説明

IFNAR2突然変異体、その生産及び使用

【課題】I型IFN受容体β鎖の突然変異ポリペプチドであって野生型タンパク質に比してインターフェロン-ベータ(IFNβ)に対するアフィニティーを高めてIFNβの生体内効果を長引かせるようにした突然変異ポリペプチドの提供。
【解決手段】上記I型IFN受容体β鎖のアミノ酸配列の特定のアミノ酸残基に突然変異を起こして野生型ポリペプチドに比してインターフェロン-ベータ(IFNβ)に対するアフィニティーを高めたIFNAR2突然変異ポリペプチド(MIFNAR2)、又はその類似体、機能性誘導体、融合タンパク質又は塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、I型IFN受容体β鎖の突然変異ポリペプチドであって野生型タンパク質に比してインターフェロン-ベータ(IFNβ)に対するアフィニティーを高めてIFNβの生体内効果を延長させるようにした突然変異ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
インターフェロンはI型の白血球又は線維芽インターフェロン又はII型のマイトジェン誘発又は「免疫」インターフェロンのいずれかに分類される(Pestka et al, 1987)。配列相同性や共通生物活性の分析によればI型インターフェロンにはインターフェロン-アルファ(IFNα)、IFNβ及びインターフェロン-オメガ(IFNω)があり、またII型インターフェロンにはインターフェロン-ガンマ(IFNγ)がある。
【0003】
IFNα、IFNβ及びIFNω遺伝子は第9染色体の25番短腕にクラスターをなしている(Lengyl, 1982)。少なくとも25個の非対立IFNα遺伝子、6個の非対立IFNω遺伝子及び単一IFNβ遺伝子が存在する。どれも単一の共通祖先遺伝子から進化してきたと考えられる。分子種内ではIFNα遺伝子は互いに少なくとも80%の配列相同性を有する。IFNβ遺伝子はIFNαと約50%の配列相同性を有し、またIFNω遺伝子はIFNαと約70%の相同性を有する(Weissman et al, 1986; Dron et al, 1992)。分子量はIFNαが17〜23 kDa (165〜166アミノ酸)、IFNβが約23kDa(166アミノ酸)、またIFNωが約24kDa (172アミノ酸)である。
【0004】
I型インターフェロンはウイルス及び寄生虫感染に対する宿主防衛、抗がん及び免疫調節活性などをもつ多能性サイトカインである(Baron et al, 1994; Baron et al, 1991)。I型インターフェロンの生理作用には正常及び形質転換細胞に対する抗増殖活性; リンパ球細胞、ナチュラルキラー細胞及び食細胞の細胞傷害活性の刺激; 細胞分化の調節; MHCクラスI抗原の発現の刺激; MHCクラスII抗原の阻害; 及び種々の細胞表面受容体の調節などがある。IFNα及びIFNβ (IFNα/β)は正常な生理的条件下ではほとんどのヒト細胞で構成的に低レベル分泌されるが、病原体(ウイルス、細菌、マイコプラズマ及び原虫)、dsRNA及びサイトカイン(M-CSF, IL-1α, IL-2, TNFα)を含む種々の誘発因子を添加すると発現が上方調節される。I型インターフェロンのin vivo作用は代用マーカーのネオプテリン、2’,5’-オリゴアデニル酸シンテターゼ及びβ2ミクログロブリンを使用してモニターすることができる(Alam et al, 1997; Fierlbeck et al, 1996; Salmon et al, 1996)。
【0005】
I型インターフェロン(IFNα/β/ω)は細胞表面受容体複合体を介して作用し、抗ウイルス、抗腫瘍及び免疫調節など特定の生物学的効果を誘発する。I型IFN受容体(IFNAR)は少なくとも2つの異なるポリペプチド鎖からなるヘテロ多量体の受容体複合体である(Colamonici et al, 1992; Colamonici et al, 1993; Platanias et al, 1993)。これらの鎖をコードする遺伝子は第21染色体上にあり、対応するタンパク質はほとんどの細胞の表面で発現する(Tan et al, 1973)。これらの受容体鎖は当初アルファ、ベータと命名されたが、アルファ、ベータ各サブユニットはそれぞれIFNAR1、IFNAR2へと改称されている。ほとんどの細胞では、IFNAR1 (α鎖、Uzeサブユニット)(Uze et al, 1990)の分子量は100〜130 kDaであり、またIFNAR2 (β鎖、βL、IFNα/βR)の分子量は100kDaである。ある種の細胞型(単球様細胞株及び正常骨髄細胞)では代替受容体複合体が発見されており、そこではIFNAR2サブユニット(βS)が分子量51kDaの短縮型受容体として発現する。IFNAR1、IFNAR2 βL及びβSサブユニットはすでにクローン化されている(Novick et al, 1994; Domanski et al, 1995)。IFNAR2 βS及びβLサブユニットは同じ細胞外及び膜貫通ドメインをもつが、細胞質ドメインでは最初の15アミノ酸で同一性を共有するにすぎない。IFNAR2サブユニットは単独でもIFNα/βを結合しうるが、IFNAR1サブユニットは結合しえない。ヒトIFNAR1受容体サブユニットだけをマウスL-929線維芽細胞中に導入しても、IFNα8/αBを除くヒトIFNαは細胞に結合することができなかった(Uze et al, 1990)。ヒトIFNAR2サブユニットはヒトIFNAR1サブユニットの不存在下にL細胞に導入するとヒトIFNαを結合するが、その際のKdは約0.45nMである。ヒトIFNAR2サブユニットをヒトIFNAR1サブユニットの存在下に導入すると、Kd=0.026〜0.114nMの高アフィニティー結合が見られた(Novick et al, 1994; Domanski et al, 1995)。ほとんどの細胞には500〜20,000の高アフィニティーIFN結合部位と2,000〜100,000の低アフィニティーIFN結合部位とが存在すると推定される。IFNAR1/2複合体(α/βS又はα/βL)サブユニットは高アフィニティーでIFNαを結合するものの、α/βLペアだけが機能的なシグナル伝達受容体であるように見受けられる。
IFNAR1及びIFNAR2 βLサブユニットをマウスL-929細胞に導入した後IFNα2とインキュベートすると、抗ウイルス状態の誘発、細胞内タンパク質リン酸化の開始、及び細胞内キナーゼ(Jak1及びTyk2)及び転写調節因子(STAT 1、2及び3)の活性化が起こる(Novick et al, 1994; Domanski et al, 1995)。対応する実験でIFNAR2 βSサブユニットを導入しても同様の作用を起こすことはできなかった。従って、機能活性(抗ウイルス作用)にはIFNAR2 βLサブユニットが必要であり、IFNAR1サブユニットとの会合により最高の誘発が起こることになる。
【0006】
膜結合型の細胞表面IFNARに加えて可溶型IFNARもまたヒトの尿と血清の両方で発見されている(Novick et al, 1994; Novick et al, 1995; Novick et al, 1992; Lutfalla et al, 1995)。SDS-PAGE上の見掛け分子量は、血清から単離される可溶型IFNARが55kDaであり、尿由来の可溶型IFNARが40〜45kDa (p40)である。可溶型p40 IFNAR2に対応する転写産物はmRNAレベルで存在し、またIFNAR2サブユニットの全細胞外ドメインをほぼ包含し、カルボキシル末端に2個の追加アミノ酸をもつ。可溶型IFNAR2受容体には5つの潜在グリコシル化部位が存在する。この可溶型p40 IFNAR2はIFNα2及びIFNβを結合し、またIFNα分子種(白血球IFN)と個別I型IFN類との混合物の抗ウイルス活性をin vitroで阻害することがすでに判明している(Novick et al, 1995)。組換えIFNAR2サブユニットIg融合タンパク質は種々のI型IFN分子種(IFNαA、IFNαB、IFNαD、IFNβ、IFNα Con1及びIFNω)のDaudi細胞及びα/βSサブユニット二重導入COS細胞との結合を阻害することが判明している。
【0007】
I型IFNシグナル伝達経路はすでに発見されている(Platanias et al, 1996; Yan et al, 1996; Qureshi et al, 1996; Duncan et al, 1996; Sharf et al, 1995; Yang et al, 1996)。シグナル伝達を引き起こす初期事象は、IFNα/β/ωのIFNAR2サブユニットへの結合とそれに続くIFNAR1サブユニットとの会合によるIFNAR1/2複合体の形成によって起こると考えられる(Platanias et al, 1994)。IFNα/β/ωのIFNAR1/2複合体への結合は2種類のJanusキナーゼ(Jak1とTyk2)の活性化を招き、それらはIFNAR1及びIFNAR2サブユニット上の特定のチロシンをリン酸化すると考えられる。ひとたびこれらのサブユニットがリン酸化されると、STAT分子(STAT 1、2及び3)がリン酸化され、その結果としてSTAT転写複合体の二量体化とそれに続く該転写複合体の核局在化及び特定IFN誘導性遺伝子の活性化が起こる。
