説明

Ga−P−S型のガラス組成物

赤外線(IR)窓、導波管ファイバ、または発光ドーパント用のホストガラスとしてなどの用途を有しうる、Ga−P−S型のガラス組成物について記載する。本ガラスの組成範囲は、原子百分率で、45〜85%の硫黄、>0〜25%のガリウム、>0〜20%のリンである。本ガラスは、セレニウム(Se)、テルリウム(Te)、0〜20%のインジウム、0〜40%のヒ素、0〜15%のゲルマニウム、0〜10%のアンチモン、および0〜5%のスズ、タリウム、鉛、ビスマス、またはそれらの組合せを含みうる。SeおよびTeは、S/2以下でなければならない。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2008年4月29日に出願した米国特許出願第12/111,620号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明の実施の形態は、Ga−P−S型のガラス組成物に関する。ガラス組成物は、赤外線放射を透過させうる。赤外線を透過させるガラスは、例えば、赤外線(IR)窓、導波管ファイバ、および、例えば希土類ドーパントなどの発光ドーパントのホストガラスとしての用途を有する。
【背景技術】
【0003】
赤外線放射は、周波数が赤色光のすぐ下の電磁スペクトル部分である。赤外線を透過させる材料は、多くの用途を有する。例えば、天文学の分野においては、地球大気圏は、赤外線放射を可視光線と同じ度合いでは散乱させない。したがって、可視光線に関する散乱なしに正確な天文画像を入手するためには、赤外線を除くすべてを遮断する特別のフィルタが用いられうる。透過した赤外線放射は、例えば、可視光線の不存在下における物体または人々の位置の検出に使用することもできる。この特性は、軍事用途、例えば赤外線センサに用いられている。
【0004】
共同出願した特許文献1に開示されるものなど、赤外線を透過させるガラスは、低いフォノンエネルギーに起因して、放射線を電磁放射スペクトルの赤外線部分に良好に透過させる。これらのガラスは、例えば、適切な希土類ドーパントをドープする際に、効率的なレーザー、増幅器、およびアップコンバーターの製作のために使用することができる。
【0005】
金属−硫黄結合は、一般に、金属−酸素結合よりも弱いことから、硫化物ガラスは酸化物ガラスよりも低いフォノンエネルギーを示し、したがって、電磁放射スペクトルのさらに赤外線領域へと放射線を伝える。よって、硫化物ガラスは、特許文献1のガラスについて記載されるものなどの用途のための希土類金属のためのホスト材料の可能性を有しうる。
【0006】
しかしながら、希土類元素よりもこれらのホストガラスの方が放射線を吸収する傾向があろうことから、多くの硫化物ガラスは暗い色をしており、その結果、上記用途の一部には適さない可能性がある。
【0007】
典型的な硫化物ガラスの1つである硫化ヒ素ガラスは、放射線スペクトルの可視部分の長い波長範囲、ならびに赤外線領域にまで放射線を伝達し、したがって、希土類金属にとって適切なホストガラスであると思われる。それにもかかわらず、希土類ドーパントは硫化ヒ素ガラスには比較的不溶性であることが判明している。
【0008】
希土類ドーパントがほとんどの酸化物ガラスには非常に溶解性であることが知られており、後者と酸化物ガラスの間に存在する全体の構造的相違に起因する、硫化ヒ素ガラスにおけるそれらの明らかな不溶性が憶測されている。硫化ヒ素ガラスは、長鎖および、共有結合したピラミッド型のAsS3基の層からなると考えられるのに対し、酸化物ガラスは、典型的には、比較的イオン結合したMO44面体の三次元ネットワークを含み、ここで、Mは、シリコン、リン、アルミニウムなどのいわゆるネットワーク形成金属である。希土類ドーパントは、例えば、アルミノケイ酸塩ガラス中のアルミニウムとケイ素などの2つ以上のネットワーク形成金属の存在から生じる電荷不均衡を相殺することが可能なこれらのイオン・ネットワーク構造に容易に適合される。
【0009】
共同出願した特許文献2は、電磁スペクトルの可視部分および赤外線部分の両方に良好な透明性を示し、比較的イオン性の三次元構造を有する、硫化物ガラスの系が、ガリウム硫化物ガラスを含むことを開示している。硫化ヒ素ガラスとは対照的に、これらのガラス構造は、GaS4面体を分かち合う角の三次元連結に基づいている。希土類金属は、これらのガラスに容易に溶解する。
【0010】
2成分のAsP硫化物ガラスは、非特許文献1に記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載のガラスはGaを含まない。
【0011】
共同出願した特許文献3は、希土類ドーパントを効率的に分散することができる、有用なホストガラスとして、P25および随意的にGa23またはIn23を含む、Geが豊富なGeAs硫化物ガラスについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,240,885号明細書
【特許文献2】米国特許第5,392,376号明細書
【特許文献3】米国特許第6,277,775号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】the Journal of Non−Crystalline Solids in the articles “Vibrational Spectra and Structure of As−P−S Glass” and “A Glass−Forming System With Compound−Forming Tendency: As4S6−P4S10”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
