説明

I型コラーゲン産生促進剤及び皮膚外用剤

【課題】皮膚の老化や肌荒れ症状の防止、改善作用に関わるコラーゲン産生促進用物質、並びに皮膚外用剤の提供。
【解決手段】ゲラニルゲラニオールにI型コラーゲン産生促進作用を認めたことから、これを有効成分として含有するI型コラーゲン産生促進剤であり、皮膚外用剤であり、これは皮膚の老化を防止し肌荒れ予防等にも極めて有効で、皮膚外用剤の形状は、クリーム状、ペースト状、液状あるいは湿布材に塗布したものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコラーゲン産生促進用物質に関する。より詳細には、ゲラニルゲラニオールを有効成分としたI型コラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲラニルゲラニオールは、今日、主に化学合成法により合成されている。化学合成法によると、炭素骨格が同じで1種あるいは2種以上の二重結合がシス体である混合物として得られるが、工業的に利用価値のあるのは、二重結合が全てトランス体であるゲラニルゲラニオールである(特開平8-133999号公報(特許文献1))。また、近年、生物学的にトランス体のゲラニルゲラニオール及びその誘導体の生産法が開示されている(特開平9-238692号公報(特許文献2)、特開2005-137287号公報(特許文献3))。一方、天然界において、ゲラニルゲラニオール及びゲラニルリナロールがマツ類の樹脂中に存在するほか、ゲラニルリナロールのニトリル置換体がサンゴの仲間から得られたことは知られている。
【0003】
アナトー(ベニノキ科ベニノキ、Bixa orellana)は、中央〜南アメリカに自生する植物であるが、今日では、インド、アフリカ等全世界的に栽培されている。その種子は、赤色を帯び、色素抽出原料として数万トンが収穫されている。その内容成分は、カロチノイドであるビキシン、ノルビキシンが主であり、有機溶剤にてアナトー種子より抽出された抽出物は、油溶性、水溶性色素としてチーズ、バター等の乳製品、加工食品、菓子等の食品用着色に使用されている。
【0004】
ところで、このアナトー色素を除去した抽出残渣からのゲラニルゲラニオールおよびトコトリエノールの分子蒸留による回収法が開示されている(米国特許第6,350,453号明細書(特許文献4))。また、アナトー種子からの主要産物である赤色色素を製造した後の油状残渣を、アルカリ性水溶液を加え液液分配後、イオン交換樹脂で非吸着画分を得る方法については、本出願人が特許出願をしている(特願2006-63677)。
【0005】
ゲラニルゲラニオールは、ビタミンE、ビタミンK2、胃炎薬ブラウノトール、制ガン剤であるゲラニルゲラニルアミン誘導体(特開平9-291030号公報(特許文献5))の原料となる重要な物質である。
【0006】
一方、ゲラニルゲラニオール自身が、生体内での何らかの役割を示唆する報告も存在する。HMG‐CoA還元酵素は、ゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド化合物生合成の律速酵素であるが、高脂血症に用いるスタチン系製剤は、このHMG‐CoA還元酵素を阻害する(薬学雑誌、2004 Jly; 124(7) : 371-396(非特許文献1))。PDGFレセプターのチロシンリン酸化には、ゲラニルゲラニオールによるレセプターの修飾が必要である(J Biol. Chem.、1996 Nov 1; 271(44) : 27402-27407(非特許文献2))。ゲラニルゲラニオールは、HL-60など、種々のがん細胞に対してアポトーシスを誘導する(Biochem. Biophys. Res. Commun.、1996 Sep24; 226(3): 741-745(非特許文献3)、日本ビタミン学会第58回大会プログラム・講演要旨、2006 Apl; 80(4) : 202(非特許文献4))。更には、ゲラニルゲラニオール自身に関して、破骨細胞形成抑制作用を有し、抗骨粗鬆症剤としての有用性(特開平7-215849号公報(特許文献6))が開示され、ゲラニルゲラニオールを有効成分とする抗動脈硬化治療剤(特開平10-87480号公報(特許文献7))についての開示がされている。
【0007】
加齢、紫外線曝露などにより、皮膚の角質層及び表皮細胞、真皮細胞がダメージを受け、表皮の細胞数が減少、表皮細胞の代謝が低下し皮膚のターンオーバー速度が遅くなり、真皮においてはヒアルロン酸の減少、コラーゲンやエラスチンなどの変性が起こり、しわの形成や弾性の低下といった皮膚の老化や肌荒れの症状の原因となることが知られている。これらの進行を防止あるいは改善のため、多くの皮膚外用剤が提案されてきた。提案されてきた有効成分には、ヒドロキシラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドなどの活性酸素種、脂質過酸化物などの消去あるいは生成抑制作用を有する抗酸化成分、真皮マトリックスの構成成分であるコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などの分解抑制や産生を促進を促す成分、表皮細胞や真皮線維芽細胞を賦活化する成分などである。
【0008】
しかしながら、ゲラニルゲラニオールに関しては生体において有効成分として機能する可能性を示唆する報告があるにもかかわらず、皮膚の老化や肌荒れ予防に関わる成分としての検討はなされていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平8-133999号公報
