説明

GLUT輸送体が機能的に発現される酵母株Saccharomycescerevisiae

【課題】 唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT1遺伝子が発現される場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する、酵母株を提供する。
【解決手段】 唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT1遺伝子が発現される場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する、酵母株であって、プロモーターの機能的な制御下に発現可能なGLUT1遺伝子を含む酵母株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム配列の欠失のためにヘキソース輸送体が合成されなくなり、その結果として、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、それがGLUT4遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する、酵母株Saccharomyces cerevisiaeに関する。
【背景技術】
【0002】
従属栄養細胞の多くは、特定の輸送体タンパク質を介して細胞内部にグルコースを輸送する。様々な生物において、グルコース輸送を仲介する異なるメカニズム、すなわちプロトンシンポートシステム、Na+グルコース共輸送体、結合タンパク質依存性システム、ホスホトランスフェラーゼシステム、および、拡散を促進するシステムが発展している。真核生物の場合、グルコース輸送体ファミリー(哺乳動物ではGLUT遺伝子がコードし、Saccharomyces cerevisiaeではHXT遺伝子がコードする)は、拡散の促進によりグルコース摂取を仲介する。これら輸送体は、大きい糖輸送のスーパーファミリーに属し、12回膜貫通ヘリックスと、複数の保存されたアミノ酸残基およびモチーフの存在を特徴とする。
【0003】
哺乳動物におけるグルコース輸送は、そのプロセスの知識が、例えば糖尿病またはファンコーニ−ビッケル症候群のような不十分なグルコース恒常性に関する病気において非常に重要であるために、数多くの研究の焦点であった。8種のグルコース輸送体(GLUT1〜GLUT5、GLUT8、GLUT9/SLC2A9、GLUT9(GenBank受入番号Y17803))がこれまで同定されており、これら全てはグルコースの摂取の促進に寄与する。これら輸送体の主要な役割としては、様々な組織へのグルコース摂取、それらの肝臓での貯蔵、それらの筋肉細胞および脂肪細胞へのインスリン依存性摂取、ならびに、膵臓のβ−細胞によるグルコース測定が挙げられる。
【0004】
GLUT1は、赤血球への、および血液−脳関門の横断におけるグルコース輸送を仲介するが、多くの他の組織でも発現され、その一方でGLUT4はインスリン依存性組織、主として筋肉組織および脂肪組織に限定される。これらインスリン依存性組織において、GLUT4輸送体の細胞内区画または細胞質膜区画へのターゲティングの制御は、グルコース摂取を調節するのに重要なメカニズムを構成する。インスリン存在下で、グルコース摂取を促進するために細胞内のGLUT4を細胞質膜に再分配する。GLUT1はまた、これらインスリン依存性組織で発現され、その細胞内分配はまたインスリンにより影響を受けるが、より少ない程度である。加えて、GLUT1またはGLUT4が糖の輸送を触媒する相対的な効果は、各輸送体が細胞表面に標的化される程度だけでなく、それらの力学的特性によっても決定される。
【0005】
異なるグルコース輸送体アイソフォームが共発現され、グルコースが迅速に代謝されるために、これらインスリン依存性組織における各グルコース輸送体アイソフォームの役割および詳細な特性の研究は、複雑な仕事であり続けた。アフリカツメガエル卵母細胞、組織培養細胞、昆虫細胞および酵母細胞のような異種発現系が、これらの問題を解決するために用いられてきた。しかしながら、これらの系は、異種で発現された輸送体の弱すぎる活性、これらの系に固有のグルコース輸送体、多くの輸送体の細胞内での保持、また実際には不活性な輸送体の産生などの困難を有することが明らかになった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、異種かつ機能的なGLUT4グルコース輸送タンパク質以外に、ヘキソース輸送タンパク質、特に固有のヘキソース輸送タンパク質をさらに発現しない生物は知られていない。このことは、GLUT4タンパク質の輸送特性を改変することができる化合物の探索において一連の不利益をもたらす。GLUT4は、インスリンや他の因子と共に血中グルコース濃度を低めるのに重要な役割を果たすことが知られているため、このような化合物は医薬成分としてかなり興味深い。機能的なGLUT4輸送タンパク質を発現する生物は、直接的にGLUT4輸送体に作用する化合物の探索を可能にする。このような化合物は、シグナル−因子−仲介副作用が生じないために、あまり副作用が報告されない。その上、酵母株が利用可能であれば、材料の扱いと提供がかなり簡易化され得る。それゆえに、本発明の目的は、機能的なGLUT4タンパク質を発現する酵母株を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT4遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する酵母株Saccharomyces cerevisiaeに関する。このような株は、例えば関連するゲノム配列を変異または欠失させることによって生産され得る。ヘキソースは、6個の炭素原子を有するアルドース(例えばグルコース、ガラクトースまたはマンノース)、および6個の炭素原子を有するケトース(例えばフルクトースまたはソルボース)の意味とみなされる。
【0008】
さらに、本発明は、上述の酵母株Saccharomyces cerevisiaeに関し、この株はGLUT4遺伝子を含む。
【0009】
酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて、17種のヘキソース輸送体、加えて3種のマルトース輸送体が知られており、これらは、十分強く発現された場合、ヘキソースを酵母に輸送することができる。ヘキソースを扱うことができる全ての輸送体が欠失により除去された株が知られている。この株は現在、2種の遺伝子、MPH2およびMPH3のみを含み、これら遺伝子はマルトース輸送タンパク質と相同である。2種の遺伝子、MPH2およびMPH3は、グルコースが培地に存在する場合に抑制される。この酵母株の世代および特徴付けは、Wieczorke et al, FEBS Lett. 464, 123-128(1999)に記載されている。この株は、唯一の炭素源としてグルコースを含む基質では成長できない。変異体は、適切なベクターに基づき機能的にGLUT1を発現するこの株(hxt fgy1−1株)から選択することができる。しかしながら、酵母プロモーターの制御下にGLUT4遺伝子を有するプラスミドベクターが酵母株hxt fgy1−1に形質転換されても、非常に少量のグルコースしか輸送されない。GLUT4の機能的な発現は、GLUT4による顕著なグルコース輸送を可能にするための、さらなるこの酵母株の適応を必要とする。