説明

JAK経路の阻害のための組成物および方法

化合物IおよびIIならびにそれらの塩およびそれらを含有する薬学的組成物は、眼の疾患および/または障害を処置するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年7月28日付で出願された米国特許仮出願第61/229,191号の恩典およびその優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体がおよび全ての目的で本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は、化合物、そのプロドラッグ、塩およびそれらを含有する薬学的組成物、ならびに眼の疾患および/または障害の処置においてこれらの化合物、それらのプロドラッグおよび組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を含むJAKキナーゼ(JAnusキナーゼ)は細胞質タンパク質チロシンキナーゼのファミリーである。各々のJAKキナーゼはある種のサイトカインの受容体に選択性を示すが、複数のJAKキナーゼが特定のサイトカインまたはシグナル伝達経路によって影響を受けうる。研究から、JAK3はさまざまなサイトカイン受容体の共通のガンマ(γc)鎖と相互作用することが示唆されている。JAK3はとりわけ、受容体に選択的に結合し、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21に対するサイトカインシグナル伝達経路の一部である。JAK1は、数ある中でもサイトカインIL-2、IL-4、IL-7、IL-9およびIL-21に対する受容体と相互作用し、その一方でJAK2は、数ある中でもIL-9およびTNF-αに対する受容体と相互作用する。ある種のサイトカインのその受容体への結合によって(例えば、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21)、受容体のオリゴマー形成が起き、その結果、会合したJAKキナーゼの細胞質側末端を近接させ、JAKキナーゼのチロシン残基のトランスリン酸化を促進することになる。このトランスリン酸化がJAKキナーゼの活性化をもたらす。
【0004】
リン酸化されたJAKキナーゼは、さまざまなSTAT (シグナル伝達性転写因子(Signal Transducer and Activator of Transcription))タンパク質を結合する。チロシン残基のリン酸化により活性化されるDNA結合タンパク質であるSTATタンパク質は、シグナル伝達分子としても転写因子としても機能し、サイトカイン応答遺伝子のプロモーターに存在する特異的なDNA配列に最終的に結合する。JAK/STATシグナル伝達は、アレルギー、喘息、移植片(同種移植片)拒絶反応などの自己免疫疾患、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症および多発性硬化症、眼性障害または眼性疾患などの多くの異常な免疫応答の媒介に関与しているほか、白血病およびリンパ腫などの固形悪性病変および血液悪性病変にも関与している。
【0005】
ドライアイ症候群(乾性角膜炎)は特に広まっている臨床的問題である。ドライアイ障害は蒸発機能不全または涙液欠乏のいずれかによって一般に引き起こされる。蒸発機能不全は正常涙腺機能の存在下で生じるが、しかしマイボーム腺機能不全、正常眼瞼機能の喪失、または眼表面の原因(コンタクトレンズの使用もしくは眼アレルギーなど)によって引き起こされる場合がある。涙液欠乏はシェーグレン症候群または非シェーグレン症候群のいずれかによって一般に引き起こされる。ドライアイのさまざまな原因にもかかわらず、最終的な病理学的機序は露出角膜表面の脱水による前眼球涙液膜の破壊であり、これは角膜の不快感および刺激を引き起こす。臨床検査に関して、ドライアイの兆候としては、眼球結膜血管拡張、結膜のひだ形成(conjunctival pleating)、涙液メニスカスの減少、不規則な角膜表面、および涙液膜中の壊死組織片の増加を挙げることができる。通常、ベンガルローズ染色またはフルオレセイン染色によるびまん性角膜染色が観察され、より進行した症例ではフィラメントまたは粘膜斑を認めることができる。
【0006】
ドライアイの診断には種々の臨床検査が用いられている。これらの検査には涙液メニスカスの深さ、涙液層破壊時間の減少、およびシルマー試験の検査が含まれる。
【0007】
ドライアイの一般的な原因はシェーグレン症候群であり、これは免疫細胞が、涙液および唾液を生ずる腺を攻撃して損なう自己免疫障害である。この障害の顕著な症状はドライマウスおよびドライアイである。シェーグレン症候群は米国において100〜400万人に影響を与えており、この疾患を発症する可能性は女性の方が9倍高い。シェーグレン症候群は原発性病態として、または全身性エリテマトーデス(「紅斑性狼瘡」)もしくは関節リウマチなどの、他の自己免疫疾患に関連した続発性障害として起こりうる。ドライアイは酒さなどの他の多く見られる障害に関連して認められることが多い。ドライアイはまた、イソトレチノイン、利尿薬、三環系抗うつ薬、鎮静薬、降圧薬、経口避妊薬、抗ヒスタミン薬、鼻充血除去薬および多くの他のものなどの多くの医薬によく見られる副作用である。
【0008】
ドライアイ状態の蔓延にもかかわらず、主要な処置は依然として、角膜を潤すためのおよび一時的な症状の軽減を提供するための人工涙液(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースなど)の使用である。別の一般的処置は、涙点閉鎖であり、この場合、通常は涙液を排出するのに役立つ導管を閉鎖することによって眼からの涙液の流出を部分的に妨げることができる。基礎疾患の処置が、例えば適切な抗生物質で酒さを処置することにより、ドライアイの症状を改善することもある。とはいえ、(限定されるものではないが)免疫介在性乾性角膜炎などの種々のドライアイ障害の軽減をもたらす処置を提供することが望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0009】
概要
JAK経路の調節に関わる処置によって利益になりうる多数の条件を考慮すれば、JAK経路を調節する新たな化合物およびこれらの化合物を使用する方法は、多種多様の患者にかなりの治療上の利点をもたらすことが現在理解されている。
【0010】
開示されるのは、化合物、プロドラッグ、対応する塩形態、ならびに眼の疾患および/または障害の処置においてこれらの化合物、プロドラッグおよび塩形態を使用する方法である。
【0011】
一つの態様では、化合物I、ならびにその溶媒和物、プロドラッグおよび薬学的に許容される塩を提供する。

【0012】
一つの態様では、化合物Iの特定のプロドラッグ、および薬学的に許容されるその塩形態を提供し、これは化合物IIである。

【0013】
一つの局面において、眼性障害は、化合物Iおよび/またはIIならびにその塩形態および該化合物を含む薬学的組成物の有効量を用いて処置される。一つの態様では、眼の疾患および/または障害を処置するのに有効な化合物Iおよび/またはIIの量を対象に投与する段階を含む、眼の疾患および/または障害を処置する方法を提供する。本明細書で開示される化合物を用いて処置される眼の疾患および障害には、ドライアイ症候群、糖尿病性網膜症、黄斑変性症(加齢黄斑変性症など)、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、緑内障および酒さが含まれるが、これらに限定されることはない。特定の例において、障害は、角膜炎または乾性角結膜炎などのドライアイ障害、例えば、涙腺の障害などの、不十分な涙液産生または異常な涙液組成によって引き起こされる障害である。特定の非限定的な例において、障害はシェーグレン症候群などの、自己免疫または免疫介在性障害である。他の例において、障害は特発性乾性角膜炎または酒さである。
【0014】
眼性障害を処置するための開示される方法の一つの局面において、本明細書で開示される2,4-ピリミジンジアミン化合物の一つまたは複数の投与は、未処置の涙液産生量と比べて涙液産生量を増加させ、それによりドライアイ障害の症状を改善するのに有効である。一つの局面において、涙液産生量は5日以内に、例えば4日未満で、およびいくつかの例では、2日未満で増加する。一つの態様において、涙液産生量は本明細書で開示される2,4-ピリミジンジアミン化合物による初期処置から2日以内に初期涙液産生より少なくとも約25%だけ増加する。他の態様において、涙液産生は2日未満以内に初期涙液産生より少なくとも約50%など、少なくとも約30%増加する。本化合物の投与による涙液産生の増加は、場合によっては、正常の涙液産生に匹敵する涙液産生量をもたらす。
【0015】
別の局面において、式Iおよび/もしくはIIの化合物、または薬学的に許容されるその塩形態は、抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、抗生物質、抗ウイルス薬および緑内障薬と組み合わせて投与されるか、または抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、抗生物質、抗ウイルス薬および緑内障薬とともに補助的に投与される。特定の例において、抗炎症剤は全身に(例えば経口的にもしくは非経口的に)または局所的に(点眼薬中で)投与される非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)もしくはコルチコステロイド(プレドニゾロンなど)または免疫抑制薬(シクロスポリンAなど)でありうる。miR遺伝子産物を阻害するモノクローナル抗体(サイトカイン阻害薬など)または剤を用いることもできると考えられる。他の例において、処置は、涙点閉鎖、または角膜の一面に液体で満たされた層を作出する強膜もしくは半強膜のコンタクトレンズを対象に取り付けるなどの非薬学的処置と組み合わされる。さらに他の組み合わせ処置には、ドライアイに関連する基礎障害の併用処置または補助的処置、例えば、抗酒さ薬によるまたはテトラサイクリン系抗生物質(例えばミノサイクリンもしくはドキシサイクリン)などのレジメンによる酒さの処置、あるいは顔面紅斑または鼻瘤を低減するためのレーザー手術を含めることができる。
【0016】
典型的には、式Iおよび/またはIIの開示される化合物は、局所的に眼性障害を処置するために用いられる場合、典型的には少なくとも1日1回、例えば1日2回、投与される。
【0017】
別の態様において、本発明は、親形態または塩形態のいずれかの、化合物Iおよび/またはII、ならびに少なくとも一つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、保存剤もしくは安定剤またはそれらの混合物を含む薬学的製剤を提供する。別の例において、薬学的製剤は、乾性角膜炎の一因となっている基礎症状(シェーグレン疾患または酒さなど)を処置するために意図されている複合製剤を含む、非ステロイド性もしくはステロイド性の抗炎症剤またはドライアイ用の他の処置薬も含む複合製剤である。さらに他の例において、化合物Iおよび/またはIIは、薬物の局所経眼投与およびドライアイからの症状軽減のためのビヒクルを提供する、潤滑性組成物、特に粘性組成物で投与される。
【0018】
これらの態様および他の態様を以下でさらに詳細に記載している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
定義
本明細書において用いられる場合、特に指定のない限り以下の定義が適用されるものとする。
【0020】
「コルチコステロイド」は、副腎皮質中で産生されるステロイドホルモンである。コルチコステロイドはストレス応答、免疫応答および炎症の調節、炭水化物代謝、タンパク質異化、血中電解質レベル、ならびに挙動などの広範囲の生理システムに関与している。コルチコステロイドの例としては、コルチゾール、プレドニゾンおよびプレドニゾロンが挙げられる。コルチコステロイドは、経口的に、非経口的に(例えば注射により)、または点眼薬による眼内での直接局所点眼により投与することができ、それらは複合製剤中で式Iおよび/またはIIの化合物と組み合わされてもよい。
【0021】
「乾性角膜炎」または「乾性角結膜炎」または「ドライアイ症候群」は、涙液産生の減少または蒸発の増加に関連する、かつ炎症性、非炎症性、外傷性、医原性、薬物誘導性、酒さ関連性、または特発性の起源などの、さまざまな病因を有するドライアイ状態を意味する。ドライアイの特定の原因は、例えば涙腺またはマイボーム腺の適切な機能を損なう自己免疫関連状態のため、涙腺からの涙液の産生の減少である。この状態は薬物または非薬物療法、例えば涙点閉鎖(例えば涙点へプラグを導入することによる、または涙点開口部もしくは涙管を除去するもしくは部分的に除去する電気焼灼を用いることによる)などで処置することができる。
【0022】
「非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)」は、プロスタグランジンの産生を阻害することによって働く抗炎症剤の一種である。NSAIDSは抗炎症作用、鎮痛作用および解熱作用を及ぼす。NSAIDSの例としては、イブプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、ナプロキセン、スリンダク、アスピリン、サブサリチル酸コリン、ジフルニサル、フェノプロフェン、インドメタシン、メクロフェナメート、サルサラート、トルメチンおよびサリチル酸マグネシウムが挙げられる。これらの剤は経口的に、非経口的に(例えば注射により)、または点眼薬による眼内での直接局所点眼により投与することができ、それらは複合製剤中で式Iおよび/またはIIの化合物と組み合わされてもよい。
【0023】
「対象」はヒトおよび非ヒト対象を意味する。
【0024】
「薬学的に許容される塩」とは、化合物の薬学的に許容される塩をいい、この塩は当技術分野において周知のさまざまな有機および無機対イオンから生じる。
【0025】
「薬学的有効量」または「治療的有効量」とは、特定の障害もしくは疾患またはその症状の1つもしくは複数を処置するのにおよび/あるいは疾患または障害の発生を阻止するのに十分な化合物の量をいう。
【0026】
「正常涙液産生の回復」という語句は、McMonniesとHoのドライアイ質問票において14.5未満の応答スコア、試験結果(例えば眼科診療における当業者に知られている通りレッドフェノール、フルオレセインなど)または指標の組み合わせなどの標準的な眼科診療において記載されているドライアイ症状の停止を意味する。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「涙液産生を有意に増加させる」という語句は、標準的な眼科診療によって測定される涙液産生の統計的に有意な(p < 0.05など)増加を意味する。例えば涙液産生は、シルマー試験、フェノールレッド綿糸試験、涙液層破壊時間(フルオレセイン染色によるなど)、ローズベンガル染色などによって測定することができる。
【0028】
化合物
開示されるのは、化合物、プロドラッグ、対応する塩形態、ならびに眼の疾患および/または障害の処置においてこれらの化合物、プロドラッグおよび塩形態を使用する方法である。
【0029】
化合物IおよびII、ならびにそれらの塩形態およびそれらを含有する薬学的組成物を以下でさらに詳細に記載している。化合物IはN2-(3-アミノスルホニル-4-メチルフェニル)-5-フルオロ-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミンともいわれる。化合物IIは5-フルオロ-N2-(4-メチル-3-プロピオニルアミノスルホニルフェニル)-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミンともいわれる。

