説明

DNAなどの分離精製方法及び分離精製機構

【課題】
生体試料液および各種バッファーを連続的に流す事によって、短時間で生体試料から簡単に精度良く目的精製成分を得る。
【解決手段】
物理的に固いシリカ骨格のモノリス構造体を、遠心分離器に使用できるディスポーザルチューブなどに、融着などの取付け生成を行なう事で、生体試料を流し、モノリス構造体に捕捉し、溶出させることにより目的成分を高精製分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAなどの分離精製方法及び分離精製機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの全遺伝子配列解読が完了し、ゲノム研究は従来の構造解析から病態と関連した遺伝子の解明などの機能解析や、より具体的にターゲットを絞った創薬研究にその主流が移行しつつある。
【0003】
これに伴い蓄積された遺伝情報(データーベース)をコンピュータで解析するバイオインフォマティクス(生命情報科学)の技術が急速に発達、活用されてきている。そのためSNPs解析(一塩基変異多型分析)、遺伝子発現解析では、生体試料からTemplate DNAを分離・精製することが必要となり、これまで以上の微量化、高性能化、効率化、高速化が求められている。
【0004】
微量の生体試料から大量Template DNAを効率的に分離・精製する方法は未だ満足いくものが得られていないため、全血などの生体試料では、研究が制限されているのが現状である。また、全血サンプル中の白血球数は年令、性別、免疫状態、その他の保存状態など多くの要因により個体間でかなり変動し、DNA回収量にも影響する。この変動により、様々な白血球数をもつ全血サンプルから十分な量の高品質Template DNAを得るためには、微量試料を再現性のある適応性の高い精製テクノロジーが必要とされている。
【0005】
生体試料からTemplate DNAを分離・精製する方法としては、細胞溶解を行い、タンパク質を酵素分解し低分子化する前処理後に、種々の方法が提案されている。例えば、低分子化する前処理後、ガラス繊維フィルター上でカオトロピック物質の添加により、DNAを結合させ、次いで分離洗浄乾燥を経て溶離する単離方法が示されている。(非特許文献1参照)
【0006】
又、ガラスパウダーを添加してDNAをガラスパウダーに結合させ、遠心分離して、ガラスパウダーを集め、洗浄、溶離し単離する方法が示されている(特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0007】
又、複合性生物出発材料、カオトロピック物質及びシリカ又はその誘導体を含む核酸結合性固相を混合し、 核酸を結合した固相を液体から分離し、洗浄し、核酸を溶離する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
カオトロピック試薬の存在下でDNAやRNAを吸着させる物理的メカニズムについては詳しくは明らかになっていないが、負に帯電した担体と、核酸との間にカチオン交換反応が起こると考えられている。従って精製の効率は、担体表面と生体試料の接触の効率とイコールと考えることができる。
【0009】
前記のどの担体を使用するにしろ、吸着させる担体を容器(カートリッジ、チップなど)に保持し、その容器に生体試料を通液し、吸着バッファー液で担体に核酸を吸着させ、その後洗浄液で核酸成分以外の夾雑物をカートリッジ外に追い出し、更にその後、溶出液を通液して核酸成分をその液と共に取り出す手順が一般的である。
【0010】
その他に、電気泳動やさまざまな抽出によってフラグメントDNAをアガロースゲルから精製することもよく行われるが、この方法は時間がかかり、得られたDNAも極めて希薄となり、塩や有機溶媒が含まれているため、更にエタノール沈殿で脱塩や濃縮する必要が生じるものである。又、ゲル濾過精製テクノロジーのような従来法では、分子量の類似した分子同士を分離することは非常に困難である。
【0011】
しかし、これらのどの方法も、生体試料からの効率の高い精製や微量成分の精製に最適化されていないため高精製ができず目的を達成できなかったり、使い難いと言う欠点があり満足な結果が得られていない。
【0012】
【特許文献1】特開昭59−227744号公報
【特許文献2】特許第2680462号公報
【特許文献3】特表平8−5011321号公報
