説明

LED搭載構造体、その製造方法、及びLED搭載用基板

【課題】III−V族半導体結晶から構成されているLEDとの線膨張率差が小さくしかも熱伝導性に優れた、LED搭載構造体と、LED搭載構造体の製造方法と、LED搭載構造体を製造するためのLED搭載用基板を提供する。
【解決手段】気孔率が10〜50体積%である炭化珪素多孔体にシリコン又はシリコン合金を含浸させてなり、3点曲げ強度が50〜350MPa、少なくとも一面の表面粗さ(Ra)が0.01〜0.5μm、板厚が0.05〜0.5mmであることを特徴とするLED搭載用基板。それを用いたLED搭載構造体及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED搭載構造体、その製造方法、及びLED搭載用基板に関する。
【0002】
LED(発光ダイオード)は、半導体のpn接合に順方向電流を流すと発光する素子であり、GaAs、GaN等のIII−V族半導体結晶を用いて製造される。たとえば、サファイア基板等の単結晶成長基板上に、GaN等のバッファー層を形成し、その上にGaNをエピタキシャル成長させる方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法にあっては、サファイア基板とGaNとの線膨張係数差のために、エピタキシャル成長後のサファイア基板に反りが発生し、基板が割れることがあった。さらには、サファイア基板を構成する単結晶サファイアの熱伝導率が40W/mK程度であるので、GaN等のIII−V族半導体素子で発生する熱を十分に放熱することができなかった。このため、大電流を流す高出力LEDでは素子の温度が上昇して発光効率と素子寿命の低下を招いた。
【0003】
放熱性を改善するため、単結晶成長基板上にIII−V族半導体結晶をエピタキシャル成長させた後に、金属層を介して高熱伝導性の基板を接合し、その後、単結晶成長基板を除去する方法が提案されているが(特許文献2)、III−V族半導体結晶との線膨張係数差が大きく、高出力LED用には十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−73252号公報
【特許文献2】特開2006−128710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、III−V族半導体結晶から構成されているLED(以下、単にLEDともいう。)との線膨張率差が小さくしかも熱伝導性に優れた、LED搭載構造体と、LED搭載構造体の製造方法と、LED搭載構造体を製造するためのLED搭載用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、気孔率が10〜50体積%である炭化珪素多孔体にシリコン又はシリコン合金を含浸させてなり、3点曲げ強度が50〜350MPa、少なくとも一面の表面粗さ(Ra)が0.01〜0.5μm、板厚が0.05〜0.5mmであることを特徴とするLED搭載用基板である。
【0007】
本発明のLED搭載用基板にあっては、(1)温度25℃の熱伝導率が150〜300W/mKであること、(2)温度25℃〜150℃の線膨張係数が3.5〜5.5×10−6/Kであること、(3)体積固有抵抗が10−5〜10−1Ω・mであること、(4)温度25℃の5規定のHCl水溶液又は75℃の10規定のNaOH水溶液に1分間浸漬したときに、いずれの場合も、少なくとも一面の質量減少が0.2mg/cm以下であること、から選ばれた少なくとも1つの特性を備えていることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、上記本発明のLED搭載用基板9の少なくとも一面に、金属層8又は金属層8と金属層7、反射層6、LED5及び透明導電層4を順次有しており、この透明導電層に電極(図示せず)が取り付けられてなることを特徴とするLED搭載構造体である。
【0009】
さらに、本発明は以下の工程を順次経ることを特徴とする上記本発明のLED搭載構造体の製造方法である。
(ア)単結晶成長基板1の表面にn型III−V族半導体のバッファー層2又は無機化合物の表面コーティグ層3を形成させた後、LED5をエピタキシャル成長させる工程
(イ)LED5のp型III−V族半導体層53の表面に金属層の反射層6を、更に必要に応じてこの反射層6の表面に金属層7を形成する一方、LED搭載用基板9の表面に金属層8を形成する工程
(ウ)上記反射層6又は上記金属層7と、上記金属層8とを接面させ、加熱して接合体を製造する工程
(エ)上記単結晶成長基板1と上記バッファー層2又は上記表面コーティグ層3を除去する工程
