説明

3級アミンの製造方法

【課題】水素含有ガスの再利用を図ることにより、反応に用いる水素ガスの使用量を抑制することができる3級アミンの製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程(1)及び(2)を含む3級アミンの製造方法である。
工程(1):炭素数1〜36のアルコールと下記一般式(I)で表される原料アミンとを第1反応槽に導入し、触媒及び水素の存在下で反応させ、反応生成水及び水素含有ガスを反応系外へ排出しつつ反応を継続する工程。
12NH (I)
(式中、R1及びR2は、水素原子、又は炭素数1〜36の炭化水素基を示す。)
工程(2):第1反応槽より排出された水素含有ガスを第2反応槽に導入し、水素含有ガスに含まれる一酸化炭素の量を低減させた後、水素含有ガスの一部又は全部を第1反応槽へ導入する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3級アミンの製造方法に関し、詳しくは副生する水素含有ガスを再利用して水素の使用量を抑制した3級アミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3級アミンは家庭用及び工業用分野において重要な中間材料であり、繊維柔軟仕上げ剤、シャンプー、リンス、帯電防止剤、洗浄剤、分散剤、繊維助剤等の様々な用途に用いられている。
3級アミンの製造方法は種々知られているが、その中の1つに水素及び触媒の存在下、アルコールにアミンを接触させる方法がある。この方法における触媒としては、銅系触媒(特許文献1参照)、ニッケル系触媒(特許文献2参照)等の遷移金属触媒や、ルテニウム系触媒(特許文献3参照)等の貴金属触媒が知られている。
【0003】
前記触媒を用いる方法においては、次の(a)〜(c)の3工程により3級アミンが製造される。
(a)原料アルコールの脱水素化反応によりアルデヒドが生成する工程
(b)生成したアルデヒドにアミンが求核付加し、続く脱水反応によりエナミンが生成する工程
(c)生成したエナミンの水素化反応により、アミンが生成する工程
この製造方法においては、水素化反応の基質として、また、反応時に生成する水を反応系から追い出すためのキャリアガスとして、さらには、反応性、選択性の向上、生成物の外観や、誘導体化する際の着色性の向上を目的として、大量の水素ガスを用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−233号公報
【特許文献2】特開昭50−30804号公報
【特許文献3】特開平8−243392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記(a)〜(c)の工程を経る3級アミンの製造方法においては大量の水素ガスが必要であり、同時に大量の水素含有ガスが排出されるため、環境保護の観点から水素含有ガスの再利用が望まれるところであるが、これまで排出される水素ガスの再利用は行われていなかった。そこで、水素含有ガスに含まれる水素を再度反応に利用しようと試みたところ、目的とする3級アミンの収率が低下してしまうことが判明した。
本発明は、水素含有ガスの再利用を図ることにより、反応に用いる水素ガスの使用量を抑制することができる3級アミンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記製造方法により排出された水素含有ガスについて分析を行ったところ、この水素含有ガス中に前記(a)工程で生成したアルデヒド由来の一酸化炭素が存在していること、及びこの一酸化炭素が触媒毒となるため、これを除去することにより水素含有ガスの再利用が可能となることを見出した。
すなわち、本発明は、下記工程(1)及び(2)を含む3級アミンの製造方法を提供する。
工程(1):炭素数1〜36のアルコールと下記一般式(I)で表される原料アミンとを第1反応槽に導入し、触媒及び水素の存在下で反応させ、反応生成水及び水素含有ガスを反応系外へ排出しつつ反応を継続する工程。
12NH (I)
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜36の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す。R1及びR2は、互いに結合して飽和炭化水素又は不飽和炭化水素の環を形成していてもよい。)
工程(2):第1反応槽より排出された水素含有ガスを第2反応槽に導入し、水素含有ガスに含まれる一酸化炭素の量を低減させた後、水素含有ガスの一部又は全部を第1反応槽へ導入する工程。
【発明の効果】
