Fe微粒子保持構造、CNT生成用触媒およびCNT製造方法
【課題】Fe微粒子を酸化等の劣化なく、サイズも安定して維持してFe微粒子を保持できる構造を提供する。
【解決手段】本構造は、直径5ないし20nmのFe微粒子が個々独立して存在し、かつ、表面層に一部埋没した状態で基板上に保持されている、ことを特徴とする構造である。
【解決手段】本構造は、直径5ないし20nmのFe微粒子が個々独立して存在し、かつ、表面層に一部埋没した状態で基板上に保持されている、ことを特徴とする構造である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、nmサイズのFe微粒子を保持する構造、このFe微粒子からなるCNT生成用触媒、およびこの触媒を用いたCNTの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
nmサイズのFe微粒子は、その用途の1つとしてCNT(カーボンナノチューブ)の生成用触媒として使用されることで知られる。CNTは、周知されるように、円筒状のグラフェンシートの単層または2層以上からなり、電子発生能と耐久性に優れ、大画面のフィールドエミッションディスプレイ用の電子発生材料等に有用視され、また、耐食性が高いため、燃料電池の触媒電極層等の耐食性が要求される用途にも適するなど、各種用途が期待されている物質である。
【0003】
このようなCNTの生成方法として、所定の表面層に所定厚さでFe層を形成し、この形成したFe層を熱処理して表面層に多数のFe微粒子を生成し、この生成したFe微粒子に炭素含有ガスを作用させることで、Fe微粒子を成長起点としてCNTを生成する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−303250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような生成方法に用いるFe微粒子は上記CNTの生成に際してFe微粒子に炭素含有ガスを作用させるために表面層に保持しておくことが必要である。この保持に関して図8を参照して説明する。従来のFe微粒子の保持構造では、図8(a)で示すように小径、大径等の各種粒径のFe微粒子23a,23bを、その全体を露出させた形態で、表面層21に保持している。そのため、空気中に放置されると酸化等の劣化を来たしやすい。また、小径のFe微粒子23aではCNT生成に際しての加熱高温により表面層21と反応して消滅したり、あるいは図8(b)の矢印で示す方向に移動して大径のFe微粒子23bと合一化したりして図8(c)で示すようにFe微粒子23bが粗大化するようになる。また、Fe微粒子23bは表面層21に不安定な状態で保持されているだけであるので、図8(d)で示すようにCNT25の生成途中では当該CNT25の重量等により傾いてしまって表面層21に対してCNT25を垂直方向に生成させにくい。
【0006】
このようにして従来のFe微粒子保持構造では空気中に置かれたりするとFe微粒子の状態が酸化等で劣化しやすく、あるいは真空や還元ガス雰囲気内で高温下に置かれたりすると、剥離したり、下層に取り込まれて消滅したりしやすく、その結果、この構造をCNTの生成に使用することができにくくなるなど、使用上においても保管上においても極めて扱いにくい。
【0007】
こうした事情からFe微粒子はCNTの生成だけでなく別用途の使用に際しても表面層21上に酸化等の劣化がしにくく化学的に安定し、かつ移動したり消滅したりしないで物理的に安定した状態で保持できる構造が要求される。
【0008】
そこで、本発明においては、上記各種環境下や使用下に置かれても酸化等の劣化を来たすようなことなく、また、サイズ粗大化や消滅や移動等を起こすようなことなく安定した状態でFe微粒子を保持できる構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる構造は、直径5ないし20nmのFe微粒子が表面層上に個々独立して存在し、かつ、その一部が表面層に埋没した状態で保持されていることを特徴とする。
【0010】
このFe微粒子はFe単体のみならずFe化合物も含む。
【0011】
このFe微粒子は好ましくはその形状が球形である。この球形は完全な球形に限定するのではなく、楕円球形等多少形状が変形している形状も含む。また上記直径長さ5ないし20nmの範囲は、球形であればその直径であるが、球形以外に変形した立体形状であれば、これの各種方向における最大と最小の長さの少なくとも一方が上記直径範囲に入る形状も含む。
【0012】
表面層は、基板表面に形成される層が複数の場合、最表面層、例えば実施形態のようなバッファ層を言い、また、基板表面に単層が形成される場合、その単層を言い、基板表面に何も層が形成されない場合、基板内の表面に近い部分を含む。
