説明

FSK通信システム及びその調整方法

【課題】 操作キー側の筐体とディスプレイ側の筐体とがヒンジ部で結合された折り畳み型の携帯電話機の両筐体間での通信等に適用され得るFSK通信システムのFSK復調器を構成するF−V変換器の特性の調整方法を提供する。
【解決手段】 受信機200のマイクロプロセッサから送信機100に有線通信(ケーブル301)で、調整用周波数信号の無線送信を要求する指令を送り、これに応答して送信機100から無線送信された調整用周波数信号を受信機200で受けてF−V変換した結果を受信機200側のマイクロプロセッサ205で評価し、評価の結果に応じて、送信機100側にV−F変換器の出力の中心周波数fCの調節を有線通信で指令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、操作キー側の筐体とディスプレイ側の筐体とがヒンジ部で結合された折り畳み型の携帯電話機或いは携帯情報端末等の、両筐体間での情報の授受を行うような超短距離の通信等に適用され得るFSK通信システム、及び、このようなFSK通信システムの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機或いは携帯情報端末等には、極めて多くの機能が搭載される傾向にあり、複雑な情報の入力を受け付けて処理し、そのディスプレイに多様な画像表示がなされ得るようになってきている。また、多くのこの種の機器は、操作キー側の筐体とディスプレイ側の筐体とがヒンジ部で結合された折り畳み型の構造を採るが、画像情報等を両筐体間で頻繁に高速で授受することが要求される。
【0003】
ヒンジ部を通してこのように多くの情報を高速で伝送することを可能にするには、配線の経路に関する配慮や、可動部であるが故の耐久性や信頼性に関する特段の配慮が必要になる。従って、このような技術的な課題を克服すべく種々の提案がなされつつある。一つの思想は、ヒンジ部で結合された両筐体間では全く導体を用いずに通信を行うというものである。
【0004】
例えば、可動(ヒンジ)部によって連結されている第1の筐体と第2の筐体とのそれぞれに収容されている第1の実装基板と第2の実装基板との双方に光送受信機を対面させて実装し、第1の実装基板と第2の実装基板との間の通信をその光送受信機で光通信によって行うという提案がある。可動部に発生する応力による断線不良の問題を完全に防ぐことが可能で、かつ、機器内の回路や外部機器へのノイズ弊害も全く与えない電子機器及び電子機器内の通信方法を提供できるとされている(特許文献1)。
【0005】
また、上側筐体に設けられた表示部と、下側筐体に設けられた制御部とを接続する上下接続部を信号伝送用光ファイバ部によって構成し、制御部と信号伝送用光ファイバ部との間に光送信部を備えて、制御部からの電気信号を光信号に変換して信号伝送用光ファイバ部の一端に送出し、信号伝送用光ファイバ部の他端と表示部との間に光受信部を備えて、信号伝送用光ファイバ部からの光信号を電気信号に変換して表示部に転送するように構成するといった技術も提案されている(特許文献2)。
【0006】
以上は、ヒンジ部で結合された両筐体間での情報の授受に光通信技術を適用する提案例であるが、電気信号を光信号に変換し、光信号として伝送後、この光信号を再び電気信号に変換しなくてはならないため、これに依らず、電気信号のままで伝送を行いたいという要請も根強い。このように電気信号による信号の伝送(通信)を行うについては、多くの場合、デジタル信号の伝送である点に鑑みて、例えばFSK変調を適用することが考えられる。
【0007】
上述のようにFSK変調によって通信を行う場合、送信側(例えば操作キー側の筐体)における変調器(V−F変換)と受信側(例えばディスプレイ側の筐体)における復調器(F−V変換)との特性が整合した状態に調整されていることが必要になる。FSK変調器の特性を調整するための技術、或いは、F−V変換における特性の調整に係る一般的な技術については種々の提案がなされている。
【0008】
例えば、FSK変調器における周波数デビエーションの調整をこの調整を行うための部分をデジタル回路によって構成して回路を簡素化し、且つ、調整作業を容易にするといった提案がなされている(特許文献3)。また一方、FM復調器の調整機能部をデジタル回路で構成することによって回路を簡素化し調整作業を容易にするといった提案もなされている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2004−282353号公報(段落0036〜段落0040、図1)
