説明

ICチップ内蔵テープ及びICチップ内蔵シート

ICチップが機械的外力を受けにくく、ICチップの脱落や損傷がないICチップ内蔵シート、及びこのICチップ内蔵シートに用いられるICチップ内蔵テープとその製造方法。当該ICチップ内蔵テープにおいて、ICチップの全部または一部が、テープ本体に埋設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はICチップ内蔵シートに用いられるICチップ内蔵テープ、及びこのICチップ内蔵テープを用いたICチップ内蔵シートに関する。
本願は、2003年12月10日に出願された日本国特許出願第2003−411762号及び2004年9月14日に出願された日本国特許出願第2004−267161号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機技術の進歩によって有価証券類の偽造が容易となり、大きな社会問題となっているため、紙幣、商品券、小切手、株券、パスポート、身分証明書、カード等は不正に変造、偽造できないように、各種の偽造防止対策が施されている。
【0003】
偽造防止対策としては、紙層間に「スレッド」と称する糸状物(テープ)を抄き込んだ、いわゆる「スレッド入り紙」と称する偽造防止用紙が開発されている(特許文献1〜4)。スレッド入り紙は、スレッドを抄き込む高度の技術を要するため、偽造防止手段として適しており、各国で紙幣や商品券などにも多く使用されている。
【0004】
また、スレッド入り紙の偽造防止効果をより一層高めるために、すき入れを施したり、スレッドの表面に金属蒸着層からなるマイクロ文字やマイクロ画像を形成したりする技術も提案されている(特許文献5)。
【0005】
最近では、偽造防止効果をさらに高めるために、細幅のフィルムの片面にICチップを接着したスレッドを、紙やプラスチックシートのごときシート状物に挿入する方法も提案されている(特許文献6)
【特許文献1】特開昭48−75808公報
【特許文献2】特開昭50−88377号公報
【特許文献3】特開昭51−130308号公報
【特許文献4】特開平10−292297号公報
【特許文献5】特開平10−219597号公報
【特許文献6】特開2002−319006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献6に開示されているようなICチップを接着したスレッドを用いた偽造防止用紙は、単にスレッドを用いた偽造防止用紙に比べてより優れた偽造防止機能を発揮する。しかし、その構造上、以下のような問題を生じる恐れがある。
【0007】
(1)スレッドのICチップを接着した部分が凸部となるため、外力によりICチップがはがれやすい。特に、抄紙工程(ワイヤー、プレス、ドライヤー、カレンダー)での機械的外力・熱等がかかる箇所で、ICチップがスレッドから剥離し脱落する可能性があるが、このような脱落が生じた場合は、抄紙工程で脱落したことを検知することは難しいため、抄紙後に偽造防止券として印刷した後に一枚でもICチップの脱落品が確認されると、ナンバリング(偽造防止券に付与される番号)印刷で刷り直さなければならないと言う問題が発生する。また、流通時や使用時において、ICチップが脱落する可能性もある。
【0008】
(2)スレッドのICチップを接着した部分が凸部となるため、カレンダーなどの外力でICチップ自体が損傷し、回路・機能が損なわれる可能性がある。
ICチップにかかる外力を低減するために、紙のスレッドを挿入する部分に溝を設ける構成も考えられる。しかし、この場合も、ICチップが接着された部分は、フィルムだけの部分よりも厚いために盛り上がり部分となる。そのため、外力の集中を避ける効果には限界がある。
【0009】
(3)テープ及びICチップ部分は25〜100μmの厚さを有するため紙層中に挿入した場合、挿入部の厚さが大きくなり
i. 紙ハゼが発生する。
ii. シワが発生する。
iii. 艶汚れが発生する。
(4)挿入部の紙の厚薄部分による凸凹で適さない印刷方式がある。
【0010】
本発明は、ICチップが機械的外力を受けにくく、ICチップの脱落や損傷がないICチップ内蔵シート、及びこのICチップ内蔵シートに用いられるICチップ内蔵テープを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を含む。
(1)ICチップ内蔵シートに用いられるICチップ内蔵テープであって、ICチップの全部または一部が、テープ本体に埋設されていることを特徴とするICチップ内蔵テープ。
(2)ICチップの全部が、テープ本体に埋設されている(1)に記載のICチップ内蔵テープ。
(3)ICチップの全部が、テープ本体に非露出状態で埋設されている(2)に記載のICチップ内蔵テープ。
