説明

MEMS発振器及びその製造方法

【課題】製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得られるMEMS発振器を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、基板上に形成された複数のMEMS振動子10a〜10dと、前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に電気的に接続され、且つ前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子に電気的に接続されていない発振回路2とを具備し、前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS発振器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS振動子を備えたMEMS発振器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図13は、従来のMEMS振動子の回路構成を示す図である。MEMS振動子201の一方の電極は結合容量203aに接続され、この結合容量203aは入力端子に接続されている。MEMS振動子201の他方の電極は結合容量203bに接続され、この結合容量203bは出力端子220に接続される。MEMS振動子201の両電極間にはバイアス抵抗204a,204bを介してバイアス電圧印加回路202が接続されている。
【0003】
MEMS振動子201を動作させる際に、外部電圧の影響を受けないように基準電圧発生回路を含むバイアス電圧印加回路202によってMEMS振動子201の両電極間に直流バイアス電圧が印加される。外部回路に繋げられる入力端子210及び出力端子220それぞれとMEMS振動子201の両電極とは結合容量203a,203bを介して接続される。また、直流バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加回路202との交流的な絶縁を取るために、MEMS振動子201の両電極とバイアス電圧印加回路202との間にバイアス抵抗204a,204bが挿入される。
【0004】
図14は、従来のMEMS振動子と発振回路を備えたMEMS発振器の一例を示す図である。MEMS振動子201の一方の電極は結合容量203aに接続され、MEMS振動子201の他方の電極は結合容量203bに接続されている。MEMS振動子201の両電極間にはバイアス回路202が接続され、このバイアス回路202にはバイアス電圧入力端子が接続されている。結合容量203aは増幅回路230の入力側に接続され、結合容量203bは増幅回路230の出力側に接続されている。増幅回路230の出力側及び結合容量203bは緩衝回路(バッファアンプ)240の入力側に接続され、緩衝回路240の出力側は出力端子に接続されている。
【0005】
MEMS振動子201は、機械的な変異による静電容量の変位を利用したものが一般に多く使用されている。最も簡単な構造のものとしては、いわゆるカンチレバーと呼ばれる、片持ちの構造体が代表例として挙げられる。この構造体を使用したMEMS振動子201の外観の一例を図15に示し、より詳細なMEMS振動子201の構造を図16に示す。
【0006】
図15及び図16(A)に示すように、MEMS振動子201は、基板100上に形成された固定電極101と、その固定電極101と一定間隔をあけて形成された可動電極102とから構成されている。可動電極102は、基板100上に形成された固定部104と、固定電極101に対向して配置された振動可能な可動部(梁)103と、その可動部103と固定部104を連結して支持する支持部105によって構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
MEMS振動子201の製造方法は次のとおりである。
図16(B),(C)に示すように、Si基板110上にシリコン酸化膜111を形成し、このシリコン酸化膜111上にシリコン窒化膜112を形成する。次に、シリコン窒化膜112上に第1のポリシリコン膜からなる固定電極101を形成し、この固定電極101を覆う絶縁膜(図示せず)を形成する。次いで、この絶縁膜上に第2のポリシリコン膜からなる可動電極102を形成する。次に、可動電極102周辺の絶縁膜を除去する。このようにしてMEMS振動子201が製造される。
【0008】
上記のMEMS振動子201は基板100の厚み方向に可動部103が振動する。このMEMS振動子201は可動部103と固定電極101との間隔を狭く取る事ができるため、可動部103の変動に対する容量変異率が高く、感度の高い共振特性を得る事が可能となる。
【0009】
また、MEMS振動子201は、固定電極101及び可動電極102がポリシリコン等をCVD(chemical vapor deposition)法によって堆積して形成され、いわゆる表面MEMSプロセスで作製される。このような比較的簡素なプロセスで形成可能なため、低コストでMEMS振動子の製造が可能であるなどのメリットを持つ。
【0010】
一方で、以下のような欠点もある。
上述したように固定電極101及び可動電極102はポリシリコン等をCVD法によって堆積して形成するため、堆積による成膜ではその膜厚ばらつきが大きくなり、通常その公差は±10%にも達する場合がある。振動モードにおいて、固定電極101及び可動電極102の膜厚は振動子の共振周波数を決定する一要素となるため、膜厚のばらつきが共振周波数のばらつきに直結する。そのため、ポリシリコン等を堆積して形成した固定電極101及び可動電極102では、基板水平方向に振動する振動子と比較して、相対的に高い周波数精度を得難いという問題がある。
【0011】
また、膜厚の管理・選別、梁長の最適化等で共振周波数の精度を確保する手段も考えられるが、量産を考慮した場合、その工程管理には限界があり、また、これらの工程追加による製造コストの増大も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−153817公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図17は、MEMS振動子の固定電極及び可動電極がばらつくことに起因する共振周波数のばらつきと、製品としてのMEMS振動子が求められる共振周波数の目標精度(公差)との関係を示す図である。ただし、膜厚がどの程度ばらつくかについては成膜装置の性能や成膜条件等によって異なるため、図17に示す共振周波数のばらつきは単なる一例である。また、目標精度についても製品によって異なるため、図17に示す目標精度は単なる一例である。
【0014】
例えば、MEMS振動子の共振周波数及び周波数精度の仕様値が20MHz±100kHz(±0.5%)である場合、振動子の共振周波数を19.9MHz〜20.1MHzに収める必要がある。これを実現するためには、MEMS振動子の膜厚ばらつきを所望値以下(例えば±0.05μm以内)に収める必要がある。
【0015】
