説明

Al−Mg−Si系アルミニウム合金板

【課題】塗装前下地処理としての化成処理性に優れたAl−Mg−Si系合金を提供すること。
【解決手段】Si:0.2〜2.0%、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有し、塗装前下地処理として化成処理を行うAl−Mg−Si系アルミニウム合金板である。表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの平均濃度が、成分組成における含有量よりも高く、かつ、Fe:3%以下、Si:4%以下、Mg:4%以下であり、最大濃度がFe:4%以下、Si:5%以下、Mg:5%以下である。Al−Fe系金属間化合物の個々の長さが40μm以下である。表面からの酸化皮膜厚さは200nm以下である。表面からの深さが100〜250μmの内部領域におけるAl−Fe系金属間化合物のセル境界被覆率が60%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を含む輸送機の外板や構造材、部品、また家電製品のパネルや部品等としては、軽量化の観点から、アルミニウム合金板材の使用量が年々増加している。特に、自動車外板用のアルミニウム合金には、多くの特性、例えば、成形性、形状凍結性、耐デント性、耐食性、プレス成形性、また、プレスにおいて肌荒れ、リジングマークが生じない製品面質等が要求されており、この要求は次第に厳しくなっている。このような諸特性を満足させるため、外板用アルミニウム合金として、Al−Mg系(5000系)合金及びAl−Mg−Si系合金が主に使用されている。
【0003】
特に、塗装焼付け工程のある用途には、熱処理合金であるAl−Mg−Si系(6000系)合金を使用することにより、焼き付け硬化性を利用したゲージダウンで更なる軽量化が可能となる。また、Al−Mg−Si系(6000系)合金は、Al−Mg系(5000系)合金と比較してリサイクル性の面でも優れている。しかし、Al−Mg−Si系(6000系)合金は、Al−Mg系(5000系)合金よりも、塗装前下地処理としての化成処理性が悪く、塗装後耐食性への影響が懸念される。
【0004】
特に、自動車外板用に用いられる場合には、その下地処理は、通常自動車の車体を組み立てた後、連続的に電着塗装まで実施されるため、鋼板の部品と溶接後に実施される。そのため、アルミニウム合金板材には、化成処理性の向上が求められている。
【0005】
これまでAl−Mg−Si系アルミニウム合金は、Al−Mg系合金と同様に、表面に形成している酸化皮膜を除去し、反応性を高くすることや、合金中に、化成処理時のカソード反応を促進するために、電気的に貴である元素を微妙に添加すること、貴な元素の粉末を板面に摺りこむこと等の検討がされてきた。また、板面に網目状の凹凸を設ける方法(特許文献1)や、酸化皮膜中の水酸基を抑制する方法(特許文献2)や、表層部から80Åの深さにおけるCu量を合金成分以下とする方法(特許文献3)等が報告されている。
【0006】
しかしながら、Al−Mg−Si系(6000系)合金は、強固な酸化皮膜が生成していないことから酸化皮膜の除去ではAl−Mg系合金ほどの改善は得られず、カソード促進のために貴な元素を添加したり摺りこんだりすることは、リサイクルの面であまり有効ではない。また、板面に凹凸を設ける方法は合金成分により洗浄剤や洗浄方法を選択する必要のみならず、元のCu含有量や他の製造条件にも注意する必要があり、水酸基を抑制する方法は熱間加工後や熱処理後に水冷などの強制冷却を必要とするため、工業的には困難である。さらに、Cu含有量の制御は、酸化皮膜厚さと80ÅでのCu量制御をするために、洗浄条件を選定する必要もあるため、これも工業的には容易ではない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−17366号公報
【特許文献2】特開2000−239778号公報
【特許文献3】特開2000−345364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、塗装前下地処理としての化成処理性に優れたAl−Mg−Si系合金を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、Si:0.2〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有し、塗装前下地処理として化成処理を行うAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、
表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの各元素の平均濃度が、上記成分組成における含有量よりも高く、かつ、それぞれ、Fe:3%以下、Si:4%以下、Mg:4%以下であり、
上記表層領域における各元素の最大濃度がFe:4%以下、Si:5%以下、Mg:5%以下であり、
表面からの酸化皮膜厚さが200nm以下であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板にある(請求項1)。
【0010】
本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板は、アルミニウム合金板における所定領域でのSi、Mg、Feの濃度、及び酸化皮膜厚さを限定する。そして、これにより、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板は、塗装前下地処理としての化成処理性に優れる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を製造する方法であって、
Si:0.2〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有するアルミニウム合金よりなる溶湯を、直接板状に連続的に鋳造することにより連続鋳造板を作製する連続鋳造工程と、
