説明

Ad26アデノウイルスベクターの製造方法

本発明は、灌流システム及び非常に高い細胞密度での感染を用いて、組換えアデノウイルス26をラージスケールで製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養及びアデノウイルスの製造の分野に関する。更に特に、本発明は、哺乳細胞の培養、それらの細胞のアデノウイルスによる感染、及びそれらからのアデノウイルス顆粒の製造のための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の組換えウイルスベクターを用いたDNAワクチンの分野における発展により、臨床グレードの素材を大量に生産する必要性が生まれた。世界の、例えば結核及びマラリアの問題を解決するため、十分な量の組換えアデノウイルスベースのワクチンで、発展途上世界を支援することを可能にするプロセスが必要とされる。出生コホートの評価は、2010〜2015に発展途上世界において150,000,000を超える出生数が予想されることを示す。この出生コホートに基づいて予想されるワクチンの年間需要量は、年間ベースで約1.5×1019ウイルス顆粒(VP)に達する(http://esa.un.org/unpp/index. asp ?panel=2)。
【0003】
アデノウイルスを生産するいくつかのプロセスについての記載がある。これらのプロセスは、ローラーボトル、セルファクトリー(Nunc社のNunclon又はCorning社のCellStack)、又はセルキューブ(Corning社)中で付着細胞の培養を行う。付着細胞の培養を行う生産プロセスは、アデノウイルスベースのワクチンの世界中の需要を満たすことはできない。そのため、付着工程に用い垂れる細胞は、懸濁培養に用いられる(例えば、HEK293及びPER.C6(登録商標)細胞株)。懸濁培養の使用により、生産プロセスを大規模のバイオリアクターにスケールアップすることができる。アデノウイルス生産のための細胞の懸濁培養は、通常3〜20Lスケールとされ、100L(Kamen et al.、2004)、及び250L(Xie et al.、2003)までのスケールアップの成功が報告されている。10,000Lまでのスケールアップを予期させる実験が報告されている(Xie et al.、2003)。
【0004】
しかしながら、10,000Lまでスケールアップすることの主な不利益は、10,000Lのバイオリアクター設備を設計し建設するために必要となる、高い資本投資(CAPEX)である。更に、BSL 2の条件の下で10,000Lの設備を建設するのにかかるCAPEXは、生産物が(フェーズIV以降に)効くかどうかを知る前に突き付けられることになる。10,000Lバイオリアクタープラントにかかる全投資コストは、225,000,000ユーロ〜320,000,000ユーロと報告されている(Estape et al.,2006)。そのため、より小さいスケール、例えば、1000L以下のバイオリアクターで調製することが望ましい。
【0005】
現存のプロセスを用いると、1.5×1019VP/年という目標を達成するためには、1年に1000Lスケールで150を超えるバッチが、生産されなければならない。そのため、世界中のアデノウイルスワクチンの需要を、満たすことを目的として、好適には法外ではないコストで、アデノウイルス顆粒の収量を向上させるために、アデノウイルス生産のためのシステムを改良する必要がある。
【0006】
アデノウイルス生産の最適化において直面する問題の1つは、いわゆる「細胞密度効果」である。バッチ形式のオペレーションについて、幾つかの文献がアデノウイルス産生に最適な感染時の細胞密度が存在することを示唆する。最適密度は0.5〜1×10細胞/mL(Maranga et al,2005; Kamen et al.,2004)にある。撹拌されたバイオリアクタータンクのバッチにおけるアデノウイルス(Ad5)生産について、細胞当たりのウイルス産生能は、約0.9×10細胞/mLまでは一定のままであるが、約1×10細胞/mLで急激に低下する(Altaras et al,2005)。2×10細胞/mLを超えると、感染した顆粒が検出されない。特異的な産生能の低下に関する、感染時の細胞密度による区切り点は、培地に依存する。今日までに市販された培地は、1×10細胞/mLを超える細胞密度で最適な、特異的な産生を維持するものの、ウイルス顆粒の高収率を支援することができることは示されていない。この低下の理由は不明であるが、ウイルス産生のために使うことが可能な栄養が限られているためか、又は高濃度の代謝物がウイルス産生を阻害するためである可能性がある。
【0007】
グルコース、グルタミン、及びアミノ酸の添加などの流加培養法のオペレーションは、最大2×10細胞/mLの細胞密度で感染させることを可能にする。しかしながら、高い細胞密度で達成される産生能は、1×10細胞/mLの細胞密度での感染により得られるそれよりも低い(Kamen et al.,2004)。
【0008】
灌流プロセスでは、細胞が中空線維、スピンフィルター、又は音響分離によりバイオリアクター内に保持され、培地がバイオリアクターを通って還流される。これらのプロセスでは、細胞密度が>100×10細胞/mLに達することもある(例えば、Yallp et al.,2005)。
【0009】
還流される感染細胞は、中空線維システムを用いた灌流中、未成熟な細胞の喪失を示す。このことは、それらがウイルス感染により剪断に対する敏感性が高まったことに関連し得る(Cortin et al.,2004)。より壊れやすい感染細胞に対する、チューブ、中空線維、又は蠕動ポンプ内に誘導される水の動的応力が、この現象の要因となる可能性が最も高い。感染した細胞はより壊れやすく、特に、灌流が感染のフェーズを通して維持されるべき場合には、音響分離が望ましいことが示唆されている(Henry et al,2004)。しかしながら、灌流モードで行われる感染は、2容量/日の灌流速度で、最大3×10細胞/mLの細胞密度を維持することができるのみである。6×10細胞/mLの細胞濃度での感染は、特異的な産生能の5倍の低下を導く(Henry et al.,2004)。
【0010】
細胞密度効果についての他の報告がある一方で、腫瘍退縮性のアデノウイルスベクターについての生産基盤としてのヒト腫瘍細胞を灌流培養することに成功したことを記載する報告がある(Yuk et al.,2004)。その報告は、交互接線流(ATF)技術を用いた高細胞密度灌流プロセスを記載している。9×10HelaS3細胞/mLという感染時の平均の生存細胞密度では、平均約4×1011VP/mLのウイルス力価が観測された。産生されたアデノウイルス顆粒がヒトに対して投与されるとき、腫瘍細胞の使用は安全性リスクを引き起こし得るため、その報告で用いられる腫瘍細胞は、産生細胞として好適ではない。その報告の組換えアデノウイルスはAd5に基づくものである。ヒト集団の大部分は、Ad5に対する既存の中和抗体を有しているため、かかるアデノウイルスはワクチンとしての使用可能性が制限され、そのため、他の血清型由来の組換えアデノウイルスがワクチンとしての使用により適している(例えば、国際公開第00/70071号参照)。ワクチンとしての使用に特に有利な組換えアデノウイルスは、Ad26である(国際公開第00/70071号)。
【0011】
Ad5以外の血清型、特に有利な血清型26由来の組換えアデノウイルスの大量生産について利用可能な情報は、あったとしても限られたものである。Ad35とAd5とのラージスケールでの生産の間の何らかの相違は、以前に、例えば、PCT/EP2009/064265に記載されている。異なる血清型の組換えアデノウイルスの何らかの異なった物理的特性は、生産プロセスの相違を生じさせる可能性がある。このような相違の可能性は、産業スケールで特に重要になる可能性があり、ここで、小さなスケールでの一見小さな相違であっても、世界での年間需要の生産を想定したスケールについては大きな経済効果を有し得る。例えば、報告されたAd5についての細胞密度効果はAd35(PCT/EP2009/064265)とは異なることが出願人により示されている。このように、rAd35は、大量生産プロセスの間、rAd5とは異なるように、産生細胞中で増殖する。異なる血清型由来のアデノウイルスの増殖は決して予測できないと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第00/70071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
組換えアデノウイルス血清型26(rAd26)ワクチンの世界での需要を満たすため、rAd26生産のためのシステムを改良する必要がある。本発明は、rAd26の産業的生産のための改良した方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
我々は、本願明細書で、更に別の血清型、すなわちAd26が、他の血清型Ad5及びAd35とは異なった挙動をすることを見出した。実際、Ad26は、僅かな細胞密度効果を示す傾向があるが、Ad5について見られる密度効果ほど強くはない。加えて、Ad26に感染した細胞は感染後更に増殖する一方、Ad35に感染した細胞は感染後増殖の減退を示す。
【0015】
これらの結果は、特定のアデノウイルス血清型のためのプロセスは、最適な結果を得るために、各血清型について微調整されなければならないことを改めて示唆する。本発明は、得られるrAd26の量及び質、並びに下流の処理のための回収の操作の容易性という観点で、rAd26の生産のための最適なシステムを提供する。
【0016】
本発明は、組換えアデノウイルス血清型26(rAd26)の製造方法を提供し、該方法は:a)灌流システムを用いて、産生細胞を懸濁液中で培養する工程と、b)10×10生存細胞/mL〜16×10生存細胞/mLの密度で前記細胞をrAd26に感染させる工程と、c)灌流システムを用いて、前記感染した細胞を更に培養して、rAd26を増殖させる工程と、d)前記rAd26を回収する工程と、を含む。
【0017】
特定の実施形態では、工程b)における前記細胞を、10×10生存細胞/mL〜14×10生存細胞/mLの密度で、rAd26に感染させる。
【0018】
特定の実施形態では、工程c)における前記灌流システムは、交互接線流(ATF)灌流システムである。他の好適な実施形態では、工程a)における前記灌流システムは、交互接線流(ATF)灌流システムである。好適な実施形態では、工程a)及びc)における前記灌流システムは、交互接線流(ATF)灌流システムである。
【0019】
特定の実施形態では、本発明の方法は、e)前記rAd26を精製する工程を更に含む。更なる実施形態では、本発明の方法は、f)前記精製したrAd26を含む製薬学的組成物を調製する工程を更に含む。
【0020】
特定の実施形態では、前記組換えアデノウイルスは、E1領域の少なくとも一部を欠損し、且つ異種核酸を含む。
【0021】
特定の実施形態では、前記製造したrAd35の、健康な顆粒と感染した顆粒との比(VP/IU)は、30:1未満、好適には20:1未満である。
【0022】
