説明

Cu(In,Ga)X2薄膜のカソードスパッタ堆積

本発明は、化学式Cu(In,Ga)X(ここで、XはSまたはSe)を有する半導体材料から成る膜を堆積させるための方法および装置に関する。本発明の方法は、少なくとも1つのスパッタリングターゲットから基板の少なくとも1つの表面上にCu,InおよびGaをカソードスパッタ堆積させることを含み、加えて、カソードチャンバ内の前記表面上に蒸気相にあるXを同時堆積させることを含む。Xまたは後者の前駆物質の蒸気形態は、第1のガス層流の形態で移動させられ、その進行経路は基板表面に平行であり、かつ後者と接触し、しかも不活性ガスに対する第2のガス層流の形態で同時に移動させられ、その進行経路は第1のガス層流と平行であり、かつ第1ガス層流の進行経路とスパッタリングターゲットの表面との間に設置され、これによって、第1のガス層流が基板の周りの領域に制限されることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式Cu(In,Ga)X(ここで、XはSまたはSe)を有する半導体材料の膜を堆積させるための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料Cu(In,Ga)SeまたはCu(In,Ga)S(以下では(CIGX)と呼ぶ)の膜、特に薄膜は、低コストで高効率な光電池の製造に用いられるが、その理由は、関連する方法が、1m以上の範囲の大きな表面積を有する基板上に堆積する場合に容易に適用可能なためである。
【0003】
CIGX、特にCIGSeの薄膜を形成するための様々な方法が知られている。
【0004】
これらの方法のうちの1つがカソードスパッタリング法であり、2つの別個のユニットで実行される2つのステップを有する。すなわち、第1のステップは、金属前駆物質(Cu,InおよびGa)を含む薄膜のカソードスパッタリング堆積にあり、第2のステップは、所望の化合物を形成するために、SeまたはSを含む雰囲気中(SeまたはSの蒸気、HSeまたはHSの気体、などの形態)でのアニールによる前記金属膜のセレン化または硫化から成る。
【0005】
そのような方法は、エルマー(Ermer)らによる米国特許第4,798,660号明細書(1989年)に記載されている。
【0006】
その方法の所要時間および投資コストを低減するために、ソーントン(Thornton)らは米国特許第5,439,575号明細書(1995年)において、単一ステップのカソードスパッタリング技術によるCIGSe薄膜の形成を提案している。
【0007】
この方法では、金属元素(Cu,InおよびGa)はカソードスパッタリングによって基板上に供給されるが、その一方でSeは、同じカソード・スパッタリング・チャンバ内に設置されたルツボ自体から蒸発したSe蒸気の形態で基板に到達する。
【0008】
基板は、堆積中に加熱されなければならない。
【0009】
この方法によって準備されるCIGSeの薄膜は、10%を超えるエネルギー効率を有する光電池を製造するのに用いられる(ナカダらによる、Jpn.J.Appl.Phys.34,4715(1995年))。
【0010】
カソードスパッタリングと蒸着を組み合わせたハイブリッド法では、セレンはルツボから蒸発したセレン蒸気の形態で供給される。
【0011】
しかしながら、ルツボからの蒸着は、比較的広い角度分布に向けられた蒸気流を生じさせ、かつ、加熱された基板に到達する過剰なセレンが再蒸発することも知られている。
【0012】
その結果、チャンバは完全にセレン蒸気で飽和し、セレン蒸気は、加熱されていないいかなる表面上においても極めて容易に凝縮する。同様の問題は、硫黄でも生じる。
【0013】
換言すると、セレンまたは硫黄の望ましくない堆積が両スパッタリングターゲット上で発生し、これによって、スパッタリング速度、したがって堆積速度を制御するのが困難になり、さらにまた、チャンバの全ての冷温壁上において、装置の頻繁なメンテナンスが必要になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、単一ステップのカソードスパッタリング技術によって、しかしセレンまたは硫黄がカソード・スパッタリング・チャンバの冷温壁上に堆積されない、または堆積されることが少ない技術によって、膜、特にCIGX(ここで、XはSeまたはS)の薄膜を形成するための方法および装置を提案することで、従来技術における方法の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のために、本発明は、XがSeまたはS、もしくはその混合物であるCu(In,Ga)Xの膜を、基板の少なくとも1つの表面上に堆積させるための、カソード・スパッタリング・チャンバを有する装置を提案するものであり、この装置は、