このような、単一のグルコース輸送体GLUT4により細胞にグルコースを摂取させる酵母株は、唯一の炭素源としてグルコースを含む基質で単離することができる。この目的のために、酵母プロモーターの機能的な制御下にGLUT4遺伝子を有する酵母株hxt fgy1−1が、形質転換される。この方式で形質転換されたこれら酵母細胞は、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地にプレーティングされ、その上でインキュベートされる。例えば30℃で2〜3日インキュベートした後、個々のコロニーの成長を観察する。これらコロニーの一つを単離する。酵母プラスミドをこのコロニーから除去する場合、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地では成長は起こらない。酵母プロモーターの機能的な制御下にGLUT4遺伝子を有する酵母ベクターが、このベクタープラスミドをまだ含まない株に再形質転換される場合、この株の唯一の炭素源としてグルコースを含む培地で成長する能力が回復する。GLUT4輸送体によりグルコース摂取を可能にするSaccharomyces cerevisiae株の世代が、実施例で詳細に説明される。この株は、酵母ヘキソース輸送体を発現せず、GLUT4輸送体に関する遺伝子、例えばこの株に形質転換された遺伝子により、ヘキソース、特にグルコースを細胞に摂取させることができる。この特徴を有する酵母株は、特許手続きを目的とした微生物寄託の国際的に認められたブダペスト条約の規約に従って、番号DSM14035、DSM14036またはDSM14037として、ブラウンシュワイク市のDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH,(DSMZ)に寄託されている(表1)。
【0010】
本発明のSaccharomyces cerevisiae株の好ましい実施形態において、酵母発現プロモーターの機能的な制御下でGLUT4遺伝子が発現される。当業者は、適切な酵母発現プロモーターについて熟知している。それらは、例えば、SOD1プロモーター(スーパーオキシドジスムターゼ)、ADHプロモーター(アルコールデヒドロゲナーゼ)、酸性ホスファターゼ遺伝子用のプロモーター、HXT2プロモーター(グルコース輸送体2)、HXT7プロモーター(グルコース輸送体7)、GAL2プロモーター(ガラクトース輸送体)などである。発現の目的のために、酵母発現プロモーターとGLUT4遺伝子とからなる構築物は、酵母ベクターの一部である。発現を実行するために、この酵母ベクターは、酵母ゲノムとは独立した自己複製粒子として存在してもよいし、または、酵母ゲノムに安定して組み込まれてもよい。原則的に、適切な酵母ベクターは、酵母中での増殖が可能な全てのポリヌクレオチド配列である。特に用いることができる酵母ベクターは、酵母プラスミドまたは酵母人工染色体である。酵母ベクターは、原則的に、複製を開始するための複製起点(2μ、ars)と、通常は栄養要求性マーカーまたは抗生物質耐性遺伝子からなる選択マーカーとを含む。当業者に知られている酵母ベクターは、例えば、BM272、pCS19、pEMBCYe23、pFL26、pG6、pNN414、pTV3などである。原則的に、いかなる種のGLUT4遺伝子でも発現させることができる。好ましくは、ヒト、マウスまたはラットからのGLUT4遺伝子が発現される。GLUT4に関するポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、例えば、以下のGenbank受入番号:M20747(cDNA;ヒト)、EMBL:D28561(cDNA;ラット)、EMBL:M23382(cDNA;マウス)、Swissprot:P14672(タンパク質;ヒト)、Swissprot:P19357(タンパク質;ラット)およびSwissprot:P14142(タンパク質;マウス)が入手しやすい。特に好ましくは、GLUT4遺伝子は、ベクターYEp4H7−HsGLUT4(配列番号9)により発現される。このベクターのGLUT4遺伝子は、ヒトオリジンに属する。当業者は、細胞中で発現させるためのGLUT4遺伝子を含む酵母ベクターの生成について熟知している。このようなベクターの生成は、実施例で説明される。発現のための遺伝子を含む酵母ベクターは、遺伝子を発現させるために酵母に形質転換される。この目的に適した方法は、例えば、エレクトロポレーション、または、コンピテント細胞のベクターDNAでのインキュベートである。形質転換は当業者が熟知している技術であり、外来DNA、特にプラスミドまたはベクターを、酵母または細菌のような微生物に導入するのに役立つ。酵母の形質転換、酵母ベクター、酵母変異体の選択、または、酵母におけるタンパク質発現に関する詳細なプロトコールは、当業者によく知られたマニュアル「Methods in Yeast Genetics, 1997:A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual;Adams Alison(Edt.);Cold Spring Harbor Laboratory;ISBN:0-87969-508-0」で見出される。GLUT4遺伝子が本発明に係る酵母で発現されるという証拠は、特に、ノーザンブロッティング、ウェスタンブロッティング、グルコース摂取調査、および、グルコース変換調査または他の方法により提供することができる。ノーザンブロッティングは、研究される生物の単離されたRNAを例えばニトロセルロースのような支持体に適用すること、および、上記RNAをそこに固定すること、続いて、生物のRNAを含むこの支持体を放射標識または蛍光標識したGLUT4ポリヌクレオチド配列のDNAと一緒にインキュベートすることを伴う。本発明に係る酵母でのGLUT4−mRNAの発現は、黒い帯が出現することによって明白になる。相対的に、それ以外では同一であるが、GLUT4含有発現ベクターで形質転換されなかった酵母のRNAでは、黒い帯は検出されない。ウェスタンブロッティングは、研究される生物のタンパク質抽出物をニトロセルロースのようなメンブレン支持体に適用することにより、抗体を介して発現されたタンパク質を明らかにすることを伴う。GLUT4タンパク質に関する抗体は、例えば、Alpha Diagnostic International, Inc., 5415 Lost Lane, San Antonio, TX 78238 USAから得ることができる。結合した抗体を検出するのに必要な分析システムもこの業者から得ることができる。発現されたGLUT4タンパク質は、それ以外では同一であるがGLUT4タンパク質を含まない酵母株と比較して検出することができる。グルコース摂取調査を行う場合、放射標識したグルコースが唯一の炭素源として試験生物に供給される。それ以外では同一であるがGLUT4輸送体を含まないコントロール株とは対照的に、唯一のグルコース輸送体としてGLUT4を含む酵母は、この放射標識したグルコースを細胞内部に輸送する。グルコース変換は、唯一の炭素源としてグルコースを含む栄養培地で試験することができる。それ以外では同一であるがGLUT4輸送体を含まないコントロールとは対照的に、GLUT4輸送タンパク質を唯一のグルコース輸送体として含む酵母株は、唯一の炭素源としてグルコースを含む栄養培地で成長することができる。当業者は、上記で説明したこれら方法を熟知している。詳細な説明は、例えば、「Current Protocols in Molecular Biology;Edited by:F.M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. M. Moore, J. G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl;出版元:John Wiley & Sons;2000(現在アップデ
