説明

Al−Cu合金の均質化方法

【課題】Al−Cu合金内においてCu(溶質元素)を均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にするための均質化方法を提供する。
【解決手段】Al−Cu合金に対して、200℃以上、350℃以下の温度で4〜14時間加熱した後、冷却する均質化処理を行う。Al−Cu合金からスパッタリングターゲットを製造する場合には、Al−Cu合金(スラブ)を熱処理炉に入れて、本発明に係る均質化処理を施した後、一対の圧延ローラ10・10を備えた圧延機を用いて当該Al−Cu合金に圧延処理(冷間圧延)を行って圧延板に加工する。次いで、当該圧延板を熱処理炉に入れて再加熱処理(焼き鈍し処理・歪み取り処理)を施して目的の圧延板を形成した後、打ち抜き加工等を施して、円盤状のスパッタリングターゲット11…を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−Cu合金の均質化方法に関するものであり、より詳しくは、Al−Cu合金内においてCu(溶質元素)を均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にするための均質化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LSI等の電子デバイスでは、Alを主成分とする配線層が用いられており、当該配線層は、Alを主成分とするスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法を行うことによって形成されている。
【0003】
Alを主成分とするスパッタリングターゲットでは、得られる配線層の機械的特性等を向上させるために、Al以外の元素を少量添加することが行われている。そして、そのなかでも、Cuを少量添加したAl−Cu合金がスパッタリングターゲットとして特に好適に用いられている。
【0004】
ところが、スパッタリング法を行うことによって配線層を形成すると、Al−Cu合金を構成するCu(溶質元素)は、当該配線層内において例えば1μm程度の直径の粒子として析出することが知られている。上記Cuの析出は、配線の幅が1μm程度に微細化している近年のLSI等の電子デバイスにおいては断線や短絡を生じさせ、当該電子デバイスの信頼性を損なう要因となっている。
【0005】
それゆえ、配線の信頼性、即ち、電子デバイスの信頼性を高めるべく、析出するCuの粒子の大きさを小さくするために、Al−Cu合金内においてCuを均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にする方法が種々提案されている。つまり、配線層におけるAl−Cu合金の組成および固溶状態は、スパッタリングターゲットにおけるAl−Cu合金の組成および固溶状態と精度良く一致させることができるため、スパッタリングターゲットにおけるAl−Cu合金内においてCuを均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にする均質化方法が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。具体的には、例えば、特許文献1では、Cuを含むAl合金を500℃〜650℃の温度で30分間加熱し、急冷した後、再度、加熱処理する均質化方法が提案されている。
【0006】
また、一般的に、Al−Cu合金の均質化処理は、400℃〜620℃の温度範囲内で行われている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平5−335271号公報(1993年12月17日公開)
【特許文献2】特許公報第2830662号(1998年9月25日登録)
【特許文献3】特許公報第3096699号(2000年8月11日登録)
【非特許文献1】「アルミニウム材料の基礎と工業技術」,社団法人 軽金属協会 「アルミニウム材料の基礎と工業技術」編集委員会編・発行,52〜55頁(1998年6月25日 第1版第3刷発行)
【非特許文献2】「新版/アルミニウム技術便覧」,社団法人 軽金属協会 アルミニウム技術便覧編集委員会編,カロス出版株式会社発行,432〜433頁(1996年11月18日 新版第1刷発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記種々提案されている均質化方法を採用してもなお、配線の細線化が近年急速に進んでいるLSI等の電子デバイスに対して好適な、スパッタリングターゲットを得ることができないという問題点を有している。つまり、上記種々提案されている均質化方法を採用してもなお、Al−Cu合金の組成および固溶状態を未だ充分に改善することができないという問題点を有している。それゆえ、Al−Cu合金内においてCu(溶質元素)を均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にするための新たな均質化方法の提案が望まれている。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、Al−Cu合金内においてCuを均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にするための均質化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法は、上記の課題を解決するために、Al−Cu合金に対して、200℃以上、350℃以下の温度で4〜14時間加熱した後、冷却する均質化処理を行うことを特徴としている。
【0010】
