説明

IL−6アンタゴニストを含んでなる抗腫瘍剤の作用増強剤

【課題】新規な抗腫瘍剤の提供。
【解決手段】インターロイキン6(IL-6)受容体に結合する抗体と、抗腫瘍作用を有する白金化合物又はマイトマイシンCから選択される抗腫瘍剤とを有効成分とする抗腫瘍剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍の治療において抗腫瘍剤の作用を補助、増強するインターロイキン6アンタゴニストを含んでなる抗腫瘍剤の作用増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト腫瘍の化学療法には、これまでアルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生剤、白金化合物等が用いられてきた。これらの抗腫瘍剤を単独で用いても顕著な治療効果が認められない場合、複数の抗腫瘍剤を併用する治療法が考えられてきた(Frei, E. III, Cancer Res., 32, 2593-2607, 1992)。腫瘍細胞は、抗腫瘍剤に様々な感受性を有し、あるものは抗腫瘍剤に対して治療抵抗性を示すことが知られている(Magrath, I., New Directions in Cancer Treatment, 1989, Springer-Verlag)。腫瘍細胞の治療抵抗性獲得には、マルチドラッグレジスタンス(multi-drug resistance ;MDR)の発現(Tsuruo, T.ら、Cancer Res., 42, 4730-4733, 1982) 、抗腫瘍剤の細胞内取込みの減少 (Sherman, S. E.ら、Science, 230, 412, 1985)、DNA修復活性の増加 (Borch, R. F., Metabolism and Action of Anticancer Drugs. Powis, G. & Prough, R. 編、Taylor & Francis,London, 1987, 163-193)または細胞内での抗腫瘍剤の不活化の促進 (Teicher, B. A.ら、Cancer Res., 46, 4379, 1986)等がその原因であるといわれている。このような場合、抗腫瘍剤を投与するだけでは予期した治療効果が認められない場合が多い。
【0003】
腎細胞癌(renal cell carcinoma)は、シスプラチン、アドリアマイシンおよびビンブラスチンなどの抗腫瘍剤に治療抵抗性を示す腫瘍である(Kakehi, Y.ら、J.Urol., 139, 862-864, 1988 ;Kanamaru, H.ら、J.Natl.Cancer Inst., 81, 844-847, 1989;Teicher, B.A. ら、Cancer Res., 47, 388-393, 1987)。シスプラチンなどの抗腫瘍作用を有する白金化合物は、DNAに結合し、DNAの合成および細胞の分裂を阻害する (Pinto, A. L.ら、Biochica et Biophysica Acta, 780, 167-180, 1985)。
【0004】
腎細胞癌のシスプラチンに対する治療抵抗性には、グルタチオン−Sトランスフェレース−π(GST−π)の発現、スルフィドリル基を含有する物質の細胞質内レベル上昇によるシスプラチンの作用抑制、DNA修復能上昇あるいはc-mycなどの発ガン遺伝子の活性化等が複雑に関与していると考えられている(Sklar, M.D. ら、Cancer Res., 51, 2118-2123, 1991;Mizutani, Y.ら、Cancer in press, 1994 ;Nakagawa, K.ら、Japan.J.Cancer Res., 79, 301-305, 1988)。
【0005】
また、腫瘍細胞での膜透過輸送能の変化は、細胞内のシスプラチンの取込み減少をもたらし、シスプラチンに対する治療抵抗性を増すといわれている(Richon, V.ら、Cancer Res., 47, 2056-2061, 1987;Waud, W.R.ら、Cancer Res., 47, 6549-6555, 1987)。スルフィドリル基を含む物質として、哺乳類動物細胞内に最も豊富に存在するグルタチオンは、細胞内でシスプラチンを不活化することが報告されており、ある種の腫瘍において細胞内のグルタチオンおよびメタロチオネインレベルが高くなっていることが示された(Hromas, R.A.ら、Cancer LETT., 34, 9-13, 1987;Taylor, D.M.ら、Eur.J.Cancer, 12, 249-254, 1976 )。
【0006】
グルタチオンはトリペプチドチオールであり、アルキル化剤やシスプラチンのようなDNA結合物質の不活化およびこれらによる細胞障害の修復に重要な役割を担っている。GST−πの有する一つの作用は、上記のような抗腫瘍剤をグルタチオンに結合させることにより抗腫瘍剤の不活化を促進することである。
【0007】
腎細胞癌は、インターロイキン6(IL-6)を産生し、IL-6レセプター(IL-6R)を発現していることから、腎細胞癌の増殖活性化にIL-6が何らかの役割を担っていることが示唆されている(Miki, S.ら、FEBS Lett., 250, 607-610, 1989;Takenawa, J., ら、J.Natl.Cancer Inst., 83, 1668-1672, 1991)。さらに、腎細胞癌患者の治療予後が悪い場合、血清中のIL-6レベルが上昇していることが報告されている(Blay, J., ら、Cancer Res., 52, 3317-3322, 1992;Tsukamoto, T.,ら、J.Urol., 148, 1778-1782, 1992 )。しかしながら、IL-6と腎細胞癌の抗腫瘍剤に対する治療抵抗性とはこれまでに明確な関連づけがなされておらず不明であった。
【0008】
IL-6はB細胞刺激因子2あるいはインターフェロンβ2と呼称された、多機能サイトカインである。IL-6はBリンパ球系細胞の活性化に関与する分化因子として発見され(Hirano, T.ら、Nature 324, 73-76, 1986 )、その後、種々の細胞の機能に影響を及ぼす多機能サイトカインであることが明らかとなった(Akira, S. ら、Adv.in Immunology 54, 1-78, 1993)。IL-6は、細胞上で二種のタンパク質を介してその生物学的活性を伝達する。
【0009】
