説明

LKB1リン酸化活性を検定する方法

本発明は、LKB1の活性を検定する方法に関し、その方法は、LKB1を含む試料を供給するステップと、リン酸化を許容する条件下で前記試料を基質キナーゼと接触させるステップと、前記基質キナーゼへのリン酸の取り込みをモニターするステップとを含み、前記基質キナーゼへのリン酸の取り込みがLKB1活性を示す。好ましくは、その基質キナーゼは、AMPKである又はAMPKに由来する。本発明はまた、特定の異常の治療又は予防におけるAMPKの使用、並びに特定の異常のための薬剤の製造におけるAMPKの使用、並びにAMPKの活性化及びリン酸化におけるLKB1の使用にも関する。本発明はまた、AMPKK及びAMPKに関する特定の遺伝子変化を有する酵母細胞をも包含する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)は、遺伝性の癌の症候群であり、多数の器官系の良性腫瘍も悪性腫瘍も生じやすい傾向を特徴とする。この症候群は、タンパク質キナーゼLKB1(GenBankアクセッション番号U6333、Hemminki et al. 1998 Nature vol 391 pp185-187を参照)の機能喪失突然変異と関連すると考えられている。
【0002】
従来技術では、LKB1の分子内キナーゼ活性について満足な検定法(assay)は存在しない。
【0003】
LKB1活性についての従来技術の検定法には、Boudeau et al. 2003 Human Mutation:Mutation in Brief 583で示されるものなどの自己リン酸化検定法がある。LKB1のThr336の自己リン酸化が生理的に重要であるにもかかわらず、その意義もせいぜい明らかであるとはいえないが、従来技術ではLKB1の生理的な基質は知られておらず(例えば、Boudeauの8ページ及びその他を参照)、もちろんLKB1のどんなキナーゼ基質も知られていない。
【0004】
さらに、LKB1活性について研究する従来技術の試みは、その分子の(複数可の)触媒部分の全体的な欠失体などの機能喪失突然変異体に集中している。従来技術ではLKB1についてほとんど分かっていないので、そのような洗練されていない実験が、研究の最良の利用可能な経路となっている。LKB1と、シグナル伝達/代謝経路の下流の構成成分のつながりが欠如していることによって、進展が妨げられている。
【0005】
LKB1の自己リン酸化がたとえ重要な生物学的事象であっても、この活性を除去し、その負の影響について研究することは、洗練されていない研究手段であり、LKB1の意味深く生物学的に重要な基質がないと、下流の構成成分の分析につなげることができない。
【0006】
従来技術では重要なLKB1の基質が知られていないので、LKB1の活性又は活性化についてのしっかりとした検定法を設計することはできない。制御的ではなく許容的なものに過ぎない可能性がある自己リン酸化事象などのLKB1自体の役割の意義を詳細に分析することもできない。
【0007】
ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)の研究は、その疾患の根底にある遺伝学的基礎について知られているものに限られる。従来技術では、LKB1との関連について論じられている(例えば、Hemminki et al. 1998 Nature vol 391 pp185-187を参照)。しかし、LKB1の下流の標的又はエフェクターとの関連は、従来技術では明らかとなっていない。さらに、LKB1の下流の標的又はエフェクターも従来技術では明らかとなっていない。したがって、PJSの治療又は予防においてなどの研究に適した標的が欠如している。
【0008】
AMPKの活性化は、そのリン酸化状態と相関することが知られている(例えば、Neumann et al. 2003 Protein Expression and Purification ‘Mammalian AMP-activated protein kinase:functional, heterotrimeric complexes by co-expression of subunits in E.coli’を参照)。しかし、このリン酸化の原因となるキナーゼは、同定されていなかった。
【0009】
従来技術により、AMPKの活性化に関する技術をもたらそうとしてきたが、AMPKの既知の活性化因子が存在しない中では、これらの技術は、細胞抽出物の部分精製に限られ、次いで、前記の抽出物が、AMPKを活性化することができる、ある活性型の未知の上流キナーゼを含むことを期待して、in vitroでAMPKにそれを適用する。これらの実験は、その技術の状態を代表するものであるが、特徴付けが不完全な細胞抽出物に基づいているので、それでもなお大きな労力を要し、必然的に事実上洗練されていない。さらに、これらの実験は動物の屠殺を伴うが、これは最小限に抑えたにしても、それでもなお望ましくはない。
【0010】
本発明は、従来技術に伴う(複数可の)問題を克服しようとするものである。
【非特許文献1】Hemminki et al. 1998 Nature vol 391 pp185-187
【非特許文献2】Boudeau et al. 2003 Human Mutation:Mutation in Brief 583
【非特許文献3】Neumann et al. 2003 Protein Expression and Purification ‘Mammalian AMP-activated protein kinase:functional, heterotrimeric complexes by co-expression of subunits in E.coli’
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、LKBが下流の(複数可の)キナーゼをリン酸化するという驚くべき知見に基づくものである。さらに、LKB1は、AMPKと同じ同系の経路中にある。より詳細には、本発明はLKB1がAMPKに作用するという驚くべき知見に基づくものである。さらに、本明細書で示すように、LKB1は、AMPKのリン酸化及び活性化を引き起こす。下記に説明するように、LKB1は、AMPKを直接リン酸化することによってその作用を発揮することができ、LKB1が特異的な細胞キナーゼ基質(例えば、AMPK)を有し、逆に、AMPKが、上流キナーゼLKB1によって標的とされ活性化されることが初めて示される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの驚くべき知見から、下記及び添付した特許請求の範囲で詳細に説明する多数の検定法、組成物及び治療法を提供することが可能となった。
【0013】
したがって、一態様では、本発明は、LKB1の活性を検定する方法を提供し、その方法は、LKB1を含む試料を供給するステップと、リン酸化を許容する条件下で前記試料を基質キナーゼと接触させるステップと、前記基質キナーゼへのリン酸の取り込みをモニターするステップとを含み、前記基質キナーゼへのリン酸の取り込みがLKB1活性を示す。
【0014】
AMPKがLKB1の特に良好な基質キナーゼであることを示す。したがって、他の態様では、本発明は、前記の基質キナーゼがAMPKである又はAMPKに由来する、上記に記載の方法に関する。
【0015】
AMPKは、in vivoではヘテロ三量体複合体であると考えられている。したがって、LKB1を検定するとき、ヘテロ三量体AMPKを使用すると有利である。したがって、他の態様では、本発明は、AMPKがヘテロ三量体AMPKを含む、上記に記載の方法に関する。好ましくは、AMPKは、マウス又はヒトAMPKを含み、好ましくはヒトAMPKを含む。
【0016】
AMPK活性化の検定など任意の適切な方法によって、AMPKのリン酸化を検定することができる。他の態様では、本発明は、AMPKの活性を検定することによってAMPKへのリン酸の取り込みをモニターする、上記に記載の方法に関する。好ましくは、SAMSペプチドのリン酸化を介して、AMPKの活性を検定する。
【0017】
AMPKのリン酸化状態を直接読み取ることによって、AMPKのリン酸化を検定することもできる。放射標識リン酸など任意の適切な方法を用いて、又は特定の試薬を用いてAMPKのリン酸化状態を直接検定することによって、これを行うことができる。好ましくは、特定の試薬を用いる。したがって、他の態様では、本発明は、AMPKのT−172又はその等価物のリン酸化を検定することによってAMPKへのリン酸の取り込みをモニターする、上記に記載の方法に関する。等価物とは、AMPKのアイソフォーム又は相同体中の同じ残基を意味し、或いは、AMPKでの同じ位置にある異なる残基(例えば、セリン)を含む可能性もある。好ましくは、等価物とは、機能上等価な物、すなわちAMPKの活性化を示すものを意味する。
【0018】
AMPKへのリン酸の取り込みを定量して、LKB1の活性を推定することができると有利である。定量的なキナーゼ検定の技術は、当技術分野で周知である。リン酸画像化(phosphorimaging)によって、又は濃度測定によって、又はT−172の直接の免疫学的検定に適用される同様の技術によって、リン酸の取り込みを定量することができる。したがって、他の態様では、本発明は、AMPK1モル当たりに取り込まれるリン酸の量を定量するステップをさらに含み、前記リン酸レベルが前記試料に存在するLKB1のレベルを示す、上記に記載の方法に関する。
【0019】
驚くべきことに、LKB1を使用してAMPKをリン酸化且つ活性化できることが、本明細書で開示される。したがって、他の態様では、本発明は、AMPKの活性化における、組換え又は単離LKB1の使用に関する。
【0020】
他の態様では、本発明は、AMPKKとしての組換え又は単離LKB1の使用に関する。
【0021】
他の態様では、本発明は、AMPKのリン酸化における組換え又は単離LKB1の使用に関する。
【0022】
AMPKがLKB1のエフェクターであり、LKB1が減少するとAMPKが減少することが本明細書で示されているので、本発明は、対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法を提供し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む。
【0023】
他の態様では、本発明は、対象における肥満を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む。
【0024】
他の態様では、本発明は、対象における糖尿病を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む。
【0025】
他の態様では、本発明は、対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む。
【0026】
驚くべきことに、AMPKがLKB1と同じ同系の経路中にあり、LKB1の作用によって直接活性化されることが本明細書で開示されている。したがって、本発明は、対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む。
【0027】
他の態様では、本発明は、対象における肥満を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む。
【0028】
他の態様では、本発明は、対象における糖尿病を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む。
【0029】
他の態様では、本発明は、対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む。
【0030】
LKB1がAMPKのリン酸化を促進することが本明細書で開示されている。したがって、他の態様では、本発明は、対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む。
【0031】
