説明

IHクッキングヒータ用の焼き物調理器具

【課題】 油煙や臭気を発生させないIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具を提供する。
【解決手段】 調理中に加熱容器本体61を覆う蓋体62に排気口H1を形成し、排気口H1にヒータ2付きの後燃焼触媒部材3を設置する。加熱容器本体61または蓋体62には、IHクッキングヒータ100に組み込まれている誘導コイル10との間の相互誘導作用によって起電力を発生する受電コイル1を添設し、この受電コイル1からヒータ2に給電する。後燃焼触媒部材3には、通気性の構造を採用し、排気口H1を通気可能に塞ぐ態様で取り付け、加熱容器本体61から排出される油煙等の全量が必ず後燃焼触媒部材3を通過するようにする。油煙等は、後燃焼触媒部材3を通過する際に完全燃焼することによって無煙無臭化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無煙無臭化のための技術手段を付加したIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に関する意識の高まりに伴い、近年、誘導コイルによる電磁誘導作用によって加熱容器本体の底面に直接ジュール熱を発生させるようにした、いわゆる、IHクッキングヒータを備えるIHクッキングシステムが急速に普及している。
【0003】
IHクッキングヒータは、熱効率が高いことにより環境問題に寄与することができるばかりでなく、炎を発生させないことにより防火対策としても有効である。しかし、専用の200ボルト屋内配線を必要とすることを含めてシステム価格が高価であること、および、輻射熱を利用することなく加熱容器本体の底面に熱を発生させるという加熱メカニズムにより、焼き魚等の焼き物調理を不得手とするという問題がある。この問題に対応するため、IHクッキングシステムには、IHクッキングヒータの他に、熱源としてラジエントヒータを組み込んだ魚焼きグリルを併設している製品が多い。
【0004】
IHクッキングシステムにおける専用屋内回線の必要性や価格面における問題については、より普及度が高まることによって、住宅設計段階での必須設備とされる等の配慮により徐々に改善されると考えられるが、IHクッキングシステムが、発熱原理が異なる2系統の熱源を必要とすることは、IHクッキングヒータの有利性を大きく減殺する結果になっている。
【0005】
デメリットの具体的な例としては、IHクッキングヒータは熱効率が良いという有利性を有するのであるが、焼き物調理の頻度が高い家庭においては、ラジエントヒータが多用される結果となり、IHクッキングシステム全体としての熱効率が低下するという問題を指摘することができる。また、IHクッキングヒータ自体は、高さ寸法を抑えたスリムで近代的なデザインを可能とするものであるが、魚焼きグリルを必要とするために高さ寸法を削減することができないことにより、IHクッキングシステム全体としては、旧来からのガスレンジと大差がない、いわゆる、垢抜けしないデザインを余儀なくされている。
【0006】
メーカサイドとしては、価格を抑える観点からもデザイン限界を排除する観点からも、IHクッキングシステムから魚焼きグリルを省略したいと切望しているのであるが、単に、魚焼きグリルを排除するのみでは、言うまでもなく需要者の要望に応えることができない。
【0007】
上記問題は、IHクッキングヒータ上で他のエネルギー源を必要とすることなく使用することができる適切な焼き物調理器具が提供されれば簡単に解決することができる問題である。このことに着目した提案としては、次のような高周波誘導加熱調理器具の例がある(下記、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2909979号公報
【0009】
上記特許文献1に記載の高周波誘導加熱調理器具の概要は、次のようなものである。この調理器具は、従来のIH用調理器具では実現することができなかった上下両面加熱を実現することを目的としている。
【0010】