【0007】
水素含有ガスの再利用を図ることにより、反応に用いる水素ガスの使用量を抑制することができる3級アミンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の3級アミンの製造方法は、特定のアルコールと前記一般式(I)で表される原料アミンとを第1反応槽に導入し、触媒及び水素の存在下で反応させ、反応生成水及び水素含有ガスを反応系外へ排出しつつ反応を継続する工程(1)(以下、「アミノ化工程」ともいう)と、第1反応槽より排出された水素含有ガスを第2反応槽に導入し、水素含有ガスに含まれる一酸化炭素の量を低減させた後、水素含有ガスの一部又は全部を第1反応槽へ導入する工程(2)(以下、「一酸化炭素低減工程」ともいう)とを備えるものである。
以下、本発明に用いられる各成分、各工程、及び実施するための製造装置等について説明する。
【0009】
[工程(1):アミノ化工程]
本発明の工程(1):アミノ化工程では、下記反応式(II)に示すように反応が進行し、目的とする3級アミンが製造される。
12NH + R3OH → R12NR3 (II)
式(II)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜36の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す。R1及びR2は、互いに結合して飽和炭化水素又は不飽和炭化水素の環を形成していてもよい。R3は、炭素数1〜36の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す。
【0010】
このアミノ化工程においては、金属触媒の存在下で、アルコール(R3OH)を脱水素化してアルデヒドを生成させた後、このアルデヒドと原料アミンとを接触させることによりエナミンを生成させ、次いで、金属触媒の存在下でこのエナミンに水素を付加することにより3級アミンを生成させる。
この反応において、アルコールが脱水素化され、生じたアルデヒドが副反応として脱カルボニル化されることにより、一酸化炭素が生成する。一酸化炭素は金属触媒の触媒毒となるため、次の工程(2):一酸化炭素低減工程により、廃水素中の一酸化炭素を低減する。
アミノ化工程に用いることができるアルコール及び原料アミンは以下のとおりである。
【0011】
<アルコール>
本発明で用いられるアルコールR3OHは、炭素数1〜36の飽和又は不飽和の炭化水素基を有するアルコールである。
炭素数1〜36のアルコールとしては、好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数6〜24、更に好ましくは炭素数10〜22、特に好ましくは炭素数12〜16の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を有するアルコールが挙げられる。また、炭化水素基は、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基等の官能基を1つ以上含んでいてもよい。
アルコールの好適例としては、炭素数1〜30の飽和炭化水素基を有する1価アルコール、炭素数2〜30の飽和炭化水素基を有する2価アルコール、炭素数6〜22の飽和環状アルコール、炭素数6〜22の不飽和環状アルコール等が挙げられる。
【0012】
炭素数1〜30の飽和炭化水素基を有する1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、各種ブチルアルコール、各種ペンチルアルコール、各種ヘキシルアルコール、各種へプチルアルコール、各種オクチルアルコール、各種ノニルアルコール、各種デシルアルコール、各種ウンデシルアルコール、各種ドデシルアルコール、各種トリデシルアルコール、各種テトラデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、3,5,5−トリメチルヘキシルアルコール、3,7−ジメチルオクチルアルコール、2−プロピルへプチルアルコール等が挙げられる。ここで、「各種」とは、n−、tert−、iso−を含む各種異性体を意味する。
炭素数2〜30の不飽和炭化水素基を有するアルコールとしては、オレイルアルコール、ゲラニオール等が挙げられる。
【0013】
炭素数2〜30の飽和炭化水素基を有する2価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ビス[4−ヒドロキシシクロヘキシル]プロパン等が挙げられる。
【0014】
