説明

BCL−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用する新規なペプチドおよびその使用

本発明は、2重ハイブリッドシステムを用いる、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用する新規なペプチドの探求および同定に関する。より具体的には、本発明は、前記新規なペプチドと、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間のタンパク質相互作用のモジュレーターをスクリーニングし、同定する方法に関する。前記方法に基づいて同定されたモジュレーターを、癌患者に、アポトーシス型および/または自己貪食型のプログラム細胞死を引き起こすために、投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用する新しいペプチドを探し出し、同定する分野にある。
【0002】
本発明は、それらの新しいペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間のタンパク質相互作用のモジュレーターをスクリーニングおよび同定する方法に関する。このスクリーニング法によって単離されるモジュレーターは、アポトーシス型のおよび/または自己貪食型のプログラム細胞死を調節するために役立つ。これらのモジュレーターを、癌治療の過程で患者に投与する。
【0003】
本発明は、それぞれがBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用することができる5つのペプチドモチーフ、および癌患者中のプログラム細胞死を引き起こすためのそれらの使用に関する。
【0004】
プログラム細胞死は、一方はアポトーシス、他方は自己貪食の死から成る。アポトーシスの方がよく知られた現象である。この種の細胞死には、核凝縮およびDNA断片化などの形態学的変化、およびさらに、細胞の重要な構造成分を分解して細胞の分解と死を引き起こすカスパーゼの活性化などの生化学的現象が含まれる。アポトーシスの過程の調節は複雑で、いくつかの細胞内シグナル伝達経路の活性化または抑制が含まれる。自己貪食の死は、プログラム細胞死の、第二のよく知られていない機構である。細胞のレベルで、自己貪食を3つの段階:最初の自己貪食胞(オートファゴソーム)の形成および、オートファゴソームの分解液胞への成熟、およびそれのリソソームとの融合、に要約することができる。従って自己貪食の死は、自己貪食胞の蓄積によって特徴づけられ、カスパーゼ型調節経路に依存しない、リソソームでの分解過程を含む。
【0005】
細胞を生存状態に保ち、またはその死をプログラムするためには、特にBcl−2ファミリーのタンパク質を含む主要なシグナル伝達経路の調節が必要である。
【0006】
Bcl−2ファミリーのタンパク質は、3つの主なクラスに分けられる。Bcl−2、Bcl−XおよびBcl−Wなどの抗アポトーシスタンパク質は、それらの4つのBHドメインに高度のホモロジーを有する。親アポトーシスタンパク質は2つのカテゴリーに分類される:一方は、BAXおよびBAKなどの多重ドメインタンパク質、および他方は、単一の相同ドメインであるBH3モチーフの存在によって特徴づけられるBID、NOXA、PUMA、BIK、BIMおよびBADなどの親アポトーシスタンパク質である(Cory and Adams, The Bcl-2 family: regulators of the cellular life-or-death switch Nature reviews vol.2 September 2002)。
【0007】
BH3モチーフは、Bcl−2タンパク質ファミリー中での配列同一性が比較的低い両親媒性のα−へリックス領域である。さらに、あるタンパク質とBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの相互作用が可能となるためには、タンパク質中にBH3モチーフの存在が必要である。実際に、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーの活性は、前記ファミリーの親アポトーシス遺伝子生成物によって調節される。2つのタンパク質は会合してヘテロダイマーになる。その状態にある場合は、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーは不活性であり、したがって、もはや抗アポトーシス活性を有しない。さらに、BH3モチーフの、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの特異的な相互作用は、特異的な方式でプログラム細胞死を引き起こすように、モジュレーターによって修飾されることが可能である。
【0008】