上記調理器具は、上記目的を達成するため、調理材料を収納する調理容器の他に、内部にIHクッキングヒータの誘導加熱コイルの電磁誘導を受ける受電コイルと、受電コイルに生じる電力によって駆動する加熱部を設けた特殊な蓋を備えている。蓋に設置された加熱部は、調理容器に蓋をした際に調理容器の上面全体を覆うように位置する。すなわち、IHクッキングヒータによって調理容器を誘導加熱して調理材料を下方から加熱するとともに、蓋に設置した加熱部によって調理材料を上方から加熱する仕組みである。
【0011】
上記調理器具において最も特徴的な点は、蓋に設置された加熱部に対する給電方式である。ここで、蓋の加熱部は、誘導加熱方式ではなく輻射熱によって調理材料を加熱調理するラジエントヒータであることから、通常の家庭用100ボルト電源を利用しても駆動することができるのであるが、上記調理器具においては、IHクッキングヒータ用の誘導加熱コイル、または、これに並設する給電コイルの電磁誘導を受ける蓋内の受電コイルを電源として利用しているのである。これによって、蓋に対する電源供給配線を省略することができ、実用性の向上に大きく寄与することとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1に記載の調理器具は、蓋内に設置された加熱部に対する給電方式に優れた技術視点を示すものの、焼き物調理の特質に基づく大きな問題点を内包している。
【0013】
例えば、焼き物調理と煮物調理との基本的な相違点は、調理済み材料における水分量の多寡と、こげ味の有無である。すなわち、焼き物調理は、調理材料に含まれる水分を飛ばし、さらにこげ味を付与することによって煮物とは異なる香ばしい特有の風味を実現することができるのである。したがって、焼き物調理に際しては、調理材料から発生する水分と油煙と臭気をどのように処理するかが問題となる。
【0014】
この問題に対して上記提案にかかる調理器具は、何ら関心がなく、単に、蓋によって調理容器を遮蔽したまま調理をするもののようである。このことは、蓋を取り外せば、蓋内に設置した加熱部を利用することができなくなることからも窺い知ることができる。しかし、調理材料から発生する油煙を蓋内に閉じ込めた状態で調理を実施した場合には、蓋の内側面に油煙汚れが付着し、加熱部には、油煙性カーボンが付着し、さらに、調理材料自体も煤汚れによって黒っぽく変色してしまうことは経験則上明らかであり、この問題をどのように処理するのかは不明である。
【0015】
本発明は、IHクッキングヒータの誘導コイルから発生するエネルギー以外のエネルギー源を使用することなく、焼き物調理特有の油煙および臭気の問題を解決することを基本的な課題とし、また、発明の態様により、調理材料に対する上下両面焼を実現しながら、この課題を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明は、次のような構成を採用する。
【0017】
(解決手段1)
本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、高周波交流を通電して駆動する誘導コイルによる電磁誘導作用によって発熱する加熱容器本体と、調理中に該加熱容器本体を覆い蓋または落し蓋の態様で覆う蓋体とからなるIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具において、蓋体に排気口を形成し、この排気口を通気可能に遮断する姿勢で後燃焼触媒部材を設置し、この後燃焼触媒部材に触媒活性を持続化するヒータを付設するとともに、加熱容器本体と蓋体とのいずれか一方に、誘導コイルとの間の相互誘導作用によって起電力を生じる受電コイルを添設し、受電コイルによって生じる電力をヒータに給電することを特徴とする。
【0018】
上記解決手段1は、調理材料から発生する油煙や臭気物質の排出経路と、油煙等が排出されるに至るまでに受けるべき処理の構成を示している。
【0019】
上記焼き物調理器具においては、加熱容器本体に蓋体を取り付けた状態で調理が実施される。そのための蓋体である。調理材料は、加熱容器本体内がIHクッキングヒータによって誘導加熱されることによって調理される。蓋体には排気口が設けられており、この部分において外気に通じている。調理材料から発生した油煙等は、同時に調理材料から発生する蒸気によって追い出されるようにして排気口に向かって流れる。
【0020】
