説明

ECRプラズマ生成装置、およびそれを用いたマグネトロンスパッタ成膜装置

【課題】低圧下で高密度のプラズマを生成可能なECRプラズマ生成装置、および表面の凹凸が小さい薄膜を形成可能なマグネトロンスパッタ成膜装置を提供する。
【解決手段】ECRプラズマ生成装置4は、マイクロ波を伝送する矩形導波管41と、該マイクロ波が通過するスロットを有するスロットアンテナ42と、スロットを覆うように配置され、プラズマ生成領域側の表面はスロットから入射する該マイクロ波の入射方向に平行である誘電体部43と、誘電体部43の裏面に配置される支持板44と、支持板44の裏面に配置される永久磁石45と、を備え、ECRプラズマP1を生成する。マグネトロンスパッタ成膜装置1は、ECRプラズマ生成装置4を備え、基材20とターゲット30との間にECRプラズマP1を照射しながら、マグネトロンプラズマP2による成膜を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧下で高密度のプラズマを生成可能なECRプラズマ生成装置、およびそれを用いたマグネトロンスパッタ成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタによる成膜方法としては、二極スパッタ法や、マグネトロンスパッタ法等がある。例えば、高周波(RF)を利用した二極スパッタ法においては、成膜速度が遅い、ターゲットから飛び出した二次電子の照射で基材の温度が上昇しやすい、という問題がある。成膜速度が遅いため、RF二極スパッタ法は、量産には適さない。一方、マグネトロンスパッタ法によると、ターゲット表面に発生した磁場により、ターゲットから飛び出した二次電子が捕らえられる。このため、基材の温度が上昇しにくい。また、捕らえた二次電子でガスのイオン化が促進されるため、成膜速度を速くすることができる。(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−57422号公報
【特許文献2】特開2010−37656号公報
【特許文献3】特開2005−197371号公報
【特許文献4】特開平7−6998号公報
【特許文献5】特開2003−301268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグネトロンスパッタ法のなかでは、DC(直流)マグネトロンスパッタ法(DCパルス方式を含む)が、成膜速度等の観点から多用されている。しかし、DCマグネトロンスパッタ法には、ターゲットに一定の高電圧を印加しないと、プラズマが安定しなかったり、プラズマが生成しないという不具合がある。このため、通常は、ターゲットに数百ボルトの高電圧を印加する。印加電圧が高いと、ターゲットから、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子が飛び出す場合がある。粒子径の大きな粒子が基材に付着すると、形成された膜の表面に凹凸が生じてしまう。膜の表面の凹凸が大きい場合、凹部に酸素等が吸着しやすくなり、膜自身や、膜と接する相手材を劣化させるおそれがある。また、凸部により、相手材を劣化させるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、表面の凹凸が小さい薄膜を形成することができるマグネトロンスパッタ成膜装置、および当該成膜装置に用いられ、低圧下で高密度のプラズマを生成可能なECRプラズマ生成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明者は、DCマグネトロンスパッタ法による成膜について鋭意研究を重ねた結果、マグネトロン放電で生成したプラズマ(以下、適宜「マグネトロンプラズマ」と称す)による成膜を、マイクロ波プラズマを照射しながら行えば、印加電圧を下げることができ、上記課題を解決できるという見地に至った。しかしながら、通常、マグネトロンスパッタは、不純物の侵入を抑制して膜質を維持するために、マグネトロンプラズマが安定な一定の低圧下で行われる。成膜時の圧力としては、0.5〜1.0Pa程度が望ましい。一方、一般的なマイクロ波プラズマ生成装置は、5Pa以上の比較的高圧下でマイクロ波プラズマを生成する(例えば、特許文献3参照)。このため、従来のマイクロ波プラズマ生成装置を用いた場合、マグネトロンスパッタを行う1Pa以下の低圧下では、マイクロ波プラズマを生成することが難しい。この理由は、次のように考えられる。
【0007】
図4に、従来のマイクロ波プラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図を示す。図4に示すように、プラズマ生成部9は、導波管90と、スロットアンテナ91と、誘電体部92と、を有している。スロットアンテナ91は、導波管90の前方開口部を塞ぐように配置されている。すなわち、スロットアンテナ91は、導波管90の前壁を形成している。スロットアンテナ91には、複数の長孔状のスロット910が形成されている。誘電体部92は、スロット910を覆うように、スロットアンテナ91の前面(真空容器側)に配置されている。導波管90の右端から伝送されたマイクロ波は、図中前後方向の白抜き矢印Y1で示すように、スロット910を通過して、誘電体部92に入射する。誘電体部92に入射したマイクロ波は、図中左右方向の白抜き矢印Y2で示すように、誘電体部92の前面920に沿って伝播する。これにより、マイクロ波プラズマPが生成される。
【0008】