【0030】
説明の簡潔さを目的に、化合物Iおよび化合物IIが具体的に言及されているいずれの態様にも、塩形態、ならびに/または化合物Iおよび/もしくは化合物IIを含有する薬学的組成物を用いた、対応する態様が存在する。
【0031】
当業者は、化合物IIが化合物Iのプロドラッグであること、および化合物IIは、必ずしも必要ではないが、化合物Iに変換されるまで薬理学的に不活性であることを理解するであろう。プロピオニルプロ基が代謝される機序は、重要ではなく、例えば、胃の酸性条件下で加水分解により、ならびに/あるいは体内の消化管および/または組織もしくは臓器に存在する酵素、例えば、エステラーゼ、アミダーゼ、リポラーゼ、ATPアーゼおよびキナーゼを含むホスファターゼ、肝臓のチトクロームP450などにより引き起こされうる。本明細書において記載される特定の態様において、化合物Iおよび/またはIIは、眼性障害を処置するために用いられ、それゆえ、眼に直接投与されてもよい。いくつかの態様において、投与には局所だけでなく注射なども含めることができる。これらの投与方法は、例えば、化合物Iおよび/またはIIの体循環を介した眼に対する治療的有用性を排除するものではない。
【0032】
当業者は、化合物IおよびIIが互変異性、立体配座異性および/または幾何異性の現象を示しうることを理解するであろう。本発明は化合物の任意の互変異性体、立体配座異性体および/または幾何異性体、ならびにこれらの種々の異なる異性体の混合物を包含することが理解されるべきである。アトロプ異性体は、単結合についての回転障害から生じる立体異性体であり、その回転に対する障壁は、配座異性体の単離を可能にするほど十分に高い(Eliel, E. L.; Wilen, S. H. Stereochemistry of Organic Compounds; Wiley & Sons: New York, 1994; Chapter 14)。アトロプ異性体は、立体性原子の非存在下において対掌性の要素を導入するので重要である。本発明は、例えば、2,4-ピリミジンジアミンコア構造と、それに結合された基との間の結合周囲、または例えばスルホンアミドと、それに結合されたフェニル環との間の結合周囲が制限された回転の場合のアトロプ異性体を包含することが意図される。化合物IおよびIIは塩の形態であってもよい。このような塩には、薬学的な使用に適した塩(「薬学的に許容される塩」)、獣医学的な使用に適した塩などが含まれる。このような塩は、当技術分野において周知である通りに、酸または塩基から導出されうる。本明細書において記載される例示的な塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アルギニン塩、コリン塩およびカルシウム塩であるが、一般的に、本明細書において記載される方法には任意の薬学的に許容される塩が用いられてもよい。化合物Iおよび化合物IIは塩基性基、例えばピリミジン窒素も、酸性基、例えばスルホンアミドの酸性プロトンならびに/またはピリミジンジアミン系のN2およびN4の窒素も有するので、これらの化合物は薬学的に許容される酸付加塩または塩基付加塩を形成することができる。
【0033】
一つの態様において、塩は薬学的に許容される塩である。一般的に、薬学的に許容される塩は、親化合物の所望の薬理学的活性の一つまたは複数を実質的に保持し、かつヒトへの投与に適した塩である。薬学的に許容される塩としては、無機酸または有機酸とともに形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容される酸付加塩の形成に適した無機酸としては、限定ではなく例証として、ハロゲン化水素酸(例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸など)、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。薬学的に許容される酸付加塩の形成に適した有機酸としては、限定ではなく例証として、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、パルミチン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタン-ジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸など)、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸など)、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクタ-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、ターシャリーブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などが挙げられる。
【0034】
薬学的に許容される塩にはまた、親化合物に存在する酸性プロトンが金属イオン(例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンもしくはアルミニウムイオン)によって置き換えられているか、または有機塩基(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルグルカミン、モルホリン、ピペリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、アンモニアなど)と配位しているかのいずれかの場合に形成される塩も含まれる。
【0035】
化合物IおよびIIならびにその塩は、当技術分野において周知である通り、溶媒和物、例えば水和物およびN-酸化物の形態であってもよい。
【0036】
方法
本発明は、眼の疾患および/または障害の処置で用いるための、2,4-置換ピリミジンジアミン化合物IおよびII、そのプロドラッグ、塩ならびに薬学的組成物を提供する。具体的には、単独でのまたは他の剤との組み合わせでの、化合物IおよびII。記載される通りに、化合物Iおよび/または化合物IIは、親形態および/または塩形態として、ならびにその薬学的製剤として投与することができる。
【0037】
本明細書で用いられる場合におよび当技術分野において十分に理解されている通り、「処置」は、臨床の結果を含む、有益な結果または望ましい結果を得るためのアプローチである。本発明の目的で、有益な結果または望ましい結果は、以下に限定されるものではないが、検出可能か検出不能かにかかわらず、一つもしくは複数の症状の軽減もしくは改善、疾患を含む状態の程度の縮減、疾患を含む状態の安定した(すなわち、悪化のない)状況、疾患の拡大の阻止、疾患を含む状態の進行の遅延もしくは緩徐化、疾患を含む状態の状況の改善もしくは緩和、および寛解(部分寛解または完全寛解を問わない)の一つまたは複数を含むことができる。化合物IおよびII(少なくとも化合物Iの供給源として)は、強力であり、そのため極低用量で局所的に投与され、したがって全身性の副作用を最小限に抑えられることができる。
【0038】
化合物IおよびIIは、JAKキナーゼの強力かつ選択的な阻害剤であり、JAK3を含んだサイトカインシグナル伝達経路に特に選択的である。この活性のゆえに、JAKキナーゼ活性、JAKキナーゼが役割を担うシグナル伝達カスケード、およびそのようなシグナル伝達カスケードによって達成される生物学的応答を調節または阻害するために、該化合物を各種インビトロ、インビボおよびエクスビボの状況で使用してもよい。例えば、一つの態様において、JAKキナーゼを発現する実質的にいかなる細胞型においても、インビトロまたはインビボのいずれかでJAKキナーゼを阻害するために該化合物を使用してもよい。例えば、JAK3などが顕著に発現される造血細胞において。JAKキナーゼ、とりわけJAK3が役割を担うシグナル伝達カスケードを調節するためにそれらを使用することもできる。そのようなJAK依存性のシグナル伝達カスケードは、例えば、IL-4、IL-7、IL-5、IL-9、IL-15およびIL-21、またはIL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21受容体シグナル伝達カスケードなどの、共通のγ鎖を含むサイトカイン受容体のシグナル伝達カスケードを含むが、これらに限定されるものではない。そのようなJAK依存性のシグナル伝達カスケードの影響を受ける細胞応答または生物学的応答を調節するために、およびとりわけ阻害するために、該化合物をインビトロまたはインビボにおいて使用することもできる。そのような細胞応答または生物学的応答は、IL-4/ラモス(ramos) CD23の上方制御、IL-2媒介性のT細胞増殖などを含むが、これらに限定されるものではない。重要なことには、JAKキナーゼ活性によって全体的にまたは部分的に媒介される疾患の処置または予防に対する治療的なアプローチとして、JAKキナーゼをインビボにおいて阻害するために、該化合物を使用してもよい。このような疾患は「JAKキナーゼ媒介性の疾患」といわれる)。
【0039】
理論によって束縛されることを望むわけではないが、本明細書において記載される化合物は、少なくとも部分的には、そのJAK阻害活性により、これらの眼の障害の有効な処置であるものと考えられる。本方法により処置または予防できる、少なくとも部分的には、JAKキナーゼによって介在される疾患の例としては、ドライアイ症候群、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、緑内障、交感性眼炎および(眼の)酒さを含むが、これらに限定されない、眼の疾患および障害が挙げられる。しかしながら、上記の活性の結果として、本明細書において記載される方法は眼性障害の処置を対象とするが、化合物および/または製剤の投与は、つまり、身体の他の組織または臓器での、他の治療的有用性を保有しうる。一つの態様は、副次的利益も実現される、眼性障害または疾患を処置する方法である。前記の通り、一つの態様では、眼の疾患および/または障害を処置するのに有効な化合物の量を対象に投与する段階を含み、該化合物が化合物Iおよび化合物IIから選択される、眼の疾患および/または障害を処置する方法を提供する。眼の疾患および障害は、ドライアイ症候群、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、緑内障および(眼の)酒さを含むが、これらに限定されることはない。別名、乾性角結膜炎(KCS)、乾性角膜炎、乾燥症候群、または眼球乾燥症として知られているドライアイ症候群(DES)は、ヒトおよび一部の動物によく見られる涙液産生の減少または涙液層蒸発の増加によって引き起こされる眼の疾患である。ブドウ膜炎または虹彩毛様体炎は眼の中間層(「ブドウ膜」)の炎症を意味し、一般的な用法では、眼内に関わる任意の炎症過程を意味することができる。アレルギー性結膜炎はアレルギーによる結膜(眼の白色部分を覆う膜)の炎症である。緑内障は、視神経に影響を与える疾患群を意味し、特徴的パターンでは網膜神経節細胞の喪失、すなわち、一種の視神経症を伴う。眼圧の上昇は緑内障(22 mmHgまたは2.9 kPaを上回る)の発症の重大なリスク因子であり、炎症過程、例えばブドウ膜炎はこの眼圧の上昇を引き起こしうる。
【0040】
酒さは、顔面紅斑によって特徴付けられる慢性炎症状態であるが、眼および鼻(鼻瘤)に影響を与えうる。本方法は両方の顔面紅斑、鼻瘤および眼酒さの処置を含む。一つの態様において、眼の疾患および/または障害はドライアイ症候群、糖尿病性網膜症、黄斑変性症 ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、緑内障 酒さおよびそれらの組み合わせから選択される。一つの態様において、眼の疾患および/または障害はドライアイ症候群である。別の態様において、眼の疾患および/または障害はブドウ膜炎である。一つの態様において、眼の疾患および/または障害はアレルギー性結膜炎である。一つの態様において、眼の疾患および/または障害は緑内障である。別の態様において、眼の疾患および/または障害は酒さである。
【0041】
一つの態様において、化合物Iおよび/または化合物IIは、上記の眼性疾患および/または障害のいずれかを処置するために用いられる。一つの態様において、化合物Iおよび/またはIIは塩形態として用いられる。特定の態様において、化合物IIは塩形態として用いられる。一つの態様において、化合物IIの塩はナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルギニン塩およびコリン塩から選択される。
【0042】
同時投与
眼の疾患を処置するために用いられる場合、化合物IおよびIIは個々に、混合物として、ならびに/または眼の疾患および/または障害を処置するのに有用な他の剤と組み合わせて投与されてもよい。化合物IおよびIIは、わずかな例を挙げると、ステロイド、膜安定化薬、5-リポキシゲナーゼ(5LO)阻害剤、ロイコトリエン合成および受容体阻害剤、IgEアイソタイプスイッチングまたはIgE合成、IgGアイソタイプスイッチングまたはIgG合成の阻害剤、β-アゴニスト、トリプターゼ阻害剤、アスピリン、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤、メトトレキサート、抗TNF薬、リツキサン、PD4阻害剤、p38阻害剤、PDE4阻害剤、ならびに抗ヒスタミン薬などの、他の障害または病気を処置するのに有用である剤との混合物でまたは該剤と組み合わせて投与されてもよい。化合物IおよびIIはそれ自体で、プロドラッグの形態で、または活性化合物および/もしくはプロドラッグを含む、薬学的組成物として投与されてもよい。
【0043】