【非特許文献1】Nucleic Acids Research Vol.15 5507-5516(1987)
【非特許文献2】Pvoc. Natl. Acad.Sci.USA Vol.76,615-619.(1979)
【非特許文献3】Analytical Biochemistry Vol.121.382-387.(1982)
【非特許文献4】Molecular cloning: A Laboratory Manual 188-190.(1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
生体試料の精製を行う場合に、タンパクの酵素分解による前処理や溶液を加えての沈殿精製など、液を入れての取り扱いを行うため、液体を取り扱う容器が必需となる。当然使用する容器は小さい方が、容器表面積が小さくなり微量成分の取り扱いに便利となる。移し変えなど、使い勝手を考えると分離体をその容器に取り付ける工夫が必要である。その意味で、従来から見られる使い捨てタイプの容器にシリカゲルビーズを充填したものやシリカゲル繊維などを編み込んだフィルターを容器に取り付けた精製用カートリッジは適している。
【0014】
粒子タイプでは、粒子径、表面積、細孔径などを自由に選択でき、種々のマトリクスが混在する種々の生体試料に対応できる利点がある。しかし、粒子をカートリッジ内に留めるフィルターが必要となる。フィルター部分は、精製に関与できないため、精製効率が悪くなる欠点がある。また、粒子空間を一定にできずバラツキは生じやすくなる。さらに粒子の溶出の可能性もある。そのため、安定した高精製には使用できず満足できない。
【0015】
一方、粒子を使用するのでなく、シリカゲル繊維で編み込まれたフィルターを容器に取り付けたカートリッジも提案されている。しかし、シリカゲル繊維などを網目状に織り込んだフィルターでは、弾力性が生じてしまい液の含み方で容積が変化してしまう。また、硬度が20Hk以下であり変形し易く取り扱いも不便である。特に、マトリクスを多く含む生体試料に適する遠心分離機を用いる場合には体積変化が顕著になり、生体試料では多量のマトリクスが混在するため、最初は粘性が高く、精製が進むにつれて、粘性が低下する傾向がある。そのため、繊維フィルターなどの抵抗圧力変化で液の流れる空間が変化してしまう分離体では、粘性が変化する生体試料などには適さない。
【0016】
生体試料の精製には、液の流れる空間の変化が生じない固い分離体が必要とされる。重要な事は、圧力に対する液が流れる空間の変化であるが、取り扱いを考えると硬度30Hk以上の分離体が望まれる。
【0017】
さらに、複雑な前処理を必要とする生体試料では、複数の工程が必要となり、その間に分離体が劣化してしまう。通液だけで、これらの工程を簡単に行なう事は、従来のような柔かい分離体では高い精製は望めない。
【0018】
また、カートリッジに分離体をどのように留めるという点も、重要な観点となる。弾力性のある樹脂製リングなどでこの固い分離体を容器等に留める方法は、一般的な精製においては、大きな問題とはならない。しかし、生体試料の場合は精製度の低い初期段階では粘性が高く、そのようなリングを取り付ける事は、液が通過する接液断面積を減らす事になり、適していない。血液などの微量成分を取り扱う場合には、精製を微量の場で行なう事が必需となりリングを取り付ける部分も作れない。
【0019】
そのため、生体試料の精製には、フィルターや留めリングなどを用いない方法が適している。繊維フィルターなどでは不可能だが、硬度30Hk以上の固い分離体であれば、取り扱いが簡便になり、融着や圧入などでカートリッジに簡単に取り付けられる。圧入は、ボール盤の先に押し込み用のステンレス棒を取り付けて、樹脂製のカートリッジに分離体を押し込む事によって簡単にできるが、遠心に耐えうる装着が必要となり、硬度100Hk以上の分離体が望まれる。
【0020】
しかし、容器等の分離体を圧入する方法の問題点としては、生体試料の精製の場合には、ガラスや金属などの触媒作用が生じ易い容器は、避けられる事が多く、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂が使われる事が多くなってしまう。これらの容器では、熱収縮を受け易く、120℃滅菌などを念入りに行なう必要のある生体試料である大腸菌からのプラスミドDNA精製や生体試料からの微量成分から精製には、圧入しても加熱滅菌中に外れてしまう事もあり得る。
【0021】
