説明

DNAワクチン組成物

【課題】本発明は、種々の疾患(感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患等)の治療または予防に有効な、ウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物、およびその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために、結核ワクチンとして有効性のあるDNAワクチン(Hsp65 DNAおよびIL-12 DNA)をセンダイウイルスエンベロープベクターに封入し、モデルマウスに投与することにより、結核菌感染への予防および治療効果を示すか否かを検討した。その結果、DNAワクチンをウイルスエンベロープベクターに封入することにより、該DNAワクチンの効果が増強されることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の疾患(感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患等)の治療または予防に有効な、ウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物、およびその製造方法に関する。また、ウイルスエンベロープベクターを有効成分とし、生体内へのDNAワクチンの移入効率を向上させることを特徴とするDNAワクチン増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAワクチンは、免疫原性タンパク質をコードするプラスミドDNAの投与による免疫の誘発に基づく新しいワクチン種として、開発が進んでいる。すなわち、DNAワクチンは、体液性免疫応答のみならず、細胞性免疫を強力に誘導できるので、病気に対する防御が可能となること、DNAワクチンは高度に純化できること、室温又は高温下でも安定であり、冷蔵保存は必須でなく長期間の貯蔵が可能であること、遺伝子工学的手法によりDNAワクチンの迅速な改良がし易いこと、ワクチン開発に費やす時間の短縮、などの利点がある。
【0003】
種々の微生物およびウイルスの感染による疾患および障害(以下感染性疾患)が存在し、人類はもとより、家畜動物、愛玩動物等を含むあらゆる動物がそのリスクを背負っている。古くから、種々の感染症に対する薬剤および治療法が開発されてきており、中でもワクチンは多くの感染症に対して効力を発揮してきた。しかしながら、ほとんどの感染性疾患が撲滅するまでには至っていない。
【0004】
特に、結核は世界最大の感染症の1つであり、BCGよりも効果的なワクチンの開発が切望されている。本発明者らは、結核に対するDNAワクチンを開発してきた(非特許文献1および2参照のこと)。そして、その中でも、HSP65 DNA+IL-12 DNAワクチンが、結核予防ワクチンとして有効であることを明らかにしている(非特許文献3および4参照のこと)。
【0005】
一方、遺伝子治療のために、遺伝子移入のための多くのウイルスおよび非ウイルス(合成)法が開発されている(非特許文献5、6)。一般に、細胞への遺伝子送達のために、ウイルス法は、非ウイルス法より効果的である。しかし、ウイルスベクターは、親ウイルスからの必須遺伝子要素の同時導入、ウイルス遺伝子のリーキーな発現、免疫原性、および宿主ゲノム構造の改変のため安全性での問題を生じ得る。一般に、非ウイルスベクターは、細胞傷害性および免疫原性がより少ない。しかし、大部分の非ウイルス法は、ウイルスベクターのいくつかに比べ、特に生体内への遺伝子移入効率はより悪い。従って、ウイルスおよび非ウイルスベクターの両方は、それぞれに長所を持っている。それ故、高効率および低毒性を持つ生体内への遺伝子移入ベクターを開発することで、1つのタイプのベクターシステムの制限を、別のタイプのシステムの有利な点を導入することにより補償すべきである。
【0006】
近年、低毒性かつ生体内への高い遺伝子移入効率を示すウイルスベクターとして、ウイルスエンベロープベクターの開発が進められている(特許文献1〜3)。しかしながら、DNAワクチンを生体内へ導入する際に、ウイルスエンベロープベクターを用いる試みはこれまでに行われていなかった。
【特許文献1】WO01/57204
【特許文献2】特開2002-065278
【特許文献3】WO-A03/014338
【非特許文献1】岡田全司 「免疫低下と結核」臨床科学35,344,1999
【非特許文献2】Okada, Mら、FASEB Journal, A1008, 2001
【非特許文献3】岡田全司 「最新医学」57巻 9号1942〜1952(2002年)
【非特許文献4】岡田全司および田中高生「遺伝子治療」6巻 2号251〜258(2002年)
【非特許文献5】Mulligan, R.C., Science , 260, 926-932 (1993)
【非特許文献6】Adams, R. M., et al., J. Virol., 69, 1887-1894 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は種々の疾患(感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患等)の治療または予防に有効な、ウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物、およびその製造方法を提供することにある。また、ウイルスエンベロープベクターを有効成分とし、生体内へのDNAワクチンの移入効率を向上させることを特徴とするDNAワクチン増強剤の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、DNAワクチンをウイルスエンベロープベクターに封入し、DNAワクチンの効果が増強されるか否かを検討した。
より具体的には、結核ワクチンとして有効性のあるDNAワクチン(Hsp65 DNAおよびIL-12 DNA)をセンダイウイルスエンベロープベクターに封入し、モデルマウスに投与することにより、結核菌感染への予防および治療効果を示すか否かを検討した。
【0009】
その結果、センダイウイルスエンベロープベクターは結核DNAワクチンであるHSP65およびIL-12の効力を増強させることが明らかとなった。また、DNAワクチンを封入したセンダイウイルスエンベロープベクターと、結核ワクチンであるBCGを併用することで、結核菌感染の予防および治療効果が増強されることも明らかとなった。
【0010】
即ち、本発明者らは、本発明により初めてDNAワクチンをウイルスエンベロープベクターに封入することにより、該DNAワクチンの効果が増強されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔33〕を提供するものである。
〔1〕ウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物。