【0013】
表面層の材質は特に限定しないが、好ましくは、SiやAlである。
【0014】
本発明によると、Fe微粒子はその一部が表面層中に埋没しているので表面層にFe微粒子を安定して保持させることができ、これにより、CNTの生成触媒として用いた際に該Fe微粒子の向きを変えることがない。また、SiやAlとの合金化が起こることにより空気中に晒された場合とか高温雰囲気下に置かれた場合でも、酸化等の劣化が抑制され、微粒子表面が安定した状態を長期に保つことができるようになる。Fe微粒子はその一部が表面層中に埋没しているので、Fe微粒子が表面層上を移動したりするようなことがなくなり隣り合うFe微粒子と合一化して粗大化したりせず、ナノサイズのFe微粒子として必要なサイズおよび必要な性状を安定して維持することができる。このようなことは、Fe微粒子に炭素含有ガスを接触させてFe微粒子表面にCNTを生成させる場合、直径均一なCNTを生成させるうえでは好ましい。
【0015】
好ましい態様は、上記表面層は、基板表面に順次に形成されている複数の層のうち最表面層を構成するバッファ層であって、該バッファ層はSiあるいはAlを主成分に含む。
【0016】
好ましい態様は、上記表面層と基板表面との間にバリア層を有し、このバリア層が酸化金属層あるいは酸素を含む金属層である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Fe微粒子を酸化等の劣化なく、サイズも安定して維持してFe微粒子を保持できる構造を提供することができる。このような構造では、CNT生成触媒の構造として利用する場合では、直線性に優れたCNTを再現性よく容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかるFe微粒子保持構造の断面構成を示す図である。
【図2】図2は図1のFe微粒子保持構造の製造例の説明に用いる図である。
【図3】図3は図1のFe微粒子保持構造でCNTが生成した状態を示す図である。
【図4A】図4Aは図1の構造のTEM写真を示す図である。
【図4B】図4Bは図4AのTEM写真に示すFe微粒子保持構造の模写図である。
【図5A】図5Aは図4AのTEM写真に示す構造により生成したCNT群のSEM写真を示す図である。
【図5B】図5Bは図5AのTEM写真に示すCNT群の模写図である。
【図6A】図6Aは図5AのCNT群のうちの任意1つのCNTのTEM写真を示す図である。
【図6B】図6Bは図6AのTEM写真に示すCNTの模写図である。
【図7】図7(a)(b)は本発明の触媒構造により製造したCNTのSEM写真を示す図である。
【図8】従来のFe微粒子保持構造の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るFe微粒子保持構造を説明する。図1に、同Fe微粒子保持構造の断面構成を示す。図1を参照して、実施形態のFe微粒子保持構造1は、基板3と、この基板3上に設けた複数の層5,9,11と、Fe微粒子13と、を備える。基板3はSi(シリコン)からなる。各層5,9,11はこの順序で基板3上に形成されている。
【0020】
層5は、基板3に最近のバリア層であり、上層9,11等と、基板3との間を隔ててこれらの間での干渉を防ぐための層である。バリア層5は、例えば金属酸化物、例えばAl2O3(アルミナ)、あるいは酸素を含む金属で形成される。バリア層5は、基板3にAl(アルミニウム)やAl2O3などの金属酸化物を用いた場合は不要である。
【0021】
層9は、酸素7を含むAl層である。
【0022】
層11は、SiあるいはAlを主成分としたバッファ層である。バッファ層11は、Siからなり、下層側にAl9aを含む。したがって、バッファ層11はSiまたはAlを主成分としている。
【0023】
以上の各層5,9,11のうち、バッファ層11は表面層を構成する。
【0024】
Fe微粒子13は、nmサイズのFe微粒子である。
【0025】
Fe微粒子13は互いに個々独立して存在すると共に、表面層であるバッファ層11にその一部が埋没し、残部がバッファ層11表面から露出した状態でバッファ層11に保持されている。ここで個々独立して存在するとは、平面方向で隣り合う複数のFe微粒子13同士が重なり合わず、平面方向に一定以上の距離を隔てて存在することを意味する。
【0026】
実施形態では図面的にはFe微粒子13は略下半分が上記一部としてバッファ層11中に埋没し、略上半分が上記残部としてバッファ層11外に露出した状態で示しているが、Fe微粒子13の埋没形態は図面で示す形態に限定されない。Fe微粒子13はバッファ層11中に平面方向に移動したりできない程度にその一部が埋没していればよい。例えば上記埋没される一部はFe微粒子13が下半分を越えて埋没されている場合、下半分より少なく埋没している場合も含む。