(オ)露出したLED5のp型III−V族半導体層53表面を加工してから、透明導電層4とこの透明導電層4に電極(図示せず)を形成させた後、所望形状に切断する工程
【0010】
本発明のLED搭載構造体の製造方法にあっては、(5)単結晶成長基板の材質が、単結晶サファイア、単結晶炭化珪素、単結晶GaAs、単結晶Siのいずれかであること、(6)表面コーティグ層の材質が、AlN、SiC、GaN及びGaAsから選ばれた少なくとも一種の無機化合物であること、(7)バッファー層2及びLED5を構成するIII−V族半導体が、GaN、GaAs、GaPのいずれかであること、(8)反射層6、金属層7及び金属層8の材質が、インジウム、アルミニウム、金、銀及びこれらの合金から選ばれた少なくとも1種の金属であること、(9)透明導電層4の材質が、酸化インジウム錫、酸化カドミウム錫、酸化インジウム亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、酸化錫亜鉛、酸化錫アンチモニーから選ばれた少なくとも1種の金属であること、(10)切断を、レーザー照射、エッチング及び研削から選ばれた少なくとも1つの方法で行うこと、から選ばれた少なくとも1つの実施態様を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、LEDとの線膨張率差の小さい、高熱伝導性のLED搭載用基板が提供される。本発明のLED搭載用基板は、LED搭載構造体の製造時に使用される酸とアルカリ水溶液に対する耐薬品性に優れ、しかも導電性も大であるので電極の形成が容易となる。本発明のLED搭載構造体は、放熱性、信頼性に優れた高出力のものであり、単位面積当たりの発光量の増加が可能となる。本発明のLED搭載構造体の製造方法によれば、本発明のLED搭載構造体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で製造された接合体の概略断面図
【図2】実施例2〜10で製造された接合体の概略断面図
【図3】実施例1〜10で製造されたLED搭載構造体の概略断面図
【図4】比較例1で製造された従来構造のLED搭載構造体の概略断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のLED搭載構造体の製造方法に用いる単結晶成長基板1は、後工程でエピタキシャル成長させるLED5との格子定数の差が小さく、かつ欠陥の少ないものが使用される。成長層の結晶性と均一性を確保し、エピタキシャル成長時の雰囲気に対する耐久性を高める点から、単結晶材料が好ましく、なかでも単結晶サファイア、単結晶炭化珪素、単結晶GaAs、単結晶Siのいずれかであることが特に好ましい。また、単結晶成長基板の格子定数をLEDのそれに可及的に近づけるため、AlN、SiC、GaN及びGaAsから選ばれた少なくとも1種の無機化合物による表面コーティング層3を有していることが好ましい。また、バッファー層2及びLED5を構成するIII−V族半導体としては、LEDの変換効率の点から、GaN、GaAs、GaPのいずれかであることが好ましい。これらは、最適発光波長に応じて選択される。なお、通常、LED5は、n型III−V族半導体層51、発光層52及びp型III−V族半導体層53で構成されているが、本発明では何もこの構造には限定されない。
【0014】
本発明のLED搭載構造体の製造方法においては、まず、単結晶成長基板の表面にLEDをエピタキシャル成長させる(ア工程)。具体的には、単結晶成長基板1の表面にn型III−V族半導体のバッファー層2又は無機化合物の表面コーティグ層3を形成してからLED5をエピタキシャル成長させる。LEDは、例えばn型III−V族半導体層51と発光層52とp型III−V族半導体層53とを、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)、ハライド気相エピタキシャル法(HVPE法)等によってエピタキシャル成長させることが好ましい。MOCVD法によれば、結晶性の良いIII−V族半導体結晶を成長させることができ、HVPE法によれば、結晶成長速度が速く、効率よくIII−V族半導体結晶を成長させることができる。エピタキシャル成長させたLEDは、発光特性を更に向上させるために、その表面をエッチングや研磨等の処理を施すこともできる。
【0015】
ア工程で用いられる単結晶成長基板1としては、単結晶サファイア、単結晶炭化珪素、単結晶GaAs、単結晶Siのいずれかであることが好ましく、その厚みは0.1〜1.0mmであることが好ましい。また、バッファー層2の厚みは0.1〜0.8μm、表面コーティグ層3の厚みは0.1〜0.8μm、LED5の厚みは0.6〜15μmであることが好ましい。なお、n型III−V族半導体層51、発光層52、p型III−V族半導体層53の厚みは、一般的には、それぞれ0.3〜10μm、0.1〜0.5μm、0.3〜10μmである。