上記の方法によれば、Al−Cu合金の均質化処理を、一般的に均質化処理が行われている従来の温度(400℃〜620℃の温度範囲内)よりも低い、Al−Cu系の平衡状態(固相線)から鑑みた温度範囲で行っているので、Al中におけるCuの均質化が従来よりも一層進行し、Al中におけるCuの析出を従来と比較して均一にすることができ、かつ、析出量を従来と比較してより多くすることができる。つまり、Al−Cu合金内において従来よりもCu(溶質元素)を均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にすることができる。
【0011】
従って、本発明に係る均質化方法で均質化されたAl−Cu合金を、例えばスパッタリングターゲットとして用い、スパッタリングして薄膜状にしたときには、当該薄膜の結晶性が向上するので、LSI等の電子デバイスにおける配線の信頼性を向上させることができる。即ち、本発明に係る均質化方法を採用することにより、例えば配線の信頼性を向上させることができるスパッタリングターゲットを提供することができる。
【0012】
また、本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法においては、均質化処理における冷却速度が、0を超え、4℃/分以下であることがより好ましい。本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法においては、Al−Cu合金の原料であるAlの純度が、99.999重量%以上であることがより好ましい。本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法においては、Al−Cu合金におけるCuの組成比が、0.5重量%であることがより好ましい。本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法においては、均質化処理を行った後の導電率が、61.4%以上であることがより好ましい。本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法においては、均質化処理を行い、さらに200℃以上、400℃以下の温度で再加熱処理した後の導電率が、61.8%以上であることがより好ましい。本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法においては、Al−Cu合金が、スパッタリングターゲットであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法は、Al−Cu合金に対して、200℃以上、350℃以下の温度で4〜14時間加熱した後、冷却する均質化処理を行う方法である。
【0014】
これにより、Al−Cu合金内においてCuを均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にするための均質化方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法の好適な実施形態の一例について、以下に説明する。先ず、本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法の対象物であるAl−Cu合金について説明する。
【0016】
<Al−Cu合金>
本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法の対象物であるAl−Cu合金は、例えば、溶解鋳造によって製造されていることが好ましい。溶解鋳造によって製造することにより、Al中にCuができるだけ偏析しないようにすることができる。尚、Al−Cu合金の製造方法は、特に限定されるものではない。また、溶解鋳造の具体的な方法は、一般的な方法を採用することができ、特に限定されるものではない。さらに、Al−Cu合金の用途は、スパッタリングターゲットに限定されるものではない。
【0017】
Al−Cu合金におけるCuの組成比は、任意の値とすればよいが、0.1重量%以上、1重量%以下であることがより好ましく、例えば、配線の細線化が近年急速に進んでいるLSI等の電子デバイスに対して好適なスパッタリングターゲットとして用いる場合には、0.5重量%であることが特に好ましい。また、Al−Cu合金の原料であるAlの純度は、できるだけ高い方が望ましく、99.999重量%以上であることが好ましい。尚、Al中にCuができるだけ偏析しないようにするには、溶解鋳造された後のAl−Cu合金全体がより均一に冷却されることが望ましい。従って、溶解鋳造されるAl−Cu合金は、直方体形状、具体的には、溶解鋳造の具体的な条件にもよるが、例えば、長さ300〜4000mm×幅200〜1600mm×厚さ150〜500mm程度の大きさにすることが好ましい。
【0018】
<均質化方法>
上記Al−Cu合金に対して行う本発明に係る均質化方法の好適な実施形態の一例を説明する。本発明に係る均質化方法は、Al−Cu合金に対して、200℃以上、350℃以下の温度で4〜14時間加熱した後、冷却する均質化処理を行う方法である。
【0019】
上記均質化処理の工程を、その前後の工程も含めて、手順を追ってさらに詳細に説明する。
【0020】
先ず、例えば溶解鋳造された直方体形状のAl−Cu合金(インゴット)から、Al−Cu合金(スラブ)を切断する(切断工程)。当該Al−Cu合金(スラブ)の大きさ(幅、長さおよび厚さ)は、圧延工程における圧下率や、目的の圧延板である圧延後のAl−Cu合金の大きさにもよるが、例えば、450mm×1100mm×1200mm程度にすればよい。尚、上記圧下率(%)とは、「{(圧延前の厚さ−圧延後の厚さ)/圧延前の厚さ}×100」で表される数値である。