ここで、スロット910から誘電体部92へ入射するマイクロ波の入射方向(矢印Y1)と、誘電体部92の前面920と、は直交する。このため、誘電体部92に入射したマイクロ波は、生成したマイクロ波プラズマPに遮られ、進行方向を90°変えて、誘電体部92の前面920を伝播する(矢印Y2)。このように、生成したマイクロ波プラズマPに対して垂直にマイクロ波が入射するため、プラズマソースであるマイクロ波がマイクロ波プラズマPに伝播しにくい。このため、低圧下でのプラズマ生成が難しいと考えられる。
【0009】
そこで、本発明者は、生成するマイクロ波プラズマに対するマイクロ波の入射方向に着目し、さらには電子サイクロトロン共鳴(ECR)を利用することにより、1Pa以下の低圧下でも高密度なプラズマを生成することができるECRプラズマ生成装置を開発した。すなわち、本発明のECRプラズマ生成装置は、真空容器内にマイクロ波を用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマを生成するECRプラズマ生成装置であって、マイクロ波を伝送する矩形導波管と、該矩形導波管の一面に配置され、該マイクロ波が通過するスロットを有するスロットアンテナと、該スロットアンテナの該スロットを覆うように配置され、プラズマ生成領域側の表面は該スロットから入射する該マイクロ波の入射方向に平行である誘電体部と、該誘電体部の裏面に配置され該誘電体部を支持する支持板と、該支持板の裏面に配置され該プラズマ生成領域に磁場を形成する永久磁石と、を備え、該誘電体部から該磁場中に伝播する該マイクロ波によりECRを発生させながらプラズマを生成することを特徴とする。なお、本発明のECRプラズマ生成装置においては、プラズマ生成領域側の面を「表面」とし、表面に背向する面を「裏面」と称する。
【0010】
図3に、本発明のECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図を示す。なお、図3は、プラズマ生成部の一実施形態を示す図である(後述する実施形態参照)。図3は、本発明のECRプラズマ生成装置を、何ら限定するものではない。
【0011】
図3に示すように、プラズマ生成部40は、導波管41と、スロットアンテナ42と、誘電体部43と、支持板44と、永久磁石45と、を有している。導波管41の左端後方には、マイクロ波を伝送する管体部51が接続されている。スロットアンテナ42は、導波管41の上方開口部を塞ぐように配置されている。すなわち、スロットアンテナ42は、導波管41の上壁を形成している。スロットアンテナ42には、複数の長孔状のスロット420が形成されている。誘電体部43は、スロット420を覆うように、スロットアンテナ42の上面に配置されている。
【0012】
管体部51から伝送されたマイクロ波は、図中上下方向の白抜き矢印Y1で示すように、スロット420を通過して、誘電体部43に入射する。誘電体部43に入射したマイクロ波は、図中左右方向の白抜き矢印Y2で示すように、主に誘電体部43の前面430に沿って伝播する。これにより、マイクロ波プラズマが生成される。ここで、スロット420から誘電体部43に入射するマイクロ波の入射方向は、誘電体部43の前面430(プラズマ生成領域側の表面)に平行である。生成したマイクロ波プラズマに沿ってマイクロ波が入射するため、プラズマソースであるマイクロ波がマイクロ波プラズマに伝播しやすい。
【0013】
また、誘電体部43の後方には、支持板44を介して、永久磁石45が八つ配置されている。八つの永久磁石45は、いずれも前側がN極、後側がS極である。各々の永久磁石45から前方に向かって、磁力線Mが生じている。これにより、誘電体部43の前方(プラズマ生成領域)には、磁場が形成されている。
【0014】
生成したマイクロ波プラズマ中の電子は、サイクロトロン角周波数ωceに従って、磁力線M方向に対して右回りの旋回運動を行う。一方、マイクロ波プラズマ中を伝播するマイクロ波は、電子サイクロトロン波と呼ばれる右回りの円偏波を励起する。電子サイクロトロン波が前方に伝播し、その角周波数ωがサイクロトロン角周波数ωceに一致すると、電子サイクロトロン波が減衰し、波動エネルギーが電子に吸収される。すなわち、ECRが生じる。例えば、マイクロ波の周波数が2.45GHzの場合、磁束密度0.0875Tで、ECRが生じる。ECRによりエネルギーが増大した電子は、磁力線Mに拘束されながら、周辺の中性粒子と衝突する。これにより、中性粒子が次々に電離する。電離により生じた電子も、ECRにより加速され、さらに中性粒子を電離させる。このようにして、誘電体部43の前方に、高密度のECRプラズマP1が生成される。
【0015】
このように、本発明のECRプラズマ生成装置によると、生成するマイクロ波プラズマに沿ってマイクロ波を入射させると共に、ECRを利用してプラズマ密度を大きくすることにより、1Pa以下の低圧下、さらには0.1Pa以下の極低圧下においても、プラズマを生成することができる。したがって、本発明のECRプラズマ生成装置を用いると、低圧下でECRプラズマを照射しながら、マグネトロンプラズマによる成膜を行うことが可能になる。
【0016】
なお、上記特許文献4には、マイクロ波を用いたECRプラズマ生成装置が開示されている。特許文献4のECRプラズマ生成装置においては、空芯コイルにより磁場を形成している。しかしながら、空芯コイルを用いると、コイル径等に規制されるため、長尺状の広範囲にプラズマを生成することができない。この点、本発明のECRプラズマ生成装置によると、長尺状の矩形導波管を用いて、長手方向にスロットを配置することにより、長尺状のプラズマを生成することができる。したがって、マグネトロンスパッタ成膜装置に組み込むことにより、大面積の薄膜を形成することができる。マグネトロンスパッタ成膜装置については、後の(4)において詳しく説明する。