化合物IおよびIIと組み合わせて使用されてもよい特定の免疫抑制療法は、例えば、メルカプトプリン、プレドニゾンなどのコルチコステロイド、メチルプレドニゾロンおよびプレドニゾロン、シクロホスファミドなどのアルキル化剤、シクロスポリン、シロリムスおよびタクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤、ミコフェノレート、ミコフェノール酸モフェチルおよびアザチオプリンなどのイノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)の阻害剤、ならびに種々の抗体(例えば、抗リンパ球グロブリン(ALG)、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)、モノクローナル抗T細胞抗体(OKT3))を含む、レシピエントの体液性免疫応答を完全のままにしながら細胞性免疫を抑制するように設計された剤を含む。これらの種々の剤は、市販薬に添付の処方情報に定められている通りに(またthe prescribing information in the 2006 Edition of The Physician's Desk Referenceも参照されたい)、その標準的または一般的な投与量にしたがって使用することができ、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。アザチオプリンは商標名AZASANでSalix Pharmaceuticals, Inc.から現在入手可能であり; メルカプトプリンは商標名PURINETHOLでGate Pharmaceuticals, Inc.から現在入手可能であり; プレドニゾンおよびプレドニゾロンはRoxane Laboratories, Inc.から現在入手可能であり; メチルプレドニゾロンはPfizerから現在入手可能であり; シロリムス(ラパマイシン)は商標名RAPAMUNEでWyeth-Ayerstから現在入手可能であり; タクロリムスは商標名PROGRAFでFujisawaから現在入手可能であり; シクロスポリンは商標名SANDIMMUNEでNovartisからおよび商標名GENGRAFでAbbottから現在入手可能であり; ミコフェノール酸モフェチルおよびミコフェノール酸などのIMPDH阻害剤は、商標名CELLCEPTでRocheからおよび商標名MYFORTICでNovartisから現在入手可能であり; アザチオプリンは商標名IMURANでGlaxo Smith Klineから現在入手可能であり; ならびに抗体は商標名ORTHOCLONEでOrtho Biotechから、商標名SIMULECT (バシリキシマブ)でNovartisから、および商標名ZENAPAX (ダクリズマブ)でRocheから現在入手可能である。
【0044】
一つの態様において、式Iおよび/もしくはIIの化合物、または薬学的に許容されるその塩形態は、抗ヒスタミン薬、抗生物質、抗炎症薬、抗ウイルス薬および緑内障薬と組み合わせて投与されるか、または抗ヒスタミン薬、抗生物質、抗炎症薬、抗ウイルス薬および緑内障薬とともに補助的に投与される。眼内でよく用いられる抗生物質の例は、スルファセタミド、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、シプロフロキサシンおよびオフロキサシンである。コルチコステロイド(「ステロイド」といわれることもある)は、副腎によって産生される天然物質に類似しており、多種多様な眼の問題に対して非常に有効な抗炎症薬である。コルチコステロイドは、眼内で安全に用いることができ、しかもプレドニゾンのように経口ステロイドに関連するリスクの大部分を持たない。眼を処置するために用いられるコルチコステロイドは、プレドニゾロン、フルオロメトロンおよびデキサメタゾンを含むが、これらに限定されることはない。眼用の非ステロイド性抗炎症薬は、イブプロフェン、ジクロフェナク、ケトロラクおよびフルルビプロフェンを含むが、これらに限定されることはない。一般的な抗ヒスタミン薬はリボスチン、パタノール、クロモリン、アロミドを含む。フェニラミンなどの、処方箋のいらない眼用の抗ヒスタミン薬もあり、これは効き目が弱いものの、より軽度の症例では非常に有益でありうる。一般的な抗ウイルス眼薬は、トリフルオロチミジン、アデニン、アラビノシドおよびイドクスウリジンを含むが、これらに限定されることはない。緑内障薬では、典型的には、眼の眼圧、つまり眼の内部の液圧を低減して、失明をもたらす視神経への損傷を阻止することを試みる。これらの医薬は、眼内で産生される体液の量を減らすことにより、眼の自然排液管を通じて存在する体液の量を増やすことにより、または体液が眼から出るさらなる経路を提供することにより、圧力を下げることができる。多くの場合、複数種の緑内障薬が同時に用いられると考えられる。というのは、これらの作用が組み合わさって、一種の薬剤だけで可能であるよりもさらにもっと圧力を下げることができるからである。一般的な緑内障薬は、チモロール、メチプラノロール、カルテオロール、ベタキソロールおよびレボブノロールなどのβ遮断薬; ラタノプロストなどのプロスタグランジン類似体; ピロカルピンおよびカルバコールなどのコリン作動性アゴニスト; ブリモニジンおよびアイオピディンなどのαアゴニスト; ドルゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤; ならびにエピネフリンおよびジピベフリンなどのアドレナリンアゴニストを含むが、これらに限定されることはない。
【0045】
薬学的組成物
本明細書において記載される化合物IおよびIIを含む薬学的組成物は、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠形成、水簸、乳化、被包、封入または凍結乾燥工程によって製造することができる。該組成物は、薬学的に使用できる調製物への活性化合物の加工処理を促進する一つまたは複数の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤を用いて従来の様式で製剤化することができる。
【0046】
化合物IおよびIIは、本明細書において記載した通り、そのまま薬学的組成物で、または水和物、溶媒和物、N-酸化物もしくは薬学的に許容される塩の形態で製剤化されてもよい。典型的には、そのような塩は、対応する遊離酸および遊離塩基よりも水溶液中での溶解度が高いが、対応する遊離酸および遊離塩基よりも低い溶解度を有する塩を形成させることもできる。
【0047】
一つの態様において、化合物Iおよび/または化合物II、ならびに少なくとも一つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、保存剤、安定剤、またはその混合物を含む薬学的製剤が提供される。
【0048】
一つの態様において、該化合物は既に記載の通り、無毒性の薬学的に許容される塩として供与される。本発明の化合物の適した薬学的に許容される塩は、塩酸、フマル酸、p-トルエンスルホン酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、炭酸またはリン酸とともに形成されるものなどの酸付加塩を含む。アミン基の塩はまた、アミノ窒素原子がアルキル、アルケニル、アルキニルまたはアラルキル部分などの適した有機基を保有する第四級アンモニウム塩も含むことができる。さらに、本明細書に記載される化合物が酸性部分を保有する場合、適した薬学的に許容されるその塩は、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩またはカリウム塩、およびアルカリ土類金属塩、例えばカルシウム塩またはマグネシウム塩などの金属塩を含むことができる。
【0049】
本明細書に記載される薬学的に許容される塩は従来の手段により、例えば、塩が不溶性である溶媒中もしくは媒質中で、または真空で除去される水などの溶媒中で、生成物の遊離塩基形態を一つまたは複数の等量の適切な酸と反応させることにより、あるいは凍結乾燥により、あるいは既存の塩の陰イオンを適したイオン交換樹脂上の別の陰イオンと交換することにより、形成させてもよい。
【0050】
化合物IおよびIIは、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹膜内、静脈内、ICV、脳槽内注射もしくは注入、皮下注射、またはインプラント)により、吸入スプレー、鼻腔、膣内、直腸、舌下、尿道(例えば、尿道坐剤)または局所的な投与経路(例えば、ゲル、軟膏、クリーム、エアロゾルなど)により投与されてもよく、各投与経路に適切な従来の無毒性の薬学的に許容される担体、補助剤、賦形剤およびビヒクルを含有する適した投与量単位製剤中で、一緒にまたは単独で、製剤化されてもよい。マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、サルなどの温血動物の処置に加えて、本明細書に記載される化合物はヒトにおいて有効でありうる。
【0051】
化合物IおよびIIの投与のための薬学的組成物は、好都合なことには、投与量単位形態で供与されてもよく、製薬の技術分野において周知の方法のいずれかによって調製されてもよい。薬学的組成物は、例えば、液体担体もしくは微粉化した固体担体またはその両方と活性成分を均一および密接に会合し、その後、必要ならば、生成物を所望の製剤に成形することで調製することができる。薬学的組成物の中には、活性な対象化合物が所望の治療効果をもたらすのに十分な量で含まれる。例えば、本明細書に記載される薬学的組成物は、例えば、局所投与、眼内投与、経口投与、口腔投与、全身投与、鼻腔投与、注射、経皮投与、直腸投与、膣内投与などを含む実質的にいかなる投与方法にも適した形態、または吸入もしくは注入による投与に適した形態をとることができる。
【0052】
局所投与の場合、当技術分野において周知である通り、JAK選択的な化合物またはプロドラッグは溶液、ゲル、軟膏、クリーム、懸濁液などとして製剤化されてもよい。特に、溶液、ゲル、軟膏、クリームおよび懸濁液が眼への直接投与によく適している。一つの態様は、溶液、ゲル、軟膏、クリームおよび懸濁液から選択される、化合物Iおよび/または化合物IIを含む薬学的製剤である。一つの態様において、製剤は溶液である。別の態様において、製剤はゲルである。別の態様において、製剤は懸濁液である。別の態様において、製剤はクリームまたは軟膏である。一つの態様は、局所的にかまたは眼への注射によるかのいずれかの、眼への投与のためのキット中の上記の製剤のいずれかである。一つの態様において、製剤は、点眼薬として製剤を投薬するボトルに入って販売される、液体、例えば均一な液体または懸濁液である。一つの態様において、製剤は、眼に、例えば、まぶたの下に、製剤を投薬するチューブに入って販売される、クリームまたは軟膏である。別の態様において、化合物は眼内での点眼のために粘性液体(カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリビニルアルコールまたは含油点滴薬などの)中で提供される。製剤は保存剤を有してもよく、または保存剤が入っていなくても(例えば使い捨ての容器中で)よい。保存剤が入っていない調製物の使用は、眼内での保存剤の導入に感受性があり、それによって悪化することが多いドライアイの処置において特に有用でありうる。
【0053】
全身製剤には、注射、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、髄膜または腹腔内注射による投与のために設計されたもの、ならびに経皮、経粘膜、経口または経肺投与のために設計されたものが含まれる。
【0054】
有用な注射可能な調製物には水性または油性ビヒクル中の活性化合物の無菌懸濁液、溶液または乳濁液が含まれる。本組成物は、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化された剤を含有することもできる。注射用製剤は、単位剤形で、例えば、アンプル中でまたは複数回用量の容器中で供与してもよく、かつ追加の保存剤を含有してもよい。
【0055】
あるいは、注射可能な製剤は使用前に、無菌の、発熱物質を含まない水、緩衝液、デキストロース溶液などを含むがこれらに限定されない、適したビヒクルでの再構成のための粉末の形態で提供されてもよい。このために、活性化合物を凍結乾燥などの、任意の当技術分野において公知の技術によって乾燥し、使用の前に再構成してもよい。
【0056】
経粘膜投与の場合、透過される障壁に適切な浸透剤を製剤中で使用する。このような浸透剤は当技術分野において公知である。
【0057】
経口投与の場合、本薬学的組成物は、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース); 増量剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロースもしくはリン酸水素カルシウム); 滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクもしくはシリカ); 崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンもしくはデンプングリコール酸ナトリウム); または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤を用い従来の手段によって調製される薬用ドロップ、錠剤またはカプセルの形態をとることができる。錠剤は、例えば、糖、被膜または腸溶コーティングを用い当技術分野において周知の方法によりコーティングしてもよい。さらに、経口用に適した形態で活性な成分またはそのプロドラッグとして2,4-置換ピリミジンジアミンを含有する薬学的組成物は、例えば、トローチ剤、薬用ドロップ、水性もしくは油性の懸濁液、分散性の粉末もしくは顆粒、乳濁液、硬質もしくは軟質のカプセル、またはシロップもしくはエリキシルを含むこともできる。経口用の組成物は薬学的組成物の製造のための当技術分野において公知の任意の方法にしたがって調製してもよく、このような組成物は、薬学的に上質で味のよい調製物を供与するために、甘味剤、香料添加剤、着色剤および防腐剤からなる群より選択される一つまたは複数の剤を含有してもよい。錠剤は、錠剤の製造に適した無毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物で活性成分(プロドラッグを含む)を含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤、造粒剤および崩壊剤(例えば、コーンスターチまたはアルギン酸)、結合剤(例えば、デンプン、ゼラチンまたはアカシア)、ならびに滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルク)であってもよい。錠剤はコーティングされなくてもよいか、または消化管での崩壊および吸収を遅延し、それによって長時間にわたり持続作用を提供するために、それらを公知の技術によりコーティングしてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を用いてもよい。それらを米国特許第4,256,108号、同第4,166,452号および同第4,265,874号に記載されている技術によりコーティングして、制御放出のための浸透性の治療用錠剤を形成させてもよい。本明細書に記載される薬学的組成物は水中油型の乳濁液の形態であってもよい。
【0058】
