説明

IVR画像の画質改善法

【課題】IVR画像について、ノイズを除去すると同時に、着目対象であるガイドワイヤや血管系等の線状の陰影を強調することができる方法を提供する。
【解決手段】画質改善すべき元のIVR画像(S1)に対しICA・Shrinkageフィルタ処理がなされ(S2)、ノイズ信号が除去された第1のIVR画像が生成される(S3)。第1のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理がなされ(S4)、その画像中の線状陰影の信号を強調した第2のIVR画像が生成される(S5)。第2のIVR画像のコントラストが反転せしめられた後、第1および第2のIVR画像が合成され(S6)、画質の改善されたIVR画像が生成される(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IVR(Interventional Radiology)画像の画質を改善する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IVRは、画像診断的介入治療法または放射線診断技術を応用した治療法とも呼ばれ、近年、血管系病変の治療等において果たす役割は増大しており、今後も、非常に有効な治療手段としてより一層発展することが期待されている。そして、この治療法を支える重要な要素の1つとして、放射線の透視の際の画質向上に関する技術がある。
【0003】
IVRにおいては、長時間の治療による患者の放射線被爆を最小限に抑えるため、通常の放射線撮影時の数十分の一程度の強度の放射線が照射され、透視画像が取得される。このため、放射線量の不足によって、粒子性のノイズ(量子ノイズ)が、着目対象であるガイドワイヤ、カテーテルおよび血管系の視認性を悪くしている。
そして、IVRでは、放射線による透視画像中においてガイドワイヤ、カテーテルおよび血管系等の線状の陰影が、良好な信号対雑音比(S/N比)で観察できることが極めて重要となっている。
【0004】
そこで、ガイドワイヤ、カテーテルおよび血管系等の線状の陰影を強調すると同時に、背景のノイズを除去する手法が必要とされる。この場合、従来のノイズ除去法においては、フーリエ変換やwavelet変換等が用いられており、フーリエ変換やwavelet変換では、三角関数やwavelet関数が基底関数として用いられ、ノイズを除去すべき対象画像は、これらの基底関数に基づいて成分分解される。そして、各成分についてフィルタリングがなされ、対象画像からノイズが除去される。ところで、三角関数およびwavelet関数は、いずれも、その関数形が予め数学的に決められていて、画像に基づいて導出されたものではなく、画像の処理に適した基底関数とはいえない。このため、フーリエ変換やwavelet変換等によっては、元の画像の信号成分を失うことなくノイズのみを除去することが困難であり、十分に満足のいくノイズ除去処理ができなかった(例えば、非特許文献1参照)。
また、血管等の画像信号を強調するフィルタとして、多重スケール(Multi-scale)フィルタがあるが、背景にある骨等の画像が見えにくくなったり、ノイズが強調されてしまったりするという問題があった(例えば、非特許文献2参照)。
すなわち、従来技術においては、IVR画像中のノイズ除去と線状陰影の強調とを同時に達成し得る手法はこれまでに存在しなかった。
【0005】
【非特許文献1】R.D. Nowak and R.Baraniuk, "Wavelet Domain Filtering for Photon Imaging Systems", IEEE Transactions on Image Processing, Volume: 8 Issue: 5 , May 1999 Page(s): 666-678
【非特許文献2】Frangi A. et al.,"Multiscale vessel enhancement filtering", Lecture Notes in Computer Science, Springer, LNCS 1496, pp.130-137 (1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、IVR画像について、ノイズを除去すると同時に、着目対象であるガイドワイヤや血管系等の線状の陰影を強調することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、(a)画質改善すべき元のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理を行い、ノイズ信号を除去した第1のIVR画像を生成するステップと、(b)前記第1のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理を行い、その画像中の線状陰影の信号を強調した第2のIVR画像を生成するステップと、(c)前記第2のIVR画像のコントラストを反転させた後、前記第1および第2のIVR画像を合成して画質の改善されたIVR画像を生成するステップと、を有することを特徴とするIVR画像の画質改善法を構成したものである。