【0017】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記支持板は、前記永久磁石の温度上昇を抑制するための冷却手段を有する構成とする方がよい。
【0018】
永久磁石は、支持板を介して誘電体部の裏面側に配置される。このため、プラズマを生成する際、永久磁石の温度が上昇しやすい。永久磁石の温度がキュリー温度以上になると、磁性が失われてしまう。本構成によると、支持板の冷却手段により、永久磁石の温度上昇が抑制される。このため、永久磁石の磁性が失われるおそれは小さい。したがって、本構成によると、安定した磁場を形成することができる。
【0019】
(3)上記(1)または(2)の構成のECRプラズマ生成装置は、0.05Pa以上100Pa以下の圧力下で前記プラズマを生成可能である。なお、生成したプラズマを広げるためには、0.05Pa以上10Pa以下の圧力下で前記プラズマを生成することが望ましい。
【0020】
(4)本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置は、基材と、ターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を備え、マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を該基材の表面に付着させて薄膜を形成するマグネトロンスパッタ成膜装置であって、さらに、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成のECRプラズマ生成装置を備え、該ECRプラズマ生成装置は、該基材と該ターゲットとの間にECRプラズマを照射することを特徴とする。
【0021】
本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置においては、マグネトロンプラズマによる成膜を、ECRプラズマを照射しながら行う。基材とターゲットとの間にECRプラズマを照射することにより、印加電圧を下げても、マグネトロンプラズマを安定に維持することができる。これにより、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子のターゲットからの飛び出しを、抑制することができる。その結果、スパッタ粒子の粒子径のばらつきが抑制され、形成される薄膜の表面の凹凸を、小さくすることができる。また、ECRプラズマを照射すると、スパッタ粒子が微細化される。このため、よりきめ細やかな薄膜を形成することができる。
【0022】
また、上述したように、本発明のECRプラズマ生成装置によると、1Pa以下の低圧下、さらには0.1Pa以下の極低圧下においても、プラズマを生成することができる。したがって、より低圧下でマグネトロンスパッタを行うことにより、不純物の侵入を抑制すると共に、ターゲット粒子の平均自由行程を長くすることができる。これにより、形成される薄膜の膜質が向上する。
【0023】
なお、上記特許文献5には、ECRを利用したマグネトロンスパッタ成膜装置が開示されている。特許文献5のマグネトロンスパッタ成膜装置においては、成膜する基材の裏側に、磁石を配置して、基材の表面近傍にECRプラズマを生成している。しかしながら、基材の裏側に磁石を配置すると、形成される薄膜の厚さにばらつきが生じやすい。加えて、薄膜が着色しやすいという問題もある。また、特許文献5のマグネトロンスパッタ成膜装置においては、ヘリカルアンテナからマイクロ波を放射している。このため、マイクロ波が、プラズマ生成領域の全体に均一に伝播しにくい。また、磁場による、アンテナからプラズマ生成領域への指向性もない。
【0024】
この点、本発明のECRプラズマ生成装置においては、誘電体部の裏面側に永久磁石を配置して、マイクロ波を誘電体部の表面に沿って伝播させる。つまり、基材の近傍には、永久磁石を配置しない。したがって、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置によると、特許文献5のマグネトロンスパッタ成膜装置における上記問題は生じない。
【0025】
(5)好ましくは、上記(4)の構成において、前記薄膜の形成は、0.05Pa以上3Pa以下の圧力下で行われる構成とする方がよい。
【0026】
真空容器内を0.05Pa以上3Pa以下の高真空状態にすることにより、マグネトロンプラズマが安定すると共に、不純物の侵入を抑制し、ターゲット粒子の平均自由行程を長くすることができる。これにより、形成される薄膜の膜質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態であるマグネトロンスパッタ成膜装置の左右方向断面図である。
【図2】同マグネトロンスパッタ成膜装置の前後方向断面図である。
【図3】同マグネトロンスパッタ成膜装置を構成するECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図である。
【図4】従来のマイクロ波プラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のECRプラズマ生成装置、およびそれを備えた本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置の実施の形態について説明する。
【0029】
<マグネトロンスパッタ成膜装置>