【0016】
ついで、LEDをエピタキシャル成長させた単結晶成長基板と、本発明のLED搭載用基板とを接合する。本発明のLED搭載用基板については後述する。すなわち、LED5のp型III−V族半導体層53の表面に金属層の反射層6を、必要に応じてこの反射層6の表面に更に金属層7を形成する一方、LED搭載用基板9の表面には金属層8を形成してから(イ工程)、上記反射層6又は上記金属層7と、上記金属層8とを接面させ、加熱して接合体を製造する(ウ工程)。
【0017】
反射層6と金属層8が同種金属で構成されているときは、金属層7は必ずしも必要でないが、異種金属で構成されているときは、反射層6の表面には金属層8と同種の金属層7を有させることが好ましい。反射層6、金属層7及び金属層8の形成には、蒸着法、スパッタリング法等が採用される。これらの層の金属種は、インジウム、アルミニウム、金、銀及びこれらの合金であることが好ましい。とくに、反射層6と金属層8は同種の金属種で構成されていることが好ましい。反射層6、金属層7及び金属層8の厚みは、極端に厚いと密着性が低下する恐れがあるので、それぞれ0.5〜10μmであることが好ましく、それぞれ0.5〜2μmであることが特に好ましい。これらの厚みにあっても、反射層6の厚みは金属層8の厚みと同じであるか、又は10%以内で厚いか薄い方が好ましい。
【0018】
加熱は20MPa以下で加圧しながら行うことが好ましい。加熱温度は反射層6、金属層7、金属層8の種類によって250℃〜550℃の範囲から選択される。
【0019】
ついで、上記接合体から単結晶成長基板1とバッファー層2又は表面コーティグ層3が除去される(エ工程)。単結晶成長基板の除去は単結晶成長基板側からレーザー照射、研磨、エッチング等によって行われる。バッファー層はエッチング等によって、表面コーティグ層は研削加工等によって除去される。この工程によって接合体は符号5〜9からなる中間体に変わる。
【0020】
その後、上記中間体の、露出したLED5のp型のIII−V族半導体層53を表面加工してから、透明導電層4とこの透明導電層4に電極(図示せず)を形成した後、所望形状に切断すれば本発明のLED搭載構造体となる(オ工程)。
【0021】
表面加工は、ICPドライエッチング等によって行われることが好ましく、これによって透明導電層の形成に適した表面へと平坦化される。透明導電層は電流分散のために形成するものであり、電子ビーム蒸着法、スパッタ法等によって、0.05〜0.8μmの厚みに形成される。材質は、酸化インジウム錫、酸化カドミウム錫、酸化インジウム亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、酸化錫亜鉛、酸化錫アンチモニーから選ばれた少なくとも1種の金属であることが好ましい。
【0022】
電極の形成には蒸着法、スパッタリング法等が採用される。電極材料はAu、Ag、Al等から選択される。切断はレーザーカット、ダイシングから選ばれた少なくとも1つの方法によって行われる。
【0023】
つぎに、本発明のLED搭載用基板について説明する。
【0024】
LED搭載用基板として欠くことのできない要件は、(a)LEDをエピタキシャル成長させた単結晶成長基板と、LED搭載用基板とを接合する際に、耐え得る強度を有すること、(b)接合面にボイドや異物等の介在物がなく接合面が平坦になること、(c)放熱性が良好であること、及び(d)適度な熱伝導率と線膨張係数を有すること、である。
【0025】
(a)は、LED搭載用基板の3点曲げ強度を50〜350MPaにすることによって、(b)は、表面粗さ(Ra)を0.01〜0.5μmとすることによって、(c)は、板厚を0.05〜0.5mmとすることによって、そして(d)は、気孔率が10〜50体積%の炭化珪素多孔体にシリコン又はシリコン合金を含浸させることによって、満たさせることができる。好ましい3点曲げ強度は200〜300MPaであり、好ましい表面粗さ(Ra)は0.01〜0.2μmである。好ましい板厚は0.08〜0.3mmである。好ましい熱伝導率は150〜300W/mK(温度25℃)である。好ましい線膨張係数は3.5〜5.5×10−6/K(温度25℃〜150℃)であり、更に好ましくは4〜5×10−6/K(温度25℃〜150℃)である。
【0026】
3点曲げ強度は、炭化珪素粉末の粒度とその含有量によって増減させることができ、表面粗さ(Ra)と板厚は、加工条件によって増減させることができる。熱伝導率と線膨張係数は、炭化珪素多孔体の気孔率とシリコン又はシリコン合金の含浸量によって増減させることができる。