本発明は、それ故、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用する新しいペプチドをスクリーニングし、同定すること、そしてそれらの新しいペプチドを用いてそれらの相互作用を修飾することができる化合物をスクリーニングし同定して、アポトーシスの調節解除に、特に癌に関する病理に有効な真の候補薬物を得ること、を提案する。
【0009】
まず、2−ハイブリッドシステムとは、酵母中での2つの組換えタンパク質間のテストからなる。「ベイト」と呼ばれる第1のタンパク質は、タンパク質Aの上流に結合されたDNA結合ドメイン(即ちBD)を含む融合タンパク質である。第2のタンパク質もまた、タンパク質Bに結合された活性化ドメイン(即ちAD)を含む、一般に「プレイ」と呼ばれる融合タンパク質である。一般に用いられる結合ドメインおよび活性化ドメインは、Gal4またはE.Coli Lex Aのものである。タンパク質AおよびBは、それぞれBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーおよびcDNAバンクから得られるモチーフである。タンパク質相互作用によるタンパク質AおよびBの会合により、レポーター遺伝子の上流に存在し前記レポーター遺伝子の転写を保証する結合部位(即ちBS)に結合することができる機能的なドメイン(BD−AD)が相補性によって形成されることが可能になる。
【0010】
しかし、この従来の2−ハイブリッド法には限界がある。例えば、そのようなスクリーニング方法は偽陽性および/または偽陰性の結果となる場合があり、得られた結果の生化学的な確認が必要であることは周知である。2−ハイブリッドシステムによる偽陽性は特に頻繁に起こり、これは構造的相互作用ではなくむしろ機能的な相互作用であることが原因である。
【0011】
偽陽性および/または偽陰性を最小限にすることを可能にする、より有効な技術が国際特許出願WO99/42612または米国特許6,187,535に記述されており、それは「ベイト」および「プレイ」ポリペプチドを含む組換えハプロイド酵母を用いる。このシステムによって、この分野で用いられる他の従来方法よりも正確で再現性よく敏感な方式で、単一の「ベイト」を用いて多数の「プレイ」を検出することが可能になる。
【0012】
2−ハイブリッドシステムを用いて、本発明者らは、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと、本発明による配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列を有する以下のペプチドとの間の構造的相互作用の存在を確立した。それらのパートナー間のこのタンパク質相互作用は、アポトーシス現象の調節において、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗−および親−アポトーシスのパートナー間に存在する相互作用に類似している。
【0013】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のペプチド配列を有する新しいペプチドが、2−ハイブリッドシステムによって、本発明の中で同定された。それらのペプチドの各々は、極めて特異的な方式でBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用することができる。相互作用のこの特異性は、前記の選択されたペプチドの新しいモチーフの、配列、三次元構造および/またはらせん構造と、実際に関係している。
【0014】
さらに、これらのペプチドは、Bcl−2、Bcl−Xおよび/またはBcl−Wとの相互作用の正確なドメインに対応し、ホモまたはヘテロ二量体の形成を可能にする典型的な構造的基準を有する。
【0015】
次のペプチドモチーフ:
【表3】


(式中、Xは任意のアミノ酸を表わす)は、本発明による配列番号1〜配列番号5のペプチド配列のコンセンサス配列を表わす。このコンセンサス配列は、Bcl−2タンパク質ファミリーの親アポトーシスメンバー中に存在するBH3モチーフのコンセンサス配列に類似する。
【0016】
確かに、本発明によるペプチドは、その大きさにより、それらのペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用をモジュレートすることができる化合物の、高度に効率的なスクリーニングを可能にするテストを発展させるための、理想的な候補となる。タンパク質−タンパク質相互作用のモジュレーターのスクリーニングのための多数のテストが、文献中に見出されるが、それらは、しばしば感度および高速処理の実現可能性について限界を有する。通例採用される方法は、複雑なツール(融合タンパク質、組換えタンパク質、その他)の使用を必要とし、それらは高速処理スクリーニングと両立しない。それらは高度の背景ノイズを非常に頻繁に生成し、定量的な観点から信頼度が低い。それらは、テストされる化合物の最適のスクリーニングを可能としない減少した読み取り窓を提供する。
【0017】
