説明

3次元映像表示装置

【課題】両眼視差を与える特殊な眼鏡等を用いずに、表示像がスクリーン等のない空中に投影され、水平・垂直方向ともに視差を与えることができ、周囲360度から観察可能で、動画表示を行うことができる3次元画像表示装置を提供する。
【解決手段】3次元画像を表示する3次元画像表示手段と、ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変えるものであって、素子面が光の入射方向に対して傾斜した状態で回転可能な走査素子と、上記走査素子から入射された光を結像させる凹面鏡とを備える3次元映像表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンや表示パネルが存在しない空中に3次元像を形成し、眼鏡等の装着物を必要とせず、周囲360度から多人数で観察可能な立体表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、3次元画像表示方法は数多く存在するが、特殊なメガネを用いずに自然な裸眼立体表示ができる手法として、インテグラルフォトグラフィ方式、体積走査法、ホログラフィ等がある。
【0003】
インテグラルフォトグラフィ方式とは、被写体から出る光線を取得・再生することにより立体映像をディスプレイ上で映し出す光線再生型立体ディスプレイで、同時に複数の観察者に立体画像を提示することができたり、観察者が顔を横に向けても立体視ができたりする。
【0004】
体積走査法とは、物体の各位置における2次元切断面の画像を結像系の移動に同期させて高速で切り換えて表示し、目の残像効果を利用し空間に像を再生する方法である。この方法では立体視の要因を全て満たした3次元画像が再現できる。
【0005】
ホログラフィは、光波の干渉現象を巧みに利用してある面で光波面をホログラムとして記録し、ホログラムに再生光を照射することで回折により記録した波面を再生する技術である。十分な解像度を持つホログラムを作成することができると、実物からの波面を忠実に再現することができる特徴を持つ。
【0006】
また、下記特許文献1には、凹面鏡の反射像により、ディスプレイによる等映像を、空間に映し出されて宙に浮いた映像として見ることのできる映像装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録306300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしどの方式においても、何もない自由空間に立体像を表示し、あたかも物体が存在するかのように360度全周にわたっての観察ができるディスプレイは未だ存在しない。360度の視野角をもつ表示手法がいくつか開発されているが、その像は回転するスクリーン上やホログラフィの円柱形の記録乾板の内側にできる。また、空間上に表示できる手法も開発されているが、表示像を観察可能な視野が限られる。空間表示と360度の視野といった2つの要素を同時に満たすものに空中プラズマ方式があるが、オクルージョンの表現、カラー化、安全性等に問題がある。なお、特許文献1の映像装置は、2次元画像を空間に宙に浮いた映像として映し出すものであって、立体像を何もない自由空間に表示するものではない。
【0009】
そこで本方式では、インテグラルフォトグラフィ方式等によるフルパララクス3次元画像、凹面鏡による結像、ミラースキャナ等の走査素子の回転機構を利用することで、空間に360度の視野角をもつ3次元像を表示するディスプレイの一方式を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の3次元映像表示装置は、3次元画像を表示する3次元画像表示手段と、上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変えるものであって、素子面が光の入射方向に対して傾斜した状態で回転可能な走査素子と、上記走査素子から入射された光を結像させる凹面鏡とを備える。この走査素子は、凹面鏡の中心付近に配置される。
【0011】
上記3次元画像表示手段として、2次元画像を表示する2次元ディスプレイと、上記2次元ディスプレイから発せられる光線の方向を制御する光路制御手段とを用いてもよい。上記光路制御手段には、例えばフライアイレンズやピンホール等を用いることができる。また、上記走査素子には、上記ディスプレイからの入射光を上記凹面鏡に反射させるミラースキャナや、上記ディスプレイからの入射光を屈折させるプリズム等を用いることができる。さらに、本発明の3次元映像表示装置は、上記3次元画像表示手段からの光を結像させる結像手段を備え、上記走査素子が、上記結像手段からの入射光を屈曲させるようにしても良い。
【0012】