まず、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の構成について説明する。図1に、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の左右方向断面図を示す。図2に、同マグネトロンスパッタ成膜装置の前後方向断面図を示す。図3に、同マグネトロンスパッタ成膜装置を構成するECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図を示す。
【0030】
図1〜図3に示すように、マグネトロンスパッタ成膜装置1は、真空容器8と、基材20と、基材支持部材21と、ターゲット30と、バッキングプレート31と、永久磁石32a〜32cと、カソード33と、ECRプラズマ生成装置4と、を備えている。
【0031】
真空容器8は、アルミ鋼製であって、直方体箱状を呈している。真空容器8の左壁には、ガス供給孔80が穿設されている。ガス供給孔80には、アルゴン(Ar)ガスを真空容器8内に供給するためのガス供給管(図略)の下流端が接続されている。真空容器8の下壁には、排気孔82が穿設されている。排気孔82には、真空容器8の内部のガスを排出するための真空排気装置(図略)が接続されている。
【0032】
基材支持部材21は、テーブル部210と一対の脚部211とを有する。テーブル部210は、ステンレス鋼製であって、中空の長方形板状を呈している。テーブル部210の内部には、冷却液が充填されている。テーブル部210は、冷却液が循環することにより、冷却されている。一対の脚部211は、テーブル部210の上面に、左右方向に離間して配置されている。一対の脚部211は、各々、ステンレス鋼製であって、円柱状を呈している。一対の脚部211の外周面は、絶縁層で被覆されている。テーブル部210は、一対の脚部211を介して、真空容器8の上壁に取り付けられている。
【0033】
基材20は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであり、長方形状を呈している。基材20は、テーブル部210の下面に貼り付けられている。
【0034】
カソード33は、ステンレス鋼製であって、上方に開口する直方体箱状を呈している。カソード33、ターゲット30、およびバッキングプレート31の周囲には、アースシールド34が配置されている。カソード33は、アースシールド34を介して、真空容器8の下面に配置されている。カソード33は、直流パルス電源35に接続されている。
【0035】
永久磁石32a〜32cは、カソード33の内側に配置されている。永久磁石32a〜32cは、各々、長尺直方体状を呈している。永久磁石32a〜32cは、前後方向に離間して、互いに平行になるように配置されている。永久磁石32aおよび永久磁石32cについては、上側がS極、下側がN極である。永久磁石32bについては、上側がN極、下側がS極である。永久磁石32a〜32cにより、ターゲット30の上面に磁場が形成される。永久磁石32a〜32cは、本発明における磁場形成手段に含まれる。
【0036】
バッキングプレート31は、銅製であって、長方形板状を呈している。バッキングプレート31は、カソード33の上部開口を覆うように配置されている。
【0037】
ターゲット30は、酸化インジウム−酸化錫の複合酸化物(ITO)であり、長方形薄板状を呈している。ターゲット30は、バッキングプレート31の上面に配置されている。ターゲット30は、基材20と対向して配置されている。
【0038】
ECRプラズマ生成装置4は、プラズマ生成部40と、マイクロ波伝送部50と、を備えている。マイクロ波伝送部50は、管体部51と、マイクロ波電源52と、マイクロ波発振器53と、アイソレータ54と、パワーモニタ55と、EH整合器56と、を有している。マイクロ波発振器53、アイソレータ54、パワーモニタ55、およびEH整合器56は、管体部51により連結されている。管体部51は、真空容器8の後壁に穿設された導波孔を通って、プラズマ生成部40の導波管41の後側に接続されている。
【0039】
プラズマ生成部40は、導波管41と、スロットアンテナ42と、誘電体部43と、支持板44と、永久磁石45と、を有している。図3に示すように、導波管41は、アルミニウム製であって、上方に開口する直方体箱状を呈している。導波管41は、左右方向に延在している。導波管41は、本発明における矩形導波管に含まれる。スロットアンテナ42は、アルミニウム製であって、長方形板状を呈している。スロットアンテナ42は、導波管41の開口部を上方から塞いでいる。すなわち、スロットアンテナ42は、導波管41の上壁を形成している。スロットアンテナ42には、スロット420が四つ形成されている。スロット420は、左右方向に伸びる長孔状を呈している。スロット420は、電界が強い位置に配置されている。
【0040】
誘電体部43は、石英製であって、直方体状を呈している。誘電体部43は、スロットアンテナ42の上面前側に配置されている。誘電体部43は、スロット420を上方から覆っている。前述したように、誘電体部43の前面430は、スロット420から入射するマイクロ波の入射方向Y1に対して平行に配置されている。前面430は、誘電体部におけるプラズマ生成領域側の表面に含まれる。
【0041】
支持板44は、ステンレス鋼製であって、平板状を呈している。支持板44は、スロットアンテナ42の上面において、誘電体部43の後面(裏面)に接するように配置されている。支持板44の内部には、冷媒通路440が形成されている。冷媒通路440は、左右方向に延在するU字状を呈している。冷媒通路440の右端は、冷却管441に接続されている。冷媒通路440は、冷却管441を介して、真空容器8の外部において、熱交換器およびポンプ(共に図略)に接続されている。冷却液は、冷媒通路440→冷却管441→熱交換器→ポンプ→冷却管441→再び冷媒通路440という経路を循環している。冷却液の循環により、支持板44は冷却されている。冷媒通路440および冷却液は、本発明の冷却手段に含まれる。