【0027】
なお、「埋没」という用語はあくまで形態を一例として表現しているものであり、上方からバッファ層11に埋め込み没したという意味ではない。
【0028】
Fe微粒子13はnmサイズとして直径5ないし20nmのFe微粒子が触媒として有用である。
【0029】
Fe微粒子13は図1ではその形状が完全な球形に示されているが、そうした完全な球形に限定されるものではなく、楕円球形や瓢箪型等に形状が球形以外に変形した微粒子形状を含む。
【0030】
図2を参照して、図1で示す保持構造1の製造過程を説明する。
【0031】
図2(a)で示す保持構造1の前駆体17を熱アニールする。この前駆体17は、基板3上に、バリア層5と、酸素7を含むAl層9と、バッファ層11と、Fe層19とをこの順序で形成したものである。
【0032】
バリア層5は、スパッタやALD(atomic layer deposition)で基板3上に成層される。バリア層5は、例えば金属酸化物系や酸素を含む金属で形成される層であり、金属酸化物には例えばアルミナがある。ただし、基板3にAlやアルミナなどの様に基板材質自体がバリア層として使用できる場合は、バリア層5は不要である。
【0033】
Al層9は、バリア層5上にスパッタやEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)により約2−3nmの層厚に成層される。Al層9には非金属元素として酸素7を含有させる。酸素7の導入量は、好ましくは、圧力換算で10-5Paないし10-2Paである。
【0034】
バッファ層11は、Al層9上成層されるものであり、Siからなりスパッタにより5−7nmの層厚に成層される。バッファ層11は、SiとFeとの合金層としてもよく、この合金層とした場合には、Fe層19を省略することができる。
【0035】
Fe層19はスパッタやEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)により磁性金属層として2nm程度の層厚に成層する。
【0036】
以上の構成を有する前駆体17を、熱アニールする。
【0037】
前駆体17は熱アニールすると、図2(b)で示すように、バッファ層11中にFe層19中からFe19aが一旦入り込む一方で、Al層9中からAl9aが矢印で示すようにバッファ層11中に入り込んでくる。
【0038】
このようにしてバッファ層11には上層側からFe19aが、下層側からAl9aがそれぞれ入りこむが、バッファ層11内でSiはFe19aとは共存できない一方でAl9aと共存するようになる。
【0039】
結果、バッファ層11中のFe19aは、バッファ層11最表面側に押し出され、Fe微粒子13として析出してくる。
【0040】
なお、図2(a)のFe層19は、図2(b)ではなくなり、バッファ層11中にFe19aとして示されるが、図示を略するがFe層19が部分的にバッファ層11表面に残存する場合もある。また、Fe層19を省略し、上記したようにバッファ層11中のSiとFe19aとを合金化して設けておいてもよい。
【0041】
この場合、最表面側に押し出されたFe微粒子のうち、小径のFe微粒子はシリサイド化等により失活あるいは大径のFe微粒子への合一化あるいは析出しないことにより、最表面には、図2(c)で示すように、一定以上の直径でかつ均一直径の複数のFe微粒子13のみが析出して、実施の形態の構造1を得ることができる。
【0042】
この構造1では、Fe微粒子13の直径が均一である結果、それらFe微粒子13の活性度も均一化しており、その結果、Fe微粒子13上に成長するCNTの成長速度が一定化し、図3で示すようにFe微粒子13上に直線性に優れたCNTを形成することができる。
【0043】
図3に図1で示すFe微粒子保持構造1のFe微粒子13上にCNT15が生成している状態を示す。実施形態の構造1は、CNT15形成時のグラフェンシートの層数を増加させることができる結果、CNT15の剛直性を向上させ、この点からも直線性に優れたCNT15を再現性よく容易に製造することができる。このFe微粒子保持構造1上のFe微粒子13をCNT15生成用の触媒微粒子として使用するときの工程の詳しい説明は省略するが、このFe微粒子13に炭素含有ガスが接触反応することで当該Fe微粒子13上にCNT15が生成される。
【0044】
以上において、本実施形態のFe微粒子保持構造1は、用途の一例としてCNT15の生成用触媒構造として説明したが、その用途に限定されない。実施形態のFe微粒子保持構造1は、Fe微粒子13の一部が表面層であるバッファ層11に埋没し、残部がバッファ層11外に露出した構造を有すること、およびFeに対してSiやAlが一定の比率で合金化していることにより、空気中に晒された場合とか高温雰囲気下に置かれた場合でも、Fe微粒子13の酸化等の劣化が抑制され、その表面の安定状態を長期に保つことができるようになる。