上記連続鋳造板に熱処理のみ、あるいは圧延と熱処理の組み合わせを施す下工程とを有し、
上記下工程における上記熱処理は、昇温速度2℃/sec以上、保持温度500〜600℃、保持時間5分以下(0分も含む)、冷却速度が2℃/sec以上の溶体化処理を行った後、自然時効によりT4調質とするT4熱処理を含むことを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の製造方法にある(請求項4)。
【0012】
本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の製造方法は、上記連続鋳造板を作製する上記連続鍛造工程と、上記下処理工程とを有している。そして、上記下処理において、上記熱処理の条件を限定することにより、化成処理性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、第1の発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板は、上述したように、Si:0.2〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有する。
上記Siは、単体SiまたはMgと共存してMg2Si化合物を析出してアルミニウム合金の強度を向上させる機能を有する。Siの含有量が0.2%未満の場合には、熱処理を行ってT4調質した際に充分な強度を得られなくなる。また、上限については塗装後耐食性が低下するという理由により2%とする。Siの好ましい含有範囲は0.4〜1.8%であり、さらに好ましい含有範囲は0.7〜1.5%である。
【0014】
また、上記Mgは上記Siと共存してMg2Si化合物を析出してアルミニウム合金の強度を向上させる機能を有する。Mgの含有量が0.2%未満の場合には、T4調質によっても十分な強度が得られないという問題を生じる。また、上限については熱処理によって酸化皮膜厚が厚くなり、化成皮膜処理を阻害するため、塗装後耐食性を低下させる原因となるという理由により2%とする。Mgの好ましい含有範囲は0.3〜1.2%であり、さらに好ましい含有範囲は0.4〜1.0%である。
【0015】
また、Feについては、特にリサイクル材を利用した場合不純物として混入するが、Feが1.5%を超えるとFe系の化合物が多くなり、成形性が低下する原因となるとともに、耐食性が低下する原因となる。したがって、Feの含有量は1.5%以下とする。Feの好ましい含有量は1.0%以下であり、さらに好ましい含有範囲は0.5%以下である。
【0016】
次に、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板における、濃度と領域の意義及びその限定理由について説明する。Si、Mg、Feは、塗装前下地処理としての化成処理時におけるカソードポイントとしての機能を有する。塗装前下地処理としての化成処理は、アルミニウム合金板と塗膜との密着性を向上させ、塗装後耐食性に大きな効果をもたらすことが知られている。ここにおけるSi、Mg、Feが酸化物として存在している場合には、化成処理時のカソードポイントとして作用しないため、固溶体あるいは化合物として、表面近傍において合金成分以上の濃度で存在させる必要がある。
【0017】
また、本発明では、上記のごとく、表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの各元素の平均濃度が、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の成分組成における含有量よりも高く、かつ、それぞれ、Fe:4%以下、Si:5%以下、Mg:5%以下である。上記表層領域よりも内部の領域では、Fe、Si、Mgのカソードポイントとして機能が発揮されなくなるので、上記Fe、Si、Mgの濃縮層は、上記特定の深さの表面領域のみに設ける。
【0018】
また、上記表層領域における平均濃度が、Fe:3%超え、Si:4%超え、又はMg:4%超えの濃度になると、カソードポイントが多くなりすぎるため、塗装後耐食性に悪影響を及ぼしてしまう。また、熱処理中に酸化しやすく、酸化皮膜が厚く成長してしまうという問題がある。上記酸化皮膜は洗浄によっても完全には除去しきることができず、電気的に不安定となるとともにリン酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、及びリン酸クロメートの核生成よりも成長が促され易く、化成皮膜の均一な生成を阻害し、化成処理性に悪影響を与えるという問題がある。
【0019】
なお、合金成分によってはMn、Cu、Zn、Tiなども濃化する場合があるが、この発明の成分範囲であれは本発明の効果を阻害しない。従って、Fe、Si、Mgの平均濃度は、それぞれFe≦3%、Si≦4%、Mg≦4%、さらに好ましくはFe≦2.5%、Si≦3%、Mg≦3%、最も好ましくはFe≦2%、Si≦2.5%、Mg≦2.5%の範囲がよい。
【0020】
また、上記表層領域における各元素の最大濃度がFe:4%以下、Si:5%以下、Mg:5%以下である。Fe、Si、Mgの最大濃度の限定理由も、上記の平均濃度の上限の限定理由と同様に、これらの量を超えるとカソードポイントが多くなりすぎるという問題が生じる。そのため、より好ましくは、上記表層領域における最大濃度は、Fe≦3.5%、Si≦4.5%、Mg≦4.5%、最も好ましくはFe≦3%、Si≦4%、Mg≦4%の範囲がよい。
【0021】
また、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板における酸化皮膜厚さは200nm以下である。酸化皮膜が厚い場合には、塗装前下地処理としての化成処理性に悪影響を及ぼす。塗装後耐食性には、塗膜と素材の密着性を高めるために化成処理が重要となるが、これが不十分な場合には、塗装後耐食性を低下させる大きな要因となる。従って、酸化皮膜厚さが200nmを超える場合には、硫酸、硝酸等の酸溶液又は苛性ソーダ等のアルカリ溶液、また、必要に応じてこれらを組み合わせて洗浄することにより除去しても構わない。いずれにしても、この範囲内であれば、Fe、Si、Mg元素の大部分は固溶体や化合物として存在可能となり、塗装前下地処理としての化成処理性を阻害しなくなる。
