説明

Enigma―Mdm2相互作用及びその用途

【課題】Enigma(PDLIM7)−Mdm2相互作用及びその使用。
【解決手段】本発明は、癌細胞でEnigmaの発現または活性抑制が、Mdm2の不安定化とp53の活性化を誘導することにより、効果的な癌細胞死滅を誘導することができ、SRFによって誘導されるEnigmaが、Mdm2と共に癌組織で過発現されることを測定することによって、抗癌剤治療の予後を評価することができ、EnigmaとMdm2間の特異的相互結合を阻害する因子を選別することによって抗癌活性物質をスクリーニングすることができる。本発明のEnigma−Mdm2相互作用及びEnigmaの発現調節は、癌予防及び治療方法、及び抗癌剤開発に有用に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Enigma(PDLIM7)−Mdm2相互作用及びその用途に関するもので、より詳細には、EnigmaとMdm2間の相互作用及びEnigma発現調節を用いた癌治療方法及び抗癌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
p53は、細胞の増殖の停止及び死滅を調節する遺伝子を調節する因子であり、非正常的な細胞を除去することによって正常細胞が癌細胞になることを防いでくれる重要な因子として知られている(非特許文献1)。p53活性は、正常細胞の生存のために非常に厳格に調節されていて、前記調節を主に担当するのは、Hdm2/Mdm2(human/mouse double minute2;以下Mdm2とする)である。前記Mdm2は、p53をユビキチン化させて分解するE3ユビキチンリガーゼとしてp53の細胞内濃度を調節する(非特許文献2、3、4)。また、Mdm2は、p53の転写調節を受けて発現が調節される自己調節ループを形成する(非特許文献5)。また、前記Mdm2は、p53以外にMdm2自体をユビキチン化させて分解する(非特許文献6、7)。
【0003】
Mdm2は、p53を不活性化させたり独自的に発癌性遺伝子を作動させたりし、実際にヒトの色々な癌組織に過発現されている(非特許文献8)。野生型のp53を有している癌細胞でのMdm2機能の制御は、癌細胞の死滅を誘導することができるので、Mdm2は、抗癌剤開発の有用な標的になっている(非特許文献9)。しかし、Mdm2の機能制御によるp53安定化による細胞死滅は、癌細胞だけではなく正常細胞でも起きて深刻な副作用をもたらし得るため、癌細胞において、より選択的にMdm2を調節することができる経路の解明が切実に求められている。
【0004】
PDLIM7タンパク質Enigmaは、PDZ及びLIMドメインを有している(非特許文献10)。前記EnigmaのLIMドメインは、三つのZincフィンガーで構成され、タンパク質キナーゼまたはインスリン信号伝達の連結因子等と結合する(非特許文献11、12、13)。また、Enigmaは、甲状腺癌誘発因子であるRet/ptc2と結合して活性化させる(非特許文献14)。しかし、Enigmaの細胞内機能は、明確には解明されていない。
【0005】
Mdm2を安定化させてp53の活性を弱化させられることが知られた因子として、YY1、Gankyrin、Daxxなどがある。前記YY1は、Mdm2とp53に結合してp53の分解を促進させ、GankyrinはMdm2の酵素活性を促進させてp53の分解を促進させる(非特許文献15、16)。前記Daxxは、Mdm2と結合してMdm2を安定化させてp53を抑制するが、Mdm2の自己ユビキチン化活性には影響を与えない(非特許文献17)。細胞が増殖する場合、Mdm2の発現が増加するが(非特許文献18)、その機序に対する意見は明確ではない。
【0006】
それで、本発明者等は、Enigmaの機能を調査した結果、EnigmaがMdm2依存的にp53と結合してMdm2の自己ユビキチン化を特異的に阻害しながら、Mdm2依存的p53ユビキチン化を促進してp53分解を促進させるという点で、従来のMdm2−p53経路調節因子等と明確に差別化される新しいMdm2−p53調節機序を明らかにした。また、細胞が増殖する条件及びヒトの肝癌及び胃癌組織で、SRF−Enigma−Mdm2経路の存在がp53を弱化させられることを初めて明らかにした。同時に、細胞でのEnigmaの過発現は、細胞生存能の増加及び抗癌剤耐性を誘導することを明らかにした。したがって、癌細胞においてEnigmaの発現を抑制してp53を活性化させることができ、Enigma−Mdm2相互結合阻害因子を選別して抗癌剤をスクリーニングすることができ、抗癌剤治療時にEnigmaの発現程度を確認して抗癌効果確認に使用できることを明らかにして、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Michael and Oren,Cncer Biol.,2003年,第13巻,p.49−58
【非特許文献2】Haupt等,Nature,1997年,第387巻,p.296−299
【非特許文献3】Honda等,FEBS Lett.,1997年,第420巻,p.25−27
【非特許文献4】Kubbutat等,Nature、1997年,第387巻,p.299−302
【非特許文献5】Michael and Oren,Cncer Biol.,2003年,第13巻,p.49−58
【非特許文献6】Fang等,J.Biol.Chem.,2000年,第275巻,p.8945−8951
【非特許文献7】Honda and Yasuda,Oncogne,2000年,第19巻,p.4173−4176
【非特許文献8】Mol Cancer Res,2004年,第2巻,p.1−8
【非特許文献9】Int J Biochem Cell Biol,2007年,第39巻,p.1476−1482
【非特許文献10】Bach,Mech.Dev.,2000年,第91巻,p.5−17
【非特許文献11】Barres等,Mol.Endocrinol.,2006年,第20巻,p.2864−2875
【非特許文献12】Kuroda等,J.Biol.Chem.,1996年,第271巻,p.31029−31032
【非特許文献13】Wu等,J.Biol.Chem.,1996年,第271巻,p.15934−15941
【非特許文献14】Durick等,Mol.Cell.Biol.,1998年,第18巻,p.2298−2308
【非特許文献15】Sui等,Cell,2004年,第117巻,p.859−872
【非特許文献16】Higashitsuji等,Cancer cell,2005年,第8巻,p.75−87
【非特許文献17】Tang等,Nat.Cell.Biol.,2006年,第8巻,p.855−862
【非特許文献18】Feng等,J.Biol.Chem.,2004年,第279巻,p.35510−35517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、Enigmaの細胞内機能と癌発生及び癌細胞の生存との関連性を解明して、Enigmaの発現を阻害することによって癌細胞の死滅を誘導する方法及び製剤を提供して、EnigmaとMdm2間の相互結合またはEnigmaによるMdm2とp53の発現調節を用いて、抗癌剤候補物質をスクリーニングする方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌用組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌補助剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、薬学的に有効な量のEnigmaの発現または活性抑制剤を、癌にかかった個体に投与する工程を含む癌治療方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、薬学的に有効な量のEnigmaの発現または活性抑制剤を、個体に投与する工程を含む癌予防方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制を通じてMdm2の安定性を減少させて、p53の活性を増加させる方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、Enigmaに依存的なMdm2またはp53の発現水準を用いた抗癌剤候補物質のスクリーニング方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、EnigmaとMdm2間の相互結合水準を用いた抗癌剤候補物質のスクリーニング方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、癌細胞でのEnigma発現水準を用いた癌の診断、治療結果確認または予後を評価する方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を含む癌の診断、治療結果確認または予後評価用キットを提供する。
【0018】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を抗癌用組成物の製造に使用する用途を提供する。
【0019】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を抗癌補助剤の製造に使用する用途を提供する。
【0020】
同時に、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を癌の診断、治療結果確認または予後評価用キットの製造に使用する用途を提供する。
【0021】
本発明(1)は、Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌用組成物である。
本発明(2)は、前記Enigmaの発現抑制剤が、Enigma遺伝子のmRNAに相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド、短干渉RNA(short interfering RNA)、短ヘアピンRNA(short hairpin RNA)及びRNAiからなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする本発明(1)の抗癌用組成物である。
本発明(3)は、前記Enigmaの活性抑制剤が、Enigmaタンパク質に相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチドミメティクス及び抗体からなる群から選択されたいずれか一つであることを特徴とする本発明(1)の抗癌用組成物である。
本発明(4)は、前記短干渉RNAが、配列番号2あるいは3で表わされる塩基配列を有することを特徴とする本発明(2)の抗癌用組成物である。
本発明(5)は、前記癌が、胃癌、肝癌及び大腸癌からなる群から選択されたいずれか一つであることを特徴とする本発明(1)の抗癌用組成物である。