経口投与用の液体調製物は、例えば、エリキシル、溶液、シロップもしくは懸濁剤の形態をとってもよく、またはそれらは使用前に水もしくは他の適したビヒクルにより構成される乾燥生成物として供与されてもよい。そのような液体調製物は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用脂)、乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア)、非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、クレモフォール(商標)または分画植物油)、および保存剤(例えば、メチルまたはプロピル-p-ヒドロキシ安息香酸またはソルビン酸)のなどの、薬学的に許容される添加剤を用い従来の手段によって調製してもよい。これらの調製物は必要に応じて、緩衝塩、保存剤、香味料、着色剤および甘味剤を含有してもよい。
【0059】
周知の通り、経口投与用の調製物は、適切に製剤化されて、活性化合物またはプロドラッグの制御放出を与えてもよい。
【0060】
口腔投与の場合、本組成物は、従来の様式で製剤化された錠剤または薬用ドロップの形態をとってもよい。
【0061】
直腸および膣内の投与経路の場合、本活性化合物は、ココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含有する溶液(停留浣腸用)、坐剤または軟膏として製剤化してもよい。
【0062】
鼻腔投与または吸入もしくは注入による投与の場合、本活性化合物またはプロドラッグは、加圧パックまたは適した高圧ガス、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、フッ化炭素、二酸化炭素もしくは他の適したガスを用いた噴霧器からのエアロゾルスプレーの形態で都合よく送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投与量単位は、一定量を送達する弁を供与することで確定してもよい。本化合物およびラクトースまたはデンプンなどの適した粉末基剤の粉末混合物を含有する、吸入器または注入器で用いるカプセルおよびカートリッジ(例えば、ゼラチンから構成されるカプセルおよびカートリッジ)が、作成されてもよい。
【0063】
薬学的組成物は、無菌の注射可能な水性または油性懸濁液の形態であってもよい。この懸濁液は、上記で記載されている適した分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用い公知の技術にしたがって製剤化してもよい。無菌の注射可能な調製物は、無毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の無菌の注射可能な溶液または懸濁液であってもよい。用いてもよい許容されるビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル液および塩化ナトリウム等張液がある。化合物IおよびIIは、薬物の直腸または尿道投与用の坐剤の形態で投与されてもよい。特定の態様において、該化合物は、例えば、とりわけ男性での、生殖状態の処置で用いるための、例えば、精巣機能障害の処置用の尿道坐剤として製剤化してもよい。
【0064】
本発明によれば、2,4-置換ピリミジンジアミン化合物は、直腸または尿道投与に適した医用薬剤を含む、医用薬剤または組成物を製造するのに使用することができる。本発明はまた、坐剤を含む、尿道または直腸投与に適した形態で2,4-置換ピリミジンジアミン化合物を含む組成物を製造する方法にも関する。
【0065】
局所使用の場合、化合物IおよびIIを含有するクリーム、軟膏、ゼリー、ゲル、溶液、または懸濁液などを用いてもよい。局所投与に適した医用薬剤を含む組成物または医用薬剤の製造のために、化合物IおよびIIを使用してもよい。ある種の態様において、化合物IおよびIIは、ポリエチレングリコール(PEG)を用い局所投与に向けて製剤化することができる。これらの製剤は任意で、希釈剤、安定剤および/または補助剤などの、さらなる薬学的に許容される成分を含んでもよい。特定の態様において、局所製剤は、眼性疾患および/眼性障害の処置のために製剤化される。
【0066】
特定の例の化合物IおよびIIを投与するために使用してもよい装置のなかに含まれるのは、定量吸入器、液体噴霧器、乾燥粉末吸入器、噴霧機、熱気化器などのような、当技術分野において周知のものである。特定の2,4-置換ピリミジンジアミン化合物の投与に適した他の技術には、電気流体力学的エアロゾル発生器(electrohydrodynamic aerosolizer)が含まれる。スプレーおよびエアロゾルを用いて、化合物自体をまたは製剤において化合物を、直接眼に投与することができる。
【0067】
化合物IおよびIIを眼に投与するのに適したさまざまなビヒクルは、当技術分野において公知である。非限定的な具体例は、米国特許第6,261,547号; 米国特許第6,197,934号; 米国特許第6,056,950号; 米国特許第5,800,807号; 米国特許第5,776,445号; 米国特許第5,698,219号; 米国特許第5,521,222号; 米国特許第5,403,841号; 米国特許第5,077,033号; 米国特許第4,882,150号; および米国特許第4,738,851号に記載されている。典型的には、経眼投与用の製剤は、約0.0001重量% (w/w)〜約1.0重量% (w/w)などの、本明細書において開示される2,4-ピリミジンジアミン化合物の薬学的有効量を含有する。いくつかの製剤では、化合物の薬学的有効量は0.0003%〜約0.1% (w/w)、例えば約0.003%〜約0.5% (w/w)、または約0.01%〜約0.03% (w/w)などである。
【0068】
ある例では、経眼投与用の本明細書で開示される2,4-ピリミジンジアミン化合物を含有する眼科組成物は、等張化剤、緩衝液またはその両方を含む。眼科組成物のいくつかの例では、等張化剤は単炭水化物または糖アルコールである。当業者には公知である通りに、等張化剤を本組成物中で用いて、好ましくは正常涙液の張度にまで、組成物の張度を調整することができる。適した等張化剤の例としては、非限定的に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、デキストロース、フルクトース、ガラクトースなどの炭水化物、例としてマンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルト、マルチトールを含む、糖アルコールなどのポリオール、およびそれらの組み合わせが挙げられる。緩衝液を含有する組成物は、いくつかの例では、リン酸塩、クエン酸塩またはその両方を含有する。
【0069】
一つの局面において、本明細書で開示される2,4-ピリミジンジアミン化合物の経眼投与用の組成物は、任意で界面活性剤、安定化重合体またはその両方を含有してもよい。界面活性剤は、投与される2,4-ピリミジンジアミン化合物のより高濃度の送達を促進するためにいくつかの組成物で用いられる。そのような界面活性剤は、化合物を溶解するように働きうる。例示的な界面活性剤としては、ポリソルベート、ポロキサマー、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシルヒマシ油、チロキサポール、トライトンおよびソルビタンラウリン酸モノエステルが挙げられる。いくつかの態様において、界面活性剤はTritonX114、チロキサポールおよびその組み合わせから選択される。経眼投与用の組成物のさらに別の態様において、安定化重合体はカルボマー974pである。
【0070】
本明細書において記載する2,4-置換ピリミジンジアミン化合物もしくはプロドラッグ、またはその組成物は通常、希望の結果を得るのに有効な量で、例えば、処置される特定の状態を処置または予防するのに有効な量で使用される。該化合物は、治療上の利点を得るために治療用に、または予防的有用性を得るために予防用に投与してもよい。治療上の利点とは、たとえ患者が基礎疾患に依然として苦しんでいても、気分または状態の改善が患者により報告されるような、処置される基礎疾患の根絶もしくは改善、および/または基礎疾患に関連する症状の一つもしくは複数の根絶もしくは改善を意味する。例えば、アレルギー反応が原因の眼性障害を患う患者への化合物の投与は、根本的なアレルギー反応が根絶または改善される場合にだけでなく、アレルゲンへの曝露後のアレルギーに関連する症状の重症度または持続時間の低減が患者から報告される場合にも治療上の利点をもたらす。治療上の利点にはまた、症状の改善を実感するか否かに関わらず、疾患の進行の停止または緩徐化も含まれる。
【0071】
予防的投与の場合、すでに記載された状態の一つを発現する危険性がある患者に、本化合物を投与してもよい。例えば、患者が特定の薬物にアレルギーがあるかどうかが不明な場合、薬物に対するアレルギー反応を回避または改善するため、薬物の投与の前に本化合物を投与してもよい。あるいは、基礎疾患と診断された患者において症状の発症を回避するため、予防的投与が適用されてもよい。例えば、アレルゲンに対して予想される曝露の前に、化合物をアレルギー患者に投与してもよい。化合物を、上記の疾病の一つに対して公知の剤に繰り返し曝露される健常な個体に予防的に投与して、障害の発症を予防することもできる。例えば、個体がアレルギーを発現するのを予防するため、花粉などの眼におけるアレルギー反応を誘導することが公知のアレルゲンに繰り返し曝露される健常な個体に化合物を投与してもよい。
【0072】
投与される化合物の量は、例えば、処置される特定の状態、投与方法、処置される状態の重症度、患者の年齢および体重、特定の活性化合物の生物学的利用能などを含む、さまざまな要因に依存すると考えられる。有効な投与量の判定は十分、当業者の能力の範囲内である。当業者なら特定の個体に対する至適用量を判定することが可能であると考えられる。有効な投与量は、インビトロアッセイ法からまず推定しうる。例えば、動物で用いる初期投与量はインビトロアッセイ法と同じように測定される特定化合物のIC50のまたはそのIC50を超える、活性化合物の循環血中または血清濃度を達成するように製剤化してもよい。特定化合物の生物学的利用能を考慮に入れてこのような循環血中または血清濃度を達成する投与量の計算は十分、当業者の能力の範囲内である。参考までに、読者はFinglおよびWoodbury, 「General Principles」, Goodman and Gilman's The Pharmaceutical Basis of Therapeutics, Chapter 1, pp. 1-46, 最新版, Pergamon Press中、およびその中で引用されている参照文献を参照されたい。
【0073】
初期投与量は、動物モデルなどのインビボのデータから推定することもできる。上記のさまざまな疾患を処置または予防する化合物の効能を試験するのに有用な動物モデルは、当技術分野において周知である。投与量は、通常、約0.0001または0.001または0.01 mg/kg/日〜約100 mg/kg/日の範囲にあるが、他の要因の中でも、化合物の活性、その生物学的利用能、投与方法および上記のさまざまな要因に応じて、もっと高くてもまたはもっと低くてもよい。投与量および投与間隔を個別に調整して、治療的または予防的効果を維持するのに十分な、化合物の血漿レベルを提供されうる。例えば、数ある中でも、投与方法、処置される特定の適応症および処方医師の判断に応じて、化合物は週に一回、週に数回(例えば一日おきに)、一日一回または一日複数回投与してもよい。部分的局所投与などの部分的投与または選択的摂取の場合、活性化合物の有効な部分的濃度は、血漿濃度とは関係しないことがある。当業者は、過度に実験することなく有効な部分的投与量を最適化することができる。
【0074】
2,4-置換ピリミジンジアミン化合物の投与量の要件に関する上記の開示は、投与されるプロドラッグの量も、例えば、特定のプロドラッグの生物学的利用能、選択の投与経路下での活性な薬化合物への転換の速度および効率などを含む、さまざまな要因に依るという、当業者には明らかである認識を持って、プロドラッグに必要とされる投与量に関係する。特定の用途および投与方法のためのプロドラッグの有効な投与量の判定は十分、当業者の能力の範囲内である。
【0075】
有効な投与量は、インビトロでの活性および代謝アッセイ法からまず推定しうる。例えば、動物で用いるプロドラッグの初期投与量は、インビトロCHMCまたはBMMCアッセイ法ならびに2003年1月31付で出願された米国特許出願第10/355,543号(US2004/0029902A1)、2003年1月31日付で出願された国際特許出願番号PCT/US03/03022(WO 03/063794)、2003年7月29日付で出願された米国特許出願第10/631,029号、国際特許出願番号PCT/US03/24087(WO2004/014382)、2004年7月30日付で出願された米国特許出願第10/903,263号、および国際特許出願番号PCT/US2004/24716(WO005/016893)に記載されている他のインビトロアッセイ法などの、インビトロアッセイ法と同じように測定される特定化合物のIC50のまたはそのIC50を超える、代謝活性化合物の循環血中または血清濃度を達成するように製剤化しうる。所望の投与経路を介した特定のプロドラッグの生物学的利用能を考慮に入れた、このような循環血中または血清濃度を達成する投与量の計算は十分、当業者の能力の範囲内である。参考までに、読者はFinglおよびWoodbury, 「General Principles」, Goodman and Gilman's The Pharmaceutical Basis of Therapeutics, Chapter 1, pp. 1-46, 最新版, Pergamon Press中、およびその中で引用されている参照文献を参照されたい。経眼投与の場合、有効な投与量は、眼への投与から化合物の著しい体循環が生じない投与量、例えば、点眼薬が眼に添加されて眼性障害を処置し、かつ著しい体循環の前に非常に局在的な投薬が用いられる投与量でありうる。
【0076】
開示される方法において化合物IおよびIIの代わりになりうるさらなる化合物は、本明細書において特に企図され、2009年2月17日付で公表されたArgadeらの米国特許第7,491,732号および2007年8月30日付で公開された米国特許出願公開第2007/0203161号に記載されており、そのどちらも参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0077】
化合物の合成
化合物IおよびII、ならびに塩III〜VIIは、下記の通りにまたは下記の合成との類似性により合成される。代替合成は当業者によって理解されよう。
【0078】
実施例1

