説明

ICカードのICモジュール装着方法

【課題】 カード基体にPET−Gを使用した接触型ICカードにおいて、短い加熱時間でICモジュールを装着し、通常加熱と同等の接着強度を得ることを目的とする。
【解決手段】 本発明のICカードのICモジュール装着方法は、非結晶性ポリエステル樹脂からなるICカード基体10にICモジュール5を装着する方法において、該ICカード基体10にICモジュール装着用凹部20を掘削し、当該装着用凹部20内をコロナ放電処理して活性化した後、底面に熱接着性テープ19を貼着したICモジュール5を、当該ICモジュール装着用凹部20内に嵌め込みしてから、ICモジュール5の接触端子板面にヒーターブロック40をあてがい、加熱加圧して固定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードのICモジュール装着方法に関する。具体的には、接触式ICカードの製造工程において、ICモジュールをカード基体に掘削したICモジュール装着用凹部に装着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
接触式ICカードは、ICモジュールであるCOT(Chip On Tape)の背面に接着シートをラミネートした後、当該COTをICカード基体のミリングして掘削した凹部に嵌め込みし、COTの表面から加熱加圧して熱接着性シートを溶かし、COTを当該凹部内に接着して固定することにより製造している。
従来は、カード基材としてPVC(ポリ塩化ビニル)が使用されていて、その低温溶融特性からCOTとカード基体との良好な接着が得られ特段の問題は生じていなかった。
【0003】
しかし、近年の環境問題からPVCの使用を避けて、非結晶性ポリエステルであるPET−Gが多用されるようになってきている。PET−GはPVCよりも高耐熱性であって溶融温度も高いため、COTとカード基体間の十分な接着強度を得るためには、COTを凹部に嵌め込みした後にするヒーターブロックによる加熱時間を長くする必要がある。しかし、この加熱時間の延長が製造能力低下や製造コスト高騰の原因となっている。
なお、加熱温度を高くすれば接着強度も高くなるが、ICチップに悪影響を与える問題があるため、加熱温度を抑えて加熱加圧時間を長くすることが必要になる。
【0004】
接着強度向上の他の手段として、(1)凹部内をサンドブラスト加工して粗面化する方法、(2)凹部内にプライマー塗布してから接着する方法、などが考えられ検討もしたが、前者(1)は、サンドブラスト加工後の微細な汚れの除去が困難になる問題があり、後者(2)は、塗布装置の新設などのコスト的な問題があった。そこで本発明は、ミリングして掘削した凹部内をコロナ放電処理して接着性を高め、その後、COTを装着することを検討するものである。
【0005】
加工品等の表面をコロナ放電処理する先行技術には、特許文献1、特許文献2等があるが、本願とは目的を異にするものである。特許文献1は、表面処理膜が施されたレンズやめがね面をコロナ処理してマーク付けすることを記載し、特許文献2は、成形体への絵付け転写に際して、予めコロナ放電により表面処理することを記載している。
なお、PET−GシートからなるICカード基体にICモジュールを装着する技術には、特許文献3等の多数がある。
【0006】
【特許文献1】特表2006−506675号公報
【特許文献2】特開平9−47718号公報
【特許文献3】特開2006−139330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カード基体にPET−Gを使用した接触型ICカードにおいて、ICモジュールの装着を、従来の塩化ビニルカード基体の場合と同様に、短い加熱時間で装着し、同等の接着強度を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の要旨は、非結晶性ポリエステル樹脂からなるICカード基体にICモジュールを装着する方法において、該ICカード基体にICモジュール装着用凹部を掘削し、当該装着用凹部内をコロナ放電処理して活性化した後、底面に熱接着性テープを貼着したICモジュールを、当該ICモジュール装着用凹部内に嵌め込みしてから、ICモジュールの接触端子板面にヒーターブロックをあてがい、加熱加圧して固定することを特徴とするICカードのICモジュール装着方法、にある。