一つは、IL-6が結合する分子量約80KDのリガンド結合性タンパク質、IL-6Rである。IL-6Rは、細胞膜を貫通して細胞膜上に発現する膜結合型の他に、主にその細胞外領域からなる可溶性IL-6R(sIL-6R)としても存在する。もう一つは非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130KDのgp130である。IL-6とIL-6RはIL-6/IL-6R複合体を形成し、次いでもう一つの膜タンパク質gp130と結合することにより、IL-6の生物学的活性が細胞に伝達される(Tagaら、J.Exp.Med., 196, 967, 1987)。
【0010】
シスプラチンのような白金化合物や、マイトマイシンCといった抗腫瘍剤は、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導するが、IL-6は抗腫瘍剤により誘導されたアポトーシスを抑制することが報告されている(Kerr, J.ら、Cancer 73, 2013-2026, 1994;Sachs, L. ら、Blood 82, 15-21, 1993 )。また、シスプラチンやマイトマイシンCのような抗腫瘍剤は、フリーラジカルを産生することにより、腫瘍細胞に細胞毒性を及ぼす(Oyanagi, Y. ら、Biochem.Pharmacol., 26, 473-476, 1997 ;Nakano, H.ら、Biochem.Biophys.Acta., 796, 285-293, 1984 )が、IL-6がフリーラジカル分解作用を有するマンガネーススーパーオキサイドジスムテース(Manganese superoxide dismutase;MnSOD)の発現を促進し、IL-6抗体が促進されたMnSOD発現を抑制することが知られている(Ono, M.,ら、Biochem.Biophys.Res.Commun., 182, 1100-1107, 1992 ;Dougall, W.C. ら、Endocrinology, 129, 2376-2384, 1991 )。
【0011】
しかしながら、これらの報告は、IL−6の生物学的活性を遮断することにより抗腫瘍剤の作用を増強させることについて述べたものはなく、また、実際に抗腫瘍剤の作用増強剤としてIL−6アンタゴニストの使用を試みたものはなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまで腫瘍の治療には、抗腫瘍剤が使用されていたが、これらを多量に使用すると吐き気・嘔吐、腎、肝機能障害や骨髄機能抑制といった好ましくない副作用が生ずることから、腫瘍細胞に対し、抗腫瘍作用を十分に発揮するような必要量を投与することが危険な場合もあった。また、通常の抗腫瘍剤を用いる化学療法では効果がみられない治療抵抗性の腫瘍があり、このような腫瘍の抗腫瘍剤に対する感受性を上昇させる作用増強剤の登場が待たれていた。
【0013】
本発明の目的は、抗腫瘍剤の作用を補助、増強し、抗腫瘍剤に治療抵抗性の腫瘍細胞の感受性を上昇させるような新しい抗腫瘍剤の作用増強剤を提供することである。より詳しくは、本発明はIL-6アンタゴニストを含んでなる、抗腫瘍剤の作用増強剤を提供する。より詳しくは、本発明はIL-6アンタゴニストを含んでなる、抗腫瘍作用を有する化学療法剤の作用増強剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、腫瘍細胞の抗腫瘍剤に対する感受性の変化にIL-6アンタゴニストが及ぼす影響について鋭意検討を重ねた結果、IL-6抗体またはIL-6R抗体などのIL-6アンタゴニストが腫瘍細胞の抗腫瘍剤に対する感受性を上昇させ、より低用量の抗腫瘍剤で治療効果が認められること、さらには、通常の抗腫瘍剤には治療抵抗性を示す腫瘍に対しIL-6アンタゴニストを含んでなる作用増強剤を併用することにより治療効果が現れることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明はIL-6アンタゴニストを含んでなる、抗腫瘍剤の作用増強剤に関する。より詳しくは、本発明はIL-6アンタゴニストを含んでなる、抗腫瘍作用を有する化学療法剤の作用増強剤に関する。
IL-6アンタゴニストとしては、IL-6に対する抗体、IL-6Rに対する抗体等が好ましく、例えばこれらのモノクローナル抗体が好ましい。具体的なモノクローナル抗体としてはPM-1抗体、又はヒト型化PM-1抗体が挙げられる。また、IL-6アンタゴニストと組合わせて使用される抗腫瘍剤としては、化学療法剤、例えば抗腫瘍活性を有する白金化合物、マイトマイシンC等が挙げられる。白金化合物としては、シスプラチン、カルボプラチン、254-S、DWA-2114R、NK-121等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のIL-6アンタゴニストを含んでなる抗腫瘍剤の作用増強剤とは、腫瘍を治療するに際し、抗腫瘍剤と併用されることで、抗腫瘍作用を増強する。また、抗腫瘍剤の必要用量を低減させ、さらには通常の化学療法では治療効果が認められない治療抵抗性の腫瘍に対しても、抗腫瘍剤の感受性を上昇させる効果を有する。
【0017】
本発明の作用増強剤により抗腫瘍作用が増強される抗腫瘍剤は、腫瘍細胞に作用して腫瘍細胞の発育と増殖を抑制し、腫瘍の治療効果を有する化学療法剤である。化学療法剤には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生剤、植物由来アルカロイド、ホルモン療法剤、白金化合物などがある。このような抗腫瘍剤の中でも、抗腫瘍抗生剤であるマイトマイシンCや抗腫瘍作用を有する白金化合物が特に好ましい。白金化合物は白金原子を有し、他の原子と錯体を形成している。このものは、DNAと結合することにより、腫瘍細胞のDNA合成を阻害し、腫瘍細胞の分裂を阻害して抗腫瘍作用を示す。これまでに抗腫瘍作用を有する白金化合物として、シスプラチン(cis-diammine dichloroplatinum(II) 、下記の構造式を有する)、
【0018】
【化1】

【0019】
カルボプラチン(cis-diammine (1,1-cyclobutanedicarboxylato)-platinum(II)、下記の構造式を有する)、
【0020】
【化2】

【0021】
254-S((Glycolato-0,0')diammineplatinum(II)、下記の構造式を有する)、
【0022】
【化3】