【0008】
上記構成において、必要に応じて、前記ステップ(c)において前記第1および第2の画像を合成するとき、それぞれの画像に重み係数を付与することもできる。
【0009】
上記課題を解決するため、また、本発明は、(a’)画質改善すべき同一の元のIVR画像を2つ用意し、(b’)一方の前記元のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理を行い、ノイズ信号を除去した第1のIVR画像を生成するとともに、他方の前記元のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理を行い、その画像中の線状陰影の信号を強調した第2のIVR画像を生成するステップと、(c’)前記第2のIVR画像のコントラストを反転させた後、前記第1および第2のIVR画像を合成して、画質の改善されたIVR画像を生成するステップと、を有することを特徴とするIVR画像の画質改善法を構成したものである。
【0010】
上記構成において、必要に応じて、前記ステップ(c’)において前記第1および第2の画像を合成するとき、それぞれの画像に重み係数を付与することもできる。
【0011】
また、本発明の好ましい実施例によれば、前記ICA・Shrinkageフィルタ処理は、(i)予め与えられた複数のサンプル画像から、独立成分分析(ICA)によって、前記サンプル画像の特徴を統計的に表す基底関数の組を抽出するステップと、(ii)前記IVR画像をICA変換して、前記IVR画像を前記基底関数の線形和の形に成分分解するステップと、(iii)前記IVR画像を前記ICA変換したときの各変換係数を、Shrinkage関数によってフィルタ処理して前記IVR画像に含まれるノイズ成分を除去するステップと、(iv)前記フィルタ処理した後の各変換係数を用いてICA逆変換を行い、ノイズの除去されたIVR画像を得るステップと、からなっている。
【0012】
この場合、前記ステップ(iii)において、前記Shrinkage関数として、ポアッソンノイズに対するクロスバリデーション(cross-validation)法に基づくShrinkage関数を用いることが好ましく、また、前記ステップ(i)において、前記サンプル画像を、前記IVR画像に類似する対象物について前記IVR画像の取得時と近似した条件下で取得したデジタル画像に基づいて作成することが好ましい。
【0013】
本発明の別の好ましい実施例によれば、前記多重スケールフィルタ処理は、
(i)強調すべき線状陰影の幅に対応するスケールsをもつガウス関数G(x,y)を生成するステップと、
(ii)G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂x(=G(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂y(=G(x,y))を求め、さらに、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂x(=Gxx(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂x∂y(=Gxy(x,y))と、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂y∂x(=Gyx(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂y(=Gyy(x,y))とを求めるステップと、
(iii)前記IVR画像の各画素値L(x,y)の微分∂L(x,y)/∂x(=Lxx(x,y))、∂L(x,y)/∂x∂y(=Lxy(x,y))、∂L(x,y)/∂y∂x(=Lyx(x,y))および∂L(x,y)/∂y(=Lyy(x,y))を、
xx(x,y)=sγL(x,y)×Gxx(x,y)、
xy(x,y)=sγL(x,y)×Gxy(x,y)、
yx(x,y)=sγL(x,y)×Gyx(x,y)、
yy(x,y)=sγL(x,y)×Gyy(x,y)、
ここで、γは任意の定数である、
によって求めるステップと、
(iv)前記IVR画像の各画素の位置におけるヘッセ行列Hを
【数1】

