MALDI質量分析のためのイオン源及び方法
MALDIイオン源、イオン形成の方法及び質量分析装置システムを提供する。さまざまな実施形態において、サンプル面のサンプルに、取付け面の法線から10度以内の角度でレーザー・エネルギー・パルスを照射するよう構成されたMALDIイオン源、及び取付け面の法線から5度以内の方向にサンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムを提供する。さまざまな実施形態において、ほぼ同軸のサンプル照射及びイオン抽出を具えるMALDIイオン源を提供する。さまざまな実施形態において、MALDIによってサンプルイオンを生成し、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出して、加速電界からの出口におけるサンプルイオン軌道の角度が、イオンビームのほぼ中心部において実質上サンプルイオンの質量に左右されないようにイオンビームを形成する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年10月31日に提出された米国特許出願番号第10/700,300号の利益を主張する。この米国特許出願の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(「MALDI」)及びエレクトロスプレーイオン化法(「EST」)技法の発展により、質量分析装置で研究可能な生体分子の範囲が大幅に広がってきている。MALDI及びESI技法によって、通常は不揮発性の生体分子をイオン化し、分析に適した気相において完全な生体分子イオンを取り出すことができる。
【0003】
しかしながら、MALDI及びESI両方の技法は、蒸発した比較的大量の不揮発性材料がイオン源及び質量分析装置上に付着する点で、どちらかといえば「汚い」技法である。質量分析装置システムを「24時間週7日」ベースで稼動することが必要なプロテオクス研究のようなハイスループットな用途においては、材料の付着は格別の関心事である。
【0004】
材料付着はさまざまな問題を発生させる可能性がある。例えば、電極に付着した材料は、電極上に堆積し無制御の電位及び歪んだ電位を発生させることがある。このようなイオンビーム路程中の無制御の電位及び歪んだ電位は、質量分析装置感度及び質量分析装置分解能の双方を大きく低下させかねない。さらに、このような材料付着によって、電極清掃の必要頻度が増加して質量分析装置の非稼働時間が増える。従って、イオンビーム路程中の電極への材料付着を低減又は排除することが必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
質量分析装置を用いる多くの生体分子研究(例、プロテミクス研究のような)において、対象となる生体分子の質量は2桁以上の幅にまたがることが多い。従って、幅広い質量測定ダイナミックレンジを具えたイオン源及び質量分析装置システムが求められている。
【0006】
さらに、例えば、希少蛋白質、法医学サンプル、考古学サンプルのように、多くの生物学的研究では、研究に使えるサンプルの量が限定されている。従って、さらに高い感度と分解能を提供でき、これによって、ますます少なくなってくるサンプル量を処理できるイオン源及び質量分析装置システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本教示は、質量分析装置とともに用いる、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)イオン源及びMALDIイオン源の作動方法に関する。MALDIイオン源を、パルス化MALDIイオン源にして機能させ動作させることができる。さまざまな様態において、感度、分解能及び質量ダイナミックレンジの一項目以上の向上を促進し質量分析装置の運転非稼動時間の低減を促進するイオン源とイオン形成方法と質量分析装置システムとを提供する。
【0008】
さまざまな様態において、イオンビーム路程中の電極への材料付着を低減するMALDIイオン源とMALDIイオン源を使ってイオンを形成する方法と質量分析装置システムとを提供する。イオンビーム路程中の電極への材料付着を低減することによって、例えば、質量分析装置の感度、分解能、又はその双方の向上を促進し、質量分析装置の運転非稼動時間の低減を促進することができる。
【0009】
さまざまな様態において、イオンビーム中心部でのイオンの軌道(イオン源の抽出域出口における)が、イオン質量に実質的に左右されないイオンビームを供給するMALDIイオン源と、MALDIイオン源を使ってイオンを形成する方法と、質量分析装置システムとを提供する。このようなイオン質量に左右されない軌道は、質量分析装置の質量測定ダイナミックレンジの拡大を促進する。
【0010】
さまざまな様態において、質量分析装置へのより効率的なイオン伝送を促進するMALDIイオン源と、MALDIイオン源を使ってイオンを形成する方法と、及び質量分析装置システムとを提供する。より効率的なイオン伝送によって、例えば、所定量のサンプルに対する信号を改善することができ、これにより、例えば、質量分析装置の感度、分解能、又はその双方の向上を提供することができる。
【0011】
一つの様態において、サンプル・ホルダーのサンプル面の法線から10度以内の角度でレーザー・エネルギー・パルスをサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルへ照射するよう構成された光学システムと、ほぼサンプル面の法線方向にサンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムとを含むMALDIイオン源を提供することができる。一部の実施形態において、レーザー・エネルギーの入射パルスがサンプル面と形成する角度の正弦は約0.10よりも小さく、一部の実施形態では約0.01よりも小さい。従って、さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面の法線から5度より小さい角度でサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに照射するよう構成される。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスを、サンプル面の法線から1度以内の角度でサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに照射するよう構成される。
【0012】
さまざまな実施形態において、第一イオン光学システムは、2つの電極、それぞれ開口部を持つ第一電極と第二電極とを含む。一部の実施形態において、2つの電極は、第一イオン光学軸(第一電極開口部の中心と第二電極開口部の中心との間の直線によって規定される)は、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプル面と交差する。一部の実施形態において、第一イオン光学軸のサンプル面との交角の正弦は約0.10より小さく、一部の実施形態では0.01より小さい。従って、さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から1度以内の角度でサンプル面と交差する。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスと第一イオン光学軸とがほぼ一致して整列するように構成される。
【0013】
一つの様態において、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面上のサンプルに照射し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成して、サンプルイオンを、サンプルに当たるエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルとほぼ同軸の抽出方向に引き出すMALDIイオン源を提供する。さまざまな実施形態において、抽出方向は、サンプル面の法線に対して約5度から50度の間の角度を形成する。
【0014】
一つの様態において、イオンビームのほぼ中心部でのサンプルイオンの軌道(イオン源の加速域からの出口における)の角度がサンプルイオン質量に実質的に左右されないイオンビームを供給するMALDIイオン源を提供することができる。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、ある照射角でレーザー・エネルギー・パルスをサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに照射してサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、ある抽出方向にサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成するよう構成されたイオン光学システムと含む。これらのさまざまな実施形態において、照射角と抽出方向は、第一イオン光学システムからの出口においてサンプルイオンの軌道の角度が、イオンビームのほぼ中心部において、サンプルイオン質量に実質的に左右されないようになっている。一部の実施形態において、照射角と抽出方向とは、サンプル面に対してほぼ法線である。
【0015】
一つの様態において、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射してMALDIによってサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、サンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムであってヒーター・システムにつながれている前記第一イオン光学システムと、第一イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とを含むMALDIイオン源を提供することができる。適切なヒーター・システムには、以下に限らないが、抵抗ヒーター及び放射ヒーターが含まれる。一部の実施形態において、ヒーター・システムは、第一イオン光学システムの温度を、マトリクス材料を脱着するのに十分な温度に昇温することができる。さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、第一イオン光学システムを約70℃より高い温度に熱することのできるヒータを含む。
【0016】
温度制御表面部の温度を、例えば、加熱/冷却装置によって能動的に制御でき、又は、例えば、温度制御表面部をヒートシンクに熱接触させ、温度制御表面部の熱容量によって受動的に制御でき、又はこれらの組み合わせで制御することができる。
【0017】
別の様態において、サンプル・ホルダーと、光学システムと、第一イオン光学システムと、第二イオン光学システムと、質量分析装置とを含む質量分析装置システムを提供する。一部の実施形態において、質量分析装置には、飛行時間型質量分析装置が含まれる。光学システムは、サンプル・ホルダーのサンプルのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射し、MALDIによってサンプルイオンを生成するよう構成される。さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面の法線から10度以内の角度でサンプルに当たる。さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプルに当たる。さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面の法線から1度以下以内の角度でサンプルに当たる。
【0018】
この様態において、第一イオン光学システムをサンプル・ホルダーと質量分析装置との間に配置することができ、これは第一イオン光学軸に沿ってサンプルイオンを抽出するよう構成される。一部の実施形態において、第一イオン光学軸とサンプル面との交角の正弦は約0.10よりも小さく、一部の実施形態においては、約0.01よりも小さい。従って、さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプル面と交差する。さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から1度以内の角度でサンプル面と交差する。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスと第一イオン光学軸とがほぼ一致して整列するように構成される。
【0019】
さらにこの様態において、第二イオン光学システムを第一イオン光学システムと質量分析装置との間に配置することができ、第二イオン光学システムは、サンプルイオンを第一イオン光学軸から第二イオン光学軸へ屈折させるよう構成される。さまざまな実施形態において、質量分析装置は、第二イオン光学軸の上に位置設定されてサンプルイオンを受ける。
【0020】
さまざまな実施形態において、システムは、第二イオン光学システムと質量分析装置との間に配置された第三イオン光学システムをさらに含み、第三イオン光学システムは、第二イオン光学軸に沿って進むサンプルイオンを受けるように配置され、イオンを第二イオン光学軸から質量分析装置内へと屈折させるように構成されている。一部の実施形態において、第三イオン光学システムは、サンプル・ホルダーから第一イオン光学軸に沿って進んできた中性分子が、実質上第三イオン光学システムに衝突しないように位置設定される
他のさまざまな様態において、MALDIを用いてサンプルイオンを生成し、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法を提供する。さまざまな実施形態において、本方法は、限定はされないが多次元質量分析法を含め、飛行時間型質量分析のためのサンプルイオン供給に適している。適切な飛行時間型質量分析システム及び方法の例が、例えば、1999年1月19日出願、2002年2月19日発行の米国特許第6,348,688号;2001年12月17日出願の米国特許出願第10/023,203号;2002年7月18日出願の米国特許出願第10/198,371号; 及び2002年12月20日出願の米国特許出願第10/327,971号に記載されており、これらすべての全内容を参考として本明細書に組み込む。
【0021】
一つの様態において、本方法は、サンプル面の法線から10度以内の照射角でレーザー・エネルギー・パルスをサンプル面上のサンプルに照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成し、サンプルイオンの抽出は、第一イオン光学システムによってサンプル面のほぼ法線方向に行われる。一部の実施形態において、入射レーザー・エネルギー・パルスがサンプル面と形成する角度の正弦は約0.10より小さく、一部の実施形態では0.01より小さい。従って、さまざまな実施形態において、光学システムは、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスをサンプル面の法線から5度以内の角度で照射するように構成されており、さまざまな実施形態において、光学システムは、サンプル・ホルダーのサンプルの取付け面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスをサンプル面の法線から1度以内の角度で照射するよう構成されている。
【0022】
一つの様態において、本方法は、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面上のサンプルに照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成し、サンプルイオンの抽出は、サンプルに当たるエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルとほぼ同軸の抽出方向に行われる。さまざまな実施形態において、抽出方向は、サンプルの法線に対して約5度から50度の角度である。
【0023】
一つの様態において、本方法は、MALDIによりサンプルイオンを生成し、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出し、加速電界からの出口部におけるサンプルイオンの軌道が、イオンビームのほぼ中心では、サンプルイオン質量に実質上左右されないようにイオンビームを形成する。さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、レーザー・エネルギー・パルスを、照射角がサンプル面に対しほぼ法線になるようにサンプルに照射して生成される。一部の実施形態において、このように生成されたサンプルイオンは、ほぼサンプル面に法線の抽出方向に抽出され、レーザー・エネルギー・パルスは、抽出方向とほぼ一致して整列される。さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、サンプル面と交差するエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルがイオン抽出方向とほぼ同軸になるように、レーザー・エネルギー・パルスをサンプルに照射して生成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(さまざまな実施形態の詳細な説明)
本発明の教示をよりよく理解するために、従来型MALDI及び質量分析装置システムの例を図1に示し、図1のMALDIイオン源の拡大図を図2に示す。典型的な従来型MALDI−質量分析装置システム100において、レーザー102は、イオン抽出基準経路106から離れてMALDIイオン源104に入射し、プレートの法線に対しθの角度でサンプル・プレート108に当たる。通常この角度は30から60度の間である。典型的な作動において、レーザービーム102は真空外囲器(図示せず)のウインドウを通って入射し、サンプル・プレート108上の適切なマトリクス110中に組み込まれたサンプルに当たる。各入射レーザーパルスを受けてサンプルから中性分子及びイオンの噴流が放出されるまでレーザー強度が増やされる。イオン生成閾値を若干上回るレーザー流束量において、この噴流は入射レーザービーム102の周りに集中し、通常30から60度の間の半角を持つコーン112を構成する。サンプル・プレート108と第一開口プレート114との間に電位差が加えられ、サンプル・プレート108の法線方向にイオンを加速させる。遅延抽出MALDI方式においては、この電位差は所定の時間遅延される。噴流の中に存在するマトリクス分子及び他の中性種は、第一開口プレート114に衝突し、第一開口プレート114の開口部118の周囲に非対称な付着物116を形成する。イオン抽出基準経路106に沿って飛来するような脱離中性種119の一部は、通常、第一プレート114及びその後ろのプレート120の開口部を通過し、質量分析装置124に入る。これらの中性種はほとんどが非揮発性なので、衝突した面にくっつき付着物を形成しやすい。サンプルの分析が繰り返されると、時間の経過とともにこれらの付着物が蓄積され、開口プレート及び質量分析装置内部の重要エレメント上に絶縁層を形成する。これらの絶縁層は、イオンの影響により帯電され、無制御の電圧変動をもたらしシステムの性能を低下させることがある。
【0025】
さらに図2を参照すると、イオンビーム126のイオン抽出基準経路106に対する角度βは、イオンの質量に依存する。すなわち、加速域128から出て行くサンプルイオンの軌道の角度はサンプルイオンの質量に依存する。結果として、異なった質量のイオンを、例えば質量分析装置の取入れ口といった同一の場所に導くためには異なった電圧セットが必要となる。裏を返せば、電圧セットが一つであれば異なった質量のイオンは異なった場所に導かれることになる。例えば、上端側の質量範囲(例、25,000amu)のイオンの質量分析装置への伝送度を高めれば、おそらくは、下端質量側の質量範囲(例、15,000amu)のイオンの伝送度を低下させることになり、これによりダイナミックレンジが狭まることになる。
【0026】
本発明のMALDIイオン源のさまざまな実施形態において、イオン源は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに、レーザー・エネルギー・パルスを、サンプル面の法線対して30度を大幅に下回る角度で照射するように構成されている。
【0027】
さまざまな実施形態によるMALDIイオン源は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射するよう構成された光学システムと、サンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムとを含む。一部の実施形態において、イオン光学システムは、抽出されたサンプルイオンを抽出方向から質量分析装置に導くための一つ以上のデフレクタを含む。
【0028】
さまざまな実施形態において、照射角は次の範囲内である:(a)照射点表面の法線から10度以下;(b)照射点表面の法線から5度以下;及び/又は(c)照射点表面の法線から1度以下。従って、一部の実施形態において照射角は照射点サンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを、最初に次の範囲内の方向に抽出する:(a)サンプル面の法線から5度以下;及び/又は(b)サンプル面の法線から1度以下。従って、一部の実施形態において抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。
【0029】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部、及び、少なくとも一部がヒーター・システムにつながれたイオン光学システムを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システムは、イオン光学システムの少なくとも一部を加熱し、イオン光学システムのエレメントに付着する中性種の量を低減するように構成され使用される。イオン光学システム・エレメントを加熱し、例えば、中性種が加熱された表面に付着する確率を低下させ、付着物を揮発させ、あるいはその双方によって、中性種の付着量を低減することができる。一部の実施形態において、温度制御表面部は、中性分子を捕捉し、これによりイオン光学システムのエレメント上に付着する中性種の量を低減するように構成され使用される。温度制御表面部の温度をイオン光学システム・エレメントの温度より低く設定し、例えば、温度制御表面部への中性種の付着確率を増大させ、脱着した中性種を捕捉し、あるいはその双方によって中性種付着量を低減することができる。
【0030】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムの一つ以上のエレメントは、マトリクス分子が実質上これらエレメントに付着しないように加熱され、これによりこれらエレメント上への絶縁層の蓄積を低減させる。MALDI内で生成される中性種の噴流には、絶縁層を形成する可能性のある不揮発性の非マトリクス材料が少量含まれていることがあるが、この非マトリクス材料の濃度は、一般にマトリクスのものよりも数桁低い。このことから、通常、非マトリクス材料の付着が顕著となるまでには相当に長い時間がかかる。さらに、さまざまな実施形態において、光学システムのエレメントの表面を加熱することによりこういった付着物の抵抗性が低下し、これにより、イオンビームを偏向させる非対称な帯電の影響の低減をさらに促進する。
【0031】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、イオン光学システムのエレメントを、表1にリストされた一つ以上のマトリクス材料を脱着するのに十分な温度に加熱する能力のあるヒーターを含む。表1の右側列には、MALDI研究において当該マトリクス材料が使われる典型的な用途の一部をリストしている。
【0032】
【表1】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、イオン光学システムのエレメントの温度を、マトリクス材料を脱着させるのに十分な温度まで昇温することができる。
【0033】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムの一つ以上のエレメントは、定期的に十分な高さの温度まで加熱され、これらエレメント表面の一切の付着物を急速に蒸発させる。さまざまな実施形態において、「空」又は「ダミー」サンプル・ホルダーをMALDIサンプル・ホルダー差し替えて、例えば、イオン光学システムの一つ以上のエレメントに形成された付着物を空基板(これは器具から取り外すことができる)、温度制御表面部、又はその双方に再付着させることができる。
【0034】
本明細書で用いる「イオン光学システム」と言う用語には、以下に限らないが、電位差を加えられ、例えば、イオンを加速、減速、屈折又は集中するといったイオンの動きに影響を与える一つ以上の電極が含まれる。各種の電極の形状及び構成には、以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンが含まれる。イオン光学システムのさまざま実施形態において、表現をわかり易くするために、イオン光学システムを、第一、第二及び/又は第三イオン光学システムという用語で表現するが、これらの用語は限定を意図したものではない。
【0035】
イオン光学システムには、サンプルイオンを抽出するため配置された第一電極を含めることができる。サンプル面と第一電極との間に電位差を加え、所定の電荷符号(正、負いずれか)を持つサンプルをサンプル面から離れる方向に加速させる。一部の実施形態において、第一電極は、サンプル面に対しほぼ平行なほぼ平面状のプレート又はグリッドである。一部の実施形態において、サンプル・ホルダーは、照射されるサンプルが第一開口電極の開口部のほぼ中心に来るように配置される。例えば、サンプル・ホルダーを、1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台に保持させることができる。第一電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一開口電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線となる。
【0036】
一部の実施形態において、サンプル・ホルダーは、複数のサンプルを保持することができる。妥当なサンプル・ホルダーには、以下に限らないが、64スポット、96スポット及び384スポットのプレートが含まれる。サンプルは、レーザー・エネルギー・パルスの波長を吸収し、サンプル中の対象分子の脱離とイオン化を円滑にするためのマトリクス材料を含む。
【0037】
サンプル・ホルダーと、サンプルイオンをサンプル面から離れるように加速させる第一電極との間の電位差の印加を、レーザー・エネルギー・パルスの発生から所定時間遅延させ、例えば、遅延抽出を実施することができる。一部の実施形態において、例えば以下に記載されているように、遅延抽出を実施し初期サンプルイオンの速度分布の補正に集中するためのタイムラグを設ける;1995年5月19日出願、1997年4月29日発行の米国特許第5,625,184号;1995年7月7日出願、1997年5月6日発行の5,627,369号;1998年4月8日出願、1999年12月14日発行の6,002,127号;1998年5月29日出願、2003年4月1日発行の6,541,765号;1999年7月13日出願、2000年5月2日発行の6,057,543号;2000年3月16日出願、2001年4月28日発行の6,291,493号:及び2002年12月3日出願の米国特許出願第10/308,889号;これらすべての全内容を参考として本明細書に組み込む。他の実施形態において、例えば以下に記載されているように、遅延抽出によって初期サンプルイオンの空間分布の補正を行うことができる;W.C.Wiley及びI.H.McLaren、Time−of−Flight Mass Spectrometer with Improved Resolution、Review of Scientific Instrument、巻6、No.12、1150−1157頁、(1995年12月)、この全内容を参考として本明細書に組み込む。
【0038】
第一電極に加え、イオン光学システムには以下の一つ以上を含めることができる:(a)第二電極;(b)第一イオン・デフレクタ;(c)第一電極と第二電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ;(d)第三電極;(e)第二電極と第三電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ;(f)第四電極;(g)第二イオン・デフレクタ;及び(h)一つ以上のイオン・レンズ(例えばアインツェル・レンズのような)。
【0039】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは第一電極に加え第二電極を含む。一部の実施形態において、第二電極は、第一電極に対しほぼ平行なほぼ平面状のプレート又はグリッドである。一部の実施形態において、第一及び第二電極の双方は開口部を有する。さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、第一電極及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸によって規定される第一イオン光学軸に沿って抽出される。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスを第一イオン光学軸にほぼ一致して整列させるように構成される。
【0040】
第一及び第二電極の開口部は、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされており、第一電極と第二電極とはサンプル面からの法線周りにほぼ対称形なので、第一イオン光学軸は、サンプル面に対しほぼ法線の角度でサンプル面と交差することになり、抽出方向は、サンプル面に対しほぼ法線となり第一イオン光学軸とほぼ平行になって、サンプルイオンは第一イオン光学軸に沿って抽出されることになる。
【0041】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一及び第二電極に加えて第三電極をも含む。一部の実施形態において、第三電極は開口電極であり、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。さまざまな実施形態において、第三電極は、第一、第二及び第三開口電極の開口部の中心がほぼ共通の軸に位置するように配置される。他のさまざまな実施形態において、第三電極は、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置される。
【0042】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一及び第二電極に加えて第三電極をも含む。一部の実施形態において、第三電極は開口電極であり、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。さまざまな実施形態において、第三電極は、第一、第二及び第三開口電極の開口部の中心がほぼ共通の軸に位置するように配置される。他のさまざまな実施形態において、第三電極は、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置される。第三電極が第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置されたさまざまな実施形態において、第三電極は、抽出方向に沿ってサンプル・ホルダーから飛来する中性分子が実質上第三電極にぶつからないように位置設定される。
【0043】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを抽出方向と異なる向きに屈折させる第一イオン・デフレクタを含む。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、第一電極と第二電極との間に配置される。さまざまな実施形態において、第三電極は、屈折されたサンプルイオンを受けられるように、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置され、一部の実施形態において、第三電極は、質量分析装置へのサンプルイオン導入を促進にするように配置される。
【0044】
第三電極を含むさまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、第二電極と第三電極との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向とは異なる向きに屈折させる。さまざまな実施形態において、第一、第二及び第三電極は開口部を有し、第一、第二及び第三開口電極の開口部の中心は、ほぼ共通の軸上に位置し、第一、第二、第三開口電極は互にほぼ平行である。
【0045】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一イオン・デフレクタに加え、第二イオン・デフレクタを含み、第二イオン・デフレクタは、第一イオン・デフレクタによって屈折されたサンプルイオンを受けるように配置され、サンプルイオンの質量分析装置中への導入を促進する。一部の実施形態において、第二イオン・デフレクタは、抽出方向に沿ってサンプル・ホルダーから飛来する中性分子が実質上第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定される。
【0046】
また、一部の実施形態において、第二イオン・デフレクタは、第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された電極と関連付けられている。第二イオン・デフレクタ及び関連電極を有するイオン光学システムのさまざまな実施形態の例には、これらに限らないが、以下が含まれる:(a)第一と第二開口電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ、及び第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第三電極;(b)第一と第二開口電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ、第二電極とほぼ平行に配置された第三電極、及び第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第四電極;ならびに(c)第二と第三開口電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ、及び第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第四電極。一部の実施形態において、第二イオン・デフレクタに関連付けられた電極は、抽出方向に沿ってサンプル・ホルダーから飛来する中性分子が実質上第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定される。
【0047】
さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ、関連電極又はその双方に加えられた一つ以上の電位を使い、サンプルイオンの並進エネルギーを修正して、例えば、質量分析装置への集束を促進する。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ、関連電極又はその双方に加えられた一つ以上の電位を使い、サンプルイオンの並進エネルギーを修正し、それらの他の分子又は表面層への衝突エネルギーを調整して、例えば、イオンのCID又は表面誘起解離(SID)を促進する。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ、関連電極又はその双方に加えられた一つ以上の電位を使い、例えば、ある種のTOF質量分析装置におけるリニア・モードと反射モードとの間におけるような、質量分析装置の動作モードの変更を補償する。