既に利用可能となっている方法の代りに、本発明では、蛍光偏光に基づく非常に効率的なスクリーニングテストを採用した(Owicki et al, Journal of Biomolecular Screening, 5, 2000, 297-306)。この技術は、例えばフルオロフォアラベルされたリガンドとレセプターとの間の相互作用の測定を可能にする。その原理は、フリーのリガンドによって放射される蛍光と比較して、リガンドがそのレセプターに結合したときに放射される蛍光の偏光度の増加を測定することより成る。フリーのリガンドの蛍光偏光度はその分子量に依存し、分子量が大きいほど大きくなる。従って、高度の固有蛍光偏光を有する高分子量のリガンドを用いてこのテストを行なう場合は、フリーのリガンドと結合したリガンドとの間の蛍光偏光度の差を高信頼度で評価するのは困難であろう。反対に最小分子量のリガンドを用いることにより、その差異が強調され、その結果、方法の精密さを増大させることが可能になるであろう。従って、ある化合物の実際の活性をよりよく評価し、高速処理スクリーニングを実行することが可能になるであろう。
【0018】
本発明は、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するペプチドに関する。このペプチドは、以下のアミノ酸配列:
【表4】


およびそれらのアミノ酸配列の機能的変異体を含む。
【0019】
「アミノ酸配列」とは、自然の環境から単離されたペプチド配列、特には単離された、化学的に合成されたおよび/または精製された、ならびにおそらく遺伝子工学によって修飾された配列であると、理解するべきである。
【0020】
「機能的変異体」とは、保存的置換または保存的点突然変異を含み、配列番号1〜配列番号5の配列によってそれぞれコードされるペプチドと同一の特性、すなわちBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用する能力、を実質的に有する上記ペプチドのアミノ酸配列であると理解する。配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列の保存的置換または突然変異は、例えば:アラニンによるグリシンの(G−A)、ロイシンによるバリンの(V−L)、グルタミン酸によるアスパラギン酸の(D−E)、グルタミンによるアスパラギンの(N−Q)、リジンによるアルギニンの(R−K)、ロイシンによるチロシンの(Y−L)、メチオニンによるロイシンの(L−M)、イソロイシンによるバリンの(V−I)およびヒスチジンによるグルタミンの(Q−H)、置換または突然変異である。
【0021】
本発明はまた、配列番号1〜配列番号5の配列のペプチドをコードする核酸配列に関する。配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のペプチド配列に対応するこれらのヌクレオチド配列は、それぞれ以下のとおり:
【表5】


である。
【0022】
本発明によるこれらの核酸配列を、対応するアミノ酸配列およびそれらの変異体から出発して遺伝子コードを用いて得ることができる。
【0023】
それらの核酸配列の「変異体」は特に:
− 配列番号7〜配列番号11の核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる配列またはそれに相補的な配列であって、配列番号1〜配列番号5の配列を有するペプチドと実質的に同一の特性を有するポリペプチドをそれぞれコードする配列、または
− ヒトから単離した配列番号7〜配列番号11の配列に相同の哺乳動物種の配列である。
【0024】
「ストリンジェントな条件」とは、2本の一本鎖DNAの配列の特異的なハイブリダイゼーションを、65℃において、例えば6×SSC、0.5%SDS、5×Denhardt溶液および100μgの非特異的担体DNAの溶液中で、または等しいイオン強度の他の溶液中で行い、そして例えば最大0.2×SSCおよび0.1%SDSの溶液で、または等価なイオン強度の他の溶液で、65℃で洗浄したあとにおいて、可能にする条件であると理解する。ストリンジェンシー条件を規定するパラメーターは、2重鎖の50%が解離する温度(Tm)に依存する。30より多い塩基を含む配列については、Tmは次の関係式によって定められる:Tm=81.5+0.41(%G+C)+16.6Log(陽イオン濃度)−0.63(%ホルムアミド)−(600/塩基数)。長さが30塩基未満の配列については、Tmは、関係式:Tm=4(G+C)+2(A+T)により規定される。従ってストリンジェンシー条件は、当業者が配列の大きさ、GC含量、および他のパラメーターに依存して、特にSambrook et al., 2001 (Molecular Cloning : A laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor, laboratory press, Cold Spring Harbor, New York)に記述されたプロトコルに従って、調整することができる。
【0025】