電磁スペクトルの赤外線部分に透明であり、希土類金属を効果的にドープ可能な、追加のGa−P−S型のガラス組成物を有することは、有利であろう。耐久性が増した、電磁スペクトルの可視部分にも透明な、Ga−P−S型のガラス組成物を有することもまた、有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの実施の形態はガラス組成物であって、原子百分率で:
45〜85%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
0より大きく25%までのGa、またはGaとInの組合せ;
0より大きく20%までのP;
0〜40%のAs;
0〜15%のGe;
0〜10%のSb;および
0〜5%のM(MはSn、Tl、Pb、Biおよびそれらの組合せである);
を含み、ここで、
Sの割合がSe、Te、または前記SeとTeの組合せの割合以上であり、
Inの割合が20%以下であり、
各割合がガラス組成物中のS、Se、Te、Ga、In、P、As、Ge、Sb、およびMの原子の合計に基づいている。
【0016】
驚くべきことに、GaはAsが豊富な硫化物ガラス中では低い溶解性を有するのに対し、GaとPの複合添加では、3成分系As23−Ga23−P25において、広範囲に及ぶガラス形成を生じることを見出した。さらには、この系におけるガラス形成は、2成分のGa23−P25ガラスが形成されうるのに十分に広範囲に及ぶ。塩基ガラスなどのこれら組成物を使用して、GeS2−Ga23−P25の3成分系におけるガラス形成の連続場を実証することもできる。
【0017】
これらのガラス組成物は、従来のガラス組成物の上述の不利な点の1つ以上に対処し、次の利点の1つ以上を提供する:熱安定性が増大し、かつ、例えば、ガラス遷移温度(Tg)、軟化点、歪み点、焼きなまし点などの特性温度、および熱膨張率(CTE)、および特定の用途にとって重要でありうる屈折率などの他のガラスの特徴の調整において可撓性の増大した、ガラス。
【0018】
本発明の追加の特徴および利点は、後述する詳細な説明に記載されるであろうし、一部には、その記載から当業者に容易に明らかとなり、または、詳細な説明および添付の特許請求の範囲、ならびに添付の図面に記載される通りに本発明を実施することによって認識されよう。
【0019】
前述の概要および後述する詳細な説明の両方は、単に、本発明の典型例であって、特許請求の範囲に記載する本発明の性質および特徴を理解する概観および枠組みを提供することが意図されていることが理解されるべきである。
【0020】
添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に取り込まれて、本明細書の一部を構成する。図面は、本発明の1つ以上の実施の形態を示し、説明と共に、本発明の原理および取り扱いを説明する役割をする。
【0021】
本発明は、以下の詳細な説明のみ、または添付の図面と共に、理解することができよう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】1つの実施の形態に従ったガラス組成物の固体31Pマジック角スピニング核磁気共鳴(31P MAS NMR)スペクトル。
【図2】典型的なガラス組成物のモルパーセントのGaPS4に対するTgを示すグラフ。
【図3】1つの実施の形態に従ったガラス組成物の赤外線透過スペクトルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
これより、さまざまな本発明の実施の形態について詳細に言及する。可能な限り、同一または同様の特性についての言及には、図面全体にわたり同一の参照番号を使用する。
【0024】
本発明の1つの実施の形態は、ガラス組成物であって、原子百分率で:
45〜85%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
0より大きく25%までのGa、またはGaとInの組合せ;
0より大きく20%までのP;
0〜40%のAs;
0〜15%のGe;
0〜10%のSb;および
0〜5%のM(MはSn、Tl、Pb、Biおよびそれらの組合せである);
を含み、
ここで、Sの割合はSe、Te、または前記SeとTeの組合せの割合以上であり、
Inの割合は20%以下であり、
各割合は、ガラス組成物中のS、Se、Te、Ga、In、P、As、Ge、Sb、およびMの原子の合計に基づいている、
ガラス組成物である。
【0025】
一部の実施の形態では、ガラス組成物は、0パーセントよりも大きいAs、0パーセントよりも大きいGe、0パーセントよりも大きいSb、および/または0パーセントよりも大きいMを含む。
【0026】
さまざまな量、例えば、微量、0.1、0.2、0.3、最大10パーセントを含む量のSbが、ガラス組成物中に存在しうる。
【0027】
1つの実施の形態では、ガラス組成物は、0パーセントよりも大きいMを含む。さまざまな量、例えば、微量、0.1、0.2、0.3、最大5パーセントを含む量のMが、ガラス組成物中に存在しうる。したがって、ガラス組成物は、例えば、0パーセントよりも大きいSn、0パーセントよりも大きいTl、0パーセントよりも大きいPb、および/または0パーセントよりも大きいBiを含みうる。
