説明

FRETを利用した蛍光指示薬

本発明の目的は、蛍光共鳴エネルギートランスファー(FRET)を利用した分子間相互作用又は分子内構造変化を分析するための新規な蛍光指示薬を提供することである。本発明によれば、分析物質の標的配列の両端にドナー蛍光蛋白質とアクセプター蛍光蛋白質が結合している構造を有し、分析物質が該標的配列に結合又は作用することにより指示薬の立体構造が変化して蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が生じる蛍光指示薬において、上記ドナー蛍光蛋白質及び/又は上記アクセプター蛍光蛋白質が、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる円順列変異蛍光蛋白質であって、当該円順列変異を施す前の蛍光蛋白質と実質的に同一の蛍光ピーク波長を有する蛍光蛋白質であることを特徴とする蛍光指示薬が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、蛍光共鳴エネルギートランスファー(FRET)を利用した分子間の相互作用を分析するための蛍光指示薬、並びにその利用に関する。より詳細には、本発明は、2分子の蛍光蛋白質が標的配列を介して結合した蛍光指示薬、並びに該蛍光指示薬を用いた分子間の相互作用を分析する方法に関する。
【背景技術】
カメレオン(Cameleon)は、緑色蛍光蛋白質(GFP)変異体及びカルモジュリン(CaM)に基づいたCa2+用の遺伝子でコードされた蛍光指示薬である(Miyawaki A.,他、(1997)Nature 388,882−887;及びTsien,R.Y.(1998)Ann.Rev.Biochem.67,509−544)。カメレオンは、GFPの短波長変異体、カルモジュリン(CaM)、グリシルグリシンリンカー、ミオシン軽鎖キナーゼのCaM結合ペプチド(M13)、及びGFPの長波長変異体から構成されるキメラ蛋白質である。Ca2+がCaMに結合することにより、CaMとM13との間の分子間相互作用が開始し、これによりキメラ蛋白質は、伸長した立体構造からより小型の立体構造へと変化し、短波長変異体GFPから長波長変異体GFPへのFRETの効率が増大する。黄色カメレオン(YC)は、FRETのドナーとアクセプターとしてシアン蛍光蛋白質(CFP)と黄色蛍光蛋白質(YFP)をそれぞれ有している。黄色カメレオン(YC)は、Ca2+感知ドメインの組成に基づいて複数のグループに分類されている。例えば、YC2は野生型のCaMを有し、Ca2+に対して高い親和性を示す。一方、YC3及びYC4は、CaMドメインのCa2+結合ループに変異が存在するため、低親和性の指示薬である。これらのYCは、元のYFPをEYFP.1(Miyawaki,A.,他、(1999)Proc.Nat1.Acad.Sci.USA 96,2135−2140)で置換することによって酸性化に対する抵抗が高くなっている。改変したYCとしては、YC2.1及びYC3.1が挙げられる。更に、citrine(Griesbeck、O.,他、(2001)J.Biol.Chem.276,29188−29194)やVenus(Nagai,T.,他、(2002)Nat.Biotechnol.20,87−90)のようなYFPの特に明るい変異体を用いることによって、より迅速に成熟するように作られたYCもある。上記の通り、YCは主にYFP成分を最適化することにより改良されてきた。
上述した改良にも拘わらず、YCは依然としてダイナミックレンジが低いという問題がある。YC2.12又はYC3.12などの現在入手可能な最高の変異体でも、インビトロでのCa2+結合の際に示されるYFP/CFP比の変化はせいぜい120%である。
これらのYCは、シグナルレベルが低いので、特に細胞内小器官あるいは微小領域を標的とする場合は、シグナル/ノイズ比(S/N比)が悪化する。これらのダイナミックレンジは、YCの感知ドメインと相互作用すると考えられる内因性のCaM及びCaM結合蛋白質の存在量に応じて、インビボで減衰することが示唆されている。
【発明の開示】
本発明は、蛍光共鳴エネルギートランスファー(FRET)を利用した分子間相互作用又は分子内構造変化を分析するための新規な蛍光指示薬を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、高いダイナミックレンジを示す蛍光指示薬を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、指示薬のダイナミックレンジを増加させるためにアクセプターの修飾を試みた。CFPとYFPの蛍光団間の相対的方向及び距離をCa2+に依存して大きく変化させることを目的として、YCで用いるリンカーの長さと配列を最適化しても改善は僅かに過ぎないだろうと推測した。そこで、アミノ末端領域とカルボキシル末端領域とを交換し、元の末端の間を短いスペーサーで再結合した円順列変異GFP(cpCFP)を用いるという手法を採用した(Baird,G.S.,他、(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96,11241−11246;及びTopell,S.,他、(1999)FEBS Lett.457,283−289)。上記の通り、本発明者らは、酸性化に耐性を有し、かつ効率的に成熟するcpYFPを用いすることによって、2つの発色団の遷移双極分子の相対的方向を変えることを試みた結果、優れたダイナミックレンジを示す蛍光指示薬が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
即ち、本発明によれば、分析物質の標的配列の両端にドナー蛍光蛋白質とアクセプター蛍光蛋白質が結合している構造を有し、分析物質が該標的配列に結合又は作用することにより指示薬の立体構造が変化して蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が生じる蛍光指示薬において、上記ドナー蛍光蛋白質及び/又は上記アクセプター蛍光蛋白質が、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる円順列変異蛍光蛋白質であって、当該円順列変異を施す前の蛍光蛋白質と実質的に同一の蛍光ピーク波長を有する蛍光蛋白質であることを特徴とする蛍光指示薬が提供される。
好ましくは、蛍光蛋白質は、GFP、CFP、YFP、REP、BFP又はそれらの変異体である。好ましくは、ドナー蛍光蛋白質はCFP又はその変異体であり、アクセプター蛋白質がYFP又はその変異体である。
好ましくは、ドナー蛍光蛋白質及び/又は上記アクセプター蛍光蛋白質は、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のアミノ酸配列中のβターンに位置するアミノ酸残基においてN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる、円順列変異蛍光蛋白質である。好ましくは、前記βターンに位置するアミノ酸残基は、蛍光蛋白質の蛍光のダイナミックレンジが上昇するような位置のアミノ酸残基である。
好ましくは、アクセプター蛍光蛋白質は、蛍光蛋白質Venusの円順列変異体である。好ましくは、Venusの円順列変異体は、cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus、又はcp229Venusである。
好ましくは、蛍光指示薬がさらに標的ペプチド成分とリンカー成分を含み、分析物質の標的配列が標的ペプチド成分を結合するためのペプチド結合ドメインをさらに含み、
リンカー成分が分析物質の標的配列と標的ペプチド成分とを共有的に結合し、標的配列と標的ペプチド成分がアクセプター蛍光分子成分又はドナー蛍光分子成分の何れかに共有的に結合し、
標的配列に結合した分析物質が標的ペプチド成分及びペプチド結合ドメインの相対的位置又は方向の変化を誘導し、次いでドナー分子及びアクセプター分子成分の相対的位置又は方向に変化が生じ、これにより蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の効率に変化が生じる蛍光指示薬が提供される。
好ましくは、標的配列は、カルモジュリン、cGMP依存性蛋白質キナーゼ、ステロイドホルモン受容体、ステロイドホルモン受容体のリガンド結合ドメイン、蛋白質キナーゼC、イノシトール−1,4,5−トリホスフェート受容体、又はレコベリンであり、特に好ましくは、カルモジュリンである。
好ましくは、標的ペプチド成分は、骨格筋ミオシン軽鎖キナーゼ(skMLCKp)、平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼ(smMLCK)、カルモジュリンキナーゼII(CaMKII)、カルデスモン、カルスペルミン、ホスホフルクトキナーゼ、カルシネウリン、ホスホリラーゼキナーゼ、Ca2+ATPアーゼ、59Kdaホスホジエステラーゼ(PDE)、60Kdaホスホジエステラーゼ(PDE)、ニトリックオキシドシンターゼ、I型アデニリルシクラーゼ、Bordetella pertussisアデニリルシクラーゼ、ニューロモジュリン、スペクトリン、ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質(MARCKS)、MacMARCKS(F52)、b−Adducin、ヒートショック蛋白質HSP90a、ヒト免疫不全ウイルスエンベロープグリコプロテイン160(HIV−1 gp160)、ブラッシュボーダーミオシン重鎖−I(BBMHBI)、希ミオシン重鎖(MHC)、マストパラン、メリチン、グルカゴン、セクレチン、血管作動性腸ペプチド(VIP)、ガストリン阻害ペプチド(GIP)、又はカルモジュリン結合ペプチド−2(ModelペプチドCBP2)のカルモジュリン結合ドメインである。