【0023】
DWA-2114R((-)-(R)-2-aminomethylpyrrolidine(1,1-cyclobutanedicarboxylatoplatinum(II) 、下記の構造式を有する)、
【0024】
【化4】

【0025】
NK-121((R)-cis-2-methyl-1,4-butanediamine(1,1-cyclobutanedicarboxylato)platinum(II)、下記の構造式を有する)、
【0026】
【化5】

【0027】
オキサリプラチン(oxaliplatin ;USAN, Oxalato(trans-1,2-cyclohexanediamine)platinum(II) 、下記の構造式を有する)、
【0028】
【化6】

【0029】
TRK-710((alpha-acetyl-gamma-methyltetronate)2-(I-1,2-diaminocyclohexane)platinum(II)、下記の構造式を有する)
【0030】
【化7】

【0031】
等が知られている。これらの白金化合物のうちで特に、上記シスプラチン、カルボプラチン、DWA−2114Rが好ましく例示される。
これらの抗腫瘍剤は、常法により製剤化される。例えば、白金化合物の場合、必要ならば補助剤とともに医薬として用いる単体と混合して、経口的にまた、非経口的に、好ましくは注射剤として用いられる。注射剤とする場合には、蒸留水あるいは塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩溶液または、ブドウ糖溶液、生理食塩水に混和するのがよい。これらの製剤中の抗腫瘍剤の量は、患者の年齢、症状等により、使用に便利な単位量が望まれ、例えば、成人の腫瘍治療に用いられる場合、一日一回10−2000mg/m2 (体表面積)を投与し、投与量により5日間の連投あるいは投与間に1−4週の休薬期間を設けてもよい。
【0032】
本発明の作用増強剤により抗腫瘍作用が認められる腫瘍細胞は、IL-6Rを有し、IL-6を一つの生理活性物質として増殖および/または治療抵抗性を示す腫瘍である。このような腫瘍としては、腎細胞癌 (Miki, S.ら、FEBS Letter, 250, 607-610, 1989)、骨髄腫 (Kawano, M.ら、Nature, 332, 83-85, 1988) 、卵巣ガン (Kobayashi, H. ら、第53回日本がん学会総会講演要旨集271 頁、874, 1994)、EBウイルス感染Bリンパ腫 (Tosata, G.ら、J. Virol., 64, 3033-3041, 1990) 、成人T細胞白血病 (Sawada, T. & Takatsuki, K. Br. J. Cancer,62, 923-924, 1990)、前立腺がん (Siegall, C. B.ら、Cancer Res., 50, 7786-7788, 1990) 、Kaposi肉腫 (Miles, S. A.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. 87, 4068-4072, 1990) 等が知られている。
【0033】
本発明で使用されるIL-6アンタゴニストは、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害するものであれば、その由来を問わない。IL-6アンタゴニストとしては、IL-6抗体、IL-6R抗体、gp130抗体、IL−6改変体、IL-6RのアンチセンスオリゴヌクレオチドあるいはIL-6またはIL-6Rの部分ペプチド等が挙げられる。
【0034】
本発明でIL-6アンタゴニストとして使用される抗体、たとえば、IL-6抗体、IL-6R抗体、あるいはgp130抗体はその由来および種類(モノクローナル、ポリクローナル)を問わないが、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。これら抗体はIL-6、IL-6Rあるいはgp130と結合することにより、IL-6とIL-6RまたはIL-6Rとgp130の結合を阻害してIL−6のシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害する抗体である。
【0035】
モノクローナル抗体の産生細胞の動物種は哺乳類であれば特に制限されず、ヒト抗体またはヒト以外の哺乳動物由来であってよい。ヒト以外の哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、その作成の簡便さからウサギあるいはげっ歯類由来のモノクローナル抗体が好ましい。げっ歯類としては、特に制限されないが、マウス、ラット、ハムスターなどが好ましく例示される。
【0036】
このような抗体は、IL-6抗体としては、MH166抗体(Matsuda ら、Eur.J.Immunol. 18 :951-956, 1988 )やSK2抗体(Satoら、第21回 日本免疫学会総会、学術記録、21: 116, 1991)等が挙げられる。IL-6R抗体としては、PM-1抗体(Hirataら、J.Immunol. 143:2900-2906, 1989 )、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO 92-19759)などが挙げられる。
【0037】
このような抗体のうち、特にIL-6R抗体が好ましく、その具体例としては上記PM-1抗体が挙げられる。
モノクローナル抗体は、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作成できる。すなわち、IL-6、IL-6Rあるいはgp130を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作成できる。
【0038】
より具体的には、モノクローナル抗体を作成するには次のようにすればよい。例えば、前記感作抗原としてはヒト由来のものが好ましく、ヒトIL-6の場合、Hiranoら、Nature, 324 :73, 1986に開示されたヒトIL-6の遺伝子配列を用いることによって得られる。ヒトIL-6の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または、培養上清中から目的のIL-6タンパク質を精製し、この精製IL-6タンパク質を感作抗原として用いればよい。
【0039】