炭素数6〜22の飽和環状アルコールとしては、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロペンチルメタノール、シクロヘキシルメタノール等が挙げられる。
炭素数6〜22の不飽和環状アルコールとしては、シクロペンテニルメタノール、シクロヘキセニルメタノール、シクロヘキセニルアルコール等を挙げることができる。
その他のアルコールとしては、ベヘニルアルコール、イコシルアルコール、メトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ポリイソブチルアルコール、ポリプロピルアルコール、チーグラー法によって得られるチーグラーアルコール等が挙げられる。
これらの中では、炭素数2〜30の直鎖又は分岐鎖のアルコールが好ましく、炭素数2〜30の直鎖アルコールがより好ましい。
上記アルコールは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
<原料アミン>
本発明で用いられる原料アミンは、下記一般式(I)で表されるアミンである。
12NH (I)
式(I)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜36の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す。R1及びR2は、互いに結合して飽和炭化水素又は不飽和炭化水素の環を形成していてもよい。また、環中に不飽和結合、又はヘテロ原子(O、N、S等)が含まれていてもよい。R1及びR2が炭化水素基である場合の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜6が更に好ましく、1〜3が特に好ましい。
原料アミンの好適例としては、炭素数1〜20の脂肪族アミン、炭素数6〜20の芳香族アミン等が挙げられる。なお、原料アミンは、アンモニアであってもよい。
【0016】
炭素数1〜20の脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、各種ブチルアミン、各種ペンチルアミン、各種ヘキシルアミン等のモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、各種ジブチルアミン、各種ジペンチルアミン、各種ジヘキシルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。なお、ジアルキルアミンは、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、メチルペンチルアミン、メチルヘキシルアミン、メチルヘプチルアミン、メチルオクチルアミン、メチルドデシルアミン、メチルステアリルアミン、エチルプロピルアミン等、各アルキル鎖の炭素数が異なるものであってもよい。
炭素数6〜20の芳香族アミンとしては、フェニルアミン、ベンジルアミン、メチルフェニルアミン、エチルフェニルアミン、メチルベンジルアミン、エチルベンジルアミン等のモノアリールアミン等、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン等のジアリールアミン及びその類縁化合物が挙げられる。
その他のアミンとしては、モルホリン、ピロリジン、ピペラジン、イソインドリン等の環状アミン及びその類縁化合物等が挙げられる。
【0017】
なお、原料アミンは、第1反応槽に対して連続的に導入しても、断続的に導入してもよい。また、液状アミンを用いる場合には反応に用いるアミンの全量を一回の操作で導入してもよい。
【0018】
<アミノ化工程において用いる触媒>
アミノ化工程において用いる触媒(アミノ化触媒)としては、例えば、銅系触媒、ニッケル系触媒等の遷移金属触媒や、ルテニウム系触媒等の貴金属触媒を用いることができる。
銅系触媒としては、例えば、特開平2−233号公報(Cu−Cr、Mu、Fe、Ni、Co、Znから選ばれる1種以上の遷移金属−白金族元素−Li、Mg等のアルカリ金属、アルカリ土類金属触媒)、特開平2−234号公報(Cu−Ni、Co等の第4周期遷移金属元素−白金族元素−Al等の第4成分)、及び特開2001−151733号公報(Cu−第4周期遷移金属−白金族元素触媒)等に記載の触媒が挙げられる。
ニッケル系触媒としては、例えば、特開昭50−30804号公報(Ni−Cu−Cr触媒)、特開平7−69999号公報(Ni触媒)、特表2005−527516号公報(Ni−Cu−Co−ZrO2触媒)、及び特開2007−176889号公報(Ni−Cu−アルカリ金属触媒)等に記載の触媒が挙げられる。