「配列番号7〜配列番号11の配列に相同の哺乳動物種の配列」とは、ヒト以外の哺乳動物種中の、特に霊長類、ラットまたはマウスにおける、前記ヌクレオチド配列と同様の構造の配列であって、実質的に同じ特性を有するそれぞれのポリペプチドをコードする配列であると理解する。2つの相同な配列間の機能領域中の百分率同一性は、一般に80%より大きく、好ましくは90%を越える。
【0026】
本発明はまた、本発明によってクレームに記載されるような、配列番号7〜配列番号11の核酸配列を含む組換えベクターに関する。ベクターを、ホスト細胞中への核酸配列の導入、および任意で、核酸配列によってコードされるポリペプチドの(ホスト細胞中での)発現、を可能にする任意の型のベクターとして理解するべきである。
【0027】
そのようなベクターは、例えば、配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチドの発現に必要な配列を含む、プラスミド、コスミド、バクテリア人工染色体またはバクテリオファージである。
【0028】
好ましくは、本発明による組換えベクターは、配列番号1〜配列番号5の配列を有するペプチドの(ホスト細胞中での)発現に必要な配列を含む。これらの配列は、特にホスト細胞中での転写および翻訳のプロモーター配列およびさらにターミネーター配列である。組換えベクターはまた、翻訳されたタンパク質の細胞外の環境中への放出を可能にする分泌シグナルをコードする配列を含むことができる。
【0029】
本発明はまた、本発明による組換えベクターによって形質転換されたホスト細胞に関する。特定の実施態様では、それらのホスト細胞は、例えば、Escherichia coliおよびStreptococcusなどのバクテリア細胞であるか、または酵母細胞、糸状菌細胞、昆虫細胞、および好ましくは哺乳動物細胞などの真核細胞である。
【0030】
本発明による核酸配列を含む組換えベクターによる適当なホスト細胞の形質転換が、クレームに記載される配列番号1〜配列番号5のそれぞれのペプチドを発現することを可能にする。その後で、それらのホスト細胞中で発現されたタンパク質を、当業者に公知で、先行技術に豊富に記述されている様々な方法を用いて精製することができる。例えば硫酸アンモニウムでの沈殿による、サイズ排除クロマトグラフィーによる、および好ましくはアフィニティークロマトグラフィーによる精製が挙げられる。
【0031】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチドを、Neosystemに注文して化学的に合成することもできる。配列番号1〜配列番号5のペプチド配列およびそれらの機能的変異体の化学合成が、「Applied Biosystems 430A」ペプチド合成装置の助けを借り、Boc/ベンジル戦略を用いて、固体支持体上の合成によって行なわれる。その合成は、所望の配列を樹脂上で組立てること、およびN末端とC末端アミノ官能基を脱保護することに基づく。Boc/ベンジル戦略の場合には、ペプチド合成の間、アミノ酸Boc−L−Lys(Fmoc)−OHを導入することが必要である。完全な配列を組み立てた後、アミノ官能基を脱保護し、強酸存在下で樹脂からペプチドを切断する。
【0032】
本発明はまた、有効成分として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチドを、1つ以上の薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【0033】
本発明中では、医薬組成物の「賦形剤」とは、有効成分が処置されている患者の内部経路中に運ばれることを保証する任意の作用剤であると理解する。「有効成分」とは、医薬組成物の薬力学的特性または治療特性に責任を有する任意の物質であると理解する。
【0034】
無毒で薬学的に許容されうる賦形剤には、希釈剤、溶媒、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、結合剤、膨潤剤、崩壊剤、遅延剤、滑沢剤、吸収剤、懸濁剤、着色剤または香味料を、例としてまた何の限定も意味することなく挙げることができる。
【0035】
本発明は、このように考慮して上に規定した医薬組成物に関するだけでなく、その組成物のプログラム細胞死をもたらす方法における使用にも関し、前記方法は患者への、特に癌患者への、本発明によるペプチドの1つを含む有効な量の医薬組成物の投与を含む。
【0036】
本発明はまた、本発明によるペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用のモジュレーターを同定する方法であって、以下の工程:
a)前記ペプチドと前記Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとを接触させる工程;
b)テストする化合物を加える工程;および
c)テストする化合物の、ペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間のタンパク質相互作用のモジュレーターとしての活性を測定し、次に前記測定を、テストする化合物が存在しない状態と比較する工程、
を含む方法に関する。
