説明

HIF−1αと水素結合代替ヘリックスを有するp300/CBPの間の相互作用の阻害

本発明は、1種または複数種の安定な内部拘束αヘリックスを有し、かつHIF−1αのC末端トランス活性化ドメインの少なくとも一部模倣した配列を含むペプチドに関する。これらのペプチドを含有する医薬組成物、ならびにこれらのペプチドを用いて、例えば遺伝子転写を低減させる、またHIF−1αとCREB結合タンパク質および/またはp300の相互作用によって仲介される障害を治療または予防する、また組織における脈管形成を低減または防止する、またアポトーシスを誘発する、また細胞の生存および/または増殖を低下させる、またCREB結合タンパク質および/またはp300の潜在的なリガンドを同定する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書中に援用される2008年9月18日出願の米国仮特許出願第61/098,193号に関する利益の享受を請求する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記載
本発明は、合衆国国立衛生研究所によって与えられる認可番号GM073943の下で政府の支援によって行われた。本発明において政府は一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
VEGF転写の調節におけるHIF−1α−コアクチベーター相互作用の役割
コアクチベータータンパク質p300(または相同CREB結合タンパク質、CBP)のシステイン−ヒスチジンに富む1ドメイン(「CH1」)と、低酸素誘導因子1α(「HIF−1α」)のC−末端トランス活性化ドメイン(「C−TAD」、NCBI受託番号NP001521のアミノ酸786番〜826番)との間の相互作用(Freedman et al., “Structural Basis for Recruitment of CBP/p300 by Hypoxia-inducible Factor-1α”,Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 99:5367-72 (2002)、Dames et al., “Structural Basis for HIF-1α/CBP Recognition in the Cellular Hypoxic Response”, Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 99:5271-6 (2002))は、低酸素誘導遺伝子のトランス活性化を仲介する(Hirota & Semenza, “Regulation of Angiogenesis by Hypoxia-inducible Factor 1”,Crit. Rev. Oncol. Hematol. 59:15-26 (2006)、Semenza, “Targeting HIF-1 for Cancer Therapy”, Nat. Rev. Cancer 3:721-32 (2003))。図1A〜Cに示すように低酸素誘導遺伝子は、脈管形成および癌転移における重要な原因である(Orourke et al., “Identification of Hypoxically Inducible mRNAs in HeLa Cells Using Differential-display PCR”, Eu. J Biochem. 241:403-10 (1996)、Ivan et al., “HIFα Targeted for VHL-mediated Destruction by Proline Hydroxylation: Implications for O2 Sensing”, Science 292:464-8 (2001))。酸素正常状態(normoxia)下では、HIF−1のα−サブユニットは、図2に示すように、プロリン水酸化酵素によってプロリン残基402番および564番において連続的にヒドロキシル化され、ユビキチン化され、次いでユビキチン−プロテアソーム(proteosome)系によって分解される。フォンヒッペル・リンドウ癌抑制タンパク質(Kaelin, “Molecular basis of the VHL Hereditary Cancer Syndrome”, Nat. Rev. Cancer 2:673-82 (2002))が仲介するこの過程は、HIF−1αのレベル、およびその結果としての低酸素に対する転写応答を制御する役割を担っている(Maxwell et al., “The Tumour Suppressor Protein VHL Targets Hypoxia-inducible Factors for Oxygen-dependent Proteolysis”, Nature 399:271-5 (1999))。低酸素条件下ではHIF−1αは、もはや破壊には向けられず、蓄積する。その連続的に発現される結合パートナーであるアリール炭化水素受容体核内輸送体(「ARNT」)によるヘテロ二量体化(Wood et al., “The Role of the Aryl Hydrocarbon Receptor Nuclear Translocator (ARNT) in Hypoxic Induction of Gene Expression”, J Biol. Chem. 271:15117-23 (1996))は、コグネイト低酸素応答エレメント(「HRE」)との結合を引き起こす(Forsythe et al., “Activation of Vascular Endothelial Growth Factor Gene Transcription by Hypoxia-inducible Factor 1”, Mol. Cell. Biol. 16:4604-13 (1996))。アスパラギン803番に対する調節ヒドロキシル化の第三部位もまた、図2に示すように、これら低酸素条件下で阻害され(Lando et al., “FIH-I is an Asparaginyl Hydroxylase Enzyme That Regulates the Transcriptional Activity of Hypoxia-inducible Factor”, Genes & Develop 16:1466-71 (2002))、低酸素誘導遺伝子の過剰発現の引き金となるp300/CBPコアクチベーターの動員を可能にする。これらのなかには、血管内皮細胞成長因子(「VEGF」)およびVEGF受容体であるVEGFR−1(Flt−1)およびVEGFR−2(KDR/Flk−1)などの脈管形成ペプチド、ならびにグルコース輸送体GLUT1とGLUT3およびヘキソキナーゼ1と2などのエネルギー代謝の変化に関与するタンパク質をコードする遺伝子がある(Forsythe et al., “Activation of Vascular Endothelial Growth Factor Gene Transcription by Hypoxia-inducible Factor 1”, Mol. Cell. Biol. 16:4604-13 (1996)、Okino et.el., “Hypoxia-inducible Mammalian Gene Expression Analyzed in Vivo at a TATA-driven Promoter and at an Initiator-driven Promoter”, J Biol. Chem. 273:23837-43 (1998))。
【0004】
低酸素誘導転写の調節因子としてのエピジチオジケトピペラジン真菌代謝産物
HIF−1αC−TADと転写コアクチベーターp300/CBPの相互作用は、転写応答の顕著な増幅に関わる重要な点であるので、設計されたタンパク質リガンドによるその破壊は、癌における好気性の解糖および脈管形成(すなわち新血管の形成)を抑制する効果的な手段である可能性がある(Hirota & Semenza, “Regulation of Angiogenesis by Hypoxia-inducible Factor 1”, Crit. Rev. Oncol. Hematol. 59:15-26 (2006)、Ramanathan et al., “Perturbational Profiling of a Cell-line Model of Tumorigenesis by Using Metabolic Measurements”, Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 102:5992-7 (2005)、Underiner et al., “Development of Vascular Endothelial Growth Factor Receptor (VEGFR)Kinase Inhibitors as Anti-angiogenic Agents in Cancer Therapy”, Curr. Med. Chem. 11:73145 (2004))。HIF−1αC−TADとp300/CBPの接触面は広い(3393Å)が、このタンパク質−タンパク質相互作用の阻害は直接的干渉を必要としない場合もある。その代わりに、結合パートナー(p300/CBP)の一方への構造変化の誘発は、その複合体を壊すのに十分であり得る(Kung et al., “Small Molecule Blockage of Transcriptional Coactivation of the Hypoxia-inducible Factor Pathway”, Cancer Cell 6:33-43 (2004))。
【0005】
低分子による核のタンパク質−タンパク質相互作用の阻害は困難なことがこれまでに分かっていた(Arkin & Wells, “Small-molecule Inhibitors of Protein-Protein Interactions: Progressing Towards the Dream”, Nat. Rev. Drug Discov. 3:301-17 (2004))が、高親和性タンパク質リガンドに対する最近の検討は、幾つかの注目すべき業績をもたらした(Kung et al., “Small Molecule Blockage of Transcriptional Coactivation of the Hypoxia-inducible Factor Pathway”, Cancer Cell 6:33-43 (2004)、Issaeva et al., “Small Molecule RITA Binds to p53, Blocks p53-HDM-2 Interaction and Activates p53 Function in Tumors”, Nat. Med. 10:1321-8 (2004)、Lepourcelet et al., “Small-molecule Antagonists of the Oncogenic Tcf/β-Catenin Protein Complex”, Cancer Cell 5:91-102 (2004)、Vassilev et al., “In Vivo Activation of the p53 Pathway by Small-molecule Antagonists of MDM2”, Science 303:844-8 (2004)、Grasberger et al., “Discovery and Cocrystal Structure of Benzodiazepinedione HDM2 Antagonists That Activate p53 in Cells”, J Med. Chem. 48:909-12 (2005)、Ding et al., “Structure-based Design of Potent Non-peptide MDM2 Inhibitors”, J Am. Chem. Soc. 127:10130-1 (2005)、Berg et al., “Small-molecule Antagonists of Myc/Max Dimerization Inhibit Myc-induced Transformation of Chicken Embryo Fibroblasts” Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 99:3830-5 (2002)、De Munari et al.,の国際公開第2006/066775号パンフレット)。2種類の低分子、カエトシン(chaetocin)(1)(Hauser et al., “Isolation and Structure Elucidation of Chaetocin”, Helv. Chirn. Acta 53 (5):1061-73 (1970))(図3Aに示す)およびケトミン(2)(Waksman & Bugie, “Chaetomin, a New Antibiotic Substance Produced by Chaetomium Cochliodes I. Formation and Properties”, J. Bacteriol. 48:527-30 (1944))(図3Bに示す)が、HIF−1αC−TADとp300/CBPの間の相互作用を阻害すること、および低酸素誘導転写を弱めることが示されているが、この阻害の正確な機構は不明なままである(Kung et al., “Small Molecule Blockage of Transcriptional Coactivation of the Hypoxia-inducible Factor Pathway”, Cancer Cell 6:33-43 (2004))。初期の有望な報告にもかかわらず、(1)および(2)の両方とも実験動物において凝固性壊死、貧血、および白血球増加を誘発しているので、HIF−1経路の阻害剤のさらなる設計が必要である。副作用のないまたは減少させたHIF−1経路の他の阻害剤を同定することが望ましいであろう。
【0006】
本発明は、当分野におけるこれらのまた他の欠点の克服を目的とする。
【発明の概要】
【0007】
一態様において本発明は、1種または複数種の安定なαヘリックス構造を有し、低酸素誘導因子1αのC末端トランス活性化ドメインのヘリックスαAまたはヘリックスαBを模倣した配列を含むペプチドを提供する。一実施形態では、このペプチドは、式I
【化1】


のペプチドである。
式中、
【化2】


は、炭素−炭素単結合または二重結合であり、ここで、炭素−炭素二重結合はcisまたはtransであり、
各nは、独立して1または2であり、
mは、0または任意の正の整数であり、
は、アミノ酸、ペプチド、−OR、−CHNH、アルキル基、アリール基、または水素であり、ここで、Rはアルキルまたはアリールであり、あるいはRは、式
【化3】