〔2〕ウイルスエンベロープベクターが、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科およびバキュロウイルス科からなる群より選択される1種のウイルスに由来する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔3〕ウイルスエンベロープベクターが、センダイウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスおよびインフルエンザウイルスからなる群より選択される1種のウイルスに由来する、〔1〕記載の医薬組成物。
〔4〕ウイルスエンベロープベクターがセンダイウイルスエンベロープベクター(HVJ-E)である、〔1〕記載の医薬組成物。
〔5〕DNAワクチンが、感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患からなる群から選択される1種の疾患に関与する免疫原生タンパク質をコードするDNAからなるDNAワクチンである、〔1〕記載の医薬組成物。
〔6〕感染性疾患が、結核、マラリア、トキソプラズマおよびHIVからなる群から選択される感染性疾患である、〔5〕記載の医薬組成物。
〔7〕DNAワクチンが、熱ショックタンパク質および/または免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含むDNAワクチンである、〔1〕記載の医薬組成物。
〔8〕熱ショックタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、HSP65をコードするポリヌクレオチドである、〔7〕記載の医薬組成物。
〔9〕免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、IL-12をコードするポリヌクレオチドである、〔7〕記載の医薬組成物。
〔10〕DNAワクチンが、HSP65およびIL-12をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含むDNAワクチンである、〔1〕記載の医薬組成物。
〔11〕HSP65をコードするポリヌクレオチドが、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、〔8〕または〔10〕記載の医薬組成物。
〔12〕IL-12をコードするポリヌクレオチドが、下記(a)および(b)に記載のポリヌクレオチドを含む、〔9〕または〔10〕記載の医薬組成物。
(a)配列番号:2の第57〜253位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:3の第23〜328位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔13〕HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドが、異なるDNA分子中に含まれていることを特徴とする、〔10〕記載の医薬組成物。
〔14〕HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドが、1つのDNA分子中に含まれていることを特徴とする、〔10〕記載の医薬組成物。
〔15〕以下の(1)〜(3)の工程を含む、請求項1〜〔14〕のいずれかに記載の医薬組成物の製造方法。
(1)DNAワクチンとして作用するDNAまたはDNA構築物を調製する工程
(2)(1)で得られたDNAまたはDNA構築物を、ウイルスエンベロープベクター内に封入する工程
(3)製剤上許容しうる担体を添加する工程
〔16〕ウイルスエンベロープベクターを有効成分とする、DNAワクチン増強剤。
〔17〕生体内へのDNAワクチンの移入効率を向上させることを特徴とする、〔16〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔18〕ウイルスエンベロープベクターが、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科およびバキュロウイルス科からなる群より選択される1種のウイルスに由来する、〔16〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔19〕ウイルスエンベロープベクターが、センダイウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスおよびインフルエンザウイルスからなる群より選択される1種のウイルスに由来する、〔16〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔20〕ウイルスエンベロープベクターがセンダイウイルスエンベロープベクター(HVJ-E)である、〔16〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔21〕感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患からなる群から選択される1種の疾患に対するDNAワクチンを増強するための、〔16〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔22〕感染性疾患が、結核、マラリア、トキソプラズマおよびHIVからなる群から選択される感染性疾患である、〔21〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔23〕DNAワクチンが、熱ショックタンパク質および/または免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含むDNAワクチンである、〔16〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔24〕熱ショックタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、HSP65をコードするポリヌクレオチドである、〔23〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔25〕免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、IL-12をコードするポリヌクレオチドである、〔23〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔26〕DNAワクチンがHSP65およびIL-12をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含む、〔16〕に記載のDNAワクチン増強剤。
〔27〕HSP65をコードするポリヌクレオチドが、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、〔24〕または〔26〕に記載のDNAワクチン増強剤。