【0048】
MALDIによるイオン発生は、イオンだけでなく、中性分子の噴流を生成する。さまざまな実施形態において、この中性噴流の一部は、一つ以上の電極の開口部を通過して、ほぼ抽出方向に沿った軸上に本質的にはコーンを形成する。最後の電極の開口部の大きさ及び最後の電極とサンプル面との距離により、最後の電極を越えて進む中性ビーム軸周りのコーンの半角δが決まる。イオン光学エレメント(例えば、第三電極、第四電極、第二デフレクタ又はこれらの組み合わせなど)が、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置されているさまざまな実施形態において、これらの光学エレメントを、中性ビーム中の中性分子が、実質上軸外のイオン光学エレメントにぶつからないように位置設定することができる。さまざまな実施形態において、このような軸外の光学エレメントは、中性ビーム軸に対し垂直方向に距離Lだけ中性ビーム軸から離れて位置している。さまざまな実施形態において、軸外光学エレメントは、Lにおける中性ビーム強度が少なくとも以下の強度よりも小さいような距離Lに位置している:中性ビーム軸における中性ビーム強度の14パーセント;中性ビーム軸における中性ビーム強度の5パーセント;又は中性ビーム軸における中性ビーム強度の1パーセント。さまざまな実施形態において、軸外イオン光学エレメントは、Lが少なくとも距離Lminより離れて位置しており、ここでLminは次式により求めることができる。
【0049】
Lmin=ztan(δ) (1)
ここで、zは、軸外のイオン光学エレメントとサンプル面との間の抽出方向距離であり、δは、中性ビームのコーンの半角δを決める最後のエレメントを越えて進む中性ビームのコーン半角δである。
【0050】
さまざまな実施形態によるMALDIイオン源は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに、照射点のサンプル面法線から10度以内の角度で、レーザー・エネルギー・パルスを照射するよう構成された光学システムを含む。さまざまな実施形態において、光学システムにレンズ又はウインドウを含めることができる。また、光学システムに鏡又はプリズム(図示せず)を含め、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。レーザー・エネルギー・パルスを、例えば、パルス・レーザー又は連続波(cw)レーザーで供給することができる。cwレーザーを変調して、例えば、音響光学素子(AOM)、交差偏波素子、回転チョッパ及びシャッターを使ってパルスを生成することができる。以下に限らないが、ガスレーザー(例、アルゴン・イオン、ヘリウム−ネオン)、ダイレーザー、化学レーザー、固体レーザー(例、ルビー、ネオジニウム基材)、エキシマ・レーザー、ダイオード・レーザー、及びこれらの組み合わせ(例、排気レーザー・システム)を含め、MALDIを使って対象サンプルイオンを生成するのに適した照射波長を持つ任意の種類のレーザーを、本発明のイオン源及び質量分析装置システムとともに使用することができる。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスを抽出方向にほぼ一致して整列させるように構成されている。
【0051】
図3を参照すると、さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー308のサンプル面306上のサンプル304に、サンプル面306の法線から10度以内の角度で、レーザー・エネルギー・パルス310を照射するよう構成された光学システムを含む。一部の実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面306のほぼ法線の角度でサンプル304に当たる。イオン光学システムは、第一電極を含み、さまざまな実施形態においてこれは開口電極320である。一部の実施形態において、第一開口電極320を、サンプル面306とほぼ平行配置されたほぼ平面状のプレート又はグリッドとすることができ、サンプル・ホルダー308は、開口部の中心軸が照射されるサンプル上になるよう位置設定される。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部350、及び第一電極につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム352を含む。
【0052】
さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルス310はサンプル304を打ち、中性分子及びイオンの噴流360を生成する。この中性噴流すなわちビーム362の一部は第一開口電極320の開口部を通り抜け、一部は第一開口電極320のサンプル側の表面364にぶつかる。この中性噴流360は、レーザービーム310及び第一電極の開口部の軸の周りでほぼ対称である。第一電極の開口部の大きさ及び第一電極とサンプル面との距離により、第一開口電極を越えて進む中性ビーム362のコーンの半角が決まる。
【0053】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム352を使用し、第一電極の温度を上昇させ、噴流360中の中性分子がこれに付着する確率を低減する。さまざまな実施形態において、温度制御表面部350は、第一電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。
【0054】
一部の実施形態において、第一電極を加熱し、マトリクスの分子が実質上第一電極に付着しないようにして、この電極上の絶縁層の蓄積を軽減する。さまざまな実施形態において、イオン形成により生ずる材料付着は、基本的に第一電極の開口部の軸の周りに対称形であり、これにより、非対称荷電によりイオンビームが偏向される潜在的影響の低減をし易くなる。さらに、さまざまな実施形態において、光学システム・エレメントの表面を熱することにより、一般にこういった付着物の抵抗性は低下し、さらに荷電への影響低減を促進する。
【0055】
さまざまな実施形態において、イオン源中の電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。
【0056】
図4及び5は、MALDIイオン源のさまざまな実施形態を描いたものである。図4及び5を参照すると、さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー408,508のサンプル面406,506上のサンプル404,504に、サンプル面の法線から10度以内の角度でレーザー・エネルギー・パルス410,510を照射するよう構成された光学システムを含む。一部の実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面のほぼ法線の角度でサンプルに当たる。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面の法線から5度以内の方向、一部の実施形態においてはサンプル面のほぼ法線方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムをも含む。
【0057】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一電極420,520及び第二電極422,522を含む。一部の実施形態において、第一及び第二電極の双方は開口部を融資、開口部の中心の間の線によって第一イオン光学軸425,525が定まり、この軸は、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプル面と交差する。サンプル面と第一電極との間に電位差が加えられ所定電荷符号(正、負いずれか)のサンプルイオンを、サンプル面から離れる方向に加速し、サンプルイオンが抽出されてイオンビーム427,527を形成する。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを屈折させるよう配置された第一イオン・デフレクタ428,528を含む。
【0058】
図4を参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ428は、第一電極420と第二電極422との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向432とは異なる方向の第二イオン光学軸434上へと屈折させる。図5を参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ528は、第二電極522と第三電極530との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向532とは異なる方向の第二イオン光学軸534上へと屈折させる。
【0059】
図4及び5を参照すると、さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部450,550、及び、少なくとも第一電極422,522につながれ、第一電極を加熱可能なヒーター・システム452,552を含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム452,552は、全ての、温度制御表面部450,550が周りに配置されているイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム452,552は、第一電極420,520、第二電極422,522、及び第一イオン・デフレクタ428,528につながれている。
【0060】
さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルス410、510は、サンプル404,504を打ち、中性分子460,560及びイオンの噴流を生成する。この中性噴流すなわちビームの一部は第一開口電極420,520の開口部を通り抜け、一部は第一開口電極420,520のサンプル側の表面464,564にぶつかる。この中性噴流すなわちビームの一部466,566は最後の電極の開口部を通過する。第二電極開口部の大きさ、及び最後電極とサンプル面との間の距離により、最後電極を越えて進む中性ビーム466,566のコーン半角が決まる。
【0061】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム452,552を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて、噴流中の中性分子がこれらに付着する確率を低減する。さまざまな実施形態において、温度制御表面部450,550は、第一電極及び第二電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極は、実質上、それらにマトリクスの分子が付着しないように加熱される。
【0062】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一及び第二電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、定期的に電極上の付着物蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。
【0063】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン源の加速域からの出口におけるサンプルイオンの軌道のイオンビームのほぼ中心での角度が、実質的にサンプルイオンの質量に左右されないイオンビームを供給することができる。一部の実施形態において、このような軌道は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに、サンプル面のほぼ法線の照射角度で、レーザー・エネルギー・パルスを照射し、サンプル面のほぼ法線方向にサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成することにより供給される。
【0064】
例として、2つのケースを考えてみる。一つは、サンプル・ホルダーのサンプル面の法線に対し30度の角度でのサンプルへのレーザービーム入射であり、他方は、サンプル・ホルダーのサンプル面のほぼ法線の角度でのサンプルへのレーザービーム入射である。MALDIターゲットから放出されるサンプルイオンのイオンビームの中心線、すなわち所望初期方向は、レーザー入射に沿って逆行し、この所望方向周りの分布は、放出された中性粒子のコーンと同様なコーンを形成する。イオン源の第一電極へのマトリクス付着の調査によれば、中性付着物は、通常、レーザービーム周りの半角が45度より小さいコーン内に包含されることが示されている。サンプルイオンの放出は、中性種の放出と同様であり、サンプルイオンの初期速度の分布は、少なくとも大体においては、サンプルイオンの質量と関係がないと考えられている。サンプルイオンの初期速度の平均は、通常、秒あたり数百メータであり、ある程度マトリクスの選択に依存する。この例として、500m/秒の初期サンプルイオン速度及びレーザービーム周り45度コーン内の均一な方向分布を選んで見よう。
【0065】
加速後の速度ベクトルは、イオンの初期速度、印加電圧、加速域の長さ及びイオンの質量対電荷比により決まる。均一なフィールドにおける加速後のサンプルイオンの速度成分を次式で表すことができる。
【0066】
vx=v0cosα+(2zV/m)1/2 (2)
vy=v0sinα (3)
ここでvxは加速域に平行な速度成分、vyは加速域に垂直の速度成分、v0は初期速度の大きさ、αは初期サンプルイオン速度ベクトルのサンプル・プレートに対する角度、zはイオンの電荷、Vは加速電位の大きさ、mはサンプルイオンの質量である。この例において、単独に荷電されたイオンに対して(2)式を近似的に次のように書くことができる。
【0067】
vx=500cosα+13,900(2zV/m)1/2 (4)
vy=500sinα (5)
ここで、速度は秒あたりメーター、電位はボルト、質量はダルトン単位であり、x軸は加速域と平行に、y軸は加速域と垂直に方向付けられている。加速域からの出口におけるイオン軌道の角度は次式により与えられる(出口における集束作用は一切無視する)。
【0068】
β=tan−1(vy/vx) (6)
サンプル・ホルダーのサンプル面上の出発点位置に対する、加速域の出口におけるイオン軌道のy方向の変位は次式により与えられる。
【0069】
y0=2d0(vy/vx) (7)
ここでd0はサンプル・ホルダーのサンプル面と第一電極との間の距離である。集束エレメントがないので、軌道沿いの任意の点におけるy方向の変位は次式で与えられる。
【0070】
y=y0+d(vy/vx) (8)
ここでyはx方向、第一電極からの距離である。
【0071】
レーザー・エネルギー・パルスを30度入射、及び法線入射した場合について、入射レーザービーム(中央射線)に沿った初期速度ベクトルを持つサンプルイオン、入射レーザービームに対し+45度(上部射線)の初期速度ベクトルを持つサンプルイオン、及び入射レーザービームに対し−45度(下部射線)の初期速度ベクトルを持つサンプルイオンの諸角度及び変位の比較を表1に示す。表2の値は、v0=500m/秒、V/m=1ボルト/da、及びd0=20mmを用いて計算し、角度の値は度単位であり、y0及びyの値はミリメータ単位であり、yはd=100mmに対して計算された。V/m=100ボルト/daの場合には、式(4)−(8)に示すように、β、y0及びyの値は10分の1に減少する。
【0072】
【表2】
図6A及び6Bは、表2の軌道を概略的に図示し、図6Aは従来型MALDI源600に対するものであり、図6Bはさまざまな実施形態によるMALDIイオン源650によるものである。図6A及び6B中の角度α及びβは、大体のものであり、角度β及び変位y0とyと(100mm点)は説明目的のため誇張してある。図6Aは、30度入射の場合においてサンプル601から発生したイオンの軌道を、中央射線602、上部射線604、及び下部射線606に沿った初期速度とともに図示し、これらの軌道の加速域からの出口608における角度を示している。また図6Aは、表2中の上部射線β角度610、下部射線β角度612、中央射線β角度614、及びサンプル・ホルダー622のサンプル面620と第一電極624との間の距離d0を図示している。
【0073】
図6Bは、法線入射の場合においてサンプル651から発生したイオンの軌道を、中央射線652、上部射線654、及び下部射線656に沿った初期速度とともに図示し、これらの軌道の加速域からの出口658における角度を示している。また図6Bは、表2中の上部射線β角度660、下部射線β角度662、中央射線β角度664、及びサンプル・ホルダー672のサンプル面670と第一電極674との間の距離d0を図示している
表2は、30度入射レーザー照射の場合には、イオンビームの基準方向(中央射線)が質量に依存するのに対し、法線入射の場合には、イオンビームの基準方向(中央射線)は、あらゆる質量においてレーザービームと一致し、しかして質量に依存しない。双方のケースにおいて、イオンビーム・プロフィールの半角は、質量の平方根に比例して増大する。30度入射の場合、限定された質量範囲のサンプルイオンは、適切な偏向電圧によりイオンビームを屈折させることにより、質量分析装置に導くことができるが、この質量範囲から外れるサンプルイオンの伝送効率は同じ偏向電圧では低いものとなろう。
【0074】
法線入射の場合には、適切な偏向電圧は、実質上サンプルイオン質量に関係しない。さまざまな実施形態において、このことにより、例えば、図7に示すように、質量区分けを取り入れずに、加速後のイオンビームを屈折させることによってレーザービームから分離し、軸外の質量分析装置を用いることができる。さらに法線入射の場合には、例えば、イオン加速域内に追加の開口電極、下流に一つ以上のイオンレンズ又はこれらの組み合わせを含めることによって、すべての質量に対してイオンビームを集束することができる。
【0075】
図7は、MALDIイオン源及び質量分析装置システムのさまざまな実施形態を描いたものである。一つの実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー708のサンプル面706上のサンプル704に対しほぼ法線の角度でレーザー・エネルギー・パルス710を照射するよう構成された光学システム702を含む。さまざまな実施形態において、光学システムにレンズ又はウインドウ711を含めることができる。また、光学システムに鏡又はプリズム712を含め、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。さまざまな実施形態において、レーザー出力が、照射点におけるサンプル面の法線から少なくとも10度以内の照射角度で、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面に照射するように、レーザー自体を位置設定できるので、鏡、プリズム又は他の光子誘導メカニズムは必要ない。
【0076】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面に対しほぼ法線方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムを含む。イオン光学システムは、第一開口電極720及び第二開口電極722を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸724が規定される。一部の実施形態において、第一電極720及び第二電極は、サンプル面706及び互いに対しほぼ平行に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。
【0077】
第一電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一開口電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線となる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、サンプル面に対する法線回りにほぼ対称形のさまざまな第一電極の形状及び構成を用いることができる。第一及び第二電極の開口部は、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされており、第一及び第二電極は、サンプル面に対する法線周りにほぼ対称形なので、第一イオン光学軸は、サンプル面に対しほぼ法線の角度でサンプル面と交差し、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線となり、抽出方向は第一イオン光学軸とほぼ平行になって、サンプルイオンは第一イオン光学軸に沿って抽出されることになる。
【0078】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー708を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー708は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台728に保持される。
【0079】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面706と第一開口電極720との間に電位差を加えてサンプル面の法線から5度以内の抽出方向にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。第一イオン・デフレクタ730は、第一開口電極720と第二開口電極722との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向732とは異なる方向の第二イオン光学軸734上へと屈折し、質量分析装置740は、第二イオン光学軸734上に配置されてサンプルイオンを受ける。さまざまな実施形態において、第三開口電極742が第二電極722と質量分析装置740との間に配置され、質量分析装置へのサンプルイオン導入を促進する。
【0080】
一部の実施形態において、質量分析装置740の取入れ口744及び一切の関連第三電極742は、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上、質量分析装置の取入れ口744又は一切の関連第三電極742に衝突しないように、第一イオン光学軸724から距離Lだけ離れて配置される。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminであり、中性ビーム・コーンの距離z及び半角δの例を図7に示す。
【0081】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部750と、少なくとも第一電極720につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム752とを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム752は、すべての、温度制御表面部750が周りに配置されたイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム752は、第一電極720、第二電極722、及び第一イオン・デフレクタ730につながれている。
【0082】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム752を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて噴流中の中性分子がそれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部750は、第一電極及び第二電極より低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極720及び第二電極722は、マトリクス分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ730は、マトリクス分子が実質上これに付着しないように加熱される。
【0083】
さまざまな実施形態において、イオン源の中の第一電極720及び第二電極722は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ730は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0084】
図8を参照すると、MALDIイオン源及び質量分析装置システムのさまざまな実施形態が描かれている。一つの実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー808のサンプル面806上のサンプル804に、ほぼ法線の角度で、レーザー・エネルギー・パルス810を照射するよう構成された光学システム802を含む。さまざまな実施形態において、光学システムにレンズ又はウインドウを含めることができる。また、光学システムに鏡又はプリズムを含めレーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。
【0085】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムを含む。図8において、イオン光学システムは、第一開口電極820及び第二開口電極822を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸824が規定される。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは第三開口電極826を含む。一部の実施形態において、第一、第二及び第三電極は、サンプル面及び互いに対しほぼ平行に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。
【0086】
第一電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一開口電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線になる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、サンプル面の法線回りにほぼ対称形のさまざまな第一電極の形状及び構成を用いることができる。第一及び第二電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一及び第二電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、第一イオン光学軸はサンプル面に対しほぼ法線となり、抽出方向は第一光学軸とほぼ平行になり、サンプルイオンは第一光学軸に沿って抽出されることになる。
【0087】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー808を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー808は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台828に保持される。
【0088】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面806と第一開口電極820との間に電位差を加えてサンプル面の法線から5度以内の抽出方向にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向832にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。第一イオン・デフレクタ830は、第二開口電極822と第三開口電極826との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向とは異なる方向の第二イオン光学軸834上へと屈折させる。
【0089】
さまざまな実施形態において、第三電極826と質量分析装置840との間に第四開口電極836が配置され、質量分析装置840内へのサンプルイオン導入を促進する。さまざまな実施形態において、システムは、質量分析装置840内へのサンプルイオン導入を促進するため配置された第二イオン・デフレクタ844を含む。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ844は、第四電極836と質量分析装置840との間に配置される。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ844は、サンプルイオンを第二イオン光学軸834とは異なる方向の第三イオン光学軸846上へと屈折させるように配置される。
【0090】
一部の実施形態において、質量分析装置840の取入れ口848、ならびに、関連する一切の第四電極836、第二イオン・デフレクタ844又はその双方は、距離Lだけ第一イオン光学軸824から離れており、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上質量分析装置の取入れ口848又は一切の関連第四電極836にぶつからないように配置されている。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminであり、中性ビーム・コーンの距離z及び半角δの例を図8に示す。
【0091】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部850と、少なくとも第一電極820につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム852とを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム852は、すべての、温度制御表面部850が周りに配置されたイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム852は、第一電極820、第二電極822、第三電極826、及び第一イオン・デフレクタ830につながれている。
【0092】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム852を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて噴流中の中性分子がそれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部850は、第一電極及び第二電極より低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極820及び第二電極822は、マトリクス分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第三電極826は、マトリクス分子が実質上これに付着しないように加熱され、温度制御表面部850は、第三電極よりも低い温度に保たれる。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ830は、実質上マトリクス分子が付着しないように加熱される。
【0093】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一電極820及び第二電極822は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第三電極826を、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱し、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第三電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ830を、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱し、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0094】
いろいろな質量分析装置を、本発明のMALDIイオン源とともに質量分析装置システム中で使用することができる。質量分析装置を単一の質量分析計器とすることも、あるいは、例えばタンデム質量分析(しばしばMS/MSと呼ばれる)又は多次元質量分析(しばしばMSnと呼ばれる)を採用して複数の質量分析計器とすることもできる。適切な質量分析計には、以下に限らないが、飛行時間(TOF)質量分析計、四極子質量分析計(QMS)、及びイオン移動度分光分析計(IMS)が含まれる。また、適切な質量分析装置システムに、イオン・デフレクタ及び/又はイオン解離装置を含めることができる。
【0095】
適切なイオン解離装置の例には、以下に限らないが、衝突セル(その中でイオンを中性ガス分子に衝突させて解離させる)、光解離セル(その中でイオンに光子のビームを照射して解離する)、及び表面解離装置(その中でイオンを固体又は液体の表面に衝突させで解離する)が含まれる。
【0096】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、一次イオンを選択し及び/又はそのフラグメントイオンを検出・分析するための三重四極子質量分析計を含む。さまざまな実施形態において、第一の四極子は一次イオンを選択する。第二の四極子は、多数の低エネルギー衝突が発生し一部のイオンを解離させるように、十分に高い圧力と電圧とに保たれる。第三の四極子を走査してフラグメントイオンのスペクトルを分析する。
【0097】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、一次イオンを選択し及び/又はそのフラグメントイオンを検出・分析するための2つの四極子質量フィルタ及び一つのTOF質量分析計を含む。さまざまな実施形態において、第一の四極子は一次イオンを選択する。第二の四極子は、多数の低エネルギー衝突が発生し一部のイオンを解離させるように、十分に高い圧力と電圧とに保たれる。TOF質量分析計は、フラグメントイオンのスペクトルを検出・分析する。
【0098】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、2つのTOF質量分析計及び一つのイオン解離装置(例えばCID又はSIDのような)を含む。さまざまな実施形態において、第一TOFはイオン解離装置に取り入れる一次イオンを選択し、第二TOF質量分析計は、フラグメントイオンのスペクトルを検出・分析する。TOF分析器をリニアー型又は反射型分析器とすることができる。
【0099】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、飛行時間型質量分析計及びイオン・リフレクタを含む。イオン・リフレクタは、TOFのフィールドフリー流領域の終端に配置され、イオンの飛行経路を修正して、初期の運動エネルギー分布の影響を補償するために使われる。さまざまな実施形態において、イオン・リフレクタは、加速電圧よりやや高いレベルに昇圧された電位にバイアス印加された一連のリングで構成される。作動中、イオンがリフレクタを突き通る際、イオンは、電界方向の速度がゼロになるまで減速される。速度ゼロとなった点で、イオンは方向を反転しリフレクタを通って逆側に加速される。イオンは、入ってきたときと同レベルであるが反対方向速度のエネルギーを持つて抜け出る。より大きなエネルギーを持つイオンは、リフレクタ中により深くまで突き通り、結果的にリフレクタ中により長い時間留まることになる。リフレクタに用いられる電位は、同一の質量及び電荷を持つイオンがほぼ同時に検出器に到着するように、イオンの飛行経路を修正するように選定される。