好ましくは、リンカー成分は1から30アミノ酸残基のペプチド成分である。
本発明の蛍光指示薬は、好ましくは、さらに局在化配列を含む。好ましくは、局在化配列は核局在化配列、小胞体局在化配列、ペルオキシソーム局在化配列、ミトコンドリア局在化配列、ゴルジ体局在化配列、又は細胞膜局在化配列である。
特に好ましくは、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45又は配列番号46の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光指示薬が提供される。
本発明の別の側面によれば、試料中の分析物質を検出又は測定する方法であって、
(1)試料と本発明の蛍光指示薬とを接触させる工程;
(2)ドナー成分を励起させる工程;及び
(3)試料中の分析物質の濃度や活性に対応した試料中の蛍光共鳴エネルギー転移の程度を測定する工程;
を含む方法が提供される。
好ましくは、試料は生細胞であり、接触工程は蛍光指示薬を細胞中に取り込ませることを含む。好ましくは、細胞へ蛍光指示薬を取り込ませる工程は、蛍光指示薬の発現をコードする核酸配列に作動的に連結した発現調節配列を含む発現ベクターを細胞にトランスフェクションすることを含む。
本発明のさらに別の側面によれば、本発明の蛍光指示薬をコードする核酸、当該核酸を含む発現ベクター、並びに当該核酸又は発現ベクターを有する形質転換体が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、YC3.12及び新規YC変異体の構造とスペクトル特性を示す。図1のAは、元のN末端(Met1)及び新規N末端(Thr49、Gln157、Asp173、Leu195、及びIle229)を有するGFPの三次元構造を示す。図1のBは、YC3.12(配列番号41)、YC3.20(配列番号42)、YC3.30(配列番号43)、YC3.60(配列番号44)、YC3.70(配列番号45)、及びYC3.90(配列番号46)のドメイン構造を示す。XCaMはXenopus calmodulinを示す。E104Qは、三番目のCa2+結合ループの位置12における保存された二座グルタミン酸(E104)からグルタミンへの変異を示す。図1のCは、Ca2+がゼロ(点線)及び飽和(実線)におけるYC変異体の発光スペクトル(435nmで励起)を示す。図1のDは、Ca2+がゼロ及び飽和におけるYC変異体(YC3.12、YC3.20、YC3.30、YC3.60、YC3.70及びYC3.90)の蛍光異方性を示す。図1のEは、pH7.4におけるYC2.60(三角)、YC3.60(丸)及びYC4.60(四角)のCa2+滴定曲線を示す。図1のFは、Ca2+がゼロ及び飽和におけるYC3.60のpH滴定曲線を示す。
図2は、YC3.60及びYC3.12を発現するHeLa細胞中におけるCa2+動態の比較測定を示す。図2のA及びBは、YC3.60(A)及びYC3.12(B)を用いて得た蛍光画像を示す(励起490nm、発光535nm)。目盛棒は10μm。図2のC及びDは、30μMのATPで誘導したHeLa細胞中のYC3.60(C)及びYC3.12(D)を用いて報告されたCa2+の過渡応答を示す。上段:Rmax及びRmin値(それぞれ黒矢頭及び白矢頭で表示)についての発光比(535/480nm)の変化。下段:CFP及びcp173Venus(C)、及びCFP及びVenus(D)の蛍光強度の変化。画像取得間隔は5秒。
図3は、YC3.60を用いたHeLa細胞中の[Ca2+]c及び[Ca2+]pmの共焦点画像観察を示す。図3のAは、[Ca2+]cの伝播を示す一連の共焦点疑似色比率画像を示す。これらの画像はビデオレートで取得した。図3のBは、HeLa細胞の実色画像を示す。上段の細胞には、伝播速度を測定するため6つのROIを設置した。目盛棒:10μm。図3のCは、Bで表示した6つのROI中の[Ca2+]cの変化の時間経過を示す。Rmax及びRminはそれぞれ黒矢頭及び白矢頭で表示する。左側の縦軸は[Ca2+をnMで目盛付けしている。黒い水平の棒は、Aにおいて比率画像が示されている間の時間を表示する。図3のDは、YC3.60pmを発現するHeLa細胞の実色画像を示す。目盛棒:5μm。図3のEは、Dにおいて円で表示した周辺領域中の、[Ca2+]pmのヒスタミンに誘導された変化を示す。Rmax及びRminは、それぞれ黒矢頭及び白矢頭で表示する。左の縦軸は[Ca2+pmをnMで目盛付けしている。図3のFは、糸状足構造体中の[Ca2+]pmの変化を示す一連の共焦点疑似色比率画像を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
前記の通り、カメレオン(Cameleon)及び黄色カメレオン(YC)は、生体中の神経回路の集合活動を調べる際に有用であると期待されている。元のYC及び改良したYCは、インビトロ並びに一過的に遺伝子導入した細胞試料中で明確なCa2+応答を示すが、これらのダイナミックレンジは、インビボではトランスジェニック動物の神経系で有意に減少する。特に、トランスジェニックマウスの脳では、信頼性のあるCa2+測定は成功していない。最近のYC改良体(YC3.12)と比較すると、YC3.60は明るさは同等であるが、ダイナミックレンジは5〜6倍大きい。このように、YC3.60では、S/N比が大きく向上し、従来のYCでは不可能であったCa2+の画像化実験が可能になった。以下の実施例でも示す通り、例えば、YC3.60をHeLa細胞の原形質膜に局在化させることにより、糸状足構造体膜下における[Ca2+]cの変化を測定することができる。
cpGFPの構造を最初に報告したBaird,G.S.,他は、ドナーCFPとしてTyr145に新たなN末端を有するcpCFPを使用することにより、YCのダイナミックレンジの改良を試みた(Baird,G.S.,他、(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96,11241−11246.)。しかし、このcpCFPでは、Ca2+依存性の発光比の変化は15%にまで減少した。本発明者らは、複数のcpYFPをアクセプターとして試験することにより、この手法を改良した。cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus及びcp229Venusを、YFPの明るい変異体であるVenusから作製した。5種のcpVenus蛋白質は全て効率的に成熟した。本発明で作成した上記のcpVenus蛋白質は、発色団合成の酸化反応を大幅に促進する変異であるF46Lを含み、N−末端がβ−バレルの表面露出ループ領域に存在しているためであると考えられる。実際、cpGFPの蛍光の発生速度は、新たなN末端及びC末端の位置に依存する(Topell,S.,他、(1999)FEBS Lett.457,283−289)。CPFとYFP間のFRETに基づいて開発された蛍光指示薬の数は増大しており(Miyawaki,A.(2003)Dev.Cell 4,295−305)、CFPとYFPの2種の発色団の間の相対的距離が変えられている。このように、CFPと組み合わせて用いられるcpVenusは、各用途に対して最適化することができる。また、これをcpCFPと組み合わせて使用すると、ドナー及びアクセプター間の2つの遷移双極子の相対的位置の変化を更に増大させることができる。Ca2+に対するcpGFP系指示薬は数年前に開発されたものであり(Nakai,J.,他、(2001)Nat.Biotechnol.19,137−141;及びNagai,T,他、(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,3197−3202)、cpGFP自体は、FRETと相補的な非常に有用な道具になると期待される。以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
本発明の蛍光指示薬は、分析物質の標的配列の両端にドナー蛍光蛋白質とアクセプター蛍光蛋白質が結合している構造を有し、分析物質が該標的配列に結合又は作用することにより指示薬の立体構造が変化して蛍光共嗚エネルギー転移(FRET)が生じる蛍光指示薬であって、上記ドナー蛍光蛋白質及び/又は上記アクセプター蛍光蛋白質が、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる円順列変異蛍光蛋白質であって、当該円順列変異を施す前の蛍光蛋白質と実質的に同一の蛍光ピーク波長を有する蛍光蛋白質であることを特徴とするものである。
本発明では、FRETにおいてドナー蛋白質及びアクセプター蛋白質として作用する蛋白質をそれぞれ1種ずつ使用する。即ち、本発明では、2種類の異なる蛍光波長を有する蛍光蛋白質を使用し、これらの蛍光蛋白質の間で起きる蛍光共鳴エネルギートランスファーにより生じる蛍光を測定する。本発明で用いる蛍光蛋白質の種類は特に限定されるものではないが、例えば、シアン蛍光蛋白質(CFP)、黄色蛍光蛋白質(YEP)、緑色蛋白質(GFP)、赤色蛍光蛋白質(REP)、青色蛍光蛋白質(BFP)又はそれらの変異体などが挙げられる。
本明細書で言う、シアン蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、緑色蛋白質、赤色蛍光蛋白質、青色蛍光蛋白質又はそれらの変異体とは、各々公知の蛍光蛋白質だけでなく、それらの変異体(例えば、上記蛍光蛋白質の蛍光強度を増強した、ECFP、EYFP、EGFP、ERFP、EBFPなど)の全てを包含する意味である。例えば、緑色蛍光蛋白質の遺伝子は単離され配列も決定されている(Prasher,D.C.ら(1992),“Primary structure of the Aequorea victoria green fluorescent protein”,Gene 111:229−233)。その他の蛍光蛋白質又はその変異体のアミノ酸配列も多数報告されており、例えば、Roger Y.Tsien,Annu.Rev.Biochem.1998.67:509−44、並びにその引用文献に記載されている。緑色蛍光蛋白質(GFP)、黄色蛍光蛋白質(YFP)またはそれらの変異体としては、例えば、オワンクラゲ(例えば、エクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria))由来のものを使用できる。