ルテニウム系触媒としては、例えば、特開平8−243392号公報(Ru−多孔質酸化物触媒)、欧州特許第729785号明細書(Ru−貴金属触媒)、特開2008−150312号公報(Ru−ZrO2複合酸化物及び/又は金属表面処理ZrO2触媒)、特開2007−176891号公報(Ru−多孔性酸化物触媒)、特開2007−176892号公報(Ru−Ni、Coのうちの1種以上の金属成分−La、Y、Mg、Baのうちの1種以上の金属成分を含む触媒)、及び米国特許第4912260号明細書(Ru−Ni−Pd、Re、Irのうち1種以上の金属成分を含む触媒)等に記載の触媒が挙げられる。
【0019】
アミノ化触媒は、反応性の観点から、銅の他、下記の(i)第4周期遷移金属、(ii)白金及び第5周期遷移金属、及び(iii)アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種を主活性成分として含有し、次の(a)〜(c)の条件を満たしている触媒が好ましい。なお、条件(a)〜(c)の比は金属モル比である。
(i)第4周期遷移金属:ニッケル、コバルト、鉄、クロム、及び亜鉛から選ばれる少なくとも1種。
(ii)白金及び第5周期遷移金属:白金、パラジウム、ルテニウム、及びロジウムから選ばれる少なくとも1種。
(iii)アルカリ金属及びアルカリ土類金属:リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選ばれる少なくとも1種。
【0020】
・条件(a):銅/第4周期遷移金属=1/9〜99/1、好ましくは50/50〜99/1
・条件(b):白金及び第5周期遷移金属/(銅+第4周期遷移金属)=0〜0.1、好ましくは0〜0.05
・条件(c):第4周期遷移金属/(アルカリ金属+アルカリ土類金属)=1/0〜1/2、好ましくは1/0〜1/1
上記アミノ化触媒の中では、銅と第4周期遷移金属(特にニッケル)を含有する触媒、銅と白金又は第5周期遷移金属(特にルテニウム)を含有する触媒、銅と第4周期遷移金属(特にニッケル)と第5周期遷移金属(特にルテニウム)を含有する触媒が好ましい。
上記アミノ化触媒は、金属酸化物や複合酸化物等の多孔質担体に、前記主活性成分を担持させて用いることができる。その形状に特に制限はなく、粉末状、球状、円柱状(ペレット状)のいずれであってもよい。
上記アミノ化触媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
前記アミノ化触媒は、還元されていないものでもよく、また還元されたものでもよいが、反応性、選択性の観点から、還元されたものが好ましい。還元されたアミノ化触媒は、水素ガス等の還元性雰囲気下で還元を行うことにより調製することができる。したがって、例えば、未還元状態のアミノ化触媒を原料アルコールと共に反応容器に入れた後、水素ガスを導入しながら反応温度まで昇温する工程で調製することもできる。
アミノ化触媒の使用量は反応方式に応じて適宜調整することが好ましい。反応方式が懸濁床バッチ式の場合には、反応性、選択性の観点から、アミノ化触媒の使用量は、原料アルコールに対して0.01〜30重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。
【0022】
<アミノ化工程の反応条件>
アミノ化工程の反応方式に特に制限はなく、懸濁床バッチ式でも固定床流通式でもよい。反応温度は、反応性の観点から、100〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。反応圧力は100kPa〜40MPaが好ましく、100kPa〜25MPaがより好ましい。
【0023】
第1反応槽への水素の導入に際しては、反応性、選択性の観点から、水素と水素以外の気体とを混合した混合気体を反応系に導入することが好ましい。ここで、水素と混合する気体は、水素及びアミノ化反応に悪影響を与えない気体であれば特に制限はない。混合気体を用いることにより、反応で生成する水を反応系外に効率的に除去することができる。
水素含有ガスの導入速度は、原料アルコール1kg当たり3〜300NL/hが好ましく、8〜100NL/hがより好ましく、20〜50NL/hがさらに好ましい。ここで、NLは標準状態、すなわち0℃、101.3kPaにおける体積(ノルマルリットル)を表す。
反応で生成する水は、断続的に除去しても、連続的に除去してもよいが、反応性、選択性の観点から連続的に除去することが好ましい。反応により生成する水は、反応系中に適当な溶媒を加えておき、共沸させることにより除去してもよい。
第1反応槽から排出された水素含有ガスは、タンク等に貯蔵した後、第2反応槽へ導入してもよく、貯蔵せずにそのまま第2反応槽へ導入してもよい。