基板ホルダーと、
上記基板ホルダーを加熱するための手段と、
少なくとも1つのスパッタリング・ターゲット・ホルダーと、
蒸気の形態にあるXまたはXの前駆物質を含む不活性ガスの第1の層流を注入するための第1の注入管3と、
を有し、
上記基板ホルダーは少なくとも1つのスパッタリング・ターゲット・ホルダーと反対に位置し、かつそれから離間しており、
この装置が、不活性ガスの第2の層流を注入するための第2の注入管であって、カソード・スパッタリング・チャンバ内のその入口開口部が第1注入管のカソード・スパッタリング・チャンバ内の入口開口部と少なくとも1つのターゲットホルダーとの間に設置されている、第2の注入管を、さらに有し、
上記第2注入管の入口開口部を介して入る不活性ガスの第2の層流は、蒸気の形態にあるXまたはその前駆物質を含む不活性ガスの第1の層流と平行であり、かつ、蒸気の形態にあるXまたはXの前駆物質を含む不活性ガスの第1の層流を基板ホルダーの周りの領域に制限する、ことを特徴とする。
【0016】
第1の好適な実施形態では、本発明の装置は、Xを蒸気化するための手段を有するエンクロージャをさらに有し、このエンクロージャは第1の注入管およびカソード・スパッタリング・チャンバと流体連結されている。
【0017】
第2の好適な実施形態では、本発明の装置は、Xの前駆物質を分解かつ蒸気化するためのプラズマを生成するための手段を有するエンクロージャをさらに有し、このエンクロージャは第1の注入管およびカソード・スパッタリング・チャンバと流体連結されている。
【0018】
全ての実施形態において、カソード・スパッタリング・チャンバはさらに、かつ好ましくは、冷却手段を任意選択的に備えたグリッドを有し、このグリッドは基板ホルダーに平行で、かつ第1の注入管の入口開口部と第2の注入管の開口部との間で、カソード・スパッタリング・チャンバの全体の長さに沿って伸長している。
【0019】
特別な実施形態においては、本発明の装置は、互いに隣り合って設置された2つのスパッタリングターゲットを有する。
【0020】
しかしながら、本発明の装置はまた、互いに隣り合って設置された3つのスパッタリングターゲットを有してもよい。
【0021】
本発明はまた、Cu(In,Ga)X(ここで、XはSeまたはSもしくはその混合物)の膜を堆積させるための方法を提案する。この方法は、
少なくとも1つのスパッタリングターゲットからのカソードスパッタリングによって、基板の少なくとも1つの表面上に、Cu、InおよびGaを堆積させるステップと、
このステップと同時に、カソード・スパッタリング・チャンバ内の前記少なくとも1つの表面上にXの蒸気を堆積させるステップと、
を有し、
蒸気の形態にあるXまたはその前駆物質が、第1のガス層流の形態で移動させられ、その進行経路が基板の少なくとも1つの表面に平行であり、かつ少なくとも1つの表面と接触しており、同時に不活性ガスの第2のガス層流と接触しており、第2のガス層流の進行経路が、
第1のガス層流の進行経路と平行であり、かつ
第1のガス層流の進行経路と前記スパッタリングターゲットの表面との間にあり、これによって、第1のガス層流が基板の周りの領域に制限される、ことを特徴とする。
【0022】
有利な特徴によれば、第2のガス層流の速度は、第1のガス層流の速度よりも高い。
【0023】
有利なことには、それぞれが互いに独立である前記第1および第2のガス層流が、K≦10−2および/またはレイノルズ数R≦1000となるようなクヌーセン数Κ=L/aを有し、ここで、Lは原子または分子が2つの衝突の間に移動する平均距離であり、かつaは特性長であり、スパッタリングターゲットと基板との間の距離にほぼ同じか、または等しい。
【0024】
第1の好適な実施形態では、Xは化学式RXを有するXの前駆物質から堆積され、ここで、RはH、Me、Et、iPrまたはtBuである。
【0025】
しかしながら、Xそれ自体も蒸気化され、カソード・スパッタリング・チャンバ内でのアルゴンのような不活性ガスを含む、前記第1のガス層流の中で同調搬送されてもよい。
【0026】