本発明(6)は、Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌補助剤である。
本発明(7)は、Enigmaの発現または活性抑制剤を癌にかかった個体に投与する工程を含む癌治療方法である。
本発明(8)は、Enigmaの発現または活性抑制を通じてHdm2/Mdm2(human/mouse double minute 2)の安定性を減少させる方法である。
本発明(9)は、Enigmaの発現または活性抑制を通じてp53の活性を増加させる方法である。
本発明(10)は、
1)候補物質が存在するまたは存在しない条件下でEnigma及びMdm2を接触させる工程、
2)Enigma及びMdm2の結合水準を測定する工程、及び
3)候補物質が存在しない時と比較してEnigma及びMdm2の結合水準を減少させた候補物質を選別する工程を含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法である。
本発明(11)は、
1)Enigma及びMdm2を発現する細胞と候補物質を接触させる工程と、
2)細胞内Enigma及びMdm2の結合水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較して細胞内Enigma及びMdm2の結合水準を減少させた候補物質を選別する工程とを含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法である。
本発明(12)は、
1)Enigma及びMdm2を発現する細胞に候補物質を処理する工程と、
2)EnigmaまたはMdm2の発現水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較してEnigmaまたはMdm2の発現水準を減少させた候補物質を選別する工程とを含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法である。
本発明(13)は、
1)Enigma、Mdm2及びp53を発現する細胞に候補物質を処理する工程と、
2)p53の発現水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較してp53の発現水準を増加させた候補物質を選別する工程とを含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法である。
本発明(14)は、Enigmaと反応する抗体またはEnigma遺伝子に相補的な核酸のうちのいずれか一つ以上を用いて、癌細胞でのEnigma発現水準を測定する工程を含む、癌の診断、治療結果確認または予後を評価する方法である。
本発明(15)は、Enigmaと反応する抗体またはEnigma遺伝子に相補的な核酸のうちのいずれか一つ以上を含む癌診断用キットである。
【発明の効果】
【0022】
上述のように、癌細胞でのEnigmaの過発現は、Mdm2の安定化とp53の減少を招来し、これは、Mdm2の自己ユビキチン化の抑制とp53ユビキチン化増加によるものであることを確認した。したがって、Enigmaの発現を抑制することで、癌細胞を効果的に死滅させることができ、癌患者のEnigmaの発現を測定することで、抗癌治療時の予後を評価することができ、EnigmaとMdm2間に特異的相互結合を確認し、それを抑制する物質を選別することで、Mdm2の安定化を弱化してp53の活性を増加させて抗癌活性を示すことができる物質をスクリーニングできることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】si−Enigmaを含むベクターを示す模式図である。
【図2】F−Enigmaを発現するアデノウイルスを製作する方法を示す模式図である。
【図3】si−Enigmaを含むアデノウイルスを製作する方法を示す模式図である。
【図4】aは、Enigmaが過発現になった時、Mdm2が安定化してp53が分解されることが、ユビキチンプロテオゾーム分解経路であることを示すウエスタンブロット写真である。bは、Enigmaによるp53タンパク質の減少が、p53の活性の減少で示されるということをレポーター分析方法で確認した図である。cは、Enigma過発現時にMdm2、p53、p21のmRNA水準の変化をノーザンブロットで確認した写真である。d及びeは、EnigmaによるMdm2の調節は、p53に非依存的で、Enigmaによるp53と下位p21の調節は、Mdm2に依存的であることを示すウエスタンブロット写真である。
【図5】a及びbは、細胞内でEnigmaとMdm2間の結合がp53に非依存的で、Enimga−p53結合は、Mdm2依存的に起きることを示すウエスタンブロット写真である。cは、試験管でEnigmaとMdm2間の結合がp53に非依存的で、Enimga−p53結合はMdm2依存的に起きることを示すウエスタンブロット写真である。dは、Enigmaが結合するMdm2の部位が400−491であることを示した模式図とウエスタンブロット写真である。e及びfは、Mdm2が結合するEnigmaの部位が、LIM3であることを示した模式図とウエスタンブロット写真である。gは、Enigma−Mdm2−p53間の相互結合を示した模式図である。
【図6】aは、ENH(Enigma homolog)がMdm2と結合しないことを示すウエスタンブロット写真である。bは、ENHはMdm2−p53の細胞内濃度に影響を与えないことを示すウエスタンブロット写真である。
【図7】a及びbは、細胞内でEnigmaが過発現されると、Mdm2の自己ユビキチン化が阻害されながらp53のユビキチン化が増加し、Enigmaの発現を抑制した時、現象が逆転することを示すウエスタンブロット写真である。cは、EnigmaのLIM3ドメインがMdm2と結合してMdm2の自己ユビキチン化を抑制することを示すウエスタンブロット写真である。dは、EnigmaによってMdm2がp53をユビキチン化することが増加されることを示したウエスタン写真である。
【図8】EnigmaがPCAFによるMdm2ユビキチン化には影響を与えないとことをインビトロ及び細胞内で検証した図である。
【図9】aは、Enigmaのプロモーター部位のSRE存在とSRE除去突然変異体を示した模式図である。bは、Enigmaのプロモーターが血清によって活性化することをレポーター分析で示した図である。c及びdは、EnigmaのプロモーターでSRE部位が血清、FGF、及びHGFによる活性化に重要部位であることを示した図である。e及びfは、EnigmaプロモーターのSRE部位にSRFが特異的に結合することを示したEMSAとChIP分析結果である。
【図10】a及びbは、血清によってSRFとEnigmaの転写活性化が誘導されてタンパク質水準が増加し、それによってMdm2のタンパク質量が増加してp53が抑制されることを示すウエスタンブロット写真とRT−PCR写真である。c及びdは、HGFによって誘導されるMdm2の安定化が、SRFとEnigmaに依存的であることを示すウエスタンブロット写真である。eは、HGFによるSRF−Enigma−Mdm2経路の活性化が、MAPキナーゼに依存的であることを暗示すウエスタンブロット写真である。fないしhは、HGFによるSRF−Enigma−Mdm2経路の活性化が、実際マウスの肝にも存在することを示したウエスタンブロットとRT−PCR写真である。
【図11】a及びbは、血清が制限される条件で、SRF−Enigma−Mdm2経路の抑制を示したウエスタンブロットとRT−PCR写真である。
【図12】aとbは、ヒトの正常繊維細胞でもSRF−Enigma−Mdm2経路が存在し、MAPキナーゼに依存的な事実を示したウエスタンブロットとRT−PCR写真である。cとdは、マウス胎児の正常繊維細胞でもSRF−Enigma−Mdm2経路が存在し、MAPキナーゼに依存的な事実を示したウエスタンブロットとRT−PCR写真である。
【図13】aは、ヒトの肝癌組織と胃癌組織でSRF−Enigma−Mdm2が過発現されていて、p53は発現されていないことを示すウエスタンブロット写真である。bは、ヒトの胃癌、大腸癌組織でEnigma−Mdm2がともに過発現していることを示す蛍光抗体染色写真である。
【図14】a及びbは、Enigmaがアドリアマイシン(adriamycin;ADR)による細胞殺傷力をp53依存的に弱化させて、Enigmaが細胞生存能を増加させることを示した細胞計数法とクリスタルバイオレット染色写真である。cは、ADR処理時にEnigmaの発現量によるMdm2−p53の発現変化を示すウエスタンブロット写真である。dは、ADR処理時にEnigmaが細胞死滅をp53依存的に調節することを示したTUNEL検証及び細胞周期分析写真である。
【図15】a及びbは、p53が発現されない細胞株の増殖にEnigmaが及ぼす影響を示した図で、c及びdは、前記条件でMdm2−p53発現様相を調査したウエスタンブロット及びクリスタルバイオレット染色写真である。
【図16】a及びbは、HLK3肝癌細胞株でEnigmaによってアドリアマイシン(ADR)耐性が誘発されて、Enigmaの発現を抑制すると癌細胞の抗癌剤感受性が高くなることを示した細胞計数法とウエスタンブロット写真である。c及びdは、ADRの外にエトポシド(Etoposide)またはnutlin3aのようなp53を活性化させる抗癌剤処理時にも、EnigmaはMdm2−p53を調節して細胞の自殺を妨害することを示す細胞計数法とウエスタンブロット写真である。e及びfは、実際マウス腫瘍モデルで、Enigmaが過発現されるとADRに対して抵抗性が生じて、Enigmaの発現が抑制されると腫瘍の成長が効果的に抑制されることを示したグラフと腫瘍塊の写真である。gは、マウス腫瘍塊内のEnigma−Mdm2−p53の発現変化を示すウエスタンブロット写真である。
【図17】aは、図16のaの条件でHLK細胞をクリスタルバイオレットで染色した写真であり、bは、図16のaの条件でHLK細胞の周期を分析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明で使用する用語を定義する。
【0025】
本発明で使用する用語「予防」は、本発明の組成物の投与で癌の成長または転移を抑制するすべての行為を意味する。
【0026】
本発明で使用する用語「治療」は、本発明の組成物の投与で癌の症状が好転または有利に変化するすべての行為を意味する。
【0027】
本発明で使用する用語「投与」は、任意の適切な方法で個体に所定の本発明の組成物を提供することを意味する。
【0028】
本発明で使用する用語「個体」は、本発明の組成物を投与して癌の症状が好転し得る疾患を有したヒト、サル、イヌ、ヤギ、ブタまたはネズミなどすべての動物を意味する。
【0029】