(式中、Aは、ペプチド、アミノ酸残基、アシル基、または水素であり、
各Rは、独立してアミノ酸側鎖、水素、アルキル、またはアリール基である)
を有し、
は、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基であり、
は、アミノ酸、ペプチド、−OR、−N(R、アルキル基、アリール基、または水素であり、ここで、Rは、アルキル基またはアリール基であり、各Rは、独立してアミノ酸側鎖、水素、アルキル基、またはアリール基であり、
、A、およびAは、それぞれ独立して、
【化4】


(式中、各Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)であり、
は、
【化5】


(式中、各Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)である。
請求項2に記載されているペプチドにおいて、
(i)AはThrであり、AはSerまたはAlaであり、AはTyrまたはAlaであり、Aは、式Xを含み、ここで、XはAspまたはAsnであり、XはVal、Cys、またはAlaであり、XはGluまたはGlnであり、XはValまたはTyrであり、XはAsnまたはArgであり、XはAlaであり、XはArgまたは不在であり、あるいは
(ii)AおよびAは、独立してGluまたはGlnであり、AはLeuであり、Aは、式LRXLXを含み、ここで、LはLeuであり、RはArgであり、XはAlaまたはTyrであり、XはAspまたはAsnである。
【0008】
別の実施形態では、このペプチドは、
【化6】


(式中、mおよびnは独立して1または2であり、Xは水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)からなる群から選択される。
【0009】
一実施形態では、mおよびnが1である。別の実施形態では、mが1、nが2である。別の実施形態では、mが2、nが1である。さらに別の実施形態では、mおよびnの両方が2である。
【0010】
幾つかの実施形態では、本発明のペプチドは、低酸素誘導因子1αのC末端トランス活性化ドメインの少なくとも残基796番〜804番または残基816番〜823番を模倣している。
【0011】
別の態様において本発明はまた、本発明のペプチドおよび薬学的に許容できるビヒクルを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
さらに別の態様において本発明は、低酸素誘導因子1αとCREB結合タンパク質および/またはp300の相互作用によって仲介される細胞における遺伝子の転写を低減させる方法を提供する。上記方法は、細胞を、遺伝子の転写を低減させるのに効果的な条件下で請求項1に記載のペプチドと接触させることを含む。幾つかの実施形態では、その遺伝子は、アデニル酸キナーゼ3、アルドラーゼA、アルドラーゼC、エノラーゼ1、グルコース輸送体1、グルコース輸送体3、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、ヘキソキナーゼ1、ヘキソキナーゼ2、インスリン様増殖因子2、IGF結合タンパク質1、IGF結合タンパク質3、乳酸脱水素酵素A、ホスホグリセリン酸キナーゼ1、ピルビン酸キナーゼM、p21、トランスフォーミング増殖因子β、セルロプラスミン、エリスロポエチン、トランスフェリン、トランスフェリン受容体、α1B−アドレナリン受容体、アドレノメデュリン、エンドセリン−1、ヘムオキシゲナーゼ1、一酸化窒素シンターゼ2、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、脈管内皮増殖因子、脈管内皮増殖因子受容体FLT−1、脈管内皮増殖因子受容体KDR/Flk−1、およびp35srgからなる群から選択される。
【0013】
また、治療または予防が必要な被験体において、低酸素誘導因子1αとCREB結合タンパク質および/またはp300の相互作用によって仲介される障害を治療または予防する方法を提供する。この方法は、その障害を治療または予防するのに効果的な条件下で本発明のペプチドを被験体に投与することを含む。幾つかの実施形態では、この障害は、網膜虚血、肺高血圧症、子宮内発育遅延、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、および癌からなる群から選択される。
【0014】
別の態様において本発明は、組織における脈管形成の低減または防止方法に関する。この方法は、組織を、その組織における脈管形成を低減または防止するのに効果的な条件下で本発明のペプチドと接触させることを含む。幾つかの実施形態では、この方法は、in vivoで行われる。他の実施形態では、この組織は腫瘍である。
【0015】
本発明はさらに、細胞におけるアポトーシスの誘発方法を提供する。この方法は、細胞を、その細胞のアポトーシスを誘発するのに効果的な条件下で本発明のペプチドと接触させることを含む。本発明はまた、細胞の生存および/または増殖を低下させる方法を提供する。この方法は、細胞を、その細胞の生存および/または増殖を低下させるのに効果的な条件下で本発明のペプチドと接触させることを含む。幾つかの実施形態では、この細胞は、癌性であるか、または癌細胞を含有する組織の内皮脈管構造内に含まれる。別の態様において本発明は、CREB結合タンパク質および/またはp300の潜在的なリガンドの同定方法に関する。この方法は、本発明のペプチドを提供すること、そのペプチドを被検物質と接触させること、およびこの被検物質がそのペプチドと選択的に結合するかどうかを検出することを含み、そのペプチドと選択的に結合する被検物質を、CREB結合タンパク質および/またはp300の潜在的なリガンドとして同定する。
【0016】
参照による援用
本明細書中で述べるすべての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許、および特許出願が、具体的かつ個々に示されて参照により援用されることが示されているかのように参照により本明細書中に援用される。
【0017】
本発明の新規な特徴は、詳細には別添の特許請求の範囲により記述される。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理を利用した例示的実施形態および添付図面について述べる下記の詳細な説明を参照することによって得られるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(図1A)低酸素誘導因子1α(「HIF−1α」)のC末端トランス活性化ドメイン(「C−TAD」)と、コアクチベータータンパク質p300(または相同CREB結合タンパク質、CBP)のシステイン−ヒスチジンに富む1ドメイン(「CH1」)との複合体の構造を示す図である(Lepourcelet et al., “Small-molecule Antagonists of the Oncogenic Tcf/β-Catenin Protein Complex”, Cancer Cell 5:91-102 (2004)、Vassilev et al., “In Vivo Activation of the p53 Pathway by Small-molecule Antagonists of MDM2”, Science 303:844-8 (2004))。 (図1B)塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス領域(「bHLH」)、PAS、およびN末端トランス活性化ドメイン(「N−TAD」)およびC−TADを示すHIF−1αのドメインマップを示す図である。 (図1C)ヒトHIF−1αC−TAD配列(配列番号1)を、αAおよびαBヘリックスの位置と共に示す図である。
【図2】HIF−1α経路を示す図である。ARNTはアリール炭化水素受容体核移行因子(receptor nuclear translocator)を表し、VHLはフォンヒッペル・リンドウ腫瘍抑制タンパク質を表し、HREは低酸素応答エレメントを表し、VEGFは脈管内皮増殖因子を表す。
【図3】(図3A)カエトシン(chetocin)(1)(ケトミウム・グロボーサム(Chaetomium globosum)から単離される)の構造を示す図である。 (図3B)ケトミン(2)(ケトミウム・コディオデス(Chaetomium codiodes)から単離される)の構造を示す略図である。
【図4】N末端iとi+4水素結合(C=O−−H−N)を共有結合(C=X−Y−N)で置き換えることによる短鎖αヘリックスの核形成を示す略図である。これらの水素結合代替(hydrogen bond surrogate-based)(「HBS」)αヘリックスは、閉環メタセシス反応(ring-closing metathesis reaction)(「RCM」)から誘導される炭素−炭素結合を含有する。
【図5】(図5A)HBSαヘリックスの構造を示す図である。HBSαヘリックスのNMRから得られる構造を示す図である。 (図5B)HBSαヘリックスの構造を示す図である。精巧な分子モデルを用いたHBSαヘリックスのX線結晶解析から得られる1.1Å分解能電子密度マップを示す図である。 (図5C)HBSαヘリックスの構造を示す図である。結晶解析データから得られるHBSαヘリックスの分子モデルを示す図である。細い線は推定上のiとi+4の水素結合を表す。
【図6A】HBSヘリックス(22)に関し、HBSヘリックス(22)の化学構造を表す図である。
【図6B】HBSヘリックス(22)に関し、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中のHBSヘリックス(22)および対照ペプチド(25)の円二色性スペクトルを示す図である。
【図7】リアルタイムqRT−PCRによって測定した様々なペプチドによるVEGF遺伝子レベルの時間に依存した阻害のグラフである。
【図8】細胞培養液の培地のみ(「対照」)、0.1%培地(「ビヒクル」)、ケトミン(2)、HBSヘリックス(22)、または対照の直鎖ペプチド(25)で処理した培養液の細胞密度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のαヘリックス化合物の設計
一態様において本発明は、HIF−1αC−TADとp300/CBP CH1ドメインとの相互作用を調節する水素結合代替(「HBS」)αヘリックスに関する。
【0020】
15個未満のアミノ酸残基からなるペプチドはタンパク質環境から摘出された生理的条件では一般にαヘリックス構造を形成せず、αヘリックス立体配座を取るには人為的な制約を必要とする。HIF−1αは、それぞれ8個のアミノ酸残基からなる2つの短鎖αヘリックス領域を特色とする。図4に示すように、短鎖ペプチド配列から安定なヘリックス構造を再生可能な方法で生成するという目的で、水素結合代替(「HBS」)から得られるαヘリックスでHIF−1α/コアクチベーター界面を標的にした(Wang et al., “Evaluation of Biologically Relevant Short α-Helices Stabilized by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc.128:9248-56 (2006)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。ヘリックス模倣体(helix mimetics)の設計のための他の手法が文献に記載されているが、それらの方法は、立体配座を安定化するために「二重の安全対策(belts and braces)」を必要とすることが多い。立体配座を固定させるために側鎖官能性は使用されないので、このHBS手法により、分子認識に利用できるあらゆる面に関してαヘリックスの合成が独特に可能となる。
【0021】
HBSヘリックス設計手法はヘリックス−コイル転移理論が中心であり、当該理論は、3個の連続的なアミノ酸を螺旋配向とする強く要求される組織化によって、短鎖αヘリックスの安定性を本質的に限定することを示唆する(Lifson & Roig, “On the Theory of Helix-Coil Transitions in Polypeptides”, J. Chem. Phys. 34:1963-74 (1961)、Zimm & Bragg, “Theory of the Phase Transition Between Helix and Random Coil in Polypeptide Chains”, J. Chem. Phys. 31:526-35 (1959)、本明細書によりそれらの全体が参照により援用される)。この理論によれば、10個以下のアミノ酸からなるαヘリックスは、核形成の可能性が低いために本質的に不安定であると予想される。このHBS手法は、固有の核形成障壁を克服し、ヘリックス形成を開始させるために、予め組織化したαターンを与える。αヘリックスでは、図4に示すように、i番目のアミノ酸残基のC=Oとi+4番目のアミノ酸残基のNHの間の水素結合がヘリックス構造を安定化し、核を形成する。C=O−−H−N水素結合をできるだけ近似に模倣し、αターンを予め組織化するために、C=X−Y−N型(ここでXおよびYは、それぞれiおよびi+4残基の一部である)の共有結合が利用される。この方法は、任意の構造的に拘束されたαヘリックスを調製するために広く応用できると期待される。これらと同様の方法も、構造的に拘束されたαヘリックスを調製するために使用することができる。
【0022】
一実施形態では、i残基とi+4残基の間の共有結合が、閉環メタセシス反応から得られる炭素−炭素結合である(Chapman et al., “A Highly Stable Short α-Helix Constrained by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 126:12252-3 (2004)、Dimartino et al., “Solid-phase Synthesis of Hydrogen-bond Surrogate-derived α-Helices”, Org. Lett. 7:2389-92 (2005)、本明細書によりこれらの全体が参照により援用される)。
【0023】
NMRから得られるHBSαヘリックスの溶液構造および高分解結晶構造は、図5に示すように、この手法の潜在能力を明白に例示している(Wang et al., “Evaluation of Biologically Relevant Short α-Helices Stabilized by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”,J. Am. Chem. Soc. 128:9248-56 (2006)、Liu et al., “Atomic Structure of a Short Alpha-helix Stabilized by a Main Chain Hydrogen Bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 130:4334-7 (2008)、本明細書によりこれらの全体が参照により援用される)。このHBS手法の2つの特徴、すなわち(1)溶媒に曝される表面を保護することなしにαヘリックスの設計を可能にし、それによって分子認識のための側鎖を保存する、架橋部の内部配置と、(2)10個未満のアミノ酸残基を有するきわめて短いペプチドを拘束して非常に安定なαヘリックスとする能力は、それをアロステリック転写調節因子の設計にとって特に魅力あるものにする(Wang et al., “Evaluation of Biologically Relevant Short α-Helices Stabilized by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 128:9248-56 (2006)、Wang et al., “Nucleation and Stability of Hydrogen-bond Surrogate-based α-Helices”, Org. Biomol. Chem. 4:4074-81 (2006)、本明細書によりこれらの全体が参照により援用される)。
【0024】
本発明の第一の態様は、1種または複数種の安定な内部拘束(internally-constrained)αヘリックスを有するペプチドに関する。このペプチドは、HIF−1αヘリックスドメインの一部を模倣した配列を含む。一実施形態では、このHIF−1αヘリックスドメインは、HIF−1αのC末端トランス活性化ドメインのヘリックスαAまたはヘリックスαBである。例えばこのペプチドは、HIF−1αのC末端トランス活性化ドメインの少なくとも残基796番〜804番または残基816番〜823番を模倣している。
【0025】
本発明の好適なペプチドには、式I
【化7】