【特許文献2】特開2003−244295号公報(段落0020〜段落0025、図1)
【特許文献3】特開平1−272349号公報(第3頁右下欄後段、図1)
【特許文献4】特開2000−68749号公報(段落0017、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1に提案の技術、或いは、特許文献2に提案の技術では、ヒンジ部で結合された両筐体間での情報の授受に光通信技術を用いるものである。このため、電気信号を光信号に変換し、光信号として伝送後、この光信号を再び電気信号に変換しなくてはならず、構成が複雑になってしまう。また、特許文献1に提案の技術等の場合では、送信及び受信側の両光送受信器間に異物やごみなどが付着したりすると通信不能に陥る虞があるが、特に、上述のようなヒンジ部に両光送受信器が対向して設けられるため、この危惧が払拭できない。
【0010】
一方、特許文献3或いは特許文献4に開示の技術は、FSK変調器の特性を調整するための技術、或いは、F−V変換における特性の調整に係る一般的な技術の改良に関するものであって、FSK変調によって通信を行う場合の、送信側(例えば操作キー側の筐体)における変調器(V−F変換)と受信側(例えばディスプレイ側の筐体)における復調器(F−V変換)との特性が整合するように調整するという視点からの技術提案はなされていない。
【0011】
本発明は叙上のような状況に鑑みてなされたものであり、FSK変調によって通信を行う場合の、送信側における変調器(V−F変換)と受信側における復調器(F−V変換)との特性を整合させるための調整を容易に且つ確実に行うことができるFSK通信システム及びその調整方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するべく、本願では次に列記するような技術を提案する。
(1)入力信号の電圧値に対応したFSK変調信号を生成するV−F変換器とこのV−F変換器の出力を無線送信する無線送信回路とを備えた送信機と、該送信機の前記無線送信回路から無線送信された信号を受信する無線受信回路とこの無線受信回路で受信したFSK変調信号に対応したFSK復調信号を生成するF−V変換器とを備えた受信機と、を含むFSK通信システムであって、
前記送信機は、外部からの調整信号に応じて前記受信機のF−V変換器の入力周波数対出力電圧の特性を調節すべく自己の前記V−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するV−F特性調整回路を備え、
前記受信機は、自己の前記F−V変換器の入力周波数対出力電圧の特性を調節すべく前記送信機のV−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するために前記送信機のV−F特性調整回路に供給する調整信号を生成する調整信号生成回路を備え、
前記送信機及び受信機は、前記受信機の調整信号生成回路から出力される調整信号を前記送信機のV−F特性調整回路に供給する有線の伝送路によって結ばれていることを特徴とするFSK通信システム。
【0013】
上記(1)のFSK通信システムによれば、受信機側においてFSK復調信号を生成するF−V変換器の出力の如何に応じて調整信号生成回路から出力される調整信号を有線の伝送路を通して送信機側のV−F特性調整回路に伝送し、このように伝送された調整信号を受けた送信機側のV−F特性調整回路によって、受信機側におけるF−V変換器の動作が最適となるように送信機側のV−F変換器の出力周波数を調整する。調整信号が有線の伝送路を通して伝送されるため、ノイズへの耐性が良好で確実な調整が行なわれ得る。
【0014】
(2)前記受信機の調整信号生成回路は、前記有線の伝送路を通して前記送信機に送信要求指令を伝送することによって調整用周波数信号を前記送信機の無線送信回路から無線送信させて当該受信機の無線受信回路で受信し、該受信した信号を前記F−V変換器で復調し、該復調した信号に対する評価を行い、該評価の結果に応じて当該調整信号を生成するように構成されたものであることを特徴とする(1)に記載のFSK通信システム。
【0015】