【発明の効果】
【0009】
PET−Gからなるカード基体に、ICモジュールを装着する場合は、加熱時間を長くする必要があるが、本発明の装着方法によれば、カード基体をコロナ放電処理してから装着するので、加熱時間を短縮しても従来法と同等の接着強度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のICカードのICモジュール装着方法について図面を参照して説明する。
図1は、ICモジュール装着工程を示す図、図2は、コロナ処理装置の図、図3は、コロナ放電の処理エリアを説明する図、である。
なお、本発明は、硬質のプリント基板を使用した従来品のICモジュールにも適用できるものであるが、近年は、薄く柔軟な基板からなるCOTが使用されることが多いので、以下は、COTの使用例により説明する。
【0011】
ICモジュール(COT)5の装着は、図1(A)のようにまず、ICカード基体10を製造する。カード基体10は、例えば、コア層である2層の白色コアシート11,12と、その両面に透明オーバーシート13,14を仮積み積層した後、プレス機に導入して熱圧をかけ、層間を熱融着させることで、一体のカード基体10にする。
カード基体材料は前記のように、従来は塩化ビニル(PVC)シートを使用することが多かったが、近年は、PET−Gシートを使用することが多くなっている。なお、一般のPETシートの場合は接着剤を使用して層間接着する必要があるが、PET−Gシートは溶融温度は高いがPVCと同様に熱融着が可能である。
【0012】
次に、図1(B)のように、カード基体10にCOT5を装着するICモジュール装着用凹部20を掘削する。これには数値制御されたミリング装置等を用いて行う。ICモジュール装着用凹部20は、COT5のプリント基板7の平面部分を懸架する第1凹部21と、COT5のモールド樹脂部17を納める第2凹部22とからなるように掘削する。
ICモジュール装着用凹部(以下、単に「凹部」ともいう。)20の全体の深さは、COT5の接触端子板6面から突出したモールド樹脂部17までの厚み(モールド樹脂部17に熱接着性シート19を使用する場合は、その厚みを含めた厚み)を納める深さとし、凹部20の底面には、できるだけ厚い樹脂層が残るようにする。
【0013】
次に、本発明では、ICモジュール装着用凹部20内をコロナ放電により活性化する処理を行う(図1(B))。コロナ放電とは、高周波高電圧の気中で起きる、原子、分子、電子イオン間のそれぞれの衝突などによって、電子エネルギーの励起などがあり、さらに光子の放出が起こる。この時、電極の近傍にて発光している放電状態を外観から見てコロナ放電という。このコロナ放電のエネルギーを物質の表面で作用させた時、その表面エネルギーが高くなり活性化された状態(ラジカルな状態)になる。プラスチックなどでは濡れ性が向上し、この活性化された状態で接着するとその接着力が飛躍的に増加する。
【0014】
コロナ処理装置30は各社から市販されているが、プラスチックの3次元成形品等に対する処理装置として、マルチダイン(MultiDyne)3DT(商標)社の「3次元成形品用低周波数コロナ処理システム」を使用することができる。当該コロナ処理装置30は電極31を処理対象に向けて操作する。手に持ってマニュアルで操作することもでき、自動化ラインに組み込みし、処理ヘッドを固定して連続的に処理することもできる。
【0015】
コロナ放電処理後、COT5を凹部20内に嵌め込みする。COT5の底面部分、すなわち、第1凹部21面に接触するプリント基板7部分の面と必要によりモールド樹脂部17の底面には、あらかじめ熱接着性テープ19を貼着しておく(図1(C))。モールド樹脂部17の底面は緩やかな曲面になっているので、必ずしもその全体がICモジュール装着用凹部20の第2凹部22の底面に接触して接着するわけではない。従って、モールド樹脂部17に熱接着性テープ19を貼着しない場合もあり、第1凹部21に接する部分にのみ熱接着性テープ19を貼着する場合も一定の効果を生じるものである。