【0022】
次に、上記Al−Mg−Siアルミニウム合金板は、表面からの深さが100〜250μmの内部領域におけるAl−Fe系金属間化合物のセル境界被覆率が60%以下であると共に、上記Al−Fe系金属間化合物の個々の長さが40μm以下であることが好ましい(請求項2)。
【0023】
上記セル境界被覆率を簡単に説明すると、図1に示すごとく、上記内部領域において、上記Al−Fe系金属間化合物81が並んで形成されるセル境界82の周長をA、各Al−Fe系金属間化合物81の個々の長さLの合計をBとした場合の、B/A×100(%)で示すものである。なお、このセル境界は、上記連続鋳造工程直後の連続鋳造板において生じるものであり、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板では、その状態が最終板においても維持あるいはある程度変更された状態で残存している。
【0024】
上記セル境界被覆率が60%を超える場合には、連続的なカソードポイントとなるため、腐食の伝播経路となり、腐食の成長を促進し、塗装後耐食性を低下させる要因となる。上記Al−Fe系金属間化合物の個々の長さが40μmを超える場合も同様の問題がある。
従って、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の上記内部領域におけるAl−Fe系金属間化合物のセル境界被覆率を60%以下とし、好ましくは50%以下、最も好ましくは45%以下とする。また、セル境界上における上記Al−Fe系金属間化合物の長さは40μm以下とし、好ましくは35μm以下、最も好ましくは30μm以下とする。
【0025】
上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板に施す上記化成処理は、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、又はリン酸クロメート処理であることが好ましい(請求項3)。
リン酸ジルコニウム処理及び酸化ジルコニウム処理な等のジルコニウム系処理、及びリン酸クロメート等のクロメート系処理は、アルミニウムの下地として非常に有効であり、また、塗膜との密着性及び塗装後の耐食性が向上する。上記化成処理の方法としては、反応型及び塗布型がある。
【0026】
上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板は、自動車外板用材であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記化成処理を行うことが前提となる用途であるため、特に有効である。上記自動車用外板材は、自動車用フード、トランクリッド、ルーフ、ドア等の部材として特に好適に使用することができる。なお、化成処理をして用いるような輸送機の外板や構造材、家電製品のパネル等、化成処理の種類を特定することなく、多目的に利用が可能であることは言うまでもない。
【0027】
次に、第2の発明である上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の製造方法は、Si:0.2〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有するアルミニウム合金よりなる溶湯を、直接板状に連続的に鋳造することにより連続鋳造板を作製する連続鋳造工程と、上記連続鋳造板に熱処理のみ、あるいは圧延と熱処理の組み合わせを施す下工程とを有する。
上記アルミニウム合金よりなる溶湯において、上記Si、Mg、及びFeが上記範囲外で含有されている場合には、化成処理性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金を得ることができない。
【0028】
また、上記下工程における上記熱処理は、昇温速度2℃/sec以上、保持温度500〜600℃、保持時間5分以下(0分も含む)、冷却速度が2℃/sec以上の溶体化処理を行った後、自然時効によりT4調質とするT4熱処理を含む。
上記昇温速度が2℃/sec未満の場合には、酸化皮膜が厚くなり、化成処理性を阻害する。
【0029】
また、保持温度が500〜600℃であるため、6000系合金のT4材としての必要な強度を得ることができる。保持温度が500℃未満の場合には、強度不足の原因となり、また、保持温度が600℃を超える場合には、材料が溶融する原因となる。
また、保持時間が5分を超える場合には酸化皮膜が厚くなり、化成処理性を阻害する要因になる。
また、冷却速度が2℃/sec未満の場合には、強度や伸びが低下し、Al−Mg−Si系アルミニウム合金としての材料特性が得られない。
さらに、BH(ベークハード)性を付与するために、50℃以上150℃以下の予備時効処理や、180℃以上250℃以下の復元処理等の付加処理を行ってもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。なお、これらの実施例は、本発明の1実施様態を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
本例では、双ロール式連続鋳造圧延法(板連続鋳造法)により、表1に示す組成を有する複数の連続鋳造板を製造した。
図2に示すごとく、本例で用いた装置は、溶解炉1から樋2に移されたアルミニウム合金の溶湯5を、ノズル3を介して上下に配置された鋳造ロール4A、4Bからなる双ロール4の間に導入するよう構成されている。鋳造ロール4A、4Bは水冷されているので、これに接触した溶湯5が凝固し、その後、鋳造ロール4A、4B間で圧延されて連続鋳造板6として双ロール4から搬出される。
【0032】
【表1】