上記(2)のFSK通信システムによれば、(1)のFSK通信システムによる作用に加えて、結果的に復調信号を得る受信機側で、主導的に、送信機側に送信要求指令を伝送して調整用周波数信号を自己の側に無線送信させ、この調整用周波数信号を受信してF−V変換した値である復調信号を評価して、適正値となるように送信機側のV−F変換器の出力周波数を調整する。
【0016】
(3)前記送信機のV−F特性調整回路は、前記受信機の調整信号生成回路から前記有線の伝送路を通して伝送される当該調整信号に応じて当該送信機のV−F変換器の出力周波数の中心値を所定の分解能に相応した単位ステップ毎に漸次昇降調節するように構成され、前記無線送信回路は該出力周波数の中心値が単位ステップ毎に漸次昇降調節された調整用周波数信号を送信するように構成されていることを特徴とする(1)に記載のFSK通信システム。
【0017】
上記(3)のFSK通信システムによれば、(1)のFSK通信システムによる作用に加えて、送信機のV−F変換器の出力周波数の中心値を漸次昇降調節して次第に最適な状態に達するように調節することができる。
【0018】
(4)前記受信機の調整信号生成回路は、前記有線の伝送路を通して前記送信機に送信要求指令を伝送することによって調整用周波数信号を前記送信機の無線送信回路から無線送信させて当該受信機の無線受信回路で受信し、該受信した信号を前記F−V変換器で復調し、該復調した信号に対する評価を行い、該評価の結果が適正でないときには、前記送信機に対しそのV−F変換器の出力周波数の中心値を所定の分解能に相応した単位ステップ毎に漸次昇降調節する調節命令としての当該調整信号を生成し、該評価の結果が適正であるときには、前記V−F変換器に現状の調整状態を維持させる現状維持命令としての当該調整信号を生成するように構成されていることを特徴とする(1)に記載のFSK通信システム。
【0019】
上記(4)のFSK通信システムによれば、(1)のFSK通信システムによる作用に加えて、結果的に復調信号を得る受信機側で、主導的に、送信機側に送信要求指令を伝送して調整用周波数信号を自己の側に無線送信させ、この調整用周波数信号を受信してF−V変換した値である復調信号を評価して、適正値となるように送信機側のV−F変換器の出力周波数の中心値を所定の分解能に相応した単位ステップ毎に漸次昇降調節調整するようにして最適値にすることができる。
【0020】
(5)前記受信機の調整信号生成回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成されたものであることを特徴とする(1)に記載のFSK通信システム。
【0021】
上記(5)のFSK通信システムによれば、(1)のFSK通信システムによる作用に加えて、調整信号の生成をマイクロプロセッサとメモリによる構成をもって、調整の分解能を十分に高く設定することができ、且つ、所用に応じて調整の履歴をメモリに保存しておき、そのときの、及び、次回以降の調整時に調整結果を比較参照することができる。
【0022】
(6)前記送信機のV−F特性調整回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成されたものであることを特徴とする(1)に記載のFSK通信システム。
【0023】
上記(6)のFSK通信システムによれば、(1)のFSK通信システムによる作用に加えて、マイクロプロセッサとメモリによる構成をもって、調整の分解能を十分に高く設定することができ、且つ、調整完了時の最適な動作状態における信号レベルをメモリに保存しておき、最適な動作状態を維持することができる。
【0024】
(7)前記送信機のV−F特性調整回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成され、前記受信機の調整信号生成回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成され、前記送信機側のマイクロプロセッサと前記受信機側のマイクロプロセッサとが前記有線の伝送路によって結ばれていることを特徴とする(1)に記載のFSK通信システム。
【0025】
上記(7)のFSK通信システムによれば、(1)のFSK通信システムによる作用に加えて、マイクロプロセッサとメモリによる構成をもって、調整の分解能を十分に高く設定することができ、且つ、調整完了時の最適な動作状態における信号レベル(中心周波数)をメモリに保存しておき、最適な動作状態を維持することができる。