他の態様では、本発明は、対象における肥満を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む。
【0032】
他の態様では、本発明は、対象における糖尿病を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む。
【0033】
他の態様では、本発明は、対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む。
【0034】
他の態様では、本発明は、ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用に関する。
【0035】
他の態様では、本発明は、肥満の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用に関する。
【0036】
他の態様では、本発明は、糖尿病の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用に関する。
【0037】
他の態様では、本発明は、肥大型心筋症(HCM)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用に関する。
【0038】
LKB1を安定化及び/又は活性化することが知られている特定の分子が存在する。したがって、AMPKの活性化及び/又は維持の際にこの(複数可の)分子を使用すると有利である。したがって、本発明は、AMPKの調節におけるLKB1の調節因子の使用に関する。他の態様では、本発明は、AMPKを調節する方法に関し、その方法は、LKB1を調節するステップを含む。
【0039】
他の態様では、本発明は、AMPKの活性の調節におけるHSP90の使用に関する。
【0040】
他の態様では、本発明は、AMPKの活性の調節におけるCdc37の使用に関する。
【0041】
他の態様では、本発明は、AMPKの活性の調節におけるSTRADタンパク質の使用に関する。
【0042】
他の態様では、本発明は、対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む。
【0043】
他の態様では、本発明は、対象における肥満を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む。
【0044】
他の態様では、本発明は、対象における糖尿病を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む。
【0045】
他の態様では、本発明は、対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む。
【0046】
他の態様では、本発明は、対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む。
【0047】
他の態様では、本発明は、対象における肥満を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む。
【0048】
他の態様では、本発明は、対象における糖尿病を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む。
【0049】
他の態様では、本発明は、対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法に関し、その方法は、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む。
【0050】
他の態様では、本発明は、ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用に関する。
【0051】
他の態様では、本発明は、肥満の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用に関する。
【0052】
他の態様では、本発明は、糖尿病の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用に関する。
【0053】
他の態様では、本発明は、肥大型心筋症(HCM)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用に関する。
【0054】
他の態様では、本発明は、AMPKをリン酸化する方法に関し、その方法は、AMPKを組換え又は単離LKB1と接触させるステップを含む。
【0055】
他の態様では、本発明は、系の中でAMPKのリン酸化を促進する方法に関し、その方法は、前記系の中でLKB1の活性を促進するステップを含む。
【0056】
他の態様では、本発明は、系の中でAMPKを活性化する方法に関し、その方法は、前記系の中でLKB1を活性化するステップを含む。
【0057】
他の態様では、本発明は、AMPKを活性化する方法に関し、その方法は、前記AMPKを組換え又は単離LKB1と接触させるステップを含む。
【0058】
他の態様では、本発明は、AMPKをリン酸化する方法に関し、その方法は、前記AMPKを組換え又は単離LKB1と接触させるステップを含む。
【0059】
他の態様では、本発明は、LKB1の(複数可の)調節因子を同定する方法に関し、その方法は、LKB1の第1と第2の試料を供給するステップと、前記第1の試料をLKB1の候補調節因子と接触させるステップと、リン酸化を許容する条件下で前記第1と第2の試料を基質と接触させるステップと、前記基質へのリン酸の取り込みをモニターするステップと、前記第1と第2の試料における前記基質へのリン酸の取り込みを比較するステップとを含み、基質へのリン酸の取り込みが前記第1と第2の試料の間で異なる場合、その候補調節因子が、LKB1活性の調節因子として同定される。好ましくは、基質は基質キナーゼである。好ましくは、基質キナーゼは、AMPKである又はAMPKに由来する。他の態様では、本発明は、この方法によって同定されたLKB1の調節因子に関する。好ましくは、前記調節因子は活性化因子である。
【0060】
他の態様では、本発明は、AMPK/AMPKKの研究のための組換え真核生物に関する。例えば本発明は、有利には、AMPKKを破壊した酵母細胞を提供する。したがって、他の態様では、本発明は、Pak1、Tos3及びElm1のうち少なくとも2つにおける遺伝子破壊を含む組換え酵母細胞に関する。好ましくは、組換え酵母細胞は、Pak1、Tos3及びElm1における遺伝子破壊を含む。好ましくは、組換え酵母細胞は、Snf1の遺伝子破壊をさらに含む。好ましくは、組換え酵母細胞は、Snf4の遺伝子破壊をさらに含む。好ましくは、組換え酵母細胞は、SIP1、SIP2及びGAL83の遺伝子破壊をさらに含む。好ましくは、組換え酵母細胞は、哺乳動物AMPKを発現することができる。好ましくは、組換え酵母細胞は、哺乳動物AMPKを発現する。好ましくは、哺乳動物AMPKはマウス又はヒトAMPKであり、好ましくはヒトAMPKである。好ましくは、哺乳動物AMPKはα、β及びγサブユニットを含む。好ましくは、酵母は、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)である。遺伝子破壊は、任意の適切な技術により行ってもよく、或いは遺伝子交配により、個々の株から同じ細胞に一緒に集めてもよい。
【0061】
他の態様では、本発明は、これらの株の使用による、例えば、候補AMPK/AMPKK又はそのライブラリーでの形質転換、及び機能的AMPK及び/又はAMPKKを単離するための炭素源での選択によるAMPKK及び/又はAMPKの相補性クローン化に関する。他の態様では、本発明は、この形で単離されたAMPK及び/又はAMPKKに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明者らは、AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)をリン酸化し活性化するタンパク質キナーゼを同定した。これは、AMPKの調節、特にAMPKの活性化を目的とする化合物の治療標的となる。
【0063】
本発明から、2型糖尿病、ポイツ−ジェガーズ症候群、癌及び肥満の1種又は複数種の治療又は予防における特定の有用性が見出される。さらなる適用例及び詳細を下記に示す。
【0064】
LKB1の下流基質としてのAMPKの同定から、上流のキナーゼを調節及び/又は活性化し、癌又は本明細書で説明する他の異常の治療において治療的役割を果たす可能性がある化合物をスクリーニングする検定系の提供が可能となる。
【0065】
AMPKカスケードにおける上流のキナーゼの同定により、2型糖尿病及び肥満、並びに本明細書に記載する他の異常の治療を目的とする候補薬剤スクリーニングの標的がもたらされる。
【0066】
LKB1の基質としてのAMPKの同定から、LKB1を活性化する候補薬剤をスクリーニングする検定法がさらにもたらされる。これは、癌の治療並びに代謝異常及び他の異常の治療に適用される。
【0067】
幅広い態様において、本発明は、LKB1の活性を検定する方法に関し、その方法は、LKB1の試料を供給するステップと、リン酸化を許容する条件下で前記試料を基質と接触させるステップと、前記基質へのリン酸の取り込みをモニターするステップとを含み、前記基質へのリン酸の取り込みがLKB1活性を示す。この態様では、基質とは、本明細書で示すもの(実施例の項を参照)など、実証可能な生物学的作用を有するものなどの生物学的意義のある任意の基質を意味する。好ましくは、前記基質は、それ自体キナーゼ(すなわち「基質キナーゼ」)であり、好ましくは、前記基質はAMPKであり又はそれに由来し、好ましくは、前記基質はAMPKである。
【0068】
本明細書において、「基質キナーゼ」という用語は、その通常の意味を有する。具体的には、「キナーゼ」とは、Hunterによって定義されたキナーゼ特異的モチーフ(kinase signature motif)(例えば、Hanks, Quinn and Hunter 1988 Science vol 241 p.42を参照)を有するような、配列比較によって認識可能なキナーゼを意味する。もちろん、「キナーゼ」は、キナーゼ失活変異体又は触媒として不活性な(複数可の)断片を除外したものを意味しないが、Hanksらを参照してキナーゼと通常分類されるタンパク質ファミリーを示すのに使用される。好ましくは、キナーゼは、タンパク質及び/又は糖質及び/又は脂質キナーゼを、好ましくはタンパク質キナーゼを意味する。
【0069】
本明細書において、「系」とは、その通常の意味を有し、(複数可の)細胞全体などの複雑な(複数可の)生物系を含むことがある。
【0070】
「由来する」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、物質の一部が、最初の物質のすべて又は一部をその問題の物質に組み込む一連の事象を通じて作り出され又は構築されたとき、その物質がその最初の物質に「由来する」とみなされる。当然ながら、その2つの物質は、例えば突然変異、付加又は欠失或いは類似の改変によって異なる可能性が高いが、その問題の物質がその最初の物質から特徴を受け継いでいる場合、その物質はその最初の物質に由来する。具体的には、(複数可の)ポリヌクレオチドや(複数可の)ポリペプチドなどの生体ポリマーに関連して使用するとき、物質が最初の物質と関連すると認識されるほど十分な配列同一性を有するときにその物質は最初の物質に由来するとみなされる。この場面では、物質が最初の物質に由来する場合、前記物質は、好ましくは少なくとも連続した10残基を有し、最初の物質と少なくとも25%の同一性、好ましくは30%の同一性、好ましくは40%の同一性、好ましくは50%の同一性、好ましくは60%の同一性、好ましくは70%の同一性、好ましくは80%の同一性、好ましくは90%の同一性、好ましくは95%の同一性、好ましくは96%の同一性、好ましくは97%の同一性、好ましくは98%の同一性、好ましくは99%の同一性又はそれをさらに超える同一性を有する。好ましくは、前記物質は、前記同一性を有する、少なくとも連続した15残基、好ましくは少なくとも20残基、好ましくは少なくとも30残基、好ましくは少なくとも50残基、好ましくは少なくとも100残基、好ましくは少なくとも200残基又はそれをさらに超える残基を有する。多量体の物質では、その用語は、その状況から明らかな複合体及び/又は個々の構成要素に適用することができる。一般に、そのサブユニットの1つがその所与の物質に由来すれば、それは十分である。