【0027】
本発明のLED搭載用基板において、3点曲げ強度が50MPa未満であると、LED搭載構造体を製造する各工程で生じる応力に耐えらなくなる恐れがある。350MPaをこえて高強度化する利点はあまりない。表面粗さ(Ra)が0.01μm未満であると、加工が困難となり、コスト向上に繋がり、0.5μmをこえると、LEDとLED搭載用基板との密着性が低下する恐れがある。板厚が0.05mm未満であると、LED搭載構造体を製造する各工程でのハンドリングが困難となり、0.5mmをこえると最終形状への加工代が増加する。炭化珪素多孔体の気孔率が10体積%未満であると、シリコン又はシリコン合金を十分に含浸させることができずに熱伝導率の低下となり、50体積%をこえるとLED搭載用基板の線膨張係数が小さくなる恐れがある。
【0028】
LED搭載用基板の線膨張係数(温度25℃〜150℃)が3.5〜5.5×10−6/Kの範囲を外れると、LEDとの線膨張係数差により接合後に反りが発生する恐れがあり、またLED搭載構造体として使用する際に接合層に剥離や、更にはLEDが割れる恐れがある。また、熱伝導率(温度25℃)が150W/mK未満であると、LEDで発生する熱を十分に放熱することができず、特に大電流を流す必要のある高出力LEDでは、LEDの温度が上がり発光効率の低下、それに伴う素子寿命の低下が起こる恐れがある。一方、300W/mKこえてもよいが、LED搭載用基板の材料が高価になる。
【0029】
本発明のLED搭載用基板の体積固有抵抗は10−1Ω・m未満であることが好ましく、これをこえると、発光効率の低下等が起こる恐れがある。体積固有抵抗の下限値は、材料入手の容易性の点から10ー5Ω・mであることが好ましい。体積固有抵抗はシリコン又はシリコン合金の含有量によって増減させることができる。
【0030】
本発明のLED搭載用基板は、炭化珪素が50〜90体積%、シリコン又はシリコン合金が10〜50体積%で構成されていることが好ましく、特に炭化珪素が65〜85体積%、シリコン又はシリコン合金が15〜35体積%で構成されていることが好ましい。炭化珪素の含有量が50体積%未満では、LED搭載用基板の線膨張係数が小さくなり、一方、90体積%をこえると、シリコン又はシリコン合金を十分に含浸させることが困難となる。
【0031】
シリコン又はシリコン合金のシリコン分が70体積%以上であることが好ましい。これによって、耐薬品性に優れたLED搭載用基板となる。シリコン又はシリコン合金中のシリコン、アルミニウム以外の金属成分は、極端に特性が変化しない限り、例えば銅、マグネシウム等が含まれていても良い。ここで、「耐薬品性」とは、温度25℃の5規定のHCl水溶液又は75℃の10規定のNaOH水溶液に1分間浸漬したとき、少なくとも一面の質量減少がそれぞれ0.2mg/cm以下、さらに好ましくは0.1mg/cm以下であることをいう。耐薬品性がよいと、バッファー層や単結晶成長基板など除去する際のエッチング工程において、シリコン又はシリコン合金に含まれるアルミニウム等の成分が溶出することによる熱伝導率等の低下や、所定形状に切断する際のチッピング不良がなくなる利点がある。
【0032】
本発明のLED搭載用基板は、基板自体が導電性を有しているので、LEDに電極を形成することが容易となる。サファイア基板等の基板にあっては、LEDの上部をエッチング等で除去してから、同一面側に電極を形成する必要があるが、本発明のLED搭載用基板を用いればこの操作は不要となる。その結果、LEDの単位面積当たりの発光量を増加させることができる。
【0033】
本発明のLED搭載用基板は、炭化珪素粉末、又は炭化珪素粉末と例えばメチルセルロース、シリカゾル等のバインダーとの混合粉末を成形した後、焼結し、気孔率が10〜50体積%の炭化珪素多孔体(以下、プリフォームともいう。)を製造し、これに所定のシリコン又はシリコン合金を含浸させることによって製造することができる。
【0034】
プリフォームの気孔率の調整は、炭化珪素粉末の粒度、成形圧力、焼結条件等によって行うことができる。プリフォームへの成形方法は、プレス成形、鋳込み成形等の一般的なセラミックス粉末の成形方法を採用することができる。プリフォームは、必要に応じて平板状や円柱状に加工して用いる。板厚が0.05〜0.5mmのLED搭載用基板を製造するためには、3点曲げ強度が3〜140MPaのプリフォームを用いることが好ましい。プリフォームの3点曲げ強度は、バインダー及び焼成条件によって制御できる。
【0035】
プリフォームへのシリコン又はシリコン合金の含浸は、例えば坩堝に両者を入れ、非酸化性雰囲気中又は減圧下でシリコン又はシリコン合金の融点以上で加熱する非加圧含浸法によることが好ましい。坩堝には黒鉛製又はBN製のものが使用される。プリフォームとシリコン又はシリコン合金との複合化には含浸法以外に粉末冶金法があるが、特性面から非加圧含浸法が好ましい。