【0026】
(8)入力信号の電圧値に対応したFSK変調信号を生成するV−F変換器とこのV−F変換器の出力を無線送信する無線送信回路とを備えた送信機と、該送信機の前記無線送信回路から無線送信された信号を受信する無線受信回路とこの無線受信回路で受信したFSK変調信号に対応したFSK復調信号を生成するF−V変換器とを備えた受信機と、を含むFSK通信システムの調整方法であって、
前記受信機側から、該受信機のF−V変換器の入力周波数対出力電圧の特性を調節すべく前記送信機のV−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するための調整信号を 前記送信機と前記受信機とを結ぶ有線の伝送路を通して前記送信機側に供給し、前記送信機側から、該供給された調整信号に応じてV−F変換器の出力の中心周波数が調整された周波数信号を前記受信機側に無線送信し、前記受信機側では該無線送信された周波数信号を受信し、該受信された信号を前記F−V変換器でF−V変換した値が最適値となるように、逐次前記調整信号を前記送信機側に前記有線の伝送路を通して供給することを特徴とするFSK通信システムの調整方法。
【0027】
上記(8)のFSK通信システムの調整方法によれば、受信機側においてFSK復調信号を生成するF−V変換器の出力の如何に応じて調整信号生成回路から出力される調整信号を有線の伝送路を通して送信機側のV−F特性調整回路に伝送し、このように伝送された調整信号を受けた送信機側のV−F特性調整回路によって、受信機側におけるF−V変換器の動作が最適となるように送信機側のV−F変換器の出力周波数特性を調整する。調整信号が有線の伝送路を通して伝送されるため、ノイズに対する耐性が良好であり確実な調整が行なわれ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。尚、以下に参照する図においては、便宜上、説明の主題となる要部は適宜誇張し、要部以外については適宜簡略化し乃至省略されている。
図1は、本発明の実施の形態としてのFSK通信システムの構成を表すブロック図である。図1において、送信機100は、電圧制御発振器を含んで構成されFSK変調器として機能するV−F変換器101、このV−F変換器101の出力を増幅する増幅器102、増幅器102の出力が給電されて送信用の電波を放射する送信アンテナ103、V−F変換器101への入力信号を供給するD−A変換器104、D−A変換器104に入力信号を供給するマイクロプロセッサ105、及び、マイクロプロセッサ105の扱うデータを保持するメモリ106を含んで構成されている。マイクロプロセッサ105、メモリ106、及び、D−A変換器104は外部(本例では受信機200のマイクロプロセッサ205)からの調整信号に応じて前記V−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するV−F特性調整回路を構成している。
【0029】
上述の構成において、マイクロプロセッサ105は、送信機側の、所謂システムコントローラとして機能するようになされ、D−A変換器104やV−F変換器101の動作タイミングを把握して調整し、適宜のタイミングでメモリ106との所要のデータの授受を行うなど、送信機100全体の回路系を統括的に制御するように構成されている。また、このマイクロプロセッサ105は後述する受信機200側のマイクロプロセッサとケーブル301を通して有線で情報の授受を行うように結ばれている。
【0030】
一方、受信機200は、送信機の送信アンテナ103から放射された電波を受ける受信アンテナ201、受信アンテナ201で受けた無線信号を増幅する増幅器202、増幅器202の出力信号を復調するFSK復調器としてのF−V変換器203、F−V変換器203の出力をA−D変換するA−D変換器204、A−D変換器204の出力に応じて送信機のV−F変換器101の動作状態を調整するための調整信号を生成する調整信号生成回路としてのマイクロプロセッサ205、及び、マイクロプロセッサ205の扱うデータを保持するメモリ206を含んで構成されている。
【0031】