そのため、カートリッジ樹脂を超音波などの振動で、一部を溶解させ、その部分通用液に分離体を融着する方法が適する事になる。分離体自身が、溶解しては分離体として意味が無くなるので、加熱下でも変化が生じない分離体が必要となる。取り扱いが容易な硬度30Hk以上の耐熱性の分離体が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
これらの観点をすべて、満足させる分離体として、生体試料成分の精製分離体としてモノリス構造体を提案する事ができる。
【0023】
モノリス構造体は、主に、ゾル−ゲル法で作成することができる。即ち、テトラメトキシシランなどの金属アルコキシドやトリメトキシシランなどの反応性有機モノマーなどを単独または、混合して用いて、部分的に加水分解して、重縮合してコロイド状オリゴマーを作り(ゾルの生成)、更に加水分解して重合と架橋を促進させ、三次元構造網目を作る(ゲルの生成)ことで合成される。ゲル化は300℃以上で行なうので、融着熱でも変性する事が無い。
【0024】
また、ガラス分相によってもモノリス構造固相を作成できる。基本的には、ゾルーゲル法からのモノリス構造の合成と同様の有効性があるが、ゾルーゲルモノリスよりもマクロ細孔を大きく作る事ができるので、2次ミクロ細孔を内部表面に作る場合に有効である。更に、ガラス分相は、その組成より耐アルカリ性が高く、アルカリ洗浄による再生が出来ると言うメリットがある。
【0025】
分相化は、500℃以上で行なわれるので、融着熱でも変性する事が無い。
【0026】
これらのモノリス構造体の作成方法は、HPLCにおけるカラムとして種々報告されており、20Mpa以上の耐圧性はあり、再現良く作られる事は知られている。
【0027】
生体試料では粘性が高く、圧力をかけても流路変化が生じず再現性良い精製ができる事が重要であるが、当然耐圧性があるほど、高速で液を流す事が可能になり精製時間が早まる。1Mpa以上の耐圧性を持つモノリス構造体が推奨できる。このモノリス構造体は、棒状に作成される事は知られており、それを機械的に切断し円盤状に切断する事で、本発明の分離体として用いる事ができる。
【0028】
取り扱いが簡便な30Hk以上の固さを持ち、かつ熱変性が生じず、生体試料の精製に適している。さらに、このモノリス構造体を800℃以上に焼成すると、骨格がガラス化し硬度が100Hk以上になり、圧入方法も使用できる事になる。
【0029】
また、ゾルゲル方法での作成では、自由な空間に作れるので、最初からカートリッジ等の容器内に直接モノリス構造体を作る事もできる。
【0030】
微量生体試料用では、カートリッジチップの先端の小さな空間に作成できるので、特にデッドボリュームが生じずに適している。
【発明の効果】
【0031】
これらのモノリス構造体はすべて、シラノールを持つ事になり、従来から知られているDNA精製方法がそのまま使用できる事になる。
【0032】
特に、生体試料成分を対象にする場合、目的の精製物によって粘度が異なり、液の流れのコントロールが重要であるが、モノリス構造体では液の流れるスルーポアを自由にコントロール生成できるので、生体試料の精製に適している。
【0033】
血液試料のような粘性の高い試料では10μm以上のスルーポアが適している。また、ゲル電気泳動で精製されたDNAの精製ならば、10μm未満のスルーポアでも行なえる。モノリス構造体では、液の通り道であるスルーポア以外にメソ孔を同時にコントロールする事ができる。生体試料である大腸菌から環状プラスミドDNAの精製の場合では、スルーポアの無いモノリス構造体が適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
生体試料の精製に適したモノリス構造体1は、40Hk以上の硬度を持ち熱安定性が高いので、生体試料の精製に適した種々容器に融着や圧入する事で取り付けられる。血液などの採取量が限定される生体試料液を対象にする場合には、生体試料液の取り扱いに良く使われる、図1(a)のようなピペットチップ2の先端に簡単に超音波融着ができる。そのため、図1(b)の遠心チューブ3と組み合わせて(図1(c))、遠心力で生体試料液をモノリス構造体内を通液させ、各種バッファーによって精製しながら、高純度な微量のゲノムDNAを得る。
【0035】