排気口には、排気口を通気可能に塞ぐ姿勢で後燃焼触媒部材が設置されている。したがって、排気口から外気へと流れる油煙等の全量は、必然的に後燃焼触媒部材を通過することとなる。
【0021】
後燃焼触媒部材には、ヒータが付設され、このヒータは、加熱容器本体または蓋体に添設され、IHクッキングヒータの誘導コイルとの間の相互誘導作用によって起電力を発生する受電コイルを電源として駆動される。このヒータは、後燃焼触媒部材の活性を高めるとともに、活性を持続化させる役割を負担している。この結果、加熱容器本体内で発生した油煙等は、IHクッキングヒータの誘導コイル以外の電源を使用することなく、排気口を通過する際に後燃焼触媒部材によって完全燃焼され、無煙無臭化される。
【0022】
(解決手段2)
本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、解決手段1に記載の発明を基本発明として、蓋体の排気口が蓋体の略中央位置に形成され、後燃焼触媒部材が排気口を通気可能に遮断する姿勢で蓋体の裏面側に配置され、ヒータは、後燃焼触媒部材の下位置に加熱容器本体の底面に対面する姿勢で配置されていることを特徴とする。
【0023】
上記解決手段2は、調理材料を上下両面から加熱可能とするための構成を示している。この際、調理材料を裏面から加熱するのは、IHクッキングヒータの役割であり、調理材料を上面から加熱するのはヒータの役割である。このため、ヒータは、後燃焼触媒部材の下位置に加熱容器本体の底面に対面する姿勢で配置され、後燃焼触媒部材の活性を持続化する機能と調理材料を天火加熱する機能との両機能を兼ねているのである。
【0024】
(解決手段3)
本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、解決手段2に記載の発明を基本発明として、後燃焼触媒部材とヒータとの間に、後燃焼触媒部材に対応する部分に透孔を形成した熱反射板を介装することを特徴とする。
【0025】
上記解決手段3は、蓋体自体がヒータによって危険な温度に昇温するのを抑制しながら、ヒータが調理材料に対する天火機能と、後燃焼触媒部材に対する活性維持機能とを発揮することができるようにするための構成を示している。
【0026】
後燃焼触媒部材とヒータとの間、つまり、ヒータの上位置に介装された熱反射板は、蓋体の表面側に向かう熱を反射して加熱容器本体の底面に向かわせることができる。この結果、ヒータの天火機能は大いに増強され、蓋体の昇温が抑制される。ただし、ヒータは、後燃焼触媒部材に対応して設けられた透孔を介して後燃焼触媒部材を加熱し、その活性を維持することができる。
【0027】
(解決手段4)
本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、解決手段1ないし解決手段3のいずれかに記載の発明を基本発明として、蓋体は、外周エッジが加熱容器本体の外側に下垂する覆い蓋であって、受電コイルが蓋体の外周エッジに添設されていることを特徴とする。
【0028】
上記解決手段4は、ヒータの電源としての役割を負担する受電コイルの有利な配置箇所を示している。一般的なIHクッキングヒータに組み込まれている誘導コイルは、非常に高出力なものであって、誘導コイルからの鎖交磁束が及ぶ範囲は広い。したがって、受電コイルは、IHクッキングシステムのトッププレート上であれば、一応の起電力を発揮することができる。しかし、受電コイルの設置箇所によって受電効率は異なる。受電コイルの最適設置箇所は、一般的に誘導コイルに近く、誘導コイルと上下に重なることとなる位置である。しかし、この位置には、加熱容器本体をおく必要があることから、使用することができない。次善の設置箇所は、最適位置に最も近い位置であるところの、加熱容器本体の底面の周囲である。
【0029】
そこで、蓋体をその外周エッジが加熱容器本体の外側に下垂する覆い蓋とし、受電コイルを蓋体の外周エッジに添設することによって、受電コイルを理想的な位置に近い位置に配置することができるのである。
【0030】
(解決手段5)
本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、解決手段1ないし解決手段3のいずれかに記載の発明を基本発明として、その加熱容器本体が底面に発熱板を張り合わせた非磁性金属製であって、また、蓋体は、外周エッジの外形寸法が加熱容器本体の発熱板を超えるサイズの落し蓋であって、受電コイルが蓋体の外周エッジに添設されていることを特徴とする。