【0100】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、対象となる一次サンプルイオンを選択するためのタイムド・イオン・セレクタを具えた第一フィールドフリー流領域を含むタンデムMS−MS計器と、サンプルイオンのフラグメントを生成するための解離チャンバ(又はイオン解離装置)と、フラグメントイオンを分析するための質量分析器とを包含する。さまざまな実施形態において、タイムド・イオン・セレクタは、パルス印加イオン・デフレクタを含む。さまざまな実施形態において、このタンデムMS/MS計器のバージョンにおいて、第二イオン・デフレクタをパルス印加イオン・デフレクタとして使用することができる。作動のさまざまな実施形態において、パルス印加イオン・デフレクタは、選定した質量対電荷比の範囲内のイオンだけを、イオン解離チャンバへ送ることを可能にする。さまざまな実施形態において、質量分析装置は、飛行時間型質量分析計である。質量分析装置にイオン・リフレクタを含めることができる。さまざまな実施形態において、解離チャンバは、イオンを解離させ、抽出を遅延させるよう設計された衝突セルである。また、さまざまな実施形態において、解離チャンバは、飛行時間型質量分析計によるフラグメントイオンの分析のための遅延抽出イオン源としての機能を果たすこともできる。
【0101】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、パルス式イオン源により生成される複数イオンの経路に沿って配置された第一、第二及び第三TOF質量分離器を持つタンデムTOF−MSを含む。第一質量分離器はパルス式イオン源により生成された複数イオンを受けるように配置される。第一質量分離器は、パルス式イオン源により生成された複数イオンを加速し、複数イオンをそれらの質量対電荷比に従って分離し、質量対電荷比に基づいて、複数イオンからイオンの第一グループを選定する。また、第一質量分離器は、イオンの第一グループの少なくとも一部を解離する。第二質量分離器は、第一質量分離器によって生成されたイオンの第一グループ及びそのフラグメントを受けるように配置される。第二質量分離器は、イオンの第一グループ及びそのフラグメントを加速し、質量対電荷比に基づいてイオンの第一グループ及びそのフラグメントを分離し、質量対電荷比に基づいてイオンの第一グループ及びそのフラグメントからイオンの第二グループを選定する。また、第二質量分離器は、イオンの第二グループの少なくとも一部を解離する。第一及び/又は第二質量分離器に、イオン・ガイド、イオン集束エレメント、及び/又はイオン方向付けエレメントを含めることができる。さまざまな実施形態において、第二TOF質量分離器は、イオンの第一グループ及びそのフラグメントを減速する。さまざまな実施形態において、第二TOF質量分離器は、フィールドフリー領域、及び、ほぼ第二所定範囲内の質量対電荷比を持つイオンを選定するためのイオン・セレクタを包含する。さまざまな実施形態において、第一及び第二TOF質量分離器の少なくとも一つは、解離されたイオンを選定するタイムド・イオン・セレクタを含む。さまざまな実施形態において、第一及び第二質量分離器の少なくとも一つは、イオン解離装置を含む。第三質量分離器は、第二質量分離器によって生成されたイオンの第二グループ及びそのフラグメントを受けるように配置される。第三質量分離器は、イオンの第二グループ及びそのフラグメントを加速し、それらの質量対電荷比に基づいてイオンの第二グループ及びそのフラグメントを分離する。さまざまな実施形態において、第三質量分離器は、パルス印加加速を用いて、イオンの第二グループ及びそのフラグメントを加速させる。さまざまな実施形態において、イオン検出器は、イオンの第二グループ及びそのフラグメントを受けるように配置される。さまざまな実施形態において、イオン・リフレクタが、フィールドフリー領域内に配置され、イオンの第一又は第二グループ及びそのフラグメントの少なくとも一つのエネルギーを、それらがイオン検出器に到達する前に修正する。
【0102】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、複数の飛行経路、時間的に同時に実施可能な複数の動作モード、又はその双方を具えるTOF質量分析器を包含する。このTOF質量分析器は、質量分析器に入力してくるサンプルイオンのパケットから選定したイオンを、第一イオン経路、第二イオン経路、又は第三イオン経路のどれかに導く経路選定イオン・デフレクタを含む。一部の実施形態において、さらに多くのイオン経路を用いることができる。さまざまな実施形態において、第二のイオン・デフレクタを経路選定イオン・デフレクタとして使用することができる。時間依存性電圧を経路選定イオン・デフレクタに印加し、使用可能なイオン経路のうちから経路選定して、所定の質量対電荷比範囲内の質量対電荷比を有するイオンが選定したイオン経路に沿って伝搬できるようにする。
【0103】
例えば、複数飛行経路を有するTOF質量分析装置の作動のさまざまな実施形態において、経路選択イオン・デフレクタに、第一所定電圧を、第一所定質量対電荷比範囲に対応する第一所定時間間隔印加し、これにより、第一所定質量対電荷比範囲内にあるイオンを第一イオン経路に沿って伝搬させる。さまざまな実施形態において、この所定第一電圧をゼロとし、イオンを初期の経路に沿って継続して伝搬させる。経路選択イオン・デフレクタに、第二所定電圧を、第二所定質量対電荷比範囲に対応する第二所定時間間隔印加し、これにより、第二所定質量対電荷比範囲内にあるイオンを第二イオン経路に沿って伝搬させる。第三、第四など追加の時間範囲と電圧とを採用して、特定の測定作業に必要な数だけのイオン経路を設けることができる。第一所定電圧の振幅と極性はイオンを第一イオン経路へと屈折させるように選定され、第二所定電圧の振幅と極性はイオンを第二イオン経路へと屈折させるように選定される。第一時間間隔は、第一所定質量対電荷比範囲内のイオンが、経路選定イオン・デフレクタを通って伝搬する時間に対応するよう選択され、第二時間間隔は、第二所定質量対電荷比範囲内のイオンが、経路選定イオン・デフレクタを通って伝搬する時間に対応するよう選択される。第一TOF質量分離器は、第一イオン経路に沿って伝搬する第一質量対電荷比範囲内のイオンのパケットを受けるように配置されている。第一TOF質量分離器は、第一質量対電荷比範囲内のイオンをそれらの質量に従って分離する。第一検出器は、第一イオン経路に沿って伝搬するイオンの第一グループを受けるように配置されている。第二TOF質量分離器は、第二イオン経路に沿って伝搬するイオンのパケットの一部を受けるように配置されている。第二TOF質量分離器は、第二質量対電荷比範囲内のイオンをそれらの質量に従って分離する。第二検出器は、第二イオン経路に沿って伝搬するイオンの第二グループを受けるように配置されている。一部の実施形態において、第三及び第四など追加の分離器及び検出器を配置し、対応する経路に沿って導かれるイオンを受けさせることができる。一つの実施形態において、第三イオン経路を採用して第三所定質量範囲内のイオンを切り捨てる。第一及び第二質量分離器を任意の種類の質量分離器とすることができる。例えば、第一及び第二質量分離器の少なくとも一つに、フィールドフリー流領域、イオン加速器、イオン解離器、又はタイムド・イオン・セレクタを含めることができる。また、第一及び第二質量分離器に複数の質量分離素子を含めることができる。さまざまな実施形態にイオン・リフレクタが含まれ、イオンの第一グループを受けるように配置されており、イオンの第一グループに対するTOF質量分析装置の分解能を向上させている。さまざまな実施形態にイオン・リフレクタが含まれ、イオンの第二グループを受けるように配置されており、イオンの第二グループに対するTOF質量分析装置の分解能を向上させている。
【0104】
図9A及び9Bは、ほぼ同軸のサンプル照射及びイオン抽出方向を有するMALDIイオン源さまざまな実施形態を描いたものである。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー908,958のサンプル面906,956上のサンプル904,950に、レーザー・エネルギー・パルス910を照射するよう構成された光学システムを含み、そのサンプル面と交差するエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルは、第一イオン光学軸に沿った抽出方向912,962とほぼ同軸である。
【0105】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一電極914,964及び第二電極916,966を含む。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極の双方は、開口部を有しこれら開口部の中心の間の直線により第一イオン光学軸918,968が規定される。さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から約5度から約50度の間の角度でサンプル面と交差する。サンプル面と第一電極との間に電位差が加えられ、所定電荷符号(正、負いずれか)のサンプルイオンをサンプル面から離れる方向に加速し、サンプルイオンは抽出されてイオンビーム920,970を形成する。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを屈折させるため配置された第一イオン・デフレクタ922,972を含む。一部の実施形態において、例えば、補助電極921,971を設けて、第一イオン光学軸沿いのサンプルイオン抽出を促進する。第一イオン光学軸918,968と、補助電極921,971の第一電極914,964と向かい合う面との間の角度が、第一イオン光学軸918,968とサンプル面906,956との間の角度とほぼ同じになるように、補助電極921,971を配置することができる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、抽出方向回りにほぼ対称形のさまざまな第一及び第二電極の形状及び構成を用いることができる。これに加え、以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような各種の補助電極形状を使うことができる。
【0106】
図9Aを参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ922は、第一電極914と第二電極916との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向912とは異なる方向の第二イオン光学軸924上へと屈折する。図9Bを参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ972は、第二電極966と第三電極973との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向962とは異なる方向の第二イオン光学軸974上へと屈折する。
【0107】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部930,980、及び、少なくとも第一電極916,966につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム932,982を含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム932,982は、全ての、温度制御表面部930,980が周りに配置されているイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム932,982は、第一電極914,916、第二電極916,966、及び第一イオン・デフレクタ922,972につながれている。
【0108】
さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルス910,960は、サンプル914,964に当たって中性分子940,990及びイオンの噴流を生成する。この中性噴流すなわちビーム948,998の一部は、第一開口電極914,964の開口部を通過し、一部は第一開口電極914,964のサンプル側の表面946,996にぶつかる。この中性噴流すなわちビーム948,998の一部は、最後の電極の開口部を通過する。第二電極の開口部の大きさ、及び最後の電極とサンプル面と間の距離により、最後の電極を越えて進む中性ビーム948,998のコーン半角が決まる。
【0109】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム932,982を使って第一電極及び第二電極の温度を上昇させ、噴流中の中性分子がこれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部930,980は、第一電極及び第二電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極は、マトリクスの分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、マトリクスの分子が実質上これに付着しないように加熱される。
【0110】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一及び第二電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。
【0111】
図10を参照すると、MALDIイオン源及び質量分析装置のさまざまな実施形態が描かれている。一つの実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー1008のサンプル面1006上のサンプル1004に、レーザー・エネルギー・パルス1010を照射するよう構成された光学システムを含み、サンプル面と交差するエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルは、第一イオン光学軸に沿った抽出方向1012とほぼ同軸である。
【0112】
イオン光学システムは、第一開口電極1020及び第二開口電極1022を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸1024が規定される。一部の実施形態において、第一電極1020及び第二電極は、ほぼ相互に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。さまざまな実施形態において、サンプル面に対する法線から約5度から50度の間の範囲の角度をなす方向にサンプルイオンを抽出されたイオン光学システム。一部の実施形態において、例えば、第一イオン光学軸に沿ってのサンプルイオン抽出を促進するため補助電極1021が設けられる。補助電極1021を、第一イオン光学軸1024と、補助電極1021の第一電極1020と向かい合う面との間の角度が、第一イオン光学軸1024とサンプル面1006との間の角度とほぼ同じになるように、補助電極1021を配置することができる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、抽出方向1012の回りにほぼ対称形のさまざまな第一及び第二電極の形状及び構成を用いることができる。これに加え、以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンを含め各種の補助電極形状を使うことができる。
【0113】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー1008を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー1008は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台1028に保持される。
【0114】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面1006と第一開口電極1020との間に電位差を加えて、サンプル面と交差するレーザー・エネルギー・パルス1010のポインティング・ベクトルとほぼ同軸の抽出方向1012にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。第一イオン・デフレクタ1030は、第一開口電極1020と第二開口電極1022との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向1012とは異なる方向の第二イオン光学軸1034上へと屈折し、質量分析装置1040は、第二イオン光学軸1034上に配置されてサンプルイオンを受ける。さまざまな実施形態において、第三開口電極1042が第二電極1022と質量分析装置1040との間に配置され、質量分析装置1040へのサンプルイオン導入を促進する。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、第一開口電極と第一イオン・デフレクタ1030との間に配置された開口電極1043を含む。
【0115】
さまざまな実施形態において、本システムは、質量分析装置1040へのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第二イオン・デフレクタ1046を含む。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1046は、第三電極1042と質量分析装置1040との間に配置される。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1046は、サンプルイオンを第二イオン光学軸1034とは異なる方向の第三イオン光学軸上へと屈折させるように配置される。
【0116】
一部の実施形態において、質量分析装置1040の取入れ口1044及び一切の関連第三電極1042は、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上、質量分析装置の取入れ口1044又は一切の関連第三電極1042に衝突しないように、第一イオン光学軸1024から距離Lだけ離れて配置される。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminであり、中性ビーム・コーンの距離z及び半角δの例を図10に示す。
【0117】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部1050と、少なくとも第一電極1020につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム1052とを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム1052は、すべての、温度制御表面部1050が周りに配置されたイオン光学システム・エレメント又は中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム1052は、第一電極1020、第二電極1022、及び第一イオン・デフレクタ1030につながれている。
【0118】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム1052を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて噴流中の中性分子がそれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部1050は、第一電極及び第二電極より低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極1020及び第二電極1022は、マトリクス分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ1030は、マトリクス分子が実質上これに付着しないように加熱される。
【0119】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一電極1020及び第二電極1022は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ1030は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0120】
図11A及び11Bを参照すると、MALDIイオン源及び質量分析装置システムのさまざまな実施形態が描かれており、図11Aは図11Bに描かれたMALDIイオン源領域の拡大図である。一つの実施形態において、MALDIイオン源1104は、サンプル・ホルダー1108のサンプル面1106上のサンプルに、サンプル面に対しほぼ法線の角度で、レーザー・エネルギー・パルス1110を照射するよう構成された光学システムを含む。さまざまな実施形態において、光学システムにウインドウ1112及び鏡又はプリズム1114を含めレーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。
【0121】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムを含む。図11A−11Bにおいて、イオン光学システムは、第一開口電極1120及び第二開口電極1122を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線を用いて第一イオン光学軸1124を定めることができる。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは第三開口電極を含む。一部の実施形態において、第一、第二及び第三電極は、サンプル面及び互いに対しほぼ平行に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。
【0122】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー1108を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー1108は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台1128に保持される。
【0123】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面と第一開口電極1120との間に電位差を加えてサンプル面の法線から5度以内の抽出方向にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ1130は、第一開口電極1120と第二開口電極1122との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向732とは異なる方向の第二イオン光学軸1134上へと屈折する。筒体又は他の適切な構造体1131を使って、例えば、屈折後、サンプルイオンを漂遊電界から遮蔽したり、電界の均一性を維持したり、又はその双方を行うことができる。さまざまな実施形態において、このような構造体1131を、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置する温度制御表面部として機能させたり、ヒーター・システムにつないだり、又はその双方を行うことができる。
【0124】
さまざまな実施形態において、開口電極1136が第一イオン・デフレクタ1130と質量分析装置1140との間に配置され、質量分析装置へのサンプルイオン導入を促進する。さまざまな実施形態において、システムは質量分析装置1140へのサンプルイオン導入を促進するように配置された第二イオン・デフレクタ1144を含む。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1144は、第四電極と質量分析装置1140との間に配置される。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1144は、サンプルイオンを第二イオン光学軸とは異なる方向の第三イオン光学軸上へと屈折させるように配置される。
【0125】
一部の実施形態において、質量分析装置1140の取入れ口、及び関連する一切の取入れ口電極、第二イオン・デフレクタ、又はその双方は、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上、質量分析装置の取入れ口に衝突しないように、第一イオン光学軸から距離Lだけ離れて配置される。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminである。
【0126】
質量分析装置1140を、単一の質量分析計器とすることも複数の質量分析計器とすることもできる。質量分析装置を一つ以上のチャンバ1146に含めることができ、チャンバにMALDIイオン源の全部又は一部を含めることもできる。さまざまな実施形態において、質量分析装置1140は、タンデム型質量分析計1152(しばしばMS/MSと呼ばれる)及びイオン・リフレクタ1154、各種のイオン光学素子1156,1157、及び一つ以上の検出器1158,1159を含む。一部の実施形態において、一つ以上の構造体1160,1162を具え、例えば、イオン・デフレクタ1154から検出器1159に飛来するサンプルを漂遊電界から遮蔽したり、電界の均一性を維持したり、又はその双方を行う。
【0127】
さまざまな実施形態において、質量分析装置システム1190は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部、及び、少なくとも第一電極につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システムを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システムは、全ての、温度制御表面部が周りに配置されているイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、第一電極、第二電極、第三電極、及び第一イオン・デフレクタにつながれている。
【0128】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システムを使用し、第一電極及び第二電極の温度を上昇させ、噴流中の中性分子がこれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部は、第一電極及び第二電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極を加熱し、マトリクスの分子が実質上これらに付着しないようにする。さまざまな実施形態において、第三電極を加熱し、マトリクスの分子が実質上これに付着しないようにし、温度制御表面部は第三電極よりも低い温度に保たれる。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタを加熱し、マトリクスの分子が実質上これに付着しないようにする。
【0129】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一電極及び第二電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第三電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第三電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ、第二イオン・デフレクタ、又はその双方は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0130】
さまざまな様態で、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法を提供する。本方法は、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を使ってイオンを形成する。さまざまな実施形態において、本方法は、サンプルが取付けられたサンプル面を備え、サンプルにサンプル面の法線から少なくとも10度以内の照射角度でサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射し、MALDIによってサンプルイオンを形成する。そこで、サンプル面の法線から5度以内の野抽出方向にサンプルイオンを抽出する。サンプルイオンを、例えば、イオン光学システムなどによって与えられる加速電界を使って、抽出することができる。
【0131】
さまざまな実施形態において、サンプルを照射する工程は、レーザー・エネルギー・パルスを、サンプル面の法線から5度以内、及び/又はサンプル面の法線から1度以内の照射角度でサンプルに照射するようにして行われる。従って、一部の実施形態において、照射角度は照射点のサンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。
【0132】
次に、さまざまな実施形態において、サンプルイオンを抽出する工程は、サンプルイオンを、サンプル面の法線から1度以内の抽出方向で抽出するように行われる。従って、一部の実施形態において、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。
【0133】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法に以下の一つ以上の工程を含めることができる:抽出方向とは異なる第二方向へサンプルイオンを屈折させる;第二方向とは異なる第三方向へサンプルイオンを屈折させる;サンプルイオンを質量分析装置の中へ集束する。
【0134】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法に、イオン光学システム中の一つ以上のエレメントを加熱することによって、それら一つ以上のエレメントを清掃する工程を含めることもできる。また、さまざまな実施形態において、本方法に以下の一つ以上の工程を含めることができる:サンプル面を空基板に置き換える;イオン光学システムの一つ以上のエレメントを加熱してそれらの上に付着したマトリクスの分子を蒸発させる;蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を空基板上に回収する:空基板を除去する。さまざまな実施形態において、本方法は、MALDIによってサンプルイオンを生成し、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成し、加速電界の出口からのサンプルイオンの軌道の角度は、イオンビームのほぼ中心部において実質上サンプルイオンの質量に左右されない。
【0135】
さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、エネルギー・パルスをサンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にほぼ一致して整列させ、サンプル面に対しほぼ法線の照射角度でサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射し、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを抽出することによって生成される。
【0136】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法に、以下の一つ以上の工程を含めることができる:抽出方向とは異なる第二方向へサンプルイオンを屈折させる;第二方向とは異なる第三方向へサンプルイオンを屈折させる;サンプルイオンを質量分析装置の中へ集束する。
【0137】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルを供給する方法に、イオン光学システム中の一つ以上のエレメントを加熱することによってそれら一つ以上のエレメントを清掃する工程を含めることができる。また、さまざまな実施形態において、本方法に以下の一つ以上の工程を含めることができる:サンプル面を空基板に置き換える;イオン光学システムの一つ以上のエレメントを加熱してそれらの上に付着したマトリクスの分子を蒸発させる;蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を空基板上に回収する:空基板を除去する。
【0138】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン源の遅延抽出作動のための構造含む。一部の実施形態において、遅延抽出を行って、初期サンプルイオン速度分布の修正に集中するためのタイムラグを設ける。
【0139】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、サンプル・ホルダーのサンプル面、第一電極及び第二電極に電気的に結合された電源を含む。絶縁層をサンプルとサンプル面との間に差し挟むことができる。電源には、例えば、マルチ電源又は2つ以上の出力を具えた単一電源が含まれる。電源を、例えば、手動制御、電子制御、及び/又はプログラム可能とすることができる。
【0140】
作動のさまざまな実施形態において、サンプルはある角度でレーザー・エネルギー・パルスを照射され、MALDIによりサンプルイオンを生成する。一切の前回サンプルイオン抽出の後、及びレーザー・エネルギー・パルスをサンプルへ照射する間、電源は、サンプル・ホルダーに第一可変電位を、第一電極に第二可変電位を、第二電極に第三可変電位を印加して、エネルギー・パルスの発生と関連させた第一所定時間に第一電界を設定する。第一、第二及び第三可変電位の2つ以上をほぼ等しくすることができる。第一、第二及び第三可変電位の2つ以上をほぼ接地電位と等しくすることができる。一部の実施形態において、正サンプルイオンを測定する場合には、第一可変電位は、第二可変電位よりより大きな負電位なり、負サンプルイオンを測定する場合には、第一可変電位は、第二可変電位よりより小さな負電位なって、これによりサンプルイオン抽出に先立って、遅延電界を生成する。
【0141】
レーザー・エネルギー・パルス発生の後の第二所定時間において、電源は、サンプル・ホルダー及び第一電極のうちの少なくとも一つに第四可変電位を印加して、サンプルイオンをサンプル・ホルダーから離れる方向に加速させる第二電界を設定してサンプルイオンを抽出する。
【0142】
いろいろな構造を用いて第四可変電位の発生タイミングを制御することができる。例えば、光検知器を用いてレーザー・エネルギー・パルスを検知し、レーザー・エネルギー・パルスに同期させた電気信号を発生させることができる。同期された信号に応じた入力を持つ遅延発生器を使って、電源に同期された信号に対して所定時間だけ遅延させた電気出力信号を供給し、さまざまな第一、第二、第三及び第四可変電位の印加を起動又は制御することができる。
【実施例】
【0143】
(実施例1:サンプル照射角度の比較)
例1では、MALDI質量分析装置システムを使い、サンプル・ホルダー表面の法線に対し約30度の照射角度でレーザー・エネルギー・パルスをサンプルに照射して(以下、「30度入射処理」といい、図13A及び13Bでは「4700」と略称する)得られた結果と、MALDI質量分析装置システムを使い、サンプル・ホルダー表面の法線に対し1度以内の照射角度でレーザー・エネルギー・パルスをサンプルに照射して(以下、「法線入射処理」といい、図13A及び13Bでは「LTS」と略称する)得られた結果とを比較する。
【0144】
タンデム型TOF質量分析計を含むApplied Biosystems(登録商標)4700 Proteomics Analyzerを使って、30度入射処理の結果を得た。サンプル面の法線から1度以内の照射角度でレーザーをサンプルに照射するように改造したApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer(Applied Biosystems製、米国CA94404、フォスターシティ、リンカーンセンタードライブ850)を使って、法線入射処理の結果を得た。