この受信機200では、マイクロプロセッサ205は、受信機側の、所謂システムコントローラとして機能するようになされ、F−V変換器203やA−D変換器204の動作タイミングを把握して調整し、適宜のタイミングでメモリ206との所要のデータの授受を行うなど、受信機200全体の回路系を統括的に制御するように構成されている。また、マイクロプロセッサ205は既述の送信機100側のマイクロプロセッサ105とケーブル301を通して有線で情報の授受を行うように結ばれている。
【0032】
図2は、図1の受信機200のFSK復調器として機能するF−V変換器203に要求される特性と現実の特性とを比較して説明する図である。本実施の形態に適用可能な復調器は、複同調系FM復調器、フォスタ・シーレ検波器、レシオ検波器、又は、クォドラチュア検波器等々の公知の回路により乃至はこれらの回路を含んで構成される。図2(A)は理想的なF−V変換特性を表わしている。
【0033】
入力信号の下限周波数であるfc−△fに対応付けられる電圧は、電圧VLであり、デ
ジタル信号としてのロウである(多くの場合、マークとスペースとの2値信号におけるスペースに対応する)。また、入力信号の周波数の中心値であるfcに対応付けられる電圧はVCである。更に、入力信号の上限周波数であるfc+△fに対応付けられる電圧はV
Hであり、デジタル信号としてのハイである(多くの場合、マークとスペースとの2値信号におけるマークに対応する)。
【0034】
図2(B)は、現実のF−V変換特性を表わしている。図2(B)の通り、現実のF−V変換特性は、図2(A)の理想的なF−V変換特性に比し非線形の歪を呈している。即ち、現実の入力信号の上限周波数であるfc+△fに対応付けられる出力電圧VH′は図
2(A)の理想的なF−V変換特性におけるVHよりも低くなり、入力信号の中心周波数であるfcに対応するF−V変換出力をVC′とすると、入力周波数がfcよりも高い領域で、入力周波数に対応する復調電圧が低くなる傾向を呈する。このため、FSK復調に適用するについて、この歪の影響が現れることになってしまう。
【0035】
図3は、図2(A)の理想的なF−V変換特性と 図2(B)の現実のF−V変換特性に従って、マークとスペースとを各表す周波数信号をF−V変換した様子を比較して示す図である。図3(A)は図2(A)の理想的なF−V変換特性によるものであり、入力信号の中心周波数fcに対するF−V変換電圧値はVCであり、入力信号周波数の下限値であるfc−△fに対応するF−V変換電圧値はVLであり、入力信号周波数の上限値であ
る周波数fc+△fに対応するF−V変換電圧値はVHである。
【0036】
一方、図3(B)は 図2(B)の現実のF−V変換特性によるものであり、入力信号の中心周波数fcに対するF−V変換電圧値はVC′であり、入力信号周波数の下限値であるfc−△fに対応するF−V変換電圧値はVL′であり、入力信号周波数の上限値で
ある周波数fc+△fに対応するF−V変換電圧値はVH′である。
【0037】
図示の例では、fc(VC′)に対するfc−△f(VL′)とfc+△f(VH′)
とのF−V変換電圧の振幅は、上側(マーク側)が相対的に収縮し、下側(スペース側)が相対的に伸長したような様相を呈している。このため、受信機内で発生するノイズに対して、マーク側がスペース側との相対において耐性が劣ることになってしまう。図1を参照して説明した装置では、この点を改善してマーク側もスペース側も同程度にノイズに対して耐性を持ち得るような調整を自動的に行うことが可能になる。
【0038】
図4、図5、及び、図6は、図1のシステムに於ける受信機のF−V変換器の変換特性を自動調整する動作を説明するためのフローチャートである。
図4は、図1のシステムにおいて、受信機200側と送信機100側とが調整動作に入る当初の段階で相互間で扱う信号の形態(電圧と周波数との対応関係等)を認識するための動作に関するフローチャートである。
【0039】
先ず受信機200側が起動すると、受信機200の中でメモリ206と共に調整信号生成回路を構成するマイクロプロセッサ205は、有線の伝送路であるケーブル301を通して送信要求指令(「周波数信号送信せよ」)を伝送する(S421)。この送信要求指令は調整用周波数信号を送信機100の無線送信回路(増幅器102+送信アンテナ103)から無線送信することを要求する信号である。
【0040】
茲に、調整用周波数信号は、調整動作の当初において、図2及び図3を参照して説明した入力信号レベルの下限である電圧VL(例えば、2値信号におけるスペースに対応するレベル)に対応する周波数fc−△fの信号、入力信号レベルの上限である電圧VHに対
