説明

L−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤

【課題】L−ヒスチジン脱炭酸酵素活性の上昇に起因する種々の疾患(アレルギー疾患、炎症性疾患、消化性潰瘍あるいはヒスタミンの産生により引き起こされる病的状態等)の予防又は治療薬を提供すること。
【解決手段】
防已又はその抽出物を有効成分とするL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤。

【化1】


(式中、Meはメチル基を示し、環
【化2】


は下記の各式
【化3】


のいずれかで示される環を示す。)で表される化合物を有効成分とするL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−ヒスチジン脱炭酸酵素活性の上昇に起因する種々の疾患の予防又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンは炎症、アレルギー、胃酸分泌、神経伝達ならびに腫瘍細胞の転移・増殖といった反応を調節する生体アミンである。ヒスタミン産生細胞としては肥満細胞や、好塩基球、ECL細胞(enterochromaffin−like cell)などがあり、これら細胞内にはヒスタミン生合成酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(L−histidine decarboxylase;HDC)が存在している。HDCは誘導性の酵素であり、刺激に応じて数倍から百倍以上にも酵素活性が上昇し、種々のアレルギー疾患や炎症、消化性潰瘍などを引き起こす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
【0004】
本発明の目的は、HDC阻害活性を有する生薬を探索し、副作用の少ないHDC阻害剤、引いては、アレルギー疾患、炎症性疾患、消化性潰瘍あるいはヒスタミンの産生により引き起こされる病的状態などを低減させうる薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決するために多くの生薬のHDC阻害活性を探索した結果、防已がHDC阻害活性を有することを見出した。
かかる知見に基づき完成した本発明の一つの態様は、防已を有効成分とするL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤である。
【0006】
本発明者らは、さらに防已からのHDC阻害物質の単離を目的として、分画、精製、構造解析を行い、防已より単離したaporphine型アルカロイド及びその類縁化合物がHDC阻害活性を有するとの知見を得た。
かかる知見に基づき完成した本発明の他の態様は、式
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Meはメチル基を示し、環
【0009】
【化2】

【0010】
は下記の各式
【化3】

【0011】
で示される環を示す。)で表される化合物を有効成分とするL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤である。
【0012】
本発明において、「防已」は原末のみならずエキス等の抽出物あってもよく、その形態には特に限定はない。防已の有効投与量(原生薬換算量)は、おおよそ成人1人に対して1日当たり2.0〜3.0gであり、好ましくは2.5〜3.0gである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、L−ヒスチジン脱炭酸酵素活性の上昇に起因する種々の疾患(アレルギー疾患、炎症性疾患、消化性潰瘍あるいはヒスタミンの産生により引き起こされる病的状態等)の予防又は治療薬を提供することが可能となった。
【0014】
生薬は以下の方法により分画することができる。
まず、防已を熱水で抽出する。抽出液をを陽イオン交換カラムAmberlite IR−120B(Hform)に付し、0.5Mアンモニア溶液で溶出されるアルカロイド画分を得る。これを減圧下で濃縮乾固し、得られたアメ状混合物をAmberlite CG−50(NHform)に付し、精製水で溶出しされる画分を得る。顕著な阻害効果が認められた画分を減圧下で濃縮し、得られたアメ状固体をさらにSephadex LH−20カラム、Dowex 1X2(OHform)、Cosmosil 75SLII−Prepカラム、Sephadex LH−20カラム等のクロマトを繰り返し、活性物質を得る。これらに等量のメタノールを加え、冷却後遠心、濾過、有機溶媒による抽出を行い、脂溶性アルカロイド画分を得る。
この画分を用いL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害活性の測定を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明する。
実施例1[防已からの活性物質の単離精製]
防已5kg(乾燥重量)を熱水で1時間抽出を行なった。抽出液を冷却後、沈殿物をセライトで濾過した。濾液を陽イオン交換カラムAmberlite IR−120B(Hform)に付し、樹脂の5倍量の0.5Mアンモニア溶液で溶出されるアルカロイド画分を減圧下で濃縮乾固した。得られたアメ状混合物をAmberlite CG−50(NHform)に付し、精製水で溶出しI IVの4つの画分に分画した。顕著な阻害効果が認められたII画分、III画分およびIV画分を減圧下で濃縮し、それぞれ2.5g、6.9g、3.8gの茶色のアメ状固体を得た。
【0016】
II画分をさらにSephadex LH−20カラム及びCosmosil 75SL II−Prepカラムにてクロマトを繰り返し、活性物質として(9α,13α,14α)−4−hydoxy−3,7−dimethoxy−17−methyl−6,7−didehydromorphinan−8−one(1)及び(9α,13α)−4−hydroxy−3,7−dimethoxy−17−methyl−6,7−didehydromorphinan−8−one(2)を得た。
【0017】
III画分は、さらにDowex 1X2(OHform)及びSephadex LH−20カラムにてクロマトを繰り返し、活性物質として(9α,13α,14α)−4−hydoxy−3,6−dimethoxy−17−methy−5,6−didehydromorphinan−7−one(3)及び(9α,13α)−4−hydroxy−3,6−dimethoxy−17−methyl−5,6−didehydromorphinan−7−one(4)を得た。
【0018】
IV画分は、Toyopeal HW−40S及びSephadex LH−20カラムにてクロマトを繰り返し、活性物質としてsiomenine及び(9α,13α)−4−hydroxy−3,7−dimethoxy−17−methyl−7,8−didehydromorphinan−6−one(5)を得た。
各活性物質の構造を以下に示す。また、上記の分画チャートを図1に示す。
【0019】
【化4】