【0145】
これらの実験におけるサンプルは、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸と組み合わせた、MH+m/z2465.2の副腎皮質刺激ホルモン18−39クリップ・ペプチド(「ACTH」)であり、さまざまなACTHの量が用いられた。ACTH/マトリクスの混合体がステンレス鋼のターゲット上に取り付けられた。レーザー・エネルギー・パルスは、公称200Hzの反復周波数で動作し、335ナノメータ(nm)のパルスごとに公称2μJを供給するNd:YAGレーザーによって供給された。TOFはMS/MSモードで実施され、第一MSはACTH親イオンを選び出し、第二MSはACTHの子イオンを選定した。
【0146】
結果を図12A、12B及び12Cに示す。x軸は、質量が原子質量単位(amu)の質量対電荷比(m/z)単位であり、左側y軸は相対信号強度を示し、右側y軸はデジタイザ・カウント単位による絶対信号強度を示す。デジタイザは目盛りあたり0.1ボルトに設定された。法線入射及び30度入射処理の双方において、サンプルはMALDIによりイオン化されて一次サンプルイオンが生成され、サンプルイオンはCIDにより解離されて一連のフラグメントイオンが生成され、これらは、アミノ酸の数を順次に低減するイオンのラダーとなる。
【0147】
図12Aは、約5フェムトモル(fmol)のACTHサンプルに対し30度入射処理による2000レーザー・ショットの結果を平均して得た、フラグメント質量スペクトル1210を示す。図12Aのスペクトルは、検出器電圧を約2.1kVに設定して取得された。挿入図1211は、m/zが59から2340までの範囲を拡大したものであり、ACTHのイオンフラグメントについて検出された最大の信号はb12フラグメントイオン1212であったことを示している。ACTHの他のbシリーズ・フラグメントイオン(すなわち、N末端からのアミノ酸削除部分から生じたシーケンスのラダー状スペクトル系列)は、このスペクトル中のノイズ1214上では容易には識別できない。
【0148】
図12Bは、約5fmolのACTHサンプルに対し法線入射による2000レーザー・ショットの結果を平均して得た、フラグメント質量スペクトル1220を示す。図12Bを得るのに使われたACTHのサンプルは、図12Aを取得するのに使われたのと同じサンプルとした。図12Bのスペクトルは、検出器電圧を約1.8kVに設定して取得された。1.8kVから2.1kVの範囲において、検出器ゲインは、検出器電圧を0.1kV上昇させるごとに約3倍増大する。挿入図1221は、m/zが59から2340までの範囲を拡大したものであり、複数のACTHのb系列イオンフラグメントがノイズ1224を上回り識別できることを示している。例えば、法線入射処理によるこのスペクトルでは、b系列フラグメントb31233、b41234、b51235、b61236、b71237、b81238、b111241、b121242、b131243、b161246、及びb211251がノイズ1224を上回り識別される。
【0149】
図12Aと12Bとを比較すると、法線入射処理では、絶対信号強度及び信号ノイズ比の双方が30度入射処理に比べて改善されていることが分かる。例えば、b12フラグメントイオンの絶対信号強度は、図12Bの方が図12Aより約3倍大きいことが分かり、検出器電圧を考慮に入れれば、信号はさらに大きな倍数で増大していると見られる。さらに、図12Aでは識別できないb系列イオンフラグメントb3−b8、b11−b13、b16及びb21が図12Bでは明確に識別される。
【0150】
図12Cは、約1fmolのACTHサンプルに対し法線入射による2000レーザー・ショットの結果を平均して得た、フラグメント質量スペクトル1260を示す。図12Cのスペクトルは、検出器電圧を約2.0kVに設定して取得された。挿入図1261は、m/zが59から2340までの範囲を拡大したものであり、複数のACTHのb系列イオンフラグメントがノイズ1264を上回り識別できることを示している。例えば、法線入射処理によるこのスペクトルでは、b系列フラグメントb31273,b81278,b111281,b121282,b131283,b161286,及びb211291がノイズ1264を上回り識別される。
【0151】
図12Aと12Cとを比較すると、たとえ、法線入射処理によるACTHの量が30度入射処理に使われた量の5分の1であっても、法線入射処理では、絶対信号強度及び信号ノイズ比の双方が30度入射処理に比べて改善されていることが分かる。例えば、b12フラグメントイオンの絶対信号強度は、図12Cの方が図12Aより約2倍大きいことが分かる。さらに、図12Aでは識別できないb系列イオンフラグメントb3,b8,b11−b13,b16及びb21が図12Cでは明確に識別される。
【0152】
(例2:ペプチド識別の比較)
図13Aと13Bとは、例1で使ったMALDI源及び質量分析装置システムの、トリプシンで消化されたミオグロビンの典型的ペプチドに対する、シーケンス識別能力を比較したものである。図13Aは、30度入射処理及び法線入射処理によって得られたMS/MS質量スペクトルの中に識別されたペプチド・シーケンスVEADIAGHGOEVLIR(シーケンスID No.1)のパーセントを比較したものである。図13Bは、30度入射処理及び法線入射処理によって得られたMS/MS質量スペクトルの中に識別されたペプチド・シーケンスHPGDFGADAQGAMTK(シーケンスID No.2)のパーセントを比較したものである。
【0153】
法線入射及び30度入射処理の双方において、サンプルは、MALDIによりイオン化されて一次サンプルイオンが生成され、サンプルイオンは一連のフラグメントイオンに解離され、これらは、アミノ酸の数を順次に低減するイオンのラダーとなる。解離はペプチドに沿ったどの箇所でも生じるので、質量対電荷比によるスペクトルが生成される。通常、フラグメントのスペクトルには2つの顕著なイオン・セットが観察される。一つのセットはペプチドのC末端からのアミノ酸削除によるシーケンス・ラダー(しばしばbシリーズと呼ばれる)であり、他方のセットはN末端からのアミノ酸削除によるシーケンス・ラダー(しばしばyシリーズと呼ばれる)である。フラグメントのスペクトルの解釈及びデータベースの調査によって、親イオンに対するアミノ酸シーケンスの全体又は部分的情報が得られる。ペプチド内の各種アミノ酸はそれぞれ異なる質量を持つので、ペプチドのフラグメントのスペクトルは、通常ペプチド・シーケンスの特性となり、ペプチドを識別するために使うことができる。さらに、ペプチドには、その親たんぱく質に固有のものがあり(例、シグネチャー・ペプチド)、場合によって、それが由来する親たんぱく質の識別にペプチドの識別が使われる。
【0154】
図13Aは、消化されたミオグロビンのさまざまな濃度に対する、ペプチドVEADIAGHGQEVLIRのy系列の識別可能パーセントを示しており、y軸は識別可能パーセントで、x軸はfmol単位の消化ミオクロビンの濃度である。法線入射処理のデータは充てんダイヤモンド1310でプロットされており、30度入射処理は充てん四角1312でプロットされている。実線1314は、ペプチド情報の仮定データベース調査において必要となる可能性のあるシーケンス識別パーセント・レベルを任意に示したものである。図13Aは、最高のミオグロビン濃度を除き、法線入射処理は、30度入射処理に比べ、質量スペクトルを介して、y系列イオンのペプチド・シーケンスをより高いパーセントで識別できることを示している。
【0155】
図13Bは、消化されたミオグロビンのさまざまな濃度に対する、ペプチドHPGDFGADAQGAMTKのb系列の識別可能パーセントを示しており、y軸は識別可能パーセントで、x軸はfmol単位の消化ミオクロビンの濃度である。法線入射処理のデータは充てんダイヤモンド1320でプロットされており、30度入射処理は充てん四角1322でプロットされている。実線1324は、ペプチド情報の仮定データベース調査において必要となる可能性のあるシーケンス識別パーセント・レベルを任意に示したものである。図13Bは、最高のミオグロビン濃度を除き、法線入射処理は、30度入射処理に比べ、質量スペクトルを介して、b系列イオンのペプチド・シーケンスをより高いパーセントで識別できることを示している。
【0156】
本特許請求内容は、その旨が述べられている場合を除き、記載された順序や要素に限定されると読み取るべきでない。本発明を、具体的に示し、特定の説明のための実施形態を参照して記載しているが、添付の請求内容に明示した本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形状や詳細内容についてさまざまな変更を加えることができることを理解すべきである。一例として、開示した任意の特質を、他の開示された任意の特質と組み合わせて、本発明の各種の実施形態によって、MALDIイオン形成の方法を実行したり、又はMALDIイオン源又は質量分析装置システムを作製することができる。例えば、開示した各種の光学システム、イオン光学システム、ヒーター・システム、温度制御表面部の構成、及び質量分析装置の任意のものを組み合わせ、本発明の各種実施形態により、MALDIイオン源又は質量分析装置システムを作製することができる。従って、後記の請求内容の範囲及び精神内に含まれるかこれと同等のすべての実施形態は、請求対象である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
以下の説明を添付の図面と関連させることにより、前記及び他の本発明の様態、実施形態、対象、特質及び利点を、さらに十分に理解することができる。各図一貫して同じである図面内の同一の参照符号は同一の機能及び構造エレメントを示す。図面は必ずしも一定の縮尺比でなく、それよりも本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【図1】図1は、従来型のMALDI源及び質量分析装置システムの例である(従来技術)。
【図2】図2は、図1のMALDIイオン源の拡大図である(従来技術)。
【図3】図3は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源の拡大図を概略的に図示したものである。
【図4】図4は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図5】図5は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図6A】図6Aは、イオン軌道を説明的に示した従来型のMALDI源の例である。
【図6B】図6Bは、イオン軌道を説明的に示した、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図7】図7は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムを概略的に図示したものである。
【図8】図8は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムを概略的に図示したものである。
【図9A】図9Aは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図9B】図9Bは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図10】図10は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムを概略的に図示したものである。
【図11A】図11Aは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムの断面を概略的に図示したものである。
【図11B】図11Bは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムの断面を概略的に図示したものである。
【図12A】図12Aは、「例1」に記載し説明する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)18−39クリップペプチドのタンデムTOF質量分析である。
【図12B】図12Bは、「例1」に記載し説明する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)18−39クリップペプチドのタンデムTOF質量分析である。
【図12C】図12Cは、「例1」に記載し説明する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)18−39クリップペプチドのタンデムTOF質量分析である。
【図13】図13Aおよび13Bは、「例2」に記載し説明するシーケンス範囲の比較である。
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年10月31日に提出された米国特許出願番号第10/700,300号の利益を主張する。この米国特許出願の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(「MALDI」)及びエレクトロスプレーイオン化法(「EST」)技法の発展により、質量分析装置で研究可能な生体分子の範囲が大幅に広がってきている。MALDI及びESI技法によって、通常は不揮発性の生体分子をイオン化し、分析に適した気相において完全な生体分子イオンを取り出すことができる。
【0003】
しかしながら、MALDI及びESI両方の技法は、蒸発した比較的大量の不揮発性材料がイオン源及び質量分析装置上に付着する点で、どちらかといえば「汚い」技法である。質量分析装置システムを「24時間週7日」ベースで稼動することが必要なプロテオクス研究のようなハイスループットな用途においては、材料の付着は格別の関心事である。
【0004】
材料付着はさまざまな問題を発生させる可能性がある。例えば、電極に付着した材料は、電極上に堆積し無制御の電位及び歪んだ電位を発生させることがある。このようなイオンビーム路程中の無制御の電位及び歪んだ電位は、質量分析装置感度及び質量分析装置分解能の双方を大きく低下させかねない。さらに、このような材料付着によって、電極清掃の必要頻度が増加して質量分析装置の非稼働時間が増える。従って、イオンビーム路程中の電極への材料付着を低減又は排除することが必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
質量分析装置を用いる多くの生体分子研究(例、プロテミクス研究のような)において、対象となる生体分子の質量は2桁以上の幅にまたがることが多い。従って、幅広い質量測定ダイナミックレンジを具えたイオン源及び質量分析装置システムが求められている。
【0006】
さらに、例えば、希少蛋白質、法医学サンプル、考古学サンプルのように、多くの生物学的研究では、研究に使えるサンプルの量が限定されている。従って、さらに高い感度と分解能を提供でき、これによって、ますます少なくなってくるサンプル量を処理できるイオン源及び質量分析装置システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本教示は、質量分析装置とともに用いる、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)イオン源及びMALDIイオン源の作動方法に関する。MALDIイオン源を、パルス化MALDIイオン源にして機能させ動作させることができる。さまざまな様態において、感度、分解能及び質量ダイナミックレンジの一項目以上の向上を促進し質量分析装置の運転非稼動時間の低減を促進するイオン源とイオン形成方法と質量分析装置システムとを提供する。
【0008】
さまざまな様態において、イオンビーム路程中の電極への材料付着を低減するMALDIイオン源とMALDIイオン源を使ってイオンを形成する方法と質量分析装置システムとを提供する。イオンビーム路程中の電極への材料付着を低減することによって、例えば、質量分析装置の感度、分解能、又はその双方の向上を促進し、質量分析装置の運転非稼動時間の低減を促進することができる。
【0009】
さまざまな様態において、イオンビーム中心部でのイオンの軌道(イオン源の抽出域出口における)が、イオン質量に実質的に左右されないイオンビームを供給するMALDIイオン源と、MALDIイオン源を使ってイオンを形成する方法と、質量分析装置システムとを提供する。このようなイオン質量に左右されない軌道は、質量分析装置の質量測定ダイナミックレンジの拡大を促進する。
【0010】
さまざまな様態において、質量分析装置へのより効率的なイオン伝送を促進するMALDIイオン源と、MALDIイオン源を使ってイオンを形成する方法と、及び質量分析装置システムとを提供する。より効率的なイオン伝送によって、例えば、所定量のサンプルに対する信号を改善することができ、これにより、例えば、質量分析装置の感度、分解能、又はその双方の向上を提供することができる。
【0011】
一つの様態において、サンプル・ホルダーのサンプル面の法線から10度以内の角度でレーザー・エネルギー・パルスをサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルへ照射するよう構成された光学システムと、ほぼサンプル面の法線方向にサンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムとを含むMALDIイオン源を提供することができる。一部の実施形態において、レーザー・エネルギーの入射パルスがサンプル面と形成する角度の正弦は約0.10よりも小さく、一部の実施形態では約0.01よりも小さい。従って、さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面の法線から5度より小さい角度でサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに照射するよう構成される。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスを、サンプル面の法線から1度以内の角度でサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに照射するよう構成される。
【0012】
さまざまな実施形態において、第一イオン光学システムは、2つの電極、それぞれ開口部を持つ第一電極と第二電極とを含む。一部の実施形態において、2つの電極は、第一イオン光学軸(第一電極開口部の中心と第二電極開口部の中心との間の直線によって規定される)は、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプル面と交差する。一部の実施形態において、第一イオン光学軸のサンプル面との交角の正弦は約0.10より小さく、一部の実施形態では0.01より小さい。従って、さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から1度以内の角度でサンプル面と交差する。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスと第一イオン光学軸とがほぼ一致して整列するように構成される。
【0013】
一つの様態において、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面上のサンプルに照射し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成して、サンプルイオンを、サンプルに当たるエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルとほぼ同軸の抽出方向に引き出すMALDIイオン源を提供する。さまざまな実施形態において、抽出方向は、サンプル面の法線に対して約5度から50度の間の角度を形成する。
【0014】
一つの様態において、イオンビームのほぼ中心部でのサンプルイオンの軌道(イオン源の加速域からの出口における)の角度がサンプルイオン質量に実質的に左右されないイオンビームを供給するMALDIイオン源を提供することができる。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、ある照射角でレーザー・エネルギー・パルスをサンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに照射してサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、ある抽出方向にサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成するよう構成されたイオン光学システムと含む。これらのさまざまな実施形態において、照射角と抽出方向は、第一イオン光学システムからの出口においてサンプルイオンの軌道の角度が、イオンビームのほぼ中心部において、サンプルイオン質量に実質的に左右されないようになっている。一部の実施形態において、照射角と抽出方向とは、サンプル面に対してほぼ法線である。
【0015】
一つの様態において、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射してMALDIによってサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、サンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムであってヒーター・システムにつながれている前記第一イオン光学システムと、第一イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とを含むMALDIイオン源を提供することができる。適切なヒーター・システムには、以下に限らないが、抵抗ヒーター及び放射ヒーターが含まれる。一部の実施形態において、ヒーター・システムは、第一イオン光学システムの温度を、マトリクス材料を脱着するのに十分な温度に昇温することができる。さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、第一イオン光学システムを約70℃より高い温度に熱することのできるヒータを含む。
【0016】
温度制御表面部の温度を、例えば、加熱/冷却装置によって能動的に制御でき、又は、例えば、温度制御表面部をヒートシンクに熱接触させ、温度制御表面部の熱容量によって受動的に制御でき、又はこれらの組み合わせで制御することができる。
【0017】
別の様態において、サンプル・ホルダーと、光学システムと、第一イオン光学システムと、第二イオン光学システムと、質量分析装置とを含む質量分析装置システムを提供する。一部の実施形態において、質量分析装置には、飛行時間型質量分析装置が含まれる。光学システムは、サンプル・ホルダーのサンプルのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射し、MALDIによってサンプルイオンを生成するよう構成される。さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面の法線から10度以内の角度でサンプルに当たる。さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプルに当たる。さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面の法線から1度以下以内の角度でサンプルに当たる。
【0018】
この様態において、第一イオン光学システムをサンプル・ホルダーと質量分析装置との間に配置することができ、これは第一イオン光学軸に沿ってサンプルイオンを抽出するよう構成される。一部の実施形態において、第一イオン光学軸とサンプル面との交角の正弦は約0.10よりも小さく、一部の実施形態においては、約0.01よりも小さい。従って、さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプル面と交差する。さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から1度以内の角度でサンプル面と交差する。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスと第一イオン光学軸とがほぼ一致して整列するように構成される。
【0019】
さらにこの様態において、第二イオン光学システムを第一イオン光学システムと質量分析装置との間に配置することができ、第二イオン光学システムは、サンプルイオンを第一イオン光学軸から第二イオン光学軸へ屈折させるよう構成される。さまざまな実施形態において、質量分析装置は、第二イオン光学軸の上に位置設定されてサンプルイオンを受ける。
【0020】
さまざまな実施形態において、システムは、第二イオン光学システムと質量分析装置との間に配置された第三イオン光学システムをさらに含み、第三イオン光学システムは、第二イオン光学軸に沿って進むサンプルイオンを受けるように配置され、イオンを第二イオン光学軸から質量分析装置内へと屈折させるように構成されている。一部の実施形態において、第三イオン光学システムは、サンプル・ホルダーから第一イオン光学軸に沿って進んできた中性分子が、実質上第三イオン光学システムに衝突しないように位置設定される
他のさまざまな様態において、MALDIを用いてサンプルイオンを生成し、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法を提供する。さまざまな実施形態において、本方法は、限定はされないが多次元質量分析法を含め、飛行時間型質量分析のためのサンプルイオン供給に適している。適切な飛行時間型質量分析システム及び方法の例が、例えば、1999年1月19日出願、2002年2月19日発行の米国特許第6,348,688号;2001年12月17日出願の米国特許出願第10/023,203号;2002年7月18日出願の米国特許出願第10/198,371号; 及び2002年12月20日出願の米国特許出願第10/327,971号に記載されており、これらすべての全内容を参考として本明細書に組み込む。
【0021】
一つの様態において、本方法は、サンプル面の法線から10度以内の照射角でレーザー・エネルギー・パルスをサンプル面上のサンプルに照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成し、サンプルイオンの抽出は、第一イオン光学システムによってサンプル面のほぼ法線方向に行われる。一部の実施形態において、入射レーザー・エネルギー・パルスがサンプル面と形成する角度の正弦は約0.10より小さく、一部の実施形態では0.01より小さい。従って、さまざまな実施形態において、光学システムは、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスをサンプル面の法線から5度以内の角度で照射するように構成されており、さまざまな実施形態において、光学システムは、サンプル・ホルダーのサンプルの取付け面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスをサンプル面の法線から1度以内の角度で照射するよう構成されている。
【0022】
一つの様態において、本方法は、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面上のサンプルに照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成し、サンプルイオンの抽出は、サンプルに当たるエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルとほぼ同軸の抽出方向に行われる。さまざまな実施形態において、抽出方向は、サンプルの法線に対して約5度から50度の角度である。
【0023】
一つの様態において、本方法は、MALDIによりサンプルイオンを生成し、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出し、加速電界からの出口部におけるサンプルイオンの軌道が、イオンビームのほぼ中心では、サンプルイオン質量に実質上左右されないようにイオンビームを形成する。さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、レーザー・エネルギー・パルスを、照射角がサンプル面に対しほぼ法線になるようにサンプルに照射して生成される。一部の実施形態において、このように生成されたサンプルイオンは、ほぼサンプル面に法線の抽出方向に抽出され、レーザー・エネルギー・パルスは、抽出方向とほぼ一致して整列される。さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、サンプル面と交差するエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルがイオン抽出方向とほぼ同軸になるように、レーザー・エネルギー・パルスをサンプルに照射して生成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(さまざまな実施形態の詳細な説明)
本発明の教示をよりよく理解するために、従来型MALDI及び質量分析装置システムの例を図1に示し、図1のMALDIイオン源の拡大図を図2に示す。典型的な従来型MALDI−質量分析装置システム100において、レーザー102は、イオン抽出基準経路106から離れてMALDIイオン源104に入射し、プレートの法線に対しθの角度でサンプル・プレート108に当たる。通常この角度は30から60度の間である。典型的な作動において、レーザービーム102は真空外囲器(図示せず)のウインドウを通って入射し、サンプル・プレート108上の適切なマトリクス110中に組み込まれたサンプルに当たる。各入射レーザーパルスを受けてサンプルから中性分子及びイオンの噴流が放出されるまでレーザー強度が増やされる。イオン生成閾値を若干上回るレーザー流束量において、この噴流は入射レーザービーム102の周りに集中し、通常30から60度の間の半角を持つコーン112を構成する。サンプル・プレート108と第一開口プレート114との間に電位差が加えられ、サンプル・プレート108の法線方向にイオンを加速させる。遅延抽出MALDI方式においては、この電位差は所定の時間遅延される。噴流の中に存在するマトリクス分子及び他の中性種は、第一開口プレート114に衝突し、第一開口プレート114の開口部118の周囲に非対称な付着物116を形成する。イオン抽出基準経路106に沿って飛来するような脱離中性種119の一部は、通常、第一プレート114及びその後ろのプレート120の開口部を通過し、質量分析装置124に入る。これらの中性種はほとんどが非揮発性なので、衝突した面にくっつき付着物を形成しやすい。サンプルの分析が繰り返されると、時間の経過とともにこれらの付着物が蓄積され、開口プレート及び質量分析装置内部の重要エレメント上に絶縁層を形成する。これらの絶縁層は、イオンの影響により帯電され、無制御の電圧変動をもたらしシステムの性能を低下させることがある。
【0025】
さらに図2を参照すると、イオンビーム126のイオン抽出基準経路106に対する角度βは、イオンの質量に依存する。すなわち、加速域128から出て行くサンプルイオンの軌道の角度はサンプルイオンの質量に依存する。結果として、異なった質量のイオンを、例えば質量分析装置の取入れ口といった同一の場所に導くためには異なった電圧セットが必要となる。裏を返せば、電圧セットが一つであれば異なった質量のイオンは異なった場所に導かれることになる。例えば、上端側の質量範囲(例、25,000amu)のイオンの質量分析装置への伝送度を高めれば、おそらくは、下端質量側の質量範囲(例、15,000amu)のイオンの伝送度を低下させることになり、これによりダイナミックレンジが狭まることになる。
【0026】
本発明のMALDIイオン源のさまざまな実施形態において、イオン源は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに、レーザー・エネルギー・パルスを、サンプル面の法線対して30度を大幅に下回る角度で照射するように構成されている。
【0027】
さまざまな実施形態によるMALDIイオン源は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射するよう構成された光学システムと、サンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムとを含む。一部の実施形態において、イオン光学システムは、抽出されたサンプルイオンを抽出方向から質量分析装置に導くための一つ以上のデフレクタを含む。
【0028】
さまざまな実施形態において、照射角は次の範囲内である:(a)照射点表面の法線から10度以下;(b)照射点表面の法線から5度以下;及び/又は(c)照射点表面の法線から1度以下。従って、一部の実施形態において照射角は照射点サンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを、最初に次の範囲内の方向に抽出する:(a)サンプル面の法線から5度以下;及び/又は(b)サンプル面の法線から1度以下。従って、一部の実施形態において抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。
【0029】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部、及び、少なくとも一部がヒーター・システムにつながれたイオン光学システムを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システムは、イオン光学システムの少なくとも一部を加熱し、イオン光学システムのエレメントに付着する中性種の量を低減するように構成され使用される。イオン光学システム・エレメントを加熱し、例えば、中性種が加熱された表面に付着する確率を低下させ、付着物を揮発させ、あるいはその双方によって、中性種の付着量を低減することができる。一部の実施形態において、温度制御表面部は、中性分子を捕捉し、これによりイオン光学システムのエレメント上に付着する中性種の量を低減するように構成され使用される。温度制御表面部の温度をイオン光学システム・エレメントの温度より低く設定し、例えば、温度制御表面部への中性種の付着確率を増大させ、脱着した中性種を捕捉し、あるいはその双方によって中性種付着量を低減することができる。
【0030】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムの一つ以上のエレメントは、マトリクス分子が実質上これらエレメントに付着しないように加熱され、これによりこれらエレメント上への絶縁層の蓄積を低減させる。MALDI内で生成される中性種の噴流には、絶縁層を形成する可能性のある不揮発性の非マトリクス材料が少量含まれていることがあるが、この非マトリクス材料の濃度は、一般にマトリクスのものよりも数桁低い。このことから、通常、非マトリクス材料の付着が顕著となるまでには相当に長い時間がかかる。さらに、さまざまな実施形態において、光学システムのエレメントの表面を加熱することによりこういった付着物の抵抗性が低下し、これにより、イオンビームを偏向させる非対称な帯電の影響の低減をさらに促進する。
【0031】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、イオン光学システムのエレメントを、表1にリストされた一つ以上のマトリクス材料を脱着するのに十分な温度に加熱する能力のあるヒーターを含む。表1の右側列には、MALDI研究において当該マトリクス材料が使われる典型的な用途の一部をリストしている。
【0032】
【表1】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、イオン光学システムのエレメントの温度を、マトリクス材料を脱着させるのに十分な温度まで昇温することができる。