【0028】
列挙する元素、特にSbおよび/またはMは、ガラスの1つ以上の物理的特性、例えば、Tg、CTE、密度、および/または吸収を変化させるために、さまざまな量で用いることができる。
【0029】
1つの実施の形態では、ガラス組成物はGa23−P25の2成分系を含み、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0030】
1つの実施の形態では、ガラス組成物はGa23−P25の2成分系を含み、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0031】
1つの実施の形態によれば、Ga23−P25の2成分系は、40〜60モルパーセントのGa23および40〜60モルパーセントのP25を含み、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0032】
1つの実施の形態によれば、Ga23−P25の2成分系は、40〜60モルパーセントのGa23および40〜60モルパーセントのP25を含み、ここで1つ以上のS原子は、SeまたはTeで置換され;1つ以上のGa原子は、Inで置換され;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0033】
別の実施の形態では、ガラス組成物は、GeS2−Ga23−P25の3成分系を含み、ここで1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0034】
別の実施の形態では、ガラス組成物は、GeS2−Ga23−P25の3成分系を含み、ここで1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換され;1つ以上のGa原子はInで置換され;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0035】
GeS2−Ga23−P25の3成分系は、例えば、1〜60モルパーセントのGa23、1〜60モルパーセントのP25、および0よりも大きく55モルパーセントまでのGeS2を含んで差し支えなく、ここで1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0036】
GeS2−Ga23−P25の3成分系は、例えば、1〜60モルパーセントのGa23、1〜60モルパーセントのP25、および0よりも大きく55モルパーセントまでのGeS2を含んで差し支えなく、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換され;1つ以上のGa原子はInで置換され;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0037】
さらに別の実施の形態によれば、ガラス組成物はAs23−Ga23−P25の3成分系を含み、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0038】
1つの実施の形態によれば、ガラス組成物はAs23−Ga23−P25の3成分系を含み、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換され;1つ以上のGa原子はInで置換され;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0039】
As23−Ga23−P25の3成分系は、例えば、1〜60モルパーセントのGa23、1〜60モルパーセントのP25、および0よりも大きく95モルパーセントのAs23を含んで差し支えなく、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0040】
As23−Ga23−P25の3成分系は、例えば、1〜60モルパーセントのGa23、1〜60モルパーセントのP25、および0よりも大きく95モルパーセントのAs23を含んで差し支えなく、ここで1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換され;1つ以上のGa原子はInで置換され;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0041】
1つの実施の形態では、As23−Ga23−P25の3成分系は、50モルパーセントよりも大きく60モルパーセント以下のGa23、1モルパーセント以上50モルパーセント未満のP25、および0モルパーセントよりも大きく50モルパーセント未満のAs23を含み、ここで、1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換されて差し支えなく;1つ以上のGa原子はInで置換されて差し支えなく;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0042】
1つの実施の形態では、As23−Ga23−P25の3成分系は、50モルパーセントよりも大きく60モルパーセント以下のGa23、1モルパーセント以上50モルパーセント未満のP25、および0モルパーセントよりも大きく50モルパーセント未満のAs23を含み、ここで1つ以上のS原子はSeまたはTeで置換され;1つ以上のGa原子はInで置換され;S、Se、およびTeの原子の合計は化学量論値の70%〜130%である。