ートされている)」で見出される。
【0011】
好ましくは、本発明は、ヒト、マウスまたはラットからのGLUT4遺伝子が発現される酵母株Saccharomyces cerevisiaeに関する。
【0012】
特に好ましくは、本発明は、ヒトGLUT4遺伝子のコーディング領域を含むポリヌクレオチド配列が発現される酵母株Saccharomyces cerevisiaeに関する。
【0013】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、例えば、受入番号DSM14038、DSM14039またはDSM14040で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(ブラウンシュワイク)に寄託された酵母Saccharomyces cerevisiaeの1またはそれ以上の株に関する。これら株は、表1に列挙される。このリストは、プラスミドが形質転換された使用酵母株に関する情報、プラスミドに関する情報、および、これら酵母の成長条件に関する情報を含む。
【0014】
本発明はまた、本発明に従った酵母株Saccharomyces cerevisiaeの世代に関し、当該世代は、以下の処理工程:
a)唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できない酵母を提供すること;
b)酵母で発現することができるプロモーターの機能的な制御下にあるGLUT4遺伝子を含むプラスミドにより、a)の酵母を形質転換すること;
c)b)に従って形質転換された株を、唯一の炭素源としてヘキソースを含む培地にプレーティングすること;
d)c)に従ってプレーティングされ、この培地で生育し、GLUT4遺伝子によりヘキソース摂取がサポートされた株を選択すること、
によって得られる。本発明はまた、このような株を成長させることに関する。
【0015】
本発明に従って酵母を提供するために、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT4遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する酵母株Saccharomyces cerevisiaeを、第一工程で単離する。これは、ヘキソース輸送体をコードする関連ゲノム配列を変異または欠失させることによって達成することができる。その上、酵母の提供は、この酵母を成長させることが必要である。成長させることは、適切な培地における微生物学の標準的な方法によりなされる。酵母成長に適した培地は、例えば、完全培地、特にYPD培地(酵母抽出物/ペプトン/デキストロース培地)または選択培地などである。酵母細胞は、これら培地中で成長し、成長後、遠心分離により培地から分離され、当該方法の目的のために、特に、緩衝物質、塩または他の添加剤を含む水性培地に懸濁し、水性懸濁液を得ることができる。当業者は、酵母成長に関する情報を、すでに上述した「Methods in Yeast Genetics, 1997:A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual;Adams Alison(Edt.);Cold Spring Harbor Laboratory;ISBN:0-87969-508-0」で見出すであろう。
【0016】
上述の酵母株を提供することの好ましい実施形態において、酵母で発現することができるプロモーターの機能的な制御下のGLUT4遺伝子は、形質転換に用いられる。形質転換を実行するために、すでに上述した「Methods in Yeast Genetics」が参考文献になり
得る。このような酵母株を生成するために形質転換に特に好ましく用いられるGLUT4遺伝子は、ヒト、マウスまたはラットからのGLUT4遺伝子である。その上、形質転換に特に好ましく用いられるGLUT4遺伝子は、配列番号9または10に示されるポリヌクレオチド配列に存在する遺伝子である。配列番号9は、酵母ベクターYep4H7−HsGLUT4のポリヌクレオチド配列を開示する。このベクターは、HXT7プロモーターの機能的な制御下にポリヌクレオチド配列を含み、ここで該ポリヌクレオチド配列はヒトGLUT4遺伝子のアミノ酸配列をコードする。配列番号10は、ベクターH2rg4g2のポリヌクレオチド配列を含む。酵母プラスミドH2rg4g2は、HXT2プロモーターの機能的な制御下にラットのGLUT4遺伝子を有する。プロモーターによるGLUT4遺伝子の機能的な制御とは、プロモーターによりmRNAが転写され、それがGLUT4タンパク質に翻訳され得ることを意味する。GLUT4配列および用いられた方法の開示に関して、すでに上述したものが参考文献になり得る。
【0017】
さらに、本発明は、GLUT4タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定する方法に関し、以下の処理工程:
a)本発明に係る、GLUT4遺伝子を発現する酵母株Saccharomyces cerevisiaeを提供すること;
b)それが摂取したヘキソースの量を測定すること;
c)化合物を提供すること;
d)a)に従って提供された酵母の株と、c)に従って提供された化合物とを接触させること;
e)d)に従って接触させた後、酵母株に摂取されたヘキソースの量を測定すること;
f)d)に従って接触させる前と後で、b)およびe)に従って測定された株に摂取されたヘキソースの量を比較することによって、GLUT4タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定すること、
を含む。
【0018】
本発明に係る酵母を提供するために、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT4遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する酵母株Saccharomyces cerevisiaeを、第一工程で単離する。この酵母株は、酵母プロモーターの機能的な制御下にGLUT4遺伝子を有する酵母ベクターにより形質転換される。このような酵母株の世代は、実施例で説明される。その上、酵母の提供は、この酵母を成長させることが必要である。成長させることは、適切な培地における微生物学の標準的な方法により生じる。酵母成長に適した培地は、例えば、完全培地、特にYPD培地(酵母抽出物/ペプトン/デキストロース培地)または選択培地などである。酵母細胞は、これら培地中で成長し、成長後、遠心分離により培地から分離され、当該方法の目的のために、特に、緩衝物質、塩または他の添加剤を含む水性培地に懸濁し、水性懸濁液を得ることができる。当業者は、酵母成長に関する情報を、すでに上述した「Methods in Yeast Genetics, 1997:A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual;Adams Alison(Edt);Cold Spring Harbor Laboratory;ISBN:0-87969-508-0」で見出すであろう。
【0019】