本発明で使用する用語「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受恵または危険の割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、これは個体の癌の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出割合、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野でよく知られた要素によって決定され得る。
【0030】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、Enigmaの発現または活性抑制を通じてMdm2の安定性を減少させて、p53の活性を増加させる方法を提供する。
【0031】
本発明者等は、Enigmaの発現に依存的にMdm2の安定性が調節されることを確認し(図4のa、d及びe参照)、Mdm2はp53を基質とするE3リガーゼなので、Mdm2の安定化がp53のユビキチンプロテオゾーム分解を促進してp53の細胞内機能を抑制することを確認し(図4のaないしe参照)、EnigmaによってMdm2の自己ユビキチン化が抑制されてp53のユビキチン化が増加することを確認した(図7のaないしd参照)。
【0032】
また、本発明者等は、EnigmaによるMdm2−p53の発現調節が細胞の成長に及ぼす影響を調べるため、成長促進因子による細胞増殖誘導条件でEnigmaの機能を確認した結果、EnigmaはSRFによってその発現が促進され、Mdm2を安定化させてp53を抑制することによって細胞増殖を助ける役割をしていることが示された(図9のaないしf参照、及び図10のaないしe参照)。
【0033】
本発明のEnigmaの発現または活性抑制は、Enigma遺伝子の転写を抑制する物質、転写されたEnigmamRNAの翻訳を抑制する物質、またはEnigmaタンパク質の機能を抑制する物質からなる群から選択されるものを使用することが好ましいが、これに限定されない。
【0034】
前記転写抑制する物質には、Enigma遺伝子の転写を調節することが知られているプロモーター、エンハンサー(enhancer)、プロモーターに結合される転写調節因子に結合するタンパク質または化合物を使用することが好ましいが、これに限定されない。
【0035】
前記mRNAの翻訳を抑制する物質には、低分子化合物、アンチセンス核酸配列の製造やRNAiテクニックを用いたRNA、siRNAまたはshRNAなどを使用することが好ましいが、これに限定されない。
【0036】
これを具体的に詳しく見ると下記のようになる。
1)RNAi
RNA干渉(RNAi)は、Enigma遺伝子に対応する二本鎖RNA(dsRNA)を細胞または有機体に導入することにより、対応するmRNAの分解が起きる転写後遺伝子サイレンシングメカニズム(post−transcriptional gene silencing mechanism)である。前記RNAi効果によって遺伝子発現が復帰される前に多重細胞分裂が持続するので、RNAiはRNAレベルで目標とするノックアウト(knockout)または「ノックダウン(knockdown)」を作る非常に強力な方法である。RNAiは、ヒトの胚芽腎臓(embryonic kidney)及びHeLa細胞を含むヒト細胞において成功的であることが確認された(Elbashir等,Nature,2001年,第411巻,p.494−498)。
【0037】
遺伝子サイレンシングでのRNAi技術は、標準分子生物学方法を用いる。不活性化させる標的遺伝子の配列に対応するdsRNAは、標準方法、例えば、T7 RNA重合酵素を用いた鋳型DNAの両鎖同時転写によって生成することができる。 RNAiに使われるdsRNAの生成キットは、商業的に販売されている製品(例えば、New England Biolabs,Inc.社の製品)を使用することができる。dsRNAまたはdsRNAを製造するように処理されたプラスミドのトランスフェクション方法は、従来公知の技術である。
【0038】
2)siRNA
siRNAは、特定mRNAの切断を通じてRNAi現象を誘導することができる短い二重鎖RNAを意味する。
【0039】
siRNAは、RNA同士が対をなす二重鎖RNA部分が完全に対をなすことに限定されないで、ミスマッチ(対応する塩基が相補的ではない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などによって対をなさない部分が含まれ得る。対をなす塩基の長さは、Enigmaの活性及び発現を妨害できる、10ないし40塩基、好ましくは15ないし30塩基である。siRNA末端構造は、標的遺伝子の発現をRNAi効果よって抑制することができるものなら平滑末端または突出末端すべて可能である。粘着末端構造は、3’末端突出構造と5’末端の方が突出した構造すべて可能である。突出する塩基数は、限定されない。例えば、塩基数は1ないし8塩基、好ましくは2ないし6塩基であり得る。本明細書で、siRNAの長さは、ポリヌクレオチドが対を成す長さである。siRNAは、標的遺伝子の発現抑制効果を維持することができる範囲で例えば、一方の末端突出部分に低分子RNA(例えば、tRNA、rRNA、ウイルスRNAのような天然のRNA分子または人工のRNA分子)を含むことができる。siRNA末端構造は、両側すべてが切断構造を有する必要はなく、二重鎖RNAの一方の末端部位がリンカーRNAによって接続されたステムループ型構造であることも可能である。リンカーの長さは、ステム部分の対をなすのに支障ない長さなら特別に限定されない。
【0040】
siRNAを公知された遺伝子で設計して製造する方法に対する開示内容として、例えば、文献[Chalk AM,Wahlestedt C,Sonnhammer EL.Improved and automated prediction of effective siRNA Biochem.Biophys.Res.Commun.2004年6月18日,第319(1)巻,p.264−74;Sioud M,Leirdal M.,Potential design rules and enzymatic synthesis of siRNAs,Methods Mol Biol.2004年,第252巻,p.457−69]を参考にすることができる。また、変形されたより安定したsiRNAの製造のために例えば、文献[PCT公開公報第2004/015107号、米国特許第5,898,031号及び第6,107,094号]を参考にすることができる。
【0041】
細胞内でsiRNAを発生させることができるDNA−含有ベクターが開発されてきた。その方法は、一般的に細胞内でsiRNAを形成するように効率的にプロセッシングされた短いヘアピンRNAの転写を含む。これと関連して、文献[Paddison等,PNAS,2002年,第99巻,p.1443−1448;Paddison等,Genes & Dev,2002年,第16巻,p.948−958;Sui等.PNAS,2002年,第8巻,p.5515−5520;及びBrummelkamp等,Science,2002年,第296巻,p.550−553]を参考にすることができ、これらは、多数の内生的及び外生的に発現された遺伝子を特異的に標的にできるsiRNAを生成させる方法を記述している。
【0042】
siRNAの伝達に対しては、例えば、文献[Shen等,FEBS letters,2003年,第539巻,p.111−114;Xia等,Nature Biotechnology,2002年,第20巻,p.1006−1010;及びReigh等,Molecular Vision,2003年,第9巻,p.210−216]を参考にすることができる。siRNAが霊長類での抑制に成功的に使用され、追加的な詳細な説明に対しては、文献[Tolentino等,Retina,2004年2月,第24(1)巻,p.132−138]を参考にすることができる。
【0043】
siRNAの治療剤への使用に対しては、例えば、文献[韓国登録特許第10−0653738号、韓国登録特許第10−0749859号、韓国登録特許第10−0930282号、及び韓国登録特許第10−0810034号]を参考にすることができる。
【0044】
3)アンチセンス核酸配列
Enigmaをコードする核酸に対してアンチセンスである核酸分子を阻害剤に使用することができる。「アンチセンス」核酸は、Enigmaをコードする「センス」核酸に相補的な、例えば二本鎖cDNA分子のコード鎖に相補的またはmRNA配列に相補的な核酸配列を含む。したがって、アンチセンス核酸は、センス核酸と水素結合を形成することができる。前記アンチセンス核酸は、全体Enigmaコード鎖または単にそれらの一部(例:コード領域)に相補的なことがある。前記アンチセンス核酸分子は、Enigma mRNAの全体コード領域に相補的なことがあり、Enigma mRNAのコードまたは非コード領域の単に一部(例:翻訳開始部)にのみアンチセンスであるオリゴヌクレオチドがさらに好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば約5ないし50ヌクレオチドの長さであり得る。アンチセンス核酸は、公知の方法を用いた化合合成及び酵素結合反応を用いて構成することができる。化学合成法、例えば、文献[Tetrahedron Lett.1991年,第32巻,p.30005−30008]に記載されているように、アセトニトリル中でテトラエチルチウラムジスルファイドで硫化させるホスホアミダート化学のような方法によって非常に容易に製造することができる。前記アンチセンス核酸の生成に使用できる変形ヌクレオチドの例としては、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、5−カルボキシルメチルアミノメチル−2−チオウリジン、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルケオシン、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、2,6−ジアミノプリン、5−メチル−2−チオウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、シュードウラシル、ケオシン、2−チオシトシン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルケオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニル、5−メチル−2−チオウラシル、(acp3)w及びワイブトキソシンが挙げられる。必要によって、前記アンチセンス核酸は、発現ベクターを用いて生物学的に生成することができる。
【0045】
前記Enigmaタンパク質の機能を抑制する物質では、前記タンパク質に結合するペプチド、抗体、化合物またはペプチドミメティクスなどを使用することが好ましいが、これに限定されない。
【0046】
これを具体的に詳しく下記に示す。
1)ペプチドミメティクス(Peptide Mimetics)