前記第2のガス層流は、アルゴンの層流であることが好ましい。
【0027】
特別な実施形態においては、Xの前駆物質は、カソード・スパッタリング・チャンバ内に注入される前に、プラズマによって分解される。
【0028】
前記第1のガス層流および前記第2のガス層流は、好ましくは冷却されているグリッドによって、互いに分離されることが好ましい。
【0029】
本発明は、以下の詳細な説明を読むことによって、より良く理解され、かつその他の特徴および利点がより明確に現れるであろう。詳細な説明は、本発明の方法を実施するための、本発明による装置を概略的に示すただ1つの添付図を参照してなされるであろう。
【0030】
本発明の装置は、そのような装置を概略的に表すただ1つの添付図を参照して説明されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図に示すように、化合物Cu(In,Ga)X(ここで、Xはセレン(Se)または硫黄(S)のいずれか)の膜を、特に、概ね厚さが100nm〜5μm(両端数値含む)、好ましくは1〜2(両端数値含む)である薄膜を堆積させるための本発明の装置は、図で1と表示された従来のカソード・スパッタリング・チャンバを有する。すなわち、前記チャンバ1は図で7と表示され、スパッタリングターゲットを受け入れることを意図した、特に少なくとも1つのカソード・スパッタリング・ターゲット・ホルダーを有する。
【0032】
スパッタリング・ターゲット・ホルダー7は、単一のスパッタリングターゲットを受け入れてもよい。この場合、前記ターゲットはCu−In−Ga合金である。
【0033】
しかしながら、それはまた、それぞれがスパッタリングターゲットを受け入れる2つのターゲットホルダーを収容するか、または同じターゲットホルダー上に支持された2つのカソード・スパッタリング・ターゲットを収容するかのいずれでもよい。後者では、例えば、ターゲットの1つがCu−Ga合金からなり、かつ他の1つがInからなる。
【0034】
しかしながら、それは、図で示す同じカソード・スパッタリング・ターゲット・ホルダー上に配置された3つのカソード・スパッタリング・ターゲットを、または3つのターゲットホルダー上に配置された3つのターゲットを、収容さえすればよい。例えば、ターゲットの1つがCuから、他の1つがGaから、3つ目がInから成る。
【0035】
前記少なくとも1つのカソード・スパッタリング・ターゲット・ホルダー7は、図で6と表示された基板ホルダーの反対に位置し、基板ホルダーは、少なくとも1つの表面上に薄膜が堆積されることになる基板を受け入れることを意図している。
【0036】
本発明の装置が1つのターゲットのみを有する場合、ターゲットホルダーは基板と平行にあるのが有利であろう。
【0037】
本発明の装置が2つ以上のターゲットを有する場合、ターゲットを対称的に、かつ基板ホルダーのゾーンに向けて少し集中させるように位置させるのが有利であろう。
【0038】
基板ホルダー6は、基板を加熱するための加熱手段(図示せず)を備えている。
【0039】
必要ならば、チャンバ1は、真空引口および真空生成装置を備えてもよい。
【0040】
本発明の装置はまた、以下で示すように、元素Xを蒸気化する、またはその前駆物質を分解しかつ蒸気化することを意図した、図で2と表示されたエンクロージャを有する。
【0041】
前記エンクロージャ2はチャンバ1から分離されているが、加熱手段(図示せず)を備えた図で3と表示される注入管を介してチャンバ1に接続されている。
【0042】
注入管3の入口は、チャンバ1の壁上に設置されているが、基板ホルダー6の下方にあり、蒸気化した元素Xと基板との間の接触を可能にしている。
【0043】
それ故に、元素Xの蒸気は、第1層流の形態でチャンバ1に入り、その進行経路は、図で9と表示された矢印によって示されている。元素Xの蒸気が基板に接触すると、加熱された基板上で過剰に存在する元素Xは再蒸発し、その後、図で5と表示された矢印によって示されるように、元素Xを含む第1層流によって同調搬送される。
【0044】
装置の冷温壁上へのXの堆積を避けながら、単一ステップで所望の薄膜を堆積させることを可能とするために、本発明の装置は、アルゴン、ヘリウムまたは窒素のような不活性ガスをチャンバ1内に注入するための、図で4と表示された注入管をさらに有する。
【0045】
ガスは、アルゴンが好ましい。
【0046】