【0037】
有利には、相互作用のモジュレーターを同定する方法は下記工程:
a)請求項1に記載のペプチドを蛍光ラベルする工程;
b)テストする化合物が存在する状態で、前記ペプチドをインキュベーションする工程;
c)Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーを加える工程;
d)蛍光偏光度を測定する工程;
e)テストする化合物が存在する測定と、その化合物が存在しない測定とを比較する工程
を含む。
【0038】
「モジュレーター」とは、タンパク質−タンパク質相互作用、酵素活性または細胞レセプターへの結合などの特異的活性を増大させ、阻止し、あるいは少なくとも制限することができる任意の化合物であると理解する。本発明によれば、モジュレーターとは、配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスのメンバーとの間の、パートナー間のタンパク質相互作用の阻害剤または実際に活性化剤である。
【0039】
本発明はまた、本発明によるペプチドの1つとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用の阻害剤を同定する方法に関し、その阻害剤は、モジュレーターが存在しない場合のこの相互作用から成る対照と比較して、蛍光偏光度を減少させることができる。
【0040】
本発明はまた、本発明によるペプチドの1つとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用の活性化剤を同定する方法に関し、その活性化剤は、モジュレーターが存在しない場合のこの相互作用から成る対照と比較して、蛍光偏光度を増大させることができる。
【0041】
蛍光性リガンドは、即ち蛍光性の配列番号1〜配列番号5のペプチドモチーフは、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスのパートナーと結合した後には、対応するフリーのリガンドより低い回転定数を有し、その結果結合したリガンドによって放射される蛍光は偏光するようになる。それ故、フリーのリガンドと比較して、結合したリガンドによって放射される蛍光の偏光度の増加が観察される。
【0042】
好ましい実施態様では、本発明によるスクリーニングおよび同定の方法中で用いられる蛍光プローブは、ボディピー、オレゴングリーンまたはより好ましくはフルオレセインである。
【0043】
より詳細には、本発明によるスクリーニングおよび同定の過程において、相互作用のパートナーとして関与するBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーは、タンパク質Bcl−2、Bcl−XまたはBcl−Wであり得る。
【0044】
有利には、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーは融合タンパク質である。「融合タンパク質」とは、タンパク質Bcl−2、Bcl−XまたはBcl−Wの一つのドメインと、GST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)などのタンパク質の一つのドメインとの間の融合を指すものと理解する。
【0045】
本発明はまた、有効成分として、本発明によるモジュレーターを同定する方法を用いて同定した少なくとも1つのモジュレーター、即ち活性化剤または阻害剤を、1つ以上の薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物に関する。
【0046】
本発明はまた、アポトーシス型(カスパーゼ依存性)プログラム細胞死および/または自己貪食型(カスパーゼ非依存性)プログラム細胞死を、癌患者に有効な量の上に規定した組成物を投与することにより、もたらす方法に関する。
【0047】
上述の医薬組成物は、アポトーシス型および/または自己貪食型のプログラム細胞死に対する作用により、癌の処置への使用に適する。
【0048】
本発明による組成物は、経口、非経口、鼻中、経皮、直腸中、舌下、眼中、呼吸による投与のために適当な剤形であり、特に錠剤、糖衣錠、舌下錠、小袋、小包、カプセル、小粒剤、トローチ、坐剤、クリーム、軟膏、皮膚ゲル、および飲用または注射用アンプルである。
【0049】
本発明を、以下の実施例および図面によって説明する。しかし本発明はそれによって制限されない。
【0050】
実施例1:図1〜5に記載されたペプチドの、2−ハイブリッドシステムによる同定
3つのヒトcDNA(胎座、脳、細胞系統CEMC7)バンクを、酵母中の2−ハイブリッド技術(Fields et al.)により、Legrain et al., Nature Genetics, 1997, vol.16, 277-282 (US 6,187,535)によって記述された接合プロトコルを用いてスクリーニングした。
【0051】
1) 「ベイト」および「プレイ」の調製
a) 用いた「ベイト」は次のとおり:
