説明

I型アレルギー疾患治療剤

【課題】アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜疾患、アレルギー性胃腸炎又は花粉症などのI型アレルギー疾患の治療に有効な医薬を提供する。
【解決手段】4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖もしくはその薬学的に許容される塩の単独又は複数の組み合わせをI型アレルギー疾患治療剤の有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖もしくはその薬学的に許容される塩の単独又は複数の組み合わせを有効成分として含有するI型アレルギー疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアレルギー疾患の治療剤には、ヒスタミン受容体拮抗薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド系抗炎症剤等の局所投与や経口投与が知られている。
ヒアルロン酸を抗アレルギー剤として用いる例はいくつか報告されている。
特許文献1にはヒアルロン酸又はその塩を有効成分とする局所投与用抗アレルギー剤が開示されている。しかしながら、ヒアルロン酸の分子量については記載がなく、ヒアルロン酸のオリゴ糖を使用することについても記載はない。
特許文献2にはヒアルロン酸又はその塩を有効成分とする皮膚のアレルギー疾患治療剤が開示されている。しかしながら、ここで使用されているヒアルロン酸は分子量が1万〜500万であり、ヒアルロン酸のオリゴ糖を使用することについては記載がない。
【0003】
特許文献3にはヒアルロン酸及び4糖のIL−5遺伝子発現の阻害効果又はtransthyretin発現の抑制効果から、気管支喘息やアレルギー性疾患の治療効果を示唆している。しかしながら、特に気管支喘息には、IgE抗体による活性化肥満細胞から放出されるケミカルメディエーターによって引き起こされる即時型喘息反応と、肥満細胞、Th2細胞から放出されるIL−5などのサイトカインによる活性化好酸球の関与する遅発型喘息反応が知られている。特許文献3は、IL−5遺伝子の発現を阻害することから、喘息を含む活性化好酸球の関与するアレルギー性疾患等の治療効果を示唆するものであり、肥満細胞の関与するI型アレルギー性疾患の治療については開示されていない。
【特許文献1】特許第2769584号
【特許文献2】特許第3310994号
【特許文献3】欧州公開第1767211号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜疾患、アレルギー性胃腸炎又は花粉症などのI型アレルギー疾患の治療に有効な医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖が高分子のヒアルロン酸と比べて効率よく、I型アレルギー疾患治療効果を発揮することを見出して本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖もしくはその薬学的に許容される塩の単独又は複数の組み合わせを有効成分として含有するI型アレルギー疾患治療剤。
(2)I型アレルギー疾患がアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜疾患、アレルギー性胃腸炎又は花粉症である、(1)の治療剤。
(3)I型アレルギー疾患が、アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季カタル及び慢性カタル性結膜炎から選択されるアレルギー性結膜疾患である、(1)の治療剤。
(4)剤型が、点眼薬、眼軟膏又は点鼻薬である、(1)〜(3)のいずれかの治療剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬剤を使用することにより効率よくI型アレルギー疾患を治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
I型アレルギー反応は、免疫グロブリンE (IgE)が関与する反応で、即時型、IgE依存型、あるいはアナフィラキシー型と呼ばれており、その原因としてハウスダスト、ダニ、花粉、真菌、動物の毛垢などの抗原が知られている。体内に侵入した抗原の刺激によりIgEを介して肥満細胞が活性化され、ヒスタミン、プロスタグランジン類、トロンボキサン、ロイコトリエン類、血小板活性化因子(PAF)などのケミカルメディエーターが放出される。これらのケミカルメディエーターの働きによりアレルギー症状が生じる。
【0009】
I型アレルギー性疾患としては、例えば、アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季カタル及び慢性カタル性結膜炎などのアレルギー性結膜疾患、強膜炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息及び小児喘息などの即時型喘息反応による喘息、花粉症、枯草熱、食餌アレルギー、急性湿疹、慢性湿疹、アトピー性皮膚炎、急性じん麻疹、慢性じん麻疹、皮膚そう痒症、薬疹、自己免疫性溶血性貧血、アレルギー性紫斑病、アレルギー性顆粒球減少症、アレルギー性胃腸炎、アレルギー性偏頭炎、薬物アレルギーなどが挙げられる。
【0010】