〔28〕IL-12をコードするポリヌクレオチドが、下記(a)および(b)に記載のポリヌクレオチドを含む、〔25〕または〔26〕に記載のDNAワクチン増強剤。
(a)配列番号:2の第57〜253位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:3の第23〜328位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔29〕HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドとが異なるDNA分子中に含まれていることを特徴とする、〔26〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔30〕HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドとが1つのDNA分子中に含まれていることを特徴とする、〔26〕記載のDNAワクチン増強剤。
〔31〕〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、または自己免疫疾患を予防または治療する方法。
〔32〕〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の医薬組成物に加えて、BCGを対象に同時に投与する工程を含む、感染症疾患を予防または治療する方法。
〔33〕〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の医薬組成物の対象への投与の前後に、BCG を対象へ投与することを特徴とする、〔32〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来のDNAワクチン効力を増強させるワクチン増強剤、該効力が増強されたウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物、および該医薬組成物を製造する方法が提供される。
【0013】
本発明におけるウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物は、DNAワクチンを該ベクターに封入しない場合に比べて、ワクチンの効力が顕著に増強されている。
したがって、ウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物は、DNAワクチンの有効性を向上させ、種々の疾患(感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患等)の治療または予防に有用なものとなりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、ウイルスエンベロープに様々な疾患に対するDNAワクチンを封入することにより、該DNAワクチンの効力をより増強させることができるという知見に基づいている。
本発明のウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物は、DNAワクチンとして作用するDNAおよびDNA構築物をウイルスエンベロープベクター内に封入することにより得ることができる。
【0015】
本発明において、医薬組成物とは、疾患の治療または予防に効果を示す1つ以上の有効成分を含有する、患者または被験者に投与するための組成物であり、本発明の医薬組成物は、DNAワクチンを有効成分として含有する。上記疾患は、あらゆる疾患、障害および症状を包含するが、例として、感染症疾患(例えば、ウイルス性肝炎、HIV、日本脳炎、マラリア、トキソプラズマ、結核)、癌疾患(部位および癌種は問わない)、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、老人性痴呆など)、アレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎、花粉症など)、自己免疫疾患などが挙げられる。これらは例示であり、これらに限定して解釈されるべきではない。
本発明の医薬組成物は、あらゆる疾患の治療および/または予防に使用することが可能であるが、特に感染症疾患、例えば、結核、マラリア、トキソプラズマおよびHIV、最も好ましくは結核菌感染に有効である。
【0016】
本発明の医薬組成物を調製する上で、使用できるDNAワクチンは、任意の感染性疾患に対するワクチンの効力を有するDNAまたはDNA構築物を含むものであれば任意のものであってよいが、特に結核に対するDNAワクチンとして作用するDNAまたはDNA構築物が好ましい例として挙げられる。種々の疾患に対して種々のDNAワクチンが公知であり、その任意のものを使用可能であり、また、将来において発明されるDNAワクチンをも使用可能である。
本発明におけるDNAワクチンとしては、熱ショックタンパク質および/または免疫調節タンパク質をコードするDNAからなるDNAワクチンを挙げることが出来る。
【0017】
本発明における熱ショックタンパク質(HSP)としては、任意の熱ショックタンパク質を挙げることができる。熱ショックタンパク質は生体の多岐に渡る反応に関与していることは知られているが、免疫系を修飾する機能を有する熱ショックタンパク質も多数報告されており、例えば、HSP70、HSP65、HSP60等が報告されており、これらを本発明に用いる熱ショックタンパク質としてもよい。また、本明細書における免疫調節タンパク質とは、免疫応答を調節する機能を有するタンパク質を総称する意味であり、例えば、各種インターロイキン(IL)、腫瘍壊死因子(TNF)などが含まれ、さらに具体的には、IL-12、GM-CSF、IL-1、TNF-α、TNF-β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-15、IL-18、およびBL-1などが例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明におけるDNAワクチン増強剤としては、任意のDNAワクチンと共に投与することにより、そのDNAワクチンのワクチンとしての効果を増強し得る組成物を挙げることができる。具体例を挙げるならば、結核DNAワクチンとして、本発明者らが報告しているヒト型結核菌H37RV由来のHSP65をコードするポリヌクレオチドおよびマウスIL-12をコードするポリヌクレオチドの両方を含むDNA分子が挙げられる。この場合、HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドとは同一のDNA分子中に含まれる必要はなく、いずれかの配列をそれぞれに含む2種のDNA分子を併用してよい。
【0018】