【0071】
相同体は、当技術分野で通常理解されている通りである。好ましくは、相同体とは、他の種の生物など他の生物の同等物を指す。
【0072】
「単離された」という用語は、組換えの及び/又は精製されたものを意味することがある。精製されたとき、その用語は、それが天然に認められる組成物の少なくとも1つの構成要素から分離されたときの物質を指す。
【0073】
本発明の作用因子/調節因子とは、AMPKの活性化及び/又はリン酸化に関与する物質を指す。本発明の例示的な作用因子/調節因子は、LKB1である。これは、HSP90及び/又はCdc37、或いはその組合せなどの(複数可の)安定化作用因子と併用して使用することができる。他の調節因子は、STRADタンパク質であり、LKB1を活性化し、したがってAMPKを活性化することができる。したがって、本発明は、AMPKの調節、好ましくはAMPKの活性化におけるSTRADタンパク質の使用に関する。
【0074】
AMPK活性の検定
当業者によってAMPKを検定することができる様々な方法がある。本発明によれば、AMPK活性を検定するための任意の適切な技術を使用することができる。
【0075】
AMPK活性は、直接的に(例えばAMPKのキナーゼ活性を検定することによって)決定することもでき、或いは間接的に(例えばAMPKのスレオニン172のリン酸化状態を検定することによって)決定することもできる。好ましくは、AMPK活性は、直接的に測定する。
【0076】
AMPKを検定する大多数の技術は、AMPKによってリン酸化されることが可能な基質のリン酸化の測定を利用するものである。この基質は、ポリペプチド(例えば、比較的短い基質ペプチド(例えば50アミノ酸残基以下))又は長いポリペプチド/タンパク質、或いはその断片又はドメインなど、どんな適切な基質でもよい。
【0077】
AMPK活性は、AMPKによるAMPK基質へのリン酸の移行を測定することによって検定することができる。AMPKのαサブユニット内の残基172(好ましくは野生型スレオニン172)のリン酸化状態を決定することによってAMPK活性を検定することもできる。この検定の例は、例えば図4eに示すように下記で示す。
【0078】
この方法を用いて、その上流のキナーゼによってAMPKをリン酸化し、リン酸化スレオニン172を特異的に認識する抗体(Cell Signalling Technologiesから市販されている)を用いたウェスタンブロット法によりスレオニン172のリン酸化を決定する。
【0079】
AMPK活性は、好ましくは基質(例えばペプチド又はタンパク質基質)のリン酸化を測定することによって検定する。この手順は、タンパク質キナーゼでは非常に標準的なものである。タンパク質基質(例えばアセチルCoAカルボキシラーゼ)並びに短いペプチドを用いてAMPKを検定することができる。
【0080】
リン酸の移行は、好ましくはリンの(複数可の)放射性同位体を用いてモニターする。例えば、32−P標識ATPを使用することができるが、それはどんな標識リン酸でも、例えば33−Pでもよい。好ましくは、32−Pγ標識ATPを使用する。
【0081】
AMPK基質は、好ましくはペプチドである。このペプチドは、AMPKによってリン酸化されることが可能などんなペプチド基質でもよい。
【0082】
好ましくは、ペプチドは、AMPKによるリン酸化の共通配列を含み、前記共通配列は、リン酸化可能な残基(セリン又はスレオニン)のN末端側5アミノ酸位に疎水性残基を、リン酸化可能な残基のN末端側2、3、又は4アミノ酸位に塩基性残基を、リン酸化可能な残基のC末端側4アミノ酸位に疎水性残基を含み、以下のように表すことができる:
疎水性−(塩基性,X,X)−X−セリン又はスレオニン−X−X−X−疎水性
上式で、括弧内のアミノ酸の順序は決定的なものではない。
【0083】
AMPKによるリン酸化の共通モチーフのさらなる手引きは、Weekes, J., Ball, K.L., Caudwell, F.B. and Hardie, D.G. FBBS Lett. 334, 335-339 (1993)に認めることができ、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0084】
これらのペプチドは、任意の適切な技術により容易に合成することもでき、或いは営利会社又はサービス研究室(service laboratories)から提供されるものでもよく、或いはその場で必要に応じて単に作製してもよい。
【0085】
適切なAMPK基質の好ましい例は、SAMSペプチド(HMRSAMSGLHLVKRR)(Davies, S.P., Carling, D. and Hardie, D.G. Eur. J. Biochem. 186, 123-128 (1989))である。これは、Upstate Biotechnology Inc.から市販されている。
【0086】
好ましくは、AMPK活性は、本明細書に記載のように(例えば、図4dに示すように)検定する。
【0087】
AMPKは、遺伝学的手段によって検定することもできる。例えば、lexAop−lacZレポーターの転写が、そのプロモーターと結合したLexA−Snf1pの触媒活性に依存する酵母AMPK(Snf1)の検定法(Kuchin, 2000、参照により本明細書に組み込まれるKuchin, S., Treich, I. & Carlson, M. A regulatory shortcut between the Snfl protein kinase and RNA polymerase II holoenzyme. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 7916-7920 (2000))を使用し又は適合させることができる。この及び他の遺伝学的試験を、実施例の項など、下記でより十分に説明する。
【0088】
AMPK
本発明の検定におけるAMPKの使用に関して、当業者に使用可能なタンパク質を作製する多数の代替方法が存在する。
【0089】
活性化に必要なリン酸化可能な残基を含み、活性に必要なそのアミノ酸残基を含むAMPK、又はAMPKの相同体を、本発明に従った検定法に使用することができる。好ましくは、活性化残基は172であり、好ましくはスレオニン172である。本明細書に記載の、例えばSAMSペプチドを用いたAMPKの(複数可の)検定法で試験することによって、残基が活性に必要かどうかを判定することができる。
【0090】
AMPKは、活性化ループ中のリン酸化によって活性化される。具体的には、AMPKは、活性化部位172でのリン酸化によって活性化される。天然に存在するAMPKは通常この部位にスレオニンを有するが、類似のリン酸受容型アミノ酸で、例えばセリンでこの部位を置換できることが理解されるであろう。さらに、当技術分野で知られているように、例えば負に帯電した残基の導入など、この部位でのさらなる突然変異によって、構成的に活性型の変異体を構築することができる。本発明の状況では、AMPKは、野生型の哺乳動物の配列を参照することによって判断されるように、活性化ループ中で172位にリン酸受容型残基を有するのが好ましく、好ましくは、172位はスレオニンである。
【0091】
これに関して、LKB1の任意の活性型製剤、例えば、(複数可の)タグ配列を含む又は含まない適切な系で発現させた組換えLKB1を使用して、(スレオニン172と同等の)活性化部位を保持し、且つ/又はリン酸化後にAMPKの触媒活性を示すことができたどんな形のAMPKもリン酸化し活性化することができる。
【0092】
AMPKは、天然には複数のサブユニットから構成されることが理解されるであろう。したがって、本明細書において、「AMPK」という用語は、AMPK活性を有するそのタンパク質又はタンパク質の結合体を指す。現在、AMPKを形成する結合体中のサブユニットの考えられる組合せが少なくとも12種存在する。この数字は、現在αサブユニットが2種、βサブユニットが2種、またγサブユニットが3種存在し、それによって考えられる12種の異なるヘテロ三量体型のAMPKが生じることから得られたものである。αサブユニットは、LKB1によって標的とされる。
【0093】
本発明で有用なAMPKの好ましい供給源は、細菌によって発現された哺乳動物AMPK複合体である。その複合体の発現に使用する好ましい戦略については、Neumann et al. 2003 Protein Expression and Purification ‘Mammalian AMP-activated protein kinase:functional, heterotrimeric complexes by co-expression of subunits in E.coli’に詳細に記載されている。したがって、好ましい実施形態では、本発明の検定に使用するAMPKは、Neumannらにしたがって調製する。
【0094】
NeumannらはGenBankアクセッション番号X95578、X95577、及びU40819に詳細な記載があるcDNAによってコードされたマウスAMPKサブユニットから研究しているが、ヒトAMPKサブユニットの調製は、Neumannに従い、必要に応じてヒト配列を探知するためにクローン化ステップで使用するPCRプライマーを単に変更し、PCRステップに適したヒト鋳型核酸を使用することにより、当業者の能力の範囲内で十分に行われる。したがって、他の実施形態では、AMPKは、Neumannらに従って調製したヒトAMPKであることが好ましい。
【0095】
(複数可の)切断型のAMPKαサブユニットを、好ましくは触媒サブユニットを含むものを、好ましくはスレオニン172を含むものを本発明で使用することも可能である。AMPKαを切断することにより、上流のキナーゼによってスレオニン172のリン酸化が可能であり、他の2種の制御AMPKサブユニット(β及びγ)の不在下で活性のあるタンパク質を作製することが可能である。好ましくは、本発明で使用する切断型AMPKαは、Hamilton, S.R., O'Donnell, J.B., Hammet, A., Stapleton, D., Habinowski, S.A., Means, A.R., Kemp, B.E. and Witters, L.A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 293, 892-898 (2002)に従って調製する。この物質は、細菌によって発現され、Ni−NTAを用いて精製したα1の最初の312アミノ酸を含む。次いで、本発明の検定で、この物質を上流キナーゼの基質として使用することができる。
【0096】
動物組織から精製したAMPKを使用することも可能である。例えばAMPKは、Carling, D., Clarke, P.R., Zammit, V.A. and Hardie, D.G. Bur. J. Biochem. 186, 123-128 (1989)に従って、ラット肝から精製することができる。その酵素AMPKを含むどんな供給源から精製したAMPKも本発明の検定で使用できることが、当技術分野の読者によって当然理解されるであろう。例えば、本発明で使用する精製AMPKは、Upstate Biotechnology Inc.から市販されている。
【0097】
さらに、他の種由来のAMPKの(複数可の)相同体、例えば酵母由来のSNF1も、本発明に有用であることが理解されるであろう。
【0098】
好ましい実施形態では、AMPKは、Neumannら(Neumann, Woods, Carling, Wallimann and Schlattner Protein Expression and Purification 2003 "Mammalian AMP-activated protein kinase: functional, heterotrimeric complexes by co-expression of subunits in E. coli")に記載のように、本発明の検定で使用するために調製することができる。