以上の構成により、3次元画像表示手段から発せられる光線は走査素子付近で結像し、この結像した像が凹面鏡で反射することによって再び凹面鏡の中心付近に実像を作り出し、観察者からは3次元空間上に像が浮かび上がっているかのように見ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の3次元画像表示装置によれば、両眼視差を与える特殊な眼鏡等を用いずに、表示像がスクリーン等のない空中に投影され、水平・垂直方向ともに視差を与えることができ、周囲360度から観察可能で、動画表示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る3次元画像表示装置の概略構成図
【図2】インテグラルフォトグラフィ方式の撮影と表示についての説明図
【図3】インテグラルフォトグラフィの原理について説明するための図
【図4】第1の実施形態における凸レンズの配置を説明する図
【図5】第2の実施形態に係る3次元画像表示装置の概略構成図
【図6】第2の実施形態におけるプリズムシートの概略構成図
【図7】第3の実施形態に係る3次元画像表示装置の概略構成図
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る3次元画像表示装置の概略構成図である。3次元画像表示装置1は、インテグラルイメージング光学系A、リレー光学系B、全周囲走査光学系Cに分類される。
【0016】
まず、インテグラルイメージング光学系Aについて説明する。インテグラルイメージング光学系Aは、3次元画像を表示する3次元画像表示手段であり、本実施形態では、2次元画像を表示する2次元ディスプレイと、上記2次元ディスプレイから発せられる光線の方向を制御する光路制御機構を有するインテグラルフォトグラフィ方式による3次元画像を用いている。なお、3次元画像表示手段は、3次元画像を表示することができれば特に限定されない。
【0017】
ここで、インテグラルフォトグラフィ方式(Integral
Photography方式、以下IP方式という)の基本原理について説明する。図2は、IP方式の撮影と表示についての説明図である。
【0018】
本実施形態で用いるIP方式は、フライアイレンズ等のレンズアレイの焦点面に写真乾板を置き、この乾板に種々の異なる方向から眺めた無数の微小等立像(要素画像)を撮影、記録する。この乾板と同寸法に焼き付けた陽画を元の乾板の位置に正確に置き複眼レンズ板を通してみると撮影時と同じ位置に実像が再現されるというものである(図2参照)。
【0019】
この像は奥行きが反転して見えるという欠点を持つが、これを克服するため撮影した画像をもう一度複眼レンズで撮影する。レンチキュラ方式とは違い水平・垂直ともに視差をもった像を表示することができる。両眼視線の交点(輻輳点)と画像ピント調節点(表示面)が、ほぼ一致するため疲労感も少ない。
【0020】
表示デバイスに要求される解像度や計算処理量は比較的少ない点、撮影は行わずに光線追跡とコンピュータグラフィックスにより表示画像を作成することも可能である点等の理由から、本実施形態ではIP方式を採用しているが、IP方式以外にも、例えば体積走査法、ホログラフィ等の公知の3次元画像表示技術を用いてもよい。
【0021】
体積走査法は、物体の各位置における2次元切断面の画像を結像系の移動に同期させて高速で切り換えて表示し、目の残像効果を利用し空間に像を再生する方法である。この方法では立体視の要因を全て満たした3次元画像が再現できる。
【0022】
ホログラフィは、光波の干渉現象を巧みに利用してある面で光波面をホログラムとして記録し、ホログラムに再生光を照射することで回折により記録した波面を再生する技術である。十分な解像度を持つホログラムを作成することができると、実物からの波面を忠実に再現することができる。
【0023】
本実施形態では、IP方式を採用しているため、2次元ディスプレイ2とレンズアレイ3で構成されており、2次元ディスプレイ2からの光をレンズアレイ3に通過させて、観察方向により異なる画像を提示する。
【0024】
ここで、2次元ディスプレイ2とは、画面に映像を表示する一般的な意味でのディスプレイ装置だけでなく、プロジェクタ等で投射された映像を映すスクリーン等の映像を表示可能なもの全般を含み、表示面は平面だけでなく曲面であってもよい。液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等種々のものを用いることができる。
【0025】
本実施形態の2次元ディスプレイ2は、光源から光を照射してその反射光を利用することで、表示させる物体の切断面画像を作成する。すでに実用化されているディスプレイを用いればよく、例えば高速に画像を切り替えることが可能なTexas Instruments社製の「DMD Discover1100 ControllerBoard」を使用することができる。