【0008】
2か年無作為プラセボ比較二重盲検多施設共同治験により、再発-寛解型多発性硬化症(MS)の再発を減らすには天然ヒト線維芽インターフェロン(IFNβ)のくも膜下(IT)投与が有効であると立証された。この治験ではIFNβのIT投与を受けたMS患者34人の再発率の平均下げ幅はプラセボ投与を受けた対照患者35人のそれを有意に上回った(Jacobs et al, 1987)。
【0009】
I型IFNの薬物動態学及び薬力学試験が人間を対象に行われてきた(Alam et al, 1997; Fierlbeck et al, 1996; Salmon et al, 1996)。IFNβのクリアランスはかなり急速であり、その生体利用率はほとんどのサイトカイン類に関する予測値を下回る。IFNβの薬物動態学試験は人間で行われてきたものの、IFNβの生体利用率と臨床効果の間に明確な相関はまだ確立されていない。健常志願者では、組換えCHO由来IFNβを単回静脈内(iv)ボーラス投与(6 MIU)すると急速な分布相の半減期は5分間、終末相半減期は約5時間という結果になった(Alam et al, 1997)。IFNβの皮下(sc)又は筋内(im)投与後の血中濃度は横ばい状態であり、投与量の約15%が全身的に利用されるにすぎない。IFNβのiv、im又はsc投与後の[PBMCs中2’,5’-オリゴアデニル酸シンテターゼ(2’,5’-AS)活性の変化で測定した]薬力学は最初の24時間以内に高まり、次の4日間でベースラインレベルへと徐々に低下した。生物学的効果の強さと持続時間は投与経路とは無関係に同じであった。
【0010】
IFNβの頻回投与薬力学試験が人間のメラノーマ患者で実施された(Fierlbeck et al, 1996)。試験ではIFNβが6か月間にわたり週3回、3 MIU/回、sc経路で投与された。薬物動態マーカー2’,5’-AS、β2ミクログロブリン、ネオプテリン及びNK細胞の活性化は第2回投与(4日目)でピークに達し、28日目でほぼ消失し、6か月までわずかに高い状態で推移した。
【0011】
E. coliで発現したヒトIFNAR2細胞外ドメイン(IFNAR2-EC)の精製とリフォールディング、及びIFNα2との相互作用に関する特性解析はすでに報告されている(Piehler and Schreiber 1999A)。この25kDa非グリコシル化IFNAR2-ECはIFNα2の抗ウイルス活性を阻害する安定した完全活性タンパク質であると判明した。IFNα2結合の化学量論比はゲルろ過、化学的架橋及び固相検出法で求めると1:1である。この相互作用のアフィニティーは約3nMであると判明した(Piehler and Schreiber 2001)。この複合体形成は他サイトカイン-受容体相互作用に比べて比較的高速である。会合反応速度論の塩依存性は複合体形成速度に対する静電気力の、限定的であるが重要な寄与を示唆する。解離定数はpKa 6.7の塩基のプロトン化に応じたpHの低下に伴って大きくなる。IFNβのIFNAR2に対するアフィニティーはIFNα2のIFNAR2に対するアフィニティーの約2倍高い(Piehler and Schreiber 1999B)。
【0012】
IFNAR2の結合部位における単一突然変異はIFNα2とIFNβの結合の差異の解析を可能にした(Piehler and Schreiber 1999B)。たとえば突然変異H78AはIFNβとの複合体を2倍近くも安定させる一方で、IFNα2との複合体を2倍余りも不安定にすると判明した。突然変異N100AはIFNα2の結合速度にはほとんど影響しないが、IFNβの解離速度定数をほぼ4分の1に低下させると判明した。
【0013】
欧州特許第1037658号明細書の開示によれば、I型インターフェロン(IFN)のin vivo効果は、該インターフェロンをヒトIFNα/β受容体(IFNAR)のIFN結合鎖との複合体の形で投与することにより、すなわちIFNARをIFNの担体タンパク質として機能させることにより、引き延ばすことができる。そうした複合体はIFNの安定性を改善し、IFNの効能を強めることにもなる。該複合体は非共有結合複合体でも、IFNとIFNARが共有結合又はタンパク質によって結び付けられた複合体でもよい。また欧州特許第1037658号明細書の開示によれば、そうした複合体の形でIFNを貯蔵するとIFNの貯蔵寿命の延長になるし、また他の場合よりも穏やかな条件下での貯蔵が可能になる。
IFNα2ではなくIFNβに対するアフィニティーを高めて一段と優れたIFNβ特異的な担体となるようにしたIFNAR2が必要である。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、アミノ酸残基のヒスチジン78位とアスパラギン100位に突然変異を起こして野生型ポリペプチドに比してインターフェロン-ベータ(IFNβ)に対するアフィニティーを高めたIFNAR2突然変異ポリペプチド(MIFNAR2)、又はその類似体、機能性誘導体、融合タンパク質又は塩を提供する。該突然変異はアミノ酸好ましくは同類アミノ酸、より好ましくはアラニン、アスパラギン酸及びヒスチジンの置換である。IFNAR2突然変異体のアフィニティーは野生型タンパク質に比して約25倍、好ましくは50倍、より好ましくは100倍高く、またその値は好ましくは約30pMである。
【0015】
本発明は特に細胞外ドメインを含むIFNAR2突然変異ポリペプチド断片を提供する。
加えて本発明は本発明のIFNAR2突然変異ポリペプチドをコードするDNA、該DNAを含むベクター、該ベクターを含む宿主細胞、及び該宿主細胞の培養により本発明のポリペプチド突然変異体を生産させ生産ポリペプチド突然変異体を単離する方法を提供する。
別の態様では本発明は、IFN、好ましくはIFNβのin vivo効果を調節する薬剤の製造への、IFNAR2突然変異ポリペプチドの使用を提供する。
【0016】
本発明はまた、単独投与するか、又はIFNと、より好ましくはIFNβと、別個に又は共有結合させた状態で同時投与するための、治療有効量のIFNAR2突然変異体又はその細胞外ドメイン断片のいずれかを含む製剤組成物を提供する。本発明は特に、IFNβの抗ウイルス、抗がん及び免疫調節活性を増進するための、また多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、糖尿病、潰瘍性大腸炎及び狼瘡などの自己免疫疾患を治療するための、医薬組成物を提供する。
【0017】
さらに本発明は本発明のIFNAR2突然変異ポリペプチドの投与を含む自己免疫疾患、ウイルス疾患及びがんの治療方法を提供する。
また本発明は、IFNを悪化又は発症因子とする疾患でINF活性を阻害するための、好ましくはIFN拮抗薬と同時投与するIFNAR2突然変異ポリペプチドの使用を提供する。
本発明はまた、IFN低重合体化を防止するための製剤への、本発明のIFNAR2突然変異ポリペプチドの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】結合及び遊離IFNβの濃度シミュレーションであり、シミュレーションには定濃度(50pM)のIFNと逓増濃度の野生型IFNAR2 EC(左のグラフ)及び突然変異IFNAR2 EC(右のグラフ)(質量作用の法則に従って計算したKdはそれぞれ3nM、50pM)とを使用している。
【図2】IFNAR2細胞外ドメイン(EC)タンパク質の(リーダー配列を除く)アミノ酸配列と変異アミノ酸残基(星印)を示す。
【図3】IFNβ及びIFNα2のIFNAR2 EC H78A/N100A突然変異体への結合を示す。IFNβ及びIFNα2の野生型IFNAR2 EC(上のグラフ)及びIFNAR2 EC H78A/N100A突然変異体(中のグラフ)への会合と解離、それにIFNβの野生型IFNAR2 EC及び突然変異IFNAR2 EC H78A/N100Aに対する結合(下のグラフ)は、(Piehler and Schreiber 2001に開示の要領で)IFNAR2を表面に固定化して反射率干渉分光法(reflectometric interference spectroscopy, RIfS)で測定した。Y軸=シグナル(ナノメートル)、X軸=時間(秒)。
【図4】野生型及び突然変異IFNAR2によるIFNβの閉じ込め(occlusion)を示す。定濃度(10pM)のIFNβを種々の濃度の野生型及び突然変異IFNAR2 (R2)(単一突然変異体R2 N100A及びR2 H78A; 二重突然変異体R2 H78A/N100A、R2 H78A/N100H及びR2 H78A/N100D)と混合し、平衡状態でWISH細胞中の残留抗ウイルス活性を測定した。上のボックスは、IFNAR2の不在下でのIFNβの抗ウイルス活性を濃度の関数として示したグラフである(Y軸=生存指数)。このグラフは抗ウイルス検定でどれだけのIFNβが遊離(活性)状態にあるかを割り出すための標準として使用する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、I型IFN受容体β鎖(IFNAR2)のアミノ酸残基H78位とN100位を変異させて、IFNα2ではなくIFNβに対するアフィニティーを高めた突然変異体(MIFNAR2)に関する(図2の野生型IFNAR2のDNA配列、SEQ ID NO: 1を参照)。本発明はまたIFNの活性を増進させるための、MIFNAR2の細胞外ドメイン(EC)を含む薬物担体系に関する。本発明はMIFNAR2、又はその類似体、機能性誘導体、融合タンパク質、その断片、又は塩に関する。