により求めるステップと、
(v)前記ヘッセ行列Hの2つの固有値λ、λ(|λ|<|λ|)および対応する固有ベクトルν、νを求め、
【数2】

を求めるステップと、
(vi)前記IVR画像の各画素値を、
【数3】

ここで、cおよびβは任意の定数である、
によって求めるステップと、
(vii)前記ガウス関数G(x,y)のスケールsの値を変更して、前記ステップ(ii)〜(vi)を繰り返すステップと、
(viii)前記ステップ(ii)〜(vii)を所定の回数繰り返した後、得られたI(x,y)を用いて、
【数4】

に従って、前記IVR画像の各画素値を求めるステップと、からなっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ICA・Shrinkageフィルタ処理と多重スケールフィルタ処理を組み合わせたことにより、IVR画像中のエッジ部分などの細部がぼけることなく、画像全体に分散する量子ノイズの低減を図ることができるとともに、画像中の血管、ガイドワイヤやカテーテル等の直線状の陰影部分を強調することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例によるIVR画像の画質改善法のフロー図である。図1を参照して、本発明によれば、まず、画質改善すべき元のIVR画像(図1のS1)に対しICA・Shrinkageフィルタ処理がなされ(図1のS2)、ノイズ信号が除去された第1のIVR画像が生成される(図1のS3)。
【0016】
図2は、ICA・Shrinkageフィルタ処理のフロー図である。以下、図2を参照して、ICA・Shrinkageフィルタ処理について説明する。まず、予め与えられたサンプル画像から、独立成分分析(ICA)法によって、サンプル画像の特徴を統計的に表す基底関数の組が抽出される(図2のS20、S21)。サンプル画像としては、画質を改善すべきIVR画像により適合した基底関数の組を得るべく、当該IVR画像に類似する別のIVR画像が用いられる。また、ICA法によるサンプル画像からの基底関数の抽出は統計的になされるので、できるだけ多数のサンプル画像を用いることが、IVR画像により適合した基底関数の組を得るうえで好ましい。
【0017】
ICA法を用いてサンプル画像から基底関数の組を抽出する方法を次に説明する。
ICA法によれば、サンプル画像[x↑,x↑,・・・,x↑](文字の後ろに「↑」の記号を付した場合はベクトル表示であることを表す。以下同様。)は、基底関数[a↑,a↑,・・・,a↑]の線形和で表され、その結合係数sは統計的に独立である。これを数式で表すと次のようになる。
【0018】
【数5】

ここで、x↑=Σsij↑(jについての総和)はi番目のサンプル画像であり、行列Sの列ベクトルs↑はその画像の独立な結合係数であり、特徴ベクトルと呼ばれる。また、a↑はj番目の基底関数である。
【0019】
(1)式を行列式として表すと、
X↑=A↑・S↑ (2)
となる。
サンプル画像セット行列X↑のみから、基底関数と特徴ベクトルを求めることは、一種のブラインドソース分離問題とみなせるので、ICA法を用いて解くことができる。
ICAでは、あるn×mの分離行列W↑を用いて、
Y↑=W↑・X↑ (3)
においてY↑を計算し、Y↑の各成分が互いに統計的に独立となるようなW↑を求める。
W↑を求めるに当たり、Y↑の各成分が独立か否かを判定する評価基準として、相互情報量(Kullback-Leibler divergence)または高次統計量(kurtosis)等が既に提案されている。この実施例では、Bell & Senjowskyが提案した相互情報量の最大化による手法を用いる。
【0020】
今、分離信号[y,y,・・・,y]が互いに独立であるとき、各成分yの同時分布密度関数p(y↑)=P(y,y,・・・,y)は、各成分yの周辺密度関数p(y)の積で表される。すなわち、
【0021】
【数6】

となる。評価関数として、p(y↑)とΠp(y)(iについての積)との距離を表すKullback-Leibler Divergence (D)が用いられる。Kullback-Leibler Divergence (D)は、エントロピーHと分離行列W↑を用いて以下のように表される。
【0022】
【数7】

ここで、
【0023】
【数8】

H(y↑)およびH(y)は、それぞれ、同時分布のエントロピーと周辺分布のエントロピーである。(3)式より、P(Y↑)=P(V↑)/|W↑|であるので、同時分布エントロピーH(y↑)は、次のように書き換えられる。
【0024】
【数9】