【特許文献2】特開平9-238692号公報
【特許文献3】特開2005-137287号公報
【特許文献4】米国特許第6,350,453号明細書
【特許文献5】特開平9-291030号公報
【特許文献6】特開平7-215849号公報
【特許文献7】特開平10-87480号公報
【非特許文献1】薬学雑誌、2004 Jly; 124(7) : 371-396
【非特許文献2】J Biol. Chem.、1996 Nov 1; 271(44) : 27402-27407
【非特許文献3】Biochem. Biophys. Res. Commun.、1996 Sep24; 226(3): 741-745
【非特許文献4】日本ビタミン学会第58回大会プログラム・講演要旨、2006 Apl; 80(4) : 202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明においては、コラーゲン産生の促進作用を有する成分を探索し、皮膚の老化や肌荒れ症状の防止、改善作用に関わるコラーゲン産生促進用物質、並びに皮膚外用剤を得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ゲラニルゲラニオールにI型コラーゲン産生促進作用を認め、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、
(1)ゲラニルゲラニオールを有効成分として含有するI型コラーゲン産生促進剤、
(2)ゲラニルゲラニオールを有効成分として含有する皮膚外用剤
に関するものである。
【0013】
ゲラニルゲラニオールは非環状ジテルペンとして知られ、下記に示される構造式を有している。
【0014】
【化1】

【0015】
ゲラニルゲラニオールは、アナトー種子若しくはその色素抽出油状残渣より抽出することによって得られる。
【0016】
アナトー種子からの抽出方法は、ベニノキ科ベニノキの種子の被覆物より、油脂又は有機溶剤で抽出若しくは加水分解を経る。有機溶剤での抽出は、油脂分が抽出される有機溶媒であれば限定されず、好ましくはアルコールの使用が良い。
【0017】
アナトー種子からの抽出にて、ゲラニルゲラニオールの製造は可能であるが、経済的な観点から、アナトー色素抽出油状残渣(図1の「油状物」)を使用することが出来る。
【0018】
種子抽出物、色素抽出油状残渣にはビキシン、ノルビキシンに代表される酸性成分が多く含有されている。この状態で、蒸留等の加熱操作が加わるとゲラニルゲラニオールのアルコール基とカルボン酸との縮合反応、ゲラニルゲラニオールの熱分解、異性化等が発生する。
【0019】
また、ヘミエステル化反応、イオン交換樹脂による精製を行う上で、これらの成分は、反応不足、吸着力低下、分割不良、精製不足の原因となる。よって、酸性成分の除去を行うことが好ましい。方法として脱酸、低級アルコールとのエステル化、陰イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0020】
酸性成分が除去されたアナトー抽出物は、トコフェロール類の精製方法として既知のイオン交換樹脂による精製法、すなわち、抽出油を有機溶剤に溶解し、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液し、その後、酸、アルカリ等を用いる方法により、更に微量に存在する酸性成分及びトコトリエノールとの分割を行う。この際、アルコールであるゲラニルゲラニオールは、イオン交換樹脂に吸着されない粗ゲラニルゲラニオールとして得る。
【0021】
得られた粗ゲラニルゲラニオールを非極性溶媒中で二塩基酸無水物と反応させてゲラニルゲラニオールのヘミエステル化物とし、これを非極性溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒の存在下で陰イオン交換樹脂で吸着精製を行う。ヘミエステル化物は陰イオン交換樹脂に吸着されて不純物から分離され、吸着されたヘミエステル化物は混合溶媒アルカリ溶液で脱着、加水分解することにより容易にゲラニルゲラニオールを回収することが出来る。
以上のゲラニルゲラニオール取得フローを図示すると図1のようになる。
【0022】
I型コラーゲン産生促進作用とは、ヒトなどの正常線維芽細胞はI型コラーゲンを産生する能力を有するが、このI型コラーゲンの産生を促進する作用を言う。加齢、紫外線曝露などにより、皮膚の角質層及び表皮細胞、真皮細胞がダメージを受け、表皮の細胞数が減少、表皮細胞の代謝が低下し皮膚のターンオーバー速度が遅くなり、真皮においてはヒアルロン酸の減少、コラーゲンやエラスチンなどの変性が起こり、しわの形成や弾性の低下といった皮膚の老化や肌荒れの症状の原因となる。I型コラーゲン産生促進作用は、これらの進行を防止あるいは改善する物質を検索するための指標となる。
【0023】
本発明は、ゲラニルゲラニオールがこのI型コラーゲン産生促進作用を有することを見出し、この知見に基づき皮膚外用剤として有効であることを発明したものである。
【0024】