【0033】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムの一つ以上のエレメントは、定期的に十分な高さの温度まで加熱され、これらエレメント表面の一切の付着物を急速に蒸発させる。さまざまな実施形態において、「空」又は「ダミー」サンプル・ホルダーをMALDIサンプル・ホルダー差し替えて、例えば、イオン光学システムの一つ以上のエレメントに形成された付着物を空基板(これは器具から取り外すことができる)、温度制御表面部、又はその双方に再付着させることができる。
【0034】
本明細書で用いる「イオン光学システム」と言う用語には、以下に限らないが、電位差を加えられ、例えば、イオンを加速、減速、屈折又は集中するといったイオンの動きに影響を与える一つ以上の電極が含まれる。各種の電極の形状及び構成には、以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンが含まれる。イオン光学システムのさまざま実施形態において、表現をわかり易くするために、イオン光学システムを、第一、第二及び/又は第三イオン光学システムという用語で表現するが、これらの用語は限定を意図したものではない。
【0035】
イオン光学システムには、サンプルイオンを抽出するため配置された第一電極を含めることができる。サンプル面と第一電極との間に電位差を加え、所定の電荷符号(正、負いずれか)を持つサンプルをサンプル面から離れる方向に加速させる。一部の実施形態において、第一電極は、サンプル面に対しほぼ平行なほぼ平面状のプレート又はグリッドである。一部の実施形態において、サンプル・ホルダーは、照射されるサンプルが第一開口電極の開口部のほぼ中心に来るように配置される。例えば、サンプル・ホルダーを、1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台に保持させることができる。第一電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一開口電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線となる。
【0036】
一部の実施形態において、サンプル・ホルダーは、複数のサンプルを保持することができる。妥当なサンプル・ホルダーには、以下に限らないが、64スポット、96スポット及び384スポットのプレートが含まれる。サンプルは、レーザー・エネルギー・パルスの波長を吸収し、サンプル中の対象分子の脱離とイオン化を円滑にするためのマトリクス材料を含む。
【0037】
サンプル・ホルダーと、サンプルイオンをサンプル面から離れるように加速させる第一電極との間の電位差の印加を、レーザー・エネルギー・パルスの発生から所定時間遅延させ、例えば、遅延抽出を実施することができる。一部の実施形態において、例えば以下に記載されているように、遅延抽出を実施し初期サンプルイオンの速度分布の補正に集中するためのタイムラグを設ける;1995年5月19日出願、1997年4月29日発行の米国特許第5,625,184号;1995年7月7日出願、1997年5月6日発行の5,627,369号;1998年4月8日出願、1999年12月14日発行の6,002,127号;1998年5月29日出願、2003年4月1日発行の6,541,765号;1999年7月13日出願、2000年5月2日発行の6,057,543号;2000年3月16日出願、2001年4月28日発行の6,291,493号:及び2002年12月3日出願の米国特許出願第10/308,889号;これらすべての全内容を参考として本明細書に組み込む。他の実施形態において、例えば以下に記載されているように、遅延抽出によって初期サンプルイオンの空間分布の補正を行うことができる;W.C.Wiley及びI.H.McLaren、Time−of−Flight Mass Spectrometer with Improved Resolution、Review of Scientific Instrument、巻6、No.12、1150−1157頁、(1995年12月)、この全内容を参考として本明細書に組み込む。
【0038】
第一電極に加え、イオン光学システムには以下の一つ以上を含めることができる:(a)第二電極;(b)第一イオン・デフレクタ;(c)第一電極と第二電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ;(d)第三電極;(e)第二電極と第三電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ;(f)第四電極;(g)第二イオン・デフレクタ;及び(h)一つ以上のイオン・レンズ(例えばアインツェル・レンズのような)。
【0039】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは第一電極に加え第二電極を含む。一部の実施形態において、第二電極は、第一電極に対しほぼ平行なほぼ平面状のプレート又はグリッドである。一部の実施形態において、第一及び第二電極の双方は開口部を有する。さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、第一電極及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸によって規定される第一イオン光学軸に沿って抽出される。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスを第一イオン光学軸にほぼ一致して整列させるように構成される。
【0040】
第一及び第二電極の開口部は、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされており、第一電極と第二電極とはサンプル面からの法線周りにほぼ対称形なので、第一イオン光学軸は、サンプル面に対しほぼ法線の角度でサンプル面と交差することになり、抽出方向は、サンプル面に対しほぼ法線となり第一イオン光学軸とほぼ平行になって、サンプルイオンは第一イオン光学軸に沿って抽出されることになる。
【0041】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一及び第二電極に加えて第三電極をも含む。一部の実施形態において、第三電極は開口電極であり、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。さまざまな実施形態において、第三電極は、第一、第二及び第三開口電極の開口部の中心がほぼ共通の軸に位置するように配置される。他のさまざまな実施形態において、第三電極は、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置される。
【0042】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一及び第二電極に加えて第三電極をも含む。一部の実施形態において、第三電極は開口電極であり、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。さまざまな実施形態において、第三電極は、第一、第二及び第三開口電極の開口部の中心がほぼ共通の軸に位置するように配置される。他のさまざまな実施形態において、第三電極は、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置される。第三電極が第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置されたさまざまな実施形態において、第三電極は、抽出方向に沿ってサンプル・ホルダーから飛来する中性分子が実質上第三電極にぶつからないように位置設定される。
【0043】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを抽出方向と異なる向きに屈折させる第一イオン・デフレクタを含む。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、第一電極と第二電極との間に配置される。さまざまな実施形態において、第三電極は、屈折されたサンプルイオンを受けられるように、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置され、一部の実施形態において、第三電極は、質量分析装置へのサンプルイオン導入を促進にするように配置される。
【0044】
第三電極を含むさまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、第二電極と第三電極との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向とは異なる向きに屈折させる。さまざまな実施形態において、第一、第二及び第三電極は開口部を有し、第一、第二及び第三開口電極の開口部の中心は、ほぼ共通の軸上に位置し、第一、第二、第三開口電極は互にほぼ平行である。
【0045】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一イオン・デフレクタに加え、第二イオン・デフレクタを含み、第二イオン・デフレクタは、第一イオン・デフレクタによって屈折されたサンプルイオンを受けるように配置され、サンプルイオンの質量分析装置中への導入を促進する。一部の実施形態において、第二イオン・デフレクタは、抽出方向に沿ってサンプル・ホルダーから飛来する中性分子が実質上第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定される。
【0046】
また、一部の実施形態において、第二イオン・デフレクタは、第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された電極と関連付けられている。第二イオン・デフレクタ及び関連電極を有するイオン光学システムのさまざまな実施形態の例には、これらに限らないが、以下が含まれる:(a)第一と第二開口電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ、及び第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第三電極;(b)第一と第二開口電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ、第二電極とほぼ平行に配置された第三電極、及び第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第四電極;ならびに(c)第二と第三開口電極との間に配置された第一イオン・デフレクタ、及び第二イオン・デフレクタへのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第四電極。一部の実施形態において、第二イオン・デフレクタに関連付けられた電極は、抽出方向に沿ってサンプル・ホルダーから飛来する中性分子が実質上第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定される。
【0047】
さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ、関連電極又はその双方に加えられた一つ以上の電位を使い、サンプルイオンの並進エネルギーを修正して、例えば、質量分析装置への集束を促進する。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ、関連電極又はその双方に加えられた一つ以上の電位を使い、サンプルイオンの並進エネルギーを修正し、それらの他の分子又は表面層への衝突エネルギーを調整して、例えば、イオンのCID又は表面誘起解離(SID)を促進する。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ、関連電極又はその双方に加えられた一つ以上の電位を使い、例えば、ある種のTOF質量分析装置におけるリニア・モードと反射モードとの間におけるような、質量分析装置の動作モードの変更を補償する。
【0048】
MALDIによるイオン発生は、イオンだけでなく、中性分子の噴流を生成する。さまざまな実施形態において、この中性噴流の一部は、一つ以上の電極の開口部を通過して、ほぼ抽出方向に沿った軸上に本質的にはコーンを形成する。最後の電極の開口部の大きさ及び最後の電極とサンプル面との距離により、最後の電極を越えて進む中性ビーム軸周りのコーンの半角δが決まる。イオン光学エレメント(例えば、第三電極、第四電極、第二デフレクタ又はこれらの組み合わせなど)が、第一及び第二電極の開口部の中心を通って走る軸から外れて配置されているさまざまな実施形態において、これらの光学エレメントを、中性ビーム中の中性分子が、実質上軸外のイオン光学エレメントにぶつからないように位置設定することができる。さまざまな実施形態において、このような軸外の光学エレメントは、中性ビーム軸に対し垂直方向に距離Lだけ中性ビーム軸から離れて位置している。さまざまな実施形態において、軸外光学エレメントは、Lにおける中性ビーム強度が少なくとも以下の強度よりも小さいような距離Lに位置している:中性ビーム軸における中性ビーム強度の14パーセント;中性ビーム軸における中性ビーム強度の5パーセント;又は中性ビーム軸における中性ビーム強度の1パーセント。さまざまな実施形態において、軸外イオン光学エレメントは、Lが少なくとも距離Lminより離れて位置しており、ここでLminは次式により求めることができる。
【0049】
Lmin=ztan(δ) (1)
ここで、zは、軸外のイオン光学エレメントとサンプル面との間の抽出方向距離であり、δは、中性ビームのコーンの半角δを決める最後のエレメントを越えて進む中性ビームのコーン半角δである。
【0050】
さまざまな実施形態によるMALDIイオン源は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに、照射点のサンプル面法線から10度以内の角度で、レーザー・エネルギー・パルスを照射するよう構成された光学システムを含む。さまざまな実施形態において、光学システムにレンズ又はウインドウを含めることができる。また、光学システムに鏡又はプリズム(図示せず)を含め、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。レーザー・エネルギー・パルスを、例えば、パルス・レーザー又は連続波(cw)レーザーで供給することができる。cwレーザーを変調して、例えば、音響光学素子(AOM)、交差偏波素子、回転チョッパ及びシャッターを使ってパルスを生成することができる。以下に限らないが、ガスレーザー(例、アルゴン・イオン、ヘリウム−ネオン)、ダイレーザー、化学レーザー、固体レーザー(例、ルビー、ネオジニウム基材)、エキシマ・レーザー、ダイオード・レーザー、及びこれらの組み合わせ(例、排気レーザー・システム)を含め、MALDIを使って対象サンプルイオンを生成するのに適した照射波長を持つ任意の種類のレーザーを、本発明のイオン源及び質量分析装置システムとともに使用することができる。さまざまな実施形態において、光学システムは、レーザー・エネルギー・パルスを抽出方向にほぼ一致して整列させるように構成されている。
【0051】
図3を参照すると、さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー308のサンプル面306上のサンプル304に、サンプル面306の法線から10度以内の角度で、レーザー・エネルギー・パルス310を照射するよう構成された光学システムを含む。一部の実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面306のほぼ法線の角度でサンプル304に当たる。イオン光学システムは、第一電極を含み、さまざまな実施形態においてこれは開口電極320である。一部の実施形態において、第一開口電極320を、サンプル面306とほぼ平行配置されたほぼ平面状のプレート又はグリッドとすることができ、サンプル・ホルダー308は、開口部の中心軸が照射されるサンプル上になるよう位置設定される。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部350、及び第一電極につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム352を含む。
【0052】
さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルス310はサンプル304を打ち、中性分子及びイオンの噴流360を生成する。この中性噴流すなわちビーム362の一部は第一開口電極320の開口部を通り抜け、一部は第一開口電極320のサンプル側の表面364にぶつかる。この中性噴流360は、レーザービーム310及び第一電極の開口部の軸の周りでほぼ対称である。第一電極の開口部の大きさ及び第一電極とサンプル面との距離により、第一開口電極を越えて進む中性ビーム362のコーンの半角が決まる。
【0053】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム352を使用し、第一電極の温度を上昇させ、噴流360中の中性分子がこれに付着する確率を低減する。さまざまな実施形態において、温度制御表面部350は、第一電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。
【0054】
一部の実施形態において、第一電極を加熱し、マトリクスの分子が実質上第一電極に付着しないようにして、この電極上の絶縁層の蓄積を軽減する。さまざまな実施形態において、イオン形成により生ずる材料付着は、基本的に第一電極の開口部の軸の周りに対称形であり、これにより、非対称荷電によりイオンビームが偏向される潜在的影響の低減をし易くなる。さらに、さまざまな実施形態において、光学システム・エレメントの表面を熱することにより、一般にこういった付着物の抵抗性は低下し、さらに荷電への影響低減を促進する。
【0055】
さまざまな実施形態において、イオン源中の電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。
【0056】
図4及び5は、MALDIイオン源のさまざまな実施形態を描いたものである。図4及び5を参照すると、さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー408,508のサンプル面406,506上のサンプル404,504に、サンプル面の法線から10度以内の角度でレーザー・エネルギー・パルス410,510を照射するよう構成された光学システムを含む。一部の実施形態において、レーザー・エネルギー・パルスは、サンプル面のほぼ法線の角度でサンプルに当たる。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面の法線から5度以内の方向、一部の実施形態においてはサンプル面のほぼ法線方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムをも含む。
【0057】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一電極420,520及び第二電極422,522を含む。一部の実施形態において、第一及び第二電極の双方は開口部を融資、開口部の中心の間の線によって第一イオン光学軸425,525が定まり、この軸は、サンプル面の法線から5度以内の角度でサンプル面と交差する。サンプル面と第一電極との間に電位差が加えられ所定電荷符号(正、負いずれか)のサンプルイオンを、サンプル面から離れる方向に加速し、サンプルイオンが抽出されてイオンビーム427,527を形成する。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを屈折させるよう配置された第一イオン・デフレクタ428,528を含む。
【0058】
図4を参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ428は、第一電極420と第二電極422との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向432とは異なる方向の第二イオン光学軸434上へと屈折させる。図5を参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ528は、第二電極522と第三電極530との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向532とは異なる方向の第二イオン光学軸534上へと屈折させる。
【0059】
図4及び5を参照すると、さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部450,550、及び、少なくとも第一電極422,522につながれ、第一電極を加熱可能なヒーター・システム452,552を含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム452,552は、全ての、温度制御表面部450,550が周りに配置されているイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム452,552は、第一電極420,520、第二電極422,522、及び第一イオン・デフレクタ428,528につながれている。
【0060】
さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルス410、510は、サンプル404,504を打ち、中性分子460,560及びイオンの噴流を生成する。この中性噴流すなわちビームの一部は第一開口電極420,520の開口部を通り抜け、一部は第一開口電極420,520のサンプル側の表面464,564にぶつかる。この中性噴流すなわちビームの一部466,566は最後の電極の開口部を通過する。第二電極開口部の大きさ、及び最後電極とサンプル面との間の距離により、最後電極を越えて進む中性ビーム466,566のコーン半角が決まる。
【0061】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム452,552を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて、噴流中の中性分子がこれらに付着する確率を低減する。さまざまな実施形態において、温度制御表面部450,550は、第一電極及び第二電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極は、実質上、それらにマトリクスの分子が付着しないように加熱される。
【0062】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一及び第二電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、定期的に電極上の付着物蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。
【0063】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン源の加速域からの出口におけるサンプルイオンの軌道のイオンビームのほぼ中心での角度が、実質的にサンプルイオンの質量に左右されないイオンビームを供給することができる。一部の実施形態において、このような軌道は、サンプル・ホルダーのサンプル面上のサンプルに、サンプル面のほぼ法線の照射角度で、レーザー・エネルギー・パルスを照射し、サンプル面のほぼ法線方向にサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成することにより供給される。
【0064】
例として、2つのケースを考えてみる。一つは、サンプル・ホルダーのサンプル面の法線に対し30度の角度でのサンプルへのレーザービーム入射であり、他方は、サンプル・ホルダーのサンプル面のほぼ法線の角度でのサンプルへのレーザービーム入射である。MALDIターゲットから放出されるサンプルイオンのイオンビームの中心線、すなわち所望初期方向は、レーザー入射に沿って逆行し、この所望方向周りの分布は、放出された中性粒子のコーンと同様なコーンを形成する。イオン源の第一電極へのマトリクス付着の調査によれば、中性付着物は、通常、レーザービーム周りの半角が45度より小さいコーン内に包含されることが示されている。サンプルイオンの放出は、中性種の放出と同様であり、サンプルイオンの初期速度の分布は、少なくとも大体においては、サンプルイオンの質量と関係がないと考えられている。サンプルイオンの初期速度の平均は、通常、秒あたり数百メータであり、ある程度マトリクスの選択に依存する。この例として、500m/秒の初期サンプルイオン速度及びレーザービーム周り45度コーン内の均一な方向分布を選んで見よう。
【0065】
加速後の速度ベクトルは、イオンの初期速度、印加電圧、加速域の長さ及びイオンの質量対電荷比により決まる。均一なフィールドにおける加速後のサンプルイオンの速度成分を次式で表すことができる。
【0066】
vx=v0cosα+(2zV/m)1/2 (2)
vy=v0sinα (3)
ここでvxは加速域に平行な速度成分、vyは加速域に垂直の速度成分、v0は初期速度の大きさ、αは初期サンプルイオン速度ベクトルのサンプル・プレートに対する角度、zはイオンの電荷、Vは加速電位の大きさ、mはサンプルイオンの質量である。この例において、単独に荷電されたイオンに対して(2)式を近似的に次のように書くことができる。
【0067】
vx=500cosα+13,900(2zV/m)1/2 (4)
vy=500sinα (5)
ここで、速度は秒あたりメーター、電位はボルト、質量はダルトン単位であり、x軸は加速域と平行に、y軸は加速域と垂直に方向付けられている。加速域からの出口におけるイオン軌道の角度は次式により与えられる(出口における集束作用は一切無視する)。
【0068】
β=tan−1(vy/vx) (6)
サンプル・ホルダーのサンプル面上の出発点位置に対する、加速域の出口におけるイオン軌道のy方向の変位は次式により与えられる。
【0069】
y0=2d0(vy/vx) (7)
ここでd0はサンプル・ホルダーのサンプル面と第一電極との間の距離である。集束エレメントがないので、軌道沿いの任意の点におけるy方向の変位は次式で与えられる。
【0070】
y=y0+d(vy/vx) (8)
ここでyはx方向、第一電極からの距離である。
【0071】
レーザー・エネルギー・パルスを30度入射、及び法線入射した場合について、入射レーザービーム(中央射線)に沿った初期速度ベクトルを持つサンプルイオン、入射レーザービームに対し+45度(上部射線)の初期速度ベクトルを持つサンプルイオン、及び入射レーザービームに対し−45度(下部射線)の初期速度ベクトルを持つサンプルイオンの諸角度及び変位の比較を表1に示す。表2の値は、v0=500m/秒、V/m=1ボルト/da、及びd0=20mmを用いて計算し、角度の値は度単位であり、y0及びyの値はミリメータ単位であり、yはd=100mmに対して計算された。V/m=100ボルト/daの場合には、式(4)−(8)に示すように、β、y0及びyの値は10分の1に減少する。
【0072】
【表2】
図6A及び6Bは、表2の軌道を概略的に図示し、図6Aは従来型MALDI源600に対するものであり、図6Bはさまざまな実施形態によるMALDIイオン源650によるものである。図6A及び6B中の角度α及びβは、大体のものであり、角度β及び変位y0とyと(100mm点)は説明目的のため誇張してある。図6Aは、30度入射の場合においてサンプル601から発生したイオンの軌道を、中央射線602、上部射線604、及び下部射線606に沿った初期速度とともに図示し、これらの軌道の加速域からの出口608における角度を示している。また図6Aは、表2中の上部射線β角度610、下部射線β角度612、中央射線β角度614、及びサンプル・ホルダー622のサンプル面620と第一電極624との間の距離d0を図示している。
【0073】
図6Bは、法線入射の場合においてサンプル651から発生したイオンの軌道を、中央射線652、上部射線654、及び下部射線656に沿った初期速度とともに図示し、これらの軌道の加速域からの出口658における角度を示している。また図6Bは、表2中の上部射線β角度660、下部射線β角度662、中央射線β角度664、及びサンプル・ホルダー672のサンプル面670と第一電極674との間の距離d0を図示している
表2は、30度入射レーザー照射の場合には、イオンビームの基準方向(中央射線)が質量に依存するのに対し、法線入射の場合には、イオンビームの基準方向(中央射線)は、あらゆる質量においてレーザービームと一致し、しかして質量に依存しない。双方のケースにおいて、イオンビーム・プロフィールの半角は、質量の平方根に比例して増大する。30度入射の場合、限定された質量範囲のサンプルイオンは、適切な偏向電圧によりイオンビームを屈折させることにより、質量分析装置に導くことができるが、この質量範囲から外れるサンプルイオンの伝送効率は同じ偏向電圧では低いものとなろう。
【0074】
法線入射の場合には、適切な偏向電圧は、実質上サンプルイオン質量に関係しない。さまざまな実施形態において、このことにより、例えば、図7に示すように、質量区分けを取り入れずに、加速後のイオンビームを屈折させることによってレーザービームから分離し、軸外の質量分析装置を用いることができる。さらに法線入射の場合には、例えば、イオン加速域内に追加の開口電極、下流に一つ以上のイオンレンズ又はこれらの組み合わせを含めることによって、すべての質量に対してイオンビームを集束することができる。
【0075】
図7は、MALDIイオン源及び質量分析装置システムのさまざまな実施形態を描いたものである。一つの実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー708のサンプル面706上のサンプル704に対しほぼ法線の角度でレーザー・エネルギー・パルス710を照射するよう構成された光学システム702を含む。さまざまな実施形態において、光学システムにレンズ又はウインドウ711を含めることができる。また、光学システムに鏡又はプリズム712を含め、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。さまざまな実施形態において、レーザー出力が、照射点におけるサンプル面の法線から少なくとも10度以内の照射角度で、レーザー・エネルギー・パルスをサンプル面に照射するように、レーザー自体を位置設定できるので、鏡、プリズム又は他の光子誘導メカニズムは必要ない。
【0076】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面に対しほぼ法線方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムを含む。イオン光学システムは、第一開口電極720及び第二開口電極722を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸724が規定される。一部の実施形態において、第一電極720及び第二電極は、サンプル面706及び互いに対しほぼ平行に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。
【0077】
第一電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一開口電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線となる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、サンプル面に対する法線回りにほぼ対称形のさまざまな第一電極の形状及び構成を用いることができる。第一及び第二電極の開口部は、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされており、第一及び第二電極は、サンプル面に対する法線周りにほぼ対称形なので、第一イオン光学軸は、サンプル面に対しほぼ法線の角度でサンプル面と交差し、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線となり、抽出方向は第一イオン光学軸とほぼ平行になって、サンプルイオンは第一イオン光学軸に沿って抽出されることになる。
【0078】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー708を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー708は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台728に保持される。
【0079】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面706と第一開口電極720との間に電位差を加えてサンプル面の法線から5度以内の抽出方向にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。第一イオン・デフレクタ730は、第一開口電極720と第二開口電極722との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向732とは異なる方向の第二イオン光学軸734上へと屈折し、質量分析装置740は、第二イオン光学軸734上に配置されてサンプルイオンを受ける。さまざまな実施形態において、第三開口電極742が第二電極722と質量分析装置740との間に配置され、質量分析装置へのサンプルイオン導入を促進する。
【0080】
一部の実施形態において、質量分析装置740の取入れ口744及び一切の関連第三電極742は、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上、質量分析装置の取入れ口744又は一切の関連第三電極742に衝突しないように、第一イオン光学軸724から距離Lだけ離れて配置される。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminであり、中性ビーム・コーンの距離z及び半角δの例を図7に示す。
【0081】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部750と、少なくとも第一電極720につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム752とを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム752は、すべての、温度制御表面部750が周りに配置されたイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム752は、第一電極720、第二電極722、及び第一イオン・デフレクタ730につながれている。
【0082】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム752を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて噴流中の中性分子がそれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部750は、第一電極及び第二電極より低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極720及び第二電極722は、マトリクス分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ730は、マトリクス分子が実質上これに付着しないように加熱される。
【0083】
さまざまな実施形態において、イオン源の中の第一電極720及び第二電極722は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ730は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0084】