【0042】
永久磁石45は、ネオジム磁石であり、直方体状を呈している。永久磁石45は、支持板44の後面(裏面)に八つ配置されている。八つの永久磁石45は、左右方向に連続して直列に配置されている。八つの永久磁石45は、いずれも前側がN極、後側がS極である。各々の永久磁石45から前方に向かって、磁力線Mが生じている。これにより、誘電体部43の前方のプラズマ生成領域に、磁場が形成されている。
【0043】
<マグネトロンスパッタ成膜方法>
次に、マグネトロンスパッタ成膜装置1による成膜方法について説明する。本実施形態の成膜方法は、まず、真空排気装置(図略)を作動させて、真空容器8の内部のガスを排気孔82から排出し、真空容器8の内部を減圧状態にする。次に、ガス供給管から、アルゴンガスを真空容器8内へ供給して、真空容器8内の圧力を0.2Paにする。続いて、マイクロ波電源52をオンにする。マイクロ波電源52をオンにすると、マイクロ波発振器53が、周波数2.45GHzのマイクロ波を発生する。発生したマイクロ波は、管体部51内を伝播する。ここで、アイソレータ54は、プラズマ生成部40から反射されたマイクロ波が、マイクロ波発振器53に戻るのを抑制する。パワーモニタ55は、発生したマイクロ波の出力と、反射したマイクロ波の出力と、をモニタリングする。EH整合器56は、マイクロ波の反射量を調整する。管体部51内を通過したマイクロ波は、導波管41の内部を伝播する。導波管41の内部を伝播するマイクロ波は、スロットアンテナ42のスロット420に進入する。そして、図3中白抜き矢印Y1で示すように、スロット420を通過して、誘電体部43に入射する。誘電体部43に入射したマイクロ波は、同図中白抜き矢印Y2で示すように、主に誘電体部43の前面430に沿って伝播する。このマイクロ波の強電界により、真空容器8内のアルゴンガスが電離して、誘電体部43の前方にマイクロ波プラズマが生成される。
【0044】
生成したマイクロ波プラズマ中の電子は、サイクロトロン角周波数に従って、磁力線M方向に対して右回りの旋回運動を行う。一方、マイクロ波プラズマ中を伝播するマイクロ波は、電子サイクロトロン波を励起する。電子サイクロトロン波の角周波数は、磁束密度0.0875Tで、サイクロトロン角周波数に一致する。これにより、ECRが生じる。ECRによりエネルギーが増大した電子は、磁力線Mに拘束されながら、周辺の中性粒子と衝突する。これにより、中性粒子が次々に電離する。電離により生じた電子も、ECRにより加速され、さらに中性粒子を電離させる。このようにして、誘電体部43の前方に、高密度のECRプラズマP1が生成される。
【0045】
次に、直流パルス電源35をオンにして、カソード33に電圧を印加する。これにより生じたマグネトロン放電で、アルゴンガスが電離して、ターゲット30の上方にマグネトロンプラズマP2が生成される。そして、マグネトロンプラズマP2(アルゴンイオン)によりターゲット30をスパッタし、ターゲット30からスパッタ粒子を叩き出す。ターゲット30から飛び出したスパッタ粒子は、基材20に向かって飛散して、基材20の下面に付着することにより、薄膜を形成する。この際、基材20とターゲット30との間(マグネトロンプラズマP2生成領域を含む)には、ECRプラズマP1が照射される。
【0046】
<作用効果>
次に、本実施形態のECRプラズマ生成装置、およびマグネトロンスパッタ成膜装置の作用効果について説明する。本実施形態のECRプラズマ生成装置4において、誘電体部43の前面430は、スロットアンテナ42に対して垂直に配置されている。これにより、スロット420から誘電体部43へ入射するマイクロ波の入射方向Y1が、誘電体部43の前面430に対して平行になる。この場合、マイクロ波は、生成するマイクロ波プラズマに沿うように入射される。したがって、プラズマソースであるマイクロ波がマイクロ波プラズマに伝播しやすい。
【0047】
また、誘電体部43の前方には、磁場が形成されている。磁力線Mは、誘電体部43から前方に延びている。誘電体部43からマイクロ波が磁場中に伝播することにより、ECRが発生する。これにより、誘電体部43の前方に、高密度のECRプラズマP1が生成される。このように、ECRプラズマ生成装置4によると、生成するマイクロ波プラズマに沿ってマイクロ波を入射させると共に、ECRを利用してプラズマ密度を大きくすることにより、0.2Pa程度の低圧下においても、ECRプラズマP1を生成することができる。
【0048】
また、導波管41は、左右方向に延びる長尺の箱状を呈している。スロット420は、左右方向に直列に配置されている。したがって、ECRプラズマ生成装置4によると、長尺状のECRプラズマP1を生成することができる。
【0049】
また、八つの永久磁石45は、支持板44の後面に配置されている。支持板44の内部には、冷媒通路440が形成されている。冷却液が冷媒通路440を通って循環することにより、支持板44は冷却されている。このため、永久磁石45の温度が上昇しにくい。したがって、温度上昇により、永久磁石45の磁性が失われるおそれは小さい。よって、プラズマ生成時においても、安定した磁場が形成される。
【0050】