のペプチドが含まれる。
式中、
【化8】


は、炭素−炭素単結合または二重結合であり、ここで、炭素−炭素二重結合はcisまたはtransであり、各nは、独立して1または2であり、mは、0または任意の正の整数である。例えばmは、3〜16または3〜40の任意の整数であることができる。Rは、アミノ酸、ペプチド、−OR、−CHNH、アルキル基、アリール基、または水素であることができ、ここで、Rはアルキルまたはアリールである。あるいはRは、式
【化9】


部分である。
式中、Aは、アミノ酸残基、アシル基、または水素であり、各Rは、独立して、アミノ酸側鎖、水素、アルキル、またはアリール基である。Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基であることができる。Rは、アミノ酸、ペプチド、−OR、−N(R、アルキル基、アリール基、または水素であり、ここで、Rは、アルキル基またはアリール基であり、各Rは、独立して、アミノ酸側鎖、水素、アルキル基、またはアリール基である。A、A、およびAは、それぞれ独立して、
【化10】


(式中、各Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)であり、Aは、
【化11】


(式中、各Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)である。
【0026】
本発明の実施において有用なアミノ酸には、天然または非天然のアミノ酸、二置換アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、および他のアミノ酸が挙げられ、また本明細書中で言及される残基には、そのようなアミノ酸から得られる残基が含まれる。一実施形態では、式Iなどの本発明の化合物中で言及されるアミノ酸側鎖は天然のアミノ酸側鎖である。
【0027】
本明細書中で使用される「アルキル基」は、直鎖または分枝鎖アルキル基である。アルキルの定義の範囲内にはヘテロアルキル基も含まれ、ヘテロ原子は、窒素、酸素、リン、イオウ、およびケイ素であることができる。アルキル基には、これらに限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、およびブチルが含まれる。アルキル基には、例えばC1〜C6アルキルが含まれる。
【0028】
本明細書中で使用される「アシル基」には、メタノイル、エタノイル、プロパノイル、ベンゾイル、およびプロペノイルなどの直鎖または分枝鎖アシル基が含まれる。
【0029】
本明細書中で使用される「アリール基」には、芳香族アリール環、例えばフェニル、ピリジン、フラン、チオフェン、ピロール、インドール、およびプリンなどのヘテロ芳香族環、ならびに窒素、酸素、イオウ、またはリンを有するヘテロ環が含まれる。
【0030】
アルキル、アシル、およびアリール基の定義には、置換されたアルキル、アシル、およびアリール基が含まれる。好適な置換基には、これらに限定されないが、ハロゲン、アミン、ヒドロキシル基、カルボン酸、ニトロ基、カルボニル、および他のアルキル、アシル、およびアリール基が含まれる。
【0031】
HIF−1αのC末端トランス活性化ドメインのヘリックスαAを模倣したペプチドには、これらに限定されないが、式Iのものが含まれ、ここで、AはThrであり、AはSerまたはAlaであり、AはTyrまたはAlaであり、Aは式Xを含み、ここで、XはAspまたはAsnであり、XはVal、Cys、またはAlaであり、XはGluまたはGlnであり、XはValまたはTyrであり、XはAsnまたはArgであり、XはAlaであり、XはArgまたは不在である。当業者に理解されるように、Aは、Asn−Ala−Gln−Tyr−Arg−Ala(配列番号2)、Asn−Ala−Gln−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号3)、Asn−Ala−Gln−Tyr−Asn−Ala(配列番号4)、Asn−Ala−Gln−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号5)、Asn−Ala−Gln−Val−Arg−Ala(配列番号6)、Asn−Ala−Gln−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号7)、Asn−Ala−Gln−Val−Asn−Ala(配列番号8)、Asn−Ala−Gln−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号9)、Asn−Ala−Glu−Tyr−Arg−Ala(配列番号10)、Asn−Ala−Glu−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号11)、Asn−Ala−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号12)、Asn−Ala−Glu−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号13)、Asn−Ala−Glu−Val−Arg−Ala(配列番号14)、Asn−Ala−Glu−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号15)、Asn−AlaGlu−Val−Asn−Ala(配列番号16)、Asn−Ala−Glu−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号17)、Asn−Cys−Gln−Tyr−Arg−Ala(配列番号18)、Asn−Cys−Gln−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号19)、Asn−Cys−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号20)、Asn−Cys−Gln−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号21)、Asn−Cys−Gln−Val−Arg−Ala(配列番号22)、Asn−Cys−Gln−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号23)、Asn−Cys−Gln−Val−Asn−Ala(配列番号24)、Asn−Cys−Gln−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号25)、Asn−Cys−Glu−Tyr−Arg−Ala(配列番号26)、Asn−Cys−Glu−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号27)、Asn−Cys−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号28)、Asn−Cys−Glu−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号29)、Asn−Cys−Glu−Val−Arg−Ala(配列番号30)、Asn−Cys−Glu−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号31)、Asn−Cys−Glu−Val−Asn−Ala(配列番号32)、Asn−Cys−Glu−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号33)、Asn−Val−Gln−Tyr−Arg−Ala(配列番号34)、Asn−Val−Gln−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号35)、Asn−Val−Gln−Tyr−Asn−Ala(配列番号36)、Asn−Val−Gln−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号37)、Asn−Val−Gln−Val−Arg−Ala(配列番号38)、Asn−Val−Gln−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号39)、Asn−Val−Gln−Val−Asn−Ala(配列番号40)、Asn−Val−Gln−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号41)、Asn−Val−Glu−Tyr−Arg−Ala(配列番号42)、Asn−Val−Glu−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号43)、Asn−Val−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号44)、Asn−Val−Glu−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号45)、Asn−Val−Glu−Val−Arg−Ala(配列番号46)、Asn−Val−Glu−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号47)、Asn−Val−Glu−Val−Asn−Ala(配列番号48)、Asn−Val−Glu−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号49)、Asp−Ala−Gln−Tyr−Arg−Ala(配列番号50)、Asp−Ala−Gln−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号51)、Asp−Ala−Gln−Tyr−Asn−Ala(配列番号52)、Asp−Ala−Gln−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号53)、Asp−Ala−Gln−Val−Arg−Ala(配列番号54)、Asp−Ala−Gln−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号55)、Asp−Ala−Gln−Val−Asn−Ala(配列番号56)、Asp−Ala−Gln−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号57)、Asp−Ala−Glu−Tyr−Arg−Ala(配列番号58)、Asp−Ala−Glu−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号59)、Asp−Ala−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号60)、Asp−Ala−Glu−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号61)、Asp−Ala−Glu−Val−Arg−Ala(配列番号62)、Asp−Ala−Glu−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号63)、Asp−Ala−Glu−Val−Asn−Ala(配列番号64)、Asp−Ala−Glu−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号65)、Asp−Cys−Gln−Tyr−Arg−Ala(配列番号66)、Asp−Cys−Gln−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号67)、Asp−Cys−Gln−Tyr−Asn−Ala(配列番号68)、Asp−Cys−Gln−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号69)、Asp−Cys−Gln−Val−Arg−Ala(配列番号70)、Asp−Cys−Gln−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号71)、Asp−Cys−Gln−Val−Asn−Ala(配列番号72)、Asp−Cys−Gln−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号73、)Asp−Cys−Glu−Tyr−Arg−Ala(配列番号74)、Asp−Cys−Glu−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号75)、Asp−Cys−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号76)、Asp−Cys−Glu−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号77)、Asp−Cys−Glu−Val−Arg−Ala(配列番号78)、Asp−Cys−Glu−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号79)、Asp−Cys−Glu−Val−Asn−Ala(配列番号80)、Asp−Cys−Glu−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号81)、Asp−Val−Gln−Tyr−Arg−Ala(配列番号82)、Asp−Val−Gln−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号83)、Asp−Val−Gln−Tyr−Asn−Ala(配列番号84)、Asp−Val−Gln−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号85)、Asp−Val−Gln−Val−Arg−Ala(配列番号86)、Asp−Val−Gln−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号87)、Asp−Val−Gln−Val−Asn−Ala(配列番号88)、Asp−Val−Gln−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号89)、Asp−Val−Glu−Tyr−Arg−Ala(配列番号90)、Asp−Val−Glu−Tyr−Arg−Ala−Arg(配列番号91)、Asp−Val−Glu−Tyr−Asn−Ala(配列番号92)、Asp−Val−Glu−Tyr−Asn−Ala−Arg(配列番号93)、Asp−Val−Glu−Val−Arg−Ala(配列番号94)、Asp−Val−Glu−Val−Arg−Ala−Arg(配列番号95)、Asp−Val−Glu−Val−Asn−Ala(配列番号96)、Asp−Val−Glu−Val−Asn−Ala−Arg(配列番号97)の群から選択することができる。ペプチドの実例には、
【化12】


