説明

III族窒化物系化合物半導体の製造方法及び製造装置

【課題】NaとGaのフラックス法において原料窒素ガスを十分に加熱する。
【解決手段】いずれも高温高圧に適応する反応容器100と外部容器200の開閉可能な二重密閉容器を用い、外部容器内に配置した加熱装置31a、31b及び31cで反応容器100を加熱する。反応容器100には窒素供給管10と排出管11とが接続されており、図示しない制御装置により反応容器100内部が例えば100気圧となるように調整しながら窒素の給排気が行われる。ここで、窒素供給管10から供給される窒素は、反応容器100外周を螺旋状に進む被加熱部10aを通過する際に十分な時間を経過するので、加熱装置31a、31b及び31cにより反応容器100と同程度の温度まで加熱されることとなる。こうして、反応容器100内部のNaとGaのフラックス表面に、十分に加熱されたのちに窒素を供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIII族窒化物系化合物半導体の製造方法及び製造装置に関する。本発明は例えばNaとGaの混合物を溶融した状態を保持してその表面に窒素を供給し、GaN種結晶表面にGaNを成長させる、いわゆるフラックス法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるフラックス法による窒化ガリウム(GaN)その他のIII族窒化物系化合物半導体の結晶成長方法は下記特許文献等に報告されている。これは、例えば、溶融ナトリウム(Na)中にガリウム(Ga)を溶解させて800℃程度に保ち、100気圧程度の高圧下で窒素と反応させて、窒化ガリウム(GaN)を種結晶表面に結晶成長させるものである。例えば図4のIII族窒化物系化合物半導体製造装置900のように、いずれも高温高圧に適応する反応容器100と外部容器200の開閉可能な二重密閉容器を用い、外部容器内に配置した加熱装置31a、31b及び31cで反応容器100を加熱して、反応容器100内部のナトリウム(Na)及びガリウム(Ga)を溶融させる。反応容器100には窒素供給管10と排出管11とが接続されており、図示しない制御装置により反応容器100内部が例えば100気圧となるように調整しながら窒素の給排気が行われる。
【特許文献1】特開2001−058900号公報
【特許文献2】特開2003−313099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フラックス法においては、反応系の封入のための窒素ガスが、GaN生成の原料を兼ねており、反応の進行と共に当該窒素ガスが消費される。そこで反応系の圧力を保ったまま、窒素を随時反応系に追加供給することが好ましい。しかし、追加供給される窒素が溶融したNa及びGa混合物の温度と同程度まで加熱されていないと、種結晶等以外のフラックス表面で、ランダムにGaN結晶が析出してしまい、厚い単結晶基板を得ようとする点からは非効率となる。
【0004】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、フラックス法において原料窒素ガスを十分に加熱してから反応系に導くことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、III族金属とそれとは異なる金属とを溶融した状態で保持されたフラックスに、窒素を含む気体を供給することによりIII族窒化物系化合物半導体を製造する方法において、当該供給される窒素を含む気体は、当該溶融物に触れる前に当該溶融物と同程度の温度まで加熱されることを特徴とする。窒素を含む気体とは、窒素分子及び/又は窒素化合物の気体を含む単一又は混合気体を言い、例えば希ガス等の不活性ガスを任意割合で含んでいても良い。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、III族窒化物系化合物半導体の製造装置であって、III族金属とそれとは異なる金属とを溶融した状態で保持する反応容器と、当該反応容器とそれを加熱する加熱装置とを内部に有する外部容器と、前記外部容器の外側から前記反応容器内に少なくとも窒素を含む気体を供給するための供給管とを有し、前記供給管は、前記外部容器の内側で前記反応容器内に導かれる前段階において、前記加熱装置により前記反応容器と共に加熱される領域を有していることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に係る発明は、III族窒化物系化合物半導体の製造装置であって、III族金属とそれとは異なる金属を溶融した状態で保持する反応容器と、当該反応容器とそれを加熱する第1の加熱装置とを内部に有する外部容器と、前記外部容器の外側から前記反応容器内に少なくとも窒素を含む気体を供給するための供給管とを有し、前記供給管は、前記外部容器の内側で前記反応容器内に導かれる前段階において、第2の加熱装置により加熱される領域を有していることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に係る発明は、III族窒化物系化合物半導体の製造装置であって、III族金属とそれとは異なる金属とを溶融した状態で保持する反応容器と、当該反応容器とそれを加熱する加熱装置とを内部に有する外部容器と、前記外部容器の外側から前記反応容器内に少なくとも窒素を含む気体を供給するための供給管とを有し、前記反応容器はその外周に、前記供給管に接続された外套部を有し、前記少なくとも窒素を含む気体は、前記外套部を通過する間に加熱された後、前記反応容器内部のIII族金属とそれとは異なる金属との前記溶融物に導かれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フラックス法において原料窒素ガスを十分に加熱してから反応系に導くことができる。具体的には、請求項2に係る発明のように、反応容器を加熱するために設けられた加熱装置が、反応容器に導かれる前の窒素を含む気体の供給管を加熱する構成とすると良い。或いは、請求項3に係る発明のように、反応容器に導かれる前の窒素を含む気体の供給管を加熱する第2の加熱装置を設けると良い。また或いは、請求項4に係る発明のように、反応容器外周の外套部で窒素を含む気体が加熱された後に反応容器内部の金属溶融物に達するようにすると良い。いずれにせよ、本発明によれば原料気体である窒素を含む気体を十分に加熱することが容易となるので、雑晶が生ぜず、種結晶に効率的に結晶成長が生じるようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フラックス法の反応容器と、加熱装置とを内部に配置する外部容器を用いるIII族窒化物系化合物半導体の製造装置又は製造方法に適用できる。窒素を含む気体を供給するための供給管は任意の形状で良い。例えば、反応容器と共に加熱装置で加熱される構成の場合は、反応容器と加熱装置の間の空間を利用すると良い。当該領域に螺旋状、その他十分に加熱されるよう、供給管の長さ及び容量を大きく取ると良い。また、反応容器を加熱する第1の加熱装置とは別の第2の加熱装置を用いる場合は、第2の加熱装置と供給管の位置は、反応容器と第1の加熱装置の間の空間に限定されない。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の具体的な第1の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置1000の構成を示す模式図である。図1のように、いずれも高温高圧に適応する反応容器100と外部容器200の開閉可能な二重密閉容器を用いる。反応容器100は容積0.1〜100L、外部容器200は容積1〜100m3程度とする。外部容器内に配置した加熱装置31a、31b及び31cで反応容器100を例えば800〜900℃に加熱する。これによりガリウム(Ga)とナトリウム(Na)の溶融物(フラックス)を形成する。反応容器100には窒素供給管10と排出管11とが接続されており、図示しない制御装置により反応容器100内部が例えば100気圧となるように調整しながら窒素の給排気が行われる。ここで、窒素供給管10は、反応容器100外周を螺旋状に進む被加熱部10aを有している。即ち、窒素供給管10から供給される窒素は、反応容器100外周を螺旋状に進む被加熱部10aを通過する際に十分な時間を経過するので、加熱装置31a、31b及び31cにより反応容器100と同程度の温度(800〜900℃)まで加熱されることとなる。こうして、反応容器100内部のフラックス表面に、十分に加熱されたのちに窒素を供給することが可能となる。
【実施例2】
【0012】
図2は、本発明の具体的な第2の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置2000の構成を示す模式図である。図2のように、いずれも高温高圧に適応する反応容器100と外部容器200の開閉可能な二重密閉容器を用い、外部容器内に配置した加熱装置31a、31b(第1の加熱装置)で反応容器100を加熱する。反応容器100には窒素供給管10と排出管11とが接続されており、図示しない制御装置により反応容器100内部が例えば100気圧となるように調整しながら窒素の給排気が行われる。ここで、窒素供給管10は、反応容器100に到達する前に被加熱部10bを有しており、この被加熱部10bは第2の加熱装置32で加熱されるものである。即ち、窒素供給管10から供給される窒素は、反応容器100に到達する前に被加熱部10bにて加熱装置32により反応容器100と同程度の温度(800〜900℃)まで加熱されることとなる。こうして、反応容器100内部のフラックス表面に、十分に加熱されたのちに窒素を供給することが可能となる。
【実施例3】
【0013】