少なくとも1×1012のウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26の製造方法であって:a)灌流システムを用いて懸濁液中で産生細胞を培養する工程と、b)10×10生存細胞/mL〜16×10生存細胞/mLの密度で前記細胞をrAd26に感染させる工程と、c)灌流システムを用いて感染した細胞を更に培養して、rAd26を増殖させ、ここで、rAd26ウイルス顆粒の濃度は少なくとも1×1012VP/mLに達する工程と、d)前記rAd26を回収する工程と、を含む方法を提供することも本発明の態様である。
【0023】
本発明は、2L〜1000L、好適には50L〜500Lの作業容量を有し、培地、産生細胞、及び少なくとも1×1012ウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26を有するバイオリアクターも提供する。特定の実施形態では、前記バイオリアクターは、50L〜500Lの作業容量を有する。好適な実施形態では、前記バイオリアクターは、ATF灌流システムに結合される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】振盪器における高細胞密度でのrAd5による感染
【図2】振盪器及び2Lバイオリアクターにおける高細胞密度でのrAd35.TB−Sによる感染
【図3】振盪器における高細胞密度でのrAd26による感染
【図4】rAd26による感染後の細胞増殖
【図5】rAd35による感染後の細胞増殖
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、大量の組換えアデノウイルスrAd26を製造するための新しいプロセスに関する。この最適化されたプロセスは、細胞ごとのウイルス産生能を高く保持しながら、高細胞密度の条件で培養物に感染させることが可能であることにより成り立つ。ここでは、このプロセスは、回収された高いウイルス濃度のウイルス溶液を、一つのバイオリアクター中に得る方法を提供する。rAd26についての現行のプロセスによる一般的な収量は、約2〜3×1011VP/mLである。実際、非常に大量、例えば、少なくとも約5×1011VP/mL、好適には少なくとも約6、7、8又は9×1011VP/mLの量のrAd26顆粒を、本発明のプロセスを用いて製造することができると考えられる。好適には、少なくとも1×1012VP/mL、より好適には少なくとも1.5×1012VP/mL、更により好適には少なくとも2×1012VP/mL、例えば、約1×1012〜5×1012VP/mLのrAd26が製造される。一般的に、このプロセスでは、約1×1013VP/mLを超えるrAd26は得られることはない。本発明によるプロセスを用いて得ることができる収量は、世界中で所望される量の特定のrAd26ベースのワクチンを調製するのに十分である可能性が高く、1000Lを超える作業容量を備えるバイオリアクター施設を必要としない。
【0026】
本発明は、組換えアデノウイルス血清型26(rAd26)の製造方法を提供し、該方法は:a)灌流システムを用いて、産生細胞を懸濁液中で培養する工程と、b)10×10生存細胞/mL〜16×10生存細胞/mLの密度で細胞をrAd26に感染させる工程と、c)灌流システムを用いて、感染させた細胞を更に培養して、rAd26を増殖させる工程と、d)rAd26を回収する工程と、を含む。
【0027】
特定の実施形態では、工程b)における細胞を、約10×10生存細胞/mL〜約50×10生存細胞/mLの密度で、rAd26に感染させる。更なる実施形態では、工程b)における細胞を、約10×10生存細胞/mL〜約20×10生存細胞/mLの密度で、rAd26に感染させる。更に有利な実施形態では、工程b)における細胞を、約10×10生存細胞/mL〜約16×10生存細胞/mL、例えば、約10、11、12、13、14又は15×10生存細胞/mLの密度で、rAd26に感染させる。
【0028】
(産生細胞及び組換えアデノウイルス)
本願発明による産生細胞(当技術分野及び本願明細書では、ときに、「パッケージング細胞」、「補完細胞(complementing cell)」又は「宿主細胞」)とも称する。)は、そこで所望のアデノウイルスが増殖することができるあらゆる産生細胞とすることができる。例えば、組換えアデノウイルスベクターの増殖は、アデノウイルスの欠陥を補完する産生細胞中で行われる。このような産生細胞は、好適には少なくともアデノウイルスE1配列をそのゲノム中に有しているため、E1領域を欠損している組換えアデノウイルスを補完することができる。更に、アデノウイルスはE3領域を欠損していてもよく、この領域はAdゲノムに必要ではないため、このような欠損は補完される必要がない。あらゆるE1を補完する産生細胞、例えば、E1により不死化させたヒト網膜細胞、例えば、911又はPER.C6(登録商標)細胞(米国特許第5994128号明細書参照)、E1を導入した羊膜細胞(欧州特許第1230354号明細書)、E1を導入したA549細胞(例えば、国際公開第98/39411号、米国特許第5891690号明細書)、GH329:HeLa(Gao et al,2000、Human Gene Therapy 11:213−219)、293等を用いることができる。特定の実施形態では、産生細胞は、例えば、HEK293細胞、PER.C6(登録商標)細胞、911細胞、IT293SF細胞等である。好適には、PER.C6細胞(1996年2月29日に、ECACC受託番号96022940で、欧州細胞カルチャーコレクション、CAMR、ソールズベリー、ウィルトシャー州、イギリスに受託;米国特許第5994128号明細書参照)、又はこれに由来する細胞が、産生細胞として用いられる。
【0029】
組換えアデノウイルス血清型35(rAd35)は、高細胞密度で感染させるプロセスにおいて、これまでに未知のrAd5と比較して有利な特性を有することを、本願明細書において示す。発明者らは、更に別の血清型(rAd26)も、類似のプロセスにおいて、前述の2つの血清型と比較して、異なる挙動をすることも知見し、異なった血清型に関して、組換えアデノウイルスを大量に生産するのに最適な条件を確立しなければならない可能性があることが示唆された。本発明に係るアデノウイルスは、rAd26である。
【0030】
好適には、アデノウイルスベクターは、ウイルス増殖に必要とされる、アデノウイルスゲノムのE1領域、例えば、E1a領域及び/又はE1b領域の少なくとも1つの必須の遺伝子機能を欠いている。特定の実施形態では、ベクターは、少なくとも1つの必須のE1領域の遺伝子機能、及び少なくとも一部の非必須のE3領域を欠いている。アデノウイルスベクターは、「複数欠損(multiply deficient)」とすることができ、すなわち、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの2つ以上の各領域において、1つ又は複数の必須の遺伝子機能を欠いていることを意味する。例えば、前述のE1−欠損又はE1−、E3−欠損アデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの必須の遺伝子及び/又はE2領域の少なくとも1つの必須の遺伝子(例えば、E2A領域及び/又はE2B領域)を更に欠いていてもよい。E4領域の全長が削除されたアデノウイルスベクターは、宿主細胞の免疫反応を弱めることができる。適したアデノウイルスベクターの例は、(a)E1領域の全部又は一部、及びE2領域の全部又は一部、(b)E1領域の全部又は一部、E2領域の全部又は一部、及びE3領域の全部又は一部、(c)E1領域の全部又は一部、E2領域の全部又は一部、E3領域の全部又は一部、及びE4領域の全部又は一部、(d)E1a領域の少なくとも一部、E1b領域の少なくともに一部、E2a領域の少なくとも一部、及びE3領域の少なくとも一部、(e)E1領域の少なくとも一部、E3領域の少なくとも一部、及びE4領域の少なくとも一部、並びに(f)必須のアデノウイルスの遺伝子産物の全て(例えば、アデノウイルスのアンプリコン、末端逆位配列(ITRs)、及びパッケージングシグナルのみからなる)を欠損するアデノウイルスベクターを含む。当業者に知られている通り、アデノウイルスゲノムから必須の領域を削除した場合、これらの領域によりコード化されていた機能は、トランスで、好ましくは、産生細胞により、提供されなければならない、すなわち、E1、E2及び/又はE4領域の一部又は全部がアデノウイルスから削除されると、これらは産生細胞に、例えば、ゲノム中に組み込まれて、又はいわゆるヘルパーアデノウイルス若しくはヘルパープラスミドの形で、存在しなければならない。
【0031】
更なる実施形態では、本発明に係るアデノウイルスは、E1−領域の少なくとも一部、例えば、E1A及び/又はE1Bをコードする配列を欠損しており、更に、異種核酸を含む。適切な異種核酸は、当業者に周知であり、例えば、導入遺伝子翻訳領域、例えば、rAdベクターをワクチン接種の目的で用いたときに免疫反応を生じさせることが望まれるポリペプチドをコードする翻訳領域を含むことができ、例えば、当業者に周知の、マラリア(国際出願公開第2004/055187号参照)、HIV、結核(国際出願公開第2006/053871)、特定のウイルス等に対する免疫反応を生じさせるのに適した導入遺伝子を挙げることができる。実際には、本発明では、異種核酸の性質は重要ではなく、あらゆる異種核酸とすることができるため、本願明細書中に更なる詳細は必要とされない。
【0032】
当業者は、異なる血清型のアデノウイルスを、特定の宿主細胞において、例えば、米国特許第6492169号明細書又は国際公開第03/104467号、及びその参考文献に開示されるような方法を用いて、増殖させることが可能であることを理解する。例えば、E1−欠損のrAd26の増殖について、Ad26のE1B−55Kを発現する特定の産生細胞を、例えば、当業者に知られているように、Ad5のE1A及びE1Bを発現する既存の産生細胞、例えば、PER.C6又はHEK293細胞などに基づいて、構築することができる。代わりに且つ好適には、例えば、その全内容を参照をもって本願明細書に取り込む、国際公開第03/104467号に詳細に開示されるように、Ad5のE4−orf6をコードする配列をrAd26ベクターに導入することにより、E1−欠損のrAd26の増殖のために細胞を変性させることなく、PER.C6又はHEK293などの既存の(Ad5−)補完細胞株を用いることができる。このように、あらゆる血清型のアデノウイルスベクターの増殖を、当業者に周知の手段及び方法を用いて、産生細胞に対して用いることができる。アデノウイルスベクター、その構築方法、及びその増殖方法は、当業者に周知であり、例えば、米国特許第5559099号明細書、米国特許第5837511号明細書、米国特許第5846782号明細書、米国特許第5851806号明細書、米国特許第5994106号明細書、米国特許第5994128号明細書、米国特許第5965541号明細書、米国特許第5981225号明細書、米国特許第6040174号明細書、米国特許第6020191号明細書、米国特許第6113913号明細書、及び、Thomas Shenk, “Adenoviridae and their Replication“, M. S. Horwitz, “Adenoviruses“,それぞれ、Chapters67及び68, in Virology, B. N. Fields et al, eds., 3d ed., Raven Press, Ltd., New York (1996)、並びに、本願明細書中で言及する他の参考文献に記載される。