上述のように提供された酵母株により摂取されたヘキソースの量は、放射標識したグルコースを用いた摂取の調査により決定することができる。この目的のために、特定量の酵母細胞(例えば量が湿重量で60mg/ml)を、例えば100μlの緩衝液に懸濁し、唯一の炭素源として14Cまたは3Hで標識したグルコースの定義された量で処理する。細胞をインキュベートし、定義された量の細胞を特定時間でサンプリングする。摂取されたグルコース量を、LSC(液体シンチレーション計数器)を用いて測定する。しかしながら、上述のように提供された酵母株により摂取されたヘキソースの量はまた、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地での成長試験により測定することもできる。この目的のために、化合物を添加した後、例えば培養物の光学密度を600nmで定期的に測定することにより、株の成長速度を測定し、この値をコントロール株(例えば酵母野生型株)の成長速度と比較する。
【0020】
化合物を提供することは、特に、化学合成により、または、生物学的生物から化学物質を単離することによりなされる。化学合成は自動化してもよい。合成または単離により得られた化合物を、適切な溶媒に溶解することができる。適切な溶媒は、特に、例えばDMSO(ジメチルスルホキシド)のような特定量の有機溶媒を含む水溶液である。
【0021】
GLUT4タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定するために、酵母の株と化合物とを接触させることは、特に、この目的のために提供された自動化された実験システムでなされる。このようなシステムは、凹部を有する特別に準備されたチャンバー、マイクロタイタープレート、エッペンドルフチューブまたは実験用ガラス器具から構成され得る。自動化された実験システムは、一般的に、高速大量処理速度を考慮して設計される。それゆえに、自動化された実験システムを用いて行われる上述した方法はまた、HTS(高速大量処理スクリーニング)と呼ばれる。
【0022】
酵母と化合物とを接触させた後、この条件下で酵母細胞により細胞内部に輸送されたヘキソースの量、特にグルコースの量を測定する。この目的のために、化合物と接触させていない株に関するグルコース摂取を測定することに関してすでに説明したのと同じ方法を用いることができる。
【0023】
GLUT4タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物の同定は、それと化合物とを接触させる前後で、株に摂取されたヘキソースの量を比較することにより行われる。
【0024】
さらに、本発明は、糖尿病または脂肪症を治療するための医薬を調合するための、GLUT4遺伝子を用いて上記で説明された方法により同定され、必要に応じてさらに開発された化合物およびアジュバントを含む医薬に関する。同定された化合物のさらなる開発とは、第一に、標的タンパク質(この場合GLUT4)に関する特異性が改良されること、第二に、動物体または人体における利用可能性が増加すること、および第三に、任意の既存の望まれない副作用が減少することを意味する。この目的のために、当業者は一連の方法を利用することができ、例えば、これらに限定されないが、糖尿病ラットまたはob/obマウスのような薬理学的な動物モデルの使用、生化学的なインビトロ測定の使用、化合物およびGLUT4タンパク質の実際上の構造モデルの使用が挙げられる。医薬製剤用アジュバントは、用途に合わせる目的での活性物質の調節、問題の用途に対する活性成分の作用の分配および開発を可能にする。このようなアジュバントの例は、充填剤、結合剤、錠剤分解物質または滑剤であり、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、スターチ、リン酸二カルシウム、ポリグリコール、アルギネート、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、タルクまたは二酸化ケイ素が挙げられる。
【0025】
糖尿病の徴候は、インスリン欠乏またはインスリン効果の減少による慢性的な代謝状態による血液グルコースレベルの異常な増加(高血糖症)と同時発生する尿と一緒のグルコース排出である。インスリン効果が欠乏または減少することにより、血中に放出されたグルコースの体細胞による吸収および変換が不十分になる。脂肪組織において、インスリン−拮抗ホルモンは、脂肪分解を増加させる効果を有し、当該効果は、遊離脂肪酸の血中レベルの増加を伴う。
【0026】
脂肪症(肥満症)は、過剰なカロリー摂取によるエネルギー不均衡が原因で起こる異常な体重増加であり、これは、健康上の危険を構成する。
【0027】
さらに、本発明は、糖尿病または脂肪症を治療するための医薬を調製するための、GLUT4タンパク質を用いた方法により同定され、必要に応じてさらに開発された化合物の使用に関する。医薬とは、ヒトおよび動物における病気または肉体的な機能不全の治療法のための、薬理学的に活性な物質の投薬形態のことである。例えば、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、ロゼンジ、糖−糖コーティング錠剤、カプセル、液状抽出物、チンキ、および、シロップが、経口の治療法用に知られている。外用投与に用いられる例は、エアロゾル、スプレー、ゲル、軟膏または粉末である。注射可能な溶液または不溶解性の溶液は、バイアル、ビンまたは予め充填された注射器を用いる非経口投与を可能にする。これらおよび他の医薬が、製薬技術分野の当業者に知られている。
【0028】
さらに、本発明は、GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定する方法に関し、当該方法は、以下の処理工程:
a)唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT1遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長するその能力が回復する、酵母で発現することができるプロモーターの機能的な制御下にGLUT1遺伝子を含む酵母株Saccharomyces cerevisiaeを提供すること;
b)a)に従って提供された株に摂取されたヘキソースの量を測定すること;
c)化合物を提供すること;
d)a)に従って提供された酵母の株と、c)に従って提供された化合物とを接触させること;
e)d)に従って接触させた後、酵母株に摂取されたヘキソースの量を測定すること;
f)d)に従って接触させる前と後で、b)およびe)に従って測定された株に摂取されたヘキソースの量を比較することによって、GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定すること、
を含む。
【0029】
本発明に係る酵母を提供するために、ゲノム配列の欠失のためにヘキソース輸送体が形成されず、その結果として、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT1遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長するその能力が回復する酵母株Saccharomyces cerevisiaeを、第一工程で単離する。このような株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに番号DSM14031、DSM14032またはDSM14034で寄託される。
【0030】
酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいては、17種のヘキソース輸送体と、加えて3種のマルトース輸送体が知られており、これらはヘキソースを酵母へ輸送することができる。ヘキソース摂取が可能な全ての輸送体が欠失により除去された株が知られている。この酵母株の世代および特徴付けは、Wieczorke et al., FEBS Lett. 464, 123-128(1999)に記載されている。この株は、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できない。酵母プロモーターの制御下にGLUT1遺伝子を有するプラスミドベクターがこのような酵母株に形質転換される場合でも、グルコース輸送はそれにもかかわらず起こらない。GLUT1の機能的な発現は、この酵母株がGLUT1によるグルコース輸送を可能にするためにさらに適応することが必要である。このような、単一のグルコース輸送体GLUT1によりグルコースを細胞に摂取する酵母株は、唯一の炭素源としてグルコースを含む基質で単離することができる。この目的のために、完全なヘキソース−輸送タンパク質を発現しなくなった酵母株が、酵母プロモーターの機能的な制御下にGLUT1遺伝子を有する酵母ベクターで形質転換される。この方式で形質転換されたこれら酵母細胞は、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地にプレーティングされ、その上でインキュベートされる。例えば30℃で2〜3日インキュベートした後、個々のコロニーの成長を観察する。これらコロニーの一つを単離する。酵母プラスミドをこのコロニーから除去する場合、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地では成長は起こらない。次に、酵母プロモーターの機能的な制御下にGLUT1遺伝子を有する酵母ベクターがこの株(ベクタープラスミドをまだ含んでいない)に形質転換された場合、この株は、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地で成長する能力を回復させる。
【0031】
酵母株を形質転換するために、ヒト、マウスまたはラットからのGLUT1遺伝子が特に用いられる。GLUT1に関するポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が開示されており、以下のデータベースのコード番号が示される:EMBL:M20653(cDNA;ヒト)、EMBL:M13979(cDNA;ラット)、EMBL:M23384(cDNA;マウス)、Swissprot:P11166(タンパク質;ヒト)、Swissprot:P11167(タンパク質;ラット)、Swissprot:P17809(タンパク質;マウス)。
【0032】
このような酵母株の世代は、実施例で説明される。その上、酵母を提供することは、この酵母を成長させることが必要である。成長させることは、適切な培地における微生物学の標準的な方法により生じる。酵母成長に適した培地は、例えば、完全培地、特にYPD培地(酵母抽出物/ペプトン/デキストロース培地)または選択培地である。酵母細胞は、これら培地中で成長し、成長後、遠心分離により培地から分離され、当該方法の目的のために、特に、緩衝物質、塩または他の添加剤を含む水性培地に懸濁し、水性懸濁液を得ることができる。当業者は、酵母成長に関する情報を、すでに上述した「Methods in Yeast Genetics, 1997:A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual;Adams Alison(Edt);Cold Spring Harbor Laboratory;ISBN:0-87969-508-0」で見出すであろう。
【0033】
この方法の好ましい実施形態において、酵母で発現することができるプロモーターの機能的な制御下にGLUT1遺伝子を有する酵母株Saccharomyces cerevisiaeが提供される。このような、該方法に適した株は、Sammlung fuer Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに番号DSM14033、DSM14026またはDSM14033として寄託された。
【0034】
プラスミドの構成要素としてのGLUT1遺伝子が、配列番号11または配列番号12に開示されている。配列番号11は、酵母ベクターYep4H7−HsGLUTlの配列を含む。このプラスミドは、HXT7プロモーターの機能的な制御下にヒトGLUT1遺伝子のポリヌクレオチド配列を含む。配列番号12は、酵母ベクターH2rg1g2のポリヌクレオチド配列を含む。このプラスミドは、HXT2プロモーターの機能的な制御下にラットからのGLUT1遺伝子のポリヌクレオチド配列を含む。
【0035】
上述した通りに提供された酵母株により摂取されるヘキソースの量は、放射標識したグルコースを用いた摂取の調査により測定することができる。この目的のために、特定量の酵母細胞(例えば湿重量で60mgの量)を、例えば100μlの緩衝液に懸濁し、唯一の炭素源として14Cまたは3Hで標識したグルコースの定義された量で処理する。細胞をインキュベートし、定義された量の細胞を特定時間でサンプリングする。摂取されたグルコース量を、LSC(液体シンチレーション計数器)を用いて測定する。
【0036】
化合物を提供することは、特に、化学合成により、または、生物学的生物から化学物質を単離することによりなされる。化学合成は自動化してもよい。合成または単離により得られた化合物を、適切な溶媒に溶解することができる。適切な溶媒は、特に、例えばDMSO(ジメチルスルホキシド)のような特定量の有機溶媒を含む水溶液である。
【0037】
GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定するために、酵母の株と化合物とを接触させることは、特に、この目的のために提供された自動化された実験システムでなされる。このようなシステムは、凹部を有する特別に準備されたチャンバー、マイクロタイタープレート、エッペンドルフチューブまたは実験用ガラス器具から構成され得る。自動化された実験システムは、一般的に、高速大量処理速度を考慮して設計される。それゆえに、自動化された実験システムを用いて行われる上述した方法はまた、HTS(高速大量処理スクリーニング)と呼ばれる。
【0038】
酵母と化合物とを接触させた後、この条件下で酵母細胞により細胞内部に輸送されたヘキソースの量、特にグルコースの量を測定する。この目的のために、化合物と接触させていない株に関するグルコース摂取を測定することに関してすでに説明したのと同じ方法を用いることができる。
【0039】
GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物の同定は、それと化合物とを接触させる前後で、株に摂取されたヘキソースの量を比較することにより行われる。
【0040】