【0021】
次に、Al−Cu合金を熱処理炉に入れて、その温度が200℃以上、350℃以下の範囲内、より好ましくは250℃以上、300℃以下の範囲内になるように充分に加熱した後、その温度を4〜14時間、より好ましくは9〜12時間維持する。つまり、200℃以上、350℃以下の温度、より好ましくは250℃以上、300℃以下の温度で、4〜14時間、より好ましくは9〜12時間加熱する。Al−Cu合金を加熱するときの昇温速度は、特に制限されるものではなく、従来の均質化処理で行われている昇温速度と同程度にすればよい。熱処理炉の構成は、特に限定されるものではない。
【0022】
Al−Cu合金の加熱温度は、200℃以上、350℃以下の範囲内、より好ましくは250℃以上、300℃以下の範囲内で、当該Al−Cu合金中におけるCuの組成比、即ち、Al−Cu系の平衡状態に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、Al−Cu合金におけるCuの組成比が0.5重量%である場合には、Al−Cu系の平衡状態(固相線)から鑑みて、280℃に加熱することが最も好ましい。上記加熱温度が200℃未満である場合、並びに、350℃を超える場合には、Al中におけるCuの均質化を充分に進行させることができない。
【0023】
Al−Cu合金は熱伝導率が高いので、上記大きさ程度のAl−Cu合金(スラブ)であれば、当該Al−Cu合金の表面付近温度(Al−Cu合金に孔を空け、表面からの深さが20mmの位置で測定した温度)が加熱によって目的の温度(例えば200℃)に達した後、2〜3分間が経過したら、Al−Cu合金の中心部まで目的の温度に達していると見なすことができる。従って、本発明において「200℃以上、350℃以下の温度で4〜14時間加熱する」という加熱条件は、「目的の温度に達してから2〜3分間が経過した後、その温度で4〜14時間加熱する」ことを意図している。尚、Al−Cu合金の表面付近温度は、例えば接触式温度計で測定すればよい。また、Al−Cu合金は熱伝導率が高いので、Al−Cu合金における表面付近温度の測定箇所は、特に限定されるものではない。
【0024】
上記加熱条件での加熱を終えた後、Al−Cu合金を200℃以下、より好ましくは50℃に冷却する。Al−Cu合金の冷却方法は、特に制限されるものではなく、空冷若しくは水冷(急冷)すればよいが、より緩やかに冷却することが望ましい。具体的には、Al−Cu合金を冷却する冷却速度は、特に制限されるものではないが、0を超え、4℃/分以下であることがより好ましい。尚、上記冷却速度は、冷却を開始してから終了するまでの平均の速度である。
【0025】
これにより、Al−Cu合金全体にわたって均質化処理が施されるので、Al中におけるCuの均質化(結晶制御)が従来よりも一層進行し、Al中におけるCuの析出を従来と比較して均一にすることができ、かつ、析出量を従来と比較してより多くすることができる。つまり、Al−Cu合金内において従来よりもCu(溶質元素)を均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にすることができる。
【0026】
そして、Al−Cu合金内においてCuがより均一に分散しているか否か、かつ、析出するCuの粒子がより微細であるか否かは、Al−Cu合金の導電率(電気電導度)を測定することによって判断することができる。即ち、Al−Cu合金内においてCuがより均一に分散し、かつ、析出するCuの粒子がより微細であると、当該Al−Cu合金の導電率(%)が向上する。従って、導電率を測定すれば、Al−Cu合金内におけるCuの状態を判断することができる。具体的には、例えば、Al−Cu合金におけるCuの組成比が0.5重量%である場合には、均質化処理を行った後の導電率は、61.4%以上となる。尚、導電率は一般的な測定装置であるIACS(International Annealed Copper Standard)%測定器で測定すればよい。
【0027】
上記均質化処理が施されたAl−Cu合金は、圧延処理(冷間圧延)されることによって、目的の大きさ(厚さ)の圧延板に加工される。圧延処理を行うときの圧延条件は、特に制限されるものではなく、従来の圧延処理で行われている圧延条件と同程度にすればよい。尚、冷間圧延の代りに、温間圧延や熱間圧延を行うこともできる。
【0028】
さらに、圧延処理後、圧延板の焼き鈍しや歪み取りを行うために、200℃以上、400℃以下の温度で再加熱処理を行ってもよい。加熱時間は、10分間以上、60分間以下の範囲内が好ましい。つまり、再加熱処理の加熱条件は、焼き鈍し処理や歪み取り処理を行うことができる範囲内で、適宜設定すればよい。また、導電率を測定すれば、圧延処理後のAl−Cu合金内におけるCuの状態を判断することができる。具体的には、例えば、Al−Cu合金におけるCuの組成比が0.5重量%である場合には、均質化処理を行い、さらに再加熱処理(焼き鈍し処理・歪み取り処理)を行った後の導電率は、61.8%以上となる。
【0029】
そして、例えば、Al−Cu合金からスパッタリングターゲットを製造する場合には、具体的には、図1に示すように、例えば溶解鋳造された直方体形状のAl−Cu合金(インゴット)から切断されたAl−Cu合金(スラブ)を熱処理炉に入れて、本発明に係る均質化処理を施した後、一対の圧延ローラ10・10を備えた圧延機を用いて当該Al−Cu合金に圧延処理(冷間圧延)を行って圧延板に加工する。次いで、当該圧延板を熱処理炉に入れて再加熱処理(焼き鈍し処理・歪み取り処理)を施して目的の圧延板を形成した後、打ち抜き加工等を施して、円盤状のスパッタリングターゲット11…を製造する。圧延機の構成は、特に限定されるものではない。尚、圧延条件は、Al−Cu合金中におけるCuの組成比等に応じて具体的に設定すればよい。