【0031】
上記解決手段5は、使用する加熱容器本体の態様によって、落し蓋とした蓋体に受電コイルを設置することができる場合の有利な構成を示している。
【0032】
IHクッキングヒータ対応として、銅製またはアリミニウム合金製の加熱容器本体の底面に適当な電気抵抗を有する鉄系の発熱板を張り合わせた形態の加熱容器本体が広く普及している。銅やアルミ系の金属は、磁気を透過するがIHクッキングヒータによっては十分な発熱が得られないことが多い。一方、鉄系の金属は、発熱は得られるものの磁気を遮断してしまう。また、受電コイルは、IHクッキングヒータの誘導コイルからの磁気を受けることができる箇所に設置する必要がある。そこで、落し蓋であっても、その外周エッジの外形が磁気を遮断する加熱容器本体の発熱板を超えるサイズのものにおいては、受電コイルを蓋体の外周エッジに添設して有効に起電力を発揮することができるのである。
【0033】
(解決手段6)
本発明の本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、高周波交流を通電して駆動する誘導コイルによる電磁誘導作用によって発熱する加熱容器本体と、調理中に加熱容器本体を覆い蓋または落し蓋の態様で覆う蓋体とからなるIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具において、加熱容器本体に排気口を形成し、排気口を通気可能に遮断する姿勢で後燃焼触媒部材を設置し、後燃焼触媒部材に触媒活性を持続化するヒータを付設するとともに、加熱容器本体に誘導コイルとの間の相互誘導作用によって起電力を生じる受電コイルを添設し、受電コイルによって生じる電力を前記ヒータに給電することを特徴とする。
【0034】
上記解決手段6は、調理材料から発生する油煙等を排出するための排気口を蓋体にではなく、加熱容器本体に設ける場合の構成を示している。前記解決手段1との相違点は、実質的に排気口の位置のみである。前述したように、焼き物調理においては、調理材料から油煙等とともに蒸気が発生し、この蒸気が油煙等を強制的に押出すように機能するため、排気口の位置を蓋体に限定する必要がないのである。なお、加熱容器本体に排気口を設ける場合は、受電コイルについても加熱容器本体に設けることが有利である。
【0035】
(解決手段7)
本発明の本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、解決手段6に記載の発明を基本発明として、加熱容器本体は、底面に発熱板を張り合わせた非磁性金属製であって、受電コイルが熱容器本体の非磁性金属部分に添設されていることを特徴とする。
【0036】
上記解決手段7は、受電コイルを加熱容器本体に添設する場合の有利な取付け箇所を示している。その趣旨は、解決手段5に関して説明したと同様である。
【0037】
(解決手段8)
本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具は、解決手段1ないし解決手段7のいずれかに記載の発明を基本発明として、その後燃焼触媒部材が、セル孔を介して通気可能なハニカム構成のセラミックス基体に酸化促進性の触媒剤を担持させてなる通気性の後燃焼触媒部材であることを特徴とする。
【0038】
上記解決手段8は、後燃焼触媒部材の具体的な構成を示している。本発明の焼き物調理器具に使用される後燃焼触媒部材としては、油煙等を通過させる必要があることから、通気性の構造であることが必要条件となる。通気性の構造としては、例えば、メッシュ構造等のようなものが一般的であるが、メッシュ構造等においては、通過する油煙等に触媒として作用する時間および作用面積を調節することが困難である。そこで、本発明では、ハニカム構成のセラミックス基体に酸化促進性の触媒剤を担持させてなる後燃焼触媒部材を用いているのである。