説明

IP映像伝送網内の構成機器を管理するための管理網を構築する方法、該管理網、及び該管理網を有するIP映像伝送網

【課題】IP映像伝送網の管理網をインバンドで実現する。
【解決手段】IP映像伝送網の仕組みを流用することにより、構成機器を冗長化し、及びサービスごとの優先制御を行う。サービスごとの優先制御により、管理網内のトラヒックを優先させ、高負荷下でも安定して管理網の通信ができる。さらに、構成機器を冗長化することにより、耐故障性のある管理網を実現できる。これらにより、管理網をインバンドに構築することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPネットワークを通じて映像データを伝送するIP映像伝送網内の構成機器を管理する管理網の構築方法、該方法により構築された管理網、及び該管理網を有するIP映像伝送網に関する。
【背景技術】
【0002】
IP映像伝送網は、映像をIPパケットに変換して、効率的に伝送する伝送網である。高品位な映像伝送のためにIP映像伝送網では、映像を送信する機器から受信する機器までのEnd−to−Endの通信品質保証(QoS:Quality of Service)が要求される。そのため、この網を構成する機器である映像伝送装置、L2スイッチ、MPLSルータ等の設定、管理などを密接に連携して行う必要がある。
【0003】
このため、上記の構成機器の設定、管理を行う管理システムを設け、この管理システムが上記構成機器と通信するための管理網を、映像データを伝送する網に加え、構築する必要がある。この構成機器管理網の構築方法は、実際に映像データを流す映像伝送網とは別に管理網を構築するアウトバンドの構築方法と、管理網を別途構築せず、映像伝送網内に論理的に構築するインバンドの構築方法とがある。しかし、インバンドな論理的管理網には、映像トラヒックにより、管理トラヒックが棄却される可能性がある。例えば、映像トラヒックは、100〜数100Mbpsであり、一方管理トラヒックは1Mbps以下であり、管理トラヒックと比較して映像トラヒックは大量であるため、映像トラヒックにより管理トラヒックが棄却される可能性がある。さらに、映像伝送網の障害が発生した場合、管理網にも同時に障害が発生する。管理網は障害発生時に、障害をどのように復旧させるかに使用されるものであるため、管理網障害により映像伝送網の障害を回復できない可能性がある。インバンドな論理的管理網には、このような問題があるため、非特許文献1に記載されているように、管理網はアウトバンドに構築する方法が一般的方法であった。
【0004】
【非特許文献1】Enhancing network survivability with out of band, Brenkosh, J.P.; Witzke, E.L.; Kellogg, B.R.; Olsberg, R.R.; Military Communications Conference, 2005. MILCOM 2005. IEEE 17-20 Oct. 2005 Page(s):2494 - 2498 Vol. 4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、管理網をアウトバンドに構築した場合、広域な伝送網においては管理網の構築維持にコストがかかる、及び管理網自体に障害耐性を持たせることが困難であるという問題点がある。一方、管理網をインバンドに構築した場合、上述したような高負荷時の通信及び耐故障性に問題点がある。
【0006】
このため、映像伝送網の管理網を構築する際には、アウトバンドに構築した場合にも、インバンドに構築する際にも、それぞれ問題点が存在している。管理網をインバンドに構築した場合、アウトバンドに構築した場合の問題点は解決されるが、インバンドに構築した場合の問題点を解決しなければならないという課題があった。
【0007】
したがって、本発明は、高負荷下でも安定して通信ができ、耐故障性のある管理網をインバンドで実現することが可能なIP映像伝送網内の構成機器を管理する管理網の構築方法、該方法により構築された管理網、及び該管理網を有するIP映像伝送網を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するため本発明による方法は、映像伝送装置間を接続するIP映像伝送網内の構成機器を管理するために、管理トラヒックを伝送する管理網を構築する方法において、前記IP映像伝送網内に前記管理トラヒックを伝送するためのインバンドな論理的な網を構築するステップと、前記管理トラヒックを用いて前記構成機器を統括管理する管理システムを前記論理的な網に接続するステップと、前記構成機器のうち、少なくともルータ、スイッチ、及び映像伝送装置を映像伝送の拠点ごとに冗長化するステップと、前記映像伝送網内のサービスごとに優先制御を行い、前記論理的な網内の前記管理トラヒックに関するサービスの優先度を高くするステップと、を含む。
【0009】