【0033】
アデノウイルスベクターの構築は、当業者に十分理解されており、例えば、
Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)、 Watson et al, Recombinant DNA, 2d ed., Scientific American Books (1992)、及びAusubel et al, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, NY (1995)、並びに、本願明細書中で言及する他の参考文献等に記載されるような、標準的な分子生物学的技術の使用を伴う。
【0034】
本発明による産生細胞を、細胞及びウイルスの数、並びに/又はウイルス力価を増加させるために培養する。細胞が、代謝し、及び/又は成長し、及び/又は分裂し、及び/又は本発明の興味のウイルスを産生することができるように、細胞の培養を行う。これは、当業者に周知の方法により達成することができ、例えば、適切な培地中で、細胞に栄養を与えることを含むが、これに限定されない。異なる培地を用いることができ、細胞及び用いる状況に応じて最適な培地を選択することは、当業者の創作能力の一部である。本発明の目的に適した培地は、当業者に周知であり、一般的に、商業的供給源から大量に得る、又は標準的なプロトコルにより特注とすることができる。培養は、バッチ、流加培養、連続系等を用いて、例えば、培養皿、ローラーボトル、又はバイオリアクター中で行うことができる。細胞培養によりウイルスの大量(連続)生産を達成するためには、当技術分野において、懸濁液中で増殖することができる細胞があることが好ましく、動物−若しくはヒト−由来の血清、又は動物−若しくはヒト−由来の血清成分の非存在下で培養することができる細胞があることが好ましい。細胞を培養するのに適した条件は既知である(例えば、Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterson, editors (1973)、及び、R.I. Freshney, Culture of animal cells: A manual of basic technique, fourth edition (Wiley−Liss Inc., 2000, ISBN 0−471−34889−9)参照)。
【0035】
(細胞培養システム及び灌流システム)
バイオリアクターは、懸濁液により培養される動物細胞から生物学的産物を大量に生産させるために広く用いられている。本発明によれば、アデノウイルスの増殖に用いられるバイオリアクターは、例えば、撹拌槽、使い捨てのバイオリアクター、エアリフト反応器等とすることができる。本発明の特定の実施形態によれば、バイオリアクターは撹拌槽である。
【0036】
本発明の特定の実施形態では、バイオリアクターは、約2Lと2000Lとの間の作業容量を有し、ここで、「間」とは、記載される上限値及び下限値を含むことを意味する、すなわち、2Lが最小の作業容量であり、2000Lが最大の作業容量である。これらの値の間にある値の作業容量を有するいかなるバイオリアクターも、本発明に含まれることを意味する。本願明細書中で用いられる整数値に関する「約」という用語は、その値±10%を意味する。
【0037】
特定の実施形態では、作業容量は、10L〜1000L、好適には20L〜800Lであり、例えば30L〜600L、例えば50L〜500L、例えば約250L、又は約500Lである。本発明による作業容量を有するバイオリアクターを用いることの利点は、大きな容量のバイオリアクター、すなわち、2000L、好適には1000Lを大きく超える作業容量を有するものの使用を避けることができ、非常に大きなバイオリアクターの建設に巨大な資金及び時間を投資する必要がなくなることである。更に、本発明の方法を用いると、生成物、すなわちrAdがより濃縮され、バイオリアクターから得られるrAdの、培養及び/又は更に下流の処理にかかる時間及びコストを削減することができる。作業容量は、バイオリアクター内の有効な培養容量である。撹拌されたタンクは、一般的に、高さ対直径の比が、1:1〜3:1である。培養物は、通常、ブレードの付いたディスク又は船用プロペラの形状をベースとした、1つ又は複数の撹拌器により混合される。ブレードよりも剪断力が小さい撹拌システムをここに記載している。撹拌は、磁気的な駆動力により、直接的又は間接的に駆動することができる。間接的な駆動は、撹拌軸上のシールを通じた菌のコンタミネーションのリスクを低減する。このバイオリアクターの使用方法及び条件は、(これらに限定されないが、)撹拌、温度、溶存酸素、pH及びバイオマス制御を含む。細胞培地の撹拌、pH、温度、溶存酸素濃度は、原則として、重要ではなく、選択した細胞のタイプに依存する。好適には、撹拌、pH、温度、溶存酸素濃度は、細胞の増殖に最適となるように選択される。当業者は、培養のために最適な、撹拌、pH、温度、溶存酸素濃度を見出す方法を知っている。通常、最適な撹拌は、50〜300rpm、例えば100〜250rpmであり、最適なpHは6.7〜7.7であり、最適な温度は、30〜39℃、例えば、34、35、36、37、又は38℃である。
【0038】
操作及びスケールアップが最も容易であるため、大抵の大規模な懸濁培養は、バッチ又は流加培養工程により行われる。しかしながら、灌流の原理に基づく連続法がより一般的になりつつある。本発明によれば、産生細胞は、灌流システムで培養される。細胞の灌流培養は、当該技術分野におけるその従来的な意味、すなわち、培養中に、細胞が分離装置により保持されており、ここで、分離前よりも細胞密度が低い液体が排出され、細胞培地が流入する、という意味を有する。灌流培養を用いるのは、高い細胞密度(例えば、10〜50×10生存細胞/mL)での細胞増殖という課題に応えるためである。2〜4×10生存細胞/mLを超えて密度を増大させるために、培地は、栄養不足を補い、且つ毒性産物を取り除くため、常に又は断続的に、新鮮なものの供給により置換される。灌流により、培養環境(pH、dO2、栄養レベル等)のより良好な制御も可能になる。培養物を通した新鮮な培地の灌流は、様々な分離装置(例えば、微細なメッシュのスピンフィルター、中空糸又は平板のメンブレンフィルター、沈降チューブ)を用いて細胞を保持することによって達成することができる。本発明の製造方法の好適な実施形態では、分離装置は、中空糸を備えるフィルターモジュールである。
【0039】
「中空糸」という用語は、管状のメンブレンを意味する。チューブの内径は、好適には0.3〜6.0mm、より好適には0.5〜3.0mm、最も好適には0.5〜2.0mmである。特定の実施形態では、メンブレンのメッシュサイズ(ポアサイズ)は、メッシュのポアのサイズが細胞の直径に近くなるように選択され、高い細胞保持性を確保しつつ、細胞片がフィルターを通過することができるようにする。他の実施形態では、メッシュサイズは、細胞の直径よりもかなり小さい。好適には、メッシュサイズは、0.1〜30μm、例えば、0.1〜3μm、例えば、約0.2μmである。中空糸を備えるフィルターモジュールは、例えばGeneral Electric(以前のAmersham)社から購入することができる。ウイルス顆粒は用いるメッシュサイズよりも小さいにもかかわらず、本発明の製造方法の間に排出される培地中には、観察されるアデノウイルス顆粒はほとんどない。
【0040】
灌流は、特定の代謝物を所望のレベルに維持し、培地中の不純物を低減するために、用いられる。灌流速度は、置換した容量/回数、又は特定の代謝物のレベルなど、様々な方法で測定することができ、灌流の期間中一定にしなければならない。
【0041】
灌流は、培養中常時行われるのではなく、一般的には培養中、所望時に時々だけ行われるのが、典型的である。例えば、グルコースなどの特定の培地の要素が枯渇し始め、置換する必要が生じた後でなければ、一般的に、灌流を開始しない。
【0042】
いくつかの灌流システムは当技術分野で知られており、原則として本発明の方法に適している。「灌流システム」という用語は、分離装置とそれに結合したバイオリアクターとの組み合わせを意味する。分離装置は、バイオリアクター内部に組み入れる(例えば、微細なメッシュのスピンフィルター)か、又はバイオリアクターの外部に置く(例えば、中空糸)ことができる。いずれの場合にも、上記説明の通り、分離装置はリアクターからの細胞集団の流出を防ぎ、培地交換を可能にする。
【0043】
発明者は、幾つかの灌流システムを用いたパイロット実験を行ったところ、交互接線流(ATF)灌流システムが最良の結果を与えた。そのため、本発明の好適な実施形態では、バイオリアクターは、ATF灌流システム(例えば、ATFシステム、Refine Technology, Co.,イーストハノーバー、ニュージャージー州)を用いて(に結合させて)行われる。このシステムは、中空糸の覆いの一端に装着されたダイアフラムポンプを含む。覆いの多端は接合部に取り付けられ、一方で、使えるポートを通じてバイオリアクターに結合される。ダイアフラムポンプ及び制御システムは、中空糸を通した交互接線流を生じさせる。これは、流れが出たり戻ったりする、中空糸のメンブレン表面と同じ方向(すなわち、接線方向)の一つの流れと、このフィルター表面と実質的に直交する方向のもう一つの流れとがあることを意味する。接線流は、当業者に知られ、例えば、米国特許第6544424号明細書に記載される方法により作り出すことができる。
【0044】
ATF灌流システムの操作についての記載がある(Furey,2002)。ATFシステムは、固定化したフィルターを用いることなく、細胞を、より長い時間培養し、高い細胞密度にすることを可能にする。実際、例えば、PER.C6細胞を用いた場合、ATF灌流システムを使用して、100×10生存細胞/mLを超える極端に高い細胞密度を得ることができる(例えば、Yallp et al参照)。しかしながら、以前の報告では、灌流システムにおけるPER.C6細胞は、全く異なる目的で用いられており、アデノウイルスに感染させてはいない。
【0045】
ATFシステムの追加的な利点は、このシステムが発生させる剪断応力が低いことである。エネルギーが液体表面に加えられて、これにより低剪断層流が発生する。これは、細胞をアデノウイルスで感染させる本発明に特有の利点となり得る。感染後にATFシステムを用いると、灌流プロセスの間、細胞密度の喪失は観察されず、未成熟細胞の喪失も観察されず、むしろ細胞増殖が観察された。細胞が損傷しない状態から、ウイルス増殖の最適条件を見出した。
【0046】
ATFシステムを用いた灌流は、非常に高い細胞密度を得ることができ、細胞を後のアデノウイルスによる感染について良好な条件とすることができ、高い収量の要因となり得るため、故に、前培養ステージ(本発明によるステップa)の間、有利である。この高い細胞密度とするために、特定の実施形態では、培地を、産生細胞の細胞増殖の間、断続的に、少なくとも部分的に灌流させる(ステップa)。特定の実施形態では、灌流は、細胞密度が約2×10生存細胞/mL〜8×10生存細胞/mLに達したときに開始される。