本明細書中、「HSP65をコードするポリヌクレオチド」とは、配列番号:1に示すアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを指す。さらにまた、配列番号:1に示すアミノ酸配列のうち、1または数個、例えば1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸残基が、置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質、すなわちHSP65としての活性を有するタンパク質をコードするDNAも含む。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0019】
本発明に用いる「IL-12をコードするポリヌクレオチド」は、投与される動物種に由来するIL-12 をコードするポリヌクレオチドが好ましい。例えば、ヒトに投与する場合、ヒトIL-12のAおよびBサブユニット(それぞれ、p35およびp40ともいう)をコードするDNAを意味する。ヒトIL-12の各サブユニットのアミノ酸配列を配列番号:2および3に示す。配列番号:2に示すIL-12 Aサブユニットのアミノ酸配列のうち、第1〜56位のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第57〜253位のアミノ酸配列が成熟ペプチドであるため、「ヒトIL-12をコードするポリヌクレオチド」は、この成熟ペプチドが発現されうるように、この成熟ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいればよい。また、配列番号:3に示すIL-12 Bサブユニットのアミノ酸配列のうち、第1〜22位のアミノ酸配列は、シグナルペプチドであり、第23〜328位のアミノ酸配列が成熟ペプチドであるため、「ヒトIL-12をコードするポリヌクレオチド」は、この成熟ペプチドが発現されうるように、この成熟ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいればよい。さらに、上記アミノ酸配列うち、1または数個、例えば1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸残基が、置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:2および3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質、すなわちIL-12のサブユニットとしての活性を有するタンパク質をコードするDNAを使用してもよい。
【0020】
さらに、IL-12の2つのサブユニットの成熟ペプチドが、適当なリンカーペプチド(例えば、Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、配列番号:6)で連結された形で発現されてもよい。例えば、以下の、
Bサブユニットのシグナルペプチドを含む全ペプチド−Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser− Aサブユニットの成熟ペプチド
というアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを作製して、これを発現しうる形で適当なベクターに組み込んで用いることもできる。
【0021】
本明細書中、所定のペプチドをコードするポリヌクレオチドを「発現しうる形で含む」とは、該ポリヌクレオチドが発現ベクターに挿入されており、動物の細胞内に侵入した場合に、該細胞内で所定のペプチドを発現させうる形態で含むことをいう。すなわち、例えば、投与される動物種および投与部位に適したプロモータの制御下に該コードDNAが配置されていることを指す。本発明においては、発現されるDNAおよび、該DNAを発現させうるために必要なDNAからなるDNA分子を、「DNA構築物」と記載することもある。
【0022】
DNAワクチンを構成するDNA分子は、該DNAがワクチンとして作用するために必要なエレメント(すなわち、コードするタンパク質を発現するのに必要なエレメントなど)、例えばプロモータ配列等を含有している場合がある。すなわち、DNAがコードするタンパク質が発現可能なように発現カセットまたは発現ベクターに連結された形態であり得る。上記のHSP65をコードする配列およびIL-12をコードする配列の両方を含むDNAの場合、該DNAを投与される動物内で機能しうる発現カセットまたは発現ベクターに、HSP65とIL-12とが共に発現されるように連結させることによって得ることができる。例えば、HSP65をコードするDNAとIL-12をコードするDNAをそれぞれに適切な発現ベクター(例えばpcDNA3.1 (+)(Invitrogen, San Diego, CA))に、発現可能な形で連結させた形態で、すなわち、HSP65をコードする配列を含むDNAとIL-12をコードする配列を含むDNAとが異なるDNA構築物(発現ベクター)中に含まれている形態であってもよい。本発明において、DNA構築物は目的のペプチドの発現量を増加させるために、1つ、または複数のエンハンサーを含んでいてもよい。
【0023】
DNAをウイルスエンベロープに封入する方法はすでに公知であり、これらの任意のものを用いてもよいが、例えば、後述の実施例に記載のとおり行ってもよく、また、この方法に当業者が任意の改変を加えたものを用いてもよい。特に、封入過程においては、界面活性剤を使用することにより封入効率を向上させることができる。ここで用いる界面活性剤は、例えばTriton X100、デオキシコール酸もしくはコール酸またはその塩等、任意のものであってよいが、Triton X100が特に好ましい。
【0024】
本明細書において、ウイルスエンベロープまたはウイルスエンベロープベクターとは、ウイルスからRNAまたはDNAを取り除いた後のウイルス外膜であり、通常は遺伝子、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド等を封入して細胞移入するのに利用されるものである。
【0025】
本発明に用いる該ベクターは、任意のウイルスに由来するものであってよい。ウイルスの種類は限定されないが、具体的には、たとえば、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科、およびヘパドナウイルス科などが例示できる。好ましいウイルスとしては、センダイウイルス、レトロウイルス、亜デノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、インフルエンザウイルス等を挙げることができる。特に好ましいウイルスは、マウス肺炎ウイルスの1つであるセンダイウイルス(HVJ)である。
【0026】
