説明

KITの変異体の阻害剤

【課題】イマチニブの処置に耐性であるKIT(受容体タンパク質チロシンキナーゼ)依存性疾患に対しても有効な、変異KIT阻害剤の提供。
【解決手段】患者におけるKIT依存性疾患を処置する医薬を製造するためのミドスタウリン、バタラニブおよび下記式(A)の化合物から成る群から選択される変異KITの適切な阻害剤の使用。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、KITの変異体により特徴付けられ、それにより該変異KITを同定し、変異KITの適切な阻害剤を投与するKIT依存性疾患の処置に関する。
【0002】
c−kit遺伝子は受容体タンパク質チロシンキナーゼ(本明細書ではKITと呼ぶ)をコードするが、肥満/幹細胞増殖因子受容体としても知られている。KITのアミノ酸配列およびc−kit遺伝子のヌクレオチド配列は既知である。Swiss Prot.: P10721参照。そのリガンドである、幹細胞因子と結合すると、KITは二量体を形成し、それは自己リン酸化し、シグナル伝達カスケードを活性化させて細胞増殖に至る。KITの活性化型、とりわけそのリガンドと無関係に活性化する型に至る変異が既知であり、そしてある種の増殖性疾患、例えば肥満細胞症のような肥満細胞疾患、特に全身性肥満細胞症、急性骨髄性白血病、消化器間質腫瘍、副鼻腔NK/T細胞リンパ腫、精上皮腫および未分化胚細胞腫において役割を有すると考えられている。
【0003】
イマチニブ(商品名GLIVECまたはGLEEVECの下、そのメシル酸塩として市販)は、野生型KITおよびあるKIT変異体、例えば消化器間質腫瘍(GIST)において一般的に見られるエクソンにおけるものを阻害することが既知である。しかしながら、KITのある他の変異体、例えば全身性肥満細胞症において一般的に見られるD816V変異に対しては不活性であるか、または著しく活性が低い。本発明は、KITの変異体により特徴付けられる疾患の処置と、変異KITを阻害する代替物の能力に基づいた適切な代替医薬療法を相関させた研究に基づく。
【0004】
故に、本発明は、患者におけるKIT依存性疾患を処置する方法であって
(a)該KIT依存性疾患と関連するKITの変異体を同定し;そして
(b)該患者に有効な変異KIT阻害量のミドスタウリン、バタラニブおよび化合物Aから成る群から選択される阻害剤を投与する
ことを含む、方法に関する。
【0005】
KIT依存性疾患は、一般にKITの活性化変異のための過剰なKITキナーゼ活性により特徴付けられる増殖性疾患である。このような活性化変異体は既知であり、かつ当分野で既知の技術により同定される。
【0006】
KIT依存性疾患は、下記の既知KIT変異により特徴付けられる疾患を含む:D816F、D816H、D816N、D816Y、D816V、K642E、Y823D、Del550−558、Del557−561、N822K、V654A、N822H、Del550−558+V654A、Del557−561+V654A、Ins503AY、V560G、558NP、Del557−558、DelVV559−560、F522C、Del579、R634W、K642E、T801I、C809G、D820Y、N822K、N822H、Y823D、Y823CおよびT670I。
【0007】
本発明の重要な態様において、KIT依存性疾患はイマチニブの処置に耐性である。イマチニブに耐性のKIT依存性疾患は、一般に400−1000mg/日の用量で投与するイマチニブが、明白な治療効果をもたらすための変異KITの阻害を十分に提供しない、上記のKIT依存性疾患である。一般に、イマチニブに耐性の変異KITは、約3マイクロモルよりも高い変異KITのインビトロIC50を有する。イマチニブ耐性KIT変異体は、D816F、D816H、D816N、D816Y、D816V、T670Iを含み、かつV654Aを含む変異体を含む。
【0008】
KITの変異体を阻害する化合物の選択は、1個の化合物または多数の化合物の変異KITを阻害するそれらの能力に関する試験に基づく。このような試験は、当分野で既知であるか、または当業者の技術の範囲内である標準阻害アッセイにより行う。
【0009】
本発明の方法に従い使用するKIT阻害剤は、ミドスタウリン、バタラニブおよび化合物Aを含む。ミドスタウリン(US5;093,330)およびバタラニブ(WO98/35958)は当分野で既知である。化合物Aは、式
【化1】

の化合物である。
そして、WO04/005281に従い製造できる。
【0010】
ミドスタウリン、バタラニブおよび化合物Aの適切な投与量は、慣用法により決定する。
【0011】
ミドスタウリンの適切な投与量は、例えば、1日あたり25−300mg、好ましくは50−300m、より好ましくは50−100mg、最も好ましくは100−300mgの総量を、1日1回、2回または3回、例えば、1日あたり150−250mg、好ましくは225mgの総量を、1日2回または3回投与する。
【0012】
バタラニブ(vatanalib)の適切な投与量は、300−4000mgの範囲、例えば、300−2000mg/日または300−1500mg/日の範囲、特に、300、500、750、1000、1250、1500または2000mg/日、特に1250mg/日である。
【0013】
70kg/ヒトへの化合物Aの1日量は、約0.05−5g、好ましくは約0.25−1.5gである。
【0014】
実施例
aa544−976をコードするヒトKIT遺伝子を、バキュロウイルスドナープラスミドpFB−GST−01にクローン化した。このコーディング配列を、制限エンドヌクレアーゼBam H1およびEcoR1を使用して取り出し、適合性の末端を有するBac−BacドナーベクターpFB−GEX−P1にライゲートした。続いて、所望の変異体を、当業者に既知の方法によりKIT遺伝子に組み込んだ。変異コーディング配列を産生するために使用したオリジナルプラスミド内のフレームシフトのために、変異したプラスミド挿入断片を取り出し、Bac−BacドナーベクターpFB−GST−01に、図1に示す各変異について制限酵素BamH1−EcoR1を使用して挿入した。自動配列決定は、各変異プラスミドについて正しい配列が存在することを確認した。
【0015】
バクミドDNAを、材料および方法で記載した通りのpFB−G01−KIT−変異プラスミドクローンで形質転換したDH10Bac細胞の各々の10コロニーから産生し、これらをSf9細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を播種し、上清に存在する得られた組み換えバキュロウイルスを増幅した。ウェスタン・ブロットを溶解細胞ペレットに適用し、免疫検出のために抗−KITおよび抗−GST抗体を使用して、ウイルスクローンによりGST−c−KIT融合タンパク質の発現を確認した。
【0016】
【化2】