I: N2-(3-アミノスルホニル-4-メチルフェニル)-5-フルオロ-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン
4-ニトロフェノール(1.00 g, 7.19 mmol)、臭化プロパルギル(トルエン中80 wt %; 0.788 mL, 7.09 mmol)およびK2CO3 (1.08 g, 7.84 mmol)を混ぜ合わせ、アセトン(16.0 mL)中60℃で18時間撹拌した。反応混合物を室温に冷却し、水(200 mL)で希釈した。4-(プロパ-2-イニルオキシ)ニトロベンゼンを吸引ろ過により白色の固形物として分離した(1.12 g)。

【0079】
4-(プロパ-2-イニルオキシ)ニトロベンゼン(0.910 g, 5.13 mmol)、鉄(1.42 g, 25.3 mmol)およびNH4Cl (0.719 g, 12.8 mmol)をEtOH/水(1:1, 55 mL)中70℃で15分間激しく撹拌した。反応混合物を珪藻土を通して熱ろ過し、真空で濃縮した。残留物を10% 2 Nアンモニア性メタノールのジクロロメタン液に懸濁し、超音波処理し、珪藻土に通してろ過した。濃縮により4-(プロパ-2-イニルオキシ)アニリンを油状物として得て、これをさらには精製せずに用いた。