図8を参照すると、MALDIイオン源及び質量分析装置システムのさまざまな実施形態が描かれている。一つの実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー808のサンプル面806上のサンプル804に、ほぼ法線の角度で、レーザー・エネルギー・パルス810を照射するよう構成された光学システム802を含む。さまざまな実施形態において、光学システムにレンズ又はウインドウを含めることができる。また、光学システムに鏡又はプリズムを含めレーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。
【0085】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムを含む。図8において、イオン光学システムは、第一開口電極820及び第二開口電極822を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸824が規定される。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは第三開口電極826を含む。一部の実施形態において、第一、第二及び第三電極は、サンプル面及び互いに対しほぼ平行に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。
【0086】
第一電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一開口電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線になる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、サンプル面の法線回りにほぼ対称形のさまざまな第一電極の形状及び構成を用いることができる。第一及び第二電極の開口部は照射されるサンプルのほぼ中央に合わされ、第一及び第二電極は、サンプル面の法線周りにほぼ対称形なので、第一イオン光学軸はサンプル面に対しほぼ法線となり、抽出方向は第一光学軸とほぼ平行になり、サンプルイオンは第一光学軸に沿って抽出されることになる。
【0087】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー808を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー808は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台828に保持される。
【0088】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面806と第一開口電極820との間に電位差を加えてサンプル面の法線から5度以内の抽出方向にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向832にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。第一イオン・デフレクタ830は、第二開口電極822と第三開口電極826との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向とは異なる方向の第二イオン光学軸834上へと屈折させる。
【0089】
さまざまな実施形態において、第三電極826と質量分析装置840との間に第四開口電極836が配置され、質量分析装置840内へのサンプルイオン導入を促進する。さまざまな実施形態において、システムは、質量分析装置840内へのサンプルイオン導入を促進するため配置された第二イオン・デフレクタ844を含む。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ844は、第四電極836と質量分析装置840との間に配置される。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ844は、サンプルイオンを第二イオン光学軸834とは異なる方向の第三イオン光学軸846上へと屈折させるように配置される。
【0090】
一部の実施形態において、質量分析装置840の取入れ口848、ならびに、関連する一切の第四電極836、第二イオン・デフレクタ844又はその双方は、距離Lだけ第一イオン光学軸824から離れており、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上質量分析装置の取入れ口848又は一切の関連第四電極836にぶつからないように配置されている。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminであり、中性ビーム・コーンの距離z及び半角δの例を図8に示す。
【0091】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部850と、少なくとも第一電極820につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム852とを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム852は、すべての、温度制御表面部850が周りに配置されたイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム852は、第一電極820、第二電極822、第三電極826、及び第一イオン・デフレクタ830につながれている。
【0092】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム852を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて噴流中の中性分子がそれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部850は、第一電極及び第二電極より低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極820及び第二電極822は、マトリクス分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第三電極826は、マトリクス分子が実質上これに付着しないように加熱され、温度制御表面部850は、第三電極よりも低い温度に保たれる。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ830は、実質上マトリクス分子が付着しないように加熱される。
【0093】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一電極820及び第二電極822は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第三電極826を、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱し、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第三電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ830を、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱し、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0094】
いろいろな質量分析装置を、本発明のMALDIイオン源とともに質量分析装置システム中で使用することができる。質量分析装置を単一の質量分析計器とすることも、あるいは、例えばタンデム質量分析(しばしばMS/MSと呼ばれる)又は多次元質量分析(しばしばMSnと呼ばれる)を採用して複数の質量分析計器とすることもできる。適切な質量分析計には、以下に限らないが、飛行時間(TOF)質量分析計、四極子質量分析計(QMS)、及びイオン移動度分光分析計(IMS)が含まれる。また、適切な質量分析装置システムに、イオン・デフレクタ及び/又はイオン解離装置を含めることができる。
【0095】
適切なイオン解離装置の例には、以下に限らないが、衝突セル(その中でイオンを中性ガス分子に衝突させて解離させる)、光解離セル(その中でイオンに光子のビームを照射して解離する)、及び表面解離装置(その中でイオンを固体又は液体の表面に衝突させで解離する)が含まれる。
【0096】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、一次イオンを選択し及び/又はそのフラグメントイオンを検出・分析するための三重四極子質量分析計を含む。さまざまな実施形態において、第一の四極子は一次イオンを選択する。第二の四極子は、多数の低エネルギー衝突が発生し一部のイオンを解離させるように、十分に高い圧力と電圧とに保たれる。第三の四極子を走査してフラグメントイオンのスペクトルを分析する。
【0097】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、一次イオンを選択し及び/又はそのフラグメントイオンを検出・分析するための2つの四極子質量フィルタ及び一つのTOF質量分析計を含む。さまざまな実施形態において、第一の四極子は一次イオンを選択する。第二の四極子は、多数の低エネルギー衝突が発生し一部のイオンを解離させるように、十分に高い圧力と電圧とに保たれる。TOF質量分析計は、フラグメントイオンのスペクトルを検出・分析する。
【0098】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、2つのTOF質量分析計及び一つのイオン解離装置(例えばCID又はSIDのような)を含む。さまざまな実施形態において、第一TOFはイオン解離装置に取り入れる一次イオンを選択し、第二TOF質量分析計は、フラグメントイオンのスペクトルを検出・分析する。TOF分析器をリニアー型又は反射型分析器とすることができる。
【0099】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、飛行時間型質量分析計及びイオン・リフレクタを含む。イオン・リフレクタは、TOFのフィールドフリー流領域の終端に配置され、イオンの飛行経路を修正して、初期の運動エネルギー分布の影響を補償するために使われる。さまざまな実施形態において、イオン・リフレクタは、加速電圧よりやや高いレベルに昇圧された電位にバイアス印加された一連のリングで構成される。作動中、イオンがリフレクタを突き通る際、イオンは、電界方向の速度がゼロになるまで減速される。速度ゼロとなった点で、イオンは方向を反転しリフレクタを通って逆側に加速される。イオンは、入ってきたときと同レベルであるが反対方向速度のエネルギーを持つて抜け出る。より大きなエネルギーを持つイオンは、リフレクタ中により深くまで突き通り、結果的にリフレクタ中により長い時間留まることになる。リフレクタに用いられる電位は、同一の質量及び電荷を持つイオンがほぼ同時に検出器に到着するように、イオンの飛行経路を修正するように選定される。
【0100】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、対象となる一次サンプルイオンを選択するためのタイムド・イオン・セレクタを具えた第一フィールドフリー流領域を含むタンデムMS−MS計器と、サンプルイオンのフラグメントを生成するための解離チャンバ(又はイオン解離装置)と、フラグメントイオンを分析するための質量分析器とを包含する。さまざまな実施形態において、タイムド・イオン・セレクタは、パルス印加イオン・デフレクタを含む。さまざまな実施形態において、このタンデムMS/MS計器のバージョンにおいて、第二イオン・デフレクタをパルス印加イオン・デフレクタとして使用することができる。作動のさまざまな実施形態において、パルス印加イオン・デフレクタは、選定した質量対電荷比の範囲内のイオンだけを、イオン解離チャンバへ送ることを可能にする。さまざまな実施形態において、質量分析装置は、飛行時間型質量分析計である。質量分析装置にイオン・リフレクタを含めることができる。さまざまな実施形態において、解離チャンバは、イオンを解離させ、抽出を遅延させるよう設計された衝突セルである。また、さまざまな実施形態において、解離チャンバは、飛行時間型質量分析計によるフラグメントイオンの分析のための遅延抽出イオン源としての機能を果たすこともできる。
【0101】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、パルス式イオン源により生成される複数イオンの経路に沿って配置された第一、第二及び第三TOF質量分離器を持つタンデムTOF−MSを含む。第一質量分離器はパルス式イオン源により生成された複数イオンを受けるように配置される。第一質量分離器は、パルス式イオン源により生成された複数イオンを加速し、複数イオンをそれらの質量対電荷比に従って分離し、質量対電荷比に基づいて、複数イオンからイオンの第一グループを選定する。また、第一質量分離器は、イオンの第一グループの少なくとも一部を解離する。第二質量分離器は、第一質量分離器によって生成されたイオンの第一グループ及びそのフラグメントを受けるように配置される。第二質量分離器は、イオンの第一グループ及びそのフラグメントを加速し、質量対電荷比に基づいてイオンの第一グループ及びそのフラグメントを分離し、質量対電荷比に基づいてイオンの第一グループ及びそのフラグメントからイオンの第二グループを選定する。また、第二質量分離器は、イオンの第二グループの少なくとも一部を解離する。第一及び/又は第二質量分離器に、イオン・ガイド、イオン集束エレメント、及び/又はイオン方向付けエレメントを含めることができる。さまざまな実施形態において、第二TOF質量分離器は、イオンの第一グループ及びそのフラグメントを減速する。さまざまな実施形態において、第二TOF質量分離器は、フィールドフリー領域、及び、ほぼ第二所定範囲内の質量対電荷比を持つイオンを選定するためのイオン・セレクタを包含する。さまざまな実施形態において、第一及び第二TOF質量分離器の少なくとも一つは、解離されたイオンを選定するタイムド・イオン・セレクタを含む。さまざまな実施形態において、第一及び第二質量分離器の少なくとも一つは、イオン解離装置を含む。第三質量分離器は、第二質量分離器によって生成されたイオンの第二グループ及びそのフラグメントを受けるように配置される。第三質量分離器は、イオンの第二グループ及びそのフラグメントを加速し、それらの質量対電荷比に基づいてイオンの第二グループ及びそのフラグメントを分離する。さまざまな実施形態において、第三質量分離器は、パルス印加加速を用いて、イオンの第二グループ及びそのフラグメントを加速させる。さまざまな実施形態において、イオン検出器は、イオンの第二グループ及びそのフラグメントを受けるように配置される。さまざまな実施形態において、イオン・リフレクタが、フィールドフリー領域内に配置され、イオンの第一又は第二グループ及びそのフラグメントの少なくとも一つのエネルギーを、それらがイオン検出器に到達する前に修正する。
【0102】
さまざまな実施形態において、質量分析装置は、複数の飛行経路、時間的に同時に実施可能な複数の動作モード、又はその双方を具えるTOF質量分析器を包含する。このTOF質量分析器は、質量分析器に入力してくるサンプルイオンのパケットから選定したイオンを、第一イオン経路、第二イオン経路、又は第三イオン経路のどれかに導く経路選定イオン・デフレクタを含む。一部の実施形態において、さらに多くのイオン経路を用いることができる。さまざまな実施形態において、第二のイオン・デフレクタを経路選定イオン・デフレクタとして使用することができる。時間依存性電圧を経路選定イオン・デフレクタに印加し、使用可能なイオン経路のうちから経路選定して、所定の質量対電荷比範囲内の質量対電荷比を有するイオンが選定したイオン経路に沿って伝搬できるようにする。
【0103】
例えば、複数飛行経路を有するTOF質量分析装置の作動のさまざまな実施形態において、経路選択イオン・デフレクタに、第一所定電圧を、第一所定質量対電荷比範囲に対応する第一所定時間間隔印加し、これにより、第一所定質量対電荷比範囲内にあるイオンを第一イオン経路に沿って伝搬させる。さまざまな実施形態において、この所定第一電圧をゼロとし、イオンを初期の経路に沿って継続して伝搬させる。経路選択イオン・デフレクタに、第二所定電圧を、第二所定質量対電荷比範囲に対応する第二所定時間間隔印加し、これにより、第二所定質量対電荷比範囲内にあるイオンを第二イオン経路に沿って伝搬させる。第三、第四など追加の時間範囲と電圧とを採用して、特定の測定作業に必要な数だけのイオン経路を設けることができる。第一所定電圧の振幅と極性はイオンを第一イオン経路へと屈折させるように選定され、第二所定電圧の振幅と極性はイオンを第二イオン経路へと屈折させるように選定される。第一時間間隔は、第一所定質量対電荷比範囲内のイオンが、経路選定イオン・デフレクタを通って伝搬する時間に対応するよう選択され、第二時間間隔は、第二所定質量対電荷比範囲内のイオンが、経路選定イオン・デフレクタを通って伝搬する時間に対応するよう選択される。第一TOF質量分離器は、第一イオン経路に沿って伝搬する第一質量対電荷比範囲内のイオンのパケットを受けるように配置されている。第一TOF質量分離器は、第一質量対電荷比範囲内のイオンをそれらの質量に従って分離する。第一検出器は、第一イオン経路に沿って伝搬するイオンの第一グループを受けるように配置されている。第二TOF質量分離器は、第二イオン経路に沿って伝搬するイオンのパケットの一部を受けるように配置されている。第二TOF質量分離器は、第二質量対電荷比範囲内のイオンをそれらの質量に従って分離する。第二検出器は、第二イオン経路に沿って伝搬するイオンの第二グループを受けるように配置されている。一部の実施形態において、第三及び第四など追加の分離器及び検出器を配置し、対応する経路に沿って導かれるイオンを受けさせることができる。一つの実施形態において、第三イオン経路を採用して第三所定質量範囲内のイオンを切り捨てる。第一及び第二質量分離器を任意の種類の質量分離器とすることができる。例えば、第一及び第二質量分離器の少なくとも一つに、フィールドフリー流領域、イオン加速器、イオン解離器、又はタイムド・イオン・セレクタを含めることができる。また、第一及び第二質量分離器に複数の質量分離素子を含めることができる。さまざまな実施形態にイオン・リフレクタが含まれ、イオンの第一グループを受けるように配置されており、イオンの第一グループに対するTOF質量分析装置の分解能を向上させている。さまざまな実施形態にイオン・リフレクタが含まれ、イオンの第二グループを受けるように配置されており、イオンの第二グループに対するTOF質量分析装置の分解能を向上させている。
【0104】
図9A及び9Bは、ほぼ同軸のサンプル照射及びイオン抽出方向を有するMALDIイオン源さまざまな実施形態を描いたものである。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー908,958のサンプル面906,956上のサンプル904,950に、レーザー・エネルギー・パルス910を照射するよう構成された光学システムを含み、そのサンプル面と交差するエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルは、第一イオン光学軸に沿った抽出方向912,962とほぼ同軸である。
【0105】
さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、第一電極914,964及び第二電極916,966を含む。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極の双方は、開口部を有しこれら開口部の中心の間の直線により第一イオン光学軸918,968が規定される。さまざまな実施形態において、第一イオン光学軸は、サンプル面の法線から約5度から約50度の間の角度でサンプル面と交差する。サンプル面と第一電極との間に電位差が加えられ、所定電荷符号(正、負いずれか)のサンプルイオンをサンプル面から離れる方向に加速し、サンプルイオンは抽出されてイオンビーム920,970を形成する。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは、サンプルイオンを屈折させるため配置された第一イオン・デフレクタ922,972を含む。一部の実施形態において、例えば、補助電極921,971を設けて、第一イオン光学軸沿いのサンプルイオン抽出を促進する。第一イオン光学軸918,968と、補助電極921,971の第一電極914,964と向かい合う面との間の角度が、第一イオン光学軸918,968とサンプル面906,956との間の角度とほぼ同じになるように、補助電極921,971を配置することができる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、抽出方向回りにほぼ対称形のさまざまな第一及び第二電極の形状及び構成を用いることができる。これに加え、以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような各種の補助電極形状を使うことができる。
【0106】
図9Aを参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ922は、第一電極914と第二電極916との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向912とは異なる方向の第二イオン光学軸924上へと屈折する。図9Bを参照すると、さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ972は、第二電極966と第三電極973との間に配置され、サンプルイオンを抽出方向962とは異なる方向の第二イオン光学軸974上へと屈折する。
【0107】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部930,980、及び、少なくとも第一電極916,966につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム932,982を含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム932,982は、全ての、温度制御表面部930,980が周りに配置されているイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム932,982は、第一電極914,916、第二電極916,966、及び第一イオン・デフレクタ922,972につながれている。
【0108】
さまざまな実施形態において、レーザー・エネルギー・パルス910,960は、サンプル914,964に当たって中性分子940,990及びイオンの噴流を生成する。この中性噴流すなわちビーム948,998の一部は、第一開口電極914,964の開口部を通過し、一部は第一開口電極914,964のサンプル側の表面946,996にぶつかる。この中性噴流すなわちビーム948,998の一部は、最後の電極の開口部を通過する。第二電極の開口部の大きさ、及び最後の電極とサンプル面と間の距離により、最後の電極を越えて進む中性ビーム948,998のコーン半角が決まる。
【0109】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム932,982を使って第一電極及び第二電極の温度を上昇させ、噴流中の中性分子がこれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部930,980は、第一電極及び第二電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極は、マトリクスの分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、マトリクスの分子が実質上これに付着しないように加熱される。
【0110】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一及び第二電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタは、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板上に再付着できるようにする。
【0111】
図10を参照すると、MALDIイオン源及び質量分析装置のさまざまな実施形態が描かれている。一つの実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル・ホルダー1008のサンプル面1006上のサンプル1004に、レーザー・エネルギー・パルス1010を照射するよう構成された光学システムを含み、サンプル面と交差するエネルギー・パルスのポインティング・ベクトルは、第一イオン光学軸に沿った抽出方向1012とほぼ同軸である。
【0112】
イオン光学システムは、第一開口電極1020及び第二開口電極1022を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸1024が規定される。一部の実施形態において、第一電極1020及び第二電極は、ほぼ相互に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。さまざまな実施形態において、サンプル面に対する法線から約5度から50度の間の範囲の角度をなす方向にサンプルイオンを抽出されたイオン光学システム。一部の実施形態において、例えば、第一イオン光学軸に沿ってのサンプルイオン抽出を促進するため補助電極1021が設けられる。補助電極1021を、第一イオン光学軸1024と、補助電極1021の第一電極1020と向かい合う面との間の角度が、第一イオン光学軸1024とサンプル面1006との間の角度とほぼ同じになるように、補助電極1021を配置することができる。以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンのような、抽出方向1012の回りにほぼ対称形のさまざまな第一及び第二電極の形状及び構成を用いることができる。これに加え、以下に限らないが、プレート、グリッド、及びコーンを含め各種の補助電極形状を使うことができる。
【0113】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー1008を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー1008は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台1028に保持される。
【0114】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面1006と第一開口電極1020との間に電位差を加えて、サンプル面と交差するレーザー・エネルギー・パルス1010のポインティング・ベクトルとほぼ同軸の抽出方向1012にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。第一イオン・デフレクタ1030は、第一開口電極1020と第二開口電極1022との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向1012とは異なる方向の第二イオン光学軸1034上へと屈折し、質量分析装置1040は、第二イオン光学軸1034上に配置されてサンプルイオンを受ける。さまざまな実施形態において、第三開口電極1042が第二電極1022と質量分析装置1040との間に配置され、質量分析装置1040へのサンプルイオン導入を促進する。さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、第一開口電極と第一イオン・デフレクタ1030との間に配置された開口電極1043を含む。
【0115】
さまざまな実施形態において、本システムは、質量分析装置1040へのサンプルイオン導入を促進するよう配置された第二イオン・デフレクタ1046を含む。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1046は、第三電極1042と質量分析装置1040との間に配置される。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1046は、サンプルイオンを第二イオン光学軸1034とは異なる方向の第三イオン光学軸上へと屈折させるように配置される。
【0116】
一部の実施形態において、質量分析装置1040の取入れ口1044及び一切の関連第三電極1042は、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上、質量分析装置の取入れ口1044又は一切の関連第三電極1042に衝突しないように、第一イオン光学軸1024から距離Lだけ離れて配置される。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminであり、中性ビーム・コーンの距離z及び半角δの例を図10に示す。
【0117】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部1050と、少なくとも第一電極1020につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システム1052とを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システム1052は、すべての、温度制御表面部1050が周りに配置されたイオン光学システム・エレメント又は中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システム1052は、第一電極1020、第二電極1022、及び第一イオン・デフレクタ1030につながれている。
【0118】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システム1052を使い、第一電極及び第二電極の温度を上昇させて噴流中の中性分子がそれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部1050は、第一電極及び第二電極より低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極1020及び第二電極1022は、マトリクス分子が実質上これらに付着しないように加熱される。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ1030は、マトリクス分子が実質上これに付着しないように加熱される。
【0119】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一電極1020及び第二電極1022は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ1030は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0120】
図11A及び11Bを参照すると、MALDIイオン源及び質量分析装置システムのさまざまな実施形態が描かれており、図11Aは図11Bに描かれたMALDIイオン源領域の拡大図である。一つの実施形態において、MALDIイオン源1104は、サンプル・ホルダー1108のサンプル面1106上のサンプルに、サンプル面に対しほぼ法線の角度で、レーザー・エネルギー・パルス1110を照射するよう構成された光学システムを含む。さまざまな実施形態において、光学システムにウインドウ1112及び鏡又はプリズム1114を含めレーザー・エネルギー・パルスをサンプル上に導くことができる。
【0121】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の方向にサンプルイオンを抽出するよう構成されたイオン光学システムを含む。図11A−11Bにおいて、イオン光学システムは、第一開口電極1120及び第二開口電極1122を含む。第一電極の開口部の中心と第二電極の開口部の中心との間の直線を用いて第一イオン光学軸1124を定めることができる。さまざまな実施形態において、イオン光学システムは第三開口電極を含む。一部の実施形態において、第一、第二及び第三電極は、サンプル面及び互いに対しほぼ平行に配置された、ほぼ平面状のプレート又はグリッドである。
【0122】
さまざまな実施形態において、第一電極の開口部は、サンプル・ホルダー1108を動かすことにより、照射されるサンプルのほぼ中央に合わされる。一部の実施形態において、サンプル・ホルダー1108は、サンプルの照射位置設定のため1軸並進運動、x−y(2軸)並進運動、又はx−y−z(3軸)並進運動が可能なサンプル・ホルダー受け台1128に保持される。
【0123】
作動のさまざまな実施形態において、サンプル面と第一開口電極1120との間に電位差を加えてサンプル面の法線から5度以内の抽出方向にサンプルイオンを加速させる。一部の実施形態において、イオン源は、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを加速させるよう構成され作動する。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ1130は、第一開口電極1120と第二開口電極1122との間に配置されて、サンプルイオンを抽出方向732とは異なる方向の第二イオン光学軸1134上へと屈折する。筒体又は他の適切な構造体1131を使って、例えば、屈折後、サンプルイオンを漂遊電界から遮蔽したり、電界の均一性を維持したり、又はその双方を行うことができる。さまざまな実施形態において、このような構造体1131を、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置する温度制御表面部として機能させたり、ヒーター・システムにつないだり、又はその双方を行うことができる。
【0124】
さまざまな実施形態において、開口電極1136が第一イオン・デフレクタ1130と質量分析装置1140との間に配置され、質量分析装置へのサンプルイオン導入を促進する。さまざまな実施形態において、システムは質量分析装置1140へのサンプルイオン導入を促進するように配置された第二イオン・デフレクタ1144を含む。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1144は、第四電極と質量分析装置1140との間に配置される。さまざまな実施形態において、第二イオン・デフレクタ1144は、サンプルイオンを第二イオン光学軸とは異なる方向の第三イオン光学軸上へと屈折させるように配置される。
【0125】
一部の実施形態において、質量分析装置1140の取入れ口、及び関連する一切の取入れ口電極、第二イオン・デフレクタ、又はその双方は、サンプル・ホルダーから抽出方向に沿って飛来する中性分子が、実質上、質量分析装置の取入れ口に衝突しないように、第一イオン光学軸から距離Lだけ離れて配置される。さまざまな実施形態において、距離Lは少なくとも式(1)で与えられるLminである。
【0126】
質量分析装置1140を、単一の質量分析計器とすることも複数の質量分析計器とすることもできる。質量分析装置を一つ以上のチャンバ1146に含めることができ、チャンバにMALDIイオン源の全部又は一部を含めることもできる。さまざまな実施形態において、質量分析装置1140は、タンデム型質量分析計1152(しばしばMS/MSと呼ばれる)及びイオン・リフレクタ1154、各種のイオン光学素子1156,1157、及び一つ以上の検出器1158,1159を含む。一部の実施形態において、一つ以上の構造体1160,1162を具え、例えば、イオン・デフレクタ1154から検出器1159に飛来するサンプルを漂遊電界から遮蔽したり、電界の均一性を維持したり、又はその双方を行う。