(4)ICチップが、樹脂によりテープ本体に固定されている(1)〜(3)の何れかに記載のICチップ内蔵テープ。
(5)テープ本体が、2層以上の基材を備える(1)〜(4)の何れかに記載のICチップ内蔵テープ。
【0012】
(6)(1)〜(5)の何れかに記載のICチップ内蔵テープが、シート状物の内部に挿入されていることを特徴とするICチップ内蔵シート。
(7)多層抄き紙でICチップ内蔵テープがシート状物の内部に挿入されていることを特徴とする(6)に記載のICチップ内蔵シート。
(8)
少なくともICチップ内蔵テープの挿入位置に対応する中層の部分を連続的又は非連続的にシート原料を付着せずに抄造したことを特徴とする(7)に記載のICチップ内蔵シート。
(9)ICチップ内蔵テープが、その一部が露出した状態でシート状物の内部に挿入されている(6)に記載のICチップ内蔵シート。
(10)(1)〜(5)の何れかに記載のICチップ内蔵テープが、シート状物に貼着されていることを特徴とするICチップ内蔵シート。
【発明の効果】
【0013】
(1)〜(5)の発明によれば、ICチップの全部または一部がテープ本体に埋設されているので、機械的外力を受けにくい。したがって、本発明のICチップ内蔵テープによれば、ICチップの脱落や損傷がないICチップ内蔵シートを得ることができる。
【0014】
(6)〜(10)の発明によれば、ICチップの脱落や損傷がないICチップ内蔵シートとすることができる。そのため、偽造防止券として使用する場合、ICチップの脱落品が発生してナンバリング(偽造防止券に付与される番号)印刷で刷り直さなければならないという事態を招くこともない。また、少なくともICチップ内蔵テープの挿入位置に対応する中層の部分を連続的又は非連続的にシート原料を付着せずに抄造した場合には特に、
i テープ及びチップ部分の紙の厚薄が無くなり、紙はぜ、シワ、艶汚れのない紙ができる。
ii. 部分的な外圧によるICチップの損傷を防止できる。
iii. すべての印刷方式で印刷できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るICチップ内蔵テープの第1実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明に係るICチップ内蔵テープの第1実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係るICチップ内蔵テープの第2実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図4】本発明に係るICチップ内蔵テープの第2実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図5】本発明に係るICチップ内蔵テープの第3実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図6】本発明に係るICチップ内蔵テープの第3実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図8】本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図9】本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の変形例の概略構成を示す平面図である。
【図10】本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の変形例の概略構成を示す断面図である。
【図11】本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の他の変形例の概略構成を示す平面図である。
【図12】本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の他の変形例の概略構成を示す断面図である。
【図13】本発明に係るICチップ内蔵シートの第2実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図14】本発明に係るICチップ内蔵シートの第2実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図15】本発明に係るICチップ内蔵シートの第3実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図16】本発明に係るICチップ内蔵シートの第4実施形態の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0016】