担体は通常、分子量50kDa未満のタンパク質(たとえばインターフェロン)の血管内滞留時間を延長するために投与する。特に有用なのは、薬物と非共有結合して薬物の定量放出を可能にするような担体である。そうした担体の使用が好ましいのは、任意の時点である割合(約20%)の薬物が遊離状態で治癒作用に利用され、ある割合(約80%)の薬物が担体と結合して保護されるようにする場合である。
【0020】
図1(左のグラフ)は種々の濃度のIFNAR2の存在下での結合及び遊離IFNβ濃度のシミュレーションであり、シミュレーションは質量作用の法則とKd=3nM (RIfSで測定)とに基づく。このシミュレーションからは、遊離IFNβ濃度20%(10pM、約100単位に相当)、結合IFNβ濃度80%を実現するためには、12.5nM (300μg/Kgの非グリコシル化IFNAR2に相当)などのようなきわめて高濃度のIFNAR2タンパク質が必要であることがわかる。
【0021】
従って、IFNβに対するアフィニティーが50倍以上も高いIFNAR2突然変異体を担体として使用すれば有利であろう。(図1、右のグラフを参照)。理論的にはわずか0.24nM(6μg/Kgに相当)で遊離IFNβ濃度を20%にすることができるからである。
【0022】
IFNに対するアフィニティーを高めたIFNAR2の突然変異体(MIFNAR2)を生成させた。MIFNAR2 ECを得るために、野生型IFNAR2 EC (図1、SEQ ID NO.1)の2アミノ酸残基すなわち残基78ヒスチジンと残基100アスパラギンを変異させた(図2、3及び4、SEQ ID NOs: 2、3及び4を参照)。この突然変異IFNAR2 ECタンパク質は特にIFNβの担体としてより優れていることが、すなわちIFNα2に対するアフィニティーは変わらないのにIFNβに対するアフィニティーは高まっていることが判明した。IFNβに対するアフィニティーは野性型の26倍、40倍及び50倍超であると判明した(表4)。得られた結果は、この突然変異した可溶型受容体のアフィニティーの上昇(H78A/N100A IFNAR2突然変異体のKdは〜30pMであるのに対して野生型タンパク質のKd=3nM)にもかかわらず、VSV(水泡性口内炎ウイルス)感染WISH細胞の抗ウイルス防御活性により裏付けられるように、十分なIFNβが未結合のままで、治療活性を維持した(図4)。これらの結果はまた、野生型IFNAR2 ECによって実現されるIFN閉じ込めレベル(平衡状態での結合IFN)が、もっと低濃度のIFNAR突然変異体ECによって実現しうることを示す。最良の結果は両残基を変異させた突然変異体、特に両アミノ酸をアラニンに変異させたH78A/N100A IFNAR2によって実現される。たとえば80%のIFNβを結合状態に(8pMを閉じ込めた状態に、また2pMを遊離状態に)しておくには、野生型IFNAR2タンパク質の約30分の1の量のH78A/N100A IFNAR突然変異体で済む。
【0023】
この結果が示すように、二重突然変異体のIFNAR2はIFNβをより効果的に閉じ込めるし、またIFNβに対する担体活性を実現するにはずっと少ない量の投与で済む。
MIFNAR2 ECを使用する利点: (I)担体としての受容体−投与量を減らすことができる(従って技術的に実現可能である)、(II)該突然変異体は安定化作用をもつため、IFNβ投与量を、従ってインターフェロン療法の望ましくない副作用をいくつか、減らすことができる、(III )突然変異体の活性の増大はIFNβ特異的である、及び(IV) IFN濃度を引き下げる必要がある若干の炎症性疾患では、ある種の条件下でこの突然変異体をIFNα2ではなくIFNβに対して特異的に有効な拮抗薬として使用することができる。
MIFNAR2-ECは単独で投与して内因性IFNβの活性を安定化し増進するようにしてもよい。これは、天然IFNの上昇を自然に招くような疾患又は状態をもつ患者の治療に特に有効である。IFNはすでに、そうした疾患又は状態と闘うという所期の自然作用を果たすために、体内を循環しているからである。MIFNAR2-ECは内因性IFNβに対して特異的に作用しようが、IFNα2に対してはそれほど作用しないであろう。MIFNAR2-ECはIFN好ましくはIFNβと同時投与し、又はIFNβと共有結合させて投与して、IFNβの活性を調節するようにしてもよい。この複合体を生成させるために使用するMIFNAR2及びIFNβは組換え分子であるのが好ましい。
【0024】
突然変異IFNAR2 ECとIFNとの融合タンパク質の産生に必要とされる技術は、国際出願WO 99/32141号明細書で詳しく開示されている野生型IFNAR/IFN複合体の産生技術に類似するが、野生型の代りにH78とN100を変異させた突然変異体のIFNAR2 (MIFNAR2)を使用する。
本発明に基づくMIFNAR2/IFNβ非共有結合複合体の使用には2つの含みが、すなわち必要となるIFNAR2 ECがより低濃度で済み、またIFN自体が治療活性を及ぼすような種々の疾患を適応症とするという含みがある。
これらの適応症は、遊離IFNが相当の治療活性たとえば抗ウイルス、抗がん及び免疫調節活性を示すような疾患を含む。突然変異IFNAR2/IFN複合体はその効能、活性及び/又は薬物動態(すなわち半減期)などが改善しているために、ウイルス疾患、がん及び自己免疫疾患の治療に一段と有効であると期待される。
【0025】
このインターフェロン受容体複合体は生体投与すると、IFNの生体利用率、薬物動態及び/又は薬力学を改善し、もってIFNの抗ウイルス、抗がん及び免疫調節特性を増進する。
本発明の複合体に使用するための好ましい分子は天然IFNβ及びMIFNAR2 (SEQ ID NOs: 2、3及び4)のアミノ酸配列を含む。天然配列は天然に存在するヒトIFNβの配列である。そうした配列は周知であり、また文献で容易に見付けることもできる。天然に存在する対立遺伝子の変異もまた天然配列とみなされる。
【0026】
本発明はまた前記MIFNAR2 ECの類似体に関する。そうした類似体は該タンパク質中の約30個以下の、好ましくは20個以下の、最も好ましくは10個以下のアミノ酸残基を欠失し、付加し、又は他残基で置換したものでもよいが、MIFNAR2のIFNβに対するアフィニティーを野生型IFNAR2のIFNβに対するアフィニティーにまで低下させる結果となるように残基78及び100位を変異させたものは除く。これらの類似体は周知の合成法及び/又は位置指定突然変異誘発法又は他の任意好適な技法で調製する。
そうした類似体は基本となるMIFNAR2のアミノ酸配列と十分に重複するアミノ酸配列を(従って実質的に類似する活性を)有するのが好ましい。たとえば任意の類似体が本発明のタンパク質及び複合体と実質的に同じ活性及び/又は安定性を有するかどうかは、そうした類似体を個別に結合試験及び生物活性試験にかけるステップを含む通常の実験によって判定することができる。MIFNAR2 EC類似体のIFNβに対する結合アフィニティーは野生型タンパク質に比して少なくとも15倍高く、また約50〜100倍高いが、IFNα2に対するアフィニティーはそれほど変化していない。MIFNAR2 EC類似体はIFNβに対して約30pM以下のKdを示すであろう。MIFNAR2とIFNの相互作用に関する結合試験ではゲルろ過分析法、光学的不均質相検出法(optical heterogeneous phase detection) [広く使用されているBIACORE法に類似する表面プラズモン共鳴(SPR)法又はRIfS法など]、及び蛍光分光法が使用されよう(Piehler and Schreiber 1999A; Piehler and Schreiber 2001)。
【0027】
本発明に従って使用することができる複合体の類似体、又はそれをコードする核酸配列は、有限集合の、実質的に相当する配列を、当業者が過度の実験にまつことなく本明細書で開示の教示と指導に基づいて普通に入手することができる置換ペプチド又はポリヌクレオチドとして含む。タンパク質の化学的性質及び構造に関する詳細な開示については、参照指示により本明細書に組み込まれるSchulz et al, Principles of Protein Structure, Springer Verlag, New York (1978); 及びCreighton, T.E., Proteins: Structure and Molecular Properties, W.H. Freeman & Co, San Francisco (1983)を参照。
ヌクレオチド配列の置換たとえばコドン選好などの説明についてはAusubel et al (1987, 1992) A.1. I-A. 1.24及びSambrook et al (1987, 1992), 6.3 and 6.4 at Appendices C and Dを参照。