が含まれる。
【0032】
上記のペプチドにおいて、mおよびnは独立して1または2である。例えば、mおよびnのそれぞれが1であることができる。あるいは、mが1であり、nが2である。別の実施形態では、mが2であり、nが1である。さらに別の実施形態では、mおよびnの両方が2である。
【0033】
一般に、本発明の好適なペプチドには、式
【化13】


を含むものが含まれる。
式中、
【化14】


は、炭素−炭素単結合または二重結合であり、
【化15】


は、単結合であり、
【化16】


は、二重結合の場合にはcisまたはtransであり、
各nは、独立して1または2であり、mは、任意の整数であり、
は、アミノ酸、ペプチド、−OR、−CHNH、アルキル基、アリール基、水素、または式
【化17】


(式中、Aは、ペプチド、アミノ酸残基、アシル基、または水素であり、各Rは、独立して、アミノ酸側鎖、水素、アルキル、またはアリール基である)を有する基であり、
は、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基であり、
AAおよびAAは、独立して、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基であり、またAは、式Iについて上記で定義したものと同様である。
【0034】
一実施形態では、Rは水素である。別の実施形態では、Rは、
【化18】


(式中、Aはペプチド結合により結合したペプチドである)である。
【0035】
一実施形態では、
【化19】


によって表される結合は単結合である。別の実施形態では、
【化20】


によって表される結合は二重結合である。
【0036】
他の実施形態では、本発明の方法を使用して、高度に安定化された内部拘束αヘリックスを有するペプチドを調製することができる。拘束は、N末端だけでなく、ペプチド内のどこにでも配置することができる。例えば、本発明の方法により調製される化合物は、式
【化21】


を有することができる。
【0037】
上記の式において、各Rは、独立して、任意のアミノ酸側鎖である。
【0038】
本発明の方法により生成されるペプチドは、例えばアミノ酸残基50、45、40、35、30、25、20、15個未満、または10個未満であることができる。一実施形態では、本発明のペプチドは、アミノ酸の長さ50個未満である。
【0039】
本発明のHBSαヘリックスは、例えば、図2に示すように、N末端主鎖iとi+4の水素結合を、閉環メタセシス反応により炭素−炭素結合と置き換えることによって調製することができる(Arora et al.の米国特許第7,202,332号、Chapman & Arora, “Optimized Synthesis of Hydrogen-bond Surrogate Helices: Surprising Effects of Microwave Heating on the Activity of Grubbs Catalysts”, Org. Lett. 8:5825-8 (2006)、Chapman et al., “A Highly Stable Short α-Helix Constrained by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 126:12252-3 (2004)、Dimartino et al., “Solid-phase Synthesis of Hydrogen-bond Surrogate-derived α-Helices”, Org. Lett. 7:2389-92 (2005)、本明細書によりこれらの全体が参照により援用される)。水素結合代替により、αターンは予め組織化され、αヘリックス立体配座におけるペプチド配列が安定化する。HBSαヘリックスは、安定なαヘリックス立体配座を様々な短鎖ペプチド配列から採ることが示されている(Wang et al., “Evaluation of Biologically Relevant Short α-Helices Stabilized by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 128:9248-56 (2006)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。これらの人為的(artificial)αヘリックスは、それらの予想されるタンパク質受容体を高い親和性で標的にすることができることも示されている(Wang et al., “Enhanced Metabolic Stability and Protein-binding Properties of Artificial α Helices Derived from a Hydrogen-bond Surrogate: Application to Bcl-xL”, Angew. Chem. Int’l Ed. Engl. 44:6525-9 (2005), originally published at Angew. Chem. 117:6683-7 (2005)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。例えば、本発明の化合物の調製によって、ペプチド前駆化合物が提供され、炭素−炭素結合立体配座が促進され、安定な内部拘束αヘリックスを生じさせる。
【0040】
一実施形態では、前駆体は、式
【化22】


を有する。
【0041】
上記の式の化合物は、炭素−炭素結合の形成を促進させるのに効果的な条件下で反応させることができる。そのような反応は、例えばメタセシスであることができる。ペプチド模倣物の調製において非天然の炭素−炭素拘束の容易な導入のためのオレフィンメタセシス触媒によって示される例外的な官能基の許容性は、XおよびYが、スキーム2に示されるオレフィンメタセシス反応を介して結合された2個の炭素原子であることができることを示唆する(Hoveyda et al., “Ru Complexes Bearing Bidentate Carbenes: From Innocent Curiosity to Uniquely Effective Catalysts for Olefin Metathesis”, Org. Biomolec. Chem. 2:8-23 (2004)、Trnka et al., “The development of L2X2Tu = CHR Olefin Metathesis Catalysts: An Organometallic Success Story”, Accounts Chem. Res. 34:18-29 (2001)、本明細書によりこれらの全体が参照により援用される)。
【0042】
本発明のこの態様は、例えば閉環オレフィンメタセシス反応を伴うことができる。オレフィンメタセシス反応は、2つの二重結合(オレフィン)を結合して2つの新しい二重結合(その一方は一般にエチレンガス)を与える。閉環オレフィンメタセシスは、オレフィンメタセシス反応を利用して大環状化合物を形成する。この反応では、鎖内の2つの二重結合が結合される。反応は、例えば式
【化23】