1…ICチップ内蔵テープ、2…シート状物、3…すき入れ文字、10…ICチップ、20…テープ本体、21…第1基材、22…第2基材、23…第3基材、30…樹脂、
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図を用いて、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、説明の便宜上、寸法比を実際のものと異なったものとし、特に、厚み方向を拡大して示してある。
【0018】
<ICチップ内蔵テープ>
(ICチップ内蔵テープの第1実施形態)
図1、図2は、本発明に係るICチップ内蔵テープの第1実施形態の概略構成図で、図1は平面図、図2は断面図である。
図1、図2に示すように、本実施形態のICチップ内蔵テープは、複数のICチップ10とテープ本体20と樹脂30とから構成されており、各ICチップ10は樹脂30を介してテープ本体20に埋設されている。
テープ本体20の幅に限定はないが、幅1〜5mmとすることが好ましい。長さは、長ければ長いほど好ましいが、500〜20000mとすることができる。
【0019】
テープ本体20は、第1基材21と、第2基材22とを備えている。第1基材21と第2基材22とは、別体として貼り合わせられたものでも、同じ素材で一体的に構成されているものでもよい。第2基材22は、複数の貫通状態の開口22aを有しており、この部分に各ICチップ10が挿入されるようになっている。
樹脂30は、ICチップ10の周面と第2基材22との間に充填されている。なお、図示はしていないが、必要に応じて、ICチップ10の下面と第1基材21との間にも、樹脂30が充填されていてもよい。
【0020】
本ICチップ10はIC(集積回路)にアンテナが組み込まれたものである。ICチップ10はこれに電気エネルギーを与えることで、非接触認識方式により、メモリ内に記憶させた情報を読み出し、及び/又は書き込みできるようになっている。
ICチップ10は、できるだけ小さいものが好ましいが、通常一辺が5mm以下であれば使用可能であり、2mm以下であることが好ましい。厚みは最終製品のICチップ内蔵シートの厚みより薄ければよい。例えば、一辺0.5mm、厚さ70μmの微細かつ薄型のものが使用可能となっている。
【0021】
ICチップ10の製造方法は特に限定するものではないが、例えば、前記特許文献6に記載されている方法で製造することができる。
ICチップ10のアンテナは、コイル素子及びコンデンサ素子による共振回路を形成して、オンチップにてマイクロ波エネルギーと信号を得るアンテナであることが好ましい。
この場合、マイクロ波を利用するため時定数が小さく、たとえば、コイルのインダクタンスを2ナノへンリー、コンデンサを2ピコファラッドとすることなどによって、小さな部品回路によって共振回路を実現することが可能である。これによって、一辺が0.5mm以下の平面寸法の微小ICチップ上にアンテナを配置することが可能となる。
アンテナを形成するコイル素子とコンデンサ素子は並列または直列に接続されて、微小ICチップの中に実現される高周波受信回路に接続される。
【0022】
第1基材21と第2基材22の材質に特に限定はないが、紙、プラスチックフィルム等を使用できる。中でも、第1基材21と第2基材22の一方を紙とし、他方をプラスチックフィルムとしたものが、ICチップ内蔵テープとして紙等に漉き込むときに伸びが少ないため好ましい。
【0023】
プラスチックフィルムの基材としては、絶縁性、機械的強度、用途に応じて種々の材料が適用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体、テレフタル酸/シクロヘキサンジメタノール/エチレングリコール共重合体、シクロヘキサンジメタノール/エチレングリコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンナフタレートの共押出フィルムなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド系樹脂、ポリアリレ−ト、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエ−テル、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアラミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルファイトなどのエンジニアリング樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、セロファン、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、ニトロセルロースなどのセルロース系フィルム、などがある。