本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1によると、マグネトロンプラズマP2によるスパッタ成膜を、ECRプラズマP1を照射しながら行うことができる。ECRプラズマP1を照射することにより、印加電圧を下げても、マグネトロンプラズマP2を安定に維持することができる。これにより、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子のターゲット30からの飛び出しを、抑制することができる。その結果、スパッタ粒子の粒子径のばらつきが抑制され、形成される薄膜の表面の凹凸を、小さくすることができる。また、ECRプラズマP1を照射すると、スパッタ粒子が微細化される。このため、よりきめ細やかな薄膜を形成することができる。
【0051】
また、ECRプラズマ生成装置4は、長尺状のECRプラズマP1を生成することができる。このため、マグネトロンスパッタ成膜装置1によると、長尺状の大面積の薄膜を形成することができる。
【0052】
また、真空容器8内を0.2Pa程度の高真空状態にすることにより、マグネトロンプラズマP2が安定すると共に、不純物の侵入を抑制し、ターゲット粒子の平均自由行程を長くすることができる。これにより、形成される薄膜の膜質が向上する。
【0053】
また、ECRプラズマ生成装置4によると、低圧下においても、ECRプラズマP1を安定に生成することができる。このため、真空容器8内の圧力を0.2Paにした状態で、ECRプラズマP1の生成およびマグネトロンスパッタによる成膜を行うことができる。つまり、最初に10〜100Pa程度の圧力下でマイクロ波プラズマを発生させ、安定化させた後、圧力を所定の値まで低下させて、マグネトロンスパッタを行う必要がない。したがって、真空容器8内の圧力の操作が簡略化できる。
【0054】
また、ECRプラズマ生成装置4において、八つの永久磁石45は、誘電体部43の後方に配置されている。そして、誘電体部43の前方に形成された磁場中に、マイクロ波を伝播させる。このため、マイクロ波が、プラズマ生成領域の全体に均一に伝播しやすい。また、基材20の裏側(テーブル部210の上面)に永久磁石45を配置した場合と比較して、形成される薄膜の厚さのばらつきが小さい。また、薄膜の着色も抑制される。
【0055】
<その他>
以上、本発明のECRプラズマ生成装置、およびマグネトロンスパッタ成膜装置の一実施形態について説明した。しかしながら、ECRプラズマ生成装置、およびマグネトロンスパッタ成膜装置の実施の形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態では、ターゲットとしてITOを使用した。しかし、ターゲットの材料は、特に限定されるものではなく、形成する薄膜の種類に応じて適宜決定すればよい。同様に、薄膜が形成される基材についても、用途に応じて、適宜選択すればよい。上記実施形態のPETフィルムの他、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリアミド(PA)6フィルム、PA11フィルム、PA12フィルム、PA46フィルム、ポリアミドMXD6フィルム、PA9Tフィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、フッ素樹脂フィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー等のポリオレフィンフィルム等を使用することができる。
【0057】
スロットアンテナの材質、スロットの数、形状、配置等は、特に限定されない。例えば、スロットアンテナの材質は、非磁性の金属であればよく、アルミニウムの他、ステンレス鋼や真鍮等でも構わない。また、スロットは、一列ではなく、二列以上に配置されていてもよい。スロットの数は、奇数個でも偶数個でもよい。また、スロットの配置角度を変えて、ジグザグ状に配置してもよい。誘電体部の材質、形状についても、特に限定されない。誘電体部の材質としては、誘電率が低く、マイクロ波を吸収しにくい材料が望ましい。例えば、石英の他、酸化アルミニウム(アルミナ)等が好適である。
【0058】
支持板の材質や形状は、特に限定されない。上記実施形態では、支持板の冷却手段として、冷媒通路および冷却液を配置した。しかし、支持板の冷却手段の構成は、特に限定されない。また、支持板は、冷却手段を有していなくてもよい。
【0059】
誘電体の前方(プラズマ生成領域)に磁場を形成する永久磁石は、ECRを発生させることができれば、その形状、種類、個数、配置形態等は特に限定されない。例えば、永久磁石を一つだけ配置してもよく、複数個を二列以上に配置してもよい。
【0060】
また、これとは別の永久磁石を、プラズマ生成領域を挟んでプラズマ生成部に対向するように、配置してもよい。具体的には、前出図2における真空容器8の前壁に、八つの永久磁石45と向かい合うように、永久磁石を配置すればよい。この際、追加する永久磁石は、前側がN極、後側がS極になるように配置される。こうすることにより、八つの永久磁石45のN極と、追加する永久磁石のS極と、が対向する。したがって、より指向性を有するECRプラズマP1を生成することができる。また、追加される永久磁石についても、温度上昇を抑制するため、冷却手段を備えることが望ましい。この場合、例えば、冷媒通路および冷却液を有する上記実施形態の支持板を、永久磁石の後側(プラズマ生成領域側)に配置すればよい。
【0061】
上記実施形態では、周波数2.45GHzのマイクロ波を使用した。しかし、マイクロ波の周波数は、2.45GHz帯に限定されるものではなく、300MHz〜100GHzの周波数帯であれば、いずれの周波数帯を用いてもよい。この範囲の周波数帯としては、例えば、8.35GHz、1.98GHz、915MHz等が挙げられる。
【0062】
