の強度に応じた信号が送受波部200から入力される。ボリュームデータ変換部104は、A/D変換することで、反射波の強度に応じた信号を、探査範囲のボリュームデータに変換する。すなわち、ボリュームデータとは、反射波の強度に応じた信号がA/D変換されて、探査距離ごとに内部メモリ等(不図示)に集積されたデータである。
【0027】
そして、ボリュームデータ変換部104は、このように生成したボリュームデータを、標的像抽出部110と表示変換部105とに出力する。なお、ボリュームデータの座標表現には、例えば、直交する3次元方向の距離、半径、又は角度を用いた座標表現が用いられてもよい。また、ボリュームデータには、必要に応じて雑音除去のためのフィルタ処理が施されてもよい。
【0028】
標的像抽出部110には、抽出領域設定部109が設定した抽出領域データと、ボリュームデータとが入力される。ここで、抽出領域とは、ボリュームデータ全体に対応する領域に含まれる領域であって、ソナー装置100が反射波の強度分布から標的像を抽出するための計算処理を実行する対象となる領域である。
【0029】
そして、標的像抽出部110は、反射波の強度に基づいて、抽出領域に含まれた標的像を、ボリュームデータから抽出する。また、標的像抽出部110は、抽出された標的像のボリュームデータを、標的量算出部106と、標的位置予測部108と、反射断面積算出部112とに出力する。さらに、標的像抽出部110は、送受波部200に対する標的600(図2を参照)の相対位置である標的相対位置データを、標的位置算出部111と、反射断面積算出部112とに出力する。
【0030】
標的量算出部106には、標的量算出指示と、標的量平均数と、標的像のボリュームデータとが入力される。そして、標的量算出部106は、制御部102の標的量算出指示に応じて、ボリュームデータに含まれる標的600に対応する各座標の反射波の強度に応じた信号を、足し合わせる(集積する)。
【0031】
さらに、標的量算出部106は、標的600における総和(集積結果)を、標的量データとして算出する。また、標的量算出部106は、標的量データを標的量平均数だけ平均した時間平均値を算出して、平均標的量データとして記憶する。そして、標的量算出部106は、平均標的量データを表示変換部105に出力する。
【0032】
自位置検出部400は、例えば、ジャイロ装置や、GPS(Global Positioning System)などの衛星測位装置により構成される。そして、自位置検出部400は、ソナー装置100の送受波部200の絶対位置データ(例えば、緯度データ、経度データ、対地位置、及び対潮流位置等)を、標的位置算出部111に出力する。
【0033】
標的位置算出部111には、標的相対位置データと、送受波部200の絶対位置データとが入力される。標的位置算出部111は、これらのデータに基づいて標的像の絶対位置を算出し、標的像の絶対位置を標的位置予測部108と表示変換部105とに出力する。
【0034】
標的位置予測部108には、標的像の絶対位置データと、標的像のボリュームデータと、標的探査間隔データとが入力される。標的位置予測部108は、標的探査間隔データが示す時間後における標的600の位置及び分布を、複数の絶対位置データと、標的像のボリュームデータとに基づいて予測する。
【0035】
ここで、絶対位置データは、同一の標的像の絶対位置を、その標的毎に時間経過に応じて保持したデータである。そして、標的位置予測部108は、この予測位置と送受波部200との相対位置(図2参照)を算出して、予測相対位置データと予測標的像データとを、探査パラメータ算出部107と、制御部102とに出力する。
【0036】
そして、標的位置予測部108は、標的600の絶対位置と標的像を記憶する。さらに、標的位置予測部108は、標的600の過去の絶対位置及び標的像、並びにその絶対位置に標的600が位置していた時刻等に基づいて、次回の探査における標的600の絶対位置と標的像(予測標的像)を予測する。そして、標的位置予測部108は、予測した標的600の絶対位置に基づいて、標的600と送受波部200との相対位置(予測相対位置)を算出する。例えば、標的位置予測部108は、標的600の過去の絶対位置同士をベクトルで結び、そのベクトルを延長することで、標的600と送受波部200との相対位置を予測(算出)してもよい。
【0037】
探査パラメータ算出部107には、予測相対位置データと予測標的像データとが入力される。探査パラメータ算出部107は、予測相対位置データに基づいて、予測相対位置、予測標的像の強度分布の中心、予測標的像の強度分布の重心、又は予測標的像の強度分布が最も強い領域に向けて、探信波を送信する探査方向を算出する。
【0038】
さらに、探査パラメータ算出部107は、予測相対位置データに基づいて、予測標的像を全て含む探査距離を算出し、探査方向データと探査距離データとを、制御部102に出力する。
【0039】