【0036】
シリコン又はシリコン合金を含浸したプリフォームは、その形状が円柱状である場合、ダイヤモンド砥石等を用いて所定寸法に外形加工した後、マルチワイヤーソー、内周刃切断機等で所望形状よりも0.1〜0.5mm厚い板厚に切断加工する。切断代が少なく量産性に適したマルチワイヤーソーによる切断が好適である。
【0037】
マルチワイヤーソーの切断では、遊離砥粒タイプ及びダイヤモンド等の研削材を付着したワイヤーが用いられる。切断加工後の板状体は、両面研削盤、ロータリー研削盤、平面研削盤、ラップ盤等の加工機で、板厚が0.05〜0.5mmで、しかも表面粗さ(Ra)が0.5μm以下に面加工をしてから洗浄することが好ましい。表面粗さを更に小さくするために、両面研削盤、ロータリー研削盤、平面研削盤等で面加工した後、更にラップ盤で仕上げ加工をすることもある。また、本発明のLED搭載構造体の製造工程で、本発明のLED搭載用基板をLEDと接合した後に研磨加工する場合には、片面(接合面)のみに所定の表面粗さまで面加工をすることもある。このような加工によって、一段と性能に優れたLED搭載用基板となる。
【0038】
一方、シリコン又はシリコン合金を含浸したプリフォームの形状が板状である場合、両面研削盤、ロータリー研削盤、平面研削盤、ラップ盤等の加工機で、板厚が0.05〜0.5mmで、しかも表面粗さ(Ra)が0.5μm以下に面加工した後、ウォータージェット加工機、放電加工機、レーザー加工機、ダイシングマシン、円筒研削盤等で所定形状に外周加工を行ってから洗浄する。この場合、先に外周加工を行い、その後、両面研削盤、ロータリー研削盤、平面研削盤、ラップ盤等の加工機で、板厚が0.05〜0.5mmで、表面粗さ(Ra)が0.5μm以下に面加工をしてから洗浄することもできる。
【実施例】
【0039】
実施例1
(LED搭載用基板の製造)
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製、NG−60、平均粒子径200μm)1800g、炭化珪素粉末B(平均粒子径:20μm)900g、炭化珪素粉末C(大平洋ランダム社製、NC−6000、平均粒子径2μm)300g、及び成形バインダー(メチルセルロース、信越化学工業社製、「メトローズ」)150gを攪拌混合機で30分間混合した後、Φ55mm×20mmの寸法の円柱状に面圧30MPaでプレス成形して成形体を作製した。
【0040】
得られた成形体を、大気雰囲気中、温度600℃で2時間脱脂処理後、アルゴン雰囲気下、温度1950℃で2時間焼成して、気孔率が30体積%のプリフォームを製造した。このプリフォームを、マシニングセンターでダイヤモンド砥石を用い、外形寸法が、Φ52mm×20mmの形状に加工した。研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3mm×4mm×40mm)を切り出し3点曲げ強度を測定したところ、80MPaであった。
【0041】
上記プリフォームと塊状のシリコンを、BN粉を塗布した黒鉛坩堝に入れ、電気炉内にセットした。炉内を真空引きし、1650℃で8時間保持してプリフォームにシリコンを含浸させた。室温まで冷却した後、円筒研削盤で余分なシリコンを除去し、Φ52×20mm形状のシリコン含浸のプリフォームを製造した。
【0042】
ついで、得られたシリコン含浸のプリフォームから、研削加工により線膨張係数測定用試験体(直径3mm長さ10mm)、熱伝導率測定用試験体(25mm×25mm×1mm)、3点曲げ強度測定用試験体(3mm×4mm×40mm)、体積固有抵抗測定用試験体(50mm×50mm×5mm)を切り出した。それぞれの試験体を用いて、温度25℃〜150℃の線膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、温度25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(アルバック社製;TC3000)で、3点曲げ強度を曲げ強度試験機で、体積固有抵抗を4端子法(JIS R1637に準拠)で測定した。その結果、線膨張係数は4.3×10-6/K、熱伝導率は210W/mK、3点曲げ強度は290MPa、体積固有抵抗は10-2Ω・mであった。
【0043】