GFP、YFPとそれらの変異体の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。なお、F99Sという表示は、99番目のアミノ酸残基がFからSに置換していることを示し、他のアミノ酸置換についても同様の表示に従って示す。
野生型GFP;
F99S,M153T,V163Aのアミノ酸変異を有するGFP;
S65Tのアミノ酸変異を有するGFP;
F64L,S65Tのアミノ酸変異を有するGFP;
S65T,S72A,N149K,M153T,I167Tのアミノ酸変異を有するGFP;
S202F,T203Iのアミノ酸変異を有するGFP;
T203I,S72A,Y145Fのアミノ酸変異を有するGFP;
S65G,S72A,T203Fのアミノ酸変異を有するGFP(YFP);
S65G,S72A,T203Hのアミノ酸変異を有するGFP(YFP);
S65G,V68L,Q69K,S72A,T203Yのアミノ酸変異を有するGFP(EYFP−V68L,Q69K);
S65G,S72A,T203Yのアミノ酸変異を有するGFP(EYFP);
S65G,S72A,K79R,T203Yのアミノ酸変異を有するGFP(YFP);
本発明で用いる蛍光蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列は公知である。蛍光蛋白質をコードする遺伝子は市販のものを使用することもできる。例えば、クロンテック社から市販されている、EGFPベクター、EYFPベクター、ECFPベクター、EBFPベクターなどを用いることができる。
本発明ではGFP変異体であるCFP、YFP、RFP又はそれらの変異体を使用することが好ましく、例えば、YFP変異体であるVenusを用いることができる。Venusについては、Nagai,T.他(2002)Nature Biotecnology 20,87−90を参照できる。Venusは、YFPの46番目のフェニルアラニンをロイシンに置換することにより得られる蛍光蛋白質であり、従来のGFPと比較して、大腸菌内で30〜100倍、ほ乳類の細胞内で3〜100倍の明るさを達成し、通常の装置でも十分検出可能な蛍光を提供することができる。
本発明で使用できる他の蛍光分子としては、Vibrio fischeri株Y−1由来の黄色蛍光蛋白質、Peridinin−chlorophyll(dinoflagellate Symbiodinium sp.由来蛋白質)、Synechococcusなどの海洋シアノバクテリア由来のphycobili蛋白質(例えば、フィコエリスリン及びフィコシアニンなど)、又はフィコエリスロビリンで再構築したオート麦由来のオートフィトクロムなどが挙げられる。これらの蛍光蛋白質はBaldwin,T.O.,他,Biochemistry 29:5509−5515(1990),Morris,B.J.,他,Plant Molecular Biology,24:673−677(1994),及びWilbanks,S.M.,他,J.Biol.Chem.268:1226−1235(1993),及びLi他,Biochemistry 34:7923−7930(1995)などに記載されている。
本発明で用いることができるドナー蛋白質/アクセプター蛋白質の組み合わせとしては、CFP/YFP、又はBFP/GFPなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。蛍光蛋白質が融合蛋白質をコードする遺伝子の構築は、当業者に公知の通常の遺伝子組み換え技術を用いて行うことができる。
本発明においては、ドナー蛋白質及び/又はアクセプター蛋白質として、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる円順列変異蛍光蛋白質であって、当該円順列変異を施す前の蛍光蛋白質と実質的に同一の蛍光ピーク波長を有する蛍光蛋白質を使用することを特徴とする。
即ち、円順列変異蛍光蛋白質は、N末端側からC末端側に、以下のアミノ酸配列を順番に有するものである:
(1)元の蛍光蛋白質のN末端からn番目のアミノ酸からC末端までのアミノ酸配列(nは2以上の整数を示す);
(2)2〜20個のアミノ酸配列から成るリンカー配列;及び
(3)元の蛍光蛋白質のN末端の1番目からn−1番目のアミノ酸配列:
元の蛋白質に対して、上記のようにN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより蛋白質の構造を変化させることを、円順列変異(サーキュラーパーミュテーション)とも称する。本発明では、上記した各種蛍光蛋白質に円順列変異(サーキュラーパーミュテーション)を施すことによって、FRETにおいて高いダイナミックレンジを有する新規な蛍光指示薬を作製することに成功したものである。
リンカー配列のアミノ酸配列は、作製される融合蛍光蛋白質がカルシウムイオン指示薬として所望の効果を発揮する限り、特に限定されないが、側鎖が比較的小さいアミノ酸配列を主として含むことが好ましく、また親水性の側鎖を有するアミノ酸が好ましい。アミノ酸の個数は通常2〜20個程度であり、好ましくは3〜10個程度であり、特に好ましくは5〜10個程度である。リンカー配列の具体例としては、Gly−Gly−Ser−Gly−Gly等が挙げられるが、これらに限定されるものでもない。
円順列変異(サーキュラーパーミュテーション)を施す位置は、得られる円順列変異蛍光蛋白質が、円順列変異を施す前の蛍光蛋白質と実質的に同一の蛍光ピーク波長を有する蛍光蛋白質であれば特に限定されないが、好ましくは、元のアミノ酸配列中のβターンに位置するアミノ酸残基においてN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることが好ましい。さらに、前記βターンに位置するアミノ酸残基は、円順列変異蛍光蛋白質の蛍光のダイナミックレンジが、円順列変異を施す前の蛍光蛋白質のダイナミックレンジより向上するような位置のアミノ酸残基であることが特に好ましい。
本発明で用いる蛍光蛋白質の具体例としては、蛍光蛋白質Venusの円順列変異体である、本明細書の実施例で作製したcp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus、又はcp229Venusなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus、又はcp229Venusではそれぞれ、蛍光蛋白質Venusのアミノ酸番号49のThr49、アミノ酸番号157のGln、アミノ酸番号173の173、アミノ酸番号195のLeu、及びアミノ酸番号229のIleにおいて、N末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えられている。
また、本発明の蛍光指示薬の具体例としては、本明細書の実施例で作製したYC3.20(配列番号42)、YC3.30(配列番号43)、YC3.60(配列番号44)、YC3.70(配列番号45)、及びYC3.90(配列番号46)が挙げられる。
本発明の蛍光指示薬の具体的な構成としては、
蛍光指示薬がさらに標的ペプチド成分とリンカー成分を含み、分析物質の標的配列が標的ペプチド成分を結合するためのペプチド結合ドメインをさらに含み、
リンカー成分が分析物質の標的配列と標的ペプチド成分とを共有的に結合し、標的配列と標的ペプチド成分がアクセプター蛍光分子成分又はドナー蛍光分子成分の何れかに共有的に結合し、
標的配列に結合した分析物質が標的ペプチド成分及びペプチド結合ドメインの相対的位置又は方向の変化を誘導し、次いでドナー分子及びアクセプター分子成分の相対的位置又は方向に変化が生じ、これにより蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の効率に変化が生じるような蛍光指示薬を作製することができる。
本発明では、標的配列としてCa2+によって構造変化を起こすドメインのN末端とC末端に蛍光分子を結合させたものを作製し、蛍光指示薬を作製した。このような蛍光指示薬を用いることにより、細胞内Ca2+濃度の変化をモニターすることが可能になる。
「共有的に結合」とは、共有結合又は2分子間の他の共有的連結を意味する。共有的な連結としては、2分子を連結する二価成分が挙げられる。
「標的配列」とは、分析物質と結合できるアミノ酸配列を意味する。好ましい標的配列は、分析物質と結合すると立体構造が変化する。
「標的ペプチド」は標的配列と結合できるペプチドを意味する。標的ペプチドは、標的配列と結合するペプチドの部分配列である。
「分析物質」は、標的配列に結合する溶液中の分子又はイオンを意味し、標的配列の立体構造を変化させるものである。分析物質は標的配列に可逆的に結合しても非可逆的に結合してもよい。
蛍光分子成分は標的配列成分のアミノ末端及びカルボキシ末端に共有的に結合していることが好ましい。これにより、ドナー蛍光分子成分及びアクセプター蛍光分子成分は、分析物質が結合した際に互いに密接に移動できる。あるいは、ドナー及びアクセプター成分は、分析物質の結合の際に互いに離れるように移動してもよい。一例としては、アクセプター成分は、標的配列成分に結合している標的ペプチド成分に共有的に結合し、標的ペプチド成分はリンカー成分を介して標的配列成分に共有的に結合している。リンカー成分はフレキシブルなもので、標的ペプチド成分が標的配列成分に結合することができる。ドナー成分は、ドナー成分の励起スペクトル内の適当な強さの光によって励起される。ドナー成分は吸収したエネルギーを蛍光として放出する。アクセプター蛍光分子成分が励起状態のドナー成分を消光できる位置に存在する場合、蛍光エネルギーはアクセプター成分に転移されて、蛍光が放出される。