【0026】
レンズアレイ3は、複数の凸レンズ3aが同一面上に配置されたフライアイレンズからなり、各凸レンズ3aを通過する光を結像させる。図3を用いてインテグラルフォトグラフィの原理について説明する。観察者が実際の物体を観察できるのは、物体に光が当たりその反射光が観察者の眼に届くためである。IP方式では、この反射光と同じ光線を再現する。
【0027】
凸レンズ3aの焦点面の1点(点光源)から出る光は、点光源とレンズ3aの中心を通る直線方向にレンズと同等の径で平行光として進む(図3(a))。この原理を利用し3次元空間上のある1点にいくつかの平行光線を集めれば、平行光線の進む方向から光を観察すると、観察者にとってはその1点から光が発せられているかのように見える(図3(b))。この点をいくつも並べることで面を作成し、空間上に3次元画像を投影することができる。
【0028】
投影された3次元画像Oが画面からどれくらい飛び出して表示されるか、どの程度の視野角で観察できるかは、観察者の眼に入る光線の数と実現できる光線の角度に依存する。この光線の数と角度は、レンズアレイ3の1つの凸レンズ3aの裏にある画素数、レンズ径、焦点距離によって決定される。
【0029】
なお、上記2次元ディスプレイから発せられる光線の方向を制御する光路制御手段として、上記フライアイレンズに代えてピンホールアレイやその他回折素子を用いることもできる。
【0030】
次に、リレー光学系Bについて説明する。リレー光学系Bは2枚の平凸レンズ4a、4bで構成されており、インテグラルイメージング光学系からの光を全周囲走査光学系に導くための結像光学系である。
【0031】
インテグラルフォトグラフィの原理に基づき表示された3次元像の各光線は、2枚の平凸レンズ4a、4bを通る。ここで2枚の平凸レンズ4a、4bを組み込んだ理由を説明する。
【0032】
図4は、本実施形態における凸レンズの配置を説明する図である。インテグラルフォトグラフィ方式による3次元像の解像度とサイズを大きくするためには、3次元像の形成位置をインテグラルイメージング光学系に近くするほうが有利である。すると3次元像と後述する回転ミラー5との距離が長くなる。
【0033】
2次元ディスプレイ2とフライアイレンズ3自体を回転ミラー5近傍に設置することは、最終的に3次元像が再生される位置にかぶさるためできない。結像位置を伸ばすだけなら凸レンズ1枚でも可能であるが、像からの光線はフライアイレンズから出る光線を正確に再現することができない。この様子を図4(a)に示す。像から発せされる光線は外向きに広がる光線となるため、像の両端を同時に観察することができなくなる。
【0034】
また、図4(b)に示されるように、2枚の平凸レンズを焦点距離の2倍離して挿入するだけでは光線を再現できない。図4(c)のようにデルタfを調整することで正確な光線の向きを再現できる。
【0035】
以上のようにして、2次元ディスプレイ2の各画素から発せられる光線は、フライアイレンズ3と2枚の平凸レンズ4a、4bを通過する。
【0036】
次に、全周囲走査光学系Cについて説明する。全周囲走査光学系Cは、回転ミラー5と凹面鏡6により構成され、ミラー5を回転させて凹面鏡6への光の入射位置を変えることにより,異なる方向から観察できる立体映像を形成する。
【0037】
回転ミラー5は、上記平凸レンズ4a、4bを通過した光を反射するもので、サイズ、材質等については特に限定されない。回転ミラー5は、平凸レンズ4a、4bから入射した光の軸方向に対して傾斜した状態で設けられており、その光軸を中心に回転可能となっている。
【0038】
回転ミラー5を高速に回転させ、その角度に応じて見える画像を表示することで全周囲立体映像を形成することができる。すなわち、回転ミラー5を水平方向に人の眼の残像閾値である18Hz以上の速さで回転させ、2次元ディスプレイ2に回転ミラー5の向きに同期した画像を表示することで、空間上に360度の視野角と滑らかな視差を持つ3次元像Oを再現することができる。
【0039】
以上のように、2枚の平凸レンズ4a、4bにより回転ミラー5近傍に結像した3次元像は、凹面鏡6により再び凹面鏡6の中心付近の空間に結像し、これを3次元画像Oとして観察することができる。
【0040】
次に、第2の実施形態に係る3次元映像表示装置51について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図5は、本実施形態に係る3次元画像表示装置51の概略構成図である。本実施形態と第1の実施形態が異なる点は走査素子としてプリズムシート55が用いられている点であり、2次元ディスプレイ52、フライアイレンズ53、凸レンズ54a、54b、凹面鏡56は第1の実施形態と同様の構成となっている。図5のプリズムシート55は、素子面が入射光の入射方向に対して直交した状態であるが、傾斜した状態であっても構わない。