【0045】
また、Fe微粒子13は独立してその一部がバッファ層11中に埋没しているので、バッファ層11上を移動したりすることがなくなり隣り合うFe微粒子13と合一化して粗大化したりせず、nmサイズのFe微粒子13として必要なサイズおよび必要な性状を安定して維持することができる。
【0046】
図4Aに実施形態のFe微粒子保持構造のTEM写真を示し、図4Bに図4AのSEM写真に示す上記構造の模写図を示す。図4A,図4Bを参照して、図4AのTEM写真には、図4Bの模写図で示すように、基板3と、反応層20と、バリア層5と、Al層9と、バッファ層11と、この基板3上に設けた複数の層5,9,11と、Fe微粒子13とが示されている。反応層20は、基板3とバリア層5との間の反応層である。このTEM写真が示すように、Fe微粒子13はバッファ層11中に下半分が埋没し、上半分がバッファ層11外に露出している状態で示されている。Fe微粒子13はTEM写真では数個示されるが、それらはいずれもサイズが直径5ないし20nm範囲内であることが判る。また、各Fe微粒子13の形状はTEM写真から判断してほぼ球形であることが判る。また、21はFe微粒子保持構造を撮影する際に充填された樹脂を示す。
【0047】
図5Aに上記図4AのTEM写真で示すFe微粒子保持構造を用いて製造したCNT15のTEM写真を示し、図5Bにその模写図を示す。また、図6Aに図5Aで示すCNT15の任意1つを拡大して示すTEM写真を示す、図6Bに図6AのTEM写真に示すCNT15を模写的に示す。これらTEM写真が示すCNT15はFe微粒子13上に直径均一で高い直線性で生成されていることが判る。
【0048】
また、図7(a),図7(b)にこうしたCNTが集合したSEM写真を示す。図7(a)は倍率5万倍のSEM写真、図7(b)は倍率20万倍のSEM写真である。これらSEM写真から示すように、実施の形態の触媒構造を用いて直線性に優れたCNT15を製造することができている。このSEM写真は、その製造の一例として基板を真空チャンバ内に配置して700℃の高温に加熱し、炭素含有ガスとしてアセチレンガスを導入し、真空チャンバ内圧を所定圧力で一定保持することでCNT15が成長していることを示すSEM写真である。
【0049】
以上説明したように本実施形態では、直径5ないし20nmのFe微粒子13が個々独立して存在し、かつ、バッファ層11に一部埋没した状態でバッファ層11に保持されているので、Fe微粒子13はバッファ層11に安定保持され、これにより、Fe微粒子13は空気中に晒された場合とか高温雰囲気下に置かれた場合でも、酸化等の劣化が抑制され、その表面が安定した状態を長期に保つことができるようになる。そして、Fe微粒子13は一部がバッファ層11に埋没していることで、バッファ層11上を移動したりするようなことがなくなり隣り合うFe微粒子13と合一化して粗大化したりせず、必要なサイズおよび必要な性状を安定して維持することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 Fe微粒子保持構造
3 基板
5 バリア層
7 酸素
9 Al層
11 バッファ層
13 Fe微粒子
15 CNT
19 Fe層
【技術分野】
【0001】
本発明は、nmサイズのFe微粒子を保持する構造、このFe微粒子からなるCNT生成用触媒、およびこの触媒を用いたCNTの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
nmサイズのFe微粒子は、その用途の1つとしてCNT(カーボンナノチューブ)の生成用触媒として使用されることで知られる。CNTは、周知されるように、円筒状のグラフェンシートの単層または2層以上からなり、電子発生能と耐久性に優れ、大画面のフィールドエミッションディスプレイ用の電子発生材料等に有用視され、また、耐食性が高いため、燃料電池の触媒電極層等の耐食性が要求される用途にも適するなど、各種用途が期待されている物質である。
【0003】