のメタセシス触媒を用いて行うことができる。
【0043】
他の実施形態では、そのメタセシス触媒は、式
【化24】


で表されるものである。
【0044】
このメタセシス反応は、例えば約25℃と110℃の間の温度、より好ましくは約50℃の温度で行うことができる。
【0045】
このメタセシス反応は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、またはトルエンなどの有機溶媒を用いて行うことができる。
【0046】
本明細書中で開示される反応は、例えば固体支持体上で行うことができる。好適な固体支持体には、粒子、ストランド、沈殿物、ゲル、シート、管、球体、容器、毛管、パッド、薄片、フィルム、プレート、スライド、円板、膜などが含まれる。これらの固体支持体は、ポリマー、プラスチックス、セラミックス、多糖、シリカまたはシリカ系材料、炭素、金属、無機ガラス、膜、またはこれらの複合材料を含む種々様々な材料から作ることができる。基体は、好ましくは平坦であるが、様々な代替表面構造を採ることもできる。例えば、基体は、その上で反応が行われる一段高くなったまたは低くなった領域を含むことができる。好ましくは基体およびその表面は、本明細書中で述べる反応をその上で行うための剛性支持体を形成する。他の基体材料は、本発明の開示内容を検討すれば通常の当業技術者に容易に明らかになるであろう。
【0047】
メタセシス反応は、新しく形成された炭素−炭素結合が二重結合である化合物を最初に生成することができる。その後、当業界で知られている水素化法によって、この二重結合を単結合に転化することができる。
【0048】
本発明のペプチドおよび薬学的に許容できるビヒクルを含む医薬組成物も本発明に包含される。
【0049】
通常の当業技術者に明らかなように、投与は一般に知られている方法を用いて行うことができる。投与は、被験体への全身投与によるか、または羅漢した細胞への標的投与により達成することができる。投与経路の例には、これらに限定されないが、気管内接種、吸引、気道点滴、エアロゾル適用、噴霧、鼻腔内点滴、経口または経鼻的胃点滴、腹膜内注射、脈管内注射、局所、経皮、非経口、皮下、静脈内注射、動脈内注射(例えば、肺動脈経由)、筋内注射、胸腔内点滴、脳室内、病巣内、粘膜(鼻、喉、気管支、生殖器、および/または肛門の粘膜など)への塗布、または持続放出ビヒクルの移植が含まれる。
【0050】
本発明のペプチドは、治療剤と、任意の薬学的に許容できるアジュバント、担体、賦形剤、および/または安定剤とを含み、錠剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、または乳剤などの固体または液体の形態であることができる医薬製剤として哺乳動物に投与されることができる。組成物は、好ましくは治療剤を約0.01から約99重量%、より好ましくは約2から約60重量%と、アジュバント、担体、および/または賦形剤とを含有する。このような治療に有用な組成物中の活性化合物の量は、好適な剤形が得られるような量である。
【0051】
薬剤は、例えば不活性増量剤または吸収可能な可食担体と一緒に経口投与することができ、あるいはハードまたはソフトシェルカプセル中に封入することもでき、あるいは圧縮して錠剤にすることもでき、あるいは食生活の食べ物と直接混ぜ合わせることもできる。経口治療投与の場合、それらの活性化合物は、賦形剤と混ぜ合わせ、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態で使用することができる。このような組成物および製剤は、この薬剤を少なくとも0.1%含有すべきである。これらの組成物中の薬剤の割合は、もちろん変えることができ、好都合にはその単位の重量の約2%から約60%の間であることができる。このような治療に有用な組成物中の薬剤の量は、好適な用量が得られるような量である。
【0052】
錠剤、カプセル剤などは、トラガントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤、リン酸二カルシウムなどの賦形剤、コーンスターチ、バレイショデンプン、またはアルギン酸などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、およびスクロース、ラクトース、またはサッカリンなどの甘味剤を含有することができる。剤形の形態がカプセルの場合、上記種類の材料に加えて、脂肪油などの液状担体を含有することもできる。
【0053】
様々な他の材料が、コーティングとして、あるいは剤形の物理的形態を改変するため、存在することができる。例えば、錠剤をセラック、糖、またはその両方でコーティングすることができる。シロップ剤は、活性成分に加えて、甘味剤としてスクロース、保存剤としてメチルおよびプロピルパラベン、染料、サクランボまたはオレンジ風味などの香味剤を含有することができる。
【0054】
本発明のペプチドは、非経口投与することもできる。ペプチドの溶液または懸濁液は、好適にはヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と混ぜ合わせた水中で調製することができる。分散液は、油に溶かしたグリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中で調製することもできる。油の例は、石油、動物、植物、または合成の起源のもの、例えば、落花生油、大豆油、または鉱油である。一般に水、生理的食塩水、水性デキストロースおよび関連した糖溶液、およびプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールは、特に注射剤にとって好ましい液状担体である。貯蔵および使用の通常の条件下において、これらの製剤は微生物の成長を防ぐために保存剤を含有する。
【0055】
注射用途に適した医薬形態には、滅菌水溶液または分散液、ならびに滅菌注射剤または散剤を下準備なしに調製するための滅菌粉末が含まれる。いかなる場合でも、その形態は無菌でなければならず、容易な注射可能性(syringability)を有する程度に流動的でなければならない。また、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、多価アルコール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、これらの好適な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であることができる。
【0056】
本発明のこの態様によるペプチドは、エアロゾルの形態で気道へ直接投与することもできる。エアロゾルとして使用する場合、溶液または懸濁液の状態の本発明の化合物を、好適なプロペラント(propellant)、例えばプロパン、ブタン、またはイソブタンのような炭化水素プロペラントと一緒に、通常のアジュバントと共に加圧エアロゾル容器に詰めることができる。本発明の材料は、例えばネブライザーまたはアトマイザーの場合、非加圧形態で投与することもできる。
【0057】
本発明のペプチドは、標的の組織、例えばウィルスによる感染を受けやすい組織に直接投与することができる。加えて、および/または、あるいは、薬剤を、標的の組織、器官、または細胞への薬剤の移動(および/またはそれによる取込み)を促進する1種または複数種の薬剤と一緒に非標的部位に投与することもできる。標的の組織はウィルスによる感染を受けやすい任意の組織であることができるが、HIV−1感染を阻害する場合の好ましい標的組織には、口、生殖器、および直腸の粘膜が含まれる。通常の当業技術者には明らかなように、治療剤自体が、所望の組織、器官、または細胞へのその輸送(およびそれによる取込み)を促進するように改変される。
【0058】
送達器具の例には、これらに限定されないが、ネブライザー、アトマイザー、リポソーム、経皮パッチ、インプラント、埋込可能または注射可能なタンパク質デポー組成物、注射器が含まれる。本発明のこの態様をin vivoで行うために、当業者に知られている他の送達系を使用して、治療剤の所望の器官、組織、または細胞への所望の送達を達成することもできる。
【0059】
本発明のこの態様を実施するためには、ペプチドの送達のための任意の好適な手法を利用することができる。一般にはこれらペプチドは、ペプチドを標的細胞、組織、または器官に送達するビヒクルに溶かして患者に投与されることになる。
【0060】
ペプチドを細胞中に送達するための一手法はリポソームの使用を伴う。一般にはそれは、送達される薬剤を含むリポソームを提供し、次いで薬剤を細胞、組織、または器官に送達するのに効果的な条件下でリポソームを標的細胞、組織、または器官と接触させることを伴う。
【0061】
リポソームは、水性相を封じ込める1層または複数層の同心円状に配列した脂質二分子膜からなる小胞である。これらは、通常、漏出性でないが、膜に孔または多孔が生じた場合、膜が溶解または分解した場合、あるいは膜の温度が相転移温度まで上昇した場合に、漏出性になることができる。リポソームによる薬物送達の現行方法では、リポソーム担体が最終的に透過性になり、標的部位で封入薬物を放出することが必要である。これは、例えばリポソーム二分子膜が体内で様々な物質の作用により徐々に分解される受動的な方法で達成することができる。あらゆるリポソーム組成物は、循環中にまたは体内の他の部位で特徴的な半減期を有し、したがってそのリポソーム組成物の半減期を制御することによって二分子膜の分解速度を多少調節することが可能である。
【0062】
受動的薬物放出とは対照的に能動的薬物放出は、薬剤を使用してリポソームの小胞の透過性変化を引き起こすことを伴う。リポソーム膜は、環境がリポソーム膜に近い酸性の場合に不安定になるように構築することができる(例えば、本明細書によりその全体が参照により援用されるWang & Huang, “pH-Sensitive Immunoliposomes Mediate Target-cell-specific Delivery and Controlled Expression of a Foreign Gene in Mouse”, Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 84:7851-5 (1987) を参照されたい)。リポソームが、例えば標的細胞によってエンドサイトースされる場合、それらを酸性のエンドソームに送ることができ、リポソームが不安定化され、薬物放出を引き起こすことになる。
【0063】
あるいは、酵素をリポソーム膜上に被膜として配置し、酵素がリポソームをゆっくり不安定化するようにリポソーム膜を化学的に修飾することもできる。薬物放出の制御は、膜中に最初に配置される酵素の濃度に左右されるので、薬物放出を「要望に応じて」達成するように薬物放出を調節または変化させるための真に有効な方法は存在しない。リポソームの小胞が標的細胞と接触するとすぐにそれは飲み込まれることになり、pHの低下が薬物放出を引き起こすことになる点で、pHの影響を受けやすいリポソームの場合も同様の問題が存在する。
【0064】
このリポソーム送達系は、能動的ターゲッティングにより(例えば、リポソームビヒクルの表面に抗体またはホルモンを組み込むことによって)、標的器官、組織、または細胞に蓄積させることもできる。これは既知の方法により達成することができる。
【0065】
様々な種類のリポソームを、Bangham et al., “Diffusion of Univalent Ions Across the Lamellae of Swollen Phospholipids”, J. Mol. Biol. 13:238-52 (1965)、Hsuの米国特許第5,653,996号、Lee et al.の米国特許第5,643,599号、Holland et al.の米国特許第5,885,613号、DzauおよびKanedaの米国特許第5,631,237号、およびLoughrey他の米国特許第5,059,421号(これらのそれぞれは本明細書によりその全体が参照により援用される)に従って調製することができる。
【0066】
これらのリポソームは、本発明の治療剤に加えて抗炎症薬などの他の治療剤を含有するように作製することができ、次いでこれらは標的部位で放出される(例えば、Wolff et al., “The Use of Monoclonal Anti-Thy1l IgG1 for the Targeting of Liposomes to AKR-A Cells in Vitro and in Vivo”, Biochim. Biophys. Acta 802:259-73 (1984)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。
【0067】
タンパク質またはポリペプチド剤(例えば、本発明のペプチド)を送達するための代替手法は、所望のタンパク質またはポリペプチドをポリマーに結合させることを伴う。このポリマーは、その結合タンパク質またはポリペプチドの酵素による分解を避けるように安定化される。この種の結合タンパク質またはポリペプチドは、Ekwuribeの米国特許第5,681,811号(本明細書によりその全体が参照により援用される)に記載されている。
【0068】
タンパク質またはポリペプチド剤を送達するためのさらに別の手法は、Heartlein et al.の米国特許第5,817,789号(本明細書によりその全体が参照により援用される)に記載されているキメラタンパク質の調製を伴う。キメラタンパク質は、リガンドドメインおよびポリペプチド剤(例えば、本発明の人為的αヘリックス)を含むことができる。リガンドドメインは、標的細胞上に位置する受容体に特異的である。したがって、キメラタンパク質が血液またはリンパ液中へ経静脈的に送達されるか、または他の方法で導入される場合、キメラタンパク質は標的の細胞に吸着することになり、標的の細胞はキメラタンパク質を内在化することになる。
【0069】
投与は、必要に応じてしばしば行うことができ、またウィルス感染に対して有効な治療を施すのに適した期間行うことができる。例えば投与は、1回の徐放性投与製剤により、または1日複数回投与により行うことができる。投与は、被験体がウィルスに触れる前に、それと同時に、および/または後に行うことができる。
【0070】
投与量は、もちろん治療計画に応じて変わる。一般には薬剤は、ウィルスの感染性の低下に有効な量(すなわち治療に有効な量)を達成するように投与される。したがって治療に有効な量は、ウィルスの被験体への感染またはウィルスの被験体中での拡散を少なくとも部分的に防止することができる量であることができる。有効な量を得るのに必要な用量は、薬剤、処方、ウィルス、および薬剤が投与される個体に応じて変えることができる。
【0071】
有効量の決定は、薬剤の様々な用量を培養液中で細胞に投与するin vitroアッセイを伴うこともでき、感染性を抑制するのに有効な薬剤濃度がin vivoで必要とされる濃度を計算するために求められる。有効量は、in vivoでの動物による検討に基づくこともできる。治療に有効な量は、当業者が経験的に決めることができる。
【0072】
本発明の第二の態様は、本発明のペプチドを用いたHIF 1α−p300/CBP相互作用の阻害に関する。本発明のこの態様の一実施形態は、HIF 1αとCREB結合タンパク質および/またはp300の相互作用が仲介する細胞中の遺伝子の転写を低減させる方法に関する。この方法は、ペプチドの核取り込みを生じさせるのに効果的な条件下で細胞を本発明のペプチドと接触させることを伴い、ペプチドは、HIF−1αとp300/CBPの相互作用を妨害し、それによって遺伝子の転写を低減させる。転写がHIF−1αとCBPおよび/またはp300の相互作用によって仲介される遺伝子には、アデニル酸キナーゼ3、アルドラーゼA、アルドラーゼC、エノラーゼ1、グルコース輸送体1、グルコース輸送体3、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、ヘキソキナーゼ1、ヘキソキナーゼ2、インスリン様増殖因子2、IGF結合タンパク質1、IGF結合タンパク質3、乳酸脱水素酵素A、ホスホグリセリン酸キナーゼ1、ピルビン酸キナーゼM、p21、トランスフォーミング増殖因子β、セルロプラスミン、エリスロポエチン、トランスフェリン、トランスフェリン受容体、α1B−アドレナリン受容体、アドレノメデュリン、エンドセリン−1、ヘムオキシゲナーゼ1、一酸化窒素シンターゼ2、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、脈管内皮増殖因子、脈管内皮増殖因子受容体FLT−1、脈管内皮増殖因子受容体KDR/Flk−1、およびp35srgが含まれる。これらの遺伝子の転写を阻害するための幾つかの使用法を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
本発明のこの態様の別の実施形態は、HIF−1αとCBPおよび/またはp300の相互作用が仲介する障害の治療または予防を必要としている被験体に対する治療または予防方法に関する。この方法は、障害を治療または予防するのに効果的な条件下で本発明のペプチドを被験体に投与することを伴う。
【0075】
治療または予防することができる障害には、例えば網膜虚血(Zhu et al., “Long-term Tolerance to Retinal Ischemia by Repetitive Hypoxic Preconditioning: Role of HIF-1α and Heme Oxygenase-1”, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 48:1735-43 (2007)、Ding et al., “Retinal Disease in Mice. Lacking Hypoxia-inducible Transcription Factor-2a”, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 46:1010-6 (2005)、本明細書によりこれらの全体が参照により援用される)、肺高血圧症(Simon et al., “Hypoxia-induced Signaling in the Cardiovascular System”, Annu. Rev. Physiol. 70:51-71 (2008)、Eul et al., “Impact of HIF-1α and HIF-2α on Proliferation and Migration of Human Pulmonary Artery Fibroblasts in Hypoxia”, FASEB J. 20: 163-5 (2006)、本明細書によりこれらのそれぞれはその全体が参照により援用される)、子宮内発育遅延(Caramelo et al., “Respuesta a la Hipoxia. Un Mecanismo Sistemico Basado en el Control de la Expresion Genica [Response to Hypoxia. A Systemic Mechanism Based on the Control of Gene Expression]”, Medicina B. Aires 66: 155-{54 (2006)、Tazuke et al., “Hypoxia Stimulates Insulin-like Growth Factor Binding Protein I (IGFBP-1) Gene Expression in HepG2 Cells: A Possible Model for IGFBP-1 Expression in Fetal Hypoxia”, Proc. Nat’l Acad Sci. USA 95:10188-93 (1998)、これらのそれぞれは本明細書によりその全体が参照により援用される)、糖尿病性網膜症(Ritter et al., “Myeloid Progenitors Differentiate into Microglia and Promote Vascular Repair in a Model of Ischemic Retinopathy”, J. Clin Invest. 116:3266-76 (2006)、Wilkinson-Berka et al., “The Role of Growth Hormone, Insulin-like Growth Factor and Somatostatin in Diabetic Retinopathy", Curr. Med Chem. 13:3307-17 (2006)、Vinores et al., “Implication of the Hypoxia Response Element of the Vegf Promoter in Mouse Models of Retinal and Choroidal Neovascularization, but Not Retinal Vascular Development”, J. Cell. Physiol. 