Enigmaポリペプチドのタンパク質結合ドメインを抑制したミメティクス(例、ペプチドまたは非ペプチド性薬剤)を製作して、元来のEnigmaポリペプチドがMmd2に結合することを抑制することができる(欧州特許出願EP0412765及びEP0031080)。
【0047】
非加水分解性ペプチド類似体の主要残基としては、β−ターン・ジペプチドコア(Nagai等,Tetrahedron Lett,1985年,第26巻,p.647)、ケトメチレンシュードペプチド類(Ewenson等,J Med Chem,1986年,第29巻,p.295;及びEwenson等,in Peptides:Structure and Function(Proceedings of the 9th American Peptide Symposium)Pierce Chemical Co. Rockland,IL,1985年)、アゼピン(Huffman等,in Peptides:Chemistry and Biology,G.R.Marshall ed.,ESCOM Publisher:Leiden,Netherlands,1988年)、ベンゾジアゼピン(Freidinger等,in Peptides;Chemistry and Biology,G.R.Marshall ed.,ESCOM Publisher:Leiden,Netherlands,1988年)、β−アミノアルコール(Gordon等,Biochem Biophys Res Commun,1985年,第126巻,p.419)及び置換γ−ラクタム環(Garvey等,in Peptides:Chemistry and Biology,G.R.Marshell ed.,ESCOM Publisher:Leiden,Netherlands,1988年)を使用して生成することができる。
【0048】
本発明では、Enigmaの発現を抑制するために、Enigma−siRNA発現ベクター(siEnigma)を製造する方法を提供する。
【0049】
具体的に、韓国特許登録第877824号(米国特許出願12/093093(2008年5月8日)に提示された方法を基にしたEnigmaのmRNAに相補的な配列であり、好ましくは配列番号2あるいは3(5’−AAAGACCTTCTACTCCAAGAA−3’あるいは5’−AATGCCATGGCTGTGACTTCA−3’)で表わされ、H1プロモーターによって発現されるようにpSuperプラスミドベクターにクローニングして組換えベクターを製作した。また、細胞内で伝達及び発現を所望する遺伝子を提供するアデノウイルス製作用pShuttleベクターに前記製作されたpSuperプラスミドベクターを制限酵素で処理してH1プロモーター、Enigma−siRNA、転写終了配列である五つのT塩基(T)まで含むアデノウイルス製作用Enigma−siRNA発現ベクターを製作した。併せて、EnigmaのmRNAがCMVプロモーターによって発現されるように、pCMV−Taq2bベクターにクローニングした後、細胞内に伝達が容易になるようにアデノウイルスF−Enigmaを製作した(図1ないし図3、及び米国特許出願12/093093(2008年5月8日)参照;韓国特許登録第877824号)。
【0050】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌用組成物または抗癌補助剤を提供する。
【0051】
前記Enigmaの発現抑制剤は、Enigma遺伝子のmRNAに相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド、短干渉RNA(short interfering RNA)、短ヘアピンRNA(short hairpin RNA)及びRNAiからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0052】
前記Enigmaの活性抑制剤は、Enigmaタンパク質に相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチドミメティクス及び抗体からなる群から選択されたいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0053】
前記癌は、胃癌、肝癌及び大腸癌からなる群から選択されたいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0054】
本発明者等は、Enigma及びMdm2が各種癌組織で過発現されることを確認し(図13のa及びb参照)、癌細胞でのEnigmaの過発現が抗癌剤耐性を誘導することを確認し、Enigmaの発現を抑制するsiEnigmaを処理する場合、癌細胞の効果的な死滅を誘導することを確認した(図14のaないしd、図16のaないしg、及び図17参照)。したがって、Enigmaの発現または活性阻害剤は、癌細胞の効果的な死滅を誘導するので抗癌治療剤の有効成分として有用に使用することができ、抗癌剤耐性を抑制することから抗癌補助剤の有効成分として有用に使用することができる。
【0055】
本発明の抗癌用組成物または抗癌補助剤は、組成物総重量に対して前記有効成分を0.0001〜50重量%で含む。
【0056】
本発明の抗癌用組成物または抗癌補助剤は、前記有効成分に追加で同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含むことができる。
【0057】
本発明の抗癌用組成物または抗癌補助剤は、前記記載した有効成分以外に追加で薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含んで製造することができる。薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エチルアルコール、リポソーム及びこれら成分のうちの1成分以上を混合して使用することができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。また希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑剤を付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができ、標的器官に特異的に作用するように標的器官特異的抗体またはその他リガンドを前記担体と結合させて使用することができる。さらに、当該技術分野の適正な方法で、またはレミングトンの文献(Remington’s Pharmaceutical Science(最近版)、Mack Publishing Company,Easton PA)に開示されている方法を用いて、各疾患によってまたは成分によって好ましく製剤化することができる。
【0058】
また、本発明は、薬学的に有効な量のEnigmaの発現または活性抑制剤を癌にかかった個体に投与する工程を含む癌治療方法を提供する。
【0059】
前記Enigmaの発現抑制剤は、Enigma遺伝子のmRNAに相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド、短干渉RNA(short interfering RNA)、短ヘアピンRNA(short hairpin RNA)及びRNAiからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0060】
前記Enigmaの活性抑制剤は、Enigmaタンパク質に相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチドミメティクス及び抗体からなる群から選択されたいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0061】
前記癌は、胃癌、肝癌及び大腸癌からなる群から選択されたいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0062】
前記投与方法は、特別にこれに制限されるのではないが、目的とする方法によって非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)したり経口投与することができ、非経口投与が好ましく、静脈内注射による投与がさらに好ましいが、これに限定されない。
【0063】
前記投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度などによってその範囲が多様である。一日投与量は、化合物の場合、約0.1〜100mg/kgで、好ましくは0.5〜10mg/kgであり、一日一回〜数回に分けて投与することがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0064】
本発明者等は、Enigma及びMdm2が各種癌組織で過発現されることを確認し、癌細胞でのEnigmaの過発現が抗癌剤耐性を誘導することを確認し、Enigmaの発現を抑制するsiEnigmaを処理する場合、癌細胞の効果的な死滅を誘導することを確認することにより、前記Enigmaの発現または活性阻害剤が癌細胞の効果的な死滅を誘導するので、抗癌治療に使用できることが分かった。
【0065】
また、本発明は、Enigmaに依存的なMdm2またはp53の発現水準を用いた抗癌剤候補物質のスクリーニング方法を提供する。
【0066】
本発明では、Enigmaの発現に依存的にMdm2が安定化されて発現が増加し、前記Mdm2を媒介にp53の発現が減少するので、前記EnigmaまたはMdm2の発現を減少させたりp53の発現水準を増加させたりする物質を選別することで、抗癌活性を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0067】
具体的に、前記スクリーニング方法は、
1)Enigma及びMdm2を発現する細胞に候補物質を処理する工程と、
2)EnigmaまたはMdm2の発現水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較してEnigmaまたはMdm2の発現水準を減少させた候補物質を選別する工程とで遂行することが好ましいが、これに限定されない。
【0068】
また、前記スクリーニング方法は、
1)Enigma、Mdm2及びp53を発現する細胞に候補物質を処理する工程と、
2)p53の発現水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較してp53の発現水準を増加させた候補物質を選別する工程とで遂行することが好ましいが、これに限定されない。
【0069】
前記スクリーニング方法において、候補物質は、核酸、タンパク質、その他抽出物、化合物及び天然物からなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0070】
前記スクリーニング方法において、発現水準は、遺伝子の転写活性水準を測定するかまたは発現されたタンパク質量を測定することにより求められるが、これに限定されない。