【0047】
更に、ATFシステムを用いた灌流は、感染させた細胞から非常に高い収量のアデノウイルスを得ることができるため、感染のステージ(本発明によるステップc)後、有利である。そのため、特定の実施形態では、本発明の工程の前培養ステージ及び感染後ステージの両方において、ATF灌流システムが用いられる。ATF中に用いられる培地の量は、当業者が容易に確立し、調節することができるように、細胞による需要により変えることができ、一般的に、0.5〜5容器容量/日(vol/d)、例えば、1−3vol/d、例えば、約2vol/dである。特定の有利な実施形態では、交換速度は、約1〜2vol/dであり、発明者らは本願明細書において、この速度により、得られるrAd26の量及び質、並びに培地の消費の点で非常に良好な結果が得られ、それ故に関係するコストが更に割安となることを、示す。
【0048】
最後に、ATF灌流システムは、拡張可能なシステムである。異なるサイズのATFユニットを用いることができる。エアフローを用いて培地を中空糸膜に通すため、非常に迅速且つ低剪断の接線流の速度を発生させることができ、この技術を、研究開発から最大1000Lのスケールの生産にまで、用いることが可能となる(Furey,2002)。更なる開発により、ATF灌流システムの更なるスケールアップが可能となるであろう。
【0049】
Yuk et alでは、rAd5は、腫瘍細胞株を用いて生産され、ここでは、全行程が1つのバイオリアクター中で行われ、産生バイオリアクター中で約8〜10日かかる。本発明の特定の実施形態では、二つの異なるバイオリアクターが用いられ、一つは前培養(ステップa;前培養バイオリアクター)に、一つは感染(ステップb)及び感染後培養(ステップc;産生バイオリアクター)に用いられる。これらのステップに二つの別々のバイオリアクターを用いることの利点は、約1.5〜6、一般的に、約4〜5日のバイオリアクター中での培養しか必要とされず、それ故に、1年当たりにより多くの稼働を行うことができることである。感染中に大量の新鮮な培地を加えることは、産生バイオリアクター中での灌漑の間に必要とされる培地の容量を低減するのに、更に有利である。代わりの実施形態では、本発明の全ステップa〜cを一つのバイオリアクターで行うこともできる。
【0050】
(感染)
本発明の方法では、産生細胞を組換えアデノウイルスに感染させる。一般的に、ウイルスを至適条件下の適切な産生細胞に当てて、ウイルスを取り込ませる。至適条件は、細胞のタイプ及び選択したアデノウイルスのタイプに依存する。当業者は、至適条件、すなわち、撹拌、pH、温度、溶存酸素(dO又はDO)、感染効率(MOI)を見出す方法を知っている。通常、至適な撹拌は、約50〜300rpm、一般的に、約100〜200、例えば、約150であり、一般的なDOは20〜60%、例えば、40%であり、至適pHは6.7〜7.7であり、至適温度は30〜39℃、例えば、34〜37℃であり、至適MOIは5〜1000、例えば、約50〜300である。一般的に、アデノウイルスは、自発的に産生細胞に感染するため、細胞の感染には産生細胞をrAd顆粒と接触させれば十分である。一般に、アデノウイルス種のストックを培養物に加えて感染を開始し、その後、アデノウイルスが産生細胞内で増殖する。このことは、当業者に自明である。
【0051】
本発明の特定の実施形態では、灌流は感染前に停止され、感染の1〜20時間後、例えば、3〜15時間後、例えば5時間後に再開される。この遅延により、ウイルス顆粒が細胞に侵入することができ、ウイルス顆粒がシステムから流出することを防ぐことができる。感染後、灌流の速度は、グルコースレベルを灌流により維持する観点から決定される。例えば、本発明では、培地中のグルコース濃度は、通常約2mmol/L〜20mmol/L、一般的に約5〜10mmol/Lの濃度に維持される。
【0052】
有利には、細胞当たりのウイルス産生能が高く保存しながら、バイオオリアクターを、高い細胞密度、すなわち、10×10生存細胞/mL超で、rAd26に感染させることができる。特定の実施形態では、約0.5×10〜1.5×10VP/細胞の特定の産生能が保持される。
【0053】
更に、本発明では、感染前の細胞培養物の生存率が、75%超に維持される。これは、培養物中の細胞の全量の少なくとも75%が、感染時に生存していることを意味する。特定の実施形態では、細胞培養物の生存率は、少なくとも80%であり、更なる実施形態では、少なくとも85%である。生存率は、当業者が実施することのできる通常の方法、例えば、トリパンブルー色素排除試験法、ケーシー細胞計測法を用いて、測定することができる。
【0054】
特定の実施形態では、感染時の細胞密度は、約10×10〜50×10生存細胞/mL、例えば、約10×10〜20×10生存細胞/mL、例えば、約10×10〜15×10生存細胞/mL、例えば、約10×10〜14×10生存細胞/mLである。これらの細胞密度により、細胞片及び宿主細胞のDNAの累積を制限しながら、ウイルス生産性を高くすることができ、アデノウイルスを回収する下流の処理においてこれらの実施形態の利点を得ることができる。このように、本発明は、rAd26製造の最適なプロセスを提供し、良質のrAd26顆粒を多数得ると同時に、下流の処理の目的に更に取り扱うことができる回収物を提供する。
【0055】
これらの細胞密度での感染により、更に高い濃度の組換えアデノウイルス、特にrAd26を産生し、これまでに開示されているrAd26の収量を超えることができる。本開示において初めて示されるように、高い細胞密度(例えば10×10生存細胞/mL)でのrAd5による感染とは対照的に、約10×10生存細胞/mLの濃度でのrAd26による感染は、灌流システムにより懸濁液の産生細胞を用いて、細胞密度を最大で少なくとも16×10生存細胞まで増加させることによって、rAd26の容量産生能を更に増加させる。本発明の好適な実施形態では、少なくとも1×1012ウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26を製造する方法を提供する。
【0056】
本発明の工程は、ヒトに投与されるべきアデノウイルスに関する重要なパラメータである、健康な顆粒と感染した顆粒との比(VP/IU)が30:1未満で、rAd26の回収をすることを可能にする。この値は、ウイルス顆粒(VP)/感染ユニット(IU)の比として、例えば、QPAアッセイ(Wang et al,2005)を用いて、測定することができる。かかる場合、同じ数の細胞を感染させるために、より少ないウイルス顆粒を投与するだけでよいため、より低い比が有利である。現在のFDA規制では、30:1未満のVP/IUの比が必要とされるところ、本願明細書に記載される本発明のプロセスは、この特別の要件を満たすrAd26を多数調製するのに適している。Yuk et al(2004)の著者は、本願明細書に開示される数よりも低い絶対数のウイルス顆粒を報告しており、更に、Yuk et al(2004)に開示される試料のVP/IUの比が約100(Yuk et al、2004、図2A/2B)である。対照的に、我々は、より高い絶対収量、更に、20:1未満のかなり良好なVP/IUの比を報告する。そのため、特定の好適な実施形態では、本発明のプロセスは、20:1より低い、例えば、約20:1〜約5:1のVP/IUの比を有するrAd26のバッチを提供する。
【0057】
(細胞の培養及び溶解方法)
アデノウイルスの感染後、ウイルスは、細胞内で増殖し、これにより増幅される。アデノウイルスの感染は、最終的に、感染した細胞の溶解を招く。このアデノウイルスの溶解性により、異なる二つのウイルス製造のモードをとることができる。第一のモードは、細胞を溶解するための外的因子を用いて、細胞溶解の前にウイルスを回収することである。第二のモードは、産生されたウイルスによる(ほぼ)完全な細胞溶解の後に、ウイルスの上澄みを回収することである(例えば、外的因子による宿主細胞の溶解なくアデノウウイルスを回収することを記載する、米国特許第6485958号明細書参照)。後者のモードでは、完全な細胞溶解と、それによる高いウイルス収量とを達成するために、より長いインキュベーション時間が必要である。更に、宿主細胞の内容物が培地中に徐々に漏れることは、得られるウイルスの均一性及び収量に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、本発明に従って、アデノウイルスの回収のために活性ある細胞を溶解させるために、外的因子を用いることが好ましい。
【0058】
活性ある細胞を溶解するために用いることができる方法は当業者に周知であり、例えば、国際公開第98/22588号、p.28−35に記載されている。この点につき有用な方法は、例えば、凍結乾燥、固体剪断、高張性及び/又は低張性溶解、液体剪断、超音波、高圧押出、界面活性剤による溶解、これらの組み合わせ等が挙げられる。本発明の一つの実施形態では、少なくとも1つの界面活性剤を用いて細胞を溶解する。溶解のために界面活性剤を用いることにより、方法が簡便となり、スケールアップが容易になるという利点が得られる。
【0059】
用いることができる界面活性剤、それが用いられる方法は、一般的に当業者に知られている。幾つかの例は、例えば、国際公開第98/22588号、p.28−33に記載されている。本発明で用いられる界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、双性イオン性、及び非イオン性の界面活性剤を含んでよい。界面活性剤の濃度は、例えば、約0.1%〜5%(w/w)の範囲内で、変化させることができることは、当業者に自明である。一つの実施形態では、用いられる界面活性剤はTritonX−100である。
【0060】
主に産生細胞、核酸のコンタミネーションを除くために、ヌクレアーゼを用いることができる。本発明に用いるのに適したヌクレアーゼの例は、ベンゾナーゼ(登録商標)、パルモザイム(登録商標)、又は当該技術分野において一般的に用いられるあらゆる他のDNase及び/又はRNaseである。好適な実施形態では、ヌクレアーゼはベンゾナーゼ(登録商標)であり、特定のヌクレオチド間の分子内ホスホジエステル結合を加水分解することによって核酸を迅速に加水分解し、細胞溶解液の粘度を低下させる。ベンゾナーゼ(登録商標)は、Merck KGaA(型番:W214950)から市販品を入手することができる。ヌクレアーゼが用いられる濃度は、好適には1〜100units/mLの範囲内である。
【0061】
産生細胞の培養物からアデノウイルスを回収する方法は、国際公開第2005/080556号に詳しく記載されている。
【0062】
本発明によれば、回収の時期は、感染後約24時間〜120時間、例えば、感染後約48〜96時間、例えば、感染後72時間である。
【0063】
(精製方法)