ドナー及びアクセプター蛍光分子成分間のFRETの効率は、2つの蛍光分子が相互作用する能力を調節することによって調節することができる。標的配列成分、標的ペプチド成分及びリンカー成分の性質もFRET及び分析物質に対する指示薬の応答に影響する。通常、大きな立体構造変化が標的配列成分に生じることが望ましい。
標的配列成分は、分析物質の結合に際して立体構造が変化する蛋白質又はその一部である。そのような蛋白質の例としては、カルモジュリン(CaM)、cGMP−依存性蛋白質キナーゼ、ステロイドホルモン受容体(又はそのリガンド結合ドメイン)、プロテインキナーゼC、イノシトール−1,4,5−トリホスフェート受容体、又はレコベリンなどが挙げられる(例えば、Katzenellenbogen,J.A.& Katzenellenbogen,B.S.Chemistry & Biology 3:529−536(1996),及びAmes,J.B.,他、Curr.Opin.Struct.Biol.6:432−438(1996)を参照)。標的配列成分は好ましくは、分析物質以外に標的ペプチドにも結合する。
標的ペプチド成分は以下の表1に記載の任意のアミノ酸配列またはその一部を含むことができる。但し、標的ペプチドは標的配列成分に結合できなくてはならない。標的ペプチドは、カルモジュリン結合ドメインの部分配列でもよい。表1に挙げた標的ペプチド成分は標的配列成分CaMによって認識される(例えば、Crivici,A.& Ikura,M.Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.24:84−116(1995)を参照)。標的ペプチド成分を改変して、分析物質に対する蛍光指示薬の応答を増強してもよい。他の標的配列に対する他の標的ペプチド成分も当業者には既知である。

略号の説明
AC,アデニリルシクラーゼ;
BBMHCI,brush−border ミオシン重鎖−I;
CaMKII,カルモジュリンキナーゼII;
CBP2,カルモジュリン結合ペプチド−2;
GIP,ガストリン阻害ペプチド;
HIV−1 gp160,ヒト免疫不全ウイルスエンベロープ糖蛋白質160;
HSP,ヒートショック蛋白質;
MARCKS,ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質;
MHC,ミオシン重鎖;
NOS,ニトリックオキシドシンターゼ;
PDE,ホスホジエステラーゼ;
PFK,ホスホフルクトキナーゼ
PhK,ホスホリラーゼキナーゼ;
sk−,smMLCK,骨格筋及び平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼ;
VIP,血管作動性腸ペプチド
リンカー成分の長さは、FRET及び、分析物質の結合により立体構造変化の速度及び特異性を最適化するように選択する。リンカー成分は、標的配列成分と標的ペプチド成分とが自由に相互作用して分析物質濃度に応答できるような長さと柔軟さを有することが好ましい。FRET効果を最適化するために、ドナー及びアクセプター蛍光分子成分の平均距離は、好ましくは約1nmから約10nmであり、より好ましくは約1nmから約6nmであり、特に好ましくは1nmから約4nmである。リンカー分子が短すぎたり堅固すぎると、ドナー及びアクセプター分子成分は容易に位置を変えることができない。リンカー成分が長すぎると、標的ペプチド成分は効率的に標的配列成分に結合できない。リンカー成分は好ましくはペプチド成分である。好ましいリンカー成分は、1〜30アミノ酸残基、好ましくは1〜15アミノ酸残基のペプチドである。リンカーの一例は、−Gly−Gly−リンカーである。
リンカー成分はフレキシブルなスペーサーアミノ酸配列を含んでもよい。リンカー成分については、例えば、Huston,J.S.,他,PNAS 85:5879−5883(1988),Whitlow,M.,他,Protein Engineering 6:989−995(1993),及びNewton,D.L.,他,Biochemistry.35:545−553(1996)などに記載されている。
標的配列は、分析物質が結合又は作用して指示薬の立体構造を変化させるものであればよく、例えば、酵素によって認識されて切断される配列でもよい。例えば、標的配列としてプロテアーゼの基質部位を使用することができる。プロテアーゼとしてカスペース3を用いる場合は、標的配列のアミノ酸配列としてDEVDを使用することができる。
蛍光指示薬には局在化配列が含まれていてもよい。局在化配列により、指示薬は、好適な細胞内小器官標的シグナル又は局在化宿主蛋白質と融合することにより細胞内の特定の部位に運ばれる。局在化配列又はシグナル配列をコードするポリヌクレオチドを蛍光指示薬をコードするポリヌクレオチドの5’末端に連結又は融合することができ、これによりシグナルペプチドは生じる融合ポリヌクレオチド又はポリペプチドのアミノ末端に位置することができる。
真核細胞の場合、シグナルペプチドは融合ポリペプチドを小胞体を経由して輸送する機能を有すると考えられている。分泌蛋白質は次いでゴルジ体に運ばれ、分泌小胞及び細胞外空間、そして好ましくは外部環境に運ばれる。本発明で使用できるシグナルペプチドは、蛋白質分解酵素認識部位を含むプレプロペプチドでもよい。
局在化配列は核局在化配列、小胞体局在化配列、ペルオキソーム局在化配列、ミトコンドリア局在化配列、又は局在化蛋白質でもよい。局在化配列は、例えば、″Protein Targeting″,35章、Stryer,L.,Biochemistry(4th ed.).W.H.Freeman,1995に記載されている標的配列でもよい。局在化配列は、局在化蛋白質でもよい。局在化配列の具体例としては、核を標的とする配列(KKKRK)(配列番号32)、ミトコンドリアを標的とする配列(アミノ末端がMLRTSSLFTRRVQPSLFRNILRLQST−)(配列番号33)、小胞体を標的とする配列(KDEL(配列番号34)、C−末端に)(シグナル配列はN末端に存在する)、ペルオキシソームを標的とする配列(SKL(配列番号35)、C−末端に)、細胞膜へのプレニレーション又は挿入を標的とする配列([CaaX]CAAX(配列番号36),CC(配列番号37),CXC(配列番号38),又はCCXX(配列番号39)、C−末端に)、細胞膜の細胞質側を標的とする配列(SNAP−25への融合)、又はゴルジ体を標的とする配列(furinへの融合)などが挙げられる。
蛍光指示薬は組み換えDNA技術により融合蛋白質として製造できる。蛍光蛋白質の組み換え生産は、蛋白質をコードする核酸の発現により行う。蛍光蛋白質をコードする核酸は、当業者に既知の方法で入手できる。例えば、蛋白質をコードする核酸は、オワンクラゲ緑色蛍光蛋白質のDNA配列に基づいたプライマーを用いてオワンクラゲ由来cDNAのPCRによって単離することができる。蛍光蛋白質の各種変異体は、蛍光蛋白質をコードする核酸の部位特異的変異誘発又はランダム変異誘発によって作製することができる。ランダム変異誘発は、0.1mM MnClを用いたりヌクレオチド濃度のバランスを崩してPCRを行うことにより行うことができる
発現ベクターの構築及びトランスフェクションした細胞での遺伝子の発現は、当業者に公知の分子クローニング手法に従って行うことができる。これらの詳細は、Sambrook他,Molecular Cloning−−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,(1989)、並びにCurrent Protocpls in Molecular Biology,F.M.Ausubel他,eds.,(Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,most recent Supplement)に記載されている。
ポリペプチドの発現をコードする配列で細胞をトランスフェクションするために使用する核酸は一般に、ポリペプチドの発現をコードするヌクレオチド配列に作動的に連結した発現調節配列を含む発現ベクターである。ここで言う″ポリペプチドの発現をコードするヌクレオチド配列″とは、mRNAの転写及び翻訳により、ポリペプチドを産生する配列を言う。例えば、イントロンを含む配列もこれに含まれる。ここで言う″発現調節配列″とは、それが作動的に連結している核酸の発現を調節する核酸配列を言う。発現調節配列が核酸配列の転写及び翻訳を調節および制御する際に、発現調節配列は核酸配列に作動的に連結している。発現調節配列は、好適なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、蛋白質コード遺伝子の前の開始コドン(即ち、ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、及び停止コドンなどを含むことができる。
当業者に周知の方法を使用して、蛍光指示薬のコード配列と、適当な転写・翻訳調節シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法としては、インビトロ組み換えDNA技術、合成技術、インビボ組み換え・遺伝組み換えなどが挙げられる(例えば、Maniatis,他,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,1989に記載の技術を参照)。組み換えDNAによる宿主細胞の形質転換は当業者に周知の慣用技術によって行うことができる。宿主細胞が大腸菌などの原核細胞である場合、DNAを取り込むことができるコンピテント細胞は、対数増殖期後に回収し、当業者に周知のCaCl法で処理した細胞を用いて作製することができる。あるいは、MgCl又はRbClを使用することもできる。形質転換は、宿主細胞のプロトプラストを作成後、またはエレクトロポレーションにより行うことができる。