また、前記サービスごとの優先制御は、前記構成機器内のルータによって行われることも好ましい。
【0010】
また、前記拠点間は前記ルータによって接続され、該ルータの一部に障害が発生した場合、冗長化された他のルータにより、前記拠点間のルートが自動的に変更されることも好ましい。
【0011】
上記目的を実現するため本発明による管理網は、映像伝送装置間を接続するIP映像伝送網内の構成機器を管理するために、管理トラヒックを伝送する管理網において、前記IP映像伝送網内に前記管理トラヒックを伝送するためにインバンドに構築された論理的な網と、前記論理的な網に接続され、前記管理トラヒックを用いて前記構成機器を統括管理する管理システムと、映像伝送の拠点ごとに冗長化されたルータ、スイッチ、及び映像伝送装置と、を含み、前記映像伝送網内のサービスごとに優先制御を行い、前記論理的な網内の前記管理トラヒックに関するサービスの優先度を高くする。
【0012】
上記目的を実現するため本発明によるIP映像伝送網は、上記管理網を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、管理網をインバンドに構築することにより、管理網の構築維持のコストの低減を実現している。また、構成機器を冗長化することにより、耐故障性のある管理網を実現している。また、サービスごとの優先制御により、高負荷下でも安定した管理網の通信を実現している。さらに、IP映像網の仕組みを流用しているため、低コストで実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態の管理網構築方法について、以下では図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態でのIP映像伝送網の構成を示している。本実施形態では、拠点A、拠点B、拠点Cの3つの拠点から構成されている。各拠点の機器は、MPLSルータ、L2スイッチ、映像伝送装置、及び管理システムで構成されており、各拠点の映像伝送装置間で映像トラヒックが伝送される。また、管理網はインバンドに構築されており、管理トラヒックはIP映像伝送網の中を流れる。例えば、管理システム1から拠点Aの映像伝送装置22へ(図中の破線)、及び管理システム1から拠点BのL2スイッチ33(図中の一点鎖線)へ管理メッセージが送信されている。ここの映像伝送網内の各機器の機能は、以下で説明する。なお、映像トラヒックとは、網(ネットワーク)上を移動する映像のデジタルデータのことであり、管理トラヒックとは、網上を移動する管理メッセージ等のデジタルデータのことである。
【0016】
MPLSルータは、拠点間を接続するために使用される。MPLS−DiffServ−TEにより、サービスごとに優先制御を行う機能を有している。また、ルータ間で、ルータ広告を送信し合うことにより、経路情報を交換している。これにより、障害発生を検知し、障害発生時に迅速に別経路を自動的に選択する機能も有している。本実施形態では、拠点A、拠点B、拠点Cの接続に使用され、ここはMPLS区間(図1の中でハッチングされている区間)になっており、ラベルスイッチングにより高速な転送が可能になっている。
【0017】
L2スイッチは、拠点内の機器を接続するために使用される。L2スイッチは、障害発生を検知し、管理システムに通知する機能を有している。また、障害発生時に別経路を自動的に選択する機能を有していてもよい。本実施形態では、拠点内でMPLSルータと映像伝送装置を接続するために使用されているが、別経路を自動的に選択する機能を有していない。
【0018】
映像伝送装置は、映像データをIPプロトコルで送信及び受信するために使用される。この装置も、障害発生を検知し、管理システムに通知する機能を有している。また、この装置に映像を符号化する装置、受信した映像データを復号する装置等が接続される。
【0019】
拠点は、MPLSルータ、L2スイッチ及び映像伝送装置のそれぞれ2組以上で構成されるIP映像伝送の拠点であり、拠点同士は、例えば東京、大阪のように物理的に離れて存在している。本実施形態では、各拠点はMPLSルータ、L2スイッチ及び映像伝送装置をそれぞれ2組有している。
【0020】
管理システムは、全ての拠点の機器を統括管理するために使用され、管理網に接続されている。本実施形態では、管理網はインバンドに構築されているため、実際には、映像伝送網に接続されている。管理システムは、この映像伝送網を使用して管理メッセージを、映像伝送網内の機器に送ることにより、これらの機器を設定、管理している。本実施形態では、管理システムは、拠点Cに接続されており、管理メッセージを拠点Aの映像伝送装置22(破線)、拠点BのL2スイッチ33(一点鎖線)に送っている。
【0021】
以上のように、本実施形態では、IP映像伝送網の仕組みを流用しているため、構成機器を冗長化すること及びサービスごとの優先制御が可能になる。さらに構成機器に、IP網で一般的に使用されている機器を使用しているため、低コストで映像伝送網を構築することが可能になる。