なお、原料としてガス状のアミンを用いた場合、第2反応槽での反応性確保と副反応抑制の観点から、予め第2反応槽に導入する前に該水素ガス中の残留アミンガスを除くことが好ましい。残留アミンガスの除去手法として酸スクラバー等を用いることができる(後述の工程(A))。
ここで、ガス状とは、常温(25℃)において1kPa以上の蒸気圧を有するものである。
【0024】
[工程(2):一酸化炭素低減工程]
前記アミノ化工程において、生成したアルデヒドの一部が副反応(脱カルボニル化反応)により一酸化炭素に変換される。この一酸化炭素は、アミノ化工程で用いる前記アミノ化触媒の活性サイトを被覆したり、アミノ化触媒と複合体を形成して触媒を失活させる。したがって、本発明においては、水素含有ガスの再利用を行うために、第2反応槽において一酸化炭素量(濃度)を低減させることが必要である。
一酸化炭素を低減する方法としては、(i)活性炭等の吸着素材を用いて吸着する方法、(ii)ヘモグロビン等に吸着する生化学的方法、(iii)一酸化炭素を更に酸化して二酸化炭素に変換する化学的方法、及び(iv)一酸化炭素をメタンに変換するメタン化法等が挙げられる。
これらの中では、工業的な観点から、触媒を用いて(iv)一酸化炭素をメタンに変換するメタン化法(メタネーション法)が好ましい。
【0025】
<一酸化炭素低減工程において用いる触媒>
メタン化法に用いることができる触媒としては、ニッケル、コバルト、ルテニウム、白金、ロジウム、パラジウム、モリブデン、タングステン、及びレニウム等が挙げられる。本発明においては、特に高活性であるニッケル、コバルト、及びルテニウムを用いることが好ましい。
なお、前記金属の1種以上を主活性成分とし、この主活性成分とは異なる金属を助活性成分として用いてもよい。
また、触媒活性の向上の観点から、Al23、SiO2、TiO2、CeO2、MgO、及びLa23等の金属酸化物や複合酸化物の多孔質担体に、前記主活性成分を担持させてもよい。さらに、触媒活性や入手の容易さの観点から、市販のRu/γ−Al23やNi/珪藻土等を用いてもよい。
メタン化触媒の形状に特に制限はなく、粉末状、球状、円柱状(ペレット状)のいずれであってもよい。
【0026】
<一酸化炭素低減工程の反応条件>
一酸化炭素低減工程の反応温度は、反応性の観点から、用いる触媒に応じて反応温度を変更することが好ましい。
前記触媒の主活性成分としてルテニウム、白金、ロジウム、パラジウム、タングステン、及びレニウムから選ばれる少なくとも1種を用いる場合の反応温度としては、100〜350℃が好ましく、120〜300℃がより好ましい。
また、前記触媒の主活性成分としてニッケル、コバルト、及びモリブデンから選ばれる少なくとも1種を用いる場合の反応温度としては、150〜600℃が好ましく、200〜550℃がより好ましい。
反応圧力は、主活性成分としていずれの金属を用いた場合であっても、100kPa〜40MPaが好ましく、100kPa〜25MPaがより好ましい。
【0027】
第2反応槽から排出される一酸化炭素の濃度は、第1反応槽におけるアミノ化反応の原料、触媒、温度や圧力等の反応条件、目的生成物に求められる品質の程度、再利用の用途等により異なるが、通常5000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは20ppm以下である。
第2反応槽から排出される水素含有ガスは、タンク等に貯蔵した後、第1反応槽に導入してアミノ化反応を行ってもよいし、貯蔵することなく第1反応槽へ導入し、連続的に使用してもよい。また、本発明においては、第2反応槽から排出された水素含有ガスの一部を第1反応槽、第2反応槽以外の槽に導入して水素の再利用を図ってもよい。
なお、第1反応槽と第2反応槽との間で水素含有ガスを循環させる場合には、第1反応槽と第2反応槽との間の流通経路に適当な容積を有するガスホルダーを設置することが経路内の圧力を管理する上で好ましい。
【0028】
[工程(A)]
本発明においては、工程(1)と工程(2)との間に、排出された水素含有ガス中に含まれるアミンの量を低減させる工程(A)を設けることが好ましい。具体的には、第1反応槽と第2反応槽との間に残留アミンガスを取り除くための除去手段を設け、第2反応槽にガス状のアミンが混入しないようにすることが好ましい。
本発明においては、工程(1)で排出される前記水素含有ガスを水と接触させて、この水素含有ガス中に含まれる原料アミンの量を低減させることが好ましく、前記水素含有ガスを酸水溶液と接触させることにより前記水素含有ガス中に含まれる原料アミンの量を低減させることがより好ましい。