よって、(5)式のKullback-Leibler
divergence (D)は次のように書き換えられる。
【0025】
【数10】

ICA法では、p(y↑)とΠp(y)(iについての積)が一致するように分離行列W↑を求めるが、これは、(9)式のDを最小にするW↑を求める問題となる。
一般に、W↑を解析的に求めることはできず、(9)式のDを最小にするW↑を求めるには、下記の自然勾配法が用いられる。
W↑の変化分は、(7)式で与えられる。通常の最急降下法に比べると、収束がよく、計算も簡単である。
【0026】
【数11】

こうして、W↑の更新則は次式で与えられる。
【0027】
【数12】

ここで、μは学習率であり、I↑は単位行列であり、アンサンブル平均は時間平均に置き換えている。なお、p(yi)が未知であるから、g(y↑)は近似で求めることになる。この実施例では、g(y↑)はシグモイド関数である。(12)式により、Yが独立となるようなW↑が求まり、また、(3)式よりY↑が求まる。
【0028】
こうして、この実施例では、対象となるIVR画像とは別の4枚のIVR画像を用い、ICA法によって基底関数の組を抽出した。
まず、これら4枚のIVR画像(各々128画素×128画素のサイズを有する)から任意に8画素×8画素の大きさのパッチ12,000個を切り出し、基底関数の組を学習によって抽出するためのサンプル画像とした。この場合、サンプル画像を形成するパッチのサイズは特に限定されないが、抽出される基底関数の組が、画質を改善すべきIVR画像の空間的特徴を最もよく反映し得るようなパッチのサイズを設定することが好ましい。
【0029】
そして、各サンプル画像を64×1の1次元ベクトルに展開し、行列X↑の列ベクトルとする。それによって、64×12,000のサンプル画像セット行列X↑が得られる。行列X↑の行の数はサンプル画像のパッチの個数を表し、列の数はサンプル画像の数を表す。
(12)式を用いてW↑を学習すると、64×64の行列W↑が求められ、このときのW↑の各列が基底関数となる。この実施例では、基底関数の数は64となる。
【0030】
再び図2を参照して、次に、IVR画像が、上で求めた基底関数の組を用いてICA変換され、基底関数の線形和の形に成分分解される(図2のS22、S23)。これを数式で表すと次のようになる。
【0031】
【数13】

【0032】
ここで、P↑はIVR画像であり、[a↑,a↑,・・・,aN−1↑]は基底関数であり、[s,s,・・・,sN−1]はICA変換の変換係数である。
【0033】
そして、IVR画像をICA変換したときの各変換係数が、Shrinkage関数によってフィルタ処理され、IVR画像に含まれるノイズ成分が除去される(図2のS24)。この実施例では、Shrinkage関数として、
【0034】
【数14】

ここで、δは、ポアッソンノイズの累乗であり、
【数15】

【0035】
この関数g(s↑)は、ポアッソンノイズに対するクロスバリデーション(cross-validation )法に基づくShrinkage関数であり、ポアッソンノイズの除去に最適である。なお、Shrinkage関数の関数形はこれに限定されるものではなく、例えば、次式で表されるような公知の適当な関数形を用いることができる。
【数16】

こうして、ノイズ分散δの増加に伴って、係数sの縮小される割合が大きくなる。
【0036】
さらに、フィルタ処理後の各変換係数を用いてICA逆変換が行われ、ノイズ成分の除去されたIVR画像(第1のIVR画像)が得られる(図2のS25、S26)。これを式で表すと次のようになる。
【0037】
【数17】