206:749-58 (2006)、Caldwell et al., “Vascular Endothelial Growth Factor and Diabetic Retinopathy: Role of Oxidative Stress”, Curr. Drug Targets 6:511-24 (2005)、これらのそれぞれは本明細書によりその全体が参照により援用される)、加齢黄斑変性症(Inoue et al., “Expression of Hypoxia-inducible Factor 1a and 2a in Choroidal Neovascular Membranes Associated with Age-related Macular Degeneration”, Br. J Ophthalmol. 91:1720-1 (2007)、Zuluaga et al., “Synergies of VEGF Inhibition and Photodynamic Therapy in the Treatment of Age-related Macular Degeneration”, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 48:1767-72 (2007)、Provis, “Development of the Primate Retinal Vasculature”, Prog. Retin Eye Res. 20:799-821 (2001)、これらのそれぞれは本明細書によりその全体が参照により援用される)、糖尿病性黄斑浮腫(Vinores et al., “Implication of the Hypoxia Response Element of the Vegf Promoter in Mouse Models of Retinal and Choroidal Neovascularization, but Not Retinal Vascular Development”, J. Cell. Physiol. 206:749-58 (2006)、Forooghian & Das, “Anti-angiogenic Effects of Ribonucleic Acid Interference Targeting Vascular Endothelial Growth Factor and Hypoxia-inducible Factor-1α”, Am. J Ophthalmol. 144:761-8 (2007)、これらのそれぞれは本明細書によりその全体が参照により援用される)、および癌(Marignol et al., “Hypoxia in Prostate Cancer: A Powerful Shield Against Tumour Destruction?”, Cancer Treat. Rev. 34:313-27 (2008)、Galanis et al., “Reactive Oxygen Species and HIF-1 Signalling in Cancer”, Cancer Lett. 266:12-20 (2008)、Ushio-Fukai & Nakamura, “Reactive Oxygen Species and Angiogenesis: NADPH Oxidase as Target for Cancer Therapy”, Cancer Lett. 266:37--52 (2008)、Adamski et al., “The Cellular Adaptations to Hypoxia as Novel Therapeutic Targets in Childhood Cancer”, Cancer Treat. Rev. 34:231-46 (2008)、Toffoli & Michiels, “Intermittent Hypoxia Is a Key Regulator of Cancer Cell and Endothelial Cell Interplay in Tumours”, FEBS J. 275:2991-3002 (2008)、これらのそれぞれは本明細書によりその全体が参照により援用される)が含まれる。
【0076】
本発明のこの態様のさらに別の実施形態は、組織における脈管形成の低減または防止方法に関する。この方法は、その組織における脈管形成を低減または防止するのに効果的な条件下で組織を本発明のペプチドと接触させることを伴う。本発明のこの態様の別の実施形態は、細胞のアポトーシスを誘発する方法に関する。この方法は、その細胞のアポトーシスを誘発するのに効果的な条件下で細胞を本発明のペプチドと接触させることを伴う。本発明のこの態様の別の実施形態は、細胞の生存および/または増殖を低下させる方法に関する。この方法は、その細胞の生存および/または増殖を低下させるのに効果的な条件下で細胞を本発明のペプチドと接触させることを伴う。本発明のこの態様による接触(投与を含む)は、熟練者には明らかな、また上記で述べた方法を用いて行うことができ、またin vitroまたはin vivoで行うことができる。
【0077】
上記実施形態に対する標的細胞、組織、および/または器官の幾つかの例を、表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
本発明の別の態様は、HIF−1αとCBPおよび/またはp300の相互作用を阻害する可能性のある薬剤の同定方法に関する。この方法は、本発明のペプチドを提供すること、ペプチドを被検物質と接触させること、および被検物質がペプチドと選択的に結合するかどうかを検出することを含み、ペプチドと選択的に結合する被検物質を、HIF−1αとCBPおよび/またはp300の間の相互作用の潜在的な阻害剤として同定する。
【0080】
本発明のこの態様は、熟練者には明らかな様々な方法で行うことができる。例えば、本発明のペプチドに対する被検物質の親和性は、実施例4で述べる等温滴定熱量測定分析を用いて測定することができる(Wiseman et al., “Rapid Measurement of Binding Constants and Heats of Binding Using a New Titration Calorimeter”, Anal. Biochem. 179:131-7 (1989)、Freire et al., “Isothermal Titration Calorimetry”, Anal. Chem. 62:A950-A959 (1990)、Chervenak & Toone, “Calorimetric Analysis of the Binding of Lectins with Overlapping Carbohydrate-binding Ligand Specificities”, Biochemistry 34:5685-95 (1995)、Aki et al., “Competitive Binding of Drugs to the Multiple Binding Sites on Human Serum Albumin. A Calorimetric Study”, J Thermal Anal. Calorim. 57:361-70 (1999)、Graziano et al., “Linkage of Proton Binding to the Thermal Unfolding of Sso7d from the Hyperthermophilic Archaebacterium Sulfolobus solfataricus”, Int’l Biol. Macromolecules 26:45-53 (1999)、Pluschke & Mutz, “Use of Isothermal Titration Calorimetry in the Development of Molecularly Defined Vaccines”, J. Thermal Anal. Calorim. 57:377-88 (1999)、Corbell et al., “A Comparison of Biological and Calorimetric Analyses of Multivalent Glycodendrimer Ligands for Concanavalin A”, Tetrahedron-Asymmetry 11:95-111 (2000)、これらは本明細書によりその全体が参照により援用される)。一実施形態では、被検物質と本発明のペプチドの解離定数(Kd)が50μM以下の場合、被検物質をHIF−1αとCBPおよび/またはp300の間の相互作用の潜在的な阻害剤として同定する。別の実施形態では、Kdは200nM以下である。さらに別の実施形態では、Kdは100nM以下である。
【0081】
HIF−1α−p300/CREB相互作用の潜在的な阻害剤として同定された被検物質は、HIF−1αとCBPおよび/またはp300の間の相互作用を阻害するそれらの能力を確認するために更なる試験にかけることができる。
【0082】
本発明は、下記の実施例を参照することによりさらに例示することができる。
【実施例】
【0083】
実施例1―ルシフェラーゼアッセイによるプロモーター活性の分析
MDA−MB−231−HRE−Luc細胞を、10%ウシ胎児血清および0.4g/LのGeneticin(G418硫酸塩、RPI Corporation)を補充した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(「DMEM」)中で保持した。細胞を、6.5×10細胞/mL懸濁液1mLを用いて24ウェルの皿(BD Falcon)に密度6×10細胞/ウェルで塗布した。付着後、細胞を10nMから1μMまでの範囲にわたる濃度のHBSヘリックスまたはケトミンを含有する新鮮な培地1mLで処理した。細胞を、5%のCOを含む加湿雰囲気中で37℃で6時間インキュベートした。メシル酸デフェロキサミン(DFO、Sigma)を300μMの最終濃度まで加えることによって低酸素を誘導し、細胞をさらに18時間インキュベートした。細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、次いでCell Culture Lysis Reagent(「CCLR」、Promega)150μLを加えることによって全細胞ライセートを単離した。ライセートを集め、4℃において13,000rpmで遠心分離し、等分し、−80℃で貯蔵した。ルシフェラーゼアッセイを、Turner TD-20e Luminometerを用いて製造業者の使用説明書(Promega)に従って行った。相対照度の測定値を、ブラッドフォード検定を行うことによって標準化してルシフェラーゼアッセイ中に使用されたライセートのタンパク質含量を求めた。簡単に言うと、1.5mLキュベット中で50μLの細胞ライセート/ルシフェラーゼアッセイ試薬混合物を、200μLのブラッドフォード試薬および750μLのMillipore waterに加えた。1mg/mL BSA溶液の適正量を用いて1μg/mLから10μg/mLの範囲でタンパク質標準物を作った。DU-800分光光度計を用いて吸光度を595nmにおいて測定した。実験は3回行い、エラーバーを平均値の標準誤差として計算した。
【0084】
実施例2―qRT−PCRによる遺伝子発現の分析
リアルタイムqRT−PCRを用いて、HeLaおよびMCF−7細胞中でのVEGFおよびGLUT1遺伝子発現レベルに及ぼすHBSヘリックスの影響を正常酸素および低酸素条件の両方で調べた。VEGF分析の場合、順方向プライマー5’−AGG CCA GCA CAT AGG AGA GA−3’(配列番号114)および逆方向プライマー5’−TTT CCC TTT CCT CGA ACT GA−3’(配列番号115)を用いて遺伝子の3’翻訳領域から104bpフラグメントを増幅した。GLUT1(SLC2A1)分析の場合、順方向配列5’−TAG AAA CAT GGT TTT GAA ATG C−3’(配列番号116)および逆方向配列5−GGT AAC AGG GAT CAA ACA GAT T−3’(配列番号117)を利用して179bpの産物を得た。β−グルクロニダーゼの発現レベルはこれら実験条件下で不変のままなので、それらを内在性対照として使用した。順方向プライマー5’−CTC ATT TGG AAT TTT GCC GAT T−3’(配列番号118)および逆方向プライマー5’−CCG AGT GAA GAT CCC CTT TTT A−3’(配列番号119)をこの遺伝子に対して使用した。温度サイクルおよびSYBR緑色発光の検出は、ABI 7300リアルタイムPCR装置により行った。データはABI Sequence Detection System, version 1.2により分析した。統計分析は6回の独立した実験からのデータで行った。実験は、Applied Biosystems SYBR Green RT-PCR master mixを用いて行った。
【0085】
実施例3―ELISAによるタンパク質レベルの決定
MCF−7細胞を、1.1×10細胞/mL懸濁液1mLを用いて24ウェルの培養皿(BD Falcon)に密度1.1×10細胞/ウェルで塗布した。付着後、細胞を吸引し、実施例1で述べたと同様に濃度10nMから1μMまでの範囲にわたってスポリデスミンまたはケトミンを含有する培地1mLで処理した。37℃および5%のCOにおける6時間のインキュベーション期間の後、培養液を300nM DFOでスパイクし、18時間インキュベートすることによって低酸素を誘導させた。細胞培養液上清を集め、10,000rpmおよび4℃で遠心分離し、200μLに等分してELISAアッセイ用の96ウェルプレート(R&D Systems)に入れた。これは製造業者のプロトコルに従って行った。吸光度測定値は、Bio-Tek μQuantマイクロプレートリ−ダーを用いて450nmで採取した。処理した細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、次いで培養細胞溶解試薬(Promega)を1ウェル当たり150μL加えることによって全細胞ライセートを同時に単離した。ライセートを集め、4℃において13,000rpmで遠心分離し、−80℃で貯蔵した。ELISAと並行して、全細胞ライセートの総タンパク質レベルをブラッドフォードアッセイにより求め、上清中の測定VEGF濃度を標準化した。この過程は、VEGFの阻害がHIF−1α介在性転写の阻止に特異的であり、転写機構の全体的破壊に起因するものではないことを確かめるためであった。試料および標準物はブラッドフォード試薬(Bio-Rad)40μLおよびタンパク質/水混合物160μLを用いて調製し、吸光度は595nmにおいてBio-Tek μQuantマイクロプレートリ−ダーを用いて測定した。
【0086】
実施例4―細胞培養液中のVEGF転写を調節するHBSヘリックスの設計、合成、および評価
p300/CBPのCH1ドメインは、図1Aに示すように三角形の幾何形状を有し、HIF−1αC−TADの折りたたみのための足場として働く。図1Aおよび図1Cに示すHIF−1αC−TADのヘリックスαAは、CH1ドメインとHIF−1αの間の相互作用にとって重要である。その理由は、残基の変異または803番Asnのヒドロキシル化がこの複合体を破壊し、HIF−1α介在性転写を阻害することが知られているためである(Freedman et al., “Structural Basis for Recruitment of CBP/p300 by Hypoxia-inducible Factor-1α”, Proc., Nat’l Acad. Sci. USA 99:5367-72 (2002)、Dames et al., “Structural Basis for Hif-1α/CBP Recognition in the Cellular Hypoxia Response”, Proc., Nat’l Acad. Sci. USA 99:5271-6 (2002))。VEGF転写の潜在的な阻害剤としてのHBSヘリックスの開発は、HIF−1のaAヘリックス領域を模倣することによって始めた。このヘリックスは、8個の残基、SYDCEVNAP(配列番号120)からなり、p300/CBPを結合させるのに重要な3個の残基、Asp−Cys−Gluを特徴とする。幾つかの直鎖ペプチドおよびそれらのHBSαヘリックス類似体を設計して細胞培養液中のVEGF転写を阻害するそれら分子の潜在能力を評価した。表3は、それらの検討の一部として設計され、試験された代表的な化合物を一覧表にする。下記に記載した手順を用いてそれぞれの非拘束ペプチドおよびHBSヘリックスを合成した(Dimartino et al., “Solid-phase Synthesis of Hydrogen-bond Surrogate-derived α-Helices”, Org. Lett. 7:2389-92 (2005)、Chapman & Arora, “Optimized Synthesis of Hydrogen-bond Surrogate Helices: Surprising Effects of Microwave Heating on the Activity of Grubbs Catalysts”, Org. Lett. 8:5825-8 (2006))。各ペプチドのヘリックス度%は、下記に記載したように10mMリン酸緩衝生理食塩水中で円二色性分光法を用いて求めた(Wang et al., “Evaluation of Biologically Relevant Short α-Helices Stabilized by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 128:9248-56 (2006))。p300に対する各ペプチドの親和性は、等温滴定熱量測定分析によって測定した(Wiseman et al., “Rapid Measurement of Binding Constants and Heats of Binding Using a New Titration Calorimeter”, Anal. Biochem. 179:131-7 (1989)、Freire et al., “Isothermal Titration Calorimetry”, Anal. Chem. 62:A950-A959 (1990)、Chervenak & Toone, “Calorimetric Analysis of the Binding of Lectins with Overlapping Carbohydrate-binding Ligand Specificities”, Biochemistry 34:5685-95 (1995)、Aki et al., “Competitive Binding of Drugs to the Multiple Binding Sites on Human Serum Albumin. A Calorimetric Study”, J Thermal Anal. Calorim. 57:36170 (1999)、Graziano et al., “Linkage of Proton Binding to the Thermal Unfolding of Sso7d from the Hyperthermophilic Archaebacterium Sulfolobus solfataricus”, Int’l J. Biol. Macromolecules 26:45-53 (1999)、Pluschke & Mutz, “Use of Isothermal Titration Calorimetry in the Development of Molecularly Defined Vaccines”, J. Thermal Anal. Calorim. 57:377-88 (1999)、Corbell et al., “A Comparison of Biological and Calorimetric Analyses of Multivalent Glycodendrimer Ligands for Concanavalin A”, Tetrahedron-Asymmetry 11:95-111 (2000))。細胞培養液中のVEGF転写を下方制御する各ペプチドの能力を、上記と同様に等温熱量分析および定量RT−PCRにより評価した。各ペプチドの細胞毒性は、1μM濃度の個々ペプチドの存在下で細胞の成長および集団倍加をモニターすることによって判定した。表3は、第一世代HBSヘリックスおよびペプチド誘導体について得られた結果を要約し、これらの値をケトミン(2)で観察されたものと比較する。
【0087】
【表3】