【0080】
4-(プロパ-2-イニルオキシ)アニリン(0.750 g, 5.10 mmol)および2,4-ジクロロ-5-フルオロピリミジン(1.27 g, 0.760 mmol, Sigma-Aldrich of Milwaukee, Wisconsin, USAから市販されている)をMeOH/水(4:1, 35 mL)中、室温で18時間撹拌した。反応混合物をEtOAc (200 mL)で希釈し、1 N HCl (50 mL)および塩水(50 mL)で洗浄した。有機層を乾燥し(MgSO4)、ろ過し、真空で濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサンをEtOAc:ヘキサン(1:10)に勾配)により精製して、2-クロロ-5-フルオロ-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-4-ピリミジンアミンを淡褐色の固形物(0.514 g)として得た。

【0081】
2-クロロ-5-フルオロ-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-4-ピリミジンアミン(0.514 g, 1.85 mmol)、3-(アミノスルホニル)-4-メチルアニリン(0.689 g, 3.70 mmol, 市販されている2-メチル-5-ニトロベンゼンスルホンアミドの還元によって作製され、または下記の通りに合成された)およびトリフルオロ酢酸(0.186 mL, 2.41 mmol)を密閉バイアル中でiPrOH (6.0 mL)と混合し、3時間100℃で加熱した。反応混合物を室温に冷却し、1 N HCl (80 mL)で希釈した。N2-(3-アミノスルホニル-4-メチルフェニル)-5-フルオロ-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン(I)を吸引ろ過により白色の固形物として分離した(0.703 g)。

【0082】
II: 5-フルオロ-N2-(4-メチル-3-プロピオニルアミノスルホニルフェニル)-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン
N2-(3-アミノスルホニル-4-メチルフェニル)-5-フルオロ-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン, I, (0.200 g, 0.467 mmol)、DMAP (40 mg, 0.33 mmol))およびトリエチルアミン(0.118 mL, 0.847 mmol)をTHF (6.0 mL)中で撹拌した。無水プロピオン酸(0.180 mL, 1.40 mmol)を溶液に滴加した。反応混合物を室温で終夜撹拌した。溶液を酢酸エチル(50 mL)で希釈し、水(5×25 mL)および塩水(10 mL)で洗浄した。有機層を乾燥し(MgSO4)、ろ過し、蒸発させた。残留物を酢酸エチル(25 mL)に懸濁し、超音波処理し、固形物をろ過により集めて、5-フルオロ-N2-(4-メチル-3-プロピオニルアミノスルホニルフェニル)-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン, II, (0.20 g)を得た。

【0083】
III: 5-フルオロ-N2-(4-メチル-3-プロピオニルアミノスルホニルフェニル)-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン一ナトリウム塩
5-フルオロ-N2-(4-メチル-3-プロピオニルアミノスルホニルフェニル)-N4-[4-(プロパ-2-イニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミン, II, (0.125 g, 0.258 mmol)をアセトニトリル(1.5 mL)および水(1.5 mL)に懸濁し、氷浴中で冷却した。1 N NaOH水溶液(0.260 mL)を滴加した。反応混合物を、透明になるまで撹拌し、グラスウールに通してろ過し、凍結乾燥してIIのナトリウム塩を得た。

【0084】
以下の化合物を上記と同様の様式で作製した。
【0085】
IV: 5-フルオロ-N2-[4-メチル-3-(N-プロピオニルアミノスルホニル)フェニル]-N4-[4-(2-プロピニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミンカリウム塩

【0086】
V: 5-フルオロ-N2-[4-メチル-3-(N-プロピオニルアミノスルホニル)フェニル]-N4-[4-(2-プロピニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミンカルシウム塩

【0087】
VI: 5-フルオロ-N2-[4-メチル-3-(N-プロピオニルアミノスルホニル)フェニル]-N4-[4-(2-プロピニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミンアルギニン塩

【0088】
VII: 5-フルオロ-N2-[4-メチル-3-(N-プロピオニルアミノスルホニル)フェニル]-N4-[4-(2-プロピニルオキシ)フェニル]-2,4-ピリミジンジアミンコリン塩

