説明

BMC/SMC成形部材の表面張力の向上のための、官能化されたポリビニルエステルの使用

本発明の対象は、不飽和ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体の表面張力の改善のための、不飽和ポリエステル樹脂組成物における添加剤としての、官能化されたポリ酢酸ビニルの固形樹脂の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BMC/SMCの成形部材の表面張力の向上のための、官能化されたポリビニルエステルの使用に関する。
【0002】
平坦なプラスチック部材の製造において、不飽和ポリエステル樹脂組成物(UP樹脂)は頻繁に使用される。このポリエステル樹脂はジカルボン酸、またはジカルボン酸無水物と、ポリオールとの反応生成物である。この種類のポリエステル樹脂組成物は、エチレン系不飽和基、一般的にはスチレンを有するモノマーも含む。ポリエステルを溶解させるため、およびポリエステル組成物が流動性のある材料であることを保証するために、スチレンがポリエステル樹脂組成物に添加される。ポリエステル樹脂組成物を用いて得られるプラスチック部材の強化のために、ポリエステル樹脂組成物はさらに繊維材料、例えばガラス繊維、炭素繊維、または相応する繊維シート(Fasermatte)を含む。
【0003】
このようなポリエステル樹脂組成物(繊維強化プラスチック複合材料=FRP複合材料)の加工の際問題となるのは、ポリエステル樹脂の熱硬化の間の体積収縮である。従ってポリエステル樹脂の硬化の際の収縮の低減のために、この樹脂にいわゆる低収縮剤が添加される。低収縮剤は硬化の際に収縮を低減し、内部応力を低下させ、微細な亀裂の形成を減少させ、かつ製品許容差の遵守を容易にする。低収縮剤とは、熱可塑性樹脂、例えばポリスチレン、ポリメチルメタクリラート、およびとりわけポリ酢酸ビニルである。最大1質量%のカルボキシル官能性のコモノマー単位を有するポリ酢酸ビニルもまた使用される。カルボキシル官能性コモノマー単位がより高い含有率の場合、収縮減少は満足のいくものではない。
【0004】
FRP複合材料から成る熱硬化性成形体の2つの製造方法が、BMC(バルクモールディングコンパウンド)技術と、SMC(シートモールディングコンパウンド)技術である。BMC法においては、コンパウンドの成分、ポリエステル樹脂のスチレン溶液、低収縮剤、架橋触媒、充填材、離型剤、ならびに場合によってはさらなる添加剤をペースト状の材料へと混合し、その後ガラス繊維を添加混合し、かつ引き続き圧力と温度の適用下、成形部材を製造する。例えばこの技術を用いて、自動車のヘッドライトのための反射鏡が製造される。SMC法においては、BMC法と同様に、ポリエステル樹脂のスチレン溶液、低収縮剤、架橋触媒、充填材、離型剤、ならびに場合によってはさらなる添加剤からペースト状の材料を製造し、この材料をポリアミドフィルム上に塗布する。引き続きガラス繊維をこの層上に散布し、そして最終的にペースト状の材料のさらなる層を塗布する。その後この平坦なサンドイッチをフィルムから引き剥がし、断片に切断し、かつ圧力と温度の適用下、成形部材へとプレスする。この技術を用いて製造される成形部材は例えば、自動車の後部ハッチである。
【0005】
EP501176A1、およびDE102004031968より、酸基を含む熱可塑性ビニルポリマーの添加によって硬化可能なポリエステル樹脂の成形材料の増粘を加速させることができるのは公知である。
【0006】
しかしながら、こうして得られた成形部材を塗装することが、多くの場合必要となる。この際不利なのは、前述の技術を用いて得られた成形部材の表面が僅かな表面張力しか有さないということであり、このことはラッカー層の接着が不充分であることにつながる。従って従来、表面張力を塗装の前に付加的な作業工程において火炎処理、またはプラズマ処理を用いて向上させる。
【0007】
従って課題は、高められた表面張力を有する、FRP複合材料からの成形体が得られるように、FRP複合材料を変性することであった。
【0008】
本発明の対象は、不飽和ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体の表面張力の改善のための、不飽和ポリエステル樹脂組成物における添加剤としての、官能化されたポリビニルエステル固形樹脂の使用である。
【0009】