反射断面積算出部112には、標的像のボリュームデータと、標的相対位置データと、標的像を探査した時の送信強度データと、送受波部200の受波有効面積データとが入力される。反射断面積算出部112は、標的像のボリュームデータから算出した強度分布の総和と、標的相対位置データにおける送受波部200から標的600までの距離である標的相対距離と、送信強度データと、受波有効面積データとに基づいて、後述する式[数3]に基づいて、標的600の反射断面積σpを算出する。
【0040】
図4には、探信波の単位面積当たりの強度を説明する図が示されている。送受波部200が探信波512を送信すると、その探信波512の照射面513が形成される。ここで、送受波部200から照射面513までの標的相対距離514を、Rとする。また、照射面513の面積を、Sとする。また、送受波部200における送信強度を、Pとする。また、探信波512の立体角をΩとする。そして、照射面513における探信波512の単位面積あたりの強度Piは、式[数1]で表される。
【0041】
【数1】

【0042】
したがって、探信波512を受けた標的600からの反射波を受信する送受波部200における受信強度Prpは、式[数2]で表される。ここで、送受波部200と標的600との標的相対距離を、Rpとする。また、標的600の反射断面積をσpとする。また、送受波部200の受信有効面積をAとする。また、円周率をπとする。
【0043】
【数2】

【0044】
また、反射断面積σpは、式[数3]で表される。そして、反射断面積算出部112は、式[数3]を用いることで標的600の反射断面積σpを算出し、この反射断面積(σp)データを、制御部102に出力する。
【0045】
【数3】

【0046】
制御部102には、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、標的像指定データと、設定反射断面積データとが、操作部101から入力される。また、制御部102には、今回探査した標的毎の、反射断面積データが、反射断面積算出部112から入力される。また、制御部102には、今回探査した標的毎の、探査方向データと、探査距離データとが、探査パラメータ算出部107から入力される。また、制御部102には、今回探査した標的毎の、予測相対位置データと、予測標的像データとが、標的位置予測部108から入力される。また、制御部102には、送受波部200の実際の駆動状態を示す駆動データが、送受波部200から入力される。
【0047】
ここで、駆動データには、探信波の立体角データと、探信波の送信方向データと、探信波の送信強度データとが含まれる。制御部102は、これらの駆動データを、表示変換部105に出力する。これにより、ソナー装置100は、送受波部200の実際の駆動状態を、表示変換部105の表示によりユーザに通知することができる。
【0048】
また、制御部102は、標的像を探査した際に取得した送信強度データと、送受波部200の受波有効面積データとを、反射断面積算出部112に出力する。ここで、受波有効面積データとは、送受波部200の構造により定まる固有の値であり、探信波を受波する有効面積を示すデータである。例えば、受波有効面積データは、ユーザの操作に基づいて、操作部101を介して手動設定される。また、受波有効面積データは、送受波部200の駆動に関わるデータに基づいて、制御部102等により自動設定されてもよい。
【0049】
制御部102には、標的追尾指示と標的量算出指示が、操作部101から入力される。標的追尾指示が入力されていない場合、制御部102は、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとを、送受波制御部103に出力する。また、制御部102は、標的像指定データを抽出領域設定部109に出力する。
【0050】
一方、標的追尾指示が入力され且つ標的像指定データの設定数が1つである場合、制御部102は、指定された標的像の探査結果に基づく探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとを、送受波制御部103に出力して、探査を開始する。また、標的像指定データの設定数が複数である場合、制御部102は、指定標的像を探査する順序(探査順序)を定めて、その順に指定標的像を探査する(1巡目)。
【0051】
そして、探査の2巡目以降、制御部102は、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとの代わりに、同じ標的における前回の探査結果に基づく、探査方向データと、探査距離データと、反射断面積データとを、送受波制御部103に出力する。また、制御部102は、標的追尾指示を、送受波制御部103に出力する。また、制御部102は、標的像指定データの代わりに、同じ標的における前回の探査結果に基づく、予測相対位置データと、予測標的像データとを抽出領域設定部109に出力する。
【0052】
制御部102は、これらの動作を繰り返す。また、制御部102は、1巡目及び2巡目以降のいずれの場合も、標的像指定データの設定数に基づく標的探査間隔データを、標的位置予測部108に出力する。そして、標的量算出指示が入力された場合、制御部102は、標的量算出指示と標的量平均数とを、標的量算出部106に出力する。