その後、シリコン含浸のプリフォームを、円筒研削盤でダイヤモンドの砥石を用いて、Φ50.8mm×20mmの円柱形状に外周加工をした後、マルチワイヤーソーでダイヤモンド砥粒を用い、切断切り込み速度0.2mm/minで、板厚0.2mmの円板に切断加工した。この円板を、両面研削盤で#600のダイヤモンド砥石を用いて板厚0.12mmに研削加工し、更にラップ盤でダイヤモンド砥粒を用いて板厚0.1mmでまで研磨加工した。これを純水中で、その後更にイソプロピルアルコール中で超音波洗浄をし、乾燥して本発明のLED搭載用基板を製造した。
【0044】
得られたLED搭載用基板の表面粗さ(Ra)は0.30μmであった。また、
温度25℃の5規定のHCl水溶液又は75℃の10規定のNaOH水溶液に1分間浸漬した後、蒸留水で各水溶液を洗い流し、拭取った後の質量を測定し、単位面積当たりの質量減少量を算出した。その結果、HCl水溶液に浸漬したときは0.000mg/cmであり、NaOH水溶液に浸漬したとき0.078mg/cmであった。
【0045】
(LED搭載構造体の製造)
図1に示すように、板厚が0.5mmの単結晶成長基板(単結晶サファイア基板)1に、アンモニアガスとトリメチルガリウムを使用し、キャリアガスとして水素と窒素の混合ガスを用いて、温度1100℃でMOCVD法により、n型III−V族半導体のバッファー層(n型GaNバッファー層)2を0.3μm形成させた後、LED5を4.1μmエピタキシャル成長させた。LED5は、n型III−V族半導体層(n型GaN半導体層)51が2μm、発光層(GaN発光層)52が0.1μm、及びp型III−V族半導体層(p型GaN半導体層)53が2μmで構成されていた。
【0046】
つぎに、LED5のp型GaN半導体層53の表面に、銀/錫合金(Ag3.5質量%、Sn96.5質量%)の金属層の反射層6を2μmの厚さに真空蒸着した。一方、上記で製造された本発明のLED搭載用基板9の表面にも、同様の方法で銀/錫合金((Ag3.5質量%、Sn96.5質量%)の金属層8を2μmの厚さに蒸着した。
【0047】
上記反射層6と上記金属層8とを接面させて積層し、温度400℃で、5MPaの加圧下で5分間保持した。得られた接合体は、単結晶成長基板(単結晶サファイア基板)側より、出力40MW/cm2の窒素ガスレーザーを照射し単結晶サファイア基板を剥離した。また、このレーザー照射により、n型GaNバッファー層2がGaと窒素に分解されて発生した窒素ガスにより単結晶サファイア基板が剥離された。
【0048】
その後、露出したn型GaNバッファー層2をエッチングにより除去した後、LED5の表面に酸化インジウム錫(Sn4.5質量%)の透明導電層9を0.4μmの厚みに形成した。その後、この透明導電層にn型電極としてAuを蒸着してから、ダイシングにより1mm□に切断して本発明のLED搭載構造体を製造した(図3参照、但し電極は図示せず)。
【0049】
実施例2〜10
実施例1と同一割合で混合した、炭化珪素粉末A、炭化珪素粉末B、炭化珪素粉末C及び成形バインダーからなる混合粉末を、Φ55mm×20mmの寸法の円柱状に面圧10MPaでプレス成形した後、成形圧力100MPaでCIP成形して成形体を作製した。
【0050】
得られた成形体を、実施例1と同一条件で脱脂処理後、アルゴン雰囲気下、温度2100℃で2時間焼成して気孔率が20体積%のプリフォームを製造し、実施例1と同様にして外形寸法がΦ52mm×20mmの形状に加工した。これらの3点曲げ強度を実施例1と同様に測定したところ、実施例2〜10の全てが120〜130MPaの範囲内であった。
【0051】
得られたプリフォームと、表1に示す塊状のシリコン又はシリコン合金を、BN粉を塗布した黒鉛坩堝に入れ電気炉内にセットした後、炉内を真空引きし、1650℃で10時間保持して、シリコン又はシリコン合金を含浸させたプリフォームを製造し、実施例1と同様にして余分なシリコン又はシリコン合金を除去して、Φ52×20mm形状のシリコン又はシリコン合金含浸のプリフォームを製造した。
【0052】
シリコン含浸のプリフォームのかわりに、このシリコン又はシリコン合金含浸のプリフォームを用いたこと以外は、実施例1と同様にして線膨張係数、熱伝導率、3点曲げ強度、体積固有抵抗を測定した。その後、実施例1と同様な手順でLED搭載用基板を製造し、表面粗さ(Ra)と単位面積当たりの質量減少量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(LED搭載構造体の製造)
図2に示すように、板厚が0.5mmの単結晶成長基板(単結晶サファイア基板)1に、CVD法でSiCからなる表面コーティング層3を2μm形成した後、アンモニアガスと塩化ガリウムを使用し、キャリアガスとして水素ガスを用い、温度1050℃でHVPE法により、厚みが4.1μmのLED5をエピタキシャル成長させた。LED5は、n型III−V族半導体層(n型GaN半導体層)51が2μm、発光層(GaN発光層)52が0.1μm、及びp型III−V族半導体層(p型GaN半導体層)53が2μmで構成されていた。