【0089】
実施例2

5-アミノ-2-メチルベンゼンスルホンアミド
4-メチルニトロベンゼン(20 mmol)をクロロスルホン酸(5.29 mL, 80 mmol)により0℃で処理し、次いで、均一溶液を室温に戻した後に、これを110℃で24時間撹拌した。得られたスラリーを次いで、氷水(100 gm)に注ぎ、ジエチルエーテル(3×75 mL)で抽出し、有機相を水(75 mL)で洗浄し、次に無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次に溶媒を減圧下で除去して粗スルホニルクロリドを得て、これを酢酸エチルに溶解し、室温で終夜、水酸化アンモニウムとともに撹拌した。酢酸エチル層を分離した後に、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を混ぜ合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下で除去した。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン、その後ヘキサン中10%、20%、最大で50%までの酢酸エチル)により精製して、3-アミノスルホニル-4-メチルニトロベンゼン、LCMS: 純度: 95%; MS (m/e): 217 (MH+)を得た。
【0090】
3-アミノスルホニル-4-メチルニトロベンゼンのジクロロメタンおよびメタノール溶液に10% Pd/Cを加え、混合物を水素雰囲気下、15分間50 psiで振盪した。混合物を珪藻土に通してろ過し、ろ過ケーキをメタノールで洗浄した。混ぜ合わせた有機溶媒を減圧下で濃縮して粗生成物を得て、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン 1:1)によりさらに精製して、3-アミノスルホニル-4-メチルアニリン、LCMS: 純度: 87%; MS (m/e): 187 (MH+)を得た。
【0091】
実施例3
IL-4で刺激されたラモスB細胞株のアッセイ法
JAK阻害をアッセイする手段の一つは、下流の遺伝子産物の上方制御に及ぼす化合物IおよびIIの効果の検出である。ラモス/IL4アッセイ法においては、B細胞をサイトカインのインターロイキン-4 (IL-4)で刺激し、JAKファミリーキナーゼのJAK1およびJAK3のリン酸化を通じてJAK/Stat経路の活性化をもたらし、このことが次には、転写因子Stat-6をリン酸化し活性化する。活性化Stat-6により上方制御される遺伝子の一つが、低親和性IgE受容体CD23である。JAK1およびJAK3キナーゼに及ぼす阻害剤(例えば、本明細書において記載される2,4-置換ピリミジンジアミン化合物)の効果を調べるため、ヒトラモスB細胞をヒトIL-4により刺激する。刺激から20〜24時間後、CD23の上方制御がないか細胞を染色し、フローサイトメトリー(FACS)により分析する。対照条件に比べて、存在するCD23の量の低減により、試験化合物の活性がJAK キナーゼ経路を阻害することが示唆される。このタイプの例示的なアッセイ法を以下でさらに詳細に記載している。
【0092】
サイトカインのインターロイキン-4 (IL-4)で刺激したB細胞は、JAKファミリーキナーゼのJAK-1およびJAK-3のリン酸化を通じてJAK/Stat経路を活性化し、このことが次に、転写因子Stat-6をリン酸化し活性化する。活性化Stat-6により上方制御される遺伝子の一つが、低親和性IgE受容体CD23である。JAKファミリーキナーゼに及ぼす阻害剤の効果を調べるため、ヒト ラモスB細胞をヒトIL-4により刺激する。
【0093】
ラモスB細胞株はATCC (ATCCカタログ番号CRL-1596)から入手した。この細胞をATCC増殖プロトコルにしたがい、熱不活化した10%ウシ胎仔血清(FBS) (JRH Biosciences, Inc, Lenexa, Kansas, カタログ番号12106-500M)の入ったRPMI 1640 (Cellgro, MediaTech, Inc., Herndon, VA, カタログ番号10-040-CM)中で培養した。細胞を3.5×105個の密度で維持した。実験前日に、ラモスB細胞を細胞3.5×105個/mLに希釈して、確実にそれらが対数増殖期にあるようにした。
【0094】
細胞を、遠心沈殿し、5%血清入りのRPMIに懸濁した。96ウェル組織培養プレート中にて1点あたり細胞5×104個を使用した。細胞を37℃のインキュベータ中で1時間、化合物またはDMSO (Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, カタログ番号D2650)ビヒクル対照とともにプレインキュベートした。次いで、細胞を20〜24時間、終濃度50単位/mLのIL-4 (Peprotech Inc., Rocky Hill, NJ, カタログ番号200-04)により刺激した。その後、細胞を、遠心沈殿し、抗CD23-PE (BD Pharmingen, San Diego, CA, カタログ番号555711)で染色し、FACSにより解析した。San Jose, CaliforniaのBecton Dickinson Biosciencesから購入した、BD LSR I System Flow Cytometerを用いて検出を行った。このアッセイ法に基づき算出されたIC50を表1に示す。
【0095】
実施例4
IL-2により刺激した初代ヒトT細胞の増殖アッセイ法
本明細書において記載される化合物のJAK活性は、初代ヒトT細胞の増殖応答に及ぼす、本明細書において記載の化合物IおよびIIの効果をアッセイすることでさらに特徴付けることができる。このアッセイ法においては、末梢血から得られ、かつT細胞受容体およびCD28の刺激を通じて前活性化された初代ヒトT細胞は、サイトカインのインターロイキン-2 (IL-2)に応答して培養液中で増殖する。この増殖応答は、転写因子Stat-5をリン酸化かつ活性化するJAK1およびJAK3チロシンキナーゼの活性化に依存する。初代ヒトT細胞を72時間IL-2の存在下で化合物IおよびIIとともにインキュベートし、アッセイ法の終点で、細胞内ATP濃度を測定して細胞生存度を評価する。対照条件に比べて細胞増殖の低減は、JAKキナーゼ経路の阻害を示唆する。このタイプの例示的なアッセイ法を以下でさらに詳細に記載している。
【0096】
末梢血から得られ、かつT細胞受容体およびCD28の刺激を通じて前活性化された初代ヒトT細胞は、サイトカインのインターロイキン-2 (IL-2)に応答してインビトロで増殖する。この増殖応答は、転写因子Stat-5をリン酸化かつ活性化するJAK-1およびJAK-3チロシンキナーゼの活性化に依存する。
【0097】
ヒト初代T細胞を次の通りに調製した。全血を、健常ボランティアから採取し、PBSと1:1混合し、2:1の血液/PBS:フィコール比にてフィコールハイパック(Ficoll Hypaque) (Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ, カタログ番号17-1440-03)に重層し、1750 rpmにて4℃で30分間遠心分離した。血清:フィコール界面のリンパ球を、回収し、5倍容量のPBSで2回洗浄した。細胞を、40 U/mLの組換えIL2 (R and D Systems, Minneapolis, MN, カタログ番号202-IL (20 μg))の入ったイッセル(Yssel's)培地(Gemini Bio-products, Woodland, CA, カタログ番号400-103)に再懸濁し、1 μg/mLの抗CD3 (BD Pharmingen, San Diego, CA, カタログ番号555336)および5 μg/mLの抗CD28 (Immunotech, Beckman Coulter of Brea California, カタログ番号IM1376)により予めコーティングしておいたフラスコの中に播種した。初代T細胞を、3〜4日間刺激し、次いで新鮮なフラスコに移し、10% FBSおよび40 U/mLのIL-2入りのRPMI中で維持した。
【0098】
初代T細胞を、PBSで2回洗浄してIL-2を除去し、細胞2×106個/mLでイッセル培地に再懸濁した。80 U/mLのIL-2を含有する細胞懸濁液50 μLを、平底96ウェル黒色プレートの各ウェルに添加した。未刺激の対照の場合、IL-2をプレートの最終列から除いた。化合物を、ジメチルスルホキシド(DMSO, 純度99.7%, 細胞培養試験済み, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, カタログ番号D2650)中、3倍希釈で5 mMから連続的に希釈し、その後イッセル培地中1:250で希釈した。1ウェルあたり2×化合物50 μLを二通り添加し、細胞を37℃で72時間増殖させた。
【0099】
増殖は、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay (Promega)を用いて測定した。このアッセイ法では、代謝的に活性な細胞の指標として、存在するATPの定量化に基づき培養液中の生存細胞の数を判定する。この基質を、融解し、室温に到達させた。Cell Titer-Glo試薬および希釈剤を一緒に混合した後に、100 μLを各ウェルに添加した。プレートを回転式振盪機上で2分間混合して溶解を誘導し、室温でさらに10分間インキュベートしてシグナルを平衡化させた。検出は、Perkin Elmer, Shelton, CTから購入したWallac Victor2 1420マルチラベルカウンタを用いて行った。このアッセイ法の結果に基づいて計算したIC50を表1に示す。
【0100】
実施例5
IFNγにより刺激したA549上皮細胞株
本明細書において記載される化合物のJAK活性は、A549肺上皮細胞およびU937細胞に及ぼす、本明細書において記載の化合物IおよびIIの効果をアッセイすることで特徴付けることもできる。A549肺上皮細胞およびU937細胞は、種々の異なる刺激に応答してICAM-1 (CD54)の表面発現を上方制御する。それゆえ、ICAM-1発現を読出しに用いて、異なるシグナル伝達経路に及ぼす試験化合物の効果を同細胞型において評価することができる。IL-1βによる刺激はIL-1β受容体を通じてTRAF6/NFκB経路を活性化し、ICAM-1の上方制御を引き起こす。IFNγはJAK1/JAK2経路の活性化を通じてICAM-1の上方制御を誘導する。ICAM-1の上方制御を化合物の用量曲線にわたってフローサイトメトリーにより定量化することができ、EC50値を算出する。このタイプの例示的なアッセイ法を以下でおよび実施例6でさらに詳細に記載している。
【0101】
A549肺上皮細胞は、種々の異なる刺激に応答して、ICAM-1 (CD54)の表面発現を上方制御する。それゆえ、ICAM-1発現を読出しに用いて、異なるシグナル伝達経路に及ぼす化合物の効果を同細胞型において評価することができる。IFNγはJAK/Stat経路の活性化を通じてICAM-1を上方制御する。本実施例においては、IFNγによるICAM-1の上方制御を評価した。
【0102】
A549肺上皮がん細胞株はAmerican Type Culture Collectionから得た。日常的な培養は、10%ウシ胎仔血清、100 I.U.のペニシリンおよび100 ng/mLのストレプトマイシン入りのF12K培地(Mediatech Inc., Lenexa, KS, カタログ番号10-025-CV) (F12k完全培地)を用いたものであった。細胞を37℃で5% CO2の加湿雰囲気中でインキュベートした。アッセイ法で用いる前に、A549細胞を、PBSで洗浄し、細胞を持ち上げるためにトリプシン(Mediatech Inc., カタログ番号25-052-CI)処理した。トリプシン細胞懸濁液をF12K完全培地により中和し、遠心分離して細胞をペレットにした。細胞ペレットを、2.0×105/mLの濃度でF12K完全培地に再懸濁した。細胞を平底組織培養プレート中、1ウェルあたり20,000個、総量100 μLで播種し、終夜接着させた。
【0103】
2日目に、A549細胞を1時間、2,4-置換ピリミジンジアミン試験化合物またはDMSO (対照) (Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, カタログ番号D2650)とともにプレインキュベートした。次いで、細胞をIFNγ (75 ng/mL) (Peprotech Inc., Rocky Hill, NJ, カタログ番号300-02)により刺激し、24時間インキュベートさせた。試験化合物の最終用量範囲は、5% FBS、0.3% DMSO含有F12K培地200 μL中にて30 μM〜14 nMであった。
【0104】
3日目に、細胞培地を除去し、細胞を200 μL PBS (リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄した。細胞を引き離すために各ウェルをトリプシン処理し、次にF12K完全培地200 μLの添加によって中和した。細胞を、ペレットにし、4℃で20分間、APC結合マウス抗ヒトICAM-1 (CD54) (BD Pharmingen, San Diego, CA, カタログ番号559771)抗体で染色した。細胞を、氷冷FACS緩衝液(PBS + 2% FBS)で洗浄し、表面のICAM-1発現をフローサイトメトリーにより解析した。検出は、San Jose, CaliforniaのBD Biosciencesから購入したBD LSR I System Flow Cytometerを用いて行った。事象を作動中の散乱(live scatter)に対してゲート開閉し、幾何平均を計算した(Becton-Dickinson CellQuestソフトウェア第3.3版, Franklin Lakes, NJ)。幾何平均を化合物濃度に対しプロットして、用量反応曲線を作成した。このアッセイ法の結果に基づいて計算したIC50を表1に示す。
【0105】
実施例6
U937 IFNγ ICAM1 FACSアッセイ法
U937ヒト単球細胞は、種々の異なる刺激に応答してICAM-1 (CD54)の表面発現を上方制御する。それゆえ、ICAM-1発現を読出しに用いて、異なるシグナル伝達経路に及ぼす化合物の効果を同細胞型において評価することができる。IFNγは、JAK/Stat経路の活性化を通じてICAM-1を上方制御する。本実施例においては、IFNγによるICAM-1の上方制御を評価した。
【0106】
U937ヒト単球細胞株を、Rockville MarylandのATCC, カタログ番号CRL-1593.2より入手し、10% (v/v) FCS含有のRPMI-1640培地中で培養した。U937細胞を10% RPMI中で増殖させた。その後、細胞を96ウェル平底プレート中、160 μLあたり細胞100,000個の濃度でプレーティングした。次いで、試験化合物を以下の通りに希釈した。10 mMの試験化合物を、DMSO中1:5で希釈し(DMSO 12 μL中に10 mMの試験化合物3 μL)、引き続きDMSO中で試験化合物の1:3の連続希釈を行った(試験化合物6 μLをDMSO 12 μLに連続的に希釈して3倍希釈物を得た)。その後、試験化合物4 μLを10% RPMI 76 μLに移し、10×溶液(100 μMの試験化合物, 5% DMSO)を得た。対照ウェルの場合、DMSO 4 μLを10% RPMI 76 μLに希釈した。
【0107】
アッセイ法は、8点(10 μLからの3倍希釈濃度の8点)により、かつ刺激条件下DMSOのみの4ウェル(対照ウェル)および未刺激条件下DMSOのみの4ウェルにより二回通り行った。
【0108】
希釈済み化合物のプレートをマルチメック(Brea, CaliforniaのBeckman Coulter)により2回混合し、その後、希釈化合物20 μLを細胞160 μL含有の96ウェルプレートに移し、これをその後、低速で2回再び混合した。その後、細胞および化合物を5% CO2、37℃で30分間プレインキュベートした。
【0109】
10% RPMI中ヒトIFNγの100 ng/mL溶液を調製することにより、10×刺激混合物を作製した。その後、細胞および化合物をIFNγ刺激混合物20 μLにより刺激して、10 ng/mL IFNγ、10 μMの試験化合物および0.5% DMSOの終濃度を得た。細胞を5% CO2、37℃で18〜24時間刺激の条件下で保持した。
【0110】
細胞を、染色のため96ウェル丸底プレートに移し、その後、染色手順の間、氷上に保持した。細胞を4℃で5分間1000 rpmにて遠心沈殿し、その後、上清を除去した。上清の除去後、FACS緩衝液100 μLあたりAPC結合マウス抗ヒトICAM-1抗体1 μLを添加した。細胞をその後、30分間、暗所中にて氷上でインキュベートした。インキュベーション後、FACS緩衝液150 μLを添加し、細胞を4℃で5分間1000 rpmにて遠心分離し、その後、上清を除去した。上清の除去後、FACS緩衝液200 μLを添加し、細胞を再懸濁した。懸濁後、細胞を4℃で5分間1000 rpmにて遠心分離した。次いで、FACS緩衝液150 μL中での細胞の再懸濁の前に、上清を除去した。
【0111】
検出は、San Jose, CaliforniaのBD Biosciencesから購入したBD LSR I System Flow Cytometerを用いて行った。生細胞を作動中の散乱に対してゲート開閉し、ICAM-APCの幾何平均を測定した(Becton-Dickinson CellQuestソフトウェア第3.3版, Franklin Lakes, NJ)。生細胞%とICAM-1発現の両方を分析した。試験化合物のアッセイ法を活性公知の対照化合物と並行して行った。対照化合物のEC50は、典型的には、40〜100 nMである。このアッセイ法の結果に基づいて計算したIC50を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
実施例7
薬学的製剤
本実施例では、化合物IまたはII (これはその塩も含むものと理解されると考えられる)を含有する薬学的製剤について記載する。そのような製剤は当業者に公知である通りに調製され、さらなる製剤も、本実施例および本明細書のさらなる開示の考慮によって当業者には容易に明らかであろう。