【0024】
紙としては特に制限を受けることはないが、ICチップ10との通信を阻害する金属等が含まれた紙は不都合である。また、必要に応じて合成紙も使用することができる。
【0025】
本実施形態のICチップ内蔵テープでは、ICチップ10の全部がテープ本体20に埋設されているので、機械的外力を受けにくい。また、ICチップ10の周面と第2基材22との間に樹脂30が充填されているので、ICチップ10がテープ本体20に強固に固着される。したがって、本実施形態のICチップ内蔵テープによれば、ICチップ10の脱落や損傷がないICチップ内蔵シートを得ることができる。
また、本実施形態では、第2基材22の厚みが、ICチップ10の厚みと同等である。
これにより、テープ本体20の厚みを徒に厚くすることなく、ICチップ10全体をテープ本体20に埋設することができる。
【0026】
本実施形態のICチップ内蔵テープの製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)第2基材22に複数の開口22aを形成する。次いで、第2基材22の下面に第1基材21を貼着する。次に第2基材22の上面側から、各開口22aに、周面に樹脂30を塗布したICチップ10を挿入する。
ここで、第2基材22に開口22aを形成する具体的方法としては、金型等で穿孔する方法が挙げられる。
(2)第1基材21と第2基材22とを同じ素材で一体的に構成したテープ本体20を用意する。テープ本体20に複数の凹部を形成し、これを開口22aとする。この各開口22aに、周面に樹脂30を塗布したICチップ10を挿入する。
ここで、凹部を形成する方法としては、射出成形法、精密ザグリ法、凸状体によるプレス法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空併用成形法、プラグアシスト成形法、雄雌型による塑性成形法などが適用できる。
【0027】
(ICチップ内蔵テープの第2実施形態)
図3、図4は、本発明に係るICチップ内蔵テープの第2実施形態の概略構成図で、図3は平面図、図4は断面図である。また、図3、図4において、図1、図2と同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態では、テープ本体20が、順次積層された、第1基材21と第2基材22と第3基材23とを備えている。第1実施形態と同様に、第1基材21と第2基材22とは、別体として貼り合わせられたものでも、同じ素材で一体的に構成されているものでもよい。
【0028】
第2基材22は、複数の貫通状態の開口22aを有しており、この部分に各ICチップ10が挿入されるようになっている。そして、開口22aの下面は第1基材21により、開口22aの上面は第3基材23により塞がれている。すなわち、ICチップ10は、第1基材21と第3基材23との間に挟まれて、非露出状態でテープ本体20に埋設されている。
樹脂30は、ICチップ10の周面と第2基材22との間に充填されている。なお、図示はしていないが、必要に応じて、ICチップ10の下面と第1基材21との間、ICチップ10の上面と第3基材23との間にも、樹脂30が充填されていてもよい。
本実施形態のICチップ内蔵テープは、第1実施形態のICチップ内蔵テープの上面に、第3基材23を貼着することによって得ることができる。
【0029】
(ICチップ内蔵テープの第3実施形態)
図5、図6は、本発明に係るICチップ内蔵テープの第3実施形態の概略構成図で、図5は平面図、図6は断面図である。図5、図6において、図1、図2と同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態では、樹脂30が層をなさず、各ICチップ10は、テープ本体20内に直接非露出状態で埋設されている。
【0030】
本実施形態のICチップ内蔵テープを製造する方法としては、たとえば、ポリビニルアルコール等の水溶性フィルムに、複数のICチップ10を固定し、これを2層の紙層間に抄き込む方法が挙げられる。この場合、水溶性フィルムは、抄造時に溶解して層として残らない。ただし、溶解した水溶性フィルムは、ICチップ10とテープ本体20との接着性に寄与する。
【0031】
(ICチップ内蔵テープの他の実施形態)
上記各実施形態においては、いずれもICチップ10を複数有する構成として説明したが、ICチップ内蔵テープ内に、ICチップ10が1つのみ内蔵されていてもよい。また、第1実施形態、第2実施形態では、樹脂30を充填した構造としたが、第2実施形態の第3基材23ように、ICチップ10の脱落防止が別の手段で図られていれば、樹脂30は不用である。