宿主細胞が真核細胞である場合、リン酸カルシウム共沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソーム又はウイルスベクターに封入したプラスミドの挿入などのDNAトランスフェクション法を使用することができる。真核細胞は、本発明の融合ポリペプチドをコードするDNA配列と、単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子などの適当な表現型をコードする外来DNA分子とを一緒にトランスフェクションすることができる。サルウイルス40(SV40)又はウシパピローマウイルスなどの真核ウイルスベクターを使用して、真核細胞を一過的に感染または形質転換して蛋白質を発現させることもできる(Eukaryotic Viral Vectors,Cold Spring Harbor Laboratory,Gluzman ed.,1982を参照)。好ましくは、真核細胞宿主を宿主細胞として使用する。
微生物又は真核細胞で発現させた本発明のポリペプチドの単離及び精製方法は任意の慣用方法を使用することができ、例えば、プレパラティブクロマトグラフィー分離及び免疫学的分離(モノクローナル又はポリクローナル抗体又は抗原を使用することを含むものなど)などが挙げられる。
蛍光指示薬をコードする配列を発現させるために、各種の宿主/発現ベクター系を使用することができる。例えば、蛍光指示薬をコードする配列を含む組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、又はコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌;蛍光指示薬をコードする配列を含む組み換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母;蛍光指示薬をコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)を感染させた植物細胞、又は蛍光指示薬をコードする配列を含む組み換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換した植物細胞;蛍光指示薬をコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)を感染させた昆虫細胞系:あるいは、蛍光指示薬をコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス)を感染させた動物細胞系などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する宿主/ベクター系に応じて、適当な転写及び翻訳要素(例えば、構成的又は誘導性プロモーター、転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなど)を発現ベクター中で使用することができる(例えば、Bitter,他,Methods in Enzymology 153:516−544,1987を参照)。例えば、細菌系にクローニングする場合、バクテリオファージλ、plac、ptrp、ptac(ptrp−lacハイブリッドプロモーター)のpLなどの誘導性プロモーターを使用することができる。哺乳動物細胞系にクローニングする場合、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)又は哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、レトロウイルスロングターミナルリピート;アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーターなど)を使用することができる。組み換えDNA又は合成技術で作製したプロモーターを使用して蛍光指示薬をコードする挿入配列を転写させることもできる。
細菌系では、発現する蛍光指示薬の意図する用途に応じて多数の発現ベクターを有利に選択することができる。例えば、大量の蛍光指示薬を産生させる場合には、容易に精製される融合蛋白質産物の高量の発現を指令するベクターが望ましい。蛍光指示薬の回収を助ける切断部位を含むように加工したものが好ましい。
酵母では、構成的又は誘導性のプロモーターを含む多数のベクターを使用することができる。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Vol.2,Ed.Ausubel,他,Greene Publish.Assoc.& Wiley Interscience,Ch.13,1988;Grant,他.,Expression and Secretion Vectors for Yeast,in Methods in Enzymology,Eds.Wu & Grossman,31987,Acad.Press,N.Y.,Vol.153,pp.516−544,1987;Glover,DNA Cloning,Vol.II,IRL Press,Wash.,D.C.,Ch.3,1986;並びに、Bitter,Heterologous Gene Expression in Yeast,Methods in Enzymology,Eds.Berger & Kimmel,Acad.Press,N.Y.,Vol.152,pp.673−684,1987;及びThe Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces,Eds.Strathern他.,Cold Spring Harbor Press,Vols.I and II,1982などを参照することができる。ADH又はLEU2などの構成的酵母プロモーターあるいはGALなどの誘導性プロモーターを使用することができる(Cloning in Yeast,Ch.3,R.Rothstein In:DNA Cloning Vol.11,A Practical Approach,Ed.DM Glover,IRL Press,Wash.,D.C.,1986)。あるいは、酵母の染色体への外来DNAの組み込みを促進するベクターを使用することもできる。
植物の発現ベクターを使用する場合、蛍光指示薬をコードする配列の発現は、プロモーターにより促進することができる。例えば、CaMVの35S RNA及び19S RNAプロモーターなどのウイルスプロモーター(Brisson,他,Nature 310:511−514,1984)、又はTMVに対するコート蛋白質プロモーター(Takamatsu,他,EMBO J.6:307−311,1987)を使用できる。あるいは、RUBISCOの小型サブユニット(Coruzzi,他,1984,EMBO J.3:1671−1680;Broglie,他,Science 224:838−843,1984)などの植物プロモーター、又はヒートショックプロモーター(例えば、大豆hsp17.5−E又はhsp17.3−B(Gurley,他,Mol.Cell.Biol.6:559−565,1986)など)を使用してもよい。これらの構築物は、Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウイルスベクター、直接DNA形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどによって植物に導入することができる。これらの技術については、例えば、Weissbach & Weissbach,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,NY,Section VIII,pp.421−463,1988;及びGrierson & Corey,Plant Molecular Biology,2d Ed.,Blackie,London,Ch.7−9,1988などに記載されている。
昆虫系を使用して蛍光指示薬を発現することも可能である。例えば、オートグラファカリフォルニア核多角体病ウイルス(AcNPV)をベクターとして使用して外来遺伝子を発現することができる。このウイルスは、Spodoptera frugiperda細胞で生育する。蛍光指示薬をコードする配列をこのウイルスの非本質領域(例えば、多角体病遺伝子)中にクローニングし、AcNPVプロモーターの制御下に置く。蛍光指示薬をコードする配列を正しく挿入した場合、多角体病遺伝子は不活化し、未閉塞の組み換えウイルスが産生する。これらの組み換えウイルスを使用してSpodoptera frugiperda細胞に感染させ、その細胞内で挿入した遺伝子を発現させることができる(例えば、Smith,他,J.Viol.46:584,1983;及び米国特許第4,215,051号を参照)。
真核細胞系、好ましくは哺乳動物細胞の発現系を使用することにより、発現した哺乳動物の蛋白質の適切な翻訳後修飾を行うことが可能になる。一次転写物の適切なプロセシング、グリコシル化、リン酸化、及び遺伝子産物の分泌のための細胞機構を有する真核細胞を、蛍光指示薬の発現のための宿主細胞として使用することが好ましい。そのような宿主細胞株としては、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、Jurkat、HEK−293、並びにWI38などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