前記水素含有ガスと水又は酸水溶液とを接触させる方法としては、水又は酸水溶液に水素含有ガスをバブリングさせて、水又は酸水溶液にアミンを吸収させてもよいし、シャワーリング状態の水又は酸水溶液に対して、水素含有ガスを向流接触させることによりアミンを吸収させてもよい。
具体的な除去手段としては、水を溶媒として用いる吸収塔や、硫酸水溶液を媒体とする酸スクラバー等を挙げることができる。水素含有ガスをまず水のような吸収媒体に吸収させて大部分のアミンを回収した後、さらに残留するアミンを酸スクラバーで除去することが好ましい。
なお、酸スクラバー等を経た後に水素含有ガス流によって飛散する液を中和するためのアルカリスクラバーを備えていてもよい。
工程(A)を経た水素含有ガス中の残留アミン濃度は、1重量%以下が好ましく、0.2重量%以下がより好ましく、0.05重量%以下がさらに好ましい。
【0029】
[製造装置]
本発明を実施するための製造装置としては、前記アミノ化工程と、一酸化炭素低減工程とを実施することができるものであれば特に制限はない。例えば、アミノ化反応を行う第1反応槽と、この第1反応槽から排出される水素含有ガス中に含まれる一酸化炭素を除去するための第2反応槽と、第1反応槽と第2反応槽とを直接的又は間接的に連結する管とを有する装置を用いることができる。
第1反応槽としては、水素及び原料アミンを導入する管を備えているものが好ましく、また、反応生成水、水素ガス、アルコール等を凝縮・分離するための凝縮器、分離器を備えたものが好ましい。
第2反応槽としては、前述のメタネーションを行うことができるものが好ましいが、一酸化炭素を除去、又は変換することができる装置であってもよい。
第1反応槽と第2反応槽との間にはアミノ化反応で消費されなかった過剰アミンを除去するための前述の除去手段を設けることが好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態の概要をバッチ式反応を例にして説明する。
まず、第1反応槽であるアミノ化反応槽に原料となるアルコールと触媒とを仕込み、水素を導入し、充分に撹拌しながら昇温を開始する。触媒は昇温中に還元され活性化される。所定温度に到達後、原料アミンを導入し反応を開始する。導入方法は連続的でも断続的でもよく、液状アミンを用いた場合には一括で導入してもよい。反応中に生成する水は、廃水素ガス(ガス状アミンを用いる場合は水素と未反応のガス状アミン)及びアルコールや炭化水素等の少量の油分と一緒に反応系外に排出され、凝縮器、分離器を経た後に油分と分離される。分離された油分は第1反応槽へと戻される。
第1反応槽から排出された水素含有ガスは第2反応槽に導入する。原料アミンとしてガス状アミンを用いる場合は、水素含有ガス中に未反応のガス状アミンが含まれるため、アミンガス除去手段を経由させ水素含有ガス中のアミンガスを取り除いた後、第2反応槽へと導入することが好ましい。第2反応槽から排出された水素含有ガスを再びアミノ化反応槽へと戻し、再利用する。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例により、更に詳細に説明するが本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
<工程(1):アミノ化工程>
第1反応槽として2Lのセパラブルフラスコを準備し、これに反応生成水等を凝縮・分離するための凝縮器と分離器とを取り付けた。このセパラブルフラスコにラウリルアルコール(炭素数12)/ミリスチルアルコール(炭素数14)=70/30(質量比)の混合アルコール(原料アルコール)を合計1200g加えた。
1Lのフラスコに硝酸銅と硝酸ニッケルと塩化ルテニウムとを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。50℃でゼオライトを仕込んだあと、90℃で10重量%炭酸ナトリウム水溶液を徐々に滴下し、1時間熟成後、沈殿物をろ過、水洗し、乾燥後、600℃で3時間焼成してCu−Ni−Ru/ゼオライト触媒(各金属原子のモル比はCu:Ni:Ru=4:1:0.01)を調製した。この触媒を原料アルコールに対して0.14重量%添加した。
前記溶液を950r/minの速度で撹拌しながら、このフラスコに循環ポンプを用いて水素を35NL/hrの流量で導入し、第1反応槽と後述の第2反応槽とからなる一連の反応プロセス内を循環させた。第1反応槽の温度を前記触媒を還元することができる温度まで昇温し、一定時間保持することにより前記触媒を還元した。