さらに、本発明は、糖尿病または脂肪症を治療するための医薬を調合するための、GLUT1遺伝子を用いて上記で説明された方法により同定され、必要に応じてさらに開発された化合物およびアジュバントを含む医薬に関する。同定された化合物のさらなる開発とは、第一に、標的タンパク質(この場合GLUT4)に関する特異性が改良されること、第二に、動物体または人体における利用可能性が増加すること、および第三に、任意の既存の望まれない副作用が減少することを意味する。この目的のために、当業者は一連の方法を利用することができ、例えば、これらに限定されないが、糖尿病ラットまたはob/obマウスのような薬理学的な動物モデルの使用、生化学的なインビトロ測定の使用、化合物およびGLUT1タンパク質の実際上の構造モデルの使用が挙げられる。医薬製剤用アジュバントは、用途に合わせる目的での活性物質の調節、問題の用途に対する活性成分の作用の分配および開発を可能にする。このようなアジュバントの例は、充填剤、結合剤、錠剤分解物質または滑剤であり、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、スターチ、リン酸二カルシウム、ポリグリコール、アルギネート、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、タルクまたは二酸化ケイ素が挙げられる。
【0041】
糖尿病の徴候は、インスリン欠乏またはインスリン効果の減少による慢性的な代謝状態による血液グルコースレベルの異常な増加(高血糖症)と同時発生する尿と一緒のグルコース排出である。インスリン効果が欠乏または減少することにより、血中に放出されたグルコースの体細胞による吸収および変換が不十分になる。脂肪組織において、インスリン−拮抗ホルモンは、脂肪分解を増加させる効果を有し、当該効果は、遊離脂肪酸の血中レベルの増加を伴う。
【0042】
脂肪症(肥満症)は、過剰なカロリー摂取によるエネルギー不均衡が原因で起こる異常な体重増加であり、これは、健康上の危険を構成する。
【0043】
さらに、本発明は、糖尿病または脂肪症を治療するための医薬を調製するための、GLUT1タンパク質を用いた方法により同定され、必要に応じてさらに開発された化合物の使用に関する。医薬とは、ヒトおよび動物における病気または肉体的な機能不全の治療法のための、薬理学的に活性な物質の投薬形態のことである。例えば、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、ロゼンジ、糖衣錠剤、カプセル、液状抽出物、チンキ、および、シロップが、経口の治療法用に知られている。外用投与に用いられる例は、エアロゾル、スプレー、ゲル、軟膏または粉末である。注射可能な溶液または不溶解性の溶液は、バイアル、ビンまたは予め充填された注射器を用いる非経口投与を可能にする。これらおよび他の医薬が、製薬技術分野の当業者に知られている。
【0044】
さらに、本発明は、配列番号13のポリヌクレオチド配列、および、配列番号14のポリヌクレオチド配列に関する。配列番号13および14のポリヌクレオチド配列は、ラットGLUT1遺伝子の変異をコードしており、この変換が問題のタンパク質中の個々のアミノ酸の置換をもたらす。配列番号13のポリヌクレオチド配列は、アミノ酸鎖の69位でバリンがメチオニンで置換されたGLUT1タンパク質をコードする。配列番号14のポリヌクレオチド配列は、アミノ酸鎖の70位でアラニンがメチオニンで置換されたGLUT1タンパク質をコードする。両方のタンパク質変異体は、欠失によりそのヘキソース輸送体が失われた株においてもグルコース摂取をサポートするが、野生型GLUT1タンパク質によるグルコース摂取はサポートしない。このような変異体は、例えばサプレッサー変異での選択またはインビトロ変異誘発により得ることができる。その上、本発明は、配列番号13または14のポリヌクレオチド配列によりコードされるGLUT1タンパク質に関する。
【0045】
本発明はまた、配列番号13のポリヌクレオチド配列または配列番号14のポリヌクレオチド配列を含む酵母株に関する。このような酵母株は、Deutsche Sammlung fuer Mikroorganismen und Zellkuturen GmbHにDSM14026およびDSM14027として寄託される。これら株を生成するために、配列番号13または14に相当する酵母ベクターを、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長するその能力は、GLUT1遺伝子がこの株において発現される場合にやがては回復する酵母株に形質転換させる。続いて、形質転換後、細胞を、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地にプレーティングする。この培地で成長するコロニーを単離する。この方式で形質転換された酵母株は、例えば、GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定する方法を実行するのに適する。
【0046】
略語
HXT:ヘキソース輸送体、
ORF:オープンリーディングフレーム、
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応。
【0047】
実施例
酵母株の成長
本明細書で説明された全ての酵母株は、株CEN.PK2−1C(MATa leu2−3,112ura3−52trp1−289his3Δ1MAL2−8cSUC2)から得られた。ヘキソース輸送体遺伝子(HXT)における欠失を有する酵母株の世代は、Wieczorke et al., FEBS Lett. 464. 123-128(1999)により説明されている:EBY.18ga(MATa Δhxt1−17 Δgal2 Δagt1 Δstl1 leu2−3,112ura3−52 trp1−289 his3−Δ1 MAL2−8cSUC2)、EBY.VW4000(MATa Δhxt1−17 Δgal2 Δagt1 Δmph2 Δmph3 Δstl1 leu2−3,112ura3−52 trp1−289 his3−Δ1 MAL2−8cSUC2)。培地は、1%酵母抽出物と2%ペプトン(YP)を基本とし、一方で、最小培地は、0.67%Difco酵母窒素ベース(アミノ酸を含まない)(YNB)から成り、栄養要求性および異なる炭素源のための添加剤を含む。酵母細胞を、オービタルシェーカーまたは寒天プレート上で30℃で好気的に成長させた。600nmでの光学密度(OD600)を測定することによって細胞成長をモニターした。
【0048】
グルコース摂取の測定
グルコース輸送を、D−[U−14C]−グルコース(アマシャム社)の摂取として測定し、Eadie−Hofsteeグラフから動力学的パラメーターを測定した。細胞を遠心し、リン酸緩衝液で洗浄し、濃度60mg(新鮮な重量)/mlのリン酸緩衝液に再懸濁した。0.2〜100mMのグルコース濃度でグルコース摂取を測定し、基質の特異的活性は、0.1〜55.5kBq μmol-1の範囲であった。細胞およびグルコース溶液を30℃で5分間プレインキュベートした。細胞を放射性グルコースで処理することによりグルコース摂取を開始させた。5秒間インキュベートした後、10mlの氷冷した停止緩衝液(0.1M KiPO4,pH6.5,500mMグルコース)を加え、細胞をグラ
スファイバーフィルター(直径=24mm,ワットマン社)で迅速にろ過した。フィルターを氷冷した緩衝液で3回迅速に洗浄し、取り込まれた放射能を液体シンチレーション計数器で測定した。サイトカラシンB(エタノールに溶解させ、最終濃度は20μM)による阻害は、阻害剤存在下、または、溶媒のみで細胞を15分間インキュベートした後に、50mMまたは100mMの放射性グルコースを用いた15秒の摂取試験を行うことにより、測定された。
【0049】
H2rg4g2(配列番号10)およびH2rg1g2(配列番号12)の構築