【0022】
上記のサービスごとの優先制御は、MPLSルータにより実現される。送受信するトラヒック(このトラヒックのことをサービスと言う)の種類を識別し、その種類に応じてQoSを提供する。優先制御には、IntServ(Integrated Services)と、DiffServ(Differentiated Services)とがあるが、本実施形態では、DiffServを使用して、複数の優先クラス間で相対的な転送性能差をつけることによって、トラヒックの優先制御を行っている。具体的には、映像トラヒックと管理トラヒックとをクラス分けし、管理トラヒックの優先度を高くする。このため、高負荷下でも管理トラヒックの送信が優先され、映像トラヒックにより管理トラヒックが棄却されることを防止できる。この優先制御により、管理網の通信が高負荷下でも安定して通信が可能になり、インバンドで管理網を構築する際の問題点の1つが解消される。
【0023】
また、上記の構成機器が冗長化されているため、障害が発生した場合でも代替機器により、伝送網及び管理網が自動的に復旧される。また、管理システムが機器の障害を検知することにより、障害を回復するための管理メッセージを構成機器に送信し、IP映像伝送網の障害を回復し、映像データを再度転送できるようになる。この冗長化によって、耐故障性のある管理網を実現でき、インバンドで管理網を構築する際の残りの問題点が解消される。これらの回復処理について、以下で図を用いて説明する。
【0024】
図2は、MPLSルータに障害が発生した場合の動作を示している。管理メッセージの到達経路は、MPLS区間内で自動的に再構築され、管理メッセージは、障害ルータを迂回することにより目的の機器に到達する。
【0025】
本例では、拠点BのMPLSルータ43に障害が発生した例である。ルータに障害が発生すると、ルータ広告が届かなくなることにより、拠点A、拠点B及び拠点CのMPLSルータ41、44、45は、拠点Bのルータ43に障害が発生したことを検知する。この場合、拠点Cのルータ45は、拠点C内の別のルータ46に管理メッセージを転送し、受け取ったルータ46が拠点Bのルータ44に転送する。拠点Bのルータ44は、管理メッセージの宛先が拠点A内の機器である場合、拠点Aのルータ42に転送することで、拠点Aの映像伝送装置22に管理メッセージを到達させることができる。これは、図2の破線の場合を示している。また、管理メッセージの宛先が拠点B内の機器である場合、拠点Bのルータ43が障害であることを認識しているため、このルータに転送せずL2スイッチ34に転送する。L2スイッチ34がL2スイッチ33に管理メッセージを転送することにより、拠点BのL2スイッチ33に管理メッセージを到達させることができる。これは、図2の一点鎖線の場合を示している。
【0026】
また、本図の障害の場合、障害が発生したルータ43を経由していた映像データは、管理メッセージの場合と同様に、拠点Bのルータ44を経由することになる。このため、拠点Bのルータ44及びルータ44に接続された回線の負荷が増大し、トラヒックの棄却が発生する場合がある。しかしながら、本実施形態では、管理メッセージの優先クラスを高くしているため、映像データよりも管理メッセージの方が、棄却されにくい。このため、管理システムは、管理メッセージを映像伝送装置に送ることにより、より優先度の低い映像データの転送を停止する、または映像データのビットレートを低くすることにより、データ転送量を削減し、ルータ44及びルータ44に接続された回線の負荷を解消するという適切な回復処理を講じることができる。さらに、障害発生箇所の通知が回線負荷により管理システムに到達しないことがなくなるため、管理システムは障害発生箇所の検知でき、障害機器の修復または交換を迅速に行うことができる。
【0027】
図3は、L2スイッチに障害が発生した場合の動作を示している。この場合、管理システムが障害を検知して、管理メッセージの到達経路を再構築する。
【0028】
本例では、拠点AのL2スイッチ32に障害が発生した例である。L2スイッチ32に障害が発生すると、例えばSNMPのトラップにより管理システム1はL2スイッチ32の障害を検知することができる。この場合、拠点Aの映像伝送装置22は、L2スイッチ32のみに接続されているため、使用できなくなる。このため、拠点Aの映像伝送装置に対する管理メッセージは、映像伝送装置21に送る必要が発生し、管理システム1は図3の破線のように、管理メッセージを映像伝送装置21に到達させる。また、管理システム1は、映像伝送装置22の代わりに拠点Aの映像伝送装置21を使用することを、拠点Aから映像を受信していた、または拠点Aに映像を送信していた他の拠点の映像伝送装置に通知する。これにより、拠点Aの映像伝送装置21と他の拠点の映像伝送装置間での映像の伝送が復旧される。なお、本例の場合、拠点BのL2スイッチ33に対する管理メッセージ(図3の一点鎖線)の経路は変化しない。
【0029】