注入管4は、その入口が注入管3の入口の下方に設置されており、好ましくはアルゴンの第2の層流を、蒸気の形態で元素Xを輸送する第1の層流の下方に注入する。前記第2の層流は、図で12と表示された矢印によって示されるような経路に従って流れる。
【0047】
これら2つの層流の同時注入によって、元素Xの蒸気は基板表面の周りの領域に制限され、これによって、スパッタリングターゲット上およびチャンバ1の冷温壁上への望ましくないXの堆積を回避することが可能になる。
【0048】
チャンバ1はまた、ガス層流を除去するための手段と、言うまでもないが、スパッタリングターゲットをスパッタするための手段とを有する。
【0049】
それ故に、本発明の方法は、少なくとも1つのカソード・スパッタリング・ターゲットのカソードスパッタリングによって、金属元素Cu、InおよびGaを、基板ホルダー6の加熱手段によって加熱された少なくとも1つの基板表面上に堆積させることにある。
【0050】
一般に、元素Xは蒸気の形態で運ばれる。すなわち、元素Xがエンクロージャ2で蒸気化されるか、あるいは、加熱された注入管3を介して蒸気の形態で導入されるか、のいずれの場合もある。注入管3は、蒸気の形態にある元素Xを維持するのに十分な温度へと加熱される。元素Xは、アルゴン、窒素またはヘリウムのような不活性ガスによって、チャンバ1内に、第1層流の形態で同調搬送される。好ましくは、アルゴンが用いられる。この目的のために、エンクロージャ2は、元素Xを蒸気化するための手段と、図で10と表示された不活性ガスの入口とを備える。あるいは、プラズマにさらされたか、またはさらされていないXの前駆物質のガスがチャンバ1内に運ばれ、この場合には、エンクロージャは、前駆物質を分解しかつ蒸気化するための手段を備える。この場合には、ガスの形態に分解されたXの前駆物質が、膜が堆積されるべき表面に接触すると、それは前記表面と化学的に反応する。
【0051】
全ての場合において、蒸気の形態にある元素Xがチャンバ1内に導入されると同時に、不活性ガスの第2の層流が、元素Xまたはその前駆物質を含む第1の層流の下方に導入される。第1の層流の進行経路に平行な進行経路に沿って、すなわち第1の層流の下方で、第1の層流とカソード・スパッタリング・ターゲットとの間を第2の層流は通過する。
【0052】
それ故に、チャンバ1はまた、アルゴン、ヘリウムまたは窒素のような不活性ガスを注入するための、図で4と表示された注入管を有する。
【0053】
好ましいガスはアルゴンである。
【0054】
チャンバ1はまた、前記不活性ガスを除去するための管と、言うまでもないが、ターゲットをスパッタするための手段とを有する。
【0055】
必要ならば、チャンバ1はまた、真空引口およびエンクロージャを真空状態にするための装置を備えてもよい。
【0056】
本発明の装置はまた、元素Xを蒸気化するための、またはその前駆物質を分解、蒸気化するための、図で(2)と表示されたエンクロージャを有する。
【0057】
前記エンクロージャ2はチャンバ1から分離されているが、加熱手段を備えた図で3と表示される注入管を介してチャンバ1に接続されている。
【0058】
注入管3の入口は、基板ホルダー10の下方に設置され、これによって、蒸気化した元素Xと基板との間の接触が可能になっている。
【0059】
それ故に、元素Xの蒸気は、第1のガス層流の形態でチャンバ1に入り、その進行経路は、図で9と表示された矢印によって示されている。元素Xの蒸気が基板と接触すると、加熱された基板上で過剰に存在する元素Xは再蒸発し、その後、図で5と表示された矢印によって示されるように、元素Xの層流によって同調搬送される。これによって、単一ステップで所望の薄膜を堆積し、かつ装置の冷温壁上へのXの堆積を回避することが可能になる。
【0060】
注入管4は、その入口が注入管3の入口の下方に設置されており、好ましくはアルゴンである不活性ガスの第2の層流を、蒸気の形態で元素Xを輸送する第1層流の下方へ注入する。前記第2の層流は、図で12と表示された矢印で示された経路に従って流れる。
【0061】
不活性ガスの第2の層流によって、元素Xの蒸気は基板表面の周りの領域に制限され、これによって、スパッタリングターゲット上およびチャンバ1の冷温壁上への望ましくないXの堆積を回避することが可能になる。
【0062】
それ故に、本発明の方法は、少なくとも1つのカソード・スパッタリング・ターゲットのカソードスパッタリングによって、金属元素Cu、InおよびGaを、基板ホルダー10の加熱手段によって加熱された基板の少なくとも1つの表面上の加熱された基板上に、堆積させることにある。