このようなCNTの生成方法として、所定の表面層に所定厚さでFe層を形成し、この形成したFe層を熱処理して表面層に多数のFe微粒子を生成し、この生成したFe微粒子に炭素含有ガスを作用させることで、Fe微粒子を成長起点としてCNTを生成する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−303250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような生成方法に用いるFe微粒子は上記CNTの生成に際してFe微粒子に炭素含有ガスを作用させるために表面層に保持しておくことが必要である。この保持に関して図8を参照して説明する。従来のFe微粒子の保持構造では、図8(a)で示すように小径、大径等の各種粒径のFe微粒子23a,23bを、その全体を露出させた形態で、表面層21に保持している。そのため、空気中に放置されると酸化等の劣化を来たしやすい。また、小径のFe微粒子23aではCNT生成に際しての加熱高温により表面層21と反応して消滅したり、あるいは図8(b)の矢印で示す方向に移動して大径のFe微粒子23bと合一化したりして図8(c)で示すようにFe微粒子23bが粗大化するようになる。また、Fe微粒子23bは表面層21に不安定な状態で保持されているだけであるので、図8(d)で示すようにCNT25の生成途中では当該CNT25の重量等により傾いてしまって表面層21に対してCNT25を垂直方向に生成させにくい。
【0006】
このようにして従来のFe微粒子保持構造では空気中に置かれたりするとFe微粒子の状態が酸化等で劣化しやすく、あるいは真空や還元ガス雰囲気内で高温下に置かれたりすると、剥離したり、下層に取り込まれて消滅したりしやすく、その結果、この構造をCNTの生成に使用することができにくくなるなど、使用上においても保管上においても極めて扱いにくい。
【0007】
こうした事情からFe微粒子はCNTの生成だけでなく別用途の使用に際しても表面層21上に酸化等の劣化がしにくく化学的に安定し、かつ移動したり消滅したりしないで物理的に安定した状態で保持できる構造が要求される。
【0008】
そこで、本発明においては、上記各種環境下や使用下に置かれても酸化等の劣化を来たすようなことなく、また、サイズ粗大化や消滅や移動等を起こすようなことなく安定した状態でFe微粒子を保持できる構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる構造は、直径5ないし20nmのFe微粒子が表面層上に個々独立して存在し、かつ、その一部が表面層に埋没した状態で保持されていることを特徴とする。
【0010】
このFe微粒子はFe単体のみならずFe化合物も含む。
【0011】
このFe微粒子は好ましくはその形状が球形である。この球形は完全な球形に限定するのではなく、楕円球形等多少形状が変形している形状も含む。また上記直径長さ5ないし20nmの範囲は、球形であればその直径であるが、球形以外に変形した立体形状であれば、これの各種方向における最大と最小の長さの少なくとも一方が上記直径範囲に入る形状も含む。
【0012】
表面層は、基板表面に形成される層が複数の場合、最表面層、例えば実施形態のようなバッファ層を言い、また、基板表面に単層が形成される場合、その単層を言い、基板表面に何も層が形成されない場合、基板内の表面に近い部分を含む。
【0013】
表面層の材質は特に限定しないが、好ましくは、SiやAlである。
【0014】
本発明によると、Fe微粒子はその一部が表面層中に埋没しているので表面層にFe微粒子を安定して保持させることができ、これにより、CNTの生成触媒として用いた際に該Fe微粒子の向きを変えることがない。また、SiやAlとの合金化が起こることにより空気中に晒された場合とか高温雰囲気下に置かれた場合でも、酸化等の劣化が抑制され、微粒子表面が安定した状態を長期に保つことができるようになる。Fe微粒子はその一部が表面層中に埋没しているので、Fe微粒子が表面層上を移動したりするようなことがなくなり隣り合うFe微粒子と合一化して粗大化したりせず、ナノサイズのFe微粒子として必要なサイズおよび必要な性状を安定して維持することができる。このようなことは、Fe微粒子に炭素含有ガスを接触させてFe微粒子表面にCNTを生成させる場合、直径均一なCNTを生成させるうえでは好ましい。
【0015】
好ましい態様は、上記表面層は、基板表面に順次に形成されている複数の層のうち最表面層を構成するバッファ層であって、該バッファ層はSiあるいはAlを主成分に含む。
【0016】
好ましい態様は、上記表面層と基板表面との間にバリア層を有し、このバリア層が酸化金属層あるいは酸素を含む金属層である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Fe微粒子を酸化等の劣化なく、サイズも安定して維持してFe微粒子を保持できる構造を提供することができる。このような構造では、CNT生成触媒の構造として利用する場合では、直線性に優れたCNTを再現性よく容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかるFe微粒子保持構造の断面構成を示す図である。
【図2】図2は図1のFe微粒子保持構造の製造例の説明に用いる図である。
【図3】図3は図1のFe微粒子保持構造でCNTが生成した状態を示す図である。