【0099】
他の好ましい実施形態では、AMPKは、本発明での使用に適した切断型のAMPKの発現について記載するHamiltonら(Hamilton et al. 2002 BBRC vol 293 pp892-898)に従って調製することができる。
【0100】
LKB1
本発明の検定におけるLKB1の使用に関して、当技術分野の読者に使用可能なLKB1を作製する多数の代替方法がある。例えば、検定を定性的に使用して、LKB1活性が試料に存在するかどうかを決定する場合、天然に前記試料がLKB1を含むかどうか分からないことがある。
【0101】
(例えば、(複数可の)タグ配列を含む又は含まない適切な系で発現させた)LKB1の任意の活性型製剤を使用して、(AMPKのスレオニン172と同等の)活性化部位を保持し、且つ/又はリン酸化後に触媒活性を示すことができたAMPKなど任意のAMPK製剤をリン酸化し活性化することができる(上記のAMPKの項を参照)。
【0102】
具体的には、Sapkotaら(Sapkota et al 2001, JBC vol 276 pp19469-19482)は、本発明での使用に適した、異なるタグの形態のLKB1の例を提供する。好ましくは、LKB1は、大腸菌(E.coli)中で作製し、参照により本明細書に組み込まれるSapkotaらに従って精製する。
【0103】
異なる種由来の異なるクローンのLKB1も適切であることが、当技術分野の読者に理解されるであろう。これらは、LKB1の相同体も含むことがある。ヒト又はマウスのLKB1との、好ましくはヒトLKB1との最大の配列同一性を示すこれらの相同体が好ましい。
【0104】
Sapkotaでは、マウスの配列NCBI AA542163/IMAGE 550355をLKB1のPCRクローニングでの鋳型として使用する。もちろん、当業者なら、同じ手順に従い、必要に応じてヒト配列に対するプライマー配列を単に適合させ、適切なヒト鋳型核酸を使用することによってヒトLKB1が得られるように、Sapkota を適合させることが容易であることを理解するであろう。したがって、一実施形態では、LKBは、好ましくはヒトLKBである。
【0105】
活性を保持する切断型のLKB1を使用することが望ましい可能性がある。LKB活性を保持するかどうかは、本発明の検定を用いて容易に決定される。
【0106】
下記に記載のように、例えば特定の(複数可の)細胞系統での発現によって、LKBを活性化することができる。
【0107】
活性型でLKB1を直接発現させることが望ましい可能性があり、次いでこれは本発明の検定に使用することができる。LKB1は、当技術分野で知られているように、例えばHSP90及び/又はCdc37及び/又はSTRADタンパク質を用いて、活性化及び/又は安定化することができる。
【0108】
LKB1は、COS7、HEK293、G361黒色種、CCL13肝癌、H2K骨格筋、HeLa又はSf9細胞で発現するとき、活性であることが知られている。
【0109】
好ましい実施形態では、LKB及びAMPKは、同じ種からのもの、又はそれに由来するものである。
【0110】
LKB1の検定
LKB1キナーゼ検定は、キナーゼ検定の標準的な条件を用いて行う。下記の注釈は、検定における終濃度を指す。
【0111】
pHは、好ましくはLKB1キナーゼ検定用に調節する。好ましくは、pHは、6〜9に、好ましくは6.5〜8.5に、好ましくは7.5に調節する。
【0112】
緩衝剤は、トリス、HEPES、MOPS、MES又は他の適切な緩衝剤でもよい。好ましくは、緩衝剤はHEPESである。好ましくは、緩衝剤は50mMである。
【0113】
金属イオンが含まれる。好ましくは2+金属イオンである。好ましくはマンガン及び/又はマグネシウムイオンである。好ましくはマグネシウムイオンである。好ましくは、金属イオンは金属塩化物として供給する。好ましくは、金属イオンは、1〜10mMで、好ましくは5mMで存在する。
【0114】
場合によっては安定化剤が含まれる。安定化剤は、グリセロール、例えば10%グリセロールでもよく、或いはトリトン(triton)、例えば1%トリトンやトゥイーン(tween)、例えば0.1%トゥイーンなどの界面活性剤でもよい。
【0115】
還元剤が含まれると有利である。還元剤は、DTT、グルタチオン、B−メルカプトエタノール又は他の適切な還元剤でもよい。好ましくは、還元剤は1mMで使用する。好ましくは、還元剤はDTTである。
【0116】
場合によってはキレート剤を使用する。好ましくは、キレート剤はEDTAであり、好ましくは1mM EDTAである。
【0117】
ATPが含まれる。好ましくは、ATPは10μM〜10mMで、好ましくは10μM〜5mMで、好ましくは100μMで存在する。ATPは、必要性及び選択する読み取り方に応じて、例えば33P又は32Pで、好ましくは32Pで標識(好ましくはγ標識)してもよく、或いは非標識でもよい。非標識の場合、読み取り方は、好ましくはAMPKのP−T172の免疫学的検出である。
【0118】
場合によっては、LKB1の(複数可の)活性化因子を含んでよい。これは、STRADタンパク質及び/又はAMPを含むことがある。
【0119】
所望の場合、LKB1に関する他のファクター、例えばHSP90、Cdc37他を含んでよい。
【0120】
好ましくは、LKB1検定の条件は、実施例の項の場合と同様であり、特に好ましくは、100μM ATPなどの実施例7で示すその条件である。
【0121】
遺伝子破壊
妨害、突然変異や欠失など、当業者に知られている任意の技術によって、遺伝子破壊を実現することができる。好ましくは、遺伝子破壊は、少なくとも一部のコード配列をゲノムから欠失させることによって、好ましくは、コード配列全体をゲノムから欠失させることによって実現する。
【0122】
(複数可の)プロモーターエレメントなどの転写エレメントを改変することによって、或いは(複数可の)アンチセンス又は抑制性核酸を過剰発現させて転写RNAの翻訳を低下させ又は無効にすることによって、或いは当技術分野で知られている他の任意の適切な手段によって破壊を実現することもできる。
【0123】
タグ配列
myc、HA、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、フラッグ(flag)や他のタグなどのエピトープタグを付けて、本発明に有用なポリペプチドを調製してもよい。好ましくはフラッグである。
【0124】
医療への適用
本発明から、ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)、肥満、糖尿病、好ましくは2型糖尿病、肥大型心筋症(HCM)の治療、予防及び/又は改善、細胞エネルギー恒常性の維持、熱ショックを含むストレス、低酸素及び虚血、細胞ATPレベルの低下と関係する筋肉疲労及び他の状態、癌、特にPJS患者に生じる癌、腸ポリポーシス、形質転換に対する抵抗及び細胞増殖の抑制、例えば無秩序な(複数可の)増殖状態の反転/停止、アポトーシス細胞死の誘導及び許容における特定の有用性が見出される。
【0125】
Snf1/AMPKファミリーのキナーゼは、真核生物における代謝ストレス応答に重要である。哺乳動物では、AMPKは、複数のストレスによって活性化され、その多くが細胞のAMP:ATP比の増大を引き起こし、またレプチン及び血糖降下薬メトホルミンによっても活性化される。AMPKは、エネルギー恒常性の調整に中心的な役割を有し、脂質代謝、グリコーゲン貯蔵、及びグルコース輸送の主要な制御因子である。AMPKは、2型糖尿病及び肥満を含む代謝異常の発症及び治療に関与しており、AMPKの突然変異は、ヒトにおいて心臓の異常を引き起こす。
【0126】
特に、本発明の治療を、p53標的薬剤(例えば、Bardeesy et al Nature vol 419 p162を参照)との併用療法に使用して効果を増強することができる。
【0127】
上流キナーゼによる酵母Snf1及び哺乳動物AMP活性化タンパク質キナーゼの活性化
本発明者らは、Snf1キナーゼカスケードの上流キナーゼとして機能するTos3p、Pak1p、及びElm1pの3種のキナーゼを同定した。本発明者らは、これらのキナーゼがin vitro及びin vivoでSnf1キナーゼをリン酸化し活性化する遺伝学的及び生物学的証拠を示す(実施例の項を参照)。この3種のキナーゼを欠く変異酵母細胞は、Snf1キナーゼ経路の代表的な機能であるグルコース以外の炭素源の利用能が欠損している。これは、生理的役割/機能を実証した、Snf1/AMPKキナーゼカスケードの上流キナーゼの初めての同定である。
【0128】
本明細書で検討したSnfの表現型を付与するのに3種すべてに突然変異を起こさなければならないので、この3種のキナーゼは著しい機能の重複をはっきりと示す。しかし、これらは、Snf1の制御に関して何らかの異なった機能を有することが判明する可能性が高いように思われる。その3種の各上流キナーゼは、特定のβサブユニットのアイソフォームを含むSnf1キナーゼについて何らかの選択性を示す可能性がある。他の可能性は、その3種のキナーゼが、異なる種類の代謝ストレスに、又はグルコース制限などの単一のストレスから生じる異なるシグナルに選択的に応答することである。
【0129】
本明細書で説明するように、これらのキナーゼの同定はまた、AMPKカスケードの上流キナーゼを同定するための検定及び/又はスクリーニングなど、本発明に従った検定法の設計及び改良が可能となる点において、酵母以外にも意義を有する。
【0130】
密接に関連する哺乳動物キナーゼLKB1(腫瘍抑制キナーゼ)の検討から、LKB1がAMPKの上流キナーゼである証拠が得られた。
【0131】
LKB1が、活性化ループのスレオニン残基上でAMPKをin vitroでリン酸化し活性化することが、本明細書で実証される。
【0132】
したがって、LKB1が、細胞中でAMPK活性に影響を及ぼす候補薬剤の有益な標的であることが実証される。
【0133】
さらに、これらの知見は、増殖及び形質転換並びに代謝の制御におけるAMPKについて開示される役割、並びにin vivoでのAMPKの制御におけるLKB1の生理的役割を支持するものである。
【0134】
酵母の上流キナーゼと関連する他の哺乳動物キナーゼが、本発明に従った、AMPKカスケードの真正キナーゼの候補でもあることが理解されるであろう。これらの哺乳動物の上流キナーゼは、本発明に従った、特に肥満及び2型糖尿病を含むヒト代謝異常並びに癌の治療についての治療標的となる。
【0135】
薬剤組成物
本発明はまた、治療上有効な量の本発明の(複数可の)作用因子及び/又は(複数可の)調節因子、並びに製剤上許容される担体、希釈剤又は賦形剤(それらの組合せを含む)を含む薬剤組成物をも提供する。
【0136】
薬剤組成物は、ヒト医学及び獣医学におけるヒト又は動物での使用のためのものでもよく、通常、1種又は複数種の製剤上許容される任意の希釈剤、担体又は賦形剤を含む。治療上の使用に許容される担体又は希釈剤は、製剤技術分野で周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。製剤上の担体、賦形剤又は希釈剤の選択は、意図された投与経路及び標準的な製剤上の慣習に関して選択することができる。薬剤組成物は、担体、賦形剤又は希釈剤として、又はそれらに加えて、任意の適切な(複数可の)結合剤、(複数可の)潤滑剤、(複数可の)懸濁剤、(複数可の)被覆剤、(複数可の)可溶化剤を含んでもよい。
【0137】
保存剤、安定化剤、色素、及び着香剤でさえ、薬剤組成物中に供給することができる。保存剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp−ヒドロキシ安息香酸のエステルがある。抗酸化剤及び懸濁剤を使用することもできる。
【0138】