【0032】
<ICチップ内蔵シート>
(ICチップ内蔵シートの第1実施形態)
図7、図8は、本発明に係るICチップ内蔵シートの第1実施形態の概略構成図で、図7は平面図、図8は、図7のVIII−VIII’断面図である。また、図9、図10は、第1実施形態の変形例を示す概略構成図で、図9は平面図、図10は、図9のA−A’断面図である。同様に、図11、図12は、第1実施形態の他の変形例を示す概略構成図で、図11は平面図、図12は、図11のB−B’断面図である。
図7、図8に示すように、本実施形態のICチップ内蔵シートは、本発明に係るICチップ内蔵テープ1とシート状物2とから構成されており、ICチップ内蔵テープ1は、シート状物2の内部に挿入されている。
【0033】
シート状物2の材質に特に限定はなく紙、プラスチックフィルム等を使用できる。中でも、紙を用いると、抄紙工程においてICチップ内蔵テープ1を挿入することができるので好ましい。
本実施形態のICチップ内蔵シートを製造する方法としては、抄紙工程でICチップ内蔵テープを挿入する一層抄き、又は多層抄きの方法、あるいは、複数の基材シートを貼合する方法が挙げられる。
【0034】
1層抄きの方法としては、例えば長網抄紙機のスライスから抄紙網に供給される紙料と共にICチップ内蔵テープ1を繰り出して、抄紙網上に形成される紙層の内部にICチップ内蔵テープ1を埋没させるように挿入する方法(特開昭51−13039号)や、長網抄紙機のフローボックスから流出する紙料へICチップ内蔵テープ1の挿入装置を設置し、空気流でICチップ内蔵テープ1と紙料を非接触状態としながらICチップ内蔵テープ1を抄き込む方法(特開平2−169790号)が挙げられる。
多層抄きの方法としては、例えば多槽式円網抄紙機を用いて最外層の紙層と内層の紙層との少なくとも2層からなる抄合わせ紙を製造するに際して、各紙層を重ね合わせる直前でICチップ内蔵テープ1を紙層間に挿入して抄き込む方法が採用できる。
【0035】
この製造法において少なくともICチップ内蔵テープの挿入位置に対応する中層の部分を連続的又は非連続的にシート原料を付着せずに抄造する。
より具体的には、内蔵するテープの巾に相当する中層にシート原料を付着させないことである。しかし、必ずしも内蔵するテープと同一である必要があるのではなく、狭広があってもよく、シートにおいて凸凹が発生しなければ良いが、願わくば内蔵テープ巾より若干広い方が万一内蔵テープが挿入時に蛇行しても良いので好ましい。
更に必ずしも連続的にシート原料を付着させない必要もなく、例えば数ミリ間隔でシート原料付着の有無を繰り返しても良い。
【0036】
一層抄き、又は多層抄きの方法を用いる場合、紙層とICチップ内蔵テープ1が強固に接着していないと、ICチップ内蔵テープ1が何かに引っ張られて、紙層間から抜けてしまう恐れがある。このような問題の解決手段として、例えば、抄紙工程においてサイズプレス液に水溶性樹脂を使用したり、ICチップ内蔵テープ1に予め熱可塑性樹脂や水溶性樹脂を塗工して紙層との接着強度を向上させたりする方法を採るのがよい。また、ICチップ内蔵テープ1の基材としてフィルムと紙とを用いることにより、紙層との接着強度を向上させることも考えられる。
【0037】
次いで、複数の基材シートを貼合する方法により紙層間にICチップ内蔵テープ1を挿入する方法について説明する。この場合、基材シートの材質に限定はなく、紙の他、プラスチックフィルム等も使用できる。
貼合のために使用する樹脂としては、水溶性樹脂、熱可塑性高分子からなる熱溶融性樹脂及び熱硬化性樹脂等が挙げられるが、貼合後に再剥離することが困難な硬化型タイプを使用することが望ましい。
【0038】
接着力、取扱いの容易さ等の点で、エチレン樹脂、プロピレン樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ニトリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ハロゲン化ゴム、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ゼラチン、フェノール樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、アルキド樹脂、アリル樹脂、フラン樹脂あるいはこれらの樹脂を構成する単量体の共重合体等が好ましく使用し得る。
【0039】
中でもポリエステル樹脂、低密度ポリエチレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−イソブチルアクリレート共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−無水フタール酸共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ナイロン−12、テレフタル酸−1,3−ブタジオール系共重合体等が好ましく用いられる。かかる熱可塑性高分子からなる熱溶融性樹脂は単独あるいは2種以上を混合して使用することも勿論可能である、また硬化剤を併用することも可能である。