官能化されたポリビニルエステルの固形樹脂に適切なビニルエステルモノマーは、1〜18のC原子を有する、非分枝状の、または分枝状のカルボン酸のビニルエステルである。好ましくはビニルエステルは酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ビニル−2−エチルヘキサノアート、ラウリン酸ビニル、ピバル酸ビニル、および5〜13のC原子を有するα−分枝状のモノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)またはVeoVa10(登録商標)(Shell社の市販名)、または前述のビニルエステルモノマーの混合物である。特に好ましくは、酢酸ビニルである。
【0010】
官能基を有する適切なコモノマーは、カルボン酸基、スルホン酸基、またはホスホン酸基を有するコモノマーである。好ましいのは、エチレン系不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、スルホン酸ビニル、およびホスホン酸ビニルである。特に好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、およびクロトン酸である。官能基を有するコモノマー単位の、ポリビニルエステル固形樹脂における割合は、その都度ポリビニルエステル固形樹脂の全質量に対して、好適には1質量%より大きく、最大10質量%、特に好ましくは3〜10質量%である。
【0011】
最も好ましいのは、アクリル酸コモノマー単位、またはクロトン酸コモノマー単位を上記の量で含む、酢酸ビニルベースの固形樹脂である。
【0012】
官能化されたポリビニルエステル固形樹脂の製造は、塊状重合法、懸濁重合法、または好適には溶液重合法に従って行われる。適切な溶剤は例えば、1〜6のC原子を有する1価の脂肪族アルコール、好適にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールである。特に好ましくは、エタノール、およびイソプロパノールである。反応熱の排出のために蒸留冷却を利用するため、反応を一般的に還流条件下、一般的に40℃〜140℃の重合温度で実施する。この反応を常圧下、また軽度の過圧下でも実施することができる。
【0013】
開始剤としては有機過酸化物、またはアゾ化合物を使用する。適切なのは例えば、ジアクリルペルオキシド、例えばジラウロイルペルオキシド、ペルオキソエステル、例えばt−ブチルペルオキソピバラート、またはt−ブチルペルオキソ−2−エチルヘキサノアート、またはペルオキソ二炭酸塩、例えばジエチルペルオキソ二炭酸塩である。開始剤の量はモノマーに対して、一般的に0.01〜5.0質量%である。開始剤を装入することも、また添加することもできる。この際、必要とされる開始剤量の一部を装入し、その残りを反応中、連続的に添加することが有利と実証されている。
【0014】
分子量の調整は、当業者に公知の方法で分子量調節剤の存在下での重合によって行うことができる。適切な調節剤は例えば、アルコール、例えばエタノール、またはイソプロパノール、アルデヒド、例えばアセトアルデヒド、またはプロピオンアルデヒド、シランを含有する調節剤、例えばメルカプトシラン、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである。
【0015】
重合体の製造のために、バッチ法に従って作業することができ、この際重合バッチのすべての成分を反応器に装入するか、またはセミバッチ法に従って個々の、または複数の成分を装入し、かつその残りを計量供給するか、または連続的重合を実施し、成分を重合中に計量供給する。添加を場合によっては別々に(空間的および時間的に)実施することができる。
【0016】
BMC(バルクモールディングコンパウンド)技術、およびSMC技術のためのFRP複合材料の調製は、当業者には公知である。BMC技術、およびSMC技術のための不飽和ポリエステル樹脂組成物のための典型的な調製物は、60〜70質量部の不飽和ポリエステル樹脂(スチレン中で50〜75%の溶液として)、30〜40質量部の低収縮剤またはポリメチルメタクリラート、0.5〜2質量部の開始剤、例えばt−ブチルペルベンゾアート、150〜200質量部の充填材、例えば炭酸カルシウム、25〜30質量部のガラス繊維、0.5〜3質量部の離型剤、例えばステアリン酸亜鉛、ならびに場合によってはさらなる添加剤、例えば顔料、増粘剤、難燃添加剤を含む。好適にはこの調製物は増粘剤、例えば塩基性金属化合物、例えば元素周期表の第1から第3の主族の金属の酸化物または水酸化物を含まない。