異なる送達系に応じて組成物/製剤の要件が異なってもよい。一例として、本発明の薬剤組成物を製剤して、ミニポンプを用いて、或いは粘膜経路によって、例えば吸入用の経鼻噴霧剤若しくはエアロゾル剤又は経口摂取可能な液剤として、或いは非経口的に投与することができ、非経口的に投与する場合、例えば静脈内、筋内又は皮下経路で送達するために注射可能な形で組成物を製剤する。或いは、いくつかの経路で投与されるように製剤を設計することもできる。
【0139】
胃腸粘膜を介して薬剤を粘膜投与する場合、それは、胃腸管を通過する間安定なままであることが可能であるべきであり、例えば、それはタンパク質分解性の分解に抵抗性であり、酸性pHで安定であり、胆汁の界面活性作用に抵抗性であるべきである。
【0140】
適当な場合には、吸入により、坐剤又はペッサリーの形で、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤又は散粉剤の形で局所的に、皮膚貼付剤の使用により、デンプンやラクトースなどの賦形剤を含む錠剤の形で経口的に、或いは単独の又は賦形剤と混合したカプセル剤又は腔坐剤で、或いは着香剤又は着色剤を含むエリキシル剤、液剤又は懸濁剤の形で薬剤組成物を投与することもでき、非経口的に、例えば静脈内に、筋内に又は皮下にそれを投与することもできる。非経口投与では、滅菌水性液剤の形で、組成物を最も良好に使用することができ、それは血液と等張な液剤を作製するために他の物質、例えば塩類又は単糖類を含んでよい。口腔内又は舌下投与では、従来通りの方法で製剤することができる錠剤又はトローチ剤の形で組成物を投与することができる。
【0141】
いくつかの実施形態では、本発明の作用因子及び/又は成長因子を、シクロデキストリンと組み合わせて使用することもできる。シクロデキストリンは、薬剤分子と包接及び非包接複合体を形成することが知られている。薬剤−シクロデキストリン複合体の形成によって、薬剤分子の溶解度、溶解速度、生体利用度及び/又は安定性を改変することができる。一般に、薬剤−シクロデキストリン複合体は、ほとんどの剤形及び投与経路に有用である。薬剤との直接の複合体化の代替法としては、補助的な添加剤として、例えば担体、希釈剤又は可溶化剤としてシクロデキストリンを使用することができる。α−、β−及びγ−シクロデキストリンは、最も一般的に使用され、適切な例は、WO−A−91/11172、WO−A−94/02518及びWO−A−98/55148に記載されている。
【0142】
作用因子/調節因子がタンパク質である場合、治療する対象中でin situで前記タンパク質を調製することができる。これに関して、前記タンパク質が前記ヌクレオチド配列から発現されるように、ウイルスを用いない技術の使用(例えば、リポソームの使用)及び/又はウイルスを用いた技術の使用(例えば、レトロウイルスベクターの使用)によって、前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を送達することができる。
【0143】
好ましい実施形態では、本発明の薬剤組成物を局所に投与する。
【0144】
したがって、好ましくは、薬剤組成物は、局所送達に適した形態である。
【0145】
投与
「投与した」という用語は、ウイルスを用いた又は用いない技術による送達を含む。ウイルスを用いた送達の機構には、それだけに限らないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びバキュロウイルスベクターがある。ウイルスを用いない送達の機構には、脂質媒介性トランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性表面両親媒性物質(CFA)及びその組合せがある。
【0146】
本発明の構成成分は、単独で投与することもできるが、例えば、その構成成分が、意図された投与経路及び標準的な製剤上の慣習に関して選択された適切な製剤上の賦形剤、希釈剤又は担体と混合されているとき、薬剤組成物として一般に投与する。
【0147】
例えば、錠剤、カプセル剤、腔坐剤、エリキシル剤、液剤又は懸濁剤の形で(例えば、経口的に又は局所的に)構成成分を投与することができ、それは、即時型、遅延型、改変型、持続型、パルス型又は制御型放出に適用するために着香剤又は着色剤を含むことがある。
【0148】
薬剤組成物が錠剤である場合、錠剤は、微結晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム及びグリシン、デンプン(好ましくは、トウモロコシ、ジャガイモ、又はタピオカのデンプン)などの崩壊剤、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロース(croscarmellose)ナトリウム及び特定の複合体ケイ酸塩、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチンやアカシアなどの顆粒結合剤などの賦形剤を含んでもよい。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリン(glyceryl behenate)や滑石などの潤滑剤を含んでもよい。
【0149】
ゼラチンカプセル中の充填剤として、同様の型の固体組成物を使用することもできる。これに関して好ましい賦形剤には、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖又は高分子量のポリエチレングリコールがある。水性懸濁剤及び/又はエリキシル剤では、薬剤は、種々の甘味剤又は着香剤、着色剤又は色素と、乳化剤及び/又は懸濁剤と、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンやその組合せなどの希釈剤と組み合わせてもよい。
【0150】
投与(送達)経路には、それだけに限らないが、1種又は複数種の:経口(例えば、錠剤、カプセル剤、又は経口摂取可能な液剤として)、局所、粘膜(例えば、吸入用の経鼻噴霧剤又はエアロゾル剤として)、鼻から、非経口(例えば、注射可能な形態によって)、胃腸から、髄腔内、腹腔内、筋内、静脈内、子宮内、眼内、皮内、頭蓋内、気管内、鞘膜内、脳室内、脳内、皮下、眼(硝子体内又は眼房内(intracameral)を含む)、経皮、直腸から、口腔内、膣から、硬膜外、舌下の経路がある。
【0151】
好ましい態様では、薬剤組成物を局所送達する。
【0152】
薬剤組成物の構成成分のすべてが、同じ経路で投与することを必要とするわけではないことが理解されるはずである。同様に、組成物が複数の有効成分を含む場合、これらの構成成分は、異なる経路で投与してもよい。
【0153】
本発明の構成成分を非経口投与する場合、そのような投与の例には、1種又は複数種の:静脈内、動脈内、腹腔内、クモ膜下腔内、脳室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋内又は皮下への構成成分の投与;及び/或いは注入技術の使用による投与がある。
【0154】
非経口投与では、組成物は滅菌水性液剤の形で最も良好に使用され、それは、他の物質、例えば血液と等張な液剤を作製するのに十分な塩又はグルコースを含んでよい。水性液剤は、必要なら適切に(好ましくはpH3〜9に)pHを調整するべきである。滅菌条件下での適切な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製剤技術によって容易に実現される。
【0155】
示すように、鼻内へと又は吸入により本発明の(複数可の)構成成分を投与することができ、それは、乾燥粉末吸入器、或いは適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134A(商標))や1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227EA(商標))などのヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素又は他の適切な気体を使用する加圧容器、ポンプ、噴霧器又は噴霧吸入器からのエアロゾル噴霧の形で都合よく送達される。加圧エアロゾルの場合、単位投与量は、計量した量を送達する弁を供給することによって決定してもよい。加圧容器、ポンプ、噴霧器又は噴霧吸入器は、例えば、エタノールと噴射剤の混合物を溶媒として使用する有効化合物の液剤又は懸濁剤を含んでよく、その混合物はさらに、潤滑剤、例えばトリオレイン酸ソルビタンを含んでよい。吸入器又は注入器で使用するための(例えばゼラチンから作られた)カプセル及びカートリッジを、薬剤の粉末混合物、及びラクトースやデンプンなど適切な粉末基剤を含むように製剤することができる。
【0156】
或いは、本発明の(複数可の)構成成分は、坐剤又はペッサリーの形で投与することもでき、ゲル剤、ヒドロゲル剤、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤又は散粉剤の形で局所につけることもできる。本発明の(複数可の)構成成分はまた、皮膚に又は経皮的に、例えば皮膚貼付剤の使用により投与することができる。それらはまた、肺又は直腸からの経路で投与することもできる。それらはまた、眼からの経路で投与することもできる。眼の使用では、化合物は、等張pH調整滅菌食塩水中で微粉化した懸濁剤として、又は、好ましくは等張pH調整滅菌食塩水中の液剤として、場合によっては塩化ベンジルアルコニウム(benzylalkonium chloride)などの保存剤と組み合わせて製剤することができる。或いは、これらは、ワセリンなどの軟膏中で製剤することもできる。
【0157】
皮膚に局所的に付ける場合、本発明の(複数可の)構成成分は、例えば、以下のうち1種又は複数種との混合物中に懸濁した又は溶解した有効化合物を含む適切な軟膏剤として製剤することができる:鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化蝋及び水。或いはそれは、例えば、以下のうち1種又は複数種の混合物中に懸濁した又は溶解した適切なローション剤又はクリーム剤として製剤することもできる:鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、液体パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステル蝋、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水。
【0158】
投与レベル
通常、医師は、個々の患者に最も適した実際の投与量を決定する。任意の特定の患者に特異的な投与レベル及び投与の頻度は、様々である可能性があり、使用する特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用の長さ、年齢、体重、一般的な健康状態、性、食事、投与の形態及び時間、排出速度、薬剤の組合せ、特定の疾患の重症度、並びに個々の受けている療法を含めた種々のファクターに依存する。
【0159】
必要に応じて、体重1kg当たり0.01〜30mgの投与量で、1kg当たり0.1〜10mgなどで、より好ましくは体重1kg当たり0.1〜1mgの投与量で薬剤を投与することができる。
【0160】
製剤
当技術分野で知られている技術を用いることにより、1種又は複数種の適切な担体、希釈剤又は賦形剤と混合することなどによって、本発明の(複数可の)構成成分を薬剤組成物中に製剤することができる。
【0161】
薬剤として有効な塩
本発明の薬剤を、薬剤として許容される塩として投与することができる。通常、薬剤として許容される塩は、必要に応じて所望の酸又は塩基を用いることによって容易に調製することができる。その塩は、溶液から沈殿させ、ろ過によって収集することもでき、或いは溶媒の蒸発によって回収することもできる。
【0162】
治療
本明細書において治療を指すものすべてが、1種又は複数種の治癒目的の治療、緩和的治療及び予防的治療を含むことが理解されるはずである。好ましくは、治療という用語は、少なくとも治癒目的の治療及び/又は予防的治療を含む。
【0163】
治療は、本明細書で述べた1種又は複数種のその異常、或いはそれに関連する愁訴の治療でもよい。