ハニカム構成は、厚みを調節することによって油煙等の通過時間および作用面積を簡単に調節することができるので、取付け位置等が異なるごとに能力を最適化することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、IHクッキングヒータの誘導コイルによる電磁誘導作用によって発熱する加熱容器本体と、調理材料から発生する油煙等を排出する排気口を設けた蓋体とを備え、蓋体の排気口に後燃焼触媒部材と触媒活性を持続化するヒータを付設するとともに、加熱容器本体と蓋体とのいずれか一方に、IHクッキングヒータの誘導コイルとの間の相互誘導作用によって起電力を生じる受電コイルを添設し、受電コイルによって生じる電力をヒータに給電するように構成したことにより、焼き物調理材料から発生する油煙や臭気物質を後燃焼触媒部材によって完全燃焼させることができるので、IHクッキングヒータのみによって焼き物調理と、焼き物調理材料から発生する油煙等の後処理とを同時に実施できる極めて便利なIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具を提供することができる。なお、本発明は、このことによってIHクッキングシステムから魚焼きグリルを省略することが事実上可能になるという間接的な効果において格別の意義を有するものである。
【0040】
さらに、本発明は、ヒータを後燃焼触媒部材と加熱容器本体の底面との間に配置し、ヒータに後燃焼触媒部材の活性持続化機能と調理材料に対する天火機能とを兼ねさせることにより、上記無煙無臭化効果を減殺することなくIHクッキングヒータ用の調理器具では従来不可能であった上下両面焼を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の焼き物調理器具の実施の形態を示す断面図である。
【図2】上記実施の形態における焼き物調理器具の主要部材を示す斜視図である。
【図3】本発明の焼き物調理器具の他の実施の形態を示す断面図である。
【図4】本発明の焼き物調理器具のさらに他の実施の形態を示す断面図である。
【図5】本発明の焼き物調理器具のさらに他の実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を引用しながら本発明のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具の実施の形態を説明する。
【0043】
(実施の形態1)
焼き物調理器具60は、IHクッキングヒータ100に適合する金属製の、つまり、IHクッキングヒーター100の誘導コイル10による電磁誘導作用によって発熱する金属製の加熱容器本体61と、本発明に特有の部材を組み込んだ蓋体62とからなる(図1)。
【0044】
加熱容器本体61は、側面6Aに持ち手6Cを取り付けた一般的なフライパンと同等の外観および作りであり、焼き物料理用の調理材料Mを収容して使用する。
【0045】
一方、蓋体62は、加熱容器本体61より一回り大寸の外形に設定され、加熱容器本体61に蓋体62を取り付けた状態において、蓋体62の外周エッジ6Eは加熱容器本体61の外側に深く下垂する組み合わせとなる。つまり、蓋体62は、加熱容器本体61の全体を覆う形態の、いわゆる覆い蓋である。蓋体62は、独立の持ち手6Dを備え、側面一部に設けた抜き孔6Hに加熱容器本体61の持ち手6Cを通した態様で使用することができる。
【0046】
蓋体62の外周エッジ6Eには、IHクッキングヒータ100の誘導コイル10との間の相互誘導作用によって起電力を生じる受電コイル1が添設されている。この受電コイル1は、耐熱性の樹脂によってモールドされ、蓋体62の外周エッジ6E上に嵌め込むようにして取り付けられている。蓋体62の外周エッジ6Eが下垂している趣旨は、受電コイル1をできるだけIHクッキングヒータ100のトッププレートP、ひいては誘導コイル10に接近させることである。
【0047】
蓋体62の中央部は中高に形成され、最も中高の部分に大口径の排気口H1が形成されている。排気口H1は浅い円形ダクト状に形成され、その内部に略同一口径のディスク型の後燃焼触媒部材3が嵌め込まれている(図1、図2)。後燃焼触媒部材3は、多数のセル孔3H・・・を形成したハニカム構成のセラミックス基体に酸化促進性の触媒剤を担持させたものであり、高度の通気性を有する。使用される好適な触媒剤は、例えば、白金パラジウムである。
【0048】