【0127】
さまざまな実施形態において、質量分析装置システム1190は、イオン光学システムの少なくとも一部の周りに配置された温度制御表面部、及び、少なくとも第一電極につながれ、第一電極を加熱できるヒーター・システムを含む。一部の実施形態において、ヒーター・システムは、全ての、温度制御表面部が周りに配置されているイオン光学システム・エレメント、中性ビームの経路中のイオン光学システム・エレメント、又はその双方につながれている。さまざまな実施形態において、ヒーター・システムは、第一電極、第二電極、第三電極、及び第一イオン・デフレクタにつながれている。
【0128】
さまざまな実施形態において、ヒーター・システムを使用し、第一電極及び第二電極の温度を上昇させ、噴流中の中性分子がこれらに付着する確率を低減させる。さまざまな実施形態において、温度制御表面部は、第一電極及び第二電極よりも低い温度に保たれ、中性分子を捕捉しそれらが他の表面に付着するのを防止するため使われる。一部の実施形態において、第一電極及び第二電極を加熱し、マトリクスの分子が実質上これらに付着しないようにする。さまざまな実施形態において、第三電極を加熱し、マトリクスの分子が実質上これに付着しないようにし、温度制御表面部は第三電極よりも低い温度に保たれる。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタを加熱し、マトリクスの分子が実質上これに付着しないようにする。
【0129】
さまざまな実施形態において、イオン源中の第一電極及び第二電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱される。さまざまな実施形態において、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第三電極は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第三電極上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。さまざまな実施形態において、第一イオン・デフレクタ、第二イオン・デフレクタ、又はその双方は、定期的に電極上の付着物を蒸発させるのに十分な温度に加熱され、MALDIサンプル・ホルダーを空基板と置き換えて、例えば、第一イオン・デフレクタ上に形成された付着物が空基板、温度制御表面部、又はその双方の上に再付着できるようにする。
【0130】
さまざまな様態で、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法を提供する。本方法は、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を使ってイオンを形成する。さまざまな実施形態において、本方法は、サンプルが取付けられたサンプル面を備え、サンプルにサンプル面の法線から少なくとも10度以内の照射角度でサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射し、MALDIによってサンプルイオンを形成する。そこで、サンプル面の法線から5度以内の野抽出方向にサンプルイオンを抽出する。サンプルイオンを、例えば、イオン光学システムなどによって与えられる加速電界を使って、抽出することができる。
【0131】
さまざまな実施形態において、サンプルを照射する工程は、レーザー・エネルギー・パルスを、サンプル面の法線から5度以内、及び/又はサンプル面の法線から1度以内の照射角度でサンプルに照射するようにして行われる。従って、一部の実施形態において、照射角度は照射点のサンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。
【0132】
次に、さまざまな実施形態において、サンプルイオンを抽出する工程は、サンプルイオンを、サンプル面の法線から1度以内の抽出方向で抽出するように行われる。従って、一部の実施形態において、抽出方向はサンプル面に対しほぼ法線であることが分かる。
【0133】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法に以下の一つ以上の工程を含めることができる:抽出方向とは異なる第二方向へサンプルイオンを屈折させる;第二方向とは異なる第三方向へサンプルイオンを屈折させる;サンプルイオンを質量分析装置の中へ集束する。
【0134】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法に、イオン光学システム中の一つ以上のエレメントを加熱することによって、それら一つ以上のエレメントを清掃する工程を含めることもできる。また、さまざまな実施形態において、本方法に以下の一つ以上の工程を含めることができる:サンプル面を空基板に置き換える;イオン光学システムの一つ以上のエレメントを加熱してそれらの上に付着したマトリクスの分子を蒸発させる;蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を空基板上に回収する:空基板を除去する。さまざまな実施形態において、本方法は、MALDIによってサンプルイオンを生成し、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成し、加速電界の出口からのサンプルイオンの軌道の角度は、イオンビームのほぼ中心部において実質上サンプルイオンの質量に左右されない。
【0135】
さまざまな実施形態において、サンプルイオンは、エネルギー・パルスをサンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にほぼ一致して整列させ、サンプル面に対しほぼ法線の照射角度でサンプルにレーザー・エネルギー・パルスを照射し、サンプル面に対しほぼ法線の抽出方向にサンプルイオンを抽出することによって生成される。
【0136】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法に、以下の一つ以上の工程を含めることができる:抽出方向とは異なる第二方向へサンプルイオンを屈折させる;第二方向とは異なる第三方向へサンプルイオンを屈折させる;サンプルイオンを質量分析装置の中へ集束する。
【0137】
また、さまざまな実施形態において、質量分析のためのサンプルを供給する方法に、イオン光学システム中の一つ以上のエレメントを加熱することによってそれら一つ以上のエレメントを清掃する工程を含めることができる。また、さまざまな実施形態において、本方法に以下の一つ以上の工程を含めることができる:サンプル面を空基板に置き換える;イオン光学システムの一つ以上のエレメントを加熱してそれらの上に付着したマトリクスの分子を蒸発させる;蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を空基板上に回収する:空基板を除去する。
【0138】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、イオン源の遅延抽出作動のための構造含む。一部の実施形態において、遅延抽出を行って、初期サンプルイオン速度分布の修正に集中するためのタイムラグを設ける。
【0139】
さまざまな実施形態において、MALDIイオン源及び質量分析装置システムは、サンプル・ホルダーのサンプル面、第一電極及び第二電極に電気的に結合された電源を含む。絶縁層をサンプルとサンプル面との間に差し挟むことができる。電源には、例えば、マルチ電源又は2つ以上の出力を具えた単一電源が含まれる。電源を、例えば、手動制御、電子制御、及び/又はプログラム可能とすることができる。
【0140】
作動のさまざまな実施形態において、サンプルはある角度でレーザー・エネルギー・パルスを照射され、MALDIによりサンプルイオンを生成する。一切の前回サンプルイオン抽出の後、及びレーザー・エネルギー・パルスをサンプルへ照射する間、電源は、サンプル・ホルダーに第一可変電位を、第一電極に第二可変電位を、第二電極に第三可変電位を印加して、エネルギー・パルスの発生と関連させた第一所定時間に第一電界を設定する。第一、第二及び第三可変電位の2つ以上をほぼ等しくすることができる。第一、第二及び第三可変電位の2つ以上をほぼ接地電位と等しくすることができる。一部の実施形態において、正サンプルイオンを測定する場合には、第一可変電位は、第二可変電位よりより大きな負電位なり、負サンプルイオンを測定する場合には、第一可変電位は、第二可変電位よりより小さな負電位なって、これによりサンプルイオン抽出に先立って、遅延電界を生成する。
【0141】
レーザー・エネルギー・パルス発生の後の第二所定時間において、電源は、サンプル・ホルダー及び第一電極のうちの少なくとも一つに第四可変電位を印加して、サンプルイオンをサンプル・ホルダーから離れる方向に加速させる第二電界を設定してサンプルイオンを抽出する。
【0142】
いろいろな構造を用いて第四可変電位の発生タイミングを制御することができる。例えば、光検知器を用いてレーザー・エネルギー・パルスを検知し、レーザー・エネルギー・パルスに同期させた電気信号を発生させることができる。同期された信号に応じた入力を持つ遅延発生器を使って、電源に同期された信号に対して所定時間だけ遅延させた電気出力信号を供給し、さまざまな第一、第二、第三及び第四可変電位の印加を起動又は制御することができる。
【実施例】
【0143】
(実施例1:サンプル照射角度の比較)
例1では、MALDI質量分析装置システムを使い、サンプル・ホルダー表面の法線に対し約30度の照射角度でレーザー・エネルギー・パルスをサンプルに照射して(以下、「30度入射処理」といい、図13A及び13Bでは「4700」と略称する)得られた結果と、MALDI質量分析装置システムを使い、サンプル・ホルダー表面の法線に対し1度以内の照射角度でレーザー・エネルギー・パルスをサンプルに照射して(以下、「法線入射処理」といい、図13A及び13Bでは「LTS」と略称する)得られた結果とを比較する。
【0144】
タンデム型TOF質量分析計を含むApplied Biosystems(登録商標)4700 Proteomics Analyzerを使って、30度入射処理の結果を得た。サンプル面の法線から1度以内の照射角度でレーザーをサンプルに照射するように改造したApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer(Applied Biosystems製、米国CA94404、フォスターシティ、リンカーンセンタードライブ850)を使って、法線入射処理の結果を得た。
【0145】
これらの実験におけるサンプルは、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸と組み合わせた、MH+m/z2465.2の副腎皮質刺激ホルモン18−39クリップ・ペプチド(「ACTH」)であり、さまざまなACTHの量が用いられた。ACTH/マトリクスの混合体がステンレス鋼のターゲット上に取り付けられた。レーザー・エネルギー・パルスは、公称200Hzの反復周波数で動作し、335ナノメータ(nm)のパルスごとに公称2μJを供給するNd:YAGレーザーによって供給された。TOFはMS/MSモードで実施され、第一MSはACTH親イオンを選び出し、第二MSはACTHの子イオンを選定した。
【0146】
結果を図12A、12B及び12Cに示す。x軸は、質量が原子質量単位(amu)の質量対電荷比(m/z)単位であり、左側y軸は相対信号強度を示し、右側y軸はデジタイザ・カウント単位による絶対信号強度を示す。デジタイザは目盛りあたり0.1ボルトに設定された。法線入射及び30度入射処理の双方において、サンプルはMALDIによりイオン化されて一次サンプルイオンが生成され、サンプルイオンはCIDにより解離されて一連のフラグメントイオンが生成され、これらは、アミノ酸の数を順次に低減するイオンのラダーとなる。
【0147】
図12Aは、約5フェムトモル(fmol)のACTHサンプルに対し30度入射処理による2000レーザー・ショットの結果を平均して得た、フラグメント質量スペクトル1210を示す。図12Aのスペクトルは、検出器電圧を約2.1kVに設定して取得された。挿入図1211は、m/zが59から2340までの範囲を拡大したものであり、ACTHのイオンフラグメントについて検出された最大の信号はb12フラグメントイオン1212であったことを示している。ACTHの他のbシリーズ・フラグメントイオン(すなわち、N末端からのアミノ酸削除部分から生じたシーケンスのラダー状スペクトル系列)は、このスペクトル中のノイズ1214上では容易には識別できない。
【0148】
図12Bは、約5fmolのACTHサンプルに対し法線入射による2000レーザー・ショットの結果を平均して得た、フラグメント質量スペクトル1220を示す。図12Bを得るのに使われたACTHのサンプルは、図12Aを取得するのに使われたのと同じサンプルとした。図12Bのスペクトルは、検出器電圧を約1.8kVに設定して取得された。1.8kVから2.1kVの範囲において、検出器ゲインは、検出器電圧を0.1kV上昇させるごとに約3倍増大する。挿入図1221は、m/zが59から2340までの範囲を拡大したものであり、複数のACTHのb系列イオンフラグメントがノイズ1224を上回り識別できることを示している。例えば、法線入射処理によるこのスペクトルでは、b系列フラグメントb31233、b41234、b51235、b61236、b71237、b81238、b111241、b121242、b131243、b161246、及びb211251がノイズ1224を上回り識別される。
【0149】
図12Aと12Bとを比較すると、法線入射処理では、絶対信号強度及び信号ノイズ比の双方が30度入射処理に比べて改善されていることが分かる。例えば、b12フラグメントイオンの絶対信号強度は、図12Bの方が図12Aより約3倍大きいことが分かり、検出器電圧を考慮に入れれば、信号はさらに大きな倍数で増大していると見られる。さらに、図12Aでは識別できないb系列イオンフラグメントb3−b8、b11−b13、b16及びb21が図12Bでは明確に識別される。
【0150】
図12Cは、約1fmolのACTHサンプルに対し法線入射による2000レーザー・ショットの結果を平均して得た、フラグメント質量スペクトル1260を示す。図12Cのスペクトルは、検出器電圧を約2.0kVに設定して取得された。挿入図1261は、m/zが59から2340までの範囲を拡大したものであり、複数のACTHのb系列イオンフラグメントがノイズ1264を上回り識別できることを示している。例えば、法線入射処理によるこのスペクトルでは、b系列フラグメントb31273,b81278,b111281,b121282,b131283,b161286,及びb211291がノイズ1264を上回り識別される。
【0151】
図12Aと12Cとを比較すると、たとえ、法線入射処理によるACTHの量が30度入射処理に使われた量の5分の1であっても、法線入射処理では、絶対信号強度及び信号ノイズ比の双方が30度入射処理に比べて改善されていることが分かる。例えば、b12フラグメントイオンの絶対信号強度は、図12Cの方が図12Aより約2倍大きいことが分かる。さらに、図12Aでは識別できないb系列イオンフラグメントb3,b8,b11−b13,b16及びb21が図12Cでは明確に識別される。
【0152】
(例2:ペプチド識別の比較)
図13Aと13Bとは、例1で使ったMALDI源及び質量分析装置システムの、トリプシンで消化されたミオグロビンの典型的ペプチドに対する、シーケンス識別能力を比較したものである。図13Aは、30度入射処理及び法線入射処理によって得られたMS/MS質量スペクトルの中に識別されたペプチド・シーケンスVEADIAGHGOEVLIR(シーケンスID No.1)のパーセントを比較したものである。図13Bは、30度入射処理及び法線入射処理によって得られたMS/MS質量スペクトルの中に識別されたペプチド・シーケンスHPGDFGADAQGAMTK(シーケンスID No.2)のパーセントを比較したものである。
【0153】
法線入射及び30度入射処理の双方において、サンプルは、MALDIによりイオン化されて一次サンプルイオンが生成され、サンプルイオンは一連のフラグメントイオンに解離され、これらは、アミノ酸の数を順次に低減するイオンのラダーとなる。解離はペプチドに沿ったどの箇所でも生じるので、質量対電荷比によるスペクトルが生成される。通常、フラグメントのスペクトルには2つの顕著なイオン・セットが観察される。一つのセットはペプチドのC末端からのアミノ酸削除によるシーケンス・ラダー(しばしばbシリーズと呼ばれる)であり、他方のセットはN末端からのアミノ酸削除によるシーケンス・ラダー(しばしばyシリーズと呼ばれる)である。フラグメントのスペクトルの解釈及びデータベースの調査によって、親イオンに対するアミノ酸シーケンスの全体又は部分的情報が得られる。ペプチド内の各種アミノ酸はそれぞれ異なる質量を持つので、ペプチドのフラグメントのスペクトルは、通常ペプチド・シーケンスの特性となり、ペプチドを識別するために使うことができる。さらに、ペプチドには、その親たんぱく質に固有のものがあり(例、シグネチャー・ペプチド)、場合によって、それが由来する親たんぱく質の識別にペプチドの識別が使われる。
【0154】
図13Aは、消化されたミオグロビンのさまざまな濃度に対する、ペプチドVEADIAGHGQEVLIRのy系列の識別可能パーセントを示しており、y軸は識別可能パーセントで、x軸はfmol単位の消化ミオクロビンの濃度である。法線入射処理のデータは充てんダイヤモンド1310でプロットされており、30度入射処理は充てん四角1312でプロットされている。実線1314は、ペプチド情報の仮定データベース調査において必要となる可能性のあるシーケンス識別パーセント・レベルを任意に示したものである。図13Aは、最高のミオグロビン濃度を除き、法線入射処理は、30度入射処理に比べ、質量スペクトルを介して、y系列イオンのペプチド・シーケンスをより高いパーセントで識別できることを示している。
【0155】
図13Bは、消化されたミオグロビンのさまざまな濃度に対する、ペプチドHPGDFGADAQGAMTKのb系列の識別可能パーセントを示しており、y軸は識別可能パーセントで、x軸はfmol単位の消化ミオクロビンの濃度である。法線入射処理のデータは充てんダイヤモンド1320でプロットされており、30度入射処理は充てん四角1322でプロットされている。実線1324は、ペプチド情報の仮定データベース調査において必要となる可能性のあるシーケンス識別パーセント・レベルを任意に示したものである。図13Bは、最高のミオグロビン濃度を除き、法線入射処理は、30度入射処理に比べ、質量スペクトルを介して、b系列イオンのペプチド・シーケンスをより高いパーセントで識別できることを示している。
【0156】
本特許請求内容は、その旨が述べられている場合を除き、記載された順序や要素に限定されると読み取るべきでない。本発明を、具体的に示し、特定の説明のための実施形態を参照して記載しているが、添付の請求内容に明示した本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形状や詳細内容についてさまざまな変更を加えることができることを理解すべきである。一例として、開示した任意の特質を、他の開示された任意の特質と組み合わせて、本発明の各種の実施形態によって、MALDIイオン形成の方法を実行したり、又はMALDIイオン源又は質量分析装置システムを作製することができる。例えば、開示した各種の光学システム、イオン光学システム、ヒーター・システム、温度制御表面部の構成、及び質量分析装置の任意のものを組み合わせ、本発明の各種実施形態により、MALDIイオン源又は質量分析装置システムを作製することができる。従って、後記の請求内容の範囲及び精神内に含まれるかこれと同等のすべての実施形態は、請求対象である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
以下の説明を添付の図面と関連させることにより、前記及び他の本発明の様態、実施形態、対象、特質及び利点を、さらに十分に理解することができる。各図一貫して同じである図面内の同一の参照符号は同一の機能及び構造エレメントを示す。図面は必ずしも一定の縮尺比でなく、それよりも本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【図1】図1は、従来型のMALDI源及び質量分析装置システムの例である(従来技術)。
【図2】図2は、図1のMALDIイオン源の拡大図である(従来技術)。
【図3】図3は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源の拡大図を概略的に図示したものである。
【図4】図4は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図5】図5は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図6A】図6Aは、イオン軌道を説明的に示した従来型のMALDI源の例である。
【図6B】図6Bは、イオン軌道を説明的に示した、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図7】図7は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムを概略的に図示したものである。
【図8】図8は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムを概略的に図示したものである。
【図9A】図9Aは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図9B】図9Bは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源を概略的に図示したものである。
【図10】図10は、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムを概略的に図示したものである。
【図11A】図11Aは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムの断面を概略的に図示したものである。
【図11B】図11Bは、さまざまな実施形態によるMALDIイオン源及び質量分析装置システムの断面を概略的に図示したものである。
【図12A】図12Aは、「例1」に記載し説明する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)18−39クリップペプチドのタンデムTOF質量分析である。
【図12B】図12Bは、「例1」に記載し説明する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)18−39クリップペプチドのタンデムTOF質量分析である。
【図12C】図12Cは、「例1」に記載し説明する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)18−39クリップペプチドのタンデムTOF質量分析である。
【図13】図13Aおよび13Bは、「例2」に記載し説明するシーケンス範囲の比較である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルに、エネルギー・パルスを、該エネルギー・パルスが該サンプル面の法線から10度以内の角度で該サンプル面上のサンプルに当たるようにして、照射するよう構成された光学システムと、該サンプル表面に対しほぼ法線の第一方向にサンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムとを含むイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源であって、前記光学システムは、前記サンプル面上のサンプルに、エネルギー・パルスを、該エネルギー・パルスが該サンプル面の法線から1度以内の角度で該サンプル面上のサンプルに当たるようにして、照射するよう構成されている、イオン源。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン源であって、前記エネルギー・パルスは、前記第一方向とほぼ同軸である、イオン源。
【請求項4】
請求項1のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーと開口部を有する第二電極との間に配置され開口部を有する第一電極、及び該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線で規定される第一イオン光学軸であって前記サンプル面の法線から5度以内の角度で該サンプル面と交差する第一イオン光学軸を含む、イオン源。
【請求項5】
請求項4に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学軸は前記サンプル面の法線から1度以内の角度で前記サンプル面と交差する、イオン源。
【請求項6】
請求項4に記載のイオン源であって、前記第一電極及び前記第二電極につながれたヒーター・システムと、該第一電極及び第二電極をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含むイオン源。
【請求項7】
請求項4に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されたイオン・デフレクタをさらに含み、該イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向へ屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項8】
請求項7に記載のイオン源であって、該イオン源は、前記イオン・デフレクタから見ると前記第二電極と反対の方向に配置された第三電極を含み、該第三電極は前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受けるよう位置設定されている、イオン源。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン源であって、前記第三電極は、前記サンプル・ホルダーから前記第一方向に飛来する中性分子が、実質上該第三電極にぶつからないようにも位置設定されている、イオン源。
【請求項10】
請求項1に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムからみると前記サンプル・ホルダーと反対の方向に配置された第二イオン光学システムをさらに含み、該第二イオン光学システムは、サンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項11】
請求項10に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは第一イオン・デフレクタを含む、イオン源。
【請求項12】
請求項10に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは、前記第一イオン・デフレクタからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三電極をさらに含む、イオン源。
【請求項13】
請求項10に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三イオン光学システムをさらに含み、該第三イオン光学システムは、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受け、該サンプルイオンを第三方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、開口部を持つ第四電極を含み、該第四電極は、前記サンプル・ホルダーから前記第一方向に飛来する中性分子が、実質上該第四電極にぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項15】
請求項14に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、第二イオン・デフレクタをさらに含み、該第二イオン・デフレクタは前記サンプル・ホルダーから第一方向に飛来する中性分子が、実質上該第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項16】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルにエネルギー・パルスをある照射角度で照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によりサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、ある抽出方向に該サンプルイオンを抽出してイオンビームを形成するよう構成された第一イオン光学システムとを含み、該照射角度及び抽出方向は、サンプルイオンの該第一イオン光学システムからの出口における軌道の角度が、イオンビームの中心部において実質上サンプルイオンの質量に左右されないようになっている、イオン源。
【請求項17】
請求項16に記載のイオン源であって、前記照射角度は、前記抽出方向とほぼ同軸である、イオン源。
【請求項18】
請求項17に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーと開口部を有する第二電極との間に配置され開口部を有する第一電極、及び該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線で規定される第一イオン光学軸であって前記サンプル面の法線から1度以内の角度で該サンプル面と交差する第一イオン光学軸を含む、イオン源。
【請求項19】
請求項18に記載のイオン源であって、前記第一電極及び前記第二電極につながれたヒーター・システムと、該第一電極及び第二電極をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含むイオン源。
【請求項20】
請求項18に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されたイオン・デフレクタをさらに含み、前記イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向へ屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項21】
請求項20に記載のイオン源であって、該イオン源は、前記イオン・デフレクタからみると前記第二電極と反対の方向に配置された第三電極を含み、該第三電極は前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受けるよう位置設定されている、イオン源。
【請求項22】
請求項21に記載のイオン源であって、前記第三電極は、前記サンプル・ホルダーから前記第一方向に飛来する中性分子が、実質上前記第三電極にぶつからないようにも位置設定されている、イオン源。
【請求項23】
請求項16に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムからみると前記サンプル・ホルダーと反対の方向に配置された第二イオン光学システムをさらに含み、該第二イオン光学システムは、サンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項24】
請求項23に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは第一イオン・デフレクタを含む、イオン源。
【請求項25】
請求項24に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは、前記第一イオン・デフレクタからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三電極をさらに含む、イオン源。
【請求項26】
請求項23に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三イオン光学システムをさらに含み、該第三イオン光学システムは、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受け、該サンプルイオンを第三方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項27】
請求項26に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、開口部を有する第四電極を含み、該第四電極は、前記サンプル・ホルダーから前記抽出方向に飛来する中性分子が、実質上該第四電極にぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項28】
請求項27に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、第二イオン・デフレクタをさらに含み、該第二イオン・デフレクタは該サンプル・ホルダーから前記抽出方向に飛来する中性分子が、実質上該第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項29】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル・ホルダーと開口部を有する第二電極との間に配置された開口部を有する第一電極、及び該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線で規定される抽出方向と、該サンプル面上のサンプルにポインティング・ベクトルを持つエネルギー・パルスを照射するよう構成された光学システムとを含み、該光学システムは該ポインティング・ベクトルが該抽出方向とほぼ同軸になるよう構成されている、イオン源。
【請求項30】
請求項29に記載のイオン源であって、前記ポインティング・ベクトルは、前記サンプル面の法線に対し約5度と50度との間の範囲の角度で前記サンプル面と交差する、イオン源。
【請求項31】
請求項29に記載のイオン源であって、前記第一電極及び前記第二電極につながれたヒーター・システムと、該第一電極及び第二電極をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含むイオン源。
【請求項32】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルにエネルギー・パルスを照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、該サンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムと、該第一イオン光学システムにつながれたヒーター・システムと、該第一イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とを含むイオン源。
【請求項33】
請求項32に記載のイオン源であって、前記光学システムは、前記エネルギー・パルスが、前記サンプル面の法線から10度以内の角度で該サンプル面上のサンプルに当たるように構成されている、イオン源。
【請求項34】
請求項32に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは前記サンプル・ホルダーと第二電極との間に配置された第一電極を含み、前記ヒーター・システムは該第一電極及び該第二電極につながれている、イオン源。
【請求項35】
請求項34に記載のイオン源であって、前記第一電極は開口部を有し、前記第二電極は開口部を有しており、該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸が規定され、該第一イオン光学軸は前記サンプル面の法線から5度以内の角度で該サンプル面と交差する、イオン源。