【0164】
療法
本発明の方法によって同定した作用因子/調節因子は、治療薬として、すなわち療法への適用において使用することができる。
【0165】
「治療」という用語の場合と同様に、「療法」という用語は、治癒目的の効果、軽減的効果、及び予防的効果を含む。
【0166】
療法は、ヒト又は動物に対してのものでよい。
【0167】
療法は、本明細書で述べた1種又は複数種のその異常、或いはそれに関連する愁訴の治療を含む可能性がある。
【0168】
添付の図面を参照する実施例を通じて、本発明を次に説明する。
【実施例1】
【0169】
上流キナーゼによる酵母Snf1及び哺乳動物AMP活性化タンパク質キナーゼの活性化
概要
Snf1及びAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)は、代謝ストレスに対する細胞応答において基本的な役割を果たし、すべての真核生物の細胞で保存されていると思われるタンパク質キナーゼカスケードの下流の構成成分である。ヒトでは、AMPKは、糖尿病及び肥満を含む代謝異常において役割を果たすことが提唱されている。そのカスケードの(複数可の)上流キナーゼは、徹底した取り組みにもかからず、依然としてはっきりしないままである。本発明者らは、酵母でSnf1を活性化するPak1p、Tos3p、及びElm1pの3種のキナーゼを同定した。その同系の遺伝子を三重欠失させると、変異した表現型が生じ、Snf1の触媒活性が消失する。3種のキナーゼはすべて、活性化ループのスレオニン上で組換えSnf1pをリン酸化する。さらに、Tos3pは、組換え哺乳動物AMPKをリン酸化し活性化し、このことから、上流キナーゼの機能が保存されていることが示唆される。Pak1p、Tos3p、及びElm1pの触媒ドメインは、Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼキナーゼ(CaMKK)ファミリーの構成要素と最も密接に関連するが、その明らかな哺乳動物の相同体は存在しない。しかし、以前の研究では、AMPKカスケードにおける主要な上流キナーゼ(AMPKK)はCa2+/カルモジュリン依存性でないことが示唆されている。
【0170】
CamKK関連タンパク質キナーゼのLKB1が、in vitroでAMPKをリン酸化し活性化することを本明細書で実証する。ヒトLKBでの突然変異は、遺伝性の癌であるポイツ−ジェガーズ症候群を引き起こす。これらの結果から、同じタンパク質キナーゼカスケードが、代謝並びに増殖及び形質転換の制御に関与することが示唆される。
【0171】
Snf1/AMPKファミリーのキナーゼは、真核生物における代謝ストレス応答に重要である。哺乳動物では、AMPKは、複数のストレスによって活性化され、その多くが細胞のAMP:ATP比の増大を引き起こし、またレプチン及び血糖降下薬メトホルミンによっても活性化される。AMPKは、エネルギー恒常性の調整に中心的な役割を有し、脂質代謝、グリコーゲン貯蔵、及びグルコース輸送の主要な制御因子である。AMPKは、2型糖尿病及び肥満を含む代謝異常の発症及び治療に関与しており、AMPKの突然変異は、ヒトにおいて心臓の異常を引き起こす。
【0172】
出芽酵母(S. cerevisiae)では、Snf1キナーゼもストレス応答、特に炭素ストレスへの細胞の適応に必要である。Snf1は、グルコース制限に応答して多数の遺伝子の転写を制御し、代替の炭素源の利用に必要である。Snf1は、減数分裂及び胞子形成、糸状浸潤性増殖(filamentous invasive growth)、並びに加齢にも役割を有する。
【0173】
Snf1キナーゼは、触媒サブユニットSnf1p(AMPKのαサブユニット)、Snf4p(AMPKのγサブユニット)、3つのβサブユニット(SIP1、SIP2及びGAL83によってコードされる)のうちの1つを含む。Snf4pは、Snf1pの制御ドメインによる自己抑制を相殺することによって、キナーゼ活性を刺激する。βサブユニットは、キナーゼの細胞下での局在を制御し、下流の標的との相互作用を媒介する。AMP:ATP比が何らかの役割を有する可能性があるが、グルコースレベルに応答してSnf1活性を調節するシグナルは、従来技術では明らかにされていない。
【0174】
徹底した取り組みにもかからず、Snf1及びAMPKをリン酸化する上流キナーゼの同定は依然としてはっきりしないままである。酵母では、遺伝学的手法でその同系の遺伝子に突然変異を生じさせることができず、このことから、複数のキナーゼがSnf1を活性化することが示唆される。
【0175】
Snf1はリン酸化によって活性化され、活性化ループのスレオニン残基であるT210がキナーゼ活性に重要である。
【実施例2】
【0176】
Tos3p、Elm1p、及びPak1pはSnf1を活性化する
酵母タンパク質複合体の質量分析から、Tos3p(YGL179C)はSnf4pと同時精製され、Pak1p(哺乳動物のp21活性化キナーゼとは無関係)は、Snf1p及びSnf4pと同時精製されることが示唆された。Tos3pとPak1pは密接に関連するが、その機能は、Pak1がDNAポリメラーゼの突然変異を抑制すること以外は知られていない。
【0177】
Tos3p、Elm1p、及びPak1pがSnf1を活性化することを実証する。
【0178】
上流キナーゼ(Elm1p、Tos3p、及びPak1p)によって酵母AMPK(Snf1)が活性化されることを実証する。
【0179】
酵母AMPK(Snf1)の例示的な検定を開示する。
【0180】
Tos3pがSnf1pと相互作用することを確認するために、Tos3pのグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合体を酵母中で発現させ、LexAタグ付きSnf1pがグルタチオン−セファロース上で同時精製されることを明らかにした。
【0181】
酵母細胞中にtos3Δ及びpak1Δ突然変異を導入し、snf1Δ変異体に特徴的な表現型について試験した。単一及び二重の突然変異体は、ラフィノース又はグリセロール/エタノール上での増殖における欠陥を示さなかった(図1Bを参照)。
【0182】
次いで、Tos3pとPak1pがSnf1キナーゼと機能的に関連するという他の遺伝学的証拠を探求した。それらがSnf1を活性化する場合、その過剰発現によって、刺激サブユニットSnf4pの欠如が補償される可能性があると考えた。GST−Tos3p又はGST−Pak1pを過剰発現させると、SUC2(インベルターゼ)の遺伝子発現におけるsnf4Δ変異体の欠陥が部分的に抑制され、GST−Tos3pによって、snf4Δ変異体におけるラフィンノース上での増殖が回復したが、Snf1の必要性は回避されなかった。
【0183】
lexAop−lacZレポーターの転写が、プロモーターと結合したLexA−Snf1pの触媒活性に依存する検定法も使用した(Kuchin, 2000、これは参照により本明細書に組み込まれる)。
【0184】
GST−Tos3p又はGST−Pak1pを過剰発現させると、グルコース制限に応答してβ−ガラクトシダーゼの合成が刺激され、このことから、LexA−Snf1pの触媒活性に対する正の効果が暗示される(図1A)。
【0185】
その二重変異体における表現型の欠如から、他のキナーゼが重複した機能をもたらすことが示唆された。Pak1p及びTos3pと最も密接に関連するキナーゼはElm1pであり、これは、細胞の形態が長くなり、偽性菌糸の発達に影響する突然変異によって同定された。Elm1pは、芽の成長及び細胞分裂の調節において役割を有する。
【0186】
遺伝子破壊によって、elm1Δを上記の変異株中に導入した。tos3Δelm1Δ株及びpak1Δelm1Δ株は、ラフィノース及びグリセロール/エタノール上で増殖したが、三重のtos3Δpak1Δelm1Δ変異体は増殖しなかった。この結果を確認するために、tos3Δpak1Δ株とtos3Δelm1Δ株を交配し、四分子分析を実施した。13の四分子に由来する14の三重変異分離個体は、グリセロール/エタノール及びラフィノース上での増殖に欠陥を示した(図1B)。インベルターゼ活性の検定で、SUC2発現が消失することが示された(抑制解除した野生型細胞で95U、並びにsnf1Δ細胞及び三重変異細胞で<1U)。三重変異体はまた、グリコーゲン蓄積の欠損、他のsnf1Δ変異体の表現型を示した。これらの遺伝学的な知見は、Tos3p、Pak1p、及びElm1pによって重複してもたらされる機能がin vivoでのSnf1キナーゼの機能に必要であるという見地を支持するものである。
【実施例3】
【0187】
上流キナーゼによるAMPK(Snf1)の活性化
これら3種のキナーゼがAMPK(Snf1)を活性化するかどうかを決定するために、in vitroでのキナーゼ検定を使用した。LexA−Snf1pを発現している野生型細胞及び三重変異細胞から、タンパク質抽出物を調製した。LexA−Snf1pを抗LexAで免疫沈降し、γ−32P−ATPの存在下でインキュベートした。野生型の抽出物から免疫沈降したとき、LexA−Snf1pはin vitroでリン酸化され、触媒として不活性なLexA−Snf1K84R及びLexA−Snf1T210A(それぞれ、ATP結合部位のリシン及び活性化ループのスレオニンが置換されている)の対照から、Snf1キナーゼ活性が原因であることが確認された。対照的に、三重変異体からLexA−Snf1pを沈降したとき、タンパク質レベルは同等にもかかわらず(図2B)、リン酸化は検出されなかった(図2A)。
【実施例4】
【0188】
AMPK(Snf1)活性の検定
SAMS合成ペプチド基質[Woods, 1994 #507;Davies, 1989 #526]のリン酸化によって、in vitroでのAMPK(Snf1)の触媒活性についても検定した。キナーゼを活性化する条件下で細胞抽出物からSnf1を部分精製し[Wilson, 1996 #463;Woods, 1994 #507]、γ−32P−ATPの存在下でSAMSペプチドとともにインキュベートした。ペプチドは、野生型の検定ではリン酸化されたが、snf1Δの抽出物ではリン酸化されなかった。tos3Δpak1Δelm1Δ変異体では活性は検出されなかった(図2C);イムノブロット分析によってSnf1pが存在することが確認された(図2D)。これらの結果から、Snf1が、Tos3p、Pak1pやElm1pなどの上流キナーゼの不在下では不活性のままであることが示唆される。
【実施例5】
【0189】
上流キナーゼによるAMPK(Snf1)の活性化
これら3種のキナーゼがSnf1pを直接リン酸化することを実証するために、基質として、Snf1KD−K84Rと名付けた不活性型の単離Snf1触媒ドメインを使用した(図3)。GST−Tos3p、GST−Pak1p及びGST−Elm1pを酵母から精製し、γ−32P−ATPの存在下で、細菌で発現させたSnf1KD−K84Rとともにインキュベートした。GST−Tos3p及びGST−Elm1p及びGST−Pak1pは、Snf1KD−K84Rをリン酸化した。おそらく、最小限の量の全長融合タンパク質しか回収されなかったので、GST−Pak1pは基質を弱くリン酸化した。無関係なGST−キナーゼであるYPL141Cとのインキュベーションから、Snf1KD−K84Rが自己リン酸化しないことを確認した。
【0190】
Tos3p及びElm1pが活性化ループのスレオニンをリン酸化することを実証するために、T210を欠如する変異基質のSnf1KD−T210Aを使用した。リン酸化は検出されなかった(図3)。
【実施例6】
【0191】
上流キナーゼによるAMPK(哺乳動物)の活性化
次に、精製した酵母GST−キナーゼが、哺乳動物AMPKをリン酸化及び活性化できることを実証する。細菌中で発現させた組換えAMPK(α1β1γ1)(Neumann, 2003)を各キナーゼ及びMgATPとともにインキュベートし、SAMSペプチド検定を用いてAMPK活性を決定した。
【0192】
GST−Tos3pとともにインキュベートすると、AMPK活性は著明に上昇したが、GST−Elm1p及びGST−Pak1pでは、少ししか上昇しなかった(図4A)。