【0038】
ここで、P(ハット)は第1のIVR画像であり、[a↑,a↑,・・・,aN−1↑]は基底関数であり、[s(ハット),s(ハット),・・・,sN−1(ハット)]はフィルタ処理後の変換係数である。
【0039】
図5は、この実施例で用いた元のIVR画像を示したものであり、図6は、図5のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理を行って得られた第1のIVR画像を示したものである。図5および図6のIVR画像の比較から、ICA・Shrinkageフィルタ処理によって、画像中の縞模様のような構造的なノイズがかなり除去されており、処理前のIVR画像を劣化させることなく、ノイズ成分を除去できることがわかる。
【0040】
なお、上記実施例では、対象IVR画像をICA変換した後、変換係数をShrinkage関数によってフィルタ処理することでノイズ成分を除去するようにしたが、このフィルタ処理を行うとともに、IVR画像における分解された画像部分のうち、目視によりノイズを含んでいると認識された画像部分を除去するようにしてもよい。
【0041】
ICA・Shrinkageフィルタ処理によれば、複数のサンプル画像から独立成分分析(ICA)によって学習、抽出した基底関数に基づき、元のIVR画像をICA変換し、変換係数をShrinkage関数によってフィルタ処理することでノイズ成分を除去した後、ICA逆変換によって第1のIVR画像を得るようにしたので、元の画像の信号成分を失うことなくノイズ成分を除去することができる。
【0042】
再び図1を参照して、本発明によれば、次に、第1のIVR画像に対し多重スケール(Multi-scale)フィルタ処理がなされ(図1のS4)、その画像中の線状陰影の信号を強調した第2のIVR画像が生成される(図1のS5)。図3には、多重スケールフィルタ処理のフロー図が示してある。
【0043】
図3を参照して、多重スケールフィルタ処理において、まず、強調すべき線状陰影の幅に対応するスケールsをもつガウス関数G(x,y)が生成される(図3のS30)。すなわち、ガウス関数Gのスケールsの大きさに応じて、IVR画像中の強調される線状の陰影部分の幅が決定される。
【0044】
次に、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂x(=G(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂y(=G(x,y))が求められ、さらに、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂x(=Gxx(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂x∂y(=Gxy(x,y))と、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂y∂x(=Gyx(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂y(=Gyy(x,y))が求められる(図3のS31)。
【0045】
そして、第1のIVR画像の各画素値L(x,y)の微分∂L(x,y)/∂x(=Lxx(x,y))、∂L(x,y)/∂x∂y(=Lxy(x,y))、∂L(x,y)/∂y∂x(=Lyx(x,y))および∂L(x,y)/∂y(=Lyy(x,y))が、
xx(x,y)=sγL(x,y)×Gxx(x,y)、
xy(x,y)=sγL(x,y)×Gxy(x,y)、
yx(x,y)=sγL(x,y)×Gyx(x,y)、
yy(x,y)=sγL(x,y)×Gyy(x,y)、
ここで、γは任意の定数である、
によって求められる(図3のS32)。
【0046】
さらに、第1のIVR画像の各画素の位置におけるヘッセ行列Hが
【数18】

によって求められ(図3のS33)、ヘッセ行列Hの2つの固有値λ、λ(|λ|<|λ|)および対応する固有ベクトルν、νが求められる(図3のS34)。この場合、λの固有ベクトルνは、関係する線状陰影の軸方向を表し、λの固有ベクトルνは、当該線状陰影の軸に対し垂直な方向を表している。
【0047】
そして、
【数19】

が計算され(図3のS35)、IVR画像の各画素値が、
【数20】

ここで、cおよびβはいずれも任意の定数である、
によって求められる(図3のS35)。この式において、βの値を大きくすればするほど画像は明るくなり、cの値を大きくすればするほど画像は暗くなる。
【0048】
次に、ガウス関数G(x,y)のスケールsが変更され、図3のステップS30〜S35が繰り返される。そして、すべてのsについて計算が完了したとき、得られたI(x,y)を用いて、
【数21】