【0040】
貼合させる具体的な方法としては、(a)いずれかの基材シート表面にICチップ内蔵テープ1を配置し、接合する他の基材シート表面に樹脂を塗工し、これら基材シート同士を貼合させる方法、あるいは(b)予め基材シート表面に樹脂層を設けておき、しかる後にICチップ内蔵テープ1を配置した状態で他の基材シートと重ねて貼合する方法、更には、(c)いずれかの基材シート表面にICチップ内蔵テープ1を配置し、更にその上にフィルム状又は粉末状の樹脂を介在させ他の基材シートを重ね、しかる後、該フィルム状又は粉末を加熱溶融して基材シート同士を貼合させる方法等が挙げられる。貼合の安定性、作業能率等を考慮すると、上記(b)の方法が最も好ましい。
【0041】
また、フィルム状樹脂を用いる場合にはバキューム法、熱プライマー処理による低温ラミネート法等が採用され、粉末状接合剤を用いる場合には静電塗工、メッシュロール型散布法、溶射法、スプレー法、スクリーン印刷等が採用し得る。
【0042】
(ICチップ内蔵シートの第2実施形態)
図13、図14は、本発明に係るICチップ内蔵シートの第2実施形態の概略構成図で、図13は平面図、図14は、図9のX−X’断面図である。
図13、図14に示すように、本実施形態のICチップ内蔵シートは、本発明に係るICチップ内蔵テープ1とシート状物2とから構成されており、ICチップ内蔵テープ1は、シート状物2の内部に挿入されている。ただし、ICチップ内蔵テープ1の一部は、シート状物2に設けられた窓空き部2aにおいて、露出した状態とされている。本実施形態では、さらに、窓空き部2aにすき入れ文字3が施されている。
【0043】
本実施形態のICチップ内蔵シートを製造する方法としては、抄紙網ワイヤー上の紙料懸濁液に、凹凸を有するガイドの凸部先端にICチップ内蔵テープ1を通した溝を有するベルト機構を埋没する方法(特公平5−085680号)、長網抄紙機ワイヤー上の回転ドラム内に圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め湿紙に挿入したICチップ内蔵テープ1上のスラリーを圧縮空気で間欠的に吹き飛ばしてICチップ内蔵テープ1を露出させる方法(特開平06−272200号)、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、ICチップ内蔵テープ1を網表面の凹凸部に接触させながら挿入して窓開き部分にICチップ内蔵テープ1を抄き込む方法(米国特許第4462866号)等が挙げられる。
さらに多槽式円網抄紙機を用いて最外層の紙層と内層の紙層との少なくとも2層からなる抄き合わせ紙を製造する際に、最外層の紙層(または内層の紙層)に間欠的に窓開き部を形成し、これを窓開き部のない内層の紙層(または最外層の紙層)と重ね合わせる直前でICチップ内蔵テープ1を紙層間に挿入し、窓開き部からICチップ内蔵テープ1が露出するようにする方法も採用できる。
【0044】
(ICチップ内蔵シートの第3、第4実施形態)
図15、図16は、本発明に係るICチップ内蔵シートの第3実施形態、及び第4実施系の概略構成を示す断面図である。
図15、図16に示すように、これらの実施形態のICチップ内蔵シートも、各々本発明に係るICチップ内蔵テープ1とシート状物2とから構成されている。
図15に示す第3実施形態では、ICチップ内蔵テープ1は、シート状物2に設けられた溝に貼着されている。一方、図16に示す第4実施形態では、ICチップ内蔵テープ1は、シート状物2の表面に貼着されている。
第3実施形態は、溝によりICチップ内蔵テープ1を機械的外力から保護できるので、第4実施形態よりも好ましい。なお、溝の深さは、ICチップ、ICチップ内蔵テープ1、シート状物2の厚みや材質によって適時変更することができるが、およそICチップの厚みの0.5〜2倍が好ましい。
【0045】
第3実施形態のICチップ内蔵シートを製造する方法としては、ICチップ内蔵テープ1が挿入される部分の紙層だけ薄くして、ICチップ内蔵テープ1を挿入するための溝を形成しておくことが有効である。
具体的には、公知のすき入れの技術を使用することができる。例えば、円網シリンダーの上網に針金、金属、樹脂、紙等をハンダ付けしたり樹脂で貼り付けたりする方法、網に塗料や樹脂を塗布して網目を塞ぐ方法、抄紙網自体に直接凹凸をつける方法、網に感光性樹脂を利用して型を取り付ける方法、湿紙の状態で、溝を形成したい部分に圧縮空気を吹きかける方法、湿紙の状態で、溝を形成したい部分を擦過ロールにより擦過する方法等が挙げられる。