【0063】
元素Xは、エンクロージャ2の中で蒸気化され、かつ加熱された注入管3を介して蒸気の形態で導入される。
【0064】
注入管3は、元素Xを蒸気の形態にあるXを維持するのに十分な温度へと加熱される。
【0065】
元素Xは、アルゴン、窒素またはヘリウムのような不活性ガスによって、チャンバ1内に同調搬送される。
【0066】
好ましくは、アルゴンが用いられる。この目的のために、元素Xを蒸気化するためのエンクロージャ2は、図で10と表示された不活性ガスの入口を備える。
【0067】
蒸気の形態にある元素Xがチャンバ1内に導入されると同時に、不活性ガスの第2の層流が、元素Xの第1の流れの下方で、かつ前記流れとカソード・スパッタリング・ターゲットとの間に導入される。
【0068】
元素Xの第1層流は、図で13と表示された放出管を介して、チャンバ1から除去され、かつ不活性ガス流は、図で14と表示された放出管を介して、チャンバ1から除去される。
【0069】
元素Xの第1層流は、したがって、元素Xを蒸気化するためのエンクロージャ2を経由した不活性ガスの通過によって形成され、そのガス混合物は、その後、注入管3内に運ばれる。
【0070】
セレンの場合、前記注入管3は、注入前にセレンが凝縮するのを防ぐために、200℃を超える温度まで加熱されなければならない。
【0071】
加熱された基板上に過剰に存在する元素Xは再蒸発し、かつ図で5と表示された矢印によって示されるように、Xの蒸気の層流の中で同調搬送される。
【0072】
不活性ガスの第2の層流は、スパッタリングターゲットおよびエンクロージャ1の冷温壁をも保護するために重要な役割を果たすが、その理由は、蒸気の形態でそれを含む第1の流れから第2の不活性ガス流に向けて拡散する元素Xの蒸気が、スパッタリングターゲットまたは冷温壁に到達する前に、第2の不活性ガス流によって急速に同調搬送されるからである。
【0073】
この2つの流れは、層流である。
【0074】
層流条件であるためには、分子流条件を回避するため、クヌーセン数Kは0.01未満でなければならず、かつレイノルズ数Rは、乱流条件を回避するため、1000未満でなければならない。
【0075】
クヌーセン数は、K=L/aの式で与えられる。ここで、Lはガス中での平均自由行程、すなわち、原子または分子が2つの衝突の間に移動する平均距離であり、前記距離はガス圧に反比例し、かつaは、スパッタリングターゲットと基板との間のおおよその距離を特徴とする長さである。
【0076】
レイノルズ数は、R=vρa/ηの式で与えられる。ここで、vはガス流の流速、ρはガス密度、ηはガス粘度である。
【0077】
それ故に、与えられた幾何学的配置、および与えられたガス混合物に対して層流条件を得るには、十分に高い圧力(すなわち、十分に短い平均自由行程)および十分に低い流速を有することが必要である。
【0078】
第1の妥協案はガス圧に関する。すなわち、分子流条件を回避するためには、高い圧力が必要であり、その一方で、低い圧力は、スパッタ元素の高い堆積速度に有利である。
【0079】
したがって、K<0.01の場合に留まりながら、圧力は減少されなければならない。
【0080】
スパッタリングターゲットと基板との間の約10cmという典型的な距離に対して、K≒0.01、または考えられている温度で数十mTorrの圧力を有するには、平均自由行程Lは約1mmでなければならない
そのような圧力は、マグネトロンモードでの高い堆積速度との両立が維持される。
【0081】
第2の妥協案はガス流の流速に関する。すなわち、乱流条件を回避するには低い流速が必要であり、その一方で、高い流速は、元素Xの蒸気に対してスパッタリングターゲットおよび冷温壁を有効に保護するのに有利である。流速が高ければ高いほど、蒸気の形態で含まれていた流れから不活性ガス流に向けて拡散した元素Xの蒸気は、不活性ガス流によってより速く同調搬送される。このことは、それらがターゲットまたは冷温壁の近くで滞留する時間が、より短いことを意味する。
【0082】
換言すれば、両ガス流は層状でなければならないが、しかし乱流限界では、すなわち、それらは各々が互いに独立してレイノルズ数≦1000を有しなければならず、かつ、好ましくは、第2ガス層流の速度は、第1ガス層流の速度よりも高くなければならない。
【0083】