− LexA DNA結合ドメインへ融合された、Bcl−XのC末端切断物(1〜209)(受入番号Z23115);
− LexA DNA結合ドメインへ融合された、Bcl−2のC末端切断物(1〜211)(受入番号XM_008738)
である。
これらのベイトを、Saccharomyces cerevisiae酵母、菌株 L40Δgal4 (MATa ade2, trp1-901, leu2-3, 112, lys2-801, his3Δ200, LYS2 (lexAop)4-HIS3, ura3-52 ::URA3 (lexAop)8-LacZ, GAL4 ::KanR)中で発現させ、30℃で、トリプトファンを欠く合成培地(DO−Trp)中で、全体として吸光度OD600nm0.1〜0.5を得るまで前培養する。その前培養の稀釈液(OD600nm=0.006)50mlを、30℃で終夜インキュベーションする。
【0052】
b) Gal4転写活性化ドメインへ融合されたcDNAバンクを発現するプラスミドを含むSaccharomyces cerevisiae酵母、菌株YHGX13(MATα Gal4Δ Gal80Δ ade2-101 ::Kan, his3, leu2-3-112, trp1-901, ura3-52 URA3::UASGAL1-LacZ, Met)のコレクションを、形質転換およびそれに続くロイシンを欠く培地(DO−Leu)中での選択によって得る。これらの酵母を小分けにし、−80℃で貯蔵する。
【0053】
2) 接合
「ベイト」/「プレイ」比:2を用いて、接合を実行する。50単位のOD600nmに対応する量の、工程1)a)中で得られた酵母「ベイト」細胞を、工程1)b)中で得られた酵母「プレイ」と混合する。遠心分離後、沈殿物をYPGlu培地に再懸濁し、YPGlu培養プレート上に広げ、30℃で4時間30分インキュベーションする。互いに相互作用することができる「ベイト」と「プレイ」を含む接合した酵母の選択を、DO−Leu−Trp−His培地中で実行する:ロイシンおよびトリプトファンの欠乏により、2つの型のプラスミド(「ベイト」/「プレイ」)を含む酵母のみが成長することを可能にする淘汰圧を維持することが可能になる;培地からヒスチジンを欠くことにより、互いに相互作用することができる「ベイト」プラスミドおよび「プレイ」プラスミドを含む接合した酵母を選択することが可能になる:即ち、上述した相補性により、ヒスチジンの生合成に関係する酵素をコードするレポーター遺伝子であるHIS3遺伝子を活性化することが可能になる。
【0054】
3) 陽性クローンの同定
項2)に記述した接合法により選択した酵母のコロニーの「プレイ」断片を、そのコロニーの粗溶解物から出発するPCRにより、「プレイ」ベクターの特異的なプライマー:
【表6】


を用いて増幅する。次に、PCR生成物を配列決定し、得られた配列を、データベースと比較して同定する。
【0055】
4) 図1〜5に記載されたペプチドの同定
テストされる各「ベイト」断片について、2−ハイブリッドシステムにより、複数の「プレイ」断片の同定が可能である。この同定を、選択された「プレイ」の配列をBlastwunのようなソフトウェアプログラムを用いて比較することにより実行する。そのプログラムはワシントン大学のウェブサイト:http://bioweb.pasteur.fr/seqanal/interfaces/blastwu.htmlで利用可能である。
【0056】
実施例2:実施例1において得られたペプチドとBcl−2、Bcl−Xおよび/またはBcl−Wとの間の相互作用の確認
1) 蛍光偏光を用いるKiの決定
蛍光偏光を用いるKiの決定は、親アポトーシスBakペプチドとBcl−XのようなBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用に対する、配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列をそれぞれ有する拮抗ペプチドの効果を測定する工程より成る。
【0057】
次の試薬を、次に述べる順序で混ぜ合わせる:
− 最終濃度1nM〜100μMの拮抗ペプチド;
− 最終濃度15nMの蛍光性ペプチドリガンド(Bak BH3 カルボキシフルオレセイン);
− 最終濃度100nMの、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバー、Bcl−X
【0058】
これらの試薬を、相互作用緩衝液(NaHPO 20mM pH7.4、EDTA 1mM、NaCl 50mM、およびプルロニック酸(Pluronic)F−68 0.05%)中に溶解する。次に、周囲温度で30分間その混合物をインキュベーションし、Fusion装置(Packard)で蛍光偏光を測定する(485nmでの励起および530nmでの読み取り)。値をmP(蛍光偏光の単位)で与える。
【0059】
これらの蛍光偏光分析は、配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチドが、BakとBcl−Xとの間のペプチド相互作用の拮抗ペプチドであることを実証した。これらの蛍光偏光テストの過程で得られたKi値は、次のとおりである:
【表7】

【0060】
2) それぞれの突然変異体ペプチドモチーフ(L−−A)の、蛍光偏光を用いるKiの決定
蛍光偏光を用いるKiの決定は、親アポトーシスBAKペプチドとBcl−XなどのBcl−2タンパク質ファミリー抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用に対する、ロイシンからアラニンまで(L−−A)が突然変異された、配列番号1〜配列番号5のペプチドの拮抗性効果を測定する工程より成る。
【0061】
突然変異された形(L−−A)の配列番号1〜配列番号5のペプチド配列は、以下の通りである:
【表8】

【0062】
蛍光偏光を用いるKiの決定のためのプロトコルは、上述のプロトコルと同じである。
【0063】
蛍光偏光分析の結果の比較は、親アポトーシスBakペプチドとBcl−XなどのBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間のペプチド相互作用における、本発明による配列番号1〜配列番号5のペプチドと比較した、配列番号14〜配列番号18の突然変異体ペプチド(L−−A)の拮抗的効果の喪失を示す。
【0064】
実施例3:Bcl−2および/またはBcl−Xと実施例1で得られたペプチドとの間の相互作用を阻害することができる化合物の、スクリーニングテスト
テストする化合物を最終濃度10μg/mlで、384ウエルプレート(Corning,平底)に分配する。1つのウエルを、対照として使用するために、テスト化合物を含まない等量の緩衝液/溶媒を入れる。実施例1で得られたフルオレセインでラベルされたペプチドを、1〜100nMの範囲の最終濃度を得るようにウエルに加える。次に、融合タンパク質GST−Bcl−X、GST−Bcl−2またはさらにGST−Bcl−Wを、NaHPO 20mM pH7.4、EDTA 1mM、NaCl 50mMおよびプルロニック酸F−68 0.05%を含む緩衝液中に、0.1〜1μMの最終濃度を得るように加える。次に、En Vision装置(Packard Perkin-Elmer)により、蛍光偏光を測定する。テスト化合物存在下で行なわれたテストで記録された蛍光偏光度が、テスト化合物無し(対照ウエル)で得られた偏光度と比較して、有意に減少すれば、化合物が阻害活性を有するという結論を下すことができる。反対に、対照と比較して、テスト化合物存在下でのテストでの蛍光偏光度が有意に増加すれば、化合物が活性化活性を有するという結論を下すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するCerd4ペプチドのアミノ酸配列:配列番号1。
【図2】Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するKiaa1578ペプチドのアミノ酸配列:配列番号2。
【図3】Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するGenematchペプチドのアミノ酸配列:配列番号3。
【図4】Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するLoc51569ペプチドのアミノ酸配列:配列番号4
【図5】Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するMina53ペプチドのアミノ酸配列:配列番号5。
【図6】本発明による配列番号1〜配列番号5のペプチド配列のコンセンサスモチーフ:配列番号6。
【図7−1】本発明による配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列を有する拮抗ペプチドの、親アポトーシスBakペプチドと抗アポトーシスメンバーBcl−Xとの間の相互作用に関するKiの、蛍光偏光を用いた決定。
【図7−2】本発明による配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列を有する拮抗ペプチドの、親アポトーシスBakペプチドと抗アポトーシスメンバーBcl−Xとの間の相互作用に関するKiの、蛍光偏光を用いた決定。
【図8】アミノ酸配列:配列番号1〜配列番号5、およびそれら各々の核酸配列:配列番号7〜配列番号11の要約表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【表1】


および前記アミノ酸配列の機能的変異体、
より選ばれるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーと相互作用するペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のペプチドをコードする核酸配列。
【請求項3】
【表2】


より選ばれるヌクレオチド配列を含むことを特徴とする、請求項2記載の核酸配列。
【請求項4】