ヒトIL-6Rの場合、欧州特許出願公開番号EP325474号に開示された遺伝子配列を用いて上記ヒトIL-6と同様の方法に従えばIL-6Rタンパク質を得ることができる。IL-6Rは細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱している可溶性のもの(sIL-6R)(Yasukawaら、J.Biochem., 108, 673-676, 1990)との二種類がある。sIL-6Rは細胞膜に結合しているIL−6Rの主に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6Rと異なっている。
【0040】
ヒトgp130の場合、欧州特許出願公開番号EP411946に開示されている遺伝子配列を用いて上記IL-6と同様の方法に従えば、gp130タンパク質を得ることができる。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはマウス、ラット、ハムスター、ウサギ等が使用される。
【0041】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物に腹腔内または、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4−21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0042】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8. 653)(J.Immunol. 123 :1548, 1978)、p3-U1(Current Topics in Micro-biology and Immunology 81 :1-7, 1978 )、NS-1(Eur.J.Immunol. 6:511-519, 1976 )、MPC-11(Cell, 8 :405-415, 1976 ),SP2/0(Nature, 276 :269-270, 1978 )、FO(J.Immunol.Meth. 35:1-21, 1980)、S194(J.Exp.Med. 148:313-323, 1978 )、R210(Nature, 277 :131-133, 1979 )等が好適に使用される。
【0043】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルステインらの方法(Milsteinら、Methods Enzymol. 73 :3-46, 1981)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0044】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1−10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI 1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0045】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000−6000程度のPEG溶液を通常、30−60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0046】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローン化が行われる。
【0047】
このようにして作成されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0048】
また、モノクローナル抗体は、抗原を免疫して得られる抗体産生細胞を細胞融合させて生ずるハイブリドーマから得られるものだけでなく、抗体遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを公知の細胞株、例えば、COS、CHO等に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させたモノクローナル抗体を用いることができる(例えば、Vandamme, A-M.ら、Eur. J. Biochem., 192, 767-775, 1990参照)。
【0049】
さらに、前記の方法により得られるモノクローナル抗体は、塩析法ゲル濾過法、アフィニティークロマトグラフィー法等の通常の精製手段を利用して高純度に精製することができる。
このようにして、作成されるモノクローナル抗体は、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光抗体法(Immunofluorescence Analysis )等の通常の免疫学的手段により抗原を高感度かつ高精度で認識することを確認することができる。
【0050】
本発明に使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変したものがより好ましい。例えば、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウスのモノクローナル抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域とからなるキメラ抗体を使用することができ、このようなキメラ抗体は、既知のキメラ抗体の製造方法、特に遺伝子組換技法を用いて製造することができる。
【0051】
さらに、再構成(reshaped)したヒト抗体を本発明に用いることができる。これはヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換手法も知られている。その既知方法を用いて、本発明に有用な再構成ヒト型抗体を得ることができ、その好ましい具体例として再構成されたPM-1抗体が挙げられる(例えば、国際特許出願公開番号WO 92/19759を参照)。
【0052】
なお、必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク(FR)領域のアミノ酸を置換してもよい(Satoら、Cancer Res. 53:1-6, 1993 )。さらには抗原に結合し、IL−6の活性を阻害するかぎり、抗体の断片、たとえば、F(ab')2、FabあるいはFv、H鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)をコードする遺伝子を構築し、これを適当な宿主細胞で発現させ、前述の目的に使用することができる。(例えば、Birdら、TIBTECH, 9:132-137, 1991 を参照)。
