説明

FGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤

【課題】優れた作用を有し、安全性の高い、FGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤の提供。
【解決手段】アシタバ及び/又はルテオリン−7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤。育毛剤及び頭髪化粧品をはじめとする皮膚外用剤に配合したり、美容用飲食品及び医薬品に配合したり、研究用の試薬として好適に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の成長は、成長期、退行期、休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期にかけての新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられており、また、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞へ働きかけてその増殖を促すなど、毛髪への分化に重要な役割を担っている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)は、線維芽細胞増殖因子(FGF)のファミリーのうちの1つであり、KGF(keratinocyte growth factor)とも呼ばれる。FGFには、20種類以上のファミリーが存在することが知られている。
【0004】
FGFは、中胚葉と神経外胚葉から発生した幅広い細胞の増殖を促進する因子であり、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、グリア細胞、骨芽細胞などの分裂・成長を誘導する。FGFは、血管新生作用、コラーゲンやフィブロネクチンの合成抑制作用などを有することや、ヘパリンに対して強い親和性を有することが知られている。
【0005】
また、毛包の毛乳頭細胞において、FGF−7が発現していることが示され、FGF−7が毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった(例えば、非特許文献2参照)。また、ノックアウトマウスを用いた研究により、FGF−7は、毛の伸びる方向に関与することが示唆されている。
【0006】
これまでに、FGF−7産生の促進作用を有する植物エキスとして、クララが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
インスリン様増殖因子−1(IGF−1)は、インスリンに非常に良く似た構造及び作用を持つ分子量約7,500のペプチドホルモンである。IGF−1は、細胞の分化を促し、細胞の増殖を助けるなど、積極的に細胞を健康な状態に維持し(例えば、非特許文献4,5参照)、老化の進行を阻止することが知られている(例えば、非特許文献6参照)。
【0008】
また、毛包の毛乳頭細胞において、IGF−1が発現していることが示され、IGF−1が毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった(例えば、非特許文献7参照)。現在、IGF−1を有効成分とする育毛剤が既に知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、IGF−1は動物由来成分であって分子量が大きいために、外用塗布による経皮吸収が困難であるなどの問題がある。また、優れたIGF−1産生促進作用を有する植物由来の物質が求められている。
【0009】
肝細胞成長因子(HGF)は、肝細胞の増殖を促進する因子として劇症肝炎患者血漿から発見された。HGFは、肝臓に限らず、各臓器由来の上皮細胞、内皮細胞、造血系細胞などの増殖を促進することが知られている。HGFの血中濃度は、肝疾患をはじめ、肺炎、白血病、がん、心筋梗塞などの様々な疾患において上昇することが報告されている。また、HGFは、臓器の障害や線維化を抑制し、再生を促進する効果が認められている。更に、肺線維症予防剤の有効成分としてHGFを利用する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
また、毛包の毛乳頭細胞において、HGFが発現していることが示され、HGFが毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった(例えば、非特許文献2参照)。
【0011】
これまでに、HGF産生の促進作用を有する植物エキスとして、米などが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
以上のように、FGF−7産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF産生促進作用を有する各剤に対する需要は極めて高い。
【0013】
しかしながら、従来においては、前記作用を有する具体的な有効成分が、未だに提案されていないという問題があった。また、具体的な有効成分が提案されているものについても、植物由来のものでなかったり、植物由来のものであっても前記作用及び効果が充分ではなかったりする、という問題があった。なお、植物由来であると、比較的安全性が高いので、日常的に摂取又は塗布しやすいという利点がある。
【0014】
アシタバは、セリ科の植物であって、学名は「Angelica keiskei」である。また、アシタバには配糖体ルテオリン 7−O−グルコシドなどを含んでいることが知られている。(非特許文献8参照)
【0015】
また、アシタバ抽出物を、育毛用化粧料に添加して使用する技術が開示されている(特許文献4参照)。また、ルテオリン 7−O−グルコシドを、抗炎症剤として使用する技術が開示されている(特許文献5参照)。しかしながら、特許文献4及び5には、アシタバ及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドがどのような作用を介して育毛効果を奏するかについては何ら記載されていない。
【0016】
したがって、現在までのところ、入手が容易で安価であり、安全性の高い天然物系のものであって、味、匂い、使用感などの点で添加対象物の品質に悪影響を及ぼさず、育毛剤をはじめとする皮膚外用剤、美容用飲食物、医薬及び研究用試薬として広く使用可能なFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【特許文献1】特公平4−60567号公報
【特許文献2】特開2006−131649号公報
【特許文献3】特開2004−99503号公報
【特許文献4】特公平2−46562号公報
【特許文献5】特開平1−42427号公報
【非特許文献1】「Trends Genet」,1992年,第8巻,p.56−61
【非特許文献2】アンチエイジングシリーズ(1)、白髪・脱毛・育毛の実際,NTS,p.1−18,2005年
【非特許文献3】J.Derm.Sci.,30,p43−49,2002
【非特許文献4】J.Biol.Chem.,271,28853−28860(1996)
【非特許文献5】Dermatology,20,325−329(2002)
【非特許文献6】Am.J.Med.,115,501−502(2003)
【非特許文献7】J.Invest.Dermatol.,99,343−349(1992)