【0071】
前記転写水準は、ルシフェラーゼ分析法を使用することが好ましく、タンパク質量はウエスタンブロット分析法を使用して測定することが好ましいが、これに限定されない。
【0072】
また、本発明は、EnigmaとMdm2間の相互結合水準を用いた抗癌用組成物スクリーニング方法を提供する。
【0073】
本発明者等は、EnigmaとMdm2が直接相互結合して、p53とはMdm2を通じて間接的に結合しているという事実を確認した(図5のaないしc参照)。また、EnigmaのLIM3部位が、Mdm2の401−491(RINGドメイン部位)に結合することを確認した(図5のdないしg参照)。したがって、EnigmaとMdm2間の相互結合を阻害する物質は、Mdm2の安定化を弱化させてp53を活性化させ、抗癌活性を有する物質になり得ることが分かった。
【0074】
前記スクリーニング方法は、
1)候補物質が存在するまたは存在しない条件下でEnigma及びMdm2を接触させる工程と、
2)Enigma及びMdm2の結合水準を測定する工程、及び
3)候補物質の不存在時と比較して、Enigma及びMdm2の結合水準を減少させた候補物質を選別する工程とで遂行することが好ましいが、これに限定されない。
【0075】
また、前記スクリーニング方法は、
1)Enigma及びMdm2を発現する細胞と候補物質を接触させる工程と、
2)細胞内Enigma及びMdm2の結合水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理していない対照群と比較して、細胞内Enigma及びMdm2の結合水準を減少させた候補物質を選別する工程とで遂行することが好ましいが、これに限定されない。
【0076】
前記スクリーニング方法において、候補物質は、核酸、タンパク質、その他抽出物、化合物及び天然物からなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0077】
前記スクリーニング方法において、結合は、免疫沈降法によって測定することができる。免疫沈降は、例えば、文献に記載された方法によって遂行することができる(Harlow and Lane,Antibodies,511−52,Cold Spring Harbor Laboratory publications,New York,1988年)。SDS−PAGEは、免疫沈降されたタンパク質の分析に一般的に使用され、結合されたタンパク質は適合した濃度のゲルを使用してタンパク質の分子量によって分析することができる。
【0078】
前記スクリーニング方法において、細胞を用いるツーハイブリッドシステム(two−hybrid system)を使用することができる(“MATCHMAKER Two−Hybrid system”、“MATCHMAKER Mammalian Two−Hybrid Assay Kit”、“MATCHMAKER one−Hybrid system”(Clontech);“HybriZAP Two−Hybrid Vector System”(Stratagene);参考文献Dalton and Treisman,Cell,1992年,第68巻,p.597−612;Fields and Sternglanz,Trends Genet,1994年,第10巻,p.286−92)。
【0079】
前記スクリーニング方法において、表面プラズモン共鳴現象を用いたバイオセンサーは、本発明で結合された物質を探知または定量するための手段に使用することができる。前記バイオセンサーを使用する時、前記結合による相互作用は、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイム観察することができる。
【0080】
また、本発明は、Enigmaと反応する抗体またはEnigma遺伝子に相補的な核酸のうちのいずれか一つ以上を使用して、癌細胞でのEnigma発現水準を測定する工程を含む、癌の診断、治療結果確認または予後を評価する方法を提供する。
【0081】
また、本発明は、Enigmaと反応する抗体またはEnigma遺伝子に相補的な核酸のうちのいずれか一つ以上を含む癌診断用キットを提供する。
【0082】
本発明者等は、癌細胞でEnigmaの過発現を確認した結果、SRF、Enigma及びMdm2がヒトの肝癌細胞と胃癌細胞で過発現されていることを確認し(図13のa及びb参照)、癌細胞でEnigmaの発現水準及びp53依存的に癌細胞の成長及び抗癌剤耐性が誘導されることを確認した(図14のaないしd、図16のaないしg及び図17参照)。したがって、Enigmaの発現水準を測定することで、抗癌治療時に薬物の癌細胞に対する死滅程度を確認することができ、抗癌治療の予後を評価する方法として使用できることが分かった。
【0083】
本発明の癌診断方法において、正常以上に上昇したEnigmaの発現検出は、患者が癌にかかったことを意味する。また、癌で治療を受けたことがある、または治療を受けている個体の診断試料でのEnigmaの正常な発現検出は、癌治療が成功的であることを意味し、前記診断試料から正常以上に上昇したEnigmaの検出は、治療を継続しなければならないということを意味する。同時に、癌にかかった個体の診断試料でのEnigmaの正常な発現検出は、予後が良好であるということを意味し、前記診断試料から正常以上に上昇したEnigmaの検出は、予後が良くないということを意味する。
【0084】
本発明の癌診断用キットは、Enigmaと反応する一つ以上の物質及び反応生成物検出用試薬とこれに対する指示事項(protocol)を付加的に含むことができる。例えば、Enigmaと反応する一つ以上の物質は、EnigmaのRNAまたはDNAに相補的なRNAまたはDNA、及びEnigmaタンパク質に結合する抗体であり得、反応生成物検出用試薬は核酸またはタンパク質標識及び発色試薬であり得る。
【0085】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を抗癌用組成物の製造に使用する用途を提供する。
【0086】
また、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を抗癌補助剤の製造に使用する用途を提供する。
【0087】
同時に、本発明は、Enigmaの発現または活性抑制剤を癌の診断、治療結果確認または予後評価用キットの製造に使用する用途を提供する。
【0088】
前記Enigmaの発現抑制剤は、Enigma遺伝子のmRNAに相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド、短干渉RNA(short interfering RNA)、短ヘアピンRNA(short hairpin RNA)及びRNAiからなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0089】
前記Enigmaの活性抑制剤は、Enigmaタンパク質に相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチドミメティクス及び抗体からなる群から選択されたいずれか一つであることが、好ましいがこれに限定されない。
【0090】
前記癌は、胃癌、肝癌及び大腸癌からなる群から選択されたいずれか一つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0091】
本発明者等は、Enigma及びMdm2が各種癌組織で過発現されることを確認し、癌細胞でのEnigmaの過発現が抗癌剤耐性を誘導することを確認し、Enigmaの発現を抑制するsiEnigmaを処理する場合、癌細胞の効果的な死滅を誘導することを確認することで、Enigmaの発現または活性阻害剤は癌細胞の効果的な死滅を誘導することから抗癌治療剤の有効成分として有用に使用することができ、抗癌剤耐性を抑制することから抗癌補助剤の有効成分として有用に使用できることが分かった。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
【0093】
但し、下記の実施例は、本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【0094】
<実施例1>EnigmaによるMdm2の安定化とそれによるp53の分解
本発明者等は、韓国生命工学研究院から提供を受けたEnigma cDNA(配列番号:1)を含むベクターを鋳型にして、一般的なPCR方法で得られた切片をpCMV taq2B(Stratagene,米国)にクローニングして、Enigmaを過発現するベクターを製作した。また、Enigmaの発現を特異的に阻害する5’−AAAGACCTTCTACTCCAAGAA−3’(配列番号:2)のヌクレオチド切片をpSuperプラスミドベクターにHind III/Bgl II部位にクローニングを行った(図2)。また、細胞内への導入を容易にするためにsiEnigmaを含むアデノウイルス(図3)と、Flag−Enigmaを含むアデノウイルス(図2)は、韓国特許登録第627377号(Hepatology,2006年,第43巻,p.1042−1052)及び第877824号(米国特許出願第12/093093号(2008年5月8日);Nat Med,2006年,第12巻,p.809−816)に提示された方法を基に下記のように製作した。
【0095】
アデノウイルス製作用pShuttle(BD Bioscience,米国)ベクターに前記で製作されたpSuper Enigma−siRNAプラスミドをXba I/Hind IIIで処理して、H1プロモーターおよびT転写終了配列を含むDNA切片をクローニングすることによって製作した(pShuttle/Enigma−siRNA)。F−Enigmaを発現するアデノウイルス製作のために、前記で製作されたpCMV taq2B−EnigmaからEnigma部位のみをNotI/XhoIで切断して、これをpCMV shuttleベクターにクローニングすることで製作した。アデノウイルス遺伝子を含んでいるpAdEasy−1とpShuttle/Enigma−siRNA及びpCMVshuttle−F−Enigma間の組換えは、大腸菌BJ5183菌株に同時に形質導入することで遂行された。大腸菌で相同組換えによって得られた組換えアデノウイルス由来物質含有プラスミドは、カナマイシン選択培地で育った大腸菌コロニーからDNAを分離して制限酵素分析を通じて確認した。
【0096】