【0055】
つぎに、LED5のp型GaN半導体層53の表面に、真空蒸着法で、銀を0.5μmの厚さに蒸着して反射層6を形成した後、Au/錫合金(Au80質量%、Sn20質量%)を1.5μmの厚さに蒸着して金属層7を形成した。実施例2〜10のLED搭載用基板9の表面にも、同様の方法でAu/錫合金を1.5μmの厚さに蒸着して金属層8を形成した。金属層7と金属層8を接面させて積層し、温度500℃で、5MPaの加圧下で5分間保持し接合体を製造した。
【0056】
得られた接合体を、酸処理して単結晶成長基板(単結晶サファイア基板)1をエッチング除去した後、研削加工により表面コーティング層3を完全に除去した。ついで、露出したLED5の表面をエッチングにより表面粗化した後、酸化インジウム錫(Sn4.5質量%)の透明導電層9を0.2μmの厚みに形成した。その後、n型電極としてAuを蒸着しレーザー加工してLED搭載構造体を製造した(図3参照、但し電極は図示せず)。
【0057】
実施例1〜10のLED搭載構造体は、LEDから発生する熱を十分に放熱することができ、発光効率の低下及び素子寿命の低下を緩和することができた。また、実施例1〜10のLED搭載構造体に使用されたLED搭載用基板は、導電性であるので、p型又はn型の片方のGaNの一部をエッチング等で除去して電極を形成する必要がなく、LED搭載用基板の単位面積当たりの発行量を増加させることができた。
【0058】
実施例11
(LED搭載用基板の製造)
炭化珪素粉末D(大平洋ランダム社製、NG−80、平均粒子径:150μm)1300g、炭化珪素粉末E(屋久島電工社製、GC−1000F、平均粒子径:10μm)700g、及び成形バインダー(メチルセルロース)300gを攪拌混合機で30分間混合した後、Φ55mm×20mmの寸法の円柱状に面圧30MPaでプレス成形して成形体を作製した。
【0059】
得られた成形体を、温度120℃で1時間乾燥後、窒素雰囲気下、温度1900℃で2時間焼成して、気孔率が35体積%のプリフォームを製造した。これを、マシニングセンターでダイヤモンド砥石を用いて、外形寸法が、Φ52mm×20mmの形状に加工し、3点曲げ強度を実施例1と同様にして測定したところ、50MPaであった。
【0060】
得られたプリフォームと塊状のシリコンを用い、10時間保持を8時間保持に変更したこと以外は実施例2と同様にしてシリコン含浸のプリフォームを製造した。
【0061】
このシリコン含浸のプリフォームについて、実施例1と同様にして特性を測定した。その結果、温度25℃〜150℃の線膨張係数は4.1×10-6/K、温度25℃での熱伝導率は200W/mK、3点曲げ強度は290MPa、体積固有抵抗は10-3Ω・mであった。また、表面粗さ(Ra)はRa0.04μmであった。また、単位面積当たりの質量減少量は、HCl水溶液に浸漬したときは0.000mg/cmであり、NaOH水溶液に浸漬したときは0.0080mg/cmであった。
【0062】
比較例1
実施例1に準じ、板厚が0.5mmの単結晶サファイア基板(単結晶成長基板)1の上に、n型GaNバッファー層2を0.5μm形成させてから、アンモニアガスとトリメチルガリウムを使用し、キャリアガスとして水素と窒素の混合ガスを用い、温度1100℃のMOCVD法により、厚みが6.2μmのLED5をエピタキシャル成長させた。LED5は、n型GaN半導体層51が3μm、発光層52が0.2μm、及びp型GaN半導体層53が3μmで構成されていた。
【0063】
ICPドライエッチングにより、p型GaN半導体層53及び発光層52を部分的にエッチングしてから、p型GaN半導体層53の表面に酸化インジウム錫(Sn4.5質量%)の透明導電層を0.2μmを形成した(図4参照)。その後、p型電極及びn型電極としてAuを蒸着して形成し、レーザー加工してLED搭載構造体を製造した。その結果、実施例1〜10のLED搭載構造体と比較して、単位面積当たりの発光量が低下し、またLEDから発生した熱を十分に放熱することができず、温度が約20℃上昇した。
【0064】
GaNをGaAs又はGaPにしたこと、バッファー層をAlN、GaN又はGaAsの表面コーティング層にしたこと、単結晶サファイア基板を単結晶炭化珪素、単結晶GaAs又は単結晶Siにしたこと以外は、実施例1に準じLED搭載用基板と、それを用いたLED搭載構造体を製造した。その結果、実施例1とほぼ同等の好結果が得られた。
【符号の説明】
【0065】
1 単結晶成長基板
2 n型III−V族半導体のバッファー層
3 無機化合物の表面コーティング層
4 透明導電層
5 LED