【図4A】図4Aは図1の構造のTEM写真を示す図である。
【図4B】図4Bは図4AのTEM写真に示すFe微粒子保持構造の模写図である。
【図5A】図5Aは図4AのTEM写真に示す構造により生成したCNT群のSEM写真を示す図である。
【図5B】図5Bは図5AのTEM写真に示すCNT群の模写図である。
【図6A】図6Aは図5AのCNT群のうちの任意1つのCNTのTEM写真を示す図である。
【図6B】図6Bは図6AのTEM写真に示すCNTの模写図である。
【図7】図7(a)(b)は本発明の触媒構造により製造したCNTのSEM写真を示す図である。
【図8】従来のFe微粒子保持構造の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るFe微粒子保持構造を説明する。図1に、同Fe微粒子保持構造の断面構成を示す。図1を参照して、実施形態のFe微粒子保持構造1は、基板3と、この基板3上に設けた複数の層5,9,11と、Fe微粒子13と、を備える。基板3はSi(シリコン)からなる。各層5,9,11はこの順序で基板3上に形成されている。
【0020】
層5は、基板3に最近のバリア層であり、上層9,11等と、基板3との間を隔ててこれらの間での干渉を防ぐための層である。バリア層5は、例えば金属酸化物、例えばAl2O3(アルミナ)、あるいは酸素を含む金属で形成される。バリア層5は、基板3にAl(アルミニウム)やAl2O3などの金属酸化物を用いた場合は不要である。
【0021】
層9は、酸素7を含むAl層である。
【0022】
層11は、SiあるいはAlを主成分としたバッファ層である。バッファ層11は、Siからなり、下層側にAl9aを含む。したがって、バッファ層11はSiまたはAlを主成分としている。
【0023】
以上の各層5,9,11のうち、バッファ層11は表面層を構成する。
【0024】
Fe微粒子13は、nmサイズのFe微粒子である。
【0025】
Fe微粒子13は互いに個々独立して存在すると共に、表面層であるバッファ層11にその一部が埋没し、残部がバッファ層11表面から露出した状態でバッファ層11に保持されている。ここで個々独立して存在するとは、平面方向で隣り合う複数のFe微粒子13同士が重なり合わず、平面方向に一定以上の距離を隔てて存在することを意味する。
【0026】
実施形態では図面的にはFe微粒子13は略下半分が上記一部としてバッファ層11中に埋没し、略上半分が上記残部としてバッファ層11外に露出した状態で示しているが、Fe微粒子13の埋没形態は図面で示す形態に限定されない。Fe微粒子13はバッファ層11中に平面方向に移動したりできない程度にその一部が埋没していればよい。例えば上記埋没される一部はFe微粒子13が下半分を越えて埋没されている場合、下半分より少なく埋没している場合も含む。
【0027】
なお、「埋没」という用語はあくまで形態を一例として表現しているものであり、上方からバッファ層11に埋め込み没したという意味ではない。
【0028】
Fe微粒子13はnmサイズとして直径5ないし20nmのFe微粒子が触媒として有用である。
【0029】
Fe微粒子13は図1ではその形状が完全な球形に示されているが、そうした完全な球形に限定されるものではなく、楕円球形や瓢箪型等に形状が球形以外に変形した微粒子形状を含む。
【0030】
図2を参照して、図1で示す保持構造1の製造過程を説明する。
【0031】
図2(a)で示す保持構造1の前駆体17を熱アニールする。この前駆体17は、基板3上に、バリア層5と、酸素7を含むAl層9と、バッファ層11と、Fe層19とをこの順序で形成したものである。
【0032】
バリア層5は、スパッタやALD(atomic layer deposition)で基板3上に成層される。バリア層5は、例えば金属酸化物系や酸素を含む金属で形成される層であり、金属酸化物には例えばアルミナがある。ただし、基板3にAlやアルミナなどの様に基板材質自体がバリア層として使用できる場合は、バリア層5は不要である。
【0033】
Al層9は、バリア層5上にスパッタやEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)により約2−3nmの層厚に成層される。Al層9には非金属元素として酸素7を含有させる。酸素7の導入量は、好ましくは、圧力換算で10-5Paないし10-2Paである。
【0034】
バッファ層11は、Al層9上成層されるものであり、Siからなりスパッタにより5−7nmの層厚に成層される。バッファ層11は、SiとFeとの合金層としてもよく、この合金層とした場合には、Fe層19を省略することができる。
【0035】
Fe層19はスパッタやEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)により磁性金属層として2nm程度の層厚に成層する。