【0046】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
(ICチップ内蔵テープの作成)
厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを2.5mm幅にスリットし、長さ500mのテープ本体を作成した。次に、金型を用いたプレス加工によって、スリットしたPETフィルムに縦横各0.6mmの貫通孔を設けた。次に、貫通孔を設けたPETフィルムの一方の面(裏面)に、電気化学工業社製カバーテープ(商品名:デンカサーモフィルムALS)を貼着し、前記貫通孔部分を凹部とした。
そして、PETフィルムのカバーテープを貼着した面と反対の面(表面)から、一辺が0.5mm、厚さ約70μmの微小ICチップを、前記凹部に挿入した後、表面に、裏面と同じカバーテープを貼着した。これにより、微小ICチップ全体がテープ本体に非露出状体で埋設されたICチップ内蔵テープを作成した。
【0048】
(ICチップ内蔵シートの製造1)
二槽のシリンダーバットを備えた円網抄紙機により、抄紙速度50m/分で2層抄き合わせでICチップ内蔵シートを製造した。この際、第1層目(乾燥重量で51g/mの紙)と第2層目(乾燥重量で51g/mの紙)との間に上記のICチップ内蔵テープを挿入し、ICチップ内蔵シートを製造した。
【0049】
(ICチップ内蔵シートの製造2)
円網3層抄紙機により、抄速50m/分で3層抄合わせでICチップ入りテープ(最大部分厚さ70μm)を挿入しICチップ内蔵シートを製造した。この時、第1層目(乾燥重量25g/m)と第2層目(乾燥重量55g/m)は通常の方法で抄合わせ、第3層目(乾燥重量25g/m)を抄合わせる際にICチップ入りテープを挿入した。
第2層目シリンダーにはテープ挿入位置に10mm幅の原料が未付着部分を構成させるためシリンダー一周に幅10mmの帯状連続マークを貼った。これにより、10mm幅ではシート原料が付着せずテープ部分の盛り上がりの無いICチップ内蔵シートを製造した。
【0050】
(ICチップ内蔵シートの製造3)
円網3層抄紙機により、抄速50m/分で3層抄合わせでICチップ入りテープ(最大部分厚さ70μm)を挿入しICチップ内蔵シートを製造した。この時、第1層目(乾燥重量25g/m)と第2層目(乾燥重量55g/m)は通常の方法で抄合わせ、第3層目(乾燥重量25g/m)を抄合わせる際にICチップ入りテープを挿入した。
第2層目シリンダーにはテープ挿入位置に10mm幅の原料が未付着部分を構成させるためシリンダー一周に2ミリピッチで幅10mmのマークを貼った。これにより、10mm幅で2mmピッチでシート原料が付着せずテープ部分の盛り上がりの無いICチップ内蔵シートを製造した。
【0051】
(ICチップ内蔵シートの製造4)
4層のシリンダーバットを備えた円網抄紙機により、抄紙速度50m/分で4層抄合わせでICチップ内蔵シートを製造した。この時、第1層目と第2層目(乾燥重量各51g/mの紙)は通常の方法で抄合わせ、第3層目(乾燥重量51g/mの紙)を抄き合わせる際に、実施例1と同じICチップ内蔵テープを挿入した。
なお、第3層目のシリンダーにはテープ挿入位置に10mm幅の原料が未付着部分を構成させるためシリンダー一周に幅10mmの帯状連続マークを貼った。第4層目シリンダーには、ICチップ内蔵テープが挿入された位置に所定間隔で10mm角の透かし窓が形成されるように、シリンダー表面にマークを貼って抄合わせた。これにより10mm幅ではシート原料が付着せず、紙層内に挿入されたICチップ内蔵テープを所定間隔で紙表面から見ることができるテープ部分の盛り上がりの無いICチップ内蔵シートを製造した。
【実施例2】
【0052】
3層のシリンダーバットを備えた円網抄紙機により、抄紙速度50m/分で3層抄合せでICチップ内蔵紙を製造した。この際、第1層目と第2層目(乾燥重量各51g/mの紙)は、通常の方法で抄合せ、第3層目(乾燥重量51g/mの紙)を抄き合わせる際に、実施例1と同じICチップ内蔵テープを挿入した。
第3層目シリンダーには、ICチップ内蔵テープが挿入された位置に、所定間隔で10mm角の透かし窓が形成されるように、シリンダー表面にマークを貼って抄合せた。これにより、紙層内に挿入されたICチップ内蔵テープを、所定間隔で、紙表面から見ることができるICチップ内蔵シートを製造した。
【実施例3】
【0053】
坪量51g/mの紙にエチレン−酢酸ビニル共重合体接合剤(商品名「サイビノールDBA107」サイデン化学製)をロールコーターでコート量10g/mとなるように塗布し、この接合剤面に坪量51g/mの紙を貼合させる際に、両紙間に実施例1で使用したICチップ内蔵テープを挿入しICチップ内蔵シートを製造した。