特定の実施形態では、回収されたアデノウイルスは、更に精製される。アデノウイルスの精製は、例えば、本願明細書に援用される国際公開第2005/080556号に記載されるように、清澄、限外濾過、ダイアフィルトレーション、又はクロマトグラフィーを用いた分離を含む、幾つかのステップで行うことができる。清澄は、細胞片及び他の不純物を細胞溶解液から除去する、濾過ステップにより行うことができる。限外濾過は、ウイルス溶液を濃縮するために用いられる。限外濾過膜を用いた、ダイアフィルトレーション又はバッファー交換は、塩類、糖類等の除去及び交換のための方法である。当業者は、各精製ステップの至適条件を見出す方法を知っている。また、本願明細書に援用される国際公開第98/22588号は、アデノウイルスベクターの製造及び精製方法を記載する。該方法は、宿主細胞の増殖、宿主細胞のアデノウイルスによる感染、宿主細胞の回収及び溶解、粗溶解物の濃縮、粗溶解物のバッファーの交換、溶解液のヌクレアーゼによる処理、及びクロマトグラフィーを用いたウイルスの更なる精製、を含む。
【0064】
精製を、例えば、国際公開第98/22588号、p.59−61に記載される、密度勾配遠心法により行うことができる。
【0065】
しかしながら、好適には、精製を、例えば、国際公開第98/22588号、p.61−70に記載される、少なくとも一つのクロマトグラフィーのステップを用いる。クロマトグラフィーのステップが該プロセスに含まれる、アデノウイルスの更なる精製のための多くのプロセスについての記載がある。これらのプロセスは当業者にとって自明であろうし、また、当業者はこのプロセスを最適化するためにクロマトグラフィーのステップを用いる実際の方法を変えることができる。
【0066】
例えば、アニオン交換クロマトグラフィーによりアデノウイルスの精製することが可能である。例えば、国際公開05/080556号を参照のこと。アデノウイルスの精製のために、少なくとも一つのアニオン交換クロマトグラフィーのプロセスを用いることが好適である。アニオン交換クロマトグラフィーのステップの後、ウイルスは十分に精製されたものとなり得る。しかしながら、特定の実施形態では、このプロセスの着実性を増すために、サイズ排除クロマトグラフィーのプロセスを更に行うことができる。このステップは、アニオン交換クロマトグラフィーのステップの前後に行うことができる。もちろん、他の精製ステップを、アニオン交換クロマトグラフィーのステップと適切に組み合わせることもできる。
【0067】
アデノウイルス精製のためのアニオン交換クロマトグラフィーの使用については、詳細な記載があり、故に、この点は十分に当業者の創作能力の範囲内にある。多くの異なるクロマトグラフィーマトリックスが、アデノウイルスの精製のために、適切に、用いられてきた。当業者は、例えば下記の技術を参照して、ウイルスを精製するのに最適なアニオン交換材料を容易に見つけることができる。
【0068】
米国特許第5837520号明細書(Huyghe et al.1995、Human Gene Therapy 6:1403−1416参照)は、アデノウイルスを精製する方法を記載しており、ここで、宿主細胞の溶解物は、ヌクレアーゼ、その後アニオン交換及び金属イオン親和性クロマトグラフィーにより処理される。
【0069】
米国特許第6485958号は、組換えアデノウイルスの精製のために、強力なアニオン交換クロマトグラフィーを用いることを記載している。
【0070】
アデノウイルス顆粒の精製のために、流動層カラムを備えたアニオン交換クロマトグラフィーが用いられている。国際公開第00/50573号参照。
【0071】
更に、アデノウイルス顆粒の精製のために、膨張層アニオン交換クロマトグラフィー、及びアニオン交換クロマトグラフィーのための特定のクロマトグラフィー樹脂が用いられている。米国特許第6586226号明細書参照。
【0072】
アニオン交換カラムに加えて、Pall(例えば、Mustang(登録商標)シリーズ)及びSartorius(例えば、Sartobindシリーズ)により製造されるもの等の、アニオン交換膜クロマトグラフィー製品が適している。これらのフィルターの使用、及びそのアデノウイルス精製における利点については、国際公開第03/078592号及び国際公開第2005/080556号を参照のこと。
【0073】
米国特許第6537793号明細書は、アデノウイルス顆粒を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて宿主細胞から精製することを記載しており、特に、QセファロースXLタイプのクロマトグラフィー担体がこの目的に好適であることを教示する。本発明の一つの実施形態では、アデノウイルスは、QセファロースXLカラムを用いて更に精製される。
【0074】
精製プロセスは、サイズ排除クロマトグラフィーのステップを適切に用いることもできる。
【0075】
国際出願である国際公開第97/08298号は、ウイルスの損傷を防ぐために、アニオン交換及びサイズ排除のステップを含む特定のクロマトグラフィーマトリックスを用いて、アデノウイルスを精製することを記載する。米国特許第6261823号明細書は、アデノウイルスの精製方法を記載し、ここでは、アデノウイルスの調製物をアニオン交換クロマトグラフィー、その後のサイズ排除クロマトグラフィーに供する。サイズ除外のステップでは、低分子量の不純物から一群のウイルス顆粒を分画することができる。
【0076】
アデノウイルスを精製するためにヒドロキシアパタイト培地を用いることもできる。国際公開第02/44348号参照。
【0077】
例えば、国際公開第03/097797号に記載されるように、逆相の吸着のステップを用いることもできる。
【0078】
国際出願である国際公開第97/08298号は、ウイルスの損傷を防ぐために、アニオン交換及びサイズ排除のステップを含む特定のクロマトグラフィーマトリックスを用いて、アデノウイルスを精製することを記載する。
【0079】
国際公開第2006/108707号に記載されるように、特定の限外濾過法もアデノウイルスの精製に適している。かかるステップは特定のクロマトグラフィーの精製ステップに加えて又はそれと共に行うことができる。
【0080】
細胞密度が高い培養物由来のアデノウイルス向けの、更に有利な精製方法は、本願明細書にその全体が援用される、2009年10月15日に出願された欧州特許出願である、欧州特許出願公開第09173090.3号明細書及び欧州特許出願公開第09173119.0号明細書に、出願人により記載されている。
【0081】
(製薬学的調製物の調製)
特定の実施形態では、精製されたアデノウイルスは、製薬学的組成物に製剤化される。これは、様々な方法により、様々なバッファーを用いて、行うことができ、全て当業者に周知の通常の方法である。一般にそれは、アデノウイルス顆粒を、アデノウイルス及び少なくとも一つの製薬学的に許容可能な賦形剤を含む、製薬学的に許容可能な組成物に入れることを伴う。かかる組成物は、当業者に知られた条件で調製することができ、特定の実施形態ではヒトに対する投与に適している。
【0082】
例えば、アデノウイルスは、Adenovirus World Standard(Hoganson et al, Development of a stable adenoviral vector formulation, Bioprocessing March 2002,p。43-48)にも用いられるバッファー:20mM Tris pH 8、25mM NaCl、2.5%グリセロール、中に画分され、最終的に保存される間、バッファー交換することができる。
【0083】
もちろん、多くの他のバッファーを用いることができ、適した、精製された(アデノ)ウイルス調製物の、保存用製剤及び製薬学的投与の幾つかの例は、例えば、欧州特許出願公開第0853660号明細書、及び国際特許出願である国際公開第99/41416号、国際公開第99/12568号、国際公開第00/29024号、国際公開第01/66137号、国際公開第03/049763号に見つけることができる。
【0084】
特定の実施形態では、アデノウイルスベクターはワクチンとして用いられ、これらは、一般的に製薬学的に許容可能な担体又は賦形剤、及び/又は希釈剤中に担持される。製薬学的に許容可能な担体又は賦形剤及び希釈剤は、当技術分野で周知であり、幅広い治療薬によく用いられる。好適には、ワクチンで良好に作用する担体が適用される。より好適には、ワクチンはアジュバンドを更に含む。アジュバンドは、投与された抗原決定基に対する免疫反応を更に強くすることで、当技術分野において知られており、アデノウイルス及びリン酸アルミニウムのアジュバンドを含む製薬学的組成物は、例えば、国際公開第2007/110409号に記載されている。
【0085】
ヒトに対して投与するために、本発明は、rAd及び製薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む製薬学的組成物を用いることができる。本願明細書では、「製薬学的に許容可能」という用語は、担体又は賦形剤が、用いられる用量及び濃度で、投与される被験者にいかなる望まれない又は有害な効果をも生じさせないことを意味する。このような製薬学的に許容可能な担体及び賦形剤は当技術分野で周知である(Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. R. Gennaro, Ed., Mack Publishing Company [1990]; Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins, S. Frokjaer and L. Hovgaard, Eds., Taylor & Francis [2000]; and Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd edition, A. Kibbe, Ed., Pharmaceutical Press [2000]参照)。凍結乾燥した調整物を用いることも本発明の範囲であるが、精製したrAdは、好適には、滅菌溶液として製剤化及び投与される。滅菌溶液は、滅菌フィルトレーション又はそれ自体が当技術分野で知られる他の方法により調製される。溶液はその後凍結乾燥されるか、又は製薬学的な用量のコンテナに充填される。溶液のpHは一般的に、pH3.0〜9.5、例えば、pH5.0〜7.5の範囲にある。rAdは一般的には適切な製薬学的に許容可能なバッファーを有する溶液内にあり、rAdの溶液は塩も含有してよい。任意選択的に、アルブミンなどの安定剤も存在させることもできる。特定の実施形態では、界面活性剤が加えられる。特定の実施形態では、rAdは注射可能な調製物に製剤化される。これらの製剤は、有効量のrAdを含有し、また、滅菌液状溶液、液状懸濁液、又は凍結乾燥したもののいずれかであり、任意選択的に安定剤又は賦形剤を含有する。
【0086】
本発明は、アデノウイルスベクター、特にrAd26を非常に高い収率で製造するための方法を開示し、我々が知る限り本願明細書で得られ、開示される収率はこれまでに報告されていない。本発明のプロセスでは、バイオリアクターが用いられ、非常に高い容量当たりのアデノウイルス数を有するこのバイオリアクターが本発明の直接(中間)の生成物である。故に、本発明は、培地、産生細胞、及び少なくとも1×1012ウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26を含み、2L〜2000L、好適には10L〜1000Lの作業容量を有するバイオリアクターを提供する。培地は、上記の、細胞の増殖及びアデノウイルスによる感染に適したあらゆる培地とすることができる。バイオリアクターの容量の態様、産生細胞、rAd26顆粒の数、及びVP/IU比は、本発明の方法に関する上記の通りである。好適な実施形態では、バイオリアクターはATF灌流システムに結合される。