【0017】
【表1】

【表2】

【0018】
アッセイ条件:1μM ATP、5μg/ml Poly−EY、10分環境温度でインキュベーション
ウイルス含有培地をトランスフェクトした細胞培養物から回収し、その力価を上昇させるための感染に使用した。2回の感染の後に得たウイルス含有培地を、大規模タンパク質発現に使用した。大規模タンパク質発現のために、100cm丸型組織培養プレートに5×10細胞/プレートを播種し、1mLのウイルス含有培地で感染させた(約5MOI)。3日後、該細胞をプレートから掻き取り、500rpmで5分遠心分離した。10−20個の、100cmプレートからの細胞ペレットを50mLの氷冷溶解緩衝液(25mM Tris−HCl、pH7.5、2mM EDTA、1%NP−40、1mM DTT、1mM PMSF)に再懸濁した。該細胞を氷上で15分撹拌し、次いで、5000rpmで20分遠心分離した。
【0019】
遠心分離した細胞溶解物を2mLグルタチオン−セファロースカラム(Pharmacia)に充填し、3回10mLの25mM Tris−HCl、pH7.5、2mM EDTA、1mM DTT、200mM NaClで洗浄した。GST−標識タンパク質を、次いで25mM Tris−HCl、pH7.5、10mM 還元−グルタチオン、100mM NaCl、1mM DTT、10%グリセロールの10回の適用(各1mL)により溶出させ、−70℃で貯蔵した。
【0020】
様々なKit変異体200−500ngのタンパク質キナーゼ活性を阻害剤の存在下または非存在下、20mM Tris−HCl、pH7.6、3mM MnCl、3mM MgCl、1mM DTT、10μM NaVO、3μg/mL ポリ(Glu,Tyr)4:1、1%DMSO、1.5μM ATP(γ−[33P]−ATP 0.1μCi)中で行った。該アッセイ(30μL)を96ウェルプレート中、環境温度で30分行い、反応を20μLの125mM EDTAの添加により停止させた。続いて、30μlの反応混合物を、予め5分メタノールに浸したImmobilon-PVDF膜(Millipore, Bedford, MA, USA)に移し、水で濯ぎ、次いで5分、0.5%HPOに浸して、繋がっていない真空源を備えた真空マニホルド上にマウントさせた。全サンプルをスポットした後、真空に繋ぎ、各ウェルを200μL 0.5%HPOで濯いだ。膜を除き、4回シェーカー上で1.0%HPOで洗浄し、1回エタノールで洗浄した。膜を環境温度で乾燥させ、Packard TopCount 96ウェルフレームにマウントし、10μL/ウェルのMicroscint(Packard)を添加した後に計数した。IC50値を、デュプリケートで4濃度(通常0.01、0.1、1および10μM)での各化合物の阻害パーセントの直線回帰分析により計算した。タンパク質キナーゼ活性の1単位を、RTで[γ33P]ATPから基質タンパク質/分/タンパク質mgに移動する1nmoleの33Pと定義した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるKIT(受容体タンパク質チロシンキナーゼ)依存性疾患を処置する医薬を製造するためのミドスタウリンの使用であって:
(a)該KIT依存性疾患と関連するKITの変異体を同定し;そして
(b)該患者に有効な変異KIT阻害量のミドスタウリンから成る群から選択される阻害剤を投与する
ことを含む、使用であって、
該KITの変異体がD816F、D816H、D816N、K642E、Y823D、Del550−558、Del557−561、N822K、V654A、N822H、Del550−558+V654A、Del557−561+V654A、Ins503AY、V560G、558NP、Del557−558、DelVV559−560、F522C、Del579、R634W、K642E、T801I、C809G、D820Y、N822K、N822H、Y823D、Y823CおよびT670Iから選択される、使用。
【請求項2】
KITの変異体がD816F、D816H、D816N、K642E、Y823D、Del550−558、Del557−561、N822K、V654A、N822H、Del550−558+V654A、Del557−561+V654Aから選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
KITの変異体がK642E、Y823D、Del550−558、Del557−561、N822K、V654A、N822H、Del550−558+V654AおよびDel557−561+V654Aから選択される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
KIT依存性疾患がイマチニブの処置に耐性である、請求項1から3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
KIT依存性疾患が肥満細胞疾患、急性骨髄性白血病、消化器間質腫瘍、精上皮腫および未分化胚細胞腫から選択される、請求項1から4のいずれかに記載の使用。

【公開番号】特開2011−121973(P2011−121973A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20873(P2011−20873)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【分割の表示】特願2006−540309(P2006−540309)の分割
【原出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】