本発明のI型アレルギー疾患治療剤は4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖又はその薬学的に許容される塩の単独又は2種以上を組み合わせた混合物でもよい。本発明治療剤に用いるヒアルロン酸オリゴ糖は4〜20糖であるが、4糖〜10糖が好ましく、4糖がさらに好ましい。本発明において、「I型アレルギー疾患治療剤」とは、I型アレルギー疾患の症状を軽減又は悪化防止するための医薬のみならず、I型アレルギー疾患の症状出現を防止又は予防するための医薬も含む。
また、本発明治療剤において用いることができるヒアルロン酸オリゴ糖の由来は特に限定されない。例えば、鶏冠、臍帯、ヒアルロン酸を産生する微生物等から分離、精製された高分子ヒアルロン酸を分解する方法(例えば酵素分解法、化学分解法、加熱処理法、超音波処理法等)や、ヒアルロン酸オリゴ糖を直接合成する方法(例えば化学合成法や酵素合成法)によって4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖を得ることができる。
【0011】
酵素分解法としては、ヒアルロニダーゼ(睾丸由来)、ヒアルロニダーゼ(Streptomyces由来)、ヒアルロニダーゼSD、コンドロイチナーゼACI、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼACIII、コンドロイチナーゼABCなどの、ヒアルロン酸を分解できる酵素を高分子ヒアルロン酸に作用させる方法が挙げられる(新生化学実験講座「糖質II−プロテオグリカンとグリコサミノグリカン−」p244−248、1991年発行、東京化学同人、又はGlycobiology、12、p421−426、2002)。
【0012】
化学分解法としては、アルカリ分解法やDMSO法等が挙げられる。アルカリ分解法は、例えば、高分子ヒアルロン酸の溶液に1N程度の水酸化ナトリウム等の塩基を加え、数時間加温して低分子化させた後、塩酸等の酸を加えて中和することにより行うことができる。DMSO法としてはNagasawaらの方法(Carbohyd.Res.,141、p99−110、1985)が挙げられる。超音波処理法としてはBiochem.,33、p6503−6507、1994)等に記載された方法が挙げられる。
【0013】
合成による製造方法としてはGlycoconjugate J.,p453−439
、1993)、国際公開WO93/20827等に記載された方法が挙げられる。
【0014】
以上のような方法によってヒアルロン酸オリゴ糖を含む画分が得られるが、この画分は通常の糖鎖の分離、精製の手法によってさらに精製することができる。例えば、吸着クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、濾紙電気泳動法、濾紙クロマトグラフィー、塩析、有機溶媒による分画、あるいはこれらの組み合わせ等の操作によって精製することができる(Glycobiology、12、p421−426、2002)が、これらに限定されるものではない。
このような方法によって画分中のヒアルロン酸オリゴ糖の含有率を高めることができ、また医薬として混入が許されない物質を排除することもできる。
【0015】
ヒアルロン酸オリゴ糖の薬学的に許容される塩としては薬学的に許容されるものであればよいが、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、又はジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩が挙げられる。なかでもナトリウム塩であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられるヒアルロン酸オリゴ糖は、高純度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないものが好ましい。
なお、本発明治療剤に使用されるヒアルロン酸オリゴ糖又はその薬学的に許容される塩中のエンドトキシン濃度は、本発明治療剤を液剤とした場合において0.3EU/mL以下、液剤以外の剤とした場合においては前記液剤のエンドトキシン含量に相当する量以下であることが好ましい。本発明治療剤中のエンドトキシン濃度は、当業者に周知慣用のエンドトキシンの測定法を用いて測定することができるが、カブトガニ・アメボサイト・ライセート成分を用いるリムルス試験法が好ましい。なお、EU(エンドトキシン単位)は、日本工業規格生化学試薬通則(JIS K8008)に従って測定・算出できる。また、鉄含量は20ppm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明治療剤の投与は経口的、非経口的又は局所的に行うことができるが、特に投与の簡便さから、点眼(眼軟膏の局所投与を含む)、点鼻等の局所投与が推奨される。その投与量は症状の軽重、年齢、体重、投与経路、性別、医師の判断等に応じて適宜選択することができるが、成人の場合、通常、有効成分として0.1〜10mg/kg/日を1日に1回又は数回に分けて投与し得る。
投与に際しては、その投与経路に応じて、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、リポ化剤等の経口投与製剤、注射剤、点滴剤、坐剤等の非経口投与製剤、点眼剤、点鼻剤、眼軟膏などの軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ローション剤、パスタ剤、貼付剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤等の外用局所製剤の剤型に製剤化することができ、これらは常法に従って製剤化を行うことができる。