H2rg4g2およびH2rg1g2は、ラットからのGLUT4遺伝子(配列番号10中)またはGLUT1遺伝子(配列番号12中)に機能的に結合したHXT2プロモーター(酵母グルコース輸送タンパク質2のプロモーター)を含むDNA構築物である。プラスミドGLUT1−pTV3およびGLUT4−pTV3の0.5kbのSalI/EcoRI−GAL2プロモーター断片(Kasahara and Kasahara, Biochem J. 315, 177-182(1996);Kasahara and Kasahara, Biochim. Biophys. Acta 857, 146-154(1997))が、それぞれの場合、−452bp〜+9bpの酵母HXT2プロモーターを含む0.5kbのDNA断片(Genbank:P23585)の代わりに置換された。
【0050】
YEp4H7−HsGLUT1(配列番号11)およびYEp4H7−HsGLUT4(配列番号9)の構築
YEp4H7−HsGLUT1およびYEp4H7−HsGLUT4は、HXT7プロモーター(HXT7遺伝子のプロモーター)の−392〜−1位のプロモーター断片がヒトGLUT1遺伝子(配列番号11中)またはGLUT4遺伝子(配列番号9中)に機能的に結合したプラスミドである。完全HXT7プロモーターはグルコースにより抑制されるために、当該プロモーターの断片が用いられた。
【0051】
p426MET25からの0.4kbのSacI/SpeI−MET25プロモーター
断片(Mumberg et al., Nucleic Acids Res. 22, 5767-5768(1994))を、−392〜−1位のHXT7プロモーター断片(テンプレートとしてHXT7遺伝子(Genbank:P39004)から、プライマーP426H7−1(配列番号1)およびP426H7−2(配列番号2)を用いてPCRで増幅された)を含む0.4kbのDNA断片で置換し
、プラスミドYEp4H7(配列番号15)を得た。GLUT1に対してはプライマー対HSG1−F7/T2−HSG1(配列番号3、4)、GLUT4に対してはプライマー対HSG4−F7/T2−HSG4(配列番号5、6)、ならびにテンプレートとしてヒトGLUT1(EMBL:M20653)およびヒトGLUT4cDNA(Genbank:M20747)を用いてPCRを10サイクル以上行うことにより、ヒトGLUT1およびGLUT4ORF(オープンリーディングフレーム)を増幅した。プライマーT71−ORF(配列番号7)と、T2−HSG1(配列番号4)またはT2−HSG4(配列番号6)とを用いて10サイクル以上、PCR産物を再増幅した。GLUTのORF配列の上流と下流、PCR最終産物は、プラスミドYEp4H7のHXT7プロモーター領域またはCYC1末端領域(イソ−チトクロームc1)に相同な配列を含む。それらは、EcoRIで線形化されたYEp4H7と共に、酵母株EBY.F4−1に形質転換され、続いて酵母で相同組換えが起こり、2%濃マルトース培地でウラシル原栄養性に関して形質転換産物を選択した。
【0052】
ヘキソース−輸送欠損酵母株中でのラットからのGLUT1およびGLUT4の発現
酵母多コピー発現プラスミドGLUT1−pTV3eおよびGLUT4−pTV3eは、ガラクトース誘導およびグルコース抑制酵母GAL2プロモーターの制御下にラットからのグルコース輸送体遺伝子GLUT1およびGLUT4を有する。この2種の構築物において、GAL2プロモーターは、グルコース誘導酵母HXT2プロモーターで置換された。これらベクターは、酵母株EBY.18ga(Δhxt)(これはいかなるヘキソースも摂取できないため、唯一の炭素源としてグルコースまたは他のヘキソースを含む培地では成長できない)に形質転換された。その細胞を、炭素源としてマルトースを含むトリプトファンを含まない合成培地にプレーティングした。形質転換体を、同じ基礎培地(但しマルトースを含まず、グルコース濃度が異なる(5mM,10mM,50mM,100mM))に、レプリカ−プレーティング法を用いてプレーティングした。形質転換体は、異なるグルコース培地では成長せず、30℃で1週間までインキュベートしても成長しなかった。これは、正常なS.cerevisiae株では、GLUT1およびGLUT4グルコース輸送体はグルコース摂取をサポートしないことを証明する。
【0053】
酵母細胞におけるGLUT1輸送体を介したグルコース摂取
株EBY.18gaのGLUT1形質転換体をグルコース培地で長期間インキュベートした後、コロニー(サプレッサー変異体、または、後述のサプレッサーコロニーと称される)が成長し、これらは明らかにグルコース摂取および変換が可能であったことを明らかにした。GLUT1およびGLUT4形質転換体は、それゆえに、YNB培地(唯一の炭素源として10mMのグルコースを含む)を含む寒天プレートにプレーティングされた。UV光線を亜致死量で照射した後、細胞を30℃で7〜14日間インキュベートした。GLUT4形質転換体ではサプレッサーコロニーは観察されなかったが、GLUT1形質転換体を用いた寒天プレートには、グルコースで成長可能な数個のサプレッサーコロニーが成長した。数個のGLUT1サプレッサー変異体は、非選択的YPマルトース培地で、15世代を超過した。それらのプラスミドが失われた全ての細胞は、炭素源としてグルコースを含む培地では成長できなくなっていた。すなわち、唯一の炭素源としてグルコースで成長することは、GLUT1依存性であることを実証することができた。オリジナルの野生型H2rg1g2プラスミドをこれら細胞に再形質転換した後、数個の酵母株の一つにおいてグルコースで成長する能力が回復する。これにより、この株が、機能的なGLUT1発現の阻害作用を取り除く変異をそのゲノム中に含むことが確認される。変異対立遺伝子は、fgy1−1(これは、「unctional expression of LUT1 in east(酵母におけるGLUT1の機能的な発現)」の略語である)と称され、その株はEBY.S7と称される。
【0054】
他のサプレッサー変異体からH2rg1g2プラスミドを単離し、E.coliで増幅し、オリジナルのグルコース輸送が欠失した酵母株EBY.18ga(Δhxt)に再形質転換した。数個のこれらプラスミドにより、唯一の炭素源として10mMのグルコースを含む合成培地での成長が可能になった。従って、これらGLUT1配列は、酵母において対応するGLUT1タンパク質を機能的なグルコース輸送体に変換する変異を含む。例えば、このような変異体としては、アミノ酸69位(配列番号13)におけるバリンのメチオニンでの置換、または、アミノ酸70位(配列番号14)におけるアラニンのメチオニンでの置換が挙げられる。配列番号13の変異体は、上述の変異体のスクリーニングで見出された。配列番号14の変異体は、以下に示すようなインビトロでの変異誘発で得られた。用いられたインビトロ変異誘発法の原理は、Boles and Miosga(1995)(Boles and Miosga, Curr Genet. 28, 197-198(1995))で説明されている。第一のPCR反応で、DNAテンプレートとしてプラスミドYEpH2−rGLUT1(20ng)を、プライマーseqhxt2(配列番号16)とglutmet2(配列番号17)(いずれの場合も100pmol)と共に用いた(PCR条件:95℃45秒、50℃30秒、72℃2分、25サイクル、taqポリメラーゼ)。プライマーglutmet2は、正常なGLUT1遺伝子を改変し、ラットGLUT1のアミノ酸70位において、アラニンをメチオニンに置換させる塩基配列を含む。得られたPCR断片を、アガロースゲル電気泳動、続いてゲル抽出により精製した。第二のPCR反応において、精製PCR断片(20ng)を、DNAテンプレート(50ng)としてプラスミドGLUT1−pTV3(Kasahara and Kasahara, Biochem J. 315, 177-182(1996))(50ng)、プライマーseqhxt2およびseq2gal2(配列番号18)(いずれの場合も100pmol)と共に用いた(PCR条件:95℃45秒、54℃30秒、72℃2分、20サイクル、taqポリメラーゼ)。プライマーseqhxt2のみが第一のPCR反応の断片に結合したことから、これらDNA配列のみがこの第二のPCR反応で増幅され、アミノ酸70位におけるアラニンのメチオニンでの置換が得られた。得られた変異GLUT1遺伝子を含むPCR断片は、アガロースゲル電気泳動、続いてゲル抽出で精製され、プラスミドYEpH2−rGLUT1中の野生型GLUT1遺伝子と交換された。このプラスミド(配列番号14)は、グルコース輸送欠失酵母株EBY.18ga(Δhxt)に形質転換され、唯一の炭素源としてグルコースを含む合成培地で成長可能になった。