【0028】
本発明に従う類似体のための好ましい変化はいわゆる「同類」置換である。本発明のタンパク質配列中のアミノ酸の同類アミノ酸置換は同義アミノ酸群内の置換、すなわち物理化学的性質が互いに類似するため置換してもタンパク質の生物学的機能は維持されるようなメンバーからなるアミノ酸群内の置換を含んでもよい(Grantham 1974)。該配列ではアミノ酸の挿入や欠失を、その機能を変えることなく起こせることが(特に挿入又は欠失が少数のアミノ酸たとえば30個未満好ましくは10個未満のアミノ酸だけに絡み、機能的立体構造を左右するようなアミノ酸たとえばシステイン残基を除去又は置換するものでないならば)明らかである(Anfinsen, 1973)。そうした欠失及び/又は挿入から生産される類似体は本発明の範囲に包摂される。同義アミノ酸群は表1で定義したものであるのが好ましい。同義アミノ酸群は表2で定義したものであればなお好ましいし、また同義アミノ酸群は表3で定義したものであれば最も好ましい。
【0029】
表1
好ましい同義アミノ酸群
アミノ酸 同義群
Ser Ser, Thr, Gly, Asn
Arg Arg, Gln, Lys, Glu, His
Leu Ile, Phe, Tyr, Met, Val, Leu
Pro Gly, Ala, Thr, Pro
Thr Pro, Ser, Ala, Gly, His, Gln, Thr
Ala Gly, Thr, Pro, Ala
Val Met, Tyr, Phe, Ile, Leu, Val
Gly Ala, Thr, Pro, Ser, Gly
Ile Met, Tyr, Phe, Val, Leu, Ile
Phe Trp, Met, Tyr, Ile, Val, Leu, Phe
Tyr Trp, Met, Phe, Ile, Val, Leu, Tyr
Cys Ser, Thr, Cys
His Glu, Lys, Gln, Thr, Arg, His
Gln Glu, Lys, Asn, His, Thr, Arg, Gln
Asn Gln, Asp, Ser, Asn
Lys Glu, Gln, His, Arg, Lys
Asp Glu, Asn, Asp
Glu Asp, Lys, Asn, Gln, His, Arg, Glu
Met Phe, Ile, Val, Leu, Met
Trp Trp
【0030】
表2
より好ましい同義アミノ酸群
アミノ酸 同義群
Ser Ser
Arg His, Lys, Arg
Leu Leu, Ile, Phe, Met
Pro Ala, Pro
Thr Thr
Ala Pro, Ala
Val Val, Met, Ile
Gly Gly
Ile Ile, Met, Phe, Val, Leu
Phe Met, Tyr, Ile, Leu, Phe
Tyr Phe, Tyr
Cys Cys, Ser
His His, Gln, Arg
Gln Glu, Gln, His
Asn Asp, Asn
Lys Lys, Arg
Asp Asp, Asn
Glu Glu, Gln
Met Met, Phe, Ile, Val, Leu
Trp Trp
【0031】
表3
最も好ましい同義アミノ酸群
アミノ酸 同義群
Ser Ser
Arg Arg
Leu Leu, Ile, Met
Pro Pro
Thr Thr
Ala Ala
Val Val
Gly Gly
Ile Ile, Met, Leu
Phe Phe
Tyr Tyr
Cys Cys, Ser
His His
Gln Gln
Asn Asn
Lys Lys
Asp Asp
Glu Glu
Met Met, Ile, Leu
Trp Met
【0032】
本発明に使用するMIFNAR2又はMIFNAR2 ECの類似体を得るためのアミノ酸置換タンパク質の生産例には米国特許第RE33,653号、4,959,314号、4,588,585号及び4,737,462号(いずれもMark et al)の各明細書; 5,116,943号(Koths et al)明細書; 4,965,195号(Namen et al)明細書; 及び5,017,691号(Lee et al)明細書に開示の周知の方法ステップ、ならびに米国特許第4,904,584号(Shaw et al)明細書に開示のリシン置換タンパク質などがある。
【0033】
用語「に本質的に相当する」は、基本となるMIFNAR2又はMIFNAR2 ECの配列に対し、その基本特性(たとえばIFNβに対する固有の結合及びアフィニティーの増進)に影響しないような小変化を加えた類似体の包含を目的とする。「に本質的に相当する」という用語で包含されると一般にみなされる変化は、本発明の複合体をコードするDNAの通常の突然変異誘発法に由来し、若干の小変異及び前述の要領による所望活性のスクリーニングをもたらすような変化である。
【0034】
好ましくは複合体のMIFNAR2部分はコア配列を有し、該配列は天然配列又はその生物活性断片のコア配列、又はその変異形であって、天然アミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有しその生物活性を保持するような配列である。そうした配列はより好ましくは天然配列と85%以上の同一性、90%以上の同一性を有すればより好ましく、95%以上の同一性を有すれば最も好ましい。
【0035】
複合体のIFN部分に関しては、使用してもよいコア配列は天然配列又はその生物活性断片、又はその変異形であって、天然配列と70%以上の、より好ましくは85%以上又は90%以上の、また最も好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をもつ。そうした類似体は天然IFN配列又はその断片の生物活性を保持し、あるいは後述の拮抗活性をもたなければならない。
【0036】
本明細書で使用する用語「配列同一性」との関連で、配列の比較は次の要領で行う。配列アラインメントはGenetic Computing GroupのGAP(Global alignment program) Version 9を使用し、デフォルト(BLOSUM62)マトリックス(値-4〜+11)を使用してギャップ開始(ギャップ中の最初の空白に関する)ペナルティを-12、ギャップ伸長(ギャップ中の追加の各連続空白に関する)ペナルティを-4として行う。アライメント後、一致数を請求項記載配列中のアミノ酸数のパーセンテージとして表わして、同一性を計算する。
【0037】
本発明に基づく類似体は次の方法に従って割り出してもよい。複合体のMIFNAR2部分又はIFN部分に関して、IFNAR及びIFN配列に対応するDNAは周知であり、また本明細書の「背景技術」の項で引用した文献に出でいるか又は当業者なら容易に突き止めることができる。天然DNA又はRNAの相補鎖と高位又は中位のストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするDNA又はRNAなどのような任意の核酸によりコードされるポリペプチドもまた、該ポリペプチドが天然配列の生物活性を維持する限り、あるいはIFNの場合にはMIFNAR2又はMIFNAR2 ECの生物活性を維持するか又は拮抗活性を有する限り、本発明の範囲に包摂されるものとする。「ストリンジェンシー条件」はハイブリダイゼーションと後続洗浄の条件であり、当業者は通常「ストリンジェンシー」という。前掲Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Interscience, N.Y., §§6.3 and 6.4 (1987, 1992); 及びSambrook et al., (Sambrook, J.C., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)を参照。
【0038】
ストリンジェンシー条件の非限定的な例は、問題のハイブリッドの計算Tmを12〜20℃下回るような洗浄条件で、たとえば2×SSC及び0.5% SDS中で5分間、2×SSC及び0.1% SDS中で15分間; 0.1×SSC及び0.5% SDS、@37℃で30〜60分間、次いで0.1×SSC及び0.5% SDS、@68℃で30〜60分間などである。当業者には自明であろうが、ストリンジェンシー条件はDNA配列、オリゴヌクレオチド・プローブ(10〜40塩基など)又は混合オリゴヌクレオチド・プローブの長さにも依存する。混合プローブを使用するのであれば、SSCの代りに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を使用するのが好ましい。前掲Ausubelを参照。
本明細書で使用する「機能性誘導体」は技術上周知の手段により残基の側鎖として生じる官能基又はN又はC末端基から調製される誘導体を網羅するし、また製薬上許容しうる状態に留まる限り(すなわち本明細書で開示する複合体の対応タンパク質の生物活性を破壊せず、また該タンパク質又は複合体を含む組成物に毒性を付与しない限り)本発明に包含される。誘導体は糖鎖残基又はリン酸基残基などの化学構造部分を、そうした部分が同じ生物活性を有し製薬上許容しうる状態に留まる限り、もってもよい。
【0039】