蓋体62の裏面側、つまり、内側面には、熱反射板4が取り付けられている。熱反射板4は、逆さ皿状に形成され、蓋体62との間に一定の間隔を保って蓋体62に沿う姿勢で取り付けられている。熱反射板4の後燃焼触媒部材3の直下位置には、後燃焼触媒部材3の口径相当の透孔H2が形成されている。
【0049】
蓋体62には、熱反射板4の下側にヒータ2が取り付けられている。ヒータ2には、一平面に属するように屈曲形成したシーズヒータが用いられ、ヒータ2には、蓋体62の外周エッジ6Eに取り付けた受電コイル1が接続されている。
【0050】
受電コイル1は、IHクッキングヒータ100が使用される際に高周波交流によって駆動される誘導コイル10が発生する磁界Gを共有することによって起電力を発揮する事ができる(図2)。つまり、トランスと同じ原理である。したがって、ヒータ2は、外部電源配線を要することなく、受電コイル1を電源として駆動される。なお、受電コイル1の巻き線数は、誘導コイル10との相対位置関係とヒータ2の容量とを勘案して実験的に求めることができる。
【0051】
ヒータ2は、調理材料Mを天火加熱するとともに、調理材料Mから発生した油煙や臭気物質を一次燃焼し、さらに熱反射板4の透孔H2を介して後燃焼触媒部材3を加熱活性化して、調理材料Mから発生する蒸気によって排気口H1から外部に押し出されるように排出される油煙等を二次燃焼させ、無煙無臭化する事ができる。なお、熱反射板4は、ヒータ2の効率を高めるとともに、蓋体62が危険な温度に温度上昇するのを防止する。
【0052】
(実施の形態2)
本発明の焼き物調理器具60における加熱容器本体61には、底面6BにIHクッキングヒータ100に反応する加熱板6Fを張り合わせた銅製、アルミニウム製の物を用いることができる(図3)。図示の加熱容器本体61は、1対の持ち手6C,6Cを備える両手鍋デザインである。
【0053】
また、蓋体62は、加熱容器本体61の内側に入り込む落し蓋形式とし、受電コイル1は、蓋体62の外周エッジ6Eの表側または裏面側に取り付けることができる。なお、この形態の場合には、蓋体6Fを上回る寸法設定とすることが好ましい。加熱板6F以外の部分は、磁気を遮断しないので、受電コイル1は、有効に機能することができるからである。
【0054】
ヒータ2については、後燃焼触媒部材3の加熱専用の小型のものとすることができる。この場合には、熱反射4は不要である。これによって、後燃焼触媒部材3による油煙等の処理機能を低下させることなく焼き物調理器具60の全体構成を簡略化することができる。
【0055】
(実施の形態3)
後燃焼触媒部材3用のヒータ2は、蓋体62に取り付けられているのであるが、受電コイル1は、必ずしも蓋体62側に取り付けることを要しない。具体的には、例えば、加熱容器本体61の底面6Bに張り合わせた加熱板6Fの周囲に配置することができる(図4)。
【0056】
加熱板6Fの周囲は、IHクッキングヒータ100の誘導コイル10に近接し、しかも、誘導コイル10からの時速が加熱板6Fによって遮断されないので、この部分に設置された受電コイル1は、きわめて効率よく機能することができる。ただし、この形態においては、加熱容器本体61側から蓋体62側に電気接続をする必要がある。そこで、両者間には、蓋体62の着脱によってON−OFFすることができるコネクタ5が取り付けられている。
【0057】
(実施の形態4)
焼き物調理器具60における排気口H1は、加熱容器本体61に設けることができる(図5)。この場合、蓋体62には排気口H1は不要であるから、中央位置に持ち手6Dを備える一般的な蓋体62を用いることができる。
【0058】
加熱容器本体61の側面6Aには、短いダクト6Pが取り付けられ、このダクト6Pの開口部が排気口H1になる。ダクト6P内には、後燃焼触媒部材3と専用のひーた2が内蔵されている。ヒータ2には、加熱容器本体61の底面6Bに配置した受電コイル1から給電される。
【0059】
調理材料Mから発生する油煙等は、蓋体62を使用しない場合は、加熱容器本体61の上方に拡散するのであるが、蓋体62を使用して調理する限りでは、発生した油煙等は、調理材料Mから発生する蒸気圧によって排気口H1から強制的に排出される。したがって、必然的に後燃焼触媒部材3を通過することとなる。なお、この形態においては、必要に応じて排気口H1を加熱容器本体61の2箇所以上に設けることもできる。