組換えアデノウイルス由来物質含有プラスミドでアデノウイルス粒子製作は、下記のように遂行した。組換えアデノウイルス由来物質含有プラスミドをPac Iで切断して、アデノウイルスの複製原点である末端反復配列(TR)等が、両側の端に存在するように線形化して、60mm培養皿で70〜80%の密度に育ったHEK293細胞にカルシウムホスファート方法で導入した。組換えアデノウイルス由来物質含有プラスミドが導入されてアデノウイルス粒子が作られる細胞は、2〜3日後周囲の細胞より大きくなり、4〜5日後に全体細胞の約50%が集まったり培地の上に浮き上がったりし、これを培地とともに集めてウイルス粒子が含まれる一次細胞抽出液を確保した。細胞収集液を凍結解凍(freezing−thawing)方法を通じて細胞内のウイルス粒子まで培地に脱出するようにして、この上澄み液を再び100mm培養皿に60〜70%程度に準備された細胞に再感染させてウイルスの存在有無及び再感染の可能性を確認した。アデノウイルス感染後増殖によって細胞が死ぬようになれば、また集めて多量の293細胞株(ATCC)に再感染させることで、アデノウイルス粒子を増幅してプラーク形成法を用いてウイルス数を決定した。
【0097】
<1−1>EnigmaによるMdm2安定化検証
Enigmaによる26Sプロテオゾーム依存的タンパク質分解に及ぼす影響を次のような方法で確認した。Flag−Enigma発現ベクターを濃度別(+:2μg、++:5μg)でHLK3細胞株(全北医大、韓国)に導入して、12時間MG132(10μM)を処理したまたは処理していない細胞を集めてウエスタンブロット方法でタンパク質の発現様相を確認した。その結果、Mdm2の発現程度は、Enigmaの発現に依存的に高く、一方、p53及びその下位分子p21は減少した(図4のa)。
【0098】
<1−2>Enigmaによって調節されるp53の活性検証
Enigmaによるp53の減少がp53活性の減少と関連するかどうかを確認するために、p53によって調節される標的遺伝子のプロモーターの活性変化を調査した。p53RE−Luc、Bax−Luc、p21−Lucのレポーター遺伝子(0.5μg)をそれぞれFlag−Enigma(+:2μg、++:5μg)と濃度別にHLK3細胞株あるいはp53+/+またはp53−/−の大腸癌細胞株(HCT116、ATCC)に導入して、12時間MG132(10μM)を処理するかまたは処理せずに、細胞を集めてレポーター分析(Promega,米国)を実施した。その結果、p53によって調節される下位分子の転写活性は、Enigmaの発現に濃度依存的に阻害されることが示された(図4のb)。
【0099】
<1−3>Enigmaによる関連分子のmRNAの変化検証
EnigmaによるMdm2及びp53の発現変化が、mRNA水準で発生したのかどうか検証するためにノーザンブロットを実施した。Flag−Enigma発現ベクターを濃度別(+:2μg、++:5μg)でHLK3細胞株に導入して、48時間後、総RNAを分離(RNeasy kit,Qiagen)して、それぞれのプローブ(P1/P2Mdm2,p53,p21)でノーザンブロット方法を実施した。その結果、Enigmaの発現量と関係なくP1−Mdm2、p53、p21のmRNA量は一定であり、p53によって調節されるP2−Mdm2のmRNAの量は、Enigmaの発現に依存的に減少した(図4のc)。この結果は、EnigmaがMdm2−p53を転写後の工程で調節するということを提示している。
【0100】
<1−4>EnigmaによるMdm2依存的p53抑制
Enigmaによるp53及びp21の発現抑制が、Mdm2依存的なのかどうかを確認するために、Mdm2−/−p53−/−MEF及びMdm2+/+p53−/−MEF細胞株(G.Lozano,M.D.ANDERSON CANCER CENTER)を用いた。前記それぞれの細胞株に、p53を発現するアデノウイルスベクター(Ad−p53)を導入した16時間後、Ad−F−Enimga(50MOI)、Ad−Lacz(50MOI)、Ad−siEnigma(100MOI)、Ad−siControl(100MOI)を再び導入して32時間後に細胞を集めてウエスタンブロット方法でそれぞれのタンパク質の発現変化を確認した。その結果、Mdm2の発現に依存的にp53及びp21の発現が減少した(図4のd)。
【0101】
<1−5>Enigmaによるp53下位分子の抑制
Enigmaによるp21の発現抑制が、p53を経由したものかどうかをp53+/+、p53−/−細胞株を使用して確認した。p53+/+またはp53−/−細胞株に、Flag−Enigma、siEnigmaを導入して48時間後に細胞を集めてウエスタンブロット方法で確認した。その結果、p21の変化は、p53の変化に起因したものであることが示され、Enigmaによる直接的な影響はないことが示された(図4のe)。
【0102】
<実施例2>EnigmaとMdm2間の相互作用検証
本発明者等は、EnigmaとMdm2間の相互作用を検証するために、Enigmaの突然変異体(F−PDZ、F−PDZ−LIM1、F−EniΔLIM3、F−LIM)をpCMV taq2Bに一般的なPCRクローニング法で製作し、Mdm2の突然変異体(GST−1−100、GST−101−491、GST−201−491、GST−301−491)をpEBGにPCRクローニング法で製作した。インビトロで相互結合を確認するために、His−Mdm2、Enigma、GST−p53、EniΔLIM3タンパク質を大腸菌でそれぞれ分離精製した。
【0103】
<2−1>培養細胞でのEnigmaとMdm2間の結合における、p53の役割検証
p53+/+またはp53−/−の大腸癌細胞株(HCT116)とMdm2−/−p53−/−MEF及びMdm2+/+p53−/−MEF細胞株(G.Lozano,M.D.ANDERSON CANCER CENTER)で、EnigmaとMdm2−p53間の相互結合をIP法で確認した。その結果、EnigmaとMdm2間の相互作用は、p53と関係なく存在し、Mdm2とp53が一緒に存在する場合は、Enigma−Mdm2−p53の結合体を形成することが示された(図5のa及びb)。
【0104】
<2−2>インビトロでのEnigmaとMdm2の相互作用検証
大腸菌で分離精製したそれぞれのタンパク質(1μg His−Mdm2、0.5μg Enigma、1μg GST−p53)間の相互作用をインビトロで直接確認するためにインビトロ結合分析(in vitro binding assay)を実施した。それぞれのタンパク質を混ぜて結合を誘導した後、GST pull−down及びIP方法でタンパク質間の結合有無を確認した。その結果、Enigmaは、Mdm2と直接結合したが、p53とはMdm2を媒介して結合した(図5のc)。
【0105】
<2−3>EnigmaとMdm2間の結合部位決定
EnigmaとMdm2の製作されたそれぞれの突然変異体を使用して、二分子間の結合部位を決定した。まず、それぞれのMdm2突然変異体(5μg)をFlag−Enigmaが常に発現されるように考案された293細胞株に導入して、以後、GST pull−downしてFlag抗体にウエスタンブロットして結合有無を確認した(図5のd)。同時に、それぞれのEnigma突然変異体(5μg)とGST−Mdm2発現ベクター(5μg)を293T細胞株(ATCC)にカルシウムホスファート方法で導入させて、24時間後に細胞を集めてFlag抗体でIPを遂行して、GST抗体でウエスタンブロットして結合有無を確認した(図5のe)。EnigmaLIM3が除去された、細菌で発現させたEniΔLIM3とMdm2は、互いに結合しなかったし(図5のc)、Mdm2の301−491部位とEnigmaのLIM3部位が結合部位であることが示された。LIM3部位のみを含んだGST−LIM3突然変異体とMdm2間の結合を細胞株導入後、GST pull−downとMdm2抗体でウエスタンブロットで確認して、EnigmaのLIM3部位がMdm2の401−491に結合するということを確認することができた(図5のf)。したがって、知られたMdm2−p53間の相互結合に基づいて、Enigmaの“C”末端とMdm2の“C”末端が直接結合し、かつMdm2の“N”末端とp53の“N”末端が結合している結合構造が分かった(図5のg)。
【0106】
<2−4>Enigma−Mdm2結合の特異性検証
Enigmaと類似の分子構造を有したENH(Enigma homolog)を対象に、Mdm2と結合有無を確認した。Flag−ENH、Flag−Enigma及びGST−Mdm2発現ベクターを293T細胞株にカルシウムホスファート方法で導入して、48時間後に細胞を集めてGST pull−downと、Flag抗体でウエスタンブロットを遂行した。その結果、Mdm2とENH間の結合は、存在しなかった(図6のa)。同時に、F−ENH発現ベクターをHLK3細胞株に濃度別(2、5μg)で導入した後、Mdm2及びp53の発現変化を確認した。その結果、ENHは、Mdm2とp53の発現量に影響を与えなかった(図6のb)。したがって、EnigmaとMdm2間の結合及びこれによるMdm2の発現増加が、特異的相互作用であることが分かった。
【0107】
<実施例3>EnigmaがMdm2の自己ユビキチン化(self−ubiquitination)とp53のユビキチン化に及ぼす影響検証
本発明者等は、EnigmaがMdm2と直接結合してMdm2を安定化させて、Mdm2によるp53の分解を促進させる機序を解明するために、Mdm2の自己ユビキチン化とp53ユビキチン化にEnigmaが及ぼす影響を細胞内及びインビトロで検証した。
【0108】
<3−1>細胞内でMdm2とp53のユビキチン化にEnigmaが及ぼす影響
HLK3細胞株に、Flag−Enigma(5、10μg)、siEnigma(10、15μg)を濃度別で導入し、集める12時間前にMG132を処理した。また、異なる293T細胞株には、His−Ub(5μg)とF−Enigma(5、10μg)を導入して集める12時間前にMG132を処理した。準備した細胞破砕溶液で細胞タンパク質抽出液を作ってそれぞれの抗体としてIPを実施して、Ubが結合したMdm2とp53の増減をUb抗体とHis抗体としてウエスタンブロットして確認した。その結果、細胞内でEnigmaが過発現されるほどMdm2のユビキチン化は減少し、p53のユビキチン化は増加し、Enigmaの発現が抑制されるほどMdm2のユビキチン化は増加し、p53のユビキチン化は減少した(図7のa及びb)。
【0109】
<3−2>EnigmaによるMdm2の自己ユビキチン化阻害とp53のユビキチン化検証
Enigmaの結合によるMdm2の自己ユビキチン化の変化を検証するために、インビトロユビキチン化分析を実施した。His−Mdm2タンパク質(0.5μg)、His−Mdm2(C464A)(0.5μg)、Enigmaタンパク質(0.5、1μg)、F−EniΔLIM3(1μg)に、ユビキチン反応混合物(E1、E2、His−Ub、ATP含む)を入れて反応させた後、IP/IB方法を用いてMdm2の自己ユビキチン化変化と結合タンパク質の有無を確認した。その結果、Mdm2と結合するF−EnigmaによってMdm2の自己ユビキチン化が抑制され、Enigmaは、Mdm2RINGフィンガー領域の464−システインがアラニンに置換されたMdm2(C464A)変異体には影響を与えなかった(図7のc)。併せて、F−EnigmaによるMdm2依存的p53のユビキチン化は、増加した(図7のd)。したがって、EnigmaがMdm2のユビキチン化の方向を決定する因子であることが分かった。