【0193】
GST−Tos3pは、触媒として不活性な型のAMPKのαサブユニットをリン酸化したが、β又はγサブユニットをリン酸化しなかった(図4B)。イムノブロット分析から、GST−Tos3pがT172上でAMPKをリン酸化することが明らかとなった(図4C)。これらの知見は、酵母と哺乳動物の間で上流キナーゼが機能的に保存されていることを示唆するものである。
【実施例7】
【0194】
上流キナーゼ(哺乳動物)によるAMPK(哺乳動物)の活性化
Tos3p、Pak1p及びElm1pは、哺乳動物Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼキナーゼ(CaMKK)と最も密接に関連するが、それらは、酵母のCaMKの群から分岐している可能性がある。哺乳動物のCaMKKは、in vitroでAMPKを弱くリン酸化し活性化するが、主要なAMPKキナーゼ(AMPKK)は、CaMKKと異なるものである。
【0195】
本明細書で開示されるように、これらの知見から、AMPKKは、他の(複数可の)CaMK関連キナーゼに相当することが確認される。少なくとも1つの主要なAMPKKは、LKB1(STK11)腫瘍抑制キナーゼであり、これはポイツ−ジェガーズ症候群において突然変異が認められる。
【0196】
FLAGタグ付きLKB1(全長野生型であるWT、又は触媒として不活性な変異体(D194A);フラッグタグ付きpCDNA3ベクター中のマウスcDNA)を、COS7細胞溶解液から、FLAGアフィニティーゲル(Sigma)に結合させることによって精製した。細菌で発現させたAMPKをビーズとともにインキュベートし、AMPK活性を測定した。
【0197】
細菌で発現させたAMPK(α1β1γ1(Neumann, 2003))を、MgATP、及びFLAGアフィニティーゲルと結合させたFLAG−LKB1キナーゼとともに、30℃で30分間インキュベートした。他の態様では、本発明は振盪インキュベーターに関する。
【0198】
具体的には、AMPKの緩衝液の条件は、FLAG−LKB1ゲルを加えた時点で、終濃度で100μMのATP、5mMのMgCl2、50mMのHEPES pH7.5、10%のグリセロール、1mMのEDTA、1mMのDTTに調整する。
【0199】
遠心して樹脂を除去した後、SAMSペプチド検定(Davies, 1989)を用いて、上清中のAMPK活性を測定した。
【0200】
哺乳動物細胞中で発現したLKB1は、T172をリン酸化し、in vitroで組換えAMPKを活性化した(図4D)。
【0201】
T172のリン酸化は、イムノブロット法によって決定した(図4E)。
【0202】
したがって、LKB1がAMPKをリン酸化し活性化することが実証される。
【実施例8】
【0203】
真核生物細胞におけるLKB1の発現
ポリメラーゼ連鎖反応に基づく戦略を用いて、IMAGEコンソーシアムから得た全長マウスLKB1(NCBIアクセッション番号AA542153、IMAGE番号550355)をコードする発現配列タグを鋳型として使用した、マウスLKB1をコードするN末端FLAGエピトープタグ付きcDNA構築物を調製した。59−プライマー:atgcatactagtgccaccatggactactacaaggacgacgatgacaaggacgtggcggaccccgagccgttgggと39−プライマー:gacagaactagttcactgctgcttgcaggccgagaを使用して、この構築物を得た。
【0204】
LKB1(KD)(KDはキナーゼ失活体)と名付けたLKB1の触媒として不活性な変異体を調製するために、そのキナーゼドメインのサブドメインVII中のAsp194を、Alaへと突然変異させた。
【0205】
当然ながら、LKB1の哺乳動物相同体などのどんな相同体も、ヒトLKB1など、マウスの代わりに使用することができる。同様に、フラッグエピトープタグを付けて又は付けずにLKB1を発現させることもでき、或いは、myc、HA、グルタチオン−S−トランスフェラーゼや他のタグなど代替のタグを付けて発現させることもできる。
【0206】
哺乳動物細胞におけるLKB1の発現
哺乳動物細胞におけるFLAG−LKB1の発現をコードするように、得られたポリメラーゼ連鎖反応断片を、EcoRI−EcoRI断片として、pCDNA3ベクター(Invitrogen)中にサブクローン化した。
【0207】
酵母におけるLKB1の発現
マウスLKB1(mycエピトープタグを含む)を、酵母発現ベクターpYX212(R and D Systems)中にサブクローン化し、酵母で発現させた。
【実施例9】
【0208】
AMPKのリン酸化及び検定
以前に記載されているように、Ni−NTAアガロース(Qiagen)を用いたクロマトグラフィーによって、細菌で発現させたAMPK(α1β1γ1)を精製した(その精製は、参照により本明細書に組み込まれる、Neumann et al., 2003 Protein Expression and Purificationの通りである)。AMPKを、上流キナーゼの存在下又は不在下で、50mMのHepes、pH7.4中の、100μMのATP、5mMのMgCl、200μMのAMP及び1mMのDTTとともに、30℃で30分間インキュベートした。短時間遠心した後、AMPKを含む上清を移し、SAMSペプチド検定(Davies et a.l., 1989)を用いて活性を測定した。T172のリン酸化は、AMPKのαサブユニット内のリン酸化スレオニン172を特異的に認識する抗体(Cell Signaling Technologies)を用いたウェスタンブロット法によって決定した。
【0209】
32P−ATPの存在下で、上流キナーゼの存在下又は不在下で触媒として不活性な型のAMPK(αサブユニット内に突然変異D157Aを有する)をインキュベートすることによって、AMPKの32P−リン酸標識化を分析した。この実施例では、上流キナーゼはLKB1である。
【0210】
LKB1の発現
FLAGタグ付き野生型LKB1(マウス)、又はFLAGタグ付きの、触媒として不活性なLKB1(D194A突然変異を有する)をコードするプラスミドDNAを、リポフェクタミン試薬を用いてCOS7細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後に細胞を収集し、EZview Red M2 FLAGアフィニティーゲル(Sigma)でLKB1タンパク質を免疫沈降させ、AMPKとともにインキュベートする際などに必要に応じて使用した。
【0211】
上清中のAMPKをSDS−PAGEで分離し、その後オートラジオグラフィーを行った。
【0212】
この上記明細書中で言及した刊行物はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の記載された方法及び系の様々な変更形態及び変形形態は、本発明の範囲及び趣旨を逸脱することなく当業者なら明らかであろう。特定の好ましい実施形態と関連させて本発明を説明したが、請求に係る本発明が、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されるはずである。実際、生化学、分子生物学/遺伝学及びバイオテクノロジー又は関連分野の技術者には明らかである、本発明を実施する記載された形態の様々な変更形態は、添付の特許請求の範囲内にあるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0213】
【図1A】過剰発現を示す図である。(A)Tos3p、Pak1p、及びElm1pの過剰発現は、レポーター検定においてSnf1の機能を刺激する。株TAT7(ura3::lexAop−lacZ)の形質転換体は、GSTを、或いはGST−Tos3p、GST−Pak1p又はGST−Elm1pを、銅誘導性プロモーター(それぞれpRH95、pRH98、pRH94、ライブラリー(Martzen, 1999)及びLexA−Snf1p(pOV8(Vincent, 2001))から精製)から発現した。レポーターからのβ−ガラクトシダーゼの合成は、LexA−Snf1pの活性に依存していた(Kuchin, 2000)。形質転換体(n=3)を、選択的な合成完全(SC)培地+2%グルコース中で対数期の中間部まで増殖させ、0.5mMのCuSO及び2%グルコース(輪郭のみの棒)又は0.05%グルコース(黒い棒)を含む培地に移して3時間置き、β−ガラクトシダーゼ活性について検定した(Kuchin, 2000)。各GST−キナーゼとともにLexAを発現する対照の形質転換体は、<0.3Uの値を示した。
【図1B】変異表現型を示す図である。(B)三重のtos3Δpak1Δelm1Δ変異体は、増殖の欠陥を示す。W303、MCY5117(MATα tos3Δ::KanMX4 pak1Δ::KanMX4 ura3)及びMCY5122(MATa tos3Δ::KanMX4 elm1Δ::URA3 ura3)に由来する二重変異体を交配し、四分子分析を行った。分離個体を富栄養培地からSC−Ura+2%グルコース及びSC+2%グリセロール/3%エタノールに移して複製させた。5つの四分子を示す。SC+2%ラフィンノース+アンチマイシンA(1μg/ml)上で同じ増殖パターンが観察された。星印は、三重変異分離個体を示す;ゲノムDNAのPCR分析によって遺伝子型を決定した。対照株:野生型(WT);snf1Δ変異体;親二重変異体。
【図2】Snf1キナーゼ活性の検定を示す図である。(A、B)LexA−Snf1p又はそのT210A及びK84R変異誘導体(pRJ55、pRJ217、及びpRJ215(Jiang, 1996))を発現する野生型細胞及び三重変異細胞を、選択的SC+2%グルコース中で増殖させた。抽出物(200μg)から抗LexAでタンパク質を免疫沈降させた。免疫沈降物を、(A)γ−32P−ATPを含むキナーゼ緩衝液中でインキュベートし、次いでSDS−PAGE及びオートラジオグラフィーで分析し、また(B)抗LexAを用いたイムノブロット法によって分析した。(C、D)富栄養培地中で増殖させた細胞から、二連で抽出物を調製した。DEAEセファロース上でのクロマトグラフィーによってSnf1キナーゼを部分精製し、ピーク分画を貯留し、濃縮した。貯留した分画を、(C)γ−32P−ATPの存在下で、SAMSペプチド(HMRSAMSGLHLVKRR)のリン酸化について三連で検定し(Woods, 1994;Davies, 1989)、また(D)抗Snf1を用いてイムノブロットした。Snf1−K84R変異体の抽出物からも、活性は示されなかった。
【図3】Tos3p及びElm1pが、in vitroにおいてT210上でSnf1pをリン酸化することを示す図である。pRH89及びpRH90というpET32c(Novagen)の誘導体から、Hisタグ付きのSnf1KD−K84R及びSnf1KD−T210Aを細菌で発現させ、TALON樹脂(Clontech)上でのコバルトアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。GST−Tos3p(Martzen, 1999)、GST−Pak1p(Martzen, 1999)及びGST−Elm1p(Zhu, 2000)を発現している酵母細胞から抽出物を調製し、GST−キナーゼをグルタチオンセファロース上で精製した。固定化したGST−キナーゼを、γ−32P−ATPの存在下で、示したSnf1KD変異タンパク質(0.2μg)とともに又は基質を入れずに25℃で20分間インキュベートした。SDS−PAGEによってタンパク質を分離した。オートラジオグラムを示す。任意のGST−キナーゼであるYPL141Cを対照として使用した。矢印、Snf1KD。星印、自己リン酸化全長GST−キナーゼ。分子サイズマーカー(kDa)を示す。