本発明の装置および方法をさらに改良するために、任意選択的に冷却される、図で8と表示されたグリッドが、本発明の装置における2つの層流間の境界に配置されることが可能であり、これは、SeまたはS蒸気に対する冷温トラップとして作用するためのものである。
【0084】
それ故に、本発明の方法においては、元素Xを蒸気の形態で含む第1の流れは、基板と冷却されたグリッド8との間に導入され、かつ第2の不活性ガス流は、グリッド8とカソード・スパッタリング・ターゲットとの間に導入される。
【0085】
元素Xは、元素X自体を蒸気化するか、または、化学式RXを有する分子のようなその前駆物質の1つが基板上で化学反応することによるかのいずれから得てもよく、ここで、R=H、Me(メチル)、Et(エチル)、iPr(イソプロピル)またはtBu(t−ブチル)である。
【0086】
これらの前駆物質分子は、ガスを注入する前に、エンクロージャ2内でプラズマによって分解されてもよい。
【0087】
それ故に、エンクロージャ2はまた、プラズマによって分子を分解するための装置を有してもよい。
【0088】
カソード・スパッタリング・ターゲットについては、それらは回転式円筒状ターゲットであってもよい。
【0089】
本発明をより良く理解するために、単に例証的かつ非限定的な例として、以下に実施例が記述される。
【実施例】
【0090】
図1に示すような装置が使用された。
【0091】
基板は820Kまで加熱された。
【0092】
スパッタリングターゲットと基板との間の距離aは、10cmであった。
【0093】
圧力は、50mTorrであった。
【0094】
Seおよびアルゴンを含む第1のガス流は600Kまで加熱され、かつ、この場合はアルゴンである不活性ガスの第2のガス流も600Kまで加熱されると同時に、開口部3を介して注入された。第1および第2のガス流の速度は、共に10m/sであった。
【0095】
それ故に、これらのガス流のクヌーセン数Kは、約10−2であった。
【0096】
これら2つのガス流のレイノルズ係数は、2であった。
【0097】
基板は、Cu(In,Ga)から成るターゲットからのカソードスパッタリングおよび上記2つのガス流の同時注入によって、Cu(In,Ga)Se膜で被覆された。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
XがSeまたはSもしくはその混合物であるCu(In,Ga)Xの膜を、基板の少なくとも1つの表面上に堆積させるための、カソード・スパッタリング・チャンバ(1)またはその混合物を有する装置であって、
基板ホルダー(6)と、
前記基板ホルダーを加熱するための手段と、
少なくとも1つのスパッタリング・ターゲット・ホルダー(7)と、
蒸気の形態にあるXまたはXの前駆物質を含む不活性ガスの第1の層流を注入するための第1の注入管(3)と、
を有し、
前記基板ホルダー(6)は、少なくとも1つのスパッタリング・ターゲット・ホルダー(7)と反対に位置し、かつそれから離間しており、
前記装置が、不活性ガスの第2の層流を注入するための第2の注入管(4)であって、前記チャンバ(1)内のその入口開口部が前記第1注入管(3)の前記チャンバ(1)内の入口開口部と前記少なくとも1つのターゲットホルダー(7)との間に設置されている、第2の注入管を、さらに有し、
前記第2の注入管(4)の入口開口部を介して入る不活性ガスの前記第2の層流は、蒸気の形態にあるXまたはその前駆物質を含む不活性ガスの前記第1の層流と平行であり、かつ、蒸気の形態にあるXまたはXの前駆物質を含む不活性ガスの前記第1の層流を前記基板ホルダー(6)の周りの領域に制限する、ことを特徴とする装置。
【請求項2】
Xを蒸気化する手段を有するエンクロージャ(2)をさらに有し、前記エンクロージャ(2)は、前記第1注入管(3)および前記チャンバ(1)と流体連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
Xの前駆物質を分解しかつ蒸気化するためのプラズマを生成する手段を有するエンクロージャ(2)をさらに有し、前記エンクロージャ(2)は、前記第1注入管(3)および前記チャンバ(1)と流体連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記チャンバ(1)が、前記チャンバ(1)の全体の長さに沿って、前記基板ホルダー(6)に平行で、かつ前記第1注入管(3)の前記入口開口部と前記第2注入管(4)の前記開口部との間に伸長する、任意選択的に冷却手段を備えたグリッド(8)をさらに有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