本発明の皮膚外用剤は、皮膚の老化を防止し肌荒れ予防等にも極めて有効である。皮膚外用剤の形状は、クリーム状、ペースト状、液状あるいは湿布材に塗布したものであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によって、ゲラニルゲラニオールがI型コラーゲン産生促進剤として利用できることが示され、皮膚外用剤としての有効性が示された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1に示された工程により調製したゲラニルゲラニオールについて、I型コラーゲン産生促進作用に対する効果について検証した。
【0027】
以下に本発明の実施例を挙げて、より詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[ヒト正常線維芽細胞の維持]
I型コラーゲン産生促進作用の検出には、ヒト正常線維芽細胞を用いた。ヒト正常線維芽細胞は、CO2インキュベーター、5%CO2、37℃下で、10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM培地(10%FBS/DMEM) で週2回培地の交換で培養して維持した。
【実施例2】
【0029】
[コラーゲン産生促進効果測定用培地の調製]
ゲラニルゲラニオールは、まず、エタノール(和光純薬)に溶解し、ゲラニルゲラニオール10mg/mlエタノール溶液を調製した。これを1%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM培地(1%FBS/DMEM)でゲラニルゲラニオールを0.1μg/ml、0.01μg/mlに希釈した。
【実施例3】
【0030】
[ヒト正常線維芽細胞によるコラーゲン産生]
実施例1で維持したヒト正常線維芽細胞を4 x 103個/mlに調製し、1mlを48ウェルプレートに分注した。10%FBS/DMEM で2日間培養後、培地を除き、実施例2でそれぞれの濃度に調製したゲラニルゲラニオールを含む1%FBS/DMEM及びゲラニルゲラニオールを含まない1%FBS/DMEMを各ウェルに加えた。5日間まで培養を行った。
【実施例4】
【0031】
[培養成分の回収]
実施例3で培養したヒト正常線維芽細胞の培養上清をまずピペットにより回収し、培養上清サンプルとした。細胞周囲ECMは上清を回収した後、細胞をウェルより剥離し、0.25mlのペプシン溶液を加え、細胞懸濁液とした。4℃で一晩振とうし、遠心し上清を回収、中和溶液を0.08ml加えて混合、ECMサンプルとした。
【実施例5】
【0032】
[産生コラーゲンの測定]
実施例4で回収した培養上清サンプル及び細胞周囲ECMを、ヒトI型コラーゲンの測定に供し、Human collagen type I ELISA kit (ACバイオ社製)を用いて測定した。ビオチン標識されたヒトコラーゲン抗体の残存量を450nmで測定することによりサンプル中に存在したコラーゲン量を測定した。この測定法では、コラーゲンがサンプルに存在した場合ほど450nmの吸光度は低くなる。I型コラーゲンの標準曲線は、Y=5.8672e-2.5413X()。Y: I型コラーゲン濃度、X:吸光度、r=0.9909。
【0033】
その結果として図2に培養上清中のコラーゲン相対産生量、図3に細胞周囲ECMのコラーゲン相対産生量を示した。培養1日目のコラーゲン量を100とした場合のコラーゲン相対産生量を3日目、5日目で測定した。培養上清中については0.1μg/ml、0.01μg/ml濃度で、ECMについては0.01μg/ml濃度で明らかなコラーゲン産生促進活性を認めた。
【0034】
培養1日目と3日目との間でのコラーゲン産生量の変化率を算出した。ゲラニルゲラニオール0μg/ml時の変化率をゲラニルゲラニオール0.1μg/ml、0.01μg/ml濃度での変化率と比較した。0μg/ml時の変化率を100とした場合、培養上清中のコラーゲン産生量増加率は、0.1μg/mlでは、183、0.01μg/ml濃度では140であり、ECM中のコラーゲン産製量増加率は、0.1μg/mlでは、80、0.01μg/ml濃度では236であった。
【0035】
すなわち、培養上清中のコラーゲン産生量増加率もECM中のコラーゲン産製量増加率もいずれも、ゲラニルゲラニオールを添加することで、ゲラニルゲラニオールが0の時と比較して、格段に増加していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ゲラニルゲラニオールの製造フローを示す図。
【図2】培養上清中のコラーゲン相対産生量を示す図。
【図3】細胞周囲ECMのコラーゲン相対産生量を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲラニルゲラニオールを有効成分として含有するI型コラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
ゲラニルゲラニオールを有効成分として含有する皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189607(P2008−189607A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26598(P2007−26598)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000108812)タマ生化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】