説明

DPF加熱装置

【課題】排ガスの温度上昇が大きいDPF加熱装置を提供する。
【解決手段】発電式リターダを備えた車両の内燃機関から大気までの排ガスの排出流路2に挿入されPMが堆積されるDPF3と、DPF3の上流に設置され排出流路2の内部で排出流路2の一部が区画された副排出流路4と、副排出流路4内に設置された電熱ヒータ5と、発電式リターダの発電電力を電熱ヒータ5に印加する制御を行う電力印加制御部6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの温度上昇が大きいDPF加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関が搭載された車両では、内燃機関から大気までの排ガスの排出流路にディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、DPFという)が設置され、このDPFに粒子状物質(Particulate Matter;以下、PMという)が捕集される。DPFは、多孔質セラミックからなるハニカム細孔状のフィルタにPMを一時的に捕集する部材である。
【0003】
DPFに捕集されているPMの量(以下、PM堆積量という)が多くなると内燃機関の排ガス圧力が上昇し内燃機関の特性低下をきたすため、捕集されているPMを燃焼させるDPF強制再生(以下、強制再生という)が行われる。強制再生時には、排ガス温度を上昇させるための燃料噴射が行われる。排ガス温度が上昇すると、排ガスによってDPFが加熱され、PM燃焼温度に達するとDPFに捕集されているPMが燃焼(排ガス中の酸素と化合)する。
【0004】
強制再生時の燃料噴射は、例えば、内燃機関の低負荷時にアフター噴射と呼ばれるメイン噴射より遅い時期の燃料噴射を行うことにより実現される。DPFの上流に酸化触媒装置(Diesel Oxidation Catalyst;以下、DOCという)が設置されている排ガス浄化システムでは、DOCが活性化されているとき、DOCでは排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)が酸化される。アフター噴射によりDOCに燃料が供給されると、燃料が酸化する酸化熱により排ガス温度が上昇する。この排ガスによってDPFが加熱されPMが燃焼する。DOCが設置されない排ガス浄化システムでも、アフター噴射により排ガス温度が上昇すると、DPFが加熱されPMが燃焼する。内燃機関の下流で燃料噴射を行う排気管噴射によってもアフター噴射と同等の効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−307878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強制再生のために行う燃料噴射は、車両の走行に対して寄与していない。車両走行の観点からは、強制再生の燃料噴射は無駄な燃料噴射であり、燃費悪化の要因となる。したがって、燃料が使用されなくともDPFが加熱されて強制再生ができるDPF加熱装置、あるいは燃料噴射による強制再生時に燃料を使用しない別の手段でDPFの加熱に寄与することで燃料消費が節減されるDPF加熱装置が望まれる。
【0007】
一方、大型トラックでは、フットブレーキでは不足する制動力をリターダにより得ている。近年では、内燃機関の小型化によるコストダウンや燃費向上が図られているが、内燃機関が小型化されるとエンジンブレーキの能力が低下するのに対し、車両に必要な制動力の大きさは以前と同じであるため、リターダの重要性が増している。
【0008】
永久磁石式リターダは、変速機の出力軸に取り付けられた中空のドラムの中に、固定軸に取り付けられた永久磁石を押し込むとドラムに渦電流が流れることで出力軸が制動される。このとき、渦電流によってドラムが温度上昇するので、ドラムを冷却するためにドラムの周囲には放熱フィンが形成される。しかし、ドラムは出力軸と一体的に回転するため、放熱フィンも回転され空気抵抗を受ける。つまり、出力軸は、常に放熱フィンの空気抵抗に抗して回転していることになり、燃費が悪化する。
【0009】
永久磁石式リターダの代わりに発電式リターダを使用することが考えられる。発電式リターダは、変速機の出力軸に発電機の回転子が取り付けられ、車体に取り付けられた固定子に対して回転子が回転することで、出力軸の回転エネルギが電力に変換される。しかし、大型トラックが制動されるときに発電式リターダに生じる電力は、車載バッテリの容量を大きく超えているため、車載バッテリに回収しきれず、車載バッテリには発電電力のごく一部が回収されるに過ぎない。余剰の電力は、どこかで消費され、熱として外部に放出されなければならない。
【0010】
そこで、発電式リターダの余剰電力を有効利用してDPFの加熱を行うDPF加熱装置が提案されている。このDPF加熱装置では、排ガスの排出流路のDPFより上流に電熱ヒータが設置され、この電熱ヒータが発電式リターダに接続される。この構成により、発電式リターダが作動したとき、DPFを通過する排ガスの温度が上昇することになる。
【0011】