さらに、多種の試料を同時精剤する場合には、96ウェルプレート4(図2)や384ウェルプレートなどの穴41,41…に夫々に自由にモノリス構造体の分離体42,42,42…を圧入や融着により設置することができる。この際、穴41等の通液部43に段部44を設けてモノリス構造体42を受け留めることは推奨される。又ここでは、ピペット、カートリッジ、遠心チューブ、ウェルプレート等の容器を総称してディスポーザル容器とする。
【0036】
本発明の主旨は、モノリス構造体が固いため、目的に応じた器具に自由に、圧入や融着などで取り付ける事で、遠心などの力でモノリス構造体内部に生体試料を流し、生体試料の精製が行なえる事であり、これらの例の形や融着方法に限定されないが、上記のような形態が最良である
【0037】
また、ゾル−ゲル方法でのモノリス構造体では、ガラス表面を持つ空間の中ならば、自由にモノリス体を作成する事ができる。融着や圧入しなくても、図1のような先にモノリス体を形成させる事ができる。この場合にも液を流すため、圧力変化が生じ、耐圧性は必要となりモノリス構造体になっていないと生体試料の精製には適用できない。
【0038】
全血では、遠心チューブに入れて、溶解・吸着溶液を加えて、70℃、15分間インキュベーションして、ボルテックスで混和して、全血を溶解する。遠心をかけた後、上澄み液をモノリスカラムにロードする。
【0039】
また、大腸菌培養液を遠心して、集菌して上清を捨て、沈殿物を別容器に回収する。次に、ミキシングして細胞を懸濁する。次に、溶解液を加えて細胞の溶解する。さらに、中和液を加えて転倒混和して中和する。次に、遠心した後、上澄み液をモノリスカラムにロードする。
【0040】
これらのように、生体試料の場合では複雑な前処理工程が必要となる。その後に実際の精製工程となる。これらの工程は、血液、動物組織や大腸菌培養液などの対象生体試料によって、加える希釈液や溶解液や方法も異なる。また、遠心沈殿における精製回数も異なってくる。当然この前処理工程は少ない方が良いが、実際の精製工程において不純物が存在する事になり、液抵抗が増してしまう。固いモノリス構造体を用いた精製方法では、遠心をかけても流路変化が無く、十分対応できる。
【実施例1】
【0041】
1μl酢酸を添加した7%ポリエチレングリコール水溶液2mlに、テトラメトキシシラン1mlを、攪拌混合後、ポリカーボネート管に入れ両端をシールし、40℃でゲル化した。
【0042】
ポリカーボネート管の大きさを変える事で、自由な径のモノリス構造体を得る事ができる。
【0043】
0.1規程アンモニア水溶液で置換し、数時間熟成しエタノールで置換乾燥後に、600℃に過熱し、スルーポア径30μm、メソポア径10nmの3次元網目構造の外径0.4mm径のシリカモノリス棒を得た。このモノリス棒を長さ1mmに切断し、硬度48Hkの分離体を得た。
【0044】
このモノリス分離体を10μl容量の市販ピペットチップに先に入れ、超音波融着器sonopet-150Bを用いて、0.2秒間押し込み、接触樹脂部を、超音波振動で溶解させ融着した。図1のような形状とした。
【0045】
電子顕微鏡による写真を示す。隙間が無く融着できる事が実証された。(図3)融着によるモノリス構造体の損傷が無い事が確認できた。
【0046】
比較として、同じピペットチップの先に、ガラスウールを適量詰めたものを用意した。ガラスウールタイプの物では、融着は先が潰れて、超音波融着はできずに、詰めただけとした。
【0047】
両方のピペットチップ各6本にトリス緩衝液を10μl入れて、3000rpmで遠心分離を行なったところ、ガラスウールタイプでは、6本中3本のガラスウールが抜けてしまった。融着した物では、6本共抜ける事は無かった。
【0048】
同じように、生体試料である血液を5分の1に希釈して10μl入れて、3000rpmで遠心したところ、ガラスウールタイプでは6本中、6本ともガラスウールが抜けた。
モノリス構造体を融着した物では、6本とも抜ける事が無かった。
【0049】
さらに、同様に、10,000rpmで遠心を行なっても抜ける事が無く溶出液にモノリス構造体の破片は無かった。
【0050】
血液に代表される生体試料では粘性が高く、高遠心が必要とされる場合が多いが、モノリス構造体を超音波融着した物では、高遠心まで使用でき、かつ、破砕することも無い事が確認できた。
【実施例2】
【0051】
10μl市販ピペットチップで先1mmのところまで、高純度パーヒドロポリシラザン(東燃(株)製、高純度品)の2%キシレン溶液(g/ml)を吸い、排出し空気中で80℃で24時間乾燥した。
【0052】
この操作を5回繰り返して、ピペットチップの先1mm部分の表面に、石英膜を形成したピペットチップを得て、120℃で水蒸気滅菌を行なった。