【0110】
<3−3>PCAFによるMdm2ユビキチン化に及ぼすEnigma阻害効果調査
PCAF(p300−CBP関連因子)は、Mdm2のユビキチン化を誘導する(Nat Cell Biol,2007年,第9巻,p.331−338)。細菌から分離精製した図8に提示したタンパク質を用いて、インビトロユビキチン実験を行なった時、EnigmaはPCAFによるMdm2ユビキチン化に影響を与えなかった(図8のa)。この現象は、Mdm2−/−p53−/−MEF細胞株でも検証された(図8のb)。この結果は、EnigmaがMdm2自己ユビキチン化を特異的に阻害してp53ユビキチン化を促進することを提示する。
【0111】
<実施例4>Enigmaプロモーターの活性化検証
p53は、細胞増殖抑制機能があって、Enigmaが細胞内でMdm2の安定化を誘導してp53減少を起こすので、細胞増殖が起きる条件でEnigmaプロモーターが活性化するのか、活性化するのならどのような機序になるかを調査した。
【0112】
<4−1>血清によるEnigmaプロモーターの調節検証
Enigmaのプロモーターに血清応答因子(SRF)が結合する血清応答部位(serum response element;SRE)が存在することを発見して、プロモーター配列中、SREを含むまたは含まない断片をルシフェラーゼを有しているpGL2/3ベクターに挿入してEnigma−Luc(pGL2)、SRE−Luc、ΔSRE−Luc(pGL3)レポーターベクターをそれぞれ製作した(図9のa)。前記、Enigma−LucをHLK3細胞株に導入(0.5μg)し、0.1%FBSを含むDMEMにて24時間培養した後、5%及び20%FBSを添加して再び6時間培養した後、細胞を集めてルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、血清の濃度に依存的にEnigma−Lucの活性度が増加した(図9のb)。
【0113】
<4−2>細胞成長因子−SRE依存的Enigmaプロモーターの活性化検証
Enigma発現のSRF依存性を検証するために製作したSRE−Luc(0.5μg)、ΔSRE−Luc(0.5μg)をHLK3細胞株に導入して、0.1%FBSを含むDMEMにて24時間培養後、5%及び20%FBS、FGF(20、40ng/ml)、またはHGF(20、40ng/ml)を添加して再び6時間培養した後、細胞を集めてルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、SREが存在するレポーターでのみ処理した成長因子の濃度に依存的に活性度が増加した(図9のc及びd)。
【0114】
<4−3>EnigmaプロモーターとSRFの結合特異性検証
EnigmaプロモーターのSRE部位[5’−CTATATAAGG−3’(配列番号:4)]に、SRFが特異的に結合するのかどうかを検証するために、EMSAと細胞内ChIP分析を実施した。EMSA分析を行なうために、血清を処理したまたは処理していないHLK3の核タンパク質分画を製造した後、放射線(32P−ATP)で標識されたSRE(5’−CTATATAAGG X3)ヌクレオチドと反応させた後、抗−SRF抗体と再び反応させて6%のアクリルアミドゲルでその結合有無を確認した。その結果、EnigmaのSRE部位にSRFが特異的に結合することが示された(図9のe)。
【0115】
また、培養細胞内でEnigmaプロモーターにSRFが結合するかどうかを確認するために実施したChIP分析のために、血清を処理したまたは処理していないHLK3を1%ホルマリンで固定させた後、細胞を集めて超音波で破砕した。SRF−DNAの結合体を抗−SRF抗体としてIPして得た後、結合しているDNAがEnigmaプロモーターのSRE部位なのかどうかを特異的なプライマーでPCRして確認した。その結果、培養細胞でもEnigmaプロモーターのSRE部位にSRFが結合していることが示された(図9のf)。以上の結果は、細胞増殖条件でEnigmaプロモーターは、SRFによって活性化になりその発現が増加するということを提示する。
【0116】
<実施例5>血清とHGFによるSRF−Enigma−Mdm2−p53経路調節
細胞増殖あるいは生存を促進させる条件で、Mdm2の増加が報告されたことがある(Growth factors,2005年,第23巻,p.183−192)。前記現象が、Enigmaによって起因することかどうかを調べるため、SRFによるEnigmaの活性化がMdm2を安定化させて、p53を抑制するかどうかを細胞及びマウスの肝(liver)で検証した。
【0117】
<5−1>血清によるSRF、Enigma、Mdm2、p53の調節検証
p53+/+またはp53−/−の大腸癌細胞株を血清を除去した条件で培養した後、10%の血清を含んだ培地で時間別に再び培養して各タンパク質の変化をウエスタンブロットで、転写水準(mRNA)の変化は各条件で分離した総RNAを用いたRT−PCRで確認した。その結果、血清の刺激によって、SRFが転写段階から増加してタンパク質量も増加し、SRFによって転写活性化したEnigmaのタンパク質量も増加することが示された。Enigmaの増加は転写体の変化なしにMdm2タンパク質の安定化を誘導し、p53タンパク質の分解として示された。SRF−Enigma−Mdm2一連の増加は、p53に非依存的だった(図10のa及びb)。
【0118】
p53+/+またはp53−/−の大腸癌細胞株を10%の血清を含んだ培地で培養した後、血清を除去した条件で各時間別に培養時の各分子の変化をウエスタンブロットとRT−PCR方法で確認した。その結果、成長が制限される条件で、SRF、Enigmaの転写水準、タンパク質水準はすべて抑制され、Mdm2のタンパク質水準は減少し、p53のタンパク質水準は増加した(図11のa及びb)。
【0119】
<5−2>HGFによるSRF、Enigma、Mdm2、p53の調節検証
SRF−Enigma−Mdm2経路が、HGFによっても調節されるかどうかを調査した。SRF、Enigmaの特異的関連性を示すために、siEnigma、siSRF各10μgをHLK3細胞株に導入して、血清を制限条件で培養した後、細胞を集める4時間前にHGF(40、60ng/ml)をそれぞれ処理した後、それぞれのタンパク質の変化をウエスタンブロットで確認した。その結果、SRF−Enigma−Mdm2の増加とp53の減少を確認することができた(図10のc)。また、F−SRFをHLK3細胞株に濃度別(5、10μg)で直接導入して、EnigmaとMdm2の変化を観察した。その結果、Enigmaの発現は、SRFによって直接的に影響を受けることが示された(図10のd)。
【0120】
<5−3>SRF−Enigma−Mdm2経路にMAPキナーゼ関連性検証
細胞成長因子によるSRFの活性化に、MAPキナーゼが係わっていることが知られているので(J Physiol Pharmacol,2002年,第53巻,p.147−157)、SRF−Enigma−Mdm2の経路の調節にもMAPキナーゼが係わっていると仮定して、MAPキナーゼ特異的阻害剤であるPD98059を用いて検証した。Mdm2+/+p53−/−MEF細胞株にAd−p53またはAd−LacZを導入した後、HGFを処理時にPD98059を一緒に処理した。その結果、PD98059は、HGFによるSRF−Enigma−Mdm2経路の活性化を抑制した(図10のe)。
【0121】
正常細胞でSRF−Enigma−Mdm2経路の存在有無を確認するために、MRC5(ヒト正常繊維芽細胞)、MEF(マウス胎児繊維芽細胞)を使用して血清による反応を確認した。MRC5の場合には、siSRF(10、15μg)を導入したり、PD98059が存在したりする場合、血清によるSRF−Enigma−Mdm2経路の活性化が抑制され、MEFの場合も、PD98059によってSRF−Enigma−Mdm2経路の活性化が抑制された(図12のa及びc)。したがって、SRF、Enigmaは、転写活性によるタンパク質量の増加があったが、Mdm2(p1−Mdm2)及びp53の場合は、転写体水準の変化はなかった。但し、p2−Mdm2の転写水準は、p53の発現量に依存的に変化した(図12のb及びd)。この結果は、細胞が増殖する場合に、SRF−Enigmaの転写体が順に先に作られてEnigmaタンパク質がMdm2を安定化させてp53を減少させる経路があることを提示する。
【0122】
<5−4>SRF−Enigma−Mdm2−p53経路のインビボ検証
Ad−p53あるいはAd−LacZウイルス(5×10pfu)それぞれをマウス(Balb/c、Female、Taconic)の尾静脈に注射して24時間経過後、HGF(100μg/kg)をマウスの尾静脈に再び注射して時間別に肝を摘出して、SRF−Enigma−Mdm2−p53の変化をウエスタンブロットで確認した。その結果、HGFは、肝細胞のSRFを転写活性化させてタンパク質発現を誘導し、SRFによってEnigmaは、転写体水準で誘導されてタンパク質量が増えた。Enigmaの増加によってMdm2のタンパク質量が増加し、同時にp53はタンパク質量を減少させた(図10のf及びg)。
【0123】
Enigmaの直接的な発現量変化によるMdm2−p53の変化を観察するために、まず、マウスの尾静脈にAd−p53を注射または注射せずに、24時間経過後にマウスの尾静脈にAd−F−Enigma、Ad−LacZ、PBSを注射して48時間後に肝を摘出してウエスタンブロットしてそれぞれのタンパク質量を確認した。また、Ad−siEnigma、Ad−siControl及びPBSを尾静脈に注射した後、肝摘出8時間前にHGFを尾静脈に注射した。その結果、Enigmaの発現が高ければMdm2も安定化してp53が減少し、Enigmaの発現が抑制されると、HGFによるMdm2の安定化が阻害されてp53が増加した(図10のh)。この結果は、生体内でもSRF−Enigma−Mdm2−p53経路が存在することを暗示している。
【0124】
<実施例6>ヒトの癌患者組織でのSRF−Enigma−Mdm2−p53経路の調査
本発明者等は、ヒトの癌組織(胃癌:忠南医大、韓国;肝癌:全北医大及び啓明医大、韓国)でもSRFによるEnigmaの誘導がMdm2の安定化をもたらしてp53の減少を誘導することができるのかどうかを調べるため、肝癌、胃癌組織と該当する正常組織を組織溶解緩衝液(Intron、韓国)で破砕してウエスタンブロットで調査した。その結果、12例の肝癌及び胃癌組織で、SRF−Enigma−Mdm2の発現が高かったが、p53発現が検出されなかった(図13のa、「*」参照)。また、ヒトの各種癌組織が植えられている組織アレイ(www.tissuearray.com)で、Enigma−Mdm2の発現を蛍光抗体法を用いて観察した。その結果、胃癌及び大腸癌組織の細胞質の頂端部位(apical region)でEnigma−Mdm2が一緒に過発現して示された(図13のb)。この結果は、速く増殖している癌細胞でSRF−Enigam−Mdm2が活性化していて、p53が弱化していることを暗示している。