図3は、本発明の具体的な第3の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置3000の構成を示す模式図である。図3のように、いずれも高温高圧に適応する外套部50を有する反応容器150と外部容器200の開閉可能な二重密閉容器を用い、外部容器内に配置した加熱装置31a、31b及び31cで反応容器150を加熱する。反応容器150にはその外周に外套部50が設けられており、窒素供給管10は当該外套部50に接続されている。また排出管11が反応容器150に接続されており、図示しない制御装置により反応容器150内部が例えば100気圧となるように調整しながら窒素の給排気が行われる。ここで、窒素供給管10から供給される窒素は、反応容器150の内部に到達する前に外套部50にて、反応容器150内部の温度近くまで加熱されるものである。即ち、窒素供給管10から供給される窒素は、反応容器150内部に到達する前に外套部50にて加熱装置31a、31b及び31cにより反応容器150の内部と同程度の温度(800〜900℃)まで加熱されることとなる。こうして、反応容器150内部のフラックス表面に、十分に加熱されたのちに窒素を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の具体的な第1の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置1000の構成を示す模式図。
【図2】本発明の具体的な第2の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置2000の構成を示す模式図。
【図3】本発明の具体的な第3の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置3000の構成を示す模式図。
【図4】従来例に係るIII族窒化物系化合物半導体製造装置9000の構成を示す模式図。
【符号の説明】
【0015】
100:反応容器
150:外套部を有する反応容器
200:外部容器
10:供給管
10a、10b:供給管10の被加熱部
11:排出管
31a、31b、31c:加熱装置
32:第2の加熱装置
50:反応容器の外套部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族金属とそれとは異なる金属とを溶融した状態で保持されたフラックスに、窒素を含む気体を供給することによりIII族窒化物系化合物半導体を製造する方法において、
当該供給される窒素を含む気体は、当該溶融物に触れる前に当該溶融物と同程度の温度まで加熱されることを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
III族窒化物系化合物半導体の製造装置であって、
III族金属とそれとは異なる金属とを溶融した状態で保持する反応容器と、
当該反応容器とそれを加熱する加熱装置とを内部に有する外部容器と、
前記外部容器の外側から前記反応容器内に少なくとも窒素を含む気体を供給するための供給管とを有し、
前記供給管は、前記外部容器の内側で前記反応容器内に導かれる前段階において、前記加熱装置により前記反応容器と共に加熱される領域を有していることを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体の製造装置。
【請求項3】
III族窒化物系化合物半導体の製造装置であって、
III族金属とそれとは異なる金属を溶融した状態で保持する反応容器と、
当該反応容器とそれを加熱する第1の加熱装置とを内部に有する外部容器と、
前記外部容器の外側から前記反応容器内に少なくとも窒素を含む気体を供給するための供給管とを有し、
前記供給管は、前記外部容器の内側で前記反応容器内に導かれる前段階において、第2の加熱装置により加熱される領域を有していることを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体の製造装置。
【請求項4】
III族窒化物系化合物半導体の製造装置であって、
III族金属とそれとは異なる金属とを溶融した状態で保持する反応容器と、
当該反応容器とそれを加熱する加熱装置とを内部に有する外部容器と、
前記外部容器の外側から前記反応容器内に少なくとも窒素を含む気体を供給するための供給管とを有し、
前記反応容器はその外周に、前記供給管に接続された外套部を有し、
前記少なくとも窒素を含む気体は、前記外套部を通過する間に加熱された後、前記反応容器内部のIII族金属とそれとは異なる金属との前記溶融物に導かれることを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−277058(P2007−277058A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106860(P2006−106860)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】