【0017】
本発明による使用において、官能化されたポリビニルエステル固形樹脂をその都度調合物中の低収縮剤の全質量に対して、10〜80質量%、好適には50〜80質量%の量で使用する。その際目的に合わせてこの添加剤をスチレン溶液で使用することができる。
【0018】
表面張力の改善とは、表面張力の向上を意味している。本発明による使用においてその際、不飽和ポリエステル樹脂組成物ベースの成形体の表面張力は、好適には35N/mm2以上、特に好ましくは38N/mm2以上であるのが望ましい。表面張力を一般的に、DIN53364に従ったテストインク、またはテストペンを用いて測定する。
【0019】
以下の実施例は、本発明のさらなる説明に役立つ。
【0020】
以下のSMC調製物を試験した。
【表1】

【0021】
調製物を以下のようにSMC成形部材に加工した。
【0022】
酸化マグネシウムは除外して、調合物の成分を溶解槽でペーストに混合した。5分待機後、低減された回転数のもとで酸化マグネシウムを撹拌混合した。このペーストを1.5mmのドクターブレードでポリアミドフィルム上に塗布した。ガラス繊維をペースト状の層上に散布した。同様に第二のポリアミドフィルムをペーストで被覆し、かつ引き続きガラス繊維層を介して畳んだ。この層をめん棒で圧縮した。3日の貯蔵時間後、この複合材を成形部材にプレスした。
【0023】
こうして得られた成形部材の表面を、標準ペン(テストペン、arcotest(登録商標))で表面張力の表示のために測定した。
【0024】
比較例1に記載のこの組成物によって、成形体の表面が34N/mm2の表面張力を有する成形体を得た。35N/mm2未満では、ラッカー接着はもはや満足のいくものではない。
【0025】
実施例1に記載のこの組成物によって、成形体の表面が38N/mm2の表面張力を有する成形体を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体の表面張力の改善のための、不飽和ポリエステル樹脂組成物における添加剤としての、官能化されたポリビニルエステル固形樹脂の使用。
【請求項2】
モノエチレン系不飽和モノカルボン酸、またはジカルボン酸から誘導されるコモノマー単位を有する、カルボキシル官能性のポリ酢酸ビニルの固形樹脂を使用することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
官能化されたポリビニルエステル固形樹脂におけるコモノマー単位の割合が、官能化されたポリビニルエステル固形樹脂の全質量に対して1質量%より大きく、最大10質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
調製物が60〜70質量部の不飽和ポリエステル樹脂(スチレン中で50〜75%の溶液として)、30〜40質量部の低収縮剤(スチレン中で30〜50%の溶液として)、0.5〜2質量部の開始剤、150〜200質量部の充填材、25〜30質量部のガラス繊維、0.5〜3質量部の離型剤、ならびに場合によってはさらなる添加剤を含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
調合物における低収縮剤の質量に対して10〜80質量%を、官能化されたポリビニルエステル固形樹脂により代替することを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
調合物における低収縮剤の質量に対して50〜80質量%を、官能化されたポリビニルエステル固形樹脂により代替することを特徴とする、請求項4に記載のカルボキシル官能性のポリ酢酸ビニルの固形樹脂の使用。

【公表番号】特表2009−534510(P2009−534510A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507041(P2009−507041)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053854
【国際公開番号】WO2007/125045
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】