【0053】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結してなる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結されている(Huston, J.S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A., 85, 5879-5883, 1988 )。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。これらのV領域は、好ましくは、ペプチドリンカーによって連結されている。ペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0054】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖または、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖または、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いて、PCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0055】
また、一旦scFvをコードするDNAが作成されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。scFvは、抗体分子に比べ、組織への移行性が優れており、再構成ヒト抗体と同様の機能を有するものとしての利用が期待される。
【0056】
本発明で使用されるIL-6改変体としてはBrakenhoffら、J.Biol.Chem. 269:86-93, 1994 あるいはSavinoら、EMBO J. 13:1357-1367, 1994 に開示されたものが挙げられる。
IL-6改変体としては、IL-6のアミノ酸配列中に置換、欠失、挿入といった変異を導入することにより、IL-6Rとの結合活性を維持したまま、IL-6のシグナル伝達作用がないものが使用される。さらにその由来となるIL-6は上記の性質を有する限り、その動物種を問わないが、抗原性を考慮すればヒト由来のものを使用するのが好ましい。具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriendら、J.Mol.Graphics, 8 :52-56, 1990 )を用いてその二次構造を予測し、さらに変異アミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。
【0057】
適当な変異アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR(ポリメレースチェインリアクション)法により変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、大腸菌細胞や哺乳類細胞で発現させ、培養上清中に含まれたまま、あるいは通常の手法により、これを単離精製し、IL-6Rに対する結合活性およびIL-6のシグナル伝達の中和活性を評価することができる。
【0058】
本発明で使用されるIL-6部分ペプチドあるいはIL-6R部分ペプチドは、各々IL-6RあるいはIL-6に結合し、IL-6の活性伝達作用がないものであれば、その断片の配列を問わない。IL-6部分ペプチドおよびIL-6R部分ペプチドについては、米国特許公報US5210075および欧州特許公開公報EP617126を参照のこと。IL-6Rアンチセンスオリゴヌクレオチドについては、特願平5-300338号公報を参照のこと。
【0059】
本発明のIL-6アンタゴニストからなる、抗腫瘍剤の作用増強剤は、IL-6のシグナル伝達を遮断し、抗腫瘍剤の作用を補助、増強する限り、IL-6Rを有し、IL-6を一つの生理活性物質として増殖および/または治療抵抗性を示すいかなる腫瘍の治療に有効に用いることができる。
本発明のIL-6アンタゴニストからなる、抗腫瘍剤の作用増強剤は、好ましくは非経口的に、たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等により全身あるいは局部的に投与することができる。さらに、少なくとも一種の医薬用担体または希釈剤とともに医薬組成物やキットの形態をとることができる。
【0060】
本発明のIL-6アンタゴニストからなる、抗腫瘍剤の作用増強剤のヒトに対する投与量は患者の病態、年齢あるいは投与方法により異なるが、適宜適当な量を選択することが必要である。例えば、IL-6R抗体の場合、およそ1−1000mg/患者の範囲で4回以下の分割用量を選択することができる。また、1−10mg/kg/週の用量で投与することができる。しかしながら、本発明のIL-6アンタゴニストからなる、抗腫瘍剤の作用増強剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0061】
本発明のIL-6アンタゴニストからなる、抗腫瘍剤の作用増強剤は常法にしたがって製剤化することができる (Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国) 。たとえば、注射用製剤は、精製されたIL-6アンタゴニストを溶剤、たとえば、生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液などに溶解し、それに、吸着防止剤、たとえば、Tween80、ゼラチン、ヒト血清アルブミン(HSA)などを加えたものであり、または、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例、参考例および実験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1. 抗腫瘍剤に対する腫瘍細胞の感受性に関するIL-6抗体またはIL-6R抗体の影響
種々の抗腫瘍剤に対する腫瘍細胞の感受性について、IL-6抗体またはIL-6R抗体の影響を調べた。
(1)ヒト腎細胞癌の調製