真空容器、基材支持部材、バッキングプレート、およびカソードの材質や形状についても、特に限定されない。例えば、真空容器は金属製であればよく、なかでも導電性の高い材料を採用することが望ましい。基材支持部材のテーブル部は、冷却されなくてもよい。バッキングプレートには、非磁性の導電性材料を用いればよい。なかでも、導電性および熱伝導性が高い銅等の金属材料が望ましい。カソードには、ステンレス鋼の他、アルミニウム等の金属を用いることができる。また、ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段の構成も、上記実施形態に限定されない。磁場形成手段として永久磁石を用いる場合、永久磁石の種類や配置形態については、適宜決定すればよい。例えば、各々の永久磁石のN極とS極とが、上記実施形態と逆でもよい。
【0063】
上記実施形態では、0.2Paの圧力下で成膜を行った。しかし、成膜処理の圧力は、当該圧力に限定されない。成膜処理は、適宜最適な圧力下で行えばよい。例えば、0.05Pa以上3Pa以下が好適である。また、供給するガスとしては、アルゴンの他、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の希ガス、窒素(N)、酸素(O)、水素(H)等を使用してもよい。なお、二種類以上のガスを混合して使用してもよい。
【実施例】
【0064】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0065】
<低圧下におけるECRプラズマ生成>
[実施例]
上記実施形態のECRプラズマ生成装置4の低圧下でのECRプラズマ生成について検討した。以下の処理における部材の符号は、前出図1〜図3に対応している。
【0066】
まず、真空排気装置(図略)を作動させて、真空容器8の内部のガスを排気孔82から排出し、真空容器8の内部圧力を8×10−3Paとした。次に、アルゴンガスを真空容器8内へ供給し、真空容器8の内部圧力を100Paとした。続いて、マイクロ波電源52をオンにして、発振された出力1.4kWのマイクロ波により、ECRプラズマP1を生成した。その後、アルゴンガスの流量を絞り、真空容器8の内部圧力を13Pa→5Pa→1Pa→0.7Pa→0.5Pa→0.3Pa→0.1Paとし、各々の圧力下においてECRプラズマP1の生成状態を目視確認した。その結果、いずれの圧力下においても、安定してECRプラズマP1が生成した。なお、その時にマイクロ波発振器53方向に戻るマイクロ波の反射は、いずれも0.1kW以下であった。
【0067】
[比較例]
ECRプラズマ生成装置4のプラズマ生成部40を、従来のプラズマ生成部9(前出図4参照)に変更し、上記実施例と同様に、低圧下でのマイクロ波プラズマ生成について検討した。その結果、真空容器8の内部圧力が4Paで、生成したマイクロ波プラズマPが不安定となり、点滅をはじめた。その際、マイクロ波発振器53方向に戻るマイクロ波の反射は、0.5kW以上となった。また、真空容器8の内部圧力が2Paになると、プラズマ生成を持続することができず、マイクロ波プラズマPが消失した。無論、1Pa以下では、マイクロ波プラズマPを生成することができなかった。
【0068】
<マグネトロンスパッタ成膜装置による薄膜形成>
[実施例1]
上記実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1により、PETフィルムの表面にITO膜を形成した。以下の成膜処理における部材の符号は、前出図1〜図3に対応している。まず、真空排気装置(図略)を作動させて、真空容器8の内部のガスを排気孔82から排出し、真空容器8の内部圧力を8×10−3Paとした。次に、アルゴンガスを真空容器8内へ供給し、真空容器8の内部圧力を0.2Paとした。続いて、マイクロ波電源52をオンにして、発振された出力1.4kWのマイクロ波により、ECRプラズマP1を生成した。その後、さらに、酸素ガスを真空容器8内へ微量供給すると共に、アルゴンガスの流量を調整して、真空容器8の内部圧力を、同じく0.2Paとした。この際、ECRプラズマP1は安定して生成しており、マイクロ波の反射も0.1kW以下であった。
【0069】
その状態で、直流パルス電源35(日本MKS(株)製RPG−100、Pulsed DC Plasma Generator)を、出力1500W、周波数100kHz、パルス幅3056nsの設定条件にてオンにして、カソード33に電圧を印加して、マグネトロンプラズマP2を生成した。そして、マグネトロンプラズマP2により、ターゲット30をスパッタすると共に、ECRプラズマP1を照射して、基材20(PETフィルム)の表面にITO膜を形成した。成膜時の電圧は、270Vとなり(電圧は、直流パルス電源35により自動的に制御されている)、下記比較例1と比較して、印加電圧を約10%低減することができた。
【0070】
[比較例1]
上記実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1において、ECRプラズマ生成装置4のプラズマ生成部40を、従来のプラズマ生成部9(前出図4参照)に変更し、上記実施例1と同様の条件でマイクロ波プラズマの生成を試みた。しかし、低圧下におけるマイクロ波プラズマ生成の検討時と同様に、真空容器8の内部圧力が0.2Paでは、プラズマが消失してしまった。
【0071】
このため、ECRプラズマ生成装置4を作動せずに(ECRプラズマP1を生成せずに)、上記実施例1と同様の条件にてマグネトロンプラズマP2を生成した。そして、マグネトロンプラズマP2により、ターゲット30をスパッタし、基材20(PETフィルム)の表面にITO膜を形成した。成膜時の電圧は、300Vであった(電圧は、直流パルス電源35により自動的に制御されている)。
【0072】
[実施例2]