しかし前記の通り、成膜装置の性能や成膜条件によりMEMS振動子の膜厚ばらつきが例えば所望値の4倍となってしまった場合(例えば,±0.2μm)、この条件で量産したMEMS振動子の共振周波数は19.6MHz〜20.4MHz(±400kHz=±2%)にばらつく事が予測される。
このように製品として求められる目標精度に比べて膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きい場合、前述した従来の製造方法では、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得ることはできない。
【0016】
本発明の一態様は、製品として求められる目標精度に比べてMEMS振動子の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS発振器及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、基板上に形成された複数のMEMS振動子と、
前記複数のMEMS振動子それぞれに電気的に接続された発振動作を行うための発振器構成回路と、
を具備し、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なることを特徴とするMEMS発振器である。
【0018】
上記MEMS発振器によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS振動子の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得られるMEMS発振器を提供することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子それぞれに接続された選択部と、
前記選択部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないことが好ましい。
【0020】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記選択部は、前記バイアス電圧印加部と前記発振回路部に接続され、前記一つのMEMS振動子を選択的に前記発振回路部へ電気的に接続し、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子を前記発振回路部へ電気的に接続しないことが好ましい。
【0021】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記選択部は、前記バイアス電圧印加部と前記発振回路部に接続され、
前記発振回路部は、前記複数のMEMS振動子それぞれに接続されることが好ましい。
【0022】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加・選択部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記バイアス電圧印加・選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないことが好ましい。
【0023】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記選択部は、その初期状態において、前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子が選択されており、前記一つのMEMS振動子以外のMEMS振動子が選択されておらず、
前記MEMS発振器の調整作業により前記一つ以外のMEMS振動子を選択することが可能であり、
前記選択部は、その選択性に非可逆性を有することが好ましい。
【0024】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記選択部は、その初期状態において、前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子が選択されており、前記一つのMEMS振動子以外のMEMS振動子が選択されておらず、
前記MEMS発振器の調整作業により前記一つ以外のMEMS振動子を選択することが可能であり、
前記選択部は、その選択性に可逆性を有することが好ましい。
【0025】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記梁構造は、前記基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記梁の長さが異なることが好ましい。
【0026】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記複数のMEMS振動子それぞれの共振周波数は等間隔に形成されていることが好ましい。
【0027】
本発明の一態様は、基板上に、設計値において所定の共振周波数差を有する複数のMEMS振動子、前記複数のMEMS振動子それぞれが接続された選択部、前記選択部に接続されたバイアス電圧印加部、発振回路部、及び前記発振回路部に接続されたバッファ部を形成し、
前記選択部及び前記バイアス電圧印加部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加し、前記一つのMEMS振動子を前記発振回路部によって発振させ、前記バッファ部によって前記一つのMEMS振動子から発振出力された共振周波数を計測し、所定の範囲内の共振周波数を有する一つのMEMS振動子を前記複数のMEMS振動子から特定し、
前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記選択部によって選択せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって選択することにより、前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記発振回路部に電気的に接続せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって前記発振回路部に電気的に接続するMEMS発振器の製造方法であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって前記所定の共振周波数差を有するMEMS発振器の製造方法である。
【0028】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器の製造方法において、
前記選択部は、前記MEMS振動子の選択又は非選択を切り替える切替手段を有しており、前記切替手段にヒューズを用いることが好ましい。
【0029】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器の製造方法において、
前記選択部は、前記MEMS振動子の選択又は非選択を切り替える切替手段を有しており、前記切替手段に半導体メモリを用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図。
【図2】図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dを示す平面図。