【0030】
上記均質化処理の工程の、より具体的な実施例の一例を、以下に説明する。
[実施例1]
均質化処理を行うAl−Cu合金として、溶解鋳造によって製造されたCuの組成比が0.5重量%である直方体形状のAl−Cu合金を三つ用いた。Al−Cu合金の原料であるAlの純度は99.999重量%以上であった。当該Al−Cu合金の大きさは、長さ330mm×幅240mm×厚さ190mmとした。
【0031】
上記Al−Cu合金に対して、320℃で9時間、加熱した後、50℃になるまで冷却することにより、均質化処理を行った。三つのAl−Cu合金の冷却方法は、以下の三通りとした。一つ目のAl−Cu合金は、40℃に調節された恒温槽に入れて空冷した。冷却速度は2.3℃/分であった。二つ目のAl−Cu合金は、5℃に調節された恒温槽に入れて空冷した。冷却速度は3.7℃/分であった。三つ目のAl−Cu合金は、水に入れて急冷した。冷却速度は183.3℃/分であった。そして、Al−Cu合金内におけるCuの状態を判断するために、導電率(%)を測定した。
【0032】
次いで、各Al−Cu合金に対して、圧延処理(冷間圧延)を行った後、270℃で10分間、再加熱処理を施した。圧下率は91%に設定した。そして、圧延処理後のAl−Cu合金内におけるCuの状態を判断するために、導電率(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
続いて、冷却速度が3.7℃/分であったAl−Cu合金を圧延処理して得られた圧延板をスパッタリングターゲットとして用いてスパッタリングして薄膜状とし、得られた薄膜の評価を行った。スパッタリングの条件は、以下の通りとした。即ち、基板としてφ4”Bare−Siウェーハ/下地SiO膜(膜厚100nm(1000Å))を用いた。スパッタ装置としてキヤノンアネルバ株式会社製;I−1012を用い、パワーを8kW、到達真空度を2.7×10−5Pa(2×10−7Torr)、Ar圧を4.0×10−1Pa(3×10−3Torr)、成膜温度を300℃、スパッタレートを14nm/sec (140Å/sec )とした。また、形成する薄膜の膜厚は500nm(5000Å)に設定した。
【0034】
上記条件で三枚の薄膜を形成した後、得られた薄膜を、以下の条件でアニールした。即ち、一枚目の薄膜は、真空度5Pa以下、300℃で1時間アニールした。二枚目の薄膜は、真空度5Pa以下、370℃で1時間アニールした。三枚目の薄膜はアニールしなかった。
【0035】
そして、薄膜が形成されたウェーハの中央部分をサンプリングし、X線回折測定による結晶配向性の調査、および、SEMによる表面観察を行い、薄膜の評価を行った。X線回折測定の装置として、株式会社リガク製;RAD−RBRU−200を用いた。測定方法は、XRDをAl(111) hkl で反射させ、θスキャン測定することによって行った。即ち、2θ:30〜80°(θ:半価幅)をθ/2θスキャン(プロファイル測定)し、Al(111) hkl のみの回折角を確認した後、ピークとして確認された回折角にX線検出器を固定し、試料面(薄膜表面)をスキャンすることによってピーク強度(cps)を測定した。上記測定により、半価幅が小さく、かつ、ピーク強度が大きい程、結晶配向性が良好であると判断することができる。また、SEMとして、株式会社日立製作所製;FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)を用い、10,000倍にて薄膜表面の観察を行い、析出したCu粒子の粒子径、即ち、グレーンサイズ(μm)を測定した。結果を表2に示す。
[実施例2]
上記実施例1で用いたAl−Cu合金と同じ組成および大きさのAl−Cu合金を用いて、均質化処理における加熱条件を「320℃で9時間」から「300℃で9時間」に変更した以外は、実施例1と同様にして、均質化処理並びに再加熱処理を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
上記実施例1で用いたAl−Cu合金と同じ組成および大きさのAl−Cu合金を用いて、均質化処理における加熱条件を「320℃で9時間」から「280℃で9時間」に変更した以外は、実施例1と同様にして、均質化処理並びに再加熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0036】
また、実施例1と同様にして、冷却速度が3.7℃/分であったAl−Cu合金を圧延処理して得られた圧延板をスパッタリングターゲットとして用いてスパッタリングを行い、実施例1と同様にして、薄膜の評価を行った。結果を表2に示す。
[実施例4]
上記実施例1で用いたAl−Cu合金と同じ組成および大きさのAl−Cu合金を用いて、均質化処理における加熱条件を「320℃で9時間」から「260℃で9時間」に変更した以外は、実施例1と同様にして、均質化処理並びに再加熱処理を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
上記実施例1で用いたAl−Cu合金と同じ組成および大きさのAl−Cu合金を用いて、均質化処理における加熱条件を「320℃で9時間」から「515℃で9時間」に変更すると共に、圧下率を「91%」から「72%」に変更した以外は、実施例1と同様にして、均質化処理並びに再加熱処理を行った。結果を表1に示す。
【0037】