【0033】
本例では、図3に示すごとく、上側に配置された鋳造ロール4Aとノズル3を通じて導入された溶湯5とが最初に接する点Sと上側に配置された鋳造ロール4Aの中心点Oとを結んだ線L1と、該中心点Oからの垂線L2とのなす角(鋳造板と鋳造ロールの接触角度)θを8〜15°として鋳造圧延した。Lはメニスカス長さである。
【0034】
上記θが8°未満では、鋳造板とロールとの接触面積が小さくなるため、ロールの抜熱によって鋳造板を十分に冷却するには、鋳造速度を低くする必要があるが、鋳造速度が低いと、ノズルから出た溶湯がメニスカス内で凝固し始めるため、リップルマークが発生する原因となる。一方上記θが15°を超えると、鋳造板とロールとの接触面積が大きくなるため、鋳造板の冷却速度は高くなり、鋳造速度を高くすることが可能となるが、鋳造速度が高いほど、板厚中心部における溶湯サンプが深く、溶質原子が板厚中心方向に移動しやすくなるため、中心線偏析が発生する原因となる。
【0035】
次に、冷間圧延を行い、厚さ1mmのアルミニウム合金板材とした。冷間圧延後のアルミニウム合金板材を、平均昇温速度20℃/sで500℃に加熱し、60秒保持した後、平均冷却速度20℃/sで常温まで焼入れを行った。その後、5分以内に100℃まで再加熱し、100分間保持した後、常温まで冷却してT4調質材とした。
【0036】
得られたアルミニウム合金板材における表面からの濃化の領域およびFe、Si、Mgの平均濃度、Fe、Si、Mgの最大濃度、酸化皮膜厚さを表2に示す。濃化領域、平均濃度、最大濃度、及び酸化皮膜厚さは、いずれもGD−OES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometer、グロー放電発光分析装置)により、分析直径2.5mmφで、表面からの深さ方向分析結果から算出した。
濃化領域は、検出元素をmass%に換算し、合金成分の1倍を超える領域とし、平均濃度は表面から3μmまでの濃度の平均値、最大濃度は濃度が最も高い部分の濃度とした。
【0037】
また、表面から100μm内部における、金属間化合物による鋳造時のセル境界被覆率およびセル境界の連続存在領域は、EPMA(Electron Probe Micro Analyser、X線プローブマイクロアナライザー)により、200倍でFe元素を面分析した写真から、500μm×500μmの視野における、セル境界被覆率及び金属間化合物の最大長さを測定した。
セル境界被覆率は、500μm×500μmの視野における平均とし、金属間化合物の最大長さは、500μm×500μm内での量大のものを測定した。
酸化皮膜厚さは、酸素の濃度が最も高い部分から半減した深さまでとした。なお、このときのスパッタ速度は一定と仮定した。これを表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
上記アルミニウム合金板材を、市販の化成処理剤により浸漬又はスプレー処理を実施し、本発明の実施例である試料E1〜試料E7のアルミニウム合金板を作製した後、電子顕微鏡(SEM)を用いて上記アルミニウム合金板表面の観察し、被覆率及び皮膜量を測定し、化成処理性を評価した。
化成処理は、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、リン酸クロメート処理を行った。
【0040】
ここで、被覆率は以下のように算出した。5000倍で140μm×140μmの視野を観察し、皮膜の生成している面積が観察面積に占める割合を被覆率とした。また、ジルコニウム及びクロムの蛍光X線強度より、検量線を用いて、それぞれジルコニウム量、クロム量とした。これらの化成処理性の結果を表3に示す。
なお、化成処理性を次のように評価した。すなわち、被覆率については、被覆率90%以上:○、90%未満:×とした。また、皮膜量については、リン酸ジルコニウム処理及び酸化ジルコニウム処理では、Zr量8mg/m2以上:○、Zr量8mg/m2未満:×、リン酸クロメート処理では、Cr量15mg/m2以上:○。Cr量15mg/m2未満:×とした。そして、被覆率、皮膜量ともに○の場合に化成処理性の評価:○、被覆率と皮膜量のうち、いずれか一方あるいは両方が×の場合は化成処理性の評価:×とした。
【0041】
表3に示すように、本発明の実施例である試料E1〜試料E7のアルミニウム合金板は、いずれも、化成処理性に優れた結果が得られた。リン酸ジルコニウム処理性、酸化ジルコニウム処理性は、皮膜は被覆率90以上で微細均一に分散し、皮膜量はZr量として8mg/m2以上得られていた(評価:○)。また、リン酸クロメート処理性も、皮膜は被覆率90以上で均一に分散しており、皮膜量はCr量として15mg/m2以上得られていた(評価:○)。
【0042】
【表3】