【図3】MEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係及び図2に示す4個のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値を示す図。
【図4】MEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係及び9個のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値を示す図。
【図5】図1に示す選択部3a,3bを詳細に説明するための回路図。
【図6】(a)〜(c)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図7】(a)〜(c)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図8】(a)〜(d)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図9】、図1に示す選択部によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法を説明するフローチャート。
【図10】(a)は両持ちの構造体を使用したMEMS振動子の基本構造を示す平面図、(b)は(a)に示すA−A'線の側面図。
【図11】両持ち構造体を使用した4個のMEMS振動子30a〜30dを示す平面図。
【図12】両持ち構造体を使用した4個のMEMS振動子30e〜30hを示す平面図。
【図13】従来のMEMS振動子の回路構成を示す図。
【図14】従来のMEMS発振器の一例を示す図。
【図15】カンチレバーと呼ばれる片持ち構造体を使用したMEMS振動子の一例を示す斜視図。
【図16】(A)は図15に示すMEMS振動子の平面図、(B)は(A)に示すB−B'線に沿った断面図、(C)は(A)に示すC−C'線に沿った断面図。
【図17】MEMS振動子の固定電極及び可動電極の膜厚ばらつきによる共振周波数のばらつきと、MEMS振動子が求められる目標精度との関係を示す図。
【図18】第2の実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図。
【図19】図18に示すバイアス電圧印加・選択部5を詳細に説明するための回路図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0032】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図である。このMEMS発振器は、発振器構成回路300及び複数のMEMS振動子、例えば4個のMEMS振動子10a〜10dを有している。発振器構成回路300は、増幅器(バッファ部)1、発振回路部2、選択部3a,3b、及びバイアス電圧印加部4を有している。発振回路部2は、回路素子、トランジスタ等の能動回路部、出力端子等を有している。
【0033】
4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの一方電極は選択部3aを介して発振回路部2に電気的に接続されており、4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの他方電極は選択部3bを介して発振回路部2に電気的に接続されている。発振回路部2は増幅器1に電気的に接続されている。
【0034】
また、選択部3a,3bにはバイアス電圧印加部4が接続されており、バイアス電圧印加部4は、選択部3a,3bを介して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれ、もしくは選択された一つのMEMS振動子のみに直流バイアス電圧を印加するものである。
【0035】
4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれは梁構造を有しており、4個のMEMS振動子10a〜10dは、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数を異ならせて所定の共振周波数差を有している。
【0036】
図2は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dを示す平面図である。これらのMEMS振動子10a〜10dそれぞれは、その構造が図16に示すMEMS振動子と同様であるが、梁の長さ16a〜16dを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0037】
詳細には、MEMS振動子10a〜10dは、図示せぬ基板上に形成された固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8とから構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その可動部16と固定部11を連結して支持する支持部によって構成されている。MEMS振動子それぞれの梁の長さ16a〜16dは、MEMS振動子10aから順に短く形成されている。MEMS振動子10aの梁の長さ16aが一番長く形成されており、MEMS振動子10bの梁の長さ16b、MEMS振動子10cの梁の長さ16c、MEMS振動子10dの梁の長さ16dの順に段階的に短く形成されている。
【0038】
図3は、図17に示すMEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係を示す図に、図2に示す4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の設計値を表した図である。
【0039】
図1に示すMEMS発振器は、20MHz±0.5%(±100kHz)の共振周波数で発振する発振器を例にとり説明する。なお、本実施形態で説明する共振周波数の具体的数値及び目標精度の具体的数値は、製品によって異なるため、単なる一例である。
【0040】
図3に示すように、MEMS振動子10aの設計値は19.7MHzであり、MEMS振動子10bの設計値は19.9MHzであり、MEMS振動子10cの設計値は20.1MHzであり、MEMS振動子10dの設計値は20.3MHzである。言い換えると、MEMS振動子10a〜10dそれぞれが上記の設計値となるように図2に示す梁の長さ16a〜16dを必要周波数分だけ延長又は短縮している。共振周波数frの導出式は、下記式(1)のとおりであるため、梁の長さを延長又は短縮することで共振周波数frを変えることができる。
【0041】
fr=(35E/33ρ)1/2H/(2πL) ・・・(1)
ただし、H,LはそれぞれMEMS振動子の膜厚,梁の長さであり、E,ρはそれぞれMEMS振動子を構成する材料のヤング率と密度である。
【0042】