に従って、IVR画像の各画素値が求められる(図3のS37)。この場合、計算に使用されるスケールsの値の組は、対象となるIVR画像中に現われた血管、ガイドワイヤおよびカテーテル等の線状の陰影部分の各幅に対応して、予め決定される。
【0049】
再び図1を参照して、本発明の方法によれば、さらに、得られた第2のIVR画像のコントラストが反転せしめられ、その画像と第1のIVR画像が合成され(図1のS6)、画質の改善されたIVR画像が生成される(図1のS7)。なお、第1および第2のIVR画像の合成に際し、必要に応じて、各画像に重み係数が付与される。
【0050】
図7は、図6のIVR画像(第1のIVR画像)に対し多重スケールフィルタ処理を行って得られた第2のIVR画像を示したものである。また、図8は、図7のIVR画像(第2のIVR画像)のコントラストを反転させた画像と、図6のIVR画像(第1のIVR画像)を合成して得られた、画質の改善されたIVR画像を示したものである。この場合、第1のIVR画像の割合を1とし、コントラスト反転した第2のIVR画像の割合を0.1として両画像を合成し、得られた画像を1.1で割っている。
図5および図8のIVR画像の比較から、本発明による画質改善法によれば、IVR画像におけるノイズ除去と線状陰影の強調を同時に達成することができることがわかる。
【0051】
上記実施例では、IVR画像が静止画像である場合について説明してきたが、本発明の方法は、IVR画像が動画像である場合にも適用可能である。この場合には、動画像を1フレーム毎の画像に分解し、分離した画像毎に上記と同様の処理を行い、処理後の各画像を再合成すればよい。
【0052】
図4は、本発明の別の実施例によるIVR画像の画質改善法のフロー図である。図4を参照して、この実施例では、画質改善すべき同一の元のIVR画像が2つ用意される(図4のS10)。そして、一方の元のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理がなされ、ノイズ信号が除去された第1のIVR画像が生成される一方(図4のS11、S12)、他方の元のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理がなされ、その画像中の線状陰影の信号が強調された第2のIVR画像が生成される(図4のS13、S14)。
【0053】
そして、第2のIVR画像のコントラストが反転せしめられ(図4のS15)、その画像と第1のIVR画像とが合成され(図4のS16)、画質の改善されたIVR画像が生成される(図4のS17)。なお、第1および第2のIVR画像の合成の際に、必要に応じて、各画像に重み係数が付与され得る。
この実施例の場合にも、図1の実施例の場合と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の1実施例によるIVR画像の画質改善法のフロー図である。
【図2】図1中のICA・Shrinkageフィルタ処理のフロー図である。
【図3】図1中の多重スケールフィルタ処理のフロー図である。
【図4】本発明の別の実施例によるIVR画像の画像改善法のフロー図である。
【図5】画質を改善すべきIVR画像を示したものである。
【図6】図5のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理を行って得られた第1のIVR画像を示したものである。
【図7】図6のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理を行って得られた第2のIVR画像を示したものである。
【図8】図7のIVR画像(第2のIVR画像)のコントラストを反転させ、その画像と図6のIVR画像(第1のIVR画像)を合成して得られた、画質の改善されたIVR画像を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)画質改善すべき元のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理を行い、ノイズ信号を除去した第1のIVR画像を生成するステップと、
(b)前記第1のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理を行い、その画像中の線状陰影の信号を強調した第2のIVR画像を生成するステップと、
(c)前記第2のIVR画像のコントラストを反転させた後、前記第1および第2のIVR画像を合成して、画質の改善されたIVR画像を生成するステップと、を有することを特徴とするIVR画像の画質改善法。
【請求項2】
前記ステップ(c)において前記第1および第2の画像を合成するとき、それぞれの画像に重み係数を付与することを特徴とする請求項1に記載のIVR画像の画質改善法。
【請求項3】
(a’)画質改善すべき同一の元のIVR画像を2つ用意し、