また、実施例1と同様にして、冷却速度が3.1℃/分であったAl−Cu合金を圧延処理して得られた圧延板をスパッタリングターゲットとして用いてスパッタリングを行い、実施例1と同様にして、薄膜の評価を行った。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から明らかなように、本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法を採用することにより、Al中におけるCuの均質化が従来よりも一層進行し、Al中におけるCuの析出を従来(比較例)と比較してより均一にすることができ、かつ、析出量を従来と比較してより多くすることができることが判った。つまり、Al−Cu合金内において従来よりもCu(溶質元素)をより均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にすることができることが判った。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から明らかなように、本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法を採用することにより、析出したCu粒子のグレーンサイズが大きくなっている。つまり、導電率(電気電導度)が向上しており、グレーンサイズが大きくなっていることから、Al−Cu合金内において従来(比較例)よりもCuがより均一に分散されていると判断することができる。
【0042】
また、比較例よりも半価幅が小さく、かつ、ピーク強度が大きいので、本発明に係るAl−Cu合金の均質化方法を採用することにより、比較例と比べて、結晶配向性が向上していると判断することができる。
【0043】
さらに、一般に、配線の信頼性を判断するための式であるMTTF(mean-time-to-failure)
MTTF ∝ (S/σ)・log [I(111) /I(200) ]
(S;median grain size,σ;log-normal standard deviation of the grain size,I(111) and I(200) ;X-ray intensities of (111) and (200) diffractions )
から、グレーンサイズ(S)およびI(111) 面の結晶配向性(I(111) )が大きいほど、配線にしたときの信頼性が向上することが判っている。従って、本発明に係る均質化方法を採用することにより、Al−Cu合金を配線にしたときの信頼性、即ち、電子デバイスの信頼性を高めることができることが判った。
【0044】
従って、表2の結果から明らかなように、本発明に係る均質化方法で均質化されたAl−Cu合金をスパッタリングターゲットとして用い、スパッタリングして薄膜状にしたときには、当該薄膜の結晶性が向上するので、LSI等の電子デバイスにおける配線の信頼性を向上させることができることが判った。即ち、本発明に係る均質化方法を採用することにより、例えば配線の信頼性を向上させることができるスパッタリングターゲットを提供することができることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、Al−Cu合金内において従来よりもCu(溶質元素)を均一に分散させ、かつ、析出するCuの粒子をより微細にすることができる。
【0046】
従って、本発明に係る均質化方法を採用することにより、例えば配線の信頼性を向上させることができるスパッタリングターゲットを提供することができるので、幅広い産業上の利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る均質化方法を含むスパッタリングターゲットの製造方法の一例を示すものであり、概略の工程を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0048】
10 圧延ローラ
11 スパッタリングターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Cu合金に対して、200℃以上、350℃以下の温度で4〜14時間加熱した後、冷却する均質化処理を行うことを特徴とするAl−Cu合金の均質化方法。
【請求項2】
均質化処理における冷却速度が、0を超え、4℃/分以下であることを特徴とする請求項1に記載のAl−Cu合金の均質化方法。
【請求項3】
Al−Cu合金の原料であるAlの純度が、99.999重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のAl−Cu合金の均質化方法。
【請求項4】
Al−Cu合金におけるCuの組成比が、0.5重量%であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のAl−Cu合金の均質化方法。
【請求項5】
均質化処理を行った後の導電率が、61.4%以上であることを特徴とする請求項4に記載のAl−Cu合金の均質化方法。
【請求項6】
均質化処理を行い、さらに200℃以上、400℃以下の温度で再加熱処理した後の導電率が、61.8%以上であることを特徴とする請求項4または5に記載のAl−Cu合金の均質化方法。
【請求項7】
Al−Cu合金が、スパッタリングターゲットであることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のAl−Cu合金の均質化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−235491(P2009−235491A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83438(P2008−83438)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】