【0088】
HBSペプチド(20)は、HIF−1αAヘリックスの直接の模倣体だが、セリン797番残基がアラニンで置換されている。この変異は合成方法を簡単にするために入れられたが、HIF−1/p300構造の点検の結果、セリン797番が界面で重要な役割を果たさないことが示唆されたからである(Freedman et al., “Structural Basis for Recruitment of CBP/p300 by Hypoxia-inducible Factor-1α”, Proc., Nat’l Acad. Sci. USA 99:5367-72 (2002)、Dames et al., “Structural Basis for Hif-1α/CBP Recognition in the Cellular Hypoxia Response”, Proc., Nat’l Acad. Sci. USA 99:5271-6 (2002)、これらは本明細書によりその全体が参照により援用される)。
【0089】
この置換がp300の結合を混乱させないことを、直鎖ペプチド(23)および(24)を合成しかつ特性を明らかにすることによって確かめた(表3)。HBSペプチド(20)は、対応する非拘束類似体であるペプチド(24)よりもヘリックス度が著しく大きく、p300と540nMの親和性で結合する。HBSペプチド(21)は、システイン800番の代わりにバリン残基を含有する。バリンは、システイン800番がp300上の疎水性ポケットを標的にするという前提に基づいて導入し、より疎水性の残基でこの残基を置換することにより、結合の強化がもたらされる(Gu et al., “Molecular Mechanism of Hypoxia-inducible Factor 1α-p300 Interaction”, J. Biol. Chem. 276:3550-4 (2001)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。HBSペプチド(21)は、親化合物であるHBSペプチド(20)よりもわずかに低い親和性でp300に結合するが、これは、バリンが、一般にシステインが占める位置における最適な残基ではないことを示唆している。HBSヘリックス(20)、(21)および非拘束ペプチド(23)、(24)は、かなりの親和性でp300に結合したが、これらのペプチドの各々は細胞培養液中でVEGF転写を阻害しなかった。
【0090】
ペプチドがVEGF転写を阻害することができないことは、これらすべてのペプチドが生理的pHにおいて全体として負電荷を有し、細胞透過性ペプチドはカチオン性残基に富むことが多いので、それらが細胞膜を越えることができないことを反映していると推測された(Joliot & Prochiantz, “Transduction Peptides: From Technology to Physiology”, Nat. Cell Biol. 6:189-96 (2004)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。Verdineおよび共同研究者は、側鎖架橋ヘリックスの細胞取込みの顕著な増加が、負電荷を中和し、かつカチオン性残基の限定された組を含むことによって観察されることを最近実証した(Bernal et al., “Reactivation of the p53 Tumor Suppressor Pathway by a Stapled p53 Peptide”, J. Am. Chem. Soc. 129:5298 (2007)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。したがって、親配列から誘導されるがC末端アルギニン残基を含有するHBSヘリックス(22)を設計し、アルギニン残基を加えることが、ヘリックスマクロ双極子の安定化、およびアルギニンの側鎖基とグルタミン酸残基の間のiとi+4のイオン性相互作用の電位形成によってヘリックス含量を増加させるかどうかを検討し試験した(Shi et al., “Stabilization of α-Helix Structure by Polar Side-chain Interaction: Complex Salt Bridges, Cation-πInteractions, and C-H…OH-bonds”, Peptide Sci. 60:366-80 (2002)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。これらの人為的ヘリックスの合成を簡単にするために、大環状化合物中のチロシン残基をアラニン(側鎖保護を必要としない残基)で置換した。野生型配列ではバリンによって占められ、結合相互作用に関与しないと予想される802番の位置に、代わりとしてチロシン残基を導入した。ペプチド濃度の定量のためにチロシンまたはトリプトファン残基を入れた。ペプチド(25)をHBSヘリックス(22)の非拘束類似体として設計した。
【0091】
HBSヘリックス(22)は、可能性として円二色性分光法によって測定されるそのより高いヘリックス含量が理由で、HBSヘリックス(20)、(21)、ペプチド(25)、およびその対応する非拘束ペプチドよりも強い親和性でp300と結合した(表3および図6参照)。HBSヘリックスのCDスペクトルは、204および222nmにおいてαヘリックスの特徴である二重極小を示し、222nmにおける値は、拘束ペプチド(22)が約55%ヘリックスであることを示す(Wang et al., “Evaluation of Biologically Relevant Short α-Helices Stabilized by a Main-chain Hydrogen-bond Surrogate”, J. Am. Chem. Soc. 128:9248-56 (2006)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。予想されるように対照ペプチド(25)は構造化されていないように見える。
【0092】
表3および図7に示すようにHBSヘリックス(22)は、ケトミン(2)によって得られるものに相当するレベルでHeLa細胞におけるVEGF転写を阻害し、一方、直鎖対照ペプチド(25)の効果はごくわずかであった。αヘリックス立体配座中のペプチドの安定化はそれらのプロテアーゼ抵抗性を向上させると予想されるので、この結果は非拘束ペプチドのタンパク質分解に対する不安定性を潜在的には反映している(Tyndall et al., “Proteases Universally Recognize Bata Strands in their Active Sites”, Chem. Rev. 105:973-99 (2005)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。HBSαヘリックスのタンパク質分解安定性の改良は、それらの非拘束の対応するものと比較して下記に報告されている(Wang et al., “Enhanced Metabolic Stability and Protein-binding Properties of Artificial α Helices Derived from a Hydrogen-bond Surrogate: Application to Bcl-xL”, Angew. Int’l Ed. Engl. 44:65259 (2005)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。HBSヘリックス(22)は、ペプチドの全体としての電荷を変え、ヘリックス立体配座を安定化するように設計された。
【0093】
200nMのケトミンが概略で1μMのHBSヘリックス(22)と同様の阻害レベルを与えるので、ケトミンはHBSヘリックス(22)よりもVEGF転写の強い阻害剤である。しかしながら、ケトミンは毒性のある試薬であることが知られており、一方、HBSヘリックス(22)は、図8に示すように細胞成長アッセイにおいて明らかな毒性を示さなかった。したがって、HBSヘリックス(22)は、ケトミンに伴う明らかな毒性なしにVEGF転写の強い阻害を示すようである。
【0094】
実施例5―p300/CBP CH1ドメインを標的する第二世代HBSヘリックスの合成および特徴づけ
実施例4で述べた結果により、HBSヘリックス(22)が、細胞培養液中でのHIF−1/p300相互作用を効果的に阻害することができることが示唆される。これらの研究は、同様の効果はペプチド(20)上の配列置換によっても得ることができるが、HBSヘリックス(22)における末端アルギニンの存在が細胞培養液の検討で効果を増大させるのに重要であり得ることを意味する。最適化HBF HIF−1模倣体を開発するために、表4に示すようにペプチド(20)および(22)から誘導される類似体を評価する追加の実験を企図する。幾種類かの化合物を調製して、細胞培養液中のこれら化合物の活性に及ぼす電荷の役割を評価する。HBSペプチド(44)は、グルタミン酸残基でiとi+4の塩橋を形成することができる末端アルギニンを有するペプチド(20)の類似体である。類似体(45)は、2つの正に荷電した残基からなる。ペプチド(44)におけるアルギニン残基によるアスパラギンの置換は、別のiとi+4の塩橋(アスパラギン酸残基で)を与えることができ、潜在的にはさらにヘリックス立体配座を安定化する(Shi et al., “Stabilization of α Helix Structure by Polar Side-chain Interaction: Complex Salt Bridges, Cation-πInteractions, and C-H---OH-bonds”, Peptide Sci. 60:366-80 (2002)、本明細書によりその全体が参照により援用される)。HBSヘリックス(46)はペプチド(22)のジアルギニン類似体(22)であり、最も活性なHBSヘリックスを構築するために設計した。ペプチド(22)の細胞分布を評価するためにフルオレセイン標識誘導体(47)を調製することができる。必要に応じて他の蛍光類似体も調製することもできる。
【0095】
【表4】