製品として求められる目標精度が±0.5%(±100kHz)であり、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが±2%(±400kHz)である場合において、梁構造(例えば梁の長さ)を異ならせることによって、図2に示すように200kHz間隔で4つの設計値のMEMS振動子10a〜10dを基板上に作製する。これにより、量産したMEMS振動子において基板面内又は基板相互間における梁の膜厚ばらつき(即ち図2に示す固定電極12及び可動電極8の膜厚ばらつき)が発生しても、4個のMEMS振動子10a〜10dのうち少なくとも一つのMEMS振動子は、確実に20MHz±0.5%(±100kHz)の目標精度内の共振周波数を有することになる。その理由は次のとおりである。
【0043】
基板面内又は基板相互間において梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して+400kHzずれたとしても、製造後の4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの実際の共振周波数は、20.1MHz、20.3MHz、20.5MHz、20.7MHzとなる。従って、4個のMEMS振動子のうち一つのMEMS振動子10aは目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0044】
また、基板面内又は基板相互間において梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して−400kHzずれたとしても、製造後の4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの実際の共振周波数は、19.3MHz、19.5MHz、19.7MHz、19.9MHzとなる。従って、4個のMEMS振動子のうち一つのMEMS振動子10dは目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0045】
上述したように、本実施形態ではMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の差分が200kHzとなることを意図しているため、製造プロセスのばらつきによってその差分がばらつくのを少なくすることが好ましい。そのためには、図2に示すように、MEMS振動子10a〜10dを近接して形成することが好ましく、また梁16の長さ方向を同じ方向に形成することが好ましい。
【0046】
本実施形態では、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつき(±400kHz)が製品として求められる目標精度(±100kHz)の4倍であるため、少なくとも4個のMEMS振動子を基板上に作製する必要がある。これら4個のMEMS振動子それぞれの設計値と最も近い他の設計値との差分は目標精度の範囲以下(200kHz以下)とする必要がある。
【0047】
上記の内容を一般式で表すと、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきを±X(kHz)とし、製品として求められる目標精度を±Y(kHz)とした場合、少なくともX/Y個のMEMS振動子を基板上に作製する必要があることになる。これらX/Y個のMEMS振動子それぞれの設計値と最も近い他の設計値との差分は2Y以下とする必要がある。
【0048】
このように図1に示すMEMS発振器では、4個のMEMS振動子10a〜10dを作製しているが、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきと目標精度が変わることによってX/Y個のMEMS振動子を作製することになる。
【0049】
なお、本実施形態では、図3に示すように共振周波数の差分を200kHzに設定し、4個のMEMS振動子10a〜10dを有するMEMS発振器を形成しているが、これに限定されるものではなく、図4に示すように共振周波数の差分を100kHzに設定し、9個のMEMS振動子10e〜10mを有するMEMS発振器を形成しても良い。これにより、9個のMEMS振動子10e〜10mのうち2個のMEMS振動子は目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0050】
本実施形態では、図1〜図3に示すように共振周波数の差分を200kHzに設定し、4個のMEMS振動子10a〜10dを有するMEMS発振器を例に取り、その場合において、梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して+200kHz〜+400kHzずれた場合について説明する。この場合は、MEMS振動子が作製された後に、目標精度範囲内の一つのMEMS振動子10aが選択部3a,3bによって選択されたことにより発振回路部2に接続され、一つのMEMS振動子10a以外の全ての目標精度範囲外のMEMS振動子10b〜10dそれぞれが選択部3a,3bによって選択されなかったことにより発振回路部2に接続されない。その結果、発振回路部2には、4個のMEMS振動子10a〜10dのいずれか一つの目標精度範囲内のMEMS振動子10aが電気的に接続され、且つ4個のMEMS振動子10a〜10dのうち一つのMEMS振動子10a以外の全ての目標精度範囲外のMEMS振動子10b〜10dが電気的に接続されないことになる。
【0051】
このような選択部3a,3bによるMEMS振動子の選択及び非選択は図1のMEMS発振器が製造される時に行われ、その選択及び非選択が行われた後には選択部3a,3bによるMEMS振動子の選択及び非選択を行うことができない。
【0052】
図5は、図1に示す選択部3a,3bを詳細に説明するための回路図である。図5に示す基準電圧発生回路(BGR)4a及び出力電圧調整回路4bは図1に示すバイアス電圧印加部4に相当する。バイアス電圧印加部4は複数のMEMS振動子10a,10b,10c,10d・・・10nそれぞれに選択部3a,3bを介して電気的に接続されている。図5では、図1と異なり、4個以上のMEMS振動子が形成されているが、MEMS振動子の最低個数は梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきと目標精度によって変更されるものであり、MEMS振動子の個数は限定されるものではない。また、出力電圧調整回路4bは、共振周波数を微調整する回路であるが、周波数の微調整が不要の場合は省略しても良い。
【0053】
図1に示す選択部3a,3bは、図5に示すMEMS振動子10a〜10nそれぞれの一方電極と端子X2との間に接続されたアナログスイッチ6a〜6nと、MEMS振動子10a〜10nそれぞれの他方電極と端子X1との間に接続されたアナログスイッチ7a〜7nと、それらのアナログスイッチそれぞれを、オン状態にするためのハイ信号又はオフ状態にするためのロー信号を入力する入力部SW_X01〜SW_X0nと、入力部からアナログスイッチに入力される信号をハイからロー又はローからハイに切り替えるためのヒューズ素子(図示せず)を有している。また、端子X1,X2は図1に示す発振回路部2に電気的に接続されている。
【0054】