【0087】
更に別の態様では、本発明は、少なくとも1×1012ウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26を製造する方法を提供し、該方法は、a)灌流システムを用いて懸濁液中で産生細胞を培養する工程;b)10×10生存細胞/mL〜16×10生存細胞/mLの密度で、細胞をrAd26に感染させる工程;c)灌流システムを用いて感染細胞を更に培養して、rAd26を増殖させ、ここで、rAd26ウイルス顆粒の濃度は少なくとも1×1012VP/mLに達する工程;d)rAd26を回収する工程、を含む。
【0088】
本開示前には、このような高い収率を達成する方法はもちろん、rAd26がこのようなrAd26の高い収率が実現可能であることは全く知られていなかった。本願発明は、これらの収率が、本願明細書に開示される方法により可能となることを開示する。好適には、増殖させたrAd26について、健康な顆粒と感染した顆粒との比は30:1未満である。有利な更なる実施形態は、上記の本発明による方法について記載された通りである。
【0089】
本発明を下記の実施例により更に説明する。実施例は決して本発明を限定するものではなく、単に本発明を明確にするためのみのものである。
【実施例】
【0090】
(実施例1:高細胞密度でのAd5ベクターによる感染)
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を、解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。1.5Lの容量、及び0.2〜0.5×10生存細胞/mLの細胞密度で、2Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を3〜4日おきに行った。37℃、DO(溶存酸素)40%、及びpH7.3の条件のバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。細胞密度が計4.7×10細胞/mLとなった時点で、ATF灌流プロセスを開始した。ATFは、Refine Technology,Co.(イーストハノーバー、ニュージャージー州)から入手した。89時間後、細胞密度は、計12.4×10細胞/mLに達した。この時点で、細胞の一部を回収し、細胞を300gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを、新しい無血清培地中に下記の濃度で再懸濁させた:
− 1.3×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
− 10×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
− 20×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
− 30×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
振盪器を、90VP/細胞のMOIの条件で、Ad5.C5(rAd5ベクターの1つ;Shott et al、2008)を用いて感染させ、36℃、10%二酸化炭素、及び100rpmの条件でインキュベートした。10、20及び30×10生存細胞/mLで感染させた振盪器に関しては、感染後1、2日目に、培地交換を行った。この培地交換は、300gで5分間の遠心分離工程、及び各振盪器当たり30mLの新しい培地中に、細胞ペレットを再懸濁する工程、により行った。感染後3日目に、振盪器を回収し、AEX−HPLC分析用に試料採取した。回収物の細胞溶解を、各振盪器の試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションすることにより行った。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、産生したウイルス顆粒の数(VP/mL)を決定するためにAEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下で保存した。
【0091】
10×10生存細胞/mLの細胞密度での感染による容量収量は、1×10生存細胞/mLの場合よりも10倍高かった。より低い細胞密度を用いる先行文献において細胞密度効果が報告されていたものの、これは、いくらか予期しないものであった。しかしながら、10×10細胞/mLを超えると、細胞密度効果は観察されず、容量収量は減少した。このように、組換えAd5を用いた場合、灌流システムにおいて細胞密度効果が見られる。
【0092】
(実施例2:低細胞密度(1〜1.6×10生存細胞/mL)でのrAd35ベクターによる感染)
実施例1では、rAd5を用いた。しかしながら、異なるアデノウイルス血清型が、知られ、異なる目的で記載されている。これらの血清型は、異なる特性を有し、そのため、ある血清型に有用なプロセスが、必ずしも常に別の血清型に適してはいない。これは、特に、小さな差が経済的に非常に重要となり得る、工業規模のプロセスにおいて重要である。例えばワクチンの用途において特に有利な血清型の一つは、Ad35であり、以下の実施例ではrAd35の収量を向上させ、大量のrAd35を得ることの実現可能性を試験した。この実施例は、低細胞密度でrAd35ベクターを用いて感染させた例を、細胞をより高い細胞密度で感染させた下記の実施例と比較して示す。
【0093】
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。5Lの容量、及び0.2〜0.35×10生存細胞/mLの細胞密度で、10Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件のバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。播種後4日目に(細胞密度が2〜3.5×10生存細胞/mLに達したときに)、細胞懸濁液を5Lの新しい培地で希釈し、その後70VP/細胞のMOIの条件で、rAd35.TB−S(rAd35ベクター;Radosevic et al、2007)に感染させた。36℃、pH7.3、及びDO40%の条件で、ウイルスを増殖させた。感染3日後に、バイオリアクターから、細胞計数及びウイルス産生評価のために試料採取した。ウイルスを取り出すため、各バイオリアクターの試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下の温度で保存した。合計で10個のバイオリアクター実験を行い、上記プロセスに従って分析したところ、これらの実験から一貫性のある結果(未公表)が得られた。ウイルス顆粒産生量の平均は、2.3×1011VP/mLであった。
【0094】
約1.5×1019VPという年間需要のためには、かかる収率では約65000Lも処理されなければならない。これは、ワクチン開発の間、大規模な施設、及びそれ故に巨額の先行投資が必要となるであろう。
【0095】
(実施例3:高細胞密度(>10×10生存細胞/mL)でのrAd35ベクターによる感染プロセスの実現可能性試験)
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。1.5Lの容量、及び0.2〜0.5×10生存細胞/mLの細胞密度で、2Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件のバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。細胞密度が計6.8×10細胞/mLに達した時点で、ATFシステムを用いて培地の灌流を開始した。70時間後、細胞密度が計36.8×10細胞/mLに達した。この時点で、下記の感染を行った:
・下記の細胞密度での振盪器中における感染:
・1.3×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・10×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・20×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・30×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・計8.7×10細胞/mLでの2Lバイオリアクタースケールにおける感染(生存率84%)
・バイオリアクターにおける感染の1時間後、試料をバイオリアクターから採取し、
2つの250mL振盪器に移した;30mL/振盪器
250mL振盪器中における感染処理については、2Lバイオリアクター由来の細胞懸濁液の一部を回収し、この懸濁液を300gで5分間遠心分離した。細胞ペレットを、新しい無血清培地中に上記の濃度で再懸濁させた。振盪器を、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad35.TB−Sに感染させ、36℃、10%二酸化炭素、及び100rpmの条件でインキュベートした。10、20及び30×10生存細胞/mLで感染させた振盪器に関しては、感染後1、2日目に、培地交換を行った。この培地交換は、300gで5分間の遠心分離工程、及び各振盪器当たり30mLの新しい培地中に、細胞を再懸濁する工程、により行った。感染後3日目に、振盪器を回収し、AEX−HPLC分析用に試料採取した。回収物の細胞溶解を、各振盪器の試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションすることにより行った。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下で保存した。
【0096】
2Lバイオリアクター中の残りの細胞を新しい無血清培地を用いて、細胞濃度が計8.7×10細胞/mL(生存率84%)になるように、希釈した。バイオリアクターを、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad35.TB−Sを用いて感染させ、36℃、pH7.3、及びDO40%の条件でインキュベートした。感染15時間後に、ATFシステムを、1日当たり1バイオリアクター容量の培地交換速度で始動させた。感染後1、2、3及び4日目に、バイオリアクターから、細胞計数(CASY細胞計数)及びAEX−HPLCによるウイルス産生評価のために試料採取した。試料調製を上記の通り行った。AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下で保存した。
【0097】
バイオリアクターの感染の約1時間後に、少なくとも60mLの試料を2Lバイオリアクターから取り出し、(250mL振盪器中における)2種類の感染を各振盪器につき30mLの量で開始した。感染1及び2日目に、灌流システムを模倣するために、培地交換を行った。この培地交換は、300gで5分間の遠心分離工程、及び各振盪器当たり30mLの新しい培地中に、細胞を再懸濁する工程、により行った。感染後3日目に、振盪器を回収し、AEX−HPLC分析用に試料採取した。試料調製を上記の通り行った。AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下で保存した。