【0096】
これらのHBSヘリックスは、HIF−1のαAヘリックスを模倣していた。HIF−1における第二ヘリックス(αB)の模倣体も評価することができる。例えば、HBSヘリックス(48)は、αBヘリックスの直接の模倣体の代表である。任意のHBSヘリックスの非拘束ペプチド類似体はルーチンで調製し、HBSヘリックスと一緒に評価することができる。
【0097】
本発明の好ましい実施形態を本明細書中に示し説明してきたが、このような実施形態が例として提供されるに過ぎないことは当業者には明らかであろう。そこで、非常に多くの変形形態、改変形態、および代替形態が、本発明から逸脱することなく当業者には思い浮かぶはずである。本発明の実施に際しては本発明書中で述べた本発明の実施形態に対する様々な代替案を使用することができることを理解されたい。別添の特許請求の範囲が本発明の範囲を規定し、それらの請求項の範囲内にある方法および構造ならびにそれらの同等物がそれによって含まれることを意図している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数種の安定な内部拘束α−ヘリックス構造を有するペプチドであって、低酸素誘導因子1αのC末端トランス活性化ドメインのヘリックスαAまたはヘリックスαBを模倣した配列を含む、ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドは、式I
【化1】


のペプチドであり、
式中、
【化2】


は、炭素−炭素単結合または二重結合であり、ここで、前記炭素−炭素二重結合はcisまたはtransであり、
各nは、独立して1または2であり、
mは、0または任意の正の整数であり、
は、アミノ酸、ペプチド、−OR、−CHNH、アルキル基、アリール基、または水素であり、ここで、Rはアルキルまたはアリールであり、
あるいは、Rが、式
【化3】


(式中、Aは、ペプチド、アミノ酸残基、アシル基、または水素であり、各Rは、独立してアミノ酸側鎖、水素、アルキル、またはアリール基である)
を有し、
は、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基であり、
は、アミノ酸、ペプチド、−OR、−N(R、アルキル基、アリール基、または水素であり、ここで、Rは、アルキル基またはアリール基であり、各Rは、独立して、アミノ酸側鎖、水素、アルキル基、またはアリール基であり、
、A、およびAは、それぞれ独立して
【化4】


(式中、各Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)であり、
は、
【化5】


(式中、各Rは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
(i)AはThrであり、AはSerまたはAlaであり、AはTyrまたはAlaであり、Aは式Xを含み、ここで、XはAspまたはAsnであり、XはVal、Cys、またはAlaであり、XはGluまたはGlnであり、XはValまたはTyrであり、XはAsnまたはArgであり、XはAlaであり、XはArgまたは不在であり、あるいは
(ii)AおよびAは、独立して、GluまたはGlnであり、AはLeuであり、Aは、式LRXLXを含み、ここで、LはLeuであり、RはArgであり、XはAlaまたはTyrであり、XはAspまたはAsnである、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは、
【化6】


(式中、mおよびnは、独立して、1または2であり、Xは、水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である)
からなる群から選択される、請求項2に記載のペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドは、低酸素誘導因子1αのC末端トランス活性化ドメインの少なくとも残基796番〜804番または残基816番〜823番を模倣している、請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチドおよび薬学的に許容できるビヒクルを含む、医薬組成物。
【請求項7】
低酸素誘導因子1αとCREB結合タンパク質および/またはp300の相互作用によって仲介される細胞における遺伝子の転写を低減させる方法であって、前記遺伝子の転写を低減させるのに効果的な条件下で前記細胞を請求項1に記載のペプチドと接触させることを含む、方法。
【請求項8】
前記遺伝子が、アデニル酸キナーゼ3、アルドラーゼA、アルドラーゼC、エノラーゼ1、グルコース輸送体1、グルコース輸送体3、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、ヘキソキナーゼ1、ヘキソキナーゼ2、インスリン様増殖因子2、IGF結合タンパク質1、IGF結合タンパク質3、乳酸脱水素酵素A、ホスホグリセリン酸キナーゼ1、ピルビン酸キナーゼM、p21、トランスフォーミング増殖因子β、セルロプラスミン、エリスロポエチン、トランスフェリン、トランスフェリン受容体、α1B−アドレナリン受容体、アドレノメデュリン、エンドセリン−1、ヘムオキシゲナーゼ1、一酸化窒素シンターゼ2、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、脈管内皮増殖因子、脈管内皮増殖因子受容体FLT−1、脈管内皮増殖因子受容体KDR/Flk−1、およびp35srgからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
治療または予防が必要な被験体において低酸素誘導因子1αとCREB結合タンパク質および/またはp300の相互作用によって仲介される障害を治療または予防する方法であって、前記障害を治療または予防するのに効果的な条件下で前記被験体に請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチドを投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記障害が、網膜虚血、肺高血圧症、子宮内発育遅延、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、および癌からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
組織における脈管形成を低減または防止する方法であって、前記組織における脈管形成を低減または防止するのに効果的な条件下で前記組織を請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチドと接触させることを含む、方法。
【請求項12】
前記方法が、in vivoで行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織が腫瘍である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
細胞においてアポトーシスを誘発する方法であって、前記細胞のアポトーシスを誘発するのに効果的な条件下で前記細胞を請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチドと接触させることを含む、方法。
【請求項15】
細胞の生存および/または増殖を低下させる方法であって、前記細胞の生存および/または増殖を低下させるのに効果的な条件下で前記細胞を請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチドと接触させることを含む、方法。
【請求項16】
前記細胞が、癌性であるか、または癌細胞を含有する組織の内皮脈管構造内に含まれる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
CREB結合タンパク質および/またはp300の潜在的なリガンドの同定方法であって、
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチドを提供すること、
前記ペプチドを被検物質と接触させること、および
前記被検物質が前記ペプチドと選択的に結合するかどうかを検出し、前記ペプチドと選択的に結合する被検物質をCREB結合タンパク質および/またはp300の潜在的なリガンドとして同定すること
を含む、方法。
【請求項18】
mおよびnが1であるか、mが1でありnが2であるか、mが2でありnが1であるか、あるいはmおよびnの両方が2である、請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のペプチド。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−503013(P2012−503013A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528020(P2011−528020)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/057592
【国際公開番号】WO2010/033879
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(500350265)ニューヨーク ユニバーシティ (11)
【Fターム(参考)】