【実施例4】
【0054】
(ICチップ内蔵テープの作成)
表層用、中層用、裏層用の3種類のパルプを用意した。表層用としては、NBKP30%、LBKP70%の配合で、CSF(カナダスタンダードフリーネス)400mLのパルプを調製した。中層用としては、NBKP20%、LBKP20%、上質古紙20%、新聞古紙40%の配合で、CSF350mLのパルプを調製した。裏層用としては、NBKP25%、LBKP25%、新聞古紙50%の配合で、CSF400mLのパルプを調製した。それぞれのパルプスラリーに、硫酸バンドを添加してpH6.0に調整した。
以上の条件のパルプスラリーを、円網3層抄合わせ抄紙機を用いて、表層が100g/m、中層が200g/m、裏層が50g/mの条件で抄き合わせ、厚さ300μmの3層紙を抄造した。
この3層紙を2.5mm幅にスリットし、長さ2000mのテープ本体を作成した。次に、金型を用いたプレス加工によって、スリットした3層紙に縦横各0.6mmの貫通孔を設けた。次に、貫通孔を設けた3層紙の一方の面(裏面)に、日本マタイ製ボトムカバーテープ(商品名:チップボトムテープSPタイプ)を貼着し、前記貫通孔部分を凹部とした。
そして、3層紙のカバーテープを貼着した面と反対の面(表面)から、一辺が0.5mm、厚さ約70μmの微小ICチップを、前記凹部に挿入した後、表面に日東電工製トップカバーテープ(商品名:カバーテープNo.318H−14A)を貼着した。これにより、微小ICチップ全体がテープ本体に非露出状体で埋設されたICチップ内蔵テープを作成した。
【0055】
(ICチップ内蔵シートの製造)
坪量175g/mの紙にエチレン−酢酸ビニル共重合体接合剤(商品名「サイビノールDBA107」サイデン化学製)をロールコーターでコート量10g/mとなるように塗布し、この接合剤面に坪量175g/mの紙を貼合させる際に、上記ICチップ内蔵テープを挿入しICチップ内蔵シートを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のICチップ内蔵テープ及びICチップ内蔵シートは、紙幣、商品券、小切手、株券、パスポート、身分証明書、物流タグ類等に有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップ内蔵シートに用いられるICチップ内蔵テープであって、ICチップの全部または一部が、テープ本体に埋設されていることを特徴とするICチップ内蔵テープ。
【請求項2】
ICチップの全部が、テープ本体に埋設されている請求項1に記載のICチップ内蔵テープ。
【請求項3】
ICチップの全部が、テープ本体に非露出状態で埋設されている請求項2に記載のICチップ内蔵テープ。
【請求項4】
ICチップが、樹脂によりテープ本体に固定されている請求項1〜3の何れかに記載のICチップ内蔵テープ。
【請求項5】
テープ本体が、2層以上の基材を備える請求項1〜4の何れかに記載のICチップ内蔵テープ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のICチップ内蔵テープが、シート状物の内部に挿入されていることを特徴とするICチップ内蔵シート。
【請求項7】
多層抄き紙でICチップ内蔵テープがシート状物の内部に挿入されていることを特徴とする請求項6記載のICチップ内蔵シート。
【請求項8】
少なくともICチップ内蔵テープの挿入位置に対応する中層の部分を連続的又は非連続的にシート原料を付着せずに抄造したことを特徴とする請求項7に記載のICチップ内蔵シート。
【請求項9】
ICチップ内蔵テープが、その一部が露出した状態でシート状物の内部に挿入されている請求項6に記載のICチップ内蔵シート。
【請求項10】
請求項1〜5の何れかに記載のICチップ内蔵テープが、シート状物に貼着されていることを特徴とするICチップ内蔵シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【国際公開番号】WO2005/057479
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516116(P2005−516116)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018188
【国際出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(595119486)株式会社エフ・イー・シー (18)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】