本明細書において「センダイウイルス」と「HVJ」(Hemagglutinating virus of Japan)とは、互換的に用いられ、パラミクソウイルス科パラミクソウイルス属に属する、細胞融合作用を有するウイルスをいう。センダイウイルスのウイルス粒子にはエンベロープがあり、種々の細胞を融合する能力をもつことから、細胞のヘテロカリオン形成、雑種細胞の作製などの細胞融合に広く利用されている。本明細書中、センダイウイルスエンベロープベクターを、HVJ-Eと称する。
【0027】
センダイウイルスは、VR-105株およびVR-907株等があり、これらは例えばAmerican Type Culture Collection (ATCC:http://www.atcc.org/)から入手可能である。本発明に使用するウイルスエンベロープベクターについては、例えば特開2001-286282号公報(WO01/57204号公報)、特開2002-065278号公報、WO-A03/014338号公報(PCT/JP02/07879)に記載されており、例えば、特開2001-286282号公報中の実施例8などに従って、調製可能である。
【0028】
本発明のDNAワクチン組成物は、任意の製剤上許容しうる担体(例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50等を挙げることができるが、それらに限定されない)と共に投与され得る。また、該組成物は、DNAとウイルスエンベロープのほかに、適切な賦形剤、アジュバントを含んでもよい。
【0029】
また、これらのDNAワクチン組成物は、賦形剤または製剤上許容しうる担体を調製するために、エンベロープのプロセシングを促進する他の化合物を含む、適切な薬学的に許容可能なキャリアを含み得る。シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。あるいはまた、種々のアジュバントを含む乳濁液であってもよい。アジュバントは種々のものが公知であり、当業者であれば、適切なものを容易に選択することができる。さらには、上記アジュバントの他に例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤などから選択される1または2以上の製剤用添加物を含有させてもよい。
【0030】
経口投与のためのDNAワクチン組成物は、投与に適した投与形態において当該分野で周知の製剤上許容しうる担体を用いて処方され得る。
本発明に係る医薬組成物の投与経路は、特に限定されないが、非経口的に投与することが好ましい。非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内または腹腔内の投与が挙げられる。
【0031】
本発明に係るワクチン組成物の1回の投与量および投与回数は、投与の目的により、また感染が初感染か再感染かにより、さらに患者の年齢および体重、症状および疾患の重篤度などの種々の条件に応じて適宜選択および変更することが可能である。エンベロープ中に封入されるDNAワクチンをエンベロープに封入せずに投与する量と同程度の量を投与できるが、これより少ない量を投与してもよい。投与回数および投与頻度、約2〜4週間程度の間隔で、数回、好ましくは約1〜3回程度投与するのが好ましい。疾患の状態をモニターしながら投与回数を決定することもできる。
【0032】
本発明のワクチン組成物は、他の薬剤またはワクチンと併用することも可能である。他の薬剤と同時に本発明のワクチン組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
【0033】
特に、結核に対するDNAワクチンを本発明の医薬組成物に用いる場合、本発明のワクチン組成物を1、2または3回(例えば、2、3または4週間間隔で)投与後、2、3または4週間間隔でBCGを通常用いられる量投与してもよい。BCG1回投与に比べて明らかに、結核予防効果を増大させることができる。あるいはまた、BCGを通常用いられる量投与後、本発明のワクチン組成物を1、2または3回(例えば、2、3または4週間間隔で)投与してもよい。BCG1回投与に比べて明らかに、結核予防効果が増大させることができる。この場合も、例えば、DNAワクチンとして、前述のHSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドとをDNAワクチンとして用いる場合、これらのポリヌクレオチドをDNAワクチンとして作用しうる形態でそのまま(すなわち、nakedな状態で)投与する場合と比較すると、BCGと併用した場合およびBCGと併用しない場合のいずれの場合も該DNAワクチンの効果が、本発明のワクチン組成物、すなわちウイルスエンベロープに封入した形態で投与した場合の方が、DNAワクチンとしての効力が増大しうる。
【0034】
以上のように、本発明のワクチン組成物を製造する方法もまた、本発明の範囲に包含される。該方法は、上述のように、(1)DNAワクチンとして作用するDNAまたはDNA構築物を調製する工程、(2)(1)で得られたDNAまたはDNA構築物を、ウイルスエンベロープベクター内に封入する工程、および(3)製剤上許容しうる担体を添加する工程を含むが、この他に、エンベロープベクターを調整するステップ、封入されたことを確認するステップ等を含んでよい。
【0035】
かかる方法により製造されるワクチン組成物は、DNAをそのままDNAワクチンとして投与した場合に比べて、その効果はより増強されている。得られた医薬組成物は、上記のとおり投与することができる。
【0036】
また、ウイルスエンベロープベクターは、その中にDNAを封入することにより、生体内への該DNAの移入効率を向上させ、該DNAのDNAワクチンとしての効力を増強しうるため、ウイルスエンベロープベクターを活性成分とするDNAワクチン増強剤も本発明の範囲に包含される。特にセンダイウイルスエンベロープを活性成分とするDNAワクチン増強剤が好ましい。かかるDNAワクチン増強剤は、任意のDNAワクチンを封入させてワクチン組成物を構築するために用いることができる。その使用方法および利点は、上記より理解されるはずである。かかるワクチン増強剤は、結核用DNAワクチン、特に少なくとも1つの熱ショックタンパク質および/または少なくとも1つの免疫調節タンパク質をコードする配列を含む結核用DNAワクチンに特に有効である。さらに好ましくは、かかるワクチン増強剤は、HSP65をコードするDNAとIL-12をコードするDNAとを含むDNAワクチンに適用することができる。
【0037】
かかるDNAワクチン増強剤の効力成分としてのウイルスエンベロープベクターは、センダイウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスおよびインフルエンザウイルスからなる群より選択される1種のウイルスに由来するものであることが好ましいが、特にセンダイウイルスに由来するものが好ましい。
【0038】