【0055】
GLUT4輸送体を介してグルコースを摂取する酵母株Saccharomyces cerevisiae
明らかに株EBY.S7(Δhxt fgy1−1)は、ゲノム変異、すなわちfgy1−1を含み、それにより、GLUT1を酵母中で機能化させ、細胞質膜を通過して細胞へグルコースを摂取することをサポートすることが可能である。
【0056】
H2rg4g2による株EBY.S7(Δhxt fgy1−1)の形質転換の後、唯一の炭素源としてグルコースを含む培地での成長が可能なサプレッサーコロニーを単離した。
【0057】
これらGLUT4サプレッサー変異体のうち9種が、非選択的YPマルトース培地で15世代を超過して成長した。それらのプラスミドが失われた全ての細胞は同様に10mMグルコース培地では成長できなくなり、これは、初期の成長がGLUT4依存性であることを支持する。H2rg4g2プラスミドを9種のサプレッサー株から再単離し、E.coliで増幅し、オリジナルのグルコース輸送欠失酵母株EBY.S7に戻して形質転換した。プラスミドは、唯一の炭素源として10mMグルコースを含む合成培地での成長を可能にしなかった。これは、それらが、GLUT4の非「活性化」変異体型を含むことを実証した。オリジナルの野生型H2rg4g2プラスミドを9種の目下プラスミドを含まないサプレッサー株に再形質転換した後、これら全ての株は、GLUT4輸送タンパク質遺伝子を含まないコントロールベクターを含む形質転換体とは対照的に、グルコースで成長する能力を回復した。相当するこの株の変異は、fgy4−X(x=1〜9)と称された。変異対立遺伝子fgy4−Xにより、これら株で発現されたGLUT4遺伝子の機能的なGLUT4発現が起こった。従って、本発明の目的は達成された。本発明に係る用いられた酵母株の大要は、表に示される。
【0058】
表は、本発明で用いられた酵母株の大要を示し、遺伝子型、それらの成長に必要な成長条件、およびDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHにおけるそれぞれの寄託番号を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の処理工程:
a)唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、GLUT1遺伝子を発現する場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する、酵母で発現することができるプロモーターの機能的な制御下にGLUT1遺伝子を含む酵母株Saccharomyces cerevisiaeを提供すること、
b)a)に従って提供された株により摂取されたヘキソースの量を測定すること、
c)化合物を提供すること、
d)a)に従って提供された酵母の株と、c)に従って提供された化合物とを接触させること、
e)d)に従って接触させた後、酵母株に摂取されたヘキソースの量を測定すること、
f)d)に従って接触させる前と後で、b)およびe)に従って測定された株に摂取されたヘキソースの量を比較することによって、GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物を同定すること、
を含む、GLUT1タンパク質により輸送されたヘキソースの量を増加または減少させる化合物の同定に用いることができる方法。
【請求項2】
株番号DSM14026、DSM14027またはDSM14033を有する酵母株Saccharomyces cerevisiaeが、a)に従って提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖尿病または脂肪症を治療するための医薬を処方するための、請求項1または2に記載の方法により同定され、必要に応じてさらに開発された化合物、および、アジュバントを含む医薬。
【請求項4】
糖尿病または脂肪症を治療するための医薬を調製するための、請求項1または2に記載の方法により同定され、必要に応じてさらに開発された化合物の使用。
【請求項5】
Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに受入番号DSM14026またはDSM14027で寄託された、酵母株Saccharomyces cerevisiae。
【請求項6】
a)唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質では成長できないが、該株でGLUT4遺伝子が発現される場合、唯一の炭素源としてヘキソースを含む基質で成長する能力が回復する酵母を提供すること、
b)配列番号13または14のポリヌクレオチド配列を含むプラスミドにより、a)の酵母を形質転換すること、
c)b)に従って形質転換された株を唯一の炭素源としてグルコースを含む培地にプレーティングすること、
d)c)に従ってプレーティングされ、この培地で生育した株を単離すること、
によって得られる、請求項5に記載のSaccharomyces cerevisiae株の世代。
【請求項7】
アミノ酸配列の69位においてバリンがメチオニンで置換されたGLUT1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項8】
配列番号13の配列を含む、請求項7に記載のポリヌクレオチド配列。
【請求項9】
請求項7または8に記載のポリヌクレオチド配列によりコードするGLUT1タンパク質。
【請求項10】
アミノ酸配列の70位においてバリンがメチオニンで置換されたGLUT1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項11】
配列番号14の配列を含む、請求項10に記載のポリヌクレオチド配列。
【請求項12】
請求項10または11記載のポリヌクレオチド配列によりコードされたGLUT1タンパク質。

【公開番号】特開2008−245656(P2008−245656A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152348(P2008−152348)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【分割の表示】特願2002−565099(P2002−565099)の分割
【原出願日】平成14年2月9日(2002.2.9)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】