【0053】
送受波制御部103には、標的追尾指示が、制御部102から入力される。また、標的追尾指示が入力されていない場合、及び、標的追尾指示が入力され且つ標的追尾の一巡目の探査の場合、送受波制御部103には、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとが入力される。送受波制御部103は、探査方向指定データと、探査立体角指定データとに基づき、送信方向データと、送信立体角データとを定め、探査距離指定データに基づく間隔で、これらを送受波部200に出力する。
【0054】
そして、標的追尾指示が入力され且つ標的追尾の2巡目以降の探査の場合、送受波制御部103には、探査方向データと、探査距離データと、反射断面積データとが入力される。送受波制御部103は、探査距離データと反射断面積データとに基づいて算出した送受波部200の送信立体角と、探査方向データとを、探査距離データに基づく間隔で、送受波部200に出力する。
【0055】
送受波制御部103は、探査距離データと反射断面積データに基づいて、探信波502(図2を参照)の送波立体角データを算出する。ここでは、探査距離504をRとする。また、受信強度の最小感度を示す閾値をPrminとする。また、探信波502の送波立体角Ωは、式[数3]により算出された反射断面積(σp)に基づいて、式[数4]を満たすように定められる。
【0056】
【数4】

【0057】
ここで、閾値Prminは、例えば、送受波部200の構造等によって定まる。仮に、式[数4]が満たされない場合、反射波の強度が弱すぎるため、標的600は、検出されない。したがって、式[数4]が成り立つようにすれば、反射波の強度は充分となり、ソナー装置100は、標的600を検出することができる。
【0058】
式[数4]が成り立つように送波立体角Ωが定められることで、送受波部200は、最大送信立体角で探査する場合の探査距離を超えた探査距離にある標的600に対して、検出に十分な反射強度を得る。そして、検出に十分な反射強度が得られるので、送受波制御部103は、その探査距離を長くすることができる。
【0059】
また、この場合、送受波制御部103は、送受波部200の送信立体角を必要以上に絞らないことにより、標的600を含むより広い範囲を捉えるので、標的600の全体を良く捉えることが可能となる。そして、送受波制御部103は、探査結果に基づいて算出した標的600の反射断面積を、次回の探査パラメータの算出に使用して標的600を追尾することにより、探査パラメータをより精度良く最適化する。
【0060】
さらに、送受波制御部103は、追尾の精度をより向上させて、同じ標的600について複数の標的量を得ることで、受波の際に生じる波面合成に伴う大きな揺らぎなどを緩和し、標的600を捉える精度を向上させることができる。
【0061】
抽出領域設定部109には、標的像指定データと、予測相対位置データとが入力される。抽出領域設定部109は、ユーザが指定した標的像指定データに基づいて、抽出領域データを標的像抽出部110に出力する。また、抽出領域設定部109は、予測相対位置データに基づいて標的600を追尾するように、抽出領域データを更新して出力する。
【0062】
表示変換部105には、ボリュームデータと、立体角データと、送信方向データと、送信強度データと、平均標的量データと、標的の時間経過に応じた複数の絶対位置データと、標的像のボリュームデータとが入力される。表示変換部105は、これらのデータを、例えば、図2に示すような画像データに変換して、表示部300に出力する。表示部300は、例えば、液晶表示パネルであって、表示変換部105から画像データが入力される。そして、表示部300は、例えば、図2に示すような画像を表示する。
【0063】
次に、本実施の一形態によるソナー装置の動作について説明する。
図3には、本実施の一形態によるソナー装置の動作が、フローチャートで示されている。制御部102は、このフローチャートに示された処理を、所定の周期で実行する。制御部102には、データ及びユーザの指示が、操作部101を介して入力される(ステップS1)。
【0064】
操作部101から終了指示が入力されている場合(ステップS2−YES)、制御部102は、処理を終了する(ステップS2)。一方、操作部101から終了指示が入力されていない場合(ステップS2−NO)、制御部102は、操作部101からの入力に標的追尾指示があるか否かを、判定する(ステップS3)。
【0065】
操作部101から標的追尾指示が入力されていない場合(ステップS3−NO)、制御部102は、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとを、送受波制御部103に出力する。これにより、送受波制御部103は、探査方向指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとに基づき、送信方向データと、送信立体角データとを定める。さらに、送受波制御部103は、探査距離指定データに基づく間隔で、これらを送受波部200に出力し、探信波を送信させる(ステップS11)。