【0043】
(実施例2)
本例では、連続鋳造法により、表1に示す組成を有する連続鋳造板を作製し、さらに、冷間圧延して厚さ1mmのアルミニウム合金板材とした。
冷間圧延後のアルミニウム合金板材を、平均昇温速度20℃/secで560℃に加熱し、10秒保持した後、平均冷却速度20℃/secで常温まで焼入れを行った。さらに、200℃で30秒の復元処理を行い、常温まで冷却してT4調質材として本例のアルミニウム合金板を得た。その後、硫酸系酸洗浄剤による洗浄を行った。
【0044】
表4に、実施例1と同様にして得られたアルミニウム合金板材における表面からの濃化の領域及びFe、Si、Mgの平均濃度、Fe、Si、Mgの最大濃度、表面から100μm内部における、Fe−SiあるいはMgを含有する金属間化合物による、鋳造時のセル境界被覆率、さらにセル境界上におけるFe、SiまたはMgを含有する化合物の個々の最大長さ、及び酸化皮膜厚さを示す。
【0045】
【表4】

【0046】
また、本例で得られた上記アルミニウム合金板材に対しても、実施例1と同様の化成処理及び塗装を実施し、化成処理性の調査を行った。化成処理性の結果を表5に示す。
【0047】
表5に示すように、本発明の用件を具備するアルミニウム合金板材(試料E8〜試料E14)は、いずれも化成処理性に優れた結果が得られた。リン酸ジルコニウム処理性、酸化ジルコニウム処理性は、皮膜は被覆率90以上で微細均一に分散し、皮膜量はZr量として8mg/m2以上得られていた(評価:○)。また、リン酸クロメート処理性も、皮膜は被覆率90以上で均一に分散しており、皮膜量はCr量として15mg/m2以上得られていた(評価:○)。
【0048】
【表5】

【0049】
(比較例1)
本比較例では、板連続鋳造法により、表6に示す組成を有する連続鋳造板を製造し、冷間圧延して厚さ1mmのアルミニウム合金板材とした。
【0050】
【表6】

【0051】
冷間圧延後のアルミニウム合金板材を、平均昇温速度20℃/secで500℃に加熱し、60秒保持した後、平均冷却速度20℃/secで常温まで焼入れを行った。その後、5分以内に100℃まで再加熱し、100分間保持した後、常温まで冷却してT4調質材として本例のアルミニウム合金板を得た。
【0052】
表7に、実施例1と同様にして得られたアルミニウム合金板材における表面からの濃化の領域及びFe、Si、Mgの平均濃度、Fe、Si、Mgの最大濃度、表面から100μm内部における、Fe−SiあるいはMgを含有する金属間化合物による、鋳造時のセル境界被覆率、さらにセル境界上におけるFe、SiまたはMgを含有する化合物の個々の最大長さ、及び酸化皮膜厚さを示す。なお、測定方法は実施例1と同様とした。
【0053】
【表7】