触媒の還元終了後、ジメチルアミンと水素ガスとを混合して反応系内に導入した。反応系を徐々に昇温し、225℃に維持しながらアミノ化反応を行った。反応はガスクロマトグラフィーにより適宜追跡した。
第1反応槽から排出された水素含有ガスは、アミンガス除去手段(導入された水素含有ガスを、水を入れたフラスコをバブリングにて通過させた後、さらに、硫酸水溶液トラップ及び水酸化ナトリウム水溶液トラップを通過させるアミンガス除去手段)を経由させることにより、水素含有ガス中に含まれる原料アミン成分を取り除いた。反応開始30分後における水素含有ガス中のアミンガス濃度をガスクロマトグラフィー法(株式会社ジーエルサイエンス製、商品名:「GC−3200」、カラム:Varian capillary column CP-SiL 8CB For Amines 内径0.32mm×長さ50m 膜厚5.0μm、オーブン温度60℃、インジェクション温度110℃、ディテクター温度110℃、検出器:TCD)にて測定したところ、検出下限(100ppm)以下であった。アミン成分除去後の水素含有ガスをSUS製の12L廃ガスホルダーを経由させて第2反応槽に導入した。
なお、前記廃ガスホルダーは反応開始前に純粋な水素ガスで置換しておき、アミノ化反応の進行度合いにより103〜160kPaの圧力で運用した。
【0032】
<工程(2):一酸化炭素低減工程>
第2反応槽の触媒として、0.5重量%Ru/Al23触媒(Johnson Matthey社製、商品名:「Pellets,Type146」)を用い、該触媒を内径1.1cmのSUS製リアクターに9.0g充填した。第2反応槽の温度を220℃とし、第2反応槽の圧力は第1反応槽と同じ圧力に設定した。第2反応槽から排出された水素含有ガスを第1反応槽に導入・循環させて反応を継続した。
第1反応槽中の未反応アルコールの残量が反応開始時のアルコールの量の1重量%まで減少するのに費やした時間を反応時間とし、水素の使用量、生成物の組成、及び第1反応槽に導入する際の水素含有ガスに含まれる一酸化炭素濃度を計測した。結果を表1に示す。
なお、一酸化炭素濃度は、メタナイザー(株式会社島津製作所製、商品名:「MTN‐1、Shimalite−Ni」)を備えたガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、商品名:「GC−14A」,カラム:モレキュラーシーブ5A;内径3.2mm×長さ4m、オーブン温度80℃、インジェクション温度80℃、ディテクター温度80℃、キャリアーHeガス60mL/min)により反応開始後30分経過した時点から反応終了まで、30分間隔で測定した値の平均値である。実施例1では、全ての測定において、検出限界(1ppm)未満であった。
【0033】
実施例2
第2反応槽の温度を180℃とし、第2反応槽から排出される一酸化炭素の平均濃度を3700ppmに維持したこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
比較例1
第1反応槽から排出される水素含有ガスを循環させずに廃棄し、常に純粋な水素ガスを導入しながら反応を行ったこと以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
比較例2
第1反応槽から排出された水素含有ガスを第2反応槽を経由させずに第1反応槽に導入して反応を行ったこと以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から、実施例1及び2の方法によれば、副生する一酸化炭素が低減されるため、副生する水素含有ガスを再利用することができ、その結果、反応に用いる水素ガスの使用量を大幅に抑制することができる。
一方、水素含有ガスを第2反応槽を経由せずに第1反応槽に導入して反応を行うと(比較例2)、一酸化炭素濃度が増大し、アミノ化触媒の活性を低下させ、収率を低下させる。
【0036】
実施例3
原料アルコールをステアリルアルコール(花王(株)製、商品名:「カルコール8098」)1200gに変えたこと以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例3における反応において使用した水素の量は27.2Lであった。この反応を水素を回収せずに行ったと仮定して流通させた水素ガスの量を見積もると、151Lとなる。
【0039】
実施例4
原料アルコールをデシルアルコール、原料アミンをモノメチルアミンにそれぞれ変更し、反応温度を195℃、触媒濃度を原料アルコールに対し1.2重量%、水素流量を18NL/hとしたこと以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例4における反応において使用した水素の量は24.1Lであった。この反応を水素を回収せずに行ったと仮定して流通させた水素ガスの量を見積もると、74Lとなる。