【0066】
一方、操作部101から標的追尾指示が入力されている場合(ステップS3−YES)、制御部102は、標的指定データが1つであって、かつ追尾開始後初めての探査か否か、を判定する。さらに、制御部102は、追尾開始後の1巡目の探査か否か、を判定する(ステップS4)。
【0067】
標的指定データが1つであって、かつ追尾開始後初めての探査である場合、又は標的指定データが1つ以上であって、かつ追尾開始後の1巡目の探査である場合(ステップS4−YES)、制御部102は、標的追尾指示と共に操作部101から入力された標的像指定データを、抽出領域設定部109に出力する。これにより、抽出領域設定部109は、標的像指定データに基づいて抽出領域を決定し、抽出領域データを標的像抽出部110に出力する。そして、標的像抽出部110は、抽出領域データに基づき、追尾対象とする標的像を抽出する(ステップS5)。
【0068】
制御部102は、探査方向指定データと、探査距離指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとを、送受波制御部103に出力する。これにより、送受波制御部103は、探査方向指定データと、探査立体角指定データと、設定反射断面積データとに基づき、送信方向データと、送信立体角データとを定める。そして、送受波制御部103は、探査距離指定データに基づく間隔で、これらを送受波部200に出力し、探信波を送信させる(ステップS6)。さらに、送受波制御部103は、ステップS10を実行する。
【0069】
一方、追尾開始後の1巡目の探査でない場合等(ステップS4−NO)、制御部102は、前回の標的探査間隔データを、標的位置予測部108に出力する。これにより、標的位置予測部108は、標的像ボリュームデータと、絶対位置データと、標的探査間隔データとに基づいて、予測標的像データと、予測相対位置データとを予測して、制御部102と、探査パラメータ算出部107とに出力する。また、探査パラメータ算出部107は、予測標的像データと、予測相対位置データとに基づき、探査方向データと探査距離データを出力する(ステップS7)。
【0070】
そして、制御部102は、標的位置予測部108から入力された、予測標的像データと、予測相対位置データとを、抽出領域設定部109に出力する。これにより、抽出領域設定部109は、予測標的像データと、予測相対位置データとに基づいて抽出領域を決定し、抽出領域データを標的像抽出部110に出力する。さらに、標的像抽出部110は、抽出領域データに基づき、追尾対象とする標的像を抽出する(ステップS8)。
【0071】
また、制御部102は、標的追尾指示データと、探査方向データと、探査距離データとを、送受波制御部103に出力する。さらに、制御部102は、設定反射断面積データの代わりとなる反射断面積データを、送受波制御部103に出力する。これにより、送受波制御部103は、探査方向データと、探査距離指定データと、反射断面積データとに基づき、送信方向データと、送信立体角データとを定める。そして、送受波制御部103は、探査距離データに基づく間隔で、これらを送受波部200に出力し、探信波を送信させる(ステップS9)。
【0072】
さらに、制御部102は、送信強度データと、受波有効面積データとを、反射断面積算出部112に出力する。これにより、反射断面積算出部112は、標的像抽出部110から入力された標的像データ及び標的相対位置データに基づいて、反射断面積を算出する(ステップS10)。そして、制御部102は、ステップS12を実行する。
【0073】
また、制御部102は、操作部101から標的量算出指示が入力されているか否か、を判定する(ステップS12)。標的量算出指示が入力されていない場合(ステップS12−NO)、制御部102は、ステップS1に戻る。一方、標的量算出指示が入力されている場合(ステップS12−YES)、制御部102は、標的像データと、標的量平均数データとを、標的量算出部106に出力する。これにより、標的量算出部106は、標的像抽出部110から入力された標的像データ及び標的相対位置データに基づいて、標的量を算出する(ステップS13)。そして、制御部102は、ステップS1に戻る。
【0074】
以上のように、ソナー装置100(3次元探査装置)は、設定された探査距離と、送受波部が検出可能な反射波の最小値と、によって定まる値を超えないように、探信波の立体角を制御する。これにより、ソナー装置100(3次元探査装置)は、スキャニングソナーと同等の送信強度で探信波を送信しても、遠方の標的の位置及び量(魚量等)を、精度よく算出することができる。
【0075】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0076】
例えば、探信波は、前述の音波のほか、電磁波であってもよい。
【0077】
また、例えば、ソナー装置100(3次元探査装置)は、探査パラメータ算出部107において、予測標的像を全て含む探査立体角を算出してもよい。そして、ソナー装置100(3次元探査装置)は、送受波制御部103において算出された探査距離及び探査立体角によって定まる値以上となるように、送受波部200が標的600に送信する次回の探信波の送信強度を定めても良い。