【0098】
結果を図2に示す。結果は、1.3×10生存細胞/mLから30×10生存細胞/mLの間での感染が可能であることを示す。rAd5を用いた結果とは対照的に、rAd35の合計収量は、感染時の細胞密度の増加に伴って、約10×10生存細胞/mLを超えた試料においても、増加した。30×10生存細胞/mLでは、1.4×1012VP/mLの容量収量に達した。この結果は、高い細胞密度、例えば、10×10生存細胞/mL以上でのAd35.TB−Sによる感染が可能であることを明確に示す。30×10生存細胞/mLでも、感染により高い容量収量が得られた。1.3×10細胞における120,000VP/細胞から、30×10生存細胞/mLにおける47,000VP/細胞に、単位当たりの産生能に減少が見られることに注意を要する。振盪器を細胞懸濁液から始め、バイオリアクター内で感染させ、8.0×1011VP/mLの回収量及び92,000VP/細胞の単位当たりの産生能を示す。2Lバイオリアクターにおける結果は、いくらか低い:5×1011VP/mLの回収量が得られ、単位当たりの産生能は57,000VP/細胞である。
【0099】
(実施例4:バイオリアクターにおける高細胞密度でのrAd35ベクターによる感染実験)
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。2Lの容量、及び0.59×10生存細胞/mLの細胞密度で、播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件下、2Lバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。細胞密度が合計約2.9×10細胞/mLに達したとき(播種後4日目)、ATFシステムを開始した。118時間の灌流後、細胞密度は計29×10細胞/mLに達した。この時点で、細胞懸濁液の一部を回収し、残りの細胞を、新しい培地を用いて、16.4×10細胞/mLの細胞密度(生存率82%のため13.4×10生存細胞/mL)にまで、2Lバイオリアクター中で希釈した。その後、2Lバイオリアクターを、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad35.TB−Sに感染させ、36℃、pH7.3、及びDO40%の条件でインキュベートした。感染15時間後に、ATFシステムを、1日当たり2容器容量の培地交換速度で始動させた。感染後1、2、及び3日目に、2Lバイオリアクターから、細胞計数及びAEX−HPLCによるウイルス産生評価のために試料採取した。ウイルスを回収するために、試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下の温度で保存した。結果を表1に示す。
【0100】
結果は、灌流システムを結合させたバイオリアクターにおける10×10生存細胞/mLを超える細胞密度での感染が実現可能であること、及びバッチ処理(実施例2)と比較してほぼ10倍容量収量を増加させることが可能であること、を実証した。感染培養物の早期の細胞喪失は観測されず、ATF処理が感染細胞を培養するために適切なシステムであることを示唆した。
【0101】
実施例4(1)の結果
【表1】

【0102】
rAdバッチに関するFDA基準は、VP/IU比<30である。QPA(Q−PCRベースの効力解析;Wang et al,2005)分析は、全てのサンプルがこの基準を満たすことを示した。対照的に、Yuk et al(2004)に開示される試料は、約100(図2A/2B)のVP/IU比を有する。健康な顆粒と感染顆粒との比は、アデノウイルスに関する重要なパラメータであり、rAdバッチについてはより低い比が好ましい。この実施例で調製されたバッチは、一貫して10:1未満の低い比を有する。
約1.5×1019VPの年間需要のためには、2×1012VP/mLの収率では7500Lの回収物が処理される必要があるに過ぎない。これらの量は、1000L以下の設備で処理することができ、故にワクチン開発の間、先行の費用負担を低減するであろう。
【0103】
2)2Lバイオリアクターにおける更なる実験
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。計0.44×10生存細胞/mLの細胞密度で、2Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件下、2Lバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。播種後4日目に、細胞密度が合計約2.72×10細胞/mLになったとき、ATFシステムを開始させた。144時間の灌流後、細胞密度は合計30.5×10細胞/mLに達した。この時点で、細胞懸濁液の一部を回収し、残りの細胞を、新しい培地を用いて、合計16.2×10細胞/mLの細胞密度(生存率81%のため13.1×10生存細胞/mL)にまで、2Lバイオリアクター中で希釈した。その後、2Lバイオリアクターを、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad35.TB−Sに感染させ、36℃、pH7.3、及びDO40%の条件でインキュベートした。感染5時間後に、ATFシステムを、1日当たり2容器容量の培地交換速度で始動させた。感染後2、3、及び4日目に、2Lバイオリアクターから、細胞計数及びAEX−HPLCによるウイルス産生評価のために試料採取した。ウイルスを回収するために、試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下の温度で保存した。結果を表2に示す。
【0104】
実施例4(2)の結果
【表2】

【0105】
この結果は、灌流システムに結合したバイオリアクターにおける10×10生存細胞/mLを超える細胞密度での感染が実現可能であること、及びバッチ処理(実施例2)と比較してほぼ10倍容量収量を増加させることが可能であること、を再び実証した。更に、この実施例により、感染後の灌流速度は、ウイルス産生量を落とすことなく、1日当たり2容量収量にまで限定することができることが実証された。
【0106】
約1.5×1019VPという年間需要のためには、約2×1012VP/mLの収率では7500L未満の回収物が処理される必要があるに過ぎない。これらの量は、1000L以下の設備で処理することができ、故にワクチン開発の間、先行の費用負担を低減するであろう。
【0107】
3)50Lバイオリアクターにおける更なる実験
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。0.52×10生存細胞/mLの細胞密度で、10Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件下、10Lバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。細胞密度が合計約5.3×10細胞/mLに達したとき(播種後4日目)、ATFシステムを開始した。169時間の灌流後、細胞密度は計77×10細胞/mLに達した。この時点で、10Lの細胞懸濁液を、新しい培地を用いて、計15.5×10細胞/mLの細胞密度(生存率81%のため12.6×10生存細胞/mL)にまで、50Lバイオリアクター中で希釈した。その後、50Lバイオリアクターを、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad35.TB−Sに感染させ、36℃、pH7.3、及びDO40%の条件でインキュベートした。感染5時間後に、ATFシステムを、1日当たり2容器容量の培地交換速度で始動させた。感染後2及び3日目に、50Lバイオリアクターから、細胞計数及びAEX−HPLCによるウイルス産生評価のために試料採取した。ウイルスを回収するために、試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下の温度で保存した。結果を表3に示す。
【0108】
実施例4(3)の結果
【表3】

【0109】
この結果は、灌流システムを結合した50Lバイオリアクターにおける10×10生存細胞/mLを超える細胞密度での感染が実現可能であること、及びバッチ処理(実施例2)と比較してほぼ10倍容量収量を増加させることが50Lスケールにおいて可能であること、を実証した。このように、開発したプロセスをスケールアップすることができることが示された。ウイルスの年間需要を満たすために、1年当たりに処理しなければならない回収量を、このプロセスを用いて製造することができる。約1.5×1019VPという年間需要のためには、約2×1012VP/mLの収率では7500L未満の回収物が処理される必要があるに過ぎない。これらの量は、1000L以下の設備で処理することができ、故にワクチン開発の間、先行の費用負担を低減するであろう。
【0110】
(実施例5:低細胞密度(1〜1.6×10生存細胞/mL)でのrAd26による感染)
この実施例は、CSマラリア導入遺伝子を含むrAd26ベクター(rAd26.CS)を用いた低い細胞密度での感染を、細胞を高い細胞密度で感染させる後の実施例と比較して、示す。
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。5Lの容量、及び0.25〜0.35×10生存細胞/mLの細胞密度で、10Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件下、バイオリアクター内で、細胞を増殖させた。播種後3日目(細胞密度が1〜2.1×10生存細胞/mLに達したとき)、この細胞懸濁液を新しい5Lの培地を用いて希釈し、その後、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad26.CSを用いて感染させた。ウイルス増殖を、36℃、pH7.3、及びDO40%の条件で行った。感染後3日目に、バイオリアクターから、細胞計数及びAEX−HPLCによるウイルス産生評価のために試料採取した。ウイルスを回収するために、各バイオリアクターの試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下の温度で保存した。合計で5つのバイオリアクターの試験を、上記プロセスに従って行い、分析したところ、これらの試験から一貫した結果(未公表)を得た。ウイルス顆粒産生量の平均は、7.6×1010VP/mLであった。
約1.5×1019VPという年間需要のためには、かかる収率では年間約197000Lの回収物が処理されなければならない。これは、ワクチン開発の間、大規模な施設、及びそれ故に巨額の先行投資が必要となるであろう。
【0111】
(実施例6:rAd26による高細胞密度での感染の実現可能性)
Ad35による高細胞密度での感染の実現可能性を前述の通り評価し、また、Ad35の製造をスケールアップさせることができることを示した。アデノウイルスの血清型間でかなりの差が存在するため、ここで、高細胞密度の培養物を感染させることによるAd26の産生が実現可能かどうか試験した。