たとえば誘導体は、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は第1級又は第2級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル基(アルカノイル基又はカルボン酸アロイル基)と共に形成されるアミノ酸残基のN-アシル誘導体又は遊離アミノ基、又はアシル基と共に形成される(たとえばセリン残基又はトレオニン残基の)遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体を含んでもよい。そうした誘導体はまた、たとえば抗原性部位を覆い隠し複合体又はその部分の体液中滞留を延長するようなポリエチレングリコール側鎖を含んでもよい。
【0040】
用語「融合タンパク質」はMIFNAR2又はMIFNAR2 ECあるいはその類似体又は断片を含むポリペプチドを別のタンパク質と融合させて、体液中の滞留時間を長くしたものをいう。従ってMIFNAR2又はMIFNAR2 ECは別のタンパク質、ポリペプチドなど、たとえば免疫グロブリン又はその断片へと融合してもよい。
【0041】
本発明に従う「断片」はたとえばMIFNAR2又はMIFNAR2 ECの断片でよい。用語「断片」は該分子の任意の部分を、すなわち所望の生物活性を保持するような短縮ペプチドをいう。断片はMIFNAR2分子のいずれかの末端からアミノ酸を除去し、得られた断片についてIFNβへの結合特性を試験することにより、容易に調製することができる。ポリペプチドのN末端又はC末端から一度に1個のアミノ酸を除去するためのプロテアーゼは周知であり、従って所望の生物活性を保持する断片は型どおりの実験だけで割り出すことができる。
本発明はMIFNAR2の活性断片、その類似体及び融合タンパク質としてさらに、該タンパク質分子のポリペプチド鎖の任意の断片又は前駆体を単独で、又はそれと結び付いた会合分子又は残基たとえば糖鎖又はリン酸基残基、又はタンパク質分子又は糖鎖残基それ自体の集合体と共に、該断片が実質的に類似した活性を有する限りで、網羅する。
【0042】
本明細書で使用する用語「塩」は本発明の複合体又はその類似体のカルボキシル基の塩とアミノ基の酸付加塩の両方をいう。カルボキシル基の塩は技術上周知の手段によって合成することができ、例として無機塩たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、第二鉄又は亜鉛塩などや有機塩基との塩たとえばアミンとの塩(トリエタノールアミンなど)やアルギニン又はリシン、ピペリジン、プロカインなどとの塩がある。酸付加塩の例は鉱酸たとえば塩酸又は硫酸との塩、有機酸たとえば酢酸又はシュウ酸との塩である。もちろんその種の任意の塩は本発明の複合体又は類似体と実質的に類似した生物活性をもたなければならない。
【0043】
本明細書で使用する用語「生物活性」は次のように解釈する。MIFNAR2に関しては、重要な生物活性はより高いアフィニティーでIFNβに結合する能力である。従って、類似体又は変異体、塩及び機能性誘導体はこのインターフェロン結合能を維持するという見地から選択しなければならない。この結合能は通常の結合試験で検定することができる。さらに、MIFNAR2の断片又はその類似体もまた、増進インターフェロン結合能を保持する限り、使用することができる。断片はインターフェロン結合ポリペプチドのいずれかの末端からアミノ酸を除去し、得られた断片のインターフェロン結合特性を試験することにより、容易に調製することができる。
【0044】
そうしたインターフェロン結合活性をもつポリペプチドは、それがMIFNAR2、MIFNAR2 EC、類似体、機能性誘導体、断片のいずれであれ、インターフェロン結合ポリペプチドの周囲に追加アミノ酸残基をフランキング残基として含むことができる。その結果として得られる分子がコアポリペプチドの増進インターフェロン結合能を保持する限りで、そうしたフランキング残基がコアペプチドの基本及び新規特性すなわちインターフェロン結合特性に影響を及ぼすかどうかを型どおりの実験で判定することができる。用語「から本質的になる」はある指定配列に関する場合には、該指定配列の基本及び新規特性に影響を及ぼさないような追加のフランキング残基が存在しうることを意味する。この用語は指定配列内の置換、欠失又は追加を包含しない。
【0045】
この詳細な説明と実施例ではMIFNAR2又はMIFNAR2 ECを使用しているが、言うまでもなくこれは好ましい実施例であるにすぎず、IFNAR1の部分及び特にその細胞外ドメインをMIFNAR2又はMIFNAR2 ECと併用してもよい。
【0046】
本発明の複合体のインターフェロン部分に関しては、任意の類似体、機能性誘導体、融合タンパク質又は断片の中に維持しなければならない生物活性は目的とする効用の支えとなるインターフェロン活性である。ほとんどの場合、これは天然細胞表面受容体に結合し以って受容体によるシグナル産生を仲介する能力であろう。従って任意の類似体、誘導体又は断片はそうした効用の点で本発明に有用なそうした受容体作動活性を維持するはずである。他方、受容体上に天然インターフェロンの生物活性を妨げるような拮抗活性を有する分子が存在すると有益である場合もある。そうした拮抗薬はまた本発明の複合体による薬効の延長に使用することもできる。そうした効用のためには無用のインターフェロン効果を解消するのが望ましいが、受容体により、また複合体のIFNAR部分によりなお結合された状態にありながら該受容体上の天然インターフェロンによるシグナル及びブロックシグナルの生成を仲介しないような類似体(すなわちインターフェロン拮抗薬)もまた、本発明の目的のために生物活性を有しかつ本発明の複合体との関係で使用される場合には、インターフェロンに包摂されるものとする。そうした類似体が受容体作動活性又は受容体拮抗活性のいずれを有するか、従って本発明の効用の一つに役立つかどうかは、簡単な検定で判定することができる。
【0047】
本発明はまた、MIFNAR2 ECをコードするDNA配列、たとえばSEQ ID NOs: 2、3及び4のアミノ酸配列又はその類似体及びその断片をコードするDNA、並びに好適な原核又は真核宿主細胞中で発現させるためにそうしたDNA配列を収めたDNAベクターに関する。
組換えタンパク質発現系を使用して大量の異種タンパク質を生成させることが可能となったことから、種々の治療薬たとえばt-PAやEPOが開発されるに至った(Edington, 1995)。組換えタンパク質の生成源としうる種々の発現宿主は原核生物(細菌など)(Olins, 1993)や下等真核生物(酵母など)(Ratner, 1989)、高等真核生物(昆虫や哺乳類細胞など)(Reuveny, 1993; Reff, 1993)などである。これらの系はいずれも同じ原理、すなわち目的タンパク質のDNA配列を特定の細胞型に(組込みエレメント又はエピソーム・エレメントとして一過性的又は安定的に)導入し、宿主の転写・翻訳・輸送機構を使用して導入DNA配列を異種タンパク質として過剰発現させるという原理に依存する(Keown, 1990)。
【0048】
組換え異種タンパク質の産生については種々のプロトコールが開示されている(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publications and Wiley Interscience, New York, NY, 1987-1995; Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989)。
天然遺伝子配列の発現とは別に、ヌクレオチド・レベルでのDNA技術は、天然タンパク質を基礎としながらも一次タンパク質構造を変化させた結果として新規活性を有するようになった新規組換え配列の開発を促進してきた(Grazia, 1997)。
さらに、特定のDNA配列を物理的に結合させれば、新規融合タンパク質へと変わる転写産物を生成させて、かつての独立タンパク質を1つのポリペプチド単位として発現させるようにすることができる(Ibanez, 1991)。そうした融合タンパク質の活性は元の個別タンパク質のそれとは異なり、たとえば強まっている可能性がある(Curtis, 1991)。
【0049】
MIFNAR2 ECのIFNとの同時投与では、欧州特許第220574号明細書で開示されているようにチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)を使用する方法でヒトIFNβを産生させてもよい。I型インターフェロンを発現させることができる宿主細胞は多様であり、細菌(Utsumi, 1987)、昆虫(Smith,1983)、ヒト(Christofinis, 1981)などの細胞がある。CHO宿主細胞を使用してヒトMIFNAR2又はその断片を発現させてもよい。MIFNAR2 ECをCHO細胞から分泌させるには、特許出願WO 00/22146号明細書で開示されているように、MIFNAR2 EC DNA配列をヒト成長ホルモン・シグナルペプチド配列にライゲートさせてもよい。あるいは可溶型受容体たとえばMIFNAR2 ECなどを細菌発現系でうまく発現させてもよい(Terlizzese, 1996)。
【0050】