また、本発明治療剤は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を配合することができる。それらの成分としては、各種薬物、緩衝剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、保湿剤、矯味剤等が挙げられる。なお、これらの成分は通常使用量で使用することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0019】
試験方法
I型アレルギー疾患のモデルであるマウスPCA (受動皮膚アナフィラキシー)反応試験で試験を行った。(Int.Arch.Allergy Appl.Immunol.,81,p58−62,1986)
【0020】
被験物質
高分子ヒアルロン酸(900kDa(重量平均分子量;以下、同様)、生化学工業)又はヒアルロン酸4糖(800Da、生化学工業)を用いた。これらを生理食塩液(以下、「生食」とも記載する。大塚製薬工場)に0.01及び1mg/mLの濃度で溶解し投与用薬液とした。
【0021】
感作用抗体溶液
マウス・モノクローナル抗DNP−IgE抗体(Monoclonal mouse anti−DNP IgE antibody)(1mg/mL IgE in PBS、生化学工業)を生食にて1μg/mLの濃度に希釈し感作用抗体溶液とした。
【0022】
抗原色素混液
ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」とも記載する。Trace Biosciences NZ)を生食に溶解し、Na2CO3(和光純薬工業)にてpHを調整後、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(DNBS、Avocado Research Chemicals)を加えて反応(BSAへの2,4−dinitrophenyl(DNP)基導入)させ、DNP−BSA生理食塩水溶液を調製した。25mg/mL
DNP−BSA生理食塩水溶液を生食にて2mg/mLの濃度に希釈し、1w/v%Evans Blue生理食塩水溶液を等量混合し、抗原色素混液(1mg/mL DNP−BSA 0.5w/v%Evans Blue生理食塩水溶液)とした。
【0023】
実験方法
7週齢BALB/c系雌性マウス(日本チャールス・リバー)を、感作実施当日あるいは前日に測定した体重を指標に群分けした。
除毛した背部2ヶ所に感作用抗体溶液を20μL(20ng IgE)ずつ皮内投与した。なお、非感作群には生食のみを同様に皮内投与した。約24時間後、体重1kg当たり10mLの容量で、上記各被験物質の投与用薬液を腹腔内投与した。非感作群及び対照群には生食を同様に腹腔内投与した。その1時間後、抗原色素混液を体重1kg当たり10mLの容量で尾静脈内に投与した。30分後、背部皮膚を摘出し、色素漏出部位(感作用抗体溶液あるいは生食皮下投与部位)をBiopsy Punchを用いて直径8mmの円形に打ち抜いた。打ち抜いた組織に1N KOH水溶液を0.25mL加え37℃で約24時間インキュベートし、さらに0.6N H3PO4水溶液とアセトンの混液(5:13)を1.5mL加え、組織中の色素を抽出した。この抽出液の620nmにおける吸光度を測定し、色素量を定量し、各群の平均色素量を算出した。
非感作群及び対照群の色素漏出抑制率(%)をそれぞれ100及び0とし、各被検物質の色素漏出抑制率(%)を算出した。
【0024】
統計処理
得られた数値データについては、試験群ごとに平均及び標準誤差をそれぞれ算出した。また、SAS前臨床パッケージV5.0ソフトウェア(SAS Institute Japan)を用い、パラメトリックDunnett型多重比較検定を行った。有意水準は両側5%とした。
【0025】
結果
試験結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
PCA反応において、高分子ヒアルロン酸に有意な抑制作用は認められなかった。一方、ヒアルロン酸4糖は 0.1及び10mg/kgの投与量において用量依存的に有意な抑制作用が認められた。
PCA反応の抑制作用は高分子ヒアルロン酸には認められずヒアルロン酸オリゴ糖に効果が認められたことから、抗I型アレルギー作用はヒアルロン酸オリゴ糖に特異的な効果と考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4糖〜20糖のヒアルロン酸オリゴ糖もしくはその薬学的に許容される塩の単独又は複数の組み合わせを有効成分として含有するI型アレルギー疾患治療剤。
【請求項2】
I型アレルギー疾患がアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜疾患、アレルギー性胃腸炎又は花粉症である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
I型アレルギー疾患が、アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季カタル及び慢性カタル性結膜炎から選択されるアレルギー性結膜疾患である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項4】
剤型が、点眼薬、眼軟膏又は点鼻薬である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の治療剤。

【公開番号】特開2008−290998(P2008−290998A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140692(P2007−140692)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】