ヒト腎細胞癌株Caki-1、Caki-1のサブラインであるシスプラチン耐性株Caki-1/DDP、ヒト腎細胞癌ACHN、ヒト腎細胞癌A704(Giard, D.J. ら,J. Natl. Cancer Inst. 51, 1417-1423, 1973)を25mM HEPES、2mM L−グルタミン、1% non-essentialアミノ酸、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび10%加熱不活化ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640培養液(以上、Gibco製)(以下、完全培養液という)中で、プラスチックディッシュ上で単層になるように培養した。
【0063】
一方、Mizutani, Y.ら(Cancer 69, 537-545, 1992)の方法にしたがい、腎細胞癌患者から新鮮腫瘍細胞を得た。三人の腎細胞癌患者の外科的処置の際に、腎細胞癌腫瘍組織を得た。組織学的分類により、腎細胞癌であることを確認した後、3mg/mlのコラーゲネース(Sigma Chemical Co.製)により、腫瘍組織を細かく分解し、腫瘍細胞懸濁液を調製した。RPMI 1640培養液で三回洗浄した後、細胞懸濁液を、15ml容量のプラスチックチューブ中の各々2mlの100%、80%および50%のFicol-Hypaque からなる非連続的な勾配上に重層し、400xgにて30分間遠心した。上記100%の層中のリンパ球に富む単球層を取り除き、80%の層から腫瘍細胞と中皮細胞を得た。
【0064】
他細胞の混入を防ぐため、15mlのプラスチックチューブにいれた完全培養液中で腫瘍細胞に富む細胞懸濁液を、各々3mlの25%、15%、10%のPercollからなる非連続的な勾配上に重層して、室温にて25xgで7分間遠心した。リンパ球と分離された腫瘍細胞をチューブ底面より得た。得られた腫瘍細胞を洗浄し、完全培養液で懸濁した後、トリパンブルー染色法により腫瘍細胞の生存を確認した。このように調製したこれらの腫瘍細胞を以下の実験に用いた。
(2)ELISA法による腎細胞癌のIL-6産生確認
腎細胞癌株Caki-1、Caki-1/DDP、ACHN、A704および腎細胞癌患者(No. 1-3)由来新鮮腫瘍細胞の培養上清中にIL-6が存在するか否かを、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay )法で調べた。
【0065】
96ウェルのELISAプレートに100μlのIL-6抗体を添加し、少なくとも一晩おいてELISAプレートをIL-6抗体でコートした。これらのプレートは使用するまで4℃にて最大4週保存した。IL-6抗体でコートしたプレートを三回洗浄し、1%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むELISA PBSで1時間ブロックした。二回の洗浄の後、100μlの腫瘍細胞培養上清またはコントロールとして大腸菌由来組換えIL-6(Yasukawaら,Biotechnol. Lett., 12, 419, 1990)を各ウェルに加えた。
【0066】
プレートを1時間インキュベートし、三回洗浄して100μlの抗IL-6ポリクローナル抗体(Matsuda, T. ら、Eur.J.Immunol., 18, 951-956, 1988 )を各ウェルに添加した。プレートを1時間インキュベートし、アルカリフォスフェイト結合ヤギ抗ウサギIgGを各ウェルに加え、さらに1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、アルカリフォスフェイト基質(Sigma 104, Sigma Chemical Co. 製)とともにインキュベートした。2時間後にELISA READER(Immunoreader, Japan Intermed Co.ltd.製)により、405nmの吸光度を測定した。その結果より、これらの腎細胞癌はIL-6を産生することが明らかとなった(表1参照)。
【0067】
【表1】

【0068】
(3)抗腫瘍剤の細胞毒性に関するIL-6抗体またはIL-6R抗体の影響
各種濃度の抗腫瘍剤、すなわち、シスプラチン(cis-diamminedichloroplatinum(II)) 、マイトマイシンC(mitomycin C ;MMC)、アドリアマイシン(adriamycin;ADR)、ビンブラスチン(vinblastine ;VBL)および5−フルオロウラシル(5-fluorouracil;5−FU)に対する各腎細胞Caki-1、Caki-1/DDP、ACHN、A704および患者(No. 1-3)由来新鮮腫瘍細胞の感受性に関するIL-6抗体またはIL-6R抗体の影響を調べるために、MTT法(Mizutani, Y.ら、Cancer 73, 730-737, 1994)を実施した。
【0069】
100μlの上記の腎細胞癌腫瘍細胞懸濁液(2×104 細胞)を96ウェル底面マイクロタイタープレート(Corning Glass Works, Corning製)に分注した。プレートを37℃にて、5%CO2 存在加湿下におき、腫瘍細胞を24時間培養した。細胞培養上清を吸引除去し、腫瘍細胞をRPMI 1640培養液で三回洗浄した。IL-6抗体(Matsuda, T. ら、Eur.J.Immunol., 18, 951-956, 1988 )またはIL-6R抗体(Hirata, Y.ら、J.Immunol., 143, 2900-2906, 1989)との共存下において200μlの各抗腫瘍剤を含む溶液またはコントロールとして完全培養液を各ウェルに添加し、37℃にて24時間培養した。20μlのMTT溶液(5mg/ml、Sigma Chemical Co.製)を各ウェルに加え、引続き37℃で、5%CO2 存在加湿下にて4時間培養した。培養液を各ウェルから取り除き、0.05N HClを含むイソプロパノール(Sigma Chemical Co.製)と置換した。
【0070】
各ウェルの溶液の540nmにおける吸光度をマイクロカルチュアプレートリーダー(Immunoreader, Japan Intermed Co.ltd.製)で測定した。細胞毒性の割合を次の式にて計算した。細胞毒性(%)=〔1−(実験群の吸光度/コントロール群の吸光度)〕×100。