アナログスイッチは、入力部からハイ信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子と発振回路部が導通状態になり、ヒューズを切断することで入力部からロー信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子と発振回路部が非導通状態になるものと、入力部からロー信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子と発振回路部が非導通状態になり、ヒューズを切断することで入力部からハイ信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子と発振回路部が導通状態になるものがある。
【0055】
なお、前記の例ではアナログスイッチの状態切替手段として可逆性を有しないヒューズを使用したが、これに限るものではない。代替品として例えば半導体メモリでアナログスイッチの制御信号のハイ/ローを保持・切り替えするなどした電気的な可逆性を有する切替手段を用いても良い。要はアナログスイッチを所望の動作状態に切り替え、その状態を保持する手段であればどのような手段を用いても構わない。
【0056】
次に、図1に示すMEMS発振器を製造する方法について図6〜図9を参照しつつ説明する。
図6〜図8は、図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図である。
図9は、図1に示す選択部によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法を説明するフローチャートである。
【0057】
図6(a)に示すように、p型Si基板15を用意する。次いで、図6(b)に示すように、このp型Si基板15の上にシリコン酸化膜14を形成する。次いで、図6(c)に示すように、このシリコン酸化膜14の上にシリコン窒化膜13を形成する。
【0058】
次に、図7(a)に示すように、シリコン窒化膜13の上にCVD法により1層目のポリシリコン膜を堆積する。次いで、このポリシリコン膜上にレジスト膜(図示せず)を塗布し、そのレジスト膜を露光及び現像することにより、ポリシリコン膜上にレジストパターンが形成される。次いで、このレジストパターンをマスクとして1層目のポリシリコン膜をエッチングすることにより、シリコン窒化膜13上には1層目のポリシリコン膜からなる固定電極12が形成される。
【0059】
次に、図7(b)に示すように、固定電極12の表面を覆うようにシリコン酸化膜(犠牲層)20を形成する。次いで、図7(c)に示すように、シリコン窒化膜13及びシリコン酸化膜20の上にCVD法により2層目のポリシリコン膜を堆積する。次いで、このポリシリコン膜上にレジスト膜(図示せず)を塗布し、そのレジスト膜を露光及び現像することにより、ポリシリコン膜上にレジストパターンが形成される。次いで、このレジストパターンをマスクとして2層目のポリシリコン膜をエッチングすることにより、シリコン窒化膜13上には2層目のポリシリコン膜からなる可動電極8が形成される。
【0060】
次に、図8(a)に示すように、可動電極8及び固定電極12の上に、内部に多層配線を有する層間絶縁膜25を形成する。多層配線は、固定電極12に電気的に接続された第1の配線プラグ21aと、第1の配線プラグ21a上に電気的に接続された第1の配線22aと、第1の配線22a上に電気的に接続された第2の配線プラグ23aと、第2の配線プラグ23a上に電気的に接続された第2の配線24aを有するとともに、可動電極8に電気的に接続された第1の配線プラグ21bと、第1の配線プラグ21b上に電気的に接続された第1の配線22bと、第1の配線22b上に電気的に接続された第2の配線プラグ23bと、第2の配線プラグ23b上に電気的に接続された第2の配線24bを有する。第2の配線24a,24bそれぞれは図1に示す選択部3a,3bに接続される配線である。
【0061】
次に、図8(b)に示すように、層間絶縁膜24の上にパッシベーション膜26を形成する。次いで、図8(c)に示すように、パッシベーション膜26をエッチングすることにより、パッシベーション膜26に開口部26aを形成する。
【0062】
次いで、図8(d)に示すように、パッシベーション膜26をマスクとしてウェットエッチングすることにより、開口部26aの下方に位置する層間絶縁膜25及びシリコン酸化膜20を除去する。これにより、層間絶縁膜25にはキャビティ28が形成され、このキャビティ28にはMEMS振動子が形成される。このMEMS振動子は、固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8とから構成され、可動電極8は、固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その可動部16と固定部11を連結して支持する支持部17によって構成される。
【0063】
なお、図8(d)には1個のMEMS振動子だけが示されているが、キャビティ28内には4個のMEMS振動子が図2に示すように並べて設けられていても良いし、キャビティ28が4個並べて設けられ、4個のキャビティそれぞれに1個のMEMS振動子が設けられていても良い。
【0064】
この後、キャビティ28の上方に蓋(図示せず)を形成することにより、MEMS振動子10a〜10dはキャビティ28内に減圧封止されてパッケージに封止される。
【0065】
上記のようにp型Si基板15にMEMS振動子を形成する半導体プロセスを用いてp型Si基板15の他の領域に、図5に示すアナログスイッチ6a〜6n,7a〜7n、入力部SW_X01〜SW_X0n、ヒューズ素子、図1に示す発振回路部2、バイアス電圧印加部4及び増幅器1のいずれか又は全てを同時に形成しても良いし、別々に形成しても良い。また、アナログスイッチは半導体スイッチを用いても良いし、機械的スイッチを用いても良い。
【0066】
以上のようにして図1に示すMEMS発振器を製造した初期状態では、図5に示すアナログスイッチは次のような状態にある。この初期状態とはヒューズが切断されていない状態をいう。
【0067】
MEMS振動子10dの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路部2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号が入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子10dと発振回路部2が導通状態になるようになっている。また、MEMS振動子10a〜10cそれぞれの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路部2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号が入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子10a〜10cそれぞれと発振回路部2が非導通状態になるようになっている。
【0068】
次に、図1に示す選択部3a,3bによってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法について図9を参照しつつ説明する。