互いに隣り合って設置された2つのスパッタリングターゲットを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
互いに隣り合って設置された3つのスパッタリングターゲットを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
XがSeまたはSもしくはその混合物である、Cu(In,Ga)Xの膜を堆積させるための方法であって、
少なくとも1つのスパッタリングターゲットからのカソードスパッタリングによって、基板の少なくとも1つの表面上に、Cu、InおよびGaを堆積させるステップと、
このステップと同時に、カソードチャンバ(1)内の前記少なくとも1つの表面上にXの蒸気を堆積させるステップと、
を有し、
蒸気の形態にあるXまたはその前駆物質が、第1のガス層流の形態で移動させられ、その進行経路が前記基板の前記少なくとも1つの表面に平行であり、かつ前記少なくとも1つの表面と接触しており、同時に不活性ガスの第2のガス層流と接触しており、
前記第2のガス層流の進行経路が、
前記第1のガス層流の進行経路と平行であり、かつ
前記第1のガス層流の進行経路と前記スパッタリングターゲットの表面との間にあり、これによって、前記第1のガス層流が前記基板の周りの領域に制限されることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記第2のガス層流の速度が、前記第1のガス層流の速度よりも高いことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
それぞれが互いに独立である前記第1および第2のガス層流が、K≦10−2となるようなクヌーセン数Κ=L/aを有し、ここで、Lは原子または分子が2つの衝突の間に移動する平均距離であり、かつaは前記スパッタリングターゲットと前記基板との間の距離であることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
それぞれが互いに独立である前記第1および第2のガス層流がレイノルズ数R≦1000を有することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Xが化学式RXを有するXの前駆物質から堆積され、ここで、RはH、Me、Et、iPrまたはtBuであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
Xが蒸気化され、かつ前記チャンバ(1)内のアルゴンのような不活性ガスを含む前記第1のガス層流の中で同調搬送されることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のガス層流が、アルゴンの層流であることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
Xの前駆物質が、前記チャンバ(1)内に注入される前に、プラズマによって分解されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記第1層流および前記第2の層流が、グリッド(8)によって互いに分離されていることを特徴とする、請求項7〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記グリッド(8)が冷却されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2013−513024(P2013−513024A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541549(P2012−541549)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000792
【国際公開番号】WO2011/067480
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ (85)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【Fターム(参考)】