応する周波数fc+△fの信号、及び、入力信号の振幅の中心電圧であるVCに対応する
周波数fcの信号であり、これらが順次送信されることになるが、図4のフローチャートは、このうちの何れの周波数が送信機100側から受信機200側に無線送信される場合についても同様に該当する。
【0041】
一方、送信機100側では、起動後、受信機200側から「周波数信号送信せよ」の命令がケーブル301を通して受信されるまで待機し(S411)、「周波数信号送信せよ」の命令が有線の伝送路(ケーブル301)から受信されると、周波数信号を無線送信回路(増幅器102+送信アンテナ103)から無線送信する(S412)。受信機200側は送信機100側からこの周波数信号が無線で送信されてくるのを待機し(S422)、この送信を無線受信回路(受信アンテナ201+増幅器202)で受信すると、受信された信号をF−V変換器203で電圧信号に変換する(S423)。
【0042】
ステップS423で得られた電圧値は、既述のように、このFSK通信システムにおいてシステムが起動した当初の段階で下限側周波数fc−△f、上限側周波数fc+△f、
及び、中心周波数fcと各想定された周波数信号に対応する電圧値であり、夫々メモリ206に格納される(S424)。これらの周波数は、次に図5及び図6のフローチャートを参照して説明するように、その適否について評価され、この評価結果に依拠して本システムの調整動作が実行されることになる。
【0043】
図5は、受信機200側での調整動作に係るフローチャートである。起動後、先ず、「周波数信号送信せよ」の命令をケーブル301を通して送信機100側に伝送する(S501)。次いで、送信機100から周波数信号が無線で送信されこれが自己の無線受信回路(受信アンテナ201+増幅器202)で受信されるのを待機し(S502)、受信されるとその信号をF−V変換器203で電圧信号に変換する(S503)。
【0044】
ステップS501での、「周波数信号送信せよ」の命令は、より詳細には既述の下限側周波数fc−△f、上限側周波数fc+△f、及び、中心周波数fcを順次送信せよとの
命令であり、従って、ステップS503でのF−V変換器203での電圧出力も、これらに各対応したVL、VH、及び、VCが夫々得られる。VLC=VC−VL、VHC=VH−VCを夫々得て、VLCの値とVHCの値とを比較する。茲に、VLCとは信号電圧の下半分の振幅、VHCとは信号電圧の上半分の振幅に相応する。
【0045】
LCがVHCよりも大きいかがA−D変換器204で各値がデジタル化されてからマイクロプロセッサ205で判断され(S504)、VLCが大きいと判断されたときにはマイクロプロセッサ205は中心周波数fCの値を所定の1ステップ分下げさせる命令を、ケーブル301を通して送信機100側のマイクロプロセッサ105に伝送して(S505)、既述のステップS501に戻る。
【0046】
一方、VLCが大きいと判断されないときには、VLCがVHCよりも小さいかがA−D変換器204で各値がデジタル化されてからマイクロプロセッサ205で判断され(S506)、VLCが小さいと判断されたときにはマイクロプロセッサ205は中心周波数fCの値を所定の1ステップ分上げさせる命令を、ケーブル301を通して送信機100側のマイクロプロセッサ105に伝送して(S507)、既述のステップS501に戻る。
【0047】
LCがVHCよりも大きくなく且つ小さくないときには、マイクロプロセッサ205は、VLCとVHCは等しく、従って、中心周波数fCの値は、F−V変換出力の振幅の丁度中央の値に対応しているものと判断して、その周波数fCを適正な値と評価し、当該時点での周波数fCの値をメモリ106に格納させる命令を、ケーブル301を通して送信機100側のマイクロプロセッサ105に伝送して(S508)、処理を終了する。
【0048】
図6は、受信機側での動作である図5に対応する送信機側での動作を表すフローチャートである。送信機100が起動すると、受信機200側から「周波数信号送信せよ」の命令がケーブル301を通して受信機のマイクロプロセッサ205から伝送されこれが受信されるのを待機し(S601)、受信されたときには、既述の周波数信号を無線送信回路(増幅器102+送信アンテナ103)から無線送信する(S602)。
【0049】