【0125】
<実施例7>Enigmaによる細胞生存効果及び抗癌剤耐性誘導検証
本発明者等は、Enigmaが細胞の自殺を誘導するp53を減少させて細胞の生存能を増加させ、抗癌剤耐性を誘発するかどうかを調査した。
【0126】
<7−1>Enigmaの発現抑制によるp53依存的細胞自殺誘導
p53+/+またはp53−/−のHCT116大腸癌細胞株に、Flag−Enigma(5μg)またはsiEnigma(10μg)を導入して、アドリアマイシン(ADR 20μg/ml)を処理して細胞生存に及ぼすEnigma効果が、p53依存的なのかどうかを細胞計数法とクリスタルバイオレット染色法で確認した。その結果、野生型のp53を有した細胞でのみEnigmaの発現が高い場合に、アドリアマイシンに対する細胞生存能が増加し、Enigmaの発現が抑制される場合に、細胞生存能が減少した(図14のa及びb)。また、p53が発現されないH1299、H358、PC3、及びHep3B細胞株では、Enigmaの発現を減少させた時に、p53+/+HCT116大腸癌細胞株と比較して、細胞生存能に影響が大きくなかった(図15)。Enigmaによる細胞の生存に及ぼす効果が、細胞自殺調節効果なのかどうかをTUNEL検証法及び細胞周期を分析して検証した。その結果、野生型p53を有した細胞株で、Enigmaの発現抑制による細胞自殺が効果的に示された(図14のd)。したがって、アドリアマイシン処理時にEnigmaによる細胞生存能の増加効果は、p53を媒介にして細胞自殺誘導を抑制することによるものであることが分かった。
【0127】
同時に、アドリアマイシン(ADR)(Sigma,米国)処理時に、Enigma−Mdm2−p53経路の変化を確認するために、前記と同一条件でADR(2μg/ml)を処理してウエスタンブロットを実施した。その結果、p53の存在と無関係にADRによるMdm2の減少は、Enigmaの過発現によって阻害され、Enigma発現依存的にMdm2−p53の発現も増加または減少した(図14のc)。したがって、Enigmaは、Mdm2を経由してp53を減少させて癌細胞がアドリアマイシンに対する細胞生存能を増加させることが分かった。
【0128】
<実施例8>マウス異種移植(Mouse Xenograft)モデルでのEnigmaによる癌細胞のADR抵抗性誘導検証
本発明者等は、Enigmaの発現に依存的にp53による細胞自殺が調節されることを確認して、実際に肝癌細胞株HLK3で作ったマウス腫瘍モデルで、EnigmaによるADR抵抗性が誘導されるのかどうかを調査した。
【0129】
<8−1>EnigmaがHLK3肝癌細胞株の生存能に及ぼす効果
F−Enigma(5μg)またはsiEnigma(10μg)をHLK細胞株に導入して、アドリアマイシン(ADR 20μg/ml)を処理するかまたは処理せずに、細胞計数法で細胞の生存を調査した。その結果、Enigmaの発現が高い場合には、抗癌剤による細胞自殺が抑制され、Enigmaの発現が抑制される場合には、ADRがない場合にも細胞自殺が効果的に誘導された(図16のa及び図17)。ADR処理時に、Enigma−Mdm2−p53経路の変化を確認するために、上記と同一条件でADR(2μg/ml)を処理してウエスタンブロットを実施した。その結果、Enigmaの発現に依存的にMdm2−p53の発現が変化した(図16のb)。
【0130】
<8−2>EnigmaによるエトポシドとNutlin3aに対する抵抗性増加検証
エトポシド(ETC)とnutlin3a(Sigma,米国)は、機序は異なるがp53を活性化させて癌細胞の自殺を誘導する抗癌剤であり(Science,2004年,第303巻,p.844−8484)、これらに対してもEnigmaが癌細胞に対して抵抗性を示すようにできるのかどうかを検証した。F−Enigma(5μg)が導入されたHLK3細胞に、ETCとnutlin3aをそれぞれ処理して細胞計数法で生存した細胞数を確認した。その結果、Enigmaが過発現されるとETCとnutlin3aに対しても抵抗性が誘導されることを確認した(図16のc)。また、F−Enigmaの発現時に、ETCとnutlin3a処理によるMdm2−p53の発現様相をウエスタンブロットで確認した。その結果、F−Enigmaの過発現によるMdm2の増加とp53の減少を確認することができた(図16のd)。
【0131】
<8−3>マウス移植腫瘍モデルでのEnigmaによるADR抵抗性検証
EnigmaによるADR抵抗性誘導が、生体内でも起きるのかどうかを検証するために、ヌードマウス(Balb/c nu,Female,SLC,日本)に腫瘍モデルを製作して用いた。そのために、Ad−F−Enigma(100 MOI)、Ad−LacZ(100 MOI)、Ad−siEnigma(200 MOI)、Ad−siControl(200 MOI)を、まず、HLK細胞に感染させた後、前記マウス(n=5/実験群)の皮下に注射した。14日後、ADR(4mg/kg)を尾静脈内に注射して、以後28日間腫瘍塊の大きさを観察した。その結果、F−Enigmaが発現される癌細胞は、ADRを処理しない対照群と類似に増殖しながらADRに抵抗性を示し、Enigma発現が抑制される群は、癌細胞の増殖が最も多く抑制された(図16のe及びf)。腫瘍塊を成す細胞中のMdm2−p53の発現変化を確認するために、上記の条件で前記マウスに腫瘍塊を作って、ADRで処理して3日後に腫瘍塊をマウスから分離して細胞破砕液を得た後、ウエスタンブロットで各タンパク質の発現様相を確認した。その結果、抗癌剤耐性がある場合、Enigma−Mdm2が多く、p53が減少していた(図16のg)。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、EnigmaのMdm2−p53のユビキチンプロテオゾーム分解の調節機序研究、及び癌細胞でのSRF−Enigma−Mdm2−p53経路を通じた作用機序研究などに有用に使用することができる。また、Enigmaの発現調節を通じての抗癌剤開発、Enigma発現またはEnigma−Mdm2相互結合を用いた抗癌剤スクリーニング方法開発、及びEnigma発現を用いた抗癌剤治療の予後を評価する方法開発に有用に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌用組成物。
【請求項2】
前記Enigmaの発現抑制剤が、Enigma遺伝子のmRNAに相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド、短干渉RNA(short interfering RNA)、短ヘアピンRNA(short hairpin RNA)及びRNAiからなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の抗癌用組成物。
【請求項3】
前記Enigmaの活性抑制剤が、Enigmaタンパク質に相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチドミメティクス及び抗体からなる群から選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の抗癌用組成物。
【請求項4】
前記短干渉RNAが、配列番号2あるいは3で表わされる塩基配列を有することを特徴とする請求項2に記載の抗癌用組成物。
【請求項5】
前記癌が、胃癌、肝癌及び大腸癌からなる群から選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の抗癌用組成物。
【請求項6】
Enigmaの発現または活性抑制剤を有効成分として含む抗癌補助剤。
【請求項7】
Enigmaの発現または活性抑制剤を癌にかかった個体に投与する工程を含む癌治療方法。
【請求項8】
Enigmaの発現または活性抑制を通じてHdm2/Mdm2(human/mouse double minute 2)の安定性を減少させる方法。
【請求項9】
Enigmaの発現または活性抑制を通じてp53の活性を増加させる方法。
【請求項10】
1)候補物質が存在するまたは存在しない条件下でEnigma及びMdm2を接触させる工程、
2)Enigma及びMdm2の結合水準を測定する工程、及び
3)候補物質が存在しない時と比較してEnigma及びMdm2の結合水準を減少させた候補物質を選別する工程を含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
1)Enigma及びMdm2を発現する細胞と候補物質を接触させる工程と、
2)細胞内Enigma及びMdm2の結合水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較して細胞内Enigma及びMdm2の結合水準を減少させた候補物質を選別する工程とを含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
1)Enigma及びMdm2を発現する細胞に候補物質を処理する工程と、
2)EnigmaまたはMdm2の発現水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較してEnigmaまたはMdm2の発現水準を減少させた候補物質を選別する工程とを含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
1)Enigma、Mdm2及びp53を発現する細胞に候補物質を処理する工程と、
2)p53の発現水準を測定する工程、及び
3)候補物質を処理しない対照群と比較してp53の発現水準を増加させた候補物質を選別する工程とを含む、抗癌剤候補物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
Enigmaと反応する抗体またはEnigma遺伝子に相補的な核酸のうちのいずれか一つ以上を用いて、癌細胞でのEnigma発現水準を測定する工程を含む、癌の診断、治療結果確認または予後を評価する方法。
【請求項15】
Enigmaと反応する抗体またはEnigma遺伝子に相補的な核酸のうちのいずれか一つ以上を含む癌診断用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−222348(P2010−222348A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36003(P2010−36003)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(508139457)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (19)
【Fターム(参考)】