なお、図1は、厚み方向を拡大図示しているので、モールド樹脂部17が半球状に図示されているが、実際ははるかに偏平な面になる。
【0016】
熱接着性テープ19を貼着したCOT5を凹部20に嵌め込みして仮固定した後、図1(D)のように、接触端子板6面に熱源41入りのヒーターブロック40をあてがい加熱加圧して、COT5を凹部20に本固定する。これにより、COT5の装着が完了する。ICチップ3に損傷を与えないよう、低い温度の加熱と低圧の加圧を行う。
【0017】
当該コロナ処理装置30は、図2のように、フック形状(略D型)の2個の電極31a,31bをもつ処理ヘッドを有し、当該電極間に電圧(12kV)を加えて発生するアーク33に、背面から空気を強く吹きかけると放電(アーク33)が広がり、高いエネルギーを持つイオンを伴ったコロナ放電を作り出す。このコロナ放電を処理対象に吹き付けると、処理表面が活性化されるものである。
【0018】
図3は、コロナ放電の処理エリアを説明する図である。マルチダインシステムは、ジェネレータと処理ヘッド32とからなる。ひとつの処理ヘッド32による処理エリアは、図3のように、ほぼ長径65mm、短径40mmの楕円が囲む範囲となる。ICモジュール装着用凹部20は、12mm×11mm前後の平面サイズであるから、1回の操作で十分に処理できる。放電処理は、処理対象面から5〜10mmの距離(後述の照射距離)で通常、0.5秒〜数秒行えば十分である。
【0019】
<従来のICモジュール装着方法について>
従来のICモジュール装着方法は、上記の工程において、コロナ放電による活性化を行なわない以外は同様の工程を採用する。PET−G基体の場合は、ヒーターブロックによる加熱加圧時間を長くして接着強度を高くする手段が採用されている。
【0020】
<ICモジュールの接着強度評価方法について>
公的に規格化された評価方法ではないが、COT5の接着強度は次のようにして評価する。COT5装着後のICカードをテンシロンテスタのクロスヘッドに取り付けする。
当該ICカードのCOT裏面部分基体には、その中心がCOT5の中心になるように、一辺が5.0mmの角形孔を開けておく。径4.0mmの鉄製突き出し治具をテスタの圧縮治具に取り付けし、クロスヘッドを、1mm/minの速度で降下させ、当該角形孔をとおして突き出し治具の平面な先端でCOT裏面を押圧する。COT5がカード基体10の凹部20から剥離した時点での荷重曲線の変化から接着強度を読み取りする。
【実施例】
【0021】
(ICモジュールの準備)
表面に接触端子板6が形成され、背面に接触型ICチップ3が実装されたCOT(プリント基板7としてガラスエポキシ基材、厚み160μmを使用)のICチップ3やワイヤボンディング部周囲を囲み、エポキシ系樹脂を滴下して樹脂モールドした。COT5の接触端子板6の大きさは、12.0mm×11.0mmとし、モールド樹脂部17の基部大きさ、8.0mm×8.0mm、プリント基板厚みを含めないモールド樹脂部17の高さは、440μmとなった。
【0022】
このCOT裏面(接触端子板6の反対面)であって、第1凹部21に接する部分とモールド樹脂部17の底面が被覆されるように、熱反応性接着テープ(ポリエステル樹脂系;厚み50μm)19をテープ状態のCOTにラミネートしてから、単位のCOTサイズに打ち抜きして使用した。プレス条件は、130°C、時間5秒とした。なお、ラミネート時に熱接着性テープ19は、約10μm圧縮された。
【0023】
(ICカード基体の製造)
ICカード基体10のコアシート11,12として、表面印刷済みの二軸延伸白色PET−Gシート(厚み360μm)2枚を印刷面を外面にして重ね、その上下面に厚み50μmの二軸延伸透明PET−Gシート2枚を、オーバーシート13,14としてさらに重ねて使用した。これらを仮積み積層してから、プレス機に導入し、プレスラミネートして熱圧融着させ、ICカード基体10を準備した。プレス条件は、150°C、2.0MPa、成型(加熱)時間30分とした。プレス後は、多少の収縮のため、カード基体10の総厚は800μmとなった。
【0024】