【図4】Tos3p及びLKB1が、in vitroでAMPKをリン酸化し活性化することを示す図である。(A)細菌で発現させたAMPK(α1β1γ1(Neumann, 2003))を、MgATP、及びグルタチオンセファロースと結合したGST−キナーゼとともに30℃で30分間インキュベートした。遠心して樹脂を除去した後、SAMSペプチド検定(Davies, 1989)を用いて上清中のAMPK活性を測定した。(B)αサブユニット中にD157Aの突然変異を有する、触媒として不活性な型のAMPK(Stein, 2000)(2μg)を、γ−32P−ATPの存在下で、グルタチオンセファロースビーズと結合したGST−Tos3p又はGSTとともに30℃で30分間インキュベートした。遠心によってビーズを除去した後、SDS−PAGE及びオートラジオグラフィーで上清中のタンパク質を分析した。分子サイズマーカー(kDa)を示す。(C)細菌で発現させたAMPK(0.15μg)を、GST−Tos3pによってリン酸化して、抗リン酸化スレオニン172特異的抗体(Cell Signalling Technologies)を用いたイムノブロット法によって分析した。AMPKはまた、GST又は部分精製したラット肝AMPKK(Hawley, 1996)とともにインキュベートした。(D)COS7細胞溶解液から、FLAGアフィニティーゲル(Sigma)と結合させることによって、FLAGタグ付きLKB1(野生型(WT)、又は触媒として不活性な変異体(D194A))を精製した。細菌で発現させたAMPKをビーズとともにインキュベートし、(A)と同様にAMPK活性を測定した。イムノブロット法によって、T172のリン酸化を決定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LKB1の活性を検定する方法であって、
(i)LKB1を含む試料を供給するステップと、
(ii)リン酸化を許容する条件下で前記試料を基質キナーゼと接触させるステップと、
(iii)前記基質キナーゼへのリン酸の取り込みをモニターするステップとを含み、
前記基質キナーゼへのリン酸の取り込みがLKB1活性を示す方法。
【請求項2】
基質キナーゼがAMPKである又はAMPKに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
AMPKがヘテロ三量体AMPKを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
AMPKが、マウス又はヒトAMPKを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
AMPKの活性を検定することによってAMPKへのリン酸の取り込みをモニターする、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
SAMSペプチドのリン酸化を介して、AMPKの活性を検定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
AMPKのT−172又はその等価物のリン酸化を検定することによってAMPKへのリン酸の取り込みをモニターする、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
AMPK1モル当たりに取り込まれるリン酸の量を定量するステップをさらに含み、リン酸レベルが試料に存在するLKB1のレベルを示す、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
AMPKの活性化における組換え又は単離LKB1の使用。
【請求項10】
AMPKKとしての組換え又は単離LKB1の使用。
【請求項11】
AMPKのリン酸化における組換え又は単離LKB1の使用。
【請求項12】
対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む方法。
【請求項13】
対象における肥満を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む方法。
【請求項14】
対象における糖尿病を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む方法。
【請求項15】
対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のAMPKを投与するステップを含む方法。
【請求項16】
対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法であって、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む方法。
【請求項17】
対象における肥満を治療する方法であって、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む方法。
【請求項18】
対象における糖尿病を治療する方法であって、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む方法。
【請求項19】
対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法であって、前記対象中でAMPKを活性化するステップを含む方法。
【請求項20】
対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法であって、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む方法。
【請求項21】
対象における肥満を治療する方法であって、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む方法。
【請求項22】
対象における糖尿病を治療する方法であって、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む方法。
【請求項23】
対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法であって、前記対象中でAMPKのリン酸化を促進するステップを含む方法。
【請求項24】
ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用。
【請求項25】
肥満の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用。
【請求項26】
糖尿病の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用。
【請求項27】
肥大型心筋症(HCM)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるAMPKの使用。
【請求項28】
AMPKの活性の調節におけるHSP90の使用。
【請求項29】
AMPKの活性の調節におけるCdc37の使用。
【請求項30】
AMPKの活性の調節におけるSTRADタンパク質の使用。
【請求項31】
対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法であって、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む方法。
【請求項32】
対象における肥満を治療する方法であって、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む方法。
【請求項33】
対象における糖尿病を治療する方法であって、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む方法。
【請求項34】
対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法であって、前記対象中でLKB1を活性化するステップを含む方法。
【請求項35】
対象におけるポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む方法。
【請求項36】
対象における肥満を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む方法。
【請求項37】
対象における糖尿病を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む方法。
【請求項38】
対象における肥大型心筋症(HCM)を治療する方法であって、前記対象に治療上有効な量のLKB1を投与するステップを含む方法。
【請求項39】
ポイツ−ジェガーズ症候群(PJS)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用。
【請求項40】
肥満の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用。
【請求項41】
糖尿病の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用。
【請求項42】
肥大型心筋症(HCM)の予防又は治療のための薬剤の製造におけるLKB1の使用。
【請求項43】
AMPKを調節する方法であって、LKB1を調節するステップを含む方法。
【請求項44】
AMPKをリン酸化する方法であって、AMPKを組換え又は単離LKB1と接触させるステップを含む方法。
【請求項45】
系の中でAMPKのリン酸化を促進する方法であって、前記系の中でLKB1の活性を促進するステップを含む方法。
【請求項46】
系の中でAMPKを活性化する方法であって、前記系の中でLKB1を活性化するステップを含む方法。
【請求項47】
AMPKを活性化する方法であって、前記AMPKを組換え又は単離LKB1と接触させるステップを含む方法。
【請求項48】
AMPKをリン酸化する方法であって、前記AMPKを組換え又は単離LKB1と接触させるステップを含む方法。
【請求項49】
LKB1の(複数可の)調節因子を同定する方法であって、
(i)LKB1の第1と第2の試料を供給するステップと、
(ii)前記第1の試料をLKB1の候補調節因子と接触させるステップと、
(iii)リン酸化を許容する条件下で前記第1と第2の試料を基質と接触させるステップと、
(iv)前記基質へのリン酸の取り込みをモニターし、前記第1と第2の試料における前記基質へのリン酸の取り込みを比較するステップとを含み、
前記基質へのリン酸の取り込みが前記第1と第2の試料の間で異なる場合、前記候補調節因子が、LKB1活性の調節因子として同定される方法。
【請求項50】
基質が基質キナーゼである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
基質キナーゼが、AMPKである又はAMPKに由来する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
Pak1、Tos3及びElm1のうち少なくとも2つにおける遺伝子破壊を含む組換え酵母細胞。
【請求項53】
Pak1、Tos3及びElm1における遺伝子破壊を含む組換え酵母細胞。
【請求項54】
Snf1における遺伝子破壊をさらに含む、請求項52又は53に記載の組換え酵母細胞。
【請求項55】
哺乳動物AMPKを発現する、請求項52から54のいずれか一項に記載の組換え酵母細胞。
【請求項56】
哺乳動物AMPKが、α、β及びγサブユニットを含む、請求項55に記載の組換え酵母細胞。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−520199(P2007−520199A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516430(P2006−516430)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002584
【国際公開番号】WO2004/113562
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(504171433)メディカル リサーチ カウンシル (16)
【出願人】(505467845)コロンビア ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】