組み換えウイルス又はウイルス要素を利用して発現を指令する哺乳動物細胞系を構築することができる。例えば、アデノウイルス発現ベクターを使用する場合、蛍光指示薬をコードする配列をアデノウイルス転写/翻訳調節複合体(例えば、後期プロモーター及び3つのリーダー配列など)に連結することができる。このキメラ遺伝子をインビトロ又はインビボ組み換えによりアデノウイルスゲノムに挿入することができる。ウイルスゲノムの非本質領域(例えば、E1又はE3領域)への挿入により感染宿主で生存可能で蛍光指示薬を発現することができる組み換えウイルスが得られる(例えば、Logan & Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:3655−3659,1984を参照)。あるいは、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーターを使用することができる(例えば、Mackett,他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:7415−7419,1982;Mackett,他,J.Virol.49:857−864,1984;Panicali,他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:4927−4931,1982を参照)。染色体外要素として複製する能力を有するウシパピローマウイルスに基づくベクターを使用することも可能である(Sarver,他,Mol.Cell.Biol.1:486,1981)。このDNAをマウス細胞に導入した直後に、プラスミドは細胞当たり約100〜200コピー複製する。挿入したcDNAの転写には、プラスミドが宿主の染色体に組み込まれることは必要ではなく、これにより高レベルの発現が生み出される。これらのベクターは、neo遺伝子などの選択マーカーをプラスミド中に含めることによって安定した発現のために使用することができる。あるいは、レトロウイルスゲノムを改変して、宿主細胞内での蛍光指示薬遺伝子の発現を誘導及び指令することができるベクターとして使用することができる(Cone & Mulligan,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6349−6353,1984)。高レベルの発現は、メタロチオニンIIAプロモーター及びヒートショックプロモーターなどの誘導性プロモーターを使用することによって達成することができる。
組み換え蛋白質の長期間の高収量の生産のためには、安定な発現が好ましい。ウイルスの複製起点を含む発現ベクターを使用する代わりに、宿主細胞は、適当な発現調節要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニレーション部位など)および選択マーカーで調節された蛍光指示薬cDNAで形質転換することができる。組み換えプラスミド中の選択マーカーは選択に対する耐性を付与し、細胞が染色体にプラスミドを安定に組み込み、成長してコロニーを形成し、これをクローニングして細胞株として樹立することができる。例えば、外来DNAの導入後、組み換え細胞を富裕培地で1〜2日間増殖させ、その後に選択培地に切り替えることができる。多数の選択系を使用することができるが、例えば、単純ヘルペスチミジンキナーゼ(Wigler,他,Cell,11:223,1977)、ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,48:2026,1962)、及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy,他,Cell,22:817,1980)遺伝子をそれぞれ、tk−,hgprt−又はaprt細胞で使用することができる。また、代謝拮抗物質耐性を、メソトレキセートに対する耐性を付与するdhfr(Wigler,他,Proc Natl.Acad.Sci.USA,77:3567,1980;O’Hare,他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,8:1527,1981)、ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(Mulligan & Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:2072,1981)、アミノグルコシドG−418に対する耐性を付与するneo(Colberre−Garapin,他,J.Mol.Biol.,150:1,1981)、及びハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerre,他,Gene,30:147,1984)遺伝子の選択の基礎として使用することができる。
近年、さらに別の選択遺伝子が報告されている。例えば、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを使用することを可能にするtrpB、細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを使用することを可能にするhisD(Hartman & Mulligan,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:8047,1988)、並びに、オルニチンデカルボキシラーゼインヒビターである2−(ジフルオロメチル)−DL−オルニチンに対する耐性を付与するODC(ornithine decarboxylase)(McConlogue L.,In:Current Communications in Molecular Biology,Cold Spring Harbor Laboratory,ed.,1987)などが挙げられる。
本発明の蛍光指示薬ポリペプチドをコードするDNA配列は、適当な宿主細胞にDNA導入することによりインビトロで発現することができる。即ち、本発明の組み換え蛍光蛋白質は、大腸菌などの原核細胞、又は酵母や哺乳動物細胞などの真核細胞において核酸を発現することによって作製することができる。
構築物は、蛍光指示薬の単離を簡単にするためのタグを含んでいてもよい。例えば、6個のヒスチジン残基からなるポリヒスチジンタグを蛍光蛋白質のアミノ末端に付加することができる。ポリヒスチジンタグにより、ニッケルキレートクロマトグラフィーにより一回の操作で蛋白質を簡単に単離することが可能になる。
好ましくは、本発明の蛍光指示薬は、組み換えDNA技術で作製した融合蛋白質である。ここで、シングルポリペプチドは、ドナー成分、ペプチドリンカー成分及びアクセプター成分を含む。ドナー成分は、ポリペプチド中のアクセプター成分に対してアミノ末端側に位置することができる。そのような融合蛋白質は通常以下のような構造を有する:(アミノ末端)ドナー蛍光蛋白質−ペプチドリンカー成分−アクセプター蛍光蛋白質(カルボキシ末端)。あるいは、ドナー成分は、融合蛋白質中のアクセプター成分に対してカルボキシ末端に位置してもよい。そのような融合蛋白質は通常以下の構造を有する:(アミノ末端)アクセプター蛍光蛋白質−ペプチドリンカー成分−ドナー蛍光蛋白質(カルボキシ末端)。さらに、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端に付加的なアミノ酸配列(例えば、ポリヒスチジンタグなど)を含む融合蛋白質も本発明に包含される。
組み換え核酸によってコードされる蛍光指示薬は、ドナー蛍光蛋白質、アクセプター蛍光蛋白質及びペプチドリンカー成分の発現をコードする配列を含む。各構成要素は、融合蛋白質への発現により、ドナー成分が励起する際にドナー及びアクセプター成分がFRETを示すように選択される。組み換え核酸は、組み換え核酸に作動的に連結した発現調節配列を含む発現ベクター内に組み込むことができる。発現ベクターは、適当なプロモーター、複製配列、マーカーなどを含むことによって原核細胞または真核細胞で機能するように構成することができる。
発現ベクターは、組み換え核酸の発現のために宿主細胞にトランスフェクションすることができる。宿主細胞は、蛍光指示薬融合蛋白質を精製するために高レベルの発現のために選択することができる。大腸菌(E.coli)はこの目的に有用である。あるいは、宿主細胞は、その他の原核細胞でも真核細胞でもよい。細胞は培養細胞でもインビボの細胞でもよい。以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
A.方法
(1)遺伝子の構築
cpVenus変異体の5’領域のcDNAを、BamHI部位を含有するセンスプライマー及び天然のN−及びC−末端の間にリンカー(GGSGG)をコードする配列を含むリバースプライマーを用いて、PCRにより増幅した。PCRにより、これらの3’領域のcDNAは、リンカーをコードする配列により5’末端を、EcoRI部位を含む配列により3’末端を、PCRにより伸長した。cpVenus変異体の完全なcDNAは、BamHI及びEcoRI含有プライマーを有する2種のPCR産物の混合物を用いて増幅した。制限処理された産物を、pRSET(Invitrogen)のBamHI/EcoRI部位にインフレームでクローニングし、cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus、及びcp229Venusを作製した。次いで、cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus又はcp229VenusのcDNAの5’末端をPCRにより修飾して、SacI部位を導入した。SacI認識部位によりコードされるこのN−末端EL(Glu−Leu)配列の後ろには、5種の変異体において、Met残基、次いでそれぞれThr49、Gln157、Asp173、Leu195及びIle229が続いている。SacI/EcoRI断片をYC3.12/pRSET中のVenusをコードしている遺伝子と置換して、それぞれYC3.20、YC3.30、YC3.60、YC3.70、及びYC3.90を作製した。YC2.60及びYC4.60は、CaMドメインを交換することにより、YC3.60から作製した。哺乳動物での発現のため、YC3.12及びYC3.60のcDNAをpcDNA3(Invitrogen)にサブクローニングした。YC3.60を原形質膜下に局在させるため、Ki−RasのCAAXボックスを、リンカー配列(GTGGSGGGTGGSGGGT)(配列番号40)を介してYC3.60のカルボキシル末端に融合させた。