図4は、映像伝送装置に障害が発生した場合の動作を示している。この場合もL2スイッチに障害が発生した場合と同様に、管理システムが障害を検知して、管理メッセージの到達経路を再構築する。
【0030】
本例では、拠点Aの映像伝送装置22に障害が発生した例である。映像伝送装置22に障害が発生すると、例えばSNMPのトラップにより管理システム1は映像伝送装置22の障害を検知することができる。この場合、拠点Aの映像伝送装置に対する管理メッセージは、映像伝送装置21に送る必要が発生し、管理システム1は図4の破線のように、管理メッセージを映像伝送装置21に到達させる。また、拠点Aの映像伝送装置22は使用できなくなるため、管理システム1は、代わりに拠点Aの映像伝送装置21を使用することを、拠点Aから映像を受信していた、または拠点Aに映像を送信していた他の拠点の映像伝送装置に通知する。これにより、拠点Aの映像伝送装置21と他の拠点の映像伝送装置間での映像の伝送が復旧される。なお、本例の場合、拠点BのL2スイッチ33に対する管理メッセージ(図4の一点鎖線)の経路は変化しない。
【0031】
本発明のIP映像伝送網は、映像データ以外のデータを流すことも可能である。この場合、このデータの優先クラスを管理メッセージの優先クラスより低くする。これにより、映像データとこのデータで、映像伝送網に輻輳が生じた場合でも、管理メッセージが棄却されることがなくなる。
【0032】
なお、本実施形態でのルータはMPLSルータを使用したが、サービスごとに優先制御を行う機能及び障害発生時に別経路を自動的に選択する機能を有していればよく、MPLSルータである必要性はない。
【0033】
なお、本実施形態のL2スイッチ及び映像伝送装置は、障害発生を検知し、管理システムに通知する機能を有していたが、この機能を有しないL2スイッチ及び映像伝送装置を使用した実施形態も可能である。この場合は、管理システムが定期的に管理メッセージを上記機器の送り、この応答により障害発生を検知することができる。
【0034】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態でのIP映像伝送網の構成を示している。
【図2】ルータに障害が発生した場合の動作を示している。
【図3】L2スイッチに障害が発生した場合の動作を示している。
【図4】映像伝送装置に障害が発生した場合の動作を示している。
【符号の説明】
【0036】
1 管理システム
21、22、23、24、25、26 映像伝送装置
31、32、33、34、35、36 L2スイッチ
41、42、43、44、45、46 MPLSルータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像伝送装置間を接続するIP映像伝送網内の構成機器を管理するために、管理トラヒックを伝送する管理網を構築する方法において、
前記IP映像伝送網内に前記管理トラヒックを伝送するためのインバンドな論理的な網を構築するステップと、
前記管理トラヒックを用いて前記構成機器を統括管理する管理システムを前記論理的な網に接続するステップと、
前記構成機器のうち、少なくともルータ、スイッチ、及び映像伝送装置を映像伝送の拠点ごとに冗長化するステップと、
前記映像伝送網内のサービスごとに優先制御を行い、前記論理的な網内の前記管理トラヒックに関するサービスの優先度を高くするステップと、
を含むことを特徴とする管理網構築方法。
【請求項2】
前記サービスごとの優先制御は、前記構成機器内のルータによって行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記拠点間は前記ルータによって接続され、該ルータの一部に障害が発生した場合、冗長化された他のルータにより、前記拠点間のルートが自動的に変更されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
映像伝送装置間を接続するIP映像伝送網内の構成機器を管理するために、管理トラヒックを伝送する管理網において、
前記IP映像伝送網内に前記管理トラヒックを伝送するためのインバンドに構築された論理的な網と、
前記論理的な網に接続され、前記管理トラヒックを用いて前記構成機器を統括管理する管理システムと、
映像伝送の拠点ごとに冗長化されたルータ、スイッチ、及び映像伝送装置と、
を含み、
前記映像伝送網内のサービスごとに優先制御を行い、前記論理的な網内の前記管理トラヒックに関するサービスの優先度を高くすることを特徴とする管理網。
【請求項5】
請求項4に記載の管理網を有することを特徴とするIP映像伝送網。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−49493(P2009−49493A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211268(P2007−211268)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】