また、実施例3,4より、本発明の製造方法により各種の3級アミンが高収率・高選択率で得られることがわかる。
【0042】
実施例5
第1反応槽から排出される水素含有ガスを、アミンガス除去手段を経由させずに直接第2反応槽に導入したこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。第2反応槽導入前のアミン成分量は1.0重量%であった。
実施例5の結果を実施例1及び比較例2の結果と共に表4に示す。これらの結果より、工程(A)を設けることにより反応性、ジメチルアルキルアミンの選択性がさらに向上することがわかる。
【0043】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の3級アミンの製造方法によれば、水素の使用量を抑制することができるため、環境への負荷を軽減することができる極めてエコロジーかつクリーンな工業的プロセスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び(2)を含む3級アミンの製造方法。
工程(1):炭素数1〜36のアルコールと下記一般式(I)で表される原料アミンとを第1反応槽に導入し、触媒及び水素の存在下で反応させ、反応生成水及び水素含有ガスを反応系外へ排出しつつ反応を継続する工程。
12NH (I)
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜36の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す。R1及びR2は、互いに結合して飽和炭化水素又は不飽和炭化水素の環を形成していてもよい。)
工程(2):第1反応槽より排出された水素含有ガスを第2反応槽に導入し、水素含有ガスに含まれる一酸化炭素の量を低減させた後、水素含有ガスの一部又は全部を第1反応槽へ導入する工程。
【請求項2】
前記第2反応槽において、前記水素含有ガスを金属触媒と接触させることにより一酸化炭素の量を低減させる、請求項1に記載の3級アミンの製造方法。
【請求項3】
工程(1)と工程(2)との間に下記工程(A)を有する、請求項1又は2に記載の3級アミンの製造方法。
工程(A):排出された水素含有ガス中に含まれる原料アミンの量を低減させる工程。
【請求項4】
工程(A)において、前記水素含有ガスを水と接触させて、前記水素含有ガス中に含まれる原料アミンの量を低減させる、請求項3に記載の3級アミンの製造方法。
【請求項5】
工程(A)において、前記水素含有ガスを酸水溶液と接触させて、前記水素含有ガス中に含まれる原料アミンの量を低減させる、請求項3又は4に記載の3級アミンの製造方法。
【請求項6】
前記第2反応槽における金属触媒が、ニッケル、コバルト、ルテニウム、白金、ロジウム、パラジウム、モリブデン、タングステン及びレニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を主活性成分とするものである、請求項2〜5のいずれかに記載の3級アミンの製造方法。
【請求項7】
前記第2反応槽における金属触媒の主活性成分として、ルテニウム、白金、ロジウム、パラジウム、タングステン及びレニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用い、第2反応槽の反応温度を100〜350℃とする、請求項6に記載の3級アミンの製造方法。
【請求項8】
前記第2反応槽における金属触媒の主活性成分として、ニッケル、コバルト及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用い、第2反応槽の反応温度を150〜600℃とする、請求項6に記載の3級アミンの製造方法。
【請求項9】
前記第2反応槽の圧力を100kPa〜40MPaとして反応を行う、請求項1〜8のいずれかに記載の3級アミンの製造方法。
【請求項10】
前記第1反応槽の温度を100〜300℃とし、圧力を100kPa〜40MPaとして反応を行う、請求項1〜9のいずれかに記載の3級アミンの製造方法。

【公開番号】特開2012−149058(P2012−149058A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286768(P2011−286768)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】