(2)蛋白質発現、インビトロ分光法、Ca2+及びpH滴定
N−末端にポリヒスチジンタグを持つ組み換えYC蛋白質を、既報の通り(Miyawaki A.,他、(1997)Nature 388,882−887)、室温でEscherichia coli[JM109(DE3)]に発現させ、精製し、分光学的に同定した。BECON(Takara)を用いて、440DF20励起フィルター及び535DF25発光フィルターを使用して、定常状態の蛍光分極を測定した。Ca2+滴定は、0,09ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール−N,N,N9,N9四酢酸(EGTA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N9,N9三酢酸(EDTA−OH)又はニトリロ三酢酸(NTA)を用いて調製したCa2+フリー及びCa2+飽和の緩衝液の相互希釈により実施した。pH滴定は、既報の通り(Nagai,T,他、(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,3197−3202)、pH5.8〜8.4で調製した一連の緩衝液を用いて行った。
(3)細胞培養及びトランスフェクション
HeLa細胞は、10%の熱不活化ウシ胎児血清を含有するDulbeccoの改変Eagle培地で増殖させた。細胞に、Superfect(QIAGEN)を用いてYC3.60又はYC3.12をコードする発現ベクターをトランスフェクションした。
(4)画像化
トランスフェクション後2〜4日間、Hankの平衡塩溶液緩衝液(GIBCO)中のHeLa細胞を画像化した。UApo40x,1.35NA油浸対物レンズを用いたIX−70倒立顕微鏡(オリンパス)上で、広視野蛍光観察を行った。YCによる二重発光画像化は、440DF20励起フィルター、455DRLPダイクロイックミラー及び、2個の発光フィルター(CFPに対して480DF30、YFPに対して535DF25)を、フィルター交換装置(Lambda 10−2,Sutter instruments)を用いて交互に使用して行なった。干渉フィルターはOmega Opticalから入手した。YCからの蛍光発光を、冷却CCDカメラ(Cool SNAP fx,Roper Scientific)を用いて画像化した。画像の取得及び解析はMetamorph/Metafluor5.0ソフトウェア(Universal Imaging)を用いて行なった。共焦点FRETビデオ画像は、PlanApo60x,1.4NA油浸対物レンズを備えたIX−71(オリンパス)、回転円盤型共焦点装置(CSU21,横河)、ダイオードポンプ固体レーザー(430nm,日立)、及び3CCDカラーカメラ(ORCA−3CCD、浜松ホトニクス)を用いて取得した。画像の取得と解析はAquacosmos 2.5ソフトウェア(浜松ホトニクス)を用いて行なった。
B.結果
(1)YC3.12及び新規YC変異体の構造とスペクトル特性(図1)
野生型のN末端及びC末端を結合するためのGGSGGペプタペプチドリンカーを用いて、Venusに対して円順列変異を行なった。新末端は、β−バレルの表面に露出したループ領域に導入した。cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus、及びcp229Venusは、それぞれThr49、Gln157、Asp173、Leu195及びIle229の新たなN末端を有する。細菌及び哺乳類培養細胞で発現した場合、これらの蛋白質は、効率的に成熟し、酸性化に対する耐性は親蛋白質Venusと同程度であった。Met1、Thr49、Gln153、Asp173、Leu195及びIle229はβ−バレルの異なる部位に存在するので、Venusに加えてこれらのcpVenus蛋白質を使用することにより、YC複合体中でYFPの相対的な空間方向に顕著な変化をもたらすことができる。特に、Thr49及びAsp173は、他の残基からβ−バレルの他端に移動している(図1A)。
親YCとしては、単相性のCa2+感度のために、YC3.12(Nagai,T.,他、(2002)Nat.Biotechnol.20,87−90)を初めに使用した。これは、CaMの三番目のCa2+結合部位中に保存されたグルタミン酸(E104)の変異を有し、YC3グループに属する。YC3.12中のVenusを、cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus及びcp229Venusで置換して、YC3.20、YC3.30、YC3.60、YC3.70及びYC3.90を作製した(図1B)。これらの新規YCは全て、YC3.12と同様に、細菌中で効率的に発現し、フォールディングする。次に、インビトロ実験でこれらのCa2+感度を試験した。意外にも、YC3.60では、Ca2+が0と飽和濃度の間でCFPに対するYFPの放射比が数倍増加し、YC3.30、YC3.70及びYC3.90ではYC3.12と同様のダイナミックレンジを示した。YC3.20はCa2+に僅かな応答のみを示した(図1C)。Venusの代わりにcp173Venusに置換すると、一般的にはCFPからのFRETに好適であったが、この効果は、複合体のCa2+欠乏型(Rmin:0.87(YC3.12)対1.4(YC3.60))の場合よりも複合体のCa2+飽和型(Rmax:1.8(YC3.12)対9.3(YC3.60))の場合の方が顕著であった(表2A)。CFPとYFPの発色団の間の相対角度を試験するために、CFPの440nmにおける励起と、YFPの535nmにおける発光により、定常状態の偏光度(異方性)を測定した。Ca2+依存性の異方性の減少は、CFPに対するYFPの発光比の増加と相関していた(図1D)。
YC3.60の発光比(535/480)は、見掛けの解離定数(K’d)が0.25μM,Hill定数(n)が1.7と共に単相性のCa2+依存性を示した(図1E、丸)。YC3.60のCa2+親和性を変化させるために、変異型CaMを野生型CaM又は一番目のCa2+結合ループに変異を含有するCaM(E31Q)の何れかで置換した(Miyawaki A.,他、(1997)Nature 388,882−887)。得られたYCは、YC2及びYC4グループに属し、それぞれYC2.60及びYC4.60と称する。YC2.60はほぼ単相性の応答を示した(K’d,40nM;n,2.4)。0.2〜0.3μMにおいて、滴定曲線に小さな窪みがあり(図1E、三角)、元のCaM−M13ハイブリッド蛋白質の二相性のCa2+感度が連想させる(Miyawaki A.,他、(1997)Nature 388,882−887;及びPorumb,T.,他、(1994)Protein Eng.7,109−115)。既報の通り(Miyawaki A.,他、(1997)Nature 388,882−887;及びPorumb,T.,他、(1994)Protein Eng.7,109−115)、YC4.60中のE31Qは、明白な二相性の応答(K’d,58nM;n,1.7;K’d,14.4μM;n,0.87)と共に著しく低いCa2+親和性を示した(図1E、四角)。YC3.60で達成された高いダイナミックレンジ(570%)はYC2.60で維持されたが、YC4.60(ダイナミックレンジ、360%)においては若干減衰した。YC4.60の高親和性成分及び低親和性成分は、応答の41%及び59%に寄与していた。cpVenus蛋白質は、EYFP−V68L/Q69K(EYFP.1)又はVenusと同様の酸感度(pKa=6.0)を示したので、YC3.60は、YC3.1及びYC3.12と同じpH耐性であることが期待された。図1FのpH滴定曲線は、生理的なpH範囲(6.5〜8.2)においてCa2+の存在下及び非存在下においてYFP/CFP比が有意に変化しないことを示している。しかし、YC3.1及びYC3.12と比較すると、YC3.60はpH変化によってノイズを圧倒する大きなCa2+依存性応答を示し、S/N比が著しく向上する。YCの変異体の特性を表2A及び2Bに示す。表2のAは、従来のYC変異体及び新規のYC変異体のCa2+応答を示す。表2のBは、YC3.60及びその誘導体の対Ca2+親和性を示す。

(2)YC3.60及びYC3.12を発現しているHeLa細胞中のCa動態の比較測定(図2)
YC3.12よりもYC3.60が優位であることは、HeLa細胞の細胞質内の遊離Ca2+の濃度([Ca2+s)を観察した実験において、明暸に実証された。YC3.60又はYC3.12をコードする同量のcDNAをトランスフェクトしたHeLa細胞は、細胞質内区画において明るさの等しい蛍光シグナルを産生した(それぞれ図2A及び2B)。図2C及び2Dは、それぞれYC3.60及びYC3.12を発現しているHeLa細胞由来の空間平均YFP/CFP比の時間経過を示す。YC3.60は、YC3.12よりも、超極大量のATP(30μM)に対する応答が非常に大きく、Rminに対するRmaxの比率はほぼ6倍大きかった。この比較は、2種のYC間でのCa2+親和性の差異も示している(YC3.60ではK’d=0.25μMであるのに対し、YC3.12ではK’d=1.25μM)。YC3.60のRmax値及びRmin値は共に、YC3.12では対応する値において細胞間でのバラつきが見られるのに対して、図3Aに示した3種の細胞及びHeLa細胞においては、同じ顕微鏡システムで実施した4回の他の実験において変化しなかった。(Rmax,8.06±0.16,n=12;Rmin,1.37±0.10,n=12)。