【0036】
以上の構成を有する前駆体17を、熱アニールする。
【0037】
前駆体17は熱アニールすると、図2(b)で示すように、バッファ層11中にFe層19中からFe19aが一旦入り込む一方で、Al層9中からAl9aが矢印で示すようにバッファ層11中に入り込んでくる。
【0038】
このようにしてバッファ層11には上層側からFe19aが、下層側からAl9aがそれぞれ入りこむが、バッファ層11内でSiはFe19aとは共存できない一方でAl9aと共存するようになる。
【0039】
結果、バッファ層11中のFe19aは、バッファ層11最表面側に押し出され、Fe微粒子13として析出してくる。
【0040】
なお、図2(a)のFe層19は、図2(b)ではなくなり、バッファ層11中にFe19aとして示されるが、図示を略するがFe層19が部分的にバッファ層11表面に残存する場合もある。また、Fe層19を省略し、上記したようにバッファ層11中のSiとFe19aとを合金化して設けておいてもよい。
【0041】
この場合、最表面側に押し出されたFe微粒子のうち、小径のFe微粒子はシリサイド化等により失活あるいは大径のFe微粒子への合一化あるいは析出しないことにより、最表面には、図2(c)で示すように、一定以上の直径でかつ均一直径の複数のFe微粒子13のみが析出して、実施の形態の構造1を得ることができる。
【0042】
この構造1では、Fe微粒子13の直径が均一である結果、それらFe微粒子13の活性度も均一化しており、その結果、Fe微粒子13上に成長するCNTの成長速度が一定化し、図3で示すようにFe微粒子13上に直線性に優れたCNTを形成することができる。
【0043】
図3に図1で示すFe微粒子保持構造1のFe微粒子13上にCNT15が生成している状態を示す。実施形態の構造1は、CNT15形成時のグラフェンシートの層数を増加させることができる結果、CNT15の剛直性を向上させ、この点からも直線性に優れたCNT15を再現性よく容易に製造することができる。このFe微粒子保持構造1上のFe微粒子13をCNT15生成用の触媒微粒子として使用するときの工程の詳しい説明は省略するが、このFe微粒子13に炭素含有ガスが接触反応することで当該Fe微粒子13上にCNT15が生成される。
【0044】
以上において、本実施形態のFe微粒子保持構造1は、用途の一例としてCNT15の生成用触媒構造として説明したが、その用途に限定されない。実施形態のFe微粒子保持構造1は、Fe微粒子13の一部が表面層であるバッファ層11に埋没し、残部がバッファ層11外に露出した構造を有すること、およびFeに対してSiやAlが一定の比率で合金化していることにより、空気中に晒された場合とか高温雰囲気下に置かれた場合でも、Fe微粒子13の酸化等の劣化が抑制され、その表面の安定状態を長期に保つことができるようになる。
【0045】
また、Fe微粒子13は独立してその一部がバッファ層11中に埋没しているので、バッファ層11上を移動したりすることがなくなり隣り合うFe微粒子13と合一化して粗大化したりせず、nmサイズのFe微粒子13として必要なサイズおよび必要な性状を安定して維持することができる。
【0046】
図4Aに実施形態のFe微粒子保持構造のTEM写真を示し、図4Bに図4AのSEM写真に示す上記構造の模写図を示す。図4A,図4Bを参照して、図4AのTEM写真には、図4Bの模写図で示すように、基板3と、反応層20と、バリア層5と、Al層9と、バッファ層11と、この基板3上に設けた複数の層5,9,11と、Fe微粒子13とが示されている。反応層20は、基板3とバリア層5との間の反応層である。このTEM写真が示すように、Fe微粒子13はバッファ層11中に下半分が埋没し、上半分がバッファ層11外に露出している状態で示されている。Fe微粒子13はTEM写真では数個示されるが、それらはいずれもサイズが直径5ないし20nm範囲内であることが判る。また、各Fe微粒子13の形状はTEM写真から判断してほぼ球形であることが判る。また、21はFe微粒子保持構造を撮影する際に充填された樹脂を示す。
【0047】
図5Aに上記図4AのTEM写真で示すFe微粒子保持構造を用いて製造したCNT15のTEM写真を示し、図5Bにその模写図を示す。また、図6Aに図5Aで示すCNT15の任意1つを拡大して示すTEM写真を示す、図6Bに図6AのTEM写真に示すCNT15を模写的に示す。これらTEM写真が示すCNT15はFe微粒子13上に直径均一で高い直線性で生成されていることが判る。
【0048】