次に、図1(B)のように、ICカード基体10に対して、ICモジュール装着用凹部20をNC制御によるエンドミル加工により掘削した。COT5のプリント基板(厚み160μm)7と熱接着性テープ19の合計厚みに相当する深さ、200μmに第1凹部21を掘削した。また、その中心部に、COT5のモールド樹脂部17を納めるようにさらに切削して、ICカード基体表面からの合計深さが640μmになるように第2凹部22を掘削した。第1凹部21の開口の大きさは、12.1mm×11.1mmとし、第2凹部22の開口は、8.1mm×8.1mmの大きさとした。
【0025】
(コロナ放電処理)
次に、コロナ放電処理装置(MultiDyne 3DT(商標)社製「3次元成形品用低周波数コロナ処理システム」)を用い、アーク照射時間1秒、出力電力800W、照射距離(装置の処理ヘッド−被処理面(凹部面)間距離)約5mmとして、コロナ放電処理を行った。
【0026】
(ICモジュールの装着)
このコロナ放電処理後のICモジュール装着用凹部20に先に準備したCOT5を嵌め込みした後、接触端子板6面にヒーターブロック40をあてがい、熱圧(160°C、8N/m2 、時間1.2秒)をかけてCOT5を凹部20内に固定した。これにより、ICモジュール実装済みICカードを完成した。
【0027】
[比較例1]
実施例1と同一のCOT5を使用し、同一のICカード基体10に対して、COT5を装着したが、コロナ放電処理は行なわなかった。ヒーターブロックによる加熱温度、圧力は同一としたが、時間を1.8秒とした。
【0028】
[比較例2]
実施例1と同一のCOT5を使用し、同一のICカード基体10に対して、COT5を装着したが、コロナ放電処理は行なわなかった。ヒーターブロックによる加熱温度、圧力は同一としたが、時間を1.2秒とした。
【0029】
<ICモジュールの接着強度評価結果>
前記の評価方法で、ICモジュール5のICモジュール装着凹部20における接着強度を試験した結果(試料各5点)の平均値は、表1のとおりとなった。
【0030】
【表1】

【0031】
以上の結果から、コロナ放電処理する場合は、1.2秒の加熱加圧時間でありながら、従来条件の1.8秒の加熱加圧時間と同等以上の接着強度が得られることが確認された。また、コロナ放電処理しないで、短時間の加熱加圧(1.2秒)では、十分な接着強度が得られないことも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ICモジュール装着工程を示す図である。
【図2】コロナ処理装置の図である。
【図3】コロナ放電の処理エリアを説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
3 ICチップ
5 ICモジュール、COT
6 接触端子板
7 プリント基板
10 ICカード基体
17 モールド樹脂部
19 熱接着性テープ
20 ICモジュール装着用凹部
30 コロナ処理装置
40 ヒーターブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非結晶性ポリエステル樹脂からなるICカード基体にICモジュールを装着する方法において、該ICカード基体にICモジュール装着用凹部を掘削し、当該装着用凹部内をコロナ放電処理して活性化した後、底面に熱接着性テープを貼着したICモジュールを、当該ICモジュール装着用凹部内に嵌め込みしてから、ICモジュールの接触端子板面にヒーターブロックをあてがい、加熱加圧して固定することを特徴とするICカードのICモジュール装着方法。
【請求項2】
ICモジュール装着用凹部の第1凹部に接する面とモールド樹脂部の双方の底面に熱接着性テープを貼着することを特徴とする請求項1記載のICカードのICモジュール装着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−84040(P2008−84040A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263731(P2006−263731)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】