【0043】
一部の実施の形態によれば、ガラス組成物は1種類以上のランタニド元素をさらに含む。組成物中の各ランタニド元素は、独立して、1種類以上のランタニド元素を含むガラス組成物中の全原子に基づいて、5原子までの量で存在することができる。1種類以上のランタニド元素は、さまざまな量、例えば、微量、0.1、0.2、0.3、最大5原子百分率を含む量で、ガラス組成物中に存在しうる。ランタニド元素としては、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテチウムが挙げられる。
【0044】
上述のガラス組成物のさまざまなサブセットは、本発明の追加の実施の形態を形成する。例えば、1つのサブセットでは、ガラス組成物は、原子百分率で:
60〜70%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
6〜20%のGaまたはGaとInの組合せ;および
15〜20%のP
を含む。
【0045】
これらのガラス組成物は、例えば、0よりも大きく15パーセントまでのInを含みうる。
【0046】
第2のサブセットでは、ガラス組成物は、原子百分率で:
60〜70%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
1〜16パーセントのGaまたはGaとInの組合せ;
1〜17パーセントのP;および
4〜40パーセントのAs
を含む。
【0047】
第3のサブセットでは、ガラス組成物は、原子百分率で:
60〜70%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
10〜20パーセントのGaまたはGaとInの組合せ;
10〜20パーセントのP;および
1〜15パーセントのGe
を含む。
【0048】
本明細書に記載のガラス組成物では、S、Se、およびTeの原子の合計が化学量論値の70%〜130%でありうる。一部の実施の形態によれば、S、Se、およびTeの原子の合計の化学量論値は、100パーセントではない。
【0049】
本明細書に記載のガラス組成物は、例えば150℃以上のガラス遷移温度を有しうる。ガラス遷移温度はまた、例えば450℃以下でありうる。ガラスは、電磁スペクトルの近赤外線部分において透明でありうる。ガラスは電磁スペクトルの可視部分、例えば可視スペクトルのより長い波長範囲において透明でありうる。
【0050】
本発明が受け入れるGaおよびPを含むガラスの幅広いガラス形成領域は、例えば、Tg、軟化点、歪み点、焼きなまし点など、およびCTEなどの特性温度、ならびに特定の用途にとって重要であろう屈折率などのガラスの特性の調整において可撓性を提供する。
【0051】
ガラス中にGaとPが共存する結果、GaPS4様の構造単位が形成され、この例では表1に示す実施例組成物1であり、GaPS4ガラスの31P MAS NMRスペクトルが図1に示されている。84ppmにおける共鳴16は、ガラス中のPS4/2基に関係している。
【0052】
これらのGaPS4様の構造単位は、Pを含むがGaを含まない硫化物ガラスと比較して、改善された耐久性を提供する。Gaを含まないP含有硫化物ガラスでは、Pは、典型的には4面体のS=PS3/2基として存在し、ここで、4配位のS原子の1つが結合しておらず、したがって、比較的反応性である。結果として、これらの材料は、耐湿性に乏しいことが多い。Gaの存在は、後者を4面体のPS4/2基へと転換し、ここで、4配位のS原子のすべてがPと隣接するGa原子との間に結合を形成し、さらに化学的に耐性のネットワークを生じる。GaのPに対する比が1以上の場合、P上のすべての結合していないS原子はGaによって補われ、したがって耐久性を最大化する。1つの実施の形態では、ガラス組成物は、0.8以上、例えば1以上のGa/P比を有する。
【0053】
図2は、典型的なガラス組成物に対するTgを示すグラフであり、例えば、線10は、ガラス組成物中に存在するGaPS4(パーセント)に対する典型的なGeS−GaPS4ガラスのTgを示し、線12は、ガラス組成物中に存在するGaPS4(パーセント)に対する典型的なAsPS−GaPS4ガラスのTgを示し、線14は、ガラス組成物中に存在するGaPS4(パーセント)に対する典型的なAs23−GaPS4ガラスのTgを示す。よって、ファイバードロー温度または押し出し温度は、例えば、少なくとも200℃の範囲で調整されうる。
【0054】
他の硫化物ガラスと同様に、本明細書に記載のガラス組成物は、図3に示すように、電磁スペクトルの赤外線部分において改善された透明性を有する。線18は、表2に示す実施例13である、典型的なGaPAs硫化物ガラスの赤外線透過スペクトルを示す。サンプルの厚さは2mmであった。
【0055】
S=PS3/2基の濃度の低下または不存在は、P=Sの伸縮に起因して、比較的高い周波数の吸収を低減または排除する役割をする。
【実施例】
【0056】
本発明に従ったガラス組成物は、当業者に周知の従来の硫化物ガラスの溶融および形成方法を使用して調製することができる。例えば、10gから36gまでのバッチから得られる次の実施例の典型的なガラス組成物について、例えば、Ga、P、As、Ge、およびSなどの元素を、窒素充填したグローブボックス内で溶融シリカのアンプル内に充填した。アンプルをおよそ10-6Torrまで減圧し、火炎封止した後、揺動炉中でおよそ800℃に加熱した。溶融後、アンプルを室温水でクエンチして、硫化物の溶融物をガラスへと転換した。