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。1.5Lの容量、及び0.5×10の細胞密度で、2Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO(溶存酸素)40%、及びpH7.3の条件のバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。細胞密度が計3.6×10細胞/mLとなった時点で、ATF灌流処理を開始した。120時間後、細胞密度は、計21.6×10細胞/mLに達した。この時点で、細胞の一部を回収した。細胞を300gで5分間遠心分離し、細胞ペレットを、新しい無血清培地中に下記の濃度で再懸濁させた:
・ 1.3×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・ 10×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・ 20×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
・ 30×10生存細胞/mL、30mL/振盪器、2つの250mL振盪器
振盪器を、70VP/細胞のMOIの条件で、Ad26.CSを用いて感染させ、36℃、10%二酸化炭素、及び100rpmの条件でインキュベートした。10、20及び30×10生存細胞/mLで感染させた振盪器に関しては、感染後1、2日目に、培地交換を行った。この培地交換は、300gで5分間の遠心分離工程、及び各振盪器当たり30mLの新しい培地中に細胞を再懸濁する工程、により行った。感染後3日目に、振盪器を回収し、AEX−HPLC分析用に試料採取した。回収物の細胞溶解を、各振盪器の試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションすることにより行った。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLCによる分析を行うまで、試料を−65℃以下で保存した。結果は、表3に示されるが、Ad26を用いた30×10生存細胞/mLまでの細胞密度でのAd26による感染が実現可能であることを示す。rAd26の容量収量は例えば、Ad5を用いて得られる収量よりも高い。
【0112】
rAd35を用いた結果とは対照的に、10×10生存細胞/mLより高い細胞密度で、細胞密度効果が観察された。実際、rAd26の収量は、感染時の細胞密度が10×10生存細胞/mLを超えるまで増加したときには増加し、20×10〜30×10生存細胞/mLの範囲では減少する。
【0113】
観察された細胞密度効果に基づいて、感染時の最適な細胞密度をAd26について決定することができる。前出の最適濃度は、10〜16×10生存細胞/mLの範囲内にある。前出の範囲の細胞に感染させることによって得られたrAd26の容量収量は、低細胞密度で(例えば、バッチシステムで)細胞を感染させて得られた容量収量と比較して、かなり高かった。実際、実施例5において低細胞密度で得られた収量は、7.6×1010VP/mLに匹敵し、一方、感染時に高細胞密度の場合は、収量は、最大で1〜2×1012VP/mLに達した(実施例7参照)。前出の範囲での感染により、大規模製造で用いることができる生産性の高いプロセスを手に入れることを可能になる。
【0114】
(実施例7:バイオリアクターにおけるrAd26を用いた高細胞密度での感染)
PER.C6(登録商標)作業用細胞バンクから入手した細胞を解凍し、37℃、10%二酸化炭素条件の加湿インキュベーター内において、無血清培地中で増殖させた。合計0.6×10生存細胞/mLの細胞密度で、2Lバイオリアクターに播種するために十分な細胞密度に達するまで、継代培養を、3〜4日おきに行った。37℃、DO40%、及びpH7.3の条件下、2Lのバイオリアクター内で、細胞を増殖させた。播種後2日目に、細胞密度が約2×10生存細胞/mLになったとき、ATFシステムを開始した。灌流7日後、細胞密度が合計で19.1×10細胞/mLに達した。この時点で、細胞懸濁液の一部を回収し、残りの細胞を、新しい培地を用いて、16.5×10細胞/mLの細胞密度(生存率80%のため13.1×10生存細胞/mL)にまで、2Lバイオリアクター中で希釈した。その後、2Lバイオリアクターを、70VP/細胞のMOIの条件で、rAd26.CSに感染させ、36℃、pH7.3、及びDO40%の条件でインキュベートした。感染5時間後に、ATFシステムを、1日当たり2容器容量の培地交換速度で始動させた。感染後3、4、5及び6日目に、2Lバイオリアクターから、細胞計数、並びにAEX−HPLC及びQPAによるウイルス産生評価のために試料採取した。ウイルスを回収するために、試料溶液1mLを100μLの10%Triton X−100と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、試料を2.42μLのベンゾナーゼ(登録商標)/MgClと混合し、その後37℃で30分間のインキュベーションを行った。最後に、100μLの50%スクロースを試料に加えた。2500gで5分間遠心分離を行った後、AEX−HPLC及びQPAによる分析を行うまで、試料を−65℃以下の温度で保存した。結果を表4に示す。
【0115】
実施例7の結果
【表4】

これらの結果は、灌流システムと結合したバイオリアクターにおいて、10×10から16×10生存細胞/mLの間の細胞密度での、rAd26の感染が、実現可能であること、及びバッチ処理(実施例5に示す)と比較して20倍を超えて、容量収量を増加させることが可能であること、を初めて実証した。
【0116】
約1.5×1019VPという年間需要のためには、約2×1012VP/mLの収率では、7500L未満の回収物が処理される必要があるに過ぎない。これらの量は、1000L以下の設備で処理することができ、故にワクチン開発の間、先行の費用負担を低減するであろう。
【0117】
感染後の細胞成長を比較すると、Ad26による感染の後、細胞は速く増殖する傾向があり、一方、Ad35による感染の後、細胞は増殖を停止する。実際、12×10生存細胞/mLの濃度でAd26に感染させた細胞は、3日後に最大で22×10生存細胞/mLまで更に増殖した(図4)。Ad35による感染の後、12×10生存細胞/mLの密度で感染させた細胞は、2日目に最大限にまで更に増殖し、3日後に14×10生存細胞/mLの密度に低下した(図5)。このように、Ad26はAd35とは異なった増殖をする。上記の細胞密度効果と共に、これは、異なった血清型(Ad5、Ad35及びAd26)組換えアデノウイルス間で、細胞内での増殖について明確な差異があることを示し、この差異は、これらの血清型由来の薬剤をつくるための工業規模のプロセスに対して影響を及ぼす。
【0118】
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【受託番号】
【0119】
ECACC受託番号:96022940

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノウイルス血清型26(rAd26)の製造方法であって、該方法は:
a)灌流システムを用いて、産生細胞を懸濁液中で培養する工程と、
b)10×10生存細胞/mL〜16×10生存細胞/mLの密度で前記細胞をrAd26に感染させる工程と、
c)灌流システムを用いて、前記感染させた細胞を更に培養して、前記rAd26を増殖させる工程と、
d)前記rAd26を回収する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程b)における前記細胞を、10×10生存細胞/mL〜14×10生存細胞/mLの密度で、rAd26に感染させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)における前記灌流システムは、交互接線流(ATF)灌流システムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
e)前記rAd26を精製する工程と、任意選択的に、
f)前記精製したrAd26を含む製薬学的組成物を調製する工程と、
を更に含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えアデノウイルスは、E1領域の少なくとも一部を欠損し、且つ異種核酸を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)における前記灌流システムは、交互接線流(ATF)灌流システムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)を、第一バイオリアクター内で行い、工程b)及びc)を第二バイオリアクター内で行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記製造されたrAd35の、健康な顆粒と感染した顆粒との比(VP/IU)は、30:1未満、好適には20:1未満であることを特徴とする、請求項1〜7のいいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
培地、産生細胞、及びウイルス顆粒を含むバイオリアクターであって、前記バイオリアクターは、2L〜1000L、好適には50L〜500Lの作業容量を有し、前記バイオリアクターは少なくとも1×1012ウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26を有することを特徴とするバイオリアクター。
【請求項10】
ATF灌流システムに結合されたことを特徴とする、請求項9に記載のバイオリアクター。
【請求項11】
前記rAd26ウイルス顆粒は、30:1未満、好適には20:1未満のVP/IU比を有することを特徴とする、請求項9又は10に記載のバイオリアクター。
【請求項12】
少なくとも1×1012ウイルス顆粒(VP)/mLのrAd26の製造方法であって:
a)灌流システムを用いて、懸濁液中で産生細胞を培養する工程と、
b)10×10生存細胞/mL〜16×10生存細胞/mLの密度で、前記細胞を、rAd26に感染させる工程と、
c)灌流システムを用いて感染させた細胞を更に培養して、前記rAd26を増殖させ、ここで、rAd26ウイルス顆粒の濃度は少なくとも1×1012VP/mLに達する工程と、
d)前記rAd26を回収する工程と、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−519366(P2013−519366A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552419(P2012−552419)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052109
【国際公開番号】WO2011/098592
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(301055549)クルセル ホランド ベー ヴェー (27)
【Fターム(参考)】