【符号の説明】
【0060】
100 IHクッキングヒータ
10 誘導コイル
1 受電コイル
2 ヒータ
3 後燃焼触媒部材
4 熱反射板
60 焼き物調理器具
61 加熱容器本体
6B 底面
6E 外周エッジ
6F 発熱板
62 蓋体
H1 排気口
H2 透孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波交流を通電して駆動する誘導コイルによる電磁誘導作用によって発熱する加熱容器本体と、調理中に該加熱容器本体を覆い蓋または落し蓋の態様で覆う蓋体とからなるIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具において、
前記蓋体に排気口を形成し、該排気口を通気可能に遮断する姿勢で後燃焼触媒部材を設置し、該後燃焼触媒部材に触媒活性を持続化するヒータを付設するとともに、前記加熱容器本体と蓋体とのいずれか一方に、前記誘導コイルとの間の相互誘導作用によって起電力を生じる受電コイルを添設し、該受電コイルによって生じる電力を前記ヒータに給電することを特徴とするIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項2】
前記排気口が前記蓋体の略中央位置に形成され、前記後燃焼触媒部材が該排気口を通気可能に遮断する姿勢で前記蓋体の裏面側に配置され、前記ヒータは、該後燃焼触媒部材の下位置に前記加熱容器本体の底面に対面する姿勢で配置されていることを特徴とする請求項1に記載のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項3】
前記後燃焼触媒部材と前記ヒータとの間に、前記後燃焼触媒部材に対応する部分に透孔を形成した熱反射板を介装することを特徴とする請求項2に記載のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項4】
前記蓋体は、外周エッジが前記加熱容器本体の外側に下垂する覆い蓋であって、前記受電コイルが前記蓋体の外周エッジに添設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項5】
前記加熱容器本体は、底面に発熱板を張り合わせた非磁性金属製であって、前記蓋体は、外周エッジの外形寸法が前記加熱容器本体の発熱板を超えるサイズの落し蓋であって、前記受電コイルが前記蓋体の外周エッジに添設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項6】
高周波交流を通電して駆動する誘導コイルによる電磁誘導作用によって発熱する加熱容器本体と、調理中に該加熱容器本体を覆い蓋または落し蓋の態様で覆う蓋体とからなるIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具において、
前記加熱容器本体に排気口を形成し、該排気口を通気可能に遮断する姿勢で後燃焼触媒部材を設置し、該後燃焼触媒部材に触媒活性を持続化するヒータを付設するとともに、前記加熱容器本体に前記誘導コイルとの間の相互誘導作用によって起電力を生じる受電コイルを添設し、該受電コイルによって生じる電力を前記ヒータに給電することを特徴とするIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項7】
前記加熱容器本体は、底面に発熱板を張り合わせた非磁性金属製であって、前記受電コイルは、前記加熱容器本体の非磁性金属部分に添設されていることを特徴とする請求項6に記載のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。
【請求項8】
前記後燃焼触媒部材が、セル孔を介して通気可能なハニカム構成のセラミックス基体に酸化促進性の触媒剤を担持させてなる通気性の後燃焼触媒部材であることを特徴とする請求項1または請求項7のいずれか1項に記載のIHクッキングヒータ用の焼き物調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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