51 n型III−V族半導体層
52 発光層
53 p型III−V族半導体層
6 反射層
7 反射層5表面の金属層
8 LED搭載用基板9表面の金属層
9 LED搭載用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔率が10〜50体積%である炭化珪素多孔体にシリコン又はシリコン合金を含浸させてなり、3点曲げ強度が50〜350MPa、少なくとも一面の表面粗さ(Ra)が0.01〜0.5μm、板厚が0.05〜0.5mmであることを特徴とするLED搭載用基板。
【請求項2】
温度25℃の熱伝導率が150〜300W/mKであることを特徴とする請求項1に記載のLED搭載用基板。
【請求項3】
温度25℃〜150℃の線膨張係数が3.5〜5.5×10−6/Kであることを特徴とする請求項1又は2に記載のLED搭載用基板。
【請求項4】
体積固有抵抗が10−5〜10−1Ω・mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のLED搭載用基板。
【請求項5】
温度25℃の5規定のHCl水溶液又は75℃の10規定のNaOH水溶液に1分間浸漬したときに、少なくとも一面の質量減少が0.2mg/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のLED搭載用基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のLED搭載用基板(9)の少なくとも一面に、金属層(8)又は金属層(8)と金属層(7)、反射層(6)、LED素子(5)及び透明導電層(4)を順次有しており、この透明導電層(4)に電極(図示せず)が取り付けられてなることを特徴とするLED搭載構造体。
【請求項7】
以下の工程を順次経ることを特徴とする請求項6記載のLED搭載構造体の製造方法。
(ア)単結晶成長基板(1)の表面にn型III−V族半導体のバッファー層(2)又は無機化合物の表面コーティグ層(3)を形成させた後、LED(5)をエピタキシャル成長させる工程
(イ)LED(5)のp型III−V族半導体層(53)の表面に金属層の反射層(6)を、必要に応じて更にこの反射層(6)の表面に金属層(7)を形成する一方、LED搭載用基板(9)の表面には金属層(8)を形成する工程
(ウ)上記反射層(6)又は上記金属層(7)と、上記金属層(8)とを接面させ、加熱して接合体を製造する工程
(エ)上記単結晶成長基板(1)と上記バッファー層(2)又は上記表面コーティグ層(3)を除去する工程
(オ)露出したLED(5)のp型III−V族半導体層(53)表面を加工してから、透明導電層(4)とこの透明導電層(4)に電極(図示せず)とを形成させた後、所望形状に切断する工程
【請求項8】
単結晶成長基板(1)の材質が、単結晶サファイア、単結晶炭化珪素、単結晶GaAs、単結晶Siのいずれかであることを特徴とする請求項7に記載のLED搭載構造体の製造方法。
【請求項9】
表面コーティグ層(3)の材質が、AlN、SiC、GaN及びGaAsから選ばれた少なくとも一種の無機化合物であることを特徴とする請求項7又は8に記載のLED搭載構造体の製造方法。
【請求項10】
バッファー層(2)及びLED(5)を構成するIII−V族半導体が、GaN、GaAs、GaPのいずれかであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のLED搭載構造体の製造方法。
【請求項11】
反射層(6)、金属層(7)及び金属層(8)の材質が、インジウム、アルミニウム、金、銀及びこれらの合金から選ばれた少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のLED搭載構造体の製造方法。
【請求項12】
透明導電層(4)の材質が、酸化インジウム錫、酸化カドミウム錫、酸化インジウム亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、酸化錫亜鉛、酸化錫アンチモニーから選ばれた少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載のLED搭載構造体の製造方法。
【請求項13】
切断を、レーザー照射、エッチング及び研削から選ばれた少なくとも1つの方法で行うことを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載のLED搭載構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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