本発明はまた、活性成分としてのMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩と製薬上許容しうる担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物の一実施態様は増進IFN型作用のための医薬組成物であり、ウイルス疾患治療、抗がん療法、自己免疫疾患への免疫調節療法、及びこれらの疾患に関連する他のインターフェロン及びサイトカイン用途に使用される。
【0051】
本発明の医薬組成物は、MIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩を生理学的に許容しうる安定剤及び/又は賦形剤と混合して投与用に調製し、またたとえばバイアル中での凍結乾燥により剤形に調製する。投与方法は類似薬剤に関する任意の一般的な投与形態による方法でよいが、対象疾患に応じてたとえば静脈内、筋内及び皮下注射、局所注射又は局所適用、又は輸液による連続注入などとなろう。活性化合物の投与量は投与経路、対象疾患、及び患者の全身状態に依存しよう。
【0052】
本発明は多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、糖尿病、狼瘡及び潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の治療方法であって、治療有効量のMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩の投与を含む治療方法に関する。
【0053】
本発明は慢性肉芽腫症、尖圭コンジローム、若年型喉頭乳頭腫症、A型肝炎、又は慢性B型及びC型肝炎ウイルス感染症などのようなウイルス疾患の治療方法であって、治療有効量のMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩の投与を含む治療方法に関する。
本発明はヘアリーセル白血病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、非ホジキン・リンパ腫又はメラノーマなどのような種々のがんの治療方法であって、治療有効量のMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩の投与を含む治療方法に関する。
以上の方法では、MIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩を、IFN好ましくはIFNβと共に投与してもよい。
【0054】
「治療有効量」は、IFNβの生物活性を調節する結果となるようなMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩の投与量である。個人への単回又は頻回投与による投与量は、投与経路、患者の状態及び特性(性別、年齢、体重、全身状態、体格)、症状の度合い、併用療法、治療頻度、治療目標などを含む種々の要因に応じて変化しよう。既定投与量範囲の調節や操作は十分に当業者の能力の範囲内であり、MIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩の活性を決定するin vitro及びin vivoの方法も同様である。
【0055】
たとえば局所注射では静脈内注射に比して体重あたり所要タンパク質量が低くなろう。
遊離IFNβは低重合体化する傾向がある。この傾向を抑えるために今日のIFNβ製剤は酸性pHにしてあるが、それは投与時に若干の局所的な炎症を引き起こすおそれがある。MIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩は野生型に比してIFNβを安定化する働きが強く、従って低重合体化を防ぐことができるので、IFNβ製剤に使用すればIFNβを安定化し、もって酸性製剤を無用にすることができる。従ってMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩もまた他の製薬上許容しうる通常の賦形剤と共に本発明の一部である。
【0056】
本発明はまた、高ウイルス、抗がん及び免疫調節療法へのMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩の使用に関する。特に本発明の突然変異インターフェロン受容体及び突然変異インターフェロン受容体/インターフェロン複合体は慢性肉芽腫症、尖圭コンジローム、若年型喉頭乳頭腫症、A型肝炎、又は慢性B型及びC型肝炎ウイルス感染症などのような適応症の抗ウイルス療法に有効である。
【0057】
本発明の突然変異インターフェロン受容体及び突然変異インターフェロン受容体/インターフェロン複合体はまた、ヘアリーセル白血病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、非ホジキン・リンパ腫又はメラノーマなどのような適応症の抗がん療法にも有効である。
【0058】
本発明の突然変異インターフェロン受容体及び突然変異インターフェロン受容体/インターフェロン複合体はまた、多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、糖尿病、狼瘡及び潰瘍性大腸炎などのような自己免疫疾患の免疫調節療法にも有効である。
「自己免疫疾患」は人の免疫系が自己の体を攻撃し始める疾患である。そうした免疫系は自己の組織に対する抗体を作り出す。自己免疫疾患は体のほぼすべての部分を見舞う可能性がある。
本発明の突然変異インターフェロン受容体及び突然変異インターフェロン受容体/インターフェロン複合体はまた、神経変性疾患特に多発性硬化症の治療にも有効である。
本発明はさらに、MIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、機能性誘導体、断片又は混合物又は塩を含む医薬組成物に、またMIFNAR2、MIFNAR2 EC、MIFNAR2 EC/IFN複合体又は類似体、その融合タンパク質、断片を発現させる発現ベクター特にレンチウイルス遺伝子療法ベクターを含む医薬組成物に関する。
本明細書で使用する用語「治療」は疾患の任意の又はすべての症候又は原因の予防、阻害、緩和、改善又は逆転をいうものとする。
以上、本発明を詳しく説明したが、次に本発明の限定ではなく例示として掲げる以下の実施例への参照が本発明の理解を容易にしてくれるであろう。
【実施例】
【0059】
実施例1: タンパク質の発現と精製
Piehler & Schreiber, 1999Aで開示の要領によりIFNAR2-EC(細胞外ドメイン)とIFNαをE. coli中で発現させ、イオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーで精製した。IFNAR2-EC突然変異体の発現レベルは野生型並みであった。野生型のグリコシル化IFNβは欧州特許第220574号明細書で開示の用量によりCHO中で産生させた。タンパク質の濃度は280nmでの吸光度から求めた(Piehler & Schreiber, 1999A)が、その際IFNα2については1:280=18,070 M-1とし、IFNβについては1:280=30,050 M-1とし、またIFNAR2-ECについては1:280=26,500 M-1とした(IFNAR2-EC W102A及びW74Fのトリプトファン突然変異体については1:280= 21,100 M-1に補正)。タンパク質の純度はSDS-PAGEにより非還元条件下で分析した。
【0060】
実施例2: IFNAR2 EC突然変異体の生成
鋳型pT72CR2(Piehler & Schreiber, 1999)と突然変異コドンを含む18〜21ヌクレオチドプライマーによるPCR法で、Albeck & Schreiber, 1999で詳しく開示されている高忠実性ポリメラーゼpwo (Boehringer Mannheim)及びPfu (Stratagene)を使用して部位指定突然変異誘発法を実行した。リン酸化とライゲーションの後、突然変異プラスミドをE. coli TG1細胞に導入した。突然変異を含む発現遺伝子全体の配列をDNA塩基配列決定法で検証した(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publications and Wiley Interscience, New York, NY, 1987-1995; Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989)。
【0061】
生成した突然変異体は、ヒスチジン78 (H78)とアスパラギン100 (N100)の2アミノ酸残基が(a)共にアラニン残基へと変異したもの(H78A/N100A)、(b)それぞれアラニンとアスパラギン酸へと変異したもの(H78A/N100D)、及び(c)それぞれアラニンとヒスチジンへと変異したもの(H78A/N100H)である。
【0062】
実施例3: 熱力学的及び反応速度論的分析