また、本発明は上記に記載の医薬組成物(DNAワクチン組成物)を対象に投与する工程を含む、感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、または自己免疫疾患を予防または治療する方法に関する。本発明の医薬組成物は、上記の通り投与することができる。
【0039】
本発明において、「対象」とは、本発明の医薬組成物を投与する生物体、該生物体の体内の一部分、または生物体より摘出または排出されたその一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
【0040】
本発明において、「疾患を予防または治療する」とは、上記に記載の疾患において表れる症状を、改善または軽減することを意味する。上記の方法において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【0041】
本発明において、予防または治療する疾患としては、好ましくは感染症疾患、例えば、結核、マラリア、トキソプラズマおよびHIV、最も好ましくは結核菌感染を挙げることが出来る。本発明において、「結核菌感染を予防または治療する」とは、より具体的には結核菌の増殖抑制効果、または増殖停止効果が発現することを意味する。結核菌の増殖が抑制または停止したか否かを確認する方法としては、実施例に記載の方法の通り、本発明の医薬組成物を投与後、CFU値を測定する方法を挙げることが出来る。本発明の医薬組成物を感染症疾患(好ましくは結核菌感染)の予防または治療に使用する際には、BCGを本発明の医薬組成物と同時に対象に投与してもよい。BCGの投与は、本発明の医薬組成物の投与と同時期に行われてもよいし、該医薬組成物の投与の前後において行われてもよい。投与間隔および投与量は、感染の状況、さらに対象の状態などの種々の条件に応じて適宜選択および変更することが可能である。
【実施例】
【0042】
以下の実施例において、本発明を例証するが、これら実施例の記載に限定されるわけではない。
〔実施例1〕
材料
結核菌標準株H37Rvは、単一コロニーから、アルブミンデキストロース複合体を添加したMiddlebrook 7H9培地(DIFCO Laboratories, Detroit, MI: lot 137971 XA MD)中で、37℃にてほぼ対数増殖期に至るまで増殖させた。使用するまで-80℃で保存し、使用する10日前に解凍して7H9培地で対数増殖期まで培養して使用した。M. bovis BCG Tokyoは、合成Sauton培地(Wako Chemicals, Osaka, Japan)中で維持した。
精製タンパク質誘導体PPD(ロットT-3-4)は、日本BCG製造株式会社(JAPAN BCG Co, Ltd (東京, 日本))から入手した。M. tuberculosis H37Ra の死菌体(lot 13971XA) はDIFCO Laboratoriesから入手した。
【0043】
方法
プラスミドのコンストラクション
hsp65 cDNAは、結核菌H37RvゲノムDNAからプライマー(phsp65F1: 5’-ACCAACGATGGTGTGTCCAT-3’(配列番号:7)およびphsp65R1: 5’-CTTGTCGAACCGCATACCCT-3’ (配列番号:8))を用いてPCRにより増幅し、pcDNA3.1 (+)(Invitrogen, San Diego, CA) にクローニングした(pcDNA-hsp65:本明細書中、Hsp65 DNAと標記する場合もある)。マウスIL-12(mIL-12)のp40およびp35のcDNAは、pcDNA-p40p35 (Yoshida, S., et al., Biochem Biophys Res Commun 2000, 271(1), 107-115.)からPCRにて増幅させ、pcDNA3.1 (+) にクローニングした(pcDNA-mIL12p40p35-F;本明細書中、mIL-12 DNAと標記する場合もある)。マウスIL-12Aサブユニットを配列番号:4に、マウスIL-12Bサブユニットを配列番号:5に示す。
【0044】
ワクチン組成物の作成
上述のHsp65 DNAおよびmIL-12 DNAを、それぞれ1 mg/mlになるようTE溶液で希釈した。HVJ-Eを15000 gにて30分遠心し、沈殿を回収した。各プラスミドDNA 1μgに対してHVJ-Eが約8.6mNAUとなるように、HVJ-E沈殿に各プラスミドDNA溶液(TE溶液)を添加し、ピペッティングにより沈殿を懸濁する。該懸濁液に、1/3容量の1%TritonX-100を添加して、タッピングにより混合し、15000 gにて30分間遠心後、上清を除去した。さらに、沈殿を生理食塩水(大塚製薬、日本)に懸濁して15000 gにて30分間遠心して洗浄し、生理食塩水を100〜200 μgDNA/mlになるように添加して懸濁し、液体窒素中で急速に凍結させて、-80℃にて保存した。EGFP をpcDNAにクローニングしたpcDNA-EGFPについても同様の処理を行い、コントロール用のサンプルとした。さらに、DNA溶液の代わりにTE溶液を用いたHVJ-Eのみのコントロール用サンプルも作製した。
【0045】
投与計画
Balb/cマウス13匹を1群として、それぞれ以下に示すとおり、投与した。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1中、HSP65+IL-12とはHSP65とIL-12との共投与、BCGとは1x 106 CFU M. bovis BCG Tokyoの投与、およびEnvはHVJ-Eをベクターとする投与を示す。
免疫各回の間隔は、3週間間隔とした。第3回免疫が終わった4週間後に5 x 105 CFUのM. tuberculosis H37Rv を静脈注射した(Miki, K., et al., Infect Immun 2004, 72(4), 2014-2021)。 その5週間後に、肺、肝臓を無菌条件下でホモジェネートして、小川寒天培地(Kyokuto, Tokyo, Japan)または7H11 Middlebrook 寒天培地(Kyokuto)上にプレーティングした。これらの寒天培地を37℃でインキュベートして、2週間または4週間後にCFUをカウントした。
【0048】
投与方法
(i)HSP65+IL-12/Env
BALB/cマウスに、50μgのpcDNA-IgHsp65および50μgのpcDNA-mIL12p40p35-Fを含むHVJ-E混合物を3週間間隔で、両前脛骨筋に1〜3回接種した。
(ii)HSP65+IL-12
50μgのpcDNA-IgHsp65および50μgのpcDNA-mIL12p40p35-Fの混合物を、上記HSP65+IL-12/Envの場合と同様に投与した。
(iii)BCG
1x 106 CFU M. bovis BCG Tokyo を、同時に4箇所(背中の左上方、右上方、左下方、右下方)、皮下注射により投与した。
【0049】
結果
上記群1〜8のマウスの肺および肝臓におけるCFUを下記表2に示し、肺および肝臓の結果のグラフをそれぞれ図1および図2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