【0053】
メチルトリメトキシシラン、共存物質としてのホルムアミドおよび触媒としての1mol/l硝酸水溶液をモル比で1:2.5:1.8の割合で混合した均一溶液を、上記処理を行ったピペットチップ先端1mmまで、吸い込み、先をシールテープで封をした。80℃でゲル化を行いピペットチップ先端1mm部分にモノリス構造体を作成した。
【0054】
スルーポア15μmのメソ孔の無いモノリス構造体が得られた。さらに必要に応じシリカ相を結合させる事により、メソ孔は作成でき、大きさは生体試料に適するように、コントロールできる。
【0055】
大腸菌によって作成される環状DNAでは、メソ孔の作成は必要無いが、今回は、血液対象とするため、さらにシリカ相を形成させメソ孔を作成した。
【0056】
5%トリメトキシシラン硝酸水溶液を1mm部分に吸い込み、80℃でゲル化する事で、モノリス表面にシリカ相が形成され、実施例1と同じくメソ孔が得られた。
【0057】
ピペットチップ先端部分にモノリス構造体を作成したものを、実施例1と同様の方法で遠心をかけたが、抜ける事がなく、生体試料を流して使用できる事が実証できた。
【実施例3】
【0058】
実施例1で作成したもの6本を、120℃で1時間滅菌した。サンプルチューブに新鮮全血を10μlを入れ、分解・吸着バッファー(8Mグアニジンチオシアン酸、0.8M酢酸カリウム)を20μl加え、70℃で15分間インキュベーションして、ボルテックスで混和し全血を溶解させた。
【0059】
従来方法では、粘性を下げるために、RNA分解酵素、タンパク質分解酵素処理を行い次工程に行くが、本方法では、固いモノリス構造体を融着しているため、粘性の高い生体試料を流す事ができるため、これらの分解酵素を用いる必要が無い。この分解酵素は、PCRを阻害する事になり、これを用いないでも精製できる事は、重要なことである。
【0060】
次に、融着したモノリス固相カラムを遠心チューブにセットし、10,000rpm遠心を1分間行いモノリス構造体内を通して、ゲノムDNAをモノリス構造体に濃縮捕集した。洗浄バッファー(0.5M酢酸カリウム、60%エタノール)にて1分間遠心し、モノリス構造体内を流して洗浄した。
【0061】
次に、モノリス構造体をコレクションチューブにセットし、溶出バッファー(Tris−HCI10mM、pH8)を10μlを加えて10,000rpm遠心を1分間行いモノリス内を通して精製ゲノムDNAを溶出させた。
【0062】
それぞれの溶出液のA260/A280 が1.7以上である事が確認でき、その一部を取りゲル電気泳動の結果も確認できた。7本の精製結果とも再現性良く精製できている事が確認できた(図4 レーン1:pHYマーカー、レーン2〜7:PCR増幅産物再現性)。
【0063】
さらに、精製したゲノムDNAを用いて、ヒト β-Globin の遺伝子配列(408bp)をPCR増幅した。
【0064】
わずか5μlの微量の血液試料からでも、本発明方法を用いて精製すると再現よくPCRできる事が確認できた(図5 レーン1:pHYマーカー、レーン2〜7:PCR増幅産物再現性)。
【0065】
また、ABI Prism3730xlGeneticAnalyzerでシーケンスデータが確認できた(図6)。短時間精製でも、実際の生体試料分析に十分適用できる事が判明した。
【実施例4】
【0066】
実施例2で作成したものを、120℃で1時間滅菌した。サンプルチューブに凍結血液を3μl、6μl、9μl、12μlを入れ分解・吸着バッファー(6Mグアニジンチオシアン酸,0.8M酢酸カリウム)を各2倍量ずつ加え、70℃で15分間インキュベーションして、ボルテックスで混和し全血を溶解させた。
【0067】
次に、融着したモノリス固相カラムを遠心チューブにセットし、10,000rpm遠心を1分間行いモノリス構造体内を通して、ゲノムDNAをモノリス構造体に濃縮捕集した。洗浄バッファー(0.5M酢酸カリウム,50%エタノール)にて1分間遠心し、モノリス構造体内を流して洗浄した。
【0068】
次に、コレクションチューブにセットし、溶出バッファー(RNAフリー水)を5μlを加えて10,000rpm遠心を1分間行いモノリス構造体内を通して溶出させた。
【0069】
それぞれの溶出液のA260/A280 が1.7以上である事が確認でき、ゲル電気泳動の結果を確認した。微量の3μl〜12μlまでの凍結血液でも、本発明方法を用いると簡単に精製できる事が確認できた(図7 レーン1:全血3μl、レーン2:全血6μl、レーン3:全血9μl、レーン4:全血12μl)。