その結果、Caki-1細胞では、抗体との共存下で、シスプラチン(図1A,B参照)またはMMC(図2A,B参照)による細胞毒性が明らかに上昇した。コントロール抗体MOPC3/C(J. Natl. Cancer Inst. (Bethesda), 41, 1083, 1968)を加えた実験群では、シスプラチンまたはMMCに対する感受性に影響はみられなかった。抗腫瘍剤単独を添加した場合と比べ、抗腫瘍剤とIL−6抗体またはIL−6R抗体の共存下では同程度の細胞毒性の効果を見出すための抗腫瘍剤の必要量は1/10-1/100であった。一方、IL-6抗体またはIL-6R抗体とADR,VBLまたは5-FUの共存下では、腫瘍細胞の抗腫瘍剤に対する感受性は変化しなかった。
【0071】
Caki-1/DDP細胞のシスプラチンに対する耐性は、IL-6抗体またはIL-6R抗体とシスプラチンが共存することで克服された(図3A,B参照)。このようなIL-6抗体またはIL-6R抗体とシスプラチンとの共同作用は、他の腎細癌胞株ACHN(図4A,B参照)、A704(図5A,B参照)および三人の患者から得られた新鮮腫瘍細胞(図6,7,8の各A,B参照)においても同様に認められた。
【0072】
実施例2. カルボプラチンに対する腎細胞癌の感受性に関するIL-6抗体またはIL-6R抗体の影響
腎細胞癌株Caki-1を用い、各種の濃度に調製したカルボプラチン(carboplatin)とIL-6抗体またはIL-6R抗体が共存したときの細胞毒性について上記実施例1と同様に検討した。その結果、Caki-1細胞のカルボプラチンに対する感受性が増強された(図9A,B参照)。
【0073】
実施例3. 抗腫瘍剤の細胞内蓄積に関するIL-6抗体またはIL-6R抗体の影響
10μg/mlのシスプラチンまたは100μg/mlの5-FUとコントロールとしての培養液、10μg/mlのコントロール抗体MOPC3/C、10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の組合せの存在下で、Caki−1細胞を24時間培養した。
【0074】
次いで、培養液を取り除き、細胞をRPMI 1640培養液で三回洗浄した。シスプラチンの細胞内蓄積を、フレームレス原子吸光スペクトロメトリー法(Daley-Tates, P. T.ら、Biochem. Pharmacol., 34, 2263-2369 ; Riley, C. M.ら、Analytical Biochem., 124, 167-179, 1982)にしたがい測定した。測定機器は、ジーマンZ−8000(Zeeman z-8000 Spectrophotometer, Hitachi Co.ltd.製)を用いた。また、5-FUの細胞内蓄積を、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(Marunaka, T., ら、J. Pharm. Sci., 69, 1296-1300, 1980)で測定した。測定機器は、JGC-20KPガスクロマトグラフを備えたJMS-D 300マススペクトロメーター(JOEL製)を用いた。その結果を表2に示す。IL-6抗体またはIL-6R抗体はシスプラチン、5-FUの腫瘍細胞内蓄積に何ら影響を与えないことが明らかになった。
【0075】
【表2】

【0076】
実施例4 Glutathione S-transferase-π(GST−π)発現に関するシスプラチン、IL-6抗体またはIL-6R抗体の影響
Caki-1細胞を、コントロールとしての培養液、10μg/mlのシスプラチン、10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体とともに4時間培養した。ついで、細胞の全RNAをMizutani, Y.ら(Cancer 73, 730-737, 1994)の方法により調製し、10μg RNA/レーンとなるよう200mMモップス(MOPS;3−〔N−モルホリノ〕プロパンスルホン酸)、50mM酢酸ナトリウムおよび10mM EDTAナトリウムを含む1×MOPS緩衝液中で、1.2%アガロース−2.2M HCHOゲルで電気泳動した。次いで、RNAを、3M NaCl、0.3Mクエン酸ナトリウム(pH7.0)を含む20×SSC溶液中でBiodyne Aメンブレン(Poll製)に転写した。50−100ngのGST-π cDNAプローブ(Nakagawa, K.ら,J. Biol. Chem. 265, 4296-4301, 1990)を、α32P-dCTP(NEN製)によりランダムオリゴプライマー伸長法で標識した。RNAを転写した上記ナイロン膜を紫外線でクロスリンクし、上記プローブとハイブリダイズさせた。結果を図10に示す。
【0077】
シスプラチンによりCaki-1細胞のGST-π mRNAの発現は何ら影響を受けなかった。しかしながら、IL-6抗体またはIL-6R抗体を添加するとGST-π mRNAの発現が低下した。これらのことから、IL-6抗体またはIL-6R抗体による腎細胞癌のシスプラチンに対する感受性上昇に関し、GST-π mRNAの発現レベルの低下が関与していることが示唆された。
【0078】
発明の効果
IL-6抗体またはIL-6R抗体といったIL-6アンタゴニストを抗腫瘍剤と共存させることで、より低用量で抗腫瘍剤に対す腫瘍細胞の感受性が認められ、IL-6アンタゴニストと抗腫瘍剤により、併用効果が発揮されることが確認される。さらに、抗腫瘍剤に治療抵抗性を示す腫瘍細胞は、IL-6アンタゴニストにより抗腫瘍剤感受性を増強される結果、治療が可能となることが証明される。
【0079】
また、本発明のIL-6アンタゴニストからなる抗腫瘍剤の作用増強剤は、抗腫瘍剤の投与必要量を低下させることにより、抗腫瘍剤の組織へ及ぼす毒性を低減することができ、したがって、抗腫瘍剤の作用増強剤として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL-6抗体(図1A)またはIL-6R抗体(図1B)が共存したときの腎細胞癌株Caki-1に対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【図2】図2は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のマイトマイシンCとIL-6抗体(図2A)またはIL-6R抗体(図2B)が共存したときの腎細胞癌株Caki−1に対する細胞傷害活性を示す。◆は、マイトマイシンCのみ、黒正方形は、マイトマイシンCと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、マイトマイシンCと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、マイトマイシンCと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【0081】