【0069】
まず、図9に示すように、MEMS振動子10dの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路部2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号がヒューズを通して入力され、MEMS振動子10dを発振回路部2に電気的に接続し、MEMS振動子10a〜10cそれぞれの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路部2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号がヒューズを通して入力され、MEMS振動子10a〜10cを発振回路部2に電気的に接続しない状態とする。この状態で、発振回路部2によってMEMS振動子10dを発振させ、MEMS振動子10dから出力された共振周波数を計測する(S1)。この計測された共振周波数が図3に示す目標精度の範囲内であるか否かを判定する(S2)。
【0070】
この判定結果が図3に示す目標精度範囲内である場合は、選択部のスイッチを切り替えることなく、終了する。
また、共振周波数の計測結果が例えば20.55MHzであったとすると、計測された共振周波数が目標精度の範囲内でないと判定される(S2)。この場合は、計測された共振周波数(20.55MHz)と計測されたMEMS振動子10dの共振周波数の設計値(20.3MHz)との差分(250kHz)を算出する(S3)。そして、この算出された差分(250kHz)、MEMS振動子10a〜10dの設計値における共振周波数差(200kHz)及びMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の設計値(図3に示す19.7MHz、19.9MHz、20.1MHz、20.3MHz)を用いて、目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子がMEMS振動子10a〜10cのいずれのMEMS振動子であるかを特定する(S4)。詳細には、差分が250kHzであることから、MEMS振動子10aの実際の共振周波数は19.95MHzであると推測され、MEMS振動子10bの実際の共振周波数は20.15MHzであると推測され、MEMS振動子10cの実際の共振周波数は20.35MHzであると推測される。これらの推測結果から目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子はMEMS振動子10aであると特定する(S4)。
【0071】
次いで、特定されなかった全てのMEMS振動子10b〜10dを選択部3a,3bによって選択せず、特定された一つのMEMS振動子10aを選択部3a,3bによって選択することにより、特定されなかった全てのMEMS振動子10b〜10dを発振回路部2に電気的に接続せず、特定された一つのMEMS振動子10aを選択部3a,3bによって発振回路部2に電気的に接続する(S5)。
【0072】
詳細には、MEMS振動子10dに接続されたアナログスイッチにハイ信号を入力する際に使用されるヒューズを切断することにより、MEMS振動子10dに接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号が入力される。その結果、MEMS振動子10dと発振回部2は非導通状態になる。初期状態においてMEMS振動子10b,10cそれぞれと発振回路部2は非導通状態にあるため、特定されなかった全てのMEMS振動子10b〜10dを発振回路部2に電気的に接続しないことができる。また、MEMS振動子10aに接続されたアナログスイッチにロー信号を入力する際に使用されるヒューズを切断することにより、MEMS振動子10aに接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号が入力される。その結果、MEMS振動子10aと発振回路部2は導通状態になり、特定された一つのMEMS振動子10aと発振回路部を電気的に接続することができる。
【0073】
この後、発振回路部2によってMEMS振動子10aを発振させ、MEMS振動子10aの発振特性を確認する(S6)。この発振特性の良否を判定し(S7)、その判定結果が良の場合は終了し、判定結果が否の場合はロットアウトする。
【0074】
次に、チップ状に切り出すダイシング工程などの後工程が施される。
【0075】
以上説明したように、製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を確実に選択することができる。従って、高い歩留りでMEMS発振器を得ることが可能となる。
【0076】
なお、本実施形態では、図2に示すような片持ちの構造体を使用したMEMS振動子10a〜10dを用いているが、この片持ちの構造体を使用したMEMS振動子を、次のような両持ちの構造体を使用したMEMS振動子に変更して実施することも可能である。
【0077】
(変形例1)
図10(a)は、両持ちの構造体を使用したMEMS振動子30の基本構造を示す平面図であり、図10(b)は、図10(a)に示すA−A'線の側面図である。図11は、両持ち構造体を使用した4個のMEMS振動子30a〜30dを示す平面図であり、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dに適用することができる。
【0078】
図10(a),(b)に示すように、両持ちの構造体は、片持ちの構造体のように梁の一方端を支持部によって支持するのではなく、梁の両端を支持部によって支持する構造である。詳細には、MEMS振動子30は、基板上に形成された固定電極31と、その固定電極31と一定間隔をあけて形成された可動電極32とから構成されている。可動電極32は、基板上に形成され、固定電極31の一方側に形成された第1の固定部33aと、固定電極31の他方側に形成された第2の固定部33bと、固定電極31に対向して配置された振動可能な可動部(梁)34と、その可動部34の一方端と第1の固定部33aを連結して支持する第1の支持部35aと、その可動部34の他方端と第2の固定部33bを連結して支持する第2の支持部35bによって構成されている。
【0079】
図11に示す4個のMEMS振動子30a〜30dそれぞれは、その構造が図10に示すMEMS振動子30と同様であるが、梁の長さ34a〜34dを変えることによって共振周波数を異ならせている。詳細には、MEMS振動子30a〜30dそれぞれの梁の長さ34a〜34dは、MEMS振動子30aから順に短く形成されている。MEMS振動子30aの梁の長さ34aが一番長く形成されており、MEMS振動子30bの梁の長さ34b、MEMS振動子30cの梁の長さ34c、MEMS振動子30dの梁の長さ34dの順に段階的に短く形成されている。
【0080】
また、4個のMEMS振動子30a〜30dそれぞれの可動電極32に対応する固定電極31は繋げられており、それぞれの可動電極32の梁の長さに応じて固定電極31の幅が段階的に狭くなっている。
【0081】