次いで、この無線送信に応じて受信機200側から命令が返信されるのを待機し(S603)、命令を受けたときには、この命令の内容を解読する(S604)。命令の内容が、図5のフローチャートのステップS508で発信された、現時点の中心周波数fCの値をメモリ106に格納せよとの命令であったときには、現時点の中心周波数fCの値をメモリ106に格納して(S605)、処理を終了する。
【0050】
一方、命令の内容が、図5のフローチャートのステップS505で発信された、中心周波数fCの値を所定の1ステップ分下げさせる命令であったときには、マイクロプロセッサ105は中心周波数fCの値を所定の1ステップ分下げる処理を実行して(S606)、ステップS601に戻る。他方、命令の内容が、図5のフローチャートのステップS507で発信された、中心周波数fCの値を所定の1ステップ分上げさせる命令であったときには、マイクロプロセッサ105は中心周波数fCの値を所定の1ステップ分上げる処理を実行して(S607)、ステップS601に戻る。
【0051】
以上、本発明のシステムは、その動作の調整段階において、図5及び図6のフローチャートを参照して説明したように動作して、入力信号の中心周波数fCの値を1ステップ毎に逐次最適値に絞り込んで、最終的に、その最適値をメモリ105に格納し、これ以降、送信機100側のマイクロプロセッサ105を介しての本来の情報伝送動作が行われるときには、送信側と受信側とで動作点が最適に整合された状態で動作し得、ノイズに十分な耐性のあるシステムが実現される。
【0052】
また、マイクロプロセッサとメモリによる構成をもって、調整の分解能を十分に高く設定することができ、且つ、調整完了時の最適な動作状態における信号レベルをメモリに保存しておき、最適な動作状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態としてのFSK通信システムを表わすブロック図である。
【図2】図1のシステムにおける送信機のFSK復調器として機能するF−V変換器に要求される特性と現実の特性とを比較して説明する図である。
【図3】図2の現実のF−V変換特性に従って、マークとスペースとの2値信号をこれらに対応する周波数に変換した様子を示す図である。
【図4】図1のシステムに於けるF−V変換器の変換特性を自動調整する動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1のシステムに於けるF−V変換器の変換特性を自動調整する動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】図1のシステムに於けるF−V変換器の変換特性を自動調整する動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
100…送信機 101…V−F変換器 102…増幅器 103…アンテナ 104…D−A変換器 105…マイクロプロセッサ 106…メモリ 200…受信機 201…アンテナ 202…増幅器 203…F−V変換器 204…A−D変換器 205…マイクロプロセッサ 206…メモリ 301…ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の電圧値に対応したFSK変調信号を生成するV−F変換器とこのV−F変換器の出力を無線送信する無線送信回路とを備えた送信機と、該送信機の前記無線送信回路から無線送信された信号を受信する無線受信回路とこの無線受信回路で受信したFSK変調信号に対応したFSK復調信号を生成するF−V変換器とを備えた受信機と、を含むFSK通信システムであって、
前記送信機は、外部からの調整信号に応じて前記受信機のF−V変換器の入力周波数対出力電圧の特性を調節すべく自己の前記V−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するV−F特性調整回路を備え、
前記受信機は、自己の前記F−V変換器の入力周波数対出力電圧の特性を調節すべく前記送信機のV−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するために前記送信機のV−F特性調整回路に供給する調整信号を生成する調整信号生成回路を備え、