熱力学的及び反応速度論的データはすべて無標識の不均質相検出法で得た。IFNβ2とIFNAR2-ECの間の相互作用はPiehler & Schreiber, 1999Aで開示の要領により、フロースルー条件下、反射率干渉分光法(RIfS)でモニターした。この技法はBiacoreに類似しており、2タンパク質間の結合アフィニティーを正確に測定するために使用する。IFNAR2-EC(野生型又は突然変異体)は(Piehler & Schreiber, 2001で開示の要領により)固定化特異抗体を介して固定化した。IFNβ、IFNα2及びIFNAR2-ECによる測定はすべて50mM Hepes + 500mM NaCl & 0.01% Triton X100 (pH 7.4)中で行った。相互作用を500mM NaClで測定したのは、IFNβの場合に150mM NaClで観測された表面との非特異的相互作用を除去するためであった。
会合及び解離の反応速度論的パラメーターを標準注入プロトコールにより測定し、ブランク試験により補正した。表面を飽和させるためにIFN濃度範囲を1〜1000 nMとして解離速度定数を測定した。全解離範囲を使用して1:1速度論モデルのあてはめを行った(Piehler & Schreiber, 2001)。
【0063】
実施例4: 抗ウイルス活性検定
IFNβの抗ウイルス活性をヒトWISH細胞に対する水泡性口内炎ウイルス(VSV)の細胞変性効果の阻害として検定した(Rubinstein et al, 1981)。
【0064】
実施例5: 突然変異IFNAR2に対するIFNの結合の測定
IFNβ及びIFNα2のH78A/N100A突然変異体(実施例2)に対する結合をRIfS(実施例3)で測定し、野生型受容体ECに対する結合と比較した。IFNβのH78A/N100A突然変異体に対する会合定数は野生型に対する場合とほぼ同じであると判明したが(図3)、解離定数は著しく小さいと判明した。IFNβのH78A/N100A突然変異体に対する計算アフィニティーは約30pMであるが、野生型に対するアフィニティーは約3nMである。IFNβとは対照的に、IFNα2のH78A/N100A突然変異体に対する会合速度、解離速度はどちらも野生型に対する場合とほぼ同じであると判明した(図3)。これらの結果は、野生型IFNAR2と比較した場合の突然変異体のアフィニティーが、IFNβに対しては約100倍も強く、またIFNα2に対しては差がないことを示す。
【0065】
実施例6: 突然変異IFNAR2に対するインターフェロンの相対アフィニティー
特異的抗体を介して野生型又は突然変異IFNAR2を表面に固定して(実施例3)、IFNAR EC及び突然変異受容体EC(実施例2)のIFNβ及びIFNα2に対する結合及びアフィニティーをRIfSにより測定した。アフィニティー測定後、突然変異受容体のKdを野生型受容体のKdと比較して相対アフィニティーを求めた(表4)。
インターフェロンのIFNAR2細胞外ドメイン(EC)に対する結合のKdはRIfSで測定すると約3nMであった(実施例5)。IFNβのH78A/N100A (EC)突然変異体に対する結合のKdは約30pMであった。この突然変異体に関するKdは、結合が強すぎてRIfSから良いデータを得ることができないため、正確な測定は不可能であった。IFNα2のH78A/N100A (EC)突然変異体に対する結合のKdは野生型受容体に対する値とほぼ同じであった。表4の結果は野生型IFNAR2 ECとの比較で見たIFNAR EC突然変異体の相対アフィニティーを示す。突然変異体は次のとおりである: 1アミノ酸残基が変異したもの(H78A又はN100A); 及び2アミノ酸残基が変異し、そのうちの一方のアミノ酸残基N100がアラニン、アスパラギン酸又はヒスチジンへとそれぞれ変異したもの(H78A/N100A、H78A/N100D及びH78A/N100H)(実施例2)。これらの結果から、IFNAR2の単一突然変異は複合体のアフィニティーを4.6倍〜7.3倍増大させるのに対して、二重突然変異は相乗効果により複合体のアフィニティーを26倍〜50超倍も増大させることがわかる。アフィニティーの点で最良の突然変異体はN100をアラニンに変異させた二重突然変異体であって、野生型に比して50倍を超えるアフィニティーの増大を示すと判明した。
【0066】
表4
IFNAR2 IFNα2 IFNβ
WT(野生型) 1.0 1.0
H78A 0.4 4.6
N100A 2.0 7.3
H78A/N100A 0.7 >50
H78A/N100D 1.0 40.0
H78A/N100H 0.9 26.0
【0067】
実施例7: IFNAR2突然変異体によるIFNβの閉じ込め
IFNAR2 ECの野生型と突然変異体についてIFNβ担体としての性能を比較した。その目的のために、変動濃度の組換え可溶型IFNAR2 EC又はIFNAR2 EC突然変異体(実施例6)と混合した定濃度(10pM) IFNβを含むサンプル中に残った(遊離)IFNβの抗ウイルス活性をモニターした。この抗ウイルス検定では、混合物(IFNAR2/IFN複合体)をWISH細胞(ヒト羊膜細胞)に加えた。次いでこれらのWISH細胞を水泡性口内炎ウイルス(VSV)に感染させ、IFNβの残留(遊離)抗ウイルス活性を感染24時間後の細胞生存率としたモニターした(実施例4)。種々の濃度の野生型又は突然変異IFNAR2 EC (R2)を含むサンプル中の遊離IFNβは、IFNAR2不存在下でのIFNβ濃度の関数としての抗ウイルス活性を示す生存用量曲線から求めた(図2の上のグラフ)。
【0068】
試験したIFNAR2 EC突然変異体は次のとおりである: 1アミノ酸残基が変異したもの(H78A又はN100A); 及び2アミノ酸残基が変異し、そのうちの一方のアミノ酸残基N100がアラニン、アスパラギン酸又はヒスチジンへとそれぞれ変異したもの(H78A/N100A、H78A/N100D及びH78A/N100H)(実施例2)。すべての突然変異体のうち最高のアフィニティーを示したのは二重突然変異体のIFNAR2 H78A/N1200A(実施例2)であった(Kdが約30pM以下。実施例5及び6を参照)。
【0069】
図4が示すように、2.5nMの野生型IFNAR2 ECの存在下では約20%のIFNβが可溶型受容体に結合する(閉じ込められる)のに対して、わずか0.2nMの二重突然変異EC H78A/N100Aの存在下で50%のIFNβが結合し、またわずか0.4nMのH78A/N100Aが存在すると80%のIFNβが結合する。この生物検定ではまた、同程度のIFNβの閉じ込め(平衡状態でのIFNβの結合)及び残留抗ウイルス活性(遊離IFNβ)を野生型IFNAR2で実現するには、約30分の1の低濃度の突然変異IFNAR2 EC H78A/N100Aで済むことも判明した。また二重突然変異体特に両アミノ酸残基がアラニンに変異したH78A/N100A IFNAR2が最高の結果を残すことも判明した。
【0070】
以上の結果は、この二重突然変異体IFNAR2がIFNβをより効果的に閉じ込めること、従って担体活性を発揮するにはずっと低用量の投与で済むことを示す。
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸残基のヒスチジン78位とアスパラギン100位に突然変異を起こして野生型ポリペプチドに比してインターフェロン-ベータ(IFNβ)に対するアフィニティーを高めたIFNAR2突然変異ポリペプチド(MIFNAR2)、又はその類似体、機能性誘導体、融合タンパク質又は塩。
【請求項2】
突然変異が置換である請求項1に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項3】
置換が非同類置換である請求項2に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項4】
ヒスチジン残基78がアラニンにより置換される請求項1〜3のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項5】
アスパラギン残基100がアラニン、アスパラギン酸又はヒスチジンにより置換される請求項1〜4のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項6】
残基78及び100の両方がアラニンにより置換される請求項4又は5に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項7】
SEQ ID NO: 2の配列を含む請求項1に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項8】
SEQ ID NO: 3の配列を含む請求項1に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項9】
SEQ ID NO: 4の配列を含む請求項1に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項10】
IFNβに対するアフィニティーが30pMである請求項1〜9のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項11】