【請求項36】
請求項35に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されたイオン・デフレクタをさらに含み、該イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されており、前記ヒーター・システムは該イオン・デフレクタにつながれている、イオン源。
【請求項37】
請求項36に記載のイオン源であって、前記イオン源は、前記第二電極からみると前記第一電極と反対の方向に配置された第三電極をさらに含み、該第三電極は、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受けるよう位置設定され、前記サンプル・ホルダーから前記第一イオン光学軸に沿って飛来する中性分子が、実質上該第三電極にぶつからないよう位置設定されている、イオン源。
【請求項38】
請求項35に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第二電極から見ると前記第一電極と反対の方向に配置された第三電極をさらに含み、前記ヒーター・システムは該第三電極につながれている、イオン源。
【請求項39】
請求項38に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第二電極と前記第三電極との間に配置された第一イオン・デフレクタをさらに含み、該第一イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されており、前記ヒーター・システムは該第一イオン・デフレクタにつながれている、イオン源。
【請求項40】
請求項39に記載のイオン源であって、前記イオン源は、前記第三電極からみると前記第二電極と反対の方向に配置された第二イオン光学システムをさらに含み、該第二イオン光学システムは、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受け、該サンプルイオンを第三方向に屈折させるよう配置されている、イオン源。
【請求項41】
請求項40に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーから前記第一イオン光学軸に沿って飛来する中性分子が、実質上該第二イオン光学システムにぶつからないようにも位置設定されている、イオン源。
【請求項42】
請求項39に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは第二デフレクタ及び第四電極を含む、イオン源。
【請求項43】
質量分析装置システムであって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルに、エネルギー・パルスを、該エネルギー・パルスが該サンプル面上のサンプルを該サンプル面の法線から10度以内の角度で当たるようにして、照射するよう構成された光学システムと、該サンプル・ホルダーと該質量分析装置との間に配置された第一イオン光学システムであって該サンプル面の法線から5度以内の角度で該サンプル面と交差する第一イオン光学軸に沿ってイオンを抽出するよう構成された該第一イオン光学システムと、該第一イオン光学システムと該質量分析装置との間に配置され、該第一イオン光学軸から第二イオン光学軸にイオンを屈折させるよう構成された第二イオン光学システムと質量分析装置とを含む、質量分析装置システム。
【請求項44】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記エネルギー・パルスは前記第一イオン光学軸とほぼ同軸である、質量分析装置システム。
【請求項45】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第一イオン光学システムは開口部を持つ第一電極を含み、前記第一イオン光学軸は該第一電極の開口部の中心を通過する、質量分析装置システム。
【請求項46】
請求項45に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学システムは、前記第一電極と第二電極との間に配置された第一イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項47】
請求項46に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学軸に沿って飛来するサンプルイオンを受けるように配置され、イオンを第二イオン光学軸から該質量分析装置の中に屈折させるよう構成されている第三イオン光学システムをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項48】
請求項47に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第三電極を含む、質量分析装置システム。
【請求項49】
請求項47に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第三電極及び第二イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項50】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第一イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーと第二電極との間に配置された第一電極を含み、該第一電極は開口部を有し、第二電極は開口部を有し、前記第一イオン光学軸は、該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線と合致する、質量分析装置システム。
【請求項51】
請求項50に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学システムは、前記第二電極と第三電極との間に配置された第一イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項52】
請求項51に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学軸に沿って飛来するサンプルイオンを受けるように配置され、イオンを該第二イオン光学軸から該質量分析装置の中に屈折させるよう構成された第三イオン光学システムをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項53】
請求項52に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第四電極を含む、質量分析装置システム。
【請求項54】
請求項52に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第四電極及び第二イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項55】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第一イオン光学システムにつながれたヒーター・システムと、該第一イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項56】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学システムにつながれたヒーター・システムと、該第二イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項57】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、サンプルが空のサンプル・ホルダーをさらに含み、前記第一イオン光学システムを加熱してその上に付着したマトリクスの分子を蒸発させたときに、蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を該空ホルダー上に回収する、質量分析装置システム。
【請求項58】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、該質量分析装置は、飛行時間式、四極子、RF多重極、磁場セクタ、静電セクタ、イオン移動度質量分析計、及びイオン・リフレクタの少なくとも一つを含む、質量分析装置システム。
【請求項59】
質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法であって、サンプルを取り付けたサンプル面を準備する工程と、該サンプルに、該サンプル面の法線から10度以内の照射角度でエネルギー・パルスを照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成する工程と、第一イオン光学システムによって該サンプル面に対しほぼ法線の方向にサンプルイオンを抽出する工程とを包含する、方法。
【請求項60】
請求項59に記載の方法であって、前記サンプル面のほぼ法線方向とは異なる第二方向に前記サンプルイオンを屈折させ、該サンプルイオンを質量分析装置の中に集束する工程をさらに包含する、方法。
【請求項61】
請求項60に記載の方法であって、前記サンプルイオンを第二方向に屈折させる工程は、第一イオン・デフレクタに電圧を印加する工程を包含し、特定の屈折度を達成するために該第一イオン・デフレクタに印加する電圧は、実質上サンプルイオン質量に左右されない、方法。
【請求項62】
請求項59に記載の方法であって、前記サンプルイオンを、前記サンプル面のほぼ法線方向とは異なる第二方向に屈折させる工程と、該サンプルイオンを該第二方向とは異なる第三方向に屈折させる工程と、該サンプルイオンを質量分析装置の中に集束する工程とをさらに包含する、方法。
【請求項63】
請求項62に記載の方法であって、前記サンプルイオンを第二方向に屈折させる工程は、第一イオン・デフレクタに電圧を印加することを含み、特定の屈折度を達成するために該第一イオン・デフレクタに印加される電圧は、実質上サンプルイオン質量に左右されることなく、前記サンプルイオンを第三方向に屈折させる工程は、第二イオン・デフレクタに電圧を印加する工程を包含し、特定の屈折度を達成するために該第二イオン・デフレクタに印加する電圧は、実質上サンプルイオン質量に左右されない、方法。
【請求項64】
請求項59に記載の方法であって、前記サンプル面を空基板で置き換える工程と、前記第一イオン光学システムを加熱しその上に付着したマトリクス分子を蒸発させる工程と、前記蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を該空基板に回収する工程とをさらに包含する、方法。
【請求項65】
質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法であって、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを生成する工程と、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成する工程とを含み、該加速電界からの出口におけるサンプルイオンの軌道の角度は、実質上サンプルイオン質量には左右されない、方法。
【請求項1】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルに、エネルギー・パルスを、該エネルギー・パルスが該サンプル面の法線から10度以内の角度で該サンプル面上のサンプルに当たるようにして、照射するよう構成された光学システムと、該サンプル表面に対しほぼ法線の第一方向にサンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムとを含むイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源であって、前記光学システムは、前記サンプル面上のサンプルに、エネルギー・パルスを、該エネルギー・パルスが該サンプル面の法線から1度以内の角度で該サンプル面上のサンプルに当たるようにして、照射するよう構成されている、イオン源。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン源であって、前記エネルギー・パルスは、前記第一方向とほぼ同軸である、イオン源。
【請求項4】
請求項1のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーと開口部を有する第二電極との間に配置され開口部を有する第一電極、及び該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線で規定される第一イオン光学軸であって前記サンプル面の法線から5度以内の角度で該サンプル面と交差する第一イオン光学軸を含む、イオン源。
【請求項5】
請求項4に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学軸は前記サンプル面の法線から1度以内の角度で前記サンプル面と交差する、イオン源。
【請求項6】
請求項4に記載のイオン源であって、前記第一電極及び前記第二電極につながれたヒーター・システムと、該第一電極及び第二電極をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含むイオン源。
【請求項7】
請求項4に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されたイオン・デフレクタをさらに含み、該イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向へ屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項8】
請求項7に記載のイオン源であって、該イオン源は、前記イオン・デフレクタから見ると前記第二電極と反対の方向に配置された第三電極を含み、該第三電極は前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受けるよう位置設定されている、イオン源。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン源であって、前記第三電極は、前記サンプル・ホルダーから前記第一方向に飛来する中性分子が、実質上該第三電極にぶつからないようにも位置設定されている、イオン源。
【請求項10】
請求項1に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムからみると前記サンプル・ホルダーと反対の方向に配置された第二イオン光学システムをさらに含み、該第二イオン光学システムは、サンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項11】
請求項10に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは第一イオン・デフレクタを含む、イオン源。
【請求項12】
請求項10に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは、前記第一イオン・デフレクタからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三電極をさらに含む、イオン源。
【請求項13】
請求項10に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三イオン光学システムをさらに含み、該第三イオン光学システムは、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受け、該サンプルイオンを第三方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、開口部を持つ第四電極を含み、該第四電極は、前記サンプル・ホルダーから前記第一方向に飛来する中性分子が、実質上該第四電極にぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項15】
請求項14に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、第二イオン・デフレクタをさらに含み、該第二イオン・デフレクタは前記サンプル・ホルダーから第一方向に飛来する中性分子が、実質上該第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項16】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルにエネルギー・パルスをある照射角度で照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によりサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、ある抽出方向に該サンプルイオンを抽出してイオンビームを形成するよう構成された第一イオン光学システムとを含み、該照射角度及び抽出方向は、サンプルイオンの該第一イオン光学システムからの出口における軌道の角度が、イオンビームの中心部において実質上サンプルイオンの質量に左右されないようになっている、イオン源。
【請求項17】
請求項16に記載のイオン源であって、前記照射角度は、前記抽出方向とほぼ同軸である、イオン源。
【請求項18】
請求項17に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーと開口部を有する第二電極との間に配置され開口部を有する第一電極、及び該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線で規定される第一イオン光学軸であって前記サンプル面の法線から1度以内の角度で該サンプル面と交差する第一イオン光学軸を含む、イオン源。
【請求項19】
請求項18に記載のイオン源であって、前記第一電極及び前記第二電極につながれたヒーター・システムと、該第一電極及び第二電極をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含むイオン源。
【請求項20】
請求項18に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されたイオン・デフレクタをさらに含み、前記イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向へ屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項21】
請求項20に記載のイオン源であって、該イオン源は、前記イオン・デフレクタからみると前記第二電極と反対の方向に配置された第三電極を含み、該第三電極は前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受けるよう位置設定されている、イオン源。
【請求項22】
請求項21に記載のイオン源であって、前記第三電極は、前記サンプル・ホルダーから前記第一方向に飛来する中性分子が、実質上前記第三電極にぶつからないようにも位置設定されている、イオン源。
【請求項23】
請求項16に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムからみると前記サンプル・ホルダーと反対の方向に配置された第二イオン光学システムをさらに含み、該第二イオン光学システムは、サンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項24】
請求項23に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは第一イオン・デフレクタを含む、イオン源。
【請求項25】
請求項24に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは、前記第一イオン・デフレクタからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三電極をさらに含む、イオン源。
【請求項26】
請求項23に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムからみると前記第一イオン光学システムと反対の方向に配置された第三イオン光学システムをさらに含み、該第三イオン光学システムは、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受け、該サンプルイオンを第三方向に屈折させるよう構成されている、イオン源。
【請求項27】
請求項26に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、開口部を有する第四電極を含み、該第四電極は、前記サンプル・ホルダーから前記抽出方向に飛来する中性分子が、実質上該第四電極にぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項28】
請求項27に記載のイオン源であって、前記第三イオン光学システムは、第二イオン・デフレクタをさらに含み、該第二イオン・デフレクタは該サンプル・ホルダーから前記抽出方向に飛来する中性分子が、実質上該第二イオン・デフレクタにぶつからないように位置設定されている、イオン源。
【請求項29】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル・ホルダーと開口部を有する第二電極との間に配置された開口部を有する第一電極、及び該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線で規定される抽出方向と、該サンプル面上のサンプルにポインティング・ベクトルを持つエネルギー・パルスを照射するよう構成された光学システムとを含み、該光学システムは該ポインティング・ベクトルが該抽出方向とほぼ同軸になるよう構成されている、イオン源。
【請求項30】
請求項29に記載のイオン源であって、前記ポインティング・ベクトルは、前記サンプル面の法線に対し約5度と50度との間の範囲の角度で前記サンプル面と交差する、イオン源。
【請求項31】
請求項29に記載のイオン源であって、前記第一電極及び前記第二電極につながれたヒーター・システムと、該第一電極及び第二電極をほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含むイオン源。
【請求項32】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化法のためのイオン源であって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルにエネルギー・パルスを照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを生成するよう構成された光学システムと、該サンプルイオンを抽出するよう構成された第一イオン光学システムと、該第一イオン光学システムにつながれたヒーター・システムと、該第一イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とを含むイオン源。
【請求項33】
請求項32に記載のイオン源であって、前記光学システムは、前記エネルギー・パルスが、前記サンプル面の法線から10度以内の角度で該サンプル面上のサンプルに当たるように構成されている、イオン源。
【請求項34】
請求項32に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは前記サンプル・ホルダーと第二電極との間に配置された第一電極を含み、前記ヒーター・システムは該第一電極及び該第二電極につながれている、イオン源。
【請求項35】
請求項34に記載のイオン源であって、前記第一電極は開口部を有し、前記第二電極は開口部を有しており、該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線によって第一イオン光学軸が規定され、該第一イオン光学軸は前記サンプル面の法線から5度以内の角度で該サンプル面と交差する、イオン源。
【請求項36】
請求項35に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されたイオン・デフレクタをさらに含み、該イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されており、前記ヒーター・システムは該イオン・デフレクタにつながれている、イオン源。
【請求項37】
請求項36に記載のイオン源であって、前記イオン源は、前記第二電極からみると前記第一電極と反対の方向に配置された第三電極をさらに含み、該第三電極は、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受けるよう位置設定され、前記サンプル・ホルダーから前記第一イオン光学軸に沿って飛来する中性分子が、実質上該第三電極にぶつからないよう位置設定されている、イオン源。
【請求項38】
請求項35に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第二電極から見ると前記第一電極と反対の方向に配置された第三電極をさらに含み、前記ヒーター・システムは該第三電極につながれている、イオン源。
【請求項39】
請求項38に記載のイオン源であって、前記第一イオン光学システムは、前記第二電極と前記第三電極との間に配置された第一イオン・デフレクタをさらに含み、該第一イオン・デフレクタはサンプルイオンを第二方向に屈折させるよう構成されており、前記ヒーター・システムは該第一イオン・デフレクタにつながれている、イオン源。
【請求項40】
請求項39に記載のイオン源であって、前記イオン源は、前記第三電極からみると前記第二電極と反対の方向に配置された第二イオン光学システムをさらに含み、該第二イオン光学システムは、前記第二方向に沿って飛来するサンプルイオンを受け、該サンプルイオンを第三方向に屈折させるよう配置されている、イオン源。
【請求項41】
請求項40に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーから前記第一イオン光学軸に沿って飛来する中性分子が、実質上該第二イオン光学システムにぶつからないようにも位置設定されている、イオン源。
【請求項42】
請求項39に記載のイオン源であって、前記第二イオン光学システムは第二デフレクタ及び第四電極を含む、イオン源。
【請求項43】
質量分析装置システムであって、サンプル面を持つサンプル・ホルダーと、該サンプル面上のサンプルに、エネルギー・パルスを、該エネルギー・パルスが該サンプル面上のサンプルを該サンプル面の法線から10度以内の角度で当たるようにして、照射するよう構成された光学システムと、該サンプル・ホルダーと該質量分析装置との間に配置された第一イオン光学システムであって該サンプル面の法線から5度以内の角度で該サンプル面と交差する第一イオン光学軸に沿ってイオンを抽出するよう構成された該第一イオン光学システムと、該第一イオン光学システムと該質量分析装置との間に配置され、該第一イオン光学軸から第二イオン光学軸にイオンを屈折させるよう構成された第二イオン光学システムと質量分析装置とを含む、質量分析装置システム。
【請求項44】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記エネルギー・パルスは前記第一イオン光学軸とほぼ同軸である、質量分析装置システム。
【請求項45】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第一イオン光学システムは開口部を持つ第一電極を含み、前記第一イオン光学軸は該第一電極の開口部の中心を通過する、質量分析装置システム。
【請求項46】
請求項45に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学システムは、前記第一電極と第二電極との間に配置された第一イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項47】
請求項46に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学軸に沿って飛来するサンプルイオンを受けるように配置され、イオンを第二イオン光学軸から該質量分析装置の中に屈折させるよう構成されている第三イオン光学システムをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項48】
請求項47に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第三電極を含む、質量分析装置システム。
【請求項49】
請求項47に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第三電極及び第二イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項50】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第一イオン光学システムは、前記サンプル・ホルダーと第二電極との間に配置された第一電極を含み、該第一電極は開口部を有し、第二電極は開口部を有し、前記第一イオン光学軸は、該第一電極の開口部の中心と該第二電極の開口部の中心との間の直線と合致する、質量分析装置システム。
【請求項51】
請求項50に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学システムは、前記第二電極と第三電極との間に配置された第一イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項52】
請求項51に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学軸に沿って飛来するサンプルイオンを受けるように配置され、イオンを該第二イオン光学軸から該質量分析装置の中に屈折させるよう構成された第三イオン光学システムをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項53】
請求項52に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第四電極を含む、質量分析装置システム。
【請求項54】
請求項52に記載の質量分析装置システムであって、前記第三イオン光学システムは第四電極及び第二イオン・デフレクタを含む、質量分析装置システム。
【請求項55】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第一イオン光学システムにつながれたヒーター・システムと、該第一イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項56】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、前記第二イオン光学システムにつながれたヒーター・システムと、該第二イオン光学システムをほぼ取り巻いて配置された温度制御表面部とをさらに含む、質量分析装置システム。
【請求項57】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、サンプルが空のサンプル・ホルダーをさらに含み、前記第一イオン光学システムを加熱してその上に付着したマトリクスの分子を蒸発させたときに、蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を該空ホルダー上に回収する、質量分析装置システム。
【請求項58】
請求項43に記載の質量分析装置システムであって、該質量分析装置は、飛行時間式、四極子、RF多重極、磁場セクタ、静電セクタ、イオン移動度質量分析計、及びイオン・リフレクタの少なくとも一つを含む、質量分析装置システム。
【請求項59】
質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法であって、サンプルを取り付けたサンプル面を準備する工程と、該サンプルに、該サンプル面の法線から10度以内の照射角度でエネルギー・パルスを照射し、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを形成する工程と、第一イオン光学システムによって該サンプル面に対しほぼ法線の方向にサンプルイオンを抽出する工程とを包含する、方法。
【請求項60】
請求項59に記載の方法であって、前記サンプル面のほぼ法線方向とは異なる第二方向に前記サンプルイオンを屈折させ、該サンプルイオンを質量分析装置の中に集束する工程をさらに包含する、方法。
【請求項61】
請求項60に記載の方法であって、前記サンプルイオンを第二方向に屈折させる工程は、第一イオン・デフレクタに電圧を印加する工程を包含し、特定の屈折度を達成するために該第一イオン・デフレクタに印加する電圧は、実質上サンプルイオン質量に左右されない、方法。
【請求項62】
請求項59に記載の方法であって、前記サンプルイオンを、前記サンプル面のほぼ法線方向とは異なる第二方向に屈折させる工程と、該サンプルイオンを該第二方向とは異なる第三方向に屈折させる工程と、該サンプルイオンを質量分析装置の中に集束する工程とをさらに包含する、方法。
【請求項63】
請求項62に記載の方法であって、前記サンプルイオンを第二方向に屈折させる工程は、第一イオン・デフレクタに電圧を印加することを含み、特定の屈折度を達成するために該第一イオン・デフレクタに印加される電圧は、実質上サンプルイオン質量に左右されることなく、前記サンプルイオンを第三方向に屈折させる工程は、第二イオン・デフレクタに電圧を印加する工程を包含し、特定の屈折度を達成するために該第二イオン・デフレクタに印加する電圧は、実質上サンプルイオン質量に左右されない、方法。
【請求項64】
請求項59に記載の方法であって、前記サンプル面を空基板で置き換える工程と、前記第一イオン光学システムを加熱しその上に付着したマトリクス分子を蒸発させる工程と、前記蒸発したマトリクス分子の少なくとも一部を該空基板に回収する工程とをさらに包含する、方法。
【請求項65】
質量分析のためのサンプルイオンを供給する方法であって、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法によってサンプルイオンを生成する工程と、加速電界を用いてサンプルイオンを抽出してイオンビームを形成する工程とを含み、該加速電界からの出口におけるサンプルイオンの軌道の角度は、実質上サンプルイオン質量には左右されない、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【公表番号】特表2007−514274(P2007−514274A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537997(P2006−537997)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/031333
【国際公開番号】WO2005/045419
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(503229742)アプレラ コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/031333
【国際公開番号】WO2005/045419
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(503229742)アプレラ コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】
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