【実施例5】
【0070】
実施例1と同様に、ポリカーボネート管の径を大きくし、6mm径のシリカモノリス棒を作成し、1.5mmの厚さに切断した。これを図2のように、96ウエルプレート各々の穴に超音波融着器で融着した。
【0071】
実施例3と同様の方法で、200μl新鮮血液から50μlの精製ゲノムDNAを溶出させた。
【0072】
ゲル電気泳動の結果、図8(M:分子量マーカー、1〜4:本発明方法による再現性)のように再現良く精製ゲノムDNAが得られた。
【0073】
その精製ゲノムDNAを、Human β‐globin 遺伝子100bp、400bpのPCR増幅を行なった結果、PCRされる事が確認でき、本発明の精製方法は精製度が高い事が実証できた。図9(M:分子量マーカー、レーン1,2:100bpのPCR増幅産物、レーン3,4:400bpのPCR増幅産物)に示す。
【実施例6】
【0074】
実施例4と同様の方法で、400μl凍結血球から200μlの精製ゲノムDNAを溶出させた。ゲル電気泳動の結果、図10(M:分子量マーカー、1〜4:本発明方法による再現性)のような精製ゲノムDNAが得られた。
【0075】
その精製ゲノムDNAを、Human β‐globin 遺伝子740bpのPCR増幅を行なった結果、再現良くPCRされる事が確認でき、本発明の精製方法は精製度が高い事が実証できた(図11(M:分子量マーカー、1〜4:本発明方法で精製後のPCR増幅産物の再現性))。
【実施例7】
【0076】
1μl酢酸を添加した7%ポリエチレングリコール水溶液2mlに、テトラエトキシシラン1mlを、攪拌混合後、ポリカーボネート管に入れ両端をシールし、40℃でゲル化した。
【0077】
数時間熟成後しエタノールで置換乾燥後に、600℃に過熱し、スルーポア径10μm、メソポアが無いノンポーラスの3次元網目構造の外径7mm径のシリカモノリス棒を得た。このモノリス棒を長さ1mmに切断し、硬度42Hkの分離体を得た。
【0078】
さらに、固さを増すため、1150℃で焼結させ、硬度120Hkのモノリス構造分離体を得た。ひじょうに固い、円盤状のメソ孔の無いスルーポア10μmのモノリス体を得た。
【0079】
シリカモノリスは、高温で焼成する事で、液が流れる3次元網目構造の均一なスルーポア骨格を残したまま、強固なモノリス体となる。より強固になるため、物理的な力による圧入も可能となる。
【0080】
直立ボール盤の先に、外径5.5mmのステンレス無垢棒を取り付けた。スピンタイプディスポーザルカートリッジ5に強固なモノリス構造体51を入れ、回転させずに下に動かし、所定位置まで押し込み、図12のようなスピンタイプディスポーザルカートリッジを得た。
【0081】
この強固なモノリス構造体では、特に複雑な処理が必要な生体試料成分に適している。例えば、大腸菌からの環状プラスミドDNAを精製は、細胞の懸濁、分解、中和処理後に精製工程に入る。しかし、前工程や試料状況によっては、不溶物が残存し、遠心で液を流す場合に急激な圧力変動が生じ易い。従来手法では、この大きな圧力変動によって、工程中に分離体の劣化が起こる事もあった。また、通りを良くするためには、なるべく薄い精製体の要求があるが、物理的に弱い精製体では困難である。本発明の焼成したモノリス構造体は、ひじょうに固く、薄く作る事も十分可能である。
【0082】
固いモノリス構造体を用いる事で、このような複雑な前処理が必要とする生体試料の精製も遠心などで、モノリス構造体に液を通すだけで簡単に行なえる。
【実施例8】
【0083】
生体試料である大腸菌培養液1mlをサンプルチューブにとり、10,000rpm、2秒間遠心し集菌後、上清を捨てる。沈澱物にRNA分解酵素および10mMのEDTAを含むトリスバッファー250μlを加えボルテクスミキシングを行い、細胞を懸濁する。次に、1%ラウリル硫酸ナトウムを含む水酸化カリウム水溶液を250μl加え混和する。さらに吸着バッファー(8Mグアニジンチオシアン酸、0.5M酢酸カリウム)を350μl加え混和し中和する。その後15,000rpmで、5分間遠心後不溶物を沈殿させる。
【0084】