【0020】
試験例1[酵素調製]
雄Wistar系ラット5匹よりHDCを調製した。操作は水冷下、または、4℃で行った。富山医科薬科大学実験動物委員会の基準に基づいた動物に苦痛を与えない条件下(diethyletherで麻酔)で開腹し、胃を摘出した。20倍容の0.01mM pyridoxal−5’−phasphate(PLP)、100μg/mL phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、0.1mM ethylenediaminetetraacetate(EDTA)、6mM2−mercaptoethanol、0.25M sucrose含有0.1M potassium phosphate buffer(pH7.3)でWaring Blenderを用いてホモジナイズした。このホモジネイトを48,000×gで10分間遠心分離し、得られた上清に硫酸アンモニウムを25%飽和になるように徐々に加え、完全に溶解させた。30分撹拌後、10,000×gで30分間遠心分離を行った。さらに、得られた上清に硫酸アンモニウムを55%飽和になるように徐々に加え塩析を行った。60分撹拌後、再度10,000×gで30分間遠心分離した。得られた沈殿を0.01mM PLP、100μg/mL PMSF、0.1mM EDTA、6mM2−mercaptoethanol含有0.1M potassium phosphate buffer(pH6.8)で懸濁させ同様のbufferで一晩透析した。得られた溶液を粗酵素として、4℃で保存し、適宜実験に使用した。
【0021】
試験例2[酵素阻害活性測定]
0.1M potassium phosphate buffer(pH6.8)240μL、0.01mM PLP 120μL、bovine serum albumine(BSA;10mg/mL)120μL、alkaloid(10mg/mL)120μL、に粗酵素300μL加え撹拌した。37℃、15分プレインキュベートし、その後、基質である10mM histidine 300μLを加え、37℃、120分インキュベートした。HDC活性は、生成したhistamineをP−celluloseカラムにて分離し、ο−phthalaldehyde法に基づきhistamineを定量し、阻害活性を測定した。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の分画チャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防已又はその抽出物を有効成分とするL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤。
【請求項2】

【化1】

(式中、Meはメチル基を示し、環
【化2】

は下記の各式
【化3】

で示される環を示す。)で表される化合物を有効成分とするL−ヒスチジン脱炭酸酵素阻害剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−76988(P2006−76988A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298236(P2004−298236)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(503409506)
【出願人】(503409517)
【出願人】(503410948)
【Fターム(参考)】