【0057】
典型的な組成物を、表1、表2、表3、表4、および表5の実施例に示す。各表は、実際のバッチ重量、原子百分率におけるガラス組成物、および、モルパーセントにおけるガラス組成物を示している。
【0058】
表1は、Ga23−P25の2成分系および、Gaが部分的にInで置換された実施例における、典型的なガラス形成を示している。表2および表3は、As23−Ga23−P25の3成分系における典型的なガラス形成を示し、表2はAs23−GaPS4結合によるガラス、表3はAsPS4−GaPS4結合によるガラスを示す。表4は、GeS2−Ga23−P25の3成分系に由来する3成分ガラスを示す。表5は、Ga23−P25の2成分系、GeS2−Ga23−P25の3成分系およびAs23−Ga23−P25の3成分系における典型的な不定比のガラス形成を示す。表5では、%xsSは、ガラスが各欄に存在する成分を含む場合に、通常の化学量論値よりも過剰の硫黄、または、特定のガラス組成の通常の化学量論の100パーセントの硫黄よりも過剰の硫黄のパーセンテージである。例えば、表5の実施例31は、%xsSの行において−10と示されている。このガラス組成は、特定のガラス組成物についての通常の化学量論と比較して、100−10=90パーセントの硫黄を有する。例えば表5の36は、%xsSの行において10と示されている。このガラス組成物は、特定のガラス組成物についての通常の化学量論と比較して100+10=110パーセントの硫黄を有する。
【0059】
Tgは示差走査熱量測定法(DSC)で測定し、軟化点(Ts)は平行板粘度計(parallel plate viscometry)で決定した。吸収端(λ0)は、2.4μmにおいて50%透過率となる波長として、透過率データから計算した。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0060】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明にさまざまな変更および変形をなしうることは、当業者には明らかであろう。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内にあることを条件として、本発明の変更および変形にも及ぶことが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成物であって、原子百分率で:
45〜85%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
0より大きく25%までのGa、またはGaとInの組合せ;
0より大きく20%までのP;
0〜40%のAs;
0〜15%のGe;
0〜10%のSb;および
0〜5%のM(MはSn、Tl、Pb、Biおよびそれらの組合せである)
を含み、
Sの割合がSe、Te、またはSeとTeの組合せの割合以上であり、
Inの割合が20%以下であり、
各割合が、ガラス組成物中のS、Se、Te、Ga、In、P、As、Ge、Sb、およびMの原子の合計に基づいている、
ガラス組成物。
【請求項2】
Ga23−P25の2成分系を含み、
1つ以上のS原子がSeまたはTeで置換される場合があり;
1つ以上のGa原子がInで置換される場合があり;
S、Se、およびTeの原子の合計が化学量論値の70%〜130%である
ことを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項3】
GeS2−Ga23−P25の3成分系を含み、ここで、
1つ以上のS原子がSeまたはTeで置換される場合があり;
1つ以上のGa原子がInで置換される場合があり;
S、Se、およびTeの原子の合計が化学量論値の70%〜130%である
ことを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項4】
As23−Ga23−P25の3成分系を含み、ここで、
1つ以上のS原子がSeまたはTeで置換される場合があり;
1つ以上のGa原子がInで置換される場合があり;
S、Se、およびTeの原子の合計が化学量論値の70%〜130%である
ことを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項5】
原子百分率で:
60〜70%のS、またはSとSeの組合せ、またはSとTeの組合せ、またはS、SeおよびTeの組合せ;
6〜20%のGaまたはGaとInの組合せ;および
15〜20%のP
を含むことを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2011−518758(P2011−518758A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507425(P2011−507425)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/002577
【国際公開番号】WO2009/134351
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】