【非特許文献8】Phytother.Res.16,S24−S27(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、第一に、優れたFGF−7産生促進作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然系FGF−7産生促進剤を提供することを目的とする。
【0018】
また、本発明は、第二に、優れたIGF−1産生促進作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然系IGF−1産生促進剤を提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明は、第三に、優れたHGF産生促進作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然系HGF産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドが、優れたFGF−7産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF産生促進作用を有していることを知見した。
【0021】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするFGF−7産生促進剤である。
<2> アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするIGF−1産生促進剤である。
<3> アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするHGF産生促進剤である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のFGF−7産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたFGF−7産生促進作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然系FGF−7産生促進剤を提供することができる。
【0023】
本発明のIGF−1産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたIGF−1産生促進作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然系IGF−1産生促進剤を提供することができる。
【0024】
本発明のHGF産生促進剤によると、従来における諸問題を解決することができ、優れたHGF産生促進作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然系HGF産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(FGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤)
本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0026】
前記ルテオリン 7−O−グルコシドは、ルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することもできるし、合成により製造することもできる。なお、合成により製造する場合、その合成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により合成することができる。
【0027】
前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって得ることができる。前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物としては、例えば、セリ科やキク科の植物などが挙げられる。中でも、セリ科のアシタバが特に好ましい。
【0028】
前記アシタバとは、セリ科の植物であって、学名は「Angelica keiskei」である。前記アシタバは、紀伊半島から房総半島などの本州の海岸沿いに広く自生しておりこれらの地域から容易に入手可能である。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、茎部、花(蕾)部、種子、根部などが挙げられる。これらの中でも、ルテオリン 7−O−グルコシドを豊富に含んでいる点で、葉部が特に好ましい。
【0029】
前記アシタバ抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。なお、前記抽出原料は、ヘキサン、ベンゼンなどの非極性溶媒によって脱脂などの前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。なお、脱脂などの前処理を行うことにより、抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0030】
前記抽出に用いる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
【0031】
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水などの他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化などが含まれる。なお、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水なども含まれる。
【0032】
前記親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトンなどの低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
【0033】
なお、前記水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1質量部〜40質量部添加することが好ましい。多価アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部添加することが好ましい。
【0034】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り、特に制限はなく、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物を更に乾燥すると乾燥物が得られる。
【0035】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から前記ルテオリン 7−O−グルコシドを単離・精製する方法としては、特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、植物抽出物を濃縮し、多孔性樹脂などを用いたカラムクロマトグラフィーに供して、水、アルコール(メタノールなど)の順で溶出させ、アルコール(メタノールなど)で溶出される分画物として得る。このとき、前記分画物に対して、さらにODS(オクタデシルシリル化シリカゲル)を用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィーや再結晶などに供することで、粗精製物を得ることができる。
【0036】
そして、前記分画物又は粗精製物を、例えば、液体クロマトグラフィーなどを用いて分離・精製することにより、精製されたルテオリン 7−O−グルコシドを得ることができる。
【0037】