【0054】
また、本例で得られた上記アルミニウム合金板材に対しても、実施例1と同様の化成処理及び塗装を実施し、化成処理性の調査を行った。化成処理性の結果を表8に示す。
【0055】
表8示すように、本比較例で得られたアルミニウム合金板(試料C1〜試料C3)は、いずれも化成処理性に劣る結果が得られた。いずれも皮膜が非常に不均一となり、均一で90以上の被覆率が得られるものはなかった。リン酸ジルコニウム処理性、酸化ジルコニウム処理性は、皮膜量はZr量として8mg/m2以上のZr量は得られず、また、リン酸クロメート処理性も、皮膜量はCr量として15mg/m2以上のCr量は得られなかった。
【0056】
【表8】

【0057】
(比較例2)
本比較例では、実施例1の合金A(表1)を用いて、厚さ1mmの冷間圧延板を作製し、平均昇温速度20℃/secで580℃に過熱し、500秒保持した後、平均冷却速度20℃/secで常温まで焼入れを行った。その後、5分以内に100℃まで再加熱し、100分間保持した後、常温まで冷却してT4調質材として本例のアルミニウム合金板材を得た。
【0058】
表9に、実施例1と同様にして得られたアルミニウム合金板材における表面からの濃化の領域及びFe、Si、Mgの平均濃度、Fe、Si、Mgの最大濃度、表面から100μm内部における、Fe−SiあるいはMgを含有する金属間化合物による、鋳造時のセル境界被覆率、さらにセル境界上におけるFe、SiまたはMgを含有する化合物の個々の最大長さ、及び酸化皮膜厚さを示す。なお、測定方法は実施例1と同様とした。
【0059】
【表9】

【0060】
また、本例で得られた上記アルミニウム合金板材に対しても、実施例1と同様の化成処理及び塗装を実施し、化成処理性の調査を行った。化成処理性の結果を表10に示す。
【0061】
【表10】

【0062】
表10に示すごとく、本比較例で得られたアルミニウム合金板(試料C4)は、化成処理性が劣っていた。いずれの化成処理も、皮膜が非常に不均一となり、均一で90以上の被覆率が得られるものはなかった。また、リン酸ジルコニウム処理性、酸化ジルコニウム処理性は、皮膜量はZr量として8mg/m2以上のZr量は得られず、また、リン酸クロメート処理性も、皮膜量はCr量として15mg/m2以上のCr量は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】セル境界被覆率について説明する説明図
【図2】実施例1において使用する双ロール式連続鋳造圧延装置の概念図。
【図3】実施例1において使用する双ロール式連続鋳造圧延装置の主要部分を示す概念図。
【符号の説明】
【0064】
1 溶解炉
2 樋
3 ノズル
4 双ロール
4A、4B 鋳造ロール
5 溶湯
6 連続鋳造板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.2〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有し、塗装前下地処理として化成処理を行うAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、
表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの各元素の平均濃度が、上記成分組成における含有量よりも高く、かつ、それぞれ、Fe:3%以下、Si:4%以下、Mg:4%以下であり、
上記表層領域における各元素の最大濃度がFe:4%以下、Si:5%以下、Mg:5%以下であり、
表面からの酸化皮膜厚さが200nm以下であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1において、表面からの深さが100〜250μmの内部領域におけるAl−Fe系金属間化合物のセル境界被覆率が60%以下であると共に、上記Al−Fe系金属間化合物の個々の長さが40μm以下であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記化成処理は、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、又はリン酸クロメート処理であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記Al−Mg−Si系アルミニウム合金板は、自動車外板用材であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を製造する方法であって、
Si:0.2〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2〜2.0%、Fe:1.5%以下を含有するアルミニウム合金よりなる溶湯を、直接板状に連続的に鋳造することにより連続鋳造板を作製する連続鋳造工程と、
上記連続鋳造板に熱処理のみ、あるいは圧延と熱処理の組み合わせを施す下工程とを有し、
上記下工程における上記熱処理は、昇温速度2℃/sec以上、保持温度500〜600℃、保持時間5分以下(0分も含む)、冷却速度が2℃/sec以上の溶体化処理を行った後、自然時効によりT4調質とするT4熱処理を含むことを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−131889(P2007−131889A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324671(P2005−324671)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】