上記変形例1においても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
(変形例2)
図12は、両持ち構造体を使用した4個のMEMS振動子30e〜30hを示す平面図であり、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dに適用することができる。
【0083】
図12に示す4個のMEMS振動子30e〜30hそれぞれは、その構造が図10に示すMEMS振動子30と同様であるが、図11と同様に、梁の長さ34e〜34hを変えることによって共振周波数を異ならせている。詳細には、MEMS振動子30e〜30hそれぞれの梁の長さ34e〜34hは、MEMS振動子30eから順に短く形成されている。MEMS振動子30eの梁の長さ34eが一番長く形成されており、MEMS振動子30fの梁の長さ34f、MEMS振動子30gの梁の長さ34g、MEMS振動子30hの梁の長さ34hの順に段階的に短く形成されている。
【0084】
また、4個のMEMS振動子30a〜30dそれぞれの可動電極32に対応する固定電極31は繋げられており、それぞれの可動電極32の梁の長さに応じて固定電極31の幅が段階的に狭くなっているが、変形例1と異なり、固定電極31の両側を段階的に狭めることによって幅を段階的に狭くしている。
【0085】
上記変形例2においても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0086】
(第2の実施形態)
図18は、第2の実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図である。なお、第2の実施形態を示す図面においては、第1の実施形態を示す図面と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0087】
図18に示すMEMS発振器の発振器構成回路は、バッファ部1、発振回路部2、バイアス電圧印加・選択部5を有している。4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの一方電極及び他方電極は、発振回路部2及びバイアス電圧印加・選択部5に電気的に接続されている。バイアス電圧印加・選択部5は、4個のMEMS振動子10a〜10dのうち選択された一つのMEMS振動子のみに直流バイアス電圧を印加するものであり、バイアス電圧を印加しないMEMS振動子は振動子機能を有さないため、バイアス電圧の印加の有無をMEMS振動子の選択手段としている。
【0088】
図19は、図18に示すバイアス電圧印加・選択部5を詳細に説明するための回路図であり、図5と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0089】
図19に示すバイアス電圧印加・選択部5は、バイアス電圧印加部4及びバイアス選択部3cを有している。バイアス電圧印加部4はバイアス選択部3cに電気的に接続されており、バイアス選択部3cは複数のMEMS振動子10a,10b,10c,10d・・・10nそれぞれに電気的に接続されている。
【0090】
詳細には、バイアス選択部3cは、MEMS振動子10a〜10nそれぞれの一方電極と端子X2との間に電気的に接続されたアナログスイッチ303a〜303n及びアナログスイッチ304a〜304nと、それらアナログスイッチそれぞれを、オン状態にするためのハイ信号又はオフ状態にするためのロー信号を入力する入力部SW_X01〜SW_X0n及び反転信号入力部SW_X01〜SW_X0n(反転信号)と、入力部からアナログスイッチに入力される信号をハイからロー又はローからハイに切り替えるためのヒューズ素子(図示せず)を有している。また、MEMS振動子10a〜10nそれぞれの他方電極と端子X1との間には接地電極に接続されている。また、端子X1,X2は図18に示す発振回路部2に電気的に接続されている。
【0091】
MEMS振動子10a〜10nそれぞれの一方電極と端子X2との間、及びMEMS振動子10a〜10nそれぞれの他方電極と端子X1との間には、図13と同様に結合容量が形成されている。
【0092】
次に、図18に示すバイアス電圧印加・選択部5によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法について図9を参照しつつ説明する。
【0093】
まず、図9に示すように、MEMS振動子10dの一方電極と発振回路部2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号がヒューズを通して入力され、MEMS振動子10dにバイアス電圧(例えば2.2V)を印加し、MEMS振動子10a〜10cそれぞれの一方電極と発振回路部2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号がヒューズを通して入力され、MEMS振動子10a〜10cにバイアス電圧0Vを印加する。つまり、バイアス電圧印加・選択部5は、使用するMEMS振動子10dのみにバイアス電圧(2.2V)を印加し、使用しないMEMS振動子10a〜10cにはバイアス電圧(2.2V)を印加しない。これにより、バイアス電圧が印加されたMEMS振動子10dのみを発振回路部2によって発振させ(バイアス電圧が印加されないMEMS振動子は発振しない)、MEMS振動子10dから出力された共振周波数を計測する(S1)。この計測された共振周波数が図3に示す目標精度の範囲内であるか否かを判定する(S2)。
【0094】
この判定結果が図3に示す目標精度範囲内である場合は、バイアス選択部3cのスイッチを切り替えることなく、終了する。
また、共振周波数の計測結果が例えば20.55MHzであったとすると、計測された共振周波数が目標精度の範囲内でないと判定される(S2)。この場合は、計測された共振周波数(20.55MHz)と計測されたMEMS振動子10dの共振周波数の設計値(20.3MHz)との差分(250kHz)を算出する(S3)。そして、この算出された差分(250kHz)、MEMS振動子10a〜10dの設計値における共振周波数差(200kHz)及びMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の設計値(図3に示す19.7MHz、19.9MHz、20.1MHz、20.3MHz)を用いて、目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子がMEMS振動子10a〜10cのいずれのMEMS振動子であるか、例えばMEMS振動子10aであると特定する(S4)。
【0095】
次いで、特定されなかった全てのMEMS振動子10b〜10dをバイアス選択部3cによって選択せず、特定された一つのMEMS振動子10aをバイアス選択部3cによって選択することにより、特定されなかった全てのMEMS振動子10b〜10dにバイアス電圧を印加できない状態とし、特定された一つのMEMS振動子10aにバイアス電圧を印加できる状態とする(S5)。
【0096】