野生型IFNAR2に比してIFNβに対するアフィニティーが約25倍、好ましくは最高50倍、より好ましくは最高100倍高い、請求項1〜9のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項12】
断片が細胞外ドメイン(MIFNAR2 EC)を含む、請求項1〜9のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項13】
IFNに共有結合している請求項1〜12のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項14】
IFNがIFNβである請求項13に記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項15】
IFNAR突然変異体がPEG化している請求項1〜14のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチド。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項17】
シグナルペプチド配列に融合させた請求項16に記載のDNA。
【請求項18】
シグナルペプチド配列がヒト成長ホルモンのそれである請求項17に記載のDNA。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれかに記載のDNAを含み、該DNAによってコードされるポリペプチドを原核宿主細胞中で発現させることができるベクター。
【請求項20】
請求項16〜18のいずれかに記載のDNAを含み、該DNAによってコードされるポリペプチドを真核宿主細胞中で発現させることができるベクター。
【請求項21】
請求項19に記載のベクターを含む原核宿主細胞。
【請求項22】
請求項20に記載のベクターを含む真核細胞。
【請求項23】
請求項1〜14のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドを生産する方法であって、請求項21に記載の細胞を培養するステップと産生されたIFNAR突然変異ポリペプチドを精製するステップとを含む方法。
【請求項24】
請求項1〜14のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドを生産する方法であって、請求項22に記載の細胞を培養するステップと産生されたIFNAR突然変異ポリペプチドを精製するステップとを含む方法。
【請求項25】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異体の、薬剤の製造への使用。
【請求項26】
薬剤がIFNをさらに含むことを特徴とする請求項25に記載の使用。
【請求項27】
IFNがIFNβである請求項26に記載の使用。
【請求項28】
薬剤がIFN拮抗薬をさらに含むことを特徴とする請求項25に記載の使用。
【請求項29】
IFNの効果を調節するための請求項25〜28のいずれかに記載の使用。
【請求項30】
IFNの活性を増進するための請求項29に記載の使用。
【請求項31】
IFNの抗がん活性を増進するための請求項30に記載の使用。
【請求項32】
IFNの免疫調節活性を増進するための請求項30に記載の使用。
【請求項33】
多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、糖尿病、狼瘡及び潰瘍性大腸炎から選択される自己免疫疾患でIFNの免疫調節活性を増進するための請求項30に記載の使用。
【請求項34】
IFNの活性を阻害するための請求項28又は29に記載の使用。
【請求項35】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異体を治療有効量含む医薬組成物。
【請求項36】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異体を治療有効量発現させる遺伝子療法用発現ベクターを含む医薬組成物。
【請求項37】
IFNをさらに含む請求項35又は36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
IFNがIFNβである請求項37に記載の医薬組成物。
【請求項39】
IFN拮抗薬をさらに含む請求項35又は36に記載の医薬組成物。
【請求項40】
IFNAR2突然変異体とIFNβが共有結合される請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項41】
IFNAR2突然変異体の断片が細胞外ドメインを含む請求項35及び40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
IFNの抗ウイルス活性を増進するための請求項35〜41のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項43】
慢性肉芽腫症、尖圭コンジローム、若年型喉頭乳頭腫症、A型肝炎、又は慢性B型及びC型肝炎ウイルス感染症を治療するための請求項42に記載の医薬組成物。
【請求項44】
IFNの抗がん活性を増進するための請求項35〜41のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項45】
ヘアリーセル白血病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、非ホジキン・リンパ腫又はメラノーマを治療するための請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
IFNの免疫調節活性を増進するための請求項35〜41のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項47】
多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、糖尿病、潰瘍性大腸炎及び狼瘡より選択される疾患を治療するための請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
IFNの免疫調節活性を阻害するための請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項49】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドの治療有効量の投与を含む自己免疫疾患の治療方法。
【請求項50】
自己免疫疾患が多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、糖尿病、潰瘍性大腸炎及び狼瘡より選択される請求項49に記載の方法。
【請求項51】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドの治療有効量の投与を含むウイルス疾患の治療方法。
【請求項52】
慢性肉芽腫症、尖圭コンジローム、若年型喉頭乳頭腫症、A型肝炎、又は慢性B型及びC型肝炎ウイルス感染症を治療するための請求項51に記載の治療方法。
【請求項53】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドの治療有効量の投与を含むがん治療方法。
【請求項54】
ヘアリーセル白血病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、非ホジキン・リンパ腫又はメラノーマを治療するための請求項53に記載の方法。
【請求項55】
治療有効量のIFNβをさらに含む請求項49〜54のいずれかに記載の治療方法。
【請求項56】
請求項1〜15のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドの投与によりIFNの免疫調節活性を阻害するステップを含む、IFNβを発症又は悪化因子とする疾患の治療方法。
【請求項57】
IFNβ拮抗薬の投与をさらに含む請求項56に記載の治療方法。
【請求項58】
IFNの低重合体化を防止するための製剤への、請求項1〜14のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドの使用。
【請求項59】
IFNβの低重合体化を防止するため請求項58に記載の使用。
【請求項60】
請求項1〜14のいずれかに記載のIFNAR2突然変異ポリペプチドを含むIFN製剤。
【請求項61】
IFNβを含む請求項60に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−165483(P2009−165483A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63653(P2009−63653)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【分割の表示】特願2003−560052(P2003−560052)の分割
【原出願日】平成14年12月31日(2002.12.31)
【出願人】(504252525)エダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミティド (2)
【Fターム(参考)】