(3)YC3.60を用いたHeLa細胞中の[Ca2+]cおよび[Ca2+]pmの共焦点画像化
YC3.60の大きなダイナミックレンジと明るさは、[Ca2+]c画像化の時間的及び空間的な両方の解像度の実質的な改良を可能にする。YFPとCFPの画像を迅速かつ同時に得るために、3個のCCDチップ(RGB:赤、緑及び青)及びプリズ厶で構成されるカラーカメラを用いた。画像化のために、YFPおよびCFP画像は、それぞれG及びBチップで捕捉した。また、z軸に沿う空間解像度を改良するために、カメラの前に回転ディスクユニットを置いた。YC3.60を発現するHeLa細胞の共焦点の実色画像を図3Bに示す。蛍光は細胞質内区画に均一に分布したが、ミトコンドリア並びに核からは除外されていた。ビデオ速度で得た一連の疑似色の比率画像(図3A)は、ヒスタミンによる刺激後に、[Ca2+]cの増加が個々の細胞内に出現して増加していく様子を示す。増殖速度は、一個の細胞内の6列に並んだ関心領域(ROI)の[Ca2+]cの時間経過から30μm/sであると計算された(図3B及び3C)。
YC3.60の利点を実証するために、Ki−Rasの膜アンカー配列を指示薬のC−末端に融合させすることにより、YC3.60を原形質膜へターゲッティングさせた(YC3.60pm)。同様の膜ターゲッティング手法を用いた場合、従来のYCでは原形質膜下のCa2+動態を観察できなかった。YC3.60pmの蛍光は周辺構造及び糸状足構造まで分布していた(図3D)。原形質膜下の遊離Ca2+度([Ca2+pm)を定量的に測定した(図3E)。ヒスタミンの適用前の[Ca2+pmは[Ca2+の基礎量より僅かに高かった。これは、顕微鏡では見えない環境中に高[Ca2+]のマイクロドメインが存在することを示唆している可能性がある(Marsault,R.,他、(1997)EMBO J.16,1575−1581)。[Ca2+]pmにおける同様の変化が糸状足構造体においても観察された(図3F)。
【産業上の利用可能性】
本発明の蛍光指示薬においては、円順列突然変異を施した蛍光蛋白質を用いることにより、エネルギー供与体とエネルギー受容体との相対的位置関係について多様化させることができるようになった。その結果、様々な蛍光指示薬において、ダイナミックレンジを増大することが可能になった。さらに本発明の蛍光指示薬は、細胞又は生体への遺伝子導入によりin situで作製することができるため、大量の可溶性組み換え蛋白質を発現及び精製し、それをインビトロで精製及び標識し、細胞にマイクロインジェクションで戻す必要がない。また、本発明の蛍光指示薬は、細胞構造を標的とすることができる。
【配列表】

































【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物質の標的配列の両端にドナー蛍光蛋白質とアクセプター蛍光蛋白質が結合している構造を有し、分析物質が該標的配列に結合又は作用することにより指示薬の立体構造が変化して蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が生じる蛍光指示薬において、上記ドナー蛍光蛋白質及び/又は上記アクセプター蛍光蛋白質が、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる円順列変異蛍光蛋白質であって、当該円順列変異を施す前の蛍光蛋白質と実質的に同一の蛍光ピーク波長を有する蛍光蛋白質であることを特徴とする蛍光指示薬。
【請求項2】
蛍光蛋白質が、GFP、CFP、YFP、REP、BFP又はそれらの変異体である、請求項1に記載の蛍光指示薬。
【請求項3】
ドナー蛍光蛋白質がCFP又はその変異体であり、アクセプター蛋白質がYFP又はその変異体である、請求項1又は2に記載の蛍光指示薬。
【請求項4】
ドナー蛍光蛋白質及び/又は上記アクセプター蛍光蛋白質が、野生型蛍光蛋白質又はその変異体蛋白質のアミノ酸配列中のβターンに位置するアミノ酸残基においてN末端側のアミノ酸配列とC末端側のアミノ酸配列を入れ替えることにより得られる、円順列変異蛍光蛋白質である、請求項1から3の何れかに記載の蛍光指示薬。
【請求項5】
前記βターンに位置するアミノ酸残基が、蛍光蛋白質の蛍光のダイナミックレンジが上昇するような位置のアミノ酸残基である、請求項4に記載の蛍光指示薬。
【請求項6】
アクセプター蛍光蛋白質が、蛍光蛋白質Venusの円順列変異体である、請求項1から5の何れかに記載の蛍光指示薬。
【請求項7】
Venusの円順列変異体が、cp49Venus、cp157Venus、cp173Venus、cp195Venus、又はcp229Venusである、請求項6に記載の蛍光指示薬。
【請求項8】
蛍光指示薬がさらに標的ペプチド成分とリンカー成分を含み、分析物質の標的配列が標的ペプチド成分を結合するためのペプチド結合ドメインをさらに含み、
リンカー成分が分析物質の標的配列と標的ペプチド成分とを共有的に結合し、標的配列と標的ペプチド成分がアクセプター蛍光分子成分又はドナー蛍光分子成分の何れかに共有的に結合し、
標的配列に結合した分析物質が標的ペプチド成分及びペプチド結合ドメインの相対的位置又は方向の変化を誘導し、次いでドナー分子及びアクセプター分子成分の相対的位置又は方向に変化が生じ、これにより蛍光共嗚エネルギー転移(FRET)の効率に変化が生じるが生じる、請求項1から7の何れかに記載の蛍光指示薬。
【請求項9】
標的配列が、カルモジュリン、cGMP依存性蛋白質キナーゼ、ステロイドホルモン受容体、ステロイドホルモン受容体のリガンド結合ドメイン、蛋白質キナーゼC、イノシトール−1,4,5−トリホスフェート受容体、又はレコベリンである、請求項1から8の何れかに記載の蛍光指示薬。
【請求項10】
標的配列がカルモジュリンである、請求項9に記載の蛍光指示薬。
【請求項11】
標的ペプチド成分が、骨格筋ミオシン軽鎖キナーゼ(skMLCKp)、平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼ(smMLCK)、カルモジュリンキナーゼII(CaMKII)、カルデスモン、カルスペルミン、ホスホフルクトキナーゼ、カルシネウリン、ホスホリラーゼキナーゼ、Ca2+ATPアーゼ、59Kdaホスホジエステラーゼ(PDE)、60Kdaホスホジエステラーゼ(PDE)、ニトリックオキシドシンターゼ、I型アデニリルシクラーゼ、Bordetella pertussisアデニリルシクラーゼ、ニューロモジュリン、スペクトリン、ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質(MARCKS)、MacMARCKS(F52)、b−Adducin、ヒートショック蛋白質HSP90a、ヒト免疫不全ウイルスエンベロープグリコプロテイン160(HIV−1 gp160)、ブラッシュボーダーミオシン重鎖−I(BBMHBI)、希ミオシン重鎖(MHC)、マストパラン、メリチン、グルカゴン、セクレチン、血管作動性腸ペプチド(VIP)、ガストリン阻害ペプチド(GIP)、又はカルモジュリン結合ペプチド−2(Model ペプチド CBP2)のカルモジュリン結合ドメインである、請求項8に記載の蛍光指示薬。
【請求項12】
リンカー成分が1から30アミノ酸残基のペプチド成分である、請求項8に記載の蛍光指示薬。
【請求項13】
さらに局在化配列を含む、請求項1から12の何れかに記載の蛍光指示薬。
【請求項14】
局在化配列が核局在化配列、小胞体局在化配列、ペルオキシソーム局在化配列、ミトコンドリア局在化配列、ゴルジ体局在化配列、又は細胞膜局在化配列である、請求項1から13の何れかに記載の蛍光指示薬。
【請求項15】
配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45又は配列番号46の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光指示薬。
【請求項16】
試料中の分析物質を検出又は測定する方法であって、
(1)試料と請求項1から15の何れかに記載の蛍光指示薬とを接触させる工程;
(2)ドナー成分を励起させる工程;及び
(3)試料中の分析物質の濃度や活性に対応した試料中の蛍光共鳴エネルギー転移の程度を測定する工程;
を含む方法。
【請求項17】
試料が生細胞であり、接触工程が蛍光指示薬を細胞中に取り込ませることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞へ蛍光指示薬を取り込ませる工程が、蛍光指示薬の発現をコードする核酸配列に作動的に連結した発現調節配列を含む発現ベクターを細胞にトランスフェクションすることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から15の何れかに記載の蛍光指示薬をコードする核酸。
【請求項20】
請求項19に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項21】
請求項19に記載の核酸又は請求項20に記載の発現ベクターを有する形質転換体。

【国際公開番号】WO2005/036178
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514699(P2005−514699)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015671
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】