請求項2または3のいずれか1項記載の核酸配列の1つを含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項5】
請求項1記載のペプチドの発現に必要な配列を含むプラスミド、コスミド、バクテリア人工染色体、またはバクテリオファージであることを特徴とする、請求項4記載の組換えベクター。
【請求項6】
請求項1記載のペプチドの発現に必要な配列が、転写および翻訳のプロモーター配列を含むことを特徴とする、請求項5記載の組換えベクター。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項記載の組換えベクターによって形質転換されたことを特徴とする、ホスト細胞。
【請求項8】
バクテリア細胞または真核細胞であることを特徴とする、請求項7記載のホスト細胞。
【請求項9】
1以上の薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて、請求項1に記載のペプチドを有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項10】
癌患者に有効な量の請求項9記載の医薬組成物を投与する工程を含む、プログラム細胞死をもたらす方法。
【請求項11】
請求項1記載のペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用のモジュレーターを同定する方法であって:
a)前記ペプチドと前記Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとを接触させる工程;
b)テストする化合物を加える工程;および
c)テストする化合物の、ペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間のタンパク質相互作用のモジュレーターとしての活性を測定する工程、および次に、前記測定をテストする化合物がない測定と比較する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
a)請求項1記載のペプチドを蛍光ラベルする工程;
b)テストする化合物が存在する状態で、前記ペプチドをインキュベーションする工程;
c)Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーを加える工程;
d)蛍光偏光度を測定する工程;
e)テストする化合物の存在下の測定と非存在下の測定とを比較する工程、
を含むことを特徴とする、請求項11記載の相互作用のモジュレーターを同定する方法。
【請求項13】
ペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用のモジュレーターが、蛍光偏光度を増大させる活性化剤であることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ペプチドとBcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーとの間の相互作用のモジュレーターが、蛍光偏光度を減少させる阻害剤であることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項15】
蛍光プローブがフルオレセインであることを特徴とする、請求項11〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
Bcl−2タンパク質ファミリーの抗アポトーシスメンバーがタンパク質Bcl−2、Bcl−XまたはBcl−Wであることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
1以上の薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて、請求項11〜16のいずれか1項記載のモジュレーターを同定する方法を用いて得られたモジュレーターを有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項18】
有効な量の請求項17記載の医薬組成物を癌患者に投与することを含む、プログラム細胞死をもたらす方法。
【請求項19】
癌の治療に使用するための、請求項9または17のいずれか1項記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−528048(P2008−528048A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553644(P2007−553644)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000206
【国際公開番号】WO2006/082304
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【出願人】(503047685)
【氏名又は名称原語表記】HYBRIGENICS
【Fターム(参考)】