【0114】
上記の製剤1〜7のそれぞれを3つの投与量濃度: 0.001%(w/w)、0.003%(w/w)および0.01% (w/w)の化合物IまたはIIで調製する。各製剤は、特定の量の等張化剤(マンニトール)をフラスコに添加し、特定の緩衝液(リン酸またはクエン酸)の終容量の約半分の中で約50℃に加熱することによって調製する。加熱後、適切な量の化合物IまたはIIを表示の通りにさらなる賦形剤(グリセリンおよび/またはPEG400)とともに添加する。精製水を十分な量で添加する。混合物を均一になるまで(約5分)撹拌し、その後、滅菌フィルタ膜を通して滅菌容器の中にろ過する。必要に応じて、1.0 N NaOHの添加によってpHを調整する。
【0115】
任意で、より高濃度の化合物IまたはII (例えば、0.03% w/w)を有する製剤は界面活性剤および任意で安定化重合体を含んでもよい。製剤6および7に関して、好ましい界面活性剤はTriton X114およびチロキサポールを含み、これらはそれぞれ、(St. Louis, MOの) Sigma-Aldrichおよび(Pittsburgh, PAの) Pressure Chemical Companyから市販されている。好ましい安定化重合体はカルボマーCarbopol 974p (Wickliffe, OHの、Lubrizolから市販されている)を含む。
【0116】
製剤6および7は、カルボマーを初め、界面活性剤を含有する緩衝液中にその終濃度の10×(例えば2.5%マンニトールおよび5% Carbomer 974pを含むpH 6.5の50 mMリン酸緩衝液中3%のチロキサポール)で分散させることにより調製する。化合物Iまたは化合物IIのいずれかを次いで、この前濃縮物中に、同じくその終濃度の10×で分散させる。混合物をホモジナイズし、適合する緩衝液中でのろ過済み前濃縮物の10×希釈によって最終の製剤を得る。
【0117】
実施例8
誘発性ドライアイのマウスモデル
本実施例では、ドライアイのマウスモデルでの症状の処置について記載する。注射用生理食塩水(動物1匹当たり1〜1.5 mL)中に2.5 mg/mLのスコポラミン(Sigma-Aldrich)を含む、注射液を調製した。正常C57マウスの後肢に交互に2.5時間ごと4回スコポラミン溶液200〜250 μLを注射する。マウスを特別な檻(正面および背面に穴の開いた)に入れ、フードの中に入れる。送風機を各檻の前に置き、5日連続で終夜16時間作動させる。涙液産生の測定を毎日行い、5日間の終了時にマウスは全て、ドライ誘発されたと見なす。動物を2週間、1日に1回、薬物またはビヒクル(上記の製剤1〜7の一つ)により1 μLで処置する。涙液産生を測定し、処置の結果は正常涙液産生値の一部または全部の回復によって測定される。
【0118】
涙液産生は定量的手段、または動物の角膜の定性評価のいずれかによって測定することができ、例えば、処置した眼のフルオレセインまたはローズベンガル染色パターンの生体顕微鏡検査によって行うことができる。そのような染色の低減はドライアイ状態の処置の成功を示す。
【0119】
実施例9
他の動物モデル
ドライアイの他の動物モデルを用いて、この状態の処置における開示される剤の活性を実証することができる。例えば、モデルの状態において見られる自己反応性リンパ球の初期活性化および浸潤を模倣する、いくつかのシェーグレン症候群モデルが開発されている。非肥満糖尿病(NOD)マウスモデルは、涙腺、ならびに膵臓、顎下腺および甲状腺を含む他の臓器において主にCD4+ Th1細胞のリンパ球浸潤を示す。雄性NODマウスは8週齢から涙腺の顕著な炎症性病変を示すのに対し、雌性NODマウスは30週齢まで何らの変化も示さない。Takahashi et al., High incidence of autoimmune dacryoadenitis in male non-obese diabetic (NOD) mice depending on sex steroid. Clin Exp Immunol. 1997;109:555-561。シェーグレン症候群MRL/MpJ-fas+/fas+ (MRL/+)およびMRL/MpJ-faslpr/faslpr (MRL/lpr)マウスモデルは、CD4+ T細胞の優位によって特徴付けられる涙腺浸潤物を示す。Van Blokland and Versnel, Pathogenesis of Sjogren's syndrome: characteristics of different mouse models for autoimmune exocrinopathy. Clin Immunol. 2002;103:111-124。
【0120】
マウスと比べてウサギでは露出した眼表面が広いため、涙液層破壊時間および眼表面のフルオレセインまたはローズベンガル染色などの標準的なドライアイ臨床試験は、ウサギではずっと簡単に行うことができる。シェーグレン症候群に似ているウサギでの自己免疫疾患は、反対側の切除涙腺から得た上皮細胞との培養で増殖された自家末梢血リンパ球を涙腺へ注射することにより誘発することができる。
【0121】
これらの動物モデルおよび他の動物モデルを用いて、特許請求される化合物および本明細書において記載されるものなどの複合製剤を試験することができる。製剤を動物に投与し、涙液産生の増加の証拠またはドライアイの証拠の減少がないか眼を検査する。
【0122】
実施例10
処置の方法および複合製剤
特許請求される製剤で処置される対象は、ドライアイの存在を示唆する臨床所見または眼科検査に基づき選択される。例えば、対象は眼の不快なまたは焼けるような感覚を訴えうる。重症例では羞明またはかすみ目が存在することさえある。患者の病歴も、例えば酒さ、放射線療法、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスもしくは強皮症、または他の自己免疫障害の既存の診断結果の有る患者では、ドライアイを示唆しうる。細隙灯生体顕微鏡検査は、典型的には、マイボーム腺炎、結膜膨張、涙液メニスカスの減少、涙ごみの増加、粘液ストランド(mucus strand)、または乾性角結膜炎と一致する染色パターンを検出するために行われる。10秒未満の涙液層破壊時間が評価されてもよく、シルマー試験は、特許請求される剤による処置から恩恵を受けるものと考えられる対象をより客観的に特定するために行われることが多い。
【0123】
特定の患者群、例えば涙腺からの涙液産生が減少した患者(例えば、免疫介在障害または他の障害による涙腺の機能低下を示唆するシルマーの試験を有する患者)を処置のために選抜することができる。特許請求される組成物は1日に2〜4回、点眼薬または軟膏を用いて眼内に注入される。処置は少なくとも1週間、1ヶ月間または1年間継続してもよく、いくつかの対象によっては、処置は複数年に及んでもよい。
【0124】
特定の事例では、対象は他の薬学的または非薬学的な介入との併用処置のために選抜される。例えば、涙点閉鎖を行って、眼からの涙液の流出を減少させ、その一方で特許請求される組成物は涙腺の涙液産生を増加させる。
【0125】
式Iおよび/またはIIの化合物(これにはその塩が含まれる)と、ドライアイに関連する状態などの別の状態を処置する別の剤とを組み合わせた、組み合わせ療法も提供される。いくつかの例では、対象は、ドライアイに関連する基礎障害と診断され、組み合わせ療法が対象に施行される。一つの例では、対象は酢酸プレドニゾロン眼科用懸濁液1%などの、コルチコステロイドの局所適用に応答するマイボーム腺炎を有することが見つかる。式Iおよび/またはIIの化合物(これにはその塩が含まれる)は、プレドニゾロン製剤中に懸濁され、1日に2〜4回眼内に注入される。他の例では、ドライアイが季節性アレルギーまたは他の炎症状態に関連しており、点眼薬は、抗ヒスタミン薬(フェニラミン、エメダスチンもしくはアゼラスチンなど)、充血除去剤(塩酸テトラヒドロゾリンもしくはナファゾリンなど)、または非ステロイド性抗炎症剤(ネパフェナクもしくはケトロラクなど)、コルチコステロイド(フルオロメトロンもしくはロテプレドノールなど)、肥満細胞安定剤(アゼラスチン、クロマール、エメダスチン、ケトチフェン、ロドキサミド、ネドクロミル、オロパタジンもしくはペミロラストなど)を含む、製剤でまたは製剤中で投与される。ドライアイが感染性細菌状態(マイボーム腺感染または角膜感染など)に関連する場合には、点眼薬は、適切な抗生物質(シプロフロキサシン、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、オフロキサシン、スルファセタミン、トブラマイシンまたはモキシフロキサシンなど)を含有する、複合製剤でまたは複合製剤中で投与される。ドライアイがウイルス感染に関連する場合には、点眼薬は、トリフルリジンまたはイドクスウリジンなどの抗ウイルス剤との、複合製剤でまたは複合製剤中で投与される。
【0126】
組み合わせ療法の別の例は、チカチカ痛む目および毛細血管拡張症を伴う顔面紅斑を呈した後に酒さと診断された対象である。対象は、式Iおよび/またはIIの化合物を含有する点眼薬で処置され、かつ対象はまた、経口抗生物質、例えばテトラサイクリン抗生物質など、例えばミノサイクリンなどで処置される。
【0127】
別の例では、対象はドライアイおよび別の既存の自己免疫障害を呈し、式Iおよび/またはIIの化合物を含有する点眼薬で処置される。対象はまた、漸減用量のプレドニゾロンなどの全身(例えば)経口コルチコステロイド療法で処置される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iおよび/もしくはIIの化合物

またはその薬学的に許容される塩形態の有効量を、対象に投与する段階を含む、眼の疾患および/または障害を処置する方法。
【請求項2】
前記眼の疾患および/または障害が、ドライアイ症候群、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、緑内障、酒さ、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記眼の疾患および/または障害がドライアイ症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記眼の疾患および/または障害がブドウ膜炎である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記眼の疾患および/または障害がアレルギー性結膜炎である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記眼の疾患および/または障害が緑内障である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記眼の疾患および/または障害が酒さである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記薬学的に許容される塩形態が化合物IIの塩である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
化合物IIの塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルギニン塩およびコリン塩から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
式Iおよび/もしくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩形態が、抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、抗生物質、抗ウイルス薬および緑内障薬と組み合わせて投与されるか、または抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、抗生物質、抗ウイルス薬および緑内障薬とともに補助的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
溶液、ゲル、軟膏、クリームおよび懸濁液から選択される、化合物Iおよび/または化合物II

を含む薬学的製剤。
【請求項12】
眼への薬学的製剤の投与のための、化合物Iおよび/もしくは化合物II

またはその薬学的に許容される塩形態を含む薬学的製剤を含む、キット。

【公表番号】特表2013−500977(P2013−500977A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523011(P2012−523011)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/043592
【国際公開番号】WO2011/017178
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】