ところが、本発明者がこのようなDPF加熱装置を実験的に作製し、排ガスの加熱実験を実施したところ、期待した加熱効果は得られなかった。具体的には、大型トラック用の内燃機関の排ガスの排出流路にDPFを設置し、この排出流路のDPFより上流に電熱ヒータを設置し、この電熱ヒータに所望の電力を供給し、電熱ヒータの下流で排ガス温度の上昇を測定した。しかし、内燃機関がアイドリング時でも、供給電力1kWあたり25℃の温度上昇しか得られなかった。供給電力4kWを投入しても100℃しか温度上昇しないことになる。内燃機関がアイドリングよりも高回転になると、排ガス流量が増加するので、温度上昇はさらに小さくなると思われる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、排ガスの温度上昇が大きいDPF加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明のDPF加熱装置は、発電式リターダを備えた車両の内燃機関から大気までの排ガスの排出流路に挿入され粒子状物質(以下、PM)が堆積されるディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPF)と、前記DPFの上流に設置され前記排出流路の内部で前記排出流路の一部が区画された副排出流路と、前記副排出流路内に設置された電熱ヒータと、前記発電式リターダの発電電力を前記電熱ヒータに印加する制御を行う電力印加制御部とを備えたものである。
【0014】
前記副排出流路内の前記電熱ヒータの上流に設置され排ガスの流量を絞る絞り弁と、前記副排出流路内の前記電熱ヒータの下流に設置され排ガスの温度を検出する温度センサと、前記温度センサが検出する温度が閾値未満のときは前記絞り弁により排ガスの流量を絞る絞り制御部とを備えてもよい。
【0015】
前記電力印加制御部は、前記DPFの強制再生時期が近づいた時点か又は強制再生中に前記発電式リターダが作動された場合に、前記発電式リターダの発電電力を前記電熱ヒータに印加してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0017】
(1)排ガスの温度上昇が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を示すDPF加熱装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に示されるように、本発明に係るDPF加熱装置1は、発電式リターダ(図示せず)を備えた車両の内燃機関(図示せず)から大気までの排ガスの排出流路2に挿入されPMが堆積されるDPF3と、DPF3の上流に設置され排出流路2の内部で排出流路2の一部が区画された副排出流路4と、副排出流路4内に設置された電熱ヒータ5と、発電式リターダの発電電力を電熱ヒータ5に印加する制御を行う電力印加制御部6とを備えたものである。
【0021】
排出流路2と副排出流路4は円筒状であり、DPF3は円柱状である。DPF3の直径は排出流路2の直径とほぼ同じであり、DPF3が排出流路2に隙間ができることなく挿入されている。一方、副排出流路4の直径は排出流路2の直径より小さい。副排出流路4の直径は、副排出流路4における排ガス流量(あるいは流路断面積)の好適値を実験により求めて決定される。副排出流路4は、排出流路2の中心に配置され、DPF3の中心部に臨む。
【0022】
電熱ヒータ5は、副排出流路4の中心から周辺にわたり、放射状、あるいは同心状、あるいは渦巻き状に形成される。電熱ヒータ5は、副排出流路4内の排ガスに所望の温度上昇が与えられるに十分な発熱量(例えば、数kW)を有するものとする。
【0023】
電力印加制御部6は、電子制御装置(Electronical Control Unit;ECU)に制御手順を搭載し、発電式リターダと電熱ヒータ5との間にECUから駆動可能なスイッチ回路(図示せず)を設けることで実現される。
【0024】
DPF加熱装置1は、副排出流路4内の電熱ヒータ5の上流に設置され排ガスの流量を絞る絞り弁7と、副排出流路4内の電熱ヒータ5の下流に設置され排ガスの温度を検出する温度センサ8と、温度センサ8が検出する温度が閾値未満のときは絞り弁7により排ガスの流量を絞る絞り制御部9とを備える。
【0025】
絞り弁7は、バタフライバルブとして公知のものである。
【0026】
温度センサ8は、公知のものであり、特に限定はない。
【0027】
絞り制御部9は、ECUに制御手順を搭載し、バタフライバルブの駆動回路(図示せず)を設けることで実現される。
【0028】
電力印加制御部6は、DPF3の強制再生時期に近づいた時点か又は強制再生中に発電式リターダが作動された場合に、発電式リターダの発電電力を電熱ヒータ5に印加するように制御手順が組まれている。
【0029】
電力印加制御部6は、発電式リターダが作動されていない状態でDPF3の強制再生時期になった場合に、車載バッテリの電力を電熱ヒータ5に印加するように制御手順が組まれている。
【0030】
強制再生時期は、公知の技術により判定される。例えば、DPF3のPM堆積量が閾値に達したこと、あるいはDPF3の上流下流間の排ガス圧力差が閾値に達したことで強制再生時期が判定される。強制再生時期に近づいた時点は、強制再生時期を判定する閾値よりもやや小さい閾値で判定される。これらの閾値は、実験に基づき好適値に設定される。強制再生時期が他の数量に基づく場合、例えば、車両の運転時間が一定値に達するごとに強制再生を行う場合でも、本発明は適用できる。
【0031】
以下、本発明のDPF加熱装置1の動作を説明する。
【0032】
本発明者は、先の実験で排ガスの温度上昇が不足した原因は、排ガスの全量を加熱しようとしたことにあると考察した。アイドリング時といえども、内燃機関の回転速度に応じた排ガス流量があり、電熱ヒータから発生できる熱量に比して排ガス流量が大きい。このため、電熱ヒータに大電力を印加しても排ガスの温度上昇は小さい。