ECRプラズマP1を生成する際の真空容器8の内部圧力を、0.1Paに低下した以外は、上記実施例1と同様にして、PETフィルムの表面にITO膜を形成した。すなわち、まず、真空容器8の内部のガスを排気孔82から排出し、真空容器8の内部圧力を8×10−3Paとした。次に、アルゴンガスを真空容器8内へ供給し、真空容器8の内部圧力を0.1Paとした。続いて、マイクロ波電源52をオンにして、発振された出力1.4kWのマイクロ波により、ECRプラズマP1を生成した。その後、さらに、酸素ガスを真空容器8内へ微量供給すると共に、アルゴンガスの流量を調整して、真空容器8の内部圧力を、同じく0.1Paとした。この際、ECRプラズマP1は安定して生成しており、マイクロ波の反射も0.1kW以下であった。
【0073】
その状態で、直流パルス電源35をオンにして、カソード33に電圧を印加して、マグネトロンプラズマP2を生成した。そして、マグネトロンプラズマP2により、ターゲット30をスパッタすると共に、ECRプラズマP1を照射して、基材20(PETフィルム)の表面にITO膜を形成した。成膜時の電圧は、290Vとなり、下記比較例2のように、マグネトロンプラズマP2が消失することはなかった。
【0074】
[比較例2]
上記実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1において、ECRプラズマ生成装置4のプラズマ生成部40を、従来のプラズマ生成部9(前出図4参照)に変更し、上記実施例2と同様の条件でマイクロ波プラズマの生成を試みた。しかし、上記比較例1と同様に、真空容器8の内部圧力が0.1Paでは、プラズマが消失してしまった。
【0075】
このため、ECRプラズマ生成装置4を作動せずに(ECRプラズマP1を生成せずに)、上記実施例2と同様の条件にてマグネトロンプラズマP2の生成を試みた。しかし、マグネトロンプラズマを生成することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のECRプラズマ生成装置、およびそれを用いたマグネトロンスパッタ成膜装置は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ、LED(発光ダイオード)照明、太陽電池、電子ペーパー等に用いられる透明導電膜等の形成に有用である。
【符号の説明】
【0077】
1:マグネトロンスパッタ成膜装置
20:基材 21:基材支持部材 210:テーブル部 211:脚部
30:ターゲット 31:バッキングプレート
32a〜32c:永久磁石(磁場形成手段) 33:カソード 34:アースシールド
35:直流パルス電源
4:ECRプラズマ生成装置 40:プラズマ生成部 41:導波管(矩形導波管)
42:スロットアンテナ 43:誘電体部 44:支持板 45:永久磁石
420:スロット 430:前面 440:冷媒通路(冷却手段) 441:冷却管
50:マイクロ波伝送部 51:管体部 52:マイクロ波電源
53:マイクロ波発振器 54:アイソレータ 55:パワーモニタ 56:EH整合器
8:真空容器 80:ガス供給孔 82:排気孔
M:磁力線 P1:ECRプラズマ P2:マグネトロンプラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内にマイクロ波を用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマを生成するECRプラズマ生成装置であって、
マイクロ波を伝送する矩形導波管と、
該矩形導波管の一面に配置され、該マイクロ波が通過するスロットを有するスロットアンテナと、
該スロットアンテナの該スロットを覆うように配置され、プラズマ生成領域側の表面は該スロットから入射する該マイクロ波の入射方向に平行である誘電体部と、
該誘電体部の裏面に配置され該誘電体部を支持する支持板と、
該支持板の裏面に配置され該プラズマ生成領域に磁場を形成する永久磁石と、
を備え、
該誘電体部から該磁場中に伝播する該マイクロ波によりECRを発生させながらプラズマを生成することを特徴とするECRプラズマ生成装置。
【請求項2】
前記支持板は、前記永久磁石の温度上昇を抑制するための冷却手段を有する請求項1に記載のECRプラズマ生成装置。
【請求項3】
0.05Pa以上100Pa以下の圧力下で前記プラズマを生成可能な請求項1または請求項2に記載のECRプラズマ生成装置。
【請求項4】
基材と、ターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を備え、マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を該基材の表面に付着させて薄膜を形成するマグネトロンスパッタ成膜装置であって、
さらに、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のECRプラズマ生成装置を備え、
該ECRプラズマ生成装置は、該基材と該ターゲットとの間にECRプラズマを照射することを特徴とするマグネトロンスパッタ成膜装置。
【請求項5】
前記薄膜の形成は、0.05Pa以上3Pa以下の圧力下で行われる請求項4に記載のマグネトロンスパッタ成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108115(P2013−108115A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252383(P2011−252383)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】