実施例7のモノリス固相カラムを遠心チューブにセットし、上澄み液を10,000rpm遠心を1分間行い、モノリス内を通して、プラスミドDNAをモノリスに濃縮捕集した。洗浄バッファー(0.3M酢酸カリウム、65%エタノール)500μlを加えて、1分間10,000rpmで遠心し、モノリス内を流して洗浄した。もう一度、洗浄バッファー(0.5M酢酸カリウム、60%エタノール)800μlを加えて、1分間10,000rpmで遠心し、モノリス内を流して洗浄した。さらに、1分間10,000rpmで空遠心を行いモノリス内の液を除いた。
【0085】
次に、コレクションチューブにセットし、溶出バッファー(pH8水溶液)200μlを加えて10,000rpm遠心を1分間行い、モノリス内を通して溶出させた。
【0086】
溶出された精製プラスミドDNAを電気泳動にて精製度を検査し、従来方法と比較した。
【0087】
図13は、大腸菌プラスミドDNA(環状DNA):pQE vectors 6xHistag constructsから精製環状DNAの電気泳動結果である。Mが分子量マーカーで、1が本発明方法で、2が従来方法である。従来方法に比べて、本発明方法の方が、4kbの精製プラスミドDNAが高い回収率で得られている事が判る。
【0088】
従来方法は、シリカゲルメンブレンフィルターを使用しているQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社)を用いて、キットに添付されている各種バッファーを用いて、添付プロトコール通り行なった。
【0089】
柔かい従来のメンブレンフィルターを用いて精製する時間は、約20分かかったが、固いモノリス構造体を用いた方法では約10分に短縮された。
【0090】
図14は、大腸菌プラスミドDNA(環状DNA):pUC119 vectorsからの精製環状DNAの電気泳動結果である。Mが分子量マーカーで、従来方法が1で、本発明方法が2である。従来方法に比べて、本発明方法の方が、3.7kbの精製プラスミドDNAが高い精製度で得られている事が判る。
【0091】
これらのように、本発明の方法を用いると、生体試料である大腸菌から、環状プラスミドDNAを高い回収率で、高精製できる事が実証できた。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】(a)本発明一実施例側面図(b)本発明一実施容器側面図(c)本発明同上使用状態説明図
【図2】本発明−実施例斜面図
【図3】(a)図1の要部電子顕微鏡拡大説明図(b)図3(a)の囲み部電子顕微鏡拡大説明図
【図4】本発明実施例の電気泳動図
【図5】本発明実施例の電気泳動図
【図6】本発明実施例 シーケンスデーター
【図7】本発明実施例の電気泳動図
【図8】本発明実施例の電気泳動図
【図9】本発明実施例の電気泳動図
【図10】本発明実施例の電気泳動図
【図11】本発明実施例の電気泳動図
【図12】本発明実施例説明図
【図13】本発明実施例の電気泳動図
【図14】本発明実施例の電気泳動図
【符号の説明】
【0093】
1 モノリス構造体
2 ピペット
3 チューブ
4 ウェルプレート
5 カートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料液を、容器に取付けたシラノール基を持つ3次元網目構造のモノリス構造の分離体を通過させることにより捕捉し、溶出させてDNAなどを分離精製する方法。
【請求項2】
硬度30Hk以上の耐圧性モノリス構造体の分離体を用いる事を特徴とする請求項1のDNAなどの分離精製方法。
【請求項3】
焼成することにより硬化させたノンポーラスのモノリス構造体の分離体を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のDNAなどの分離精製方法。
【請求項4】
ディスポーザル容器等の通液部にモノリス構造体の分離体を生成形成させたことを特徴とするDNA等の分離精製機構。
【請求項5】
ディスポ-ザル容器等の通液部にモノリス構造体の分離体を融着固定させたことを特徴とするDNA等の分離精機構。
【請求項6】
ウェルプレートの各穴にモノリス構造体の分離体を夫々設けたことを特徴とするDNA等の分離精製機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−296220(P2006−296220A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118750(P2005−118750)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】