【0078】
ここで、式[数4]よりPを導き、右辺の探査立体角Ωを標的の探査結果より求めた探査立体角(Ω)に置き換えると、式[数5]となる。したがって、送受波部200における送信強度として、式[数5]で算出されるPが最大送信強度より小さい範囲でPを選択すれば、この範囲において、ソナー装置100(3次元探査装置)は、送信電力を節約できる。
【0079】
【数5】

【0080】
また、図3に示す各ステップを実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、実行処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
【0081】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0082】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0083】
100…標的像追尾装置 101…操作部 102…制御部 103…送受波制御部 104…ボリュームデータ変換部 105…表示変換部 106…標的量算出部 107…探査パラメータ算出部 108…標的位置予測部 109…抽出領域設定部 110…標的像抽出部 111…標的位置算出部 112…反射断面積算出部 200…送受波部 300…表示部 400…自位置検出部 500…最大立体角で送信された探信波により形成される錐体の錐面 501…最大強度で送信された探信波の照射面の縁の探査距離に応じた軌跡 502…探信波 503…送受波部200から探査距離504だけ離れた探信波502の照射面 504…探査距離 512…探信波 513…送受波部200から標的相対距離514だけ離れた探信波512の照射面 514…標的相対距離 600…標的

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探信波を送信して当該探信波の反射波を受信する送受波部から当該反射波の強度に応じた信号を取得し、前記探信波により探査される探査範囲における強度分布を含むボリュームデータを生成する3次元探査装置において、
設定された探査距離と、前記送受波部が検出可能な前記反射波の最小値と、によって定まる値を超えないように、前記送受波部が送信する前記探信波の立体角を制御する送受波制御部を備えることを特徴とする3次元探査装置。
【請求項2】
前記強度分布に基づいて、前記ボリュームデータから標的像を抽出し、当該標的像の前記送受波部に対する位置である標的相対位置を算出する標的像抽出部と、
前記標的像と、前記標的相対位置と、前記標的像を探査した際の送信強度及び送信立体角と、前記送受波部の受波有効面積と、に基づいて、前記標的の反射断面積を算出する反射断面積算出部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の3次元探査装置。
【請求項3】
前記送受波部の絶対位置データを取得し、該絶対位置データと、前記算出された標的相対位置と、に基づいて、前記標的の絶対位置を算出する標的位置算出部と、
前記抽出された標的像と、前記算出された絶対位置と、に基づいて、前記標的の次回の探査における前記送受波部に対する予測相対位置及び予測標的像を予測する標的位置予測部と、
前記算出された予測相対位置及び予測標的像に基づいて、前記予測相対位置、前記予測標的像の前記強度分布の中心、前記強度分布の重心、又は前記予測標的像の強度分布が最も強い領域に向けて、前記探信波を送信する探査方向を算出する探査パラメータ算出部と、
を備え、
前記送受波制御部において、前記算出された探査方向に基づき、前記送受波部が前記標的に送信する次回の前記探信波の送信方向を制御して標的を追尾することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の3次元探査装置。
【請求項4】
指定された複数の標的を所定順に探査し、2巡目以降、同じ標的の前回の探査結果に基づいて、探査パラメータを設定して探査することを繰り返して、複数の標的を追尾する制御部
を備えることを特徴とする請求項3に記載の3次元探査装置。
【請求項5】
前記標的像の前記強度分布の総和に基づく標的量を算出し、さらに同じ標的を複数探査して複数の前記標的量を得て、当該総和に基づく標的量と複数の前記標的量との変動を緩和した量を算出する標的量算出部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の3次元探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−203123(P2011−203123A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70852(P2010−70852)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】