前記アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドは、FGF−7産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF産生促進作用を有しているため、それらの作用を利用して、FGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤の有効成分として用いることができる。なお、抽出処理により得られた植物抽出物は前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有しており、そのままFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤の有効成分として使用し得るが、精製して前記ルテオリン 7−O−グルコシドの純度を高めたものを使用してもよい。前記ルテオリン 7−O−グルコシドの純度を高めたものを有効成分として使用することによって、より一層使用効果に優れたFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤を得ることができる。前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物抽出物には、前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0038】
なお、前記FGF−7産生促進剤、前記IGF−1産生促進剤及び前記HGF産生促進剤の有効成分として、前記ルテオリン 7−O−グルコシドそのものが含まれていてもよく、その薬理学的に許容される塩が含まれていてもよい。また、前記ルテオリン 7−O−グルコシド又はその薬理学的に許容される塩の、水和物又は溶媒和物が含まれていてもよい。また、前記ルテオリン 7−O−グルコシドは、前記FGF−7産生促進作用、前記IGF−1産生促進作用及び前記HGF産生促進作用を損なわない限り、修飾又は置換されていてもよい。
【0039】
前記薬理学的に許容される塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、硝酸塩、硫酸水素酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、樟脳スルホン酸塩、スルファミン酸塩、マンデル酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、ステアリン酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、パモン酸塩、フェニル酢酸塩、グルタミン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、スルファニル酸塩、2−アセトキシ安息香酸塩、エタンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、イセチオン酸塩、ギ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、エチルコハク酸塩、ラクトビオン酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、アスパラギン酸塩、アジピン酸塩、ヨウ化水素酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、ピクリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデカン酸塩などが挙げられる。
【0040】
本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、前記ルテオリン 7−O−グルコシドそのものであってもよいし、前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有するアシタバ抽出物のみからなるものでもよいし、前記ルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物抽出物を製剤化したものでもよい。
【0041】
前記FGF−7産生促進剤、前記IGF−1産生促進剤及び前記HGF産生促進剤中の前記アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
<その他の成分>
前記アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドは、デキストリン、シクロデキストリンなどの薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状などの任意の剤形に製剤化して提供することができ、他の組成物(例えば、皮膚化粧料など)に配合して使用できるほか軟膏剤、外用液剤、貼付剤などとして使用することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤などを用いることができる。
【0043】
なお、本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、必要に応じてFGF産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF促進作用を有する他の天然抽出物などを、前記アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを含有する植物抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0044】
前記FGF−7産生促進剤は、有効成分として含有されるアシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドの作用により、FGF−7産生促進作用を発揮する。
【0045】
前記IGF−1産生促進剤は、有効成分として含有されるアシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドの作用により、IGF−1産生促進作用を発揮する。
【0046】
前記HGF産生促進剤は、有効成分として含有されるアシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドの作用により、HGF産生促進作用を発揮する。
【0047】
本発明のFGF−7産生促進剤によると、優れたFGF−7産生促進作用を通じて、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、グリア細胞、骨芽細胞などの分裂・成長を誘導したり、毛根の活性化を介して育毛を促進したり、脱毛症などを改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のFGF−7産生促進剤は、これらの用途以外にもFGF−7産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0048】
本発明のIGF−1産生促進剤によると、優れたIGF−1産生促進作用を通じて、例えば、細胞全般の分化・増殖・成長、老化の進行抑制、血糖降下、生殖機能の調節、軟骨への硫酸イオンの取込みなどを促進したり、脱毛症、皮膚老化、糖尿病、下垂体機能低下症、下垂体性小人症など改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のIGF−1産生促進剤は、これらの用途以外にもIGF−1産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0049】