この後、発振回路部2によってMEMS振動子10aを発振させ、MEMS振動子10aの発振特性を確認する(S6)。この発振特性の良否を判定し(S7)、その判定結果が良の場合は終了し、判定結果が否の場合はロットアウトする。
【符号の説明】
【0097】
1…増幅器、2…発振回路部、3a,3b…選択部、4…バイアス電圧印加部、4a…基準電圧発生回路、4b…出力電圧調整回路(抵抗分割)、5…バイアス電圧印加・選択部、6a〜6c,6n,7a〜7c,7n…アナログスイッチ、8,32,102…可動電極、10a〜10d,10n,30,30a〜30h,201…MEMS振動子、11,33a,33b,104…固定部、12,31,101…固定電極、13,112…シリコン窒化膜、14,111…シリコン酸化膜、15…p型Si基板、16,34,103…可動部(梁)、16a〜16d,34a〜34h…梁の長さ、17,35a,35b,105…支持部、25…層間絶縁膜、26…パッシベーション膜、26a…開口部、28…キャビティ、100…基板、110…Si基板、203a,203b…結合容量、204a,204b…バイアス抵抗、210…入力端子、220…出力端子、230…増幅回路、240…緩衝回路(バッファアンプ)、300…発振器構成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された複数のMEMS振動子と、
前記複数のMEMS振動子それぞれに電気的に接続された発振動作を行うための発振器構成回路と、
を具備し、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なることを特徴とするMEMS発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子それぞれに接続された選択部と、
前記選択部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないこと、
を特徴とするMEMS発振器。
【請求項3】
請求項2において、
前記選択部は、前記バイアス電圧印加部と前記発振回路部に接続され、前記一つのMEMS振動子を選択的に前記発振回路部へ電気的に接続し、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子を前記発振回路部へ電気的に接続しないこと、
を特徴とするMEMS発振器。
【請求項4】
請求項2において、
前記選択部は、前記バイアス電圧印加部と前記発振回路部に接続され、
前記発振回路部は、前記複数のMEMS振動子それぞれに接続されること、
を特徴とするMEMS発振器。
【請求項5】
請求項1において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加・選択部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記バイアス電圧印加・選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないこと、
を特徴とするMEMS発振器
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか一項において、
前記選択部は、その初期状態において、前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子が選択されており、前記一つのMEMS振動子以外のMEMS振動子が選択されておらず、
前記MEMS発振器の調整作業により前記一つ以外のMEMS振動子を選択することが可能であり、
前記選択部は、その選択性に非可逆性を有することを特徴とするMEMS発振器。
【請求項7】
請求項2乃至4のいずれか一項において、
前記選択部は、その初期状態において、前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子が選択されており、前記一つのMEMS振動子以外のMEMS振動子が選択されておらず、
前記MEMS発振器の調整作業により前記一つ以外のMEMS振動子を選択することが可能であり、
前記選択部は、その選択性に可逆性を有することを特徴とするMEMS発振器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項において、
前記梁構造は、前記基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記梁の長さが異なることであるMEMS発振器。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項において、
前記複数のMEMS振動子それぞれの共振周波数は等間隔に形成されているMEMS発振器。
【請求項10】
基板上に、設計値において所定の共振周波数差を有する複数のMEMS振動子、前記複数のMEMS振動子それぞれが接続された選択部、前記選択部に接続されたバイアス電圧印加部、発振回路部、及び前記発振回路部に接続されたバッファ部を形成し、
前記選択部及び前記バイアス電圧印加部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加し、前記一つのMEMS振動子を前記発振回路部によって発振させ、前記バッファ部によって前記一つのMEMS振動子から発振出力された共振周波数を計測し、所定の範囲内の共振周波数を有する一つのMEMS振動子を前記複数のMEMS振動子から特定し、
前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記選択部によって選択せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって選択することにより、前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記発振回路部に電気的に接続せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって前記発振回路部に電気的に接続するMEMS発振器の製造方法であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって前記所定の共振周波数差を有するMEMS発振器の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記選択部は、前記MEMS振動子の選択又は非選択を切り替える切替手段を有しており、前記切替手段にヒューズを用いることを特徴とするMEMS発振器の製造方法。
【請求項12】
請求項10において、
前記選択部は、前記MEMS振動子の選択又は非選択を切り替える切替手段を有しており、前記切替手段に半導体メモリを用いることを特徴とするMEMS発振器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−135139(P2011−135139A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290171(P2009−290171)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】