(b’)一方の前記元のIVR画像に対しICA・Shrinkageフィルタ処理を行い、ノイズ信号を除去した第1のIVR画像を生成するとともに、他方の前記元のIVR画像に対し多重スケールフィルタ処理を行い、その画像中の線状陰影の信号を強調した第2のIVR画像を生成するステップと、
(c’)前記第2のIVR画像のコントラストを反転させた後、前記第1および第2のIVR画像を合成して画質の改善されたIVR画像を生成するステップと、を有することを特徴とするIVR画像の画質改善法。
【請求項4】
前記ステップ(c’)において前記第1および第2の画像を合成するとき、それぞれの画像に重み係数を付与することを特徴とする請求項3に記載のIVR画像の画質改善法。
【請求項5】
前記ICA・Shrinkageフィルタ処理は、
(i)予め与えられた複数のサンプル画像から、独立成分分析(ICA)によって、前記サンプル画像の特徴を統計的に表す基底関数の組を抽出するステップと、
(ii)前記IVR画像をICA変換して、前記IVR画像を前記基底関数の線形和の形に成分分解するステップと、
(iii)前記IVR画像を前記ICA変換したときの各変換係数を、Shrinkage関数によってフィルタ処理して前記IVR画像に含まれるノイズ成分を除去するステップと、
(iv)前記フィルタ処理した後の各変換係数を用いてICA逆変換を行い、ノイズの除去されたIVR画像を得るステップと、からなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のIVR画像の画質改善法。
【請求項6】
前記ステップ(iii)において、前記Shrinkage関数として、ポアッソンノイズに対するクロスバリデーション(cross-validation)法に基づくShrinkage関数を用いることを特徴とする請求項5に記載のIVR画像の画質改善法。
【請求項7】
前記ステップ(i)において、前記サンプル画像を、前記IVR画像に類似する対象物について前記IVR画像の取得時と近似した条件下で取得したデジタル画像に基づいて作成することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多重スケールフィルタ処理は、
(i)強調すべき線状陰影の幅に対応するスケールsをもつガウス関数G(x,y)を生成するステップと、
(ii)G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂x(=G(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂y(=G(x,y))を求め、さらに、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂x(=Gxx(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂x∂y(=Gxy(x,y))と、G(x,y)のx方向の微分∂G(x,y)/∂y∂x(=Gyx(x,y))およびy方向の微分∂G(x,y)/∂y(=Gyy(x,y))とを求めるステップと、
(iii)前記IVR画像の各画素値L(x,y)の微分∂L(x,y)/∂x(=Lxx(x,y))、∂L(x,y)/∂x∂y(=Lxy(x,y))、∂L(x,y)/∂y∂x(=Lyx(x,y))および∂L(x,y)/∂y(=Lyy(x,y))を、
xx(x,y)=sγL(x,y)×Gxx(x,y)、
xy(x,y)=sγL(x,y)×Gxy(x,y)、
yx(x,y)=sγL(x,y)×Gyx(x,y)、
yy(x,y)=sγL(x,y)×Gyy(x,y)、
ここで、γは任意の定数である、
によって求めるステップと、
(iv)前記IVR画像の各画素の位置におけるヘッセ行列Hを
【数1】


により求めるステップと、
(v)前記ヘッセ行列Hの2つの固有値λ、λ(|λ|<|λ|)および対応する固有ベクトルν、νを求め、
【数2】

を求めるステップと、
(vi)前記IVR画像の各画素値を、
【数3】

ここで、cおよびβは任意の定数である、
によって求めるステップと、
(vii)前記ガウス関数G(x,y)のスケールsの値を変更して、前記ステップ(ii)〜(vi)を繰り返すステップと、
(viii)前記ステップ(ii)〜(vii)を所定の回数繰り返した後、得られたI(x,y)を用いて、
【数4】

に従って、前記IVR画像の各画素値を求めるステップと、からなっていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のIVR画像の画質改善法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−28319(P2009−28319A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195693(P2007−195693)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】