また、図7(a),図7(b)にこうしたCNTが集合したSEM写真を示す。図7(a)は倍率5万倍のSEM写真、図7(b)は倍率20万倍のSEM写真である。これらSEM写真から示すように、実施の形態の触媒構造を用いて直線性に優れたCNT15を製造することができている。このSEM写真は、その製造の一例として基板を真空チャンバ内に配置して700℃の高温に加熱し、炭素含有ガスとしてアセチレンガスを導入し、真空チャンバ内圧を所定圧力で一定保持することでCNT15が成長していることを示すSEM写真である。
【0049】
以上説明したように本実施形態では、直径5ないし20nmのFe微粒子13が個々独立して存在し、かつ、バッファ層11に一部埋没した状態でバッファ層11に保持されているので、Fe微粒子13はバッファ層11に安定保持され、これにより、Fe微粒子13は空気中に晒された場合とか高温雰囲気下に置かれた場合でも、酸化等の劣化が抑制され、その表面が安定した状態を長期に保つことができるようになる。そして、Fe微粒子13は一部がバッファ層11に埋没していることで、バッファ層11上を移動したりするようなことがなくなり隣り合うFe微粒子13と合一化して粗大化したりせず、必要なサイズおよび必要な性状を安定して維持することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 Fe微粒子保持構造
3 基板
5 バリア層
7 酸素
9 Al層
11 バッファ層
13 Fe微粒子
15 CNT
19 Fe層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径5ないし20nmのFe微粒子が個々独立して存在し、かつ、表面層に一部埋没した状態で基板上に保持されている、ことを特徴とする構造。
【請求項2】
上記表面層は、基板表面に順次に形成されている複数の層のうち最表面層を構成するバッファ層であって、該バッファ層はSiあるいはAlを主成分に含む、ことを特徴とする請求項1に記載の構造。
【請求項3】
上記表面層と基板表面との間にバリア層を有し、このバリア層が酸化金属層あるいは酸素を含む金属層である、ことを特徴とする請求項2に記載の構造。
【請求項4】
Fe微粒子に炭素含有ガスを接触反応させることで当該Fe微粒子上に生成されるCNTであって、上記Fe微粒子が請求項1ないし3のいずれかに記載の構造で上記表面層に一部が埋没したFe微粒子である、ことを特徴とするCNT。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の構造におけるFe微粒子からなる、ことを特徴とするCNT生成用触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の構造におけるFe微粒子をCNT生成用触媒としてCNTを製造する、ことを特徴とするCNT製造方法。
【請求項1】
直径5ないし20nmのFe微粒子が個々独立して存在し、かつ、表面層に一部埋没した状態で基板上に保持されている、ことを特徴とする構造。
【請求項2】
上記表面層は、基板表面に順次に形成されている複数の層のうち最表面層を構成するバッファ層であって、該バッファ層はSiあるいはAlを主成分に含む、ことを特徴とする請求項1に記載の構造。
【請求項3】
上記表面層と基板表面との間にバリア層を有し、このバリア層が酸化金属層あるいは酸素を含む金属層である、ことを特徴とする請求項2に記載の構造。
【請求項4】
Fe微粒子に炭素含有ガスを接触反応させることで当該Fe微粒子上に生成されるCNTであって、上記Fe微粒子が請求項1ないし3のいずれかに記載の構造で上記表面層に一部が埋没したFe微粒子である、ことを特徴とするCNT。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の構造におけるFe微粒子からなる、ことを特徴とするCNT生成用触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の構造におけるFe微粒子をCNT生成用触媒としてCNTを製造する、ことを特徴とするCNT製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4B】
【図5B】
【図6B】
【図8】
【図4A】
【図5A】
【図6A】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4B】
【図5B】
【図6B】
【図8】
【図4A】
【図5A】
【図6A】
【図7】
【公開番号】特開2012−91082(P2012−91082A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238623(P2010−238623)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】
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