【図3】図3は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL−6抗体(図3A)またはIL-6R抗体(図3B)が共存したときの腎細胞癌株Caki-1/DDPに対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL−6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【図4】図4は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL−6抗体(図4A)またはIL-6R抗体(図4B)が共存したときの腎細胞癌株ACHNに対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【0082】
【図5】図5は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL-6抗体(図5A)またはIL-6R抗体(図5B)が共存したときの腎細胞癌株A704に対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【図6】図6は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL-6抗体(図6A)またはIL-6R抗体(図6B)が共存したときの患者1から得られた新鮮腎細胞癌に対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【0083】
【図7】図7は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL-6抗体(図7A)またはIL-6R抗体(図7B)が共存したときの患者2から得られた新鮮腎細胞癌に対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【図8】図8は、0、0.1、1または10μg/mlの濃度のシスプラチンとIL-6抗体(図8A)またはIL-6R抗体(図8B)が共存したときの患者3から得られた新鮮腎細胞癌に対する細胞傷害活性を示す。◆は、シスプラチンのみ、黒正方形は、シスプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、シスプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、シスプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【0084】
【図9】図9は、0、1,10または100μg/mlの濃度のカルボプラチンとIL-6抗体(図9A)またはIL-6R抗体(図9B)が共存したときの腎細胞癌株Caki-1に対する細胞傷害活性を示す。◆は、カルボプラチンのみ、黒正方形は、カルボプラチンと0.1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、黒三角は、カルボプラチンと1μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下、●は、カルボプラチンと10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体の共存下における細胞傷害活性(%)を示す。
【図10】図10Aは、培養液(コントロール)、10μg/mlのシスプラチン、10μg/mlのIL-6抗体またはIL-6R抗体で処理した腎細胞癌株Caki-1においてGST-π mRNA発現を調べるためのGST-π cDNAプローブを用いたCaki-1の全RNAのノザンブロットの結果を示す図である。レーン1は、培養液のみ、レーン2はシスプラチン、レーン3はIL-6抗体、レーン4はIL-6R抗体で処理している。図10Bは、エチジウムブロマイド染色を施した、ノザンブロットに用いたゲルの図である。各レーンにはRNAが存在することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン6(IL-6)受容体に結合する抗体と、抗腫瘍作用を有する白金化合物又はマイトマイシンCから選択される抗腫瘍剤とを有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項2】
IL-6受容体に結合する抗体と、抗腫瘍作用を有する白金化合物又はマイトマイシンCから選択される抗腫瘍剤とを組み合わせてなる抗腫瘍剤。
【請求項3】
前記抗体が、IL-6受容体に結合し、ヒトIL-6のシグナル伝達を阻害し得る抗体である、請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
前記抗体が、ヒトIL-6受容体に結合し、ヒトIL-6のシグナル伝達を阻害する抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
前記抗腫瘍剤が、シスプラチン、カルボプラチン、254−S、DWA−2114R又はNK−121である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
前記抗体が、PM-1抗体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
前記抗体が、ヒト型化PM-1抗体である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗腫瘍。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−63344(P2008−63344A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303485(P2007−303485)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【分割の表示】特願平7−352269の分割
【原出願日】平成7年12月28日(1995.12.28)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】