【0033】
本発明者は、電熱ヒータを通過する排ガス流量を制限すれば、小電力でも大きな温度上昇が得られると考え、図1のように、排出流路2の一部を区画した副排出流路4に電熱ヒータ5を設置することにした。
【0034】
本発明のDPF加熱装置1によれば、副排出流路4における排ガス流量は、排出流路2における排ガス流量に比べて小さい。したがって、数kWの電熱ヒータ5で副排出流路4の排ガスを十分に温度上昇させることができ、例えば、数百℃の上昇が期待できる。
【0035】
副排出流路4の下流では、加熱された排ガスがDPF3の中心部に流れ込む。このため、DPF3は、中心部のみ部分的に加熱されることになる。発電式リターダの作動時は、内燃機関での燃料噴射が少なく、排ガスが酸素リッチであるため、温度が上昇するとPMが燃焼しやすい。これによってDPF3の中心部で再生が始まる。再生によって中心部の温度がさらに上昇すると、周囲の部分でも温度が上昇し、再生が始まる。
【0036】
また、副排出流路4における排ガスの加熱と強制再生の燃料噴射とがほぼ同時期に行われると、排ガスの温度上昇が促進され、その結果、強制再生の燃料消費が節減される。
【0037】
本実施形態では、電力印加制御部6は、DPF3の強制再生時期に近づいた時点か又は強制再生中に発電式リターダが作動された場合に、発電式リターダの発電電力を電熱ヒータ5に印加する。発電式リターダが作動しているときは、アクセル開度がゼロであるため、内燃機関から出てきた排ガスの温度が低い。従来技術では、発電式リターダの作動時に強制再生が開始されると、排ガス温度を低い温度から再生温度まで上昇させるために燃料が多く消費される。これに対し、本発明では、発電式リターダの発電電力で排ガス温度が上昇するので、強制再生の燃料消費が節減される。
【0038】
このとき、DPF3の強制再生時期に近づいた時点、つまり強制再生時期よりも早い時期から発電式リターダの発電電力を電熱ヒータ5に印加しておくと、強制再生時期になるまでに電熱ヒータ5の予熱ができ、強制再生の燃料消費がいっそう節減される。
【0039】
本実施形態では、電熱ヒータ5を通過する排ガス流量をさらに制限することができる。すなわち、絞り制御部9は、温度センサ8が検出する排ガス温度が閾値未満のときは絞り弁7により排ガスの流量を絞る。これにより副排出流路4の排ガス温度がさらに上昇する。閾値として、DPF3で再生が始まる温度を設定しておくことにより、副排出流路4の排ガス温度はDPF3で再生が始まる温度まで確実に上昇できることになる。
【0040】
また、電熱ヒータ5への通電終了後は、絞り弁7を全閉するとよい。絞り弁7が全閉になると、副排出流路4では排ガスの流れが止まり、副排出流路4内の排ガスや電熱ヒータ5が保温され、次回のDPF加熱に際して排ガス温度を早期に上昇させることに寄与する。
【0041】
本実施形態では、電力印加制御部6は、発電式リターダが作動されていない状態でDPF3の強制再生時期になった場合に、車載バッテリの電力を電熱ヒータ5に印加する。既に述べたように、本発明のDPF加熱装置1では、副排出流路4内に電熱ヒータ5が設置されるため、小電力でも大きな温度上昇が得られる。したがって、車載バッテリの電力でも排ガスの温度上昇が可能となる。そこで、発電式リターダが作動されていない状態でDPF3の強制再生時期になった場合、車載バッテリの電力を電熱ヒータ5に印加する。これにより、強制再生の燃料消費が節減される。
【符号の説明】
【0042】
1 DPF加熱装置
2 排出流路
3 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
4 副排出流路
5 電熱ヒータ
6 電力印加制御部
7 絞り弁
8 温度センサ
9 絞り制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電式リターダを備えた車両の内燃機関から大気までの排ガスの排出流路に挿入され粒子状物質(以下、PM)が堆積されるディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPF)と、
前記DPFの上流に設置され前記排出流路の内部で前記排出流路の一部が区画された副排出流路と、
前記副排出流路内に設置された電熱ヒータと、
前記発電式リターダの発電電力を前記電熱ヒータに印加する制御を行う電力印加制御部とを備えたことを特徴とするDPF加熱装置。
【請求項2】
前記副排出流路内の前記電熱ヒータの上流に設置され排ガスの流量を絞る絞り弁と、
前記副排出流路内の前記電熱ヒータの下流に設置され排ガスの温度を検出する温度センサと、
前記温度センサが検出する温度が閾値未満のときは前記絞り弁により排ガスの流量を絞る絞り制御部とを備えたことを特徴とする請求項1記載のDPF加熱装置。
【請求項3】
前記電力印加制御部は、前記DPFの強制再生時期が近づいた時点か又は強制再生中に前記発電式リターダが作動された場合に、前記発電式リターダの発電電力を前記電熱ヒータに印加することを特徴とする請求項1又は2記載のDPF加熱装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246875(P2012−246875A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120639(P2011−120639)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】