【0041】
図6は、本実施形態におけるプリズムシート55を斜め上から見た概念図である。プリズムシート55は、スリット状の細長いプリズム55Aを断面鋸刃状に並べたものであり、素子面から入射した光を別方向に屈折させて出射させる。従って、素子面に垂直な軸を中心に面内方向で回転させることにより、入射光に対するプリズム角度が変化していき、光線走査ができる。
【0042】
図6中の下側の平らな部分に光を入射させ、上側の鋸刃状の部分から出射させる。このように、走査部分にプリズムシート55を用いることで反射光学系よりも光学系の構成が簡易になり、システムを小型化することができる。なお、本実施形態のプリズムシート55は、図6のように、プリズムシートの片方の面(すなわち、入射光が入射する面と反対側の面)のみに対して、断面が鋸刃状になるように形成されているが、光線の集束状態の向上などを目的として、その反対側の面(すなわち、入射光が入射する面)も断面が鋸刃状になるように形成してもよい。
【0043】
次に、第3の実施形態に係る3次元映像表示装置について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図7は、本実施形態に係る3次元画像表示装置71の概略構成図である。本実施形態の3次元映像表示装置71は、第1の実施形態と同様、2次元ディスプレイ72と、レンズアレイ73と、凸レンズ74A、74Bと、回転ミラー75と、凹面鏡76とで構成されている。
【0044】
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、構成要素の配置である。すなわち、第1の実施形態のインテグラルイメージング光学系(2次元ディスプレイ2、レンズアレイ3)は、凹面鏡6の正面側(すなわち、凹面鏡が結像する焦点側)に配設しているが、本実施形態のインテグラルイメージング光学系(2次元ディスプレイ72、レンズアレイ73)は、凹面鏡76の焦点側の反対側である背面側に配設している。
【0045】
これにより、インテグラルイメージング光学系からの光は凹面鏡76の背面側から回転ミラー75へと入射し、凹面鏡76の正面側に3次元画像Oが結像される。こうすることで、インテグラルイメージング光学系(2次元ディスプレイ72、レンズアレイ73)が、最終的に3次元像Oが再生される位置にかぶさることはない。また、凹面鏡76の焦点側から見る観察者が、インテグラルイメージング光学系からの光路(2次元ディスプレイ72から回転ミラー75への光路)を遮断してしまうということもない。
【符号の説明】
【0046】
1 3次元画像表示装置
2 2次元ディスプレイ
3 レンズアレイ
4a、4b 平凸レンズ
5 回転ミラー
6 凹面鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元画像を表示する3次元画像表示手段と、
上記3次元画像表示手段からの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、回転可能な走査素子と、
上記走査素子から入射された光を結像させる凹面鏡と、
を備える3次元映像表示装置。
【請求項2】
上記3次元画像表示手段が、
2次元画像を表示する2次元ディスプレイと、
上記2次元ディスプレイから発せられる光線の方向を制御する光路制御手段と、
を備える請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項3】
上記走査素子が、上記3次元画像表示手段からの入射光を上記凹面鏡に反射させる、素子面が入射光の入射方向に対して傾斜した状態で回転可能なミラースキャナである
請求項1又は2記載の3次元映像表示装置。
【請求項4】
上記走査素子が、上記3次元画像表示手段からの入射光を屈折させる、素子面が入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で回転可能なプリズムである
請求項1又は2記載の3次元映像表示装置。
【請求項5】
さらに、上記3次元画像表示手段からの光を結像させる結像手段を備え、
上記走査素子が、上記結像手段からの入射光を屈曲させる
請求項1から4の何れかに記載の3次元映像表示装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−8298(P2012−8298A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143416(P2010−143416)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】