前記送信機及び受信機は、前記受信機の調整信号生成回路から出力される調整信号を前記送信機のV−F特性調整回路に供給する有線の伝送路によって結ばれていることを特徴とするFSK通信システム。
【請求項2】
前記受信機の調整信号生成回路は、前記有線の伝送路を通して前記送信機に送信要求指令を伝送することによって調整用周波数信号を前記送信機の無線送信回路から無線送信させて当該受信機の無線受信回路で受信し、該受信した信号を前記F−V変換器で復調し、該復調した信号に対する評価を行い、該評価の結果に応じて当該調整信号を生成するように構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のFSK通信システム。
【請求項3】
前記送信機のV−F特性調整回路は、前記受信機の調整信号生成回路から前記有線の伝送路を通して伝送される当該調整信号に応じて当該送信機のV−F変換器の出力周波数の中心値を所定の分解能に相応した単位ステップ毎に漸次昇降調節するように構成され、前記無線送信回路は該出力周波数の中心値が単位ステップ毎に漸次昇降調節された調整用周波数信号を送信するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のFSK通信システム。
【請求項4】
前記受信機の調整信号生成回路は、前記有線の伝送路を通して前記送信機に送信要求指令を伝送することによって調整用周波数信号を前記送信機の無線送信回路から無線送信させて当該受信機の無線受信回路で受信し、該受信した信号を前記F−V変換器で復調し、該復調した信号に対する評価を行い、該評価の結果が適正でないときには、前記送信機に対しそのV−F変換器の出力周波数の中心値を所定の分解能に相応した単位ステップ毎に漸次昇降調節する調節命令としての当該調整信号を生成し、該評価の結果が適正であるときには、前記V−F変換器に現状の調整状態を維持させる現状維持命令としての当該調整信号を生成するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のFSK通信システム。
【請求項5】
前記受信機の調整信号生成回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のFSK通信システム。
【請求項6】
前記送信機のV−F特性調整回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のFSK通信システム。
【請求項7】
前記送信機のV−F特性調整回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成され、前記受信機の調整信号生成回路は、マイクロプロセッサとメモリとを含んで構成され、前記送信機側のマイクロプロセッサと前記受信機側のマイクロプロセッサとが前記有線の伝送路によって結ばれていることを特徴とする請求項1に記載のFSK通信システム。
【請求項8】
入力信号の電圧値に対応したFSK変調信号を生成するV−F変換器とこのV−F変換器の出力を無線送信する無線送信回路とを備えた送信機と、該送信機の前記無線送信回路から無線送信された信号を受信する無線受信回路とこの無線受信回路で受信したFSK変調信号に対応したFSK復調信号を生成するF−V変換器とを備えた受信機と、を含むFSK通信システムの調整方法であって、
前記受信機側から、該受信機のF−V変換器の入力周波数対出力電圧の特性を調節すべく前記送信機のV−F変換器の入力電圧対出力周波数の特性を調整するための調整信号を 前記送信機と前記受信機とを結ぶ有線の伝送路を通して前記送信機側に供給し、前記送信機側から、該供給された調整信号に応じてV−F変換器の出力の中心周波数が調整された周波数信号を前記受信機側に無線送信し、前記受信機側では該無線送信された周波数信号を受信し、該受信された信号を前記F−V変換器でF−V変換した値が最適値となるように、逐次前記調整信号を前記送信機側に前記有線の伝送路を通して供給することを特徴とするFSK通信システムの調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−180312(P2006−180312A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372748(P2004−372748)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】