本発明のHGF産生促進剤によると、優れたHGF産生促進作用を通じて、例えば、各臓器由来の上皮細胞、内皮細胞、造血系細胞などの増殖を促進したり、臓器の障害や線維化を抑制し、再生を促進したり、脱毛症、線維症、肝臓疾患、閉塞性動脈硬化症などを改善乃至治療したりすることができる。ただし、本発明のHGF産生促進剤は、これらの用途以外にもHGF産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0050】
本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、優れた作用を有するとともに、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、皮膚外用剤に配合するのに好適である。前記皮膚外用剤としては、特に、育毛剤及び頭髪化粧料が好ましい。前記頭髪化粧料としては、例えば、ヘアトニック、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンスなどが挙げられる。
【0051】
また、本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、優れた作用を有するとともに、消化管で消化されるようなものではないことが確認されているので、美容用飲食品又は医薬に配合するのに好適である。
【0052】
また、本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、優れた作用を有するので、FGF−7、IGF−1及びHGFの機能の研究や、FGF−7、IGF−1及びHGFに関連する疾患の研究のための試薬として好適に利用できる。
【0053】
なお、本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
アシタバの葉部の乾燥物を粗砕したものそれぞれ500gに対し、抽出溶媒(50質量%エタノール)5Lを加え、還流抽出器で3時間加熱抽出し熱時濾過した。その後、得られた抽出液を40℃で減圧下に濃縮し、凍結乾燥機で乾燥して、アシタバからの抽出物を得た。アシタバ50質量%エタノール抽出物の収率は、22.5%であった。
【0056】
(実施例2)
前記アシタバの抽出物112.5gを水に1Lに懸濁させ、これを多孔性吸着樹脂(DIAION HP−20、三菱化学社製)を充填したカラムに供し、水10L、メタノール10Lの順に溶出させた。得られたメタノール溶出画分を減圧濃縮し、得られた固形分(45.25g)を順相カラムクロマトグラフィー(シリカゲル60(0.063−0.200mm)カラムクロマトグラフィー用、MERCK社製)にてクロロホルム:メタノール:水=30:10:1を溶媒として分画し、溶出液を減圧濃縮し、ルテオリン 7−O−グルコシド画分(550mg)を得た。
【0057】
このようにして得られたルテオリン 7−O−グルコシド画分(550mg)を下記条件のリサイクルHPLCにて精製し、ルテオリン 7−O−グルコシド(122mg)を得た。
【0058】
<HPLC条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム長:500mm
カラム径:21.5mm
温度:室温
移動相:水
移動相流速:5mL/min
検出器:示差屈折計
【0059】
前記ルテオリン 7−O−グルコシドについて、13C−NMR(核磁気共鳴装置)にて分析を行った。
下記にその結果を示す。
−ルテオリン 7−O−グルコシド−
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
60.6(Glc−6)、69.5(Glc−4)、73.0(Glc−2)、76.3(Glc−3)、77.1(Glc−5)、94.6(C8)、99.4(C6)、99.9(Glc−1)、103.0(C3)、105.2(C10)、113.4(C2’)、115.8(C5’)、119.0(C6’)121.2(C1’)、145.6(C3’)、149.7(C4’)156.7(C9)、160.9(C5)、162.7(C7)、164.2(C2)、181.6(C4)
【0060】
(実施例3)
<FGF−7、IGF−1及びHGFの産生促進試験>
実施例1及び2のアシタバ抽出物及びルテオリン 7−O−グルコシドを試料として用い、下記の試験法によりFGF−7、IGF−1及びHGFの産生促進作用を試験した。
【0061】
まず、正常ヒト頭髪毛乳頭細胞(TOYOBO社、CA60205)を毛乳頭細胞増殖培地(TOYOBO社、TPGM−250)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2×10個/mLの濃度になるように10%FBS含有DMEM培地で希釈した後、直径60mmシャーレに5mLずつ播種し、一晩培養した。翌日、試料を添加した無血清DMEM培地に交換し4時間培養した後、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.No.311−02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調製した。
【0062】
この総RNAを鋳型とし、FGF−7、IGF−1、HGF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScriptTM RT−PCT Kit(Perfect Real Time)(code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT−PCR反応により、行った。FGF−7、IGF−1及びHGFのmRNAの発現量について、同一サンプルにおけるGAPDHの発現量の値で補正を行った後、下記(1)式によりFGF−7、IGF−1及びHGFのmRNA発現促進率(%)を算出した。結果を表1及び表2に示す。
FGF−7、IGF−1及びHGFのmRNA発現促進率(%)
= B/A × 100 ・・・(1)
[但し、前記(1)式中、
A:試料無添加時の補正値、
B:試料添加時の補正値、を表す。]
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1及び表2の結果から、アシタバ抽出物及びルテオリン 7−O−グルコシドが、高いFGF−7産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF産生促進作用を有することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のFGF−7産生促進剤、IGF−1産生促進剤及びHGF産生促進剤は、優れたFGF−7産生促進作用、IGF−1産生促進作用及びHGF産生促進作用を有するので、育毛剤及び頭髪化粧品をはじめとする皮膚外用剤に配合したり、美容用飲食品及び医薬品に配合したり、研究用の試薬として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするFGF−7産生促進剤。
【請求項2】
アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするIGF−1産生促進剤。
【請求項3】
アシタバ抽出物及び/又はルテオリン 7−O−グルコシドを有効成分として含有することを特徴とするHGF産生促進剤。

【公開番号】特開2010−150177(P2010−150177A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329398(P2008−329398)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】