上記結果が示すとおり、肺および肝臓のいずれにおいても、同様の結果が得られた。何も投与しない群(群1)に比べて、BCGの1回投与(群2)は、結核菌の数を減少させていた。また、BCG投与の前にHSP65とIL-12を2回投与した群(群3)では、一層結核菌の数が減少していたが、BCG投与の前にHSP65とIL-12とのHVJ-E混合物を2回投与した群(群4)では、さらに一層効果的に結核菌の数が減少していた。すなわち、HVJ-E混合物とすることで、HSP65+IL-12の結核ワクチンとしての効力を増強させることができた。
【0052】
また、BCGを初回に1回のみ投与し、その後2回HSP65+IL-12を投与した群(群5)とBCG初回投与後2回HSP65とIL-12とのHVJ-E混合物を投与した群(群6)とでは、HVJ-E混合物投与群(群6)で肺および肝臓の結核菌数が減少していた。
すなわち、BCGとHSP65およびIL-12とを併用する場合、その投与の順序に関係なく、HVJ-Eは結核ワクチンとしてのBCGとHSP65およびIL-12の効果を増強させることがわかった。
また、BCGを併用しない場合のHSP65とIL-12との結核ワクチンとしての効力もまた、HVJ-Eにより増強されることが、群7と群8との比較により明らかとなった。
【0053】
上記の結果より、センダイウイルスエンベロープベクターは結核DNAワクチンであるHSP65およびIL-12の効力を増強させることが明らかとなった。また、DNAワクチンを封入したセンダイウイルスエンベロープベクターと、結核ワクチンであるBCGを併用することで、結核菌感染の予防および治療効果が増強されることも明らかとなった。
【0054】
また、上記群のうち、群1、2、4および6の肺および肝臓切片をHE染色に供し、顕微鏡にて観察した。その顕微鏡画像を図3と図4に示す。
図3および図4とも、コントロール群の群1に比べて群2(BCGのみ投与群)の方が肉芽腫の形成、単核球侵潤(青色斑状の部分)は抑制されていたが、群4および群6ではさらに、肉芽腫の形成、単核球侵潤(青色斑状の部分)が抑制されていた。このことは、群1および群2に比して、群4および群6では、結核菌による影響が少なく、感染菌数が少ないことが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、DNAワクチンの効力を増強させるものであり、予防医学を始め臨床医学の分野で広く有用である。特に、感染性疾患に対するDNAワクチンの利用をより一層有益にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】群1〜8(表1参照)における肺のCFU(log10)を示す図である。
【図2】群1〜8(表1参照)における肝臓のCFU(log10)を示す図である。
【図3】群1、2、4および6(表1参照)の肺のHE染色顕微鏡画像を示す写真である。
【図4】群1、2、4および6(表1参照)の肝臓のHE染色顕微鏡画像を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスエンベロープベクターおよび該ウイルスエンベロープベクターに封入されたDNAワクチンを有効成分とする医薬組成物。
【請求項2】
ウイルスエンベロープベクターが、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科およびバキュロウイルス科からなる群より選択される1種のウイルスに由来する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
ウイルスエンベロープベクターが、センダイウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスおよびインフルエンザウイルスからなる群より選択される1種のウイルスに由来する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
ウイルスエンベロープベクターがセンダイウイルスエンベロープベクター(HVJ-E)である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
DNAワクチンが、感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患からなる群から選択される1種の疾患に関与する免疫原生タンパク質をコードするDNAからなるDNAワクチンである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
感染性疾患が、結核、マラリア、トキソプラズマおよびHIVからなる群から選択される感染性疾患である、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
DNAワクチンが、熱ショックタンパク質および/または免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含むDNAワクチンである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
熱ショックタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、HSP65をコードするポリヌクレオチドである、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、IL-12をコードするポリヌクレオチドである、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
DNAワクチンが、HSP65およびIL-12をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含むDNAワクチンである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
HSP65をコードするポリヌクレオチドが、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項8または10記載の医薬組成物。
【請求項12】
IL-12をコードするポリヌクレオチドが、下記(a)および(b)に記載のポリヌクレオチドを含む、請求項9または10記載の医薬組成物。
(a)配列番号:2の第57〜253位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:3の第23〜328位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項13】
HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドが、異なるDNA分子中に含まれていることを特徴とする、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項14】
HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドが、1つのDNA分子中に含まれていることを特徴とする、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項15】
以下の(1)〜(3)の工程を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の医薬組成物の製造方法。
(1)DNAワクチンとして作用するDNAまたはDNA構築物を調製する工程
(2)(1)で得られたDNAまたはDNA構築物を、ウイルスエンベロープベクター内に封入する工程
(3)製剤上許容しうる担体を添加する工程
【請求項16】
ウイルスエンベロープベクターを有効成分とする、DNAワクチン増強剤。
【請求項17】
生体内へのDNAワクチンの移入効率を向上させることを特徴とする、請求項16記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項18】
ウイルスエンベロープベクターが、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科およびバキュロウイルス科からなる群より選択される1種のウイルスに由来する、請求項16記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項19】
ウイルスエンベロープベクターが、センダイウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスおよびインフルエンザウイルスからなる群より選択される1種のウイルスに由来する、請求項16記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項20】
ウイルスエンベロープベクターがセンダイウイルスエンベロープベクター(HVJ-E)である、請求項16記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項21】
感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患からなる群から選択される1種の疾患に対するDNAワクチンを増強するための、請求項16記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項22】
感染性疾患が、結核、マラリア、トキソプラズマおよびHIVからなる群から選択される感染性疾患である、請求項21記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項23】
DNAワクチンが、熱ショックタンパク質および/または免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含むDNAワクチンである、請求項16記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項24】
熱ショックタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、HSP65をコードするポリヌクレオチドである、請求項23記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項25】
免疫調節タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、IL-12をコードするポリヌクレオチドである、請求項23記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項26】
DNAワクチンがHSP65およびIL-12をコードするポリヌクレオチドを発現しうる形で含む、請求項16に記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項27】
HSP65をコードするポリヌクレオチドが、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項24または26に記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項28】
IL-12をコードするポリヌクレオチドが、下記(a)および(b)に記載のポリヌクレオチドを含む、請求項25または26に記載のDNAワクチン増強剤。
(a)配列番号:2の第57〜253位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号:3の第23〜328位のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入されたアミノ酸配列を含み、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項29】
HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドとが異なるDNA分子中に含まれていることを特徴とする、請求項26記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項30】
HSP65をコードするポリヌクレオチドとIL-12をコードするポリヌクレオチドとが1つのDNA分子中に含まれていることを特徴とする、請求項26記載のDNAワクチン増強剤。
【請求項31】
請求項1〜14のいずれかに記載の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、感染症疾患、癌疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、または自己免疫疾患を予防または治療する方法。
【請求項32】
請求項1〜14のいずれかに記載の医薬組成物に加えて、BCGを対象に同時に投与する工程を含む、感染症疾患を予防または治療する方法。
【請求項33】
請求項1〜14のいずれかに記載の医薬組成物の対象への投与の前後に、BCG を対象へ投与することを特徴とする、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−1493(P2009−1493A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280379(P2005−280379)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(504136993)独立行政法人国立病院機構 (37)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【出願人】(302060281)ジェノミディア株式会社 (7)
【Fターム(参考)】